2010年10月5日火曜日

日銀総裁 景気の下支えに全力―【私の論評】これは、あくまで下支え真打ではない!!

日銀総裁 景気の下支えに全力

金融政策決定会合の会見をする白川方明・日銀総裁=5日午後、東京・日銀本館
日銀の白川総裁は、記者会見で「日銀は金融緩和についてフロントランナーだったが、今回もフロントランナーでありたい」と述べ、世界的にも異例の措置に踏み切ることで景気の下支えに全力をあげる考えを示しました。

この中で白川総裁は、日本経済の見通しについて「経済の先行きの見通しが、これまでの想定よりも下回っているという見方に至った。日本経済が持続的な成長に復帰する時期も遅れる可能性が強まっている」と述べ、円高の進行などで景気回復が遅れ、デフレからの脱却が遅れるおそれが強まっているという認識を示しました。

そのうえで、白川総裁は「さまざまな金融緩和強化策をパッケージで打ち出し、金融緩和の効果を最大限に発揮させようと考えた。日銀はフロントランナーであり、今回もフロントランナーでありたい」と述べて、世界的にも異例の措置に踏み切ることで、景気の下支えに全力をあげる考えを示しました。
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また、今回、上場投資信託や不動産投資信託など値下がりのおそれのある資産を買い入れることについて「今回の措置は、日銀がリスクをとるため損失が出る可能性もある。金融政策の効果と、日銀の財務の健全性の双方を勘案して、資産買い入れの規模などを決めた」と述べました。

【私の論評】これは、あくまで景気下支えで真打ではない!!
この対策、景気対策の真打とは成り得ません。あくまで、総裁が言うとおり、景気の下支えにしかなりません。よって、景気はここしばらく回復はしないでしょう。少し考えただけでもわかりますね。これだけデフレが深刻ななかで、中央銀行が金融緩和措置をいくら行っても景気は回復しません。

なにしろ、日本国の家計には、1400円超の金融資産が眠っていますが、ご存じのようにその動きがピタッと止まっているわけですから、いくら銀行が金融緩和しても、これは動きだしはしません。要するに、日本国には、お金が潤沢にありながら、それが市中に出まわっていないためデフレ状況なのであって、お金がないということがデフレの原因ではないからです。

経済などあまりわからない小学生にだって判る理屈ですね。総体としては、結構多くの人がお金を十分持っているときに、銀行が金利を安くしましたから、お金を借りてくださいといっても誰も借りませんね。それに、お金が動かなければ、民間企業も仕事がないわけでから、お金を借りません。しかも、デフレですから、お金のある人は、最低限必要な物品やサービスは購入するでしょうが、それ以上のことはしません。この状況では、たとえインフレになったとしても、お金そのものは借りませんね。

もし、インフレになれば、お金を借りるのではなく、土地だとか、あるいは必要な物品とか、サービスを購入しようしますね。購入すれば、市中にお金がまわり、景気が回復するかもしれません。だから、金融緩和策はこの時期に効果は限定的といわざるをえません。

以前、このブログに掲載したアメリカの経済学者ポール・クルーグマンは、その中の記事で以下のように述べていました。

我々は中央銀行の独立性をずいぶん擁護してきました。しかし今や、この独立した中央銀行が、失敗による面目失墜を恐れるあまり、自国経済のためになることすら、やらない存在となっていることが不況の大きな原因なのです。
それは日銀だけではなく、FRBも同様です。国を問わず、根本的には組織に問題がある。自分の仕事、その本分を果たすのではなく、自分の組織上の地位や組織そのものを守ろうとしている。
中央銀行の独立性への介入に関しては、もはやあれこれ躊躇すべきではありません。日本のGDPデフレーター(名目GDPを実質GDPで割った値。経済全体の物価動向を示す)は、ここ13年間、下がりっ放しです。それなのに今、日銀が重い腰をあげないというなら、(その責任者たる総裁は)銃殺に処すべきです。
まさに確かにクルーグマンの言うとおりです。民主党からも、日銀に対してこのような批判が高まっていました。しかし、これだけでは、景気が良くなるわけではないことは、先の推論からでも容易に判断がつくと思います。

金融緩和策だけでは限界があります。先のようにインフレ状況を引き起こすには、やはり、政府が積極的な財政政策を行ない、市中にお金がまわり、さらに、日銀が金融緩和策を行ない、しかも、日銀が多少のインフレを許容する姿勢でいることが重要です。

先のブログのクルーグマンも同じことを言っていました。先の発言は、あくまで政府が巨額の財政政策を行うことを前提として言っているのです。

政府は、円高・景気対策のための2010年度補正予算案について、4.8兆円規模とするとしていますが、こんな程度では景気対策としては、全く無駄なのです。やらないよりは、ましでしょうが、桁が間違えています。すくなくとも、二桁、できれば、数十兆規模の対策を実施する必要があります。

どこかでふんぎりをつけて、この規模の対策を行わない限りは、日本の経済は回復しません。白川総裁としては、クルーグマンのようなことを言うエコノミストも多いし、それに、民主党が自分たちがマクロ経済音痴なのを棚にあげて、不景気を日銀だけのせいにして、責任をなすりつけようとしていたので、重い腰をあげて、ここで、実績をつくって置きたかったのだと思います。

民主党の面々、今回の日銀の政策を賞賛する人が多いようですが、マクロ経済音痴の彼らですから、日銀がこうした対策を打ったのですから、それでも、いつまでたっても経済が浮揚しなければ、今度は日銀を槍玉に挙げることができず、自分たちの無能を白日にさらすであろうことを気づいていないと思います。というより、もうすでに白日のもとにさらされていることが、さらに一層引き立つということなります。マクロ経済音痴は悲しいですね。自分たちの運命すらわからないのですから。

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7 件のコメント:

のんき さんのコメント...

お久しぶりです。

あまりにも同感で・・・。

私は野田財務大臣の無責任な発言に腹が立って腹が立って。

http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201010050067.html

本来であれば政府主導で行わなければならない
この状況を、日銀に主導される形になり(あ
まりに情けなすぎる)、ここにいたってもなお
「政府も日銀の政策効果が上がるよう、政策
対応していかなければならない」

などというアバウトな発言しかできない・・・。
本当に悔しい思い出いっぱいです。

山田 豊 さんのコメント...

のんき様 コメント有難うございます。全く困ったものですね。これだけでも、噴飯ものなのに、本日の仙石さんの「政治主導で、こんにゃくゼリーの形と硬さ」を決めるのだそうです。なんだか、この時期に全く理解不能ですね。(本日づけのブログに掲載しました)

もう、民主党どうしようもありません、はやく、政権の座から去ってもらいたいものです。

菅原晃 さんのコメント...

ご無沙汰しています。菅原晃です。

・・・日本国の家計には、1400円超の金融資産が眠っていますが、ご存じのようにその動きがピタッと止まっているわけですから、いくら銀行が金融緩和しても、これは動きだしはしません・・・

 この1400兆円の家計資産について、よく誤解されているのが、「このカネを消費に回せ」「高齢者中心の1400兆円を、若者にまわせ」という論です。

 実は、1400兆円はストックで、フロー(GDP)には原理的に回らないのです。

 三面等価式より、C(消費)+S(貯蓄)=C(消費)+I(投資)なので、その年のS(民間貯蓄)=企業投資I・政府投資G-T・外国への投資EX-IMに回っています。

 つまり、S(貯蓄)=企業(I)の借金・政府の借金(G-T)・外国の日本に対する借金(EX-IM)であり、同時に企業投資(モノ・サービスの購入)・政府投資(同)・外国投資(同)のことです。
 Sは、「実物資産=形のあるモノ」になっています。企業が社債や株式や、銀行からの借り入れをする事により、お店のイスや冷蔵庫や、配達の車、宣伝費などに使っています。国・公共団体は、公債を発行し、道路やダムや港湾を作っています。外国投資は、外国に工場や、原材料として使われています。

 1400兆円⇒株式・社債・借金・国債・外国債・外国企業の社債・株式・借金⇒実物資産(モノ・サービス)なのです。

 ですから、S=Iなので、S分=日本の国富(国内の資産+外国資産)になります。

 さて、「1400兆円を、消費に回せ」ですが、すでに「株式・社債・借金・国債・外国債・外国企業の社債・株式・借金」になっているので、これらを手放す=売ることになります。他の主体(企業・政府)が、家計が手放した「株式・社債・借金・国債・外国債・外国企業の社債・株式・借金」を購入してくれればいいのですが、家計資産(債券超過)⇒企業・政府の借金(政府と企業は債務超過)になっているので、企業・政府がいきなり資産「株式・社債・借金・国債・外国債・外国企業の社債・株式・借金」を購入するのは無理です。

 1400兆円のうち、14兆円を消費に回せば、14兆円分「株式・社債・借金・国債・外国債・外国企業の社債・株式・借金」が売られることになります。毎年、14兆円売られれば、これらの資産価格が下落⇒暴落します。外国資産を売れば、円高・ドル安になります。

 1400兆円の家計資産(ストック)を消費(フロー)にまわすことは不可能(個人個人にとっては良いかもしれないが、社会全体にとっては大変なことになる=合成の誤謬の一例)なのです。

山田 豊 さんのコメント...

菅原晃 様 コメント有難うございます。
1400兆円のうち、800兆円が「現金・預金」なので、別に消費に回っても株債・・・・」は売られません。
家計が消費のためにお金を引き出すと、単に、銀行の「預金」という負債と、家計の「預金」という資産が消えるだけです。

日銀の資金循環統計に普通にデータが載っていますので、確認されてはいかがでしょうか?

菅原晃 さんのコメント...

///家計が消費のためにお金を引き出すと、単に、銀行の「預金」という負債と、家計の「預金」という資産が消えるだけです。///

 よく、巷で流れている、「1400兆円」を家計に回せ論・・・三橋貴明さんなど?ですが、経済学的には成り立ちません。
 金融資産は、おっしゃるように、負債=資産です。銀行の「預金」は負債です。その「負債」が消えると言うことは、銀行の「資産」も消えると言うことです。家計の資産⇒銀行の負債⇒銀行の資産⇒企業の負債⇒企業の資産⇒銀行の負債・・・・・
 これが金融における「信用創造」というメカニズムです。ですから、ストック(国富)には、実物資産が入りますが、「金融資産」は入らないのです。

とうほう『政治・経済資料 2010』p201
 国内の金融資産は、国内に借り手と貸し手が存在し、債権(資産)と、債務(負債)が相殺されるため含まない

 ですから、逆方向から見れば、ある「企業の負債⇒銀行の資産」が滞る=不良債権化すると、そのあとの「信用創造部分」ががたがたになります。日本のバブル崩壊や、リーマンショックはこの図式です。「銀行の負債(資産)が消える=銀行の資産(負債)が消える」ことです。

 ある一企業の貸借対照表:バランスシート(左側)で、現金⇒実物資産化は、簡単に出来ます。この場合、右側の純資産・負債には影響を及ぼしません。

ですが、国の資金循環統計のバランス・シートの場合、左側が減ると、右側も減ります。

1400兆円を消費に回すことは、不可能なのです。

 一番、「経済学」と「経済常識」の乖離する部分、つまり、とても難しい部分ですが、ここが「キモ」です。

参考文献
(1)ブログ「高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門」藻谷浩介『デフレの正体その12』
(2)http://www.vcasi.org/node/542
「家計金融資産『活用』論への違和感」池尾和人

山田 豊 さんのコメント...

1400兆円の家計が動きだすという言葉について、誤解があるように思います。私が動くと掲載したのは、文字通り動くことなのであり、静的な経済を想定しているわけではありません。1400兆円がもっと活発に動く状況になって欲しいということを意味しています。同じ1400兆であっても動いている部分があれば良いし、動いた結果1500兆円になることもありえるという意味です。

菅原晃 さんのコメント...

菅原です。

追記です。

1400兆円の金融資産のうちわけは、拙ブログ「高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門」:ブログカテゴリ 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行2010-08-08記事をご覧下さい。

 よろしくお願い申し上げます。

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