2024年12月18日水曜日

トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有―【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面

トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有

まとめ
  • トランプ次期大統領は、アサド政権崩壊後のシリアでトルコが鍵を握るとの見解を示した。
  • トルコの軍事力は「戦争で疲弊していない」とし、エルドアン大統領との良好な関係を強調した。
  • 米国はシリア東部に約900人の部隊を駐留させているが、その将来については明言を避けた。
トランプ次期大統領

トランプ次期米大統領は16日、アサド政権が崩壊したシリアの将来について、「トルコが鍵を握る」との見解を示した。

トランプ氏はフロリダ州パームビーチの私邸「マール・ア・ラーゴ」で行った記者会見で、トルコの軍事力は「戦争で疲弊していない」とした上で、「現在のシリアには多くの不確定要素がある。トルコがシリアの鍵を握るだろう」と述べた。

米国は現在、過激派に対する抑止力としてシリア東部に推定900人の部隊を駐留させている。トランプ氏はこの部隊の将来について明確な回答を避け、代わりにトルコ軍の強さとトルコのエルドアン大統領との良好な関係を強調。「エルドアン氏と良好な関係を構築した。同氏は強力な軍隊を築き上げた」と語った。

独裁政権崩壊後のシリアで、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するトルコが果たす役割についてトランプ氏が発言するのは今回が初めて。

【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面

まとめ

  • トランプ第一次政権は2018年12月にシリアからの米軍撤退を決定し、実質的に撤退したが、数百人の米軍は残留した。
  • エルドアン首相はISの掃討とアサド政権との対峙を表明し、トランプ大統領はNATOの同盟国トルコに任せる判断を下した。
  • 米国内でのシェールオイル・ガスの発掘により、シリアの原油の魅力が薄れ、アメリカは中国との対峙にリソースを振り向ける方が得策と考えた。
  • トルコがシリアに新たな親トルコ政権を樹立すれば、エネルギー地政学での地位を強化し、EUへのエネルギー供給の中継地としての役割を果たす可能性がある。
  • 今後のシリア情勢はトルコの動向に大きく影響され、トランプ政権の決断が中東及び世界の地政学を変える可能性を秘めている。

米軍のシリア撤退 2018年

トランプ第一次政権は、2018年12月にシリアからの米軍撤退を回りの反対を押し切って、決定した。現実には、わずか数百人の米軍を残したが、実質的に撤退した。

これについて、このブログにも何度か掲載したことがあるが、その理由は以下に集約される。
エルドアン首相は、トランプ氏に対しISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明した。トランプ大統領は、この状況で米国としてはNATOの同盟国であるトルコに任せるべきと判断したと考えられる。これにより、米国はシリアに拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると見込んだのだ。さらに、トランプ氏はIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約を果たすことにもなった。

当時、米国内ではシェールオイル・ガスが発掘され、シリアの原油はトランプにとって魅力を失っていた。米国がシリアに拘る理由が薄れ、莫大なリソースを中国との対峙に振り向ける方が得策だと考えたのだろう。
エルドアン トルコ大統領とトランプ米大統領
こうなると、トランプ政権が今後クルド人勢力に支援してまでシリアで覇権を行使する理由は見当たらない。あくまでトルコに任せる姿勢を維持するだろう。イスラエルも混乱が続くよりは、こちらの方を望むだろう。

当面は混乱が続くかもしれないが、HTSがトルコの支援を受けつつ勢力を拡張し、いずれイラクの大部分を統治する可能性が高い。トルコもその方向で動くことが予想される。以前このブログでも述べたように、シリアに新たな親トルコ政権ができれば、トルコは「エネルギー地政学」での地位をさらに強化できる。現在、シリアとトルコ間には石油・ガスのパイプラインは存在しないが、これが実現すれば、トルコはEUに対するエネルギー源の中継地を押さえることになる。トルコがその機会を逃すはずはない。

米国とは異なり、未だに中東の石油に大きく依存する日本は、今後トルコとの関係をさらに強めていくべきだ。秋篠宮皇嗣同妃両殿下は、令和6年12月3日から8日までの6日間、日本とトルコの外交関係樹立100周年を記念してトルコ共和国を公式にご訪問遊ばされた。このご訪問は、まさに時宜を得たものである。

そうして当時このようにトランプが決断した背景には、米国の戦略家ルトワック氏の分析が影響したか、影響していないとしても、似たような考えがあったものとみられる。これについて以前このブログにも掲載した事があるので以下に再掲する。

ルトワックが2013年にシリアに関する記事をニュヨークタイムズに寄稿をしている。その中に戦略が掲載されている。その記事のリンクを以下に掲載する。

In Syria, America Loses if Either Side Wins

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下のこの記事の邦訳を要約したものを掲載する。
どちらが勝ってもアメリカはシリアで敗北する
2013年 8月24日 byエドワード・ルトワック
先週の水曜日にシリアのダマスカス郊外で化学兵器が使用され、多数の民間人が犠牲になったという報道があった。この状況にもかかわらず、アメリカ政府はシリア内戦への介入を避けるべきだとされている。なぜなら、アサド政権が勝利すればイランの影響力が強まり、シーア派とヘズボラの権力が増すことになるからだ。一方で、反政府勢力が勝利すれば、アルカイダなどの原理主義グループが台頭し、アメリカに対して敵対的な政府が誕生する可能性が高い。

このため、アメリカにとって最も望ましい結果は「勝負のつかない引き分け」であり、アサド政権と反政府勢力が互いに消耗し合う状態を維持することが重要だとされている。これにより、アメリカやその同盟国への攻撃を防ぐことができる。しかし、この戦略はシリアの人々にとっては非常に残酷な結果をもたらす可能性がある。反政府勢力が勝利すれば非スンニ派は排除され、アサド政権が勝てば新たな抑圧が待ち受けている。

アメリカは、アサド側が優勢になれば反政府勢力に武器を供給し、逆に反政府勢力が優勢になればその供給を止めるという戦略を取るべきだ。この戦略はオバマ政権が採用してきたものであり、慎重な姿勢を非難する声もあるが、実際にはアメリカが全面的に介入することは現在の国内情勢では支持されにくい。したがって、今のところは「行き詰まり状態」を維持することがアメリカにとって唯一の実行可能な選択肢である。

米国が望む望まないに限らず、トランプ大統領がシリア撤退を決めた当時の米国のイラク政策はこれに近い政策になっていたとみられる。 いわゆる泥沼の状態に陥っていたのだ。頑固なマティスはこれを理解せず、イラク撤退に最後まで反対し、トランプ大統領に解任されたとみられる。

そこに、トルコのエルドアン首相は、トランプ氏に対しISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明した。トランプ大統領は、この状況で米国としてはNATOの同盟国であるトルコに任せるべきと判断したと考えられる。これにより、米国はシリア等の中東情勢に拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると見込んだのだ。さらに、トランプ氏はIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約を果たすことにもなった。

このようなトランプ氏が、アサド政権が崩壊したシリアの将来について、「トルコが鍵を握る」との見解を示すのは当然だし、実際にそのような方向に進むだろう。米国はよほどのことがない限り、シリアに再介入することはないし、余程極端なことをしない限り、トルコがシリアに介入することを許容するだろう。

シリアの首都ダマスカス北部で、イスラエルの夜間攻撃を受けた国防省傘下のバルゼ科学研究センター(2024年12月10日)

イスラエルは、アサド政権崩壊以来、シリア国内に何百回もの爆撃を行ったが、これはアサド政権が崩壊して、力の空白き出来上がり、アサド政権のリソース、特に化学兵器を含む武器が武装組織にわたり、イスラエル脅威になることを避けるために行ったものとみられる。

米国がトルコの介入を許容し、それで武装勢力の活動が抑えられるというのなら、イスラエルにとっても脅威が取り除かれるし、イラク情勢が混乱を極めこちらがわに軍事力が分散されることは避けたいので、これに反対する理由は見当たらない。イランはこの動きを止めるには、現状では弱体化しすぎている。

今後のシリアの将来について、「トルコが鍵を握る」との見解は正しい。アメリカの戦略がどうであれ、シリアの状況はトルコの動向に大きく影響されることは間違いない。トランプ政権の決断は、中東のそうして世界の地政学を変える可能性を秘めている。

【関連記事】

アサド氏失脚、イランに「歴史的規模」の打撃―【私の論評】イランの影響力低下とトルコの台頭:シリアの復興とトルコのエネルギー戦略 2024年12月12日

シリア、アサド政権崩壊で流動化 戦況混迷、収拾めど立たず―存在感高めるトルコ―【私の論評】シリア内戦とトルコの戦略:秋篠宮両殿下のトルコ訪問が示す新たな展望 2024年12月11日

「アサド家」の統治、あっけない終焉 要因はロシアとイラン勢力の弱体化 シリア政権崩壊―【私の論評】地中海への足場が失われ露の中東・アフリカ戦略に大打撃 2024年12月9日

「エネルギー地政学」で最重要国となったトルコ 世界のパイプラインがトルコに結集する現実―【私の論評】米国のイニシアチブで当面トルコを牽制しつつ、日米は小型原発の開発を急げ 2023年8月23日

米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した 2018年12月23日

2024年12月17日火曜日

<正論>別姓でなく通称使用法の制定を―【私の論評】夫婦別姓絶対反対!文化・法的背景と国際的事例から見る家族制度の重要性

<正論>別姓でなく通称使用法の制定を 

国士舘大学名誉教授、日本大学名誉教授・百地章

まとめ
  • 選択的夫婦別姓法案の提出: 立憲民主党の野田代表は、来年の通常国会に選択的夫婦別姓法案を提出し、自民党に揺さぶりをかける意向を示している。
  • 国民の意見: 国民の6~7割が同姓支持であり、通称使用を認める意見が多数を占めている。内閣府調査では、同姓維持・通称使用が42.2%を占め、別姓支持は20~30%にとどまる。
  • 親子別姓の懸念: 選択的夫婦別姓制では、子供には親子別姓が強制されることから、69%の国民が子供に悪影響を及ぼすと懸念している。
  • 経団連の提言と家庭視点の欠如: 経団連の提言が夫婦別姓論議を後押ししているが、経済的視点からのみで家庭や家族の視点が欠落していると指摘されている。
  • 通称制度の法的強化: 通称制度を法律上の制度に格上げし、旧姓の法的根拠を明確にする必要がある。住民票に旧姓を併記する改正が提案されている。

百地章氏

 立憲民主党の野田佳彦代表は、来年の通常国会に選択的夫婦別姓法案を提出し、自民党に圧力をかける意向を示している。夫婦別姓法案は平成8年に法制審議会が提案したものであるが、30年近く成立していない。その理由は、国民の多数が同姓を支持しているからである。具体的な調査によると、同姓の維持と通称の使用を支持する声が約70%に達しており、別姓の支持は20~30%にとどまっている。このことは、国民の意見が法案の成立に影響を与える重要な要素である。

 さらに、選択的夫婦別姓制では、子供に親子別姓が強制されるため、国民の69%がこの制度が子供に悪影響を与えると考えている。具体的には、友人から親と名字が異なることを指摘されることや、名字の異なる親との関係に違和感や不安感を覚えることが多いとされている。このような意見は、子供の視点から見ても重要である。

 また、経団連の提言が夫婦別姓論議を後押ししているが、経団連の提言は主に企業の経済的合理性に焦点を当てており、家庭や家族の視点が欠落していると指摘されている。記者会見では、経団連の幹部が子供への影響の重要性を認めながらも、具体的な対策を考えていないと述べている。

 さらに、子供たちの91%が将来同姓を名乗りたいと希望していることも注目すべき点である。これに対して、親の利益が優先され、子供には親子別姓を強制する選択的夫婦別姓制は、児童の権利条約にも反する可能性がある。

 通称制度に関しては、現在の制度の法的根拠を明確にし、使用範囲を拡大することが求められている。現在の通称制度は住民基本台帳法の施行令に基づいているが、法律上の制度に格上げすることで、社会生活上の不便を解消することが可能である。このような法律の目的は、夫婦同姓制度のもとで通称の法的根拠を明確にし、国や自治体、民間企業に対して使用範囲の拡大を促すことである。具体的には、住民票の記載事項を改正し、旧姓を併記できるようにする方法が考えられている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】夫婦別姓絶対反対!文化・法的背景と国際的事例から見る家族制度の重要性

まとめ
  • 夫婦同姓の重要性: 約70%の人々が同じ姓を名乗ることが家族の一体感を高めると認識しており、特に子供に安定した環境を提供する。
  • 文化的背景: 韓国や中国の文化では姓が家系や血縁を象徴し、夫婦同姓がその象徴と見なされている。
  • 法的課題: 夫婦別姓を導入した場合、子供の姓や親子関係に関する混乱が生じる可能性があり、戸籍制度の複雑化も懸念される。
  • 国際的な失敗事例: スウェーデンやフランスなどで夫婦別姓が導入されているが、社会的な混乱やアイデンティティの問題が報告されている。
  • 結論: 夫婦別姓の議論は単なる姓の選択にとどまらず、家族の絆や伝統、法律上の課題、社会的価値観に深く関わっている。夫婦同姓が家庭や社会における安定を保つための重要な要素であり、「家族の名は、家族の未来そのものである」と言える。
夫婦別姓反対集会

夫婦別姓に反対する立場には、文化的、社会的、法的な理由に加え、戸籍制度や皇族への影響、さらには夫婦別姓が導入された国での失敗事例も重要な要素として位置づけられる。以下に、具体的なエビデンスやエピソードを交えながら、深く掘り下げていくことにする。

まず、夫婦同姓が家族の一体感を強化するという観点がある。日本の調査によれば、約70%の回答者が「同じ姓を名乗ることが家族の一体感を高める」と回答している。これは家族のアイデンティティを強化し、特に子供に安定した環境を提供することに寄与するのだ。

実際、夫婦同姓を選んだカップルの中には、子供が「家族の一員である」と強く感じることができたというエピソードが多く寄せられている。こうした実情は、家族が一つの姓を共有することの重要性を物語っている。

次に、伝統的な家族制度の維持が重要な理由として挙げられる。多くの文化において、姓は家系や血縁を象徴する重要な要素である。特に韓国や中国の儒教文化では、家族名を守ることが非常に重要視され、夫婦同姓はその象徴と見なされている。韓国の家庭では、結婚後に妻が夫の姓を名乗ることで家族の名を継承し、子供たちにとっても誇りとなる。このような文化的背景は、家族の安定性を支える重要な要素であると言える。

法律や制度の整備が不十分であることも反対の理由として挙げられる。選択的夫婦別姓を導入した場合、子供の姓や親子関係の扱いについて混乱が生じる可能性が高い。2017年の研究では、姓が異なることで子供が学校でのアイデンティティに悩むケースが報告されている。姓の違いによる社会的な孤立やいじめのリスクが指摘されており、これは子供の心理的な安定に大きな影響を与えるものだ。

[附録第六号 戸籍の記載のひな型(第33条関係)]

さらに、戸籍の観点からも反対の意見がある。日本の戸籍制度では、夫婦は同じ姓を名乗ることで家族としての一体性が明確に示される。戸籍は家族の法的な身分を示す重要な文書であり、夫婦同姓を通じて家族の構成が明確になる。夫婦別姓が普及すると、戸籍における家族の構成や法的な関係が複雑化し、特に子供の姓や親権に関する問題が生じる可能性がある。このような混乱は、法律的なトラブルを引き起こす要因ともなる。

夫婦別姓が進むことで、社会全体の価値観や家族への認識が変化し、個人主義が強まることに対する不安もある。ある社会学者の研究によれば、家族の一体感が強いほど地域社会における結束力が高まるとされる。地域コミュニティでは、家族が同じ姓を持つことが地域のイベントや協力活動において重要視されており、姓の共有が地域社会の絆を強化している事例が多く存在する。

皇族に関しては、夫婦同姓の制度が特に重要視される。日本の皇族では、血統や家系の継承が極めて重要であり、同じ姓を持つことが家族の一体感や血統の明確さを保つために不可欠である。皇族の婚姻では姓の統一が家系の存続や社会的な安定に寄与すると考えられており、夫婦別姓が普及することで皇族の伝統や家系の継承に悪影響を及ぼす可能性があると懸念されている。

さらに、夫婦別姓を導入した国の中には、制度が期待通りの結果をもたらさなかった事例が数多く存在する。例えば、スウェーデンでは夫婦別姓が一般的だが、姓の選択が家族間での混乱を引き起こすことがある。子供が両親の姓を持たない場合、学校でのアイデンティティの問題や社会的な孤立を経験することがある。また、フランスでも夫婦別姓が認められているが、多くの夫婦が結婚後に夫の姓を選ぶ傾向があり、姓の選択が必ずしも女性の地位向上に繋がるとは限らない。


イタリアやカナダ、オーストラリアでも同様の問題が指摘されている。夫婦別姓が導入されると、家庭内での姓の不一致が問題となり、社会的な混乱を招くことが多い。これらの事例は、夫婦同姓が家庭や社会における安定性を保つための重要な要素であることを示している。

また、中国と韓国の夫婦別姓についても触れておく。中国では、夫婦別姓が法的に認められているが、伝統的には結婚後に女性が夫の姓を名乗ることが一般的である。1950年に施行された「婚姻法」において、夫婦は姓を自由に選ぶことができるとされているが、実際には多くの女性が夫の姓を選ぶ傾向が強い。一方、韓国では、1958年に施行された民法により、結婚後に夫婦が同じ姓を名乗ることが義務付けられており、現在、夫婦別姓を選択することはできない状況にある。

結論として、夫婦別姓の議論は単なる姓の選択にとどまらず、家族の絆や伝統、法律上の課題、社会的価値観に深く関わっている。夫婦同姓が家庭や社会における安定を保つための重要な要素であることを考えると、「家族の名は、家族の未来そのものである」と言える。これこそが、家族の絆を守るための道であり、私たちが未来に向けて選ぶべき選択肢なのだ。

【関連記事】  

葛城奈海氏、国連女子差別撤廃委員会でスピーチ「日本の皇位継承は尊重されるべき」―【私の論評】守るべき皇統の尊厳 2024年10月21日

二重国籍解消の自民・小野田紀美氏が蓮舫氏を猛批判「ルーツや差別の話なんか誰もしていない」「合法か違法かの話です」―【私の論評】日本でも、国会議員や閣僚は、多重国籍を禁止すべき 2017年7月17日

日本にはなぜお寺や神社が多いの?−【私の論評】当たり前になっている日本を再発見しよう!! 2012年9月10日

2024年12月16日月曜日

「178万円玉木案」を否定…”何としてでも減税額をゼロに近づけたい”財政緊縮派の「ラスボス」宮沢洋一・自民党税調会長の正体―【私の論評】宮沢洋一氏の奇妙な振る舞いと自公政権の変化:2024年衆院選後の財政政策の行方

「178万円玉木案」を否定…”何としてでも減税額をゼロに近づけたい”財政緊縮派の「ラスボス」宮沢洋一・自民党税調会長の正体

まとめ
  • 補正予算が通過した後、国民民主党の178万円への年収壁引き上げ案が拒否され、自民党は123万円の提案を行った。
  • 宮沢洋一・自民党税調会長がこの提案の中心人物であり、彼は財務省のイデオロギーを強く支持している。
  • 103万円の年収壁は当時の最低賃金に基づいて設定され、現在の物価状況を考慮すると178万円に引き上げる必要がある。
  • 宮沢氏の123万円案は憲法に反し、国民の生活や権利を軽視するものとして強い批判を受けている。
  • 財務省の緊縮政策に対抗するため、国民が財務省の影響を認識し、財政に関する権利を取り戻す重要性が強調されている。

ラスボスとは《「ラストボス」の略》ロールプレーイングゲームシューティングゲームなどの最後に登場する敵

国会で補正予算が通過した後、立憲民主党は財務省の意向を受けて減額を求めたが、与党はこれを拒否し、当初の金額案がそのまま通過した。この結果、一つの問題は解決したものの、すぐに新たな問題が浮上した。それは、国民民主党が提案した年収の壁を178万円に引き上げる案が拒否されたことである。代わりに、自民党は123万円までの引き上げを提案した。この提案をまとめたのが、宮沢洋一・自民党税調会長である。

宮沢氏は「ミスター財務省」とも呼ばれる存在であり、財務省出身の政治家として知られている。彼は、かの宮沢喜一元総理の甥であり、東京大学を卒業後、財務省に入省し、その後自民党の政治家に転身した。自民党内では、彼は岸田元総理の従兄弟でもあり、政府の増税政策を推進する重要な役割を担っている。自民党内では、年収の壁の引き上げについて、玉木案の178万円ではなく、物価上昇率に基づく120万円程度を支持する声が根強く存在している。

しかし、103万円という年収の壁は、当時の最低賃金に基づいて設定されており、現在の物価状況を考慮すると178万円に引き上げる必要があると多くの専門家が指摘している。実際、最低賃金は当時の611円から1055円に引き上げられており、103万円という基準は過去の物価水準に基づいているため、現代の生活実態に合わなくなっている。この問題の背景には、国民が憲法で保障されている健康で文化的な最低限の暮らしを営むためには、103万円以上の年収が必要であるという論理がある。したがって、103万円以下の年収の人から税金を徴収することは、憲法で定める生存権を侵害することになる。

宮沢氏の提案する123万円案は、憲法が保障する健康で文化的な生活を維持するための基準を無視したものであり、国民の生活や権利を軽視するものとして批判されている。国民民主党や一般市民からの強い反発を招いており、批判は広がっている。しかし、宮沢氏自身は「誠意を見せた積り」と述べ、批判を浅はかなポピュリズムとして一蹴している。彼は国家のために財政規律を守る責任を強調し、国民の批判に対して無関心な態度を貫いている。このような姿勢は、国民の信頼を失う要因となっていることは間違いない。

宮沢氏は単なる「財務官僚に洗脳された自民党議員」ではなく、財務省のイデオロギーを深く理解し、自民党内にそれを広める役割を果たしている。財務省出身の国会議員は多く存在するが、税調会長にまで上り詰めることができるのは、彼のような純粋に「財務省の工作員」である場合に限られる。宮沢氏はその立場を利用して、税務調査会という組織を通じて自民党内の財務省の影響力を強める活動を行っている。

今回の提案は、財務省の緊縮政策に対する国民の理解を深める重要な機会となり、宮沢氏は「ラスボス」として注目を集めている。ネット上でも彼の名前や顔が広まり、財務省の緊縮派の代表としての悪行が拡散されている。国民は、この機会を通じて財務省の影響を認識し、財政に関する権利を取り戻す重要性を再認識する必要がある。

国民がこの問題を理解し共有することで、財務省に奪われた「財政・税制に関する主権」を取り戻すことが可能になると期待されている。今後の政治において、国民の声がどのように反映されるかが注目される。財務省の緊縮政策が続く限り、国民の生活は困難な状況に置かれる可能性が高い。したがって、この流れが、今後の政治における重要な転機となることを願っている。国民が団結して声を上げ、財務省の政策に対抗することが今求められている。 

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】宮沢洋一氏の奇妙な振る舞いと自公政権の変化:2024年衆院選後の財政政策の行方

まとめ
  • 宮沢洋一氏がクローズアップされた背景には、自公政権が2024年の衆院選で大敗し、少数与党に転落したことがある。この結果、自民党と公明党は議席を大幅に減らし、政策決定において野党との協議が不可欠となった。
  • 国民民主党は年収の壁や税制改革に関する提案を行い、特に178万円への引き上げを支持されている。この提案は与党に対する圧力となり、政策議論に新たな視点を提供している。
  • 宮沢氏は自民党の税調会長として財務省の意向を反映させた政策提案を行っているが、自民税調は自民党の内部組織であり、税制は国会で論戦を経て決定されるべきである。彼の振る舞いは、自公が小数野党になった現実を直視せず、慣例をいまだに絶対としているという点で滑稽でさえある。
  • 自公政権が少数与党に転落している中で、宮沢氏の奇妙な振る舞いが目立ち、少数与党の現実を認識しない姿勢が国民の期待にそぐわない。
  • 日本では税制改正の権力が与党税調に集中しており、年に一回の税制改革という異様なルールが根付いている。これを変えるべきである。


最近宮沢洋一氏が奇妙にクローズアップされた背景には、自公政権が2024年の衆院選で大敗し、少数与党に転落したことが大きく影響している。この選挙の結果、自民党と公明党は議席を大幅に減らし、過半数を維持できない状況となった。これにより、政府の政策決定において野党との協議が不可欠となり、自民党単独の意見だけではなく、より多様な意見を取り入れる必要が生じている。

国民民主党は、年収の壁や税制改革に関する提案を通じて、財政政策において重要な役割を果たすようになった。特に、年収壁の引き上げに関する議論では、国民民主党が178万円への引き上げを提案し、多くの国民から支持を受けている。このような提案は、与党に対する圧力となり、政策の議論に新たな視点を提供するものである。

宮沢氏は自民党の税調会長として、財務省の意向を強く反映させた政策提案を行っているが、自民税調はあくまで自民党の内部組織であり、本来は国会での論戦を経て税制が決定されるべきである。これまで実質的に税制が自公与党が圧倒的な多数であったことを背景に自民党内部で決められてきたのは単なる慣例に過ぎず、そのことを理解しない彼の振る舞いは滑稽であり、醜悪さすら感じさせる。

自公政権が少数与党に転落しているにもかかわらず、宮沢氏の奇妙な振る舞いが目立っている。彼は、少数与党という新たな現実を認識せずに、自身の意見が重要視されべきであると信じ込んでいるかのようであり、その姿勢は国民の期待とはかけ離れたものである。国民の関心が高まる中で、彼の提案が注目されるのではなく、むしろその不適切さが一層浮き彫りになっている。

このような状況は、宮沢氏が自身の立場を誇示することが、かえって国民の理解を得ることから遠ざかっていることを示している。彼の振る舞いは、与党が直面している政治的困難を無視し、単なる内部組織の慣例を前提にしたものであり、今後の政策形成において、より広範な議論が求められる。国民が期待するのは、真摯な議論を通じた健全な政策決定であり、宮沢氏のような姿勢ではない。 

現在までの自民党税制調査会が主体となって行われる税制改正のプロセスでは、与党税調で税制改正の要望が審議され、その結果を踏まえて税制改正法案が翌年の通常国会に提出される。以下に過去の年度のプロセスをまとめた表を掲載する。

しかし、税制改正のための法案は、通常国会や臨時国会の会期中に提出して成立させることができないという法律は存在しない。そのような制限は法的にない。現在の税制改正のプロセスは、自民党のルールであって国会のルールではない。

多くの先進国では、税制改正のための法案を通常国会や臨時国会の会期中に提出して成立させることができる。そのため、税制改革の機会は、年に複数回あることが一般的だ。

例えば、米国では、税制改正のための法案は、大統領が国会に提出することができる。また、英国では、財務大臣が税制改正のための法案を国会に提出することができる。

宮沢税調会長 こちらが本当の増税メガネ?

このようなルールの存在は、民間企業では絶対に許されない。例えば、ある企業が、新たな商品やサービスを導入するために、社内会議や役員会で議論を重ね、半年以上かけてようやく導入を決定したとする。しかし、その間に、競合他社が先行して市場に参入してしまい、企業の業績に悪影響を及ぼしてしまったとする。しかし、年一回しか決められないので、これに対処しない等ということなど決して許されるものではない。

このような状況は、民間企業であれば、経営陣の能力不足として厳しく批判されるだろう。 以下に、民間企業でたとえると、どのような状況になるか、具体例をいくつか挙げる。

  • 商品やサービスの価格改定を、年に1回しかできない。
  • 従業員の給与や福利厚生を、年に1回しか改定できない。
  • 新規事業の立ち上げを、半年以上かけて検討しなければならない。
  • 不採算事業の撤退を、役員会で多数決で決めなければならない。

これらのルールは、民間企業であれば、経営効率の低下や競争力の低下を招くため、絶対に許されないというか、外部環境の変化に耐えられず、早期に崩壊し倒産に追い込まるだろう。

日本では、税制改正の権力が与党税調に集中していることが、年に1回の税制改革というルールの原因と考えられる。

自公政権が小数野党になったことを機に、異様な税制改正のプロセスを根本的に改めるべきだ。

【関連記事】

“トランプ氏 安倍元首相の妻 昭恵さんと夕食会を予定”米報道―【私の論評】日米関係強化の鍵:トランプ氏が昭恵夫人に会う理由と石破政権のリスク 2024年12月14日

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣―【私の論評】岩屋外務大臣の賄賂疑惑が日本に与える影響と重要性が増した企業の自立したリスク管理 
2024年11月22日


税制改正、「官邸vs自民税調・財務省連合」の政治力学 細かな増税重ね緊縮路線へ―【私の論評】警戒せよ、緊縮で日本経済はまた停滞する 2017年12月13日

2024年12月15日日曜日

英国のTPP加盟が発効 12カ国体制で2300兆円規模の経済圏が始動―【私の論評】TPP加盟国の経済発展と米国への影響:競争激化と関税政策のリスク

英国のTPP加盟が発効 12カ国体制で2300兆円規模の経済圏が始動

まとめ
  • 英国の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への新規加盟が正式に発効し、TPPは12カ国体制となった。
  • 英国の加盟により、世界のGDPの約15%にあたる経済圏が拡大し、物品の99%以上の関税が撤廃される見込み。
  • TPPへの加盟国には中国や台湾、ウクライナなどがあり、今後の動向が注目されている。

英国の象徴ビッグベンと国旗 AI生成画像

英国の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への新規加盟を認める議定書が15日、正式に発効した。英国の加盟によりTPPは12カ国体制となり、英政府によれば世界のGDP(国内総生産)の約15%にあたる12兆ポンド(約2331兆円)の経済圏に拡大した。

日本やオーストラリアなどが参加するTPPは、米国の離脱を経て、2018年に11カ国で正式に発足した。

英国は20年1月に欧州連合(EU)を離脱した後、TPPへの参加を通商政策の柱に据え、21年に加盟を申請した。23年に加盟交渉を終え、同年7月に加盟議定書に署名した。英国に加えて6カ国以上が今年10月までに議定書を批准したことから、年内の加盟が決まった。

英国は、欧州からの唯一の加盟国となる。

英政府によると、TPPへの加盟により、英国からTPP参加国に輸出されている物品の99%以上の関税が撤廃される。また、40年までに英経済を年間約20億ポンド(約3885億円)押し上げる効果が見込まれるとしている。

TPPには中国や台湾、ウクライナなども加盟を申請している。

【私の論評】TPP加盟国の経済発展と米国への影響:競争激化と関税政策のリスク

まとめ
  • 競争の激化: TPP加盟国の先進国(日本、オーストラリア、カナダ、英国など)の経済成長により、米国企業は新たな競争相手に直面し、特に製造業や農業での競争が激化する。
  • 関税政策の影響: トランプ政権の高関税政策は、米国の消費者に高い価格を転嫁し、特に低所得層に悪影響を及ぼす可能性が高い。
  • 経済成長の鈍化リスク: 高関税が持続することで、輸入品の価格が上昇し、消費者の購買力が低下し、米国経済全体の成長が鈍化するリスクがある。
  • 貿易関係の悪化: 長期的な関税の維持は、貿易相手国との関係を悪化させ、報復関税の導入を招く恐れがある。
  • TPPのルールの重要性: TPPの通商ルールは国際関係を考慮した新しいものであり、日本がリーダーシップを発揮して加盟国を拡大し、さらにTPPの通商ルールをWTOのルールに反映させるべきである。

大統領令にサインするトランプ大統領 AI生成画像

TPP加盟国の経済が成長すれば、米国に与える影響は多岐にわたる。競争の激化、輸出市場の変化、経済的な結びつきの再構築、そしてトランプ政権下での関税政策が重要な要素である。これらの要因は、米国にとって有利な影響だけでなく、不利な影響ももたらす可能性が高い。

まず、加盟国の経済成長は米国企業との競争を激化させる。TPP加盟国には日本、オーストラリア、カナダ、さらには英国も含まれている。これらの国々が経済成長を遂げることで、特に製造業や農業分野で米国企業は新たな競争相手に直面することになる。

OECDのデータによれば、日本やオーストラリア、英国の製造業は技術革新と効率性の向上に成功しており、これにより米国製品に対する競争力が高まっている。特に英国は、Brexit後にTPPへの参加を選択することで、アジア太平洋地域との経済的結びつきを強化しようとしているのだ。

次に、TPP加盟国の成長は米国の輸出市場にも影響を与える。加盟国が経済的に強化されると、これらの国々は新たな貿易パートナーとしての重要性を増し、米国の輸出市場に対する依存度が変わるかもしれない。2021年の世界銀行の報告によれば、アジア太平洋地域は今後数年間で世界の経済成長の主なエンジンとなると予測されている。この変化により、米国企業は新たな市場機会を見出す一方で、競争の激化に直面し、特に製造業や農業において利益が圧迫される可能性が高い。

発展するアジア太平洋地域

トランプ政権下での関税政策も、これらの変化において重要な要素である。トランプ氏は特に中国に対して高い関税を課すことで知られているが、他の国々にも同様の関税を導入する意向を示している。彼の関税政策の主な目的は、米国製品の競争力を高め、国内産業を保護することだ。具体的には、2018年に中国からの輸入品に対して最大25%の関税を課し、知的財産権侵害や不公正な貿易慣行に対抗するための措置を講じている。

しかし、関税の引き上げは米国の消費者に対して高い価格を転嫁する結果となり、国内経済に悪影響を及ぼす可能性が高い。通商政策の専門家によれば、関税は最終的には米国の消費者に負担を強いることになり、特に低所得層に対して深刻な影響を及ぼすことが指摘されている。米国商工会議所の調査によれば、関税の引き上げが米国経済に与える影響は、年間で数百億ドルに達する可能性があるのだ。

さらに、米国が中国以外の国々にも高関税を持続する場合、米国経済が毀損されるリスクが高まる。高関税が続くことで、輸入品の価格が上昇し、消費者の購買力が低下することが懸念される。多くの米国企業は海外からの部品や原材料に依存しているため、関税が課されることで製造コストが増加し、最終的には消費者に対する製品価格の引き上げにつながる。これにより、米国経済全体の成長が鈍化する可能性が高い。

また、長期的な関税の持続は、貿易相手国との関係を悪化させ、報復関税が導入されるリスクもある。これにより、米国の輸出産業が打撃を受け、雇用の減少や経済成長の停滞を招くことになる。農産物や工業製品の輸出が減少すれば、これらのセクターに依存している地域経済にも深刻な影響が及ぶのだ。

このように、TPP加盟国の経済成長は米国にとって、競争環境や貿易関係に大きな変化をもたらす可能性が高い。特にトランプ政権下での関税政策は、米国企業の競争力に直接的な影響を与えるだけでなく、消費者や国内経済全体にも不利な影響を及ぼす可能性がある。これに対処するためには、米国は柔軟かつ戦略的なアプローチを採る必要がある。関税の引き下げという選択肢も含めて、新たな機会を探ることが極めて重要である。

TPP協定発効記念式典で各国の関係者と談笑する安倍晋三首相(中央右)と
茂木敏充経済再生担当相(同左)=2019年1月19日午後、首相官邸

さらに、TPPの通商ルールは、最近の国際関係を考慮した新しいものであり、これをWTOの通商ルールに反映させるべきだ。TPP加盟国はこの目標に向けて協力し、TPPの通商ルールを守れる国々を加盟国として拡大していくべきである。特に、日本はその旗振り役となり、アジア太平洋地域における経済的安定と成長を促進するためのリーダーシップを発揮すべきだ。

英国の加入も重要な意味を持ち、ブレクジット後の新たな貿易戦略を模索する中で、TPPが英国にとってもアジア太平洋地域との関係を強化するための重要なプラットフォームとなるのだ。これにより、国際貿易のルールがより公平で透明性のあるものとなり、全体的な経済成長に寄与することが期待されるのである。

【関連記事】 

英のTPP加盟、31日にも合意 発足11カ国以外で初―【私の論評】岸田首相は、TPPの拡大とそのルールをWTOのルールにすることで、世界でリーダーシップを発揮すべき     2023年3月30日

習氏、TPP参加「積極的に検討」 APEC首脳会議―【私の論評】習近平の魂胆は、TPPを乗っ取って中国ルールにすること    2020年11月21日

いつの間にか「日本主導」のTPP 自由主義圏の「対中連携」に期待 デタラメと無知露呈の反対派 ―【私の論評】TPPは加入できない中国と、保護主義に走りそうな米国の両方を牽制する強力な武器  2018年8月8日

2024年12月14日土曜日

“トランプ氏 安倍元首相の妻 昭恵さんと夕食会を予定”米報道―【私の論評】日米関係強化の鍵:トランプ氏が昭恵夫人に会う理由と石破政権のリスク

“トランプ氏 安倍元首相の妻 昭恵さんと夕食会を予定”米報道


まとめ
  • トランプ次期大統領が15日にフロリダ州で安倍元総理の妻・昭恵さんとプライベートな夕食会を開く予定で、出席にはメラニア夫人も含まれる。
  • 昭恵夫人との夕食会は政府ルートではなく、二人の直接のやりとりで設定された。
  • トランプ氏は安倍元総理の死後も昭恵夫人と親密な関係を維持しており、電話での連絡を続けている。
アメリカのトランプ次期大統領が、亡くなった安倍元総理大臣の妻の昭恵さんと、今月15日に南部フロリダ州でプライベートな夕食会を開く予定だと、CNNテレビなどが伝えました。

アメリカのCNNテレビとロイター通信が関係者の話として伝えたところによりますと、トランプ次期大統領は、15日、南部フロリダ州にある自宅で、安倍元総理大臣の妻の昭恵さんとプライベートな夕食会を開く予定だということです。

夕食会にはメラニア夫人も出席する予定だとしています。

また、今回の夕食会は、政府ルートではなく、2人の直接のやりとりによって設定されたものだということです。

日本の石破総理大臣は先月中旬、国際会議で南米を訪問したあとに、トランプ氏との会談を調整しましたが、トランプ氏側から、就任前に各国首脳との正式な会談は行わない方針を伝えられたことなどから、会談は見送られました。

安倍元総理大臣は、トランプ氏が2016年の大統領選挙に勝利したあと、最初に会った外国の首脳で、その後、トランプ氏との間で良好な関係を築いたことで知られます。

CNNテレビによりますと、トランプ氏は、安倍元総理大臣が2年前に銃撃によって亡くなったあとも、昭恵夫人とは電話で連絡を取るなど、親密な関係を維持してきたということです。

【私の論評】日米関係強化の鍵:トランプ氏が昭恵夫人に会う理由と石破政権のリスク

まとめ
  • トランプ氏が昭恵夫人に会うことは、故安倍晋三氏との強固な関係を象徴し、日米関係の継続的な強化を示している。
  • 石破茂氏は安倍政権の路線を批判する立場にあり、トランプ氏が彼に会わないことは、安倍氏の影響力を重視する意図を反映している。
  • トランプ氏は安定したリーダーとの関係を重視しており、石破政権の不確実性が日米関係に悪影響を及ぼす可能性がある。
  • 保守的なリーダーシップが必要であり、石破氏が政権を担うことは国際的な信頼を損なうリスクが高い。
  • 日米関係やEUとの関係を強化するためには、リベラル政権を終わらせ、安倍氏のような保守政権を樹立する必要がある。
トランプ氏は、いずれ石破茂首相に会うことになるだろうが、それより先に昭恵夫人に会うことには、いくつかの重要な意味がある。まず、トランプ氏が昭恵夫人と会うことは、故安倍晋三氏との強固な関係を象徴している。


安倍氏はトランプ政権下での日米関係を強化するために多大な努力を重ね、特に安全保障や経済面での協力を深めた。具体的には、安倍氏はトランプ氏に対して、日本の防衛費の増加や米国製品の購入拡大を約束した。このような背景から、トランプ氏は昭恵夫人との会談を通じて、安倍氏の外交路線を引き続き支持する姿勢を示している。

一方で、石破氏は安倍政権の路線を批判する立場にあり、彼の政策は安倍氏のものとは異なる方向性を持っている。特に、石破氏は地方創生や社会保障の充実を重視し、安倍政権の経済政策「アベノミクス」に対して批判的である。このため、トランプ氏が石破氏に会わないことは、安倍氏の影響力を重視する姿勢を反映していると言える。トランプ氏にとって、安定したリーダーとの関係構築は重要であり、安倍氏のような長期的な支持基盤を持つ人物との関係を維持することが優先されるのだ。

さらに、トランプ氏は政治的に安定したリーダーとの関係を重視する傾向がある。安倍氏は日本の首相として長期間政権を担ってきたため、トランプ氏との間に築かれた信頼関係は非常に強固である。石破政権が安倍氏の路線から逸脱する可能性があるため、トランプ氏が彼に会わないことは、安定した関係を維持しようとする意図を示している。

また、トランプ氏の行動は外交的なシグナルとしても解釈できる。昭恵夫人との会談は、日米関係の継続的な強化を示す一方で、石破氏との接触を避けることで、トランプ氏が安倍政権の継承を望んでいることを強調する意味がある。これにより、石破政権の不確実性を回避し、安倍氏の政策を引き続き支持する姿勢を明確にすることができるのだ。

トランプ氏は自らの支持基盤を重視しており、特に日本の保守派との関係を大切にしている。安倍氏の政策はトランプ氏の保護主義的なアプローチと合致していたため、昭恵夫人との会談はその延長線上に位置づけられる。石破政権が外交政策でトランプ政権の意向と合致しない可能性があるため、トランプ氏が石破氏に会わないことは、そのリスクを回避する意図があると考えられる。

第216回国会で所信表明演説をする石破首相

総じて、トランプ氏が昭恵夫人には会うのに石破氏に会わないことは、安倍政権の路線を重視し、政治的安定性を求める姿勢を示している。これは、日米関係の継続性を確保し、安倍氏の影響力を尊重する意図があると言える。トランプ氏は、安倍氏との関係を基盤にすることで、日米間の協力をさらに深化させる狙いを持っているのだ。

さらに、トランプ氏が石破政権を短期政権になることを見越している可能性は高い。彼の政治スタンスや支持基盤の不安定さが、国際的な信頼を損なう要因となるため、トランプ氏は石破氏に対して懐疑的な姿勢を持つことが予想される。これにより、日米関係が不安定化するリスクが高まり、石破政権の短命を見越す要因となるのだ。

日米関係やEUとの関係を強化するためには、石破茂氏が首相の座に留まることは難しい。現在の日本の政治状況を考慮すると、リベラル政権の継続は国際的な信頼を損なう可能性が高い。したがって、より保守的な政権の樹立が求められる。

日米関係の強化において、安倍晋三氏のような保守派リーダーの存在が不可欠である。安倍氏はトランプ政権との強固な関係を築き、その結果として日本は米国との安全保障や貿易面での信頼を得ることに成功した。具体的には、安倍氏がトランプ氏と結んだ貿易協定や防衛協力は、日米同盟を強化する上で重要な要素となっている。石破氏が政権を担う場合、安倍氏の路線を踏襲しない可能性が高く、これが日米関係にマイナスの影響を与える恐れがある。


また、EUとの関係維持においても、保守的なアプローチが重要である。日本はEUとの経済連携協定(EPA)を締結しており、これにより貿易の拡大が期待されている。しかし、リベラル政権が続くことで、国内の保護主義的な動きが強まり、EUとの関係が緊張する可能性がある。特に、EUは移民・難民問題やエネルギー問題に強い関心を持っており、リベラル的な政策が忌避されつつある。日本でリベラルな政策を持つ政権が継続することは、これらの問題に関する対話が難しくなるリスクがある。

国際的な信頼を確保するためには、政治の安定性も欠かせない。石破氏が首相として不安定な政権を運営する場合、外国からの投資が減少するリスクが高まる。トランプ政権やEUは、日本の政治状況を注視しているため、安定した保守政権の存在は国際的な信頼を得る上で鍵となるのだ。

過去のデータを見ても、保守政権の下での経済成長率はリベラル政権よりも高い傾向がある。たとえば、安倍政権下での経済成長は、リベラル派の政権下での成長率を上回っており、これは保守的な政策が企業の投資意欲を刺激する要因となっている。

結局のところ、日米関係を強化し、EUとの関係も維持したいのであれば、石破氏がすぐに退陣し、リベラル政権を終わらせる必要がある。そして、安倍政権のようなまともな保守政権を樹立することが求められる。これにより、国際的な信頼を確保し、経済成長を促進する環境が整うことが期待される。日本の未来を見据えた際、保守的なリーダーシップが不可欠であることは明白である。 

【関連記事】

日英伊戦闘機開発 サウジも参加調整 2035年に初号機配備を目指す―【私の論評】安倍政権とアブラハム合意が導いた日英伊・サウジの次期戦闘機開発と防衛力強化 2024年11月30日


2024年12月13日金曜日

北朝鮮の「IT戦士」、米企業で134億円稼ぐ 核開発の資金源に―【私の論評】国家戦略としての北朝鮮のサイバー脅威に有効なのは、日本でも報奨金制度

北朝鮮の「IT戦士」、米企業で134億円稼ぐ 核開発の資金源に

まとめ
  • 北朝鮮が「IT戦士」と呼ぶ約130人の技術者を動員し、米国から2017〜2023年に8800万ドルを稼いでいたことが判明。売上金は核・ミサイル開発の資金源とされている。
  • 北朝鮮は中国とロシアにIT関連のフロント企業を設立し、米国民の個人情報を使って米国のIT企業にリモート勤務で応募し、報酬を得ていた。
  • 米政府は、今回の事件に関与した北朝鮮人に関する情報提供を求め、最高500万ドルの報奨金を設定。北朝鮮のIT技術者は数千人が海外で活動しており、摘発された事件はその一部に過ぎないとされる。
北朝鮮のIT戦士 AI生成画像

 北朝鮮が「IT戦士」と呼ぶ技術者約130人を動員し、米国でリモート勤務が可能な業務を担わせ、2017〜23年に8800万ドル(約134億3000万円)を稼いでいたことが、米司法当局の捜査で判明した。米当局は、売上金が核・ミサイル開発計画の資金源になったとみている。米国務省は12日、事件に関与した北朝鮮人らに関する情報提供を求め、最高500万ドル(約7億6300万円)の報奨金を設定した。

 米司法当局によると、北朝鮮は中国とロシアにIT関連のフロント企業を設立し、北朝鮮人の技術者を働かせていた。事前に窃取・購入した米国民の個人情報を使って、米国のIT企業などの求人に応募。リモート勤務で業務をこなして報酬を得ていた。米国で働いているように装うため、米国内の協力者にパソコンを用意させ、中国やロシアからこのパソコンを経由して仕事の情報をやりとりしていた。

 フロント企業のリーダーらは、「社会主義競技会」と称してIT技術者の稼ぎを競わせ、成績がよかった場合にはボーナスを支払っていた。米企業から受け取った報酬は、偽の身分証を使って中国などで開設した口座を経由して受け取っていた。

 米政府によると、北朝鮮は数千人のIT技術者を海外で出稼ぎさせており、今回摘発された事件は氷山の一角だとみられる。北朝鮮のIT技術者は1人で年間30万ドル(約4578万円)稼ぐ例もあるという。

【私の論評】国家戦略としての北朝鮮のサイバー脅威に有効なのは、日本でも報奨金制度

まとめ
  • 北朝鮮のIT戦士は国家のサイバー能力を強化するために育成された技術者やハッカーであり、国家安全保障、経済活動、プロパガンダに関連して活動している。
  • 国家安全保障の観点から、北朝鮮は米国や韓国の重要なインフラに対するサイバー攻撃を実施し、自国の安全を確保しようとしている。
  • 経済活動においては、サイバー犯罪が重要な資金源となり、特にランサムウェア攻撃やフィッシング詐欺を通じて不正に資金を得ている。
  • 日本への工作として、北朝鮮のハッカー集団「ラザルスグループ」がサイバー攻撃を行い、医療機関や企業のデータを狙った事例が確認されている。
  • 日本のサイバーセキュリティの強化に向けて報奨金制度の導入が有効であり、民間企業や個人からの情報提供を促進することで、サイバー攻撃に対する防御力を向上させる必要がある。

北朝鮮のIT戦士は、国家のサイバー能力を強化するために育成された技術者やハッカーである。彼らの活動は国家安全保障、経済活動、プロパガンダに密接に関連している。

まず、国家安全保障の観点から、北朝鮮のIT戦士は敵国の情報システムに対するサイバー攻撃を実施し、情報収集や妨害を行っている。特に、米国や韓国の重要なインフラに対する攻撃が報告されており、これにより北朝鮮は自国の安全を確保しようとしている。

次に、経済活動においては、サイバー犯罪が重要な資金源となっている。特にランサムウェア攻撃やフィッシング詐欺を通じて不正に資金を得ており、これが国の経済を支える基盤となっている。国連の報告書やセキュリティ企業の分析によれば、北朝鮮のハッカー集団は「ラザルスグループ」と呼ばれ、これらの攻撃を行っている。

ランサムウェアによる攻撃を受けた病院の混乱 AI生成画像

具体的には、2020年には北朝鮮のハッカーが米国の医療機関に対してサイバー攻撃を仕掛け、数百万ドルの身代金を要求した。また、北朝鮮は仮想通貨取引所への攻撃を通じて数億ドル相当の仮想通貨を盗み出しており、特に2016年のバングラデシュ中央銀行からの盗難事件では約8100万ドルが不正に送金された。

国連の制裁により正式な経済活動が制限される中、サイバー犯罪は北朝鮮にとってますます重要な資金源となっている。この資金は北朝鮮の核開発やミサイルプログラムに充てられているとの見方が強い。

プロパガンダの面では、北朝鮮はインターネットを利用して自国のイメージを向上させるための情報発信を行い、敵国に対するネガティブなキャンペーンも展開している。これにより、国際社会における印象操作を図っている。

これらの活動は国際的に問題視されており、特にサイバー攻撃がもたらす影響は深刻な懸念を引き起こしている。北朝鮮のIT戦士たちは国家の指導のもとで高度な訓練を受けており、その技術力は非常に高い。

北朝鮮のIT戦士による日本への工作も具体的な事例が確認されている。2014年、北朝鮮のハッカー集団「ラザルスグループ」が日本の企業や政府機関に対してサイバー攻撃を実施し、企業のデータが盗まれたり、システムが妨害されたりした。製造業やエネルギー関連企業が狙われ、情報漏洩の危険が指摘されている。

さらに、2020年には日本の医療機関も攻撃の標的となった。COVID-19ワクチンの開発に関する情報を狙った攻撃が報告され、他国の医療機関からの情報収集を試みていた。

北朝鮮は日本国内で情報収集活動も行っており、防衛や外交に関する情報がターゲットとなっている。日本の警察や情報機関は、北朝鮮の工作員によるスパイ活動に警戒を強めている。また、北朝鮮のサイバー攻撃は経済活動とも関連しており、特に日本の仮想通貨取引所への攻撃が問題視されている。

2018年には「コインチェック」に対して攻撃が行われ、約580億円相当の仮想通貨が盗まれる事件が発生した。この事件は、北朝鮮が資金を調達する手段としてサイバー犯罪を利用していることを示している。国際的な経済制裁により公式な経済活動が制限される中、北朝鮮はサイバー攻撃を通じて不正に資金を得る手法を増やしている。

暗号資産(仮想通貨)交換業を手がけるコインチェック

このように、北朝鮮のIT戦士による日本への工作はサイバー攻撃や情報収集活動を通じて具体的に存在しており、経済活動にも影響を及ぼしている。これらの脅威に対処するための対策が国際社会で求められている。

現時点での北朝鮮のIT戦士による日本への工作への対応は十分とは言えない。サイバー攻撃の増加と高度化が問題であり、北朝鮮はサイバー攻撃の手法を進化させ、特にランサムウェアやフィッシング攻撃が増加している。2020年には、北朝鮮のハッカーが世界中の医療機関や製薬会社を狙った攻撃を行い、日本の医療機関もその標的になった。

情報共有の課題も存在する。政府と民間企業の間での情報共有が不足しているため、サイバー攻撃に対する迅速な対応が難しい。サイバーインシデント発生時に企業が自らの被害を報告しないケースが多く、全体的な脅威の分析が遅れることがある。これにより、同様の攻撃が他の企業にも広がる危険性がある。

加えて、北朝鮮のサイバー犯罪に対する国際的な協力も課題である。日本はアメリカや韓国と連携を強化しているものの、北朝鮮は国際的な制裁を受ける中でもサイバー犯罪を継続しており、その根絶は難しい。2021年の国連の報告書によれば、北朝鮮はサイバー攻撃を通じて年間数億ドルを不正に得ているとされており、これが国家の資金源となっている。

さらに、サイバーセキュリティに関する人材不足も大きな問題である。専門的な知識を持つ人材が不足しており、特に中小企業ではサイバー対策が後手に回ることが多い。これにより、北朝鮮のサイバー攻撃に対して脆弱な状態が続いている。

日本のサイバーセキュリティの強化に向けた取り組みは進んでいるものの、まだ不十分であるとの指摘がある。特に、民間の協力を得るために報奨金を設定することが有効である。

近年、サイバー攻撃は巧妙化しており、その被害は深刻化している。2020年には日本の医療機関がCOVID-19ワクチンの情報を狙った攻撃を受けた。アメリカでは報奨金制度を導入して民間からの情報を積極的に収集しており、成功事例として注目されている。

民間企業がサイバーインシデントを報告しやすくするために、報奨金制度が効果的である。アメリカの「Hack the Pentagon」プログラムでは、ホワイトハッカーが脆弱性を見つける活動を行い、多くのセキュリティ上の問題が発見された。

ホワイトハッカー AI生成画像

さらに、日本では専門知識を持つ人材が不足しているため、報奨金制度を通じて民間の専門家を活用することが重要である。報奨金を設定することで、国際的な協力も進み、より広範な情報収集が可能になる。

これらの理由から、日本も米国のように民間の協力を得るために報奨金制度を導入することが望ましい。これにより、民間企業や個人からの情報提供が促進され、サイバー攻撃に対する防御力が飛躍的に向上するだろう。サイバーセキュリティの強化と迅速な対応が実現できれば、北朝鮮をはじめとするサイバー脅威に対抗するための強固な基盤を築くことができる。

北朝鮮のIT戦士による活動は、単なる犯罪行為ではなく、国家戦略の一環である。そのため、国際社会はこれに対抗するために一丸となって取り組む必要がある。報奨金制度の導入は、その第一歩として極めて重要である。日本がこの課題に真剣に向き合うことで、将来的にはより安全なサイバー環境を実現できると信じている。

【関連記事】

今度はヒズボラの無線機が爆発、500人弱死傷 あわてて電池を取り外す戦闘員の姿も―【私の論評】中東情勢最新動向:イスラエルとヒズボラの緊張激化、米大統領選の影響と地域安定への懸念 2024年9月19日

ミサイルは複数の短距離弾道ミサイル、韓国軍発表 金与正氏が日米韓訓練への対抗を表明―【私の論評】核・ミサイルだけではない北朝鮮のサイバー攻撃の脅威と日本の防衛 2024年11月5日

<正論>日本は本当にダメな国なのか―【私の論評】日本の防衛強化とシギント能力の向上:対米依存からの脱却と自立的安全保障への道 2024年9月12日

サイバー防衛でがっちり手を結ぶ日米―【私の論評】一定限度を超えたサイバー攻撃は、軍事報復の対象にもなり得る 2019年5月9日

米国に桁外れサイバー攻撃、やはり中国の犯行だった―【私の論評】サイバー反撃も辞さないトランプ政権の本気度 2018年9月26日

2024年12月12日木曜日

アサド氏失脚、イランに「歴史的規模」の打撃―【私の論評】イランの影響力低下とトルコの台頭:シリアの復興とトルコのエネルギー戦略

アサド氏失脚、イランに「歴史的規模」の打撃

まとめ
  • イランは数十年かけて中東で影響力を築いたが、シリアのアサド大統領の退陣によりその戦略が大きな打撃を受けた。
  • アサド政権の崩壊はイランの「前方防衛」戦略を損なわせ、ハマスやヒズボラとの連携に悪影響を及ぼしている。
  • イランは国内支持が低下し、イスラエルが力を増す中で、核開発を加速する可能性が高まっている。
  • イランはイラクに注目する必要があり、シリアでの影響力を維持しつつ新たな戦略を模索している。
  • イランは依然として地域に多くの民兵組織を抱えており、その潜在力を活かそうとしている。


 イランは数十年にわたり、数十億ドルの資金を投じて中東全域で民兵組織や各国政府とのネットワークを構築し、政治的・軍事的な影響力を強めてきた。この戦略により、イランは自国領土への外国の攻撃を抑止する力を持つようになった。しかし、その同盟の基盤となっていたシリアのバッシャール・アサド大統領の退陣は、イランにとって深刻な打撃となった。

 アサド政権の崩壊は、昨年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を契機に進行し、イランの安全保障環境に根本的な変化をもたらした。これにより、イランは数十年にわたって築いてきた安全保障政策の見直しを余儀なくされるだろう。特に、アサド氏が排除されたことで、イランの「前方防衛」と呼ばれる戦略的防衛線が崩壊し、これまでの防衛体制が危機に瀕している。

 イスラエルは過去1年にわたる攻撃を通じて、イランの主要な同盟者であるハマスに大打撃を与え、さらにレバノンのヒズボラに対しても多くの指導者を排除した。国際危機グループのアリ・バエズ氏は、アサド氏の打倒によってイランの前線が崩れたと指摘しており、イランは望んでいた方向とは逆の歴史的転換点を迎えている。

 シリアはイランにとって唯一の同盟国であり、陸路でヒズボラへのアクセスを提供していた。ヒズボラはイランが「抵抗の枢軸」と呼ぶネットワークの中心であり、その存在はイランの影響力の重要な要素である。アサド政権の崩壊により、イランはヒズボラへのアクセスを失い、戦略的な立場が大きく揺らいでいる。

 加えて、イランは最高指導者のアリ・ハメネイ師が高齢化している中で、新たな安全保障状況に直面している。国内のイスラム主義政権に対する支持が低下する一方、イスラエルは力を増している。このような状況下で、イランは外国からの攻撃に対する抑止力を取り戻すために、核開発を加速する可能性が高まっている。最近の米情報機関の報告書では、イランが核爆弾の製造を決定するリスクが増大していると指摘されており、国際原子力機関(IAEA)もイランの高濃縮ウランの生産が拡大していることを明らかにしている。

 トランプ氏の大統領復帰が見込まれる中、イランはウラン濃縮に関する協議を準備していると述べているが、地域における軍事活動については交渉する意向を示していない。イスラエルがハマスやヒズボラの脅威を軽減したことで、イランの抑止力は大きく低下し、イスラエルによる空爆がイランの軍事施設に対する攻撃をもたらした。

 今後、イランはイラクに注目する必要がある。イラクは制裁の影響を回避するための重要な経済ルートであり、イランにとっての安全保障上の懸念でもある。イランはシーア派民兵ネットワークを築き、シリアでの反体制派の攻勢に直面した民兵がイラクに逃れてきている。これにより、イランは自国の安全を守るためにイラクへの関心を高めるだろう。

 シリアとの関係は深く根付いており、イランは今後もシリアで一定の影響力を維持できる可能性がある。イランは地域全体で忠誠を誓う勢力を増やしてきたため、シリアの将来の政治状況が不安定でも、イランはその影響力を活かすことができるかもしれない。

 このように、イランは現在、複雑な状況に直面しており、地域内での影響力を再構築するための戦略を模索している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。 

【私の論評】イランの影響力低下とトルコの台頭:シリアの復興とトルコのエネルギー戦略

まとめ
  • イランはアサド政権崩壊前から困難な状況にあり、代理勢力を通じてイスラエルに対抗する戦略が期待通りに機能していない。
  • ハマスの独自行動がイランの期待を裏切り、イランの影響力が減少し、民兵組織を利用する戦略の脆弱性が露呈した。
  • シリアの新政府は難民帰還と住民サービス再開を目指すが、経済は厳しく、国庫にはほとんど価値のないシリア・ポンドしか残っていない。
  • アサド政権の崩壊によってトルコが地域のリーダーとして浮上する可能性が高まり、シリアとのエネルギー関係がその鍵となる。
  • シリアが安定し、エネルギー資源を活用できるようになれば、中東全体のバランスが変わる可能性があり、トルコの支援が重要視される。

ガザ地区からイスラエルへ向けて発射されたロケット弾 2023年10月7日

イランはアサド政権崩壊前から窮地にあった。このことは、以前のブログでも触れたことである。イランはハマスやヒズボラなどの地域の代理勢力を利用し、イスラエルに対抗する戦略を採用していた。これらの組織は「抵抗の枢軸」として知られ、イランは彼らを通じて影響力を強化しようとしていた。しかし、ハマスが独自に行動した結果、イランの期待通りの連携は実現せず、イランの立場は弱まることとなった。

ハマスのイスラエル攻撃は短期的には成功を収めたが、イスラエルの報復を招き、ハマスは重大な損害を被った。この状況は、イランが期待していた戦略的効果を逆転させ、イランが支援する他の民兵組織にも不安をもたらした。これにより、イランの影響力は減少し、民兵組織を利用する戦略の脆弱性が露呈した。

国際的な反応もイランに影響を及ぼしている。イラン支援の民兵組織に対する監視が強化され、これによりイランの地域での影響力を維持する手段が制約される可能性が高まっている。このような状況は、イランの軍事戦略全体を見直す必要を迫るものであり、ハマスの独自行動がイランの戦略に与えた影響は決して小さくない。

特に、ハマスの行動がイランの期待を裏切ったことで、イランは民兵組織を利用する戦略の脆弱性を意識せざるを得ない状況に直面している。現在、イランは「抵抗の枢軸」を明確に位置づけできず、イスラエルによる長距離防空システムの破壊は、イランの軍事的選択肢を大幅に制限している。

さらに、イランの核開発は長年にわたり、イスラエルや国際社会にとっての懸念材料であった。イランが核兵器を保有することで地域のパワーバランスが崩れ、イスラエルにとって脅威が増大することが予想されていた。しかし、最近のイスラエルの攻撃により、イランの核施設に対する攻撃能力が示され、イランの核兵器に対する抑止力は大きく減少したと考えられる。

要するに、現在のイランは対イスラエル戦略において八方塞がりの状況にある。長距離防空システムの破壊によって自国の防衛能力が低下し、核の使用やそれによる脅しが効果を持たない可能性が高まっている。このような状況下で、トランプ政権が再び誕生することは、イランをさらに窮地に追い込む要因となるだろう。今後、イランはこの経験を踏まえて戦略を再考せざるを得ない状況に直面している。

ハマスの攻撃はイスラエルとの軍事的緊張を高め、シリアやイランを含む地域全体に波及した。この状況はアサド政権への圧力を増大させ、政権維持を困難にする要因となった。

さらに、ロシアはウクライナ戦争によってリソースが制約され、シリアへの支援に十分な余裕を持てなくなっている。これにより、アサド政権への支持が揺らぎ、政権の安定性が脅かされ、最終的に崩壊する結果となった。

アサド政権崩壊によるイランの影響力低下と、トルコの台頭は中東地域で重要な変化をもたらす。ただし、この変化には不確定要素も多く含まれており、新たな過激派勢力の台頭や地域全体の不安定化といったリスクも存在する。しかし、トルコは地理的・戦略的条件や国際関係上の有利な立場を活かし、新たな地域リーダーとして浮上する可能性が高いと言える。


シリアのアサド政権を打倒した反政府勢力によって暫定首相に任命されたムハンマド・バシル氏は、数百万人のシリア難民の帰還と基本的な住民サービスの再開を目指している。しかし、国庫にはほとんど無価値のシリア・ポンドしか残っておらず、経済の厳しい現実を強調している。

ダマスカスでは、パン屋に長い行列ができており、これはシリアが抱える深刻な経済問題の一端を示している。バシル暫定首相は、外貨がなければ難民の帰還や住民サービスの提供が困難になると警告している。彼は、反政府勢力がアサド政権を倒す前に北西部で政権を運営していた経験を持っている。

ダマスカスでは銀行や商店が再開しているものの、内戦によって何十万人もの命が奪われた復興は険しい道のりである。地元の事業者は、通貨問題がビジネスの妨げになっていると語り、イドリブ地域やアレッポから来た人々がトルコリラやドルしか持っていないため、両替の方法がわからず困っている状況を述べている。

アサド政権に対する国際的な制裁も経済崩壊の要因の一つである。アサド政権の崩壊を受けて、米国の上院議員2人がシリア制裁の一部停止を求める書簡を送っている。最も厳しい制裁の一つは今月更新される予定で、暫定政府は制裁緩和について米政府に連絡を取っているとロイターが報じている。

ダマスカス商工会議所のトップは、新政府が経済関係者に対し、従来の統制経済をやめ、今後は自由市場モデルを採用し、国際金融システムとの統合を目指す意向を示したと語っている。シリアの新政府は経済の再建に向けた試行錯誤を続けているが、その道のりは依然として厳しいものとなりそうだ。

この状況は、米国が制裁を解除しただけでは改善されないだろう。シリアは産油国ではあるが、その生産量は中東の主要な産油国と比べると少ない。シリアには石油資源が存在し、特に北東部のデリゾールやハセケなどの地域で油田が見つかっている。内戦前は、シリアは一定の石油生産を行っており、その収入は経済にとって重要な要素であった。

シリアの油田

しかし、内戦が始まって以降、石油生産は大きく減少し、インフラが破壊されたため、現在の生産能力は著しく低下している。国際的な制裁や反政府勢力による油田の掌握も影響を与えている。したがって、シリアは産油国であるものの、現在の状況ではその資源を十分に活用できていないのが実情である。

まずはシリアが原油を生産できるようになり、さらにそれを輸出できるようにすることが復興の条件となるだろう。

シリアとトルコの間に天然ガスや原油のパイプラインが建設されれば、トルコにとっても利点がある。エネルギー供給の多様 化が進み、エネルギー安全保障が強化される。また、輸送手数料や関連ビジネスからの収益を得ることができ、経済的利益も期待できる。さらに、シリアのエネルギー資源を利用することで、地域における影響力を高めることが可能である。トルコは「エネルギー地政学」での地位をさらに強化できることになる。

この機会をトルコが逃すことなく、シリアの復興を支援し、中東に確固たる地位を築いてほしいものである。シリアとトルコの関係が深化すれば、両国にとってウィンウィンの状況が生まれる可能性が高い。トルコはその地理的・戦略的条件を活かし、シリアの安定に貢献することで、地域のリーダーシップを確立する道を歩むことができる。

要するに、シリアの復興とトルコのエネルギー戦略は密接に関連している。シリアが安定し、エネルギー資源を活用できるようになれば、地域全体のバランスが変わるだろう。中東の未来は、シリア新政権とトルコの関係次第で大きく変わる可能性を秘めている。そのため、両国が協力し合うことが求められている。

【関連記事】

シリア、アサド政権崩壊で流動化 戦況混迷、収拾めど立たず―存在感高めるトルコ―【私の論評】シリア内戦とトルコの戦略:秋篠宮両殿下のトルコ訪問が示す新たな展望 2024年12月11日

第三次世界大戦は「すでに」始まっている、企業は今すぐ備えよ―【私の論評】第三次世界大戦の兆候と国際情勢の緊迫化:エマニュエル・トッド、エドワード・ルトワックの警鐘 2024年12月10日

「アサド家」の統治、あっけない終焉 要因はロシアとイラン勢力の弱体化 シリア政権崩壊―【私の論評】地中海への足場が失われ露の中東・アフリカ戦略に大打撃 2024年12月9日

シリア・アサド政権は崩壊間近…ウクライナの泥沼にハマったプーチンが迫られる究極の選択」と、その後に襲う「深刻な打撃」―【私の論評】アサド政権崩壊がもたらす中東のエネルギー地政学の変化とトルコの役割 2024年12月3日

米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した 2018年12月23日

2024年12月11日水曜日

シリア、アサド政権崩壊で流動化 戦況混迷、収拾めど立たず―存在感高めるトルコ―【私の論評】シリア内戦とトルコの戦略:秋篠宮両殿下のトルコ訪問が示す新たな展望

シリア、アサド政権崩壊で流動化 戦況混迷、収拾めど立たず―存在感高めるトルコ

まとめ
  • シリアのアサド政権崩壊後、反体制派が攻勢を強め、「シャーム解放機構」(HTS)が国土の中枢を掌握し、権力移譲の主導権を握る可能性があるが、統治方法の不透明感から警戒が強まっている。
  • トルコは反体制派を支援し、シリア国境に「安全地帯」を設ける意向を示しているが、クルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)との対立が続いている。
  • 米国はIS討伐を重視しつつ、反体制派への関与を慎重に見極めている。ロシアやイランはアサド政権の影響力低下を懸念し、反体制派との関係構築を模索している。

 シリアのアサド政権崩壊を受け、反体制派の攻勢が始まり、戦況が再び動き出している。特に「シャーム解放機構」(HTS)が北西部イドリブ県から急速に進軍し、わずか12日間で国土の中枢部を掌握した。これにより、反体制派が今後の権力移譲プロセスを主導する可能性が高まっている。しかし、彼らの統治方法は不透明であり、過激なイスラム主義から穏健路線への転換を強調しているものの、警戒感が強まることが予想される。

 トルコは反体制派と深い関係を持つ隣国であり、エルドアン大統領はHTSをテロ組織に指定しながらも、彼らの進攻を容認している。トルコはシリア国境に約30キロの「安全地帯」を設け、シリア難民を帰還させる意向を示しているが、これによりクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)との対立が続いている。SDFは、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討の一環として米国の支援を受けており、アサド政権に対抗するため政権支配地への進攻を試みている。しかし、トルコとの関係から劣勢に立たされる可能性がある。

 米国はシリア国内でのIS討伐を重視し、バイデン大統領は約900人の米軍駐留を継続する意向を示した。しかし、反体制派に対しては「今は正しいことを言っているが、言葉だけでなく行動で判断する」と述べ、関与の是非を見極める構えを示している。

一方、アサド大統領を支えてきたロシアやイランは、今後影響力の低下が避けられない状況にある。ロシアはアサド氏の亡命を受け入れ、地中海沿岸のシリア北西部にあるロシア軍基地の維持が死活問題となっている。イランも「国の将来を決めるのはシリア国民」との立場を示し、アサド氏との距離を置き始めている。両国は反体制派との関係構築や影響力の確保を模索しているようである。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧ください。

【私の論評】シリア内戦とトルコの戦略:秋篠宮両殿下のトルコ訪問が示す新たな展望

まとめ
  • シャーム解放機構(HTS)はアサド政権を崩壊させたが、イラクの大部分を占拠していない。
  • イスラエルはシリア南部に防衛地帯を設け、空爆を通じてシリアの戦略兵器を破壊した。
  • トルコのエルドアン大統領は、シリアの政変を利用して影響力を強化し、HTSを支援している。
  • トルコはクルド人勢力の排除も目指し、米国との関係に影響を及ぼすリスクがあるともみられるがトランプ政権はトルコの覇権を許容するだろう。
  • このような時期に秋篠宮両殿下のトルコ訪問は、まことに時宜をえたものであった。日本政府も今後トルコとの関係を強めていくべきである。
「シャーム解放機構」(HTS)は、アサド政権を崩壊させたが、イラクの大部分を占拠したわけではない。アサド政権の崩壊後、残存勢力が互いに争い、空白地域を埋めようとするのは必然の流れであり、今後しばらくシリアの内戦状態は継続するだろう。

イスラエルのカッツ国防相は、イスラエルに対するテロの脅威を防ぐため、シリア南部に「イスラエル軍が常駐しない防衛地帯」を設けることを目指していると発表した。イスラエル軍は最近の空爆でシリアの戦略兵器の大半を破壊し、アサド政権崩壊後の48時間で350回以上の攻撃を実施した。


さらに、イスラエルのミサイル艦艇がシリア海軍の施設を攻撃し、シリア全土への攻撃は反政府勢力による戦略兵器の使用を防ぐためであると説明している。ネタニヤフ首相はシリア内政に干渉する意図はないとしながらも、安全確保のために必要な行動をとると強調した。

アサド政権崩壊後、イスラエル軍は緩衝地帯に進軍し、ダマスカスを見下ろす戦略的拠点を管理下に置いたとされている。また、イスラエルの部隊はさらに進出し、カタナの町に到達したとの情報もある。しかし、イスラエル軍はダマスカスに向けて進軍しているとの報道を否定している。

一方、トルコのエルドアン大統領は、シリアでの政変を受けて影響力を高め、国内外での政治的地位を強化した。HTSはエルドアン氏を英雄視し、トルコ紙はシリアにおけるトルコの役割を称賛している。コンサルティング会社の専門家は、アサド政権崩壊後、トルコが最も影響力のある外国勢力として浮上したと述べている。

トルコに支援されるHTSは、クルド人勢力の排除に積極的であり、これはトルコの長年の目標である国境沿いの緩衝地帯設置に沿った動きである。しかし、これは米国からの反発を招くリスクを伴う。米国が支援するクルド人勢力はIS掃討に重要な役割を果たしており、トルコが軍事行動を起こせば米国の利益を損なう可能性がある。

エルドアン氏の戦略に関するトルコの当局者は、トランプ政権がクルド人勢力に対してどう対応するかが米国・トルコ関係に大きな影響を与えると指摘している。また、トルコの外相は、国際社会がシリア国民に支援を行い、包括的な政府の樹立を促進するよう期待していると述べている。シリアの復興はトルコのインフラ企業に機会をもたらし、通商関係の強化も見込まれる。

ただし、第一次トランプ政権の際、米軍はシリアから撤退している。この際、トランプ氏とエルドアン氏の間に裏取引があったとされる。詳細は以前のブログで解説しているが、ここではざっくりと概要をまとめる。

エルドアン首相は、トランプ氏に対しISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明した。トランプ大統領は、この状況で米国としてはNATOの同盟国であるトルコに任せるべきと判断したと考えられる。これにより、米国はシリアに拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると見込んだのだ。さらに、トランプ氏はIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約を果たすことにもなった。

当時、米国内ではシェールオイル・ガスが発掘され、シリアの原油はトランプにとって魅力を失っていた。米国がシリアに拘る理由が薄れ、莫大なリソースを中国との対峙に振り向ける方が得策だと考えたのだろう。

エルドアン トルコ大統領とトランプ米大統領

こうなると、トランプ政権が今後クルド人勢力に支援してまでシリアで覇権を行使する理由は見当たらない。あくまでトルコに任せる姿勢を維持するだろう。イスラエルも混乱が続くよりは、こちらの方を望むだろう。

当面は混乱が続くかもしれないが、HTSがトルコの支援を受けつつ勢力を拡張し、いずれイラクの大部分を統治する可能性が高い。トルコもその方向で動くことが予想される。以前このブログでも述べたように、シリアに新たな親トルコ政権ができれば、トルコは「エネルギー地政学」での地位をさらに強化できる。現在、シリアとトルコ間には石油・ガスのパイプラインは存在しないが、これが実現すれば、トルコはEUに対するエネルギー源の中継地を押さえることになる。トルコがその機会を逃すはずはない。

米国とは異なり、未だに中東の石油に大きく依存する日本は、今後トルコとの関係をさらに強めていくべきだ。秋篠宮皇嗣同妃両殿下は、令和6年12月3日から8日までの6日間、日本とトルコの外交関係樹立100周年を記念してトルコ共和国を公式にご訪問遊ばされた。このご訪問は、まさに時宜を得たものである。

トルコ・アンカラの大統領府で、エルドアン大統領夫妻と面会される秋篠宮皇嗣同妃両殿下

トルコはSDFがクルド労働者党(PKK)と関連していると主張し、PKKをテロ組織と見なしている。これに対する国際的な支援や認識に対して批判的な立場を取ることが多い。埼玉県川口市のクルド人の中にはPKK関係者も存在するとされている。この問題は、トルコと日本の関係を毀損する可能性もあり、早急に解消すべきだ。日本政府も、今後トルコとの関係を強化していく必要がある。 

【関連記事】

第三次世界大戦は「すでに」始まっている、企業は今すぐ備えよ―【私の論評】第三次世界大戦の兆候と国際情勢の緊迫化:エマニュエル・トッド、エドワード・ルトワックの警鐘 2024年12月10日

「アサド家」の統治、あっけない終焉 要因はロシアとイラン勢力の弱体化 シリア政権崩壊―【私の論評】地中海への足場が失われ露の中東・アフリカ戦略に大打撃 2024年12月9日

ウクライナで変わった戦争の性格 日本の専守防衛では対処困難 米戦争研究所ケーガン所長―【私の論評】日本の安全保障強化に向けたISWの指摘と憲法改正の必要性 2024年12月7日

シリア・アサド政権は崩壊間近…ウクライナの泥沼にハマったプーチンが迫られる究極の選択」と、その後に襲う「深刻な打撃」―【私の論評】アサド政権崩壊がもたらす中東のエネルギー地政学の変化とトルコの役割 2024年12月3日

米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した 
2018年12月23日


2024年12月10日火曜日

第三次世界大戦は「すでに」始まっている、企業は今すぐ備えよ―【私の論評】第三次世界大戦の兆候と国際情勢の緊迫化:エマニュエル・トッド、エドワード・ルトワックの警鐘

 第三次世界大戦は「すでに」始まっている、企業は今すぐ備えよ

まとめ

  • シリアのアサド政権の崩壊は、世界の紛争が相互に関連し、第三次世界大戦が始まっていることを示している。
  • JPモルガンのダイモンCEOも、複数国での同時多発的な戦闘を指摘し、リスクの高さを警告している。
  • ロシアのウクライナ戦争がシリアの政権防衛能力を低下させ、紛争の相互関連性が高まっている。
  • ビジネスリーダーは、世界的な紛争が経済やサプライチェーンに与える影響を考慮し、リスク管理が必要である。
  • 紛争の中で倫理的な機会を見出し、企業の社会的責任を果たすことが重要である。
8日、ダマスカスで、アサド政権の崩壊を喜ぶ人たち

 シリアのバッシャール・アサド大統領の独裁政権の崩壊は、世界の紛争が相互に絡み合っている現実を浮き彫りにし、第三次世界大戦がすでに始まっているといっても良い状況にある。JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOもこの見解を支持し、国際金融協会(IIF)の年次総会で、「第三次世界大戦はもう始まっている」と警告した。彼は、複数の国で同時多発的に戦闘が行われている現状を強調し、リスクの高さを訴えている。

 ロシアのウクライナ戦争が、シリアのアサド政権の防衛能力を低下させ、結果的に政権が崩壊に至ったことが、ダイモンの主張を裏付けている。ロシアがシリア内戦に介入していなければ、アサドは早期に追放されていた可能性が高い。現在、ロシアの国力がウクライナ戦争によって消耗し、イランもイスラエルからの攻撃を受けてシリアでの戦闘を維持することが難しくなっている。

 これらの紛争が単なる局地的な問題ではなく、相互に関連した世界規模の紛争の一部である。具体的には、大国が直接または代理を通じて関与し、政治的・経済的・イデオロギー的な目的が絡み合っていることがその特徴だ。このような状況は、第一次・第二次世界大戦の初期に類似しており、局地的な紛争が世界規模の対立に発展する可能性が高い。

 ビジネスリーダーにとって、このような情勢は重大な影響を及ぼします。世界的な紛争が拡大することで、経営する事業やサプライチェーン、顧客にも影響が及ぶため、リスクを認識し、適切な対応策を講じる必要がある。ダイモンCEOが述べたように、「この問題が自然に解決するのを待つわけにはいかない」との認識が必要だ。

 また、紛争の中で新たな機会を見出すことも重要だ。これは単に利益を得ることではなく、企業が人道支援活動やサプライチェーンの強化、被災地域の復興に貢献する方法を特定することを意味する。こうした行動は企業の社会的責任に合致し、地域社会の信頼を築くことにもつながる。

 第三次世界大戦は過去の二つの世界大戦とは異なる形で進行する可能性が高い。戦争は断続的に続く可能性があり、一時的な休戦に惑わされず、長期的な視野で新たな紛争の時代に備える必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】第三次世界大戦の兆候と国際情勢の緊迫化:エマニュエル・トッド、エドワード・ルトワックの警鐘

まとめ

  • ワシントン・ポスト紙に掲載されたコラムで、コラムニストのウィルは、ロシア、北朝鮮、イラン、中国との間で実質的に第三次世界大戦が始まっていると警告し、国際関係における緊張の高まりを指摘している。
  • ロシアのウクライナ侵攻が西側諸国との対立を激化させ、北朝鮮やイランの動きにも影響を与えている。
  • 中国の軍事的拡張や台湾への威圧が、欧米との関係をさらに緊張させる要因となっている。
  • 米国の指導者たちが危機的状況を軽視し、適切な対策を講じないことで国際的な緊張が悪化する可能性があるとウィルは警鐘を鳴らしている。
  • エマニュエル・トッドやエドワード・ルトワックも、国際情勢の複雑さと戦争のリスクについて警告しており、日本も真剣に備える必要がある。

2024年10月16日付のワシントン・ポスト紙に掲載されたコラムで、コラムニストのウィルは、ロシア、北朝鮮、イラン、中国との間で実質的に第三次世界大戦が始まっていると警告している。この主張は、国際関係における緊張の高まりを背景にしている。

ロシアのウクライナ侵攻開始を伝えたテレビの画面 2022年2月25日

ウィルはまず、ロシアのウクライナ侵攻を挙げ、これが西側諸国との対立を激化させていると指摘している。ロシアはウクライナの主権を侵害し、国際秩序への挑戦を行っている。この行動は、北朝鮮やイランの動きにも影響を与えている。北朝鮮は核兵器の開発を続け、ミサイル発射を繰り返しており、国際的な懸念が高まっている。イランは中東での影響力を拡大し、地域の安定を脅かす存在となっている。

さらに、中国の軍事的な拡張や台湾に対する威圧も、欧米との関係を緊張させる要因となっている。南シナ海での領有権主張や台湾への圧力を通じて、中国の行動は顕著に表れている。ウィルは、複数の地域での対立が相互に影響し合い、国際的な安全保障に対する脅威が増大していると強調している。

ウィルはまた、アメリカの政治指導者、特にハリス副大統領とトランプ前大統領がこの危機的状況に対する認識が不足していると批判している。彼らが現実の脅威を軽視することで、適切な対策を講じることができず、国際的な緊張がさらに悪化する可能性があると警鐘を鳴らしている。指導者たちがこの状況に対して強固な立場を取らず、外交的な解決策を模索する姿勢が欠けていることが、さらなる危機を招く要因となっているとしている。

このように、ウィルのコラムは、国際関係における複雑な脅威を強調し、現代の指導者たちがそれに対処するための意識と戦略を持つべきだと訴えている。彼の視点は、現在の国際情勢が非常に不安定であり、早急な対策が求められていることを示唆している。

ロシアのウクライナ侵攻が第三次世界大戦の始まりであるとの指摘は、驚くべき警告であるが、ソ連崩壊を正確に予測した、フランスの著名な社会学者エマニュエル・トッドは、すでに2022年5月に同様の見解を示している。トッドはロシアの行動が国際秩序に与える影響を深く掘り下げ、特に2014年のクリミア併合を重要な転換点として位置づけている。

エマニュエル・トッド氏

トッドは、クリミア併合をロシアの西側諸国に対する挑戦の始まりと見なし、この出来事が国際的な緊張を高め、最終的には大規模な軍事対立を引き起こす可能性があると警告している。彼は、ロシアの行動が単なる地域的な問題ではなく、グローバルなパワーバランスに影響を与えるものであると主張している。この観点から、ロシアの侵攻は単一の国の問題ではなく、より広範な国際的な紛争の一環と捉えられるべきだと言う。

さらに、トッドはロシアの行動が他の国々、特に西側諸国にどのような反応を引き起こすかを考察し、これがさらなる対立を生む可能性があることを強調している。国際的な安全保障の枠組みが揺らぎ、各国がそれぞれの立場を強化する結果、冷戦時代のような二極化した世界が再現される危険性についても言及している。

つまり、トッドの見解は、ロシアの行動を単なる地域的な紛争として片付けるのではなく、国際社会全体に波及する大きな歴史的な流れの一部として理解する必要があるとするものである。後から振り返れば、クリミア併合が新たな世界的な緊張の始まりであったと認識されるかもしれないというトッドの予測は、国際関係の複雑さと不確実性を強調している。これは、現在の状況を考える上で重要な視点を提供しており、今後の国際情勢を見極める上での警鐘となる。

米国の戦略家エドワード・ルトワックは、さらに古くから第三次世界大戦について警告している。彼は1990年代から2000年代にかけてさまざまな著作や講演で言及しており、特に著書『戦争の後』や『戦略の技術』で国際関係の変化や戦争のメカニズムについて詳しく論じている。

ルトワックは1993年に発表した『戦争の後』の中で、冷戦後の新たな国際秩序におけるリスクについて警告している。アメリカが単独超大国としての地位を確立した後、他の大国がその影響を受ける中で新たな緊張が生まれる可能性があると述べている。特に中国やロシアの動向が重要であり、これらの国々がアメリカに対抗するために軍事的手段を取る可能性を指摘している。

エドワード・ルトワック氏 米戦略国際問題研究所 (CSIS) 上級顧問

また、ルトワックは「平和は戦争の糧である」という考え方を強調し、長期間の平和が逆に戦争のリスクを高めることがあると述べている。長い平和が続くと、国家間の対立が潜在的に蓄積され、偶発的な事件が戦争を引き起こす引き金となる可能性があると警告している。このような見解は、近年の国際情勢における緊張の高まりを考える上で重要である。

さらに、ルトワックは権威主義的な政権が国内の問題を外部の敵に転嫁することで、戦争のリスクを増大させることについても触れている。具体的な例としてロシアのウクライナ侵攻を挙げ、プーチン政権が国内の経済問題や政治的圧力を外部の対立に利用していると指摘している。国内の不安定さが外部との対立を引き起こし、戦争のリスクを高める可能性があると述べている。

これらの発言は、国際関係の複雑さを理解する上で非常に重要であり、第三次世界大戦の可能性についての警戒を促すものである。ルトワックの理論は、現代の国際情勢における戦争のリスクを探るための貴重な視点を提供している。

ただし、第一次、二次世界大戦のように、大国や主要国が実際に戦争するかどうかは別にして、これらの国々の利害が複雑に絡み合い、今後世界各地で武力衝突が頻発するのは間違いないだろう。これを第三次世界大戦の呼ぶか、呼ばないかは別にして、大規模な武力衝突が起こる可能性は否定できない。

こうした状況を踏まえると、日本も紛争や不測の事態に対して真剣に備える必要がある。特に周辺国の軍事的動向や地域の緊張の高まりを考えると、日本が単に平和を期待するだけでは不十分であることは明らかである。

【関連記事】

「アサド家」の統治、あっけない終焉 要因はロシアとイラン勢力の弱体化 シリア政権崩壊―【私の論評】地中海への足場が失われ露の中東・アフリカ戦略に大打撃 2024年12月9日

ウクライナで変わった戦争の性格 日本の専守防衛では対処困難 米戦争研究所ケーガン所長―【私の論評】日本の安全保障強化に向けたISWの指摘と憲法改正の必要性 2024年12月7日

シリア・アサド政権は崩壊間近…ウクライナの泥沼にハマったプーチンが迫られる究極の選択」と、その後に襲う「深刻な打撃」―【私の論評】アサド政権崩壊がもたらす中東のエネルギー地政学の変化とトルコの役割 2024年12月3日

<イスラエルによるイラン核施設攻撃の可能性>報復攻撃が見せた重大なインパクト―【私の論評】トランプ政権の影響とハマスの行動がイラン戦略に与える影響、そして中東和平の可能性 2024年11月20日

米戦争研究所、北朝鮮のウクライナ派兵で報告書 実戦経験を将来の紛争に応用 対中依存脱却の狙いも―【私の論評】北・露軍事協力の脅威と石破政権の対応不足が招く地域安定リスク
 2024年11月3日


来年度予算案、税収70兆円台後半とする方針…6年連続で最高更新の見通し―【私の論評】日本の税収増加と債務管理の実態:財政危機を煽る誤解を解く

来年度予算案、税収70兆円台後半とする方針…6年連続で最高更新の見通し まとめ 政府は2025年度の一般会計税収見積もりを70兆円台の後半に設定し、2024年度の税収を上回る見通しで、6年連続で過去最高を更新する見込みである。 2024年度の税収は物価高や企業業績の好調により増加...