2022年12月17日土曜日

日本「反撃能力保有」に〝中国震撼〟 空母「遼寧」など艦艇6隻で威嚇 安保3文書を閣議決定、岸田首相「防衛力を抜本強化」 米国は高く評価―【私の論評】中共最大の脅威は、海自潜水艦が長距離ミサイルを発射できるようになること(゚д゚)!

日本「反撃能力保有」に〝中国震撼〟 空母「遼寧」など艦艇6隻で威嚇 安保3文書を閣議決定、岸田首相「防衛力を抜本強化」 米国は高く評価

たな国家安全保障戦略など「安保3文書」を決定し会見する岸田文雄首相=16日午後、首相官邸

 岸田文雄首相は16日夜、国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定したことを受け、首相官邸で記者会見した。3文書は、敵ミサイル拠点などへの打撃力を持つことで攻撃を躊躇(ちゅうちょ)させる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記するなど、戦後の安保政策を大きく転換する内容となった。「増税ありきの財源論」や「首相の説明不足」などへの批判もあるが、日本を取り巻く安全保障環境の悪化を受けた「防衛力強化」は避けられない。同盟国・米国などが高く評価する一方、中国は反発したのか空母「遼寧」など艦艇6隻を沖縄周辺に送り込んできた。


 「わが国の周辺国、地域において、核・ミサイル能力の強化、あるいは急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みなどの動きが一層、顕著になっている」「現在の自衛隊の能力で、わが国に対する脅威を抑止できるか」「率直に申し上げて、現状は十分ではない」「私は首相として国民の命、暮らし、事業を守るために、防衛力を抜本強化していく」

 岸田首相は注目の記者会見で、こう決意を語った。

 「安保3文書」は、日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」との認識を示したうえで、中国や北朝鮮を念頭に「力による一方的な現状変更の圧力が高まっている」と指摘した。

 共産党一党独裁のもと、軍事的覇権拡大を進める中国の動向を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記した。

 「反撃能力」保有をはじめとする「防衛力強化の重要性」を訴え、一連の施策が「安全保障政策を実践面から大きく転換する」とも強調した。

 具体的には、米国製巡航ミサイル「トマホーク」など、複数の長射程ミサイルを順次配備する。宇宙・サイバー・電磁波などの新たな領域と陸海空を有機的に融合する「多次元統合防衛力」を構築する。

 自衛隊では長く予算不足を強いられてきたため、弾薬・誘導弾が必要数量に足りていないうえ、戦闘機などが、他の機体から部品を外して転用する「共食い修理」が続けられてきた。今回、こうした状況も解消する。

 来年度から5年間の防衛力整備経費を約43兆円と定め、インフラ整備など防衛力を補完する予算を含め、2027年度に「対GDP(国内総生産)比2%」に達することを目指すとした。

 防衛費の財源については、安倍晋三元首相が日本経済への打撃を考慮して提示していた「防衛国債」を排除し、財務省の筋書きなのか「増税」方針を強行する構えだ。防衛力には力強い経済が不可欠であり、自民党安倍派を中心に反発は続いている。それを意識したのか、次のようにも語った。

 「安倍政権において成立した安全保障関連法によって、いかなる事態においても切れ目なく対応できる態勢がすでに法律的、あるいは理論的に整っているが、今回、新たな3文書を取りまとめることで、実践面からも安全保障体制を強化することとなる」

 日本の決意と覚悟が込められた「安保3文書」を、米国は歓迎した。

 ジョー・バイデン米大統領は16日、ツイッターに「(日米同盟は)自由で開かれたインド太平洋の礎石であり、日本の貢献を歓迎する」と投稿した。ジェイク・サリバン大統領補佐官も同日、「日本は歴史的な一歩を踏み出した」とする声明を発表した。

 渡部悦和氏が懸念「いまだに非核三原則」

 一方、中国外務省の汪文斌報道官は16日の記者会見で、「中国への中傷に断固として反対する」「アジア近隣国の安保上の懸念を尊重し、軍事、安保分野で言動を慎むよう改めて促す」などと語った。自国の異常な軍備増強を棚に上げた暴言というしかない。

 さらに、中国海軍の空母「遼寧」と、ミサイル駆逐艦3隻、フリゲート艦1隻、高速戦闘支援艦1隻の計6隻の艦艇が16日、沖縄本島と宮古島の間を南下して東シナ海から太平洋に航行した。防衛省統合幕僚監部が同日発表した。「安保3文書」への軍事的威嚇のようだ。

 今回の「安保3文書」をどう見るか。

 元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「画期的な内容だ。NATO(北大西洋条約機構)並みの『防衛費のGDP比2%』の目標を明記したことで、実質的に防衛戦略の大転換となった。『反撃能力』も明記し、長射程ミサイルの順次配備など具体的整備と予算を確保したことも大きな前進だ」と評価する。

 ただ、懸念される点もあるという。

 渡部氏は「ロシアのウクライナ侵攻では『核抑止』が重要なポイントと認識されたが、いまだに『非核三原則を維持』という。『専守防衛の堅持』も(日本の国土が戦場になることを意味するが)、長年の抑制的な安全保障政策の根本を変えられなかった。防衛費増額の財源も『国債発行』が通常の考え方だと思う。増税では日本経済の成長を抑制する。経済と安全保障は一体不可分であるはずだ」と語った。

 大きな決断をした岸田首相だが、問題は山積している。

【私の論評】中共最大の脅威は、海自潜水艦が長距離ミサイルを発射できるようになること(゚д゚)!

中国は、日本の安全保障関連3文書の改定について「中国の脅威を軍拡の言い訳にしている」と強く反発しています。こうした強い反発があるということは、中国がこれを脅威に感じているということであり、日本にとっては、そもそもの狙い通りといえます。

日本の防衛力増強に警戒心を強めており、日本周辺での軍事活動をこれまで以上に積極的に行っていく可能性があります。 

隣国の日本が「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を保有し、中国軍の射程圏外から攻撃できるスタンド・オフ・ミサイルの配備を進めれば、中国は間違いなく、有事の際に不都合が生じます。台湾統一をにらんだ動きにも、一定の影響が出ます。 

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)は社説で、日本の反撃能力に関して「自衛隊の対外攻撃能力を高める」と警戒をあらわにしました。「中国を脅威と見なせば(そうでないのに)本当に脅威となってしまう」と警告。その上で「中国の総合的な実力は今や日本を超えている」と自信も示してみせました。

中国外務省の汪文斌副報道局長は「訳もなく中国の顔に泥を塗ることに断固反対する」と表明。「中国の脅威を誇張して自らの軍拡の言い訳とするたくらみは思い通りにならない」と反発しました。 


中国にとっての最大の脅威は、自衛隊が運用する12式地対艦誘導弾の射程を伸ばすほか、新たに開発する高速滑空弾を量産、米製巡航ミサイルのトマホークなどを取得します。いずれも2027年度までに配備することでしょう。

その中でも、ミサイルを地上や護衛艦にだけでなく、自衛隊機や特に潜水艦への搭載することが最大の脅威でしょう。

このブログの読者であればもうおわかりでしょう。

海自の潜水艦にはSLBMが装備されておらず、無論これを発射する発射装置も搭載されていません。そのため、海自の潜水艦から発射できるのは、ハープーンなどの対艦ミサイル等に限られていました。

現在大半の海自の護衛艦や潜水艦に搭載されているハープーン対艦ミサイルは、米国製です。このミサイルは、本来は航空機搭載用でしたが、ブースターロケットを追加することで水上艦艇や潜水艦からも発射可能になりました。

潜水艦から発射する際には、魚雷発射管からカプセルに入れられたものを発射、水面に到達してからロケットに点火する方式になっています。

発射されたミサイルは慣性誘導方式(加速計による飛行経路算定とジャイロによる姿勢制御)で目標まで飛行しますが、目標命中直前にはアクティブレーダーホーミング式に切り替わり確実に敵艦めがけて突入するようになっています。

ただ、魚雷発射管から発射するミサイルであり、重量は  690kg、射程距離 約124kmに過ぎません。

米製巡航ミサイルのトマホーク等を潜水艦から発射するためには、SLBMが発射できる発射装置が必要です。あるいは、米国大型原潜に匹敵するほどの魚雷発射管が必要です。

ということは、日本は従来型の潜水艦に加えて、トマホーク発射可能な潜水艦を新しく建造するということを意味します。

読売新聞は、10月29日に、政府は、自衛目的でミサイル発射拠点などを破壊する反撃能力の保有を目指していると報道しています。その手段となる地上目標を攻撃可能な長射程ミサイルは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」の改良型やトマホークを主力に据える方向としています。

発射機材は、車両や水上艦、航空機を念頭に置いてきたそうですが、配備地などを探知されかねません。相手に反撃を警戒させ、抑止力を高めるには、より秘匿性の高い潜水艦を選択肢に加える必要があると判断したそうです。


実験艦は2024年度にも設計に着手し、数年かけて建造する計画です。ミサイル発射方式は、胴体からの垂直発射と、魚雷と同様の水平方向への発射の両案を検討するそうです。実験艦の試験を踏まえ、10年以内に実用艦の導入を最終判断します。

このブログも以前から掲載しているように、現在艦艇には二種類しかありません。水上に浮く海上艦艇と、海面下を航行する、潜水艦です。

海上艦艇は、空母であろうが、何であろうが、今やミサイルの標的に過ぎません。しかし、潜水艦はミサイルで攻撃することはできません。そのため、現在の海戦における主役は潜水艦です。

よって、潜水艦の能力がより高く、対潜哨戒能力がより高いほうが、海戦能力が高いということになります。潜水艦、航空機、海上艦艇等の能力も含めて総合的に対潜水艦戦闘力(ASW:Anti Submarine Warfare)が強いほうが、海戦能力が高いことになります。

ASWに関しては、米国も日本も中国よりはるかに能力が高いです。日本の場合は、対潜哨戒能力、潜水艦のステルス性に優れています。中国海軍はこれを発見するのは難しいです。米国の場合は、対潜哨戒能力、攻撃型原潜の攻撃能力が優れています。

優れているどころか、米国の攻撃型原潜は海中に潜むあらゆる武器を装備した巨大な格納庫のある海中基地といっても良いほどです。かつて、トランプ氏は大統領だったときに、これを「水中の空母」と評していました。

日本も米国も海戦能力では中国をはるかに上回っています。日本は、ステルス性においては、中国海軍が探知するのが難しい潜水艦をすでに22隻配備しています。中国が尖閣諸島に侵攻しようとしても、日本が尖閣諸島を数隻の潜水艦で包囲すれば、そもそもこれに近づくことすらできません。

近づけは撃沈されるだけです。まかり間違って人民解放軍を尖閣諸島に上陸させたにしても、潜水艦で包囲されれば、補給ができず、上陸した人民解放軍はお手上げになってしまいます

台湾有事などでは、米軍が大型攻撃型原潜を台湾近海に3隻も派遣すれば、これに十分対処できます。最初に、米攻撃型原潜は、中国の監視衛星の地上施設とレーダー基地を破壊し、中国軍の目を見えなくして、その後、中国の台湾に近づく艦艇のほぼすべて撃沈することになるでしょう。

このように潜水艦を用いれば、尖閣有事も、台湾有事もさほど難しいこともなく十分に日米とも対処できます。

ただ、日米ともに尖閣有事や、台湾有事のシミレーションにおいては、なぜか潜水艦が登場することはありません。これに疑問を感じる方は、是非ご自分で調べてください。ほとんどの場合、潜水艦は登場しません。登場するのは例外中の例外です。

なぜかというと、潜水艦が登場しなければ、中国海軍はかなりの攻撃ができ、米軍ですら危うくなるのですが、潜水艦が登場した途端に、戦況は明らかに変わり、圧倒的に日米に有利になるからとみられます。

そうなると、台湾有事なども何の心配もないということになり、世間の目を惹き付けることができなくなるどころか、予算の配分も難しくなります。それと、日本では、いわゆる中国配慮というものがあると思われます。

海戦では圧倒的に日本が有利であると発表しようものなら、中国様がお怒りなるので、それはなかなかできないのでしょう。

ただ、仮に海戦能力が低いにしても、中国はミサイルなど台湾や日本を簡単に大破壊する能力はあります。だから、これに対する警戒は怠ってはならないです。ただ、中国がいとも簡単に、台湾や尖閣諸島に侵攻できると思い込むのは明らかな間違いです。侵攻と破壊は違います。侵攻はかなり難しいですが、破壊は簡単です。

これは、ロシアがウクライナ侵攻が簡単であると過信して、ウクライナに侵攻して大苦戦しているのと同じように、戦争を誘発する恐れがあります。侵攻は難しいですが、ロシアはウクライナのあらゆる都市を破壊しています。

少し話がずれてしまいましたので、話を元に戻します。

今でも本当は、海戦能力に圧倒的に中国より優れた日本が、今度は潜水艦にトマホークなども装備できるようにするというのですから、これは中国にとっては大きな脅威です。

今までは、中国は日本に侵攻しようとすれば、海戦能力に劣るため、日本の潜水艦に阻まれて、これは不可能でした。しかし、中国はミサイルで日本を破壊することはできます。無論、ミサイルには核も搭載できます。これで、日本を脅すことはできました。

しかし、日本が反撃能力を持つことになれば、中国は日本の航空機や艦艇などは発見できこれに対応するのは可能ですが、日本は中国が発見しにくい潜水艦搭載のミサイルで中国の監視衛星の地上施設や、レーダー基地、ミサイル基地等を叩くことができますし、場合によっては、三峡ダムなどの中国のウィークポイントを叩くこともできます。ちなみに、三峡ダムが破壊されると、中国の国土の40%が洪水に見舞われるといわれています。


仮に、日本が中国に核攻撃を受けたにしても、日本の潜水艦隊は海中に逃げ、トマホークなどにより、中国の軍事重要拠点やウイークポイントを攻撃することになるでしょう。これは、日本が限りなく戦略的な攻撃手段を持つことになります。

日本が核で攻撃されたということになれば、日本も中国に対して遠慮はせずに、攻撃することになります。しかも、日本の潜水艦が米国の攻撃型原潜のような原潜であれば、燃料を補給せずとも、水や食料がつきるまで潜航できますが、日本の潜水艦には動力にも限りがあり、それが尽きる前に全面攻撃することになるでしょう。攻撃できる目標すべてに対して、短期間に集中して全面攻撃ということになるでしょう。

もちろん、これは仮定の話ですが、今までは日本は中国から核攻撃されても、反撃は生き残った潜水艦が、比較的近くの艦艇などを撃沈できるだけでしたが、今後は中国奥地の目標物まで攻撃できるようになるということです。

これは、大変革であり、中露北には大きな脅威になります。

ただ潜水艦というキーワードをもっと日本国民にわかりやすく伝えるべきだと思います。そのためには、尖閣付近の中国の艦艇の鼻先で、潜水艦や対潜哨戒機、艦艇により数隻の模擬艦艇を撃沈してみせて、その意味あいを国民に平易に説明するとか、トマホークが発射可能の潜水艦ができれば、それの発射実験で、たとえば、日本海に潜んだ潜水艦から、北海道の無人島にトマホークを着弾して見せるなどのことを実施すべきと思います。

今後も、潜水艦を一切シミレーションに出さないとか、潜水艦で大規模な訓練をしないなど、いつまでも潜水艦を日陰者扱いしているようでは、せっかく海自の潜水艦からトマホークを発射できるようになっても多くの国民は萎縮し、中国は今後も尊大に振る舞い、日本などいとも簡単にひねりつぶせるかのように行動し続けることになりかねません。

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2022年12月16日金曜日

防衛費増強に国債は「禁じ手」ではない 海外と違う「60年償還ルール」 繰り入れを特例法で停止、増税なしで特別基金ができる―【私の論評】情けなさすぎる岸田・山口両氏と、知恵がなさすぎる財務省(゚д゚)!



 岸田文雄首相は10日の記者会見で、防衛費増強の財源について国債の発行を否定した。「国債でというのは、未来の世代に対する責任として採り得ない」と述べた。

 その後、政府は自衛隊施設の整備費の一部に建設国債を活用する方針を固めたとされるが、「禁じ手」「借金容認につながる」など批判的な報道もある。

 安倍晋三元首相は生前、防衛国債を主張し、「道路や橋は次の世代にインフラを届けるための建設国債が認められている。防衛予算は消耗費といわれるが間違っている。防衛予算は次の世代に祖国を残していく予算だ」と語った。

 国債論として正しいのは安倍元首相だ。防衛はインフラと同じで将来世代まで便益があるのだから、国債にふさわしい。

 岸田首相の発言は、民主党政権下での東日本大震災後の復興増税と同じくらいひどい。大震災はまれに起こるので、課税平準化理論から、復興費用は復興増税ではなく長期国債で賄うのが、財政学からの結論だ。

 同様に、有事はまれに起こるので、防衛費用は増税ではなく長期国債で賄うのが筋だ。

 国債に関しては財政学などで真っ当な理論が数多くあるが、その援用を妨げているのが財務省だ。日本の経済学者や財政学者、メディアも加担している。

 東日本大震災の復興増税も、古今東西あり得ない愚策だったが、学者らが復興増税に賛同するリストをつくり、財務省を全面的にバックアップした。

 これは財政学が教える課税平準化理論に反していたので、それ以降、同理論を日本の大学では教えられなくなったとしたら嘆かわしいことだ。

 安全保障でも、有事の費用は国債で賄われるという歴史事実さえ押さえておけば、事前の有事対応にも国債がふさわしいのは自明だ。だが、学者からはまともな声はなく、財務省の暴走を止める報道もほとんどない。

 ドイツの防衛費は国内総生産(GDP)比2%のために1000億ユーロ(14・5兆円程度)の特別基金を創設したが、国債発行で賄った。これは、安倍元首相の防衛国債そのものだ。

 筆者は、財務省の役人当時、国債課課長補佐を務めたことがあるが、日本の国債制度が海外と違ったのには参った。日本では、国債に「60年償還ルール」があり、毎年国債残高の60分の1について、一般会計から国債整理基金特別会計(減債基金)への繰り入れが債務償還費(2022年度は15・6兆円)として規定されている。

 先進国では減債基金自体、今では存在していないので、債務償還費の繰り入れもない。日本の予算では、歳出が債務償還費分、歳入はその同額の国債が、先進国から見れば余分に計上されている。これは当年度に限れば「埋蔵金」である。この見直しを含め、もう少し国債をうまく使ってはどうか。

 来年度予算でいえば、債務償還費の一般会計繰り入れを特例法で停止し、それで基金を作れば、少なくともドイツと同じ特別基金ができる。しかも増税なしで可能だ。このような「簡単なこと」すらできないのか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】情けなさすぎる岸田・山口両氏と、知恵がなさすぎる財務省(゚д゚)!

上の記事で、高橋洋一氏は、岸田首相の発言は、民主党政権下での東日本大震災後の復興増税と同じくらいひどいとしていますが、公明党の山口代表の発言もこれと劣らず酷いものです。

公明党の山口那津男代表は14日のラジオ日本の「岩瀬恵子のスマートニュース」に出演し、防衛費増額の財源確保策として自民党内で上がっている国債発行論に否定的な考えを示しました。

「国債で全部やれという意見は実際にはないと思いますが、ただ、国債は先送り。将来の世代にツケを回すことになる。しかも限度がはっきりしない。税は国民が負担する部分で本当にこれでいいのかと関心を持ち、自分たちのこととして水準を決めることにつながる」などと述べました。自民では岸田文雄首相が掲げた1兆円強の増税方針に反発し、国債発行を含めて検討するよう求める声が出ています。

上の記事にもあるとおり、政府はこれとは別に、自衛隊施設の整備費の一部約1兆6千億円に建設国債を活用する方針です。

岸田、山口両氏は、安倍晋三、菅義偉歴代内閣と比較すると全く、財務省の言いなりということができます。 

岸田首相も将来世代へのつけと述べており、ということは、防衛費増額は現世代だけではなく、将来世代にも便益であると語っているに等しいです。将来世代に便益があるので全世代で負担平準化するべきであり、そのために長期国債を発行するのです。

だからこそ、上の記事にもあるように課税標準化理論というものがあり、現世代と将来世代の負担を平準化するために課税平準化理論があるのです。

これは、現実の経済で資源配分に歪みを与える 租税が存在するとき、異時点間の税率を決める際に、課税に伴う超過負担(資源配分の効 率性からのコスト)を最小にするべく財政運営を行うのが望ましい、とするものである。

まさに、震災や防衛費の増強を税だけで賄うということになれば、将来世代も便益を受けるにもかかわらず、その負担は現代だけということになり、これは全く不公平と言わざるを得ません。

これを理解したのは安倍氏であり、理解せずに財務省のいいなりなのが、が岸田、山口両氏です。


安倍・菅両政権のときには、両政権であわせて100兆円の補正予算を組み、コロナ対策を実施しました。財源は当時の安倍総理の言葉でいうと、政府日銀連合軍をつくり、政府が長期国債を発行し、日銀がそれを買い取るという形で行ったので、増税はありませんでした。

そうして、この対策、なぜかほとんど理解されていませんが、一番の成果は、何といっても雇用潮位助成金という制度も用いながら、雇用対策を行い、コロナ禍の最終に他国では失業率がかなりはねあがったにも関わらず、日本で終始2%台の失業率で推移しました。


経済対策においては、他の指標が悪くても、まずは雇用が安定していれば、合格といわれます。この点からいうと、安倍・菅政権の経済対策は合格だったといえます。

菅政権においては、凄まじい医療村の抵抗にあって、コロナ病床の増床には失敗したものの、それでも凄まじいスピードでコロナワクチンの接種を成功させ、結局医療崩壊も起こすこともなく、相対的には大成功したといえます。

ただ、このことの本質を理解しないか、理解しないふりをしていたのか、マスコミも野党も、そうして多くのマクロ経済等に疎い自民党議員も、この成果を評価できなかったとみえます。マスコミも菅政権がコロナ対策に大失敗したような印象操作をしました。そのため、菅政権は一年で終わってしまいました。

このブログでは、菅政権は継続すべきであると主張しましたが、もしそれが実現していれば、防衛費増税でこのように揉めることはなかったと思います。理屈のわからない岸田・山口氏は、安倍・菅の大成果を「運が良かっただけ」と思っているのかもしれません。

増税なしを政治決断した安倍・菅さんは素晴らしいです。もし、コロナ復興税などとして、増税していれば、今頃経済はかなり落ち込んでいたことでしょう。今回防衛費40兆円に過ぎないのに、これで増税とは、安倍元総理が生きておられれば、財務省は知恵なし。その言いなりの岸田氏も、山口氏「情けなし」と慨嘆されたに違いありません。

財務省で働く魅力は「知恵」がなくても勤まり、退官後はスーパーリッチな天下り先が待っていることか?

そうして、この「情けなし」の意味は2つあります。一つは、「期待外れで残念だ」という意味で、もう一つは、「思いやりがない、無情である」という意味です。まさに、現状で増税するなどと考えるのは、国民に対して「思いやりがない、無情である」と謗られてもしかたないと思います。

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2022年12月15日木曜日

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経済成長続けるインドネシア 日本のGDPを抜く可能性も

岡崎研究所


 11月17日付Economist誌は「なぜインドネシアは重要なのか」との社説を掲げ、G20で存在感を示したインドネシアの将来性の高さを、その理由とリスクと共に論じている。要旨は以下の通り。

 G20が行われたインドネシアはスハルト政権崩壊から四半世紀後に再び注目された。同国は、米中の戦略的競争に巻き込まれているが、新世界秩序に適応しつつあり、次の四半世紀で影響力が大きく伸びる可能性がある。

 その理由の第一は経済である。GDPは新興国中第6位。1兆ドル超GDP国では、中印以外で過去10年最速で成長。その源泉はデジタルサービスである。電気自動車(EV)サプライチェーンに必須なバッテリー用ニッケルの世界埋蔵量1/5を占めるという特有の事情もある。

 第二の理由は民主化と経済改革両立の成功だ。完璧ではないが妥協と社会調和を強調する多元的政治システムを創設。ジョコ大統領は政敵を含む大連立を形成しているが、財政は健全。国営企業改革、労働法規等で漸進的改善を実施。汚職は問題だが経済は10年前よりオープンだ。

 次に、権力承継がリスクだとの主張は、過度に深刻視する必要は無いだろう。3選を禁じる憲法の改正でジョコ大統領が続投するという可能性は、とうの昔になくなっている。伸び盛りの国に相応しく、後継者の能力があると評価される人物は相当多い。一方、立候補には国会の20%以上の議席を持つ政党の支持が必要なので、現実的な候補は既に片手以内に絞られている。

 更に重要なのは、大統領候補の出身母体の多様化だ。軍が唯一のエリート養成機関であったのは、遠い過去の話である。今や、州知事を含む地方の首長(いくつかの州は数千万の人口で、中小国より大きい)が登竜門の一つになっている。ジョコ自身もジャカルタ特別州知事出身だし、今の候補者中、軍出身は70歳代の一人に限られる。これは、「ビジネスと政治閥が権力を得て寡頭政治に回帰する可能性」は最早それほど高くないことを意味している。

歴史も絡む中国との難しい関係

 第三に「中国の影響下に入る可能性」だが、これも高くない。そもそも中国の対インドネシア投資は入れるのも早いが出すのも早く、過去10年間のストックは未だ日本の1/5以下であり、ジャカルタ・バンドン高速鉄道に象徴されるように失敗例も多い。ここ数年間連続でナツナ諸島に現れる海警に守られた中国漁船の存在は、安全保障面でもインドネシアの対中姿勢を硬化させている。

 更に留意すべきは、対中関係は国内問題という歴史的事情だ。オランダ統治時代に中間管理職として厳しく当たりオランダ撤退後にその富を寡占した中華系インドネシア人は、いまだにデモ・騒乱の際の主な攻撃対象だ。これらを考えると、平時には日、米、中、欧ほかと全方位で付き合うインドネシアだが、危機に当たり中国を頼る可能性はあまり高くないと考えるべきだと思う。

 最後は、台湾危機のインドネシアへの影響である。上記社説は重要な論点を挙げているが、実際の危機に際しては、インドネシアはマラッカ海峡の唯一の代替航路を提供する立場にあることも忘れてはならない。日米は引き続きインドネシア沿岸警備隊の能力強化に努めていく必要がある。
 第三の理由は地政学である。インドネシアは超大国競争の重要な舞台だ。非同盟の歴史を反映し中立を希望する同国は、米中デジタル企業と投資家が直接競争する舞台となっている。

 もしインドネシアが今後10年今の道を歩めば、世界トップ10の経済になり得る。

 他方、主なリスクは次の3つである。

 一つは権力承継である。ジョコの任期は2024年だが明確な後継者は不在だ。支持者の中には(3選を禁じる)憲法改正で留任を求める向きもある。権力承継は有権者へのイスラム的政策アピール競争になる可能性がある。ジョコ連合の一部のビジネスと政治閥が権力を得て寡頭政治に回帰する可能性もある。

 二つ目は保護主義だ。ダウンストリーム化(精製部門など天然資源の下流産業の振興)は市場支配力を持つニッケルでは成功しても、他の産業では逆効果かもしれない。

 最大のリスクは地政学で躓くことである。同国が中国の影響圏に入る可能性もある。2020年以降中国企業投資は米国企業の4倍だ。台湾危機の際は、依存するシーレーンが閉鎖され、西側制裁は同国が頼る中国企業に打撃を与え得る。

 インドネシアは資源と保護主義、大連立政治、中立主義に依拠して、自国民を満足させ、かつ、成長する道を見つけようとしている。成功すれば、自国民の生活を改善し、成長を望む世界を励ますことになる。これは世界の力のバランスを変えさえするかもしれない。

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 G20で首脳宣言をまとめたインドネシアが注目を集めている。Economistのようなメディアがこのような記事を載せる影響力は大きい。上記社説の大きな論旨には賛成だが、細かい点で若干の異論がある。

 まず、「今後10年今の道を歩めば世界トップ10の経済になり得る」ことに異存はないが、既に世界の第17位である同国がトップ10に「なり得る」との記述は、インドネシアのインパクトを十分捉えていない。コロナ禍の下、中進国の中で最も早く年5%台の成長に回復した国の一つであるインドネシアは、2040年代に世界第5位のGDPになる勢いを持っており、更に、インドと共に日本のGDPを抜く可能性のある数少ない国の一つなのだ。

【私の論評】防衛増税し、来年4月から日銀総裁が金融引締派になれば、いずれ日本の賃金は、韓国・台湾・インドネシア以下に(゚д゚)!

日本のGDPを抜く可能性があるのは、インドネシアだけではなく、韓国、台湾にもその可能性ば十分にあります。その中でも、インドネシアは、人口が2.764億人であり、日本の2倍以上もありますから、一人あたりのGDPが人口が1億2千万人日本の半分にもなれば、日本のGDPを追い越すことになります。

韓国も、台湾も人口が数千万人で1億人には、達していませんから、実際には日本のGDPを越すのは難しいでしょう。

日本経済研究センターは昨年、個人の豊かさを示す日本の1人あたり名目国内総生産(GDP)が2027年に韓国、28年に台湾を下回るとの試算をまとめました。この推計自体は、ありそうですが、ただしその原因を行政などのデジタル化が遅れ、労働生産性が伸び悩むことが主因としたのは明らかに間違いです。


それよりも、最大の要因は、平成年間にマクロ経済政策を間違えたことが大きな要因です。仮にこの期間に、デジタル化を推進し、労働生産性を高めることが実施されたとしても、マクロ経済政策を間違えていれば、ほぼ同じようなことになっていたでしょう。

マクロ経済政策の間違いとは、金融緩和すべきときに、金融引締を行い、積極財政をすべきときに緊縮財政をしてしまったということにつきます。

平成年間といえば、日本は深刻なデフレにみまわれていましたが、こういうときには、どのようなマクロ経済政策をとるべきかは、高校の政治経済など標準的で初歩的なテキストに書いてあるとおり、積極財政策、金融緩和策をすることです。

にもかかわらず、平成年間のほとんどの期間を日本は、緊縮財政、金融引き締めをして、デフレを深化させてしまったのです。

この期間に、デジタル化を推進して、労働生産性を高めた場合どうなったでしょうか。その結果は明らかです。デフレを深化させるだけです。

それは、当然のことです。デフレで需要が足りないときに、生産性を上げればどうなるかといえば、供給能力が上がっても需要は増えないわけですから、さらに物価はさがり、デフレが深化するだけです。

このようなことは、少し考えれば、誰でも理解できます。難しい経済理論など必要ありません。多くの民間企業が数々のイノベーションを成し遂げ、生産性が飛躍的に上がったとします。そのときに、日銀が金融緩和をしてこの生産性の向上に見合うように市場での貨幣量を増やさなければ、デフレになってしまいます。

そうして、デフレであっても、金融緩和、緊縮財政を続ければ、需要不足がさらに続くだけであり、生産性を上げる必要性などなく、寧ろデフレが深化した最中に、生産性を高めれば、失業率が増えるだけです。なぜなら、生産性が高まった分の労働力は必要がないからです。

それでも、輸出企業や海外に拠点を持つ企業であれば、デジタル化を推進して、生産性を高めれば、海外で有利な事業展開ができたでしょう。

しかし、輸入企業や、国内の顧客を相手に事業を展開する企業などは、需要不足なのですから、こうしたインセンティブは働きません。そうして、日本は内需大国であり、輸出がGDPに占める割合は12%に過ぎません。多くの企業に生産性向上のインセンティブはなかったのです。さらに、役所などもそうです。ただ、役所の場合は、コロナ禍等により、デジタル化が推進されていないことが目立ってしまったということです。

このような特殊な環境下にあったので、日本では、デジタル化を推進し、労働生産性を高める機運が高まらなかったのです。当たり前といえば、当たり前すぎます。

平成年間に日本がまとなマクロ経済政策を継続していれば、需要は増え、その需要を満たすために、生産性の向上も当たり前に行われたでしょう。

原因と結果の取り違えはよくあることだが・・・・・

よって上の記事は、原因と結果をはき違えているといえます。それにしても、このような簡単な理屈がわからない人があまりに多すぎます。

このような理屈、20年前、10年前までは、理解してない政治家も多かったのですが、多くのまともなエコノミストらが啓蒙活動を継続し続けたおかげで、最近では最初に安倍元総理が理解し、他の議員たちも理解する人が増えました。

日本で最初にマクロ経済政策を理解した安倍元首相

最近の、防衛増税反対運動は、マクロ経済政策を理解した議員たちと、そうではない議員たちの戦いです。理解した議員たちに是非とも勝利していただきたいですが、理解していない議員たちにもこれを理解してほしいものです。

そうでないと、日本はデフレから抜けきっていないにも関わらず防衛増税し、さらに日銀が金融引締に転じることがあれば、またデフレスパイラルのどん底に沈むことになり、そうなれば、また失われた30年、いや50年、100年を繰り返すことになりかねません。マクロ経済政策を理解しない議員たちが多ければ、日本はいつまでもこのリスクに晒されることになります。

実際に、そうなれば、いずれ一人あたりの名目賃金は、台湾、韓国、インドネシアに追い抜かれることにもなりかねません。そうなれば、無論賃金もそうなります。

防衛増税は、それを進める強力な第一歩となります。来年の4月には、日銀の黒田総裁の任期が終わり、日銀新総裁が選出されます。このときに、金融引締派が日銀総裁になり、日銀の金融政策が変わり、金融引締に転ずれば、日本は失われた100年に突入することになりそうです。

そのようなことは、絶対に避けるべきです。

私自身は、今回の増税騒ぎは、結局先延ばしにされるのではないかと思っています。今一番危険なのは、日銀の黒田総裁の後任が誰になるかです。

もし、岸田首相が日銀の後任を明らかに金融引締派の人物を就けるようであれば、本格的な政局になるでしょう。ポスト岸田といわれているのは、今は茂木氏、河野氏、林氏といわれています。この三人はマクロ経済政策の理解度は相当低いです。

そのため、自民党の安倍派などは他の人物をかつぐことになるかもしれません。ただ、誰が総裁になったとしても、安倍派は、総裁や周りの派閥に対しても、増税・金融引締は絶対にするなと因果を含めた上で、それを認めるでしょう。

ただ、安倍派にも様々な考えの議員がいますから、安倍元首相の政策を引き継ぎ、まともなマクロ経済政策を実行し、中国と対峙しようとする議員がそうではない議員から分裂し、他の保守派議員を取り込むという動きもみられるかもしれません。そのようにして、まともな議員で大派閥が作られれば良いと思います。

自民党内では、復興増税の一部を恒久的な所得増税に付け替えようするという、あまりにも国民や被災地の人たちをを馬鹿にしきったぶったるみ増税案を審議しています。岸田首相には、歴代政権で公約せずに増税しようとした政権の末路を思い出して欲しいものです。財務真理教の教義を信じ込んでいる盲目的な信者の岸田首相には無理な話かもしれません。

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2022年12月14日水曜日

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岸田増税〟に財界からも批判続出 賃上げや設備投資に水を差す…首相「国民が自らの責任として対応すべき」発言で炎上 高市早苗氏も厳しく指摘


記者会見する高市早苗経済安全保障担当相=13日午前、東京・永田町
岸田文雄首相が「防衛力強化」「防衛費増額」の財源に、国債発行などを排除して「増税」を打ち出したことへの批判が止まらない。景気に冷や水を浴びせる増税論への異論は、閣内や自民党内、財界にも広がっている。岸田首相が「国民が自らの責任として対応すべき」などと発言したことにも、ネット上で「責任転嫁」「国民に責任を擦り付ける、最低の宰相」などと炎上している。このまま「岸田増税」を強行すれば、内閣支持率はさらに下落しそうだ。

 「間違ったことを申し上げている考えはない。罷免されるなら、それはそれで仕方ない」「再来年度以降の財源の問題なら、賃上げや景況を見極めてからの指示でも良かったのでないか」

 高市早苗経済安全保障相は13日の記者会見で、岸田首相を重ねて批判した。高市氏は増税方針が発表された直後にも、「閣僚も国家安全保障戦略の全文は見せてもらえず。内容不明のまま総理の財源論を聞いたので、唐突に感じた」などと厳しく指摘していた。

 自民党の世耕弘成参院幹事長も13日の党役員会で、「国民が納得、理解の上に、協力してくれるものにしなければならない」と、岸田首相を前にクギを刺した。さらに、自民党が今年7月の参院選公約に増税方針を示さなかったことを念頭に、「公約と整合的なものにしないといけない」とも指摘した。

城内実衆院議員ら自民保守系議員らは同日、国会内で会合を開き、出席者からは「内閣不信任案に値する」「財務省の陰謀」との声があがった。

 増税への批判は財界にも広がった。

 経済同友会の桜田謙悟代表幹事は13日の記者会見で、「何に使うのかという議論がないまま財源の議論が先走るのはバランスが取れていない」「(政府が検討している法人税増税となれば)企業の賃上げや設備投資に水を差すことはほぼ間違いない」「消費税的なもので国民全体があまねく負担すべきだ」などと述べた。

 こうしたなか、岸田首相は13日の自民党役員会で、「防衛力の抜本強化は安全保障政策の大転換で時代を画するもの。責任ある財源を考えるべきで、今を生きる国民が自らの責任としてその重みを背負って対応すべきものだ」と述べ、冒頭のような炎上をまねいている。

 夕刊フジは先週9、10日、防衛費増額の財源を「増税」で賄うことの是非について緊急アンケートを行った。「絶対反対」と「まず税収増や防衛国債の発行などを検討すべきだ」を合わせて93・4%が反発する結果だった。「聞く力」を信条とする岸田首相の判断が注目される。

【私の論評】緊縮命のかつての「ぶったるみドイツ」ですら、国債で防衛費増をするのに、増税する岸田総理は、ぶったるみ切ったか(゚д゚)!

今回の防衛増税、なせやってはいけないのかに関しては、もうあまりにも分かりきっていることなので、高橋洋一氏や田中秀臣氏などの記事が掲載されている、他のメディアに当たってください。特に以下の記事は参考になると思います。
私自身も、防衛増税に関して過去に何度か書いていますので、その記事のリンクを【関連記事】に経済しますので、興味のある方は是非ご覧ください。

さて、とはいいながら、防衛費の増税に関しては、他の国ではどうしているのかは非常に参考になると思います。そのため、ドイツの例をあげておきます。

2022年2月27日。この日、ドイツのオラフ・ショルツ首相が連邦議会で行った演説は「同国を変えた」演説として歴史に残るでしょう。同首相は1990年代の東西冷戦終結以来ドイツが続けてきた「防衛軽視」の姿勢を180度変えて、ロシアの脅威に対抗するため軍備増強の方針を打ち出したのです。同首相は「ドイツ連邦軍を、確実に祖国を守ることができる近代的な軍隊に作り替える」と宣言しました。

具体的には、連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を今年創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達、同盟国との新兵器の共同開発などに充てます。基金の財源は、長期国債を発行して賄います。

ロシア軍のウクライナ侵攻前に決められていた今年の防衛予算は、503億ユーロ(約6兆5390億円)でした。この503億ユーロに特別基金の一部を加えて約1000億ユーロとします。つまり独政府は、2022年に連邦軍に投じる予算をほぼ2倍に増やすことになります。

ショルツ首相はさらに「防衛予算が国内総生産(GDP)に占める比率を2%超に引き上げ、これを維持する」と明言しました。2%は、NATO(北大西洋条約機構)が加盟国に順守を求めてきた最低比率です。ところがドイツの2022年の防衛予算(当初額)のGDP比率は1.4%にとどまっていました。

前任のメルケル政権は、NATOに対して「2024年に2%目標を達成する」と伝えていました。米国のトランプ政権は「ドイツは2%目標をなかなか達成せず、防衛努力が不十分だ。防衛に金をかけず、国防について米国に依存する裏で、ロシアからガスを買って金を払っている」と厳しく批判していました。そのドイツが、2%目標を一挙に達成するどころか、それを上回る水準を維持すると宣言したのです。

防衛予算を今年、約2倍に増やした後、毎年の防衛予算はどの程度になるのでしょうか。ドイツの直近(2021年)のGDP(3兆5710億ユーロ)の2%は714億2000万ユーロです。つまり2023年以降、ドイツの毎年の防衛予算は、2022年の当初予算額(503億ユーロ)に比べて少なくとも約42%増えることになります。

第2次世界大戦の後、ドイツが防衛予算をこれほど急激に引き上げたことは一度もありません。ドイツは東西冷戦の終結後「外国軍による侵略の可能性は低くなった」と認識して防衛を軽視してきたため、装備の近代化が遅れていました。

ドイツ空軍の主力戦闘機「トルナード」は1979年に生産されたもの。それから約45年がたつのですが、後継機種すらが決まっていませんでした。2017年末の時点で連邦軍は93機のトルナードを持っていました。このうち実際に飛べるのは26機にすぎませんでした。

陸軍の弾薬や銃器、装甲兵員輸送車も不足しており、連邦軍がNATOの要請でバルト3国(ラトビア、エストニア、リトアニア)に部隊を派遣する際には、他の同盟国から装備の一部を借りることもあります。

すでに50年近く使われている装甲兵員戦闘車「マルダー」に代えて2019年に配備を始めた「プーマ」280両は、交換部品が不足しており、実戦に投入できるのは全体の30%にすぎない。しかも開発費用は、当初予定の約3倍、7億2350万ユーロに膨れ上がってしまいました。

軍関係者からは、政府の「防衛軽視」に対する不満の声が、ウクライナ危機がエスカレートする前から高まっていました。連邦軍のうち、陸軍を率いるアルフォンス・マイス総監はロシアによるウクライナ侵攻が始まった日、ツイッターに「連邦軍、特に陸軍の装備はほぼ白紙状態。NATOを支援するための能力は極めて限られている」と暴露しました。

連邦軍を退役したエゴン・ラムス元将軍は同日、ドイツ第2テレビ(ZDF)が放映したインタビューの中で「連邦軍は、外国軍による侵略の危険が迫った場合、ドイツを守れるでしょうか」という記者の問いに「守れない」と断言しました。

このドイツの体たらくや、従来の中国に接近する姿勢の両方に対してこのブログでは、「ぶったるみドイツ」と何度か揶揄したことがあります。その記事の代表的なものを以下に掲載します。これは、2018年の記事です。

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ドイツのメルケル首相(当時)

 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に“深刻な問題”が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっています。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したのですが、その有効性は疑問視されるばかりです。

ドイツは“緊縮予算”を続けており、その煽りを受けてドイツの防衛費不足は切迫しています。空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などといった実態も報告されています。

こうした状況に追い込まれた原因の一つとして、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。



ドイツの主力戦車「レオパルド2」

昨年10月15日、ドイツ潜水艦U-35がノルウェー沖で潜航しようとしたところ、x字形の潜航舵が岩礁とぶつかり、損傷が甚大で単独帰港できなくなったのです。

ドイツ国防軍広報官ヨハネス・ドゥムレセ大佐 Capt. Johannes Dumrese はドイツ国内誌でU-35事故で異例の結果が生まれたと語っています。

ドイツ海軍の通常動力型潜水艦212型。ドイツが設計 建造しドイツの優れた造艦技術と
最先端科学の集大成であり、世界で初めて燃料電池を採用したAIP搭載潜水艦である。

 紙の上ではドイツ海軍に高性能大気非依存型推進式212A型潜水艦6隻が在籍し、各艦は二週間以上超静粛潜航を継続できることになっています。ところがドイツ海軍には、この事故で作戦投入可能な潜水艦が一隻もなくなってしまったというのです。 

Uボートの大量投入による潜水艦作戦を初めて実用化したのがドイツ海軍で、連合国を二回の大戦で苦しめました。今日のUボート部隊はバルト海の防衛任務が主で規模的にもに小さいです。 

212A型は水素燃料電池で二週間潜航でき、ディーゼル艦の数日間から飛躍的に伸びました。理論上はドイツ潜水艦はステルス短距離制海任務や情報収集に最適な装備で、コストは米原子力潜水艦の四分の一程度です。 

ただし、同型初号艦U-31は2014年から稼働不能のままで修理は2017年12月に完了予定ですかが再配備に公試が数か月が必要だとされています。

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当時のドイツの「ぶったるみ」ぶりが良く理解できると思います。 

さて、ドイツではメルケル氏が所属するキリスト教民主同盟から政権交替があったわけですが、ショルツ現首相が属する社会民主党(SPD)は伝統的に軍備拡張に慎重でした。

ところがショルツ首相は「ロシア軍のウクライナ侵攻によってドイツを取り巻く状況が大きく変わった」として、2月27日に軍備増強の方針を宣言しました。主要閣僚など限られた人々に自分の決意を伝えただけで、連邦議会の各党の院内総務に対する十分な根回しもしない独自の判断だったといいます。ところが演説後、大半の議員は席から立ち上がって、首相の決断に賛意を表したのです。

ドイツは、第2次世界大戦中にナチスが欧州諸国に与えた被害への反省から平和主義が強く、軍や国防について否定的な見解を持つ人が多かったのです。ドイツ人がこれほど急激に防衛政策を変えるのは、戦後始めてのことです。この劇的な変化は、プーチン大統領のウクライナ侵攻が多くの市民に強い不安を抱かせ、プーチン政権の危険性について政府を覚醒させる強い警告となったみえます。

上の記事にもあるように、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。

そのドイツですら、コロナ禍の時は一時的に減税しましたし、上の記事にもあるように、連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を今年創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達、同盟国との新兵器の共同開発などに充て、基金の財源は、長期国債を発行して賄うのです。

日本は、安倍・両政権においては、両政権であわせて、100兆円の国債を発行して、補正予算を組み、雇用調整助成金の制度も用いて、経済対策を行ったため、他国がコロナ禍のときには、失業率がかなりあがったにもかかわらず、日本では2%台で推移し、特に失業率が上がるといこともありませんでした。

菅政権は、コロナ病床の確保に関しては、医療村の執拗な抵抗にあい、失敗しましたが、安倍・菅両政権により、驚異的なスピードでコロナワクチンの接種をすすめ、結果として、医療崩壊を起こすことなく、相対的にみれば、大成功だったといえます。このような快挙ですら、マクロ経済オンチの岸田首相や少数派自民党議員には理解できないようです。

そうして、このような実績を持つ安倍元総理は、防衛費増には、長期国債を財源にすべきと主張していたにもかかわらず、岸田首相は増税で賄うと発言したのです。

緊縮が命ともみられる、かつての「ぶったるみ」ドイツですら、覚醒し、長期国債で基金を創設し、それをもとに防衛力の強化を図ろうとしているにも関わらず、日本では増税ですと?

これでは、岸田総理は「ぶったるみ総理」と謗られてもしかたないと思います。はやくこの状態から覚醒していただきたいものです。

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2022年12月13日火曜日

中印の係争地で両軍が衝突、双方に負傷者 同地域では昨年9月にも…依然として緊張が続く―【私の論評】中国の台湾侵攻ファンタジーより中印国境紛争のほうが、はるかに深刻な現実的脅威(゚д゚)!

中印の係争地で両軍が衝突、双方に負傷者 同地域では昨年9月にも…依然として緊張が続く

インド・アルナチャルプラデシュ州の中国国境付近で巡回するインド軍兵士(2012年)

 インド陸軍は12日、北東部アルナチャルプラデシュ州の中国との係争地で9日に印中両軍が衝突し、双方に負傷者が出たと明らかにした。銃器は使われず、いずれも軽傷とみられる。既に両軍とも現場から離れた。インドメディアによると、負傷者はインド側が少なくとも6人、中国側は十数人という。

 現場は標高約5000メートルの高山地域。インド側は、中国人民解放軍の兵士300人超が侵入しようとしていたのを阻止し、小競り合いになったと主張している。この地域では昨年9月下旬ごろにも衝突が起きた。

 中印は複数の係争地を抱える。2020年6月に中国チベット自治区とインド北部ラダック地方の係争地で両軍が衝突した際には、約45年ぶりに死者が出た。一部地域では両軍の撤退が実現したが、依然として緊張が続いている。

【私の論評】中国の台湾武力侵攻ファンタジーより中印国境紛争のほうが、はるかに深刻な現実的脅威(゚д゚)!

インド北東部のアルナチャル・プラデシュ州で9日、棍棒やスタンガンで武装した200人以上の中国軍兵士と「それ以上の何か」で武装したインド軍兵士が衝突したと報じられていました。

インドと中国は2020年に国境が未確定のジャンムー・カシミール州ラダック地域で何度も衝突、中印国境紛争(1962年)以来の大規模衝突に発展する可能性を秘めていたものの、両国の粘り強い交渉で緊張緩和に成功(対立の根本的な原因は解消されていない)していましたが、現地メディアは「インド北東部のアルナチャル・プラデシュ州で9日、棍棒やスタンガンで武装した200人以上の中国軍兵士と『それ以上の何か』で武装したインド軍兵士が衝突して双方に負傷者が出た」と報じていました。


両軍がにらみ合いを始めた当初、200人の中国軍兵士に対してインド軍兵士は僅か50人だったのですが、直ぐに敵を上回る「何か」もった増援が到着して中国軍兵士を圧倒、インド当局は「味方に骨折を含む15人の負傷者が出たが中国軍側の負傷者はそれ以上だ」と述べたとされています。

因みに両軍の衝突原因についてインド当局は「前線に沿って配置された一部部隊の変更に伴い、中国軍側が自軍の優位性を見せつけようとしたため」と述べていますが、棍棒やスタンガンを「上回る何か」が何なのか気になるところです。

中印両国は昨年2月、ヒマラヤ西部の国境紛争地の一部からの軍の引き揚げで合意しましたが、その後の撤退交渉は停滞し、むしろ軍拡の動きが強まっていました。同年6月28日付ブルームバーグによれば、インドは同年6月までの数カ月間に部隊と戦闘機中隊を中国との国境沿いの3地域に移動させたといいます。

注目すべきはインドの対中軍事戦略の大転換です。インド軍の係争地駐留はこれまで中国側の動きを阻止することを目的としていましたが、この兵力再配備により「攻撃防御」と呼ばれる戦略の運用が可能となり、必要に応じて中国領への攻撃や占拠を行うことができるようになりました。

インド側の軍事力増強は中国側の動きに触発された可能性があります。インドによれば、中国人民解放軍は当時、係争地の監視を担当する軍管区にチベットから追加兵力の配備を行うとともに、新滑走路や戦闘機を収容するための防爆バンカーを整備し、長距離砲や戦車、ロケット部隊、戦闘機などを追加投入しているとされていました。

中国はなぜ急速に軍拡を進めたのでしょうか。一昨年の両国の衝突で中国側の犠牲者は、インド軍の20人を上回る45人だったとの情報があります(中国政府の公式発表4人)。一連の戦闘でも軍事力に劣るインド軍が終始優勢だったとの観測もあります。中国側に「捲土重来」を果たさなくてはならない事情があったのかもしれません。 

国境に配備された両軍の兵士は昨年時点で約20万人で、一昨年に比べて40%あまり増加したといわれています。このような両軍の軍拡の状況について、インドの軍事専門家は「国境管理の手順が壊れた現在の状態で両国が多くの兵士を配備するのはリスクが大きい。現地での小さな出来事が不測の事態を招く可能性がある」と危惧の念を隠していませんでした。

軍拡の動きはヒマラヤ西部ばかりではありません。チベットに隣接するヒマラヤ東部で中印両国は、軍隊の迅速かつ大量輸送が可能となる鉄道の建設に躍起になっています。中国は昨年7月1日、四川省とラサをつなぐ鉄道(川蔵鉄道)の一部区間を開通させました。これにより軍隊の移動が容易になりますが、この鉄道はインドのアルナチャルプラデシュ州との国境沿いを走っているため、インド側の警戒は尋常ではないといいます。

インドも対抗上、アルナチャルプラデシュ州と西ベンガル地区とを結ぶ鉄道を建設中です。難工事であることから完成時期は何度も延期されていますが、2023年はじめまでになんとしてでも完成したいとしています。緊張の高まりを受けて、インドが主導する形で両国間の外交交渉が始まっていました。

インドのジャイシャンカル外相は昨年7月14日、中国の王毅外相と会談し、「両国が昨年の合意にもかかわらず、ヒマラヤ山脈西部の国境紛争地帯での対立が解決できていないのはどちらにとっても利益にならない」との見解を示しました。インド国防省は7月末に「チベット地域における自国軍と中国軍との間にホットラインを設置した」と発表しました。

しかしインドの専門家は「中国はインドとの軍事衝突を利用して国民の不満をかわす可能性がある。ワンマン支配となった中国との平和的共存はない」と悲観的です。このように中印間でかつてない規模の軍事衝突が起きるリスクが高まっている最中で、今回の両軍が衝突したのです。

地政学車のブラーマ・チェラニー氏は、昨年中印国境から目を離すなと警告していました。

中国軍とインド軍は、国境地帯での衝突から2年を経てにらみ合いを続けています。この紛争の存在はウクライナ戦争によってかすんでいるかもしれないですが、両軍は軍備増強を進めています。

オースティン米国防長官は昨年6月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、「中国が国境沿いの陣地を強化し続けている」と警告しました。両軍とも数万人の部隊が対峙していることから、戦争まではいかなくとも、小競り合いが再び発生するリスクはかなりあります。

2020年6月15日の両国軍の衝突は、一連の小競り合いの中で最も血なまぐさいものでした。当時、インドは世界で最も厳しい新型コロナウイルス対策の都市封鎖に気をとられていました。中国はそのすきを突くようにインド北部、ラダック地方の国境地域に侵入し、強固な要塞を建設しました。

この予想外の侵入は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席による巧妙な計画ではなかったようです。中国は楽勝するどころか、中印関係をどん底に突き落としました。国境危機によりインドの大規模な軍備増強を不可避にしました。

20年6月の衝突は残忍さでも際立っていました。96年の2国間協定により両国の兵士が国境地帯で銃を使うことが禁止されたことから、中国人兵士は有刺鉄線を巻いた棒などを使い、インド軍のパトロールに攻撃しました。インド兵の一部は殴り殺され、崖から川に突き落とされた兵士もいました。その後インド側の援軍が到着し、中国部隊と激しい戦いを繰り広げました。

数時間の戦闘の後、インドは死亡した兵士20人を殉職者としてたたえましたが、中国はいまだに死者数を公表していません。米情報機関は35人、ロシアの政府系タス通信は45人と推定しています。

国境危機はインドのイメージ失墜にもつながりました。インドは中国軍に不意を突かれ、一部の中国人兵士が領土の奥深くまで侵入することを許したのに何の調査も行いませんでした。インドの国防支出は米国、中国に次いで世界第3位で、陸軍がかなりの部分を占めています。しかしインド陸軍は長年、中国とパキスタンの国境を越えた行動に何度も不覚をとってきました。

中国軍は、氷が溶けて進入路が再開される直前に危険地帯に侵入しました。ところがインド軍は、中国が国境付近で軍事活動を活発化させている兆候を無視しました。この大失態にもかかわらず、インド軍の司令官は誰ひとり解任されませんでした。さらに悪いことに、モディ首相はここ2年間、軍事危機について沈黙しています。

中国は占領したいくつかの陣地から撤退する一方、他の占領地を恒久的な軍事拠点に変えています。習氏が狙っているのは東シナ海や南シナ海と同様、軍事力で威圧をすることにより、戦わずしてインドに勝利することです。世界最大の民主国家であるインドは、民主主義と専制主義の戦いの最前線にいます。中国がインドを威圧して服従させることができれば、世界最大の専制国家がアジアで覇権を握ることになりかねません。

膠着の陰で事態は進展しています。中国は引き続きヒマラヤ地方の勢力図を塗り替えようと、国境地域に624の村落を建設したのです。南シナ海で要塞のような人工島を造る戦略に似ています。

インドとの国境付近では交戦に備えて、新たなインフラも構築しています。最近では、戦略上の要衝であるパンゴン湖を渡る橋を完成させました。さらにブータン国境の係争地にも道路や警備施設を建設。インド最北東部と内陸部を結ぶ回廊地域を俯瞰する、インドの「チキン・ネック(鶏の首)」と呼ばれる弱点を押さえようという狙いです。



その上で中国は、インドに決断を迫ろうとしています。新しい現実、すなわち中国が一部地域を奪った状態での現状を受け入れるか、それとも中国が有利に展開できる全面戦争に突入するリスクを冒すのかという決断です。

中国は1979年にベトナムを侵略した際の戦略的な過ちから学びました。現在はあからさまな武力紛争に突入することは避け、領土獲得も含めて戦略的な目標の達成を段階的に進めています。

既に中国の習近平国家主席は、こうしたサラミ戦略(小さな行動を積み重ね、いつの間にか相手国が領土を失わざるを得ないような戦略)によって南シナ海の地政学的地図を塗り替えてきました。その手法を陸上でも、すなわちインド、ブータン、ネパールに対しても効果的に展開しています。

インドがロシアのウクライナ侵攻を非難しない理由の一つが中国との国境紛争です。両軍がにらみ合っており、いつ本格的な戦闘が起きてもおかしくないです。そんなときにロシアまで敵に回すわけにはいかないのです。

チェラニー氏は中国が繰り返す領土拡張の試みについて、世界に向けて警鐘を鳴らし続けています。中国の暴挙が国際社会から不当に黙認されているという思いがあるとみられます。

確かに中国は、チベットの併合・弾圧でも、南シナ海の人工島基地建設でも、大した代償を科されていません。これではインド国境でも台湾海峡でも軍事力行使は「やり得」だと中国が考えてしまう恐れがあります。最前線に立つインドからの叫びは、世界が抱える最大の安全保障リスクは中国の野心だと思い出させてくれます。

多くの世界中のメデイアでは、台湾有事を頻繁にしかも大々的に扱いますが、このブログでも以前から主張しているように、中国による台湾侵攻は、地政学的に言ってかなり難しいです。ただ、中国が武力で台湾を威嚇したり、場合によっては台湾を破壊することは簡単にできます。しかし、台湾を併合するのはかなり難しいです。

それに比較して、インド国境での中国のサラミ戦術はかなり実施しやすいといえます。中国は、ウクライナでのロシア軍の失敗にも学んでいると考えられます。

大々的に攻めれば、国際的な非難を受けるとともに、敵方の軍隊はもとより国民を含めてこれに本格的に備えることになり、侵略するのはかなり難しくなります。ましてや海で囲まれた台湾はかなり難しいです。

しかし、陸続きのインド領内ならば、サラミ戦術でなし崩し的に侵略できる可能性があります。台湾侵攻はすぐにはできそうにもありませんが、インド攻略なら時間をかけて少しずつでもできます。

これに習近平が目をつけないはずはありません。建国の父毛沢東や、中国経済を伸ばした鄧小平と比較すれば、ほとんど手柄がない習近平が彼らと並び立ち、まだ確実とはいえない、独裁体制を確立するためには、中印国境は、比較的手軽に中国領を広げられて、手柄になると考える可能性は十分にあります。


ましてや、最近はセロコロナ政策で完全に失敗し、権威が落ちつつある習近平は、国民の注意を他に惹きつけ、自らに降り注ぐ火の粉を払い、さらに大きな手柄を得たいと考えるのは、自然な流れです。

習近平は、最初はサラミ戦術で少しずつ領土を増やし、ある時点で、台湾の面積を超えるだけの領土に侵攻し、さらに拡張できる期待も含めてこれを手柄として、独裁体制を確立して、近代中国史において、毛沢東と並び立つ存在になろうと目論むことは、十分あり得ることです。

日本を含めた、国際社会は中印国境紛争に、もっと目を向けるべきです。中印国境紛争を軽く考えていると、多くの国々が不意打ちを喰らうことになりかねません。南シナ海と同じく、安々と中国が領土を広げ、その後結局何もできないということになりかねません。

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2022年12月12日月曜日

デモで崩壊した習近平の賢明さと力の「神話」―【私の論評】ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威は地に落ちる(゚д゚)!

デモで崩壊した習近平の賢明さと力の「神話」

岡崎研究所


 11月28日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙外交問題コメンテーターのギデオン・ラックマンが、「習近平のパンデミック勝利主義が彼を再び悩ませる。傲慢と権威主義が中国を終わりのないロックダウンの罠に貶めた」との論説を書いている。

 習近平は2021年の新年の演説で中国のゼロコロナ政策の成功を誇った。2年後、パンデミック対策を個人的、体制的勝利と描く習のキャンペーンは崩壊しつつある。ゼロコロナ政策に反対するデモは、10年前に権力を得た後、習の指導に対する最も深刻な挑戦のようだ。

 抗議デモのいくつかは習個人を目標にしている。成都ではデモ参加者は「我々は終身指導者の政治体制を望まない。我々に皇帝はいらない」と叫んだ。毛沢東の死後、党は唯一の全能の指導者を作ることを避けてきた。しかし習は中国を準皇帝支配に戻そうとしている。

 転換点は先月、共産党が習を党の指導者として前例にない3期目に任命した時であった。習の前任者の胡錦涛はテレビの前で舞台から強制的に排除された。習は個人崇拝を奨励して権力掌握を正当化した。「習近平思想」は党規約に書き込まれた。習のコロナ対策での成功は彼の神話の重要な部分である。

 中国のコロナ死者数は米国よりずっと少ないのは真実である。しかしゼロコロナ政策追求のコストはますます明らかになっている。経済が停滞する中、中国の若者の失業率は 20%近い。しかし習は党大会でロックダウンに責任のある上海の党書記、李強を共産党の2番目の地位に昇進させた。

 中国は自由に対する厳しい制限の4年目に直面している。パンデミックの初期段階での中国の対応を自分の手柄とした後、習は現在の危機への責めを避けることはできない。効果的な外国のワクチンを輸入していないことは、ロックダウン緩和を中国にとって危険なものにする。これは習近平の重要技術を「中国製」にするとの民族主義に結びついている。彼は中国人の命を救うワクチンをあまりに誇り高くて輸入できないようである。

 ゼロコロナ政策は習近平の強情な性格と権威主義の反映でもある。コロナの名の下で人の動きを追跡する技術は、恒久的で陰険な政治的・社会的支配の道具となることを、中国の人々は憂慮している。

 デモ隊が街頭に出てきた時が強権指導者にとり最大の危険の時である。習のあらゆる本能は力と抑圧で対応することであろう。これは彼が2019年の香港抗議を処理したやり方であり、共産党が1989年天安門で学生運動を粉砕したやり方である。しかし、習近平の賢明さと力の神話は彼のゼロコロナ政策の崩壊を生き延びることはできないだろう。

*   *   *   *   *   *

 このラックマンの論説は、最近の中国での諸都市で起こったロックダウンへの抗議活動を論じたものであるが、的を射ている良い論説である。中国共産党大会の直後に、このような中国各地での抗議デモが起こることは予想していなかったが、一度こういうことが起こると、弾圧するか民衆の要求にある程度答えてロックダウンを緩和するかのいずれかであろう。が、いずれの方策をとっても、習近平政権への打撃は避けられないと思われる。習近平の指導力を傷つけないでこの打撃に対応するのは難問である。

 硬軟の策を繰り出し、時間をかけて事態の沈静化を図っていくという事であろうが、習近平の無謬性(infallibility)は傷つくだろう。習近平を共産党の核心とし、唯一の指導者にすることは不都合だという党内での意見も出てきかねないと思われる。

傲慢の現れたる党規約の「習近平思想」

 鄧小平が最高指導者の任期を2期10年までと定めて集団指導体制を作ったことは、先見性に満ちた賢明な制度設計であったと評価できる。これをひっくり返した習近平のワンマン体制は脆弱性を抱えると考えられたが、それが早くも出てきたということかと思われる。

 習近平が党規約に「習近平思想」を書きいれたことは傲慢さの現れであると考えられる。「習近平思想」とは何なのか、今なおはっきりしない。中華民族の夢の実現という民族主義的願望と強国建設路線であることははっきりしているが、マルクス主義の「万国の労働者よ、団結せよ」との階級を重視した国際主義とは程遠いのに、マルクス主義者を自称するなど、支離滅裂であるように思われる。

 中国の指導者が鄧小平のような賢明さを持たないこと、中国経済のさらなる発展よりも自己の政治的権力の増大に熱心であることは、日本にとりそれほど憂うべきことではない。中国は今経済力で 2033年には国内総生産(GDP)で米国を凌駕すると言われているが、その後2050年には、少子高齢化などの影響で米国に抜き返されると日本経済研究センターは予測している。が、このゼロコロナ政策に伴う混乱、大手ITへの弾圧政策、中国の人口動態などを見ると、中国経済はもっと早く減速する可能性が高いと考えられる。

【私の論評】ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威は地に落ちる(゚д゚)!

上の記事では、傲慢の現れたる党規約の「習近平思想」と掲載されていますが、これは間違いだと思います。ただ、上の記事は「習近平思想」という言葉自体が、書き込まれたとは書いていないので、実質上「習近平思想」が党規約に書き込まれたという意味なのでしょう。

中国共産党は10月26日、同月22日に閉会した党大会が採択した改定党規約の全文を公表しました。習近平総書記(国家主席)の地位を守ることを新たに党員の義務として付け加えました。

党大会前に大きく宣伝され、大会決議でも党員に順守が求められたことから、党規約に盛り込まれるとみられていた、「習氏の核心の地位」と「習思想の指導的地位」の「二つの確立」との表現は見送られましたが、習氏の権威を強化する改定です。

新たに明記されたのは、「習氏の全党の核心の地位」と「党中央の権威と集中的・統一的指導」の「二つの擁護」です。

2017年の前回改定で「行動指針」に加えられた「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」は今回も同じ名称で明記。同思想に対し、「21世紀のマルクス主義であり、中華文化と中国精神の時代的真髄だ」との説明が加わり、「習思想」をさらに持ち上げました。

台湾を巡り、「祖国統一を完成させる」との従来の表現に加え、「『台湾独立』に断固反対し、抑え込む」との文言が盛り込まれました。

また、米欧などと異なる独自の発展モデル「中国式現代化」、中国式の民主主義としている「全過程人民民主の整備」、「世界一流の軍隊の建設」、など習氏が強調してきた文言も新たに加わりました。

一方、「いかなる形式の個人崇拝も禁止する」との文言は引き続き明記。党総書記の権限を強める規定も加わりませんでした。

党規約に習氏の名前の登場は12回で、改革開放を指揮した鄧小平(とう・しょうへい)と同じ回数。建国の父・毛沢東の名前は13回登場しました。

ということなので、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」という言葉は依然として、残っており「習近平思想」という言葉に変わっているということはありません。

なぜ、「習近平思想」という言葉そのものにこだわるのかというと、以前このブログで述べたように、粉の言葉が党規約に直接書き込まれたとすれば、中共における習近平の独裁体制が固まったとみられますが、そうでなければ、まだ完璧ではないこと示しているとみられるからです。これについては、以前このブログても述べたことがあります。

その記事のリンクと内容の一部を以下に引用します。

習氏、3期目へ権威確立 李首相は最高指導部退く 中国共産党大会が閉幕―【私の論評】習近平の独裁体制構築までには、まだ一波乱ある(゚д゚)!

10月22日、中国・北京で開かれた共産党大会の閉幕式に出席した習近平総書記(国家主席)


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを掲載します。

党規約の中の習近平の思想が「習近平思想」と書かれるようになれば、そうして習近平が現役のうちにそうなれば、習近平の独裁体制が成立したとみなせるでしょうが、まだそうはなっていません。

習近平の独裁体制が確立できるかどうか、それまでにはまだ一波乱ありそうです。また、習近平が権力を握るにしても、握れないにしても、中国経済は以前このブログでも述べたように、国際金融のトリレンマと、米国による半導体の〝対中禁輸〟という2つの構造要因でこれから、従来のように伸びることありません。それどころか、かなり落ち込むことになります。

中国経済が誰の目からみても、かなり落ち込み続けることが明らかになる前までに、習近平が独裁体制を整えなければ、それは不可能になるでしょう。期限は来年中でしょう。

中国の党規約に「習近平思想」という文字は未だに見られません。いまでも「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」と長たらしい名前で掲載されています。

この意味についいては、以下の記事でその詳細を説明しました。

中国で進められる「習近平思想」の確立と普及―【私の論評】党規約に「習近平思想」と平易に記載されたとき、習近平の野望は成就する(゚д゚)!

2019年4月中国社会科学院が編集した『習近平新時代中国特色社会主義思想学習叢書』が出版された

 もし習近平が毛沢東主席並みに偉大な思想家であれば、シンプルに「習近平思想」とすればよいのなぜ、「習近平新時代中国特色社会主義思想」としたのでしょうか。

もうひとつは「習近平新時代」の意味するところが、よくわかりません。

結論からいえば、長い思想名となったのは政治的妥協の産物だからでしょう。演説集は、出版されているものの、著作が一作もない習氏の考え方を「思想」と位置づけて良いものなのでしょうか。

党内でも様々な意見がありながらも、周到な根回しが済んでいる重要案件を、党大会で無下に却下するわけにもいかず、そこで党内の知恵者が『新しい時代をユニークな社会主義路線で指導する習近平思想』はどうか等と提議して、双方が歩み寄った結果ではないでしょうか。

今回のデモを主催した人たちにも、このような見方はあったものと見られます。おそらく、今回こそは「習近平思想」と明記されているのではないかと、改定された党規約自体をみるまではそう考えていたのでしょう。かなりの危機感を抱えていたものと思います。

ところが、蓋を開けてみれば「習近平思想」という言葉はありませんでした。これで、今回のデモ主催した人たちは、習近平の独裁体制が確立するまでは、まだ一波乱あるだろうと、考えたのでしょう。

実際、今までにないような、中国全土にわたる抗議デモは時を同じくして全国で発生したのです。

中国共産党は、かなり大きなデモが起こったにしても、それが一箇所もしくは数か所で発生したというのなら、簡単に鎮圧、弾圧できるのでしよう。

実際、天安門事件、2012年あたりに激化した愛国反日デモも、必ずといって良いほどに反政府デモになってしまうので、これを鎮圧しましたし、香港の民主化デモも弾圧して、なきものにしました。

ただ、今回のように全国一斉のデモということになると、鎮圧・弾圧は難しいのでしょう。上の記事にもあるように、習近平自身も、中国共産党大会の直後に、このような中国各地での抗議デモが起こることは予想していなかったようですが、一度こういうことが起こると、弾圧するか民衆の要求にある程度答えてロックダウンを緩和するかのいずれかでしょう。

実際緩和の動きもみられます。ただ、いずれの方策をとっても、習近平政権への打撃は避けられないと考えられます。習近平の指導力を傷つけないでこの打撃に対応するのはかなり難しいでしょう。

デモの主催者からみれば、党規約にはっきりと「習近平思想」という言葉が掲載されれば、習近平の独裁体制は最終段階に入っとみられることから、まだ掲載されなかったものの、相当の危機感があったとみえて、今回のデモということになったのてしょう。

中国の新型コロナの新規感染者は11月23日に3万人超に達し、各地で大規模なデモが相次いだ27日には4万人を上回りました。抗議デモ後、封鎖エリアの絞り込みなど、ゼロコロナ政策を緩和する動きが次々と伝えられたのですが、実は、中国政府は3週間前の11月11日に「新型コロナ対策の“最適化” 20カ条の措置」として、ゼロコロナ政策の一部緩和を発表していました。

ゼロコロナ政策を止めると3カ月で死者160万人との試算がある一方で、仮に、ゼロコロナ政策をこのまま強行すれば、米国との経済競争に不利になる懸念は否めないです。習近平政権は、ジレンマに直面しています。

 こうした「20カ条の措置」による、ゼロコロナ緩和策を発表していたにも関わらず、中国国内の不満や閉塞感を和らげることができず、大規模デモに至ったのはなぜでしょうか。

「20カ条の措置」には、「『層層加碼(ツェンツェンジャーマー)』の取り締まりを強化し、むやみに封鎖することを禁止する」とあります。『層層加碼』とは、「下に行けば行くほど割り増しをする」ことを意味する中国の言葉です。


ゼロコロナ政策の現場では、「一層ずつ、下のレベル、現場に近いレベルに行くたびに、割り増しして、封鎖を厳しくしてしまっている」のです。中央政府からの指示が現場の行政レベルに達するまで、次々と際限なく、規制を厳しくしてしまうのです。

封鎖を緩和して、感染者が増加したとき、地方政府の官僚が自らが処罰の対象となることを恐れてのことです。 こうした『層層加碼(ツェンツェンジャーマー)』が横行する組織となっていることに、中国共産党指導部の責任は、どのように考えることができるのでしょうか。

中国共産党指導体制の信頼関係の欠如。その欠如は、『恐怖』による統治からもたらされたといえます。中国は、共産党の優位性を損なわない範囲で、ゼロコロナ政策を段階的に解除せざるを得ず、難しい舵取りを迫られることになるでしょう。

そうして、ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威か地に落ちるのは間違いないです。中共内の権力闘争にはまだ一波乱ありそうです。

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2022年12月11日日曜日

プーチン大統領に〝逃げ場なし〟ウクライナの最新ドローンがモスクワを急襲も 「ロシア側は対抗できない」元陸上自衛隊・渡部悦和氏―【私の論評】ウクライナが、今回の攻撃を実施してもほとんどの国が反対しない理由とは(゚д゚)!

プーチン大統領に〝逃げ場なし〟ウクライナの最新ドローンがモスクワを急襲も 「ロシア側は対抗できない」元陸上自衛隊・渡部悦和氏

ソ連製の偵察用無人機「ツポレフ141」

 ロシア国内の空軍基地への長距離無人機(ドローン)攻撃で、戦争は新局面を迎えた。ウクライナに残された旧ソ連時代の無人機が使われたとの見方のほか、ウクライナ製最新兵器の可能性を指摘する専門家もいる。いずれにせよ、ロシアの防空網の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈し、首都モスクワのクレムリン(大統領府)も標的となり得ることが明らかになった。ウラジーミル・プーチン大統領に逃げ場はなくなりつつあるのか。


 無人機攻撃を受けたのは、モスクワ南東リャザニ州のジャギレボ空軍基地と、南部サラトフ州のエンゲリス空軍基地。核兵器搭載可能な「ツポレフ160」や、「ツポレフ95」など主力長距離戦略爆撃機が配備されている重要拠点で、それぞれウクライナ国境から約500キロ離れている。

 ロシア国防省は、ウクライナからのソ連製無人機による攻撃と発表した。同国の軍事専門家は、1970年代に偵察用として開発された無人機「ツポレフ141」との見方を示す。航続距離は約1000キロで約150機生産され、ソ連崩壊後は大半がウクライナ領内に残されたという。

 一方、ウクライナでは国営の軍需企業、ウクロボロンポルムが航続距離1000キロ、搭載量75キロの新型攻撃用無人機のテストに成功したと地元メディア、ウクルインフォルム通信が伝えた。

 半世紀前と最新の無人機、使われたのはどちらか。元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、「両方の可能性が考えられる」としたうえで、こう解説する。

 「ツポレフ141だとすると、航続距離では到達可能だが、GPS(全地球測位システム)のない時代に開発されたものなので、攻撃の正確性からみると、GPSを付けて飛ばした可能性もある。ウクライナ製だとすると、最新の誘導装置を使った可能性もあるほか、ウクライナの特殊部隊が誘導に関わったとの情報もある。いずれにせよ、ウクライナ製無人機は今後、威力を発揮するだろう。1000キロの航続距離を持つ無人機を保有するのはほかに米国と中国ぐらいとみられ、ロシア側には対抗できる無人機はない」

 ロシア側にとっては、空軍基地にやすやすと攻撃を許した防空網の手薄さも重大問題だ。

 渡部氏は「ロシア側の防空システムは通常、近距離の対空機関砲から中距離、長距離の『S300』などの対空ミサイルによって重層的に構築される。領内への攻撃を油断して24時間体制の警戒ができていないか、戦力が不足している可能性もある」と分析する。

 無人機攻撃について米国は、アントニー・ブリンケン国務長官が「ウクライナにロシア国内への攻撃を促してもいない」とする一方、ロイド・オースティン国防長官が「ウクライナ自らの能力を高めるのは妨げない」と攻撃兵器開発を容認する姿勢を示した。

 ウクライナの政府顧問は、遠隔攻撃を「繰り返し行える。距離に制限なく、近くシベリアを含むあらゆるロシア内部の標的を攻撃できるようになる」とし、「ロシアに安全地帯はなくなるだろう」と警告している。

 ウクライナの首都キーウから750キロ程度の距離しかないモスクワも標的となるのか。

 前出の渡部氏は「ウクライナ製の無人機は理論上、モスクワも攻撃することができるが、ロシア側の戦術核使用を招きかねないなど過激なメッセージになる面もある。米国が今回、攻撃を是認したのは国際法にも合致しているからに過ぎない。ウクライナは軍事目標のみの攻撃を貫くべきだ」と述べた。

【私の論評】ウクライナが、今回の攻撃を実施してもほとんどの国が反対しない理由とは(゚д゚)!

ウクライナのクレバ外相

ウクライナのクレバ外相は8日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版のインタビューで「ロシアがウクライナで何をしてもよい一方で、ウクライナには同様の権利がないという考え方は道義的にも軍事的にも誤りだ」と述べ、ウクライナ軍はロシア領内を攻撃する権利があると主張した。

ロシア内陸の空軍基地に対する最近のドローン(無人機)攻撃への自国の関与を示唆した発言とみられる。

クレバ氏はまた、ロシアが2014年に併合した南部クリミア半島については国際的に認められた「他のウクライナ領と同じだ」と述べ、米国が供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」などをロシア領内への攻撃に使用しないとする原則は、クリミア半島への攻撃には適用されないとの認識を示した。

クレバ氏はウクライナが国の存続と領土保全のために戦っていると強調。「ロシアが崩壊したら世界が崩壊するとは思わない」と、ウクライナへの支援に当たってロシアへの配慮は不要だと訴えた。

ドイツ政府のホフマン第一副報道官

ドイツ政府のホフマン第一副報道官は9日、ウクライナへの脅威の源泉となっているロシア領内の軍事施設は、ウクライナ軍にとっての合法的な攻撃対象だと発言しました。

ホフマン第一副報道官が記者会見時に発言した。ウクルインフォルムの特派員が伝えました。

ホフマン氏は、「連邦政府は、ウクライナが行っていることは合法的だとみなしている。(中略)ウクライナは自国の領土一体性を守っているのであり、自らの攻撃によりロシア領から自国領へのあり得る攻撃を防いでいるのである」と発言しました。

同氏はまた、「ウクライナはロシアの侵略に対する防衛努力を実行する際に(その努力を)自国領に限定する義務を追っておらず、それを自国領土外でも行う権利を有している」とする独政府の見解を示し、さらに国連憲章第51条が自衛権を定めており、ウクライナは侵略を受けた国家であると指摘しました。

そして同氏は、ドイツ政府の見解では、ウクライナが行っていることは全て、ロシアの侵略への対応であると強調しました。

ウクライナ軍はロシア領内を攻撃する権利があるというウクライナのクレバ外相の発言、ドイツ政府のホフマン第一報道官の、ウクライナが行っていることは全て、ロシアの侵略への対応であるという発言の根拠はもちろん国際法だと考えられます。

国際法には戦争そのものを禁止する条約や慣習国際法が存在しますが、20 世紀に入ってから発展しました。始まりは1919 年に採択された国際連盟規約です。同規約は、国家間で紛争が生じた場合、平和的に解決することを締約国に義務付けます。

しかし、平和的に解決できなかった場合は戦争に訴えて紛争を解決することを禁止していませんでした。その後、1928 年に採択された不戦条約も戦争の違法化を追求しましたが、ここでも戦争の禁止は不完全に終わります。

国際法で戦争の完全禁止、違法化が達成されたのは第二次世界大戦後です。1945 年に国際連合の設立根拠として採択された国連憲章は、「武力による威嚇又は武力の行使」を禁止しています。これは「武力不行使原則」といって、世界中の国が遵守すべき慣習国際法としても成立しています。日本もそうです。素直に読めば、憲法9条は、国連憲章のコピーと言っても良い内容です。

ただし、武力不行使の原則が確立しているにもかかわらず、往々にして戦争が勃発してしまうことは歴史が証明しているとおりです。戦争そのものを禁止する国際法とは別に、そのひとたび発生した戦争において交戦国間の敵対行為を規制する国際法も存在します。

それが、武力紛争法で、19 世紀後半頃から発展しました。捕虜や文民等の戦争犠牲者の保護に関するもの(ジュネーブ諸条約)や、兵器等の戦闘手段・方法を規制するもの(対人地雷禁止条約、クラスター弾条約)等があります。武力紛争法は、国際人道法と呼ばれることもあります。

国連憲章のように戦争を禁止する国際法が存在していてもそれに違反する国が出てくる以上、ルールを守らせる仕組みが必要です。現代の国際社会では、武力不行使原則に違反した国が生じた場合、国連を通じた集団安全保障体制のもとでそれが予定されています。

ある国の武力行使を国連の安全保障理事会が平和に対する脅威だと認定した場合、安保理は平和を回復するために軍事的措置を含む必要な措置をとることを決定し、その後国連加盟国が集団で対応します。

しかしその決定には安保理常任理事国である中国・フランス・ロシア・英国・米国の同意が必要で、一カ国でも反対すれば決定はなされません。いわゆる拒否権の問題です。

1990 年にイラクがクウェートに侵攻して湾岸戦争が起きた際は、拒否権を行使する常任理事国がなかったため、国連の集団安全保障体制が機能しました。安保理の決定に基づき多国籍軍が展開した結果、イラクはクウェートから撤退しました。

今般問題となっているロシアのウクライナ侵攻は武力不行使原則に違反している可能性が極めて高いので、国連の集団安全保障体制が機能することが期待されます。しかし、安保理常任理事国であるロシアが拒否権を持っているため国連は行動を起こすことができず、機能不全に陥っている状態です。

なお、安保理が機能しない場合でも、国際法上ウクライナには個別的及び集団的自衛権が認められていますので、一定の要件の下でウクライナはロシアに対して武力による自衛のための措置をとることができると考えられます。

しかし、軍事力で劣るウクライナがロシアに単独で個別的自衛権を行使することは難しいと思われていたのが、今回はじめてウクライナがロシア領内の軍事目標に対して、大々的な攻撃を行ったのです。

そうして、この攻撃は国際法に合致した形で行われた模様です。今後このような攻撃が続けば、ロシアも安閑とはしていられなくなります。

今回の攻撃で破壊されたとみられるロシアの戦略爆撃機の尾翼

国連には、国際法に基づく裁判で国家間の紛争を平和的に解決することを任務とする国際司法裁判所(ICJ)が存在しますので、ウクライナ問題を司法の場で解決する方法も考えられます。しかし、ICJ の管轄権は紛争当事国双方による同意を基礎としているため、ロシアが同意しなければICJ は管轄権を行使することができません。

今年2 月にウクライナはロシアをICJ に提訴し、これを受けてICJ はロシアに対して軍事行動を停止する旨の仮保全措置命令を発出しましたが、ロシアはICJの管轄権を否定しているため、ICJ を通じた紛争解決の可能性も低いといえます。

戦争犯罪の責任者を裁いて国際の平和を回復する方法もあります。国際刑事裁判所(ICC)規程に基づき設立されたICC は、戦争犯罪等4 つの犯罪について管轄権を持ちます。ロシア軍によるウクライナの文民殺害や学校等民用物の破壊行為は戦争犯罪の構成要件に該当する可能性が高いといわれています。

仮に該当した場合、実際の犯罪行為者だけではなく、犯罪行為者を指揮する立場の者も刑事上の責任を問われることになりますので、ICC はプーチン大統領に逮捕状を出すことが可能かと思われます。しかし、ICC の捜査官がプーチン大統領の身柄を拘束するためにはロシアに入国する必要があります。ロシアがこれを許可することは考えられませんので、結局ICC で戦争犯罪の責任を追及することも難しいでしょう。

国連の集団安全保障体制の実効性が安保理常任理事国の同意に左右されること、そして国際司法の手続が関係国の同意にかかっていることに鑑みると、国際機関を通じた紛争の解決に過度に期待を寄せることはできません。

残念ですが、これが国際制度の現状で、ウクライナ問題を直ちに解決する術は存在しません。一方で、今年の3 月2 日に、国連総会でロシアを非難しウクライナからの撤退を要請する決議が採択されたことは希望ともいえます。

総会の決議に法的拘束力はないとはいえ、国連加盟国193 カ国中141 カ国が決議に賛成したという事実はロシアも無視できないでしょう。この国際的な民意はロシアの国際法の遵守にもつながりうると思います。

ロシアに否を突きつける国際世論の形成は、国の行動を決めることができる世界中の有権者の意思にかかっています。日本にいる私たちもその当事者であることを忘れるべきではありません。

さらに、軍事力で劣るウクライナがロシアに単独で個別的自衛権を行使することは難しいとみられていたものが、ウクライナは独自の方法でこれを行使することに成功したのです。

考えてみると、ウクライナはソ連の一部であったときには、兵器工場もあり、ロシアの兵器工場と、ウクライナの工場が戦車の開発競争を行ったという記録もありますし、ソ連の宇宙開発の一端を担っていたという事実もあります。

ウクライナは中国への軍事技術の提供を行い、中国の軍事技術の基礎を築いたという実績もあります。

ウクライナは発展途上国ではありますが、他の発展途上国とは異なり、ITも含む多くの産業基盤が存在しており、技術水準も高く、教育水準も高いです。そのため、戦争が始まる前には、中国人学生の手頃な留学先になっていたくらいです。

そうしたウクライナが、自前の技術力を駆使して、個別的自衛権を行使するのは、ある意味必然だったといえるでしょう。そうして、これに対してはウクライナが国際法を守った個別自衛権の行使をしている限り、いかなる国もこれに対して反対できません。

だから、ドイツはもとより、米国や西側諸国もこの個別的自衛権の行使に反対しないのです。

これに対して、ロシアが核攻撃や生物化学兵器を使用する危険が高まったとする見方もありますが、そのようなことをすれば、ロシアの国際的な地位はますます下がり、プーチンは窮地に追い込まれるでしょう。

それよりも、何よりも、ウクライナはロシアによる核攻撃や生物化学兵器の使用、特に核攻撃を未然に阻止するためもあって、ロシアの戦略爆撃機が存在する航空基地への今回の攻撃を行ったのでしょう。

今後ロシアが核兵器、生物化学兵器を用いる兆候があれば、ウクライナはこれを全力で阻止するでしょう。その警告の意味も含めて行ったのが、今回の攻撃だったと考えられます。

もう、2014年当時の軍事的に弱いウクライナは存在しないのです。元々腐敗まみれで、混乱しており、ロシアが少し脅せば、すぐに音を上げてしまうウクライナは、今や持てる技術力を最大限に生かして、ロシア国内を攻撃する強敵に変貌したのです。そうして、そうさせたのは他ならぬロシアです。

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2022年12月10日土曜日

サマーズ氏が予見、中国医療制度「壊滅的」影響も-コロナ政策転換で―【私の論評】6カ月後には、コロナ蔓延で中国はGDPで米国を追い越すと言われていたとは思えないような国に(゚д゚)!

サマーズ氏が予見、中国医療制度「壊滅的」影響も-コロナ政策転換で

「ゼロコロナ」終了に向けた動きは数十年ぶりの大きな政策転換に
中国は半年後に現在とは「極めて異なる」国になっている可能性も
    サマーズ元FRB長官

    サマーズ元米財務長官は、中国による「ゼロコロナ」政策終了に向けた動きについて、最終的に数十年ぶりの大きな政策転換になり、同国経済に極めて大きく、予測不可能な影響をもたらす可能性が高いとの見方を示した。

      サマーズ氏はブルームバーグテレビジョンのインタビューで、「どのような結果になるかはまだ分からない」と発言。「他国が受け入れている現実に中国も再び問題なく加われるのか。それとも、これにより中国の医療制度は壊滅的かつ非合法なものになるだろうか」と述べた。

      中国の保健当局は7日、新型コロナウイルス対策で10項目の新たな措置を発表。広範なロックダウン(都市封鎖)や集団隔離施設といった従来の方針から緩和した。

    習近平指導部の迅速なコロナ政策転換、中国人民の真の力を証明か 

      ハーバード大学の教授でブルームバーグテレビジョンの寄稿者であるサマーズ氏は、「中国で数十年ぶりとなる大規模な政策実験が見られることになりそうだ」と述べた。

      中国でコロナ政策の緩和が一段と進んでいることを踏まえ、エコノミストらは2023年の同国経済成長率の予想を引き上げている。JPモルガン・チェースのエコノミストは8日、経済活動の再開がスムーズに進めば5%程度のプラス成長は「達成可能」との見方を示した。

      サマーズ氏は、今後半年は中国により一層注意深く目を向けていく必要があると指摘。「6カ月後に中国が現在とは極めて異なる国になっている可能性は大きい」と語った。

    原題:Summers Sees Risk of ‘Catastrophic’ Hit to China Health System(抜粋)

    【私の論評】6カ月後には、コロナ蔓延で中国はGDPで米国を追い越すと言われていたとは思えないような国に(゚д゚)!

    サマーズ氏の予測は的中する可能性がかなり高いと思われます。その理由の一つとしては、苛烈なゼロコロナ政策に対する中国人の反発は抑えることがほとんど不可能ということがあります。

    ウルムチの火災で亡くなったカマニサハン・アブドラマンさんと3人の子どもたち

    今回のウルムチでの火事についてのSNSでの恐るべき、伝播の速度と広範さに関して、金盾で厳重にネット空間を検閲する中国政府内にそれを見逃したか、奨励した人がいるに違いないと推測する識者もいますが、実体はどうやらそうではなさそうです。

    「マラソン大会 11月27日北京時間18時 上海市太倉路のスターバックス 白い紙1枚持参 リツイート希望」

    27日、こんなメッセージが上海のネットユーザーを駆け巡ったとされています。中国で約13億人が使う中国版LINE「微信(ウィーチャット)」、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」、動画投稿アプリ「TikTok」の国内版「抖音(ドウイン)」など、様々なルートで拡散したそうです。

    この夜、少なくとも数百人が市内の通りに集まり、大学のキャンパス外では先駆けとなる大規模な抗議活動につながりました。白い紙は、言論統制への抗議を示しているとされています。

    社会の安定を最重視する中国政府は、影響力を増すネット空間の監視を強化。「グレート・ファイアウォール(ネットの万里の長城)」と呼ばれる検閲システムで海外からの情報の流入を厳しく制限しています。国内でも関係当局とプロバイダーなどが連携し、政権にとって都合の悪い書き込みなどを逐一削除しています。

    しかし、市民はその削除までの時間を日々体感し、素早い転送にも慣れています。メッセージは、デモを呼びかけていると当局が察知しない間に驚異的なスピードで拡散し、削除前に広く共有されたとみられます。

    海外サーバー経由でネットに接続できる仮想プライベートネットワーク(VPN)を使い、ツイッターのように中国国内では規制されるアプリを使っている人たちも、若者を中心に少なくないです。規制の外にあるネット空間を使った中国人同士による情報交換も、拡散につながった模様です。

    そうなると、中共としては、苛烈なゼロコロナ政策に反対するデモは、押さえつけるのはかなり難しいと判断したでしょう。

    建国以来毎年数万件発生しているとみられる、中国では通常の暴動はもとより、比較的大規模であった天安門事件や、いつの間にやら反政府デモになってしまう反日デモ、香港の反政府デモであっても、軍事力等を背景に中共はこれを弾圧することに成功しました。

    しかし、今回のように非常に広範囲で、同時に起こるデモに対しては、弾圧しようがなかったみえます。

    香港民主化デモに対する弾圧

    中共としては、デモを弾圧する上で、苛烈なゼロコロナ政策を継続すべきか、それともデモが起らないように、ゼロコロナ政策を緩めるかの選択に迫られたものとみられらます。中共としても、苦渋の決断だったと思います。

    そうして、結局ゼロコロナ政策を緩める方向に舵を切ったとみられます。ただ、これは国民の要求に耳を傾けたなどのことではなく、ゼロコロナ政策の限界を感じたことと、暴動が頻発するくらいなら、コロナが蔓延して、暴動が起らないようにしたほうが、中共にとっては、得策であると判断した可能性があります。

    新型コロナウイルスを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策を突如緩和した中国には今後、難題が控えています。感染者の急増が見込まれ、死者は200万人を超えるとの予測もあります。

    世界最大の人口を抱える中国は、厳格なコロナ対策の柱だった全員検査やロックダウン(都市封鎖)、集中隔離を次々と取りやめました。ところが、一連の緩和策で生じる爆発的な感染拡大への対応に備える時間はほとんどありませんでした。一部の推計によれば、ピーク時には1日当たりの感染者が計560万人に上る可能性もあります。

    米欧で起きたもぐらたたきのような感染拡大パターンとは異なり、コロナに今までさらされてこなかった市民が多い中国では感染の波が一挙に襲ってくる公算が大きいです。

    このため、中国がコロナ感染症を受け入れるなら、パンデミック(世界的大流行)でこれまで見られなかったようなことが今後起きると考えられます。

    相次ぐ欠勤で工場の操業に支障が生じるほか、病院は重症者であふれ、感染拡大を受けて住民は自宅にこもることを余儀なくされ、科学や経済の専門家は混乱が迫っているとの見方を示す。ロンドン拠点の調査会社エアフィニティの推計によると、香港のオミクロン株の経験を基に、130万-210万人が命を落とす恐れがあるといいます。

    ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)教授で、公衆衛生担当の最高戦略責任者を務めるアリ・モクダッド氏は「ほぼ同時に全国的に広がるだろうが、密集度から見てまず都市部、それから農村部となりそうだ」と分析。「今から1カ月後、感染者は非常に多くなり、その2週間後に死者が急増するだろう。現在の状況に戻ることはない」としています。

    この予測に基づくと、感染者のピークは来年の春節(旧正月)連休に近くなる可能性があります。


    上の写真は、寒さのためひとけのない春節のショッピングセンターで、大量の風船を手にひとりすわる人の写真です。この写真が2016年には、中国のSNSで「さびしい」と話題になりました。「#さびしい」とハッシュタグをつけられ、拡散されました。来年の春節には、このような風景があちこちでみられることになるかもしれません。

    日本では、中国のアウトバウンドを期待するむきもあるようですが、おそらく無理でしょう。多くの人が、感染を恐れて、海外旅行どころではなく、外出することすらためらうようになるでしょう。

    こうなると、国民はデモどころではなくなります。中共の指導層は自分たちは、米国製ワクチンや薬を確保するとともに、自らを一般人から隔離する体制を強化しつつも、できるだけ安寧な生活ができるように準備して、医療体制も整え、大きな嵐が過ぎ去るのを待つつもりなのかもしれません。

    全体主義国家の中共を甘く見るべきではありません。経済がどうなろうと、自国民が多数命を失おうが、体制を守り通そうとするのが彼らです。

    以上のようなことを考えると、サマーズ氏の「6カ月後に中国が現在とは極めて異なる国になっている可能性は大きい」という予測は的中する可能性が高いです。

    サマーズ氏は、8月の時点で、サマーズ元米財務長官は中国が経済規模でやがて米国を上回るとの予測を巡り、ロシアや日本が米経済を上回るとした過去の外れた予言と相通じる部分があるとの見解を示していました。

    サマーズ氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「半年ないし1年前の時点では、中国が将来のある時点において実勢為替レートで見た国内総生産(GDP)で米経済を追い抜くというのが自明と受け止められていた」とした上で、「今ではそれほど明確ではない」と述べました。

    サマーズ氏は「1960年代のロシア(旧ソ連)や90年代の日本について語られた経済予測を振り返った場合と同様に、2020年時点の中国に関する幾つかの予想に関しても振り返ることになるのではないか」と話しました。

    サマーズ氏は中国が抱える次の「さまざまな」課題を列挙しました。
    • 対GDP比での巨額の債務残高
    • 将来の成長を主導するダイナミクスが何か明確でない点
    • 一段と広範な民間企業への共産党の関与拡大
    • 労働年齢人口の縮小や総人口に占める高齢者の割合増加といった人口動態のパターン
    6カ月後には、中国は国内生産(GDP)で米国を追い越すと言われていた国とは思えないような国になっている可能性が高いです。



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