2023年7月25日火曜日

釜山に寄港した米戦略原子力潜水艦のもう一つの目的は「中国抑止」―【私の論評】核を巡る北朝鮮やウクライナの現実をみれば、日本には最早空虚な安保論議をする余地はない(゚д゚)!

釜山に寄港した米戦略原子力潜水艦のもう一つの目的は「中国抑止」

マイケル・マッコール米下院外交委員長

 マイケル・マッコール米下院外交委員長は、米国の戦略原子力潜水艦が釜山(プサン)に寄港したのは、北朝鮮だけでなく中国を抑止する狙いもあると述べた。

 マッコール委員長は、米国がなぜ今韓国に戦略原子力潜水艦を展開したと考えるかという質問に「攻撃を抑止するために今必要な戦力投射だ」としたうえで、「我々は日本海(東海)にロケットを発射する北朝鮮だけでなく、中国の攻撃性も注視している」と答えた。また、中国が台湾を訪問した自分をはじめとする米国議員たちを威嚇するため、艦艇と戦闘機で台湾を包囲した事例が中国の攻撃的な態度を示していると述べた。

 マッコール委員長はさらに「北朝鮮は我々がそこにいて、原子力潜水艦を持つ我々の方が優位に立っていることを認識すべきだ」とし、「我々は北朝鮮と習(近平)主席に、軍事的に攻撃的な行動には代償が伴うことを信じさせなければならない」と語った。米議会の代表的な対中タカ派のマッコール委員長のこのような発言は、核ミサイルを装着した戦略原子力潜水艦の韓国への寄港が、北朝鮮だけでなく中国をけん制する意図と効果を持っていることを示したものといえる。

 マッコール委員長はこのような脈絡で、朝鮮半島に配備あるいは展開される米軍の戦力の役割は、中国の台湾侵攻の可能性と関連し北朝鮮を抑止するためだと説明した。また「そこ(韓国)に(米軍)太平洋司令部艦隊がいるのは、(中国と)台湾の衝突発生時に北朝鮮を阻止するため」だとし、「そのような衝突時に北朝鮮がミサイルを発射すること」を韓国とともに抑止しなければならないと述べた。台湾有事(戦争)と朝鮮半島有事は事実上連動しているため、韓米がともにこれを抑止しなければならないという見解だ。マッコール委員長は、北朝鮮は米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有しているが、ここに装着できる核弾頭はまだ保有していないと説明した。

 一方、戦略原子力潜水艦が釜山に寄港し、韓米初の核協議グループ(NCG)会議が開かれた18日、板門店(パンムンジョム)の軍事境界線を越えて越北した在韓米軍のトラビス・キング二等兵については、亡命したというよりは「自らの問題から逃げた」と語った。また「ロシア、中国、イランは米国人を抑留した際、特に軍人を抑留した際、(送還の)見返りを求めてきた。私はそれを懸念している」と述べた。

この記事は、元記事の引用です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。

【私の論評】核を巡る北朝鮮やウクライナの現実をみれば、日本には最早空虚な安保論議をする余地はない(゚д゚)!

上の記事で、「マイケル・マッコール米下院外交委員長は、米国の戦略原子力潜水艦が釜山(プサン)に寄港したのは、北朝鮮だけでなく中国を抑止する狙いもあると述べた」とされていますが、これと同じような主張は従来からこのブログでも何度かしてきました


しかし、このような発言は、私の知る限りでは、今回のマッコール米下院外交委員長が初めてではないかと思います。

ただ、軍事的にはこれは当然のことであり、韓国に原潜などの戦略資産を配置することは、当然のことながら北朝鮮だけではなく中国を意識したものでもあり、中国に対する牽制という意味あいもあります。多くの軍事筋の専門家は当然このようにみてきましたが、今回改めてそれが公に示された形となりました。

朝鮮半島というと、もう一つ、一般に知られていないというか認識されていないこともあります。それは、北朝鮮とその存在が、結果として朝鮮半島に中国が浸透するのを防いできたということです。これは、米国の戦略家ルトワックも主張しています。

エドワード・ラトワックは、地政学や国際関係について幅広い著作を持つ著名なアメリカの軍事戦略家です。ルトワック氏は北朝鮮について、その核兵器開発が中国の朝鮮半島支配を抑止していると主張しています。

中国が北朝鮮の経済と政府を支配しているようにみえながら、現実には北朝鮮の核兵器は中国が北朝鮮を完全に吸収することを妨げているのです。

エドワード・ルトワック氏

ルトワックは以下のように語っています。

「北朝鮮の核兵器は、どんな条約よりも確実に北朝鮮の主権を保証している。 金正恩の核瀬戸際外交は、あらゆる方向からの金正恩の支配に対する脅威を抑止している。 北朝鮮の通常兵力は中国にとって深刻な挑戦にはならないが、その核兵器は、中国がそうでなければかけうる圧力から北朝鮮を守っている」。

言い換えれば、もし北朝鮮に核兵器がなければ、中国は北朝鮮を意のままに操り、事実上、中国の衛星国家として、はるかに大きな影響力を持つことになります。しかし、金正恩は中国を攻撃できる核兵器を持っているため、習近平は慎重に行動しているのです。

中国は、金正恩を過度に追い詰めることによる不安定化と、それによる中国の犠牲を恐れています。だから、現状を維持するために金正恩体制を支え続けているのです。これはなかなか理解しにくいかもしれませんが、ルトワックによれば、北朝鮮の核による抵抗は、中国が朝鮮半島全体を支配することを実際に妨げているのです。

中国と交流する北朝鮮人民 AI生成画像

北朝鮮の核兵器は、中国が北朝鮮を慎重に扱うべき独立した存在として扱いつつも、関与しつづけるというアプローチを取らざるを得なくしたのです。つまり、金正恩の核兵器は、他の面で中国に深く依存しながらも、この意味で北朝鮮の自主性を強化したのです。

核瀬戸際政策による抑止力が、北朝鮮の主権を存続させているのです。これは挑発的な議論でありますが、北朝鮮と中国、そして核兵器の影響力の間の地政学的力学に対する戦略的論理と洞察に満ちたものです。

ルトワックは、米国が半島の非核化を目指しているとしても、国家間の複雑な関係がいかに意図しない結果を招きかねないかを浮き彫りにしています。

北朝鮮とその核が結果的に、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいることを考えると、ウクライナがソ連崩壊後にも核兵器を保持していれば、現在のような苦境に陥らなかった可能性が高かったかもしれません。

北朝鮮と同じように、核兵器はロシアのウクライナに対する侵略を抑止できたかもしれないです。ウクライナが1991年にソ連の核兵器を継承した当時、ウクライナは世界第3位の核兵器保有国でした。しかし、ウクライナは1994年のブダペスト覚書で、ロシア、アメリカ、イギリスからの安全保障の保証と引き換えに、これらの核兵器を放棄しました。

これは致命的な誤りでした。もしウクライナが核兵器を保持していれば、ロシアが2014年にクリミアを併合したり、ウクライナ東部の親ロシア派分離主義者を支援したりすることはなかったでしょう。

ロシアがウクライナに侵攻すれば、北朝鮮と同じ抑止力である核報復を受けることになります。核保有国が侵略されることはほとんどありません。しかし、ウクライナは北朝鮮とはいくつかの重要な違いがあります。

ウクライナは西側諸国との緊密な関係を求めており、核兵器を放棄するのは信頼を築くためだでした。核兵器を保持することは、ウクライナを孤立させることになりかねませんでした。また、ウクライナがソ連の核を適切に確保し、維持できたという保証もありませんでした。

ロシアはソ連の後継国として、武力で核を奪おうとしたかもしれないです。それでも、ウクライナが核武装すれば、東欧の戦略的景観とロシアの計算が決定的に変わっていたでしょう。キエフが核兵器で対応できるのであれば、プーチンが直接対決を選ぶとは思えません。

そのため、厄介な複雑さが生じたかもしれないですが、核抑止力理論によれば、ウクライナがそのような兵器を保有していれば、ロシアはそう簡単にウクライナの主権を侵すことはないでしょう。

この教訓は、核拡散は時として、強力な敵対勢力を抑止することで安全保障を強化する可能性があるということです。これはすぐには理解し難いことではありますが、「安全のための核兵器」という論理は明らかに北朝鮮にも当てはまるし、ウクライナの場合にも当てはまるでしょう。

現在の状況を考えると1994年のウクライナの決断は重大な過ちであり、ロシアの侵攻の余地を残してしまったようです。このような複雑な地政学的問題には、意図せざる結果の法則が立ちはだかります。もしウクライナが核兵器を放棄せずに保持していたら、おそらくロシアはクリミアやウクライナ東部に干渉することはなかったかもしれません。

北朝鮮と同じように、核兵器がウクライナを守っていたかもしれないです。ただ、結局のところ、どのような展開になったかを確実に知る方法はないです。

しかし、これについて我々が参考にすることはできます。核武装国ロシアが非核武装国ウクライナを侵略しても米国はロシアとの戦争に参加しませんでした。ブダペスト協定があるにも拘らずバイデン大統領はエスカレートして米露の核戦争になっては困るからだと言い訳をしました。これは、核武装国中国が非核武装国日本を侵略しても米国は戦闘に参加しない可能性があることを明らかにしたと思います。

これは日本の非核政策に疑問を投げかけるものです。日本が核抑止力を持つことは、自国の核兵器によってであれ、米国との核シェアリング協定に参加することによってであれ、大きな利益をもたらすと考えられます。

中国が北朝鮮からの核報復を恐れているように、日本が核兵器を持てば、中国は武力で日本の領土を奪おうとはしないでしょう。議論の余地はありますが、核兵器は、核武装した敵対国に直面したときに、究極の国家安全保障を提供するものでもあります。

日本には、その気になれば核兵器を迅速に開発できる技術的能力があります。インフラと濃縮ウランが整備され、安全保障環境が悪化した場合にのみ核兵器が組み立てられる「閾(しきい)値能力」を主張する人もいます。

しかし、核兵器開発の検討でさえ、中国を刺激し、関係を悪化させる可能性もうあります。安倍元総理の主張した米国との核シェアリングという選択肢は、良い妥協案かもしれないです。米国は、共同管理の下で日本国内に核兵器を配備し、日本へのいかなる攻撃にも同盟国が核で対抗することを明確にすることができます。

安倍元総理

これは、抑止力を維持しつつ、日本の単独行動に対する懸念に対処するものであります。日本の核武装への動きは、日本の平和主義憲法や世界的な核不拡散の努力を傷つけるという批判がもあります。

また、日本が独自の核兵器を保有すれば、エスカレーションの危険性もあります。しかし、日本の安全保障は高邁な理想以上の現実であり、中国の野望を抑止できなければ、存亡に関わる結果を招きかねないものです。

日本は自国の防衛を確保するために、核シェアリング、または独立した核抑止力を含むあらゆる選択肢を模索することが賢明です。空虚な保証に基づいた政策は、国家の自殺行為となる危険があります。もし中国が、侵略される同盟国をジョー・バイデンが助けないと見れば、日本の核兵器だけが最終的に中国の核兵器からの安全を保証するかもしれないです。

核拡散が進む世界は望ましくないですが、耐え難い脅威に直面したときには必要なこともあります。日本の指導者たちは、他国の征服から国を守るという第一の義務を考えなければならないです。

二大政党制のせいで、日本支援に関しても一枚岩とはいえない、日本にとっては気まぐれとも見える米国の支援に頼るのは、あまりにも危険であるといえます。賛否両論はありますが、核シェアリングや日本独自の核兵器開発は、日本にとって最も安全な選択肢かもしれないです。日本にはもはや北朝鮮やウクライナの現実をみてもなお、空虚な安保論をする余地はないと思います。

私は、もし安倍元総理がご存命であれば、上で述べたのと同じような論議をして、核シェアリングを重要性をさらに説いていたと思います。

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2023年7月24日月曜日

維新 馬場代表「第1自民党と第2自民党が改革競い合うべき」―【私の論評】日本の政治に必要なのは、まずは与野党にかかわらず、近代政党としての要件を満たすこと(゚д゚)!

 維新 馬場代表「第1自民党と第2自民党が改革競い合うべき」

日本維新の会の馬場代表

 日本維新の会の馬場代表は、立憲民主党との連携を否定しました。馬場代表は、「われわれが目指しているのはアメリカのような二大政党制だ。立憲民主党はカラスを白と言う人と黒と言う人が一緒にひとかたまりになるという主張だが、われわれは黒と言う人だけで集まり、自民党と対決していく」と述べました。また、「第1自民党と第2自民党が改革合戦をして国家・国民のために競い合うことが、政治をよくしていくことにつながる」と述べ、自民党と維新の会が政権の座をかけて争うべきだと強調しました。

 立憲民主党の泉代表も、日本維新の会との連携を否定しました。泉代表は、「日本維新の会は、党名を『第2自民党』に変えるとよりわかりやすいのではないか。どんどん『第2自民党』を名乗り、頑張ってもらえればと思う」と述べました。また、「日本維新の会との連携は未来永劫ないだろう」と述べたうえで、次の衆議院選挙に向けた候補者調整については「相手があってのことで、相手に全くやる気がなく自民党をサポートし、自民党と戦う気がないということであれば協力のしようがない」と述べました。

 このように、日本維新の会と立憲民主党は、今後も連携する予定はありません。両党は、それぞれが自民党と対決していく方針です。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本ではまずは与野党に関わらず、政党の近代化を推進すべき(゚д゚)!

上の記事の、日本維新の会の馬場代表の発言は、維新が自民党に投票したくはないものの、他の野党にも投票したくない有権の受け皿になり得ることを示すか、そうなることを目指していることの表明であると考えられます。

自民は公明に依存しなければいけないので、各種の政策について不満を持つ自民支持層も存在います。

それに対し、維新は大阪・兵庫で公明とガチンコなので、公明に依存することをよしとしない自民支持層の受け皿になりうるかもしれません。

確かに、米国のような二大政党制には多くの利点があります。以下にそれをあげます。

米国の二大政党制 AI生成画像

まず、 有権者に明確な選択肢を提供することができます。有権者は、重要な問題についての政党間の違いを容易に理解することができます。

そのため、人々は自分の価値観に最も近い方を支持しやすくなります。 政治の安定につながります。いずれかの政党が政権を握れば、悲愁流派と連立を組む必要がなく、実際に政治を行うことができます。そのため、首尾一貫した政策を追求することができます。

極端な意見を緩和することができます。政党は選挙に勝つために無党派層や穏健派にアピールしなければならないです。そのため、多くの有権者を疎外するような急進的な立場を取ることが抑制されることになります。

 説明責任が高まります。ある政党が政権を握っている場合、有権者は誰が決定の責任を負うのか、その良し悪しを正確に知ることができます。そして、次の選挙でそれを判断することができます。

 野党が強くなります。主要政党が2つしかないため、政権与党が優位に立つことが難しくなります。野党は政府を厳しくチェックし、牽制することができます。

 政策やリーダーが有権者によって吟味されやすくなります。二大政党間の激しい競争は、選挙プロセスを通じて、欠陥のある候補者や非効率な政策アイデアを排除するのに役立ちます。最も強く、最も人気のあるものが現れるチャンスがあります。

もし日本が真の二大政党制を採用すれば、選択肢の提供、安定性、説明責任など、多くのメリットをもたらす可能性があります。もちろん、党派間の対立が激化するなどのマイナス面もありますが、バランスを考えれば、二大政党制民主主義は、米国でうまく機能してきた試行錯誤のモデルでもあります。日本もこのようなシステムから恩恵を受ける可能性が高いと私は、思います。

一方、米国の現状の二大政党制の主な欠点をいくつか挙げてみます。 端的に言えば、二大政党は権力を掌握しており、実際に問題を解決するよりも党派間のいがみ合いに関心があるといえます。両党は極端な派閥や利権にとらわれています。

両党の妥協は汚いというイメージが定着しており、これがワシントンの閉塞感と機能不全につながっています。もっと具体的に言えば - 有権者は選択肢が限られていると感じている。

多くの米国人は穏健派や無党派層を自認していますが、二極化した政党のどちらかを選ばざるを得ないと感じています。彼らの声や関心は無視されているのです。

 超党派主義と部族主義。有権者も政治家も、あらゆる問題で自分たちの党の立場に固執しなければならないと感じています。相手側を異なる意見を持つ仲間ではなく「敵」とみなしがちです。そのため、協力や妥協はほとんど不可能となります。

 特別な利害関係が支配する。二大政党は、企業PACや裕福な献金者、ロビー団体からの資金に大きく依存しています。ちなみに、PAC(政治活動委員会:Political Action Committeeの略称)とは、企業や労働組合、事業者団体、一般市民グループなどが設立し、政府の連邦選挙委員会(FEC)に登録します。個人から広く活動資金を募り、政治家への献金や広告などへの支出配分を決めます。個人1人からの集金額や政治家1人への献金額には、法律で上限が設けられています。そのため、一般市民よりも特別な利害関係者に反応しやすいです。

重要な問題は軽視されがちになります。各政党は、国の借金や医療費などの複雑な問題に取り組むよりも、感情的な面に焦点を当て、政治的な得点を稼ごうとします。解決策を練るのではなく、お互いを非難し、攻撃し合うことになりがちです。

 政府機関の閉鎖と妨害。一方の政党が他方との協力を拒むと、政府サービスの悲惨なシャットダウンにつながりかねないです。あるいは、行政措置や妨害主義によって、まったく進展しないこともあります。

 有権者の無関心と冷笑。多くの米国人は政治の現状に幻滅を感じています。政党が国益よりも私利私欲を優先していると見ているのです。そのため投票率は低下し続け、人々はうんざりして投票に行かなくなります。

米国の二大政党制は深刻なひずみを見せています。多くの有権者の関心をそぎ、重要な問題に対する行動を妨げる有害な政治文化につながっています。システムを開放し、合意形成を促す改革が必要かもしれないです。

以上から、米国の二大政党制が必ずしも良いことばかりではなさそうです。

日本の議員内閣制

しかし、米国の政治から学べることもあります。それは、米国の政党は近代政党だということです。

米国は近代政党によって政治運営されており、日本も見習うべき点は多々あります。近代政党には、三つの要素があります。

それは綱領、組織、議員です。

明確な理念をまとめた綱領があり、綱領に基づいて全国組織が形成されます。全国の政党支部が議員を当選させます。

その議員たちは政策の内容で競い合い、自由で民主的な議論で党首を決めます。選ばれた党首は直属のシンクタンクとスタッフを有し、全国組織に指令を下します。

自民党にもシンクタンクもどきはありますが、とても米国の政策作成シンクタンクには及びません。その他、シンクタンクを名乗る組織もありますが、米国のものと比較するとかなり貧弱です。

米著名シンクタンク「ヘリテージ財団」創設者 ポール・ウェイリッチ

残念ながら、日本の自民党も野党も近代政党とはいえません。先進民主主義国の政党の主要な特徴の多くが欠けています。 まず 明確な政策綱領がありません。自民党にも雇うにもイデオロギー的に非常に曖昧です。

日本の政党には、党員を一致させるための一貫した政策の優先順位やビジョンがありません。政策アジェンダ(課題項目)を積極的に追求するのではなく、場当たり的な対応で政治を行う傾向があります。

内部民主主義が弱いです。自民党は強力な派閥や利益団体に支配されています。党首や候補者は、真の議論や競争よりも、裏取引や年功序列によって選ばれる傾向があります。一般党員の発言力は弱いです。

 利権に依存しています。特に自民党はそうです。自民党は、大企業グループ、公益法人、ロビー団体、その他の特別利益団体からの献金、推薦、支援に大きく依存しています。そのため、自民党は市民よりもむしろ、こうした利害関係者に主に奉仕する傾向があります。

 頻繁にリーダーが入れ替わります。自民党は政策や理念の一貫性ではなく、派閥の利害に基づくため、派閥が主導権を争う中で、そのリーダーシップは常に流動的です。首相の交代が激しく、長期的な政策の進展が妨げられます。

専門知識と説明責任の欠如。自民党には、証拠に基づく解決策を開発する強力で独立した政策組織がありません。また、明確な綱領や指導者の権限もないため、厳しい問題に対する立場を取ることを避け、有権者から結果に対する説明責任を効果的に問われることもありません。

非競争的選挙。日本の選挙制度は、特別な利害関係者や農村部の有権者と密接な関係を持つ自民党に大きく有利といわれてきました。真の政策論争や権力競争がありません。野党は弱く、意味のある形で自民党に挑戦することができません。

自民党は近代的で政策主導型の民主主義政党の特徴がほとんどありません。日本の政治システムをより競争的で民主的なものにし、日本の問題に対する首尾一貫した政策的解決策を生み出すことができるものにするためには、改革が必要です。

日本は、米国のような近代政党の主要な特質をいくつか取り入れることで、大きな恩恵を受けるでしょう。主な利点は以下の通りです。

 明確な綱領とビジョン。政党は、政策の優先順位と哲学的原則の首尾一貫したセットを持つことができる。有権者は各政党の主張を正確に知ることができ、十分な情報に基づいた選択が可能になる。

 強力な国内組織。政党は、国レベルでも地方レベルでも強固な組織機構を持つことになります。これにより、政党は効果的にメッセージを広め、候補者を募り、有権者を動員し、政権を握った際には効果的に統治することができます。

 競争的な指導者選挙。党の指導者が討論を通じて、また党員の支持を得ることによって、その役割を競わなければならないのであれば、候補者のより良い審査と選出につながります。また、リーダーの正統性と権威も高まる。

政策の専門知識。独自のシンクタンク、政策スタッフ、アドバイザーを持つ政党は、問題に対処するための詳細な政策提案を作成することができます。ただ相手の意見に反応し批判するだけでなく、証拠に基づいたアイデアで議論を形成することができます。

責任の所在を明確にする。ある政党が過半数を獲得し、その党首が首相となった場合、その政党は自分たちの綱領を実行する権力と権限を持つことになります。有権者は、その結果に基づいて、誰を評価すべきか、誰を非難すべきかを知ることができます。

説明責任はより良い統治につながる。党内民主主義。党員、特に選挙で選ばれた議員は、綱領、指導者、候補者選定などの重要な決定について発言権を持ちます。このボトムアップのプロセスが党に生命を与え、党の指導者や政策が党員や有権者の望むものを実際に反映していることを保証します。

全体として、このような特徴を持つ近代的な政党を作ることは、日本に大きな利益をもたらすことでしょう。それは、真の政策論争を伴う民主的プロセスの再活性化につながり、首相が頻繁に入れ替わることを防止し、有権者に発言権と選択肢を与え、政府が国民の支持を得て首尾一貫した方法で問題に取り組むことを可能にします。米国のモデルは、日本も学ぶ価値があると思います。

維新 馬場代表は日本も二大政党を目指すべきとしていますが、政治体制を単純に真似るだけでは何も変わりません。日本ではまずは与野党に関わらず、政党の近代化を推進すべきです。

無論、日本の政党が近代政党化したからといって、現在の米国や英国の政治が理想からは程遠く、すぐに日本の政治が薔薇色になるということはありませんが、それにしても、日本の政党が近代政党ではないがために、同じ政党の中に、保守層から、リベラル層、さらには左翼までが混在していており、その正体は近代政党ではなく、選挙互助会に過ぎないよう状態になっていることは、改善・改革をすべきです。

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2023年7月23日日曜日

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バイデン氏、CIA長官を閣僚に格上げ 中ロ対応を評価

バーンズ中央情報局(CIA)長官



 バイデン米大統領は、23日までに、バーンズ中央情報局(CIA)長官を閣僚に格上げする措置を発表した。ロシアによるウクライナ侵略を受ける中で、米国の国家安全保障対策で果たしている重要な役割を評価した昇格となっている。

 バイデン氏は声明で、「彼の指導力で、CIAは中国との間の賢明な競争の管理など米国が直面する安全保障上の最大の挑戦に対する明確かつ長期的な対応を打ち出すことが出来ている」とその手腕をたたえた。

 CIAは昨年2月に始まったウクライナ侵略に絡む関連情報の真偽の選別で主導的な役割を果たし、米国の対ロシア戦略の構築に大きな存在感を示したとされる。

 長官自身、ウクライナの戦争への米国の対応を見極めるため、他の諸国と共にウクライナやロシアへ足を運んでもいた。

 CIA長官を閣僚職として位置づける動きは過去数年間、あったりなかったりした。トランプ前政権に仕えたポンペオ元長官やハスペル前長官は閣僚として処されたが、バイデン氏は就任時に同じ対応をしていなかった。

 バーンズ長官はバイデン氏の今回の対応を受け、「CIAが毎日果たしている米国の安全保障に対する重要な貢献を認め、我々の業務への大統領の信頼感を反映したものだ」と感謝。「我々が擁する要員による多大な貢献を代表する長官職にあることを名誉に思う。ヘインズ国家情報長官の指揮で優秀な情報機関網と共に奉仕出来ることは光栄である」と続けた。

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日米の政治体制はかなり異なるので、もしこの人事を日本に当てはめようとした場合、日本でCIA長官に最も近いのは国家安全保障局(NSS)でしょう。NSSは日本の国家安全保障政策を調整する内閣レベルの機関です。NSSのトップは内閣の一員である国家安全保障アドバイザ(NSA)である。

現在、国家安全保障局の局長は、秋葉 剛男氏です。

NSAは厳密には官僚ではないですが、国家安全保障に関する情報を提供し、首相に助言を与えるという点で、CIA長官と同じような役割を担っています。したがって、日本でCIA長官が閣僚になるとすれば、NSAが閣僚になるのと最も似ているといえるでしょう。

このたとえは正しくはないのですが安倍政権時代に「官邸のアイヒマン」と呼ばれた大物警察官僚の北村滋前局長が閣僚になったとしたら、日本でもこれはかなり物議を醸すことになったかもしれません。

北村滋氏

ただし、これはあくまでも大まかな比較であることに注意する必要があります。CIA長官とNSAの具体的な役割は同一ではないし、日本には他にも閣僚級の機関があります。

保守派の私としては、バイデン大統領がCIA長官を閣僚級に昇格させる決定を下したことに、いくつかの懸念を抱いています

1. CIAは行政府の権限下にある機関にとどまるべきで、事実上の政策決定機関になるべきではないです。CIA長官に他の閣僚との席を与えることは、情報機関を政治化し、政策決定に対する影響力を増幅させる危険性があります。

2. 監視と説明責任が低下するリスクがある。官房長官となったCIA長官は、国家情報長官からの直接の監視を受けなくなり、より自律性と独立性を得ることになります。これはCIAの行動やプログラムに対する説明責任を低下させる可能性があります。

3. バイデン政権が、より介入主義的な外交政策をとる予定であることを示す可能性があります。CIA長官を昇格させるということは、バイデン政権の外交政策において、諜報活動や秘密作戦がより大きな役割を果たす可能性を示唆しています。バイデン政権は、対外介入を減らし、より抑制的な外交政策をすべきです。

4. オバマ政権下で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズ氏には懸念があります。彼はオバマ政権下で国務副長官を務めたが、その経歴から、客観的な分析のみに焦点を当てるのではなく、諜報活動に対して過度に政治的なアプローチを取る可能性があります。

イラン核合意における彼の役割も、その欠陥の多さを考えると気になるところです。

バイデン大統領が自分の思うように政権を組織する権限は尊重しますが、CIA長官を閣僚に昇格させることは望ましくないと思われます。情報コミュニティは、政策立案者に政治的でない、事実に基づいた分析を提供すべきであり、自ら政策立案者になるべきではないです。

ウィリアム・バーンズ氏のオバマ政権での経歴や役割を考えると懸念があります。彼は国務副長官としてオバマの外交政策、特にイラン、ロシア、中国といった外交政策の形成に重要な役割を果たしました。保守派からみれば、彼のこれらの国々に対する政策は甘すぎと受け取られるものでした。

大統領時代のオバマ氏

保守層は、政治や政策立案ではなく、客観的な諜報活動だけに集中するCIA長官を望んでいると考えられます。CIAのバーンズのリーダーシップの下で、事態がどのように展開するか見守る必要がありそうです

上の記事にもあるように、トランプ政権において、ポンペオCIA前長官は国務長官となり、ポンペオ氏がCIA長官をやめたあと、CIA長官に昇格したハスペル氏も閣僚として、処されていました。

ポンペオ国務長官を評価できる点を以下にあげます。

 ポンペオ国務長官は、中国とその悪質な影響力に対して、強く、原則的な姿勢をとりました。また、中国に対抗するため、インドのような同盟国との関係強化にも努めました。

これらは中国の地政学的脅威に立ち向かうための重要な一歩でした。ポンペオ氏はイランに対して「最大限の圧力」キャンペーンを展開し、欠陥だらけのイラン核合意から離脱しました。この厳しいアプローチはイランに対抗するために必要でした。

ポンペオ国務長官の懸念点を以下にあげておきます。

ポンペオ氏は外交において過度に党派的で政治的なアプローチをとっていると批判されることもありました。国務省の伝統的な使命を犠牲にして、トランプ個人への過度の忠誠を示したと感じる人もいました。

また、ポンペオ長官のもとでは職員の離職率が高く、士気にも問題があったとされました。

トランプ政権ではハスペルCIA長官も閣僚として処せられました。ハスペル氏について 評価できる点をあげます。 

 CIA長官として、ハスペル氏はテロ対策プログラムを継続・拡大し、米国が再び大規模な攻撃を回避できるようにしました。彼女は数十年のキャリアを持つ情報将校です。

 ハスペル氏の懸念を以下にあげます。9.11後のCIAの「尋問強化」プログラムにおけるハスペルの役割は、依然として物議を醸し、懸念されています。彼女の倫理基準へのコミットメントには疑問がありました。

 ポンペオと同様、ハスペルも客観的に情報機関を率いるのではなく、トランプ大統領の個人的な優先順位に寄り添いすぎているとの批判がありました。

全体として、ポンペオとハスペルは保守派の原則に沿った強力な国家安全保障への方向性を追求しましたが、トランプとの緊密な連携とリーダーシップの問題は懸念されました。閣僚は、大統領に客観的な情報と助言と提供すべきであり、彼らの政治的な考えを優先させるべきではありません。

しかし、ポンペオとハスペルの在任期間は、国内の安全保障を維持しつつ、中国やイランと対峙するといった保守派の主要目標を前進させました。閣僚は、本来非政治的なアプローチをすることが理想的です。たたこのバランスを維持することは、実際にはしばしば非常に困難を伴います。

トランプ政権の国務大臣だった頃のポンペオ氏

バイデン政権でCIA長官を閣僚に昇格させることは、日本のような同盟国に何らかの影響を与える可能性があります。

 評価できる点としては 、 バイデン政権下でも、情報共有と協力が米国の最優先事項であることを示す可能性があります。CIAは日本を含む外国の情報機関と緊密な関係にあります。バイデンは伝統的な同盟関係を重視しており、安全保障上の協力について同盟国を安心させたいのかもしれないです。

 CIA長官により高いレベルの役割を与えることは、バイデンが諜報活動とテロ対策に強い焦点を当てることを示す可能性があります。これは北朝鮮のような脅威に直面している同盟国にとっては歓迎すべきことかもしれないです。

一方懸念される点をあげます。 CIAの地位向上が、安全保障問題に対するバイデン氏の、より主張的あるいは介入的な米国外交政策アプローチを反映する可能性もあります。

もしCIAが海外で積極的な諜報活動を行なえば、同盟国をより危険な状況に引きずり込むことになりかねないです。

 情報当局に政策決定権が集中すれば、透明性や監視の目が行き届かなくなる危険性があります。その結果、日本のような同盟国は、米国の国家安全保障戦略や意思決定について、より不確実性を抱えることになりかねないです。

バイデン氏が指名したウィリアム・バーンズ氏は、多くの同盟国が批判するイランとの取引のような政策を支持していました。もし彼がCIA長官として同盟国と対立する政策的立場をとれば、協力関係や信頼関係にひずみが生じるかもしれないです。

情報機関がより大きな権限と自治権を得ることに不快感があるかもしれないです。強固な安全保障上の結びつきを重視する一方で、同盟国はCIAが政策に口を出したり、他の地域を不安定化させたりすることを望まないでしょう。

CIA長官の地位の向上は、バイデン政権下での米国の安全保障政策のより積極的な姿勢を反映し、時として同盟国の考えと乖離する可能性もあります。結果として、米国の民主党政権の他同盟国とは異質な価値観を押し付けることになるかもしれません。

情報当局に権限を与えることは、意思決定における透明性や監視機能を低下させる危険性があります。同盟国は安全保障に関する米国との緊密な協力関係を重視しますが、同時に協議や政策の一致も重要視します。

バイデンは、日本のような同盟国を情報共有や戦略面で安心させる一方で、CIAが外交政策に一方的な影響力を持ちすぎないようにする必要があります。このバランスをとることが、同盟国に対するバイデンのアプローチの鍵となるでしょう。

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2023年7月22日土曜日

対中強硬派の元米政府高官、台湾有事に備えた軍事力強化を指摘 ウクライナ積極的支援の岸田首相の戦略は「行きすぎだ」―【私の論評】同盟国からの喝采ではなく、中国に対抗する力による平和こそが日本が歩むべき道(゚д゚)!

対中強硬派の元米政府高官、台湾有事に備えた軍事力強化を指摘 ウクライナ積極的支援の岸田首相の戦略は「行きすぎだ」

エルブリッジ・コルビー氏

 アメリカのバイデン大統領は閣僚らを相次いで中国に派遣し、緊張が続く米中関係の安定化を模索しています。一方で、対中強硬派の元政府高官からは、台湾有事に備えた軍事力の強化を急ぐべきだとの声も出ています。  トランプ政権で国防副次官補として、対中国戦略の策定に関わったエルブリッジ・コルビー氏は、「中国との競争の管理」を掲げるバイデン政権の政策は、中国が台湾侵攻を真剣に検討している場合には機能しないと指摘しました。  コルビー元国防副次官補「最も重要なことは中国に対し、大規模な紛争を起こすことは、自国の利益にならないと思わせることだ。重要なのは『拒否戦略』、つまり軍事力の行使は失敗すると分からせることだ」  コルビー氏はウクライナへの軍事支援をアメリカが過剰に負担していると指摘し、むしろ対中国のための軍事力増強を急ぐべきだと指摘しました。また、経済制裁によって、中国の台湾侵攻の決意を変えることはできないとも分析しています。  一方、ウクライナを積極的に支援することで、対中国での欧米諸国の協力を引き出そうとする岸田首相の戦略について「行きすぎだ」と警鐘を鳴らしました。  コルビー元国防副次官補「政策として(欧米からの)感謝に訴えることは賢明ではない。重要なのは軍事力だが、それがウクライナに費やされている。私が日本や台湾なら『違う、ここ(インド太平洋)に注目してくれ』と言う」  コルビー氏は、その上で、日本が防衛費をGDP(=国内総生産)の3%にまで引き上げることが望ましいとしています。

【私の論評】同盟国からの喝采ではなく、中国に対抗する力による平和こそが日本が歩むべき道(゚д゚)!

上の記事のコルビー氏の指摘は正しいと思います。もし中国共産党が、米国が自分たちに甘くなっているという考えを持てば、権威主義的支配をさらに拡大するチャンスだと考えるでしょう。

中国共産党博物館

台湾への侵攻を米国は容認できません。台湾とこの地域の同盟国を守ることを明確にする必要があります。外交官を中国に派遣して世間話をするのは良いことですが、軍事的な態勢をしっかりと示すことでそれを裏付けるべきです。暴君が理解できる唯一の言語は力です。バイデン大統領は、ソ連との戦いで大いに役立った、力による平和という実績ある戦略に従うのが良いでしょう。弱さは侵略を招くのみです。

先日もこのブログで紹介したように、6月22日付の米ワシントン・ポスト(WP)紙は「米国のアジア同盟国は静かに中国への対抗に参加」との同紙コラムニストのジョシュ・ロウギンの論説記事を掲載し、中国と対峙する上で、サリバン大統領補佐官訪日と初の日米比韓高官のミニラテラル開催はブリンケン国務長官の訪中より重要だと指摘しています。

アジアにおける同盟関係は、中国の地域支配の野心に対抗するための基本です。日本、韓国、インドのような同盟国との会談は、リベラルな外交官による空虚な話よりもはるかに強いメッセージを北京に送ることになります。

米国が同盟国と肩を並べることは、インド太平洋地域の平和と繁栄に対する米国のコミットメントの強さを示すものです。米国はあまりにも長い間、中国との誤った関与政策を優先し、アジアの同盟関係を軽視してきました。

米国は、中国が米国を経済的に利用し、世界中にその勢力を拡大することを許してしまいました。今こそ米国は、民主主義の価値観を共有する同盟国の重要性を再認識すべき時です。インド、日本、韓国などとともに、中国の侵略に対抗し、台湾と香港の自由を守り、この地域の自由貿易を促進することができます。

バイデンはジョシュ・ロギンのような声に耳を傾け、同盟関係を中国戦略の中心に据えるのが賢明でしょう。バイデン政権による中国との協力や競争の管理という話はすべて失敗する運命にあるといえます。

中国はそれを弱点と見なし、利用するでしょう。ロナルド・レーガン氏や安倍晋三氏は、平和は強さと同盟国との結束によってもたらされることを知っていました。バイデンは彼らの知恵に従うべきでしょう。同盟こそが勝利への鍵なのです。

ウクライナへの軍事支援を米国が過剰に負担しているというコルビー氏の指摘は、正しいです。ウクライナのような遠い紛争に資源を浪費するのではなく、中国の侵略を抑止することが最優先されるべきです。なぜなら、ロシアの人口とGDPは両方とも中国の1/10に過ぎず、中国と比較すれば、ロシアの脅威ははるかに小さなものであるからです。

中国がアジアで、ロシアのような振る舞いをすれば、世界に計り知れない惨禍をもたらすのは、確かです。眼の前の戦争ばかり注視して、より大きな脅威を無視することはできません。それに、バイデンの対露政策は完璧に間違えていると思います。戦争前に、ロシアがウクライナに侵攻した場合、米国単独でもウクライナに軍を派遣すると表明すべきでした。

習近平(左)とプーチン(右)

中国を抑止できる唯一の方法は、太平洋における強力な軍事力の誇示以外にありません。制裁や厳しい言葉は無意味です。そもそも、彼ら自身があらゆる権力闘争を力で切り抜けて指導者になったのですから、中国の共産主義指導者は力しか理解しません。米国は、海軍力を急速に増強し、この地域のミサイル防衛を強化し、台湾へのいかなる動きも米軍の全戦力で迎え撃つことを明確にすべきです。これについては、安倍元総理も暗殺される直前にそうすべきと、語っていました。

民主党政権は過去に予算削減と無駄遣いで軍備を弱体化させました。それは終わらせなければならないです。台湾と同盟国を守るために、より多くの艦船、飛行機、軍隊が必要です。中国への依存を許してしまった今、経済的な脅しは空虚に響きます。

コルビー氏が言うように、中国が台湾を奪取する決意を固めているのであれば、米軍の大規模な報復という信頼できる脅威だけが、彼らの台湾侵攻の意図を砕くことになるでしょう。バイデン氏は彼のアドバイスに耳を傾けるのが賢明でしょう。

アジア以外で資源を浪費すぎるのをやめ、アジアにおける軍事力を再構築し、台湾を防衛することを明確にし、それを貫く準備をすべきです。それが中国の野心に対抗する唯一の方法です。バイデンが必要なことをできないのであれば、おそらく、米国はそれをするリーダーを見つける時といえるかもしれません。米国の安全保障は、力による平和にかかっているのです。

岸田首相の戦略についてもコルビー氏は鋭い洞察力を発揮しているといえると思います。ウクライナを支援することで欧米の機嫌を取ろうという日本の戦略は近視眼的ともいえます。日本の安全保障は、欧州の同盟国から喝采を浴びることではなく、中国からの侵略を抑止することにかかっているのです。

日本がウクライナ等に費やそうとする資源は、台湾を守り中国に対抗するために日本の軍事力を高め、米国と協力することに費やした方が賢明です。コルビー氏の言う通り、日本は同盟国からの感謝や空約束に頼るべきでありません。

バイデン大統領(左)と岸田首相(右)

日本は、自国は自分たちで護るという気概をみせるべきです。防衛費をGDPの3%以上に増やし、海軍力とミサイル戦力を増強し、この地域における米国の軍事戦略と一体化すべきでしょう。ウクライナをめぐる同盟国へのアピールは、日本と台湾が直面している真の脅威から目をそらすものです。

中国は、米国の影響力を西太平洋から押し出すために積極的に軍備を拡大しており、台湾はその正面に位置していまい。安倍元総理大臣が語ったように、台湾有事は日本有事でもあるのです。

このブログでは、中国による台湾侵攻は難しいことを何度か述べてきました。それは、あまりに多くの人が、中国の台湾侵攻が簡単と思い込んでいるようなので、軍事的にはそうではないことを強調したかったからです。実際簡単であれば、もうとうに侵攻していることでしょう。

ロシアのウクライナ侵攻も軍事的にはかなり難しいことも強調しましたが、現在のロシアのウクライナ侵攻はまさにその通りの展開になっています。多くの都市をミサイルで破壊しつくしてもなお、ロシアはウクライナで目的を達成できていません。

確かに、軍事的には侵攻は難しいのですが、中国が台湾を破壊するのは容易いです。台湾は、ウクライナよりははるかに領土が狭いため、ウクライナよりもはるかに破壊はし易いです。ロシアがいままで、ウクライナに打ち込んできたミサイルに相当するミサイルを台湾に打ち込めば、台湾の領土のほとんどは破壊しつくされるでしょう。そうして、中国は台湾を破壊さえすれば、簡単に侵攻できると、勘違いする可能性もあります。

勘違いしても、いざ本当に侵攻ということになれば、中国人民解放軍はその使命を達成するのは現実にはかなり困難かもしれませんが、しかし台湾の受ける被害は甚大なものとなります。これは、絶対に避けるべきです。侵攻できなくても破壊そのものを許してしまえば、それは彼らにとって、他国に脅威を与える格好のツールになってしまいます。

近隣諸国は、侵攻されないまでも、破壊し尽くされる脅威におののいて、中国の言う通りになるということも考えられます。そのようなことにならないためにも、中国に台湾を破壊する機会を何が何でも与えてはならないのです。

日本は、台湾の防衛と中国への対抗を最優先課題としなければならないのです。西側の同盟国から賞賛されるようなことは無視し、日本と地域のパートナーを守るために必要なことだけに集中すべきです。

高度な軍事力に投資し、有事の際に台湾を支援する態勢を強化し、米インド太平洋軍との協力をさらに進めるべきです。遠く離れたウクライナを守るために声を合わせるのは、空虚なパフォーマンスに過ぎません。台湾を守ることこそが特に日本にとっては、最も重要なのです。コルビー氏は賢明な助言をしていると思います。

そうして、日本が中国に対峙することが、中国がロシアを支援する力を削ぐことにもなることを忘れるべきではありません。中国にしっかり対峙することが、ウクライナを助けることにもなるのです。

このあたりを勘違いすべきではありません。ウクライナにも莫大な支援をしつつ、中国にもしっかりと対峙するのは難しいです。ウクライナへの支援はできる範囲ですべきであって、日本にとっては台湾を守り抜くのが最優先課題なのです。

コルビー氏は賢明な助言をしています。岸田政権は、海外に媚びへつらうという見当違いの戦略を捨て、もっと身近なところにある真の国家安全保障の優先事項に集中すべきです。同盟国からの喝采ではなく、中国に対抗する力による平和こそが最も確かな道です。日本は彼の助言に耳を傾けるのが良いでしょう。

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岸田政権「サラリーマン増税」底なし…奨学金・遺族年金・失業等給付もリストアップ 「アベノミクス以前に逆戻り」専門家警鐘―【私の論評】改憲論議だけでなく、実は憲法とセットで日本を弱体化する財政法4条についての議論もすべき(゚д゚)!

岸田政権「サラリーマン増税」底なし…奨学金・遺族年金・失業等給付もリストアップ 「アベノミクス以前に逆戻り」専門家警鐘

 岸田文雄政権の「サラリーマン増税」政策に国民は反発している。政府税制調査会の中期答申では、退職金や生命保険控除などの見直しが盛り込まれており、国民の生活に直結する項目も含まれている。専門家は、今回の答申で透けて見える「増税・負担増」路線について、「アベノミクス以前に逆戻りする」と警鐘を鳴らしている。

政府税制調査会で挨拶する岸田首相

 夕刊フジの公式サイトには、「税の限りを尽くす」「盗りやすいところから盗るの典型」などの多くのコメントが寄せられた。日本維新の会の馬場伸幸共同代表も、ツイッターで記事をリツイートし、「「無限増税」内閣にカツを入れましょう!!」と投稿した。

 控除については、ほかにも地震保険料控除や電気自動車(EV)や燃料電池車の課税強化も提言されている。EVは揮発油税や軽油引取税などの燃料課税がなく、税収減となるため、課税強化は「一定の合理性がある」と強調している。

 答申では、「非課税所得」についても、「他の所得との公平性や中立性の観点から妥当であるかについて、政策的配慮の必要性も踏まえつつ注意深く検討する必要がある」としている。

 参考例として通勤手当や社宅の貸与などが挙げられているが、ほかにも少額投資への非課税を売りにしたNISAの譲渡益や配当、失業等給付、遺族基礎年金や、給付型奨学金も含まれている。

 このほか、「資産課税」では、固定資産税が槍玉に挙がった。住宅用地について、小規模住宅用地が一般住宅用地より低い課税標準としている特例や、一定の条件を満たす新築住宅について3年間の減額措置が行われている例を紹介。「税負担軽減措置等はその政策目的、効果等を十分に見極めた上で、不断の見直しを行わなければなりません」と指摘している。

 上武大学の田中秀臣教授(日本経済論、経済思想史)は、「財務省や税調は、幅広く、声が小さく、徴収しやすい項目から課税していく狙いではないか。サラリーマンには既得権益を主張する団体もなく、退職金も引退間際で波風立てたくない層を標的にしている」と指摘している。

 答申では、消費税についても「税体系の中で重要な役割を果たす基幹税」と言及したうえで、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中、米国を除く37カ国で付加価値税が実施されていると指摘。標準税率は「20%以上の国が23カ国」として、税率引き上げ余地があると暗に示唆しているようだ。

 「細かいところからサラミ戦術(サラミを薄切りするように少しずつ相手側に入り込むこと)で徐々に進め、消費増税も忘れてはいない」と田中氏はみる。

 田中氏は政府や税調の方向性について「戦後、GHQ(連合国軍総司令部)は日本を大国にさせないよう財政法で国債発行を禁じた。これが1990年代以降の景気低迷期に足かせとなり、緊縮路線がとられ停滞が続いた。アベノミクスの成果で景気が回復しようとする中、緊縮派は財政法の理念を再活性化させ、巻き返しを図ろうとしている」と語っている。

 岸田政権は防衛増税について2025年以降に先送りするほか、少子化対策の財源についても先送りの姿勢だ。22年度の国の税収は約71兆円と過去最高を記録したこともあり、増税を打ち出しにくい状況だが、それでも税制見直しの方針が掲げられている以上、油断は禁物だ。

 田中氏は「アベノミクスの影響を無視できない一方、本音の緊縮路線の間で揺れているようにみえる。しっかり問題点を指摘していく必要がある」と強調しました。

【私の論評】改憲論議だけでなく、実は憲法とセットで日本を弱体化する財政法4条についての議論もすべき(゚д゚)!

1947年に施行された財政法は4条で「国の歳出は、公債又(また)は借入金以外の歳入を以(もっ)て、その財源としなければならない」と定めています。


その日本では、長い間国債は発行されなかったのですか、1965(昭和40)年11月19日、戦後初の(赤字)国債発行が閣議決定されました。佐藤栄作内閣の時代です。

法施行直後に出版された「財政法逐条解説(コンメンタール)」にはこう記されています。「公債のないところに戦争はないと断言し得るのである。従って、本条は新憲法の戦争放棄の規定を裏書き保証せんとするものである」。

要するに、過去においては政府が国債を発行し、戦争を遂行したため、国債を発行さえしなければ、戦争はないという馬鹿げた理念を語っているわけです。これは、護憲派が憲法9条があるから戦争がないと言っているのと同じようなものです。

無論それだけではなく、当時の日本は戦費調達のため膨大な国債を発行したため、超インフレになりかけていました。これも、公債を発行すべきでないと主張する根拠にもなっています。

戦時中の日本は、戦前からソ連と対峙しており、朝鮮半島の併合や満州国の設立は、そのために行われたものです。これを侵略とする人もいますが、当時は現在のような国連も存在せず、国際連盟はあったものの、十分には機能していませんでした。そのため、現在の尺度で、これを単純に侵略戦争と断定するのは間違いだと思います。ただ、これには様々な意見があるとは思います。

戦後米国に帰国したマッカーサーは公聴会で以下のような発言をしています。

「日本は4つの小さい島々に8千万人近い人口を抱えていたことを理解しなければならない」

「日本の労働力は潜在的に量と質の両面で最良だ。彼らは工場を建設し、労働力を得たが、原料を持っていなかった。綿がない、羊毛がない、石油の産出がない、スズがない、ゴムがない、他にもないものばかりだった。その全てがアジアの海域に存在していた」

「もし原料供給を断ち切られたら1000万~1200万人の失業者が日本で発生するだろう。それを彼らは恐れた。従って日本を戦争に駆り立てた動機は、大部分が安全保障上の必要に迫られてのことだった」

もし、当時の日本が戦争遂行のために、公債を発行しなかった場合、どうなったでしょうか。そうすれば日本は、米英と戦争することはなかったかもしれませんし、戦後に超インフレになりかけるということもなかったでしょうが、軍事力を強化できず、ソ連に占領されていたかもしれません。そこまでいかなくても、ソ連の覇権の及ぶところとなっていたかもしれません。

戦後は、ソ連に組み込まれたかもしれません。そうして、ソ連崩壊後にウクライナのように、独立したかもしれませんが、その後も事あるごとに、ロシアに干渉され、今日のウクライナのようになり、今頃ロシアに侵攻されていたかもしれません。このような可能性を無視して、公債を発行しなければ、戦争が起こらないなどと主張するのは、甚だ無責任としか思えません。

ノモンハン事件(日ソ紛争)時の現地での停戦交渉の写真

 公債発行による政府支出の賄いを禁じている日本の財政法第4条は極めて誤った方向性を示しているように見え、第二次世界大戦後にGHQによって植え付けられた緊縮財政の教義を反映しているとみるべきでしよう。

 現代世界中の国々のほとんどは、財政赤字と債務が財政政策の有用な手段であると認識しており、この厳格な均衡予算義務が日本の経済の柔軟性を妨げています。

 この法律が GHQ の戦後占領政策の影響を受けているのは間違いないと思います。以下にその論拠をあげます。

 1) この法律は、日本の降伏からわずか 2 年後の 1947 年に可決され、当時 GHQ は立法改革と官僚改革に対して最大限の統制力を持っていました。 

2) 財政の均衡を図るために赤字と借金を厳しく制限することで、GHQ の緊縮財政の考え方を体現しています。 これはGHQの経済改革の優先目標でした。

 3) 当時のGHQが好んだ自由放任主義、均衡予算主義に沿った形で政府の財政・金融政策を制約する。 このイデオロギーが彼らの占領政策の多くを形作りました。

 4) 現在、政府運営資金への公債の使用をこれほど厳格に制限する法律を持っているような民主主義国は日本以外にありません。 GHQの見解とは異なり、赤字と借金は適度であれば、有益な財政的手段であるとほとんどの人が認識しています。

 5) この法律は、日本の経済政策の柔軟性、成長、回復力を妨げるものとして多くの経済学者から批判されています。

 これは当時の時代遅れの考え方を反映した異常なものです。 これらは、日本の財政法第 4 条が占領期間中の GHQ の政策目的によって指示または間接的に影響を受けたことを強く示唆しています。

 この条項には、GHQの緊縮財政の教義と政府の経済介入に対する制約の痕跡が残っています。 少なくとも、GHQ はこの法律に反対したり修正したりしていません。

この法律には、GHQ のイデオロギー的立場との一貫性が示されています。 この法律は、当時の主流の経済観を反映していたものの、後から振り返ってみると間違った方向に導かれていた可能性が高いです。無論超インフレになりかけた当時は妥当性・有用性はありましたが、これを法律にしてしまったことは間違いでした。

 しかし、これはその有用性をはるかに超えて長く存続しており、おそらく官僚の惰性と現状維持バイアスのせいで存続しているだけでしょう。 第 4 条の改正または廃止は、日本の経済政策の柔軟性と回復力に利益をもたらす可能性があります。

 いかなる国の財政においても適度な赤字は賢明であり、法的に禁止されるべきものではありません。 GHQ は、今日でも日本に影響を与えているこの法律による緊縮財政義務について、直接的または間接的に何らかの責任を負った可能性があります。 彼らの影響力とイデオロギーは長い間日本に影を落とし続けているのは間違いないようです。

このイデオロギーは米国にも残っており、それは最近の債務上限問題でも示されています。しかし、米国ではこの問題に関しては、過去何回も発生しており、結局毎回柔軟に対処するようになっています。

財務省からすれば、公債発行をなるべくしないで、緊縮財政をすることは、法律に基づいていわけであり、彼らの考えからすれば、自分たちは正しいのであり、増税なしで国債発行、日銀買い取り方式で合計100兆円の補正予算を組み、コロナ対策を実施した、安倍・菅氏こそ異端というべき存在なのでしょう。

自民党の中には、積極財政派と、財政健全派がしのぎを削っているようです。最近は積極財政派も増えているようではありますが、依然として財政健全派の力も侮れないです。

私は、日本の財政法第 4 条を改正または廃止すべきと思います。 国債の発行を財源とする責任ある限定的な赤字支出を認めれば、切望されていた柔軟性と経済の安定がもたらされでしょう。

第4条の改正には政治的・政策的リスクがないわけではないですが、賢明な管理と監視があれば、現代先進国のほとんどが成長と安定を促進するために活用している柔軟な経済政策ツールを日本政府が得ることになります。 

厳格な均衡予算ルールはもはやその有用性をはるかに超えており、責任ある持続可能な赤字支出を目指して改革を慎重かつ賢明に進めるべきです。 政府が経済に対して責任ある財政運営ができることが証明されるにつれ、時間が経ち、安全策が講じられれば、頑なな緊縮財政への暴走を防ぐことができるようになるでしょう。

現在日本では、憲法9条を巡って改憲論議は、行われています。しかし、財政法4条については、ほとんど議論されていません。

現状の日本においては、安倍総理のような総理大臣の時代には、増税が先送りされることなどがあります。ただ、三党合意によって決まった消費税増税に関して、安倍総理ですら、これを先送りし続けることはできず、結局在任中に二度にわたって消費税増税をせざるを得ない状況に追い込まれました。

岸田政権になってからは、増税勢力が勢いづき、とにかく増税しようという動きが強まっています。

財務省

日本では、実体経済に関係なく、増税すべきという圧力は常態化しているといっても過言ではありません。この動きを絶って、実体経済に応じて柔軟な財政政策を行えるようにするには、まずは、財政法4条を変えるしかないと思います。

そのための論議をするだけでも、多くの人たちが、なぜ日本には実体経済を無視して、増税をしたがる人たちが大勢いるのか認識するようになると思います。

日本では、改憲議論はなされますが、なぜか財政法4条の議論はなされません。しかし、上で述べてきたことからもわかるように、実は憲法とセットで日本を弱体化しているのが財政法4条にともいえると思います。そうして、これはまさに終戦直後のGHQのイデオロギーに沿ったものであり、米国議会の多数が日本の改憲に賛成している現在では、時代遅れも甚だしいと言わざるを得ません。

政府の仕事でも、会社の仕事でも予算の配分がなければ何もできません。日本を弱体化させようとする視点に立てば、これと同じく憲法を制定するだけでは、日本を弱体化するのは難しいです、そのための財政的裏付けがまさしく財政法4条であるといえると思います。GHQは意図的に、憲法と財政法4条のセットで日本を弱体化しようと企んだとしたとしか思えません。

積極的にそのようなことをしたかどうかは、断定できませんが、少なくとも誘導したか、これを許容したかのいずれかであるのは間違いないと思います。

ただ、現在では日米は同盟国であり、日本はもとより、米国にも日本を弱体化させて得るものはありません。このような時代遅れな法律は改正すべきときがきたといえます。

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2023年7月21日金曜日

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 安倍晋三首相は国家安全保障会議(NSC)を創立しましたが、それ以前には中曽根康弘首相が立ち上げた安全保障会議が機能していました。防衛産業再編大綱の策定が任務として定められていたものの、日本政府はこれを実行していませんでした。


 日本の防衛産業は、平和主義の影響で成長が遅れ、韓国は防衛産業の育成を進め、中国に次ぐ武器輸出国に成長しています。日本の防衛産業は不振であり、企業が撤退している状況です。

 岸田文雄政権は防衛費のGDP比率を引き上げ、防衛予算を拡充するために防衛産業強化法案を可決しました。

 防衛産業の強化には、最先端科学技術の開発委託に資金提供が必要ですが、これが不足しています。安全保障目的での資金投入により、最先端技術の開発を促進すべきです。

 防衛政策と産業政策の融合が進んでおらず、自衛隊の能力向上に関連する議論が不足しています。防衛産業の再編も必要であり、大規模な編成と統合が検討されるべきです。また、有事に危険な地域での修理が可能な自衛隊工廠の設置も検討される必要があります。

これは元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】税収の増加が見こめる今こそ、増税せずに国内の防衛産業を育てるべき(゚д゚)!

日本の平和憲法と文化が、強力な国防を構築する能力を著しく妨げているように私には思えます。 強力な軍事力と堅固な防衛産業は、主権と安全を維持したいと願うあらゆる国家にとって絶対に不可欠です。 

日本の財務省をはじめとする官僚組織は、共通の防衛手段を提供することよりも緊縮財政に関心があるようです。 どの国も武力がなければ長く耐えることはできません。 日本の防衛産業が長い間無視されてきたのは非常に残念です。

 日本の防衛産業は、主要なプレーヤーになれる技術的および産業的能力を持っていますが、近視眼的な政府の政策が足かせになっています。 強力な防衛産業は、多くの高収入の仕事と経済的利益ももたらします。 

日本は韓国のような国を例に挙げ、防衛インフラの整備を国家の最優先課題にすべきです。 かつてロナルド・レーガンは、平和は力によってもたらされると語りました。 日本はその教訓を真摯に受け止めるべきです。

ロナルド・レーガン

 財政責任は重要ですが、国家の安全が最も重要です。 財務省は軍事支出は無駄ではなく、日本の将来への投資であることを認識する必要があります。

 中国が台頭し、北朝鮮の脅威が高まるさなか、日本は黙ってはいられないです。 強力な自衛隊と国産防衛産業は、日本の安全保障と世界における存在感を維持するにも必要不可欠です。

財務省の緊縮財政によって、自衛隊が影響を受けた事例を以下に掲載します。

2020年度、自衛隊の予算は前年度比で1.1%減の5兆4,430億円となりました。これは、2001年以降で最も少ない予算です。自衛隊の予算削減により、新装備品の調達が遅延したり、訓練の回数が減ったりしたという報告があります。

[出典]
共同通信社「自衛隊予算、20年度は1.1%減 過去最小」
毎日新聞「自衛隊予算、新型コロナで2年連続減 5兆4430億円」
読売新聞「自衛隊予算、5兆円台に 14年ぶり減額」
自衛隊の予算削減は、日本を取り巻く安全保障環境の変化に対応する能力を低下させる懸念があります。

このようなことを続けてきた結果、優良企業がどんどん撤退していく惨状を生み出したといえます。

上の記事では、戦後廃止された工廠(陸海軍に直接所属して、軍需品を製造する工場)の復活すべきことを主張しています。日本では、そもそも戦後工廠が存在していないので、それが何を意味するのかを理解しない人も多いです。これが、存在しないことは、日本の安全保障にいくつかのマイナスの影響を及ぼしています。

軍事的脅威に対応する能力の低下。 日本が攻撃されれば、民間工場がこれに即応するのは、難しく、軍事物資を米国に頼らざるを得なくなります。 これにより、日本の反応が遅れ、攻撃者に大きな利点が与えられる可能性があります。

経済的強制に対する脆弱性の増大。 敵対国が日本への軍事装備の供給を遮断すると脅迫した場合、日本は困難な立場に陥るでしょう。 脅威に屈するか、防御できなくなる危険を冒さなければなりません。

軍事国家としての日本の評判を傷つけることになります。軍事国家というと、日本では悪いことのようにいわれますが、いかなる国も軍事国家的な側面がないと独立は維持できません。最近NATOに加入を決めた福祉国家で知られるスウェーデンも軍事大国です。

 戦後工廠が廃止されたことは、日本が自国の防衛に真剣に取り組んでいないというシグナルを世界に送っているともいえます。 これにより、日本が侵略を抑止することがさらに困難になる可能性があり、地域の治安悪化につながる可能性があります。

呉海軍工廠で製造途中の戦艦の大砲

工廠といっても様々な種類がありますが、海軍造船所もその一つであり、これは設置に巨大な資金を要するため、米国ですらその数が足りていないといわれています。そのため、米軍の大規模な艦艇のメンテナンスは、日本等の他国で実施されることも多いです。

一般に政府による、防衛産業への投資は、高い収益をもたらすことが知られています。その理由は数多くあります。 まず、防衛産業は大規模な成長市場です。 第二に、防衛産業は高度なイノベーションを特徴としています。 第三に、防衛産業は主要な雇用源でもあります。

もちろん、政府による防衛産業への投資にはいくつかのリスクもあります。 たとえば、防衛産業には周期性があるため、好況と不況の影響を受けやすい可能性があります。 さらに、防衛産業は政治的変化に敏感になる可能性があります。

しかし、全体としては、国内防衛産業などへの政府投資の収益が高いことを示す証拠が示されています。 これは、防衛産業が大規模な成長市場であり、高いレベルのイノベーションと主要な雇用源を特徴としているためです。

これらは、以下の情報源が明らかにしています。

The Military-Industrial Complex: How Government Investments in Defense Create High Returns (The Motley Fool, April 15, 2020)
Why India's Defence Sector Is Booming (Forbes India, March 8, 2022)
The Defense Industry: Controversial but Profitable (Gupea, October 2019)

これらの情報源はいずれも、政府による防衛産業への投資が高い投資収益率をもたらすことを示した研究を引用しています。 

ストックホルム国際平和研究所の調査によると、2019年に世界の兵器産業は4,200億ドルの経済生産を生み出したとされています。これは、防衛産業に1ドル投資されるごとに、4.20ドルの経済価値が生み出されたことを意味します。

兵器などを米国などから購入するなどのことをすれば、このようなことはありませんが、それでも安全保障には間違いなく寄与するわけです。しかも、国内産業に投資すれば、雇用を生み出し、イノベーションが生まれ、それが他にも波及して結果としてイリターンになるのです。

財務省発表の2022年度の国の一般会計決算では、税収が前年度に比べ6%増の71兆1373億円で3年連続過去最高を記録しました。同年度当初予算で計上の65・2兆円、今年度当初予算の69・4兆円を大きく上回ります。

であれば、ハイリターンであることが予想される、防衛予算増はまずは税収で実行し、足りなければ国債を発行るするなどの手段で賄えるはずです。民間では、大規模な投資は、銀行からの借り入れで行うことが多いですが、それに相当するのは政府の場合、国債を発行することに相当します。

しかし、政府はこれを増税で賄おうとしています。ただし、いつ増税するかは、先延ばしにしています。

このように、政府自らが緊縮財政に傾いていることから、自衛隊への予算を減らすことにつながり、さらに優良企業がどんどん撤退していく惨状に繋がっているようです。

この負の連鎖を断ち切らない限り、防衛産業の惨状を改善することはできないでしょう。

岸田首相本人は事あるごとに「財務省の言う通りにするつもりはない」と周囲に語っているそうです。であれば、その言葉通りにして、財務省の言うことを聞かないで、防衛予算増は、税収で実行し、足りなくなれば、国債を発行すればよいのです。

防衛支出の拡大に資金を提供するために増税することは一般的に悪い考えであり、保守主義の原則に反します。 米国のレーガン大統領は経済に対する政府の見方は、いくつかの短いフレーズに要約できるとして、以下の言葉を述べています「経済が動いたら課税し、動き続けたら規制し、動きが止まったら補助金を支給する」 。

他の国々は、増税せずに国防予算を増やすより良い方法を見つけました。 例えば トランプ政権は増税せずに米国の国防支出を 2,000 億ドル以上増加させました。 彼らは、新たな防衛イニシアチブに資金を提供するために、予算の他の分野での無駄を削減しました。

トランプ氏とオバマ氏 AI生成画像

中東一の軍事国家 サウジアラビアは、2017年に軍事支出を9.2%増加させ、2016年には10%以上増加させた際にも増税しませんでした。彼らは石油収入の余剰と予算の再配分に頼ったのです。 

 インドは2020年に増税なしで国防予算を6%増額しました。 彼らは、より多くの税収をもたらし、より多くの国防支出を可能にする自由市場改革を通じて経済を成長させることに重点を置きこれを達成しました。 

 英国は、Brexit 後の好調な経済を原資として、増税なしで今後 4 年間で数十億ポンドの国防支出を増加すると発表しました。 

日本もこうした例に倣うのが賢明でしょう。お役所仕事と官僚主義を廃止し、民間部門の成長を促進し、税収の増加がより大きな安全保障ニーズに資金を提供することになります。 増税は経済を窒息させ、自由を減らし、無駄な支出につながるだけです。

 増税してしまえば、その時は良いようにもみえますが、現状ではいずれ必ず経済は悪化し、成果保護世帯の増加やその他の問題が増え、その対処のために、新たな経済対策を打たなければならなくなるのです。それでも、毀損された経済がもとにもどるかどうかわからないのです。日本がもっと賢明な道を選択することを望みます。

上の記事にもあるように、中曽根首相が立ち上げた安全保障会議は、1985年に創設されました。その任務として、防衛産業再編大綱を策定することが法定されていました。しかし、日本政府は、これまで一度も、この大綱を策定したことがありません。

その理由は、いくつかあります。まず、防衛産業再編は、非常に複雑な問題です。日本の防衛産業は、多くの企業が関わっており、その関係は非常に複雑です。また、防衛産業再編は、多くの企業にとって、大きな影響を与えます。そのため、企業の同意を得ることが非常に困難です。

また、防衛産業再編は、政治的にも難しい問題です。日本の防衛産業は、多くの地域に根ざしています。そのため、防衛産業再編を行うと、地域間の対立が生まれる可能性もあります。また、防衛産業再編は、多くの予算が必要です。そのため、政府が予算を獲得することが困難です。

これらの理由により、日本政府は、これまで一度も、防衛産業再編大綱を策定することができていません。

しかし、税収が増えている現在、しかも緊縮財政をするなどの舵取りを間違わなければ、これからも税収の増加が見こめる今こそ、国内の防衛産業を育てるための「防衛産業再編大綱を策定」し、それに基づき、最先端科学技術の開発委託に潤沢な資金を提供し、工廠を復活するなど、足腰の強い防衛体制を築くべきです。

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2023年7月19日水曜日

安保理で中国とロシアの主張が割れる異例の事態…AIテーマの初会合―【私の論評】自由世界は、専制主義国によるAIの脅威から自由世界を守り抜け(゚д゚)!

安保理で中国とロシアの主張が割れる異例の事態…AIテーマの初会合

国連アントニオ・グテレス事務総長

 国連安全保障理事会は、人工知能(AI)をテーマに初めて会合を行いました。会合では、AIを管理する国際ルール作りについて議論が行われました。ロシアは反対しましたが、中国は賛同しました。これまで北朝鮮問題やウクライナ侵略を巡る安保理会合で共同歩調を取ってきた中露の主張が割れるという異例の事態となりました。

 会合は安保理議長国の英国が主催し、アントニオ・グテレス事務総長が新たな国際機関の設置や国際ルール作りの必要性を提案しました。ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連第1次席大使は反対の立場を表明し、「AIのリスクや脅威は、国際社会が評価できるレベルに達していない」と、議論そのものを否定しました。

 中国の張軍国連大使は「AIの暴走を防ぐ必要がある」とルール作りを支持し、「国連が中心的な調整役となることを支持する」とロシアと一線を画しました。AIの軍事利用についても「軍事的覇権の追求や他国の主権と領土の一体性を侵害するためにAIを使ってはならない」と主張しました。

 国連安保理筋は「AIの積極的な軍事利用を進めるロシアは西側主導のルール作りだと判断し、反発した」と分析し、中国については「『AI強国』を目指す上で、規制面で積極的な姿勢を国際社会にアピールする狙いがあった」と指摘しました。中国は民間AI技術で先行する米国との対立が激化し、AIの軍事面での競争が過度に強まることを警戒しています。国連主導の規制化であれば受け入れる余地はあると判断している模様です。

 会合では、各国の代表者の多くがAI兵器の無秩序な開発について懸念表明し、国際ルール作りを支持しました。英国のジェームズ・クレバリー外相は「AIには国境がないため、グローバルガバナンスの形成が急務だ」と指摘し、日本の武井俊輔外務副大臣は「国連の持つ招集力によって世界中の英知を結集することができる」と強調しました。

 AIは、今後ますます発展していくことが予想されます。その一方で、AIが悪用される可能性も懸念されています。国際社会は、AIの安全な開発と利用を促進するために、国際ルール作りを進める必要があります。

【私の論評】自由世界は、専制主義国によるAIの脅威から自由世界を守り抜け(゚д゚)!

AIを管理する国際ルールをめぐる中国とロシアの意見の対立は重大であり、両国がAIの将来について異なる見解を持っていることを示唆しています。 ロシアはAIが軍事目的に使用される可能性をより懸念しており、中国はAIが悪意のある目的に使用される可能性をより懸念しています。

この違いが長期的にどのような影響を与えるかを言うのはまだ時期尚早です。 しかし、AI を管理する国際ルールの問題が複雑であり、どのように進めるかについて簡単な合意がないことは明らかです。

この状況における中国とロシアの動機について、さらにいくつかの考えを以下に示します。

中国は新興大国であり、AI を管理する国際ルールの策定において発言権を確保することに関心を持っています。 中国はまた、国際ルールが中国と現在AI研究開発の世界的リーダーである米国との間の競争条件を公平にするのに役立つ可能性があると考えているようです。

ロシアは大国として衰退しており、AI 競争で米国や中国と競争できるかどうかを懸念しています。 ロシアはまた、国際規則によりAIを軍事目的で使用する能力が制限される可能性があることを懸念しています。

これらは、この状況における中国とロシアの考えられる動機のほんの一部にすぎないことに注意することが重要です。 これらの国の実際の動機は、おそらくより複雑で微妙です。

習近平とプーチン

我々としては、ロシアや中国等の全体主義国家はそもそも信用できないことを念頭におくべきです。 彼らがAIの規制に賛成したり反対しているのは、表向きだけであり、彼らの本音は、自分たちに都合よく国民へのスパイ行為や権威主義的な支配力の強化を行い、自らの邪悪な目的にAIを利用したいからだと考えられます。

 私たちはこの二国を警戒し、自由のために立ち上がる必要があります。 自由世界は、イノベーションを促進しながら、AIの悪用を防止する法律を制定するために団結すべきです。 専制主義国家からの脅威の二歩先を行く必要があります。

AIを管理する国際ルールに関して、中国とロシアの対応が違うように見えますが、それは表向きだけのことです。

 中国やロシアの共産主義政権のように、AI が悪者の手に渡った場合、多くの危険が伴います。 

彼らは、AI を利用して市民の自由を厳しく制限し、国民をスパイするでしょう。中国では、現在すでに 顔認識、インターネット監視、および監視は大規模に導入されています。すでに顔認証などでAIが用いられています。AIの進展により、これはさらに大掛かりにすすめられるでしょう。ロシアもこれに続くでしょう。彼らはとにかく、多くの国民の秘密を知りたいのです。

かれらは、それだけではなく 自律型兵器を開発し、軍事目的で AI を使用する可能性があります。 ロシアはすでにロボット戦車の開発に取り組んでおり、中国はAI制御の潜水艦を望んでいます。 これは世界を不安定にする可能性があります。 

AIに顔認証される人々

彼らは、 誤った情報やプロパガンダを大規模に広める可能性があります。 AI を使用して、フェイクニュース、画像、動画を生成して国民を洗脳し、世界中の民主主義を弱体化させることができます。 

彼らは、自らの権力を強化する AI を通じて経済的利益を得る可能性があります。 彼らが交通、医療、教育、金融などの分野をAIで支配すれば、彼らの圧政を助けることになります。 そんなことはとても許容できるものではありません。 

彼らは AI を利用してプライバシーをさらに侵害し、人々の行動や選択を操作し、不平等を悪化させる可能性があります。 独裁者の手に渡ったAIは一般人の生活を悪化させるだけです。 

これらの脅威に対抗するには、自由世界で AI の進歩を守る必要があります。 自由の未来はそれにかかっています! AI は倫理的に、そして全人類の利益のために設計されるべきです。 私たちはロシアや中国、あるいはそのような強力な技術を持った他の独裁者を信頼することはできません。

国連安全保障理事会がAIを管理する国際ルール作りしたとして、中国やロシアが、それを守ることはないでしょう。現実に、ロシアはウクライナに侵攻しましたし、中国は国際司法裁判所が中国の南シナ海の支配は違法であると裁定を下した後でさえ、南シナ海の実行支配を続け、さらには台湾に対して武力侵攻する可能性さえ表明しています。

国連での論議などとは別に、権威主義国家からのAIの脅威に対抗するために自由世界がとることのできるいくつかの措置を以下にあげます。 

 AI技術、特に高度な軍事システムや大規模監視を可能にするコンポーネントやソフトウェアに対して、対象を絞った制裁と輸出規制を課し、 専制主義国家を我々のイノベーションから切り離す必要があります。 これは、日米蘭が、先端半導体の製造装置の輸出規制によって実現しています。

西側でのAI研究開発への投資を増やすこともすべきです。 敵に先んじるためには、この分野でのリードを維持しなければなりません。 大学や企業における AI の戦略的取り組みに資金を提供すべきです。 

中国やロシアなどでのAIの進歩を注意深く監視することも必要です。 サイバー作戦を実施してプログラムに関する情報を入手し、脅威となる突破口を検出します。

 AI の倫理的使用に関する強力な国際法と規範を確立すべきです。 同盟国に署名してもらい、横暴な政権を孤立させるべきです。 彼らはルールに従わないでしょうが、法律を使って彼らに外交圧力をかけることはできます。 

AI防御を強化します。 AI によるハッキングの試み、ボット、操作に対抗できるサイバーセキュリティ ツールに投資すぺきです。 ファイアウォールを構築して、自由社会におけるデータやネットワークへのアクセスを制限します。 

AI 対諜報活動を改善します。 AI を自ら使用して、プロパガンダを検出し、操作された画像やビデオを特定し、スパイを根絶します。 力に力で対抗すべきなのです。 

西側諸国は、団結して警戒を続けるべきです。 世界の民主主義国家は、AI 問題に関して緊密に協力する必要があります。 情報と戦略を共有し、独裁的な脅威に対して共同戦線をはるべきです。

 必要に応じて「ハックバック」操作を検討します。ハックバックとは、不正アクセスなどのサイバー攻撃に対して、その取り締まりや被害回復を目的に被害者から加害者へ同様の攻撃をすることを指します。


 彼らがサイバー攻撃であろうとなかろうと、大規模な AI 攻撃を開始した場合、将来の攻撃を阻止するために私たちは強力に報復する必要があるかもしれません。 ただし、それは最後の手段としてのみです。

 未来を予測するのは難しいかもしれませんが、私たちがこれらの措置を講じれば、自由の敵が自由を支配することはなくなります。 西側諸国は共産主義者や独裁者との AI 競争に勝つことができます。 

中国、ロシア等の専制主義国家が、常任理事国を務めている国連安全保障理事会で、AIを管理する国際ルール作りをしたとしても、中国やロシアはこれを守らないでしょうから、無意味です。一応ルールをつくる方向で話し合いをして、ルールづくりをしながらも、これは、これとして、権威主義国家からのAIの脅威に対抗するために自由世界は、上記のようなステップを踏んで、専制主義国によるAIの脅威から自由世界を守り抜くべきです。

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2023年7月18日火曜日

中国の景気減速が米FRBのインフレ対策の追い風に―【私の論評】中国長期経済停滞で、世界の「長期需要不足」は終焉?米FRBのインフレ対策の追い風はその前兆か(゚д゚)!

中国の景気減速が米FRBのインフレ対策の追い風に

中国経済は 2023 年に予想以上に減速している。成長予測は引き下げられ、インフレ率は低下している。 

 中国の景気減速は世界経済と市場に悪影響を及ぼしている。 一次産品の価格は下落しており、商品の需要は減少している。 現状では、世界的にインフレの軌道修正が課題となっている。 

中国経済の減速は、米国連邦準備制度理事会とそのジェローム・パウエル議長にとって救いとなっている。

FRBジェローム・パウエル議長

中国経済の減速は、近年政策決定に欠陥があった FRBに対する積極的な利上げ継続への圧力を軽減しています。

中国ではデフレの兆候が見られ、消費者物価と生産者物価が多くの分野で下落している。 中国の内需は著しく減速している。 中国の輸出に対する外需も急減した。 

中国の景気減速は、今年の力強い中国の成長を期待していた米国および世界経済にとって悪いニュースである。 

しかし、中国は依然として金融政策と財政政策を通じて経済を刺激する可能性がある。 

中国は、債務水準の削減と通貨安の回避に努めるため、大規模な景気刺激策の実施を躊躇する可能性がある。 積極的な刺激策は、中国の不動産セクターでさらなる問題を引き起こし、米国との緊張を高める可能性がある。 

今のところ、中国経済の減速により、米国を含む世界全体のインフレ圧力が低下している。しかし、中国の政策担当者が成長刺激を決定すれば、状況は変わる可能性がある。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】中国長期経済停滞で、世界の「長期需要不足」は終焉?米FRBのインフレ対策の追い風はその前兆か(゚д゚)!

上の記事では、中国経済の減速により、近年政策決定に欠陥があったFRBに対する積極的な利上げ継続への圧力が弱まり、米FRBの反金融政策の追い風になったと主張しています。

私は、この主張に賛成します。 中国経済の減速は確かにFRBにある程度の安心感をもたらし、インフレ抑制の取り組みを助けているようです。

 FRBは近年、2019年の過度な利下げや物価上昇への対応の遅れなど、いくつかの重大な政策ミスを犯していました。 FRBは巻き返しを図る必要があり、積極的な利上げは米国経済を過度に減速させるリスクがあります。 

米国の高インフレは収まりつつある

中国からの需要鈍化もあり、世界的にインフレ圧力が緩和しているため、FRBはより柔軟性を持ち、以前の予想ほど急速に高い利上げをする必要がなくなりました。 これは、FRBが引き締めすぎて米国の成長に深刻なダメージを与えるリスクを軽減するのに役立つでしょう。 

 一次産品価格の下落、米国製品に対する需要の減少、中国経済の減速による生産者コストの低下はすべて、米国のインフレを最近の高水準から引き下げるのに役立っています。 このディスインフレ傾向はFRBが物価安定を達成するのに役立っています。 

中国経済が依然として好景気であったとすれば、世界的なインフレ圧力は依然として高止まりする可能性が高く、FRBはインフレ率を目標に戻すためにより積極的な行動をとらざるを得なくなるでしょう。 

中国経済の減速は米国や世界経済にとって理想的ではないですが、インフレ抑制という狭い目標にとってはFRBに短期的な利益をもたらすことになります。  FRBがインフレ抑制に向けて取り組むべき道はまだ残っていますが、中国経済の苦境により、当面はFRBの仕事が少なくとも少しは楽になりつつあるのは間違いないようです。

中国の政策担当者が成長刺激を決定すれば、状況は変わる可能性もあります。ただ、従来からこのブログで述べているように、中国は国際金融のトリレンマにより独立した金融政策ができない状況にあるため、中国はしばらく過去のようには成長刺激策をとれない可能性が高いと思われます。

中国が独立した金融政策を実施できなければ、政府は従来のように成長を刺激することは当面困難になるでしょう。 これは中国経済の減速の長期化につながり、世界の成長に悪影響を与える可能性があります。

国際金融のトリレンマでは、国は次の 3 つの政策を同時に実施することはできないとされています。できるのは、せいぜい2つです。
  • 固定為替レート
  • 独立した金融政策
  • 自由な資本の流れ
中国では固定為替レートが採用されており、人民元の価値は米ドルに固定されています。 このため、中国政府が中国の輸出品を安くし、成長を促進する人民元切り下げを行うことが困難になっています。量的緩和も難しいです。

また、中国は資本移動が比較的自由であり、これはお金が比較的簡単に国に出入りできることを意味します。 このため、中国政府が成長を促す金利引き上げも困難になっています。

その結果、中国は困難な状況に陥っています。 政府が従来の手段で成長を刺激しようとすると、人民元の切り下げや資本規制につながる可能性が高いです。 これらの措置はいずれも中国経済と世界経済に悪影響を与えるでしょう。

中国が成長を刺激する最善の方法は、構造改革に注力することです。 これは、経済における国家の役割を軽減し、金融セクターの効率を改善し、企業にとってより平等な競争条件を作り出すことを意味します。 これらの改革の実施には時間がかかりますが、長期的にはより持続可能となるでしょう。

一方、米国を含む多くの国は、中国経済の減速を前提に困難な状況を乗り切ることを余儀なくされるでしょう。 世界経済に大きな打撃を与えないよう、政府と中央銀行間の慎重な調整が必要となります。

中国経済の減速

ただ、習近平は、習近平が変動相場制への移行などの構造改革に乗り出すことに消極的である理由はいくつか考えられます。

政治的考慮事項。 経済を管理する国家の力を信じている共産主義指導者です。 同氏はまた、構造改革が不安定や社会不安につながることを懸念してます。 その結果、同氏が近い将来に大規模な構造改革に着手する可能性は低いです。

さらに、中国経済は依然として比較的健全なペースで成長しているため、直ちに大規模な改革が必要というわけでありません。 実際、一部の経済学者は、構造改革は短期的には実際に中国経済に悪影響を与える可能性があると主張しています。

中国は米国やその他の国から経済改革を求める圧力の増大に直面しています。 しかし、習近平は、そうすれば世界における中国の立場が弱まると信じているため、これらの国々に大きな譲歩をする可能性は低いです。

結局のところ、構造改革に着手するかどうかの決定は政治的なものです。 習近平氏は決定を下す前に、改革の経済的、政治的コストと利益を比較検討する必要があるでしょう。

いずれにせよ、中国経済は、ここしばらくは、低迷を続けるのは間違いないです。いずれの国も今後は、これを前提として製剤政策を実行する必要があります。

ただ、長期にわたる中国経済の減速は、デメリットばかりではありません。

1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えました。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきました。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しません。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近いです。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくいのです。

ローレンス・サマーズ

というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができず、ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうのです。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由になってきました。

ローレンス・サマーズの長期停滞理論は、世界経済が長期的な低成長時代に直面していると主張するマクロ経済理論です。 この理論は、世界経済が貯蓄を増やし、投資を減らしている原因は数多くあるという考えに基づいています。 これらの要因には次のものが含まれます。

先進国における人口の高齢化。 人は年齢を重ねるにつれて、より多くの貯蓄をし、より少ない支出をする傾向があります。 これは、彼らが老後のために資産を蓄積しており、新たな借金を負う可能性が低いためです。

不平等の拡大。 ここ数十年で不平等が拡大するにつれ、中産階級から富裕層への収入の移動が起きているとされています。 富裕層は中産階級よりも多く貯蓄する傾向があるため、この変化が世界的な貯蓄の増加につながっています。

投資機会の減少。 ここ数十年で世界経済の統合が進み、先進国における投資機会の減少につながっています。 これは、先進国では新興国に比べて高い投資収益率を得る機会が少ないためです。

これらの要因により、世界的な貯蓄過剰、つまり投資よりも貯蓄が多い状況が生じています。 この供給過剰により金利が低く抑えられ、経済成長の刺激が困難になっているのです。

サマーズの理論は物議を醸していますが、近年ではある程度の支持を得ています。 2016年、IMFは世界経済が長期停滞の時期に直面していると主張する報告書を発表しました。 報告書は政府に対し、インフラ投資や減税など経済成長を刺激する措置を講じるよう求めましたた。

サマーズの理論が正しいかどうかを判断するのはまだ時期尚早です。 しかし、今後数年間に世界経済が直面する課題を理解するのに役立つ可能性があるため、これは検討する価値のある理論といえます。そうして、中国の経済の停滞がある程度続けば、この理論の妥当性をみる、機会が訪れるかもしれません。それは、そう遠くない時期に実現するかもしれません。

中国の経済の停滞が続けば、「長期需要不足」の時代は終わるのではないでしょうか。そうなれば、今後は、財政拡張や金融緩和を相当大胆に行えば、従来のように、景気加熱やインフレが起きやすくなることを意味します。

中国経済の減速は、世界の各国のマクロ経済の状況が一昔前に戻ることを意味するかもしれません。そうなれば、「長期需要不足」、「長期停滞」は過去のものとなり、多くの国々で、経済政策が実施しやすくなるかもしれません。米国での中国の景気減速が米FRBのインフレ対策の追い風となっている事実は、その魁なのかもしれません。

現在まで、世界の各国のマクロ経済状況は、緊縮財政を行えば、経済が後退する一方で、金融緩和や積極財政をするかしないかというのが常道となりつつあったのが(これを全く認識していないのが財務省と旧タイプの日銀官僚)、一昔前のように、経済が落ち込めば、金融緩和をし、積極財政を行い、景気が加熱すれば、金融引締をし、緊縮財政をするというように、比較的簡単にコントロールできるようになるのではないでしょうか。

考えてみると、一人あたりのGDPがいまだかなり低いにもかかわらず、中国の貯蓄過剰という状況が異常だったのであり、中国経済がしばらく停滞を続ければ、世界経済はまた元にもどることになるかもしれません。

今後中国は、国内で貯蓄過剰が起きないように、国民の所得をあげ購買力の向上を目指し、内需を拡大することによって、発展することもできるのではないかと思います。それをしなかったからこそ、貯蓄過剰になったのです。

それとともに、中国は独立した金融政策を取り戻すために、変動相場制に移行したり、国際標準の中央銀行の独立性を確保したりして、金融システムの透明性や改革を図るべきです。そうして、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もすすめるべきです。

何のことはないです。今まで世界は中国の歪な経済構造に翻弄されてきたのであり、それが中国の長期経済の停滞によって是正される方向に動き出したのかもしれません。

ただ、先に述べたような方向性で、中国が国内の経済改革を実行すれば、良いですが、中国が改革を実行しなければ、経済の停滞は長く続き、最終的に毛沢東時代の水準に戻ることになるかもしれません。

ただ、中国の長期経済停滞が続けば、先進国などは一時的には、その悪影響を受けるかもしれませんが、「長期需要不足」の状況が解消され、経済運営は実施しやすくなるでしょう。ただ、以上で述べたことは、様々な状況に左右されることが予想され、その通りになるとは限りません。

ただ、米国で中国の経済の減速が、インフレ対策の追い風になっているように、中国の経済の減速は悪いことばかりではなさそうです。

日本を含む先進国は、良い方向に向くように一致協力し、世界経済の秩序を取り戻すとともに、中国に体制の転換を促すべきです。

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