2023年4月27日木曜日

韓国への戦略原潜派遣、北朝鮮の攻撃から守る米国の決意示す―【私の論評】日本も日米「核共有」を検討し、中露北のミサイルを牽制できる「極超音速ミサイル」の配備を急げ(゚д゚)!

韓国への戦略原潜派遣、北朝鮮の攻撃から守る米国の決意示す

4月27日 バイデン米大統領と尹錫悦韓国大統領が合意した「ワシントン宣言」に基づき、米軍は核兵器を搭載できる弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を韓国に派遣する。写真はジョージア州キングスベイの潜水艦基地に戻ったオハイオ級原子力潜水艦アラスカ。

 バイデン米大統領と尹錫悦韓国大統領が合意した「ワシントン宣言」に基づき、米軍は核兵器を搭載できる弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を韓国に派遣する。SSBNの寄港は1980年代以来で、北朝鮮の攻撃から韓国を守るという米国の決意を示す。

 SSBNは秘密裏に行動するため、外国での寄港を公にすることはほとんどない。

 韓国の元潜水艦長Moon Keun-sik氏は「潜水艦の位置情報は通常明らかにされないため、北朝鮮にとって大きな圧力となり得る」との見方を示した。

 SSBNの寄港には韓国を安心させ、自国産の核兵器開発を思いとどまらせるという狙いも透ける。

 別の元潜水艦長Choi Il氏は「米国のSSBNが韓国に寄港するのは非常に珍しく象徴的なことだ」と指摘。「米国は抑止力の強化を目に見える形で示し、韓国の懸念を抑えたい考えだ」と語った。

 米海軍は現在14隻のSSBNを保有している。「オハイオ」級は1隻当たり20基の潜水艦発射弾道ミサイル「トライデントII D5」を搭載。同ミサイルは1基当たり最大8発の核弾頭の搭載が可能で1万2千キロ離れた目標を攻撃できる。

 米国科学者連盟(FAS)の報告書によると、1970年代にはSSBNが定期的に韓国に派遣されていた。数年間ほぼ毎月、時には月に2─3回安定したペースで寄港していたが、81年に停止され、それ以降は再開されていないという。

 SSBNの寄港に関する詳細は明らかにされていない。米政府高官は記者団に、空母、潜水艦、長距離爆撃機などの「戦略資産」をより頻繁に朝鮮半島に送ることになり、SSBN派遣はその一環と説明した。

 その上で「これらの戦略資産や核兵器を韓国に常駐させたり、基地化したりする計画はない」と言明した。

【私の論評】日本も日米「核共有」を検討し、中露北のミサイルを牽制できる「極超音速ミサイル」の配備を急げ(゚д゚)!

バイデン大統領は26日、ホワイトハウスで韓国のユン・ソンニョル大統領と首脳会談に臨み、核・ミサイル開発に一段と拍車をかける北朝鮮に対し、アメリカの核戦力を含む抑止力で同盟国を守る「拡大抑止」について、意見を交わしました。

会談後の共同記者会見でバイデン大統領は「アメリカや同盟国などへの北朝鮮の核攻撃を許さない。そうした行動を取れば、いかなる体制でも終わりを迎えることになる」とけん制しました。

会談後、両首脳が発表した共同声明には、北朝鮮の脅威に対する拡大抑止に加え、日米韓3か国の関係強化などについても盛り込まれています。

このうち、日米韓3か国については「両首脳は共通の価値観にもとづいた協力関係の重要性を強調した」とした上で「バイデン大統領は日韓関係改善に向けたユン大統領の大胆な決断を歓迎した」としています。


今後、核弾頭を搭載したオハイオ級等のSSBNが韓国に定期的に訪問し、交替制で韓国に常時核が存在することになるでしょう。

一方、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は26日の記者会見で、日本や周辺地域に核兵器を搭載できる戦略原子力潜水艦の母港を置く可能性について問われ、「そのような計画はない」と否定しました。 

日本では、核に対する忌避感が未だ強いことに配慮したのでしょう。

かつて、安倍晋三元総理はNATOと同様の米国と日本の「核共有」主張しました。この「核共有」とは、日本と米国が核兵器を共有し、日本が核の抑止力を持つことを意味しています。この考え方によって、日本は以下のようなメリットを享受することができます。


安全保障が強化される:日本が核の抑止力を持つことによって、外部からの脅威を抑止することができます。これによって、日本の安全保障が強化され、国民の安全が確保されます。

財政負担が軽減される:日本が自前で核兵器を保有することは財政的に非常に高額なものとなりますが、核共有によって、費用を分担することができます。このため、日本は財政的な負担を軽減することができます。

米国との協力関係が強化される:核共有は、日本と米国の協力関係を強化することにつながります。米国は、日本が核兵器を持つことによって、自国の安全保障も強化されるため、核共有は日米同盟の強化につながります。

ユン・ソンニョル大統領は、当初は米韓で「核共有」を目論んでいたのでしょうが、米国はまずは過去にも実施していたSSBNの定期的寄港から始めることから合意したものとみられます。

SSBNの寄港については、軍事的には無意味という軍事評論家もいますか、やはり北朝鮮にとっっては脅威です。北が核ミサイルを発射すれば、米軍としては最悪、これに向けて核ミサイルを打ち込めば、確実にこれを破壊できます。しかも、北朝鮮の近くから打つということで、確実に早期に仕留められます。

仮に北朝鮮のミサイルがロフテッド軌道を取ったにしても、核ミサイルを含めて、かなり大きな部分が同時に破壊されることになります。

韓国は、今後も米国と「核共有」の話をすすめていくことになるでしょう。米国がなぜ今回、SSBNの派遣を決めたかというと、いきなり「核共有」の前に、まずはしばらく中止していたSSBNの派遣することにより、これから徐々にハードルをあげていくことを北朝鮮に示したものとみられます。

米国は核を搭載できる、B21爆撃機の昨年12月3日に公開もしたばかりです。この戦力化がある程度進めば韓半島への展開だけでなく場合によって暫定的または循環配備も可能になるでしょう。中国、ロシア、北朝鮮にとっては、ステルス性能がないB1、B52爆撃機よりはるかに脅威です。

昨年暮公開された米軍B21爆撃機

中露北には、新たな戦略爆撃機の開発計画はなく、米国がこれを随時展開すれば米国の抑止の拡大は、彼らにとってさらに大きな脅威になります。

米韓で検討されている金正恩が恐れるもう一つの軍事対応は「ダークイーグル(Dark Eagle)ミサイル」(LRHW)の実戦配備でしょう。

このミサイルの発射が初公開されたのは一昨年でした。2021年10月77日、ワシントン州タコマ市郊外にある米陸軍のルイス=マコード統合基地に、開発中の新型中距離ミサイル「LRHW」の試作型発射機が送られ初公開されました。

「ダークイーグル」は、陸海空共通の極超音速滑空体(C-HGB)を弾頭に使う極超音速滑空ミサイルで、マッハ17、射程2775km以上の最新式の新型中距離ミサイルです。

ダークイーグルの発射想像図

この「ダークイーグルミサイル」の韓国配備を金正恩は恐れているのでしょう。4月10日の党中央軍事委員会で、金正恩が韓国の地図を映し出し指さしている場面がありましたが、「ダークイーグル」対策を語ったかもしれないです。このミサイルが韓国の平沢(ピョンテク)市にある米軍基地(キャンプ・ハンフリーズ)に配備されれば、平壌へは1分、北京は3分で精密打撃できます。

北朝鮮から日本まで核ミサイルが飛んでくる時間は、約6 〜7分です。発射されてすぐにこれを発射すれば、撃墜できる可能性はかなり高いです。日本で言われているロフテッド軌道をとるようなミサイルであっても、発射後1分以内なら、その軌道を取る前に撃墜できます。

今後、二重三重に米国が選択できる手段はあります。北朝鮮にはこれに対抗手段を取るのは難しいです。

日本も、「核共有」や「ダークイーグルミサイル」の配備の検討、もしくは自国で開発する体制を整えるべきです。

岸田文雄首相は2月15日の衆院予算委員会で、米国の核兵器を日本国内に起き、共同運用する「核共有」政策について、今後の検討を改めて否定した。安全保障環境の厳しさなどを理由に検討を促した自民党石破茂元幹事長に対し、「政府として議論することは考えていない」と答えました。

日本も「極超音速ミサイル」の開発をすすめています。日本も、韓国なみに米軍の「SSBNの派遣」、「核共有」、「ダークイーグルミサイル」の配備も検討すべきです。検討するだけでも、抑止になります。そうして、これらは北朝鮮だけではなく、中国やロシアに対して抑止につながることはいうまでもありません。

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2023年4月26日水曜日

「性自認」が焦点 LGBT法案、国会で議論開始へ 保守派は「差別」訴訟乱発、悪用を懸念 山田宏氏「拙速に進めることは慎むべき」―【私の論評】米英では、反LGBTの声も大きくなった昨今、周回遅れで拙速に法律を制定するな(゚д゚)!

「性自認」が焦点 LGBT法案、国会で議論開始へ 保守派は「差別」訴訟乱発、悪用を懸念 山田宏氏「拙速に進めることは慎むべき」


 終盤国会の焦点に、LGBTなど性的少数者に対する理解増進法案が浮上してきた。公明党などは来月広島で開催されるG7(先進7カ国)首脳会議前の成立を求めている。自民党は週内に党内議論を再開する方針を決めたが、党内保守派は自分の性別を個人の判断に委ねる色彩が濃い「性自認」という文言などを問題視し、慎重な議論を求めている。

 「理解増進のための取り組みや課題について復習したい」

 自民党「性的マイノリティに関する特命委員会」の高階恵美子委員長は25日、党本部での会合で、こう語った。

 法案は2021年5月に与野党の実務者間で合意したが、「性自認を理由とする差別は許されない」などの文言が加わったことで、自民党内で賛否が割れた。

 保守派は当時、「差別」の定義があいまいなことで訴訟が乱発したり、トイレや更衣室、お風呂などの利用で混乱が生じると懸念を示し、法案の国会提出は見送られていた。

 一方、世耕弘成参院幹事長は同日の記者会見で、「スケジュールありきで議論を拙速に進めると、逆に亀裂を深める」と語った。

 当事者団体からも慎重論が挙がる。性同一性障害の人たちでつくる「性別不合当事者の会」など4団体は先月、拙速な法案審議を避けるよう求める共同要請書を岸田文雄首相に送付している。

この問題をどうみるか。

自民党の山田宏参院議員は「『性自認』という言葉の定義すらはっきりせずに、法律の文言に入れるのは時期尚早ではないか。多くの人は、身体と心の性が違っていることは理解するだろう。ただ、『自分が考えたから男、女』というのでは、心の中の問題で証明しようがない。これを悪用することも懸念され、スポーツやトイレ、浴場などで、他の利用者が不安に陥ることにもなる。LGBTの側からも『性自認』にさまざまな意見がある。拙速に進めることは慎んだ方がいいと考える」と語った。

【私の論評】米英では、反LGBTの声も大きくなった昨今、周回遅れで拙速に法律を制定するな(゚д゚)!

米国の州レベルでは、反LGBT法が可決された13州、LGBT法令自体ない州が14州と米国の半分以上が「差別禁止法」がありません。国レベルで共和党の反対にあってLGBT法案を成立させられないバイデン政権に急かされて浮き足立つ日本の政治家の愚かさが恥ずかしいです。


米国大使が公明山口代表、維新の吉村知事、立憲の泉代表とも面談。当然、政権の官房長官、西村大臣などと精力的に会合。はては、欧州駐日大使と連名でLGBTの法整備を要求。バイデン夫人の岸田夫人への説得。異常です。日本は、米国の内政干渉に屈するべきではありません。

近年、LGBT政策推進の先進国と言われてきた米国では、多様性や差別禁止をといったポリティカル・コレクトネスを信奉する過激な急進リベラル派の活動により、価値観を押し付ける全体主義の様相が強まりつつありました。

これに反対する国民は対峙することになり、事実、社会の分断が認識されるようになり、文化戦争とまで言われるようになり、ついにはリベラルメディアまでもが行き過ぎたLGBT運動の弊害を直視し、客観的に精査する動きが出ています。

米英では教育者による行き過ぎたジェンダー教育の影響で、たった15分の医療診断で性適合手術に踏み込み、後に取り返しのつかない状況となり、医師らが訴えられ、集団訴訟となっていること等が報道され、大きな社会問題になっています。 

行き過ぎた性教育による子供のアイデンティティ形成に混乱が生じることを懸念した米国の10州では、既に誤りに気が付き、幼稚園や小学校低学年での性的指向や性自認に関する教育を禁止する州法を制定しています。

それらどころか、むしろ最近ではLGBTQに対する反発も強まっており、2017年1月時点ですら19の州で50件を超える「反LGBTQ法」が制定されました。LGBT理解増進を目的にしていたはずの条文が、かえって当事者に対するタブー意識を強めてしまうだけでなく、対立や分断を生じさせてしまうことになったのです。

現在平穏の中で生活している「そっとしておいてほしい」と考える性的少数者の当事者と国民全体を不幸にすることになってしまったのです。

米国では「差別を禁止する法律や条例を作ることを禁ずる州法」もあり、全米の31州では「スポーツの性区分は出生時の性とする」と州法で定めています。

東京五輪に出場したトランスジェンダー・アスリート

英国では、「トランスジェンダーであると主張した性犯罪者が女子刑務所に収監され、女性の囚人をレイプ」「性別違和を訴える思春期女子が急増」「思春期抑制剤や性交差ホルモンの投与、外科手術など性別適合治療を受けた後で健康被害を訴えたり、元の性別に戻す事例が現れる」など、LGBT問題、特に「性自認」をめぐるトラブルや事件が注目を集めています。 

スコットランドでは性別変更の要件を簡素化する法律が昨年末に可決されましたが、女性スペースが危機にさらされるなどの批判もあって英国政府が実効化を阻止しました。 

日本にも同様の軽薄な状況がマスコミの後押しで広がっていることを直視する必要があります。 

これに対して英国政府は1月17日、同法案は国内の性専用スペースに身震いするような影響を及ぼすとして、国王による同意を得ることを阻止しました。青少年の性同一性サービスに関する中間レビューによれば、定期的かつ一貫したデータ収集が行われていないため、子供たちがジェンダー・サービスによってたどる経路や結果を正確に追跡できないため、特定のイデオロギーの理論的観点からデータを解釈する危険性が高いといいます。

性の多様性と「性的自己決定権」を尊重する「包括的性教育」によって、子供たちの性転換手術が急増し、大混乱に陥った英国が今、「性自認」の扱いに苦慮している現状、小学生に性の多様性と「性的自己決定権」を教えた米国で「差別を禁止する法律や条例を作ることを禁ずる州法』が制定され、性教育をめぐって親と学校の対立が深刻化している現実を直視する必要があります。

LGBT理解増進法の審議は先送りされたとされましたが、復活の可能性も出てきました。「こども家庭庁」が発足し、秋までに策定する「こども大綱」に向けて審議が本格化します。子供の最善の利益・ウェルビーイングを第一に考える「こどもまんなか社会」の実現に向けた「性の多様性尊重」の法律や条例はいかにあるべきかについて、欧米の教訓を踏まえて、慎重に議論を尽くす必要があります。

法律を制定するにしても、しないにしても、拙速に決めるべきではありません。米英などで多数発生した問題も踏まえて、じっくり検討してからにすべきです。

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2023年4月25日火曜日

予算凍結を求める強硬論も 学術会議「民営化」に自民党内で意見噴出 八幡氏「当事者能力ない。今後は民営化の方向に進むのでは」―【私の論評】学術会議は設立当初から共産主義者らの巣窟、審議会制度が定着した現在無用の長物(゚д゚)!

予算凍結を求める強硬論も 学術会議「民営化」に自民党内で意見噴出 八幡氏「当事者能力ない。今後は民営化の方向に進むのでは」


 自民党内で、日本学術会議の「民営化」を求める意見が噴出した。同党の学術会議に関するプロジェクトチーム(PT)と、内閣第2部会の合同会議が24日に開かれ、岸田文雄首相が日本学術会議法改正案の今国会への提出を見送ったことに対し、批判の声が相次いだ。

 「法案審議をやるべきだった」

 PT座長の塩谷立元文部科学相は会議冒頭、こう苦言を呈した。

 学術会議は、年間約10億円もの血税が投入されながら、特定の政治勢力の影響力が強く、日本の「軍事・防衛研究」に反対してきた。このため、安全保障や経済成長の妨げになっているとの批判もあり、菅義偉前政権では「廃止・民営化」論が出ていた。

 PTは学術会議について、「政府から独立した法人格(民間法人化)への組織変更」を提言していた。これに対し、政府は「国の機関」として維持したうえで、会員選考に第三者を関与させて透明性を高める法改正案をまとめた。

 「かなり妥協した」印象が強い政府案だったが、学術会議は「会員人事への介入で独立性が損なわれる」などと徹底抗戦した。結果、岸田首相は改正案の今国会への提出見送りを了承した。

 学術会議を担当する後藤茂之経済再生担当相は24日の会議で、「民間法人とする案を俎上(そじょう)に載せて学術会議と議論し、早期に結論を得ることにした」と説明したが、出席者からは「学術会議の予算を凍結すべきだ」といった強硬論も飛び出した。

 PT事務局長の大塚拓元財務副大臣は「政府から独立しなくて済む政府案は、自民党側としては妥協案だ。それが駄目だというなら、法人化案に戻って設計することになる」と記者団に語った。

 今後、学術会議はどうなりそうか。

 評論家の八幡和郎氏は「あの程度の改革案を受け入れる話もできない学術会議の幹部は『当事者能力がない』ことを示した。政府が改正案の今国会提出を見送ったのは、左派の影響の強い他団体などに、『(学術会議の改革は)仕方がない』と納得させる思惑もあったのでは。政府は今後、予算を減らしたり、締め上げたりして、『民営化の方向』に進んでいくのではないか」と話した。

【私の論評】学術会議は設立当初から共産主義者らの巣窟、審議会制度が定着した現在、無用の長物(゚д゚)!

他の国々にも、民間の科学技術に関する組織や機関が存在する場合があります。これらの組織は、政府から独立して運営され、一般には非営利的な民間組織として活動することが多いです。

例えば、アメリカ合衆国には国立科学財団(National Science Foundation; NSF)という独立機関があります。これは政府の支援を受けて運営されていますが、直接的には政府の一部ではありません。また、イギリスには王立協会(Royal Society)や科学技術施設の運営を行うUK Research and Innovation(UKRI)などもあります。

これらの民間組織は、科学技術に関する政策立案や助言、研究の支援や促進、科学者のコミュニティの発展などを目的としています。政府との連携を持ちながらも、独立性や柔軟性を持つことができ、科学技術に関する専門的な意見を提供することができるという利点があります。

ただし、これらの組織にも、資金調達や政府との関係の調整などの課題がある場合があります。国によって異なるため、具体的な組織の形態や運営方法は異なるかもしれません。

以下に、日本の世界各国の日本学術会議のような組織について掲載します。


日中以外は、すべて政府から独立しています。財源は、日中独が政府です。独だけが、州政府からも支出があります。

1949年1月に発足した日本学術会議は、前年12月に選挙で会員210名を選出されました。しかし、その選挙においては共産党関係者や民主主義科学者協会(民科)の候補者が多く当選し、学術会議の3分の1に迫る66名ほどの勢力を形成しました。

これはGHQ(連合国軍最高司令部)内の共産主義者の後ろ盾を持っていたとされています。このような状況の中で、学術会議は「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」とする声明を出しました。

一方で政府は、1955年に新しいエネルギー源を目指して原子力関連の研究に乗り出しました。しかし、学術会議の会長や国立大学協会会長らは反対し、原子力委員会設置法に「原子力利用に関する経費には、大学の研究経費は含まない」との付帯決議をつけさせ、日本の原子力研究を制限することになりました。

その後も政府は学術会議への対抗策として、1956年に原子力委員会を設置し、同時に科学技術庁も設置しました。さらに1959年には科学技術会議が設置され、学術会議の中心議題は全てこちらに移され、1967年には文部省が学術審議会を設置し、学術会議の役割が縮小されました。1980年代には各省庁が審議会を設置し始め、学術会議の役割は限定的なものとなってしまいました。

原子力委員会の初会合に臨む(左から)藤岡由夫、湯川秀樹、正力松太郎、石川一郎、有沢広巳の各委員(1956年1月4日、首相官邸)

学術会議の会員を長年務め、副会長も務めた唐木氏は、「1969年から1977年にかけて学術会議は自己点検をし、改善すべきところは改善しようとしたものの、政府との全面的対決を選ぶべきではなかった」と述べています。そして学術会議は政府に対して妥協し、その後の年代には各省庁の審議会に取って代わられる形で役割を縮小していきました。

振り返ってみれば、日本学術会議は最初から共産主義者らの巣窟だったといえます。

学術会議側は、菅首相が6人を任命しなかったのは学問の自由の侵害だと言っていました。とんでもない間違いです。学問の自由とは研究の自由、発表の自由、教育の自由を指します。

ところが学術会議は研究機関ではないため研究も教育もしません。発表するのは学術会議の中での検討事項だけで、学問の自由と学術会議は全く無関係です。

菅前総理の「任命拒否問題」によって国民的な非難が政権に向けられるだろうという野党の期待もあえなく外れ、政権よりもむしろ日本学術会議のほうが、現在非常に厳しい状況に陥っています。

日本経済新聞社とテレビ東京は先月24〜26日に世論調査をした。岸田文雄内閣の支持率は48%で2月の前回調査から5ポイント上がった。内閣を「支持しない」と答えた割合は44%で、7カ月ぶりに支持率が上回りました。

首相のウクライナ訪問や日韓首脳会談などが岸田政権の支持率を押し上げたようです。ウクライナ訪問を「評価する」との回答は71%で「評価しない」の20%と差がつきました。政党支持率のトップは自民党の43%でした。2位は立憲民主党と日本維新の会がともに8%、支持政党がない「無党派層」は24%だった。2月はそれぞれ39%、9%、8%、27%でした。

さらに、共産党は統一地方選・後半戦の市区町村議選で、909議席を獲得しました。総務省のまとめなどによると、一般市議選で55議席減らすなど、2019年の前回選と比べて計89議席減らしました。統一選・前半戦の道府県議選・政令市議選に続く議席減で退潮傾向が続いています。

統一地方選でひとり負けだった共産党

4月23日に投開票された衆参5補選。千葉5区や参院大分選挙区では当選確実が日をまたぐほどの接戦が繰り広げられましたが、ふたを開けてみるとどちらも自民党が制する結果に。 

対する立憲民主党は全敗となり、大きく明暗が分かれました。日本維新の会が和歌山1区で議席を獲得して躍進するなか、立憲の存在感低下は危機的状況になっています。早期の解散総選挙も想定され、体制の立て直しが急務となるが、内部からは「打つ手がない」という声が漏れるなど、その憂いは深いです。

民意は、共産党、立憲民主党からは離れているようです。あっ、社民党を忘れていましたが、これは最初からないのと同じようなもので、ここでは述べません。

もうここまでくれば学術会議は民営化するのが一番でしょう。民営化すれば、学術会議のメンバーは、自分たちがいかに無用の長物なのか思い知ることになるでしょう。

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2023年4月24日月曜日

『安倍晋三回顧録』を批判した「大物」大蔵次官の文春インタビュー記事に反論しよう―【私の論評】需要の低迷に対処せず、緊縮に走るのは、氷風呂で風邪を直そうするようなもの。全く馬鹿げている(゚д゚)!

『安倍晋三回顧録』を批判した「大物」大蔵次官の文春インタビュー記事に反論しよう

財務省のメディア工作の一環では

 10年に一度の大物大蔵次官といわれた齋藤次郎氏の、最初で最後というインタビュー記事が月刊文藝春秋5月号に掲載された。

 『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)を読むと、財務省がどれほど日本の政治・経済の足かせとなっているかがよくわかる。私が数えたところ、財務省に言及している部分は、なんと71ヵ所もあった。たとえば安倍さんが消費税の10%への引き上げを延期しようとした際、財務省は「安倍政権批判を展開し、私を引きずり下ろそうと画策した。彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」とまで書いている。

斎藤治郎

 齋藤氏は、「安倍晋三回顧録」を読んで、あまりに財務省が悪者に扱われていることに我慢ならなかったようだ。そこに書かれていることは単純で、債務を減らそうと一生懸命やっているのに、安倍さんから「省益」を追及し政権をも倒そうとしているといわれて財務官僚は困っているということだ。

「国の借金が大変だから」ロジックの罠

 齋藤氏のインタビュー記事の読みどころは、

「大幅な赤字財政が続いている日本では、財政健全化のために増税は避けられず、そのため財務省はことあるごとに政治に対して増税を求めてきました」

 と述べている部分だ。

 「国の借金(総債務残高や国債残高)が大変だから増税する」というのは財務省の決まり文句だ。齋藤氏はつづけて、

 「それは国家の将来を思えばこその行動です。税収を増やしても、歳出をカットしても、財務省は何一つ得をしない。むしろ増税を強く訴えれば国民に叩かれるわけですから、“省損”になることのほうが多い」

という。

 この財務省の「国の借金が大変だから増税する」というロジックだが、筆者は大蔵省入省当時から疑問だった。借金があるのなら、増税ではなく「資産」を売ればいい。このロジックを会社で例えるなら、経営不振に陥り倒産間際の会社が、資産を売らずに営業利益だけで借金を返そうと四苦八苦するようなものだ。

 そこで、筆者は、大蔵官僚時代の1990年代前半に政府のBS(バランスシート)を作った。それは政府の金融活動ともいえる財政投融資が危機的状況だったからだ。その際、政府のBSも作った。


 政府の財政状況を見るには、BSの借金残高だけでは不十分で、左側の資産も考慮し具体的には資産を控除したネット借金残高で見なければいけない。これはファイナンス論・会計論のイロハである。しかし、当時の大蔵省は資産を対外的に明らかにすることには恐ろしく消去的で、ある幹部から筆者はBSを口外するなと厳命を受けた。それが事実上解けたのは小泉政権になってからだ。

 筆者はこの齋藤氏のインタビュー記事を見た瞬間、「『文藝春秋』はまんまと財務省に利用されているな」と思った。財務省は選挙が近づくとメディア工作を行い、世論を「増税」に誘導しようと画策する。

 財務省と『文藝春秋』といえば、2021年11月号に当時現役の矢野康治財務次官が寄稿し、自民党総裁選や衆院選をめぐる政策論争を「バラマキ合戦」と批判して話題を呼んだ。今回の齋藤氏のインタビュー記事も、G7広島サミット後の解散を睨んで出されたものだろう。

 もっとも、筆者から見れば、齋藤氏ほど財務省の増税指向と天下り指向を体現している人はいない。その意味で、もっともわかりやすい人が出てきた。

天下り官僚に好都合な論理

 小泉政権では、筆者は郵政民営化準備室・総務大臣補佐官として郵政民営化法の企画立案に携わった。一方、齋藤氏は、当時民主党の小沢一郎氏と深い関係だったので、民営化阻止・国営化の立場だった。その後、自公政権から民主党政権への政権交代があり、郵政民営化法は改正され、株式を一定程度保有する事実上の国営化になった。そこで、齋藤氏は日本郵政社長に天下った。

 これは、財政の見方と大いに関係している。というのは、筆者のようにBSで借金とともに資産を考えると、借金は返済しなければいけないが、その財源として資産売却になる。しかし、齋藤氏のように借金だけに着目すると、増税で借金返済となる。

 はっきりいえば、資産の中には天下り先の米櫃である出資金や貸付金が多く含まれているので、増税は資産温存で天下りに支障がないので天下り官僚には好都合だ。逆にいえば、借金は返済せざるを得ないから資産売却となれば、天下りもできなくなる。民営化は資産売却の典型例なので、官僚が民営化を否定するのは天下りを維持したいことがしばしばだ。

 斎藤氏は、郵政民営化から事実上の国営化に乗じて政府が株主であることに乗じて天下りをしたわけだ。最近、東京メトロへの国交省からの天下りが問題になったが、それも上場を延期するなど政府が株を手放さないことからおこる。財務省も、JTの大株主であることを利用して天下りをいまだに続けている。

 安倍さんが、財務省が「省益」を追及しているというのは、例えば借金返済のために増税を主張するが一方で資産売却を渋り天下りに拘泥することをいっている。

 これで、齋藤氏ほど財務省の増税指向と天下り指向を体現している人はいないという意味がわかるだろう。ちなみに、齋藤氏は民主党政権が終わると、自分は退任し次の社長に再び財務省からの天下りをすえようと画策したが、安倍政権に見つかり失敗した。

 もちろん、増税すれば財務官僚の差配するカネが増えるのも財務省の「省益」だ。

【私の論評】需要の低迷に対処せず、緊縮に走るのは氷風呂で風邪を直そうとするに等しい。全く馬鹿げている(゚д゚)!

「ああ、日本における"緊縮財政マニア"の典型的なケースだ!風邪を氷風呂で治そうとするようなものだ」と昨年ノーベル経済学賞を受賞した、バーナンキ氏の苦笑が聞こえてきそうです。

バーナンキ氏

デフレ等で経済が停滞しているときや需要ギャップが生じているときに、政府支出を削り、消費税を上げるのは、火に油を注ぐようなものです。手足を切って体重を減らすようなものです。確かに体重は減るかもしれないてですが、持続可能で賢明な解決策とは言いがたいです。

バーナンキ氏は、デフレの時や需要ギャップが生じているときには、需要を刺激して経済活動を活性化させるために、政府支出を増やしたり減税したりする拡張的な財政政策を実施すべきだと主張しています。消費税増税のような緊縮財政は、個人消費を減退させ、デフレ圧力を悪化させ、経済をマンネリ化させるだけです。

しかし、財政再建の熱にうなされれば、常識など必要ないのでしょう。これでは、経済的な不調は治らないでしょう。岸田政権は、バーナンキ氏のノーベル賞受賞の経済学上の知恵を借りて、経済政策を軌道に乗せ、日本経済に笑いを取り戻すべきです。

しかし、高橋洋一氏が指摘するように、財務省にはその気は全くないようです。なぜなら、財務省は省益優先であり、その省益とは、財務官僚が天下りをして天下り先で、優雅な生活をしたいからです。

不況や、デフレからの脱却、需要ギャップがあるときには、政府が有効需要を喚起すべきというのは、世界の常識です。日本だけが、これが常識ではありません。

有効需要を喚起するためには、経済全体にお金を投じ、雇用創出や経済活動の増加を促し、人々の消費や投資を刺激することが重要です。要するに何に投資しても良いのです。ただ、速やかに投資すべきです。あれこれと悩んでいるくらいなら、それこそ、バーナンキ氏がかつて語ったように「日銀はトマトケチャップを買えばよい」のです。そうして、さっさと投資すれば良いのです。

バーナンキ氏によれば、有効需要とは、ハンバーガーにトマトケチャップをかけたい衝動に駆られるようなものだといいます。ハンバーガーにトマトケチャップが欠かせないように、商品とサービスに対する十分な需要がなければ健全な経済は成り立たちません。


これは当たり前のことなのです。不況やデフレというのは、人々が買いたいものと実際に買っているものにギャップがあるということです。ジューシーなハンバーガーが食べたいのに、ケチャップのボトルが空っぽなのと同じで、悲しくて物足りない状況なのです。

財務省は省益のために、曲がったことを言うのでしょうが、政治家やマスコミ、財界などにも、この簡単明瞭な話を理解できない人がいるのは不可解です!トマトケチャップを食べたことのない人に、その概念を説明しようとするようなものです。しかし、政治家や経済学者の中には、いまだに頭を悩ませて、複雑な理論や的外れな政策を考え出し、完全に的外れなことを言う人がいます。

日本では多くの人が、未だ需要の低迷という真の問題に対処する代わりに、支出削減等の締め付けや増税に焦点を当てるかもしれません。これは、ハンバーガーが食べたくなったら、ケチャップを禁止したり、トマトの値段を上げたりするようなもので、まったくもって馬鹿げています!

だから、多くの政治家が目を覚まし、不況やデフレから脱却するためには、有効需要を刺激することが重要であることを理解することを期待したいです。ハンバーガーにケチャップが必要なように、経済が発展するためには旺盛な需要が必要なのです。

今こそ、バーナンキ氏のケチャップの例えの知恵を受け入れ、たっぷり投資して有効需要を喚起し、満足のいく、食欲をそそる景気回復を実現する時なのです!

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2023年4月23日日曜日

中国、TPP加盟「支持を期待」 日本は慎重な立場―【私の論評】日本は経済・軍事的にも強くなるであろうウクライナにTPPだけでなく、いずれ安保でも協調すべき(゚д゚)!

中国、TPP加盟「支持を期待」 日本は慎重な立場


 中国商務省の王受文次官は23日の記者会見で、中国が申請したTPPについて「中国には参加の能力があり、メンバー11カ国の支持を期待する」と述べた。3月に11カ国が英国の加盟で合意したことを受け、支持獲得への働きかけを強めるとみられる。 

 加盟には全会一致の承認が必要で、日本が慎重な立場を取っており中国は交渉入りも見通せていない。王氏は中国が加われば、域内の消費者とGDPの総額の規模が大幅に拡大すると述べ、巨大市場の魅力をアピールした。 
 
 王氏は、中国の加盟は「地域の供給網の安定にとっても重要だ」と主張した。ハイテクで中国排除を狙う米国に対抗する思惑もうかがえる。

【私の論評】日本は経済・軍事的にも強くなるであろうウクライナにTPPだけでなく、いずれ安保でも協調すべき(゚д゚)!

TPPには、自由貿易を維持するため、さまざまな規制があり、現状では中国は加盟できません。そのような規制がありながらも、中国がこのような規制をいずれ守るようになるだろうと期待して、当初は守らなくても、10年くらい年月をかけて守るようになれば良いと信じて、加入させるようなことはすべきではありません。

いかなる国も、最初からTPPの規制を満たしていないければ、それを満たすようになってから加入させるべきです。

過去を振り返れば、先進国の「経済的に豊かになれば共産主義中国も『普通の国』として仲間入りができる」という誤った妄想が、中国の肥大化を招き傲慢な「人類の敵」にしてしまったという現実があります。

その代表例が、2001年の中国のWTO加盟です。1978年の改革・解放以来、鄧小平の活躍によって、1997年の香港再譲渡・返還にこぎつけた共産主義中国が、「繁栄への切符」を手に入れたのです。

中国のWTO加盟調印式

この時にも、共産主義中国は「WTOの公正なルール」に合致するような状態ではありませんでした。 ところが、米国を始めとする先進国は「今は基準を満たしていないが、貿易によって豊かになれば『公正なルール』を守るようになるだろう」と考え、共産主義中国も「将来はルールを守る」という「約束」をしたことで加盟が認められたのです。

ところが、加盟後20年以上経っても、共産主義中国は自国の(国営)企業を優遇し、外資系いじめを連発するだけではなく、貿易の基本的ルールさえまともに守る気があるのかどうか不明です。しかも、先進国の技術を平気で剽窃してきました。

TPPも同じことです。WTOの時の違いは、TPPに加入する中国は今後経済成長ができないことです。このブログで述べてきたように、中国は現状ては国際金融のトリレンマにより、独立した
金融政策ができない状況に落ち込んでいます。

中共はこれを資本移動の自由化をするか、人民元の変動相場制への移行などをすれば、是正できますが、是正をすれば、統治の正当性が揺らぐため、是正するつまりはありません。そのため、これから経済発展する見込みはありません。

貿易ルールを守れない、経済発展する見込みもない中国をわざわざTPPに入れるような真似は、すべきではありません。

一方、ウクライナ政府は近く、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)へ加盟申請する方針を決めています。インタファクス・ウクライナ通信が20日、報じました。実現すれば、今年3月に加盟が認められた英国に続き、欧州で2国目となります。

タラス・カチカ副経済相兼通商代表が4月中旬、米ワシントンで開催された米商工会議所主催の経済関連イベントでウクライナメディアに語りました。申請が受理されれば、夏にも加盟国から交渉開始の通知を受け取る可能性があるといいます。

ウクライナは4月中旬、カナダと自由貿易協定(FTA)の拡大で合意しており、カチカ氏はカナダとの経済関係強化がTPP加盟に向けた「大きな助けになる」と述べました。カチカ氏は3月に英国の加盟が認められたことに言及し、「英国は申請表明から加盟まで2年半かかったが、ウクライナはカナダとの合意の恩恵で、より早く加盟できることを期待する」と語りました。

ウクライナはTPP加盟で貿易を拡大し、ロシアによる侵攻で打撃を受けた経済の復興を促したい考えです。

TPPは2016年2月に米国、日本など12カ国が署名。米国が17年に離脱を表明し、18年に7カ国で発効した。中国、台湾、エクアドルなどが加盟を申請しています。

ウクライナについては、他の発展途上国とは異なり、航空産業、宇宙産業、軍事産業、IT産業などの産業基盤があるので、戦争が終わり復興に転ずれば、かなり経済発展する可能性があることは、このブログでも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

人口4400万人のウクライナの一人あたりのGDP(4,828ドル、ロシアは約1万ドル) を引き上げ、人口1億4千万人のロシアよりGDPを遥かに大きくすることです。現在ロシアのGDPは韓国を若干下回る程度です。

韓国の人口は、5178万ですから、一人あたりのGDPで韓国を多少上回ることで、ウクライナのGDPはロシアを上回ることになります。 

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。 

ウクライナは、従来はソ連邦に組み込まれ、自由が失われ、独立後は汚職が横行し、経済発展することができませんでしたが、EUもしくはTPP、あるいはこの両方に加入することができれば、経済発展の前提条件ともいえる民主化がさらにすすみ、汚職塗れの体質も改善され、経済がかなり伸びることが期待できます。

TPP、EUにウクライナが入ることにより、自由貿易の促進だけではなく、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がさらに進み、ウクライナの内需が飛躍的に伸びることになります。

ウクライナでは、戦争が終了すれば、まずは国内の内需が劇的伸びることになります。その余勢をかって、さらに経済の高度成長を遂げれば、日本の60年代のように発展する可能性があります。そうして、長い時間をかけて醸成されてきた、EUやTPPの規約に基づくことにより、高度成長による社会の歪などもあまり経験せずに、成長できるかもしれません。

ウクライナは、日米のように内需(輸出対GDP比率が低い)のほうが外需(同高い)より圧倒的に強い国を目指すべきでしょう。韓国や中国、ドイツのように外需比率が高い国は、世界経済の調子が良いときには、国際競争力の強い国などと持て囃されて良いようにみ見えますが、世界経済が悪くなるとその影響を直接受けることになります。まずは内需を伸ばし切ることにより、足腰の強い経済を目指すべきです。

日本は、ウクライナをTPPに加盟によって、ロシアの西隣に経済発展する国、軍事的にも強いウクライナができあがることにより、日本の安全保障にとっても良い結果を得ることができます。

特に、ウクライナはロシアと国境を接しているということで、この国の軍事力が強まれば、これはEUにとっても良いことです。東側でロシアと国境を接する国日本としては、ウクライナと安保上でも協力をすすめるべきでしょう。

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廃炉に向かうドイツの原発

 ドイツのエネルギー政策はひどい。2021年12月23日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル社説で「ドイツの自滅的なエネルギー敗戦」と酷評された。書かれていることは、10年前のエネルギー政策転換の時からいわれていたことだ。11年の福島第1原発事故を受けて、アンゲラ・メルケル前首相は原発の段階的廃止を打ち出し、それが完遂された。

 その結果、太陽光・風力発電政策に翻弄される状態を自ら作り出した。しかも、自国では原発を廃止するが、隣国の原発大国、フランスから電力を輸入する欺瞞(ぎまん)もある。さらに、電力供給維持のためロシア産天然ガスへの依存が、ウクライナ侵攻で裏目に出た。

 ここまで脱原発をしても脱炭素は進展していない。21年のエネルギー別発電割合をみると、石炭・褐炭が27・9%、再生可能エネルギーが40・9%、原子力が11・8%、天然ガスが15・3%などとなっている。

 世界的な脱炭素の動きもあり、さらにはロシアのウクライナ侵攻でロシア以外に天然ガスを求めざるを得ないこともあり、天然ガスやその他のエネルギー価格の上昇にもドイツはさらされているのが実情だ。

 そして、ドイツの電力料金は日本の2倍以上になっている。こうしたドイツにおけるエネルギー構成のゆがみや価格の高騰は、エネルギー問題ではあらゆる供給手段を用意しておくという「エネルギー安全保障」を完全に無視した結果だ。

 せめて原発を廃止しなければ、今のエネルギー価格の高騰の一部を抑えられただろう。さらに、天然ガスも段階的にゼロにするというのは、まともなエネルギー政策とはいえない。

 脱炭素については、いろいろな議論があるものの、世界の流れであるのは誰も否定できない。その脱炭素の流れの中では、二酸化炭素(CO2)を出さず、風力や太陽光と異なり天候にも左右されない原発は、もってこいの手段だ。

 ドイツとは正反対であるが、フランスや英国が主導し、欧州で再び原発を活用する動きが活発になっている。脱炭素を進めるためには、原発は欠かせない要素だからだ。ちなみに、オランダやフィンランドでは原発新設などの動きもある。ドイツだけが欧州のなかでは異質の存在だ。

 また、世界中で小型モジュール式原子炉は有望だ。そのシンプルな設計は安全性を高めるとともに、コスト削減や建設期間短縮化になる。

 日本国内では、ドイツを見習い脱原発を主張する向きもあるが、やめるべきだ。そもそも欧州連合(EU)は、石炭というエネルギー問題を多国間で解決するため1952年の欧州石炭鉄鋼共同体から発展してきた。

 ドイツが変なエネルギー政策をとっても民主主義の陸続きの欧州他国からの助けもあるが、日本は周りを海で囲まれ、隣国は専制国家である。ドイツのようなことは期待できない。

 むしろ、エネルギー政策において欧州の中で異質なドイツを反面教師とした方がいい。

(元内閣参事官・ 嘉悦大教授、高橋洋一)

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ドイツでは、さらにエネルギー問題に追い打ちをかけるように、ハーベック経済相が19日、石油・ガスを使用した暖房設備の大半を2004年から禁止する法案を政府が承認したと明らかにしました。

ハーベック独経済相

 連立与党は先月、24年以降新設される暖房設備の大半について、稼働エネルギー源の65%を再生可能エネルギーにすることで合意しました。 ドイツは45年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指しており、法案はこの目標達成に向けた計画の一環となります。

建設部門が昨年排出した温暖化ガスは全体の約15%を占めていました。 法案関連資料によると、化石燃料の代替として再生可能電気で稼働するヒートポンプや地域暖房、電気暖房、太陽熱システムなどを家庭用暖房として使用できます。 ただ、この計画を巡ってはコストが高く、低・中所得世帯や賃貸物件利用者への負担が大きいとの批判が政権内からも出ています。

ドイツの産業用電力、ロシアからの天然ガスを用いて発電してきたのですが、ロシアからの天然ガスの供給が止まり電気代35倍になりました。すでに企業はドイツを捨て始めています。家庭用の石油ガス暖房禁止した場合、暮らしていけない人だらけになるでしょう。

上の記事で、高橋洋一氏は、ドイツが変なエネルギー政策をとっても民主主義の陸続きの欧州他国からの助けもあるとしていますが、これは逆にいえば、産業用電気代が35倍になれば、多くの企業がドイツを離れ、それにともないドイツ人がドイツを離れ、家庭用の石油ガス暖房を禁止すれば、さらに多くのドイツ人がドイツを離れることになるのではないでしょうか。

世界には、スイスやイタリアなどようにドイツ語圏内の地方を有する国々が存在しており、そのような国では、ドイツ人は言語も生活習慣もほとんど変えないで移住することができます。そこまで行かなくても、生活習慣の似ている国も多くあります。しかも、近隣諸国は陸続きです。
ドイツ語圏とドイツ語が通じる国


おそらく、ドイツはこのような馬鹿げた政策をいつまでも続けることはできないでしょう。問題はいつやめるかです。ドイツ産業が流入してくる国々は大喜びです。一旦流出すれば、また元に戻すのは大変です。

ドイツの脱原発は、このブログにも以前掲載したように、首相辞任直後にロシアエネルギー企業の役員になり、多数のロシアエネルギー企業の役員を務めたプーチンの友人シュレーダーが始めたもので、彼は反原発、脱石炭をうたう環境団体のスポンサーでもあります。

再生可能エネルギーの推進派は、太陽光エネルギーが石油を置き換える存在になるとアピールします。そうして、ドイツでは、かつてエネルギーの80%を太陽光パネルで得ていたと主張する人もいます。

しかし、2019年時点で、太陽光や風力で満たされたのはドイツの電力エネルギー全体の34%でしかありませんでした。上の記事では、21年時点でも再生可能エネルギー40.9%に過ぎません。ドイツのエネルギーの大半は今でも、天然ガスや石油、トウモロコシ由来のバイオガスから生み出されています。

さらに、太陽光パネルの製造には膨大な種類の素材が必要になります。ソーラーパネルの製造には原子力発電プラントの16倍にも及ぶ、セメントやガラス、コンクリートや鉄が必要で、排出されるゴミの量は300倍にも達するといいます。

米国では、太陽光パネルの製造や、ソーラー発電所の建設に必要な資材の多くは、米国最大のコングロマリットの1社として知られるコーク・インダストリーズが製造しています。石油や石炭、天然ガスなどのエネルギー産業を操るコーク・インダストリーズは、環境保護活動家が目の敵にする企業です。

これは全く皮肉な話としか言えないです。環境に優しいはずの太陽光パネルが、環境問題の元凶となる企業の部品で作られているのです。

太陽光発電等CO2の排出を減らし、人類を未来に連れて行ってくれると信じ込んでいる人々は多いです。けれどもそれは、人間を含めすべての生き物が生存している限りは、呼気でCO2を排出し続けるし、特に人間が生存だけではなく、意義や意味のある生活していく上では、さらにCO2を排出することになります。

このことからもわかるように、CO2の排出を極端に減らすことはできません。電気自動車を製造するにしても、太陽光発電パネルを製造するにしても、現在は結局大量のCO2を排出します。

私自身は、 エネルギーミックスの多様性を確保するために、再生可能エネルギーの研究を維持するのは悪くはないと思います。なぜなら、現状では不可能と思われていることでも、将来は技術革新によって可能になることもあり得るからです。


しかし、現状では、まずはすでに過去に確かめられた方法によりエネルギーを供給すべきと思います。小型モジュール式原子炉は、冷却を行うのに多量の水を必要とせず、より安全で全く新しいものにもみえますが、すでに似たものは原子力空母、原子力潜水艦で何十年も前から使われています。その本質は、これらを民生用等多用途に使えるようにすることです。

そうして、再生可能エネルギーを研究しつつも、原発を含めた様々なエネルギー源を活用するべきと思います。

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2023年4月21日金曜日

フォンデアライエンが語ったEUの中国リスク回避政策―【私の論評】中国が人権無視、貿易ルール無視、技術の剽窃等をやめない限り、日米欧の対抗策は継続される(゚д゚)!

フォンデアライエンが語ったEUの中国リスク回避政策

岡崎研究所

欧州委員会のフォンデアライエン委員長

 3月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙グローバルチャイナ・エディターのジェイムズ・キングが、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長の対中ディリスキング(リスク低減)政策が一層強硬になっていると、同氏の3月30日の講演について論評している。

 EU委員長のフォンデアライエンは、3月30日、ベルギーの首都ブリュッセルで、悪化する対中関係の現状について講演した。EUが欧州最大の貿易相手国である中国と同国の対ロシア枢軸に対する姿勢を強硬にしていることが明らかになった。

 2021年にEUは、新疆人権侵害容疑で中国官憲4人に対して制裁を発動したが、中国は4の欧州機関と10の個人に対抗措置を取った。

 フォンデアライエンは、講演冒頭に、中国のロシア支持とともに習近平個人に対する批判をした。彼女は「ウクライナに対する残虐で、不法な侵略に距離を置くどころか、習近平はプーチンとの『無限の』友情を維持した」と述べた。

 フォンデアライエンは、主としてハイテク分野について EUの対中関係をディリスキングすべきだと述べた。それは米国のデカップリング(分断)政策とはレトリック上は一線を画する。

 EUのディリスキング政策とは、機微な技術について軍事使用が断絶されない場合やそれが人権問題に関係する場合には、その貿易を規制することを意味する。またEU 委員会は、相手国の軍事力を向上させる可能性のある機微な技術につき欧州企業の対外投資を審査する制度の導入を検討してきた。

 彼女は、中国との包括投資協定(CAI、未批准で2021年に凍結)につき「再評価」せねばならないと述べた。この講演をEUの対中関係の大変曲点となるものだと見る者もいる。

*    *    *

 フォンデアライエンEU委員長は、3月30日、ブリュッセルで対中関係について講演した。

 EUが現実的な対中観を持つことは、歓迎される。10年遅すぎた感もする。2013年に中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を提唱した頃、問題は既に明らかになりつつあったが、欧州は雪崩を打つように経済機会を求めて中国に向かった。日本は、中国について、欧州との対話を一層強化することが重要である。

 フォンデアライエンEU委員長の演説は、極めて厳しい。訪中(4月4~7日)に悪影響を与えるのではないかと思うほどだ。堰を切るように中国のウクライナにかかわるロシアとの連携や習近平の権力集中、中国の振る舞いなどを批判した。

 フォンデアライエンは、「中国の考えと行動」を問題視する。何とか中国の世界観と振る舞いをもう少し変えねばならない。必要なのは、まず中国の協調的な振る舞いと世界観である。しかし、それは共産党支配とイデオロギーに突き当たる。それでも世界は、競争と協力でうまく管理していかねばならない。

 問題は、国家権力と結びついた経済、西側から合法、非合法で入手する技術の軍事力転用、増大した軍事力による高圧外交などである。西側の善意を利用して発展してきた中国は、今や独善的な大国化の道を歩んでいる。

 EUの対中ディリスキング政策は、外交術としては巧妙だ。米国のデカップリング政策とは違うものだと中国に言い得る余地を残している。既に中国のEU大使は、講演は一貫性がないと言いつつも、この政策は評価している。
米国と日欧の分離を図る中国

 林外相が3月1~2日に訪中した。秦剛(外相)、李強(首相)、王毅(国務委員)と会談した。秦剛とは会食を含めて4時間会談した。異例な厚い対応のように見える。中国は辛抱強かったようにも見える。対話、関与は良いことだ。「それなりの『厚遇』」の理由につき、日本経済新聞の中沢克二編集委員は、中国経済の不振にあるとする。確かにそうだろう。

 しかし中国には、もうひとつ重要な意図があるのではないか。中国は、日欧を米国から引き離し、米国を孤立させる戦略に出ているのかもしれない。ドイツのショルツ首相、スペインのサンチェス首相、林外相の後、フランスのマクロン大統領とフォンンデアライエンも訪中した。しかしバイデン大統領が求めている会談はその後も動いていない。

 今、中国は日米欧の連携を最も厄介に思っている。3月2日、王毅は、林外相に「日本の一部の勢力が米国の誤った対中政策にわざと追随している」と述べた。日欧は、分断されないように対米関係を強固にすると共に、対中対話を進めていくべきだ。日欧の対中レバレッジは今増えているかもしれない。

【私の論評】中国が人権無視、貿易ルール無視、技術の剽窃等をやめない限り、日米欧の対抗策は継続される(゚д゚)!

フランスのマクロン大統領は5日、中国を訪問しました。6日には欧州連合(EU)のフォン・デル・ライエン(上の記事では、フォンデアラインとしていますが、以降はより実際の発音と表記に近いフォン・デル・ライエンと表記します)欧州委員長とともに習近平(シーチンピン)国家主席と会談し、ロシアによるウクライナ侵攻の終結に向けて協力を求めました。

このブログにも掲載したように、マクロン氏は訪中した際に仏紙レゼコーとポリティコとのインタビューに応じ「最悪の事態は、この(台湾を巡る)話題でわれわれ欧州が追随者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだ」と述べ、かなり批判を受けていました。


一方、フォン・デル・ライエン欧州委員長は習近平に対して厳しい態度で臨んだようです。

中国を訪問した欧州連合(EU)のフォン・デル・ライエン欧州委員長は6日、北京で習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談し、台湾問題を巡り応酬しました。フォン・デル・ライエン氏は会談後に記者会見し「一方的な力による現状変更はすべきではない」と述べました。台湾に圧力を強める中国をけん制しました。

同氏は「台湾海峡の安定が何より重要だ。平和と現状維持が我々の明確な関心事だ」と語った。「緊張が生じた場合は対話を通じて解決するのが重要だ」とも話し、武力行使の可能性を放棄しない中国にクギを刺しました。

中国外務省の発表によると、習氏は会談で「台湾問題は中国の核心的利益の核心だ」と強調しました。台湾が中国の一部だという「一つの中国」原則に関し「言いがかりをつけるなら中国政府と中国人民は絶対に許さない」と言明しました。

「中国が台湾問題で妥協すると期待するのは妄想にすぎない。他人を傷つけようとした結果、自分自身を傷つけることになる」とも話しました。

フォン・デル・ライエン氏は会談で一つの中国政策について「EUは変更する意図はない」と説明しました。「中華人民共和国政府が中国全体を代表する唯一の合法的な政府として認め、台湾海峡が平和と安定を維持することを望む」と発言しました。

フォン・デル・ライエン氏は記者会見で習氏と人権問題に関しても話し合ったと明かしました。「中国の人権状況の悪化について深い懸念」を伝えました。記者会見では強制労働の問題などが指摘される新疆ウイグル自治区を「特に懸念する」と述べ「この問題に関して議論を続けるのが大事だ」と提起しました。

米国の中国とのデカップリング政策とEUのフォン・デル・ライエン委員長の中国リスク回避政策は、米国とEUがそれぞれ中国との関係に対してとった異なるアプローチです。両者には共通点がある一方で、顕著な相違点もあります。

焦点 :米国の脱中国政策は、国家安全保障、知的財産の盗難、不公正な貿易慣行に対する懸念から、中国との経済的相互依存を減らすことに主眼を置いています。重要な技術や市場への中国のアクセスを制限し、中国からの投資を制限し、中国へのサプライチェーンの依存度を下げることを目的としています。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の「中国のリスク軽減」政策は、市場アクセス、投資審査、欧州の戦略的利益の保護といった問題を含め、経済・技術大国としての中国の台頭に伴うリスクの軽減に主眼を置いています。

範囲: 米国の中国からの切り離し政策は、より広範囲で、貿易、技術、金融、国家安全保障など、さまざまな分野を包含しています。中国の企業や個人を対象とした関税、輸出規制、投資制限、制裁などの措置が含まれます。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、主に経済・貿易関連の問題に焦点を当て、関税や輸出規制といった措置は含まれていません。

アプローチ: 米国の中国とのデカップリング政策は、競争と封じ込めに重点を置き、中国に対してより対決的なアプローチをとっています。貿易紛争、技術輸出規制、中国企業を対象とした制裁など、一連の一方的な行動によって特徴づけられています。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の「脱中国」政策は、より協力的なアプローチで、中国との関わりを模索しながら、対話、交渉、多国間メカニズムを通じて市場アクセス、投資審査、知的財産保護に関する懸念に対処しています。

協調: 米国の中国とのデカップリング政策は、米国政府主導によるところが大きく、他国や国際機関との連携は限定的です。

これに対し、EUのフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、欧州委員会がEU加盟国と協調して策定・実施しており、EUブロックとしてのより統一的なアプローチを反映しています。

目的: 米国のデカップリング政策とEUのフォン・デル・ライエン委員長の対中リスク政策は、ともに中国の台頭に伴うリスクを管理することを目的としていますが、その根本的な目的は異なっています。

米国のデカップリング政策は、主に米国の国家安全保障と経済的利益の保護に重点を置いておいますが、EUのフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、欧州の経済的利益を保護すること、中国との公平な競争環境を確保することを目的としています。


このような違いはあるものの、米国とEUはともに中国の経済慣行、知的財産権保護、市場アクセス問題に対する懸念を共有し、それらに対処するための措置を講じています。しかし、それぞれの優先順位、利益、地政学的な考慮に基づいて、アプローチや戦略は異なっています。

中国における人権問題について、経済とはあまり関係ないと考える人もいるようですが、私はそうではないと考えています。中国における人権問題と経済との相関を示唆する証拠がいくつかあります、それを以下に掲載します。

労働者の権利: 中国は、劣悪な労働環境、低賃金、長時間労働、結社の自由の欠如、労働組合の制限など、その労働権慣行に対する批判に直面しています。こうした労働権の問題は、労働不安やストライキ、生産の中断につながり、中国で活動する企業の安定性や生産性に影響を及ぼす可能性があるため、経済にも影響を及ぼします。

中国内で、ウィグル人などを強制労働させ、しかも先進国から技術を剽窃してできた低価格でできた製品などを中国が他国に輸出することになれば、労働者の権利を守る国においては、価格競争が不利になり、本来労働者が得られる賃金が得られなくなるばかりか、解雇されることもあり得ます。

知的財産権(IPR): 知的財産権の保護は、経済成長の不可欠な原動力である技術革新と技術移転にとって極めて重要です。中国は、強制的な技術移転、知的財産の盗難、偽造などの問題を含め、知的財産権に関する法律の施行が緩いという批判を受けています。このことは、外国投資の抑止、技術移転の妨げ、イノベーションの阻害につながり、長期的には中国経済のみならず世界経済に悪影響を及ぼす可能性があります。

ビジネス環境: 中国のビジネス環境は、汚職、透明性の欠如、一貫性のない法律の施行などの問題を含み、中国で活動する外国企業によって懸念事項として挙げられています。これらの問題は不確実性を生み、リスクを増大させ、事業運営に影響を与え、中国への外国投資や経済成長に影響を与える可能性があります。

世界的な評価: 言論・報道・集会の自由の制限、少数民族や宗教の迫害、市民権・政治権の侵害などの問題を含む中国の人権記録は、中国のグローバルな評価に影響を与える可能性があります。中国の人権慣行に対する否定的な認識は、風評リスク、ボイコット、制裁、および貿易、投資、観光の減少などの経済的反響につながり、中国経済に経済的影響を与える可能性があります。

国際関係: 人権に関する懸念は、中国の他国との外交関係にも影響を与える可能性があります。一部の国や国際機関は、人権問題を中国との二国間関係の要因として取り上げ、人権問題に基づいて制裁や貿易制限などの行動をとっています。こうした外交的緊張は、中国と他国との貿易、投資、経済協力に影響を及ぼし、経済的な影響を与える可能性があります。

全体として、人権問題と経済との関係は直接的ではないかもしれないですが、人権問題が労働権、知的財産権、ビジネス環境、世界的評価、国際関係など様々な形で世界経済に影響を与えることを示唆する証拠が存在します。人権問題に対処することは、経済成長、投資、国際協力のための良好な環境づくりに貢献することができます。

上の記事では、中国は日欧を米国から引き離し、米国を孤立させる戦略に出ているのかもしれないとありますが、米国と日欧には中国に対して譲れない点があります。
  • 不公正な貿易慣行、知的財産の窃盗、市場アクセスの障壁など、中国の経済慣行に対する懸念
  • 中国の技術進歩、技術移転、知的財産保護に対する懸念
  • 人権に関する懸念
  • 南シナ海における中国の主張的な行動、サイバー諜報活動、軍事的近代化に関する懸念など、戦略的・安全保障的な脅威
などです。

これらの懸念が解消されない限り、いくら中国が米国と日欧を離反させようと画策したとしてもできないでしょう。もはや現状では、いくつかの国に対して、中国が工作活動を執拗に行ってきたことが、明るみででており、これは多かれ少なかれすべての先進国においてなされていると喝破され効力を失いつつあります。

日本でも、岸田総理の習近平がロシアを訪問中の、キーフ電撃訪問以来、親・媚中派の大物議員たちの影響力は減少しつつあります。

両者は、対話、首脳会談、協議、多国間関与を通じて、中国に関連する懸念に対処するための調整と協力を続けていくことでしょう。

共通の課題がある限り、これに対処し、共通の基盤を見出すために、さまざまな形で多国間フォーラムや外交チャンネルを通じて中国に関与し続けるでしょう。


日米蘭は、先端半導体の台中輸出規制を発動しました。特にこの中で、半導体製造装置に関しては、日米蘭をあわせると世界で、95%ものシェアを占めています。日米蘭は、技術者も引きあげさせています。これで、中国では先端半導体の製造はできなくなりました。

中国が人権問題を解決しない、貿易ルールを守らない、技術の剽窃をやめない限り、このような多国間による試みがさまざまな形でこれからも継続されるでしょう。

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2023年4月20日木曜日

中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力―【私の論評】あと10年で中国の弱体化は目に見えてはっきりする、その時に束の間の平和が訪れるよう日米は警戒を強めよ(゚д゚)!

中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力


 中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定してわかった中国経済の真の実力

 中国のGDPが米国を超える日は来るのだろうか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離する。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度しかないという研究結果もある。中国経済は10年後には弱体化しているのではないか」という――。(第1回)

 ※本稿は、エミン・ユルマズ『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■香港株は2018年の高値から56%も下落

 近年、中国の経済成長のほとんどは不動産投資、インフラ投資によるものであった。しかし昨今、投下された資本効率が低くなっていた。アウトプットを出すためには、さらにインプットをしなければ成長は望めない。それが叶わなくなっていた。

 不動産バブルが崩壊し、中国の景気が悪くなるということは、世界のマーケット関係者には周知の事実である。だから、香港株は2018年の高値から56%も下落しているのだ。

 金融危機の定義を数字で表すならば、指数が高値の半値になるレベルということができる。すでに香港株は半値以下になっているので、金融危機に突入していると言っても過言ではないのである。

■ライトの使用量と経済発展レベルに齟齬

 もう一つ、経済の実態について紹介したい。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度に留まるということを、皆さんはご存じだろうか。

 その見方を示したのは、シカゴ大学の研究だ。

 最近IMF(国際通貨基金)や世界銀行も似たようなアプローチをとり始めているが、各国の経済成長を人工衛星から入手した夜のライト(明かり)量で比べて抽出したもので、過去の映像と当時の各国の経済力を比較した研究結果が2022年11月、『TIME』誌に掲載された。

 中国のような独裁国家は、ライトの使用量のレベルと経済発展のレベルに大きな齟齬(そご)が見られることが判明した。

 研究結果として得られた結論は、中国のGDPについては政府当局発表の6割でしかないとする衝撃的なものだった。

■独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離

 この研究結果を見ると、きわめて興味深い事実が浮かび上がってくる。

 欧米日などいわゆる先進国、あるいは自由主義国家の数字を見ると、「夜のライト量で割り出したGDP」と「当局から報告されたGDP」はほとんど乖離(かいり)していない。

 これが、部分的にしか自由がない国々、民主主義を敷いてはいるがさまざまな問題を孕(はら)む国々になるとどうなるか。

 レバノン、メキシコ、コロンビア、ナイジェリア、フィリピン等々は、「夜のライト量で割り出したGDP」よりも「当局から報告されたGDP」のほうが高い数値になっている。

 さらに完璧なる独裁専制国家を見てみると、その乖離がひどくなっており、中国、エチオピアなどはその最たるものであることがわかった。

■「中国がGDPで米国を抜く」は空論

 この事実を鑑(かんが)みると、中国がGDPで米国を抜く、凌駕(りょうが)するという説は空論であると考えるほかない。

 中国経済はあと10年、15年後には弱体化することを、中国自身もわかっているのだろう。

 バブル崩壊後の日本のように、活力を失い、国力も沈んでいくと意識しているのかもしれない。

 次に社会問題である。深刻なのは食料に関わることである。

 一般的な中国人の食生活に不可欠な食材は、大豆とトウモロコシと豚肉と言われている。

 大豆とトウモロコシは豚の飼料になるので、大げさに言えば、中国人とは三位一体の関係を成す。

 こうした食料はコモディティ相場と切っても切れないものなのだけれど、大変興味深い現象が見られる。トウモロコシ価格が上がった年には、肉の価格が下がることが多いのである。

 特に牛肉の場合は顕著なのだ。

■2023年の牛肉価格は上昇

 なぜか。本当は来年まで育てて大きくしてから売るつもりであった牛まで、と殺(さつ)して売ってしまう傾向が強くなるからである。

 だから、トウモロコシ価格の高かった年には牛肉価格は下落し、その翌年は市場に出回る牛肉自体が減るため、価格は急騰することになる。

 2022年夏のトウモロコシ価格はかなり高かったことから、おそらく2023年の牛肉価格は上昇するものと私は予測している。

 牛肉市場をウォッチするには、米国シカゴ市場の素牛(フィーダーキャトル)先物市場が適していると思う。

■「もっと自由を!」「飯を食わせろ!」

 これらは牛肉市場の話だが、流れ的には豚肉も大差がない。

 こういうサイクルは、農作物についてもよくあることで、その年の価格が上がっていたら、翌年はまったく振るわない。

 と思ったら、その翌年は急騰したりする。

 要は、農業従事者が相場を見ながら“生産調整”するわけである。

 その意味で、中国は豚肉、大豆、その他もろもろの作物が不作となり、食料危機に発展する火種を常時秘めている。

 すでに一部の作物については価格が急騰しているので、その不満が各地で発生するデモの要因になっている可能性もある。

 2022年12月に起きた「白紙デモ」のとき、掲げられたのは白紙だけではなかった。

 白紙に紛れて「もっと自由を!」、そして「飯を食わせろ!」と書かれたものもあったのだ。

■中国・ロシア・イランを苦しめる食料インフレ

 余談になるが、他国に目を転じると、ここのところスリランカ、イランなどでも大型デモが起きている。その要因は当然ながら、食料インフレがあまりにも厳しいからだろう。

 権威主義陣営である中国、ロシア、イランなどでは早くも食料危機が訪れているのではないか。そんな印象を私は抱いている。

 ここをどう乗り越えるのか。いまのところ、中国を初めとした権威主義国家は、国民の怒りをガス抜きする政策によって乗り越えようとしているように映る。

 だが、これは本来の権威主義陣営の“流儀”ではない。逆だ。

 イランなどは拒否しているけれど、権威主義陣営ではモラル警察を廃止することをチラつかせたりしており、行き詰まり感を垣間見せている。

 それらの原因をつくったメインは、やはり食料インフレだと思う。

 国民にとって、食えなくなること以上の苦しみはない。

 他の自由や人権については我慢できるけれど、飢えだけはどうもならない。

 今後、中国などでは社会不安が高まっていく可能性がある。

■中国は米国に弱みを握られている

 そしてこの食料問題に関し、中国は米国に弱みを握られている。

 中国は農産物を毎年、米国から相当量輸入している。

 中国は経済安保上、相手陣営に強く依存したくないはずで、本音では米国からはあまり買いたくないだろう。しかし、背に腹は代えられない状況になっている。

■米中関税合戦は中国国民を苦しめる

 米国は中国からアパレル、家電、雑貨、家具、アセンブリー部品などを輸入している。

 その逆の、中国が米国から輸入する品目のほとんどは、食料(農作物、肉類、酒類)なのである。

 そして、トランプ政権時代から米国は中国製品や品目に対して高関税をかけるようになった。そこで、中国も米国の高関税に対抗して、同程度の関税を輸入品にかけると宣言し、実行した。

 しかし、両国の事情は大きく異なっていた。

 先に述べたように、中国が米国から輸入する品目のほとんどは食料である。これに高関税をかけてしまい、最終的には消費者である中国国民を苦しめることになったのである。

 ただ、米国民も高関税分のコストを引き受けなければならないので、お互い様と言えないこともない。

 そこで米国は輸入物価を下げるため、意図的に“ドル高”に持っていった。中国が20%の追加関税分を20%のドル高で“相殺”したわけである。

 だが、中国は米国と同様の手は使えない。

 知ってのとおり、このところどんどん人民元レートが下落している。輸入はできるものの、輸入価格はドルベースで高くなったし、さらに米国への報復措置としてかけた追加関税分が上乗せされている。

 中国国民からすれば、報復関税が痛みとなって刺さってきたのだ。

 こうした措置を、バイデン政権が撤廃するかもしれないと、中国側は期待を抱いていた。だが、それは見事に裏切られ、今日に至っている。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『新キャッシュレス時代 日本経済が再び世界をリードする 世界はグロースからクオリティへ』(コスミック出版)、『コロナ後の世界経済 米中新冷戦と日本経済の復活!』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)、『それでも強い日本経済!』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)などがある。

【私の論評】あと10年で中国の弱体化は目に見えてはっきりする、その時に束の間の平和が訪れるよう日米は警戒を強めよ(゚д゚)!

上の記事で、エミン・ユルマズ氏が中国経済について書いていることは、このブログでも以前から掲載しています。ただ、このようにまとまった形で、包括的には掲載したことはなかったので、本日掲載させていただきました。

エミン・ユズマル氏

こうした記事が、Yahooニュースに掲載されるということも時代の流れを感じさせます。結論からいうと、現象面に関してはかなり良く包括的に記載はされているものの、根本的な要因については記載されていないので、これだけだと、また中国経済は復活して伸びるのではないかと期待を持つ人も現れるのではないかと思います。ただ、投資レベルの話であれば、これで十分なのだと思います。投資家レベルとしては、中国投資はしばらく控えたほうが、良いということは十分に伝わっています。

このブログでは、以前から指摘してきたように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況になっています。これが除去されない限り、中国経済がこれから大きく発展することはありません。これに関する過去の記事は、下の【関連記事】に掲載してあります。興味のある方は、是非こちらもご覧になってください。

国際金融のトリレンマ(Mundell-Fleming trilemma)とは、国際経済学の概念で、ある国が(1)固定為替レート、(2)自由な資本フロー(資本移動)の維持、(3)独立した金融政策、という3つの目的を同時に達成できないことを示唆するものである。トリレンマによれば、3つの目標のうち2つしか達成できず、3つ目を犠牲にしなければならないのです。

これに関しては、経験的に知られていますし、数学的にも確かめられています。だだ、大学の経済学部あたりでは、理解するのは難しいです。よつて、これはそのようなものと理解していただきたいです。疑問を感じる方は、ご自分で他のサイト等に当たってみてください。


中国が国際金融のトリレンマを克服しなければ、どのような不都合が起こることが想定されるか以下に述べます。

金融政策の柔軟性が制限される: 中国の固定為替相場制と資本規制は、独立した金融政策を行う能力を制約することになります。これは、インフレ、デフレ、資産バブルなどの国内経済の課題に対処するための金融政策ツールの有効性を制限することになります。適切な金融政策手段を実施する能力がなければ、中国は、経済を効果的に管理し、持続可能な経済成長を達成する上で困難に直面することになります。

外的ショックへの対応力の低下: 固定相場制と資本規制は、世界経済情勢の変化や資本フローの変化といった外部からの衝撃に対応する中国の能力を制限することになります。為替レートや資本フローの柔軟性の欠如は、中国の外部環境の変化に対する調整能力を制限し、潜在的に経済的不均衡や脆弱性につながります。

通貨誤配のリスク: 固定相場制のもと、中国の通貨である人民元は、他の通貨との相対的な価値を定めてペッグされています。しかし、国内の経済状況は必ずしもペッグされた為替レートと一致しない場合があり、潜在的な通貨のズレにつながります。これは、貿易競争力を歪め、輸出入に影響を与え、中国の経済成長の見通しに影響を与える可能性があります。

外国投資に対する魅力の低下: 資本規制は、中国への資金の出入りを制限し、外国投資の流れに影響を与えます。中国が資本の流動性を制限されていると認識されれば、外国人投資家にとって魅力が低下し、より柔軟な資本フローのある経済を求めるようになるでしょう。外国投資の減少は、中国の経済発展や成長にとって重要な外部資本や技術へのアクセスを制限する可能性があります。

金融市場の発展の妨げ: 固定為替相場制と資本規制は、中国の金融市場の発展と世界市場との統合を制限する可能性があります。これは、中国の金融セクターの成長を妨げ、投資の多様化の機会を制限し、人民元の国際化を阻害する可能性がある。これは、中国が世界的な金融ハブとなり、金融市場改革を推進するための取り組みに影響を与える可能性があります。

経済的不均衡のリスク: 国際金融のトリレンマの制約により、国内経済の課題に十分に対処できない場合、インフレ、デフレ、資産バブルなどの経済的不均衡が生じる可能性があります。これらの不均衡は、中国の経済成長の軌道を乱し、長期的には中国経済の安定性と持続可能性にリスクをもたらす可能性があります。

国際金融のトリレンマを克服することは、中国に経済管理のためのより多くの政策手段を提供し、長期的に中国の経済成長を支えることになるはずです。

しかし、中国共産党が、こうした改革をする様子はありません。これは一体なぜなのでしょうか。これには、いつかの可能性がありますが、大きくは以下に集約されると思います。

経済的安定への懸念: 中国の固定為替レート制と資本規制は、経済と金融システムの安定を維持することを目的としている可能性があります。変動相場制や自由な資本移動への突然の移行は、為替レートの変動、資本流出、中国の金融市場の混乱につながる可能性があります。中国政府は、自国経済への潜在的な悪影響を避けるため、安定性を優先しているとみられます。

輸出競争力: 中国は歴史的に、経済成長の主要な原動力として輸出に依存してきました。為替レートの柔軟性が高まれば、人民元が高くなったり、変動が大きくなったりする可能性があり、国際市場で中国の商品がより高価になることで、中国の輸出競争力を低下させる可能性があります。中国政府は、輸出志向の経済を支えるために、安定的で競争力のある為替レートを維持していると考えられます。

金融リスク: 資本移動の自由化は、中国を投機的な資本移動、通貨投機、潜在的な金融危機によるリスクの増加にさらす可能性があります。中国政府は、資本勘定の開放に伴う潜在的なリスクについて懸念を持ち、そうしたリスクを管理するために資本フローをある程度コントロールしようと考えている可能性があります。

政治的な考慮: 中国共産党を含む中国政府には、為替レートと資本フローの管理を維持する政治的動機があるかもしれません。これには、安定性の維持、金融システムの管理、国家主権の保護などが含まれます。中国共産党の政治的優先順位と目的は、経済政策の決定に影響を与えている可能性があります。

特に、中国共産党としては、国家主権の保護という観点から、なかなか人民元の変動相場制への移行や、資本の自由な移動に踏み切れないのだと考えられます。

これらを実現すれば、中国共産党は統治の正当性を失い、崩壊して中国は体制を変換せざるをえなくなると考えているのでしょう。

体制を維持することと、独立した金融政策ができることの2つを計りにかければ、中国共産党としては、前者の方がはるかに重要だと考えているのでしょう。

であれば、中国共産党が崩壊しない限り、中国経済が発展する見込みはまったくないとみるべきでしょう。

習近平は、今のままだと経済発展することはできず、それこそ、10年後あたりには、中国経済は毛沢東時代の中国に戻ることがはっきりすることを予見しているのではないかと思います。

中国政府が昨年11月集合住宅地域に食堂を整備するよう求める通達を出したことに対し、毛沢東時代に整備された「公共食堂」が復活するのでは、との見方が中国のインターネット上で広がりました。

中国国内では、毛時代の印象が強い「供銷(きょうしょう)合作社」と呼ばれる農業関連の公営組織を拡大させる動きもあります。長期政権化する習近平国家主席が社会主義色の濃い政策を相次ぎ掲げる中、経済でも毛時代への回帰が進むとの警戒感が出ています。

そのような中国の実情を見透かしたのか、米国下院「中国委員会」の委員長マイク・ギャラガー氏は、長期的には米国が圧倒的に有利であるという主張しています。これは、決して根拠のないものではありません。米国は依然として世界最大の経済大国であり、イノベーションとテクノロジーのリーダーであり、世界で最も影響力のある多くの企業や金融機関の本拠地です。さらに、米国は世界的な同盟とパートナーシップの強力なネットワークを持ち、政治的・経済的に大きな影響力を有しています。

台湾を訪問したマイク・ギャラガー氏

しかし、ギャラガー氏の中国が最終的な弱体化を認識し、短期的に攻撃的になる可能性があるという議論も考慮に値します。中国は近年、世界中で経済的・政治的影響力を急速に拡大しており、人工知能や5Gなどの最先端技術に多額の投資を行っています。また、中国は南シナ海での軍事的プレゼンスを高め、「一帯一路構想」のような野心的なプロジェクトを推進しています。

短期的には、中国の経済的・地政学的野心は、米国とその同盟国にとって挑戦となるでしょう。米国と中国は貿易戦争を繰り広げており、香港や新疆ウイグル自治区を含む中国の人権侵害が懸念されています。さらに、南シナ海での中国の主張が地域の緊張を高めています。

全体として、米国は長期的には中国に対して大きな優位性を持つかもしれないですが、中国が影響力を拡大しようとし、両国がその複雑な関係をうまく調整する中で、次の10年は難しいものになるかもしれないです。中国は弱体化が目に見えるようになる前に、冒険に打って出る可能性は十分にあります。

米国はその強みを生かし、同盟国と協力しながら、世界のリーダーとしての地位を維持しつつ、この10年間は警戒を強めるべきでしょう。それは、日本も同じです。

この10年を乗り切れば、ロシアのウクライナ侵略は終了し、中国は著しく弱体化するのが目に見えるようになるか、体制転換が行われ、世界に束の間の平和が訪れることになるでしょう。

経営学の大家ドラッカー氏は以下のように語っています。
われわれが平和を手にする日は、旅を終える日でも始める日でもない。それは馬を替える日にすぎない。(『産業人の未来』)
馬の乗り替えとは、世界秩序の変化を意味すると思います。どのような国でも体制でも、栄枯盛衰は常であり、世の中は常に変わり続けていきます。ただ、私としては、馬の乗り替えが、武力の行使ではなく、平和的な手段によって行われる世界になって欲しいと願うばかりです。

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