まとめ
- 日本は空母を保有することになり、軍事力と国際社会における存在感を高める。
- 空母の導入は軍事的な合理性よりも政治的な理由によって決まった。
- 空母は戦闘にはそれほど有効ではないが、平時の外交の道具としては有効。
- 空母は災害救援や平和維持活動などにも活用できる。
- 空母の保有は日本の軍事力だけでなく、外交力も高める。
2027年度に軽空母化改修が完了する予定の護衛艦「いずも」 |
しかし、空母は政治的に非常に大きな意味合いを持つ。東アジアでは、中国の軍事的な挑発や領土問題が深刻化しており、日本は将来的にあり得る中国の海洋進出に対抗するために、自国の防衛力を強化するだけでなく、同盟国や友好国との連携を密にする必要があった。
その点では、空母は有効な手段であると言え、日本は空母を持つことで、自国の防衛意志や能力を示すことができ、また空母はヘリコプターの運用拠点としては非常に効果的であることから、その能力を使って他国で協力や支援を行うことで、日本は国際社会から尊敬される存在として認められることにつながるかもしれない。
空母は「軍事的合理性」だけで見るなら、日本にとってはそれほど必要ではないだろう。しかし、平時の外交の道具として見た場合は別だ。日本は空母を持つことで、自国の防衛意志や能力を示すことができ、また空母はヘリコプターの運用拠点としては非常に効果的であることから、その能力を使って他国で協力や支援を行うことで、日本は国際社会から尊敬される存在として認められることにつながるかもしれない。
さらに、空母の保有は日本の軍事力だけでなく、外交力も高めることができる。かつて大日本帝国海軍(旧日本海軍)は世界最大級の空母艦隊を保有していましたが、それは侵略戦争の象徴となってしまいました。それを教訓とするなら、日本はいずも型護衛艦を使って自国の「お行儀よさ」を世界にアピールし、国際的な正当性を守っていることを示すことが重要になると筆者は考えます。
まとめ
- 空母の最大の利点は、機動性と攻撃力であり、航空機を搭載し、任意の地域に短時間で展開し、遠距離から効果的な攻撃を行える。
- 空母は制空権と制海権を確保した地域に展開し、敵の軍事施設、地上部隊、補給線、味方の支援などで効果的な攻撃を実施できる。
- 潜水艦は海戦において重要で、発見や攻撃が困難。対潜水艦戦争(ASW)の能力が海軍の強さの指標で、日米が世界トップ。
- 米国が空母を東地中海に派遣し、イスラエルとハマスの紛争拡大を防ぐために軍事的・政治的意味がある。
- 空母は被災地支援にも活用可能で、過去の事例からその有効性が認識されており、国内外で平和的な軍事・政治的プレゼンスを高める手段として活用すべきであ。
空母の最大の利点は、その機動性と攻撃力にあります。空母は、航空機を搭載して、比較的短時間で任意の地域に展開することができます。また、艦載機は、さまざまな兵器を搭載して、遠距離から効果的な攻撃を行うことができます。
そのため、空母は、比較的限定された地域において、自軍が制空権と制海権を得た場合、その地域に空母を派遣して、ピンポイント的に効果がある地点に継続的に攻撃をすることができます。
具体的には、以下のような場面で空母の利点が発揮されると考えられます。
- 敵の軍事施設やインフラへの攻撃
- 敵の地上部隊への攻撃
- 敵の補給線や輸送路の遮断
- 味方の部隊への支援
もちろん、空母は非常に高価な兵器システムであり、その維持費や運用費も莫大です。そのため、空母を保有するには、十分な財政力と政治的意思が必要となります。
しかし、空母は、現代の軍事において非常に重要な存在であり、その利点は決して小さくありません。
世界最大の空母「ジェラルド・R・フォード」(手前) |
ただし、自軍が制空権と制海権を得ていなければ悲惨な結果をまねくことになります。
現代海戦においては、艦艇は水上艦艇と潜水艦の二種類あると考えるべきです。自軍が制空権と制海権を持っていない海域においては、水上艦艇は空母も含めてミサイルや魚雷等の大きな標的でしかありません。しかも、現状の誘導型ミサイルや魚雷であれば、命中率は極めて高く、すぐに撃沈されてしまいます。
一方、潜水艦はそうではありません。いずれの潜水艦も敵方に発見されないうちに予めある水域に潜み動かなかったり、あるいは動力を駆動させずに、潮流に乗って移動している限りにおいては、敵方に発見されることはありません。
このような潜水艦を探知するのは容易ではありません。艦艇や航空機、監視衛星をもってしても現状では発見するのは困難です。
ただし、その状況で敵方を攻撃をすれば、敵方に発見される可能性は高まります。発見された場合は、攻撃を回避するためにできるだけ早く移動することになります。敵方に発見されないようにするためには、敵の探知を妨害する能力や、潜水艦のステルス性を高める必要があります。
この能力を含め、潜水艦を発見する能力、潜水艦を攻撃する能力を含めた総合的な能力を対潜水艦戦争(Anti Submarine Wafare:ASW)といい、現代海戦においては、この能力が高い海軍が海戦に強い海軍ということになります。
日本の対潜哨戒機P1 |
いかに多数の艦艇を持っていたにしても、ASW能力が低ければ、多くの艦艇が敵方に発見され、撃沈されることになります。
日米は、この能力に秀でており、どちらも世界トップクラスです。米国は、原潜しか所有しておらず、原潜であるがゆえにステルス性には若干劣るものの、ありとあらゆる武器を大量に搭載した巨大な水中武器庫ともいえる、攻撃型原潜を所有しています。日本は、原潜は保有していないものの、ステルス性では世界トップクラスの通常型潜水艦を備えています。
そうして、両者に共通するのは、世界トップクラスの対潜哨戒能力(潜水艦を発見する能力)です。これは、日米ともかなり高く、能力の方向性が若干異なるので、どちらが優れているかということは、甲乙付けがたいところがありますが、それにしても、日米と他国を比較すると日米は突出しており中露を含めた他国をはるかに凌駕しています。
このような観点からすると、日本の海自が過去には22隻の潜水艦隊を構築することに尽力してきたこと、台湾が自前で潜水艦を建造したことは、軍事合理的観点からコスト・パフォーマンスという観点から高く評価することができると思います。
米国が昔から空母を保有し続けていたり、日本がこれから空母を所有しようとするのは、上の記事で指摘されているとおり、軍事的合理性というより、政治的な意味合いが大きいです。中国もそうです。
アメリカ国防総省は、東地中海に追加の空母打撃群の派遣を指示しました。イスラエルとハマスの衝突が拡大するのを防ぐためだとしています。
国防総省のオースティン長官は14日の声明で、アメリカ海軍の空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」を中核とする空母打撃群の東地中海派遣を命じたと明らかにしました。
アメリカ軍はすでに最新鋭の原子力空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群を東地中海に配備していて、2隻目の空母も合流するということです。
ハマスは海軍力、空軍力は皆無ですし、イランを含めた中東地域の国々には海軍力、空軍力は脆弱です。ここに、空母打撃群を派遣することは軍事的にも政治的にも大きな意味を持ちます。
このように、空母は軍事力と戦力の投射のために依然として重要な役割を果たしています。潜水艦がステルス性や奇襲攻撃において有利なのは確かですが、それが故に潜水艦の行動は、昔から秘匿されるのが通例です。
一方空母は敵を威嚇する目に見える強さの誇示を可能にします。空母はまた、自国から遠く離れた場所での軍事作戦に比類のない航空戦力を提供できます。多くの軍事的な弱小国においては、空母を威信とグローバル・リーチ(世界中への展開力)の象徴として重視しています。時代遅れだという意見もあますが、空母は、公海での優位性を主張しようとする世界の大国にとって、今後もその役割を果たし続けるでしょう。
さらに、空母は被災地支援等に活用することができます。
- 災害発生直後の救援活動
- 救援物資や人員の輸送
- 医療支援
- 復興支援
空母は、その機動性や輸送能力を活かして、被災地支援に大きな効果を発揮することができると考えられます。
熊本地震の災害支援のために「いずも」に乗り込む自衛隊員ら(2016年4月19日) |
以下に、空母等が被災地支援に活用された事例をいくつかご紹介します。
- 2004年のスマトラ沖地震では、米国の空母「カール・ヴィンソン」が被災地支援に投入され、復興支援物資の輸送や医療支援などに貢献しました。
- 2011年の東日本大震災では、米国の空母「ロナルド・レーガン」が被災地支援に投入され、復興支援物資の輸送や医療支援などに貢献しました。
- 2016年海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」熊本地震の被災地支援のために陸上自衛隊の輸送にあたった。
これらの事例から、空母等は被災地支援に有効な手段であることが世界中で認知されつつあると言えるでしょう。
日本としては、国内外の被災地支援でも空母を活用しつつ、平和的に軍事・政治的プレゼンスを高めるべきです。ただ、軍事的・政治的プレゼンスを高めるにもコスト・パフォーマンスは常に意識すべきでしょう。その上で、活用すべきはどんどん活用していくべきです。
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