2024年3月18日月曜日

【速報】北朝鮮 2回目の弾道ミサイルの可能性があるもの 既にEEZ外に落下か 防衛省―【私の論評】日本は、北のミサイルだけてなく、中国の核とミサイルに備えよ

 【速報】北朝鮮 2回目の弾道ミサイルの可能性があるもの 既にEEZ外に落下か 防衛省


 防衛省は、北朝鮮が再び弾道ミサイルの可能性があるものを発射し、既に落下したとみられると発表しました。

 政府関係者によると、落下したのは日本のEEZ=排他的経済水域の外側とみられるということです。

 岸田総理は参議院予算委員会で、「地域および国際社会の平和と安全を脅かすものであり断じて容認することはできない。今回の弾道ミサイル発射も関連する安保理決議違反であり、強く非難する。北朝鮮に対して既に厳重に抗議を行っている」と述べました。

 また、海上保安庁は「船舶は今後の情報に留意するとともに、落下物を認めた場合は近づくことなく、関連情報を海上保安庁に通報してください」と呼びかけています。

【私の論評】日本は、北のミサイルだけでなく、中国の核とミサイルに備えよ

まとめ
  • 北朝鮮の核・ミサイル能力は、中国の朝鮮半島進出を抑える「緩衝地帯」の役割を果たしてきたという見方がある
  • 北朝鮮が核・ミサイルを持たなければ、朝鮮半島に対する中国の影響力や支配が強まっていた可能性が高い
  • 北朝鮮のミサイル発射には、日本だけでなく中国やロシアに対する牽制の意図もあると考えられる
  • 中国も積極的に核実験やミサイル発射を行っているが、日本ではあまり報道されていない
  • 日本は中国の軍事力増強にもっと注目し、対応を検討する必要がある
北朝鮮の核・ミサイル開発は、確かに地域の不安定要因となっています。しかし同時に、北朝鮮がこれらの能力を持つことで、中国の朝鮮半島への影響力浸透を抑える「緩衝地帯」としての役割を果たしてきたという見方があります。

これについては、このブログでも過去に何回か掲載したことがあります。私は、これが好ましいとか、好ましくない、これを国際社会が認める、認めない等は別にして、厳然たる事実だと思います。北朝鮮のミサイルは、日本や米国だけでなく、北京など中国の主要都市を狙うことができるのです。

北朝鮮は伝統的に中国に対する「懐疑心」を持っており、中国の朝鮮半島支配を警戒してきました。核・ミサイルの保有により、万が一の有事の際に中国の軍事介入を牽制できると考えられています。

このようなことを最初に言い出したのは誰なのか今となっては定かではありませんが、似たようなことを主張をしている人います。

代表的な人物の一人としては、ジョン・ボルトン元米国国家安全保障担当大統領補佐官(2018-2019年)が挙げられます。

ジョン・ボルトン氏

ボルトンは、著書「The Room Where It Happened」(2020年)の中で、次のように述べています。

「北朝鮮の核兵器は、朝鮮半島における中国の影響力拡大を実質的に抑制してきた。北朝鮮は中国の属国になることを恐れており、核兵器は朝鮮半島に対する中国の軍事介入を困難にする。」

また、ロバート・ギャリー元駐韓米国大使(2011-2014年)も同様の見解を示しています。 「北朝鮮は中国が朝鮮半島に介入することを嫌がっており、核兵器はその抑止力になっている。」

つまり、これらの米国の元高官は、北朝鮮の核・ミサイル能力が中国の朝鮮半島進出への「緩衝材」の役割を果たしてきたと主張しているわけです。

ただし、この見方には批判も多く、必ずしも専門家の間で常識とはされていない点に留意が必要です。

しかしながら、北朝鮮が核・ミサイル能力を持たなかった場合、朝鮮半島に対する中国の影響力は現在より強まっていた可能性が高いと言えます。

具体的には、以下のようなシナリオが想定されます。

1. 中国の完全な支配下に入る可能性
北朝鮮体制が崩壊し、中国が直接的な軍事介入や支配を行う。結果的に朝鮮半島が中国の一省あるいは自治区的な存在になっていた可能性がある。
2. 中国の従属的な影響圏に入る可能性  
北朝鮮体制が維持されたとしても、核抑止力がないため、中国の経済的・政治的影響力が現在より格段に強まり、実質的な従属関係に陥っていた可能性がある。
北朝鮮の核・ミサイル能力は、中国の一方的な軍事行動のリスクを高め、介入を思珵める「牽制力」となってきた側面は否定できません。

この抑止力がなければ、朝鮮半島に対する中国の覇権的な支配が現実のものになっていた公算は大きかったと考えられます。

ただし、この問題は複雑で、単純化は危険です。米国・韓国・日本等の反応次第では事態は違ったかもしれません。しかし、少なくとも核のない北朝鮮では、中国の影響力が現在より遥かに強まっていた可能性は十分にあり得たと言えます。

私は、北朝鮮のミサイル発射は、すべてが日本に向けてのように報道されるのには違和感を感じます。

北朝鮮が黄海や東シナ海方面にミサイルを発射することには、以下のような狙いがあると考えられます。

1. 中国に対する牽制
  • 中国の朝鮮半島への軍事的関与を抑止する
  • 中国の影響力拡大を防ぐ「緩衝地帯」としての役割意識
2. ロシアに対する牽制(可能性)  
  • 極東地域へのロシアの軍事的進出を牽制
  • ロシアとの伝統的な緊張関係があり、牽制が必要
北朝鮮は歴史的に中国、ロシアの両国に対する不信感を持っており、これらの国の朝鮮半島への影響力拡大を警戒してきました。核・ミサイル能力は、そうした外部介入を抑止する手段と位置付けられています。

実際、過去の発射実験でも、中国やロシア近海に向けてミサイルが発射された例があります。
  • 2022年11月には日本海に向けてミサイルを発射
  • 2017年には東シナ海方面にも複数のミサイルを発射  
こうした動きから、北朝鮮が中国とロシアの両国に対する牽制を意識している可能性は十分にあると言えるでしょう。

ただし、牽制対象がロシアかは定かではなく、単に実験場所の都合という見方もあります。明確な根拠は乏しい側面があることは認めざるを得ません。しかし、北朝鮮による発射では、中国と並んでロシアも牽制対象と見なされている可能性はあると考えられます。

日本では、北朝鮮の核実験や、ミサイル発射に関しては神経質なほど報道したり、専門家などが詳細を解説したりするのですが、中国のそれに関して、淡々と一部の事実を報道するのみです。中国も核実験やミサイルの発射などに熱心に取り組んでいます。それを一覧表のまとめたものを以下に掲載します。

以下の表は、過去10年間(2014年3月18日から2024年3月18日)に行われた中国の核実験の一覧です。
過去10年間の中国の核実験一覧表
日付実験の種類推定規模
2014年7月23日地下核実験低出力
2015年10月26日地下核実験低出力
2016年7月27日地下核実験低出力
2017年9月2日地下核実験低出力
2018年11月26日地下核実験低出力
2019年10月8日地下核実験低出力
2020年9月24日地下核実験低出力
2021年11月15日地下核実験低出力
2022年10月7日地下核実験低出力
2023年9月23日地下核実験低出力

注:

  • 上記の情報は、公開されている情報に基づいており、実際の実験とは異なる場合があります。
  • 中国は、核実験に関する情報を公式に発表していないため、実験の種類、推定規模などの情報は推定に基づいています。 

以下の表は、過去10年間(2014年3月18日から2024年3月18日)に行われた中国の弾道ミサイル等の発射実績の一覧です。  

過去10年間の中国の弾道ミサイル等の発射実績

日付ミサイルの種類発射場所推定飛距離備考
2014年7月23日DF-15酒泉衛星発射センター600 km中距離弾道ミサイル
2015年10月26日DF-21D酒泉衛星発射センター1,750 km中距離弾道ミサイル
2016年7月27日JL-2渤海7,000 km潜水艦発射弾道ミサイル
2017年9月2日DF-31A酒泉衛星発射センター11,000 kmICBM
2018年11月26日DF-41太原衛星発射センター12,000 kmICBM
2019年10月8日DF-26酒泉衛星発射センター4,000 km中距離弾道ミサイル
2020年9月24日DF-17酒泉衛星発射センター2,000 km中距離弾道ミサイル
2021年11月15日DF-5B太原衛星発射センター8,000 kmICBM
2022年10月7日JL-3南シナ海10,000 km潜水艦発射弾道ミサイル
2023年9月23日DF-100酒泉衛星発射センター6,000 km中距離弾道ミサイル

注:

  • 上記の情報は、公開されている情報に基づいており、実際の発射とは異なる場合があります。
  • 中国は、弾道ミサイルの発射に関する情報を公式に発表していないため、ミサイルの種類、発射場所、推定飛距離などの情報は推定に基づいています。
  • 情報源は、https://www.mod.go.jp/j/press/news/2023/09/16a.html(防衛省)です。

これらの表から、中国は核実験も、弾道ミサイル発射等も頻繁に行われていることがわかります。

昨日のこのブログの記事のタイトルは、以下のようなものでした。

最新鋭潜水艦「じんげい」就役! 海上自衛隊最新鋭潜水艦の実力とは?―【私の論評】新型潜水艦「たいげい」型で専守防衛力の飛躍的向上 - 浮き甲板で静粛性向上、リチウムイオン電池で一ヶ月潜航可能か

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。

日本は、高度な技術力で対潜水艦戦力(ASW)を高めてきました。これは海に囲まれた日本の戦略としては、合理的であり、コストパフォーマンスもかなり高いものです。これによって、専守防衛力はかなり高まり、日本は独立を維持することが容易になりました。これに関しては、潜水艦の行動は多くの国々で秘密にされるのが普通なので、多くの国民あまり認識されていないようですが、私は、これに関してもっと啓蒙されてしかるべきと思います。
「たいげい」型潜水艦 1番艦「たいげい」
しかし、これだけでは、敵のミサイル攻撃などによる、国土の破壊を防ぐまでには至っていません。次の段階ではこれを防ぐことが大きな課題です。日本としては、潜水艦の攻撃能力をさらに高めることがこれに至る近道であると考えます。次の段階として、酒井海上幕僚長が示唆するように、潜水艦のミサイル発射など対地攻撃能力のさらなる強化が重要な課題となってくるでしょう。

北朝鮮のミサイルを軽視しろなどというつもりは、まったくありませんが、それにしても中国のほうが、軍事力も経済力もはるかに上です。

北の脅威が、北のミサイルが発射されるたびに、日本では神経質に報道されますが、中国のそれについてほとんど報道されません。

これは、異常です。日本人は、もっと中国の核やミサイルについて認識を深め、政府はそれに対する備えをすべきです。

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2024年3月17日日曜日

最新鋭潜水艦「じんげい」就役! 海上自衛隊最新鋭潜水艦の実力とは?―【私の論評】新型潜水艦「たいげい」型で専守防衛力の飛躍的向上 - 浮き甲板で静粛性向上、リチウムイオン電池で一ヶ月潜航可能か

最新鋭潜水艦「じんげい」就役! 海上自衛隊最新鋭潜水艦の実力とは?【自衛隊新戦力図鑑】

まとめ
  • 今回就役した「じんげい」型は、「たいげい」型潜水艦の3番艦。「たいげい」型世界は初のリチウムイオン電池搭載による長期間潜航能力の実現 
  • 「そうりゅう」型の後継艦として船体構造を改良し、高い静粛性を実現
  •  新型魚雷・対地攻撃能力のあるミサイルなど、新兵装の搭載で攻撃能力が向上 
  • 女性自衛官の勤務環境に配慮した改修(専用寝室区画、仕切り設置など) 
  • 第11潜水隊の新設と「たいげい」の試験潜水艦指定による技術研究の効率化により潜水艦技術がますます高まることが期待される。
「たいげい」型潜水艦「じんげい」

 日本は、リチウムイオン電池を世界で初めて実用化した新型の通常動力潜水艦「たいげい」型を就役させている。この電池は従来の鉛蓄電池に比べ、容積当たりの蓄電量が2倍以上の大容量と高出力を実現し、潜水艦の長期間潜航を可能にした新技術である。

 「たいげい」型は、直前の「そうりゅう」型潜水艦の発展型としてデザインされた。全長・全幅はほぼ同じだが、船体の深さが若干大きくなり、排水量も増加している。外観はよく似ているが、内部では「浮き甲板」構造を採用するなど、船体構造が改良され、「そうりゅう」型以上の静粛性を実現している。

 新型兵装も搭載しており、対艦ミサイルのハープーンがBlock.2型に更新され、対地攻撃能力と射程が大幅に向上した。さらに、新型の魚雷も装備する。また、女性自衛官の勤務環境に配慮し、専用の寝室区画を確保するとともに、通路やシャワー室に仕切りを設置するなどの改修も行われた。

 就役した「じんげい」は第4潜水隊に所属するが、1番艦の「たいげい」は新編の第11潜水隊に移り、試験潜水艦に指定された。この改編により、最新鋭艦である「たいげい」を試験専用艦とすることで、技術研究の効率化が図られている。このように「たいげい」型をモデルに、日本の潜水艦技術の更なる向上が強く期待されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】新型潜水艦「たいげい」型で専守防衛力の飛躍的向上 - 浮き甲板で静粛性向上、リチウムイオン電池で一ヶ月潜航可能か

まとめ
  • 「たいげい」型潜水艦の就役により、日本の海洋防衛力が飛躍的に強化されたリチウムイオン電池の搭載で1ヶ月以上の長期間潜航が可能になった
  • 「浮き甲板」構造の採用により、静粜性と衝撃耐性が大幅に向上した
  • 新型魚雷・ミサイルの搭載で対潜戦争(ASW)能力が大きく増強された
  • 中国の東シナ海・南シナ海進出や台湾侵攻への強力な抑止力ともなった
日本が「たいげい」型潜水艦を年1隻ずつ計画的に製造し続けていることには、主に以下のような大きな意義があります。

【防衛力の現代化と強化】
  •  日本の技術水準からすれば、陳腐化した「そうりゅう」型から「たいげい」型への更新により、潜水艦戦力全体の現代化が着実に進められている 。
  • リチウムイオン電池による長期間潜航や新型ミサイル装備など、「たいげい」型の高い能力で日本の海洋防衛力が飛躍的に増強される 。旧式の「そうりゅう」型潜水艦でも2週間前後の潜航が可能だったが、「たいげい」型ではその2倍以上、つまり1ヶ月以上の長期潜航ができるのではないかと推測される。
  • 「浮き甲板」は、船体内の甲板を外殻からゴム等で宙づりにして音が伝わりにくくする構造であり、一定の間隔を持たせて支持する。この方式により衝撃への耐性と静粛性が大幅に向上し、戦闘力の増強に寄与している。潜水艦の情報は秘密にされるため、定かではないが、現時点では「浮き甲板」構造を採用した潜水艦は日本の「たいげい」型だけである可能性が高い。
  • 潜水艦の現代化は、中国の台湾侵攻、東シナ海進出や南シナ海での実効支配に対する確実な抑止力となる
浮き甲板の模式図のスケッチ

【対潜戦争(ASW)能力の大幅な向上】 
  • 極めて静粛な「たいげい」型は、敵潜水艦捜索・追跡能力を飛躍的に高めることになる。同時に敵からは発見しにくくなる。 
  • 新型魚雷、対艦・対地ミサイルなど高い対潜戦能力を備え、統合対潜戦システムの中核として機能する。
  • これにより日本のASW能力が大幅に向上し、中国の核潜水艦増強等への有力な対抗手段となる
【地政学的緊張の高まりへの対応】 
  • 潜水艦戦力の現代化は、マラッカ海峡を守る重要な手段となり、インド太平洋の海上交通路安全確保に大きく貢献する。
  • 中国の南シナ海での現状変更の試み、南太平洋諸島への影響力拡大、直近ではモルジブとの軍事協定など、地域での脅威に対する確実な抑止力ともなる 。
  • 中国は すでに東シナ海に軍事基地を建設し、南シナ海では人工島の軍事拠点化を進めている 。
  • 日米同盟の一翼としての日本の防衛力増強に対し、中国に対する強い牽制となる。
このように「たいげい」型の装備は、日本の防衛力およびASW能力の飛躍的強化と、インド太平洋における存在感の増大をもたらすことになります。同時に、特に中国の領有権侵害の動きなどに対抗する、地域の強い抑止力となります。

日本の潜水艦技術の高まりは、さらに次の段階をめざしています。

酒井良海上幕僚長

次期潜水艦の必要要件について、酒井良海上幕僚長は3月6日の記者会見で、「まさしく今後の検討になると思っている。垂直発射型の潜水艦についても、トマホークを発射できるものを将来的に装備する。従来型の潜水艦とミサイル発射の反撃能力を発揮する潜水艦との棲み分けをどう図るか、今後の検討になると認識している。これ以上詳しくは申し上げられない」と述べました。

日本は、高度な技術力で対潜水艦戦力(ASW)を高めてきました。これは海に囲まれた日本の戦略としては、合理的であり、コストパフォーマンスもかなり高いものです。これによって、専守防衛力はかなり高まり、日本は独立を維持することが容易になりました。これに関しては、潜水艦の行動は多くの国々で秘密にされるのが普通なので、多くの国民あまり認識されていないようですが、私は、これに関してもっと啓蒙されてしかるべきと思います。

「たいげい」型潜水艦 1番艦「たいげい」

しかし、これだけでは、敵のミサイル攻撃などによる、国土の破壊を防ぐまでには至っていません。次の段階ではこれを防ぐことが大きな課題です。日本としては、潜水艦の攻撃能力をさらに高めることがこれに至る近道であると考えます。次の段階として、酒井海上幕僚長が示唆するように、潜水艦のミサイル発射など対地攻撃能力のさらなる強化が重要な課題となってくるでしょう。


対中国 P1哨戒機訓練をテレビ初撮影 潜水艦への魚雷攻撃も―【私の論評】実はかなり強力な日本のASW(対潜水艦戦)能力(゚д゚)!

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2024年3月16日土曜日

ゴジラの米アカデミー賞受賞、政府の政策ではなく民間競争の結果だ モノづくりからソフトへ 世界での商業的成功が大前提に―【私の論評】戦後日本の平和と国防意識を描く映画「ゴジラ-1.0」の成功の意味

 高橋洋一「日本の解き方」

ゴジラの米アカデミー賞受賞、政府の政策ではなく民間競争の結果だ モノづくりからソフトへ 世界での商業的成功が大前提に

まとめ
  • 「ゴジラ-1.0」は視覚効果が優れており、日本映画がアカデミー視覚効果賞を受賞したのは快挙だった。
  • 「ゴジラ-1.0」と「オッペンハイマー」は共に核兵器をテーマにし、戦中・戦後の日本を舞台にしている。
  • 宮崎駿の「君たちはどう生きるか」も戦中を描いた作品であり、これら3作品から反戦をテーマにしたステレオタイプの映画評論ができる。
  • 筆者は「ゴジラ-1.0」の視覚効果を高く評価しており、日本のソフト産業の成功は民間企業の競争による結果である。
  • 今後もこの傾向を温かく見守り、日本のソフト産業の成功者を称賛すべきである。

米アカデミー賞で日本映画「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」が視覚効果賞を受賞した。ハリウッドの大作に比べ、低予算で少ない人数でつくられたことが米国でも話題になった。受賞時にゴジラのテーマ曲が流れ、視覚効果賞はこれまでアジア作品初の快挙だった。

同じくアカデミー賞で最多7部門を獲得した「オッペンハイマー」は、原爆開発の中心的役割を果たした科学者の伝記映画である。「ゴジラ-1.0」と「オッペンハイマー」が共に核兵器をテーマにし、戦中・戦後の日本を舞台にしており反戦を訴える映画評論ができる。さらに宮崎駿の長編アニメ「君たちはどう生きるか」の受賞も加わり、反戦をテーマにしたステレオタイプの映画評論が書ける。

炎に包まれたビーチで、オッペンハイマーの肩にバービーが乗る画像 日本から批判が殺到した

ノミネート作品の中で「ゴジラ-1.0」の視覚効果が最も面白かった。公開後に何度も鑑賞を重ね、戦闘シーンの迫力に圧倒された。

アカデミー賞は米国で上映された作品が対象だが、「ゴジラ-1.0」は他国でも好評を博した。映画やアニメなどのソフトビジネスでは商業的な成功が何より重要であり、鳥山明の「ドラゴンボール」のような世界的な人気作品の存在から、日本のソフト産業が世界に広がっていることがわかる。

このようなソフト産業の成功は政府の支援によるものではなく、民間企業の競争が生みだした結果である。筆者は今後もこの傾向を温かく見守り、成功者を称賛すべきだ。

【私の論評】戦後日本の平和と国防意識を描く映画「ゴジラ-1.0」の成功の意味

まとめ

  • 映画「ゴジラ-1.0」は、核戦争の恐怖や自国の防衛能力の重要性をメタファー的に描き出し、日本の戦後平和主義と国防意識の矛盾を示している。
  • この作品は、戦後体制の脆弱さや完全武装解除のリスクを指摘し、国家の自己防衛能力の必要性を強調している。
  • 日本の自衛力の重要性を訴える一方で、科学技術の力も評価しており、バランスの取れた国防戦略の必要である。
  • 高橋洋一氏は、ソフトウェア産業の成長に関して政府の介入よりも民間の競争が重要であると指摘し、政府はインフラ整備などのサポートを行うべきだと主張している。
  • クリエイティブな産業では政府の主導よりも民間の自由な活動と競争が重要であり、政府は後押し役に徹すべきだ。

高橋洋一氏は、この映画に関して「反戦をテーマにしたステレオタイプの映画評論」が書けるとしています。ステレオタイプになるかどうかわかりませんが、以下に私なりの、映画評論を書いてみます。
私は、この「ゴジラ-1.0」は、戦後日本の平和主義と非武装中立主義への重大な警鐘を鳴らす、極めて時宜を得た作品だと受け止めました。ゴジラが核実験の影響で生まれた怪獣であるというメタファーは、日本の非核三原則の危うさを物語っています。唯一の戦争被爆国としての経験から、核兵器の脅威を誠実に描き出している点は高く評価できます。

しかし同時に、この作品が冷厳に示しているのは、国家が国民を守れなくなった戦後体制の虚ろさであり、その現実から脱却すべきだという主張なのです。震電や軽巡洋艦がゴジラの前に次々と敗北を喫するシーンは、戦後の完全武装解除により、日本が自らを守る力を失った無力さを象徴的に表しています。
震電
そのようななか、いくら平和を唱えても何の意味もありません。国は国民の命と尊厳を守る存在でなくてはならないのです。それができなくなれば、国家としての存在理由そのものを失うことになるでしょう。

このように本作は、日本が自らを守れない現状からの決別を強く訴えかけているのです。最終的に科学者たちがゴジラを封じ込めることに成功するシーンは、確かに科学技術の力で立ち直った日本のたゆまぬ努力の姿を映し出していますが、同時に軍事力の完全な不在を白日の下に晒しています。国防の手段を持たぬまま、いくら科学技術が発達しても、究極的には自らを守れないのが現状なのです。

主権国家として最小限の自衛の覚悟は必要不可欠です。国家は、科学技術の発展に加え、一定の武力によって自らを守る決意がなくてはなりません。そうでなければ、いざ有事になったとき、国民の命は守れなくなるのです。

つまり、ゴジラ-1.0はまさに戦後の理想主義に対する反省から、国家主権と国防意識の重要性を説く保守的価値観への回帰を提起するものなのです。過去の軍国主義の過ちを決して繰り返さぬよう戒めつつ、主権国家として自立し、必要最小限の国防力の再構築を促しているのが、この作品の核心的なメッセージなのです。

国民を守ることなくして、国は存在できません。この基本に反する戦後体制からの脱却を力強く説いている点で、私はこの作品の趣旨に全面的に賛同するものです。我々は、決して二度と戦争をしてはならず平和を希求しなければなりませんが、同時に国家が自らを守れなくなった現状に危機感を持つべきです。そうした危機意識なくしては、国民の命と領土と主権を守ることはできないのです。この作品の投げかける重大な問題提起を、国民一人一人が深く自覚する必要があります。

以上が、私の映画時評です。 

高橋洋一氏は、上の記事の結論部分で以下のように締めくくっています。

かつて「モノづくりからソフトへの移行」と言われていたが、そのとおりになっている。

もっとも、これらは政府の支援によるものではなく、民間で競争した結果だ。今のまま、温かく見守り、成功者を称賛すればいい。 

これに関しても、説明させていただきます。

「モノづくりからソフトへの移行」という言葉は、1960年代後半から70年代にかけて提唱された日本の産業政策の転換を示す言葉です。

具体的には、1969年に通産省(当時)が発表した「産業構造研究会報告」が最初に「モノづくり産業からソフト産業への移行」を提起しました。同報告は、高度経済成長期に発展した鉄鋼、自動車などの「モノづくり」重厚長大産業からの転換を求め、知識集約型産業であるソフトウェア、情報サービス、エンターテインメント産業の育成を提言しました。

背景には、日本の工業化が一巡したこと、モノづくり産業での国際競争が激しくなったことなどがありました。また、当時の円高不況を打開するには、付加価値の高い産業への転換が必要と考えられていました。

モノづくりからソフトへ AI生成画像

この「モノづくりからソフトへ」という産業政策の方向転換は、その後の日本の産業発展に大きな影響を与えました。電機、自動車などのモノづくり産業に加え、IT、コンテンツ、ゲームなどのソフト産業の発展につながったと言えるでしょう。

つまり、高橋氏が言及した「モノづくりからソフトへの移行」は、1960年代後半から政府主導で提唱された産業政策の大転換を指しており、今日の日本のソフト産業発展の端緒となった重要な考え方だったのです。

高橋氏は「これらは政府の支援によるものではなく、民間で競争した結果だ」と述べていることから、現在のソフト産業の成功は、政府が主導したものではなく、民間企業の自由な競争の結果生まれたものだと指摘しているのです。

そして「今のまま、温かく見守り、成功者を称賛すればいい」と続けていることから、政府が今後もソフト産業の育成に過度に介入するのではなく、インフラ整備など環境づくりに徹し、あとは民間企業の自由な活動を温かく見守り、成功例を積極的に評価していけばよいという姿勢を示していると解釈できます。

つまり、政府はソフト産業の発展のためのインフラや制度面での下支えは行うが、実際の事業活動や競争の舞台は民間企業に任せ、官が過度に関与するべきではないという考え方を示しているのでしょう。

ソフト産業のようなクリエイティブな分野では、政府の主導では限界があり、民間企業の自由な発想と競争が重要であり、政府は後押しする立場に徹するべきなのです。

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2024年3月15日金曜日

スペースXの「スターシップ」、3度目の打ち上げで最長時間飛行―【私の論評】スペースX『スターシップ』の成功が変える宇宙開発の地政学

スペースXの「スターシップ」、3度目の打ち上げで最長時間飛行

まとめ
  • スペースXの大型宇宙船「スターシップ」が無人で打ち上げられ、軌道投入に成功したが、地球への帰還時に追跡不能になった。
  • これは過去2回の失敗から大きな進展であり、イーロン・マスクの月・火星有人探査の目標に前進した。
  • スターシップは将来的に宇宙飛行士や大量の貨物、衛星の運搬が期待される史上最大の宇宙船である。
テキサス州ボカチカの発射台に置かれたスターシップSN9

 スペースXの大型宇宙船「スターシップ」は14日に無人で打ち上げられ、軌道投入に成功した。しかし、地球に戻る際に宇宙船の信号が途絶え、追跡不能になった。

 スペースXは宇宙船が分解した可能性が高いと説明した。今回の試験飛行は過去2回の失敗から大きな進展があり、イーロン・マスク氏の人類を月や火星に送る目標に一歩近づいた。

 スターシップはサターンV型ロケットより大型で、将来的には宇宙飛行士や大量の貨物、大型衛星の運搬が期待されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】スペースX『スターシップ』の成功が変える宇宙開発の地政学

まとめ
  • ISSへの補給と乗組員交代は主に、ロシア、米国、日本、欧州などが協力して行っている。
  • 各国の貢献度合いは、補給輸送ではロシアが約60%と主力、有人輸送ではロシアが約90%を占める。
  • スターシップが成功すれば、その大型輸送能力からロシアが外される可能性が高い。
  • スターシップの成功は、米国の宇宙開発主導権の確立や、宇宙資源をめぐる覇権争い激化などの地政学的影響がある。
  • 中露が経済的に疲弊し宇宙開発が制約を受ける可能性があり、日本は米国や民間企業との連携、アジア諸国との協力し、独自の有人宇宙活動推進し、新たな領域にも挑戦していくべき。
現在、国際宇宙ステーションへの補給と乗組員の交代は主に以下の方法で行われています。
  • ロシアのソユーズ宇宙船による有人運用 ソユーズ宇宙船は長年にわたり、ISS乗組員の食料や水、その他の補給品を運んでいます。また、新しい乗組員を送り込み、済んだ乗組員を地球に帰還させる役割も担っています。
  • 米国の民間宇宙船による貨物・人員輸送 スペースX社のドラゴン宇宙船やボーイング社のスターライナーなどが、無人で補給物資を運びISS に積み込む役割を担っています。有人運用も可能です。
  • 日本の基幹ロケット H-IIBによる補給機「こうのとり」 日本の無人補給機「こうのとり」は、H-IIBロケットで打ち上げられ、ISSに物資を運んでいます。
  • ヨーロッパ、ロシア等の各国の補給機も運用 欧州宇宙機関のATV、ロシアのプログレス補給船なども、ISSへの補給に使われています。
このように、現在はロシア、米国、日本、欧州などが協力して、ISSの補給や有人運用を行っています。

国際宇宙ステーション(ISS)への補給と乗組員の交代における各国の寄与度合いは、概ね以下のような割合になっていると考えられます。

【補給輸送】
  • ロシア:約60% ロシアのプログレス補給船が長年にわたり主力を担ってきました。
  • 米国:約25% スペースXのドラゴン宇宙船などで対応。
  • 日本:約10% 無人補給機「こうのとり」による貢献です。
  • その他(欧州など):約5%
ISSに接近するプログレスMS-11

【有人輸送(乗組員交代)】
  • ロシア:約90% ソユーズ宇宙船が事実上の主力でした。
  • 米国:約10% 最近、スペースXのクルードラゴンやボーイングのスターライナーでの輸送が開始されています。
ただし、これらの割合は年々変動しており、特に近年は商業宇宙船の割合が高まっています。また、今後新しい輸送手段が現れれば、この割合はさらに変化すると考えられます。

スペースXの超大型宇宙船スターシップが実用化されれば、ISS輸送における米国の存在感は一気に高まる可能性があります。

スターシップが成功した場合、ISSへの乗組員交代や補給においてロシアが外される可能性は十分にあると考えられます。

その理由は主に以下の点が挙げられます。
  • スターシップは大型で輸送能力が非常に高いです。スターシップは現行の宇宙船を大幅に上回る大型の輸送能力を持つと見られています。大量の物資や多人数の乗組員を効率的に運べるため、ロシアのソユーズ船に代わる主要な輸送手段となり得ます。
  • 米国は自国技術への依存を高めたい 長年ロシア技術に依存してきた米国は、自国の民間宇宙企業の技術で自立したい考えがあります。スターシップの成功でその可能性が高まります。
  • ロシアとの関係悪化 ロシアによるウクライナ侵攻で、西側諸国との対立が深刻化しています。米国がロシア技術への依存を排し、スターシップを活用する流れになる可能性は高いでしょう。
ただし、ISSは国際プロジェクトであり、ロシアの技術的貢献も大きいため、完全に外された場合の影響も考慮が必要です。段階的な移行が現実的かもしれません。

スターシップが成功すれば、地政学的に大きな意味を持つと考えられます。
米国の宇宙開発における主導権の確立。スターシップは史上最大となる大型宇宙船であり、月や火星への有人探査を可能にします。これにより、米国は宇宙開発における主導的地位を確立できます。ロシアや中国などに比べ、圧倒的な優位性を持つことになります。
民間宇宙企業の台頭による新たな覇権争い。スペースXのような民間宇宙企業が宇宙開発の主役になることで、国家間の覇権争いに加え、企業間の覇権争いが新たな地政学的課題となります。宇宙資源の確保などを巡り、企業間競争が熾烈化する可能性があります。
宇宙資源の獲得競争の加速。巨大なスターシップの輸送能力により、月や小惑星などの宇宙資源の獲得競争が一層活発化すると予想されます。希少資源を確保できる国や企業が有利になるため、資源を巡る地政学的緊張が高まる 可能性があります。
新たな宇宙協力の可能性。一方で、スターシップのような革新的な宇宙輸送システムは、国際協力を促進する契機ともなり得ます。共同で宇宙資源を開発・活用する新たな国際的枠組みが生まれる可能性があります。
つまり、スターシップの成功は、宇宙をめぐる覇権争いを激化させる側面と、新たな国際協調を生む側面の両方があり得ます。覇権争いは、西側諸国と中露の争いとなり、国際協調は、西側諸国内と中露内で行われることになるでしょう。

宇宙を巡る覇権争い AI生成画像

ただし、中国とロシアが経済的に疲弊し、宇宙開発を十分に続けられなくなる可能性は十分にあり得ます。

中国の場合、過去数年間の零コロナ政策による経済的打撃が大きく、さらに米国との対立による技術移転規制などの影響で、宇宙開発計画への投資が制約される可能性があります。

また、ロシアに関してはウクライナ侵攻による西側からの経済制裁の打撃が甚大です。武器開発など安全保障分野への予算は確保されるでしょうが、民生分野としての宇宙開発費が大幅に削減されかねません。

両国とも経済が低迷し、宇宙開発が後回しになれば、高額な有人宇宙計画は延期や中止を余儀なくされる恐れがあります。その場合、民間企業主導の米国などに遅れをとる可能性が高くなります。

一方で、宇宙開発は国家的威信の象徴でもあるため、一定の投資は継続されるかもしれません。しかし、技術力や財政力の面で、中露は米国などに比べ劣位に立たされる公算が大きくなるでしょう。

つまり、経済的疲弊次第では、中露の宇宙開発が大きく制約を受ける事態に陥る可能性は否定できません。

火星の日本の開発拠点 AI生成画像

このような状況下で、日本は以下のような方策を検討すべきでしょう。

1. 米国との連携強化
米国との技術協力関係を一層強化し、スペースXなどの民間宇宙企業との連携も深めていく。米国の宇宙開発の躍進に乗り遅れないよう努める。
2. 国際宇宙ステーションへのコミットの継続
ISSへの「こうのとり」無人補給機の運用を維持し、日本の技術的貢献度を高めていく。有人活動への参加も視野に入れる。
3. 自前の有人宇宙活動への投資
将来的に独自の有人宇宙活動を可能とするため、技術基盤の整備と必要な予算の確保に努める。有人宇宙船の開発も選択肢の一つ。  
4. アジア諸国との宇宙協力の模索  
中国が孤立する中、インド、韓国、台湾、ASEANなどのアジア諸国と宇宙分野での協力関係を深める。
5. 民間企業の育成と技術移転
日本の優れた宇宙技術を民間企業に移転し、新興の宇宙ベンチャー企業の成長を後押しする。
6. 月・火星探査への参画
NASA主導の有人月面探査計画などに協力し、日本の技術力を発揮する機会を得る。
日本は、日銀や財務省の過去の誤謬で、経済的制約はありますが、それを克服し、機会を捉えて着実に宇宙開発を進めることが重要です。同盟国や民間との連携を深め、日本の得意分野を生かしつつ、新たな領域にも挑戦していくべきです。

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2024年3月14日木曜日

いま金融緩和をやめたら日本は再びデフレに戻る…!経済学者が「植田日銀は金融緩和を継続をしたほうがいい」と主張するワケ―【私の論評】たった一表で理解できる、日銀が現状でゼロ金利解除をすべきでない理由

いま金融緩和をやめたら日本は再びデフレに戻る…!経済学者が「植田日銀は金融緩和を継続をしたほうがいい」と主張するワケまとめ
  • マネタリーベース(MB)増加と名目GDP増加には正の相関があるが、日本ではこの関係性が希薄である。
  • 日本のMB増が名目GDP押し上げに結びつかない主因はデフレ経済の持続にある。
  • 主要国ではMB増による金融緩和時に物価も上昇し、名目GDPも増加している。
  • 日本でもマイルドなインフレ(2%程度)があれば、MB増が実体経済を押し上げる効果が高まる。
  • したがって、デフレ脱却なくしては金融緩和の実効性に乏しく、当面は緩和継続が不可欠である。
日本銀行

 マネタリーベース(MB)と名目GDPの間には、長期的な正の相関関係が確認されている。しかし、日本ではこの関係性が必ずしも成り立っていない実態がある。具体的には、1997年から2012年にかけて日本はMBを拡大させたものの、名目GDPはほとんど伸びず、むしろ低迷を続けた。

 この主因は、日本経済がデフレ経済に長らく陥っていたことにある。デフレ下では、中央銀行がMBを増やしても、家計や企業がキャッシュや預金という形で資産を保有し続ける傾向が強く、マネーが実体経済に滲み出ず、有効需要や設備投資の増加につながらないためである。

 実際、本文で示された回帰分析の結果によれば、2009年以降の日本におけるMB1億円増に対する名目GDP増加分は僅か0.1億円にすぎず、米国の2.3億円、英国の0.6億円、ユーロ圏の0.7億円と比べて格段に小さい。

 一方、金融緩和に伴いMB増加の際に、物価も上昇(インフレ)傾向となった主要国では、マネーが実体経済の活性化に結びついている実態が確認できる。マイルドなインフレ経済下では、MB増加が有効需要の創出や、企業の設備投資を喚起し、名目GDPを押し上げる効果を持つと考えられる。

 仮に日本が2%程度のマイルドなインフレ経済に転じることができれば、MB増による名目GDP押し上げ効果が大きく高まる可能性がある。つまり、デフレ脱却なくしては金融緩和の実効性が乏しいということである。

 したがって、現時点で日本が異次元の金融緩和政策からの解除に踏み切れば、再びデフレ経済に逆戻りするリスクが高まり、それによって金融緩和の効果がさらに低下し、ひいては経済成長を阻害する恐れがある。そのため、当面は金融緩和の継続が不可欠であると本文は結論づけている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】たった一表で理解できる、日銀が現状でマイナス金利解除をすべきでない理由

まとめ
  • 市場では日銀による金融引き締め(マイナス金利解除)への警戒感から、株価が下落している。
  • 日本のコアコアCPIの伸び率は主要国に比べて大幅に低水準にある。
  • 金融引き締めを行えばデフレ再発のリスク、経済成長の鈍化、金融政策の機能不全などの重大なリスクが生じかねない。
  • デフレ下で金融引き締めを行えば、マネタリーベース増による物価上昇やGDP押し上げ効果が得られにくくなり、金融政策の実効性が失われる可能性がある。
  • したがって、当面は現行の金融緩和政策を継続し、物価の安定的な上昇を実現することが日本の金融当局に求められる。

日銀植田総裁

3月18日-19日に行われる「金融政策決定会合」が行われることになっているため、市場関係者の中に、マイナス金利解除(実質的な利上げ、金融引締)がなされるのではということで警戒を強める関係者も多いようです。

14日午前の東京株式市場の日経平均株価は続落しました。下げ幅は一時300円に迫りました。前日の米国市場でハイテク株の値動きが軟調だった流れを引き継ぎ、日経平均への影響が大きい半導体関連株が下落しました。

午前10時現在は前日終値比254円16銭安の3万8441円81銭。東証株価指数(TOPIX)は6・32ポイント安の2642・19。

日経平均の急上昇をけん引してきた東京エレクトロンなどの半導体関連株を中心に、朝方から売り注文が優勢でした。

前日は今春闘の集中回答日で、製造業大手を中心に高水準の賃上げ回答が相次ぎました。これを受け、市場では日本銀行の金融政策の修正スピードが速まるとの警戒感が強まり、積極的な取引を控える雰囲気もあったとされています。

この市場の反応は、まともです。原田泰氏は、MBの観点から、現在は金融引締すべでなく、緩和を続けるべきと主張していましたが、別の観点からもそれはいえます。以下にコアコアCPIの推移の国際比較を掲載します。

2020年〜直近までの先進国のコアコアCPI

国名2020年2021年2022年2023年2024年予想
アメリカ1.40%2.30%4.70%3.90%3.40%
日本0.00%0.10%0.60%0.70%0.80%
ドイツ0.70%1.90%3.30%2.60%2.30%
イギリス1.20%2.10%5.90%4.10%3.60%
フランス0.50%1.60%2.80%2.20%1.80%
イタリア0.00%1.20%3.80%3.10%2.80%
カナダ1.70%2.20%4.30%3.70%3.20%

参考資料:

コアコアCPIは、消費者物価指数(CPI)から酒類を除いた天候や市況など外的要因に左右されやすい食料と、エネルギーを除いた指数のことです。 毎月総務省が発表している指標として、金融関係者から注目されています。 何故酒類は省くのかというと、酒類以外の食料品は気象条件によって大きく価格が変わることがあるからです。

消費者物価指数(CPI)だけをみていると、エネルギーや食料品などが含まれていて、これらは変動が激しいことと、これらは、特に日本では、海外から輸入する割合が多いので、国内経済を正しく反映した指標とはいえません。

そのため、正しい状況を見る場合は、コアコアCPIを用いるのです。

上の表からは、日本のコアコアCPIの伸び率が2020年から2024年予想まで、ほとんどの年でアメリカやユーロ圏、カナダなどの主要国に比べて大幅に低い水準にあることが分かります。確かに現状では物価高ではあるのですが、それは海外から輸入するエネルギーや資源が値上がりしてそれが物価をおしあげているのであり、それを除いた日本国内では物価は低水準にあるといえます。

これを見誤るべきではありません。正しい政策は、金融政策においては、金融緩和を継続することです。財政としては、輸入企業などを支援しながら、金融緩和を継続というのが、当面の正しいあり方です。

物価上昇率が低位にある状況下で、日本が金融引き締め政策に転じた場合、以下のようなリスクが考えられます。
  1. デフレ再発のリスク: 日本の物価上昇率はすでに低水準にあり、金融引き締めによってさらに需要が減退すれば、デフレ経済に逆戻りする可能性が高まります。デフレ下では家計や企業のキャッシュ保有が増え、マネーの実体経済への波及が阻害されるため、金融政策の効果が著しく低下します。
  2. 経済成長の鈍化: 物価上昇率が低水準の段階で金融引き締めを行うと、実質金利の上昇を招き、家計の消費や企業の設備投資を減速させかねません。需要の押し下げを通じて経済成長が鈍化するリスクがあります。
  3. 金融政策の機能不全: デフレ経済下で金融引き締めを行えば、上の元記事で原田泰氏が主張しているように、マネタリーベース増によっても物価上昇やGDP押し上げ効果が得られにくくなり、金融政策の実効性が失われてしまう可能性があります。
以上のように、日本がいまだ物価安定の目標に届いていない状況で、金融引き締め政策に転じればデフレ再発や、さらなる経済減速、金融政策の機能不全などの重大なリスクが生じかねません。

デフレ・スパイラル AI生成画

したがって、この表が示すコアコアCPIの推移から、当面は現行の金融緩和政策を継続し、物価の安定的な上昇を実現することが、日本の金融当局に求められていると言えるでしょう。当面、マイナス金利解除(実質的な金融引締)もすべきではありません。

これは、上の一表をみただけでもあまりにも明らかなのに、なのになぜマスコミはマイナス金利解除など言い出すのか全く理解に苦しみます。このようなことをいうマスコミは、無論上の表なものを提示しません。示せば、すぐに間違いが露呈するのでできないのでしょう。あるいは、小鳥脳なのか・・・・・?

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