2022年5月25日水曜日

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段―【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段

岡崎研究所

 ロシアのウクライナ侵略を受け、中国による台湾侵攻の可能性について種々の論議が戦わされるようになっている。4月23日付の英Economist誌の社説は、ウクライナ情勢から得られる最も重要な「教訓」は、中国の台湾への「脅威は現実のもの」であり、今すぐにこれに対応するための準備が必要であるとし、台湾がより良い準備をすればするほど、中国が台湾へ侵攻するという危険を冒す可能性は低くなる、と述べている。


 ロシア軍のウクライナ侵略は目下進行中であり、それが如何なる終結を迎えるのか、いまだ予断を許さない状況にある。ただ、はっきりしてきたことは、プーチンの当初の思惑通り事態は進行していない、ということだろう。そのような状況下で、エコノミスト誌の社説も、中国の将来考え得る台湾への侵攻がそれほど容易であるとは見ていないようであり、特に中国が「台湾統一」への行動をとることには、二つの大きな障害がある、と述べている。

 一つは、幅180キロメートルに及ぶ台湾海峡の存在であり、ロシアと地続きであるウクライナの場合と大きく異なっていることである。二つ目は、「台湾関係法」という国内法を持ち、台湾に防禦用の武器を供与し、台湾の安全にコミットしている米国が有する軍事力である。

 なお、ウクライナの場合には、バイデン政権はロシアが核兵器を使用し、「第三次世界大戦になる可能性がある」として、ウクライナへの武器支援を限定したことがある。将来、台湾海峡をめぐって、中国が台湾に対し、いかなる恫喝を行うか、それに対し、米国が如何に対応するかいまだ予想することが困難な点はある。

 現在までのところ、習近平指導部はウクライナ情勢から「教訓」を得るために状況を子細に観察しているものと見られ、ロシア側の度重なる誤算、ウクライナ国民の強固な抵抗力や欧米諸国の反応などに衝撃を受けているものと見られる。そして、将来有りうべき中国の台湾侵攻のハードルは、これまで一般に考えられていたよりもはるかに高くなった、と見てよいのではなかろうか。

やはりいつ来てもおかしくない台湾侵攻

 中国の台湾侵攻がいつ頃になるのか、予断を許さないが、エコノミスト誌の社説の主張するとおり、台湾側としては、いざという時のために警戒心を緩めることなく準備を進め、中国の侵攻を思いとどまらせる方策を講じることは、理にかなっているといえよう。

 エコノミスト誌の述べる台湾防衛の手段には、次のようなものがある。

(1)徴兵制に頼らず、より専門的な部隊を創設する。

(2)防衛費を現在の国民総生産(GNP)比2%は低すぎるので、増額する。

(3)台湾にはいたるところに「ハリネズミ戦法」が必要である。特に、敵の戦艦、軍用機に対する精度の高いミサイル攻撃が出来る武器が必要になる。

(4)台湾は、米国や日本を含むパートナー国との間で合同軍事演習を行う必要がある。中国による台湾海峡封鎖や有りうべき侵攻に対抗できるように準備を整える。

 ロシアのウクライナ侵略前には、数年以内にも中国が台湾に限定的な軍事侵攻をする可能性があるのではないか、との見方が米国の専門家の間で強まったことがある。しかし、ウクライナ危機以降は、中国としても、そう簡単に台湾に対し、軍事行動をとりにくくなったように思われる。しかしながら、習近平指導部にとって、台湾問題の重要性が基本的に変わらない以上、台湾としては警戒心を弱めることなく、準備できるものから準備するという覚悟が必要であろう。

【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

台湾情勢となると、多くの人が思考停止したように、潜水艦の話題はたくみに避けることか多いです。上の記事もその例外ではありません。潜水艦の行動は昔からどこの国でも隠密にするが普通であり、それ故になかなか公開されることもないので、このようになってしまう傾向は否めないのですが、それにしてもバランスを欠いていると思います。

エコノミスト誌の述べる台湾防衛の手段には、上記の4つですが、その中には潜水艦という言葉が一つでできません。(1)〜(4)の台湾防衛手段は、悪くはないですし、そうすべきとは思いますが、もっと具体性を増すなら、特に(3)は以下のようにすべきです。

(3)台湾にはいたるところに「ハリネズミ戦法」が必要である。特に、敵の戦艦、軍用機に対する精度の高いミサイル攻撃が出来る武器として潜水艦が必要になる。

潜水艦は、海の下に潜り、なかなか発見できない「ハリネズミ」になりえます。

なぜこのようなことをいうかといえば、中国海軍には明らかな弱みがあるからです。中国海軍のASW(対潜水艦戦闘)能力は、日米に比較するとかなり弱いです。まずは、対潜哨戒能力がかなり弱いです。そうして、潜水艦の能力でも、ステルス性(静寂性)では日本にはかなり劣ります。

攻撃能力は米国の原潜と比較すると弱いです。その結果どうなるかといえば、中国の潜水艦は日米にとってはかなり発見しやすく、中国はそうではないので、中国の潜水艦は日米の潜水艦には歯が立ちません。

現代海戦についてルトワックも語っていた、昔から言われていることがあります。それは艦艇には2種類しかないということです。一つは空母やイージス艦のような、水上艦です。もう一つは、海の中に潜む、潜水艦です。

現代海戦においては、水上艦は空母でなんであれ、大きな目標でしかありません。これらは、すぐにミサイルや魚雷で撃沈されてしまいます。実際ロシアのバルチック艦隊の旗艦でもあってミサイル巡洋艦「モスクワ」は脆弱な海軍しか持たないウクライナ軍のミサイルによつて撃沈されてしまいました。

一方潜水艦は、水中に潜み、敵を攻撃することができます。すぐにミサイルや魚雷で撃沈されることはありません。だからこそ現代の海戦における本当の戦力は潜水艦なのです。ただ、これも対潜哨戒能力などによるASWが物を言う時代になっています。これが弱ければ、いくら潜水艦を多く持っていても、海戦において勝利することはできません。

これは、すでにフォークランド紛争(1982年)で実証されていたことです。この紛争では、ASWに長けていた英軍が結局勝利しています。

現代海戦においては、日米のほうがはるかにASWでは中国に勝っているため、中国が多数の水上艦艇を持っていたにしても、それは日米にとっては「政治的メッセージ」に過ぎず、海戦では日米の敵ではありません。

だからこそ、台湾は最新型の潜水艦をもつことにしたのです。これについては、以前このブログでも紹介しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾が建造開始の潜水艦隊、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性―【私の論評】中国の侵攻を数十年阻止できる国が台湾の直ぐ傍にある!それは我が国日本(゚д゚)!

自前の潜水艦の着工式に出席した蔡英文総統=2021年11月24日、高雄市

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、専門家は、台湾がもし高性能潜水艦の製造に成功すれば、台湾は中国の侵攻を今後数十年にわたって防ぐことができるとしています。

実際そうなのだと思います。先にあげたルトワック氏は、台湾有事になりそうになったら、米国は台湾に大型攻撃型原潜を2〜3隻派遣すれば良いとしています。なにしろ米国の攻撃型原潜の攻撃力は凄まじいですから、トマホークを数百発も発射できますし、対空・対艦ミサイルもかなり搭載できますから、2〜3隻のこれらの潜水艦で台湾を包囲してしまえば、そもそ中国海軍は台湾に近づくこともできません。

それでも無理やり近づき、仮に人民解放軍を台湾に上陸させたとしても、補給ができず、上陸部隊はお手上げになります。

日本の潜水艦も貢献できるでしょう。何しろステルス性に優れていますから、中国海軍に発見することなく、台湾の近海を自由に航行して、情報収集にあたり、その情報を米台と共有することができます。

台湾が最新鋭の潜水艦8隻を就航させることができれば、自前でこれができることになります。これに、日米が加勢すれば、中国海軍が台湾向けて事を起こせば、壊滅することになります。

2021年11月29日、ロイターは「As China menaces Taiwan, island’s friends aid its secretive submarine project」という記事を配信しました。その内容は、2017年から開始された台湾の潜水艦建造に、米国、英国が主たる役割を果たしていることに加え、オーストラリア、韓国、インド、スペイン及びカナダが関わっているとするものです。

米国は、戦闘システムやソーナー等の核心技術を、イギリスは潜水艦用の部品や関連するソフトウェアを提供し、その他の5カ国は技術者募集に応じたものであると伝えています。

それぞれは、台湾海軍及び潜水艦建造を請け負っている台湾国営企業「台湾国際造船」に、政府の許可を得て技術的支援を行っているとしています。韓国大統領府は、この記事に関し政府の関与を否定した上で、個人のレベルで情報を提供しているかどうかは調査中であると述べていました

記事では、米国の同盟国であり最も進んだ通常型潜水艦を保有する日本の関与について、防衛省関係者の発言として、非公式に検討したものの中国との関係悪化を懸念し、検討を中止したと伝えていました。また、日本企業は中国との取引を失うことを懸念し、台湾への関与は消極的であるとの海上自衛隊退職将官の発言を紹介していました。

台湾海軍は現在4隻の潜水艦を保有しています。2隻は第2次世界大戦中に米海軍が建造したグッピー級であり、もう2隻はオランダのスバールトフィス級潜水艦を元に1980年代に建造され、海龍級と呼称されています。

当初、海龍級は6隻取得する計画であったのですが、中国がオランダに圧力をかけ、残り4隻の建造は取りやめられました。グッピー級は言うに及ばず、海龍級も旧式化しており、台湾海軍はその更新を希望していました。

しかしながら、潜水艦建造能力を持つ各国は、中国の反発を恐れ台湾の潜水艦取得に協力することには消極的でした。米国は、2001年にブッシュ政権が、台湾関係法に基づき通常型潜水艦の提供を決定したのですが、米国国内には通常型潜水艦建造のノウハウが無く、宙に浮いた形となっていました。

これらの状況から、台湾の蔡政権は潜水艦国産化の方針を決定、2017年から建造が開始されました。1番艦の就役は2025年に予定されており、8隻が建造される計画です。

国産化にあたっては、米国を始めとした潜水艦保有国の技術協力が不可欠と見なされていましたが、それまで具体的な名前は明らかにされていませんでした。現時点で、韓国政府以外の反応は報道されていないですが、各国の協力を得て台湾潜水艦建造が進みつつあることが確認できたと言えます。

台湾の潜水艦勢力が充実することは、日本周辺の安全保障環境にも大きな影響を与えますが、軍事的観点から見ると、それにはプラスの側面とマイナスの側面があります。

プラスの側面としては、中国の台湾軍事侵攻に対する大きな抑止力となることです。当時、中国は台湾周辺における活動を活発化しつつありました。爆撃機がバシー海峡を経由し台湾南東部を飛行することに加え、同年11月中旬には中国海軍揚陸艦2隻が台湾と与那国島の間を南下し、台湾東部沖で活動したことが確認されています。

台湾は南北にわたって3,000m級の山脈が連なっていることから、その攻略には台湾海峡正面からの攻撃では不十分との指摘があります。当時からの中国艦艇及び航空機の活動は、台湾海峡方面からの侵攻に加え、太平洋方面からの侵攻能力を検証しているものと推定できます。

3,000m級の山脈が連なっている台湾

台湾潜水艦がバシー海峡周辺及び台湾東部海域で行動することにより、これら中国艦艇の台湾東部への進出を抑制することができます。潜水艦が行動しているという情報だけで、その脅威を排除するために行わなければならない作戦の負担や艦艇へのリスクを意識させ、最終的に中国が台湾への軍事侵攻というオプションを選択する可能性を低下させることが期待できます。

一方、マイナス面、懸念事項としては次の2点があげられます。

潜水艦の最大の特徴は、隠密裏に海中を行動することである。これを捜索するためのセンサーとして、現時点では音波が主流です。音波による捜索は、自ら音を出すアクティブ、相手の音を聞くパッシブともに、潜水艦であるかどうかの類別、そしてそれが潜水艦であった場合の識別(どこの国の潜水艦か)に多大の労力が必要です。

バシー海峡から西太平洋にわたる海域では、日米、状況によっては韓国、そして将来的にはオーストラリア潜水艦が活動し、これに台湾海軍潜水艦が加わった場合、潜水艦らしい目標を探知した場合の識別は非常に困難なものとなります。台湾を巡る紛争が生起した場合、台湾海軍潜水艦の存在は、日米艦艇の作戦を阻害する可能性があります。

次に、台湾の潜水艦の事故に対する備えが不十分であることが指摘できます。2021年4月、インドネシア海軍潜水艦がロンボク海峡付近で沈没しました。更には同年10月、米海軍原子力潜水艦が南シナ海において、海山と推定される海中物体と衝突し損傷しています。

潜水艦を運用する国が増加するにつれ、このような潜水艦の事故が増加すると考えられ、潜水艦を運用する国には捜索救難体制の整備が必須と言えます。他国との訓練が実施できない台湾は、潜水艦救難のノウハウが十分とは言えない状況にあります。

インドネシア潜水艦が消息を絶ってから発見されるまで4日間を要したことから分かるように、沈没潜水艦の位置特定には時間を要します。沈没潜水艦の救難は時間との勝負であり、距離的に近い日本はこれに積極的に協力すべきでしょう。

懸念事項を解消するためには、台湾潜水艦の運用状況に関する日台間の情報共有が不可欠です。潜水艦運用に係る情報の全てを共有する必要はないですが、少なくとも、事故の発生の通知や、探知した潜水艦が台湾所属である可能性があるかないかという判断を速やかに下せる程度の情報交換は必要です。これは、台湾の対潜戦兵力が日本の潜水艦を探知した場合も同様です。

日本の各企業が中国との取引を重視し、台湾の潜水艦建造に消極的であることは、民間企業として当然のリスク管理です。しかしながら、実際に台湾潜水艦の絶対数が増加し、活動海域が重複した場合のリスク管理は国の責任です。台湾の国産潜水艦が就役する2025年までに、日本政府としてリスク管理の体制を整えておく必要があります。関係国との調整を考慮すれば、残された期間は長いとは言えないです。

ただ、日米ともに以上のようなことを実施すべきです。台湾が自前で潜水艦を8隻持ち、シフトを組んで、24時間、台湾を包囲する体制を築いた場合、中国は台湾侵攻を断念せざるを得ないでしょう。

だから、2025年より前に、中国が台湾を武力侵攻する可能性は捨てきれません。そもそも、このブログでは、中国軍の兵員海上輸送能力は現在でも低く、台湾に一度に数万の陸上部隊しか送れないこと解説しました。そうなると、台湾に上陸した中国は侵攻部隊は、何度かに分けて輸送せざるを得ないことになります。そうなると、その度に台湾軍に個別撃破されることになります。

これを考えると、中国が台湾を武力侵攻することはあり得ないと考えるのが普通だと思います。もし、中国が台湾に侵攻した場合、台湾は当然戦うでしょうが、ロシアがウクライナに攻め入るのとは違い、圧倒的台湾のほうが有利であり、侵攻する中国はウクライナのロシア軍よりも、さらに破滅的な損害を被ることになります。

しかし、ロシア軍もウクライナに侵攻すれば、破滅的な損害を被るのは目にみえていました。しかも、侵入軍が当初19万人ともいわれ、これではとてもウクライナを制圧できないのは明らかでした。それでも、プーチンは明らかに勘違いをしてすぐに制圧できると高を括って侵攻したわけですから、中国が台湾に侵攻しないという保証はありません。

台湾を第二のウクライナにしてはならない

ただ、そうすれば、中国軍は破滅的な被害を受け、いずれ退却しなければならくなるでしょう。習近平はプーチンのように大赤恥をかくことになります。いや、それ以上かもしれません。しかし、それでも台湾は大きな被害を被る可能性があります。それだけは絶対に避けなければなりません。

そうならないためにも、台湾は潜水艦の建造を急ぐべきですし、日米としては、台湾有事は日米有事であることを中国に知らしめるべきでしょう。

その意味では、23日の日米首脳会談後の共同記者会見で、バイデン大統領が「台湾防衛への軍事的関与」を明言したのは時宜にかなった適切な措置だったと思います。

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2022年5月24日火曜日

習主席が墓穴!空母威嚇が裏目に バイデン大統領「台湾防衛」を明言 「『第2のウクライナにはさせない』決意の現れ」識者―【私の論評】バイデン大統領の意図的発言は、安倍論文にも配慮した可能性が高いことを報道しないあきれた日本メディア(゚д゚)!

習主席が墓穴!空母威嚇が裏目に バイデン大統領「台湾防衛」を明言 「『第2のウクライナにはさせない』決意の現れ」識者


 中国の習近平国家主席が「墓穴」を掘ったようだ。就任以来、台湾を「核心的利益」と言い続け、今月に入って沖縄県南方の太平洋で、空母「遼寧」の艦載機の発着艦などを繰り返し、軍事的圧力を強めていたが、ジョー・バイデン米大統領は23日の日米首脳会談後の共同記者会見で、「台湾防衛への軍事的関与」を明言したのだ。習氏は今年秋の共産党大会で「政権3期目」を狙っているが、余裕とはいえなくなった。


 女性記者「台湾防衛のために軍事的に関与するのか?」

 バイデン氏「イエス(はい)」

 女性記者「関与する?」

 バイデン氏「それが、われわれのコミットメント(約束)だ」

 注目の記者会見で、バイデン氏は明言した。

 台湾外交部(外務省)の報道官は同日、「歓迎と感謝」を表明し、台湾自身の防衛力を高めるとともに日米などと協力して「インド太平洋地域の平和と安定を守っていく」とした。

 一方、中国外務省の汪文斌報道官は同日、「強烈な不満と断固たる反対」を表明した。

 中国は、日米首脳会談や、日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の首脳会合(24日)を見据えて、軍事的威圧を強めていた。

 5月上旬以降、中国海軍の空母「遼寧」は、沖縄南方の太平洋で艦載戦闘機やヘリコプターの発着艦を行っており、その回数は18日までに300回を超えた。20日には、中国軍の戦闘機や爆撃機など計14機が、台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入した。

 習氏は今秋、5年に1度の党大会で「政権3期目」を目指すが、国内での新型コロナ拡大や経済停滞に加え、米国が台湾防衛への軍事的関与を明確にしたとなれば、3選も盤石とはいえない。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「バイデン氏の発言は意図的で、暴走を続ける中国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみている。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、『台湾を第2のウクライナにはさせない』という決意が現れている。米国の姿勢は、中国国内の『反習派』を勢いづける。3選目を目指す習氏を、米国が揺さぶっている」と指摘した。

【私の論評】バイデン大統領の意図的発言は、安倍論文にも配慮した可能性が高いことを報道しないあきれた日本メディア(゚д゚)!


上の記事にもある通り、バイデン米大統領の23日の日米首脳会談後の協同記者会見での、中国が台湾に侵攻した場合、米国が軍事的に関与する考えを表明しました。台湾有事に米国がどう対応するかは「意図的に不透明にしておく」という長らく堅持してきた外交戦略と一線を画する姿勢を見せました。

これについて米政府は即座に、米政府の政策に変更はないとして火消しに走ったことから、発言は失言と受け止められました。 しかし、専門家の一部は、これは決して失言ではないと指摘しています。私もそう思います。

バイデン氏は、中国に対して融和的発言はできないのでしょう。米国内では、そうしてしまえば、共和党やトランプ元大統領から徹底的に批判されるでしょうし、それどころか党内からも突き上げを食うことになるのでしょう。

米国においては、もはや中国に対峙する姿勢は、上下左右から支持され、米国の意思となったといって過言ではありません。現在米国では中国に融和的発言をすれば、米国に対する裏切り行為だと指弾されかねません。

台湾を巡っても、中国に融和的な発言をすれば、ウクライナ侵攻直前にロシアのウクライナ侵攻に米軍を派遣することはないと名言したときのように、大反発をくらい、それこそ中間選挙では大敗確実になるのでしょう。

そうしてこれには、4月12日にチェコ・プラハに所在地がある言論サイト「ブロジェクト・シンジケート」に安倍元総理が発表した、米国は台湾防衛に曖昧戦略はやめよと主張した英語論文の影響もあることでしょう。


同論文は瞬く間に反響を呼び、「ロサンゼルス・タイムズ」や仏紙「ルモンド」など、米国をはじめ30カ国・地域近くのメディアで掲載されました。

同論文では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を台湾有事と重ねたうえで、米国がこれまで続けてきた「曖昧戦略」を改め、中国が台湾を侵攻した場合に防衛の意思を明確にすべきだと主張しています。

1979年、米国は中国と国交を結んで台湾と断交し、台湾に防御兵器を提供することを定めた「台湾関係法」を制定しました。しかし、中国が台湾へ軍事侵攻した場合、米国が軍事介入するかどうかについては明らかになっていません。安倍氏は、この「曖昧戦略」を見直すべきだと主張しています。

安倍氏はかねてより「台湾有事は日本有事」だと主張してきました。


ロシアによるウクライナ侵攻において、バイデン米大統領は早い段階から「米軍は軍事介入しない」と明言しました。それがロシア軍の侵攻を加速させたことは間違いないです。台湾に関しても、米国が防衛の意思を明確にしなければ中国が実際に台湾へ侵攻することは容易に想像できます。

同じ価値観を共有する周辺諸国に対する軍事侵攻は、日本の国家安全保障にも大きく影響します。尖閣諸島への領海侵犯が連日行われている以上、日本も対岸の火事ではないです。多くの日本人が傍観しないことを祈ります。

そうしてこの安倍論文は、ただ公表されただけではなく、引用という形で報道され世界を駆け巡りました。その事実を前に、バイデン大統領としても、曖昧戦略をこれからもはっきりと継続するとは言えなかったのでしょう。まさに、この論文は絶妙なタイミングで出されたと思います。

この論文はさらに国際政治に今後も影響を与える可能性があります。しかし、この論文に関しては日本のメデイアはほとんど報道しません。

マスコミは2012年暮れにやはりプロジェクト・シンジケートに公表された、当時総理になることが決まっていた安倍氏の論文「安全保障のダイアモンド」を無視しました。この論文は非常に重要なもので、その後のインド太平洋戦略構想やQUADにも結びついたものでした。そうして、これも世界各国の多数のメディアに掲載されたにもかかわらず、日本のメデイアは無視しました。

そのため、日本ではその存在そにものも知らない人が多いようです。特に、情報源がテレビや新聞などに限られている人はその傾向が強いです。

米国では、トランプ元大統領が大統領でなくなってしまってから、CNNなどの反トランプメディアは凋落しつつあるそうです。それは以下の動画をご覧いただければおわかりいただけると思います。


日本の反安倍メディアも同じような運命をたどりつつあるといえると思います。そうして、トランプ氏もバイデン批判、米民主党批判だけではなく、安倍元総理が間接的にバイデンを批判したように、岸田総理や林外務大臣に対する批判をしていただきたいものです。

無論、安倍氏のように、理詰めで、誰にも表立って反対できないような理性的で、実際に国際政治を変えるような形で実施していただきたいです。

安倍元総理の今回の論文は、直接トランプ氏や共和党を応援するものではないですが、バイデン大統領の行動を変えた可能性は十分にあります。

トランプ氏

そのような形で、日本の岸田総理や林外務大臣と自民党の行動を変えるような提言をして欲しいです。特に経済面やエネルギー政策では、そのようなことをしていただきたいです。

そのようなことができれば、トランプ氏が大統領に返り咲く可能性が高まると思います。

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2022年5月23日月曜日

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財務省の超エリート「次官候補」は何に追い込まれたのか?逮捕劇までに財務省で起こっていたこと

自民党内で「ご説明」行脚

 財務省総括審議官の小野平八郎容疑者(56歳)が、5月20日逮捕された。
 《20日午前0時すぎ、東京都内を走行中の東急田園都市線の車内で他の乗客を殴ったり蹴ったりしたなどとして、暴行の疑いがある》(NHKニュース)


 財務省の総括審議官とは、財務事務次官(あるいは、対外的には次官級である財務官)へのコースだ。統括審議官を経た官僚は、たとえ事務次官になれなくても、国税庁長官か他省庁の事務次官になっている。財務官僚の中でも「超エリートポスト」だ。


 しかし今回の逮捕劇により、小野氏は20日付で総括審議官から大臣官房付に降格された。

 総括審議官の担当は国内経済一般である。表向き、日銀との調整事務もあり、かつては事実上公定歩合を「決めて」いたこともあったポジションだ。1998年の日銀法改正以降は形式・実質ともに日銀が金融政策を決めている。

 実をいえば、筆者は日銀法改正以前の総括審議官の下で働いていたこともある。その当時、日米経済摩擦が問題になっていた。アメリカ政府が日本に内需拡大を要求するときの経済理論的根拠になっていた「ISバランス論」を論破せよ──もし出来たらノーベル賞級という、そんな難題を課せられたこともあった。

 統括審議官は、最近では政府の経済財政諮問会議関連の仕事が多い。5月16日に諮問会議で「骨太の方針」の骨子案が出された。これは、骨子つまり項目だけであり、5月中に原案をつくり、6月上旬に閣議決定される予定だ。

 「骨太の方針」の策定に当たっては、当然のことながら、自民党との調整も必要だ。この7月に参院選を控える自民党は、6月までに公約を固める必要がある。高市早苗政調会長が自民党内で政策の取りまとめは行うものの、自民党内の各所に「ご説明」という名目で接近し、財務省の意向をできるだけ通りやすくするのも、総括審議官に課せられた仕事のようだった。

積極財政派の仕掛け?

 特に、自民党内では、財政に対する路線対立がある。岸田首相に近い財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎、最高顧問:麻生太郎)と、安倍元首相に近い財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)がある。前者は財政再建路線、後者は積極財政路線であり、両者は基本的な方向が異なってる。自民党内で二つの本部があるのはかなり異様である。

 もっとも、7月の参院選を控えて党内対立・政局になるのは自民党のためにならないので、両本部とも、政局にすることなく「大人」の妥協の方向で基本方針は固まっている。

 両者の争点は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化するという政府目標の取り扱いだ。

 「積極財政派」の財政政策検討本部は、17日、「財政再建派」の財政健全化推進本部に配慮した提言を出した。一方の財政健全化推進本部は19日、従来の財務省方針どおりの「財政健全化の旗を降ろさず」という提言をまとめる予定だったが、それでは財政積極派の議員が収まらず、19日の決定には至らなかった。その後、本部長預かりとなって、政府の「骨太の方針」に取り込まれる予定だという。

 財政健全化推進本部が19日示した案のドラフトは、どうやら小野氏がとりまとめの事務責任者だったようだ。

 小野氏は自分の案が提言として決定されなかったことで、かなりのストレスがあったと思われる。その19日の深夜に「事件」は起こった。

 それにしても、電車での暴行と聞いて驚いた。総括審議官は局長級なので、仕事なら公用車も使えるし、でなくても電車ではなくタクシーなどを使うのが普通だ。よほど腹が立って深酒をしたのだろうが、それであればなおさら電車に乗るべきでなかった。いずれにしても、どれだけストレスがあったとしても、他人に暴行をふるってはいけないのはいうまでもない。

 先週の本コラムで書いたが、安倍元首相の発言(「日銀は政府の子会社」)に対するマスコミ報道は、自民党内の対立において、有利の立場を築きたい財務省の思惑が透けてみえる。

 そういうと、今回の逮捕についても「積極財政派の仕掛け」という陰謀論も出てきそうだが、小野氏以外の人が総括審議官になっても、財務省の再建至上主義は財務省のDNAともいうべきモノで変わりはないので、仕掛ける意味がないだろう。
 
 デタラメな「財政危機」論

 この間筆者は、財政問題について意見を求められることは多かったものの、あまり表には出ていない。ある人から言われたが、筆者の見解はかなり「危険」だというのだ。会計や金融工学手法を使った筆者の説明は定量的なので、反論するなら定量的に行う必要はある。だがそれができないらしい。反論を許さない論法が「危険」といわれている。

 それでも筆者は、11日に行われた自民党若手の積極財政議連の勉強会で、マスコミを含めフルオープンで話をしている。

 そこで話したのはこういうことだ。

 今のプライマリーバランスは、狭義の政府のみに焦点をあてているので不適切である。政府・日銀の統合政府のネット債務残高対GDPを大きくさせないためには、政府・日銀のプライマリーバランスを新しい指標として、それをインフレ目標の範囲内で考慮すべきだ──興味のあるかたは、動画で示した数式を参照されたい。

 21日、大阪朝日放送「正義のミカタ」でも、財政問題を解説する機会があった。東京の地上波でこうした話はできないが、大阪では比較的自由だ。話した内容は、本コラムで何度も繰り返してきた「政府連結BSでは事実上資産超過」だ。

 もちろん簿外の徴税権を含めれば、資産超過は常に確実だ。筆者は、およそ30年前に世界に先がけて政府連結BSを作っているが、その当時から政府は当分破綻しないことを知っていた。


 これは世界ではあたり前で、IMFでも分析していることだ。安倍政権時代、ノーベル経済学者受賞者のスティグリッツ教授が経済財政諮問会議で話したことからも裏付けられる。

 財務省やマスコミのやってきたことは、そうした世界の「真実の声」を報じないことだ。だが先週の安倍元首相の発言をはじめ、自民党若手の積極財政議連のメンバーでも、財務省が債務だけでデタラメの議論をしていることについて、かなり理解が広がっている。

 昨年矢野康治財務事務次官が『文藝春秋』11月号に書いた内容も、債務だけで財政危機を論じるなど、会計的にあまりに幼稚なので失笑を買ったものだ。

 こうした過程で、一部の自民党議員の動きは、小野氏をかなり悩ませたに違いない。

 小野氏は財務省の省益を守るために努力したが、それが報われずに、そのストレスで暴行に及んだとしたならば──。もちろん、この話はあくまで筆者の邪推であり、確たる証拠はない。だがこれが正しければ、財務省のデタラメな財政危機論は、とんだところにも悪影響を及ぼしてしまったのかもしれない。

 財務省は、会計に無知で独断的な財政危機の扇動をやめるべきだ。でないと、本当の財政の姿を国民は理解しなくなり、財務省職員にとってもいいことではない。

 財務省職員に言っておきたいが、財務省論法はもう無理だということ。それでも省益のために働けと言われたら、国民のためにも辞めたほうがいい。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】柔軟性がなくなった異様な日本の財政論議に岸田政権の闇が透けて見える(゚д゚)!

上の記事にもあるように、自民党内では、財政に対する路線対立があります。岸田首相に近い財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎、最高顧問:麻生太郎)と、安倍元首相に近い財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)があります。前者は財政再建路線、後者は積極財政路線であり、両者は基本的な方向が異なっています。自民党内で二つの本部があるのはかなり異様です。

両者の争点は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化するという政府目標の取り扱いです。

ただ、こうした状況には根本的な間違いがあります。それについては、このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
自民に“財政”2組織が発足 財政再建派と積極財政派が攻防―【私の論評】「○○主義」で財政を考えるなどという愚かなことはやめるべき(゚д゚)!
財政政策検討本部役員会で発言する安倍晋三元首相=1日午後、東京・永田町の自民党本部

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、結局この記事で何を言いたかったかと言う部分を長めですが、この記事から引用します。
「財政再建派と積極財政派の攻防」とは一体どういうことなのかと考えてしまいます。財政再建派といわれる人々は、どんな時でも財政再建を主張するのでしょうか。そうして、積極再生派の人々はどんなときでも積極財政をするというのでしょうか。

現状の財政が危機なのか、そうでないのか、あるいは現状は積極財政すべきなのかという「事実判断」をまず検討すべきです。それから再建すべきなのか、積極でいけるかのがわかるはずです。「主義」として議論する人は最初から間違えています。

デフレになっても、それでも財政再建ばかりしていれば、いずれさらに酷いデフレになるのは必定です。平成年間のほとんどの期間にわたり、このようなことを実施し続けたのと日銀が金融引締を続けたので、現在の日本はデフレ傾向にが続いています。積極財政主義にも確かに問題があります。積極財政を主義としていつまでも行いつづければ、いつかは超インフレになってしまいます。

日本は、財政再建主義を長い間続けてきた結果平成年間のほとんどの期間がデフレだったという、大失敗をやらかしたのですから、いい加減「主義」で財政を考えるという愚かな、馬鹿真似はやめるべきです。必要なのは、実体経済を分析した上で、積極財政すべきときは、積極財政をして、緊縮財政すべきときは積極財政をするという柔軟な姿勢てす。

安倍氏や高市氏などこのようなことは、重々承知なのでしょうが、岸田政権の枠組みの中で、このような二つの組織ができているので、「財政政策検討本部」の中で財政を検討するよりないのでしょう。

「財政健全化推進本部」と「財政政策検討本部」の二つの組織を立ち上げる岸田政権ではまともな経済対策は期待できないです。

岸田氏としては、財政健全化主義者の組織と、財政政策を検討する組織の二つの組織の意見を聴いたうえで、財政政策を実施することになるのでしょう。これは、どちらがわの意見も聴いたということをアピールするためとしか考えられません。

このようなことを実施すれば、財政政策としては、両者の意見を折衷したものとなり、不十分なものしかできないでしょう。無論先日もこのブログで述べたような米国における「高圧経済」など望むべくもないでしょう。

経済の問題、特にその時々でどのような経済対策を打つべきかに関しては、本来その時々の経済に対応して柔軟に実施すべきものです。

にも かかわらず、積極財政派と財政再建派という派閥をつくって議論をするとそこには暗黙の了解というか、暗黙の前提ができてしまいます。

それは、積極財政派はいついかなるとき、それこそ超インフレのときにも積極財政を行い続ける、財政再建派は、超デフレであっても、積極財政など考えもせずに、財政再建を続けるというような暗黙の前提です。

無論、上にも示したように、安倍元総理、高市政調会長、西田議員などそのように考えてはおらず、その時々の経済に対応した柔軟な対応をすべきと考えているでしょう。ただ、デフレが長く続いた日本では、今は積極財政をすべきと考えていることでしょう。

しかし、財政再建派の人々の多くは、どんなときでも財政再建、緊縮財政を実施するのが正しいと信じているのでしょう。この考えが間違いであり、日本は長い間デフレに見舞われ、賃金も上がらず、長期停滞を続けました。

本来経済対策は、柔軟に実施すべき筋のものであり、財政再建派のように「どんなときでも財政再建」などと考えていれば、まともな経済対策などできません。

その時々の経済状況を把握するのは大して難しいことではありません。以前にも述べたように、積極財政を行った結果、インフレ率は上がるものの、失業率が下がらない状況が続けば、積極財政はやめて、緊縮財政によって財政再建をすれば良いです。

緊縮財政を実施し、財政再建をした場合、デフレ傾向になり、失業率が上がり続ければ、財政再建など中止して、積極財政に転じるべきです。現在の日本では、デフレがあまりに長い間続いてしまい、それが当たり前のようになっていますが、デフレは正常な経済循環から逸脱した状況であり、これは必ず是正しなければなりません。

以上のように財政政策の方向性を探るのはさほど難しいことではありません。そうして岸田政権が財政政策の目標を決めて、財務省は専門家的立場から、その目標を実現するために、様々な手法を駆使するべきなのです。

財政再建派からみれば、積極財政などとんてもないし、派閥(主義)で政策を考えているのですから、積極財政派には負けられないし、なんとしても自分たちを考えを通そうというほうに流れるのは当然といえるでしょう。

20日には、岸田総理大臣直轄の機関で自民党内の財政再建派が中心の会合が開かれ、政府が6月に閣議決定する「骨太の方針」を念頭に提言案をまとめました。

20日行われた自民党財政再建派の会合

提言案には、2025年度にプライマリーバランス=基礎的財政収支の黒字化を目指す政府目標について、「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む。」と明記されました。

一方で黒字化目標の時期については「内外の経済情勢等を常に注視しつつ、状況に応じ必要な検証を行っていく。」との表現にとどめました。

提言案を巡っては、19日の会合で、積極財政派を中心に「アベノミクスの成果を入れるべき」といった批判が相次ぎました。

今後は、参議院選挙が迫るなか、党内での対立を避けるため両会合で連携して財政政策を検討していく方針としされていますが、これでまともな財政政策が出来上がるとはとても思えません。

結局、岸田総理は無用な対立を助長するようなことをしてしまったとしか言いようがありません。本来は岸田総理が、官僚の出す統計数値などから、判断し、積極財政をするか財政再建をするかその方向性を明らかにするとともに、財政の目標値を定めるべきです。

いずれの方向に進むにしても、党内で一致して、その方向に進むのが筋です。そうして、財政政策に成功すれば、そのまま政権を継続し、大失敗すれば、辞任すれば良いてのです。そうしないのは、本当に無責任の極みとしか言いようがありませ。

それをしないで、積極財政派、財政再建派を対立させるようなことをしてしまったのは、全く罪作りとしかいいようがありません。

財務省総括審議官の小野平八郎氏の直近の仕事内容は、日本銀行との政策調整や国会対応などで、かなりハードだっちようです。しかも今は自民党内で『積極財政派』と『財政再建派』が激しく対立し、会合では怒号が飛び交うほどです。そうした最中にあって、小野氏は財務省の省益を追求しなればならないという使命が課されていたのです。

『財政再建派』は軽くいなせたものの、『積極財政派』には、そうとう手こずらされたに違いありません。理論武装した『積極財政派』に対して稚拙な財務省論法は通じなかったでしょう。時によっては、強く叱責され、罵声を浴びせられたこともあったかもしれません。

小野氏は、調整役として奔走していました。かなりのストレスが溜まっていただろうことは、想像に難くありません。

とはいえ、電車内で乱暴狼藉を働くことはとても許されることではありません。ただ、通常ならあり得ないような今回のような事件が起こってしまったことに、岸田政権の闇が透けて見えます。

岸田政権によって、従来から異常だった日本の財政論議はますます歪められることになりそうです。

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2022年5月22日日曜日

高いロシア依存で苦境に 綱渡り状態の台湾の電力問題―【私の論評】日本はエネルギー分野で独走し、エネルギーで世界を翻弄する国々から世界を開放すべき(゚д゚)!

高いロシア依存で苦境に 綱渡り状態の台湾の電力問題


 ロシアが4月末、ポーランドとブルガリアへの天然ガス供給停止を通告したことは、台湾を震撼させた。台湾が輸入する天然ガスの10%はロシア産。万一、供給が止まれば、慢性的な電力の需給逼迫に悩む台湾は、一気に危機を迎えることになる。

 台湾経済部(経済省)エネルギー局によると、2021年の電源構成は83.4%が火力発電。うち石炭が44.3%、天然ガスが37.2%だ。天然ガスのうち9.7%を占めるロシアは、台湾にとって豪州、カタールに次ぐ第3位の供給国。石炭も14.6%がロシア産で、豪州、インドネシアに次ぐ第3位。エネルギーの対露依存度は高い。

 台湾政府は2月のウクライナ侵攻後、直ちにロシアへの制裁を発表。4月には経済部が、対露輸出を禁止する電子製品などハイテク57品目のリストを公表した。ポーランドなどと同様、ロシアから「非友好国・地域」に指定されており、天然ガスなどの供給停止の「資格」は十分だ。

 元々、台湾は近年、電力逼迫に苦しんでいる。高い経済成長率や、半導体工場の増設、米中対立を背景とした台湾企業の域内回帰が、本来はめでたい話だが、電力状況をさらに厳しくしている。

 台湾では昨年5月と12月に計3回の大停電が発生。今年3月にも、発電所の事故をきっかけに全国規模の停電が起きた。停電の頻発は、送電網の脆弱さや管理の杜撰さのほか、蔡英文政権が、脱原発にこだわり原子力発電を縮小する一方、頼みとする再生可能エネルギーのシェアが伸び悩んでいることも原因とみられている。

 蔡政権は、25年に原発稼働ゼロ実現の目標を変えておらず、この年の目標電源構成のうち再エネの比率は20%。経済部エネルギー局は今年初め、25年の再エネのシェアが目標を下回る15.2%になるとの見通しを示したが、専門家からは「絵に描いた餅。多くて13%」の指摘もある。

 政府は、再エネの不足分を天然ガス火力で補う計画だが、台湾に2カ所ある液化天然ガス(LNG)の陸揚げ施設は、既に能力が限界。3カ所目は海藻類を繁殖させるための「藻礁」保護を理由とする反対運動で建設が遅れ、完成は早くて25年となる。

 しかも天然ガスは、価格急騰のほか、ロシアの供給中断リスクが加わった。経済部は、台湾のLNG調達は長期契約が主体で、短期的な価格変動の影響はなく、調達先の多角化を進めており、問題ないと説明しているが、企業などの不安は拭えていない。

 台湾の電力の安定供給は、原子力発電の活用が最も現実的で、経済界からは、既存の原発2カ所の稼働延長が必要との声が高まっている。さらに、完成間際で建設が止まっている第4原発(新北市)が稼働すれば、電力逼迫は一挙に解決する。しかし、国民の原発アレルギーは強く、昨年12月の住民投票で第4原発の工事再開は否決されており、実現は当面ありえない。電力供給は、天然ガス頼みの危ない綱渡りが続きそうだ。

【私の論評】日本はエネルギー分野で独走し、エネルギーで世界を翻弄する国々から世界を開放すべき(゚д゚)!

経済産業省の資料によると、2021年の日本の天然ガス供給は運搬船による輸入LNGであり、ロシア依存度の8.8%です。

同じく、日本の原油輸入量でロシア産が占める割合は3.6%にすぎません。日本への原油はサウジアラビアが約40%、UAE=アラブ首長国連邦が約35%と中東依存度が高く、もともとロシアでの権益確保は、エネルギーの中東依存度を下げることが目的でした。

この数字を見る限り、日本も台湾もエネルギーのロシア依存度は似たりよったりという事ができると思います。

しかし、ウクライナでの惨状を受けて、各国や企業が次々とロシアからの撤退を進める中、「3.6%」が本当に国益上「極めて重要」なのか。

「サハリン1」の事業主体を見ると、その背景も透けて見えます。撤退の方針を表明した米エクソンが30%、そして日本のサハリン石油ガス開発(SODECO)が30%を保有。さらに、このSODECOの内訳を詳しくみると、経済産業大臣(日本政府)が50%、国が筆頭株主のJAPEX(石油資源開発)が15%、伊藤忠14%、丸紅12%と、ほぼ国策会社です。

日本政府が関わるロシアでの資源開発はほかにもあります。

その一つが、2023年の稼働を目指す北極海の「アークティックLNG2プロジェクト」です。安倍元総理大臣が肝いりで進めたLNG開発事業です。日本勢では、三井物産や石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などが参画します。2019年、G20大阪サミットでのプーチン大統領と当時の安倍総理との首脳会談にあわせて契約が署名された国策プロジェクトといえます。

プーチン大統領肝いりの巨大なプロジェクト・ヤマルLNGプラント

ところが、「アークティック2」をめぐっては、権益の10%を保有するフランスのエネルギー大手トタルエナジーズが3月22日、権益は手放さないものの資金提供はしないと凍結を表明するなど、今後の資金調達が危ぶまれています。

それでも、4月1日、萩生田大臣は「アークティック2」からも撤退しない方針を明言しました

紛争において、エネルギーがいかに大きな武器となりうるのか、ロシアのウクライナ侵攻は改めて世界に突き付けました。ロシア依存からの脱却を表明したヨーロッパだが、経済への一層の打撃など困難が予想されます。

それでも、EUのフォンデアライエン委員長は3月8日、「我々を露骨に脅す供給元に頼ることはできない。今行動が必要だ」と、結束を呼び掛けました。迅速な意思決定と行動は、危機を乗り越えようとする国際社会への強いメッセージとともに、ロシアへのプレッシャーにもなります。

国際社会の動きに押されるように、萩生田大臣は3月15日、「ロシアへのエネルギー依存度の低減をはかる」として、再生可能エネルギーも含めたエネルギー源や調達先の多様化を進める方針を示しました。そして、侵攻から1か月以上経過して、日本政府は初めて、「戦略物資やエネルギーの安定的な確保を検討する会合」を開き、対策を発表しました。しかし、ここでもロシアでの権益をどうするのか、具体的な方針は示していません。

日本のエネルギー業界のある重鎮は、「簡単に権益を手放す判断をすべきではない」と日本政府の対応を評価しながら、「ウクライナでの状況が悪化すれば、人道的な観点から撤退も考えざるを得ないだろう」と語っています。

資源のない日本にとって、エネルギーの権益確保と調達の多様化は最重要ともいえる課題であることは疑いないです。しかし、「戦争犯罪」も問われるロシアに、欧米各国らが結束して対応しようとしている中で、すべてのロシア権益を一様に、「極めて重要」として固執し続けるのでしょうか。

日本政府の対応はしたたかな戦略的「忍耐」なのか、それとも単に危機対応の遅れなのでしょうか。その「忍耐」は責任ある主要国の一員として容認されうるのでしょうか。国民、そして国際社会への説明はあまりに乏しいようです。それは、台湾も似たようなところがあると思います。


日本は、このブログでも以前から主張しているように、動かせる原発は安全を確保した上で、なるべく多く稼働させるべきでしょう。それで、浮いたエネルギーをEUや台湾などにも提供すば、EUや台湾に歓迎されるとともに、ロシアへの制裁の強化ともなります。

米国は、シェールオイル・ガスなどの増産を実施すべきでしょう。そうして、ロシアにかわってEUや台湾などにも輸出すべきです。そうすれば、国内のエネルギー価格の高騰を抑え、EU、台湾に歓迎されることになります。

そうして、台湾は新たな原発開発に踏み切るべきでしょう。結局日本も台湾も、これから原発に力をいれていくべきなのです。

これから、日台ともに暑い夏を迎えます。そうなると電力が不足しがちになります。そうして、日台ともに根本的な改善策、それも再生エネルギーなどの不安定なものなど除外して、エネルギーの安定供給を目指さなければならないです。

それを目指さなければ、いずれ国民の原発アレルギーよりも、エネルギー価格の高騰への不満のほうが確実に上回ることになります。エネルギー不足や高騰が顕著になれば、再生可能エネルギーに賛成、原発廃炉に賛成などとは言いにくくなるのは目に見えています。

このようなことは、自分の生活が直接エネルギー不足等にさらされていないから言えることです。命の危険や、経済的な脅威などに直接さらされる、さらされることを否定できなくなれば、ごく一部の例外的な人を除いて、安全が確保された原発の稼働を望むようになることでしょう。

やはり原子力発電の活用が最も現実的であり、これを当面実施しつつ、より安全な小形原発、さらに安全な核融合炉の開発を目指すべきです。

台湾では、日本よりも国民の原子力アレルギーが強く、これらについては、ほとんど手つかずです。

しかし、日本ではこの開発が進んでいます。とくに、超高温下で海水に含まれる重水素など1グラムで石油8トン分のエネルギーを生む「夢のエネルギー」といわれる核融合発電の開発は日本の独壇場ともいえる状況になりそうです。

日本は核融合炉で重要な部品・材料を開発する力があります。核融合炉というと核融合反応ばかりに注目が集まりますが、その周囲を固める技術がなければ核融合炉は実現しません。核融合産業が誕生すれば、その中心地にはきっと日本がいることでしょう。現在、世界中の核融合炉のスタートアップ企業は安さよりも性能を追い求めていますから、日本にとって追い風となるはずです。

日本がこれらの分野で独走すべきです。そうして、日本のエネルギー問題を解消し、そうして世界のエネルギー問題を解消し、ロシアのようにエネルギーを脅しに使ったり、エネルギー価格を自分の都合で調整したりする国々の軛から世界の国々を開放すべきです。

これはエネルギー不足に悩まされてきた日本だからこそできる貢献です。他の国ではそれはできないでしょう。戦後経済大国になり技術大国になりながらも、世界のいかなる紛争や戦争に直接介入してこなかった日本こそがすべき貢献です。

岸田文雄首相は19日、脱炭素社会の実現に向け、政府が今後10年間で20兆円を投じる方針を表明しました。新たな国債を発行し、脱炭素に取り組む企業への補助金などに充てることを検討します。民間企業の投資を引き出すために、長期にわたる前例のない規模の支援を行うとしています。

10年間で20兆円とは、1年間で2兆円とあまりにもショボいですが、この使い道は小形原発と核融合発電にむけられるべきと思います。そうして、財務省管理内閣の岸田政権以降の政権はこの分野に果敢に緒戦して、年間で10兆円くらいの投資をしていただきたいものです。

それも、政府が国債を発行し日銀がそれを引き受ける形で、資金を得ていただきたいです。その他の投資も行いつつ、こちらの国内投資も毎年必ず行うようになれば、日本はデフレから完璧に脱却できます。その上にエネルギー革命もできるのです。そうしてこれが実現すれば、環境派の人たちもこれに対して面と向かって批判はできないでしょう。

なぜなら、核融合発電は原子力発電に比べて極めて安全性が高いからです。原子力発電は核分裂反応で発生する熱を利用して発電を行うものです。原子炉の中では核分裂反応が連鎖的に起こるため、制御棒などを用いて、暴走しないよう制御しながら運転をしていく必要があります。原子炉内には数年分の燃料が入っており、それを制御しながら少しずつ発電を行っていきます。

一方核融合発電の場合は、炉の中にある燃料は核融合反応を持続させるのに必要な量だけで、供給を止めればすぐに反応は止まってしまいます。また、たとえ大量の燃料が炉内に導入されたとしても、燃料自体がプラズマを急激に冷却することで自発的に反応が止まるため、核分裂のような連鎖的な反応は起こりません。核融合発電は、原理的に暴走が起こらない仕組みになっているのです。

ロシアは問題外として、米中が世界でエネルギー問題を根本から解決する役割を果たそうとすれば、反発する国も多いでしょう。これは、エネルギーで苦しめられてきて、その痛みがわかる日本が担うべき役割です。

21世紀は、エネルギーを持つ国とそうではない国との差別は撤廃されなければならないのです。そうならない限り、世界はいつまでもロシアのような野蛮な国々によって、翻弄され続けることになります。

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2022年5月21日土曜日

企業物価が大幅上昇しても川下まで価格転嫁は難しい 有効需要作る対策は減税だ!―【私の論評】実は、私達は岸田政権により経済的に末恐ろしい局面に立たされている(゚д゚)!

日本の解き方

ブログ管理人グラフを挿入

 4月の企業物価指数が前年同月比10%上昇の上げ幅となった。企業物価指数は、日銀が公表している企業の間で取引されるモノの価格を示す指数で、企業の仕入れ価格や卸売価格が対象だ。

 1960年以降のデータがあり、前年同月比をみると、2度のオイルショックがあった1973年3月から74年12月までと、79年11月から80年12月までの期間は10%超の上昇率だったが、今年4月はそれ以来の上げ幅となった。

 本コラムでは、30兆円程度以上のGDPギャップ(総供給と総需要の差)があるので、エネルギー・原材料価格の上昇があっても、なかなか消費者物価に転嫁できないということを書いてきた。

 18日に公表された1~3月の実質国内総生産(GDP)速報でも、年率換算で1・0%のマイナス成長なので、まだGDPギャップはある。さらに、企業物価の中身をみても、消費者物価への転嫁ができないとの主張は変わらない。

 企業物価統計には「需要段階別・用途別指数」がある。これをみると、「素原材料」は前年同月比65・5%増、「中間財」が同18・0%増、「最終財」が同4・9%増だった。要するに、物価を「川上」と「川下」に分けると、消費者物価指数が最も「川下」で、企業物価指数は「川上」だ。その企業物価指数の中でも、素原材料が最も川上、その次に中間財、その下が最終財となるが、一番川上のエネルギー・原材料価格が上がっても、川下に行くほど、価格転嫁ができないことを如実に物語っている。

 3月の素原材料は同51・0%増、中間財は同16・4%増、最終財は同4・1%増だった。そして同月の消費者物価指数総合は同1・2%増と、川下ほど転嫁できない状況が明らかだ。

 4月の消費者物価指数総合は、携帯電話料金の値下げ効果がなくなったことで、大きく上昇した。しかし、GDPギャップが相当程度あるので、今後も4%にはなかなか届かないとみられる。そしてインフレ率の基調となるエネルギーと生鮮食品を除く指数は当分の間、2%にもならないだろう。

 1973年と79年には、消費者物価は企業物価に追随したので、今回も追随してインフレになるという意見もある。

 しかし、現状のGDPギャップを見るかぎり、需要不足は広範な業種にあると考えられる。そうした業種では、エネルギー・原材料価格の上昇があっても消費者価格への転嫁ができずにコストアップの影響をモロに受ける。

 転嫁がうまくできるような環境作りが必要だが、まずは最終需要が増えるような有効需要を作らなければいけない。その際、エネルギー・原材料価格の上昇が原因なので、それを緩和するために、ガソリン税減税と個別消費税の減税(軽減税率適用)が適切な対応策になるが、岸田文雄政権では補正予算がショボすぎて、そうした対策ができていないのが残念だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】実は、私達は岸田政権により経済的に末恐ろしい局面に立たされている(゚д゚)!

消費者物価指数はどうなっているのかということについては、昨日このブログに掲載したばかりです。


コアコアで0.8%に過ぎず、総合で2%を超えているのは、エネルギー価格や生鮮食品価格が上がっているためです。その原因は、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁などによるエネルギー価格の高騰が原因です。

昨日の記事では、この状況であれば、経済対策としては、エネルギー価格を下げたり、消費税減税をしつつ、金融緩和策を継続するべきという結論でしたが、上の高橋洋一氏の記事も概ね同じようなことを指摘しています。

ただ、昨日は企業物価が上がっていることは指摘しませんでした。企業物価が上がっているということは、本来ならば日本にとっては、チャンスでもあります。

00年以降をみても、企業物価が上昇したのは、08年のリーマン・ショック直前と、14年の消費増税時があるが、前者では世界経済の急落、後者では消費増税による景気ショックがあり、消費者物価に反映する余裕もなく、その直後に企業物価は急落しました。

今回は、世界での新型コロナ後の景気拡大への方向もあり、日本にとってはまたとないチャンスである。ここで、日本は財政政策と金融政策をフル稼働すれば、GDPギャップ(完全雇用を達成するGDPとの乖離)も縮小し、景気の腰折れもなく、賃金と物価がともに上昇する好循環にも入れるはずなのです。

5月12日には、日銀政策会合が行われています。その要旨をみると、日銀では極めてまともな論議が行われています。一部を以下に引用します。
  • わが国経済は、依然として感染症からの回復途上にあるうえ、 資源輸入国であるわが国では、資源価格の上昇は、海外への所 得流出に繋がるため、経済に下押しに作用する。こうした経済・ 物価情勢を踏まえると、現在の強力な金融緩和を続けることで、 わが国経済をしっかりと下支えする必要がある。
これは現下の日本経済を考えると、当然の結論であり、日銀がこの姿勢を崩さなければ、今後日本が金融政策で大きな間違いをすることはなさそうです。

上の記事で、高橋洋一氏は結論で、以下のように述べています。
転嫁がうまくできるような環境作りが必要だが、まずは最終需要が増えるような有効需要を作らなければいけない。その際、エネルギー・原材料価格の上昇が原因なので、それを緩和するために、ガソリン税減税と個別消費税の減税(軽減税率適用)が適切な対応策になるが、岸田文雄政権では補正予算がショボすぎて、そうした対策ができていないのが残念だ。

 実際、岸田政権の補正予算はあまりにショボすぎます。

政府は、先月まとめた物価高騰の緊急対策を実行するため、一般会計の総額で2兆7009億円の今年度の補正予算案を閣議決定しました。財源は、全額を追加で発行する赤字国債で賄うことにしています。

政府が17日、持ち回り閣議で決定した今年度の補正予算案は、一般会計の総額で2兆7009億円で、原油価格の高騰対策として来月分以降の石油元売り会社への補助金などとして1兆1739億円、予備費を積み増すための1兆5200億円などを計上しています。

2兆7009億円では、あまりに少なすぎます。桁を間違えているのではないかと思えるほどです。ちなみに、これは内閣府が算出した需給ギャップ17兆円よりもはるかに少ないです。これは、高橋洋一氏の算出した30兆円よりは少ないです。

ただ、内閣府という政府の機関が算出しているわけですから、本来は少なくと17兆円の補正予算を組むべきでした。17兆円の補正予算ならば、来春まだ需給ギャップがあれば、さらに補正予算を組めばなんとかなります。しかし、3兆円未満の対策であれば、最初から効果がないことはわかりきっています。

このままの状況だと、最初に価格転嫁ができない中小企業の事業の継続ができなくなるでしょう。たとえば、老舗の飲食店などで長く良心的な商売を続けてきた店が、営業できなくなって店じまいをするようになります。その後は、そのような店だけではなく中小企業で廃業するところが増えてくるでしょう。

株価は最近低迷気味です。これは典型的な先行指標ですから、市場は半年後くらいには間違いなく景気が悪くなるとみているのです。そうして、景気は落ち込み、その後に失業率が11月頃から上がり始めるでしょう。なぜそうなるかといえば、失業率は典型的な遅行指標ですから、景気が落ち込んだからといってすぐに失業率は上がらず半年後くらいから上がりはじるからです。

就活生には、今年は就職浪人などしないことをおすすめします。来年になって、岸田政権の姿勢が変わらない限り、今より良い就職先がみつかる見込みはありません。まともに就職活動がてぎるのは、今年の10月あたりまででしょう。内定が決まっても、来年になって取り消しということもあるかもしれません。こんなことはいいたくないのですが、特に女性には、厳しくなります。油断せずに、10月までの間に内定先を複数決めるべきと思います。

それから、このような状況が続くと、採用の条件として「コミュニケーション能力重視」という会社が増えるかもしれません。これは、以前このブログで指摘したように、いわゆる調整型の社員を採用したいいということなのですが、それではありまに体裁が悪いので「コミュニケーション重視」と言い換えているだけです。それも致し方ないです、企業の責任ではありません。モノが売れないのですから、創造性に富んだ人やチャレンジ精神にあふれる人が、多数社員になられても困るのです。


もし、岸田政権が崩壊したり、岸田政権の方針が変わって、まともな経済対策をやり始めるということもまかり間違ってあるかもしれませんが、今はとにかく最悪の状況を考えて、リスク回避をすべきときです。状況が変われば、来年になってからいろいろ決めても遅くはありません。

続けて脅すようなことをいいますが、日銀の黒田総裁の任期は来年3月までです。4月からの新しい日銀総裁になれば、先にも示したような日銀会合のようなことはなくなり、金融引締論が大勢を締めて金融引締に走るかもしれません。そうして日銀の人事を決めるのは岸田総理です。そうして、この状況が長く続けば、日本はまた「失われた30年」を繰り返すことになります。その間賃金は上がりません。韓国や台湾より、名目でも賃金が低くなるかもしれません。

岸田総理

岸田政権によって、本当に末恐ろしい局面にわたしたちは直面しているのです。昨日もこのブログで解説したように、私達ができるのは、参院選でまともな人を選ぶか、自民党の議員で多数派に属している人で、マクロ経済などに明るい議員などに陳情を続けるしかありません。

間違っても、「悪い物価」「悪い円安」などを煽る人たちに、煽られて、増税すべきとか、金融引締すべきなどと思い込むようなことはすべきではありません。

そんなことをすれば、自分の子供や孫の、就職氷河期で悩まされることに加担することになりかねません。それどころが、自らが数年後に家族離散して、年越し派遣村の炊き出しの行列に並ぶことになるかもしれません。そうなってからでは遅いのです。

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2022年5月20日金曜日

【速報】4月の消費者物価指数2.1%上昇 増税時除くと約13年半ぶりの2%超え―【私の論評】コアコアCPIもみないで、大騒ぎする人はただの愚か者!その声を聞けばあなた自身もその愚か者以下に(゚д゚)!

【速報】4月の消費者物価指数2.1%上昇 増税時除くと約13年半ぶりの2%超え


4月の消費者物価指数は去年より2.1%上昇しました。

消費増税の影響を除くと2%を超えるのは2008年9月以来およそ13年半ぶりです。

総務省が発表した4月の全国の消費者物価指数は変動の大きい生鮮食品を除いた指数が101.4となり、去年4月より2.1%上昇しました。

上昇は8か月連続で、2%を超えるのは消費増税による影響を除くと2008年9月以来およそ13年半ぶりです。

原油価格の高騰を背景に▼都市ガス代金が23.7%、▼電気代が21%上昇するなどエネルギー価格の上昇が目立ちました。

また、ウクライナ情勢や円安の影響で輸入品への依存度が大きい食料品なども大きく上昇しました。

【私の論評】コアコアCPIもみないで、大騒ぎする人はただの愚か者!その声を聞けばあなた自身もその愚か者以下に(゚д゚)!

物価上昇ということで、マスコミは大騒ぎで、とにかく2%以上物価が上がったということしかいいません。しかし実際はどうなのでしょうか。それは総務省から出されている統計数値を見れば、誰でも確認できます。それを以下に掲載します。


消費者物価指数は、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く消費者物価指数)はやはり1%にも届かない0.8に過ぎないです。総合だとこれも予想どおり2%真ん中くらいです。

企業物価指数との差がはげしく、消費物価指数だけで判断しても日本の景気、状態は読み解けないです。消費物価指数は結果であって、中身がどうであろうが物価が上がれば反映されるので、中身を見ずに議論する人が多いです。

いわゆる「悪い物価」論です。たとえ「悪い物価」論であっても、まともな論であれば、コアCPI(生鮮食品除く)、コアコアCPIなどを参照しつつ、まともなことを言えば良いのですが、総合の2.5%だけみて、「悪い物価だ」「大変だ」と騒ぐのはいかがなものかと思います。

コアコアCPIは、消費者物価指数(CPI)から酒類を除いた天候や市況など外的要因に左右されやすい食料と、エネルギーを除いた指数のことです。毎月総務省が発表している指標として、金融関係者から注目されています。

何故酒類は省くのかというと、酒類以外の食料品は気象条件によって大きく価格が変わることがあるからです。エネルギーというのは、電気・ガス・都市ガス・ガソリン等が挙げられます。この指標が下がると、物価が下がったということを意味しています。

「悪い物価」と大騒ぎするひとたちは、コアコアCPIが何を意味するのか理解していないのかもしれません。新聞にはそういう人たちが多いようです。日経新聞さんは「はい、金融引き締めをしろ」などと主張しそうなので怖いです。

コアコアCPIが0.8%に過ぎないのに、金融引締などしてしまえば、せっかくデフレから抜けかかっているにもかかわらず、日本はまたデフレに逆戻りです。

そうなると、まずは雇用がかなり悪化します。ただ、失業率は典型的な遅行指数なので、金融引き締めをしてもすぐには失業率は上がらず、半年してから失業率が上がることになります。

物価目標2%も達成できず、経済活動も衰え、経済活動が低迷して、とんでもないことになります。それこそ、以前このブログでも、指摘したとおり、失われた30年を繰り返すことになり、その結果半年以降には、それが顕著になり、それ以降その状況が続くことになります。

こうした状況では、最も良い経済対策は、総合物価を押し上げているエネルギー価格や生鮮食品や、原材料などの物価上昇を抑えつつ、金融緩和を継続することです。

これ以外の政策は全部悲惨な結果を生む出すだけです。エネルギー価格を下げる方式には、補助金やトリガー条項の撤廃もありますし、稼働を停止している原発の多くを再稼働させることなどで十分に対応できます。

生鮮食品や、原材料価格の高騰に対応するには、消費税の減税などで、十分に対応できます。

その財源に関しても、このブログで以前も述べたように、日銀政府の連合軍で十分に賄うことができます。政府が国債を発行して、日銀がそれを買い取るという方式で十分にできます。

それをしたとしても、「政府の借金」が増えて、次世代への付けになるということもありません。このブログでも指摘したように、現在日本には、需給ギャップが30兆円以上もあるといわれています。これに対策を打たずに、放置しておけば、日本は確実に深刻なデフレに舞い戻ることになります。

そうなれば、過去の繰り返しです。皆さん自身も、勤めている会社の業績が落ち、解雇されるかもしれません。解雇されてもすぐに次の仕事が見つかれば良いかもしれませんが、デフレだとそういうわけにもいかず、奥さんの仕事もみつからず、お子さんたちは進学の夢をあきらめ、派遣の仕事を転々として、自活するしかなくなるかもしれません。

そうして、家族一人ひとりが、自分の身を守ることで精一杯となり、一家離散ということになり、ある日ふと気がついてみると年越し派遣村で炊き出しの順番の列に並んでいるということにもなりかねません。

 炊き出しの昼食に並ぶ「年越し派遣村」の人たち。奥に見えるのが宿泊用テント
 =2009年1月4日、 東京・千代田区の日比谷公園

今後政府が緊縮財政を継続し、日銀が金融引き締めに転ずれは、多くの人がこれに近い運命に甘んじなければならなくなります。そうして、米国や英国など他国では、現在利上げなどをして、金融引締をしていますが、これはその前段階で、インフレ傾向になったからです。

米国やロシアでは昨年時点で、6%を超えるインフレになっていました。米国はだからこそ、今年に入って利上げをして、金融引締に転じたてのです。

コアコアCPIで0.8程度の日本が、金融引締に転ずれば、確実にデフレになります。そうして、米国などの金融引締に走った国々が金融引締から金融緩和に転じるときには、日本の経済はかなり毀損され、それこそ、経済制裁を受けたロシアよりも景気の回復が遅れることになるかもしれません。

本日は、財務省のエースキャリア官僚が、酒に酔って電車内で乗客に暴行した現行犯で逮捕されたというニュースが飛び込んできました。

財務省総括審議官の小野平八郎容疑者(56)は20日午前0時半ごろ、走行中の東急田園都市線の車内で、乗客に対し、殴るけるの暴行をした現行犯で、通報を受けて駆けつけた警察官に桜新町駅で逮捕されました。


財務省は国民経済など無視して、省益優先で、緊縮財政で国民に本来しなくても良い負担を強要するような組織なので、このタイプの人物がいても不思議ではないです。

財務省のサイトをみても現時点では、人事異動の通知だけは掲載されていますが、職員が国民に暴行を働いたことに対するお詫びの掲示はありません。サイトで小野平八郎と検索しても、お詫びに関する記載はありません。普通はトップページでお詫びをするのでないでしょうか。何と傲慢なのでしょうか。そもそも、財務省は、はなから国民など気にもとめていないのでしょう。

少なくとも森友学園問題での赤木氏の自殺で判明した事実上のパワハラ体質もありますし、財務省幹部の精神的な腐敗の闇は深いようです。ただ、この闇は断じて解消さけなければなりません。

以上のようなことを防ぐためには、まずはマクロ経済を理解した、まともな経済対策を提言できるような政治家を選ぶべきと思います。

現在の政治家の多くは、マクロ経済を理解せず、それこそ財務官僚や日銀官僚のいいなりになるどこか、彼らを後押しするようなことを平気でします。

やはり、まともな政治家を増やす必要があります。しかし、かといってかつての民主党政権のような政権が誕生してしまえば、とんでもないことになります。40歳台以上の方々なら、民主党政権下のデフレの酷さを今でも覚えていることでしょう。就職氷河期の怖さも覚えているでしょう。

そうして、何よりも、20年〜30年たつと現在の仕事で、現在の職位のままでも賃金は倍になるという当たり前が当たり前でなくなってから久しいこの日本の状況(他の先進国ではこの常識は未だに当てはまります)は何がなんでも打破しなければならないです。老人でないと、この当たり前の状況を知らないという今の日本は異常です、本当に特に若い人たちにとっては、希望の持てない社会にいつの間にかなってしまいました。

夏の参院選では、政権交代はないですから。この状況を打破するために、自民党にお灸を据えても過去の悪夢の民主党政権のような事にはならないと考えている人もいるようですが、それは考え直したほうが良いかもしれません。

参議院全国比例は、個人名で投票できます。 人で選ぶのが正しいです。まともな経済対策を望むならマクロ経済に明るい人を選ぶべきでしょう。一方、いくら正しい主張をしているからといって泡沫候補に投票しても死に票になるだけです。逆に保守系のまともな自民議員を大勝させた方が政治は動く可能性は高まります。

小さな党でまともなことを主張している党に入れるという考えもあるでしょうが、少なくとも衆参それぞれ5人以上の議員を出さなければ小さな党は結局何もできず、何かをしようとしたとしても完結させることができません。結局提言レベルでとどまってしまうのです。政治の世界では何かの動きを作り出せるような議員でなければ、たとえ良い人であっても、無意味です。

まともな有力な自民党の議員を選び、その自民の議員に陳情した方がよほど政治が動く可能性が高まります。

現在のように、様々な懸念事項が明らかになっておりそれに対する対処法も議論の余地がないくらい明白なときは、多数派に属していながらも、マクロ経済に明るく、安保などでもまともな考え方をしている手堅い候補者を選ぶべきでしょう。

経済が安定し、伸びていて、安保上の懸念もないような状況なら、将来のことを考えて、党派は無視して、新たな考えを持つ人に期待しても良いとは思いますが、今はその時期ではないです。安保でも、経済でも何をすべきかをわきまえている人で党でも派閥でも多数派に属している人を選ぶべきと思います。

以上のようなことを考慮したうえで、夏の参院選では、誰を選ぶべきかを慎重に考えて投票すべきと思います。

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2022年5月19日木曜日

あの国営放送が“プーチン戦争”批判を展開!ロシアでいま起こっていること―【私の論評】たとえプーチンが失脚したとしても、それは院政に向けたカモフラージュの可能性が高い(゚д゚)!

あの国営放送が“プーチン戦争”批判を展開!ロシアでいま起こっていること

 討論番組でコメントするミハイル・ホダレノク元大佐(「ロシア1」から)

いよいよロシア国内で表立った造反の動きが出てきた──。ロシア軍が苦戦し、ウクライナ侵攻の行く末が見通せないこともあって、有力者や政権内部からの批判を、国営放送が公然と放送し始めている。もう誰もプーチン大統領についていけないということなのか。今後、国民からの支持も失いかねない。

◇ ◇ ◇

「全世界がロシアと敵対している」「状況はこれから悪化する」

16日、国営放送「ロシア1」の番組内で淡々とこう話したのは、ロシア軍退役大佐で軍事アナリストのミハイル・ホダレノク氏だ。

■プロパガンダを真っ向批判

さらに、「『情報の鎮静剤』は飲まないようにしよう」「ウクライナ軍の士気や心理の崩壊を伝える情報が流されることがあるからだ」「そのどれひとつとして現実に即していない」と、ロシア政府によるプロパガンダまで批判したのだ。

「特別軍事作戦」を巡る討論番組で飛び出した異例の発言に、他の出演者はただただ硬い表情を浮かべ、沈黙するだけだった。

現状を苦々しく感じているのは、ホダレノク退役大佐だけではない。この放送の前日、同じ国営放送でアナトリー・アントノフ駐米大使も、作戦をネガティブに捉える有力者の声を紹介していた。アントノフ大使は、政府内の有力者の一部が侵攻をやめようとしていることを示唆。ある人物は、軍を撤退させ「悔い改めたい」と考えていると話した。

ロシアが国際社会から孤立

あのロシアで戦争批判が国営放送で公然と流されるのは異例のことだ。3月中旬には、やはり国営放送のニュース番組で女性スタッフが「戦争反対」と書かれたボードを掲示。あの時、女性は拘束されたが、なぜか今回はスルッと放送されている。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。

「女性スタッフが拘束された3月中旬と現在では、全く状況が違っています。戦況の悪化はもちろんですが、ロシア自体が国際社会から完全に孤立してしまっている。“仲間”のはずの旧ソ連国までがロシアから距離を置いています。現状を嘆くホダレノク退役大佐は、『プロパガンダでなく現実を見ろ』『もう戦争は続けられない』というメッセージを発信したかったのでしょう。ホダレノク退役大佐は軍人で、アントノフ大使は外務省所属。少なくとも軍と外務省がプーチン離れを起こし始めているということ。そこに、メディアまで追随し始めた格好です。国営放送は多くの国民が見ています。今後、現場の兵士の士気に加え、国民感情にも多大な影響が出てくるでしょう」

プロパガンダが通用しなくなれば、ロシア国民は一気に目を覚ます可能性がある。プーチン大統領はどんどん追い詰められている。

【私の論評】たとえプーチンが失脚したとしても、それは院政に向けたカモフラージュの可能性が高い(゚д゚)!

上の記事、ソースは「週刊現代」であり、あまり信憑性はないのではないかとは思っていましたが、ニューズウィークも似たような報道をしており、少なくともロシア軍が苦戦し、ウクライナ侵攻の行く末が見通せないこともあって、有力者や政権内部からの批判を、国営放送が公然と放送し始めたことは間違いないようです。

ただ、これをもってすぐにプーチン氏が弱体化して、クーデターやプーチン氏の失脚が起こると考えるのはまだ時期尚早だと思います。

9日の対独戦勝記念日を境に、有力な後継候補も浮上しています。

戦勝記念日の映像で、プーチン氏がドミトリー・コバリョフ氏という36歳の男性と親しく話す姿が見られ、ロシア国内では後継者のお披露目ではないかとの憶測が飛び交っています。同氏はオリガルヒの息子で、大統領府の局長級とされ、プーチン氏とはホッケー仲間とされています。

戦勝記念日の映像で、プーチン氏(右)がドミトリー・コバリョフ氏(左)という36歳の男性と親しく話す姿

交代の時期までささやかれていまい。6月12日の「ロシアの日」という祭日です。1990年にはロシア共和国の国家主権の宣言が採択され、91年には初の大統領選が行われた日てす。

プーチン氏は退陣し、院政を敷きたいと考えているようです。大統領令でコバリョフ氏を大統領代行に据えて『終戦宣言』を行わせ、数カ月後に大統領選を実施する可能性があります。ただ、スムーズな禅譲が実現できるかどうかは不確実です。

コバリョフ氏と仲が良いFSBが、プーチン氏を説得したとの情報もあります。しかしGRUなど他の諜報機関がコバリョフ氏に不満を持てば、大統領選で野党勢力を支援する可能性もあります。

本当の意味でのプーチン後は誰も知らないというのが現実だと思います。それは以前もこのブログで指摘しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
プーチン氏「がん手術」で権力一時移譲か 米英メディア指摘 「宮廷クーデター」に発展の恐れも 「今回の情報は信憑性が高い」と識者―【私の論評】プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、実はそれを知る者は誰もいない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より結論部分を引用します。 

プーチン氏はかつて、エリツィン氏に代わる若く現代的な指導者のように見えました。西欧では、民主的なロシアへの期待も高まりました。しかし実際には、プーチンは、その後の20年間でロシアを中世に引き戻しました。国家と教会を1つの迫害機構の中に統合し、国民を「伝統的価値」に押し込めただけでなく、国家権力という何世紀も前の概念を復活させました。

プーチンは昔の専制君主のように、自身は不滅だと信じているようです。ロシアに後継者育成計画や緊急時対応計画、もしくは現実には何の計画もないのはこのためです。メディアが「プーチン後」について口を閉ざす理由もここにあります。

ロシアがこれと似たような状況にあったのは、100年も昔のことではありません。スターリンが死去した後には、ロシアのニュースはしばらく途絶えました。米国の識者たちは当時、スターリンには自ら選んだ後継者がいるのか考えを巡らせていました。

しかし、スターリンの没後数年のうちに、後継者育成の計画や手続きがなかったことは明白になりました。ロシアには混乱が生じ、権力闘争が繰り返し繰り返し行われました。この限られた観点で言えば、歴史は悪くない教科書でしょう。プーチン後のロシアがどうなるか、またはどうなるべきか、それを知る者は誰もいないと考えて差し支えないでしょう。

パトルシェフ氏が一時権力を移譲されるからといって、彼がポストプーチンを担うと考えるのは、早計です。やはり、激しい権力闘争が行われるでしょう。映画『スターリンの葬送狂騒曲』のような状況になることでしょう。
これは、プーチンが本当に失脚したり、死亡した場合にどうなるかということです。現在のロシアでも後継者育成の計画や手続きなどはありません。米国では、大統領が業務が遂行できなくなったり、死亡した場合は、副大統領が大統領の代行をすることが決まっています。副大統領や、さらにその下の閣僚などが死亡した場合も誰が代行するのか決まっています。

しかし、ロシアにはそのようなシステムは存在せず、プーチンが失脚したり、死亡した場合は壮絶な権力闘争が起こり、その闘争に勝利した者が、大統領になることでしょう。一応選挙はするでしょうが、それは形ばかりのものになることでしょう。

一方、プーチンが力を失わず、院政をとるつもりなら、たいした権力闘争も起らず、表面上はスムーズに権力の移譲が行われることになるでしょう。そうしてプーチンとしては、表向きで合法的にも大統領としてなるべく長くとどまれるように画策するとともに、それに失敗した場合にも備えて院政の準備もしつつあったと考えられます。

プーチンの院政への布石は以前から着々と実施されています。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。
プーチン院政への布石か 経済低迷のロシア、政治経験ゼロのミシュースチンが首相に―【私の論評】プーチン院政は、将来の中国との本格的な対峙に備えるため(゚д゚)!

ロシア下院は16日、内閣総辞職したメドベージェフ首相の後任としてプーチン大統領が
指名したミシュースチン連邦税務局長官(左)を賛成多数で承認した。2017年4月撮影
 

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。

プーチンは何のために、院政をするのでしょうか。それは、外交は全くの素人であり実績のないミシュースチン氏を首相に据えたとということで、予測することができると思います。

1966年生まれのミシュスチン氏はシステム工学を学んだ後、経済学の分野で博士号を取得した。税制改革には手堅い実績のある人物です。

プーチン氏は国内政治に関しては、ミスチュスチン氏にまかせて、様々な改革を実現させようとしているのです。さらに、ミスチュチン氏は仮に改革に失敗したとしても、面倒な後ろ盾等もなく、容易に取り替えが聞く人物でもあるのでしょう。

そうして、プーチンは院政を敷いて、自らは国際政治を主に担当しようとしているとみて間違いないでしょう。その国際政治の最優先順位は無論隣国の中国でしょう。

はやい話が、将来本格化する中国との対峙に備えて、それに取り組みやすい最善の体制を築いたのです。
そうしてプーチンがなぜ中国との対峙を本格化させようとするかといえば、現状のよな中国の属国であるかのようなロシアを潔しとしないからでしょう。かつて、中ソは国境紛争などもあって、対峙していましたが、当時はソ連のほうが軍事的に圧倒的に優勢であり、中ソの対峙においてもソ連が圧倒的に有利でした。しかし、ソ連が崩壊してからはそのようなことはありません。

そもそも、現状のロシアは経済(GDP)も人口でも中国の1/10の規模であり、特に中国と国境を接している地域では、中国側とロシア側の人口の不均衡は甚だしく、多くの中国人が越境して、ロシア領内で様々なビジネスを行い、ロシアの住民にとってもなくてはならない状況になっており、国境そのものが曖昧となっており、この状況は国境溶解とも呼ばれていました。

この状況に歯止めをかけ、かつてのソ連時代のような栄光を取り戻すことが、ロシア人ではなくソ連人であるプーチンの野望です。

そうして、その野望の行き着く先は、中国との本格的な対峙ですが、その前に片付けることがあったのでしょう。それがNATOとの対峙を終わらせることです。ただし、NATOと直接軍事衝突してしまっては、現在のロシアでは負けることがわかりきっているので、ウクライナを利用しようとしたのでしょう。

ウクライナを完璧にロシアのものとしてしまえば、全体をロシア領としないまでも、ウクライナに親露政権、できれば傀儡政権を樹立して、ウクライナおよび、NATOに加入していない旧ソ連圏の国々をこれ以上NATOに加入させないこと、あわよくば、NATOに現在加入している旧ソ連圏内の国々をロシア側にとりもどそうとしたのでしょう。

そうすることによって、ウクライナをロシアの盾として、NATOとの対峙を気にせずに、中国と本格的に対峙する予定だったのだと思います。ウクライナに親露政権を樹立できれば、プーチンはウクライナに戦術核を配備したかもしれません。

ただ、プーチンは計算違いをしました。それは、ロシア軍がウクライナを本格的に攻撃するそぶりをみせれば、ウクライナはすぐに怖気づき、大統領や閣僚は国外逃亡して、その機に乗じて首都キエフに侵攻して、首都をおさえた上で、選挙を実施し、親露政権かあわよくば傀儡政権を樹立しようとしたのでしょうが、ゼレンスキー大統領も閣僚も国外逃亡をしないどころか、ロシアと本格的に戦う構えをみせました。

しかも、ウクライナ軍の抵抗は、予想をはるかに上回るものでした。この計算違いは、プーチンも内心認めざるを得ない状況に陥っているとみられます。

そうして、プーチンは院政の準備を本格化させることでしょう。すんなり、プーチンが失脚したとしても、それはプーチンの院政をカモフラージュするためかもしれません。国営テレビのプーチン戦争批判もその一環にすぎないものかもしれません。

米国ならびにその同盟国は、たとえプーチンが失脚して、ロシアがウクライナから軍隊を引き上げたとしても、なお情勢を見極めてから、制裁を解除すべきと思います。

ロシアが新体制になって、プーチンを戦争犯罪人として国内で裁いて重罪を課したり、あるいは戦争犯罪人として、国際的な裁判に差し出せば、プーチンの院政は失敗したとみなせるでしょう。この場合や、プーチンが死亡した場合は、激烈な権力闘争がはじまるでしょう。

ただ、体制が変わったにしても、プーチンのようにソ連の再興を夢見るような人物が権力者になれば、何も変わりはありません。第2のプーチンになるだけです。この場合も、西側は制裁を継続すべきです。そうして、この機会に乗じて、中国にもロシアなみの制裁を課すべきでしょう。ロシアも中国も本質は同じです。

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ウクライナへの「武器貸与法」に署名 第2次大戦以来―米大統領―【私の論評】武器貸与法の復活で米国による支援の本気度がこれまで以上に高まる(゚д゚)!

2022年5月18日水曜日

女性役員の選任を義務付けた州法は「違憲」 米カリフォルニア州裁判所―【私の論評】機械的に女性取締役や政治家を増やしても、社会は良くならない(゚д゚)!

 女性役員の選任を義務付けた州法は「違憲」 米カリフォルニア州裁判所


米カリフォルニア州ロサンゼルスの上級裁判所は17日、州内に本社を置く上場企業に女性役員の選任を義務付けた州法について、違憲と判断した。

カリフォルニア州では2018年、同州に本社のある全ての企業に対し、2019年末までに役員の少なくとも1人は、女性を自認する人物を選ぶよう定めた州法が成立した。違反した企業には最高30万ドルの罰金が科された。

2022年1月までには、義務化された女性役員の人数は、役員が5人以下の企業は2人に、役員6人以上の企業は3人に、それぞれ増えることになっていた。

上級裁判所のモーリーン・ダフィ=ルイス判事は、同州法について、州法と連邦法で定められた平等に扱われる権利に違反していると述べた。

シャーリー・ウェバー州務長官は、上訴すると表明した。

州議会でこの州法の成立に尽力したトニ・アトキンス上院議員(民主党)は、今回の判断は残念だとし、「我々が適法だと思うことと現実が一致しないことがある」ことを思い知らされたと述べた。

アトキンス氏は声明で、「企業の役員により多くの女性がいるということは、より良い意思決定と、競合他社を凌駕(りょうが)するビジネスを意味する」、「今回の残念な判断にかかわらず、我々はこの州法が変わらず重要であると考える」と述べた。

反対派の反応

この州法に異議を唱えていたのは、保守派の法律関係団体「Judicial Watch」。

性別に基づく割り当てを強制し、カリフォルニア州法と連邦法で定められた平等保護の権利を侵害する州法を、納税者の資金で執行することは違法だと主張していた。

「Judicial Watch」は今回の裁判所の判断を歓迎している。トム・フィットン代表は、問題の州法について、「急進左派による、差別禁止法に対する前代未聞の攻撃」だと批判した。

これまでにこの州法に基づいて訴追された企業は1社もなく、州側も提訴するつもりはないと証言している。それでも、この州法は女性役員の向上につながったと評価されている。

しかし、同州法で申告義務が発生した企業の半数が実際には申告を行っていなかったと指摘する声が上がっている。

また、この州法が施行される数週間前、アレックス・パディヤ州務長官(当時)が、同州法を執行するのは実質的に不可能だと、ジェリー・ブラウン州知事(同)に書簡で警告していたことが裁判で浮上。同州法が不安定な土台の上に成り立っていたとの指摘も出ている。

(英語記事 Californian court strikes down women on boards law

【私の論評】性差の前に、日本は社会を変えるために実施すべきことがある(゚д゚)!

    カリフォルニア州のアレックス・パディヤ前州務長官は2018年、女性役員を義務付けた州法について、実質的に執行不可能だと警告していた

    米カリフォルニア州といえば、オレンジ郡ラグーナウッズの教会で15日に起きた銃撃事件は日本国内で大きく報道されていますが、 女性役員の選任を義務付けた州法は「違憲」との報道はほとんどなされていません。知らない人も多いのではと思い、本日はこの内容を取り上げました。

    上の記事にもあるように、2018年8月にカリフォルニア州議会は、米国市場で上場する州内の企業に女性取締役(female directors)の選任を義務付ける法律を可決しました。州知事の署名を得た後、施行されました。

    米国企業はデラウェア州会社法を設立準拠法としていることが多いのですが、本社所在地がカリフォルニア州であれば適用され、当面2019年末までに1名以上の女性取締役を置くこととされました。

    その後2021年末までに、取締役総数が5名の企業では、女性取締役2名以上、取締役総数が6名以上の企業では、女性取締役3名以上を置かなければならなりました。なお、ここで女性とは、生物学的な性別ではなく、当人が自分自身のジェンダーをどう認識しているかで決まるとされました。

    この規定の順守状況を企業から州政府に届け出ることと、州政府が企業の対応状況を集計し、報告書を作成・公表することも定められました。女性取締役数が未達の場合や届出をしていない場合など、最初の違反には10万ドル、2度目以降は30万ドルの罰金が科されることになりました。

    女性取締役を置くことで、企業の経営に多様な価値観が反映され、事業を成功に導くとともに、州経済が活性化されると期待されるとされました。米国では、カリフォルニア州が女性取締役の選任を義務化する最初の州となりましたが、欧州では既に多くの国々で上場企業に女性取締役を一定比率選任すべきとする法規定や企業行動規範が策定されており、その動向は日本にも及んでいるとされました。


    わが国のコーポレートガバナンス・コードでは、当初から取締役会の多様性を求めていましたが、2018年6月の改訂で、「取締役会は、…(中略)…ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。」とジェンダーという用語が付加されました。

    企業社会における男女の平等や、女性の社会進出推進についての法制度的対応は、当然のこととされ、一層の充実が期待されましたが、こうした動向に疑問が呈されました。カリフォルニア州の新法に関する論評記事の中には、法制化に厳しい意見も少なくありませんでした。

    まず、法的な規制の必要性や規制手段の妥当性への疑問があります。カリフォルニア州でも女性取締役が不在の上場企業がおよそ4分の1ありましたが、女性取締役数は増加を続けており、現状で法的対応をとる必要性は薄いという指摘もありました。また、不平等の是正は、教育による方法もあれば、反差別法で行うということも考えられます。企業法の分野で対応をとる必要はないという指摘です。

    取締役会の多様性は、性別に限った問題ではなく、スキル(特に最近はIT系の知見)や専門分野、人種や文化の多様性も企業の活力になり得るとの意見もあります。ことさら性別を取り上げることへの疑問です。

    さらに、男女が共に働く職場は上場企業だけではないことから、カリフォルニア州の新法は上場企業の問題としているところも疑問視されていました。未上場企業やNGO、労働組合に多様性が欠如しているという問題も指摘されていました。上場企業は株式会社であり、その取締役選任は株主の自治的な決定に委ねられるべきですが、女性定員制は、その自治権を侵害する可能性があるとも指摘されていました。

    企業における女性の処遇を適正化に対しては、法的規制の必要性や相当性については、様々な見解があり得ます。わが国でもいずれ欧州やカリフォルニア州のように女性取締役選任の義務付けが行われるべきとの意見も多かったのですが、今回の米カリフォルニア州の女性役員の選任を義務付けた州法は「違憲」という判決は、こうした風潮に一石を投じるものになったのは間違いありません。

    私は、とにかく女性の役員を増やせば良い、女性の政治家を増やせば良いし、それが新たしい考え方であり正義だ、それ以外は古い考えであり、間違いだ、という風潮には以前から疑問を感じてきました。日本には、長い歴史で育まれてきた独特の文化や思想があります。それを、なんでも『ガラパゴス』と呼び、『国際基準』に乗り遅れているとさげすむ風潮に乗っかる必要などありません。


    そもそも女性か男性かではなく、取締役は「能力」で選任すべきと思います。不平等な評価システムの結果として取締役に女性がいないのなら問題ですが、そうでないなら女性を取締役にするのが目的になってしまうのは、逆差別です。

    この話題はいつも不思議でしかたありません。女性が先で能力には触れていないです。能力がある女性はどんどん上に立つべきですが、女性管理職比率目標ありきで、とにかく上に立たせるのは、本人にとっても周囲にとっても不幸な話です。男女関係なく、平等に評価される社会であってほしいものです。

    そうして、私は思うのですが、日本ではやるべきことが他にあります。たとえば、財務官僚や日銀官僚が政治集団のように振る舞い、デフレなのに緊縮財政をしたり、金融引締をしたりと馬鹿真似を繰り返したため、30年間も日本人の賃金は上がりませんでした。

    これを変えて、日本経済が良くなれば、賃金があがり、人手不足となり、女性の就業機会も増えます。女性の就業機会が増えれば、企業における性差を巡る不合理も徐々に解消されていくでしょう。女性の就業機会が増えないことには、企業内における性差の問題も根本的には解消されません。

    そもそも安全保障がまともでなければ、男性も女性も不幸になります。それに日本特有な鉄のトライアングルも解消しなければなりません。強力な鉄のトライアングルが存在する限り、日本社会は良くなりません。これを根絶することはできないでしょうが、欧米なみに弱めていくことはできるでしょうし、そうすべきです。

    そうして、以上は根底に日本社会を良くするために実施するということがなければ、意味はありません。

    これらを変えずに、女性役員や女性政治家を機械的に増やしてみたとしても、社会は良くなりません。そもそも、性差の問題も社会を良くするための一つの課題に過ぎません。根本によりよい社会をつくっていくという考えがなければ、社会は良くなりません。

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