2022年6月6日月曜日

財務省の「猿芝居」に騙されてはいけない 「骨太の方針」を巡って「財政再建派」がやっていること―【私の論評】「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりつつある(゚д゚)!

財務省の「猿芝居」に騙されてはいけない 「骨太の方針」を巡って「財政再建派」がやっていること
財務省の別働隊

 5月23日付の本コラム「財務省の超エリート「次官候補」は何に追い込まれたのか? 逮捕劇までに財務省で起こっていたこと」で、6月7日に閣議決定される予定の政府の「骨太の方針」を巡る自民党積極財政派と自民党財政再建派(これは事実上財務省の別働隊)との争いが背景になっていることを書いた。

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 逮捕された財務省高官は、世間から見ればとんだお門違いをしていた可能性があるが、財務省はまだ懲りないらしい。


 先日の本コラムで紹介した自民党の若手の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表:中村裕之農林水産副大臣)は、財務省の言い分もきちんと勉強して、しっかりした反論を行っている。自民党であっても、若手は財務省に騙されていない。

(1) 国債はすべて将来の税金で返済されなければいけない
(2) 日本国債残高が大きく将来世代にツケを残す
(3) 日本は財政破綻する

 といった財務省のプロパガンダに対しては、的確に反論できる。本コラムの読者であれば、以下の反論は簡単なものだろう。

(1) 安倍元首相も言うように、半分以上の日銀保有国債では税金償還の必要はない
(2) 債務のツケでなく立派な資産を残せばいい
(3) バランスシートから見れば日本の財政破綻の確率は5年間で1%程度


 自民党内でもベテラン議員ほど財務省に丸め込まれが、積極財政議連など若手では自分の頭で考え財務省の説明に疑問を持つ人が多くなっている。

 筆者は、財務省の説明に30年前から疑問をもち、政府のバランスシートを作って周囲の政治家に説明してきたが、ここ数年、理解者が急増しているのを感じる。

「PB黒字化」を消えたように見せかけて

 さて、骨太の方針はどうなっているのか。5月31日、骨太の方針の「原案」が出た。

 前回の「骨太の方針」で明記していた財政健全化の「堅持」や、「2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化」といった文言が消えている。

 これを、財政再建への姿勢が弱まったように報道するマスコミもあった。

 しかし、これは財務省の「猿芝居」だった。たしかに「2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化」の文言は消えているが、その他の箇所で「令和5年度予算において、本方針及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と書かれている。「骨太2021」ではしっかりと「PB黒字化」が書かれている以上、何も変わりはないのだ。


 かつてであれば、これで自民党もマスコミも騙されて終わる。今回、マスコミは相変わらず節穴だったが、自民党は違った。財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)や責任ある積極財政を推進する議員連盟は、何も変更がないのをめざとく見つけている。

 もっとも、財務省も「猿芝居」がバレたところで、必死に抵抗するだろう。というのは、親族に財務官僚が大勢いる岸田氏が総理だからだ。6月7日の閣議決定はどうなるのだろうか。

 菅政権のときには、だんまりを決め込んでいた矢野康治財務次官が、岸田政権になった途端に月刊『文藝春秋』で持論を展開したことを記憶している読者も多いだろう。昨年10月11日付の本コラム「財務事務次官「異例の論考」に思わず失笑…もはや隠蔽工作レベルの「財政再建論」」で書いたが、あれほどの無知をさらけ出したのに、岸田総理は不問に付している。

弛みきった財務省

 今の世界情勢では、安全保障に手を抜けない。財政再建路線を堅持した来年度予算案では、世界に太刀打ちできない。

 1月17日付の本コラムで述べたように、今の財務省のいうPBは基本的に間違っている。一部の政府部門だけでPBを算出しており、すべての政府部門のPBを計算しないと、本当の財政の姿はわからない。

 だが筆者のような包括的なPBによれば、既に問題のない「財政再建終了」の状態になっている。財務省のような間違った財政の見方で財政運営したら、国を滅ぼしてしまうだろう。

 はっきり言って、最近の財務省は弛みきっている。先日の財務省高官の逮捕、国税庁職員による補助金詐取など、考えられない事態が次々に起きている。

 財務省改革には、主計局の分離などいろいろなものがあるが、筆者がもっとも効果的と思うのは、国税庁を分離し、年金機構の徴収部門と合体させる「歳入庁」の新設だ。この考え方は、世界標準でもある。税と社会保険料は法的には同じであり、一緒に徴収するのが世界では当たり前だ。国税庁の財務省からの支配を取り除き、税の徴収のプロとしての人材有効活用にもなる。

 この案は、かつて民主党政権で公約にもなっていた。ところが、財務省の巻き返しにより消えていった。これをどの党が実行できるかどうか、日本の今後を占うものといってもいいだろう。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりつつある(゚д゚)!

3日の自民党政務調査会の会合では、2023年度予算案をどうするのかということが話題になりました。現在、骨太の方針という、予算案の最初にやらなければならない議論をスタートさせているのですが、「積極財政派」と「財政再建派」の間で怒声があがるほど大バトルになりました。

財政慎重派の方は、やはり財務省の意向に忖度して、緊縮財政の方向に持って行こうとしています。それに対して、積極財政派の本部を率いている西田政調会長代理が激怒して、「これでは政調会を開いている意味がないではないか」と言ったのです。

西田政調会長代理

 財務省は、2023年度予算について上限をはめようとして躍起になっています。当初予算で非社会保障費、年金、介護、医療を除いた分に関しては、年間3百数十億円しかプラスにならないのです。財務省にこのようなキャップをはめられてしまうと。

防衛予算のGDP比2%などは夢のまた夢となります。安倍元総理は、防衛費増額のための5兆円の財源は、政府日銀連合軍で調達できるとしていましたが、2%どころか、0.01%とかそのようなことになってしまいかねません。

そうしてこような上限に関する質問が3日の政調会で出たのです。それに対して、内閣府を代表して出た委員がそれを認めてしまったのです。それで自民党政務会が紛糾したのですです。

西田政調会長代理はこの会議の席で「私は(党内)政局にしたくないから、譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。それに対する答えがこれか。裏切られた」という趣旨のことを語ったとされています。

骨太の方針が、その先の予算編成に影響し、本予算が決まっていくから、方針案(財務省)の内容が島嶼の想定ともかなり違うというのです。方針案に関しては、積極財政派の安倍氏と、規律派と言われる麻生さんの間でかなり詰めたされますが、火種はまだ残っているのです。

 安倍、麻生氏で落としどころをつくったにも関わらず、それに焦った財務省が霞が関文学を用いて、毒を忍び込ませたのです。それにみんなが気付いてしまったのです。

骨太の文言としては、経済あっての財政だというような書き方をして、プライマリーバランスの黒字化に関しても25年という年限にこだわらないというような、2025年度プライマリーバランス黒字化の文言は落ちたので安心したら、他のところでごまかしの文言が入ってきたのです。

それが、上の髙橋洋一氏も指摘していた「令和5年度予算において、本方針及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と言う文言なのです。「骨太2021」ではしっかりと「PB黒字化」が書かれている以上、何も変わりはないのです。

さらに内容をよく分析してみたら、過去と同様に「3年間で1000億円」というキャップをはめるのだということでした。積極財政派の議員が「これは本当か」と質問したところ、内閣府サイドは、それを認めてしまったのです。 内閣府のなかの陣容を見ても、決して財政規律派一辺倒というわけではありません。 

なかには本当に財政出動をやりたいし、やるべきだと思っているけれども、立場上は言えないという人もいると考えらます。 その辺りの思惑が働いたでしょうし、それで3日に決着がつかず、きょう(6日)へ持ち越しになりました。

ただ、防衛費に関しては、バイデン大統領との間で日米首脳会談を行い、そこで出た話です。実施しないとさすがにまずいです。ある意味では国際公約ですから、政治の意志なのです。それを政治的に責任を負わない財務官僚が、勝手に書き換えて良いはずがありません。完璧に役人の矩(のり)をこえています。

そうして、財務省は防衛費を増やすけれども、その代わりに「ここを減らす」、「ここを増税する」などというところで担保しようしていると考えられます。財務省が「増税した分は防衛費のプラスアルファを認める」ということになると、国民生活にとってどうなのかということになります。 

ふりかえってみると消費増税も、当時の菅(直人)政権が言い出した国際公約だという話から始まっていました。財務省のやり方は、どんどん巧妙になっているように見えます。 

岸田総理は、その辺りに意識がないものですから、主計局長の説明で首を縦に振ってしまったらしいです。それを盾に財務省はいろいろなところへ話を持ち込んでいるようです。 財務省としては「総理のご意向ですから」ということになります。

しかも、先週の経済財政諮問会議でこの内容は総理の発言で出ていたそうです。なぜその辺りをきちんとメディアは報道しないのかという問題があります。 

しかも、そのうち議事録が出るでしょうし、議事要旨はもうある程度出ています。この先の5年~10年を決めるような話が、いまされているわけです。 そうなのです。このまま進んだら、それこそ自民党内から内閣不信任案を出しても良いのではという事象です。無論、100%出ないでしょうが。ただ、この出来事はそれくらいのことだと思います。

ことしの「骨太の方針」をめぐり自民党政務調査会の会合が本日開かれ、防衛費について、NATOの加盟国がGDPの2%以上を目標としていることを例示し、防衛力を5年以内に抜本的に強化するなどとした政府の案を大筋で了承しました。

政府案では、防衛費について、NATO=北大西洋条約機構の加盟国がGDP=国内総生産の2%以上を目標としていることを例示したうえで、防衛力を抜本的に強化する期限を「5年以内」と明記しています。

また、台湾をめぐる問題に関連して「ことし5月の日米首脳会談で両首脳は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」と本文の注釈に加えられました。

このほか、来年度の予算編成をめぐって、前回の会合で、歳出改革の内容を盛り込んだ「骨太方針2021に基づき」という文言を削除すべきだという意見が出されましたが、この表現は維持する一方「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」という一文が追加されました。

政府は、自民党内の手続きを経て、7日にも「骨太の方針」を閣議決定することにしています。

自民党政務調査会の木原稔副会長は記者団から「基礎的財政収支」の黒字化目標について見解を問われたのに対し「岸田総理大臣も『財政健全化の旗は降ろさない』と述べており、それに尽きる。経済あっての財政で、順番を間違えてはならないが、健全化の旗は立っていると認識している」と述べました。

自民党政務調査会会合

結局、財務省は岸田総理の発言なども利用しつつ、思い通りに財政政策を実施していくのでしょう。ただ、これは完璧に財務官僚の矩をこえています。「骨太の方針」については、閣議決定の後にその内容が公表されるでしょう。そのときにまた改めて、論評を加えたいと思います。

ただ、過去20年以上にわたって、髙橋洋一氏をはじめ様々な人達が、財務官僚のおかしさ、全く理にかなわない財務省理論の間違いを暴き続けきたので、最近は風向きが変わって来たと思います。

そもそも10年以上前なら、積極財政派は数が少く、自民党政務調査会の会合では積極財政派はガス抜き程度に意見を述べる機会が与えられるだけで終わっていたことでしょう。しかし、今は違います、会合で怒号が飛び交ったり、西田政調会長代理が「私は(党内)政局にしたくないから、譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。それに対する答えがこれか。裏切られた」と発言するなど随分と変わってきています。それも、まともな積極財政派が増えてきたからでしょう。

上の記事で、「はっきり言って、最近の財務省は弛みきっている。先日の財務省高官の逮捕、国税庁職員による補助金詐取など、考えられない事態が次々に起きている」としていますが、その他にも事件が起こっています。

昨日は、車内で妻を殴り鼻の骨を折るけがを負わせたとして、警視庁小金井署は傷害の疑いで東京都小金井市の東京国税局税務相談官、武藤静城(しずき)容疑者(59)を逮捕した。どやら日常的に暴力をふるっていたようです。

矢野謙次財務次官

さらに、4月27の文春電子版には『矢野財務次官「娘の夫DV」で異例捜査』という記事が掲載されています。週刊誌の記事なので、真偽の程はわかりませんが、それにしても時代の流れを感じます。

従来だと、マスコミも国税局を有する財務省に対しては、余程はっきりとした「犯罪」の証拠でも無い限り、このような記事はなかなか掲載しなかったものです。それは、やはり財務省は国税局を使い脱税の嫌疑をかける得る恐ろしい役所という認識があったからでしょう。

そのような危険は今でもないとはいえませんが、今では財務省の権威も落ち、週刊誌もそこを突いた記事を掲載すれば、世間の耳目を捉えることができると考えるようになってきたのでしょう。

そもそも、財務省の財政破綻論にはかなり無理があります。そもそも、デフレとは正常な経済循環からは逸脱した状況であり、異常な状況であるという認識が彼らにはありません。議員をはじめ大勢の人がそのことに気づきつつあります。例外は、情報源がテレビのワイドショーである高齢の「ワイドショー民」くらいになってきました。

理論武装をした積極財政派が増えてきた現在、絶対的に自分が正しいと信じていると思います。それをこのような形で役人が平気で矩をこえ、理解不能な理論で、とにかく増税、とにかく緊縮をしようとし、実際にそのようにしていくわけですが、積極財政派の遺恨は、嫌がおうでも高まります。いずれ大爆発して、財務官僚は多くの人の憤怒のマグマに焼き尽くされると思います。

ただ、積極財政派という言葉も本来異様なのです。なぜなら、経済対策とはその時々の実体経済に即して行われるべきものであり、緊縮か積極かなどと派閥の対立によって議論されるべき筋のものではないからです。しかし、財務省がいかなる場合でも、緊縮財政をしようとするから、このような言葉が生まれてしまったのでしょう。

多くの人は、財務官僚など尊敬していないでしょう。テレビで数年前までは、「財務官僚をリスベクトする」と語っていた弁護士の八代英輝氏は現在はそのようなことは一切いわなくなりました。もう、そのような空気ではないのでしょう。

高橋洋一氏は財務省に警戒していますし、私も警戒を緩めるべきときではないとは思いますが、それにしても、「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりかけているような気がしてなりません。

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2022年6月5日日曜日

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財務省が狙う「参院選後の増税」、既定路線になりつつある“標的”を検証

衆議院本会議で2022年度補正予算案が可決され、一礼する岸田文雄首相(手前)と政権幹部たち

 防衛費や子育て支援予算を大幅増額する方針を示している岸田文雄首相だが、肝心の財源については明言を避けている。しかし、首相周辺では参議院選挙に勝利した後の増税は既定路線になっていると見られる。では何の税金を標的にするのか。財務省の経験則などから検証する。(イトモス研究所所長 小倉健一)

● 参院選後の増税は既定路線? 何の税金が「標的」になるか検証

 岸田政権への高い支持率が続き、参議院選挙は自公勝利が確実視される状況になってきた。今夏の参院選が終われば、岸田文雄首相が衆議院を解散しないかぎり、3年間は大きな国政選挙がない。与党と中央省庁、特に財務省の関心は、参院選後に移りつつある。つまり、増税だ。財務省は今、どの税金を上げようとしているのだろうか。

 これまで岸田政権では増税議論を慎重に避けてきた。昨秋に行われた自民党総裁選挙で、岸田首相は「今後10年程度は消費税増税が不要」と明言。一方、ライバル候補だった河野太郎氏は「長期にわたって年々小刻みに年金の実質価値を下げていくマクロ経済スライドによって、基礎年金の最低保障機能が果たせなくなる」と訴え、補強のために消費税財源を充てる」として、消費税増税を主張した。

 ここで全国紙政治部記者に総裁選を振り返ってもらおう。

 「河野氏が消費税の増税を考えているのが分かった途端、選挙を前に党内の仲間がサーッと離れていった。序盤優勢だった同氏が中盤で失速したタイミングと一致する。安倍晋三元首相の電話攻勢ばかりが語り継がれているが、河野氏の失速はそれでは説明がつかない。河野氏以外の候補もそんな失速を見て、増税を否定し続けた」のだという。

 3年間のフリーハンドを握るとはいえ、岸田首相がその3年で何をしようとしているのかは全く分からないままだ。金融資産課税、新しい資本主義など、マーケットに打撃を確実に与えるとおぼしき主要政策は、選挙を前に棚上げをしてしまった。

 そして、消費税減税の可能性を問われると「消費税は社会保障の安定財源に位置づけられており、いま触ることは考えていない」と否定した。「触れない」ということは増税もしないということなのか、真意は不明だ。

 物価高対策を盛り込んだ2022年度補正予算案、総額は2兆7000億円規模で、財源を全額赤字国債で賄う。さらに、先日のジョー・バイデン米大統領の初来日時に岸田首相が「相当な増額」を伝えた防衛費も今後かさんでくる。安倍元首相は来年度の当初予算について6兆円台後半から7兆円が必要との認識を示している。1年かぎりで日本の防衛危機が去るとも思えず、毎年の予算となるのだろう。

 防衛費以外にも子育て支援政策の大幅増額を掲げているが、それらの財源について岸田首相は明言を避けている。ただ、岸田首相の周辺の考えは固まっているようだ。前出の政治部記者はこう解説する。

 「そもそも岸田首相が所属する宏池会は、財務省の影響力が特に強い派閥。そして、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を25年度に黒字化する目標を変更していない。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)にも『安定財源が不可欠』と強調させている」

 「聞く力」を掲げて、全員にいい顔をし続ける岸田首相だが、メリハリなく政府支出を増やしている実態の中、選挙後に大増税を決断するのは既定路線のようだ。では、「消費税には触れない」と強く断言する岸田首相は、「何税」を上げるつもりなのか。マーケットの関心もここに集まるだろう。

 財務省が「増税の標的」として狙うポイントを基に、検証してみよう。

● 財務省が狙う増税の標的は 「野党の公約」

 財務省が狙うポイントの一つは野党の公約だ。野党が容認している「増税」については批判が集まりにくいというこれまでの経験則があるからだ。

 思えば、安倍政権時代に2度も行われた消費税増税も、野党時代の自民党と当時の民主党政権(現在の立憲民主党と国民民主党)が合意したことがベースだった。与党が強引に増税をしたとすれば国民の反発は一挙に与党にきてしまう。共産党・れいわと組むことは決してないが、日本維新の会や国民民主党、立憲民主党が容認している増税策が狙われるのは間違いがない。

 では、今年の参院選を前にして、主要野党が政策として掲げている増税案はなんだろうか。見ていこう。

● (1)立憲民主党の増税案

・「金融所得課税の強化などを進めます」
・「グリーン税制全体の中での負担を見据えつつ炭素税の導入を検討します」

 「立憲民主党基本政策」で増税に触れているのは、以上だ。直近では日本維新の会に追い上げられているとはいえ、立憲は野党第一党の位置を占めている。政権、財務省としても最も狙いをつけていることだろう。

● (2)日本維新の会の増税案

 増税政策として、一番困るのが維新だ。先だっての衆院選では「減税で経済成長」と掲げていた。ところが、最近の幹部の発言では「維新は減税政党ではない」と事実上の公約の撤回を主張。実際に同党の政務調査会では増税議論を繰り返してきた。

 しかし、参院選を前にしてインターネット上で「貯金税」とやゆされている「日本の資産全てに1%を課税する」という増税プランは、現状撤回したと言い張っている。現在地が不透明だ。

 先立って、維新の藤田文武幹事長がTwitterで「政策方針について論点整理」したとつぶやいて、突如提示した1枚紙の資料を見ても疑問は深まるばかりだ。維新の政策集「日本大改革プラン」に関する資料のようだが、税制の個別政策の例として「消費税、所得税、法人税、相続税、固定資産税、金融所得課税、金融資産課税、総合課税、租税特別処置、マイナンバー制度、行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)、徴税権の3層構造、歳入庁、など」と税制とは関係ないことまで含めた謎めいた項目が羅列してある。資料の表題には「コンセプトプレイヤーの整理」とある。これから整理をするというのだろうか。

 「フロー活性化」という文言もあるので、増税の優先順位があるとすれば「金融資産課税」辺りが狙われるのではないか。…そう言いたいところだが、国政の維新は、地域政党である大阪維新の会と違って、よりポピュラリズム(世論の動きでフラフラする大衆迎合主義、「ポピュリズム〈民衆主義〉」とは一線を画する)的指向の強い政党であり、正体が全くわからない状態だ。

 また、参院選に向けて維新が政策を分かりやすく伝えるために作った漫画冊子「日本大改革プラン」では、「金融取引で所得を増やしている人の税率は累進課税ではない」とあり、その横のイラストと共に現状のフラットタックスを批判している(27ページ)。ところが、その次の次のページ(29ページ)では、「『フラットタックス』とも呼ばれるシンプルでわかりやすいチャレンジ推奨型の課税制度を導入することで『頑張った人が報われる』」と主張している。

 その漫画の基である日本大改革プランでは「高額所得者ほど総所得に占める金融所得の割合が高く、所得税負担率に逆累進性が働いている」とも指摘。合計所得金額が1億円超になると所得税の負担率が右肩下がりになる現行制度を批判している。これらを踏まえると、金融所得には増税したい意向なのではないかと推測する。

● (3)国民民主党の増税案

・「格差是正の観点から、富裕層への課税を強化します」
・「推計を踏まえ、法人課税、金融課税、富裕層課税も含め、財政の持続可能性を高めます」

 参院選後の与党入りが確実視される国民民主党は、「国民民主党重点政策」の中で減税・ばらまき色の強い公約をうたっているが、増税に触れた箇所が二つあった。どちらも富裕層には課税するということだが、「法人課税・金融課税」という聞きなれない増税を容認するようだ。

 調べてみると、法人課税は法人税のことを指しているようだ。なぜ、別の言葉に変えたのか不明だ。金融課税は、金融所得課税(株投資などで得た利益に課税)のことか、金融資産課税(貯金、国債などの持っている金融資産に課税)のことなのかが分からないが、いずれにしても金融に関する項目について課税をするようだ。

● 3党の公約から考える 実現可能性が高い「増税案」は?

 以上、3党の増税に関する公約を並べたが、最大公約数を考えると、金融所得課税の強化がまず狙われるのは間違いがない。5月27日の衆院予算委員会で、岸田首相は金融所得課税の見直しについて「決して終わったわけではない」と述べていることも、その説の信ぴょう性を高めている。

 次に、立憲が掲げていた炭素税についても、増税はすでに既定路線になりつつある。

 岸田首相は20兆円規模の「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」の発行を表明している。そしてこの債券は、「炭素税による収入が入るまでの「つなぎ」の役割」(前出の政治部記者)とされているからだ。

 国民民主が掲げる法人課税も動く可能性がある。これらの増税案は、野党も選挙で掲げた以上、法案に反対しないだろう。この三つの増税は、マーケットをますます冷え込ませ、日本経済を傷つける可能性が高い。

 しかし一番の心配は、岸田首相の軽過ぎる言葉だろう。これまで、政策を掲げておいて動かないと言うことが繰り返されているからだ。消費税は触れないと言ったが、防衛費の大幅増額を理由に、「やっぱり上げざるを得ない」と判断する可能性は当然ある。

 岸田首相が掲げる政策と維新の公約は、後になってコロコロ変わってしまうので、何一つ、信用できない。

 岸田政権の参院選圧勝で、日本のプレゼンスはまた落ちていくことになりそうだ。

小倉健一

【私の論評】日本がトランプ減税なみの大減税を行えば、数年以内に国内投資と賃金の劇的な大上昇が起こり世界経済の牽引役となる(゚д゚)!

上の記事、首相周辺では参議院選挙に勝利した後の増税は既定路線になっていると見られているが、ただ消費税増税に関しては首相自身が「消費税は社会保障の安定財源に位置づけられており、いま触ることは考えていない」と否定したことに言及し。「触れない」ということは増税もしないということなのか、真意は不明だとしています。

結局財務省は増税の対象としては、いくつかのことが考えられるものの、どの税金を上げるかはわからないというものです。ただ、増税する気は満々であるということはいえそうです。

そもそも、財務省はとにかく隙きあらば増税したいということで、あらゆる可能性を探っているのは間違いないようです。それは、昨年の文藝春秋に掲載された矢野財務次官論文でもはっきりしましした。

この矢野論文に関しては、様々な人が論破していますが、一番痛快で誰にでも理解しやすかったのは、安倍元総理の「日本がタイタニック号であるとすれば、そんな日本の国債を多くの人が買うわけがない」という論破です。確かに、日本が矢野氏のいうように日本が破綻の淵にあれば、誰も日本国際を買うはずはありませんが、現実には多く日本国内の機関投資家が買っています。

しかも、現在では国債が従来のようなマイナス金利ということはないですが、マイナス金利のときですら、国債は売れていました。今でも金利は零に近いですが、それでも売れ続けています。日本に信用がなければ、そんなことはあり得ず、財務省の矢野次官が語る財政破綻はあり得ないことが完璧に論破されました。

これを前提にすれば、そもそも消費税増税の必要などないし、防衛費や子育て支援予算を大幅増額するにしても、政府が国債を大量に発行すればそれですむはずです。しかも、現状ではデフレぎみであり、大量に国債を発行したとしても、インフレになる可能性は少ないです。

現在のコアコア消費者物価指数(生鮮食料品、エネルギーを除く物価)は0.8であり、インフレには程遠いです。コロナ禍からまだ十分に立ち直っておらず、しかもウクライナ問題で、エネルギー価格や、原材料価格が高騰しているのですから、それを抑える対策をしながら、様々な対策を行うべきですし、他国に比較すれば、インフレから程遠い日本では、積極財政と金融緩和を実行すべきです。

日銀に関しては、現在でも緩和を継続していますが、できればさらに量的緩和を加速するとともに、政府は大規模な積極財政をすべきなのです。

高橋洋一氏は現状の日本では、30兆円以上の需給ギャップがあるとしていますから、これを解消するために、政府30兆円程度の予算を組み、減税や給付金、補助金を出す政策をとるべきなのです。岸田政権では補正予算を組みましだか、その額は2.7兆円であり、真水ではさらに額がすくなくなります。これでは、話になりません。焼け石に水です。

それにこのような状況のときには、減税すべきであって増税などすべきではありません。政府も増税しそうな気配がありますが、野党3党が増税に関する公約を掲げていることには驚くとともに失望を禁じえません。

特に野党は出羽守論法で、与党を批判することが多いのですが、上記野党3党は増税ではそのようなことをしないばかりか、自らも増税を推進しようとして、財務省にそれをうまく利用されかねない状況にあるといえます。


私はここで、思いっきり出羽守になり、米国ではどうなのか以下に状況を述べていこうと思います。

トランプ米大統領(当時:以下同じ)は2017年12月22日、レーガン政権以来約30年ぶりとなる抜本的な税制改革法案に署名し、同法は成立しました。減税規模は10年間で約1兆5000億ドル(約170兆円)。トランプ氏はホワイトハウスでの署名に際し、「歴史的」な減税だと意義を強調しました。

税制改革は、1月に発足したトランプ政権が実現させた初めての主要公約。柱となる法人税の税率は来年に現行の35%から21%に下がり、主要先進国では最低水準に近くなります。米国に進出する日本企業も減税のメリットを受けます。法案は20日に議会を通過していました。

トランプ大統領は記者団に、来年1月に大がかりな署名式を行う考えだったが「(年内成立の)約束を守らなかったと報道されたくないので、きょう署名する」と語りました。また、別の公約として掲げたインフラ投資は「最も簡単だ」と明言。税制改革後の政策課題に位置付け、超党派で実現すると表明しました。

政府機関閉鎖を回避する来年1月19日までのつなぎ予算案も署名され、成立しました。

ホワイトハウスの執務室で自らが署名し成立した税制改革法を掲げるトランプ米大統領2017年12月22日


さて、この大減税どうなったでしょうか。

連邦議会予算事務局の2022年5月の予測で、2017年の「トランプ減税」後10年で、政府の税収が2017年12月の税制改革法案の可決前に予測されていたより、増加する見込みであることが判明しました。

減税―当時の政府の記録係たちは10年で1兆5千億ドルの負担になると話していた―は、左派の一部が信じるように仕向ける財政の悪夢のようなものにはなっていないようです。

3月にナンシー・ペロシ下院議長(民主党、カリフォルニア)は、2017年のトランプ減税を2兆ドルの「共和党税金詐欺」と呼びました。

バーニー・サンダース上院議員(無党派、バーモント)は、減税を支持しながら議会のやり放題な巨額支出に反対するのは偽善だとして共和党を非難しました。

バイデン政権ホワイトハウスは、「トランプ減税は10年で2兆ドルの赤字を付加した」と主張するプレスリリースを発表しました。

だが数字は別の物語を語っています。政治的な巧言にもかかわらず、税収は上がっているのです。

予測を2022年のドル相場に調整すると、減税前に政府は2018年から2027年の間の所得税、法人税、給与税の税収として40兆7千億ドルを見込んでいました。最新の予算予測では、同じ期間の税収として41兆3千億ドルを見込んでいます。1兆5千億ドルの税収減少どころか、最新の予測では税収が予想より5700億ドルの増加となることを示しているのです。

法人税減税についてはどうでしょうか?間違いなく法人税を35パーセントから21パーセントに減税したので、法人税収は劇的に減少したのでしょうか。

政府の予算の数字によるとそうではありません。

政府は現在、2018年から2027年までの間に3兆8千億ドルの法人税収を見込んでいます。減税前に予測していた3兆9千億ドルとほぼ等しいです。その上、税金は真空中には存在しないので―そして法人税改革はさらなる所得の増加を推進することで所得税と給与税が増加するので―法人税改革は採算が取れる可能性が高いです。

連邦議会予算事務局(CBO)は、単に減税前の予測で税収を少なく見積もっていたのでしょうか?

そうかもしれないです。ところが予算事務局は、歴史的に見て税収を過大に見積もることのほうが多かったとしています。政府の予測によると、「CBOの税収見積もりは、この数十年平均すると高すぎであり、景気停滞のタイミングと特質を予測するのが困難であることがおもな理由」であるとしています。

では、10年間にはパンデミック関連の世界的な活動停止が含まれることを考慮すると、なぜ予測された税収の低下が起きなかったのでしょうか?予算事務局の予測は、税収の「説明のつかない強さ」に対して少なくとも5つの点を引き合いに出しています。

経済学者のタイラー・グッドスピードとケビン・ハセットによると、2017年の減税以後、設備投資は減税前に比べて9.4パーセント上昇しました。企業にとって実際の投資は14.2パーセント増加しました。同様に2021年のヘリテージ財団報告書によると、投資と賃金の劇的な上昇が減税後に起きたことが分かりましたた。投資増加を引き起こした重要な要素は、オフショアではなく米国市場に再投資することを選択した多国籍企業でした。

米国ではトランプ氏が減税政策を打ち出したときも、デフレではありませんでした。そもそも、デフレは正常な経済循環から逸脱した状態であり、いずれの国でもこれを放置することなく、すみやかに積極財政、金融緩和策を実施して脱却するのが普通です。

日本のようにデフレを放置するどころか「良いデフレ」などとして、長期間にわたって緊縮財政、金融引締を実施して、デフレをさらに深化させるような政策はとった国古今東西日本以外にありません。だから、日本は「失われた30年」に突入し、日本人の賃金は30年間も上がらなかったのです。

そのデフレから脱却しきっていない日本が、トランプが行ったような大減税政策を日本のサイズに合わせて同程度に行えば、数年で劇的な効果、しかも米国をはるかに上回る効果を上げるのは間違いないです。

まずは、米国よりもはるかに上回る投資と賃金の劇的な上昇がおこるでしょう。日本輸出企業やデフレの最中には、海外投資を積極的に行ってきたの多く企業は海外ではなく日本市場に再投資することになります。それが原動力となり、国内投資と賃金の劇的な上昇につながるのです。

これがおこれば、日本国内が良くなるだけではなく、コロナ禍から復興しきっておらず、さらにウクライナ戦争に痛めつけられた世界経済を日本が牽引することになるのです。

日本国内では、様々な夢を諦めていた人たちが、それに再挑戦できるようになります。世界でそれが起こるのです。日本の支援により、ウクライナは急速に復興して、戦後の日本のような高度成長期を迎えるかもしれません。何と素晴らしいことではありませんか。

なぜそのようなことがいえるかといえば、米国やEUなど消費者物価指数が8%とか6%などにはなっておらず、コアコアCPIでは0.8%に過ぎず、総合でも2%台に過ぎません。まだまだ、積極財政、金融緩和ができる余地があるからです。このようなことは、長年デフレだった日本だからこそできることであり、インフレが亢進した他国ではやりたくでもできないからです。現在日本だけが、そのような潜在可能性を秘めているのです。

減税政策をとったにしても、現在のような状況なら、総合消費者物価指数が4%から6%くらいになったとしても、大丈夫です。


誰か、増税するしないだの、財政がどうの、赤字国債がどうのと言う前に、こうした夢を岸田総理に語れる人はいなのでしょうか。財務省が「財政破綻、財政破綻」と何度も吹き込むように、岸田総理の夢の話を何度、何度も吹き込めば、聞く耳を持つと自ら語る岸田総理ですから、夢の話に乗るかもしれません。しかも、この夢はかなわぬ夢ではなく、現実的な夢なのです。そうして、それは世界にとっても良いことなのです。

岸田総理がこれを実現すれば、日本を再建した総理として、歴史に名を残すことになります。ただ、今の日本だと世界恐慌から世界で一番先に金融間作と積極財政で脱却させた当時の大蔵大臣高橋是清があまり注目されていませんが、これは大きな間違いであり、この功績を称えるべきでしょう。

そうして、日本の経済を救った英雄として、岸田総理の名前も髙橋是清とともに歴史に刻まれるようにすべきでしょう。

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2022年6月4日土曜日

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日本の解き方



 このところの物価上昇をめぐり、「賃金の上昇が追いつかず、実質賃金がマイナスになった」と報じられている。企業の賃上げが本格化するのはいつごろなのか、物価上昇を上回る賃上げは進むのか。

 まず、賃金に関する経済理論を整理しておこう。賃金は、基本的には、労働の供給と需要によって決まる。つまり、基本的に個人の生産能力がベースであるが、労働市場の環境によって大きく左右されることもある。

 その上で、労働者を採用する企業数や規模、労働市場に関する情報が不完全な場合や労使間の賃金交渉の方法の違いなども影響してくる。このうち、はじめの部分、つまりマクロ経済に関する部分のみを考慮してみよう。

 名目的な賃金を上げるうえで、「労働供給」は人口などの要因で決まるので、「労働需要」が重要になってくる。労働需要は派生需要なので、経済活動に由来する。つまり、景気がよければ労働需要が増すが、景気が悪ければその逆だ。ここから、国内総生産(GDP)が増えると、失業率が低下するという「オークンの法則」が出てくる。

 労働需要が満たされる状況は、失業中の人が職を得ることから始まる。その段階では、無職ではなくなるが賃金は低い。このため、名目的な賃金ですら、平均値でみると下がってみえることもある。

 しかし、労働需要が増してくると、人手不足になる業者も増えてくる。となると、名目的な賃金は平均でみても間違いなく上がる。

 アベノミクスは、名目的賃金を上げるまでの貢献はあった。最後の段階で、コロナ・ショックがあったものの、失業率を下げ、名目賃金が上がるまでになった。

 新型コロナ対策として安倍晋三・菅義偉政権は大型補正予算を計上し、失業率の増加を先進国で一番低くした。その際、マクロ経済での有効需要増とともに、雇用調整助成金も使った。後者については失業者の増加を防ぐ効果もあったが、結果として本来失業している人も救ったことで賃金の高止まりも招いた。これは賃金上昇を弱めることにもつながっている。

 本コラムで繰り返しているが、GDPギャップ(総需要と総供給の差)が30兆円程度以上と相当な額になっているので、労働需要を喚起できずに、賃金の上昇圧力もない。

 当面、海外要因による物価上昇の影響が大きく、名目賃金上昇もそれに及ばないという状況だ。

 筆者の見立てでは、GDPギャップが解消しないと、実質賃金の上昇は見込めない。GDPギャップが解消して半年以上の一定期間を経過すると、インフレ率も当面高くなるが、それ以上に名目賃金も伸びるようになるだろう。

 インフレの基調を示すエネルギー・生鮮食品を除くいわゆる「コアコア消費者物価指数」の対前年同月比は4月時点で0・8%上昇に過ぎないが、最近のマスコミ報道はインフレを煽(あお)るものが多い。その中で、GDPギャップを埋める政策がとれるかどうかがポイントだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】現在の物価高に見合って賃金を上昇させるにはGDPギャップを埋めるしかないことを共通認識とすべき(゚д゚)!

過去30年間も、日本人の賃金が上昇しなかった原因は日銀が過去に金融政策を間違え、ほとんどの期間金融引締をしてきたため30年間もマネーストックが伸びなかったことが原因です。

これは、上の記事を書いた髙橋洋一氏も過去に同じことを語っています。それについては、このブログでも取り上げたことがあります。その記事を以下に掲載します。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!


日本における生産性は日々向上しています。それも様々な分野で向上しています。同じ職場で同じ職位でも20年〜30年も勤務していれば、余程の人でない限り、個人の努力や、効率化、IT化などで、生産性はかなり上がるでしょう。おそらく、少なくとも2倍から3倍あがるでしょう。

さらに、日本企業は様々なイノベーションをして、既存の製品やサービスを改善し、さらに新たな製品も作り出します。

現在の世界では、日本も含めた先進国ならば20〜30年もすれば、様々な効率化やIT化やイノベーションが行われ、20〜30年前と比較すれば、効率化はすすみ、さらに従来なかった製品やサービスもうまれ、様々な側面で生産性はあがることでしょう。それこそ、総体的には2倍〜3倍生産性はあがるわけです。

こうして、生産性が上がったにも関わらず、それに応じて中央銀行がマネーストックを増やさなければ、何がおこるかといえば、デフレです。それは当然のことです。効率が良くなり、様々なイノベーションて従来にはなかった製品やサービスができあがっても、それに見合って貨幣か増えることなく従来のままであれば、それらを購入するには貨幣が足りなくなりますから、デフレになるのです。

政府が音頭をとって、たとえばAIで大イノベーションを起こそうとしたとします。当然声をかけるだけではなく、大規模な投資もするとします。それに民間企業も応じて、AIで大イノベーションがおこり生産性が飛躍的にあがったり、新たな製品やサービスが登場したとします。

それでも、日銀がマネーストックを増やさず、従来のままにしておけば、どうなりますか。無論デフレです。それに、いくらイノベーションをしたとしても、日本人の賃金は上がらないことになります。

企業がどんなに努力して、イノベーションを起こしたとしても、日銀がそれに応じてマネーストックを増やさなければ、デフレになり、賃金も上がらず、何も良いことはないのです。

それだけ、中央銀行のマネーストックの管理は重要なことなのです。ただし、中央銀行のマネーストックの管理はさほど難しいことではありません。イノベーションや生産性の向上を前提とした上で、毎年2%内外マネーストックを増やすだけで良いです。

そうして、それを実行しつつ、物価は上がっても、失業率が上がるような状態が続けば、金融引締策をすれば良いだけです。金融引締を続けて、物価が下がるようであれば、また金融緩和をすればよいだけです。これを交互に繰り返して20年〜30年もたてば、マネーストックは2倍から3倍増え、賃金も2倍〜3倍になります。

このようなことを過去30年世界の日本以外の中央銀行が行ってきましたが、日本の中央銀行である日本銀行だけが、過去30年間のほとんどの期間を金融引締政策ばかりしていたので、日本人の賃金は上がらなかったのです。

まずは、日銀が金融緩和策を継続しつづけるという前提がなければ、日本人の賃金が上がることはないのです。ただし、現在の日本銀行は金融緩和を継続しています。上の髙橋洋一の話はそれを前提として、当面の物価上昇に見合うだけの賃金にするためには、何をすればよいのかという趣旨でまずは、GDPギャップを埋めるべきであると提唱しているのです。

そうして、GDPギャップを埋めて、物価上昇に見合うだけの賃金上昇があったにしても、その後も日銀が金融緩和策を取らなければ、日本人の賃金は上がりません。

そうして、確かに日銀が金融緩和の姿勢を崩さなければ、いずれ日本人の賃金もあがってはくるでしょうが、それにはかなりの時間を要するでしょう。当面の物価上昇に対応できる賃金上昇は期待できません。GDPギャップを埋めなければ、直近で物価上昇を上回る賃金上昇は期待できないでしょう。

GDPギャップが解消して半年以上の一定期間を経過すると、インフレ率も当面高くなりますが、それ以上に名目賃金も伸びるようになります。そうして、その前提として日銀が金融緩和策を継続が必須です。

以上のようなことは鳥頭のマスコミには理解できないようです。物価高という一つの出来事があれば、それで頭がいっぱいになり他のことは考えられなくなるのです。

現状では、国民経済のことを考えれば、積極財政が重要なのです。現在今年の「骨太の方針」に、2025年までのプライマリーバランス(PB)黒字化目標を入れるかどうか、大論争になっています。

財政の持続可能性は、債務残高対GDP比の経路で見ていくのが普通の考え方で、PB黒字化は、それが収束・安定する事と何の関係もありません。本質的に重要なのは持続的な経済成長です。

しかも、現在は先にも述べたように、GDPギャップを埋めるのが最優先です。そうして、現在はそれを巡って駆け引きが行われている真っ最中です。骨太原案で、PB目標年次の基準がなくなったから、財務省完敗という人もいますが、他のところで「これまで通り」等と書いてあるものもあります。

当初、安倍さんと麻生さんは、財政政策検討本部でした。そこで、財務省は麻生さんを財政健全化本部に引き抜き画策、これを岸田首相が了解。その後は、対立を装っただけで、手打ちは終わっていたので。これが“ワル”の財務省やり方です。マスコミはこれを報じていません。これが読めないで、暴発したのが、逮捕された財務省の高官です。

このあたりの顛末は以下の動画をご覧いただければ、よくご理解いただけるものと思います。 



 現在やるべきことは、積極財政と金融緩和の両方です。積極財政で、エネルギー・原材料価格を抑える政策をすれば、なお良いです。

最近のマスコミ報道はインフレを煽るものが多いです。その中で、GDPギャップを埋めるべきことは共通認識として多くの人が共有すべきです。

あとは、最終的に「骨太の方針」に、2025年までのプライマリーバランス(PB)黒字化目標を入れないことを祈るばかりです。

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2022年6月3日金曜日

プーチンが変えた世界のバランス・オブ・パワー―【私の論評】リアルな立場に立脚すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になり得る(゚д゚)!

プーチンが変えた世界のバランス・オブ・パワー

岡崎研究所

 プーチンはウクライナをロシアに吸収合併し、ベラルーシとの3カ国よりなる「ミニ・ソ連の再興」を夢見たのだろうが、結果としては、国連憲章にある戦後の秩序を壊し、ロシアの国際的な地位にも大きな損害を与え、制裁によりロシア経済も疲弊させている。


 オースティン米国防長官はウクライナ訪問後、ロシアを弱体化することを目的にするとの発言をして、一部から批判されたが、キッシンジャーは、プーチンがそういう状況を自ら作り出していると指摘している。その通りである。

 ウクライナ戦争により世界のバランス・オブ・パワーは大きく変化している。このことにつき、ワシントンポスト紙コラムニストのデヴィッド・イグネイシャスは、5月17日付け同紙掲載の論説‘The new balance of power: U.S. and allies up, Russia down’で概観を試みている。イグネイシャスは、以下の諸点を指摘する。

・単純に言えば、米国と欧州の同盟国は上に上がり、ロシアは下に下がった。

・プーチンの誤算は中露関係に影響を与え、中露分断の機会もあり得る。

・中露の勢いが削がれる中、米国はアジアでの戦略パートナーシップを推進。

・インド、サウジアラビアなど湾岸諸国、東南アジア諸国、ブラジルといった「重要な中級国家」において米国は機会を持つ。

・米の軍事力、情報優位、戦略的パートナーシップは圧倒的に強いということを、世界中が想起。

 イグネイシャスによる上記の俯瞰は、大体当たっているように思われる。

ロシアへの民主化の波は訪れるのか

 将来のウクライナについて言うと、ウクライナが分裂国家になっても欧州連合(EU)に入り、民主主義国として繁栄するようになると、人的にも文化的にもつながりの多いロシアにそれが影響しないわけはないと考えられる。民主的なウクライナがロシアの民主化を促進する可能性は強いと思われる。ドイツなどがウクライナのEU加盟に否定的であることは、その意味で視野が短絡的に過ぎるように思われる。

 プーチンは政権の座から引きずり落とされてしかるべきだが、これはロシア人自身がやらなければならない問題である。このような失敗をしたプーチンへの不満がロシア国内でもくすぶっているはずで、その素地に点火する人が出て来る可能性は否定できないだろう。

【私の論評】リアルな立場に立脚すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になり得る(゚д゚)!

バランス・オブ・パワーとは、国際政治における勢力の均衡を指す国家間の秩序モデルです。各国の勢力を均等化することで現状を維持し、緊張を含みながらも平和を継続させる効果を持つのです。

このバランスが崩れると秩序は混乱し戦争が生じます。19世紀の大英帝国は国家戦略として勢力均衡を適用し、国益を維持したといわれます。戦争を抑止するために各国間で条約を結んだり、地域や国際的な集団保障体制を構築したりして安定的な秩序を保ちます。

現代の国際連合は秩序維持の代表的なメカニズムです。しかし、未来永劫、繁栄を極める国や継続する同盟はなく、パワーポリティクスのもとでは国家は勢力の拡大を目指します。国家の興亡によって均衡が崩れると、パワーシフト(力の移行)が生じます。

現実の世界は、ヴェストファーレン条約以来、米ソの冷戦時代を除き、数カ国のパワーオブバランスの上になりたってきたのです。ちなみに、ヴェストファーレン条約(ヴェストファーレンじょうやく、独: Westfälischer Friede、英: Peace of Westphalia)は、1648年に締結された三十年戦争の講和条約で、ミュンスター条約とオスナブリュック条約の総称です。英語読みでウェストファリア条約とも呼ばれます。近代における国際法発展の端緒となり、近代国際法の元祖ともいうべき条約です。

ヴェストファーレン条約締結の図

この条約によって、ヨーロッパにおいて30年間続いたカトリックとプロテスタントによる宗教戦争は終止符が打たれ、条約締結国は相互の領土を尊重し内政への干渉を控えることを約し、新たなヨーロッパの秩序が形成されるに至ったのです。この秩序をヴェストファーレン体制ともいいます。

そうして、第二次世界大戦後のバランス・オブ・パワーに挑戦をしたのが、ロシアであり、それを絶対に許さないという姿勢で臨んでのが米国とその同盟国です。そうして、ロシアは第二次世界大戦中に、独ソ戦で多大な犠牲を出しつつも連合国側につき、戦後に当時のソ連が勝ち取りそれを引き継いだロシアの常任理事国の地位を失うことになります。

こうしたロシアの蛮行に対して、リアリストとリベラルの受け止め方は大きく異なります。リアリストは、以前からNATOの東方拡大はロシアの死活的な安全保障上の利益を脅かすことになり、同国はそれを守るための軍事行動を厭わないので危険だと主張していました。

したがって、リアリストはロシアがウクライナを侵略した意味をNATOがロシアの生存を脅かした予想された結果であり、不幸にしてウクライナが犠牲になってしまったととらえたようです。

他方、リベラルは、ロシアの侵略に大きな衝撃を受けました。この学派の人たちは、ロシアが引き起こした国際法に違反する行動を「法の支配に基づく国際秩序」を破壊する重大な「犯罪行為」だと解釈したのです。

リベラルは、国際社会を発展する規範や制度から構成されるものとみなす傾向にあります。とりわけ、リベラル派は、主権国家間の境界線を尊重する「領土保全規範」が、国家の他国への侵略を抑制する重要な役割を果たしていると信じていました。

その規範を大胆に破ってウクライナを軍事力で攻撃したロシアの行動は、国際社会全体の「公共善」に対する挑戦であると、リベラルは危機感を募らせたわけです。だから、リベラルの人たちの多くは、ウクライナとロシアの戦争を「善と悪」との闘争とみなしたのです。

他方、リアリストはロシア・ウクライナ戦争をバランス・オブ・パワーの変化が引き起こした事象と理解しています。したがって、リアリストはこの戦争に善悪の基準を当てはめようとしないのです。

リアリストは、戦争には必然的にパワーの分布が反映されるとみなします。したがって、戦争の終結形態は、残念ながら、ロシアとウクライナの国力の差に左右されてしまうとリアリストは主張します。リアリストの重鎮であるアメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャー氏は、ウクライナがロシアに領土を割譲すべきととれる発言をして、たいへんな物議をかもしました。

彼は5月23日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、「今後2カ月以内に和平交渉を進めるべきだ」との見解を示すとともに、「理想的には、分割する線を戦争前の状態に戻すべきだ」と述べました。この「戦争前の状態」という言葉は、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島や、親ロシア派勢力が支配する東部ドンバス地方の割譲を意味すると受けとられました。


この発言に対して、ウクライナのウォディミル・ゼレンスキー大統領やドミトロ・クレバ外相は猛反発しました。かれらは、ロシアに譲る地域にはウクライナ人が住んでおり、ロシアへの譲歩は戦争を防げなかったではないかと、キッシンジャー氏を激しく批判しました。

バランス・オブ・パワーといった地政学的要因がウクライナの行動を制約していることについて、ウクライナ政府内では、その受け止め方に迷いがあるようです。

ゼレンスキー大統領は「私たちには戦う以外の選択肢はない」「侵略者を罰するための前例がなければならない」「侵略者が全てを失えば戦争を始める動機を間違いなく奪うことができる」と強気の発言をしています。

ロシア軍が東部ドンバスや南部ミコライウで空爆や砲撃を実施し攻勢を強めた中、アンドリュー・イェルマーク大統領府長官は5月22日、「戦争は、ウクライナの領土の一体性と主権を完全に回復して終結しなければならない」と述べて、ウクライナは停戦や領土の譲歩はしない姿勢を示しました。

こうしたゼレンスキー政権の対ロシア政策は、ウクライナ国民に広く支持されています。ウクライナ国民の82%は、戦闘が長期化して国家の独立性への脅威が高まることになっても、ロシアとの交渉で領土を割譲すべきでないと考えていることが、世論調査の結果で分かっています。

その一方で、ゼレンスキー大統領は5月21日に報じられたテレビインタビューで、ロシア軍がウクライナへの本格侵攻を開始した2月24日以前の領土を取り戻すことができれば「ウクライナにとっての勝利とみなす」と表明して、クリミア奪還は必ずしも目指さないと示唆していました。この方針は、先述のキッシンジャー氏の提言とあまり変わりません。

おそらく、ゼレンスキー大統領としては、理想としてクリミア半島を含むすべてのウクライナの領土をロシアから取り返したい反面、それを目指すことはロシア軍との戦闘が長く激しくなり、国民の多くの生命を犠牲にしてしまうことも理解しているのでしょう。こうしたジレンマに直面して、普通の人では想像できないような深く苦しい悩みを抱えるゼレンスキー氏の心情は、察するにあまるものです。

くわえて、ウクライナを支援するNATOの軍当局者にも、同様の迷いがあるようです。かれらは、ドンバス地方やクリミア半島の一部地域では地元住民からの反発も考えられることから、ウクライナ政府が実際に領土を取り戻すために戦うべきかどうかについては、疑問な点もあると述べています。

言うまでもないことですが、ウクライナ政府がロシアとの戦争の目的と手段を決める明白な権利を持っています。われわれにできることは、外からウクライナを助けることです。問題は、関係各国が、どのようにウクライナを支援するかです。

リアリストの答えは、自国の国益の観点からウクライナ政策を打ち出すべきだということになります。他方、リベラルの処方箋は、国際社会の公共善を守るために、その規範を踏みにじったロシアという悪を徹底的に打倒すべきとなるでしょう。

ウクライナの最大の支援国である米国は、今のところリベラル派の進言にしたがって行動しているようです。バイデン政権は、第二次世界大戦後、初めてとなる戦時の「レンド・リース法」をウクライナに適用して、全面的で大規模な軍事援助を行っています。

また、アメリカはヨーロッパにおいて、異例ともいえる大規模な増派をしています。アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、侵攻前にヨーロッパに展開していたアメリカ軍の兵力規模は、米軍欧州軍や陸海空軍、海兵隊、宇宙軍を合わせ約7万8000人だったが、わずか数カ月で30%増となり、10万2000人態勢に拡大したと発表しました。これは中国の脅威の増大を念頭においたリバランス政策において、インド・太平洋地域に展開してきた米兵数を上回っています。アメリカは再びヨーロッパに回帰したのです。

こうしうたアメリカのウクライナ支援策については、リアリストから苦言が呈されています。ジョン・ミアシャイマー氏は、以下のようにバイデン政権を批判しています。
オバマ政権で副大統領を務めていたバイデンは、ウクライナ加盟の”超タカ派”として動いてきました。彼は、ウクライナのNATO加盟に積極的になるのです。バイデン大統領は現在のウクライナ危機を引き起こしたメインプレーヤーの一人です。バイデン自身が副大統領時代にウクライナのNATO加盟にコミットしすぎたためでしょう。それでリアリストのロジックではなく、リベラル覇権主義のまま(ウクライナに)肩入れしていったわけです。ウクライナにいるロシア軍を決定的に敗北させ(ることは)。ロシアの生存を脅かしている。これはまさに『火遊び』なのです。
(『文藝春秋』2022年6月、149-156ページ)。
ミアシャイマー氏の見解が正しければ、アメリカがウクライナ情勢に深入りしすぎてしまったため、ロシアを交渉により戦争終結へと動かすことは不可能になってしまったようです。

ミアシャイマー氏

米国に戦争の「出口戦略」がないことは、以前から識者が懸念していました。外交問題評議会のリチャード・ ハース会長は、「奇妙なことに、ウクライナでの西欧の目標は初めから明確とは言い難い。ほぼ全ての議論が手段に集中している。何が戦争を終わらせるかにほとんど言及がない。どう戦争を終了すべきかに答えることは、ロシアとの闘争が重大局面をむかえる中、大規模な戦闘の気配がするので、死活的に重要だ」と早くから指摘していました。

最近になって、アメリカの専門家から、西側は戦争終結の出口戦略とウクライナ支援をパッケージにすべきだとの積極的な意見もだされるようになりました。ブレンダン・リッテンハウス・グリーン氏(ケート研究所)とカイトリン・タルマージ氏(ジョージタウン大学)は、ロシア軍の完全な敗北を目指すと核の惨劇のリスクは高まり、そうならなくても人道被害は甚大になるので、西側は武器支援をキーウが受け入れ可能な紛争解決に関連づけ、「必要であれば(ウクライナへの)軍事支援の栓を閉めることも厭わないと示す」べきだと踏み込んだ提言をしています。

現在、米国やウクライナはリベラルの助言に従っています。これはバイデン大統領が、5月23日、ロシアのウクライナ侵攻について「プーチン大統領に責任を負わせる」と述べたことに表れています。ウクライナ大統領府長官のアンドリュー・イェルマーク氏も「今日、善と悪の間に中間は存在しない。あなた方は、善につくか、悪につくかのどちらかだ」と、リベラル派の言説でロシアのウクライナ侵略への西側の支援を訴えています。

日本はウクライナへの経済支援に全力を傾けています。岸田文雄総理大臣は「日本としては、世界銀行と協調する形で、従来の3億ドルを倍増して6億ドルの財政支援を行うことにする」と述べ、さらに3億ドルの借款を追加する方針を明らかにしました。これにより日本のウクライナへの借款は6億ドル、日本円でおよそ770億円規模となります。

同時に、日本は中国や北朝鮮の脅威に対処するために、防衛費を現状の2倍にすることを目指しています。ウクライナの勇敢な戦いを支えながら、台頭する中国の脅威から安全保障を確保しなければなりません。こうした苦境を打開する万能薬が日本にはあります。それは、安倍元総理も述べたように、政府日銀連合軍による調達です。

政府が大量に国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式です。これにより、防衛費をケンづいの2倍にしても財政的に苦しくなることはありません。現に、安倍・菅両政権の期間には、合計で真水の100兆円にものぼる補正予算を組み、コロナ対策を実施しました。これと米国などにはない雇用調整助成金制度で、日本はコロナ感染が拡大しても、失業率が2%台で推移させるという他国には見られない偉業を達成しました。

この方式の唯一良くない点は、インフレを招いてしまう可能性ですが、日本はもともとデフレ気味だったので、コロナ対策期間中には米国やヨーロッパのように6%〜8%ものインフレになることはありませんでした。

総理大臣在任期間中に多大な成果をあげた安倍氏と菅氏

最近では、消費者物価指数が全体では2.5%ですが、コアコア(生鮮食料品、エネルギーを除く)では、0.8%であり、まだまだ余裕があります。エネルギー価格の上昇などを手厚く保護しつつ、積極財政を行うことで、政府日銀連合軍により、防衛費を獲得しつつ、ウクライナに対して米国に迫るような支援をすることは可能です。

岸田政権は、そうしたことを実施すれば、ウクライナや米国や西側諸国に対して、存在感を発揮することができます。その上で、米国や西側同盟国とウクライナを交えながら、ゼレンスキー政権が受け入れ可能な「出口戦略」を本格的に協議してもよいのではないでしょうか。そして、リベラル寄りの西側の戦略をリアリストの方に少しずつ動かす努力は、検討に値するでしょう。

中国という出現しつつある地域覇権国の脅威にさらされる日本の国民は、国益を最大化できる国家戦略について感情的にならず冷静に考えて、その答えをだすことが求められると私は思います。

しかしながら、現在のアメリカには、そうした政治的意思はないようです。ロイド・オースチン国防長官は「アメリアはウクライナとロシア間の和平取引にとって可能性のある条件を要求してはいない」と発言して、バイデン政権が「出口戦略」をゼレンスキー政権と構築することを否定しています。

このままでは、ウクライナ戦争はいつまで続くかわかりません。現状ですぐに、リアルな解決法を模索することは、ロシアのプロパガンダに利用されるだけかもしれません。そのことを恐れたからこそ、2月24日以前の領土を取り戻すことができれば「ウクライナにとっての勝利とみなす」というキッシンジャー氏の発言にゼレンスキー大統領は、激怒したのでしょう。

しかし、今はまだ戦争が始まってから3ヶ月程度です。6月中には戦争がはじまってから4ヶ月を迎えます、8月になれば半年です。来年1月になれば、1年です。

6ヶ月を超えても、戦争がいつ終わるかわからない状態が続けば、ロシアは経済的にも軍事的にも疲弊し、ウクライナは自国領土が戦場といことで疲弊します。両方とも、先が見えないことに対してかなりの不安を感じることになるでしょう。

半年を超えたあたりから、ロシアもウクライナも理想論や原理原則ばかりを語ってはおられなくなり、現実的な「出口」戦略を模索することになるでしょう。

まさに「戦争にチャンスを与えよ」で米国の戦略家ルトワック氏が語っていたことが現実になるのです。ルトワック氏は、平和な時代には人々は戦略問題を軽視し、近隣諸国の不穏な動きにも敏感に反応せず、日常の道徳観や習慣の方を戦略課題よりも優先してしまう。このために戦争のリスクが一気に高まるといいます。今の日本の状況はまさにそうかもしれません。

また、戦争が始まると男達は戦争に野心やロマンを見出し、嬉々としてこれに参加しようとします。しかし、戦争が一旦始まり、膨大な量の血と物資の消耗が始まると、最初の野心は疲弊と倦怠感に取って代わり、戦う気力はどんどんと失われていきます。

人々は遺恨や憎しみよりも平和を希求するようになるといいます。あるいは抗争中のどちらかの勢力が圧倒的な勝利を収めた際も戦争は終結します。破れた側に闘う力が残されていないためです。戦争を本当の意味で終結させるのは膨大な犠牲を待たねばならないのです。つまり戦争が平和を生むのです。

これは、リベラリストには到底受け入れがたいことでしょうが、これは冷徹な現実なのです。現在中途半端に介入すれば、遺恨が残り戦争の種はくすぶり続けることになります。

ウクライナ、ロシアがともに平和を希求するようになったとしても、リベラリズムで固まった米国の態度は変わらない可能性が大きいです。その時こそ、日本の出番です。米国や西側同盟国とウクライナを交えながら、ゼレンスキー政権が受け入れ可能な「出口戦略」を本格的に協議して、ロシアとの仲介役を買ってでるべきです。

日本にはこれに似たことをすでに実施したことがあります。それはインド太平洋戦略です。これは、安倍晋三氏が総理大臣だった頃に提唱し、それをトランプが受け入れて、現在でも米国の基本戦略になっています。バイデン政権も今年になってからはじめてバイデン政権の「インド太平洋戦略」を公表しています。

ただ、これも米国だけが動いていたとしたら、インド太平洋地域や関係国には米国に反発する勢力も多く、なかなか今日のような形にはならなかったと思いますが、安倍総理が米国とそれらの国々との橋渡し役を買ってでたため、今日のような形になったといえます。これを米国は高く評価しています。

これは、ウクライナ戦争停戦でも同じようなことがいえると思います。米国や中国、ましてやロシアが直接動いては、反発する勢力も多いです。EUも反発される可能性が大きいです。しかし、日本なら米・EU、中露よりは反発は少ないです。

これを評価しないというか、無視するのが日本国内のメディアや野党です。先にも述べたように、日本国内では安倍・菅両政権の期間には、合計で真水の100兆円にものぼる補正予算を組み対策を実行して、輝かしい成果をあげたのですが、メディアはこれを失敗したかのごとく印象操作し、実際失敗したと思い込んでいる人も多いようです。しかし、当時の数字をみれば、そうではないことがはっきりわかります。

菅政権は日本特有の強力な鉄のトライアングル、特にその中でも、医療村の強烈な抵抗にあって、病床確保には失敗しましたが、それでも結局医療崩壊を起こすこともなく、驚異的なワクチン接種率の向上を実現し、深刻な経済の落ち込みも招くことなく、相対的に大成功しました。

このような日本の潜在力を十二分に発揮すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になるくらいの能力を持っているといえます。

ただ、リベラル的な観点から物事をみていては成就しません、やはりリベラル・保守などの立場を超えて、リアルな立場から物事をみていくべきです。綺麗事、お花畑、理想・理念に凝り固まり、現実から目をそらしていれば、何も成就しません。

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2022年6月2日木曜日

立民が主張する「金利引き上げ論」 実施すれば失業率上昇、円高進みGDPが減少 安保は「お花畑論」経済政策も真逆…的外れの野党―【私の論評】参院選では自民が勝利するが、その後には積極財政派に転向するよう緊縮派議員に丁寧に陳情しよう(゚д゚)!

日本の解き方


政衆院予算委で立憲民主党の泉健太代表の質問に答弁する岸田文雄首相=26日午後、国会・衆院第1委員室

 5月26日の衆院予算委員会で、立憲民主党の泉健太代表が「物価高を止めるという意味では金利を少し引き上げることも選択肢に入れるべきではないか」と質問した。

 金融政策の鉄則として「ビハインド・ザ・カーブ」というものがある。インフレ(物価上昇)に対して意図的に利上げのタイミングを遅らせることだ。逆にいえば、物価の上昇を先取りする予防的な利上げは行わないという伝統手法だ。

 米国で実際に行われたので、米国のインフレ率の推移を見ておこう。全体の消費者物価指数の対前年同月比は、今年1月が7・5%、2月は7・9%、3月は8・5%、4月は8・3%だった。エネルギーと食品を除く指数は1月が6・0%、2月が6・4%、3月が6・5%、4月が6・2%だった。

 米国は政策金利を3月中旬に「0・0~0・25%」から「0・25~0・5%」へ、5月上旬にはさらに「0・75~1・0%」へと引き上げた。米国で利上げに転じたのは、全体のインフレ率が8・5%、食品・エネルギーを除くインフレ率が6・5%になってからだ。

 翻って、日本ではどうか。4月の消費者物価総合は前年同月比2・5%、生鮮食品・エネルギーを除く総合で0・8%だ。これらが米国並みに8%台と6%台となれば、さすがに利上げを考えるべきだが、当分その気配もない。というのは、日本では、GDPギャップ(総供給と総需要の差)が30兆円以上もあると考えられるので、多くの業界で需要不足である。そのため、原材料・エネルギー価格が上昇しても十分に転嫁できず、インフレ率が高騰するような状況ではないからだ。

 この状況で、もし万が一利上げしたら、設備投資などの需要がさらに落ち込み、GDPギャップはさらに拡大する。GDPギャップが拡大すると、半年後くらいに失業率が高くなるだろう。と同時に、インフレ率は下がり、下手をするとデフレに逆戻りになる。また、利上げは円高要因になるが、それはGDPを減少させ、雇用も失うことになるだろう。

 これは経済協力開発機構(OECD)の計量モデルでも確認できる。日本が金利を1%上昇させると、1~3年間でGDPは0・2%低下、インフレ率も0・1%程度低下する。

 日本の内閣府の計量モデル(2018年度版)では、短期金利を1%上昇させると、1~3年間でGDPは0・12~0・23%低下、消費者物価は0・02~0・06%低下、失業率は0・01~0・03%上昇と試算される。GDPギャップは0・11~0・17%拡大する。

かつて、筆者はテレビ討論番組で興味深い体験をした。一緒に出ていた民主党(当時)の枝野幸男氏が「金利を上げた方が経済成長する」という独自の論を展開し、「テレビで言わないほうがいい」と諭したのだ。

 野党の経済政策が頼りないのは、こうした間違いを平気で言うからだ。安全保障は「お花畑論」、経済政策も真逆という的外れの野党がいるおかげで、自民党は楽に参院選を戦えるのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】参院選では自民が勝利するが、その後には積極財政派に転向するよう緊縮派議員に丁寧に陳情しよう(゚д゚)!

確かに立憲民主党の経済認識は間違っていますし、安保でもお花畑でお話になりません。

ただ、経済の認識ということでは、自民党の大多数の議員も似たりよったりです。ただ、自民党の中には少数ではありますが、正しい経済認識をする人もいます。これが野党との決定的な違いであると思います。

こうしたことを反映してか、参院選の前哨戦ともいわれる選挙で立憲民主党は敗退しています。

新潟県知事選の投開票が29日行われ、現職の花角英世氏が「原発再稼働反対」などを訴えた住宅メーカー副社長の片桐奈保美氏を破り、再選を果たしました。事前の世論調査や出口調査などから花角氏の勝利は予想されていたものの、注目されたのは、その圧勝ぶりです。花角氏の得票数は全体の約77%にあたる70万票あまり。一方、片桐氏は約20万票にとどまりました。


今回の知事選の結果が夏の参院選に直結するとは考えにくいです。しかし、影響がまったくないとも言い切れないです。新潟県知事選にあたってNHKが29日に行った出口調査によると、新潟県内の政党支持率は、自民が51%で立民が10%だったのです。

今夏の参議院選挙で、新潟選挙区(改選定数1)は4選を目指す立憲民主党現職の森ゆうこ氏と、自民党新人の小林一大新潟県議との一騎打ちと予想されています。森氏が3選を果たした前回の2016年と2019年と2回連続で野党候補が競り勝っています。

特に森氏の選挙戦は壮絶を極め、自民党候補と森氏との得票数の差はわずか0.2ポイント、票差にして2279票の大激戦でした。そうした記憶も残る中、この政党支持率は森氏にとって衝撃的ではないでしょうか。

森ゆうこ議員

参院選は全国45選挙区のうち、32を占める定数1の「1人区」が結果を左右する。前回2019年の参院選では、1人区で自民党が22勝しました。

報道向けのデータ収集を行うJX通信社(東京都千代田区)が4月23~25日に全国約2万7千人を対象に実施した情勢調査によると、1人区の7割超を占める24選挙区で自民候補がリードしていることがわかりました。 

獲得議席予想は自民52〜71、公明10〜15、立憲11〜26、維新10〜21、共産4〜10、国民民主2〜4、れいわ1〜3、社民0〜1などとなってます。 

約半数の有権者はまだ態度を明らかにしておらず、各党の候補者擁立も完了していないため情勢は流動的であることが大前提です。しかしこのままいけば、「自民圧勝」が濃厚といえそうです。同社の情勢調査事業責任者でデータアナリストの衛藤健さんは「自民の強さの要因は野党にある」といいます。

「野党の票が割れているのが大きいと見ています。昨年の衆院選で『野党共闘は失敗した』と言われましたが、選挙結果を冷静に分析すると、着実に票の取り込みにつながっていて、実際には成功しています。ただ、立憲・共産両党の底力がそもそも弱くなっているため失敗に見えるのだと思います。今回もある程度候補者を一本化できれば、もっといい勝負ができる選挙区は少なくないでしょう」

衛藤氏は続けてこのようにも語っています。

「現状の支持率は立憲のほうが維新より上ですが、最終的に維新が上回る展開は十分あると思っています。今回の参院選は二大政党の一翼を担ってきた旧民主党系の政党が伸び悩み、野党第1党が維新に変わる転換点になる可能性があります」

その理由は、民主党政権時代の政権担当能力への疑問が払拭されておらず、「立憲は無党派層の支持が弱いから」だといいます。かつては「投票率が下がれば自民党が有利」というのが選挙の常識でしたが、今は様相が異なるようです。

 「無党派層からの支持が最も多いのは自民。野党では維新です。投票率が上がれば上がるほど自民党が有利になり、野党だと維新が伸びると見ています」(同)

 「自民一強」は岸田内閣の支持率の高さにも表れています。全国平均は48.7%で、不支持率が支持率を上回る選挙区はゼロ。ちなみに全国最高は岸田文雄首相の地元の広島県で69.6%、最低は沖縄県で37.3%でした。

夏の参院選で投票したい政党や投票したい候補者がいる政党を日本経済新聞社の最近の世論調査では、もっとも多かった回答は自民党で50%でした。2位は日本維新の会の8%、3位は立憲民主党の7%でした。自民党が優勢ということでは、変わりはないようです。

自民党が参院選負けると、参院議員の任期は6年ですから、6年間影響します。また、憲法改正もできなくなります。2007年の参院選敗退が民主党の政権交代のきっかけとなったことも忘れるべきではありません。

日本では、事業計画や予算は政府というよりも自民党の党内政治で決まる構造になっています。そうして、野党にはこのような機能はなく、野党が政権をとった場合、官僚による一方的な政治がおこわなれることになります。実際、民主党政権のときには私達は、その有様をまざまざと見せつけられたのです。

民主党政権というと、あの「一番でないとだめなんですか」という蓮舫議員の言葉で象徴されるように事業仕分けが有名ですが、あの事業仕分けを裏で仕切ったのは財務省です。

野党が政権をとると、いかに善意の野党であったとしても、結果として今の日本では、官僚主導の一方的な政治になってしまうのです。

この日本の政治システムに関しては、以下の渡邉哲也氏のロング・ツイートがかなり平易に解説しています。ぜひご覧になってください。


日本は独裁国家ではありません。日本の国政は行政の長である総理よりも議会の方が強く、総理に関与できる範囲は限られます。逆に地方は首長の力が非常に強く、議会は監視と後承認機関になっています。地方は独裁的な政治を行うことができる仕組みです。

現在、岸田政権において実施される補正予算は2.7兆円に過ぎず、これでは焼け石に水であり、ほとんど対策らしい対策はできないのは目に見えています。

しかし、これは岸田総理が決めているというよりは、自民党党内で緊縮派の勢力が強くそのような結果になっていると見るべきです。

安倍元首相は、マクロ経済に明るい方であり、第二次安倍政権のときには、デフレから完璧に抜けきれていない日本で、消費税増税をするなど夢にも思わなかったでしょうし、絶対にそうしたくなかったでしょうが、結局党内での緊縮派の勢力のほうが強く、結局在任中に2度も消費税増税をせざるを得ませんでした。安倍総理としては、断腸の思いだったことでしょう。

岸田首相も同じような立場にあるのです。しかし、首相がどうであれ、党内で緊縮派の勢いが強ければ、2度にわたる消費税増税が行われてしまうのが日本なのです。もちろんそうした政治風土は変えていかなくてはならないとは思いますが、現実はそうなのです。その現実の中で私達は、政治を変えていかざるを得ないのです。

岸田総理

であれば、まともな経済対策を望むなら、積極財政派を自民党内で増やすしかないのです。参院選では1人が、選挙区と比例区(以下、比例代表)の2票を投票することになります。選挙区では、自民党の候補者に入れ、2枚目はの比例代表では、政党名と個人名が書けますが、積極財政派の議員の名前を書くべきです。

そうして、選挙が終わって、自民党が勝利すれば、その後は昨日も述べたように、陳情をすべきです。選挙が終われば、自民緊縮派議員に緊縮ではなく積極財政をすべきという内容で丁寧に陳情すべきです。なぜなら、自民党内で積極財政派を増やしたいなら、もともと積極財政派である人に陳情しても、積極財政派が増えることはないからです。

先にも述べたように、今回の参院選は野党の不甲斐なさで、自民党が勝利を収めそうですが、勝利した後では、緊縮派議員に対して積極的に陳情をすべきです。地元の議員が緊縮派であれば、なんとか会う機会をつくるなり、文書を送るなりして、陳情すべきです。

緊縮派政治家に保守的政策の陳情をしてもあまり意味がないです。 そうでない自民党の議員に陳情して考えを変えてもらう必要があるのです。自分が積極財政派であれば、積極財政派の議員に話たり、陳情するのは楽でしょう。それでも、それで何かをしたつもりになれるかもしれませんが、 内輪の議論をしていても意味はありません。 それでは輪が小さくなるだけです。そうして、昨日も述べたように陳情はツイッターでもできます。便利な世の中になったものです。

そうして、陳情するときには、丁寧にすべきです。れいわ新選組の大石晃子議員の首相への発言が話題を呼んでいます。大石氏は1日の衆議院予算委員会で、首相を「資本家の犬、財務省の犬」といった言葉を用いて痛烈に批判しました。このような態度は許されないです。

このようなことをすれば、意味はなく、ただ無礼であるとの印象を相手に与えるだけです。緊縮派の議員には、それなりの背景があってそうなっているのですから、喧嘩腰の陳情をしても逆効果です。国民のためを考えて陳情というのは当然のことですが、それプラス当該議員かが積極財政派に転向することの大きなメリットを訴えることができれば、最高だと思います。

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2022年6月1日水曜日

財政審「歴史の転換点」の意味 安倍・菅政権後に本音が爆発! 意向が通りやすい岸田政権で露骨な「増税路線」と「ご都合主義」―【私の論評】理想や理念ではなく、リアルな行動の積み重ねが、日本の政治を変えていく(゚д゚)!

日本の解き方


 財務省の財政制度等審議会が「歴史の転換点における財政運営」とする建議を行った。

 財政審の建議は、形式的には審議会委員が起草しているが、財務省の考えそのものだといえる。

 その内容は、ズバリ財政再建で、「歴史の転換点」というのは、長期にわたった安倍晋三・菅義偉政権が終わったので、再び財政再建路線にかじを切りたいという思いがうかがえる。

 安倍・菅政権は、経済を中心とする「経済主義」と、財政が中心の「財政再建主義」との対立概念からすると、経済主義の側だった。財政再建至上主義の財務省としては歯がゆかったのだろう。

 財務省の意向が通りやすい岸田文雄政権になったので、官邸に気兼ねせずに財政再建主義を露骨にしたともいえる。

 今回の建議では、財務省の従来の考え方がストレートに出ている。総論を見ても、グロス公債等残高対国内総生産(GDP)比について、日本が他国に比べて格段に大きいことが問題であるとしている。

 グロス公債等残高対GDP比の動きと、プライマリーバランス(基礎的財政収支)対GDP比には、金利・成長率などを所与とすれば一定の関係があるので、「プライマリーバランスを黒字化」することによりグロス公債等残高対GDP比が発散しない財政運営という「目標」が出てくる。

 もちろん、こうしたグロス公債等残高対GDP比に着目した財政運営方針は、安倍・菅政権でも骨太方針では書かれていた。しかし、景気対策時には、それらを無視して、適切なマクロ経済運営が行われた。安倍・菅政権での「総額真水100兆円」の補正予算において、日銀を含めた「統合政府」でのネット公債等残高対GDP比を増大させない運営方針だった。

 それを、安倍元首相は「政府・日銀の連合軍」と表現し、先日話題になった「日銀は政府の子会社」発言と同じことを実際の政策で行った。

 財務省は、安倍氏の首相在任時には文句を言わなかったが、首相退任後に話したら否定したわけで、これほど分かりやすい例はない。もはや安倍・菅政権でないという意味で、「歴史の転換点」なのだ。

 各論でも、防衛に関する部分が興味深い。欧州諸国で国防費の増額を表明する国が出ているが、それは平時において財政余力を確保してきたからだとしている。その裏には、増税への思惑が見え隠れしている。

 欧州には欧州中央銀行など国際機関が多くあり、各国の財政のオフバランス化に貢献してきた。たとえば、欧州中銀が各国国債を金融緩和などのために購入すると、日本や米国、英国と同じように、国債の利子・償還負担はなんらかの形で軽減するはずだ。その事実を無視して、税収だけで財政余力があるかのように説明するのはあまりに財務省のご都合主義だ。

 防衛費の一定部分は、今の財政制度の下で建設国債を活用してできるものもある。ネット公債等残高対GDP比を増大させないというまともな方針なら、できることは少なくない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】理想や理念ではなく、リアルな行動の積み重ねが、日本の政治を変えていく(゚д゚)!

歴史の転換点における財政運営」は次のような文章から始まっています。
歴史の転換点ともなり得る世界的な環境変化が急速に進行している。 本建議では、我が国が抱える経済・金融・財政の脆 弱 ぜいじゃく 性を直視し、とるべ き責任ある経済財政運営の在り方を示すとともに、今後、各分野において 求められる改革について具体的に提言する。

財務省は一言でいえば、「増税」したいのです。したくて、したくてたまらないのです。

上の記事にもあるように、安倍・菅政権での「総額真水100兆円」の補正予算を組みました。これは、無論安倍政権でコロナ対策として、補正予算を組みはじめてから、菅政権が終了するまでの間に組まれた補正予算の合計です。

このブログては、何度かこのことについ述べたことがあります。無論このことについては、高橋洋一氏も述べていて、コロナが深刻化しはじめた頃には、日本では100兆円の需給ギャップがあることを指摘していました。

これに対して安倍政権は、2020年4月に補正予算真水で16.7兆円を組みました。これに対して、高橋洋一氏は「あまりにシャビー」と酷評していました。 確かに、100兆円の需給ギャップがあるのに、16.7 兆円では、あまり少なすぎます。

ところが、安倍政権の補正予算はそれではすみませんでした。機会があるごとに補正予算を組み、安倍政権の期間では、結局合計60兆円の予算を組みました。

さらに、菅政権においても、機会があるごとに補正予算を組み、菅政権期間中には結局合計40兆円の真水の補正予算を組みました。

結局安倍・菅両政権においては、100兆円の真水の補正予算を組み、コロナ対策にあたりました。

このせいと、日本には米国にはない「雇用調整助成金」という制度があり、これは雇用者に助成金を交付するものですが、これと補正予算の中の雇用に関するものもあわせて対策を行ったので、安倍・菅両政権の期間中に雇用が悪化することなく、2%台で推移しました。

この安倍・菅政権での「総額真水100兆円」の補正予算において、日銀を含めた「統合政府」でのネット公債等残高対GDP比を増大させない運営方針でした。

それを、安倍元首相は「政府・日銀の連合軍」と呼ぶ方式、政府が巨額の国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式で成し遂げました。

コロナ感染期間中には、日本以外の国では、失業率がかなり上がりました。日本のようにコロナ以前からあまり変わらなかったのは、世界でも日本だけです。これは大成功といえます。確かに、テレビなどでは、自粛に協力した飲食店の業者らが苦境を訴えているシーンが放映されましたが、では一般の勤め人などどうだったかといえば、さほどのことはありませんでした。

少なくと、景気が悪くなった2000年代のように「年越し派遣村」がテレビで盛んに報道されるというような事態はありませんでした。

これは、安倍・菅政権の偉業と呼んでも良いと思います。しかし、この偉業が日本では理解されていません。そもそも、マスコミや野党はこうしたことを評価しないどころか、菅政権においては、「コロナ経済対策」に大失敗しているような印象操作を大々的におこなつていました。

海外の経済のことも見ていた私は、こうしたマスコミや野党などの行動は、発狂したようにしか見えませんでした。

確かに、安倍・菅政権においては、コロナ病床の確保には失敗しました。ただ、それは頑強な医療村の抵抗にあったからであり、これは安倍・菅政権の直接の責任ではありません。マスコミは、これを針小棒大に報道しまくり、野党もこれに迎合し、自民党内では、「菅総理」では、衆院選を戦えないという声がおこり、結局菅政権は短期で終わることになりました。

しかし、安倍・菅両政権においては、結局医療崩壊を起こすこともなく、ワクチン接種も進み、結果としては大成功だったと言えると思います。

このようなこともあったので、私はこのブロクではっきり表明したように、菅政権は継続させるべきと思いました。

このようなことをいうと、雇用統計などを見ている人の中では、4月の失業率は2.5%であり、岸田政権はなかなか良くやっているという人もいるかもしれません。


しかし、こういうことをいうマスコミや政治家は重要な点を見逃しています。それは、失業率は典型的な遅行指標であるということです。

遅行指標とは、景気に対し遅れて動く経済指数のことです。 内閣府が毎月作成している景気動向指数は、景気に先行して動く先行指数、ほぼ一致して動く一致指数と遅行指数の3本の指数があります。 景気の現状把握には一致指数、景気の動きを予測するには先行指数、事後的な確認には遅行指数が用いられます。

失業率は景気に対して半年遅れて動くとされています。4月の半年前というと、菅政権から岸田政権に変わったばかりのころであり、これは岸田政権の成果ではなく、菅政権の成果ととらえるべきです。

これに対して、株価は先行指標といわれています。これは、景気に対して先に動く経済指標です。株価は、景気に対して半年まえに動く指標とされています。

株価はどうかといえば、岸田内閣が昨年10月に発足してから、株価はずっと下落傾向にありました。昨年9月の時点で、東証一部の時価総額はおよそ778兆円ありました。しかし、1月末には約679兆円にまで落ち込んでしまった。たった4カ月で100兆円が吹っ飛んだことで、ネットでは『岸田ショック』なる言葉も誕生したくらいです。

こうした状況のなか 2022年度一般会計補正予算は31日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立しました。歳出総額は2兆7009億円で、赤字国債の増発に伴う公債依存度は335.9%と安倍・菅政権のときと比較するとかなり減りました。参院選後に追加策が編成されなければ、さらなる経済の悪化も視野に入ります。

再出総額が2兆7009円だというのですから、真水はさらに少なくなります。高橋洋一氏は現状てば、30兆円を超える需給ギャップがあるとしています。これでは、ほとんど焼け石に水です。

内閣府の推計では需給ギャップを17兆円としています。これは、高橋洋一氏の計算よりは、低めですが、内閣府という身内が算出しているものなので、少なくとこれを意識した補整予算を組むべきです。少なくとも、真水で10兆は必要でしょう。

それで対策をしてみて、ギャップがあれば、参院選後に追加補正予算を組む、それでも足りなければ、また組むという具合にやれば、短期間で合計30兆円を超える補正予算を組むことができます。これをすれば、岸田政権も安倍・菅政権と並ぶような経済対策ができるかもしれません。

こういうことをしないで、財務省のいいなりで増税などしてしまえばとんでもないことになります。岸田政権にはさらなる不安もあります。

それは、現在の日銀総裁黒田氏の人気が来年3月までだということです。先日もこのブログに掲載したように、現在の日銀は金融緩和策を継続するとしていて、まともな運営がされているといえます。

しかし、来年の人事で、黒田氏から別の総裁になり、日銀が今の日本は需給ギャップがあるにもかかわらず、日銀再び金融引締策をするという馬鹿真似をするようになったら大変なことになります。もし、その時に岸田政権が参院選後に追加策が編成せず、来年の4月にも編成せず、その後全くしなくなった場合。日本は、またデフレスパイラルの底に沈むことになります。

やがて就職氷河期をまた迎え、日本人の賃金は過去30年上がらなかったというのに、今後も上がる見込みがなくなります。

今私たちはそうならないように、具体的に、政治を動かす必要があります。だからといつて、自民党にお灸を据えるなどの考えは最低だと思います。実際にそのようなことで、民主党政権が誕生しどうなったのかということをみれば、これは明らかです。

経済も安定し、安保や外交でも懸念事項もあまりない状況であれば、将来のことを考えて、新しい人や、弱小政党に投票するということもありでしょうが、現状のように実施すべきこと(積極財政、金融緩和、安保・外交)が明白なときには、自民党の中での保守系を増やす必要があります。 

そうして、選挙後には議員に陳情して議案に賛成するなど、力を貸してもらう必要もあります。選挙は議員選びの道具ですが、選挙が終わってからが政治です。

そうして、野党では政策や議案づくりに参加することはまず不可能です。また陳情するにしても保守系議員にしてもあまり効果はないです。逆に自民リベラル系議員を動かすと大きく動きます。役付なら尚更です。丁寧に「ご理解頂く」事が重要です。

このあたりについては、以下の渡邉哲也氏の動画が参考になります。


いくら理想論を語っていても、お灸をすえるだとか、保守派の先生としか話をしないというのであれば、幼稚なリベラル・左派とあまり変わりありません。

来る参院選では、保守派を増やし、選挙が終われば、自民リベラル派議員に丁寧に陳情をすることが大切です。

それこそ、財務省の官僚がご説明資料を持って、政治家に丁寧に説明して、内容はデタラメながら、省益に沿った行動をするよう促すような地道な努力が必要です。わかりやすく、時間もかからないような、それでいて筋が通った正しい内容の陳情を心がけるべきです。

自民党にお灸を据えようとか、菅政権を短期政権に追いやったように、岸田政権を追いやったにしても、岸田氏と同じような考えの人が総理大臣になったり、力の弱い人がなれば、何も変わりません。

そんなことより、岸田政権を叩こうが、何をしても良いとは思いますが、結局政権の行動を変えられなければ無意味です。

それよりも、より現実的な行動をすべきです。リアルな行動の積み重ねが、日本の政治を変えていくことになります。ただし、財務省の悪行はしっかりと認識しておくべきです。

こんなことをいうと、難しく感じるかもしれませんが、ツイッターをしている政治家も大勢います。このような人たちに、わかりやすく目にとまりやすい陳情をツイッターですれば、意外と見たり読んだりしていただけます。地元の政治家に直接会うこともできます。ただ、応援しますなどというより、わかりやすく政権に何を具体的にしていただきたいのか、丁寧に説明すべきと思います。

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2022年5月31日火曜日

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか―【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか

岡崎研究所

 バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行われたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウクライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与えているだろう、と述べた(CIA director says China ‘unsettled’ by Ukraine war, FT, May 8)。バーンズは以下の諸点を指摘する。


・習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連により中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になっているとの印象を強く受ける。

・中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出すべきか慎重に検討している。

・プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来ないが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する最大の地政学的課題」だ。

 上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろう。

 プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平は不安の色を隠せないようだ。

 バーンズの見る通り、習近平にとっては、ロシアの侵略がはじまってから、10~12週間がたち、中国にとっては、台湾問題との関係で、自分たちの計算が狂ってきたと思っているのではないか。習近平にとっては、ロシアの無謀な侵略とロシア経済が制裁によって受ける不確実性を中国としては今後どのように考えればよいのか、という点も重なっているだろう。

 いまだ台湾に残る米国が助けてくれるかの懸念

 ウクライナのケースと台湾のケースを比較することには慎重でなければならないが、「台湾関係法」という国内法をもち、台湾の防衛に事実上コミットしている米国としては、台湾を「準同盟国」として扱う以上、もし将来、中国から台湾への一方的な軍事侵攻があれば、台湾を如何に支持、防衛するか、について、今回のバーンズ発言からは、今一つ明瞭な答えは出ていないといえよう。

 現在、台湾住民たちにとっての最大の関心事は、依然として「いざとなったとき、米国は助けにきてくれるだろうか」という一点に尽きるといえよう。これは、現在のバイデン政権の一大課題である。

 なお、バイデン大統領は5月23日、クワッドの首脳会合のために訪日した際、岸田文雄首相との首脳会談後の共同記者会見で、台湾が攻撃された際の米国の台湾防衛の意思を問われ、「一つの中国」政策を維持するとしつつ、「イエス」と答えた。

【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

ヘインズ国家情報長官

バーンズ米中央情報局(CIA)長官が上記のような見解を示す一方、米国の情報機関を統括するヘインズ国家情報長官は10日、議会上院の公聴会で、台湾統一を目指す中国について「彼らは、われわれの介入を押し切って台湾を奪えるように懸命に取り組んでいる」と述べて、軍備の増強を進めているとの見方を示しました。

ただ「中国は武力衝突を避ける形で強制的に統一することを望んでいる」と述べて、軍事力を行使せずに統一を実現するため、外交、経済、軍事面で圧力を強めているとの考えを示しました。

さらにヘインズ長官は、中国がロシアによるウクライナへの侵攻について分析を続けているとの見方を示し「中国は欧米各国が一致して制裁を打ちだしたことに驚いている。彼らは台湾の文脈でもこのことを考えるだろう」と述べました。

そのうえで「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性があるとの見方を示しました。

ロシアのウクライナ侵攻の失敗は、中国が想像するほど台湾攻略は容易ではないというシグナルを中国に送るもので、自国より小さかったり軍事的に弱かったりする相手をミサイルで負かすことができるという誤った通説を打ち砕くことにもなるのは間違いないようです。

ウクライナで破壊されたロシアの戦車

米空軍の上級戦略顧問であるエリック・チャン氏はVOAに対して「ロシアのウクライナ侵攻が迅速な軍事行動によってウクライナ占領という『既成事実』を作ることを目的としていたように、中国も迅速な軍事行動によって台湾占領の既成事実を作ることを望んでいた。しかし、ウクライナ戦争が長引いていることで、中国の最高指導部は、これまでの作戦よりもさらに迅速で破滅的な戦略が必要だと考えるようになっている」と指摘しています。

つまり、艦船を多数遊弋(ゆうよく)させ時間をかけて台湾封鎖を実行する余裕はなく、いきなり台北などの台湾本土の重要都市へのミサイル攻撃や空爆、艦船による艦砲射撃などで主導権を奪い、米国などの外国勢力の支援が入る前に、多数の空挺部隊などを台湾に上陸させて、台北や高雄などの重要都市を占領し、1週間程度で中国の制圧下に置くという作戦です。

ある専門家は「そのために、台湾の物資、指導部、通信施設など、開戦当初はより強力に台湾を叩くことを検討するのではないか」と予測しています。

そのうえで、「中国は台湾に対する『法戦』を強化し、『台湾は中国の一部』であり、この戦いは『中国の内政問題』であることを国際的に強調し、米国やその他の国がウクライナと同じように台湾を援助することを警告・抑止する方式をとり、より長い時間をかけて、台湾の中国化を既成事実化するだろう」と指摘しています。

ただ、ロシア軍もこうしたようなことを実行しようとして、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港を一時占拠したのですが、その目論見は失敗しました。そうして、制空権すら掌握できず、苦戦しています。

中国軍も、様々な企てをしつつ台湾に侵攻するかもしれませんが、それがすべて思い通りに進むとは限りません。

中国が一番簡単に間違いなく台湾に進行できる確実な方法があります。それは、恐ろしい話で書きたくもありませんが、全くの仮の話として書かせていただきますが、台湾に核ミサイルを打ち込み、全土を破壊し、その後に台湾に侵攻することです。そうなれば、中国は全く抵抗を受けずに台湾に侵攻することができます。

しかし、このことに意味があるでしょうか。そもそも、中国が台湾を侵攻する目的は何なのでしょうか。それには、遠大な計画があるのかもしれません。ただ、それを実現するためにも、まずは台湾を併合するというのが、中途の目標になるのは間違いないでしょう。

併合するためには、併合されるべき人達がいなければ無意味です。併合すべき、産業や物資などがあれば、なお良いです。しかし、台湾が核で完全破壊されたとすれば、人もほんどいなくなり、産業も何もありません。そんなところに人民解放軍が上陸したとしても、何の意味もありません。仮に生き残っている人がいたとしても、敵愾心に燃えているでしょうから、こう人たちを納得させ併合するのは至難の技です。

ただ、そうなる前に米国は中国に反撃するでしょう。そうして、その反撃は大方の人が想像するように、空母などの艦船や航空機、あるいは海兵隊によるものではないないでしょう。なぜなら、それには大きな犠牲が伴うからです。空母やその他の艦艇や、海兵隊員を載せた揚陸艦も、中国のミサイルの格好の標的になるだけです。

ですから、それはこのブログでも過去に掲載したきたように、攻撃型原潜による反撃になるでしょう。従来から述べているように、中国海軍はASW(対潜水艦戦)能力が、米軍よりも段違いに劣っているからです。

米攻撃型原潜は、大型になると1隻で100発以上ものトマホークを搭載できます。これらを台湾近くの海域に交替しつつ常時2〜3潜ませれば、米軍は台湾を常時包囲できます。台湾の近くには、日本があり、日本には米潜水艦隊の基地もあり、交替はスムーズにいくでしょう。

それに加えて、米軍は最近潜水母艦フランクケーブルを日本に寄港させたりしていますが、これにより、台湾付近の原潜は緊急時には、交代せずとも、ミサイル、食糧、水などの補給をうけて長い期間台湾包囲の任務につくことができます。

潜水母艦「フランクケーブル」

中国軍はこの包囲を容易に破ることはできません。対潜哨戒能力に優れた米軍は、まずは中国の潜水艦を台湾付近から追い払うか、撃沈するでしょう。その後、中国が台湾に艦艇で上陸部隊を送れば、これを撃沈するでしょう。

仮に上陸させるることができても、台湾は米原潜に包囲されていれば、これを突破することができず、補給線や航空機による補給ができなくなります。そうなれば、台湾に上陸した人民解放軍はお手上げ状態になってしまいます。

米軍の台湾防衛というと、すぐに空母だのイージス艦だの、航空機や海兵隊がどうのなどと思い浮かべるから防衛が難しいと思うのかもしれませんが、攻撃型原潜で台湾を包囲して防衛すると考えれば、これはかなりやりやいです。何しろ、現在の攻撃型原潜は、様々な大量兵器の格納庫と化しています。

対艦ミサイル、魚雷、巡航ミサイル、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)、核も通常型も搭載できます、まさに、現代の潜水艦は、水中のミサイル基地なのです。しかも、敵はなかなか発見されにくく、原潜ならほぼ無限に近いくらい潜航できます。水も、酸素も生成することができます。ただし、従業員の休養や物資、武装の補充のために、定期的にいずれかの港に寄港する必要はあります。

ただ、心配なのは、米軍がどのタイミングで、台湾封鎖をするかです。私は、もし中国が台湾に核先制攻撃をかけて台湾を崩壊させた場合は、確実に台湾を包囲すると思います。確かに、これをしてしまえば、中国が台湾を併合する意味はなくなりますが、それでも台湾を軍事拠点として利用できます。

中国軍がこれを目指して、中国軍を上陸させようとした場合、米軍はこれを阻止するために、台湾を潜水艦で封鎖するでしょう。

もし、台湾危機がバイデン、もしくはバイデン以降でも、バイデンのような大統領であれば、核戦争になることを恐れて、なかなか包囲に踏み切れず、それこそ台湾が核攻撃を受けたあとに重い腰をあげるということになるかもしれないです。

ただこのようなことだけは、避けていただきたいです。中国が台湾侵攻の素振りをみせれば、できるだけ早い時期に実行すべきです。どの時点で米軍が決断しても、中国の台湾侵攻を防ぐことができます。たとえば、仮中国軍が台湾にかなり上陸してしまったとしても手遅れにはなりません。封鎖してしまえば、補給ができなくなり、中国軍はお手上げになるからです。

そうして、これは比較的やりやすいです。なぜなら、同じ原潜でもSLBM原潜(核兵器搭載原潜)ではないので、核戦争を招く可能性は低いからです。それに、米軍は中国軍より、ASWでは格段に優勢なので、犠牲者もほとんど出ません。

それに、原潜を台湾近海に潜ませておけば、それだけで抑止力になります。中国海軍が、台湾侵攻の素振りをみせた場合、攻撃型原潜が何らかの形で威嚇をすれば、中国は台湾侵攻を思いとどまるかもしれません。

トランプ氏は、黒海に核武装した原潜を派遣せよと述べたことがありますが、これはアイディアとしては悪くはないですが、あまり実用的ではないと思います。

なぜなら、黒海に米原潜を派遣すれば、黒海艦隊は沈黙するでしょうし、ウクライナは穀物を輸出できるようになるかもしれませんが、軍事的にはロシア軍が黒海艦隊の行動を封じられたとしても、ロシアとウクライナは陸続きなので、ロシア軍の補給を絶つことはできません。

やはり、ウクライナと台湾では状況が全く異なります。米政権としては、このようなことを踏まえて、台湾有事が懸念された場合は、迅速に行動していただきたいものです。はやく行動することが台湾の安全保障により多く貢献することになります。

台湾が核兵器で完全破壊されてしまってから動くようでは、中国が台湾を軍事基地化することを防ぐことはできますが、国際的にかなり非難されることになるでしょう。アフガンの撤退で失敗し、ウクライナの安全保障で失敗し、台湾でも失敗と評価されることになるでしょう。

日本としても、中国との有事があった場合は、米国は日本が焦土と化してからでないと、米国は助けに来ないと判断せざるを得なくなるでしょう。米国の国際的な地位はかなり下がることになります。

中国軍が台湾に侵攻しようとし、それに米軍が対抗して攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、台湾近海の、すべての中国の艦艇は撃沈され、航空機も甚大な被害を受けることになるでしょう。

仮に台湾に、上陸部隊を送り込めたとしても、補給ができずに、陸上部隊はお手上げになりことになります。しかも、ASWに劣る中国軍はこれに有効に反撃する手立てはないのです。予想されるのは、ほとんど無傷の米軍と、壊滅的打撃を受ける中国軍です。

その後は、米潜水艦隊が国際的非難を受けることもなく、中国近海を遊弋し、中国海軍は港を一歩も出ることができなくなるでしょう。それどこころか、南シナ海を現在でも遊弋している米潜水艦隊は余勢をかって南シナ海の中国の軍事基地を吹き飛ばすことになるでしょう。

上記のような展開が予想されるからこそ、ヘインズ国家情報長官は、「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性を指摘したものと思います。

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2022年5月30日月曜日

コロナで時短「命令」必要?東京都VS飲食店判決を読む―【私の論評】日本の緊急事態宣言やマスクの本質は「自主規制」以外の何ものでもない(゚д゚)!

 コロナで時短「命令」必要?東京都VS飲食店判決を読む

グローバルダイニング「カフェ・ラ・ボエム麻布十番」

 都内を中心に飲食チェーンを展開しているグローバルダイニング社が東京都に対して、新型コロナウイルスによる営業時間短縮の命令が違法であるとして損害賠償を求めた訴訟について、2022年5月16日、都の対応に違法があると判断する判決が出された。

 東京都は、新型コロナによる緊急事態宣言下で飲食店に営業時間短縮を「要請」していたところ、グローバル社はこれに応じることなく、むしろ緊急事態宣言下でも平常通り営業することをウェブサイト上で宣言していた。

 これに対して東京都は、緊急事態宣言が解除される4日前になって、同社を含む6社に新型インフルエンザ等対策特別措置法(「特措法」)に基づく営業時間短縮の「命令」を発した。グローバル社はこの「命令」が違法であったとして訴訟を提起したものだ。

 グローバル社は都の「命令」が違法であると主張するにあたり、憲法違反の問題を含めていくつかの理由を挙げていた。そのひとつに、都による「命令」が出されたのが緊急事態宣言解除直前であることから、時短営業の要請に応じないことを宣言していた同社を狙い撃ち・見せしめにしたという主張が含まれる。

 判決は、結論として都の損害賠償責任は否定したが、他方でグローバル社に対する「命令」には違法があったと判断した。

営業時間短縮の「命令」は適切だったのか

 特措法は、新型コロナや新型インフルエンザなど法律で定める感染症が、全国的かつ急速な蔓延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼしていると判断される場合に、緊急事態宣言を発出して感染拡大防止に向けた措置を講じることを定めている。

 緊急事態宣言の対象となった都道府県の知事は、感染拡大防止のため、不特定多数が利用する一定の施設に対し、期間を定めて、使用制限等の措置を講ずるよう「要請」することができる。今回、都が飲食店に要請した営業時間短縮の要請は、この規定に基づいてなされたものだ。この段階の「要請」は、あくまでも要請であり、応じない場合であっても罰則等の適用はない。

 もっとも要請の対象となった飲食店等が「正当な理由がなく」要請に応じない場合には、都道府県知事は感染拡大防止等のため「特に必要があると認めるときに限り」、要請に応じることを命令することができる。この「命令」には強制力があり、従わない場合には罰則が課される。

 東京地裁は今回の判決で、時短営業の要請に応じなかったグローバル社に対して都が時短営業の「命令」を出したことについて、違法性があると判断した。

 特措法の「命令」は、単に飲食店が「要請」に応じなかったというだけでは出すことができない。「命令」を出すには、(1)要請に応じないことに正当な理由があることに加え、(2)感染拡大防止等のため特に必要があると認められることが必要だ。

合理的な説明はなされていない

 このうち(1)「正当な理由」について、グローバル社は、要請に応じた場合の補償の仕組みが著しく不十分であり、漫然と要請に応じた場合に経営に支障がきたされるので、要請に応じないことに正当な理由があると主張していた。

 しかし判決は、特措法上、事業者に対する支援が予定されており、対象期間も一時的であることなどからすると、経営状況等は「正当な理由」にはならないと判断した。飲食店ごとの経営状況を考慮すると、要請の目的の達成に支障を来すというものだ。

 他方で判決は、都による命令に(2)「特に必要があると認められること」を否定し、都の対応に違法があると判断した。グローバル社が換気の強化や消毒、検温などの感染防止対策を行っていたことを前提に、緊急事態宣言の解除まで残り4日という中であえて命令を出すことについて合理的な説明がないというものである。

 なお、判決は、都の対応に違法があったとしながらも、損害賠償責任は認めなかった。特措法に基づく命令が出されたのは今回が初めてのことであり、前例がないため、適切な判断できなかったというのがその理由だ。

 新型コロナの感染拡大はこれまで社会が直面したことのない問題であり、国や自治体には難しいかじ取りを求められた。特措法に基づく「命令」の制度も新型コロナの問題が起きてから行われた法改正によるもので、都にも試行錯誤があったことは否めない。

 とはいえ、緊急事態宣言の解除まで残り4日の時点で、敢えて命令に踏み切った都の姿勢は、見せしめ的な目的があると受け止められても仕方がないだろう。

 判決は、都が狙い撃ちや見せしめの目的で命令を出したとまでは認めがたいとするものの、命令に必要性がないと判断する理由の一つに、営業時短の要請に従っていない店舗が2000店舗以上ある中で、グローバル社の店舗を含む6店舗に対してしか命令が出されていないことは不公平であることを挙げている。

経営状況を考慮しないでよいのか

 判決は、経営状況等は原則として要請に応じないことの正当な理由にならないと判断した。飲食店にとって時短営業による売上減は死活問題だ。自主的な協力を建前とする「要請」に応じるうえで、経営状況の問題が正当な理由にならないというのは、一抹の疑問が残る。

 この点について、特措法の改正に際して見解を表明した内閣官房は、経営状況等は「正当な理由」にならないとしたうえで、正当な理由がある例として「地域の飲食店が休業等した場合、近隣に食料品店が立地していないなど他に代替手段もなく、地域の住民が生活を維持していくことが困難となる場合」を挙げる。しかし、地域の食生活の問題は行政が解決すべき課題であり、個々の飲食店が自主的な判断で解決する問題ではないだろう。

 感染症の拡大という社会全体の問題に対処するため、一部の業界に不利益を求めるのであれば、そのコストは公的資金による支援金などの形で、社会全体で負担するのが本来の姿のはずだ。

 いずれにせよ、場当たり的な対応は、経済活動を疲弊させた挙句、感染拡大防止も不十分な結果に終わったということになりかねない。

 今回の判決は、残り4日のみの営業時短命令という場当たり的とも思える措置に対して警鐘を促した格好になるが、飲食店に不利益を求める以上、明確な方針に基づく措置が必要だろう。そうしなければ、〝新常態〟という中での起業の新たな挑戦の芽も摘みかねない。

河本秀介

【私の論評】日本の緊急事態宣言やマスクの本質は「自主規制」以外の何ものでもない(゚д゚)!

高橋洋一氏は、今回の判決の対して、以下のような論評をしています。


日本の緊急事態宣言といっても、欧米から見れば、戒厳令でもなく行動制限は弱いです。日本の緊急時での法規制は心許ないです。その根本原因は、普通の国なら当然存在する「戒厳令」が日本には存在しないことです。「戒厳令」は私権を制限するものですから、上で高橋洋一氏も述べているように、憲法上の規定である緊急事態条項がないとその根拠となる法律を作れないのです。

そもそ新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)は、かなり腰の引けた法律です。正々堂々と私権制限が出来ないので、「に必要があると認めるときに限り」といった制限が付いています。

東京都としては、飲食で事実上規制下にあり、やりやすい業種で命令を出したのでしょう。それでも違憲にはかろうじてならなかったのですが、特措法の基づく命令が違法とされたので、今後命令を出しにくくなったのは事実です。緊急事態条項を設ける憲法改正と、それに基づく私権制限を、平時においてまともに議論しないといけなったともいえます。

私権制限といえるかどうかはやや疑問なしとはしないが、「マスク問題」も、しっかりしたルールがないことに混乱の一因があると考えられます。

6月1日から、入国者数について1日上限を1万人から2万に引き上げます。また、6月10日から団体ツアーに限り、98の国と地域からの観光客の受け入れを再開します。

これについて、岸田首相は5月27日の衆院予算委員会で、外国人観光客については旅行会社などを通じてマスク着用の徹底を求め、ビジネス関係者や留学生に関しても、受け入れ先の企業などに「日本のルールに従う」ように促すとしました。

そもそもマスクについて、政府が「推奨する」としたのは、2年前の2020年5月からです。海外ではマスク着用は法的義務となっていたところが多いですが、日本では法的根拠がなく、あくまで政府推奨、つまり「お願い」ベースです。しかも海外では、マスク着用の義務は現在は解除されているところがほとんどです。

いずれにしても、日本でマスク着用するかしないかは個人の判断です。それが、いつの間にか社会の「ルール」になっているのは、違和感があります。国会で首相が「ルール」というからには、その根拠を質問しないといけないところだと思うのですが、27日のやりとりを見る限り、その形跡はありません。

外国人観光客については、国交省が許認可を握っている旅行会社が政府の意向を代行するが、旅行会社はマスク着用に「努めた」という形を取るでしょう。その他のビジネス関係者や留学生に関しても、受け入れ先の企業がやはり「努めた」という形でしょうが、旅行会社よりも緩い形になるでしょう。法的根拠もないのに「お願い」しても、外国人にどこまで通用するのか。「お願い」する人も大変です。

こんな姿も過去のものになるのか・・・・・・

今年はすでに全国的に5月だというのに、すでに30度を超えたところが続出しています。暑い夏を控えて、日本でのマスク着用には限界も来ています。現時点でも、外でマスクをしない日本人は増えています。

にもかかわらず、今でも厚生労働者は子どもたちへのマスクの「推奨」をしています。

こうした「推奨」が政治主導で決まり、マスコミ報道ではそれをあたかも社会的な「ルール」のように報道しているが、あくまで、時と場合に応じて個人が判断すべき事柄です。

給食を前に、マスクをしたまま手を合わせる子どもたち

要するに、日本の「ルール」とは、「時と場合」で自ら判断してもいいといえば、外国人にも納得できるはずだ。「自粛」を英語で言うと、”voluntary restraint(直訳:自主規制)”となるので、それと同じと言えば良いでしょう。

今回の判決は、それを明確にしたともいえます。

憲法に緊急事態条項がないと不都合が起こることは、コロナの感染症だけではありません。阪神・淡路大震災や東日本大震災の時にも不都合が生じていました。

いちばん大きかったのは財産権の問題でしょう。例えば、津波でクルマが流されてきた。しかし、所有者が分からないので撤去できない、ということがありました。ご遺体の処置に困ることもありました。ご家族の元に届けることができればよいのですが、破損が激しいとどなたか特定できない場合があります。

ただ、災害対策基本法が「災害緊急事態」を定めているので、それで十分という議論もあります。例えば、特に不足している生活必需物資を配給にするためや、国民生活の安定に必要な物の価格を統制するため、政令を定める権限を内閣に与えています。

しかし法律で決められていることは、それに従えばよいでしょう。しかし、すべての事態を想定して法律を事前に整備することはできません。既存の法律で対処できない時に、国民の生命、身体及び財産を保護する目的で、政府に権限を与えるのが緊急事態条項ともいえます。

緊急事態条項がないと、政府は、法律のないまま、国民の生命、身体及び財産を保護する措置を講じなければなりません。何もしなければ憲法13条が定める国の義務を果たさないことになります。法令上の根拠のない措置は超法規的、超憲法的な措置になってしまう。緊急事態条項は憲法秩序を守るための手段でもあるのです。

ちなみに憲法13条は以下のようなものです。
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
ただ緊急事態条項があっても、それに基づいて、様々な法律を制定する必要があります。どんな法律でも、それを定めるには時間がかかります。緊急事態条項は迅速に対応することを重視しています。もし衆議院や参議院がそれぞれ、あるいは同時に選挙期間中にある時に緊急事態が生じた場合、国会として何らの対応もとれません。

やはり緊急事態条項を定めておいて、法律を迅速に定めておく必要があります。

なお、憲法に緊急事態条項を定めて、それにもとづき様々な法律を定めれば、政府の権限が強くなりすぎてとんでないことになるのではと心配するむきもありますが、別な方向からいえば、緊急事態条項がないと恐ろしいことになりかねません。

大津波で流された車両の処分はどうするのか?

緊急事態条項に基づく法律もなければ、それでも政府や地方自治体が必要に迫られ、自然災害や伝染病が発生したときに、法律もないのに、曖昧なままで、なし崩し的に様々な「ルール」を適用するのが当たり前になってしまうかもしれません。そうなると、恣意的に何でもできるような状況になりかねません。こちらも本当に恐ろしいです。

このような恐ろしさもありますし、緊急事態条項がなくて法律も整備されていなけれは、政府は何をするにしても国民などにお願いするしかなくなります。これでは、国民の生命や財産を守ることは難しいです。

日本でも、憲法に緊急事態条項を定め、法律も整備して緊急事態に対処できるようにすべきです。今回の裁判は、このように重要な問題を提起しているともいえます。

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