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2019年2月26日火曜日

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」―【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」

金正恩(左)とトランプ(右)

ドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金 正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は27、28日、ベトナムの首都ハノイで2回目の首脳会談を行う。

 世上では、米朝首脳会談はトランプ氏が前のめりで、正恩氏のペースで進められるのではないか-と懸念する向きが多い。

 果たして、この指摘は正しいのか、検証してみる。

 注視すべきは、同首脳会談実現に向けて繰り返された、米朝実務者協議の米側代表であるスティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表が1月31日、米スタンフォード大学で行った講演(全文3800語)である。

 注目すべき箇所は、次のフレーズだ。

 「トランプ大統領が、金正恩委員長に(シンガポールで)会ったとき、堅固な経済開発が北朝鮮にどのような意味を付与するかについてビジョンを示しました。それは、朝鮮半島の驚くべき資源を利用して構築される投資、外部との交流、そして貿易などの明るい未来と、計画の成功のためのわれわれの戦略の一部です」

 キーワードは「驚くべき資源」である。

 トランプ氏は2月8日のツイッターで、首脳会談の開催地がハノイに決まったと明らかにした。

 と同時に、かつてミサイル実験を繰り返す正恩氏を「ロケットマン」と揶揄(やゆ)したが、このツイッターでは「北朝鮮は違うロケットに、すなわち経済のロケットになるだろう」と、ヨイショしたのだ。

 では、困窮する北朝鮮経済を「経済のロケット」にする「驚くべき資源」とは、いったい何なのか。

 米地質調査所(USGS)や、日本貿易振興機構(JETRO)などの「資料」によると、半端ない量のマグネサイト、タングステン、モリブデン、レアアースなどのレアメタル(希少金属)が埋蔵されているという。

 さらに、石油の埋蔵量も有望とされる。だが、「千三つ」(=試掘井を1000カ所掘削しても3カ所出るかどうかの確率)と言われるほど投資リスクが高く、高度の掘削技術が必要である。米国が構想しているのは、エクソン・モービルなど米石油メジャーとの共同開発なのだ。

 一方のレアメタルについても、中国の習近平国家主席が進める「宇宙強国」構想に負けないためにも、宇宙・航空産業が喉から手が出るほど欲しい。

 遠くない将来、かの地で採掘・精製施設建設まで実現できれば、計り知れない「利」が期待できる。地政学的に採算ベースに合うのだ。

 トランプ、正恩両氏は同床異夢であれ、取りあえず同じ船に乗ろうとしているのだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

金正恩氏を乗せた特別列車=2019年2月26日午前、広西チワン族自治区憑祥

「朝は輝けこの山河 金銀の資源も満ち 三千里美しきわが祖国」

北朝鮮の朝鮮中央放送は、放送開始と終了時に、北の国歌「愛国歌」を流します。その歌詞にあるように、この国の地下資源は豊富です。冒頭の記事にもあるように、鉄鉱石や石炭、燐灰石、マグネサイト、ウランなど、2百種類を超える有用鉱物が確認されており、経済的な価値がある鉱物資源も40種を超えます。

近年とみに価値が高まっている希少金属のタングステン、ニッケル、モリブデン、マンガン、コバルト、チタニウムなども豊富とされています。

これらの「価値」の評価は、国際的な価格の変動や調査機関によって異なります。韓国の大韓鉱業振興公社は2008年月に総額2千2百87兆ウォン(約176兆円)と推定しましたが、韓国の統一省は09年10月に国会に提出した資料で6千9百84兆ウォン(08年基準=約5百37兆円)とまで見積もりました。評価額に差があっても鉱物資源が「宝の山」であることに変わりはありません。

米国の資源探査衛星による調査で、軍需産業などには欠かせないタングステンも世界の埋蔵量のほぼ半分がある可能性が報告されました。
さらに、ウランも約4百万トンの埋蔵量があるとされます。これは北を除く世界の採取可能な推定埋蔵量とほぼ同じ量との見方もあります。北が自前の原子力発電や核に固執する理由のひとつは、その燃料を豊富に持っていることです。原子力発電を実現できれば北のエネルギー不足は大きく改善されます。

無論石炭の埋蔵量も多く、韓国の研究者の推計によれば、北朝鮮全体の石炭埋蔵量は90億であり、そのうち61億トンが採掘可能と見られる。後者の内訳は無煙炭が16億トン、褐炭が34億トン、超無煙炭が11億トンである。なお、瀝青炭は産出されないため、鉄鋼生産などに使用する分は全量を輸入に頼っています。

日本の統治時代には、石炭は様々な産業の基盤だったこともあり、北朝鮮のほうが南よりも産業基盤が整っていました。南にはほとんど産業基盤がなく、農業が主体でした。そのため大東亜戦争終戦直後からしばらくは、北朝鮮のほうがGDPも南より大きく、韓国が北朝鮮のGDPを追い抜いたのは1970年代に入ってからことです。

ところが、現時点で北朝鮮の鉱物資源は「宝の持ち腐れ」に近いです。施設の老朽化や、機材や技術、エネルギー不足などの理由から、生産性が上がらないためです。たとえば、鉄鉱石の生産は1985年の9百80万トンをピークに減少に転じ、98年には2百89万トンまで減りました。その後の経済回復で08年には5百31万トンまで戻ったのですが、状況は他の鉱物資源も同様であり、国民は「金の山」の上で暮らしながら飢餓と闘っているのが現実です。

鉱物資源協力は資源の「貿易」以上の経済的便益を南北の両側にもたらす可能性があります。朝鮮半島は面積は狭いですが南と北の地下資源の賦存環境が大きく異なります。韓国は世界5位の鉱物資源の輸入国で鉱物自給率が極めて低く、全体鉱物の輸入依存度は88.4%にのぼります。



政治的緊張がなければ、隣接した両地域の格段の鉱物資源分布の差が経済的側面で自然と相互に鉱物資源貿易・投資をもたらした可能性もあります。

北朝鮮の鉱物資源開発の過程でまず必要なのは、鉱山開発に使われる莫大な量の電力供給を解決することです。文大統領が金委員長に渡した新経済構想の資料に「発電所」が含まれていたのは、これと無関係ではないと見られています。2007年、鉱物資源公社が端川地域の鉱山開発の妥当性の検討に乗り出すときも、北朝鮮の水力発電設備を改・補修して電力を供給する案を検討したことがありました。

経済を対外開放した国の大部分は、地下資源の採掘権を海外に与えて、国富を蓄積してきた。ミャンマーやカンボジアのように、比較的最近に民主化した国家も、中国などに鉱山開発を任せ、一定の収益を受け取ってきました。

北朝鮮が次なる経済協力案件として地下資源を本格化させれば、北朝鮮の経済成長に大きく寄与できるのは明らかです。韓国のエネルギー経済研究院によれば、北朝鮮のGDPにおいて鉱業は全体の13.4%であり、北朝鮮の輸出額の70%を鉱物が占めます。

鉱山を開発すれば、製鉄や精錬のような加工産業に対する投資が行われ、雇用拡大と付加価値創出にもつながります。南北鉱物資源開発協力がスムーズに行われれば、北朝鮮に対する財政的支援という負担がなくても、北朝鮮の経済開発と経済協力事業を同時に推進できます。

米朝首脳会談の行方を見守る必要がありますが、現在は国連による経済制裁で北朝鮮の物資を韓国へ持ち込めません。経済制裁が解除されない状況では、当然協力もないです。米朝会談ではこれも話し合われることになるでしょう。

制裁解除は北朝鮮への米国の意思が重要です。現実的な問題もあります。韓国政府は2007年に8000万ドルを借款形式で北朝鮮に提供したのですが、2010年以降、南北経済協力はほかの協力事業とともに、中断したままです。

2012年にこの借款を提供した韓国の輸出入銀行が、5年の返済猶予が終了した後に償還の開始を北朝鮮側に要求したのですが、なしのつぶてだといいます。南北経済協力事業を経験した韓国政府側関係者は「経済協力を始めるなら、まず北朝鮮が8000万ドルの借款を償還すべきだ。南北合弁で開発した鉱山の契約も履行すべき」と言います。

この関係者は「ただ今回の首脳会談が関係回復に優先順位を置いていたので、経済協力が再開されたとしても、問題が経済的な論理で解決されるとは思えない」と打ち明けます。

資源を共同開発しても、その果実を収穫できるインフラ建設と、投資への安全性保障も必要です。しかし、開城(ケソン)工業団地が突然閉鎖されたように、投資家が人質のような形に追いやられる余地が残っているのなら、経済協力の軸となる民間企業が資源開発投資を行うことはできなです。

現在、北朝鮮の地下資源投資に関する法律は、北南経済協力法と外国人投資関連法、地下資源法があります。北南経済協力法は宣言的な内容にすぎないため、投資への安全を保障することはできないです。

地下資源法によれば、廃鉱も許可制とされています。経済性がなくても投資家が自律的に廃鉱を決定できないことになります。開発主体も北朝鮮国内機関に限定されています。外国人投資法でも資源輸出を目的とする外国人企業の投資は禁止されています。北朝鮮の法意識上、最高統治者と朝鮮労働党、政府との関係が複雑であることや既存の関連法が存在するだけに、特別法やこれに準ずる具体的な協議が必要とされるでしょう。

実は北朝鮮の資源をめぐる争奪戦は、すでに始まって久しいです。2004年から11年の間に北朝鮮で合弁事業を開始した世界の企業は350社を超します。中国以外ではドイツ、イタリア、スイス、エジプト、シンガポール、台湾、香港、タイが積極的ですが、そうした国々よりはるかに先行しているのは、意外にも英国です。

英国は01年に北朝鮮と国交を回復し、平壌に大使館を開設。06年には、金融監督庁(FSA)が北朝鮮向けの開発投資ファンドに認可を与えたため、英国系投資ファンドの多くが動き出しました。

具体的には、アングロ・シノ・キャピタル社が5000万ドル規模の朝鮮開発投資ファンドを設立し、鉱山開発に名乗りを上げました。北朝鮮に眠る地下資源の価値は6兆ドルとも見積もられています。そのため、投資家からの関心は非常に高く、瞬く間に1億ドルを超える資金の調達に成功しました。また、英国の石油開発会社アミネックス社は、北朝鮮政府と石油の独占探査契約を結び、1000万ドルを投資して、西海岸地域の海と陸の両方で油田探査を行う計画を進めています。

一方、ロシアは冷戦時代に開発した超深度の掘削技術を武器に、北朝鮮に対し油田の共同探査と採掘を持ちかけています。この技術は欧米の石油メジャーでも持たない高度なものであり、ベトナムのホーチミン沖で新たな油田が発見されたのも、ロシアの技術協力の賜物といわれています。15年4月には、ロシアと北朝鮮は宇宙開発でも合意しています。両国の関係は近年急速に進化しており、ロシアは新たに北朝鮮の鉄道整備のために250億ドルの資金提供を約束しています。

韓国の現代グループは、1998年から独占的に金剛山の観光事業を行っていますが、数百億円に及ぶ赤字を出しながらも撤退しないのは、金剛山周辺に眠っているタングステン開発への足がかりを残しておきたいからでしよう。

米国からは、超党派の議員団がしばしば平壌を訪問していますが、核開発疑惑が表沙汰になる前の98年6月には、全米鉱山協会がロックフェラー財団の資金提供を受け、現地調査を行いました。その上で、5億ドルを支払い北朝鮮の鉱山の試掘権を入手しています。当面の核問題が決着すれば、すぐにでも試掘を始めたいといいます。

韓国はじめ、中国、ロシアといった周辺国や米国、英国の支援を得ることで、豊富な地下資源を開発することに成功すれば、北朝鮮は現在の中国のように急成長することが期待されます。今が安く先物買いをする絶好のチャンスだと宣伝しているのです。実は、2015年4月、北朝鮮のリスユン外相はインドを訪問し、スワラジ外相との間で北朝鮮の地下資源開発と輸出契約の基本合意に達しています。

インドにとっては、中国と北朝鮮の関係が変化するなか、北朝鮮との資源外交を強化しようとの思惑が見え隠れします。要は、国境紛争やインド洋への影響力を強めつつある中国をけん制するためにも、北朝鮮を懐柔しようとするのがインドの狙いと思われます。

日本人の大半はそのような動きにはついていけず、発想そのものに抵抗を感じるでしょうし、金儲けを最優先する投資ファンドの動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これが世界の現実なのです。

文在寅(左)と習近平(右)

さらに、これは以前からこのブログに掲載していることですから、米国側からみると、北朝鮮の核は結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。以前からこのブログに掲載しているように、北朝鮮は中国からの完全独立を希求しています。韓国は、以前から中国に従属しようとしている国です。

北朝鮮の核は、日米だけではなく、中国にとっても大きな脅威なのです。もし、北に核がなければ、はやい時期に朝鮮半島は中国のものになっていたか、傀儡政権によって南北統一がなされていたかもしれません。これは、最悪の事態です。

であれば、現在中国と対立している米国からすれば、米国に到達するICBMは別にして、北朝鮮に現在ある中短距離核ミサイルは中国に対する牽制になります。

そのため、今回の米朝首脳会談では、ICBMの撤去を最初に行い、中短距離は後でということになる可能性が高いです。

日本人の大半は金儲けを最優先する投資ファンドの動きについていけないのと同様に、軍事戦略的そのものに抵抗を感じるでしょうし、このような米国や北朝鮮の動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これも世界の現実なのです。

21日には、トランプ大統領がTwitterで「第3回目の会談開催の可能性」を示唆しました。これは、第3回目の可能性をテーブルに挙げておくことで、米国が満足する結果が得られるまで、延々と会談は続けられ、それまでは対北朝鮮制裁の締め付けは緩めないというメッセージであると考えられます。

そして、報道されない現状として、米軍の攻撃部隊がアジアに集結してきているという事実もあります。これは、第2回首脳会談の結果次第では、米国は対北朝鮮攻撃に踏み切るという無言のプレッシャーでしょう。つまり、表向きに伝えられているよりも、米朝間の関係をめぐる緊張感は思いのほか高まっているのです。

そして、その緊張感は、北朝鮮側に立っている中国やロシアの動きを封じ込める役割も果たしています。両国とも米国が北朝鮮を攻撃するという事態は最悪のシナリオとなり、さらに朝鮮戦争時と違い、とても迎え撃つことはできないため、27日までは両国とも沈黙を保っています。同時に考え得る混乱に備え、すでに中朝国境やロシア・北朝鮮国境付近には、北朝鮮からの難民の流入を阻止するために軍隊が配備されています。つまり、北朝鮮は実際には孤立しているとも言えます。

しかし、その孤立を和らげているのが、文大統領率いる韓国政府です。国連安全保障理事会で合意された対北朝鮮制裁の内容に公然と違反して、包囲網を破っていますし、同盟国であるはずの日米両国をあの手この手で激怒させて、意図的に長年の友人を遠ざける戦略を取っています。その反面、北朝鮮との融和をどんどん進め、もしかしたら朝鮮半島の統一は近いのではないか、との幻覚を抱かせる効果も出ています。

それを演出しているのは、中国でしょう。日米韓の同盟は長年、中国にとってはとても目障りな存在でしたが、このところ韓国が日米に反抗するようになり、同盟の基盤が崩れ去る中、中国にとっては国家安全保障上の懸念が薄まってきています。北東アジア地域における覇権を握るために、北朝鮮を通じて韓国に働きかけを行い、日米の影響力を削ごうとする願いが見え隠れしているように思います。

もし、米国が従来通りに北朝鮮への攻撃をためらってくれるのであれば、中国の思惑通りに進みますが、仮にトランプ大統領が攻撃にゴーサインを出してしまったら、中国は究極の選択を迫られることになります。それは、あくまでも北朝鮮の後ろ盾として米国への対抗姿勢を貫くか、もしくは、北朝鮮・韓国を見捨てて自らの安全保障・存続を選ぶかの2択です。普通に考えると後者を選択するでしょうが、今、それが許されるための手はずを整えているように思います。

では、そのような際に日本はどうでしょうか?まず拉致問題については、直接的かつ迅速な解決は望めないと思いますが、第1回首脳会談と同じく、トランプ大統領が拉致問題の解決の重要性を強調することには変わりないと思われるため、何らかのブレイクスルーが起こるかもしれません。

また、メディアでは悲観的かつ絶望的な見方が多数を占めていますが、実際には水面下で日朝首脳会談に向けた調整も行われており、北朝鮮の経済的な発展へのサポートの見返りに、拉致問題に関わる様々な問題に対する“答え”を得るという折衝も続けられていますので、第2回米朝首脳会談に対しては大いに期待していることと思います。

そして第2回米朝首脳会談が終わる2月28日は、いみじくも米中貿易戦争における報復関税猶予期間の最終日ですので、第2回米朝首脳会談の結果は、米中が様々な局面で争う新冷戦時代に大きな影響力を与えることにもなりかねません。

明日から運命の会談は開催されますが、どのような結果になるのか、固唾を飲んで見守りたいと思います。

この首脳会談の結果が出次第、日本としては国際政治経済ならびに安全保証の動きを冷静にとらえ、北朝鮮に対する戦略を練り直す必要があるでしょう。

仲が良いと思っていた金委員長と韓国の文在寅大統領がある日突然離反し、北と米国が、中国に対峙するという観点から急接近するかもしれません。あるいは、大方の予想を裏切り米国が最終的に北に対して軍事攻撃をするかもしれません。そうなれば、朝鮮戦争当時とは違い今ややり返す力のない中国やロシアは仰天することでしょう。

特に、中国にはかなりの見せしめになります。習近平は、金正恩や金正日と同じ恐怖を味わうことになります。ありとあらゆる状況を視野に入れておくべきです。「想定外」では済まされないです。

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2019年2月2日土曜日

トランプ氏、米のみの制限を認めず 「全核保有国の新条約を」INF破棄で―【私の論評】今回の破棄は、日本の安保にも関わる重要な決断(゚д゚)!

トランプ氏、米のみの制限を認めず 「全核保有国の新条約を」INF破棄で

演説前に眉を整えるトランプ大統領=1日,ホワイトハウス

    トランプ米大統領は1日、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を同日発表したことに関連し、ホワイトハウスで記者団に対し、「全ての核保有国を集めて新しい条約を結ぶ方が(米露2国間よりも)はるかにましだし、見てみたい」と述べた。

 トランプ氏は一方で、「条約は全ての国が順守しなければならないが、一部の国は条約など存在しないかのような振る舞いをする」と指摘し、ロシアのINF条約違反を批判した。

 同氏はその上で、「全ての国が同意する新条約ができたとしても、他国が条約を守らない一方で米国の行動が制限され、不利な立場に陥るようなことがあってはならない」と強調した。

 一方、トランプ政権高官は1日の電話記者会見で、米国が条約破棄を2日に通告し、6カ月後に失効するまでの期間が「ロシアが条約を順守する唯一にして最後のチャンスだ」と訴えた。ただ、これまでにロシアは条約を順守する意向を示していないとしている。

 同高官はまた、2021年2月に期限を迎える米露の新戦略兵器削減条約(新START)の延長の是非について、関係省庁が検討を始めたことを明らかにした。新STARTは、米露が合意すれば5年間の延長が可能となる。

【私の論評】今回のINF破棄は、日本の安保にも関わる重要な決断(゚д゚)!

トランプ大統領の決定は単なる無謀な核軍拡競争につながり、日本、そして世界にとって迷惑なものなのでしょうか。 

この認識は、はっきりいって間違いです。なぜなら、ソ連時代は極東になかった中距離核ミサイルが、今では北朝鮮と中国に100基以上も存在するようになっているからです。

東アジアの核戦力配置図 クリックすると拡大します

1987年の合意以降、米ソ双方は中距離核ミサイルをかなり撤廃しました。ところがその後、周辺諸国の各配備によりロシアが割を食うことが増えたのです。そして今では日米にとっても、「中国の中距離核ミサイル」という新たな要因が登場しているます。

双方とも相手を表向きは「お前こそ条約に違反して中距離核ミサイルを開発しているではないか」と非難していますが、1987年の合意見直しは、今や米ロ双方にとって必要になったのです。

1987年の合意後、ロシア周辺の諸国が中距離核ミサイルの開発・配備を始めたのです。それは、中国、イラン、北朝鮮による、米国を狙う長距離核ミサイル開発の途上の成果でもあったし、パキスタン、インド(そしておそらくイスラエルのもの)等紛争を抱える隣国を狙ったものでもありました。これは、直接ロシアを狙ったものではありませんが、ロシアにとって脅威になったのはいうまでもありません。

ロシアはこれらの国と紛争になった場合、米国向けの長距離核ミサイルICBMを使うわけにはいかないです。と言うのは、これが発射された瞬間、上空の米国の衛星が探知して、米国はこれを米国向けのものと誤認、対応した行動をとってくるからです。

こうしてロシアは、中国やイランの核ミサイルに対して抑止手段を持たない状況に陥ったのです。中ロは準同盟国同士と言っても、互いに信用はしていません。今でもロシア軍は、極東・シベリア方面での演習では、「国境を越えて押し寄せる大軍」に対して戦術核兵器(小型で都市は破壊できないが、大軍を一度に無力化できる)を使用するシナリオを使っています。

これに加えてブッシュ政権のチェイニー副大統領は、東欧諸国に「イランのミサイルを撃ち落とすため」と称して、ミサイル防御ミサイル(MD)の配備を始める構えを見せました。

これは防御と言いながら、実質的にはかつて廃棄したパーシング2ミサイルの技術を使ったミサイルで、容易にロシアを標的とした中距離核ミサイルとなり得るとロシアは判断したようです。

カリーブルを発射したロシアの駆逐艦

「ロシアが秘密裏にINF開発のための実験をしている」と米国が言い始めたのはこの頃、つまり2000年代初頭のことです。ロシアはそれを否定しつつ、実は開発にはげみ、その成果は中距離巡航ミサイル「カリーブル」等として実りました。

カリーブルは2017年12月、ボルガ河口のロシア軍艦から発射され(1987年のINF全廃条約は「陸上」配備のものしか規制していません。水上から撃てば違反ではない、という理屈)、みごとはるか遠くのシリアに着弾したとされています。

今やロシアは中距離核ミサイルを再び手に入れて、これを極東に配備すれば中国、北朝鮮、韓国、グアム、日本を射程に収めることができるようになったのです。

米オバマ前大統領は国防支出を削減、特に核兵器の近代化を止めました。その間、ロシアは、中距離核兵器だけでなく、長距離核戦力を制限する新START条約の枠内ではありましたが、長距離ICBM、潜水艦発射の長距離SLBMの近代化を着々と進めました。経済力のないロシア(GDPは韓国と同程度)は、核戦力でしか米国との同等性を確保できないからです。

だからトランプは大統領に就任早々、核軍備充実を公約のようにして言及し続けてきました。今回のINF全廃条約脱退は、ボルトン大統領安全保障問題補佐官等、かつてのチェイニー副大統領のラインを受け継ぐ超保守派の進言によるものとも言われています。

しかし、これはトランプ自身の信念を反映していると見られ、たとえこの先ボルトンが更迭されても政策の大元は揺るがないでしょう。

すると、米国の新型中距離核ミサイルはまたドイツ等西欧諸国に配備されることになり、轟然たる反米、反核運動を引き起こすのでしょうか。 

おそらくそうはならないでしょう。と言うのは、中距離の核弾頭つき巡航ミサイルや弾道ミサイルは冷戦時代に米国がそうしていたように、西側原潜に搭載して、北極海に潜航させておけば、ロシアを牽制することができるからです。

だからこそ、昨年10月27年ぶりに、米軍空母が北極海で演習し、力をロシアに誇示したのでしょう。これまでも長距離核ミサイルを搭載した原潜の潜航海域を確保することは、米国、ソ連・ロシア、そして中国(南シナ海がその海域にあたる)にとって重要な問題でしたが、今度は中距離核ミサイル搭載原潜の潜航海域を確保することが必要になっているのです。

昨年北極海で演習した米空母ハリー・S・トルーマン

冷戦時代には、ソ連のINFが極東に配備されなかったことで、ソ連の核の脅威は日本には直接及びことはありませんでした。

しかし現在の最大の問題は、北朝鮮の核は言うに及ばず、中国保有の中距離核ミサイルです。

後者は100発を越えるものと推定されていて、中国軍による台湾武力統合などの有事には、日本が米軍を支援するのを止めるため、中国は中距離核ミサイルで日本の戦略拠点、米軍、自衛隊の基地を狙うことでしょう。

こういう時に、「お前が撃つなら、俺も撃つぞ」と言って中国を思いとどまらせることのできる抑止用の核兵器は、今、西太平洋の米軍にわずかしかありません。

かつてはトマホークという核弾頭つき巡航ミサイルが米国原潜等に配備されていたのだですが、これはブッシュ時代の決定でオバマ政権が廃棄してしまったままになっているのです。

これでは、日本は有事に米国との同盟義務を果たすことはできず、米国は日本を見捨てて裸のままに放置することになるでしょう。中国は日本に中立の地位を認めることなく、政治・経済・軍事、あらゆる面で服属を求めてくるでしょう。

そうなると、日本も核抑止力を強化せざるを得ないです。しかし、日本本土に米国の中距離核ミサイルを配備することは、ドイツ以上に難しいです。それに陸上に核ミサイルを配備することは、敵の先制・報復攻撃を容易にして、危険です。

いま米国が開発しようとしている、トマホーク巡航ミサイル新型は海中の潜水艦、あるいはグアムの爆撃機や戦闘機に装備するのが妥当です。

しかし、米国は日本に開発の費用分担を求めてくるでしょう。それは当然のことです。このままでは日本は、中国の属国になってしまう可能性もあります。

しかし日本を守ることは、米国の利益にもなります。在日の米軍基地は、米軍が西太平洋、そしてインド洋方面に展開するに当たって、不可欠の補修・兵站基地となっていますし、日本や西欧等の同盟国が、中国やロシアの中距離核ミサイルに脅されて次々に同盟関係から「脱退」したら、米国は本当の裸の王様になってしまうからです。日本は費用を分担するが、何か見返りに米国から獲得しておくべきでしょう。

ドイツには、昔から米国が置いている「戦術」核弾頭が今でも数十発あるが、これはDual Keyと言って、実戦に使用する時にはドイツ、米国両国政府の合意が必要になっています。ドイツ政府も、これの使用を積極的に米国に発議できるようになっているのです。そして米政府はドイツ政府の了解なしには、これを使用できないです。日本もこのような権利を得るべきです。

そして将来的には、日本も核兵器を開発する可能性の余地を残すのです。その「可能性」自体が抑止力になります。インドが、核ミサイルを保有していながら米国と原子力協力協定を結んでいることを念頭に置くべきです。

なお、中ロ両国周辺の海域は、米国原潜からの中距離核ミサイル発射拠点として、中ロ両国にとって戦略的意味を増していくことになるでしょう。米空母が北極海でわざわざ演習するのは、そういう意味を持っているのです。

長距離の戦略核兵器については、米ロ双方とも増強・近代化というトレンドは中距離核戦力と同じですが、こちらの方は別の条約が機能しており、長距離とは別の問題となります。2021年には失効するので、更新が必要となります。

いずれにしても、今回のロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄は、トランプがやみくもに核増強に突っ走ろうとしている等という単純な話ではないのです。

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2019年2月1日金曜日

トランプ氏「大きく進展」 米中貿易協議、首脳会談調整へ―【私の論評】「灰色のサイ」がいつ暴れだしてもおかしくない中国(゚д゚)!

トランプ氏「大きく進展」 米中貿易協議、首脳会談調整へ

1月31日、ホワイトハウスで劉鶴副首相(左端)と面会するトランプ大統領

 米国と中国の両政府による閣僚級貿易協議が1月31日、2日間の日程を終えた。トランプ米大統領は同日、中国代表団を率いる劉鶴副首相と会談し、中国の知的財産権侵害問題などをめぐり、「極めて大きな進展があった」と協議成果を評価した。一方で「いくつかの重要な問題」を積み残したとして、妥結に向けて中国の習近平国家主席と会談する意向を表明した。

 トランプ氏は劉氏とホワイトハウスの大統領執務室で面会。中国側が表明した米国産大豆の大規模購入に

 具体的な米中首脳会談の日程や場所は、まだ中国と話し合っていないとした。

 米政府は協議終了後に声明を発表し、「議論が広範な論点に及んだ」と指摘。中国による技術移転の強要や市場開放のほか、米国産品の購入拡大による貿易不均衡の是正を話し合ったことを明らかにした。

 声明で米政府は「あらゆる合意事項は完全に順守されることで両当事者が一致した」とした。トランプ政権内には、通商問題をめぐる過去の米中合意が守られてこなかったとして、合意内容を強制執行する仕組みを最終合意に盛り込むよう要求する意見がある。

 一方、声明には「(昨年12月の)首脳会談で合意した3月1日は厳格な交渉期限だ」と明記。期限延長の可能性を否定した。最終合意までに「さらなる作業が残っている」とも述べた。

 ロイター通信によると、閣僚級協議の米側代表である通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は、中国側から2月中旬に米交渉団が訪中するよう招請を受けたと明らかにした。

 米中は昨年12月の首脳会談で90日間の協議期限を設定。米国は協議中の対中制裁強化を猶予するとした。ただし3月1日までの期限内に合意できない場合、米国は中国からの2千億ドル(約21兆8千億円)相当の輸入品に課した10%の制裁関税を25%に引き上げる。

【私の論評】「灰色のサイ」がいつ暴れだしてもおかしくない中国(゚д゚)!

閣僚級貿易協議に先立ち、米国のトランプ大統領は、3月1日が中国との通商協議の厳格な期限だと述べ、期限までに合意に達しない場合は中国製品への関税を引き上げるとの見解を明らかにし。ホワイトハウスが31日明らかにしました。

トランプ大統領

ホワイトハウスは、現在ワシントンで行われている米中通商協議について「トランプ大統領は、(12月の)ブエノスアイレスにおける両国首脳会談で合意した90日の猶予期間は厳格な期限であり、米中が3月1日までに満足できる結果に達しなければ、米国は中国製品への関税を引き上げると繰り返した」と述べました。

米国の景気は、昨年はまずまずというところで、特に雇用がさらに改善されました。2019年には、景気を良くしたいトランプ陣営の政策と、それを抑制するFRBの政策とのバランス、また、2020年8月の東京オリンピック後の日本の政策や2020年11月のアメリカ大統領選挙の動向によって今後の流れが定まって来るのでしょうが、今のところは小さなものはいくつかはあるものの、大きな懸念材料はありません。

習近平

一方、中国の習近平国家主席は1月21日、甚大な影響をもたらす想定外の事態を意味する「ブラックスワン(黒い白鳥)」に警戒するとともに、顕著であるにもかかわらず看過されているリスクを指す「灰色のサイ」を回避する必要があるとの認識を示しました。国営新華社通信が報じましたた。

中国は昨年の経済成長率が28年ぶりの低水準を記録するなど、景気の失速ぶりが目立っています。

習氏は、経済動向が妥当な範囲内に収まる見通しで、中小企業の金融問題を実利的に解決するほか、雇用の安定を目指し企業支援を強化すると述べました。また多額の負債を抱える「ゾンビ」企業の問題を適切に解消するとしました。

技術上の安全性は国家安全保障の重要部分であり、人工知能(AI)や遺伝子編集、自動運転車(AV)などの分野で法制化を加速すると表明。外部環境が困難かつ複雑となる中で、中国は海外の利益を護るとともに、海外事業やその職員らの安全確保を強化するとしています。

灰色のサイ

本日は中国の「灰色のサイ」について掲載します。

「灰色のサイ」という概念は、米国の学者ミシェル・ウッカー氏が2013年1月にダボス世界経済フォーラムで提起したものです。

『灰色のサイ:発生する確率の高い危機にどう対処するか』は、彼女の著作ですが、それによると、「ブラックスワン」は発生する確率は低いが大きな影響を与える事件のことであり、「灰色のサイ」とは発生する確率が高い上に影響も大きな潜在的リスクのことです。

予兆は目にしていたのに、防ぎきれない

灰色のサイはアフリカの草原で成長し、体が並外れて大きくて重く、反応も遅いです。我々が遠くから見ていても、サイは全く気に留めないです。

しかし、サイは一旦狂ったように走り出すと、一直線に猛突進し、その爆発的な攻撃力の前に、我々はあまりにも突如過ぎて防ぎきれず、吹き飛ばされて地面に転がってしまいます。

そのように、突如やって来る災厄、もしくはあまりにも小さすぎる問題に端を発している危険ではなく、多くの場合は長きにわたってその予兆を目にしてきたにもかかわらず、注意を払わなかっただけという例えなのです。

言い換えると、金融システムの崩壊のような「ブラックスワン」が突如として到来するのに対し、「灰色のサイ」は長きにわたって積み重なったものがようやく姿を現してくるというものです。

10年前も暴走した「灰色のサイ」

「灰色のサイ」は発生する確率の高いリスクであり、社会の各分野で相次いで登場している。多くの経済事件は、「ブラックスワン」というよりも「灰色のサイ」であり、爆発前にすでに前兆が見られているが、無視されてきた。

例えば、2007年から2008年までの金融危機は、一部の人々にとっては「ブラックスワン」的な事件ですが、大多数の人々にとってこの危機は数多くの「灰色のサイ」が集まった結果でした。早くから警告を示す兆候が見られていたのです。

国際通貨基金と国際決済銀行は危機が発生する前に、継続的に警告を発していました。 2008年1月、世界経済フォーラムはリスク報告で、予想されている不動産市場の衰退、流動性資金の緊縮、そして高止まりしているガソリン価格など、どれも実際に発生して経済崩壊のリスクを押し上げていると指摘していました。

現在、不平等という問題も一種の「灰色のサイ」かもしれないです。この問題も、もはや今に始まったことではないですが、これまでずっと重視されてきませんでした。

金融危機勃発後から今日に至るまで、世界経済でも特に先進経済地域の蘇生は力のない状態のままであり、中流及び貧困層の生活は悪化の一途をたどり、貧富の差は拡大しています。最終的に一連の「ブラックスワン」事件を招く要因の一つになるかもしれないです。

中国人民大学・重陽金融研究院の高級研究員である何帆氏は、「未来経済学において最も重要な問題は収入の不平等であり、この問題は世界経済の頭上にある『ダモクレスの剣』である」と指摘しています。

最大の「サイ」は不動産バブル

現在の中国経済において「灰色のサイ」は何なのでしょうか。

中国金融改革研究院の劉勝軍院長は、不動産バブルこそ疑問の余地なく最大の「灰色のサイ」だと表明しました。「一方では中国の住宅価格のバブル化に関してもはや議論はされていないが、他方では住宅価格の調整や管理がかつてないほど効力が失われており、多くの人々が『住宅価格は二度と下がらない』という錯覚に陥っている」と彼は語りました。

2頭目の「灰色のサイ」は通貨、人民元の切り下げです。切り下げによる資金の流出は1997年のアジア金融危機のような大きな動揺を引き起こすことになるでしょう。過去数年、中国内資産価格の高止まりや経済成長の減速、経済モデルチェンジの不確実性などの要素の影響で人民元の切り下げ予想が形成され、外貨準備高が4兆ドルから3兆ドルに減少するという事態を招きました。

最近の外貨準備高はやや安定しているとはいえ、それは主に為替管理を強化した結果であり、人民元切り下げの予想はまだ完全に払拭されていません。

3頭目の「灰色のサイ」は、銀行の不良資産の増加です。現在、政府側が公表した銀行の不良資産率は2%前後で、これは非常に良い数字です。しかし、株式市場の銀行株の株価から見ると、不良率は明らかに低く見積もられています。

多くの銀行株の実勢利回りのPE値(株式の時価と純利益の比)は5倍前後で、今のところA株式市場の株価収益率の中央値の60倍以上。銀行株のP/B値(一株当たりの株価と一株当たりの純資産の比率)は2倍以下です。これは、株価がすでに一株当たりの純資産を下回っていることを意味しています。

米国に似てきた住宅ローン事情

最大の「灰色のサイ」と見なされている不動産バブルについて、天風証券マクロ分析チームは米国の金融危機を鑑に、中国の住宅価格における「セーフティクッションの厚さ」を分析しました。

米国の家庭での住宅ローン支出の平均と世帯収入の比率は、2000年以降急速に上昇し、2000年の時点でこの指標は65%でしたが、2006年にはすでに99%に達しており、住宅ローンによる圧力の限界に限りなく近づいていました。

世帯収入の全てを住宅ローン支出につぎ込むならば、家計が崩壊するのは時間の問題です。2007年に米国の家庭での住宅ローン支出の平均と世帯収入の比率は101%に達し、極限点を超えると同時に危機が発生しまし。

中国の家庭の住宅ローン支出と世帯収入の比率は、2006年から2016年までに33%から67%に上昇しまし。2013年から2016年までの間に、不動産価格も大幅に上昇しました。その様相は、2001年から2004年にかけて、米国の国民が積極的にレバレッジをかけた過程と似ています。

世帯における債務という観点から見れば、2016年の中国は2004年の米国にかなり似ています。2016年下半期に中国は通貨政策の緊縮と住宅購入制限政策を打ち出したのに伴い、中国の世帯においても能動的なレバレッジから受動的なレバレッジに変わりつつありますが、住宅ローン支出と世帯収入の比率は、その後も上昇を続けています。

これについては、以前このブログにも掲載しましたが、中国の蘇寧金融研究院は昨年、家計債務の増加ペースが非常に速いとの見解を示しました。過去10年間において、部門別債務比率をみると、家計等の債務比率は20%から50%以上に膨張しました。一方、米国では、同20%から50%に拡大するまで40年かかりました。

今や中国の家計の債務費比率は、リーマンショック時の米国と同水準になっているのです。
天風証券は、「これは良い兆候ではなく、中国の『灰色のサイ』が動き出したのかもしれない」と見ています。まさらにいつサイが暴走しないとも言い切れない状態になっています。

米国に経済制裁を挑まれている現在、「灰色のサイ」が暴れまくることになれば、習近平はさらに苦しい対応を迫られることになります。

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2018年12月21日金曜日

トランプ氏が“マティス斬り” 軍事シフト加速か 識者「中国の挑発に『やられたらやり返す!』も…」―【私の論評】辞任の直接の原因はシリア対応、日本にも無関係ではない(゚д゚)!


ついにマティス氏(左)も辞任へ。トランプ政権はどちらへ進むのか

ドナルド・トランプ米大統領は20日(米国時間)、ジェームズ・マティス国防長官が来年2月末に退任するとツイッターで明らかにした。「狂犬」の異名を持つマティス氏だが、実は国際協調派で、暴走傾向のあるトランプ政権に、外交・安全保障上の安定感を与えてきた。トランプ氏が今後、中国や北朝鮮に対する軍事シフトを加速させる恐れもありそうだ。

 《マティス将軍は、同盟国やほかの国々に対し、軍事的義務を負担させるという面で、大いに私を助けてくれた。新任の国防長官は間もなく指名することになるだろう。私はジムの献身に深く感謝している!》

 トランプ氏は、マティス氏について、ツイッターでこう褒めたたえた。だが、2人の関係は悪化が伝えられていた。

 トランプ氏が19日に決断したシリアからの米軍撤収をめぐっても、「マティス氏が反対していた」と報じられた。マティス氏は20日、トランプ氏に宛てた辞表に、「あなたには、自身の考えに沿った国防長官を任命できる権利がある」と書き記した。抗議の辞任の可能性もある。


 トランプ政権では、これまで、マティス氏に加え、すでに辞任したハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、年末に退任するジョン・ケリー大統領首席補佐官の「将軍3人組」が幹部として影響力を発揮してきた。

 マティス氏が2月末に去ることで、トランプ政権の性質はどう変わるのか。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「下院の多数派を民主党が握っているため、後任には議会対策ができる人間や、次期大統領選を見据えて政治的動きのできる人間をあてるのではないか。北朝鮮に対する先制攻撃を唱えていたジョン・ボルトン大統領補佐官の影響力が高まることが予想され、北朝鮮に対する抑止力が増すことになるだろう」と話す。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「例えば、南シナ海で中国による挑発的行動があったとき、これまで『重し』となっていたマティス氏の不在というリスクがあるだろう。トランプ氏が感情的に『やられたらやり返す!』的な対応を取る事態が起こり得るのではないか。その矛先は、北朝鮮やロシアを含めて、どこに向かうかは分からない」と語った。
【私の論評】辞任の直接の原因はシリア対応、日本にも無関係ではない(゚д゚)!
マティス国防長官


マティス氏の辞任の直接のきっかけは、トランプ氏が19日に決断したシリアからの米軍撤収にあるようです。
マティス氏は20日公表したトランプ氏あての辞表で、「大統領は自身の考えに沿った国防長官を任命する権利があり、私が辞任するのが適切だと判断した」と述べ、トランプ氏との国防政策をめぐる見解の相違を理由とした自発的な辞任だと強調しました。

マティス氏はまた、「米国は他国との共同防衛に全ての力を傾注しなくてはならない。(イスラム教スンニ派過激組織)『イスラム国』(IS)支配の象徴の撲滅に向けた74カ国の連合が証左だ」とし、シリアで米軍が果たした役割の重要性を指摘しました。

米政権高官がロイター通信などに明らかにしたところでは、マティス氏は20日、ホワイトハウスを訪れトランプ氏に辞任の意思を直接伝えました。マティス氏はシリアから米軍を撤収させないようトランプ氏を説得しようとしましたが、同氏は聞き入れなかったといいます。

トランプ氏は20日、ツイッターでシリア駐留米軍(約2600人規模)の撤収に関し「兵士の命を守り、何十億ドルも節約できる。なぜシリアやロシア、イラン、地元勢力のために『イスラム国』を殺害しなくてはならないのか」と主張。また、米メディアは同日、トランプ氏がアフガン駐留米軍(約1万4千人規模)のほぼ半数を撤収させることを本格的に検討していると報じていました。

サンダース大統領報道官は19日に声明を発表し、「アメリカは過激派組織ISIL(アイシル)を打倒した」として、シリア駐留アメリカ軍の撤収を開始したと表明しました。
米国国防総省のホワイト報道官も19日、アメリカ軍の部隊をシリアから帰還させる作業に着手したことを発表しています。

サンダース大統領報道官

これはかなり大きなニュースです。ただし、ISILは確かに打倒されたのかもしれませんが、シリア情勢はますます悪くなって来ています。このなかで、どうしてトランプ政権が2,000人以上の大隊を撤収するのでしょうか。

これを世界がどのように受け止めたのかということになると、トランプ政権はやはりアメリカファーストなのだということなのかもしれません。トランプ氏としては、米国の貴重な戦力を中東のような、トランプ大統領から見るとそれほど決定的な国益が掛かっていない地域には置いておく必要がないということです。

確かに大きな流れでそういうことかもしれませんが、しかし日本や東アジアを含め多くの国々が、米国はこの時期に海外から兵を引くのは無責任ではないかということになってしまいます。

朝鮮半島には在韓米軍がいて、大きな寄りどころになっていますが、ここからも兵を引くのかもしれないです。現にトランプ大統領の選挙戦を通じて、そのことをほのめかしています。一言で言うと、世界はトランプ大統領のダンケルク撤退作戦を恐れていることになります。

ダンケルクから撤退するイギリス軍

ちなみにこれは、第二次世界大戦の西部戦線における戦闘の一つで、ドイツ軍のフランス侵攻の1940年5月24日から6月4日の間に起こった戦闘です。追い詰められた英仏軍は、この戦闘でドイツ軍の攻勢を防ぎながら、輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などすべてを動員して、イギリス本国(グレートブリテン島)に向けて40万人の将兵を脱出させる作戦(ダイナモ作戦)を実行し成功しました。

米国が今の時期にそのようなことをすればどうなるでしょうか。先程、シリア情勢については、楽観できないと述べました。シリアのアサド大統領は化学兵器を自国民に使ったかもしれないと言われていますが、そのアサド政権の背後に誰がいるのかと言うと、強権的なロシアのプーチン政権です。

これだけならまだしも、ロシアのプーチン政権と手を結んでいるのが、核開発の疑惑がある隣国のイランです。イランはシーア派の大国です。

このロシアとイランは、シリア情勢で手を結んでいます。よく「テヘラン・モスクワ枢軸」と言われます。いま中露も接近していますから、これに加えて「テヘラン・モスクワ・北京枢軸」というものがうっすらと見えてすらいます。北朝鮮の影すらあります。このような状況のなかで、明らかにシリアでのプーチン大統領とイランの勢力が強まってしまいます。

ロシアとイランとは、トランプ政権は激しく対立しています。にもかかわらず、米軍がイラクから撤退すれば、発言力が無くなってしまうというようなことが起こり得ます。アメリカファースト、トランプ政権のダンケルク撤退作戦が世界の政局に大きくインパクトを与えるのは、誰が考えてもわかります。

ダンケルク撤退の当時は、陸上の大国だったドイツがどんどん台頭して来るなかで、海洋国家英国が海の外へ引くという作戦だでした。同じように、現在陸上の軍事大国(経済大国ではない)であるロシアがアサド政権と組んで、日米英などの海洋国家と2つに分かれつつあるということなのかもしれません。

現在のように米中、米露の衝突と言われる中で、イラクから米国が実力部隊を退くのが良いのかどうかは判断に苦しむところです。日本では「戦争が起こらなければ良い」と言う論調が大きい思います。

米国では、その世論がさらに強いので、トランプ大統領は、撤兵を単純良いことだと思ってしまったのかもしれません。しかしその結果はやがて日本をはじめとする他国にも押し寄せて来る可能性は否定できません。世界はこれを心配していると思います。

マティス氏は、これをなんとかトランプ大統領に理解してもらおうと思ったのでしょうが、それは叶わなかったのです。

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2018年9月11日火曜日

【永田町・霞が関インサイド】試練の日米首脳会談、安倍首相はトランプ氏を「説得」できるか―【私の論評】この心配は杞憂に終わらさなければならない(゚д゚)!

【永田町・霞が関インサイド】試練の日米首脳会談、安倍首相はトランプ氏を「説得」できるか

安倍首相(左)と相性のいいトランプ氏だが、貿易対決を視野に入れているのか
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 安倍晋三首相は23日午前、国連総会出席のため政府専用機で羽田空港をニューヨークに向けて発つ。そして、日米首脳会談前日の24日、ニュージャージー州にある「トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ」(ベッドミンスター)で、ドナルド・トランプ大統領と一緒にラウンドする。

 同ゴルフ場は、全米女子オープンが開催される名門コースである。

 昨年11月のアジア歴訪初日、東京都の米空軍横田基地に降り立ったトランプ氏は大統領専用ヘリコプター「マリーンワン」で、埼玉県川越市の「霞ヶ関カンツリー倶楽部」に向かった。

 安倍首相が東コース8番ホールで素晴らしいティーショットを打ち、トランプ氏は自らの拳を突き出して、安倍首相の拳にタッチした。

 日本では「グータッチ」と言うが、米国では「Fist Bump」と呼ぶ。アスリートや若者によく見られるあいさつである。

 両首脳が互いに「シンゾー」「ドナルド」とファーストネームで呼び合う親しい間柄の象徴とされてきた。では、肝心の安倍・トランプ会談でも、その親しさが継続するのだろうか。

 筆者の関心事は、その一点に尽きる。なぜか。日本の経済界が今、固唾をのんで注視しているのはトランプ氏が対米輸出自動車に追加関税25%を課すのかどうかである。仮に、25%関税が発動されれば、メルセデス・ベンツなど100%完成車を輸出しているドイツはもとより、対米輸出依存度が高い日本も壊滅的なダメージを受ける。

 自動車業界は何とか阻止してほしいというのが本音だ。だからこそ、安倍・トランプ会談に多大な期待をしている。

 日米首脳会談に先立つ21、22両日、ワシントンで第2回日米貿易協議(FFR)が開かれる。茂木敏充経済再生相は6月初旬に続いて、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表とタフな交渉を行う。

ライトハイザー代表

 超ワンマンのトランプ氏に逆らえないライトハイザー氏は、改めて自動車関税を持ち出すだけでなく、日米2国間貿易協定(FTA)を求めるなかで円安規制の「為替条項」にも言及するのではないかと指摘されている。

 日本にとって悪夢と言っていい「ワースト・シナリオ」である。

 そうした中で、米紙ウォールストリート・ジャーナルは、トランプ氏が日本との貿易交渉が不首尾に終われば、安倍首相との友情関係にピリオドを打つと述べたと報じた。

 すべては安倍首相のトランプ氏説得に懸かっているのだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】この心配は杞憂に終わらさなければならない(゚д゚)!

結論からいうと、私自身はこの心配は杞憂に終わるのではないかと思っています。自動車関税に関しては、このブログでも以前述べたように、すでに日本は産業構造をかなり変えて、米国向けの自動車の多くを米国で製造しています。

「為替条項」に関しては、物価目標2%に未だ全く届かない状況なので、日本が円安誘導しているなどということは全くありえないです。

まずは自動車のほうから解説します。これについては、以前もこのブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
【瀕死の習中国】中国国有企業の「負債はケタ違い」 衝撃の欧米リポート―【私の論評】米中貿易戦争にほとんど悪影響を受けない現在の日本の構造上の強み(゚д゚)!
 
円高下で実現した日本のグローバル・サプライチェーンにより、日本は海外で著しく雇用を生む国になっており、それが所得収支の大幅黒字に現れています。故に日本はもはや貿易摩擦の対象にはなりえない国といえます。日本が貿易摩擦フリー化、為替変動フリー化していることがうかがえます。 
・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・・ 
では日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのかといえば、それはハイテク分野の周辺と基盤の分野です。 
デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。 
また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤で見事に生きのびています。 
要するに、日本産業は超円高下で実現したグローバル・サプライチェーンにより、海外で著しく雇用を生む国になったので、米国の経済制裁の対象にはなりにくいということです。

さらに、日本の産業構造は、ハイテクを支える、素材、部品、装置などの基盤や周辺部分で必要不可欠とされる部分に特化しているため、米国の経済制裁の対象とはなりにくい体質になっているのです。

わかりやすく言うと、たとえばアップルがこれから、奇抜でみたこともないような、ガジェットを生み出そうとした場合、日本の素材、部品、装置などが必要不可欠であるということです。

米国が「通商拡大法232条」に基づき日本製アルミ製品に対して10%の追加関税を導入してから6カ月が経過しましたが、アルミ圧延品の対米輸出量に大きな変化はみられていません。

同じく、鉄鋼は7月時点の統計では、米国(11.5万トン、同26.9%減)が3カ月連続の減少となっています。このうち特殊鋼については、米国向けの輸出がどうなっているのか、手元に資料がないのですが、特殊鋼全体の輸出量に目立った変化はみられません。おそらく米国向けもさほど影響がないものと考えられます。

鉄鋼でも、特殊鋼は単価が高いですから、鉄鋼業界というくくりでいうと、米国の追加関税が鉄鋼業界に甚大な影響を与えているということはなさそうです。

実際、もし日本の鉄鋼業界が、苦境におちいっていたとしたら、マスコミもそれを報道にしているでしょうが、未だにそのような報道はありません。

さらに、鉄鋼・アルミは日本で製造したものを輸出しているわけですが、自動車は米国向けは多くが米国内で製造されています。実に米国向け日本車の7割が米国で製造されています。

以下若干古いですが、2015年のデータを用いて説明します。多少古くても、十分エビデンスとして通用すると思います。

日本が国内需要を大幅に超過して400万台のも自動車を生産しているのは事実ですし、それと同じくらい米国が輸入に頼っているのも事実です。日本は160万台を米国に輸出しています。その一方で、およそ390万台を米国で生産しています。先にも述べたように、米国内での雇用も生み出しています。

日本の自動車輸出国別 2015年

台数割合
US1,604,46635%
EU524,77011%
オーストラリア339,8417%
UAE186,7704%
中国169,2894%
サウジアラビア169,0434%
ロシア145,0433%
カナダ144,7623%
メキシコ115,8592%
オマーン99,2272%
合計4,579,078

JAMA Report: Driving America's Automotive Future

JAMAによると、日本メーカーは390万台を北米で生産し北米で販売しています。その割合は北米で販売される日本車の75%になります。同会のデータでは約160万台が北米に輸出されているので、割合としては大体一致します。

また、同会は150万人の雇用を生み出していると報告しています。

The 2015 American-Made Index では主要な車種別の工場労働者数が紹介います。北米で人気の高いトヨタのカムリがChevroletのTraverseのトリプルスコアにもなる7000人も雇用しています。

トランプ大統領は就任前から一貫して、日本がアメリカ車を買わないと述べていました。確かに日本は北米、欧州に比較すると圧倒的に国内メーカーのシェアが高いです。

なぜ日本で「アメ車」が売れないのか。その理由についてBBCは「道路事情がアメリカと異なり、家の前の道路や駐車スペースが狭い」と説明しています。

レポーターが実際にアメリカ車を日本で運転。すると、走行や駐車に苦戦したようです。この点、日本の軽自動車はスムーズにこなすことができ、アメリカ車が日本に向いていないことを紹介しました。

日本の車と比べ、ハンドルの位置が反対だったり、燃費が悪かったりすることにも触れ、性能や様式の違いが売れない要因に挙げられると言及しました。

それに、日本人は外国車を買わないわけではありません。むしろ、ベンツやBMWなどのドイツのメーカーは好まれています。日本で売れる外国車の70%が、ドイツ車だといいます。

過去にはアメリカ車、現在はドイツ車を所有する日本人の女性は、BBCのインタビューに対し、「(アメリカ車は)形は好きだが、乗ると安っぽくて安全と感じない。ドイツ車と比べてサービスが悪い」と話しました。

BBCはさらに、日本はアメリカ車のような輸入自動車に関税をかけていないが、アメリカは日本車の輸入に対して最大25%の関税をかけていると説明。「文句を言うのはやめてドイツ車を見習うべきだ」と言い放ちました。

ニューヨークタイムズも同様に、日本人がアメリカの車を求めていないと指摘しています。

2016年の自動車販売台数の500万台のうち、アメリカ製は1万5000台で、わずか0.3%にとどまります。トヨタの大規模ディーラーがカルフォルニア州で販売する車の数よりも少ないといいます。

東京都町田市で、24年前からアメリカ車専門ディーラーを営む男性は、「当時はすぐ故障し、よく客に怒られた。同じ値段だったら、日本車の方がお得だ」と、ニューヨークタイムズの取材に対して答えています。

同紙は、アメリカの自動車が、信頼性が低く燃費が悪いというイメージがついてしまっているのは問題だと指摘しています。

また、アメリカの車を愛用する男性は「アメリカの自動車メーカーは貿易障壁について文句を言うのをやめ、魅力的な車をつくることに集中するべきだ」と話しました。

こうした報道に対して、Twitter上では「売れないように仕組んでいるわけでもなく、日本人受けするアメ車がない」と賛同する声が相次いでいます。

日本人が外車ではなく、日本車を嗜好するというのは変えようがないわけで、米国の自動車メーカは、日本に車をうりたければ、日本人が好むような車をつくるべきです。トランプ大統領が、もっと日本人はもっと米国車を買えと言ったとしたらこれは、もう内政干渉としかいえません。

以上のことからして、対米輸出自動車に追加関税25%はどう考えても無理があることでしょう。米国側がいえるとすれば、さらに米国内の製造を増やすように勧告できるくらいなものです。

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円安規制の「為替条項」については、問題外です。先にも述べたように、物価目標はなかなか達成できそうにもありません。

量的な金融緩和を拡大すれば、相対的にドルより円が増えます。そうなれば、円が安くなります。円が安くなれば、日本から米国に輸出する場合、相対的に価格が安くなります。一方米国から日本に輸出する場合、相対的に価格が安くなります。

円安になれば、貿易では日本にとって有利、米国にとって不利になるわけです。しかし、日本の金融緩和は円高誘導のために実施しているわけではなく、物価目標を達成するために実施しています。

そうして、物価目標がどうなったかといえば、黒田総裁は3月の時点で、物価目標の2019年度達成を確信し、「その頃には出口策を検討しているはず」と述べていました。

確かに、この時点では、物価目標達成にはかなり自信のほどが伺えました。実際、消費者物価統計では、2月の「帰属家賃を除く総合」が1.8%の上昇と、2%一歩手前まで高まり、「コアコア」も直近半年では年率1%強まで上昇ペースを高めていました。

ところが、3月・4月(東京都区部)の物価統計が、この日銀の期待を打ち砕く結果となりました。実勢としての上昇率を見るために用いられる「季節調整後」の前月比が、3月・4月と続けてマイナスになったのです。

このため、一時半年前比年率で1%に達した「コアコア」は、3月までの半年では年率0.6%に、4月までの半年では年率0.2%に、直近3か月では年率マイナス0.8%に低下しました。

こうした状況を見る限り、2019年度中に2%に高まることは事実上不可能となりました。

これが、2%などとうに通り越して、4%でも超えていれば、米国から為替操作していると言われても仕方ないかもしれませんが、今の現状では、米国側が円安規制の「為替条項」を持ち出すことは到底不可能です。

もし、そんなことを言えば、米国こそ為替操作国ということになってしまいます。なぜなら、米国はリーマン・ショック後にすぐに量的緩和を実施し、インフレ率2%などとうの昔に通り越しているからです。

これだけ、交渉に良い材料が整っているわけですから、安倍総理はトランプ大統領をかなり説得しやすいですし、第2回日米貿易協議(FFR)において、茂木敏充経済再生相はライトハイザー代表を説得しやすいでしょう。

茂木敏充経済再生相

このようなことをいうと、日本は何でも米国の言うとおり、という人もでてくるかもしれませんが、そういう人には言いたいです。TPPはどうなったかと?

それに、トランプ大統領の取り巻きにも日本通がいると思いますから、上記のような客観的データはすぐに提供できるはずです。

この心配は杞憂に終わるでしょうし、杞憂に終わらさなければならないです。そうでなければ、これからも米国に対してしなくても良い譲歩をすることになりかねません。

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2018年8月16日木曜日

トランプ氏、ハイテク分野から中国を締め出し…国防権限法で中国製品の政府機関での使用禁止 島田教授「日本でも対応が必要」―【私の論評】世界は日米英露が協調して中国を叩く体制に入りつつあり(゚д゚)!

トランプ氏、ハイテク分野から中国を締め出し…国防権限法で中国製品の政府機関での使用禁止 島田教授「日本でも対応が必要」

ドナルド・トランプ米大統領が、ハイテク産業からの「中国締め出し」に踏み出した。13日成立した国防権限法で、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)と華為技術(ファーウェイ)の製品について、米政府機関での使用を禁じたのだ。トランプ政権は、両社と中国情報機関との関係を問題視している。機密漏洩防止という安全保障上の観点から、断固たる措置に踏み切った。

「米国は平和国家だが、戦いを余儀なくされれば必ず勝つ」

トランプ氏は13日、ニューヨーク州のフォートドラム陸軍基地で大勢の兵士を前に国防権限法の署名式を開き、こう演説した。

国防権限法に署名したトランプ大統領 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

米国ではこれまでも、ZTEとファーウェイの製品について「情報を不正に改竄(かいざん)したり盗んだりする機能」や「ひそかにスパイ活動を実施する機能」の存在が指摘され、使用が問題視されていた。情報機関の高官が、中国のスマホメーカーによって米国人ユーザーの安全が脅かされるとの見方を示したこともあった。

国防権限法では、両社について「中国情報機関と関連がある」と指摘した。そのうえで、2社の製品を米政府機関が使うことを禁止したほか、その製品を利用する企業との取引を制限した。

同法では、中国が米企業を買収して先端技術を奪うのを阻止するため、対米外国投資委員会(CFIUS)の監視機能を強化し、IT産業への投資に上限を設けることも政府に要請している。

米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「ロシアに加え、中国がさまざまな形で米国に対するハッキングを行っていることが近年、強く主張されている。このため、防御だけでなく、反撃もしていくべきだという流れになっており、国防権限法はその一環だろう」と話す。

米国だけでなく、他国でも中国企業への警戒が進んでいるという。

島田氏は「欧州でも、中国企業によるハイテク分野の買収を阻止する動きがあり、日本だけが遅れ気味となっている。戦略的センシティブな分野では、対応が必要だろう」と指摘した。

【私の論評】世界は日米英露が協調して中国を叩く体制に入りつつあり(゚д゚)!

国防権限法とは、米国政府が国防総省に対して予算権限を与える法律のことです。当該会計年度より5年間にわたり特定の事業計画に対する支出について権限が与えられるもので、年度ごとに制定されます。

今年の7月を皮切りに、国際関係において明らかに構造的変化が起こりました。7月6日米国は支那(中国のこと、以下同じ)に対して貿易戦争を発動しました。これにより、本格的な米中対立の時代が幕開けしました。

ブログ冒頭の記事の国防権限法関連による支那への対応もその一環です。

日本の政財界人のほとんどはこのことをほとんど理解していないようですが、米トランプ政権は、世界の経済ルールを公然と破ってきた支那を徹底的に叩く腹です。

今後は、支那に対して味方をするような経済活動は、米国から反米行動とみなされることになります。

そうして、7月に起きたもう一つの大きな出来事は、米露協調時代が始まったことです。7月16日にはフィランドの首都ヘルシンキで米露首脳会談が開催され、その路線が確定しました。

フィランドの首都ヘルシンキで米露首脳会談で握手するトランプとプーチン

トランプ氏もプーチン氏も、公式にそのような発言はしていませんが、ロシアは米国に協調して世界秩序を再構築する方向に大きく舵をきったものとみられます。

7月には、この大きな2つの出来事が起こったのです。この2つの出来事が、今後の世界情勢を大きく方向づけることになるのです。

今から振り返ると、対中国貿易戦争の開始をトランプ大統領が宣言したのは、今年の3月でした。ところが、実際に開始したのは今年の7月6日です。そうして、この貿易戦争は、本格的な金融制裁も含む、本格的な経済戦争に発展していくことでしょう。

支那経済は、既に落ち込み始めていますが、これから本格的に大きな被害を被ることになります。

これまでの支那の経済的に大発展できたのは、輸出によるドルの獲得と、華僑も含む諸外国からの巨額の投資でした。これにより、支那は巨額のドルを得ることができ、それが経済発展の原動力となり、支那の人民元の信用を高めることになりました。

この巨額のドル獲得能力を破壊しようとするのが、トランプ政権による高関税政策なのです。
この狙いはあくまで、支那に知的所有権や独禁法などの国際ルールを守らせることです。ただし、それは表面上のことで、真の理由は、支那の軍事拡張策を抑制するためです。支那はドル獲得能力をもとに経済を発展させ、それを元に過去30年以上にわたり軍拡を継続してきました。

その結果、南シナ海で傍若無人な軍事行動を行うとともに、日本の尖閣諸島付近で挑発行為を繰り返し、台湾には直接支配をしようと様々な画策をしています。

さらに、一帯一路の巨大プロジェクトにより、世界各地でインフラ投資・開発をし、結局のところ支那の企業に受注させたり、労働者を支那から派遣したりして、当該国の儲けはほんどなく、返済不能とみると、領土を実質的に奪うなどの暴虐の限りをつくしています。

こうした暴虐を繰り返す支那の能力の源泉は巨額のドル獲得能力であり、この能力の源泉を一気に叩き潰してしまおうとするのが、トランプ政権の対支那戦略なのです。

現在支那の経済は急速に縮小しています。企業倒産だけではなく、個人の住宅ローン破産も続出しています。経済悪化にともない支那全土で反政府デモが起きています。その数は今や年間100万件を超えるともいわれています。人口13億人以上の中国でもこれは、破滅的に大きな数字です。

このような支那ですが、この支那が1949年に建国して以来、支那共産党が何故統治の正当性を保つことができたのでしょうか。それは、結局のところ建国からしばらくは、何とか人民を飢えることなく食べさせることができたからです。無論、大躍進等の期間などは、相当の人民が餓死しましたが、それを除くと何とか飢えをしのぐくらいのことはできていました。

そうして、ここ20年くらいは、人民により良い経済生活を約束しそれを維持することができたため、ようやっと統治の正当性が保たれてきたのです。昨日よりは、今日のほうが収入が多く、今日よりは明日の方が豊かな生活が約束されていました。

それどころか、共産党の幹部に取り入ることに成功した人民の中には巨万の富を得るものまであらわれました。こうした人民とっては、支那共産党はなくてはならない存在になりました。

だからこそ、人民の大多数は、共産党の一党独裁、共産党員の横暴と不公正、暴力にも耐えてきたのです。元々、支那には民主政治、自治、言論の自由の伝統もありません。封建制度と呼ばれる分権的自治の伝統もありません。

現在の先進国では当たり前になっている、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もされていません。こんな環境でも、支那人は生きていけるのです。

そのような彼らにとって一番の関心事は経済です。皆、カネが儲かれば、少なくとも昨日より今日が儲かるようになっていれば、人民は大人しくしているというのが、支那の伝統でもあります。

現在まで、支那共産党はこのような人民の行動原理をわきまえで、政治的自由は与えなかったものの、人民各層によりよい経済生活だけは約束し、曲りなりもそれを実現してきました。それが支那共産党の統治の正当性を示す唯一のものでした。

拝金主義が蔓延する中国で中国で実施されている富豪との
お見合いパーティー、審査を経て最終的に候補者12名に絞られる

ただし、その正当性は脆いものであり、それを補うために、支那共産党は意図して意識して、体系的に時間をかけて、反日教育を行ってきました。しかし、それにも限界があります。

かつて、支那では反日サイトが興隆した時期がありましたが、この反日サイトを放置しておくと、結局反政府サイトに変貌してしまうことがしばしば起こったので、しばらく前から中国共産党は反日サイトを強制的に閉じるようにしたため、今日ではみられなくなりました。

また、2012年あたりまでは、中国全土で反日デモが開催されましたが、これもそのまま放置ておくと、反日デモがいつの間にか反政府デモに変わってしまうということが、しばしば起こるようになったため、政府がこれを取り締まるようになったため、現在支那ではほとんど反日デモはみられなくなりました。

2012年あたりまでみられた中国の大規模反日デモ

こうなると、ますます支那共産党の統治の正当性は、経済だけということになってきました。つまり、経済成長ができなくなれば、支那共産党の統治の正当性も失われるのてす。これは他の国では全くみられない、支那独自の現象です。ここがまさにトランプ政権の目の付け所です。

さて、大統領選挙の頃からのトランプ氏の演説等を分析すると、彼がロシアと大きな協調体制を築きたいと考えていたのは確かです。米露が協調して、イスラム過激派や支那を抑え込むというのが、トランプの基本的な世界戦略観です。

この米露協調路線を米国内で妨害しようとする人々が叫んでいたのが現在では、日本の「もりかけ」と同様に何の根拠もないことが明白になった「ロシア・ゲート」でした。

ロシア・ゲートを騒ぎ立てた人々は、反トランプ派であり、それは親支那派であったとみて間違いないです。そうして、問題なのはこれらの人々の中には共和党の一部も含まれていたのです。共和党の中にも、無国籍の大企業を支持するような立場の人々は反トランプでした。

そのような人々は、トランプ大統領がロシアと組むことにかなりの危機感を感じていたものと思います。彼らの頭の中には、かつてのソ連があったものと思います。

しかし現在のロシアは、現在でも世界第2の軍事大国ではありますが、このブログでもたびたび掲載しているように、経済は韓国より少し小さいくらいです。韓国の経済というと、大体東京都と同程度です。

いくら東京都が核武装をしたり、他の軍事力を強化したとしても、米国に伍して、覇権国家になろうと思ってみても土台無理な話です。さらに、人口もこの広大な領土であるにもかかわらず、日本よりわずかに2千万人多い、1億4千万人です。

そんなことよりも、ロシアのプーチンは、米国を中心とする現在の世界秩序をうまく利用しながら、ロシアの権力を少しでも拡大していこうというのがプーチンの基本戦略です。さらにはロシアは、世界で一番長く支那と国境を接しているということから、プーチンは支那の台頭に脅威を感じています。

ところが、習近平は現在の米国を頂点とする世界秩序に挑戦し、かつてのソ連のように、支那が覇権国家になることを目指しています。もし支那が世 界 ナンバー1の覇権国家を目指すというなら、それは米国を妥当しなければ不可能です。 それを習近平はどうどうと宣言しています。プーチンは無論そのようなことは宣言していません。

米国からすれば、ロシアと組み支那を阻害するというのは当然の戦略です。ただし、プーチンはロシアがかつてのソ連のように覇権国家になる夢を完全に捨ててはいないでしょうが、それにしても現在のロシアではどう考えてあと20年は全く無理です。

そんなことよりも、プーチンが何よりも米国に望むのは、経済制裁の解除でしょう。米国の経済制裁により、ロシアの経済成長はほとんどゼロの状態が続いています。米国が解除すれば、EUの対ロシア経済制裁も解除できるでしょう。

一方米国が、ロシアに求めるのには、北朝鮮やイランの核武装の阻止、中東の安定化、イスラム過激派の壊滅、アフガニスタンにおけるアヘン問題などにおけるロシアの全面的な協力です。

世界一の軍事大国である米国と、世界第2の軍事大国であるロシアが協力しなければ、このような地域紛争を安定化させることは難しいです。だからこそ、両国が大き国益を踏まえた上で手を携えたのが7月16日の米露サミットだったのです。

またアジアにおいては、日米英の三国同盟にロシアが協力することになれば、経済的にも軍事的にも、対中国封じ込めは完璧となり、支那の衰退は確定したようなものです。そうして、この路線は日本の安倍総理が目指す路線とも一致しています。

以上のようなかなり大きな構造変化があったのが、今年の7月だったのです。後世の歴史家は、この時を歴史の大きな転換点だったと位置づけることでしょう。

ただし、米国内では未だ反ロシア派が一定の力を持っていることから、トランプ大統領が、今すぐに米露協調路線を全面的に実行することはないでしょうが、両首脳の間ではこの路線が合意されたというのが7月16日だったのです。

いずれにせよ、今後日米英露が協調して中国を叩く体制に入りつつあるとみるべきです。日米の経済力、米露の軍事力、それに加えて英国など有力な他国の協力があれば、支那を叩きのめすことは十分可能です。

ただし、英国とロシアの関係は、英国内でのロシア元スパイ暗殺未遂事件などがあり良くはありませんが、中国に対峙するという共通の目的に向けては十分に協調できると考えられます。その他、フランスも太平洋に領土を持つということから、協力を仰ぐことはできるでしょう。豪州も協力が見込めます。

このあたりを理解しない日本のマスコミは、また米国大統領選でトランプ大統領登場を予測できなかったように、これからも世界情勢を誤って判断して、誤った報道を続けることでしょう。

マスコミは過った判断をしても、それで危機に陥ることはありませんが、支那で活動したり、支那に投資している企業はそうではありません。支那に利する活動をしていると判断されれば、米国の制裁の対象になる可能性も十分あります。国際情勢を見誤れば、とんでもないことになりかねないです。マスコミの無責任な支那報道に惑わされたり、煽られたりせず自ら情報収集し、自ら対処すべきです。

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2018年8月7日火曜日

「貿易戦争に勝利」とのトランプ氏の主張は「希望的観測」=中国紙―【私の論評】トランプ大統領がうつけものでないことに賭けてみる価値は十分にある(゚д゚)!

「貿易戦争に勝利」とのトランプ氏の主張は「希望的観測」=中国紙

米国と中国の国旗

中国の国営英字紙チャイナ・デイリーは社説で、中国株の下落が貿易戦争での米国側の勝利を表しているとのトランプ米大統領の主張について「希望的観測」だと一蹴した。

中国の国営メディアはこれまで米国の政策への直接的な批判を控えてきたが、トランプ氏に対する攻撃的な姿勢を徐々に強めている。

人民日報海外版は6日の論説で、トランプ氏が脅迫や威嚇のドラマを演じていると批判した。

トランプ米大統領は4日、ツイッターで「関税は誰もが予想していたよりはるかに効果を上げている。中国の株式市場は過去4カ月で27%下落した」と述べた。

チャイナ・デイリーはこれに対し、米政府による関税発動の前から中国株は下落していたと指摘。中国株の下落は企業債務削減に向けた中国政府の取り組みが一因との見方を示した。

また、6月の米貿易赤字が前月比7.3%増の463億ドルと4カ月ぶりに増加しており、「関税がはるかに効果を上げている」とのトランプ氏の主張を根底から否定していると指摘した。

チャイナ・デイリーはしばしば、中国政府が国際社会に対してメッセージを発信する際に使われる。

人民日報海外版に掲載された別の論説では、中国商務省系シンクタンクの研究員が、中国は貿易摩擦を乗り切るのに十分な強さと回復力を備えていると主張。「貿易摩擦が複雑化し、国内市場に依存する状況下においても、中国が世界経済や産業システムにおける主導的地位を強化し続けることができると信じる理由がある」と述べた。

【私の論評】トランプ大統領がうつけものでないことに賭けてみる価値は十分にある(゚д゚)!

中国のチャイナ・デイリーが上記のような内容の報道をするということは、中国側は内心ではかなり脅威に感じているということです。

中国ではトランプ氏が脅迫や威嚇のドラマを演じていると報道されていますが、米国内でも、連日トランプは狂人だ、精神病だ、米国大統領としてあるまじき言動で、米国を潰してしまいそうだ。弾劾も考えるべきだと連日のテレビやTwitterで批判されています。

最近トランプがヨーロッパへ訪問した時の各国でのトランプの言動は更に混乱を巻き起こし、批判を浴びました。トランプは米国の知識人からも厳しい批判の矢を受けています。しかしトランプ自身は全く気にしていません。一体トランプの本心はどこにあるのでしょうか。



これまでの戦後のブレトンウッズ体制、GATT、WTO、IMFなどの国際的な仕組みは、米国が世界の中で圧倒的な経済力を持つことを前提にしてつくられたものでした。つまり米国の他国に比較して圧倒的に巨大な経済力をもとに、他国を自分の陣営に固定するために、多くの資本を投下し、金を使ってきたのです。

世界の警察の役も多大の金がかかっていました。米国は、自分の経済力の衰退で、それが従来ほどには出来なくなってきました。トランプは、今の仕組みは他の国のために米国が大枚を払わされ続ける仕組みになっていて、それを変えなければならないと本気で思っているようです。このような考えの上考えでトランプは多大な批判を受けるような発言をしているのです。

つまり、米国の衰退、グローバル化の行き過ぎが、これまでの国際経済の仕組みでは旨く行かず、その「制度疲労」を何とか修復しなければならない時がすで来ており、これをトランプが、「アメリカ・ファースト」と言いながら、変えようとしているのでしょう。


EU自身もその経済的・政治的に構造的な欠陥持っているのですが、誰もそれを正そうとしていません。

近年の技術的、経済的な土台の変化の中で、こうした世界的な経済社会の制度疲労が起こっていて、それを修復しなければならない時に来ているのです。そしてグローバル化の行き過ぎを是正しなければならないのです。

米国自身の「制御装置」の破壊の修復も含めて、これをトランプは模索していると考えられます。これに関して誰が正しい、誰が間違いなどということがまだはっきりわからない段階で、トランプ大統領は、本能的に動物的感覚で、何とか修正しようとしているように見えます。その方向性を、いろいろの利害関係者に暴言に近い本音で脅しをかけ、その反応を見ながら探っているというのが実体であると考えられます。

トランプ大統領は、暴言のように、利己的にみえるように直言します。しかも土建屋的な第六感で動き、相手の出方によってはすぐ前言を翻して、引き下がるか、訂正することもありません。

土建屋の「押して駄目なら引いてみろ」を地で行っているようです。彼は中国の習近平とは異なり失う面子など持っていません。こうしたトランプ大統領の動きは、意外に新しい道を探す良い探索、交渉の方法なのかもしれません。

これまでこのような振る舞いをする大統領はいませんでした。しかし現在のように前例が全く役に立たない、制度疲労した混乱の時代において、これを是正するには、こうした言動が有効なのかもしれません。

これからは古い産業が衰退し、世界はハイテク、サイエンスの開発競争になります。特に中国がこの方向で国を挙げて推し進めていることに、危惧したトランプ大統領はハイテク覇権戦争に挑んでいます。

そこでトランプ大統領は、特に中国がIP(知的所有権)を無視していることに対して、中国を攻撃しているのです。これは、単なる関税戦争、貿易摩擦戦争でありません。関税の引き上げはその暴言の一部であり、関税の引き上げは米国自身も損をすることはトランプ大統領自身もよく分かっていると思います。

1989年のベルリンの壁の崩壊で、米国の敵であったソ連が崩壊しましたが、最近ロシアが、自分の生き残りのために、ヨーロッパのあちこちで戦争屋のような動きをしています。

そのために国際社会が混乱してしまい、難民、テロが生まれています。しかしトランプは、これまでのように単にロシアを叩くのではなく、ロシアと北朝鮮を米国の対中国戦略の舞台に引き込もうとしているように見えます。

トランプ大統領はこれまで土建屋ビジネスで儲けてトランプタワーを建てたのですが、米国の悪質金融資本家の儲けに比べると、トランプ大統領の儲けはごみのようなものです。そのため彼は基本的には悪質金融資本とは一線を画しているようです。

悪質金融資本家はグローバル化を使ってぼろ儲けをしてきました。そうして現在は、グローバル化の行き過ぎを是正しなければならない時です。これは保護主義ではありません。トランプは保護主義が経済をだめにするということぐらい学校で学んできた筈です。

そもそも、貿易赤字自体が悪であるという考え方が間違いであることや、基軸通貨国の経常収支が赤字になりがちであることの理由など知っていると思います。仮に知らなかったにしても、大統領の座についてから、彼のブレーンらに聴いていると思います。

トランプ大統領は「国民中間層を救う」ということで大統領になりました。一部のエリート、金融資本家による金権政治で国民の富が収奪されたのですが、その国民大衆の貧困を救済するというのです。金権政治のエリート層に立ち向かうには、彼らを油断させるため、うつけものをよそう必要があったようです。

トランプ大統領は、米国が世界で突出した経済力を持っていないことを前提として、中国の覇権主義を廃して、米国を頂点とする新たな世界経済の新しい秩序を再び造ろうとしているようです。重要なことはグローバル化の行き過ぎでの是正です。

日米ともに過去には内需を拡大したときが安定成長した

しかも戦争屋の仕掛けを排除することです。うつけもののトランプがそれを実現しようとしているのでしょうか。それならわれわれもトランプを応援しなければならないです。ただし、トランプ大統領が本物ののうつけものである可能性もありますが、それでも誰かが、現在の世界経済の仕組みをここで見たように変えていかなければならないことには変わりありません。

このまま、手をこまねいていては、間違いなく世界の半分は、中国が中国の価値観により、新たな新秩序を確立してしまうかもしれません。それは、世界の半分が闇になることを意味します。ただし、運が良かったことに、中国は現在の段階において、米国を頂点とする世界秩序に対して挑戦するとはっきりと公表しました。

これが、中国が「能ある鷹は爪を隠す」方式で、覇権願法など露ほどもなく、中国は経済発展すれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をなしとげ、先進国と似たような体制になると期待させつつ、経済を拡張し、資金をたくわえ20年後あたりにいきなり、覇権主義を露わにしたとしたら、さすがの米国も太刀打ちできなかったかもしれません。

しかし、現実ではそうではありませんでした。今の段階であれば、十分に中国をまともな体制にするか、あるいは米国を頂点とする戦後秩序に対して、永遠に抗えないほど、中国経済を弱体化すすることができます。

こうしたことを考えると、トランプ大統領がうつけものでないことに賭けてみる価値は十分にあると考えます。

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2018年8月3日金曜日

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【瀕死の習中国】トランプ氏の戦略は「同盟関係の組み替え」か… すべては“中国を追い込む”ため
 
プーチン大統領(左)とトランプ大統領(右)

 ドナルド・トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争によって、新局面が拓(ひら)かれた。

 中国株は2年前の最低値に接近しつつあり、人民元は下落を続けている。対照的に米国株が上昇し、米国ドルが強くなった。原油相場は高値圏に突入した。米中の金利差が縮小したため、中国から外貨がウォール街に還流している。一方で、金価格が下落している。

 市場は微妙なかたちで、世界情勢を反映するのである。

 リベラルな欧米のメディアは相変わらずトランプ批判を続け、フィンランドの首都ヘルシンキにおける米露首脳会談(7月16日)は「大失敗だった」と興奮気味である。

 筆者は、トランプ氏の戦略は、究極的に中国を追い込むことにあり、そのために「同盟関係の組み替え」を行っていると判断している。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会い、体制を保証する示唆を与え、「核実験・ミサイル発射実験の停止」を約束させて、完全非核化まで制裁を解除しないと言明した。北朝鮮の中国離れを引き起こすのが初回会談の目的だった。

 そのことが分かっているからこそ、中国の習近平国家主席は、正恩氏を3回も呼びつけて、真意を執拗(しつよう)に確かめざるを得なかった。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との首脳会談も、長期的戦略で解釈すれば「ロシアの孤立を救い、対中封じ込め戦略の仲間に迎えよう」とする努力なのである。

 カナダでのG7(先進7カ国)首脳会議で、「ロシアのG8復帰」と「制裁解除」をほのめかしていたように、トランプ氏はプーチン氏を次はホワイトハウスに招待すると持ち上げた。

 しかも、ヘルシンキの米露首脳会談では、戦略的核兵器削減交渉の継続で合意している。

 米国政府がもっとも懸念するのは、軍事技術の向上につながる知的財産権の守秘だ。中国による米国ハイテク企業への買収阻止にある。このトランプ氏の考え方は、ロシアにも伝播した。ドイツでも、親中派のメルケル政権のスタンス替えを引き起こした。

 ドイツ政府は、中国煙台市台海集団が狙った、独精密機械メーカー「ライフェルト・メタル・スピニング」の買収を却下する見通しになった。

 このような欧米の変化を、北京は見逃さなかった。

 中国はあれほど激越だった米国批判を抑制し、異様な静けさである。あまつさえ、トランプ氏が批判した「中国製造2025」計画は口にも出さなくなった。「対米交渉のキーパーソン」の地位も、習氏の子飼いの部下、劉鶴副首相から取り上げる動きも表面化している。

 ■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書に『アメリカの「反中」は本気だ!』(ビジネス社)、『習近平の死角』(扶桑社)など多数。

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さて上の宮崎氏の見方、私は正しいものと思います。トランプ氏の戦略は、究極的に中国を追い込むことという見方は特に正しいと思います。

トランプ大統領あるいは、トランプ政権の当面の最大の敵は中国なのです。その理由は簡単です。経済力・軍事力など総合的に判断して、今後米国の敵になりそうなのは、中国だけです。それは以下のグラフをご覧いただければ、十分おわかりいただけるものと思います。

世界の名目GDPランキング(USD、2015年)


世界の名目GDPシェア(%、2015年)

米国は未だに軍事力でも、経済力でも世界一です。その次の経済力ではEUが続くわけですが、これは多くの国々の集合体です。意思決定にもかなり時間がかかりますし、軍事的にも多国籍軍ということですし、NATOを構成していることから米国の敵ではありません。

GDPではその次に中国が続くわけですが、この中国も多民族国家であり、本来中国は一つの国などではなく、各省が一つの国といっても良いくらいの人口を抱えています。その中国は近年、経済を伸ばし、軍事力も急速に伸ばしています。

経済的には、個人あたりのGDPでみれば、日米や、EUと比較しても未だに格段に低いですし、軍事的にみてもまだまだ発展途上にある段階です。とはいいながら、この多民族国家を中国共産党政権が統治をしています。現状のままであれば、20年後くらいには、確実に経済的にも、軍事的にも米国を脅かす存在になります。

日本は、米国の最大の同盟国であり、覇権国家として米国に挑戦しようなどということは、すくなくても今後20年間はないと見て良いです。

さて、次にロシアですが、ロシアについては日本では超大国などとみられていますが、実体はそうではありません。

ロシアは大量の核兵器を保有する核大国ではありますが、もはや経済大国ではありません。ロシアの名目国内総生産(GDP)は1兆5270億ドル(約171兆円)、世界12位にすぎないです。中国の約8分の1にとどまり、韓国さえ若干下回っています。

韓国といえば、韓国のGDPは東京都のそれと同程度です。ロシアのGDPはそれを若干下回るというのですから、どの程度の規模かお分かりになると思います。さらには、人口も1億4千万人であり、これは日本より2千万人多い程度であり、中国などとは比較の対象にもなりません。

輸出産業はといえば、石油と天然ガスなど1次産品が大半を占め、経済は長期低迷を続けています。

ロシアはかつてのソ連をイメージして、超大国の1つに数えられがちですが、実態は汚職と不況、格差拡大にのたうち回っている中進国なのです。そんな国だから、米国に真正面から対決して、世界の覇権を握ろうなどという気はありません。

そんなことよりも、国内の経済を立て直し、さらには台頭する隣国の中国への備えをどうするかというのが最大の課題でしょう。

それに最近は、プーチンのロシア国内での支持率は急速に落ちています。ロシア連邦議会の最大勢力を誇る与党・統一ロシアの人気は、プーチンあってのものでした。ところが、サッカー・ワールドカップ(W杯)の開幕直前に年金受給開始年齢を引き上げる改革案を発表し、急いでそれを可決しようとする議会の動きが伝わると、あらゆる世論調査で統一ロシアとプーチンに対する支持率は急降下しました。
全ロシア世論調査センター(WCIOM)によれば、最新のデータでは、政府の改革案を最も強く推した統一ロシアへの支持率は、37%にまで下落。2011年に記録した史上最低の34.4%に非常に近いです。
プーチン政権に対する支持率低下はさらに激しく、31.1%でした。別の国営調査機関や独立系のレベダ・センターによる調査も、同じような結果になっています。なぜこのようなことになるかといえば、当然のことながら、経済がうまくいっていないからです。
このようなことから、ロシアが世界の覇権国家を目指すというのは当面無理な話です。
では、北朝鮮はどうかといえば、核はあるものの、もともと米国の覇権に挑戦する能力がないことは明白です。そんなことより、米朝交渉は米中関係と連動しているとみるべきです。北朝鮮は米国が中国と本格的な貿易戦争に突入したのを見て、米国に対して強気に出ているようです。
しかし米国からみれば、北朝鮮問題は中国問題の従属関数であり、派生問題に過ぎないです。北朝鮮を片付けようと思えば、中国を本格的片付けなければならず、中国を片付けずに北朝鮮を片付けることはできないとみていることでしょう。
そうなると、米国にとって経済的・軍事的にも20年後あたりに脅威になるのは、中国のみということになります。

そうして、その中国は数年前から、強力な覇権国家目指していることを隠さず公にするようになりました。さらに、最近はっきりと覇権国家を目指すことを公言しました。

それについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明―【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!
ドナルド・トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。
 中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを宣言した。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになる。米中両国の理念の対立がついにグローバルな規模にまで高まり、明確な衝突の形をとってきたといえる。 
 習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道された。同報道によると、習近平氏は6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したという。
米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのである。米国と中国はますます対立を険しくしてきた。
トランプ政権としては、こうした中国の野望を打ち砕くように動くのは当然といえば当然です。そうして、中国の態度は一言でいえば、思い上がりの身の丈知らずというところだと思います。

ここまで、野望を露わにすると、米国にとっても対中国戦略がかなりやりやすくなります。今から10年前あたりに、米国が中国に対峙して、本格的な貿易戦争などをはじめたら、中国はもとより他の多くの国々から反発をくらったことでしょう。しかし、今ならそのようなことはありません。

中国のこの宣言は20年はやすぎたと思います。先ほども述べたように、20年後なら中国は覇権国家を目指すことができた可能性もありますが、現在では全く無理であるにもかかわらず、覇権国家を目指す野望を明らかにしたため、その芽は完璧に米国によって摘み取られようとしているのです。20年後であれば、また違ったことになっていたかもしれません。

米国、特にトランプ政権にとっては、北朝鮮問題もクリミアの問題も、小さなものに過ぎず、本命は中国なのです。中国こそが、米国にとっての安全保証上、そうして経済上の最大の脅威なのです。この問題が解決すれば、他の問題などおのずと解決するか、解決するための労力も少なくてすみます。
そうして、本命の中国への対決へとトランプ政権はシフトしたとみるべきです。要するに、中国成敗を最優先としたのです。
ロシアと対峙し、EUと対峙し、北と対峙しつつ、中国と対峙するようなことをしていては、すべてが虻蜂取らずの結果に終わるのは目に見えています。トランプ以前の大統領は結局そのようなことをして、何も達成できなかったのだと思います。
中国成敗を最優先課題として、これに成功すれば、北朝鮮の問題など自ずから解決するでしょうし、ロシアも中国を成敗した世界の覇者米国に挑むことはないでしょう。そんなことをすれば、ロシアも成敗されてしまいかねません。他の国々も同様です。
トランプ大統領は実業家出身です。実業家は限られた資源の中で、優先順位をはっきりつけて、物事に取り組まない限り成功は覚束きません。米国は軍事的に強大で、富める国ではありますが、その米国でさえ、限界はあります。
経営学の大家ドラッカー氏は優先順位と劣後順位について以下のように述べています。
いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない。(『創造する経営者』)
誰にとっても優先順位の決定は難しくはありません。難しいのは劣後順位の決定。つまり、なすべきでないことの決定です。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきです。このことが劣後順位の決定をためらわせるのです。
優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。
 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 
 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。
 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。
 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。
容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。(『経営者の条件』)
長い間経営者をしていると、ドラッカーの考え方に近づいていくというところがあります。トランプ氏も長い間経営者をしてきた経験から、多数の失敗や成功を積み重ね、ドラッカーの考え方に近い考え方になっているのではないかと思います。
トランプ大統領にとっては、米国を頂点とする戦後秩序に挑戦して、少なくと世界の半分を中国を頂点とする新秩序につくりかえようとする中国に対処することが最優先の課題なのだと思います。
中国の体制を変えるか、弱体化させることを最優先に考えており、他のロシアや北朝鮮の問題などはそれを達成する上での制約要因とみているのです。
米国の未来を考え、機会に焦点をあわせ、独自性を持ち、変革をもたらすには、中国を成敗することこそ最優先課題にしなければならないと決断したのです。
さすが、民間企業の経営者出身のトランプ大統領です。他の元々政治家出身の大統領とは違います。中国成敗が成功しなければ、トランプ大統領は未だ大きな成果をだしたとはいえないと思いますが、この成敗はいまのところ成功しそうな勢いです。
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