プーチン大統領に〝逃げ場なし〟ウクライナの最新ドローンがモスクワを急襲も 「ロシア側は対抗できない」元陸上自衛隊・渡部悦和氏
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ソ連製の偵察用無人機「ツポレフ141」 |
ロシア国内の空軍基地への長距離無人機(ドローン)攻撃で、戦争は新局面を迎えた。ウクライナに残された旧ソ連時代の無人機が使われたとの見方のほか、ウクライナ製最新兵器の可能性を指摘する専門家もいる。いずれにせよ、ロシアの防空網の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈し、首都モスクワのクレムリン(大統領府)も標的となり得ることが明らかになった。ウラジーミル・プーチン大統領に逃げ場はなくなりつつあるのか。
無人機攻撃を受けたのは、モスクワ南東リャザニ州のジャギレボ空軍基地と、南部サラトフ州のエンゲリス空軍基地。核兵器搭載可能な「ツポレフ160」や、「ツポレフ95」など主力長距離戦略爆撃機が配備されている重要拠点で、それぞれウクライナ国境から約500キロ離れている。
ロシア国防省は、ウクライナからのソ連製無人機による攻撃と発表した。同国の軍事専門家は、1970年代に偵察用として開発された無人機「ツポレフ141」との見方を示す。航続距離は約1000キロで約150機生産され、ソ連崩壊後は大半がウクライナ領内に残されたという。
一方、ウクライナでは国営の軍需企業、ウクロボロンポルムが航続距離1000キロ、搭載量75キロの新型攻撃用無人機のテストに成功したと地元メディア、ウクルインフォルム通信が伝えた。
半世紀前と最新の無人機、使われたのはどちらか。元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、「両方の可能性が考えられる」としたうえで、こう解説する。
「ツポレフ141だとすると、航続距離では到達可能だが、GPS(全地球測位システム)のない時代に開発されたものなので、攻撃の正確性からみると、GPSを付けて飛ばした可能性もある。ウクライナ製だとすると、最新の誘導装置を使った可能性もあるほか、ウクライナの特殊部隊が誘導に関わったとの情報もある。いずれにせよ、ウクライナ製無人機は今後、威力を発揮するだろう。1000キロの航続距離を持つ無人機を保有するのはほかに米国と中国ぐらいとみられ、ロシア側には対抗できる無人機はない」
ロシア側にとっては、空軍基地にやすやすと攻撃を許した防空網の手薄さも重大問題だ。
渡部氏は「ロシア側の防空システムは通常、近距離の対空機関砲から中距離、長距離の『S300』などの対空ミサイルによって重層的に構築される。領内への攻撃を油断して24時間体制の警戒ができていないか、戦力が不足している可能性もある」と分析する。
無人機攻撃について米国は、アントニー・ブリンケン国務長官が「ウクライナにロシア国内への攻撃を促してもいない」とする一方、ロイド・オースティン国防長官が「ウクライナ自らの能力を高めるのは妨げない」と攻撃兵器開発を容認する姿勢を示した。
ウクライナの政府顧問は、遠隔攻撃を「繰り返し行える。距離に制限なく、近くシベリアを含むあらゆるロシア内部の標的を攻撃できるようになる」とし、「ロシアに安全地帯はなくなるだろう」と警告している。
ウクライナの首都キーウから750キロ程度の距離しかないモスクワも標的となるのか。
前出の渡部氏は「ウクライナ製の無人機は理論上、モスクワも攻撃することができるが、ロシア側の戦術核使用を招きかねないなど過激なメッセージになる面もある。米国が今回、攻撃を是認したのは国際法にも合致しているからに過ぎない。ウクライナは軍事目標のみの攻撃を貫くべきだ」と述べた。
【私の論評】ウクライナが、今回の攻撃を実施してもほとんどの国が反対しない理由とは(゚д゚)!
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ウクライナのクレバ外相 |
ウクライナのクレバ外相は8日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版のインタビューで「ロシアがウクライナで何をしてもよい一方で、ウクライナには同様の権利がないという考え方は道義的にも軍事的にも誤りだ」と述べ、ウクライナ軍はロシア領内を攻撃する権利があると主張した。
ロシア内陸の空軍基地に対する最近のドローン(無人機)攻撃への自国の関与を示唆した発言とみられる。
クレバ氏はまた、ロシアが2014年に併合した南部クリミア半島については国際的に認められた「他のウクライナ領と同じだ」と述べ、米国が供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」などをロシア領内への攻撃に使用しないとする原則は、クリミア半島への攻撃には適用されないとの認識を示した。
クレバ氏はウクライナが国の存続と領土保全のために戦っていると強調。「ロシアが崩壊したら世界が崩壊するとは思わない」と、ウクライナへの支援に当たってロシアへの配慮は不要だと訴えた。
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ドイツ政府のホフマン第一副報道官 |
ドイツ政府のホフマン第一副報道官は9日、ウクライナへの脅威の源泉となっているロシア領内の軍事施設は、ウクライナ軍にとっての合法的な攻撃対象だと発言しました。
ホフマン第一副報道官が記者会見時に発言した。ウクルインフォルムの特派員が伝えました。
ホフマン氏は、「連邦政府は、ウクライナが行っていることは合法的だとみなしている。(中略)ウクライナは自国の領土一体性を守っているのであり、自らの攻撃によりロシア領から自国領へのあり得る攻撃を防いでいるのである」と発言しました。
同氏はまた、「ウクライナはロシアの侵略に対する防衛努力を実行する際に(その努力を)自国領に限定する義務を追っておらず、それを自国領土外でも行う権利を有している」とする独政府の見解を示し、さらに国連憲章第51条が自衛権を定めており、ウクライナは侵略を受けた国家であると指摘しました。
そして同氏は、ドイツ政府の見解では、ウクライナが行っていることは全て、ロシアの侵略への対応であると強調しました。
ウクライナ軍はロシア領内を攻撃する権利があるというウクライナのクレバ外相の発言、ドイツ政府のホフマン第一報道官の、ウクライナが行っていることは全て、ロシアの侵略への対応であるという発言の根拠はもちろん国際法だと考えられます。
国際法には戦争そのものを禁止する条約や慣習国際法が存在しますが、20 世紀に入ってから発展しました。始まりは1919 年に採択された国際連盟規約です。同規約は、国家間で紛争が生じた場合、平和的に解決することを締約国に義務付けます。
しかし、平和的に解決できなかった場合は戦争に訴えて紛争を解決することを禁止していませんでした。その後、1928 年に採択された不戦条約も戦争の違法化を追求しましたが、ここでも戦争の禁止は不完全に終わります。
国際法で戦争の完全禁止、違法化が達成されたのは第二次世界大戦後です。1945 年に国際連合の設立根拠として採択された国連憲章は、「武力による威嚇又は武力の行使」を禁止しています。これは「武力不行使原則」といって、世界中の国が遵守すべき慣習国際法としても成立しています。日本もそうです。素直に読めば、憲法9条は、国連憲章のコピーと言っても良い内容です。
ただし、武力不行使の原則が確立しているにもかかわらず、往々にして戦争が勃発してしまうことは歴史が証明しているとおりです。戦争そのものを禁止する国際法とは別に、そのひとたび発生した戦争において交戦国間の敵対行為を規制する国際法も存在します。
それが、武力紛争法で、19 世紀後半頃から発展しました。捕虜や文民等の戦争犠牲者の保護に関するもの(ジュネーブ諸条約)や、兵器等の戦闘手段・方法を規制するもの(対人地雷禁止条約、クラスター弾条約)等があります。武力紛争法は、
国際人道法と呼ばれることもあります。
国連憲章のように戦争を禁止する国際法が存在していてもそれに違反する国が出てくる以上、ルールを守らせる仕組みが必要です。現代の国際社会では、武力不行使原則に違反した国が生じた場合、国連を通じた集団安全保障体制のもとでそれが予定されています。
ある国の武力行使を国連の安全保障理事会が平和に対する脅威だと認定した場合、安保理は平和を回復するために軍事的措置を含む必要な措置をとることを決定し、その後国連加盟国が集団で対応します。
しかしその決定には安保理常任理事国である中国・フランス・ロシア・英国・米国の同意が必要で、一カ国でも反対すれば決定はなされません。いわゆる拒否権の問題です。
1990 年にイラクがクウェートに侵攻して湾岸戦争が起きた際は、拒否権を行使する常任理事国がなかったため、国連の集団安全保障体制が機能しました。安保理の決定に基づき多国籍軍が展開した結果、イラクはクウェートから撤退しました。
今般問題となっているロシアのウクライナ侵攻は武力不行使原則に違反している可能性が極めて高いので、国連の集団安全保障体制が機能することが期待されます。しかし、安保理常任理事国であるロシアが拒否権を持っているため国連は行動を起こすことができず、機能不全に陥っている状態です。
なお、安保理が機能しない場合でも、国際法上ウクライナには個別的及び集団的自衛権が認められていますので、一定の要件の下でウクライナはロシアに対して武力による自衛のための措置をとることができると考えられます。
しかし、軍事力で劣るウクライナがロシアに単独で個別的自衛権を行使することは難しいと思われていたのが、今回はじめてウクライナがロシア領内の軍事目標に対して、大々的な攻撃を行ったのです。
そうして、この攻撃は国際法に合致した形で行われた模様です。今後このような攻撃が続けば、ロシアも安閑とはしていられなくなります。
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今回の攻撃で破壊されたとみられるロシアの戦略爆撃機の尾翼 |
国連には、国際法に基づく裁判で国家間の紛争を平和的に解決することを任務とする国際司法裁判所(ICJ)が存在しますので、ウクライナ問題を司法の場で解決する方法も考えられます。しかし、ICJ の管轄権は紛争当事国双方による同意を基礎としているため、ロシアが同意しなければICJ は管轄権を行使することができません。
今年2 月にウクライナはロシアをICJ に提訴し、これを受けてICJ はロシアに対して軍事行動を停止する旨の仮保全措置命令を発出しましたが、ロシアはICJの管轄権を否定しているため、ICJ を通じた紛争解決の可能性も低いといえます。
戦争犯罪の責任者を裁いて国際の平和を回復する方法もあります。国際刑事裁判所(ICC)規程に基づき設立されたICC は、戦争犯罪等4 つの犯罪について管轄権を持ちます。ロシア軍によるウクライナの文民殺害や学校等民用物の破壊行為は戦争犯罪の構成要件に該当する可能性が高いといわれています。
仮に該当した場合、実際の犯罪行為者だけではなく、犯罪行為者を指揮する立場の者も刑事上の責任を問われることになりますので、ICC はプーチン大統領に逮捕状を出すことが可能かと思われます。しかし、ICC の捜査官がプーチン大統領の身柄を拘束するためにはロシアに入国する必要があります。ロシアがこれを許可することは考えられませんので、結局ICC で戦争犯罪の責任を追及することも難しいでしょう。
国連の集団安全保障体制の実効性が安保理常任理事国の同意に左右されること、そして国際司法の手続が関係国の同意にかかっていることに鑑みると、国際機関を通じた紛争の解決に過度に期待を寄せることはできません。
残念ですが、これが国際制度の現状で、ウクライナ問題を直ちに解決する術は存在しません。一方で、今年の3 月2 日に、国連総会でロシアを非難しウクライナからの撤退を要請する決議が採択されたことは希望ともいえます。
総会の決議に法的拘束力はないとはいえ、国連加盟国193 カ国中141 カ国が決議に賛成したという事実はロシアも無視できないでしょう。この国際的な民意はロシアの国際法の遵守にもつながりうると思います。
ロシアに否を突きつける国際世論の形成は、国の行動を決めることができる世界中の有権者の意思にかかっています。日本にいる私たちもその当事者であることを忘れるべきではありません。
さらに、軍事力で劣るウクライナがロシアに単独で個別的自衛権を行使することは難しいとみられていたものが、ウクライナは独自の方法でこれを行使することに成功したのです。
考えてみると、ウクライナはソ連の一部であったときには、兵器工場もあり、ロシアの兵器工場と、ウクライナの工場が戦車の開発競争を行ったという記録もありますし、ソ連の宇宙開発の一端を担っていたという事実もあります。
ウクライナは中国への軍事技術の提供を行い、中国の軍事技術の基礎を築いたという実績もあります。
ウクライナは発展途上国ではありますが、他の発展途上国とは異なり、ITも含む多くの産業基盤が存在しており、技術水準も高く、教育水準も高いです。そのため、戦争が始まる前には、中国人学生の手頃な留学先になっていたくらいです。
そうしたウクライナが、自前の技術力を駆使して、個別的自衛権を行使するのは、ある意味必然だったといえるでしょう。そうして、これに対してはウクライナが国際法を守った個別自衛権の行使をしている限り、いかなる国もこれに対して反対できません。
だから、ドイツはもとより、米国や西側諸国もこの個別的自衛権の行使に反対しないのです。
これに対して、ロシアが核攻撃や生物化学兵器を使用する危険が高まったとする見方もありますが、そのようなことをすれば、ロシアの国際的な地位はますます下がり、プーチンは窮地に追い込まれるでしょう。
それよりも、何よりも、ウクライナはロシアによる核攻撃や生物化学兵器の使用、特に核攻撃を未然に阻止するためもあって、ロシアの
戦略爆撃機が存在する航空基地への今回の攻撃を行ったのでしょう。
今後ロシアが核兵器、生物化学兵器を用いる兆候があれば、ウクライナはこれを全力で阻止するでしょう。その警告の意味も含めて行ったのが、今回の攻撃だったと考えられます。
もう、2014年当時の軍事的に弱いウクライナは存在しないのです。元々腐敗まみれで、混乱しており、ロシアが少し脅せば、すぐに音を上げてしまうウクライナは、今や持てる技術力を最大限に生かして、ロシア国内を攻撃する強敵に変貌したのです。そうして、そうさせたのは他ならぬロシアです。
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