2024年3月24日日曜日

内閣府の再エネタスクフォース資料に中国企業の透かし 河野太郎氏「チェック体制の不備」―【私の論評】再エネタスクフォースにおける中国企業関与の問題:情報漏洩の深刻なリスクと政府のすべき対応

内閣府の再エネタスクフォース資料に中国企業の透かし 河野太郎氏「チェック体制の不備」

まとめ
  • 内閣府のタスクフォースが再生可能エネルギー導入の規制見直しを目指す中、提出された資料に中国企業の透かしが発覚。
  • 資料は民間構成員が提出したものであり、中国の電力会社「国家電網公司」の企業名やロゴが確認された。
  • 透かしの原因は、民間構成員が自然エネルギー財団の関連資料を使用したことによるもの。
  • 内閣府は自然エネルギー財団と中国政府・企業との関係はないと説明し、審査体制の強化を図る方針を表明。
  • 国民民主党の玉木雄一郎代表は中国の影響疑惑を指摘し、審議会のメンバー選定にセキュリティー・クリアランスの必要性を提起。
河野太郎規制改革担当相

 再生可能エネルギーの導入促進に向けた規制の見直しを目指す内閣府のタスクフォースで使用された資料の一部に、中国企業の透かしが含まれていたことが発覚しました。この問題は、内閣府規制改革推進室がX(旧ツイッター)で認めたものです。

 該当資料は、再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォースの会議で使用され、中国の電力会社「国家電網公司」の企業名やロゴが確認できました。この資料は、タスクフォースの民間構成員が提出したもので、過去に自然エネルギー財団が行ったシンポジウムで使用された資料からロゴが残っていたとのことです。

 内閣府は、自然エネルギー財団と中国政府・企業との人的・資本的な関係はないと説明しています。河野太郎規制改革担当相は、チェック体制の不備について謝罪し、今後は対策を強化すると述べました。また、国民民主党の玉木雄一郎代表は、この問題を重視し、背景の徹底調査を求めています。 --- この問題は、日本の再生可能エネルギー政策の信頼性に関わる重要な事案であり、今後の対応が注目されます。

【私の論評】再エネタスクフォースにおける中国企業関与の問題:情報漏洩の深刻なリスクと政府のすべき対応

まとめ
  • 再エネタスクフォースの資料に中国企業の透かしが含まれており、自然エネルギー財団の民間構成員が提出したものであることが明らかになった。
  • 自然エネルギー財団の構成員である大林ミカ氏が関与し、その財団は中国政府が関与する国際団体に参加している。
  • 内閣府は、中国政府や企業との関係は否定しているが、その説明と大林ミカ氏の関与との整合性に疑問が残る。
  • この問題は、政府の重要な政策検討資料が外国企業に漏れるリスクを示し、情報管理上の深刻な問題を浮き彫りにしている。
  • 再エネ政策に関わる情報漏洩は、国家の産業競争力や安全保障、サイバーセキュリティ、政府の信頼性に深刻な影響を及ぼす可能性があり、情報管理体制の見直しとセキュリティーの強化が必要である。

再エネタスクフォースの資料に中国企業の透かしが入っていたことから、同タスクフォースが、同社の使用しているのと同じソフトウエアを再エネタスクフォースが用いていたことを意味し、同社がその情報を事前に入手していた可能性があります。

内閣府は、資料には、中国の電力会社「国家電網公司」の企業名やロゴが確認できる透かしが含まれていました。この透かしは、タスクフォースの民間構成員大林ミカ氏が提出した資料に含まれており、資料は過去に自然エネルギー財団が行ったシンポジウムで使用されたものでしたとしています。

大林ミカ氏

大林ミカ氏は、自然エネルギー財団に属しており、自然エネルギー財団はGEIDCOという国際送電ネットワーク構築を目指す団体に理事メンバーとして参加していますが 同団体には中国政府が強く関与しています 

■GEIDCOのホームページ m.geidco.org.cn ■自然エネルギー財団のプレス renewable-ei.org/library/releas… ■SciencePortalChainaの日本語記事 spc.jst.go.jp/hottopics/1704…

内閣府の「中国政府・企業とは人的関係はない」という説明との整合性には注意が必要です。

再エネタスクフォースの資料に中国企業の透かしが入っていたことから、同タスクフォースが、同社の使用しているのと同じソフトウエアを再エネタスクフォースが用いていたことを意味し、同社がその情報を事前に入手していた可能性があります。

これは、政府の重要な政策検討資料が、外国企業に漏れてしまった恐れがあり、情報管理上の重大な問題です。

中国の電力会社国家電網公司

再生可能エネルギー政策は、日本のエネルギー安全保障に直結する最重要課題の一つです。化石燃料への過度な依存からの脱却、CO2排出削減、新たな産業育成など、多岐にわたる重要な側面を持っています。その戦略的に極めて重要な政策検討過程の機密情報が中国側に渡っていた可能性が極めて高いのです。

中国は、この再生可能エネルギー分野において日本の主要なライバル国の一つです。もし政策の具体的な内容や方向性を事前に入手できれば、中国は日本に対して産業面でも、さらにはエネルギー安全保障の面でも、大きな優位性を持つことができます。日本の国家的な競争力や安全保障が根底から揺るがされかねない重大事態なのです。

また、ソフトウェアへのマルウェア仕込みの可能性も看過できません。一旦ネットワークにマルウェアが侵入すれば、政府内部の機密情報が次々と流出する危険性は計り知れません。サイバー攻撃を受けた場合の被害は甚大です。


さらに、こうした重大な事態の発覚により、政府の情報管理体制が国民から過度に不信を持たれるリスクも高まります。内部の情報共有プロセスの不備が露呈し、外部委託先のセキュリティ管理にも重大な問題があったと受け止められかねません。機密事項を取り扱う政府機関への国民の信頼が揺らげば、国家の基盤そのものが危うくなります。

このように、この一件は単なる情報漏洩の次元を超え、日本の産業競争力や国家安全保障、サイバーセキュリティ、政府への信頼性にまで及ぶ、あまりにも重大で深刻な事態なのです。政府は二度とこのようなミスを起こさないよう、抜本的な情報管理体制の見直しと徹底したセキュリティ強化が急務と言えるでしょう。

今回の件に関して、大村ミカ氏及び内閣府の説明は到底納得できるものではないです。我が国の再エネ政策が中国の影響が及んでいる疑惑であり見過ごすことはできないです。内閣府は背景を徹底調査すべきです。今後、審議会等のメンバー選定にも、セキュリティ・クリアランスが必要です。再エネ賦課金についても廃止を含め見直しを検討すべきです。

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2024年3月23日土曜日

モスクワ郊外コンサートホール銃撃 60人以上死亡 テロ攻撃か―【私の論評】モスクワ テロ事件が意味するプーチン体制の危機的状況

モスクワ郊外コンサートホール銃撃 60人以上死亡 テロ攻撃か

まとめ
  • ロシア・モスクワ郊外の大規模コンサートホールで22日夜に銃撃テロ事件が発生し、これまでに60人以上が死亡、115人以上がけがを負った。ISの関連組織が犯行声明を出した。
  • 事件の詳細は、コンサート開始前に複数の人物が建物に侵入し銃撃を開始、最大6200人が館内にいた可能性があり、目撃者は「多くの人が死傷した」と証言した。
  • 1週間前、在ロシア米大使館がモスクワでの大規模集会に対するテロの恐れを注意喚起していた。ISはシリア・イラクを支配し各地でテロを重ねてきた過激組織。
  • ロシアでは1990年代以降、モスクワや南部で同様のテロ事件が多発し、過去には爆破や人質事件などで数百人が犠牲となっていた。
  • ウクライナ側とロシア人義勇兵組織は関与を否定、米政府も「ウクライナの関与を示す情報はない」と述べた。
襲撃されたコンサートホール X投稿より

 22日夜、ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで銃撃が発生し、建物に火災が起きた深刻な事件となった。ロシア当局によると、これまでに60人以上が死亡し、115人以上がけがを負っている。

 過激派組織IS(イスラミック・ステート)と関係の深い「アマーク通信」は、ISの戦闘員がキリスト教徒の群衆を襲撃し、数百人に被害を与えたと主張する犯行声明を出した。事件の経緯として、コンサートが始まる前に複数の人物が建物に侵入し、銃撃を開始したという。

 当時、最大で6200人がホール内にいた可能性があり、目撃者は「多くの人が死傷した」と証言している。注目すべきは、在ロシア米大使館がこの事件の1週間前に、過激派がモスクワの大規模集会を標的にする計画があるとの情報を受け、注意を呼びかけていたことである。

 ISはかつて、シリアとイラクにまたがる広大な地域を支配下に置き、各地でテロを重ねてきた。ロシアでも1990年代以降、モスクワや南部地域で同様のテロ事件が多発しており、過去には爆破や人質事件、自爆テロなどで数百人の犠牲者が出ている。

 ソチオリンピックの前年にもテロが発生するなど、政府の警戒が続いていた。一方、ウクライナ側とロシア人義勇兵組織は今回の事件への関与を否定した。米政府も「ウクライナの関与を示す情報はない」と述べている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】モスクワ テロ事件が意味するプーチン体制の危機的状況

まとめ
  • 首都近郊でのテロは、治安維持の失敗を示し、プーチン体制の権威と統治力の低下を物語る。
  • 一般市民の不安感が高まれば、反体制運動が活性化するリスクがある。
  • ロシアの対外的信頼性の低下は避けられず、国際社会からの締め付けを招きかねない。
  • プーチン体制が適切な対策を取れなければ、体制不安定化につながる深刻な事態となる。
  • プーチン政権にとって、求心力の早期回復が最重要課題となった。


今回の深刻なテロ事件は、プーチン体制の求心力の低下を示す重大な徴候と考えられます。首都近郊で無差別テロが発生したことは、治安維持の失敗を露呈し、権威主義体制の弱体化を物語っています。

一般市民の間に不安が広がれば、反体制運動が活性化するリスクも高まります。さらに、国際社会からのプーチン政権への信頼感の低下も避けられないでしょう。適切な対策が取られなければ、体制不安定化にもつながりかねない深刻な事態と言えます。プーチン政権にとって、求心力回復が喫緊の課題となったといえます。

上の記事にもあるように、在ロシア米国大使館は、モスクワでの銃撃事件の1週間前、過激派がモスクワの大規模集会を標的にする計画があるとの情報を受け、注意を呼びかけていました。しかし、カービー大統領補佐官は、この注意情報は今回の特定の攻撃とは関係なかったと述べました。

カービー補佐官はさらに、今回の攻撃について事前に情報があったことは承知していないと説明しました。また、ウクライナやウクライナ人の関与を示す情報はないと述べた。一方で、犠牲者に対する哀悼の意を示しました。

カービー補佐官の発言を、そのまま受け取れば、他にも大規模なテロがある可能性もあります。

在ロシア米大使館が広範なテロの可能性を危惧して注意を促していたこと、過去のロシアにおける大規模テロの歴史、ISなどの過激組織の残存能力、ウクライナ情勢をめぐる地政学的緊張から、今回に限らずロシアで追加の大規模テロが起こりうる可能性は否定しきれません。

カービー補佐官

今回のモスクワ郊外の銃撃事件の地政学的な意味合いについて、より詳しく解説します。

ロシア国内の治安と統治への脅威 
この事件はロシアの首都圏で発生した重大な無差別テロであり、プーチン政権の治安維持能力に大きな疑問を投げかけています。テロリストが首都に近接した場所で自在に行動できたことは、治安当局の重大な失態を示しています。このことは、国内におけるプーチン体制の統治力の低下を物語り、権威主義体制の根幹を揺るがす可能性があります。
過激組織の残存能力とグローバルな脅威
ISなどの過激組織が実行犯だったとされれば、中東から撤退した後も、彼らがグローバルにテロ能力を維持していることが改めて示されます。ロシアは標的化できる的であり続けているということです。これは単にロシアのみならず、世界各国の安全保障上の重大な脅威となります。
ウクライナ情勢への影響 
ウクライナ側は関与を否定していますが、ロシア国内でのこのようなテロは、ウクライナ戦線の泥沼化と相まって、プーチン政権に対する重大な打撃となります。国内での反発を招き、対ウクライナ政策の見直しを迫られる可能性があります。ウクライナ側の優位に働く可能性もあります。
中東情勢への影響 
もしISなどが実行犯だった場合、中東の過激組織の動きが改めてクローズアップされることになります。シリア、アフガニスタンなどの情勢が有事の際に国際テロの前線基地となるリスクが高まります。ロシアは中東に軍事的に介入しているだけに、この地域への影響は大きくなります。
プーチンとバイデン

米露対立と情報戦の影響 
可能性としては低いですが、米国が事前に何らかの情報を把握していたことから、米露の対立構図の中で、米側がテロ組織を操ってロシアに打撃を与えた可能性も完全には排除できません。 
冷戦時代に米国がアフガンのムジャヒディーンを支援した前例があり、現在の米露対立が極端な事態に発展すれば通常を越えた対応がなされる可能性や、米国内の過激派勢力が政府の関与なしにロシアを攻撃する可能性があることから、この問題における米国の関与を完全に否定することはできません。
一方、ロシア政府関与の可能性も低いものの否定しきれいないということもいえます。体制の求心力を維持したり、ウクライナ情勢を活用して国を戦時体制に持ち込んだり、過激派を味方につけるため、ロシア政府がテロを自作自演した可能性は完全には排除できないものの、これらはあくまで憶測に過ぎず、一般市民を巻き添えにするリスクは極めて高いため、現状ではロシア政府関与の可能性は低いと考えられます。 
しかし、今後の客観的な情報次第では、権力側の介入の有無が判明する可能性は否定できません。
少なくとも、世界各国の情報筋はその可能性について認識しているでしょう。
また、ロシア側はこの事件を米国の陰謀であるかのように印象操作、米国側もロシアの陰謀であるかのように印象操作する可能性も考えられ、両国の対立が一層激化する恐れがあります。
このように、今回の事件は単なる一過性のテロ事件ではなく、ロシア国内のみならず、ウクライナ情勢、米露の対立、中東の過激組織の動きなど、広範な地政学的なリスクを孕んでいます。

プーチン体制の求心力の低下は、さまざまな地政学的火種を噴き出す可能性があり、国際情勢に大きな影響を及ぼすでしょう。

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2024年3月22日金曜日

もしトランプ政権になれば その2 NATO離脱ではない―【私の論評】トランプ氏のNATO離脱示唆はメディアの印象操作?アメリカ第一政策研究所の真の見解

もしトランプ政権になれば その2 NATO離脱ではない

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

まとめ
  • 民主党側は「トランプ大統領はNATOから離脱する」と警告する。
  • しかし、トランプ氏はNATOからの離脱ではなく、強化の実効策をとっていた。
  • トランプ氏の基本姿勢、「力による平和」と「抑止」は二期目も変わらないであろう。

 トランプ政権時、一部メディアがトランプ大統領がNATO離脱を示唆していると報じた。しかし、それは事実と異なる誇張であった。トランプ氏は確かに、防衛費負担が不十分な加盟国に対し、有事の際は防衛しない可能性を示唆した発言をしていた。しかし、それは単なる交渉の材料であり、真意はNATO全体の強化にあった。

 実際、トランプ政権はNATO堅持を国家安全保障戦略に明記し、NATO加盟国バルト3国に対する対ロシア抑止力強化にも取り組んだ。さらに、防衛費増額に応じないドイツからは一部米軍をポーランドに移駐させるなど、同盟国に公平な負担を求める措置を講じた。しかし、これらはNATO離脱を志向するものではなく、むしろ同盟の強化を目指す動きだった。

 一方で、トランプ政権は中国の脅威、特に軍事拡張への対決姿勢を鮮明にした。歴代政権の対中関与政策の失敗を宣言し、大規模な国防費増額で中国の軍事攻勢を抑えようとした。ロシアや北朝鮮に対しても強硬な姿勢を貫いた。対中戦争への備えとして「想定される対中戦争への準備と勝利できる能力の保持」を掲げ、「力による平和」「抑止」を基本姿勢とした。この軍事重視の姿勢は、バイデン政権の思考とは根本的に異なるものだった。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプ氏のNATO離脱示唆はメディアの印象操作?アメリカ第一政策研究所の真の見解

まとめ
  • 一部メディアがトランプ氏の発言を切り取って「NATO離脱」との印象操作を行った。
  • トランプ氏は実際に「NATO強化に向けた交渉の道具」としての発言をしただけであった。
  • アメリカ第一政策研究所(AFPI)は、トランプ政権の政策理念を継承する保守系シンクタンク。
  • AFPIは「アメリカ第一主義」の立場から、同盟よりも米国益を優先する発言をする一方で、NATOの集団防衛の重要性を否定したことはない。
  • トランプ氏が再選されても極端な政策の実施は避けられる可能性が高い。

NATO旗

マスコミはトランプ氏が大統領を退いた後でも、NATO離脱を示唆していると報道しています。

具体的には以下のようなメディアの報道があげられます。
  • 2022年1月にニューヨーク・タイムズは「トランプ氏は大統領に返り咲いた場合、NATOから離脱する可能性がある」と報じた。
  • 2022年1月、NPR(全米公共放送)は「トランプ氏は欧州諸国が防衛費を増やさなければ、米国はNATOから撤退する可能性がある」と伝えた。
  • これらの報道では、トランプ氏が実際に発言した「防衛費を払わない国はロシアの攻撃を米国が守らないかもしれない」という条件付きの発言を、文脈を無視して「NATO離脱」と誇張した形になっている。
  • トランプ氏自身は後にFOXテレビで「私の発言はNATO強化に向けた交渉の道具にすぎない」と釈明している。
このように、一部メディアはトランプ発言の一部を切り取り、「NATO離脱」との印象操作を行ったと考えられます。

最近の日本のメディアでも、トランプ氏の「NATO離脱」をほのめかす報道がなされています。
  • NHKでは、「トランプ前大統領発言 試されるNATOの結束」という解説記事で、トランプ氏が任期中にNATOの加盟国に対して十分な軍事費を負担しない場合の防衛義務の不履行に言及したことを報じている。(2024年2月13日 )
  • 日本経済新聞では、トランプ氏が再選された場合にNATO離脱を示唆したという内容の記事が掲載されている。(2024年3月11日)
このような印象操作には惑わされないようにすべきです。そうして、このような切り取り等の印象操作に惑わされないようにするには、確かな情報源にあたることをおすすめします。

その一つとして、アメリカ第一政策研究所の発信する情報があります。

アメリカ第一政策研究所(America First Policy Institute)は、2021年に設立された保守系のシンクタンクです。元トランプ政権の高官らが中心となって設立され、トランプ前大統領の「アメリカ第一」の政策理念を継承・推進することを目的としています。

設立当初、AFPI設立に関わった有力者には以下のような人物がいます。

国務大臣時代のポンペオ氏
  • ポンペオ、前国務長官-トランプ政権の国務長官であり、創設者の一人に挙げられる。
  • ドナルド・トランプ・ジュニア - ドナルド・トランプ元大統領の息子。
  • ブルック・ロリンズ - トランプ大統領の元国内政策審議会ディレクター。
  • ラリー・クドロー(Larry Kudlow) - トランプ政権下で国家経済会議の元ディレクター。
  • リック・ペリー - トランプ政権下の元米エネルギー長官。
  • ラス・ヴォート - トランプ政権下の前管理予算局長。
  • ロバート・ライトハイザー - トランプ政権下の元米通商代表。
主な活動は以下のようなものです。
  • トランプ政権時代の政策を分析し、今後の共和党政権に向けた政策提言を行う
  • 移民制限、対中強硬姿勢、保護貿易主義などトランプ路線の政策を支持
  • 中間層への経済支援策や経済ナショナリズムの推進を唱える
  • ワークショップ開催やメディア露出を通じて、保守層への影響力行使を図る
共和党内でトランプ支持層の影響力が根強いことから、同研究所の発言力は大きいと見られています。

アメリカ第一政策研究所(AFPI)は、NATOに対して複雑な見解を持っているようです。彼らのイデオロギーの中核はアメリカの利益を優先することにあり、それが国際的な同盟関係に対する懐疑につながることもあるようです。しかし、NATOの価値を否定するような主張はしていません。

以下は、その姿勢に関する要点です。

アメリカ第一主義:  AFPIは「アメリカ第一主義」の外交政策を推進し、同盟関係よりもアメリカの国益を優先します。そのため、NATOのコミットメントが米国の利益に合致しているかどうかを疑問視する可能性があります。ただ、アメリカ政府が国益を重視するのは当然であり、民主党政権などの政策は、特に移民問題、外交等で必ずしもそうはなっていないことを批判する立場を明確にしているといえます。

同盟強化の支持:「 アメリカ第一」という立場から、AFPIはNATOを支持しています。特に、最近のロシアのウクライナ侵攻を受けて、AFPIに所属する退役中将はフィンランドとスウェーデンのNATO加盟への支持を表明し、強固な同盟関係の重要性を強調しました。

全体として、NATOに対するAFPIのスタンスは進化しているようです。一般的には同盟の費用対効果に疑問を呈するかもしれないですが、ウクライナ戦争のような最近の出来事によって、集団防衛におけるNATOの重要性をさらに認める方向にあるようです。

要するに、柔軟な立場を示しているようです。トランプ氏には、譲れない立場や理想等があるでしょうが、それにしてもそれを実現するために、国際情勢を読み間違えたり、政策の順番を間違えれば、とんでもないことになりかねません。

その危険性については、トランプ氏自身が恐れていることでしょう。だからこそ、AFPIを設立し、様々な政策提言などをさせるようにしているのです。

よってトランプ氏が大統領に再選されたにしても、極端な政策が実施される可能性は少ないでしょう。しかし、そもそもトランプ氏が大統領在任中に極端な政策を実行したでしょうか。

岸田首相とバイデン大統領

たとえば、トランプ氏の移民政策はかなり批判されましたが、大局的に見れば、バイデン政権の移民政策はトランプ政権とさほど変わっていないと言えます。

両政権とも、基本的には不法移民の流入を抑制し、国境管理を厳格化する方針は同じです。法の執行や送還措置においても、大きな方針転換はみられません。

ただ、バイデン政権の動きには共和党から"緩め過ぎ"と批判されていて、実際その弊害もありますが、移民問題における両政権の政策の違いは、細部や具体的な手段の違いにとどまり、全体としては不法移民抑制と国境強化という大本の方針で大きく変わっていないと言えます。

理想や理念を語ることと、実際の政治とはまた別ものです。トランプ政権になれば、とんでもないことになるという見方は間違いだと思います。実際に政権運営をした結果で評価すべきです。

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2024年3月21日木曜日

”イランの術中にはまる米国とイスラエル”米国で「中東撤退論」が出た背景とイランの思惑と限界―【私の論評】イランの中東覇権戦略と日本の対応策 - イスラム過激派支援の実態と危機

”イランの術中にはまる米国とイスラエル”米国で「中東撤退論」が出た背景とイランの思惑と限界

まとめ
  • イランは代理勢力を使って、米国をアラブ世界から追放し、イスラエルを孤立化させ、中東での覇権を獲得しようとしている
  • イランの目的は、イスラム革命の思想を輸出し、中東での地域覇権を確立すること、さらにはユーラシア大陸の勢力と渡り合い、最終的に米国への挑戦勢力となること
  • イスラエルと米国は、空爆だけでなく、イランと代理勢力への経済制裁強化や要人への直接攻撃など、より強硬な対応が必要
  • バイデン政権の中東撤退の中で、イランはその機会を活用して中東での影響力拡大を狙っている
  • フーシ派による紅海での船舶攻撃など、イランの動きで中東情勢の不安定化が危惧される

米国とイランの国旗 AI生成画像

 元米海軍副次官でヨークタウン研究所理事長のセス・クロプシーが、2月27日付けウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘The U.S. and Israel Play Into Iran’s Hands’で述べたところによれば、最近のイスラエルによるガザ地区への軍事作戦の背後には、イランが中東地域での覇権を獲得しようとする野心的な狙いがあった。

 イランは長年にわたり、ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦機構、ヒズボラなどの過激組織を経済的・軍事的に支援してきた。これらの組織は「抵抗の枢軸」と呼ばれ、イランの革命防衛隊の監督下にあるイランの代理勢力のネットワークを形成している。イランはこの代理勢力を動員し、米国とその同盟国イスラエルを中東からおしのけ、イランの影響力下に置こうとしている。

 その根本的な目的は、イスラム革命の思想を中東全域に輸出し、この地域での覇権を確立することにある。さらにはユーラシア大陸に勢力範囲を広げ、ロシア、中国、インドといった勢力と渡り合い、最終的には米国への政治・経済・軍事面での挑戦勢力となることをイランは目指している。このようにイランは、単なる宗派対立を超えた地政学的な戦略を追求しているのである。

 そのため、イスラエルと米国はこのイランの脅威を看過してはならない。代理勢力への一時的で限定的な空爆では不十分であり、イラン国内の指導者や革命防衛隊の中枢への直接攻撃、経済制裁の大幅強化、原油価格操作などによる経済的措置が必要不可欠である。現状では米国がイランの巧妙な戦略に付け込まれ、的確な対応を怠っている。

 他方、バイデン政権下で中東地域からの撤退が着実に進行する中、イランはこの窓口を狙ってさらなる中東進出を企図していると見られる。しかし、米国は中東の主要産油国の安全保障にイスラエルを位置付け、連携を深める構想を有しているため、イランとイスラエルの対立はさらに先鋭化する恐れが大きい。また、イエメンに拠点を置くイランの代理勢力フーシ派による紅海での船舶攻撃が継続され、同海域の航行の安全が脅かされていることからも、イランの動きによる中東情勢の更なる不安定化が危惧されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】イランの中東覇権戦略と日本の対応策 - イスラム過激派支援の実態と危機

まとめ
  • イランは中東地域でイスラム革命思想を輸出し、覇権を確立することを目指している
  • さらにその影響力をユーラシア大陸に広げ、米国への挑戦勢力となることが最終目標
  • そのため中東全域の過激組織(ハマス、ヒズボラ等)への長年の支援を行い、代理軍事組織ネットワークを構築
  • イラク、シリア、イエメン、アフガニスタンなどでも同様に過激組織支援を行い、影響力拡大を企図
  • このイランの地政学的覇権追求に対し、日本は危機意識を持ち、多角的な強硬対応が必要不可欠

イラン革命防衛隊

上の記事にもある、イランが追求している地政学的戦略とは、イスラム革命の思想の輸出を通じて、まず中東地域での覇権を確立することです。さらにその影響力をユーラシア大陸に広げ、ロシア、中国、インドといった勢力と渡り合い、最終的には米国への挑戦勢力となることを目指しています。

この地政学的戦略を裏付ける具体的な事実は以下の通りです。
  1. イランは中東全域に散らばる過激組織ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦機構、ヒズボラなどを長年支援してきました。これらを「抵抗の枢軸」と位置づけ、自らの代理軍事組織のネットワークとして機能させています。
  2. 特にレバノンのシーア派過激組織ヒズボラへは1980年代から年間数億ドル相当の資金援助と最新武器の提供を行い、中東における最大の代理軍事組織に育成しました。
  3. イラクでは革命防衛隊が複数のシーア派民兵組織を組織し、訓練・武器供与を行っており、米軍撤退後のイラク政権への影響力維持を企図しています。
  4. シリア内戦ではアサド政権に人員と資金を投入し、シリアをイランの影響圏に留める狙いがあります。
  5. イエメンのフーシ派へは地対空ミサイル、ドローンの供与が確認されており、紅海に面したイエメンの戦略的価値を重視しています。
  6. アフガニスタンでも、イラン人エスニシティ(民族、民族集団)を持つハザラ人組織への支援を継続し、同国でのイランの影響力維持を狙っている。
このように、イランは特定の宗派に囚われず、中東から中央アジアに至る広範囲で、さまざまな過激組織への支援を行い、米国に対抗する影響圏の拡大を地政学的に企図している実態が見て取れます。

こうした、イランに対処するため、日本はどうすべきかを以下に述べます。

日本の自衛隊員

こうした、イランに対処するため、日本はどうすべきかを以下に述べます。

イランの動機と手法の冷徹な分析 
イランの宗教的レトリックの奥にある現実的な権力追求の動機を看破することが重要です。具体的には、イランによるシーア派過激組織支援の実態を徹底的に分析する必要があります。例えばイラクのシーア派民兵組織への資金・武器の流れ、レバノンのヒズボラへの軍事的バックアップなど、イランの代理勢力活用の実態を的確に捉えるべきです。
反イラン勢力への積極的な支援 
日本はイランの中東支配に反対するイスラエル、サウジアラビアなどの国々との協力関係を一層緊密化する必要があります。例えば、サウジに対する防衛装備の供与、イスラエルとの軍事技術交流の拡大、両国との情報共有の強化などが考えられます。
価値観対決への文化的自信 
日本は、民主主義や自由の理念を日本的的価値観から正当化し、それをイランのイデオロギーに対する宣伝で活用すべきです。具体的には、中東各地での知日層の育成や、日本の価値観を発信するための放送媒体整備なども有効でしょう。
反テロ体制の徹底強化 
イスラム過激派へ の譲歩は一切認められません。日本は国内外のテロリストへの監視能力を高め、有事の際の武力行使オプションを確保する必要があります。具体的には情報機関の人的・技術的強化、領空侵犯時の武器使用容認、対テロ部隊の実働能力の向上などが求められます。
イランの経済的な痛手
日本はイランへの経済制裁を一層強化し、原油価格の操作やイラン金融機関の締め上げなどを通じ、イランの経済的痛手を狙うべきです。
このように、日本にはイランの現実主義的な動機分析、反イラン勢力支援、価値観宣伝、徹底した反テロ体制強化、経済的圧力の行使といった多角的アプローチがイランの覇権主義に対して求められることになります。

イランの地政学的な覇権追求に対し、日本政府やメディアの一部には危機意識の希薄さや寛容な姿勢さえ見受けられる有り様は、極めて憂慮すべき状況です。

イランが中東での影響力を増大させ、その野心を実現に向けさせれば、日本は多方面で深刻な被害を被るリスクがあります。中東情勢の不安定化により、日本のエネルギー安全保障が脅かされかねません。

さらに、イランが支援する過激組織によるテロの脅威が高まり、邦人や企業の安全が危険にさらされます。加えて、ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本の命綱である海上交通路が遮断され、経済に壊滅的打撃となるでしょう。

ホルムズ海峡(矢印)

一方、中東に勢力基盤を得たイランは、次にアフガニスタンやパキスタンなど、日本の対アジア外交や経済活動にも影響を及ぼしかねません。さらに、自由・民主主義と対立するイランの価値観の広がりにより、日本は国際社会から孤立を余儀なくされる恐れもあります。

このように、イランの覇権主義を放置すれば、日本は安全保障と経済の両面で極めて重大な脅威にさらされることになり、看過できない重大課題といえます。

日本政府は、一部のマスコミや自らの姿勢の問題点を認識し、危機感を新たにして、包括的な対イラン強硬姿勢への転換が求められています。経済制裁の実行、治安体制強化、中東同盟国との連携推進など、イランの覇権阻止に向けた総力戦が不可欠な段階にあります。

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2024年3月20日水曜日

マイナス金利解除に2人反対=審議委員の中村、野口氏―日銀―【私の論評】金融政策の効果発現に時間はかかる - 日本経済の過ちと教訓

マイナス金利解除に2人反対=審議委員の中村、野口氏―日銀

日銀

 日銀は19日、大規模金融緩和策の大幅修正を決めた同日までの金融政策決定会合で、投票権を持つ9人の政策委員のうち、審議委員の中村豊明、野口旭の両氏がマイナス金利の解除に反対したと公表した。

 日銀の公表文によると、中村氏は「業績回復が遅れている中小企業の賃上げ余力が高まる蓋然(がいぜん)性を確認するまで継続すべきだ」と主張。野口氏は「賃金と物価の好循環を慎重に見極めるとともに、金融環境に不連続な変化をもたらすリスクを避ける観点」から、長短金利操作とマイナス金利の同時撤廃に反対した。

 中村氏は日立製作所出身。野口氏は積極緩和論者「リフレ派」として知られる。 

【私の論評】金融政策の効果発現に時間はかかる - 日本経済の過ちと教訓

まとめ
  • 金融政策の効果発現には通常1年半~2年の時間遅れがある 
  • 誤った金融政策の悪影響も同様に時間を経てから現れる 
  • マスコミは金融政策の影響が出る頃には別の問題に注目が移すことになり、過去もそうであったように本質が見失われる可能性がある。
  • 日本は過去、この時間の遅れを考慮せずに政策判断を誤り続けてきた。だからこそ、日本人の賃金は過去30年にもわたりあがることがなかった。 
  • 金融・財政出動すべきときに、構造改革や生産性の問題にすり変えられ、長い間間違いを繰り返してきた。これを繰り返すべきではない。
過去にこのブログでは、先進国のエネルギーと食糧品を除いた消費者物価指数(コアコアCPI)の推移と日米のその対比から、マイナス金利解除(利上げ)の必要性はないことを主張してきました。

その主張の要旨を以下に再掲します。

まずは、先進国の比較の表を以下に掲載します。
2020年〜直近までの先進国のコアコアCPI

国名2020年2021年2022年2023年2024年予想
アメリカ1.40%2.30%4.70%3.90%3.40%
日本0.00%0.10%0.60%0.70%0.80%
ドイツ0.70%1.90%3.30%2.60%2.30%
イギリス1.20%2.10%5.90%4.10%3.60%
フランス0.50%1.60%2.80%2.20%1.80%
イタリア0.00%1.20%3.80%3.10%2.80%
カナダ1.70%2.20%4.30%3.70%3.20%

参考資料:

上の表からは、日本のコアコアCPIの伸び率が2020年から2024年予想まで、ほとんどの年でアメリカやユーロ圏、カナダなどの主要国に比べて大幅に低い水準にあることが分かります。確かに現状では物価高ではあるのですが、それは海外から輸入するエネルギーや資源が値上がりしてそれが物価をおしあげているのであり、それを除いた日本国内では物価は低水準にあるといえます。

これを見誤るべきではありません。正しい政策は、金融政策においては、金融緩和を継続することです。財政としては、輸入企業などを支援しながら、金融緩和を継続というのが、当面の正しいあり方です。

以下に日米コアコアCPI比較と米国の金利政策を併記した表を掲載します。

日米の四半期毎の失業率とコアコアCPIの推移 (前年比)

四半期米国 失業率日本 失業率米国 コアコアCPI日本 コアコアCPI米国 金利政策
201913.70%2.30%2.30%0.50%-
23.60%2.20%2.10%0.40%-
33.50%2.10%2.00%0.30%7月:0.25%↓
43.50%2.10%2.10%0.40%9月:0.25%↓
202013.50%2.20%2.00%0.50%11月:0.25%↓
214.70%2.60%1.20%0.20%-
37.90%3.00%1.70%0.20%-
46.70%2.90%1.30%0.10%-
202116.30%2.80%1.50%0.00%-
26.00%2.70%2.10%0.10%-
35.40%2.80%3.10%0.20%-
44.20%2.90%4.10%0.30%-
202213.80%2.70%6.00%0.40%3月:0.25%↑
23.60%2.60%7.00%0.50%5月:0.50%↑
33.50%2.50%8.20%0.60%7月:0.75%↑
43.70%2.50%7.10%0.70%9月:0.75%↑
202313.90%2.40%6.50%0.80%11月:0.50%↑
23.80%2.30%6.20%0.70%12月:0.50%↑
33.60%2.20%5.90%0.60%-
43.50%2.10%5.70%0.50%-
202413.40%2.00%5.60%0.40%-

情報源

失業率

  • 米国: 米国労働統計局 (BLS) - 雇用統計 
  • 日本: 総務省統計局 - 労働力調査 ([無効な URL を削除しました])

コアコアCPI

  • 米国: 米国労働統計局 (BLS) - 消費者物価指数 
  • 日本: 総務省統計局 - 家計調査 

その他

  • 国際通貨基金 (IMF) 
2024年度1期目は予測値。
米国が、2019年に利下げを行ったのは、コロナ禍のため、失業率が上がることが予め予想されたからだとみられます。失業率は典型的な遅行指標であり、現在の失業率の数値は、数ヶ月から1年前の政策に結果とみなされます。逆にいえば、現在の政策は数ヶ月から1年後に現れるということになります。

米国の失業率は、2020年第二期には、14.7%となりましたが、2022年第一期で3.8%ととなり、安定しました。コアコアCPIが4%台から、6%台になった2022年の第一期ではじめて利上げに踏み切っています。

日本の失業率が米国より若干低めということを考慮しても、2023年4期目で、失業率が2.1%、コアコアCPIが0.5%の日本が、近日中にマイナス金利解除(実質上の利上げ)などする必要性がないことは明らかです。
物価上昇率が低水準 2023年1-2月の消費者物価指数は3.8%と高水準ですが、食料品とエネルギーを除くコア指数は上でも述べたように低水準です。日銀の物価目標2%に届いていません。

賃金上昇率が低迷 2022年の実質賃金は0.8%減少しています。企業は人件費抑制を続けており、賃金の伸び悩みが物価上昇を押し上げる前に解消される可能性は低いでしょう。

円安による物価押し上げ圧力 円安は輸入品価格を押し上げ、家計や企業のコストプッシュ圧力になっています。しかし、これは一時的な要因であり、根本的な需給ギャップを反映したものではありません。

成長減速リスク 世界経済の減速が輸出や設備投資を抑え、国内需要の下押し要因になるリスクがあります。金融引き締めがこのリスクをさらに高める可能性があります。

以上から、日本経済にはデフレ脱却や2%の物価安定目標達成に向けて、金融緩和政策を継続する必要性が依然としてあると考えられます。マイナス金利解除は時期尚早です。

株価が最高値を更新したことは歓迎すべき出来事ではあるものの、バブル期の水準から見れば現在の株価はまだ低水準にあると言えます。本来なら、10万円になっていても良いくらいです。株価上昇が所得や雇用の改善につながるまでには時間がかかることを考えると、現状は依然として力強い景気回復とは言い難い状況にあります。

一方で、政府による不適切な財政出動や金融当局の過剰な金融引き締めがあれば、この勢いすら失われかねません。昨年の所得減税の遅れや、能登半島地震への対応で補正予算を組まずに予備費で対応するという手落ち、そして最近の日銀のマイナス金利解除は、そうした景気下押しリスクの具体例と言えるでしょう。

特に金利引き上げについては、「Behind the Curve」と呼ばれるインフレ亢進に後れを取って利上げをするとのが通常の方法ですが、日銀は早々と利上げする過ちを冒している可能性があります。銀行などの金融機関は金利引き上げを歓迎するでしょうが、現下の低消費・低賃金環境下では景気減速を招きかねません。

日銀植田総裁

日銀の動きには、金融緩和政策からの早期解除を求める財界やマスコミ、財務省などの影響に加え、民間にいたときからマイナス金利の弊害を主張していた植田総裁の個人的思い込み等で国民経済を犠牲にするべきではありません。

デフレ脱却への道のりは平坦ではありませんが、政府・日銀には着実な進展を妨げるような政策決定は慎むべきです。専門家の力強い批判を念頭に置き、機動的な対応を期待したいところです。

金融政策の実体経済への影響が現れるまでには、おおむね1年半から2年程度の時間を要します。例えば利上げの場合、住宅ローン金利の上昇から不動産市況の冷え込み、雇用・所得環境の悪化へと波及していくためです。一方で、金融緩和策の効果が賃金や消費に現れるまでも同程度の時間がかかります。つまり、金融政策の影響には相当の時間遅れが存在するのです。

過去の日本は、間違った金融政策の悪影響が現れたときには、それが金融引締の悪影響であると気付かないマスコミや、政治家などにより、金融政策の失敗という事実が認識されず、批判もされず、他の構造問題や生産性の問題にすり替えられ、長い間誤った金融政策が正されることがありませんでした。そのため、日本人の賃金は過去30年上昇しませんでした。

過去の轍を踏まぬため、今こそ我々は、日銀の政策の間違いを指摘し続けるべきです。さらに、金融・財政出動との有機的な連携を期すべきです。経済の復活には個々人の努力も必要ですが、金融・財政政策は個々人の力の結集ではどうにもできません。水漏れがあるときに、個人の努力で水を汲み上げたとしても、元栓が閉まっていなければ水は溢れ続けます。まず、元栓をとめるしかないのです。それから、パイプを取り替えるなどのことをすべきなのです。

水漏れを元栓を止めることなく、必死で水を汲み出して対処しようとする人々 AI生成画像

金融・財政政策も同じことです。まずは、優れた政策と言う前に、間違った政策をしないことが肝要です。特に金融政策が優れていなくても、間違った政策さえしなければ、経済はいずれ正常な軌道にのります。正常とは、デフレでないということです。デフレは、正常な経済循環(好景気、不景気の繰り返し)を逸脱した、経済の異常な状態です。

一朝一夕には景気は変わりませんが、着実な政策運営こそが経済再生への確かな一歩となり得るはずです。そのことを多くの政治家に認識していただきたいものです。そうして、これこそが政治家の大きな仕事の一つであることを認識していただきたいものです。


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