2019年11月25日月曜日

国際社会で模索すべき香港デモの解決策―【私の論評】安倍政権の財界親中派への配慮は、いつまでも続かない(゚д゚)!

国際社会で模索すべき香港デモの解決策

岡崎研究所
 6カ月以上にわたる香港の抗議運動を巡る情勢は、収まる兆候を見せるどころか、益々激化、暴力も起こり、危険な状態になっている。日本人がそれに巻き込まれ、負傷する事件もあった。現況及び今後の香港情勢は、非常に憂慮される。もともと自由と民主主義を求め、2047年まで保証された「一国二制度」を維持するために平和に始まった抗議運動であり、これが、大きな流血事態を招くようなことを許してはならない。天安門事件のような事態は、中国共産党にとっても回避すべきことは言うまでもない。 

引渡法案に抗議する大勢の人々が参加した6月のデモ

 11月13日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の社説は、中国共産党政府が、香港基本法の関連規定の実現となる国家安全法の制定と香港行政長官を選出する普通選挙の導入を抱き合わせで行えないかと提案している。それがデモの平和裏の収束と流血回避の唯一の可能性だと指摘する。ただし、これは、中国共産党にとって、デモへの屈服になってしまい、中国の他の地域への波及の可能性もあり、なかなか実行は難しいだろう。そのことは、フィナンシャル・タイムズ紙の社説も認めている。しかし、国家安全法は、以前にも立法化が試みられたことがあり、内容如何にもよるが、理論的には考えられないことではないように思える。興味深い提案であり、これは、フィナンシャル・タイム紙から中国共産党政権に対するシグナルと考えても良いかもしれない。

普通選挙の実施は、デモ側の五大要求(①逃亡犯条例案の完全撤回、②警察の暴力的制圧の責任追及と独立調査委員会の設置、③デモ「暴動」認定の撤回、④デモ参加者の逮捕・起訴の中止、⑤林鄭月娥行政長官の辞任と民主的選挙の実現)の1つとなっている。兎に角、今や、香港当局がデモ隊側に何らかの譲歩をしない限り、現下の危険な事態は解決されない。それへの代案が中国共産党による軍事介入ということであれば、尚更追求すべき方策かもしれない。北京政府も、民主化を求める住民の意思を無視していては、問題は永遠に解決しないし、武力で問題は解決しないことを認識すべきだろう。

抗議デモの長期化により、香港経済が予想以上に悪化しているという。今年第 3四半期(7~9月)の成長率はマイナス3.2%(前期比)となったという。観光業も不振になっている。

国際社会、特に米国と前の統治国である英国がきちっと中国に話していくことが重要である。米国では、「香港人権・民主主義法案」が下院を通過し、上院も承認すると見られている。日本など他の諸国も、適切な形で平和裏の解決を求めていくべきだろう。

【私の論評】安倍政権の財界親中派への配慮は、いつまでも続かない(゚д゚)!

政府への抗議デモが続く香港で24日、4年に1度の区議会選挙が実施され、投票率は過去最高の71.2%でした。中間集計で民主派が300議席を獲得したのに対し、親中派は40議席に留まり、デモに強硬姿勢で臨む香港政府と中国の習近平指導部に民意が明確にNOを突きつけた形となりました。

親中国政府派の候補者が敗北したことを受けて歓声を上げる民主派の人々

ただし、区議会議員はほとんど決定権がなく、町内の顔役のような役割です。ですからこれで物事が決まるとか、状況が変わることはないですが、民意をキチンと伝えるということはできるようにはなるかもしれません。

香港市民は、現在の林鄭月娥(キャリー・ラム)香港特別行政区行政長官も含めて、行政府に対してはNOを、そうしてその裏にいる中国共産党や中国政府に対しても、NOだという民意が示されたというところも大きいです。

この選挙結果が出る直前に、まだトランプ大統領は署名していませんが、アメリカ議会で香港人権・民主主義法案の可決が行われたということが、大きく背中を押したは間違いないと思います。

米下院は、香港が高度な自治を維持しているかどうか米政府に毎年検証することを求める
「香港人権・民主主義法案」など中国への圧力を強める複数法案を可決。写真は14日に香港

特に香港中文大、理工大でのデモが激しくなって来たあたりで、デモ隊が暴力を振るっていて市民の心が離れているということを、勝手に解説する中国の専門家と称するような方がいましが、結局民意はそうではなかったということです。

むしろ、YouTube等で、警察側の暴力が動画が拡散しています。YouTubeで「香港」というキーワードを入れて検索すると、かなりの動画を見ることができます。大学構内で学生が警察に対して完全に屈している、逮捕されますという姿勢を見せている学生に向けて、硬い靴で顔を思い切り踏みつける、背骨を警棒で殴るという状況も拡散されています。

これはもう完璧に暴力による虐待であり、それに対して市民は強い危機感を持っているし、学生に対するシンパシーを持ち続けているということです。今回の区議会選挙の前段で、あのような強行策を取ったということが、逆の方向に出たしまったのでしょう。民意は行政庁からどんどん離れつつあります。むしろ、40議席を獲ったことが不思議なくらいです。

現地のメディア、或いは記者の人が伝えているネットなどを観るとと、得体の知れない投票箱が運ばれて来て、中身を調べろということになっていました。周りで監視していた市民が、そんな得体の知れないものは受け取れないと揉めていました。また、投票しに行ったら「すでに午前中に君の名前で投票されています」とあったとか、選挙そのものがどうなっているのかということも報道されています。

中国国内においては、建国以来民主的な選挙は行われていません。上は、主席から、下は下級役人まで、どのようなポストも指名によって行われています。中国には、民主的な選挙をどのようにコントロールできるのか、ノウハウがありません。

だから暴力の行使というあからさまなやり方を持ち出したのではないでしょうか。そもそも、中国では建国以来毎年平均2万件程度の暴動があったとされ、2010年あたりからは、毎年平均10万件もの暴動が発生しているといわれています。

これらの暴動を城管、公安警察(日本の警察にあたる)、武装警察、人民解放軍などを用いて、鎮圧してきたわけですから、中国からすれば、デモの鎮圧など簡単で香港のデモなど取るに足らないものと見ていたといのが、大きなミスです。

もう1つのミスは、そういう状況が必ずSNSや動画で拡散、それも瞬時に拡散されてしまうということです。中国サイドは、このあたりを甘く見ていたようです。中国本土ではネットも政府の金盾によるコントロール下にあります。だから香港のネットも簡単にコントロールできるかと思いきや、そうではなかったのです。

さらに、香港には、米国籍、英国籍等外国人が多く存在します。さらに、外見は香港人でありながら、国籍は外国という人も大勢います。これらの人々が、逐一海外に様々な情報を伝えているというところも、大陸中国とは異なるところです。



米国で、香港人権・民主主義法案が成立して、米国の香港に対する最恵国待遇が外されることが確実になって来ました。ブルームバーグが報道したところによると、東京都の担当者が香港の金融機関に対して、東京に戻って来ないかと働きかけているそうです。

東日本大震災以降、東京から避難した香港系金融機関がいくつもあるわけですが、そういう金融機関に対して東京に戻って来ないかと言うだけではなく、拠点を香港から東京に移さないかとアプローチしているそうです。

これに対して、香港在住の金融機関がかなり前向きになって来ているようです。そうなると、香港の金融センターとしての役割も危うくなります。これを中国サイドはどう見るのでしょうか。

現在香港では金融機関の多くの職員が在宅勤務のような形になっているそうですし、長期出張として東京やシンガポールなどで業務をしているところが多いそうです。その長期出張が東京への拠点の移動の1つの布石ではないかと、言われています。

在宅勤務ということは、店舗は閉鎖されていることを意味します。実質的に、金融機能は麻痺状態に陥っているのではないでしょうか。

これを中国はどう見るのでしょう
か。習近平政権は腐敗撲滅運動を実施していて、その大きな拠点が香港であるということは見抜いているようです。ただここを潰してしまうと、本土の赤い官僚貴族たちに対して、広範囲に影響があります。

香港には共産党幹部たちの隠し資産があります。そのような金融機関の動きを見てみると、事実上の内戦状態に陥っているともいえます。つまり戒厳令こそ宣告されていなですが、同じ状況にあるといえます。
米国の香港人権・民主主義法案に関しては、後はトランプ大統領の署名を残すのみですが、仮に署名しなくても、また議会で大多数で可決すれば施行することができます。

たとえ、トランプ大統領が署名を拒否したとしても、採決すれば通ってしまいますから、トランプ大統領としても署名するでしょう。そうなると、問題は日本のスタンスなのです。

来年(2020年)、習近平国家主席が国賓待遇で来日しますが、それをこのまま容認して進めて良いのかということがあります。これは考え直すべきです。

ここに来て、ようやく各政党が非難決議や談話を出し始めましたが、遅きに失した感はく免れません。

現在、各国政府、特に西側先進国はかなり強烈なメッセージを出して、中国との条約の見直し作業に入っている状況です。まさに天安門前夜と同じような状況になっているのは間違いないです。それにも関わらず、日本だけが平時と同じような状況で中国との関係を保っているということは、国際社会のなかで日本が孤立することにもなりかねません。

いままで中国に対して、対話のドアはオープンだと言いながら、言いたいことは言ってきました。どうしてここへ来て変わってしまったのでしょうか。

官邸の方針が変わったということは言えると思います。これまでは少なくとも、安全保障と経済問題はバランスを取って来ました。現在の対中政策は、安全保障問題は後退して、経済一本槍です。安全保障問題に対して消極的姿勢になったようにみえます。

しかし、これは、おそらく中国幻想の妄想から冷めやらない、財界親中派に対する配慮に過ぎないものと考えられます。安倍総理は、総理に就任してから6年間も中国に行きませんでしたが、昨年はじめて中国を訪れています。ところがその翌日に中国から帰った途端、インドのモディ首相を別荘に招待しています。この事実が、安倍外交の何であるかを象徴していると思います。

いずれ財界親中派も、世界の潮流が変わったこと、さらには、中国にはもう先がないことなどを理解することになれば、安倍政権も元の鞘にもどることになると思います。ただし現状でも中国に対する厳しい見方は変わっていないでしょう。

米国をはじめ、世界中の国々が中国に対して厳しい態度をとりつつある現在、安倍政権による財界親中派に対する配慮はいつまでも継続できないでしょう。

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2019年11月24日日曜日

消費税10%ショック! やはり「景気後退」が始まったかもしれない―【私の論評】インバウンド消費等元々微々たるもの、個人消費に勝るものはない(゚д゚)!

消費税10%ショック! やはり「景気後退」が始まったかもしれない

麻生財務相はわかっていない

不可解な「麻生発言」

「安倍晋三首相から経済対策の指示は出ておらず、現時点でその必要性も感じない」

11月1日の閣議後、会見でこう述べたのは麻生太郎財務相である。だがこの発言が密かに、周囲の混乱を生んでいる。


麻生財務大臣

というのも麻生財務相は、今年7月の参院選当時、10月の消費増税後に世界経済が大幅悪化した場合などを念頭に「必要な事態が起きれば、それなりの対応をしようと財政当局として考えている」と発言。

今秋に追加経済対策を実施する可能性を示唆していたからだ。

奇しくも同日付の日経新聞では、「安倍晋三首相は大規模災害や来年夏の五輪後の経済成長を底上げするため、経済対策の策定を近く指示する」と報じられた。

麻生氏の発言とは正反対の趣旨である。

おまけに、こんな数字も同日、厚労省から発表された。9月の有効求人倍率で、その数値は前月比0・02ポイント低下の1・57倍となった。これだけで景気後退は断言できないが、見逃していい数字でもない。ますます麻生氏の発言の真意を計りかねるところだ。


景気後退のサイン

景気停滞について、その兆候を示す調査がちらほらと出始めている。

NHKは、消費増税から1ヵ月が経過し、小売りや外食などの主な企業50社に調査を行った。その結果は、6割の企業が増税のあと、売り上げが前の年の同じ時期よりも減少したと回答したのだ。



また、日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査では、同じく消費増税から1ヵ月で、家計支出について「変わらない」と回答したのは76%、「減らした」と回答したのは21%だった。

ちなみに'14年の消費増税時は、「変わらない」は66%「減らした」は31%だった。今回の増税は8%から10%、前回は5%から8%と、増税割合は前回のほうが大きい。増税幅と消費減少の連動を示している数字といえよう。

さらに、総務省が発表した、10月の東京都区部の消費者物価指数(CPI)も見てほしい。前年同月比0・5%上昇で9月から横ばいだが、増税による押し上げを除くと0・34%で、2年3ヵ月ぶりの低い伸びだった。

また、実質消費支出でいうと、'14年は前年比マイナス2・5%であった。

ここから今回の消費増税の影響を算出してみると、およそ1・8%の消費支出マイナスになることが想定される。

先の読めない金庫番

あまりインパクトを感じない数字かもしれないが、消費以外の需要項目、民間住宅、民間設備投資、公的部門、外需がかなり頑張らないと実質GDP成長率がゼロ近辺に落ち込むレベルといえる。

米中貿易戦争にブレグジット、ホルムズ海峡の緊張や日韓関係悪化と、地政学リスクは7月の参院選時より明らかに増えている。となれば、外需だのみは通用しない。

大規模の景気対策を打たないと、来年の中盤から、つるべ落としの景気悪化になるかもしれない。にもかかわらず麻生財務相が「経済対策は不要」と言い切るのは不可解としか言いようがない。

今の臨時国会は、経産相と法相の二人が辞任する異常事態だ。その中で、補正予算を通さなければいけない。財務相ならその厳しさをわかっているはずだが、どうも先の読めない金庫番、という顔をしているのは愚かだ。

『週刊現代』2019年11月16日号より

【私の論評】インバウンド消費等元々微々たるもの、個人消費に勝るものはない(゚д゚)!

さて、国内景気に関しては、もう一つ不安要因もあります。11月20日に発表された10月分の訪日外客数は前年同月比-5.5%と、8月分と同様に昨年の実績を下回りました。

訪日客によるインバウンド消費金額は2018年に4.5兆円と、2012年(約1兆円)から3.5兆円増えました。個人消費全体が約300兆円ですから、その1%相当を超える消費需要が過去6年で現れました。

インバウンド消費の拡大に加えて、訪日客到来によるビジネス機会の広がりが促した設備投資需要などの波及効果を含めると、インバウンド消費は2013年以降の日本経済の成長を支える牽引役となっていました。その牽引役が、足元で勢いを失っているといえます。

実際に、足元ではインバウンド需要の停滞により、旅行、化粧品関連などの企業で業績悪化が目立っています。個別企業、そして観光需要に依存している地方などには、無視できない悪影響がみられています。

ただ、韓国からの訪日客の大幅な減少だけで日本経済全体が失速する可能性は低いと、私は思います。日韓関係修復の時期は予想できませんが、訪日客全体に占めるシェアが最も大きい中国だけではなく、アジア以外からの訪日客数も順調に伸びています。足元で訪日客は一時的に減っていますが、年間ベースで減少に転じる可能性は低いとみています。

平成29年の日本人国内旅行消費額は、21兆1,130億円(前年比0.8%増)となり、うち宿泊旅行が16兆798億円(前年比0.3%増)、日帰り旅行が5兆332億円(前年比2.3%増)です。

日本人国内延べ旅行者数は、6億4,751万人(前年比1.0%増)となり、うち宿泊旅行が3億2,333万人(前年比0.7%減)、日帰り旅行が3億2,418万人(前年比2.8%増)です。



なぜか、インバウンドばかりに目がいきますが、やはり日本人の旅行者のほうが圧倒的に実数も、消費もはるかに大きいです。現状のインパウンドの4.5兆円と比較すると、20兆円規模です。



少子高齢化の影響もあってか、日本人の延べ旅行者数は、減る傾向にはありますが、消費額の推移をみると、だいたい20兆円台で推移しています。インバウンド消費(18年で4.5兆円)よりもはるかに大きいことがわかります。

インバウンド消費停滞の経済全体へ影響は限定的である一方、日本経済の成長をはっきり押し下げるのは消費増税による緊縮財政政策の悪影響です。当然日本人の国内旅行での消費も減ることになるでしょう。

インバウンド消費は、GDPの1%に過ぎないのですが、日本人による個人消費はGDPの60%を占めます。個人消費が冷え込めば、インバウンド消費がかなり増えたとしても、それは帳消しになります。

11月14日に判明した7~9月実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率+0.2%と、ほぼゼロ成長でした。個人消費は前期比+0.4%と消費増税前の駆け込み消費があったにも関わらず、低い伸びにとどまりました。

個人消費がやや伸びた一方で、在庫投資が成長押し下げ要因になっていましたが、これは駆け込み消費によって積み上がっていた在庫が大きく減少したことを示しています。このため、10~12月には個人消費が落ち込み、GDP成長率は大幅なマイナス成長になる可能性が高いとみられます。

なお、前述した訪日客の8月以降の急減は、GDP統計上では輸出にカウントされますが、輸出全体を前期比-0.3%ポイント押し下げ、7~9月の経済成長に関して若干足を引っ張った格好になります。

インバウンド消費という牽引役が勢いを失う中で、消費増税による悪影響によって2020年前半まで日本経済の停滞が鮮明になり、東京五輪の年となる2020年度のGDP成長率はほぼゼロまで減速する可能性が大きいです。ゼロどころか、マイナス成長になる可能性すらあります。

最近、一部の政治家から10兆円規模の補正予算を求める声があがっていますが、消費増税による緊縮財政を覆すような財政政策を、麻生財務大臣の発言からもうかがえるように、現在の安倍政権が行う可能性はかなり低いことでしょう。

このため、2020年にかけて日本国内には成長を押し上げる要因はほぼ見当たらず、停滞局面に入った日本経済の底入れは、米中を中心とした海外経済の減速に歯止めがかかるタイミングが決定的に影響するでしょう。10月以降勢い良く上昇してきた日本株の2020年にかけての先行きも、海外の経済・株式市場次第の状況が続くことになりそうです。

このような状況を麻生財務相はわかっていないようです。補正予算は真水10兆円で与党と財務省の間で攻防中です。この決着がつくのは、今の臨時国会か、年明けの通常国会冒頭かは今のところ不明です。

年明けになれば、通常国会の召集日が1月下旬から1月上中旬になります。現状の国債がマイナス金利なら真水10兆円なんてチマチマしたことをいわずに、国債を金利がゼロになるまで発行しつづければ、103兆円分は刷れるはずと高橋洋一氏が試算しています。

これは、以前の記事にも掲載したことなのですが、国債を擦りまくり100兆円基金を創設して、今後の有効需要確保するという手があり、実際それを実行すれば、たとえ増税したとしても、令和年間はデフレにならなくてもすむ可能性があるのですが、麻生財務大臣には、期待できそうもありません。

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2019年11月23日土曜日

日本政府高官「ほとんどパーフェクトゲーム」 米国が韓国に圧力かける構図に GSOMIA失効回避―【私の論評】とうとう韓国のバランス外交の失敗が表沙汰になった。日本も習近平を国賓として招けば同じような目をみることに(゚д゚)!

日本政府高官「ほとんどパーフェクトゲーム」 米国が韓国に圧力かける構図に GSOMIA失効回避

記者団からGSOMIAの継続について記者団の質問に答える安倍首相=22日午後、首相官邸

 日本政府は、韓国からの輸出管理厳格化の撤回要求を拒否し続けた上、米国が韓国に圧力をかける構図を作り上げたことが、韓国政府の今回の決定につながったとみている。日本政府は貿易管理をめぐる当局間の協議再開には応じるものの、「一切妥協はしない」(政府高官)方針だ。

 「ほとんどこちらのパーフェクトゲームだった」

 韓国政府の突然の方針転換に日本政府高官はこう語った。日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄通告を改めさせ、日米韓の安全保障協力が維持されるからだけではない。日本側の予想を超え、韓国が輸出管理の厳格化をめぐる世界貿易機関(WTO)への提訴手続きまで見合わせたからだ。

 韓国側は8月下旬、日本政府による対韓輸出管理厳格化への対抗措置としてGSOMIAの破棄を決定し、破棄撤回の条件として輸出管理厳格化の見直しを求めていた。

 韓国側の態度が変化したのは「ここ2、3日」(政府筋)だったという。

 日本政府は「GSOMIAと輸出管理は次元が違う」として韓国側が設定した土俵には乗らず、「賢明な対応」(菅義偉官房長官)を促し続ける戦術を徹底した。政府高官によると、米国は「トランプ米大統領は安倍晋三首相側に立つ」と韓国側に伝えており、日本政府は米国の韓国に対する圧力が非常に強かったとみている。

 日本政府は、日韓共通の同盟国である米国と課題意識を共有してきた。外交・安保関係者の間では、GSOMIAの破棄で最も影響を受けるのは米国だとの見方が強いからだ。外務省関係者は「首相はトランプ氏に対し、いかに韓国の対応がおかしいかを繰り返し説明してきた」と明かす。

 さまざまなレベルでの働きかけの結果、GSOMIAの破棄は米韓の問題でもあるとして「米国から韓国にガンガン言ってもらう」(外務省関係者)形に持ち込むことに成功した。

 文在寅政権は強気の言動を繰り返していたが、日本側のぶれない姿勢と米国の強い圧力を前に、実際は「追い詰められていた」(官邸関係者)とみられる。

 首相は22日夜、森喜朗元首相らと東京都内で会食した。出席者によると、首相はGSOMIAの失効回避について「よかった」と話していたという。(産経新聞 原川貴郎)


【私の論評】とうとう韓国のバランス外交の失敗が表沙汰に!日本も習近平を国賓として招けば同じような目をみることに(゚д゚)!

今回のGSOMIAの失効回避は、韓国のいわゆるバランス外交が失敗したことが露呈したと捉えるべきと思います。このバランス外交とは、なにかといえば、米と中国の間をうまくバランスをとり自国に有利になるようにする外交という言う意味です。

無論このバランス外交は成功事例もあるのですが、なかなかうまくいかないという現実があります。

韓国がいつからバランス外交的妄想に憑りつかれたのかといえば、後で述べるように髄分昔からですが、最近では記憶する限り盧武鉉大統領時代ではないかと思います。

それまで韓国は米国の忠実な同盟国として振る舞ってきたのですが、盧武鉉は強烈な反日、反米論者として登場しました。その親北姿勢は米国をハラハラさせる傍ら、彼が断固として宣言した外交路線は「韓国が北東アジアの米・中のバランサーの役を果たす」という壮大なものでした。

バランサーというのは米中とも韓国を敵に廻しては不利になるほど強力である必要があります。盧武鉉はイラク戦争に3260人もの軍隊を派遣したのですが、軍事同盟国の米国側からすれば、韓国が引き揚げれば困るほどの数ではありませんでした。

中国に対しては経済的接近を図る反面、米・日とは距離を置く路線を採りました 。米・中間のバランサーというからには当然の路線かもしれません。この路線を引き継いだのが朴槿恵大統領であり、盧泰愚政権時代に、民情首席を努めた現在の文在寅大統領です。


文在寅(左)と盧泰愚(右)

朴槿恵は、韓国がバランサーであるためには、近辺の日本ごときは「歴史を顧みない不道徳国家である」と欧米に“告げ口”して廻ることからバランス外交を始めました。しかし中韓は別にして首脳が悪口を言って廻る国家が尊敬されるはずもありません。

朴槿恵氏は外交路線として「安全保障は米国と手を携え」、「経済は中国を重視する」と称しました。メディアは「安米経中」と名付けましたが、朴氏は自らが引けば米も中も困ると考えたのでしょう。

「自らを小国と考えてはいけない。それは敗北主義だ」と強調しました。米欧と一回りしたあと15年、中国のコケ脅しのような軍事パレードに参加を強行しました。たまたま米韓の間で「高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備するのが懸案となっていました。

渋る韓国に米国が怒り、はっきり断れない韓国に中国が怒ったのです。この兵器は北朝鮮の攻撃に対して極めて有効ですが、同時に中国の攻撃をも防ぐことができます。防衛兵器の配備一つを巡っても、韓国のバランス外交は成り立たないのです。

韓国外交のどこが間違ったかは明瞭です。どこかの国と防衛条約を結んだら、敵と見做す相手国との付き合いには不都合が起こるということです。

告げ口外交を展開した朴槿恵韓国大統領(左)と、オバマ米大統領(右)

朴槿恵の弾劾・罷免の後、大統領になったのが文在寅であり、分在寅の外交路線は「韓国が北東アジアの米・中のバランサーの役を果たす」という壮大な、盧泰愚のそれを引き継いだものでした。

そのためか、朴槿恵よりもさらに大きなレベルで、バランス外交を推し進めようとしました。日本に対しても朴槿恵のような告げ口外交どころか、GSOMIA破棄を大統領選の選挙公約とし、その後も海自の哨戒機に対するレーザー照射、慰安婦問題の蒸し返し、徴用工裁判なとで、日本に対する対立姿勢を顕にしました。

挙げ句の果に、本当にGSOMIAを破棄しようとしたのですが、日本からは無視され、米国からはとてつもない圧力をかけられました。そのため、破棄はやめたのですが、これは韓国外交の完全敗北であるにもかかわらず、今回破棄は撤回するがいつでも破棄できると国内に宣伝中という有様です。

これは、結局のところ、韓国のバランス外交の失敗が表沙汰になったということです。いままでも、失敗は数多あるのですが、それでもなんとなく隠すことができました。特に、韓国内では隠蔽することができました。しかし、今回ばかりはさすがに隠蔽できないようです。

韓国のバランス政策は、最近始まったものではありません。李氏朝鮮第26代国王、後に大韓帝国初代皇帝となった高宗の政策は、外国を利用して他の国を抑え、自国は戦わずに安全を図る「以夷制夷(いいせいい)」というものでした。これは、現在でいえばバランス外交です。

清国の勢力が優勢となると対ロ接近を図り、第1、2次朝露密約(85、86年)を結びました。日清戦争(94年)後には再びロシアに接近しました。これは清国に代わり勢力を拡大した日本のけん制が狙いでした。しかし、これは結局失敗したのは、周知の通りです。

李氏朝鮮第26代国王、後に大韓帝国初代皇帝となった高宗

朝鮮半島では、古代にもバランス外交をしていたという史実が残っています。しかし、バランス外交はいずれの時代も成功を収めた事例はありません。にもかかわらず、現在の韓国でもなぜバランス外交を信奉しようとするのでしょうか。理解し難いところがあります。

しかし、文在寅氏、盧武鉉氏や朴槿恵氏を笑ってはいけないです。日本の政権与党である自民党にも、かつては日米、日中と“等距離外交”をすると豪語していた三木武夫首相がいました。

福田赳夫首相は“全方位外交”と称していました。その後も中国と太い人脈を繋げておけば、いざという時に役に立つと信じる党首脳がいたものでした。谷垣禎一氏や岸田文雄外相が属する宏池会は経済重視主義で中国側を向いていましたた。

日本は中国と太い人脈を繋げておいたはずなのに、その後ごく最近まで、日中関係表向きも、裏でもかなり悪化していました。

さらに、最近では中国は表では、日本に対する擦り寄り試製をみせています。これは、当然のことながら、米国から直接冷戦を挑まれていることや、香港問題が激化しているため、この時期に対日関係まで悪くはしたくないからでしょう。

とはいいながら、裏では尖閣に対する示威行動を未だに継続しているどころかさらに激化させています。これが共産主義の本質なのです。

にもかかわらず、日本は、来年習近平を国賓として迎えることを約束しています。こんなことをすれば、米国は当然反発するでしょうし、世界に日本が中国の蛮行を認めたという誤ったメッセージを与えてしまうことになりかねません。

ただし、自民党の保守系有志議員のグループ「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」(代表幹事・青山繁晴参院議員)は13日、国会内で会合を開き、中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域への公船の侵入行為や香港市民に対する弾圧姿勢を改めない限り、来春予定される習近平国家主席の国賓としての来日に反対する決議文をまとめています。

しかし、これは無論与党の中でも、一部の動きであり、自民党そのものが来日に反対しているわけではありません。

日本が、来年習近平を国賓で迎え、天皇陛下に謁見することにでもなれば、日本も米国や米国の同盟国などから、今日の韓国のような扱いを受けるようになることは必定です。韓国のように米国から大きな圧力を受けてから、迎えることをやめるよりは、自らとりやめるようにすべきです。そうすれば、中国に対してより大きな衝撃を与えることになりまり、米国や他の同盟国に好印象を与えられることになります。


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2019年11月22日金曜日

政府、赤字国債3年ぶり増発へ 10兆補正求める与党も容認見込み―【私の論評】マイナス金利の現時点で、赤字国債発行をためらうな!発行しまくって100兆円基金を創設せよ(゚д゚)!

政府、赤字国債3年ぶり増発へ 10兆補正求める与党も容認見込み


 政府は22日、策定中の令和元年度補正予算案で赤字国債を発行する方向で調整に入った。与党からは、災害復旧や景気の下ぶれリスクなどに対応するため、10兆円規模の財政支出を求める声が強まっており、国債を発行して歳入不足を補う。年度途中で国債を増発すれば3年ぶりとなるが、与党も容認する見込みだ。
 安倍晋三首相は経済対策の策定を指示しており、補正予算案と2年度予算案で必要経費を手当てする。具体的には、台風災害からの復旧・復興▽大規模災害に備えたインフラ整備▽日米貿易協定の発効に向けた国内の農業対策▽来年の東京五輪後に備えた経済活性化策-などが挙がっている。
 与党内では大型補正を求める声が相次いでいる。
 自民党の世耕弘成参院幹事長は22日の記者会見で、補正予算について、国の直接の財政支出である「真水」で10兆円、事業費で20兆円規模が必要だとの認識を示した。さらに、中小企業のIT化支援などの施策を挙げ、「未来への投資はたくさんある。(赤字国債の)発行を躊躇(ちゅうちょ)すべきではない」と強調した。
 自民党の二階俊博、公明党の斉藤鉄夫両幹事長も20日、補正予算は真水で10兆円を求めることで一致。自民党は26日に岸田文雄政調会長のもとで経済対策の要望をとりまとめる予定だ。
 政府の元年度税収は企業業績の悪化などを受け、当初の見通しを下回る可能性がある。このため、補正予算は建設国債などと合わせ、赤字国債で歳入不足を補う方向になった。
【私の論評】マイナス金利の現時点で、赤字国債発行をためらうな!発行しまくって100兆円基金を創設せよ(゚д゚)!
日本では、赤字国債というと、「将来世代へのつけ」とドヤ顔で語る、愚か者が、政治家や官僚、識者といわれる人まで大勢います。嘆かわしいことです。行政の根幹部分ともいえる、財政についてこれほど理解度が低い人々が、政治家、官僚、識者であるいう日本は本当に不幸な国かもしれません。


このブログでは、過去もこれは間違いということを掲載してきましたが、本日もその理論について掲載します。

政府が財政支出を行い、それを税ではなく赤字国債の発行で賄うとします。つまり、政府が債務を持つとします。そして、政府はその債務を、将来のある時点に、税によって返済するとします。
このような単純な想定で考えた場合、増税が先延ばしされればされるほど、財政支出から便益を受ける世代と、それを税によって負担する世代が引き離されてしまうことになってしまいます。これが、通説的な意味での「政府債務の将来世代負担」です。
経済をモデル化する一つの枠組みに、若年と老年といった年齢層が異なる複数の世代が各時点で重複して存在しているという「世代重複モデル」と呼ばれるものがあります。政府債務の将来世代負担論は、この枠組みを用いるのが最も考えやすいです。
そこで、仮に老年世代の寿命が尽きたあとに増税が行われるとすれば、彼らは税という「負担」をまったく負うことなく、財政支出の便益だけを享受できることになります。そうして、その税負担はすべてそれ以降の若年世代が負うことになります。
つまり、世代重複モデル的に考えた場合には、増税が先になればなるほど「現在および将来の若い世代」の負担が増えます。それは要するに、老年の残り寿命が若年のそれよりも短いからです。
老年は、その残り寿命が短ければ短いほど、自らは税負担を免れ、それをより若い世代に押し付ける可能性が強まります。その意味で、この政府債務の将来世代負担論は、「老年世代の食い逃げ」論とも言い換えることができます。
こうした通説的な政府債務の将来世代負担論に対しては、よく知られた反論が存在します。それは、初期ケインジアンを代表する経済学者の一人であったアバ・ラーナーによる、政府債務将来世代負担への否定論であす("The Burden of the National Debt," in Lloyd A. Metzler et al. eds., Income, Employment and Public Policy, Essays in Honour of Alvin Hanson, 1948, W. W. Norton)。

このラーナーの議論の結論は、「国債が海外において消化される場合には、その負担は将来世代に転嫁されるのですが、国債が国内で消化される場合には、負担の将来世代への転嫁は存在しない」というものでした。ラーナーによれば、租税の徴収と国債の償還が一国内で完結している場合には、それは単に国内での所得移転にすぎないというのです。ラーナーはそれについて、以下のように述べています。
もしわれわれの子供たちや孫たちが政府債務の返済をしなければならないとしても、その支払いを受けるのは子供たちや孫たちであって、それ以外の誰でもない。彼らをすべてひとまとまりにして考えた場合には、彼らは国債の償還によってより豊かになっているわけでもなければ、債務の支払いによってより貧しくなっているわけでもないのである(上掲書p.256)。
このラーナーの議論には、いくつか注意すべきポイントが存在します。第一に、ここで言われている「将来世代」は、世代重複モデル的な把握ではなく、将来のある時点に存在する人々を老若含めてひとまとまりにしたものとして考えられているのです。

つまり、「1950年生まれ世代」とか「2000年生まれ世代」という区分ではなく、「1950年に生存していた世代」とか「2000年に生存していた世代」といったような世代区分が想定されているのです。

第二に、ラーナーの議論における「負担」は、単に税負担を意味するのではなく、「国民全体の消費可能性の減少」として考えられています。ラーナーは、赤字財政政策の結果としての「負担」は、上の意味での将来世代の経済厚生あるいは消費可能性が全体として低下した場合においてのみ生じると考えます。そこでの焦点は、将来世代の所得や支出が現世代の選択によって低下させられているのか否かです。

たとえば、戦争の費用を国債発行で賄い、その国債をすべて自国民が購入したとします。その場合、現世代の国民は国債購入のために自らの支出を切り詰めるという「負担」を既に被っているので、将来世代の国民が支出を切り詰める必要はないです。

将来世代は単に、戦費負担を一時的に引き受けてくれた国債保有者への見返りとして、増税による国債償還という形で、より大きな所得の分け前を提供すればよいのです。それは、純粋に国内的な所得分配問題です。

それに対して、戦費が外債の発行によって賄われる場合には、現世代は戦争だからといって支出を切り詰める必要はないです。戦争のための支出は、現世代の国民の耐乏によってではなく、その時代の他国民の耐乏によって実現されているからです。ただし、将来世代はその見返りとして、増税によって自らの支出を切り詰めて他国民に債務を返済する必要があります。

つまり、将来世代の消費可能性は、現世代が国債を購入してその支出を自ら負担するのか、国債を購入せずに海外からの借り入れに頼るのかによって異なります。前者の場合には将来世代の負担は発生しないのですが、後者の場合にはそれが発生します。これが、ラーナーが明らかにした「負担」問題の本質です。

このラーナーの議論は、政府債務負担問題についてのありがちな誤解を払拭する上では、大きな意義を持っています。人々はしばしば、赤字財政によって生じる政府債務に関して、家計が持つ債務と同じように「将来の可処分所得がその分だけ減ってしまう」かのように考えがちです。それは、財政赤字が外債によって賄われている場合にはその通りですが、自国の国債によって賄われている場合にはそうとはいえません。

というのは、人々の消費可能性は常にその時点での生産と所得のみによって制約されているのであり、政府債務や税負担の大きさとは基本的に無関係だからです。政府債務がどれだけ大きくても、それが国内で完結している限り、必ずそれと同じだけの債権保有者が存在するのですから、その債務は一国全体ではすべてネットアウトされるのです。


他方で、このラーナーの議論には、一つの大きな問題点が存在します。それは、「赤字国債の発行が将来時点における一国の消費可能性そのものを縮小させる」可能性を十分に考慮していない点です。

一般には、政府がその支出を赤字国債の発行によって賄えば、資本市場が逼迫して金利が上昇するか、対外借り入れが増加して経常収支赤字が拡大するか、あるいはその両方が生じます。


1980年前半にアメリカのロナルド・レーガン政権は、レーガノミクスの名の下に大規模な所得減税政策を行ったのですが、その時に生じたのが、この金利上昇と経常収支赤字の拡大でした。

金利の上昇とは民間投資がクラウディングアウトされたことを意味し、それは一国の将来の生産可能性が縮小したことを意味しますから、一国の将来の消費可能性はその分だけ縮小します。また、外債に関する上の議論から明らかなように、一国の対外借り入れの増加とは、将来世代の負担そのものです。

ただし、赤字国債の発行が民間投資減少や経常収支赤字拡大をもたらすその程度は、経済が完全雇用にあるか不完全雇用にあるかで大きく異なります。所得の拡大余地が存在しない完全雇用経済では、国債発行によって政府が民間需要を奪えば、それは即座に民間投資のクラウディングアウトや海外からの借り入れ増加につながります。

しかし、ケインズ的な財政乗数モデル(45度線モデル)が示すように、不完全雇用経済では、国債発行による政府支出の増加によって所得それ自体が拡大するため、貯蓄も同時に拡大します。その結果、金利上昇や経常収支赤字拡大は完全雇用時よりも抑制されます。

財政定数モデル

つまり、赤字財政政策による「将来世代の負担」の程度は、不完全雇用時は完全雇用時よりも小さくなります。その意味で、「赤字国債発行による将来世代への負担転嫁は存在しない」というラーナー命題がより高い妥当性を持つのは、財政赤字拡大がそれほど大きな投資減少や対外借り入れ拡大に結びつかないような不完全雇用経済においてなのです。

ラーナーの議論の最も重要なポイントは、「将来の世代の経済厚生にとって重要なのは、将来において十分な生産と所得が存在することであり、政府債務の多寡ではない」という点にあります。仮に早期の増税によってより若い世代が負う税負担が多少減ったとしても、それによって生産と所得それ自体が減ってしまっては、まったく本末転倒なのです。そして、「失われた20年」とも言われるバブル崩壊後の日本経済においては、まさしくその本末転倒が生じていたのです。


日本経済の長期デフレ化をもたらした一つの大きな契機は、橋本龍太郎政権が行った1997年の消費税増税でした。そして、それ以降の長期デフレ不況の中で最も痛めつけられてきたのは、ロスト・ジェネレーションとも呼ばれている、その当時の若年層でした。そのツケはきわめて大きく、それは単に彼ら世代の勤労意欲や技能形成の毀損には留まらず、日本の少子化といった問題にまで及んでいます。

結果としては、この早まった消費税増税は、若い世代の所得稼得能力を将来にわたって阻害しただけでなく、デフレ不況の長期化による政府財政の悪化をもたらし、将来世代が負うことになる税負担をより一層増やしてしまったのです。


つまり、「将来世代の負担軽減」を旗印に行われた消費税増税は、皮肉にも彼ら世代に対して、所得稼得能力の毀損と税負担の増加という二重の負担を押し付けるものとなってしまったのです。

この1990年代後半以降の日本経済は、恒常的なデフレと高失業の状態にありました。つまり、一貫して不完全雇用の状態にあった。そして、小渕恵三政権時のような大規模な赤字財政政策が実行された時期においてさえ、国債金利はきわめて低く保たれ、大きな経常収支黒字が維持され続けてきました。これは、赤字財政による将来世代への負担転嫁は存在しないというラーナー命題が、ほぼ字義通りに当てはまっていたことを意味しています。

それとは逆に、日本で行われた不況下の増税は、若い世代が将来的に負う負担を減らすのではなく、むしろそれを増やしてきまし。それは、不況下の増税がとりわけ若い世代の雇用と所得に大きな影響を及ぼすものである以上、まったく当然のことでした。

結局のところ、経済が不完全雇用である限り、職からはじき出されがちな若い世代の雇用の確保の方が、彼らへの多少の税負担軽減よりもはるかに優先度が高いということになるのです。

ラーナーの理論は無論現在の日本にもあてはまっています。しかし、政府は数度にわたり増税を行い、とうとう10%増税まで実行してしまいました。本来は、増税などせずに、証国債を発行すべきだったのです。

小渕恵三政権時のような大規模な赤字財政政策が実行された時期においてさえ、国債金利はきわめて低かったのですが、現在国債の金利はマイナスです。

金利がマイナスということは、政府が国債でお金を借りると、将来つけを払わなくて良いどころか、余分にお金がもらえるということです。この機会を利用して国債がゼロになるまで、無制限でどんどん発行すべきときなのです。それについては、このブログでも以前掲載したことがあります。
残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部のみ以下に引用します。
財務省がゼロ金利まで国債無制限発行に乗り出せば、日銀の金融緩和効果はさらに高められる。しかも、得た財源で景気対策を行えば、まさに財政・金融一体政策となり、目先の消費増税ショックを回避できる可能性も出てくる。しかも、金利正常化で金融機関支援にもなる。 
逆にいえば、こうした「美味しい」金利環境を財務省が見過ごし、金利ゼロまでの無制限国債発行を行わないとすれば、それは彼らが増税しか頭にない「無能官庁」であることの証明といえる。
上では、ラーナーの理論を詳細に印してきましたが、このようなことを全く知らなくても、国債の金利がマイナスであるということは、国債を発行しまくれば、確実に政府は儲けられることになるのは明らかです。 金利がゼロになるくらいまで発行し続ければ良いのです。高橋洋一の試算によれば、金利がゼロを超えないで発行できるのは、103兆円だとしています。

にもかかわらず、たった10兆円など、本当に微々たるものです。このチャンスを生かし切るためには、もっともっと国債を発行すべきなのです。




私は、高橋洋一氏に大賛成です。国債の金利がマイナスなのですから、どんどん発行して、10兆円などとチマチマしたことをせずに、それこそ100兆円の基金でも設けて、それを用いて、景気対策、自然災害対策、安全保証、貧困対策などをどんどん実行しまくれば良いのです。

そうすれば、日本の令和年間は平成年間のようにデフレではなくなり、緩やかなインフレで、成長が期待できます。たとえ、そのようなことをしても、将来の世代につけを回すことには絶対にならないのですから、このチャンスをみすみす逃す手はないのです。

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2019年11月21日木曜日

米中冷戦、そろそろ「詰みつつある」といえる理由―【私の論評】中共は少子高齢化に対応可能な制度設計や、産業構造に転換できなければ、やがて倒れる(゚д゚)!

米中冷戦、そろそろ「詰みつつある」といえる理由
中国当局はどう出るつもりか


制裁関税撤廃」のメリット

世界の株式市場を混乱させている米中問題だが、現状は米中ともに制裁関税の緩和、ないしは撤廃に向けて妥協点を探る展開のようだ。もっとも、「交渉ゲーム」は騙し合いの側面もあるので、両国がすんなりと妥協点をみいだすわけではないだろうが。

確かに、この「制裁関税の撤廃」は米中双方にメリットがある。

米国側からみれば、中国は農産物等の一次産品の輸出先として無視できないくらい大きな国である。日米貿易協定によって日本が米国からの農産物の輸入を多少増やしたところで中国向け輸出の減少はカバーできない。

なによりトランプ大統領にとっては、来年の大統領選に向けて、農産物の輸出を回復させなければ、共和党の支持基盤である中西部、南部の得票を落とすことにもなりかねない。



一方、中国にとっても米国が重要な輸出相手であることは言うまでもない。だが、より深刻なのは、米国からの輸入の激減である。

現在、中国では、生産者物価の低下と消費者物価の上昇という「インフレ率の分断」が発生している。9月時点で中国の生産者物価は前年比で1.2%の低下となっている。中国の生産者物価は月を追う毎に低下幅が拡大しているが、この生産者物価の低下は主に製品輸出の減少による製造業部門の需要低迷によるものである。

一方、消費者物価は9月時点で前年比3%の上昇となっており、上昇幅はじりじりと拡大している。この消費者物価の上昇は食品価格の高騰によるものである(食品価各は9月時点で前年比11.2%の上昇)。

豚コレラの影響で豚肉の供給が激減していることに加え、代替品需要として鶏肉等の価格が高騰していることが主因とされているが、米国からの輸入依存度が高い飼料の高騰も影響を与えている可能性が高い。

中国には雇用統計が存在しないため推測の域を出ないが、生産者物価の低下は企業のマージンの減少へと波及し、これは、最終的に雇用調整から中国国民の所得環境を悪化させるだろう。

つまり、このままでは、中国経済は、所得環境の悪化と同時に生活コストの上昇に見舞われる懸念がある。そして、これは、消費の減速を通じて、さらなる景気悪化につながると考えられる。

2019年7-9月期の中国の実質GDP成長率は前年比で6.0%まで減速している。「6%成長」といえば、一見、高成長のように思えるが、1人当たりGDPの水準が低い新興国がこの程度の成長率を実現するのはむしろ当たり前のことだ。

逆に新興国の段階で成長率があまりに低い国では社会不安の増大から治安が悪化し、政治体制も不安定化する。中国の政策当局は、長年7%成長を「死守すべき最低限の防衛ライン」とみなしてきたといわれているが、これは、実質経済成長率が7%を下回ってくると国民が日々の生活に不満を持ち、治安悪化などの社会不安が高まる懸念が増大するという意味である。

中国は当局による情報統制が強固なので、社会不安や暴動などが中国全土でどの程度発生しているか、実態は定かではないが、中国事情に詳しい論者の中には各地でかなりの数の暴動が起こっているとする人も少なからず存在する。

それが事実であれば、このまま中国の経済成長率の減速が止まらなければ、中国経済の先行きが心配という話どころか、統治システムの維持も難しくなってしまうかもしれない。その意味でも、制裁関税の撤廃は、むしろ中国側にこそ大きなメリットがあると考える。


米国の経済政策が大きく変わった

だが、この動きは必ずしも、「米中融和」を意味するものではないと思われる。

10月4日にワシントンで行われたペンス副大統領の演説は、『米国は貿易などの経済に限らず安全保障分野においても中国に対して「断固として立ち向かう」』と対中強硬姿勢を維持する内容であった。

これは、米中問題が、これまでの「通商問題」から「安全保障問題」へと、より次元の高いレベルに引き上げられたことを意味する。

政府間の交渉には通常、法的な根拠があるが、米中問題は、「通商法(スーパー301条がその代表例)」から「国防権限法」へその根拠が変わったのかもしれない。

「国防権限法(NDAA)」とは、米国防省の年間予算を規定するために年度毎に策定される法律である。名称が示す通り、「国防」という観点から制定される法律だが、2019年の国防権限法では、その中で「輸出管理改革法(ECRA)」が新たに制定され、AI、量子コンピューター、次世代暗号技術等の最先端の情報技術を「新興技術」、もしくは「基盤的技術」と定義し、他国との取引(輸出)に規制が課せられることとなった。

ECRAは既存の技術の輸出に関する規制であるが、これに加え、同時に制定された「外国投資審査現代化法(FIRRMA)」では、この「新興技術」「基盤的技術」に対する他国からの対米投資規制も強化された。

これは、外国による、米国国内で現在開発中の技術への規制である。いいかえれば、米国(ベンチャー)企業への出資、もしくは、M&Aを通じた最先端技術の獲得を事実上停止させる法律である。

今後、少子高齢化がこれまで経験しなかったスピードで進む可能性が高いといわれている中国において、先端技術の取り込みによって産業構造を転換させると同時に生産性を引き上げることは必須事項ともいえる。当然、技術の取り込み先として米国を想定していた中国だが、それが「国防権限法」によってほぼ不可能となった。

このように、「国防権限法」は中国を意識して制定されたことは明らかであるが、重要なのは、輸出や投資といった経済政策に属する案件が「国防法」という安全保障政策に関わる法律によって規定された点である。

これは、経済政策という枠組みからみた場合、大きな変化である。


「中国製造2025」失敗の可能性も

トランプ政権が成立して以降、トランプ政権を支持する軍関係者らの間では「DIME」という言葉が使われている。

「DIME」とは、「Diplomacy(外交)、Intelligence(防諜)、Military(軍事)、and Economy(経済)」の略語であり、経済政策を外交、情報収集活動、安全保障政策と一体化して考える政策アプローチのことである。

これまで経済政策といえば、金融政策や財政政策(公共投資や減税)を用いた景気対策や規制緩和が主で、国防や安全保障政策とは独立していた。そのため、学界での経済政策の国際協調の議論も、お互いの国の「経済厚生」を如何に高めることができるかという観点から議論されてきた。

そして、その結論は、変動相場制の下では、各国が独立して自由に経済政策を実施することが経済厚生上、最適であるという結論になっていた(この分野で世界的な業績を上げられているのが内閣府参与の浜田宏一イェール大学名誉教授である)。

だが、「DIME」のアプローチでは、輸出規制や投資規制によって、自国経済の将来の成長にとって重要な産業や国益上、重要な産業は積極的に保護育成していこうという考え方が採用される。そして、さらに、そこに「安全保障」という観点が加味される。

この「DIME」だが、まだほとんど研究対象として議論されていないように思われるし、筆者が検索する限り、該当するような論文もない(もっとも国防や安全保障が絡んでくると論文の良し悪しで評価すべきものではないかもしれないが)。

以上より、今後、米国は、この「国防権限法」の対象外である品目については、制裁関税を撤廃していくことになるだろう。そして、これによって、現在の中国経済の窮状は、少しは緩和されるかもしれない。

だが、それは目先の、ごく短期的な観点での議論である。むしろ、中長期的にみれば、「国防権限法」が機能するということは、そのまま「中国製造2025」の失敗の可能性が高まることを意味する。中国にとって「中国製造2025」の失敗は、将来の低成長局面入りを意味する。下手をすると、「低所得国の罠」に陥ることになる懸念もある。

筆者の個人的な見解をいわせてもらえば、中国は覇権を取るといった野望を捨て、思い切って対外開放路線に転換することで、国内に外資企業を多く取り込んだほうが、サービス業を中心に雇用の確保と所得の安定的増加につながるため、将来の安定成長に寄与するように思える。

中国当局の出方が注目される。


【私の論評】中共は少子高齢化に対応可能な制度設計や、産業構造に転換できなければ、やがて倒れる(゚д゚)!

冒頭の記事では、中国の将来に関して、主に経済について語られています。少子高齢化についても一部は語られていますが、「今後、少子高齢化がこれまで経験しなかったスピードで進む可能性が高いといわれてい」と語られているのみです。

そのため、以下には中国の少子高齢化の実体について掲載しようと思います。

中国の人口は年内に14億人に達する見込みです。当面は人口増が続きますが、国連の推計によると、2027年ごろにはインドに逆転され、世界一の座を明け渡すことになります。2028年の14億4200万人をピークに減少に転じる見通しで、そこからは「苦難の時代」に直面すると予想されています。




中国は古くから「人口統計マニア」の国です。最初に全国的な戸籍が作られたのは前漢の末期、西暦2年にさかのぼります。「人口5959万4978人、戸数1223万3062戸」と一桁まで記録されています。人口の増減は税収に直結し、政治の善しあしを表す指標とみられていたため、歴代王朝は常に人口を調査したのです。


それから長い間、人口が1億人を超えることはなかったのですが、近世の清王朝になると爆発的に増えました。歴代王朝の中でも領土が広大で、トウモロコシやサツマイモなどの外来作物の普及などが影響したようで、1840年のアヘン戦争時には人口4億人に達しました。

そして中華人民共和国が誕生した1949年では5億4000万人。その後の70年間でさらに8億人以上も増えたのですが、それでも1979年から始めた「一人っ子政策」により人口を抑制しました。


この「一人っ子政策」が中国政府は「4億人以上の人口抑制効果があった」と説明しています。一昨日には、このブログでこの「一人っ子政策」は、民衆レベルでどのように実行されたのかをドキュメントした映画「一人っ子の国」を紹介させていただきました。この映画「一人っ子の国」で中国は自国国民に対して、想像を絶する、人権侵害をしていたという戦慄の事実が明らかにされています。

その一人っ子政策も2015年に廃止され、翌年からすべての夫婦に2人までの出産を認めました。社会の中核を担う生産年齢人口(15-65歳)が減少に転じたためです。高齢化も急速に進み、2017年の65歳以上の高齢者は1億5847万人となり、人口の11%に達しました。

それでも出生率が急激に向上するという見方は少ないです。一人っ子政策が浸透し、各家庭は1人の子どもに小さい頃から家庭教師をつけ、多くの習い事をさせ、大学生になれば海外留学させるなど、高学歴で良い就職先を手に入れるため、収入のほとんどを子どもにつぎ込んでいます。苛烈な競争社会の中、2人目、3人目の出産は難しい状況です。

また、社会の都市化が進み、若者の高学歴化が進む中、先進国と同じように男女とも結婚年齢が上がってきています。初婚年齢は男性が28歳近く、女性が26歳近くになり、今後も晩婚化が進みます。結婚しない若者も増え、離婚率も高まっています。

「男余り」も深刻です。出生人口の性別割合は人種に関係なく、自然な状態では女を100とすると男は105前後となります。男の若年死亡率が高いため、成人したときに男女の数が対等になるよう「神の見えざる手」がはたらいているともいわれます。しかし、中国では一人っ子政策を始めてから男児の出産が異常に増えました。

労働力や老後の生活保障の担い手として男子を求め、妊娠しても女児と分かると中絶したり、遺棄する家庭が続出しました。中国の産婦人科では赤ちゃんの性別を出産するまで原則教えないのですが、違法な超音波検査が横行しており、妊娠中に性別を調べることは難しくないです。

男女の性別比率は女が100に対し、男は120にまで増えました。最近は100対110ほどになったのですが、結婚適齢期の男性はすでに女性より数千万人多いです。経済力で劣る農村部にしわ寄せが来ることになります。

国連の人口予測では、2035年に中国の65歳以上の高齢化率は21%を超え、「超高齢化社会」が到来します。「未富先老」(豊かになる前に老いを迎えること)が懸念されています。

中国政府はこうした問題を指摘されるまでもなく理解しています。中国メディアによると、早ければ2020年には「二人っ子政策」も廃止し、産児制限を完全撤廃するとみられています。今後もさまざまな出産奨励策を打ち出していくでしょう。

ただし、冒頭の安達 誠司氏の記事にもあるとおり、少子高齢化が進む中国では、先端技術の取り込みによって産業構造を転換させると同時に生産性を引き上げることは必須事項ともいえるわけですが、技術の取り込み先(はっきりいえばコピー先)として米国を想定していた中国ですが、それが「国防権限法」によってほぼ不可能となったわけです。

2049年10月1日、中国は建国100周年を迎えます。

ところが、その頃の中国が祝賀ムード一色に染まっているとは思えません。なぜなら、中国の人口学者たちも警鐘を鳴らしていることですが、このまま進めば中国は2050年頃、人類が体験したことのない未曾有の高齢化社会を迎えるからです。


『世界人口予測2017年版』によれば、2049年の中国の人口は13億7096億人で、2050年は13億6445億人。これは、2011年の中国の人口13億6748万人、及び2012年の13億7519万人と同水準です。

ところが、2010年代の現在と、2050年頃とでは、中国の人口構成はまったく異なるのです。

『世界人口予測2015年版』によれば、2015年時点での中国の人口構成は、0歳から14歳までが17.2%、15歳から59歳までが67.6%、60歳以上が15.2%、そして80歳以上が1.6%です。

それが2050年になると、激変するのです。

0歳から14歳までが13.5%、15歳から59歳までが50.0%、60歳以上が36.5%、80歳以上が8.9%なのです。

これを人数で表せば、2050年の中国の60歳以上の人口は、4億9802万人です。そうして80歳以上の人口は、1億2143万人です。



私が中国で、こうした未来図を初めて想い描いたのは、2011年の5月のことでした。このとき、私はこのブログではじめて中国の少子高齢化について掲載しました。
この記事では、ユニセフの「2009年中国人口サンプル調査」によると、中国の青少年人口は00年の2億2800万人から09年には1億8000万人と大きく減少したこと、全人口に占める比率は00年の18%から13%へと急落していることを掲載しました。

その後もいくつも中国の少子高齢化についての記事をこのブログに掲載しました。これにより、日本が直面している少子高齢化の波が、やがて中国をも襲うのだということが理解できました。

しかも、日本の10倍以上の規模をもってです。

そうして、中国社会の高齢化が、日本社会の高齢化と決定的に異なる点が、二つあります。

まずは、高齢化社会を迎えた時の「社会の状態」です。日本の場合は、先進国になってから高齢社会を迎えました。

日本の65歳人口が14%を超えたのは1995年ですが、それから5年後の2000年には、介護保険法を施行しました。また、日本の2000年の一人当たりGDPは、3万8533ドルもありました。

いわば高齢社会を迎えるにあたって、社会的なインフラが整備できていたのです。

ところが、中国の一人当たりのGDPは、2018年にようやく約1万ドルとなる程度です。65歳以上人口が14%を超える2028年まで、残り10年を切りました。

中国で流行語になっている「未富先老」(豊かにならないうちに先に高齢化を迎える)、もしくは「未備先老」(制度が整備されないうちに先に高齢化を迎える)の状況が、近未来に確実に起こってくるのです。

日本とのもう一つの違いは、中国の高齢社会の規模が、日本とは比較にならないほど巨大なことです。

中国がこれまで6回行った全国人口調査によれば、特に21世紀に入ってから、65歳以上の人口が、人数、比率ともに、着実に増え続けていることが分かります。

そして、2050年には、総人口の23.3%、3億1791万人が65歳以上となります。

23.3%という数字は、日本の2010年の65歳以上人口の割合23.1%と、ほぼ同じです。

2050年の中国は、80歳以上の人口も総人口の8.9%にあたる1億2143万人と、現在の日本の総人口に匹敵する数に上るのです。


にもかかわらず、中国では日本の「介護保険法」あたるような法律が、いまだ施行されていないのです。
2050年頃に、60歳以上の人口が5億人に達する中国は、大きな困難を強いられることは間違いないです。
製造業やサービス業の人手不足、税収不足、投資不足……。それらはまさに、現在の日本が直面している問題です。
経済統計学が専門の陳暁毅広西財経学院副教授は、『人口年齢構造の変動が市民の消費に与える影響の研究』(中国社会科学出版社刊、2017年)で、今後、中国が持続的な経済発展をしていくには、「老年市場」を開拓していくしかないと結論づけています。
政府は、子供が親の面倒を見ないのは中国の伝統に反するという価値観をもとに、高齢者扶養の問題のほとんどすべてを家族に負わせる一方で、長年かけて中国の最大のセーフティネットである大家族制を破壊しました。

ここに生じる矛盾のつけを払うのは本来、政府、共産党政権であるはずが、地方政府の財政は破たん寸前。高齢者への社会保障整備が充実されていくという期待も少ないです。

戦慄のドキュメンタリー「一人っ子の国」のポスター

先日も、このブログに掲載した「一人子政策」における、中国共産党の人権蹂躙はまた繰り返されるかもしれません。一部都市では2人以上の子供を産んだ夫婦に対して奨励金を出す人口増加政策をすでに実施していますが、これがやがて、子供を産まない女性や1人しか産まない女性に対する罰金に代わっていくことの懸念。あるいは老人の迫害が容認されるような時代の到来の懸念があります。

すでに中共は、民族弾圧、宗教弾圧、言論弾圧など党主導の組織的な深刻な人権問題を起こしていますが、そこに最近の香港弾圧が加わり、将来そこに老人や女性の尊厳をさらに無視するような政策的管理が加わる懸念があるのです。
 
その時、中国人民は、どんな行動を起こすのでしょうか。高度経済成長のなかで隠れていた課題が、成長率が鈍化するにつれ、顕在化していきます。

平等を建前とするのが本来の共産主義です。今の中国は、国家資本主義とも呼べるいびつな体制です。かつて貧しい時代には等しく貧しかった社会が、経済成長が進むにつれ、格差を内包してきたのですが、それなりに全体が成長していて格差は表面的ではありませんでした。

ただし、建国以来毎年2万件暴動がおこってきたといわれ、2010年あたりからは、毎年10万人ともいわれていますので、表面にはっきり出てこなかっただけで、人民の格差等に関する中共する憤怒のマグマは大爆発の寸前にあっものとみられます。

ただし、中共はこれらを、城管、公安警察(日本の警察にあたる)、人民解放軍等で弾圧して鎮圧するとともに、日本を悪者にしたて、人民の憤怒のマグマを自分たちに向けてではなく、日本に向けて噴出させようとしました。

ところが、この官製反日ですら、できない状況になりました。2012年頃から、反日デモを官製で実行させたり、あるいは放置しておくと、必ず後で反政府デモになるという事態が頻発したのです。そのため、2012年あたりから、中共は、反日デモを実行させないように、方針を変更しました。そのため、あれだけ隆盛を誇った、反日デモが中国ではみられなくなりました。

この間、社会保障制度を充実させねばならなかった共産主義ですが、中国共産党は未達のまま今日を迎え、しかもいまだ制度化は進まず、個人の義務として人民に押し付けています。

毛沢東の独裁政治への回帰を目指す習近平。習近平は、毛沢東独裁体制の崩壊を繰り返すのでしょうか。
しかも、習近平には、政敵の不正を暴き追放した実績はあるものの、それは、誰の眼にもあきらかな権力闘争に過ぎません。

習近平には、毛沢東や、鄧小平の様な、はっきりとした功績はありません。強権で弾圧する方向の今の習近平独裁政治体制が、低成長時代に移行する中で、しかも少子高齢化に対応できない状況をいつまでも続けられるとは考えられません。

今後、習近平政権が倒れるのは、時間の問題として、中国共産党も、少子高齢化に対応できるような、まともな制度設計や、高齢化社会に適応した産業構造に転換できなければ、倒れることになるでしょう。

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2019年11月20日水曜日

香港人権法案、米上院が全会一致で可決 中国が反発―【私の論評】かつてのソ連のように、米国の敵となった中国に香港での選択肢はなくなった(゚д゚)!

香港人権法案、米上院が全会一致で可決 中国が反発

米上院は19日、中国が香港に高度の自治を保障する「一国二制度」を守っているかどうか米政府に毎年検証を求める「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決した。

香港香港理工大学に立てこもるデモ隊に対する賛同の意を表すため、スマートフォンを
     掲げる人々の意を表すため、スマートフォンを掲げる人々
下院では既に可決されており、今後上下両院の調整を経た上で、トランプ大統領に送付される。

上院はまた、香港警察に催涙ガスや催涙スプレー、ゴム弾、スタンガンなど特定の軍用品を輸出することを禁じる法案も全会一致で可決した。

ホワイトハウスはトランプ大統領が香港人権法案に署名する意向かどうかをまだ明らかにしていない。ある米政府当局者は最近、決定はまだ下されていないと述べたほか、トランプ氏側近には対中通商交渉への悪影響を懸念する向きと、人権や香港問題を巡り中国に明確な態度を示すべきと主張する向きがあるため、激しい議論が交わされるだろうと予想した。

共和党のルビオ上院議員は「香港の人々は何が待ち構えているかを分かっている。自治権と自由を損なおうとする着実な動きがあることを理解している」と述べた。

法案は、香港への優遇措置継続の是非を判断するため、一国二制度に基づく高度な自治を維持しているかどうか、米国務長官に毎年検証することを義務付ける内容となっている。

民主党のシューマー上院院内総務は「習近平国家主席に対してわれわれはメッセージを送った。あなたの自由を弾圧する行為は、香港であれ、中国北西部であれ、どこであれ容認されない。自由を妨害し、香港の人々、若者や年配者、抗議を行っている人々に対してこんなに残虐な行為を行えば、あなたは偉大な指導者ではなく、中国も偉大な国にはなれない」と強調した。


<中国は反発>

中国外務省は20日、同法案の上院可決を非難し、国家の主権と安全保障を守るために必要な措置を取ると表明した。

外務省は声明で、米政府は香港と中国の問題への介入をやめ、香港関連法案の成立を阻止する必要があると主張した。

外務省報道官は声明で「事実と真実を無視している。ダブルスタンダードが適用されており、香港情勢をはじめとする中国の内政に露骨に干渉している」と表明。

「国際法と国際関係に関する基本的な規範に深刻に違反している。中国は非難し、断固として反対する」と述べた。

米国が香港情勢など中国の内政への介入を直ちに中止しなければ「悪い結果が跳ね返ってくるだろう」とも述べた。

ポンペオ米国務長官は18日、米政府は香港情勢を深く懸念しているとし、香港当局に対し市民の懸念に対応するための明確な措置を打ち出すよう呼び掛けた

【私の論評】かつてのソ連のように、米国の敵となった中国に香港での選択肢はなくなった(゚д゚)!

これからの香港情勢に決定的な影響を与えるのは、米国の「香港人権・民主主義法案」です。

「香港人権法案」の発端は香港政府の「逃亡犯条例」改正案にあり、条例の施行によって香港の自由や人権、自治が侵害され、米国を含む他国の香港における安全や利益が脅かされるから、何とかしないといけないという背景がありました。

ところが、9月4日に香港政府が条例の完全撤回を発表しました。「香港人権法案」が立脚する基盤がこれで崩れたわけですから、米国も法案を取り下げるのが筋ではないか、という理屈ですが、米国はそう思っていないようです。

言ってみれば、このたびの動乱を目の当たりにした国際社会はすでに香港に対する信頼を失ったのです。今後もいつそういう恐ろしいことになるか分からないので、何かしらの担保がないとみんなが安心できません。だから、「香港人権法案」はやはり必要だ、という文脈になっているのです。


法案のベースとなっているのは、「米国・香港政策法」(United States–Hong Kong Policy Act、合衆国法典第22編第66条 22 U.S.C.§66)です。「香港政策法」は香港の扱い方を規定する法律として、1992年に米国議会を通過し、1997年7月1日、香港が中国に返還されると同時に効力が発生しました。

この「香港政策法」をベースとし昨今の情況を盛り込んで作り上げた「香港人権法案」は米国議会の超党派議員が共同提出した法案で、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)の支持も得られ、いわゆる共和・民主の与野党合意事項として注目されています。

結論からいうと、たとえ、トランプ大統領が来年(2020年)の選挙で落ち、民主党の誰かが新大統領になり、政権交代になったとしても、「香港人権法」だけはしっかり継承し、いわゆる対中強硬路線を踏襲せざるを得ないのです。

トランプ氏の落選を切望している中国に冷水をかけ、諦めさせる必殺の法律なのです。では、「香港人権法案」とはどういうものなのでしょうか。以下に、要点だけ抜粋して紹介します。

まず、香港返還後の高度な自治を保障する「中英連合声明」の担保という意味合いがあります。声明は国際条約同等とされる地位を有している以上、中国だけでなく、国際社会が香港の自治を認めなければならないです。

なぜならば、香港は世界屈指の国際都市であり、いろいろな国が香港に事業を展開し資産を保有しており、米国民だけでも8万人以上居住しているのですから、全員の利益が絡んでいるからであるのです。

香港返還式典 1997年6月30日

次に、香港の特別待遇の問題に関連するものです。社会制度の異なる中国本土と違って香港は西側自由社会の一員として、植民地時代から法の支配や自由経済といった分野でいずれも国際基準に達していたことから、「香港政策法」の下で米国は香港に通商や投資、出入国、海運等の諸方面において特別待遇を提供するという約束がなされました。

しかし「香港政策法」には不備がありました。つまり、香港が特別待遇を受ける際に、十分な自治が与えられているかどうかを判断する基準が明確ではなかったのです。中国は香港をコントロールしながらも、米国が香港に付与した特別待遇を濫用・悪用していないか、これを監督し、牽制する機能が必要だったのです。「香港人権法案」には「香港政策法」の強化版としてこの機能が盛り込まれました。

さらに、上記の監督・監査権に加え、罰則も用意されました。香港の自治権の毀損が認められた場合、米国は香港に与えてきた特別待遇を打ち切ることができるようになります。

香港の人権や民主・自治を侵害した者に対して、米国における資産を凍結したり、米国入国を拒否したり制裁することも可能になります。この制裁措置の意義が非常に大きいのです。たとえば、今回のような市民抗議活動に対して当局が武力を動員して鎮圧したりすると、その関係する当局者らが制裁対象とされる可能性が出てきます。

「香港人権法案」の下で、米国国務長官は香港が「中英連合声明」や「基本法」、「国際人権規約」等に基づき、人権や自由ないし自治をきちんと保障しているかどうか、人権侵害で制裁対象となる人物がいるかどうかを検証し、毎年レポートにまとめて米国議会に提出しなければならなくなります。

分かりやすくいえば、香港は上場企業のようなもので、経営の透明性が必要であり、それを検証する監査役を米国が引き受け、毎年監査報告書を作成し、開示し、そこで国際社会の信頼を得るということです。

中国がこの法案に激しく反発している理由としては、これで香港独立の機運が高まるのではないかという懸念が挙げられています。米国は、それは違うと反論するでしょう。民主と人権はいずれも一国二制度、基本法によって保障されている権利なのですから、これらについて国際社会の監督を受け、問題なく太鼓判を押されれば、逆に香港の信頼度の向上につながるのではないかという論理です。

詰まるところ、香港は国際都市であり、オープン、透明でなければ、国際社会は困ります。もし、中国がどうしても独自のルールで香港をコントロールし、「私物化」するのであれば、やがて香港が中国の一地方都市と何ら変わりのない存在になります。

そうした状況になって、中国が一方的に香港は自由だと主張しても、誰も信用しません。ましてや米国が特別待遇を与え続けるなど、そんな虫のいい話はありません。

9月3日付けのワシントン・ポストは、マルコ・ルビオ上院議員(共和党)の「中国は香港で本性露呈、米国は傍観できぬ(China is showing its true nature in Hong Kong. The U.S. must not watch from the sidelines)」と題した寄稿を掲載しました。その一節を以下に抜粋します。
香港の特殊な地位に注目してほしい。それはつまり、独立関税区域として開放的な国際金融システムや、米ドルペッグ制(連動制)の香港ドルがあって、北京はこれらの仕組みを利用して利益を得ていることだ。だから、米国は行政的に外交的にこれらの条件を制限しなければならない。さらに、マグニツキー法を生かす方法もある。人権侵害にかかわる当局者の個人を制裁することだ。マグニツキー法は外国の個人や組織を制裁することを認めている。
マグニツキー法という枠組みがあるなか、香港にフォーカスした「香港人権法案」で条件を具体化し、監督・監査機能と罰則を強化するという緻密なアプローチです。

もっと驚いたことに、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)だけでなく、民主党上院議員のチャック・シューマー氏まで法案賛成に回っています。

氏は9月5日、翌週に開かれる議会で「香港人権法」の審議と議決を目指すことは民主党議員にとって最優先任務の1つであるとし、「香港市民が言論の自由をはじめ、その他基本的権利を行使するにあたって、われわれは中国共産党の取った行動に対して姿勢を示さないといけない。これは大変重要なことだ。われわれは習主席に、『米国議会は香港市民側に立っている』という姿勢を示す必要がある」と述べました(9月4日付けボイス・オブ・アメリカ)。

ペロシ下院議長とシューマー上院議員といえば、誰もが知っている通り、トランプ大統領の2大天敵です。この2大天敵が対中姿勢、殊に香港問題においてはトランプ大統領側に立っているだけでなく、ある意味でトランプ氏よりも強硬姿勢を示しているのです。

ペロシ下院議長(左)とシューマー上院議員(右)

中国にとってもはや選択肢は残されていません。「香港人権法」が可決されたため
、中国は苦境に陥るでしよう。

このブログでも以前、この法律について述べたことがあります。以下にその結論部分を掲載します。
そもそも、トランプ大統領の意図など全く別にして、習近平国家主席が中国の誇りであるべき自由都市、そして、台湾に安心をもたらす自治政府の一例である香港に不必要なダメージを与えようとしているのなら、米国は中国政府を信用することなどできません。 
これは、トランプ大統領の意思がどうのこうのと言う前に、米国の意思であることを理解すべきと思います。
 はっきり言えば、トランプ政権がどうのこうのということは別にして、中国はかつてのソ連のような米国の敵となったということです。

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