2023年7月25日火曜日

釜山に寄港した米戦略原子力潜水艦のもう一つの目的は「中国抑止」―【私の論評】核を巡る北朝鮮やウクライナの現実をみれば、日本には最早空虚な安保論議をする余地はない(゚д゚)!

釜山に寄港した米戦略原子力潜水艦のもう一つの目的は「中国抑止」

マイケル・マッコール米下院外交委員長

 マイケル・マッコール米下院外交委員長は、米国の戦略原子力潜水艦が釜山(プサン)に寄港したのは、北朝鮮だけでなく中国を抑止する狙いもあると述べた。

 マッコール委員長は、米国がなぜ今韓国に戦略原子力潜水艦を展開したと考えるかという質問に「攻撃を抑止するために今必要な戦力投射だ」としたうえで、「我々は日本海(東海)にロケットを発射する北朝鮮だけでなく、中国の攻撃性も注視している」と答えた。また、中国が台湾を訪問した自分をはじめとする米国議員たちを威嚇するため、艦艇と戦闘機で台湾を包囲した事例が中国の攻撃的な態度を示していると述べた。

 マッコール委員長はさらに「北朝鮮は我々がそこにいて、原子力潜水艦を持つ我々の方が優位に立っていることを認識すべきだ」とし、「我々は北朝鮮と習(近平)主席に、軍事的に攻撃的な行動には代償が伴うことを信じさせなければならない」と語った。米議会の代表的な対中タカ派のマッコール委員長のこのような発言は、核ミサイルを装着した戦略原子力潜水艦の韓国への寄港が、北朝鮮だけでなく中国をけん制する意図と効果を持っていることを示したものといえる。

 マッコール委員長はこのような脈絡で、朝鮮半島に配備あるいは展開される米軍の戦力の役割は、中国の台湾侵攻の可能性と関連し北朝鮮を抑止するためだと説明した。また「そこ(韓国)に(米軍)太平洋司令部艦隊がいるのは、(中国と)台湾の衝突発生時に北朝鮮を阻止するため」だとし、「そのような衝突時に北朝鮮がミサイルを発射すること」を韓国とともに抑止しなければならないと述べた。台湾有事(戦争)と朝鮮半島有事は事実上連動しているため、韓米がともにこれを抑止しなければならないという見解だ。マッコール委員長は、北朝鮮は米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有しているが、ここに装着できる核弾頭はまだ保有していないと説明した。

 一方、戦略原子力潜水艦が釜山に寄港し、韓米初の核協議グループ(NCG)会議が開かれた18日、板門店(パンムンジョム)の軍事境界線を越えて越北した在韓米軍のトラビス・キング二等兵については、亡命したというよりは「自らの問題から逃げた」と語った。また「ロシア、中国、イランは米国人を抑留した際、特に軍人を抑留した際、(送還の)見返りを求めてきた。私はそれを懸念している」と述べた。

この記事は、元記事の引用です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。

【私の論評】核を巡る北朝鮮やウクライナの現実をみれば、日本には最早空虚な安保論議をする余地はない(゚д゚)!

上の記事で、「マイケル・マッコール米下院外交委員長は、米国の戦略原子力潜水艦が釜山(プサン)に寄港したのは、北朝鮮だけでなく中国を抑止する狙いもあると述べた」とされていますが、これと同じような主張は従来からこのブログでも何度かしてきました


しかし、このような発言は、私の知る限りでは、今回のマッコール米下院外交委員長が初めてではないかと思います。

ただ、軍事的にはこれは当然のことであり、韓国に原潜などの戦略資産を配置することは、当然のことながら北朝鮮だけではなく中国を意識したものでもあり、中国に対する牽制という意味あいもあります。多くの軍事筋の専門家は当然このようにみてきましたが、今回改めてそれが公に示された形となりました。

朝鮮半島というと、もう一つ、一般に知られていないというか認識されていないこともあります。それは、北朝鮮とその存在が、結果として朝鮮半島に中国が浸透するのを防いできたということです。これは、米国の戦略家ルトワックも主張しています。

エドワード・ラトワックは、地政学や国際関係について幅広い著作を持つ著名なアメリカの軍事戦略家です。ルトワック氏は北朝鮮について、その核兵器開発が中国の朝鮮半島支配を抑止していると主張しています。

中国が北朝鮮の経済と政府を支配しているようにみえながら、現実には北朝鮮の核兵器は中国が北朝鮮を完全に吸収することを妨げているのです。

エドワード・ルトワック氏

ルトワックは以下のように語っています。

「北朝鮮の核兵器は、どんな条約よりも確実に北朝鮮の主権を保証している。 金正恩の核瀬戸際外交は、あらゆる方向からの金正恩の支配に対する脅威を抑止している。 北朝鮮の通常兵力は中国にとって深刻な挑戦にはならないが、その核兵器は、中国がそうでなければかけうる圧力から北朝鮮を守っている」。

言い換えれば、もし北朝鮮に核兵器がなければ、中国は北朝鮮を意のままに操り、事実上、中国の衛星国家として、はるかに大きな影響力を持つことになります。しかし、金正恩は中国を攻撃できる核兵器を持っているため、習近平は慎重に行動しているのです。

中国は、金正恩を過度に追い詰めることによる不安定化と、それによる中国の犠牲を恐れています。だから、現状を維持するために金正恩体制を支え続けているのです。これはなかなか理解しにくいかもしれませんが、ルトワックによれば、北朝鮮の核による抵抗は、中国が朝鮮半島全体を支配することを実際に妨げているのです。

中国と交流する北朝鮮人民 AI生成画像

北朝鮮の核兵器は、中国が北朝鮮を慎重に扱うべき独立した存在として扱いつつも、関与しつづけるというアプローチを取らざるを得なくしたのです。つまり、金正恩の核兵器は、他の面で中国に深く依存しながらも、この意味で北朝鮮の自主性を強化したのです。

核瀬戸際政策による抑止力が、北朝鮮の主権を存続させているのです。これは挑発的な議論でありますが、北朝鮮と中国、そして核兵器の影響力の間の地政学的力学に対する戦略的論理と洞察に満ちたものです。

ルトワックは、米国が半島の非核化を目指しているとしても、国家間の複雑な関係がいかに意図しない結果を招きかねないかを浮き彫りにしています。

北朝鮮とその核が結果的に、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいることを考えると、ウクライナがソ連崩壊後にも核兵器を保持していれば、現在のような苦境に陥らなかった可能性が高かったかもしれません。

北朝鮮と同じように、核兵器はロシアのウクライナに対する侵略を抑止できたかもしれないです。ウクライナが1991年にソ連の核兵器を継承した当時、ウクライナは世界第3位の核兵器保有国でした。しかし、ウクライナは1994年のブダペスト覚書で、ロシア、アメリカ、イギリスからの安全保障の保証と引き換えに、これらの核兵器を放棄しました。

これは致命的な誤りでした。もしウクライナが核兵器を保持していれば、ロシアが2014年にクリミアを併合したり、ウクライナ東部の親ロシア派分離主義者を支援したりすることはなかったでしょう。

ロシアがウクライナに侵攻すれば、北朝鮮と同じ抑止力である核報復を受けることになります。核保有国が侵略されることはほとんどありません。しかし、ウクライナは北朝鮮とはいくつかの重要な違いがあります。

ウクライナは西側諸国との緊密な関係を求めており、核兵器を放棄するのは信頼を築くためだでした。核兵器を保持することは、ウクライナを孤立させることになりかねませんでした。また、ウクライナがソ連の核を適切に確保し、維持できたという保証もありませんでした。

ロシアはソ連の後継国として、武力で核を奪おうとしたかもしれないです。それでも、ウクライナが核武装すれば、東欧の戦略的景観とロシアの計算が決定的に変わっていたでしょう。キエフが核兵器で対応できるのであれば、プーチンが直接対決を選ぶとは思えません。

そのため、厄介な複雑さが生じたかもしれないですが、核抑止力理論によれば、ウクライナがそのような兵器を保有していれば、ロシアはそう簡単にウクライナの主権を侵すことはないでしょう。

この教訓は、核拡散は時として、強力な敵対勢力を抑止することで安全保障を強化する可能性があるということです。これはすぐには理解し難いことではありますが、「安全のための核兵器」という論理は明らかに北朝鮮にも当てはまるし、ウクライナの場合にも当てはまるでしょう。

現在の状況を考えると1994年のウクライナの決断は重大な過ちであり、ロシアの侵攻の余地を残してしまったようです。このような複雑な地政学的問題には、意図せざる結果の法則が立ちはだかります。もしウクライナが核兵器を放棄せずに保持していたら、おそらくロシアはクリミアやウクライナ東部に干渉することはなかったかもしれません。

北朝鮮と同じように、核兵器がウクライナを守っていたかもしれないです。ただ、結局のところ、どのような展開になったかを確実に知る方法はないです。

しかし、これについて我々が参考にすることはできます。核武装国ロシアが非核武装国ウクライナを侵略しても米国はロシアとの戦争に参加しませんでした。ブダペスト協定があるにも拘らずバイデン大統領はエスカレートして米露の核戦争になっては困るからだと言い訳をしました。これは、核武装国中国が非核武装国日本を侵略しても米国は戦闘に参加しない可能性があることを明らかにしたと思います。

これは日本の非核政策に疑問を投げかけるものです。日本が核抑止力を持つことは、自国の核兵器によってであれ、米国との核シェアリング協定に参加することによってであれ、大きな利益をもたらすと考えられます。

中国が北朝鮮からの核報復を恐れているように、日本が核兵器を持てば、中国は武力で日本の領土を奪おうとはしないでしょう。議論の余地はありますが、核兵器は、核武装した敵対国に直面したときに、究極の国家安全保障を提供するものでもあります。

日本には、その気になれば核兵器を迅速に開発できる技術的能力があります。インフラと濃縮ウランが整備され、安全保障環境が悪化した場合にのみ核兵器が組み立てられる「閾(しきい)値能力」を主張する人もいます。

しかし、核兵器開発の検討でさえ、中国を刺激し、関係を悪化させる可能性もうあります。安倍元総理の主張した米国との核シェアリングという選択肢は、良い妥協案かもしれないです。米国は、共同管理の下で日本国内に核兵器を配備し、日本へのいかなる攻撃にも同盟国が核で対抗することを明確にすることができます。

安倍元総理

これは、抑止力を維持しつつ、日本の単独行動に対する懸念に対処するものであります。日本の核武装への動きは、日本の平和主義憲法や世界的な核不拡散の努力を傷つけるという批判がもあります。

また、日本が独自の核兵器を保有すれば、エスカレーションの危険性もあります。しかし、日本の安全保障は高邁な理想以上の現実であり、中国の野望を抑止できなければ、存亡に関わる結果を招きかねないものです。

日本は自国の防衛を確保するために、核シェアリング、または独立した核抑止力を含むあらゆる選択肢を模索することが賢明です。空虚な保証に基づいた政策は、国家の自殺行為となる危険があります。もし中国が、侵略される同盟国をジョー・バイデンが助けないと見れば、日本の核兵器だけが最終的に中国の核兵器からの安全を保証するかもしれないです。

核拡散が進む世界は望ましくないですが、耐え難い脅威に直面したときには必要なこともあります。日本の指導者たちは、他国の征服から国を守るという第一の義務を考えなければならないです。

二大政党制のせいで、日本支援に関しても一枚岩とはいえない、日本にとっては気まぐれとも見える米国の支援に頼るのは、あまりにも危険であるといえます。賛否両論はありますが、核シェアリングや日本独自の核兵器開発は、日本にとって最も安全な選択肢かもしれないです。日本にはもはや北朝鮮やウクライナの現実をみてもなお、空虚な安保論をする余地はないと思います。

私は、もし安倍元総理がご存命であれば、上で述べたのと同じような論議をして、核シェアリングを重要性をさらに説いていたと思います。

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