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2024年6月26日水曜日

【急速に深まるロシアと中国の軍事協力】狙いは台湾か、いざという時にどこまで行動に移すのか―【私の論評】ロシアの極東軍事力低下による中露連携強化:日米がすべき現実的対応

【急速に深まるロシアと中国の軍事協力】狙いは台湾か、いざという時にどこまで行動に移すのか

まとめ
  • 中国とロシアの軍事協力関係が深化し、特に台湾周辺での活動が米国の懸念事項となっている。
  • 両国の軍事協力は合同演習、ミサイル防衛協力、情報共有など多岐にわたり、その多くが日本近海で行われている。
  • ロシアのミサイル防衛早期警戒システム技術の中国への移転が重要な要素となっている。
  • 実際の戦闘では共に戦わないまでも、両国は政治的・経済的・軍事的に相互支援を行う可能性が高い。
  • この状況は日本を含む西側諸国にとって脅威となり、警戒を強める必要がある。

ロシア海軍記念日観艦式に参加した中国駆逐艦「西安」2019年7月

 中国とロシアの軍事協力関係が深まっており、特に台湾周辺での活動が米国の懸念を高めている。米国の情報機関長官らは、中露両国が台湾に関して初めて合同軍事演習を行っていると警告した。この協力関係は、緊密な合同演習やミサイル防衛協力にまで発展しており、その多くが日本近辺で行われている

 専門家らは、ロシアが中国の対台湾軍事作戦を支援する可能性があると指摘している。両国は戦闘協力に必要な通信システムの構築や機密データの共有を進めており、特にロシアのミサイル防衛早期警戒システム技術の中国への移転が重要な要素となっている。

 さらに、中国が台湾をめぐって戦争をする場合、ロシアからの物資輸送が米国の海上封鎖の影響を緩和する可能性があるとの見方もある。実際の戦闘では共に戦わないまでも、両国は政治的・経済的・軍事的に相互支援を行う可能性が高いとされている。

 この状況は日本を含む西側諸国にとって脅威となり、警戒を強める必要がある。米国の情報機関は、この新たな軍事協力関係を踏まえて防衛計画の見直しを行っており、潜在的な二正面作戦の可能性も考慮に入れている。

 一方で、中露関係には依然として一定の警戒感も存在していると指摘されている。両国の協力関係が深まる中で、互いの核心的利益を尊重し合うという姿勢が強調されており、これは長年の相手に対する警戒感の表れとも解釈できる。

 このような状況下で、台湾の総統は中国に対して地域の安定に向けた責任の共有を呼びかけており、国際社会も中国の軍事演習に対して懸念を表明している。今後も中露の軍事協力の動向は、アジア太平洋地域の安全保障環境に大きな影響を与える可能性があり、継続的な注視が必要である。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ロシアの極東軍事力低下による中露連携強化:日米がすべき現実的対応

  • ロシアは極東の軍事力が低下しており、台湾に対する直接的または間接的な支援能力は限定的。プーチン大統領の訪朝時のロシア軍行動から、ロシア軍の極東の軍事力低下を認識できる。
  • 米軍の「バリアント・シールド」や北朝鮮の弾道ミサイルの実戦配備は、地域の緊張を高めており、日米はこれに対処するためにサイバーセキュリティや情報戦の強化を進める必要がある。
  • ロシアの海軍演習は規模が小さく、空軍の活動も見られず、その能力低下が露味の連携強化の要因になっている
  • 日米は同盟国との協力を強化し、多国間での安全保障体制を構築することで中露の連携に対抗すべき。また、技術開発や経済制裁の強化、防御力とミサイル防衛システムの増強を通じて脅威に対応すべき。
  • ロシアの太平洋艦隊と極東の軍事基地の課題は深刻だが、日米の対潜水艦戦(ASW)能力の優位性を活かし、戦略的な軍事演習と共同訓練を通じて地域の安定を図ることが重要。

上の記事では、中露の軍事協力の動向に注視が必要と述べていますが、現実にはロシアは中国の武力侵攻に対して直接的にも、間接的にも支援する能力はほとんどないというのが実情です。


これについては、最近プーチンが北朝鮮を訪問したときのロシアの動きをみていると良く理解できます。

プーチン大統領は深夜2時過ぎという異例の時間帯に平壌の空港に到着し、金正恩総書記が直接出迎えました。このような時間帯に一国の首脳が他国を訪問すること自体が極めて異例であり、さらに受け入れ国の首脳が直接空港まで出迎えるというのも尋常ではありません。これは、戦時下の国家元首が警戒心を強めつつ、重要かつ緊急な用件で同盟国を訪れたことを示唆しています。

この訪問の背景には、米軍の大規模な軍事演習「バリアント・シールド」があります。米空軍のステルス戦略爆撃機「B-2スピリット」、ステルス戦闘機「F-22ラプター」、米海兵隊の垂直/短距離離着陸戦闘機「F-35B」などが編隊で飛行し、グアム周辺での演習に参加しました。さらに、この演習には日本の自衛隊も約4,000人が参加し、初めて日本国内の基地で共同訓練を行いました。

米軍の大規模な軍事演習「バリアント・シールド」

一方で、北朝鮮もこのような日米韓の動きに対抗して、弾道ミサイルを実戦配備につけていつでも発射できる態勢をとっていたと考えられます。米空軍の弾道ミサイル追尾専用機「RC-135Sコブラボール」が北朝鮮東方沖の日本海上空で偵察活動を行っていたことから、北朝鮮で弾道ミサイルの発射兆候があることを米軍が探知していた可能性が高いです。

ロシアもまた、米韓の動きに対応して海軍演習を発表しました。ロシア国防省は、約40隻の艦船と約20機の航空機が参加する海軍演習を日本海、オホーツク海及び太平洋の海域で行うと発表しました。しかし、実際に確認されたのは、駆逐艦1隻と戦車揚陸艦2隻の計3隻のみでした。これは、現在の極東ロシア軍にとってできる精一杯の対抗措置であり、ロシア軍の窮状を強く示しています。

さらに注目すべきは、ロシア空軍の活動が全く見られなかったことです。日本海周辺での偵察活動や戦闘機による警戒飛行が行われなかったことは、ロシア空軍の能力が著しく低下していることを示唆しています。これは、ロシア軍の国防力が大幅に低下していることを示すものであり、特に空軍の窮状が深刻です。

今回のプーチン大統領の訪朝は、日米韓の結束の強化やNATOを含む民主主義国間の軍事的連携の強化によって、ロシアや北朝鮮が苦しい立場に立たされていることを示しています。これが露朝の軍事同盟化へと駆り立てている要因であることは間違いありません。金正恩総書記にとっては大きな賭けであり、今後の露朝情勢がどのように展開するかは注視する必要があります。

ロシア太平洋艦隊と極東の軍事基地は、ウクライナ戦争前から、複数の深刻な課題に直面していました。まず、装備の老朽化が顕著な問題となっています。ロシア海軍の専門家であるパベル・リザソフ氏によると、太平洋艦隊の主力艦の多くが1980年代に建造されたものであり、現代の海軍作戦に必要な能力を欠いているとのことです。

さらに、ロシア国防省の公表した予算データによれば、極東地域の軍事施設への投資は他の地域と比べて低い水準にとどまっています。このことは、インフラの更新や新規装備の導入を困難にしています。

人材確保の面でも苦戦しています。ロシア国家統計局の人口移動データによれば、極東地域からの人口流出が続いており、特に若年層の流出が顕著です。これは軍にとっても優秀な人材の確保を難しくする要因となっています。

地理的な課題も無視できません。ロシア太平洋艦隊の管轄範囲は広大で、ウラジオストクからカムチャツカまで約4,000キロメートルに及びます。この広大な範囲をカバーするには多大な労力とコストがかかります。

国際情勢の緊張も艦隊の活動に影響を与えています。例えば、2022年以降、日本政府は対ロシア制裁を強化しており、これによりロシア艦艇の日本寄港が事実上不可能になっています。

これらの問題に対し、ロシア政府は対策を講じようとしていますが、その進展は遅いのが現状です。例えば、2020年に発表された「極東社会経済発展国家プログラム」には軍事インフラの近代化も含まれていますが、その成果はまだ限定的です。というより、ウクライナ戦争により、さらに後退した状況にあります。

ロシア太平洋艦隊旗艦「ワリャーグ」

ロシアの太平洋艦隊と極東の軍事基地の現状を考慮すると、ロシアが中国の台湾侵攻に直接的または間接的に加勢することは現実的ではありません。老朽化したインフラ、予算の制約、装備の更新の遅れ、人員不足、地理的孤立、そして対潜水艦(ASW)戦能力の低さがその主な要因です。これらの要因は、中国とロシアが日米に対抗する際の大きな障害となっており、特にASWにおいては日米の優位性が顕著です。

中露の軍事連携が強化されているものの、ロシアの極東の軍事力が低下しているため、中露県警による台湾を巡る直接的な危機は直ちには生じないと考えられます。しかし、中露の連携強化は依然として脅威となります。

中露の戦略的プレゼンスがアジア太平洋地域で拡大し、日米に対する軍事的圧力が増大する可能性があります。サイバー戦争や情報戦のリスクも高まるため、日米はサイバーセキュリティと情報戦対策を強化する必要があります。

また、中露の経済的および技術的協力により、中国がロシアの軍事技術を活用する可能性があるため、日米は技術開発と経済制裁を強化する必要があります。対潜水艦戦(ASW)能力のさらなる向上や潜水艦活動の監視も重要です。

さらに、日米の基地や戦略的拠点への脅威に対抗するため、防御力とミサイル防衛システムの強化が求められます。中露の連携に対抗するため、同盟国との協力を強化し、多国間での安全保障体制を築く必要があります。外交的な取り組みも重要で、中国およびロシアとの対話を続けるべきです。

総じて、日米は中露の連携強化に対抗するために、中露を等身大で見たうえで戦略的かつ総合的なアプローチが必要です。

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2024年6月14日金曜日

大学入試の「女子枠」、国立の4割導入へ 背景に「偏り」への危機感―【私の論評】日本の大学のジェンダー入学枠に反対 - アイデンティティ政治の弊害

大学入試の「女子枠」、国立の4割導入へ 背景に「偏り」への危機感



 国立大学における女子枠導入の現状は朝日新聞の調査によると、全体の4割に当たる33大学が、入試に「女子枠」を導入済みもしくは導入する方向にある。主に理工系の学部を中心に、学生の多様性確保が狙いとされている。

 既に12大学が導入済みで、17大学が導入を決定している。導入時期は1994年度から2026年度まで幅広く、女子枠の募集人員は全体の1%程度から十数%程度と大学によって異なる。

 入試形式は総合型選抜や学校推薦型選抜が中心で、一般選抜には女子枠は設けられていない。さらに4大学が導入の方向で検討中であり、今後も拡大が予想される。

 例えば、大阪大学は2024~2025年度に計143人の女子枠を設け、現在13%の女子学生の割合を2割超に増やす方針を掲げている。

 一方で、男女平等の観点から批判的な意見もあり、慎重な検討が求められています。国立大学の女子枠導入は、学生の多様性確保と男女平等のバランスを取ることが重要な課題となっています。

 この記事は元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。


【私の論評】日本の大学のジェンダー入学枠に反対 - アイデンティティ政治の弊害


まとめ

  • 日本の大学がジェンダー入学枠(女子枠)を設けようとしていることは、アイデンティティ政治の一例であり、グループ間の対立を助長する有害な政治手法である。
  • アファーマティブ・アクション、スポーツの人種枠制度、政治におけるジェンダークオータ制、エンターテインメント業界の人種的優遇など、アイデンティティ政治の具体例が米国で深刻化している。
  • 女子枠の設置は、女性が学業で成功するには特別扱いが必要であるというメッセージを送り、実力主義を損なう。また、男女間の反発と対立を助長する。
  • 実力主義を支持し、性別ではなく個人の内面を重視すべきである。女性が不利な状況にあれば、社会的にその障壁を取り除くべきである。
  • 個人のアイデンティティに着目するのではなく、日本国民としての法の下の平等を追求し、誰もが公平な機会を得られるようにすべきである。
日本の大学がジェンダー入学枠(女子枠)を設けようとしているのは、アイデンティティ政治の厄介な一例と言えます。この政治的手法は残念ながらアメリカでは一般化しており、今や世界中におぞましいその姿を現しつつあります。

日本ではまだ一般にはあまり知られていないとみられる、アイデンティティ政治とは左翼による分断と破壊のゲームなのです。人種、性別、その他の属性による違いを強調することで、グループ間の対立を意図的に助長する戦術です。アフリカ系アメリカ人公民権運動の穏健派指導者として非暴力差別抵抗活動を行ったマーティン・ルーサー・キング牧師が夢見たのは、人格そのものを見るということでした。しかし左翼は個人をグループの一員へと矮小化し、憎しみと分断を煽るのです。

マーティン・ルーサー・キング牧師

米国におけるアイデンティティ政治の深刻な例をいくつか挙げましょう。 

アファーマティブ・アクション - この大学入学試験や雇用における制度では、人種や性別などを考慮し、特定のグループを他より優遇しています。つまり、その属性を持つ人々は実力だけでは成功できず、特別扱いが必要だというメッセージを送っているのです。

スポーツの人種枠制度 - 一部プロスポーツリーグや報道機関では、監督、幹部、解説者などの役職に一定数の非白人を採用することを義務づけています。これは個人の肌の色のみで判断し、資格や能力を無視する制度なのです。 

政治におけるジェンダークオータ制 - 政党や組織の中には、女性候補者やリーダーを一定割合にするためにジェンダークオータを設けているところもあります。これは女性を一枚岩と見なし、皆が同じ考えや投票行動をするという発想に基づいています。

エンターテインメント業界の人種的優遇 - 最近では、実力よりもアイデンティティに基づく受賞や評価を優先する動きがあります。これは芸術的な卓越性が人種や性別によって決まるという、トークン主義的な発想からくるものです。

さて、なぜ大学入試に「女子枠」を設けることが、この有害なアイデンティティ政治の一例となるのでしょうか。

第一に、女性が学業で成功するには特別扱いが必要だというメッセージを送ることになります。これは教育の場で優秀であることを何度も証明してきた女性の知性と能力を軽んじるものです。

第二に、実力主義の姿勢を損なうことになります。大学入試は人口統計的な目標ではなく、主に学業成績と潜在能力に基づいて行われるべきです。そうでなければ、望ましい男女比を理由に、資格ある男子学生が不当に入学を拒否される可能性があります。

第三に、男女間の反発と対立を助長することになるでしょう。男女は対等に競い合い、協力し合うべきです。クオータ制は不平等感や怒りを生み、男女を対立させかねません。

私は、国立大学出身です。理学部の生物学科に所属してましたが、そのころ同じ学科には、男子学生が8人、女子学生が3人所属していて(ただし当時は動物学と植物学が分かれていた)、明らかに男子学生のほうが多かったのですが、それで危機感など感じたことは全くありませんでした。大学の先生たちもそんなことで、危機感など全く感じていなかったと思います。

北海道大学理学部

入試に関しては、随分昔のことなのですが、ある出来事を鮮明に覚えています。知人の優秀だった女性が医大を受験したのですが、試験が終わってしばらくしたときに「試験どうだった」と聴いてみたところ、悲壮な面持ちで「全然だめだった。おそらく落ちた」と答えていました。

ところが、蓋を開けてみると、何とその方は「トップ合格」だったのです。これについて、ある予備校の先生に聴いてみたところ「かなりよく勉強している人は、自分の解答の粗について十分理解している。特に選択式ではない記述試験ではそうであり、だから評価が厳しくなり、できなかったと思ってしまう傾向がある。一方であまり勉強していない人に限って、自分の解答の粗についてほとんど理解していないので、何かを間違えなく回答しており、かなり良く出来たと思い込むのです」と納得できる答えをいただきました。その後様々な受験生をみているとこのことは、よく当てはまっていたと感じました。

このような女性も大勢いると思います。女性枠を設ければ、このような女性も女性枠があったから自分は合格できたのだと思い込み、一生引け目を感じて生活していくことになりかねません。

札幌医科大学

私たちはこの有害なアイデンティティ政治に反対しなければなりません。実力主義を支持し、性別やその他の表面的な属性ではなく、個人の内面を重視すべきです。また、女性が入学しにくいという何等かの非合理な障壁あるとすれば、それを女子枠で解決するのではなく、社会的にその障壁をなくす工夫をするべきです。それを人為的に女性枠で解消しようとするのでは、社会の障壁は残り続けることになります。それこそ、左翼の思う壺です。

そうして一番重要なのは、個々人の様々なアイデンティティに着目するのではなく、それは個性として認めたうえで、日本国民として法の下での平等を追求すべきです。ジェンダー割当制に反対し、誰もが公平な機会を得られるようにすべきです。アイデンティ政治が蔓延していき、それが社会を席巻すれぱ、日本社会も米国社会のように大きく分断されることになりかねません。アイヌ新法やLGBT理解増進法が成立した現在、日本もそちらのほうに傾きつつあるといえます。

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2024年6月5日水曜日

【速報】「実質賃金」25か月連続の減少で過去最長 今年4月は前年同月比0.7%減―【私の論評】実質賃金25か月連続下落の真相、同じく低下した安倍政権初期との違いと対策

【速報】「実質賃金」25か月連続の減少で過去最長 今年4月は前年同月比0.7%減

まとめ
  • 日本の働く人々の「実質賃金」が25か月連続で減少し、1991年以来の最長記録を更新。物価高騰の中、生活苦は深刻化の一途を辿るのでしょうか。
  • 名目賃金は28か月連続で上昇も、物価上昇に追いつかず。春闘での高水準な賃上げは、この窮地を救う転機となるのでしょうか。
  • 実質賃金の下げ幅に改善の兆し。厚労省は「プラス転換」の可能性に言及。果たして、この希望の光は、暗闇を照らすのに十分なのでしょうか。
四半期別実質賃金指数(概算)の推移
四半期実質賃金指数(前年同月比)
2020年1-3月-0.80%
4-6月-1.40%
7-9月-0.90%
10-12月-1.90%
2021年1-3月0.20%
4-6月-0.40%
7-9月-0.20%
10-12月-1.20%
2022年1-3月-2.30%
4-6月-3.50%
7-9月-3.00%
10-12月-4.20%
2023年1-3月-2.50%
4-6月-2.20%
7-9月-1.90%
10-12月-1.80%
2024年1-3月-1.80%
4-6月-0.70%

情報提供元


物価の変動を反映した働く人1人当たりの「実質賃金」が過去最長の25か月連続で減少したことが分かりました。

厚生労働省によりますと、基本給や残業代、ボーナスなどを合わせた働く人1人あたりの今年4月の現金給与の総額は29万6884円でした。前の年の同じ月から2.1パーセント増え、28か月連続の上昇となりました。

一方、物価の変動を反映した「実質賃金」は、前の年の同じ月と比べて0.7パーセント減り、25か月連続の減少となりました。統計が比較できる1991年以降、最も長い期間連続で減少していて、依然として物価の上昇に賃金が追い付いていない状況が続いています。

ただ、実質賃金の下げ幅は、前の月と比べて1.4ポイント改善しています。

厚労省はその理由について、「今年の春闘で高い水準で賃上げの動きが広がった影響などが考えられる」としたうえで、「実質賃金が今後いつプラスに転じるか注視したい」としています。

【私の論評】実質賃金25か月連続下落の真相、同じく低下した安倍政権初期との違いと対策

まとめ
  • 実質賃金が25か月連続で低下し、1991年以降で最長の記録を更新。4月は前年同月比0.7%減で、国民の生活を圧迫。
  • 名目賃金は2.1%増と28か月連続で上昇しているが、5%を超えるインフレ率に追いつかず、購買力が低下。
  • 安倍政権初期(2013-2015年)も実質賃金が低下したが、その背景は異なる。デフレ脱却への過程であり、雇用の大幅な改善を伴っていた。
  • 岸田政権下のインフレは、ウクライナ戦争や中国のロックダウンなどによる供給ショックが主因。円安も輸入物価を押し上げ、問題を悪化。
  • 解決には即効性のある対策が必要。消費税を10%から0%に引き下げ、物価低下と消費拡大を図るなど、大胆な政策を実施すべきである。
実質賃金の低下というと、安倍政権の初期にもいわれていました。マスコミや野党など一斉に「実質賃金がー」と叫んでいました。立憲民主党などは、実質賃金は民主党政権時代のほうがよかった、アベノミックスは間違いだと喧伝しまくっていました。

さて、岸田政権と安倍政権初期の実質賃金の低下は、確かに数値上は似た現象に見えますが、その経済的な背景と影響は大きく異なります。これを以下に説明します。

安倍政権初期には、実質賃金が低下

安倍政権初期(2013-2015年頃)の実質賃金低下には、以下の要因が複合的に影響しています。

1. リフレ政策による一時的な物価上昇:
異次元の金融緩和により円安が進行し、輸入物価が上昇。これにより一時的にCPI(消費者物価指数)が上昇し、実質賃金が低下したように見えました。しかし、これはデフレ脱却への過程であり、名目賃金は実際に上昇していました。

2. 雇用構造の劇的な改善と変化:
最も重要な点は、安倍政権の政策により雇用が劇的に改善したことです。失業率は2012年の4.3%から2015年には3.4%へと大幅に低下しました。しかし、マクロ経済学の基本原理として、雇用回復の初期段階では、まず非正規雇用と若年層の雇用が増加することが知られています。

実際、この時期の雇用者数の増加を見ると、非正規雇用が大きく伸びています。厚労省の統計によれば、2013年から2015年にかけて、非正規雇用者数は約100万人増加しました。同時に、若年層(15-24歳)の失業率も、2012年の8.0%から2015年の5.6%へと大きく改善しています。

しかし、これが実質賃金を押し下げることになりました。非正規雇用と若年層の賃金水準は、正規雇用や中高年層に比べて低いのが一般的です。つまり、雇用者数全体に占める「低賃金層」の割合が一時的に高まり、結果として平均的な実質賃金が下がるのです。これは、失業状態から低賃金であっても雇用された状態への移行を反映しています。

3. 消費増税の影響:
2014年4月の消費税増税(5%から8%へ)も、物価上昇に寄与し、実質賃金を押し下げました。

4. 経済の好循環への移行:
株価の上昇、企業業績の改善、設備投資の増加など、経済の好循環が始まっていました。こうした中で、企業は利益を蓄積し、後の賃金上昇や正規雇用化の原資を形成しました。

この雇用構造の変化は、実質賃金の統計を一時的に押し下げますが、経済学的には極めてポジティブな現象です。失業状態の人々が、たとえ低賃金であっても職を得ることで、労働市場に再参入し、スキルを磨き、将来のより良い雇用への足がかりを得るのです。

実際、この「痛みを伴う構造改革」の成果は、その後の統計に現れています。2016年以降、想定通りに実質賃金は回復傾向に転じ、2018年から2019年にかけては明確に上昇しました。さらに、2017年以降は非正規雇用者の正規雇用化も進み、より安定した高賃金の雇用へのシフトが見られました。

安倍首相

これに対し、岸田政権下の実質賃金低下は全く性質が異なります。「供給ショックによるコストプッシュ・インフレ」(Cost-Push Inflation Driven by Supply Shocks)主因であり、雇用の質的向上を伴っていません。賃金上昇が物価上昇に追いつかず、円安も重なって、国民の購買力が実質的に低下しているのです。

つまり、安倍政権初期の実質賃金低下は、雇用の劇的な改善とその構造変化を反映した「前向きな痛み」でした。一方、岸田政権下の低下は、生活水準の実質的な悪化を示す「後ろ向きな痛み」なのです。この違いを理解せずに、単に「実質賃金が下がった」と報じるのは、まさに小鳥脳のマスコミや、マクロ経済の本質を理解していない官僚の姿勢そのものです。

結論として、安倍政権初期の実質賃金低下はデフレ脱却への過程であり、経済の好循環を伴っていました。一方、岸田政権下の実質賃金低下は、供給ショックによるインフレの結果であり、経済の停滞を伴っています。両者は数値上は似ていても、その経済的な意味合いは全く異なるのです。岸田政権は、単なる金融緩和ではなく、供給側の改革や生産性向上策など、より包括的な経済政策が必要とされています。

岸田政権が直面している最大の課題は、「供給ショックと円安による輸入物価上昇」に起因するコストプッシュ・インフレです。この問題は国民の生活を直撃しており、実質賃金の25か月連続減少という事態を招いています。従って、岸田政権はまずは即効性のある対策に集中すべきです。

岸田首相

最優先で実施すべきは、エネルギー政策の緊急転換です。原油や天然ガスの高騰は、今回のインフレの主因であり、その影響は電気代や食品価格の上昇となって家計を圧迫しています。日本のエネルギー自給率はわずか12.1%(2020年度)と、先進国の中で最低水準にあります。この脆弱性が、国際的な供給ショックへの過剰な感応を生んでいるのです。

具体的には、安全性が確認された原子力発電所の速やかな再稼働を進めるべきです。事故後の厳格な審査を経た原発は、技術的にも管理体制の面でも、以前より安全性が高まっています。原発再稼働により、短期的にエネルギーコストを大幅に低減できます。

さらに消費税を即座に10%から0%に引き下げるべきです。現在の日本が直面する供給ショック型インフレは国家的危機であり、非常時には非常時の政策が必要です。自国通貨発行国で世界最大の債権国である日本に、財源の懸念など全くありません。

消費税0%への移行は、物価の即時低下、実質賃金の上昇、消費の爆発的増加、中小企業の負担軽減など、三位一体の効果を持つ特効薬です。現在の25か月連続の実質賃金低下を、一気に反転させる力を持っています。財務省の「借金論」は財務真理教の教義に基づく虚構であり、財政再建など今は考える必要はありません。むしろ、クルーグマンの言う「クレイジーに見えるほどの大規模な財政出動」が、今の日本には求められているのです。

岸田政権は、財務官僚とその追随者たちの前時代的な教義に惑わされず、今こそ大胆な政策転換を行うべきです。消費税0%への移行は、デフレ脱却と経済の好循環をもたらす、まさに日本経済復活の切り札なのです。

これらの即効性のある対策を組み合わせることで、コストプッシュ・インフレの悪影響を緩和し、実質賃金の低下に歯止めをかけることができます。エネルギー自給の向上、為替の安定化、低所得者支援、そして賃金の持続的上昇—これらは全て、数か月から1〜2年のスパンで効果を発揮し始める施策です。

岸田政権は、目先の人気取りや長期的なビジョンの提示に終始するのではなく、具体的かつ即効性のある対策を矢継ぎ早に打ち出すべきです。国民が「変化」を実感できなければ、政権への信頼も、経済の好転も望めないのです。

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2024年6月3日月曜日

米、中国企業・銀行に措置も ロシアの戦争支援巡り=国務副長官―【私の論評】中国経済の窮地がロシア支援を左右、財布と面子を両天秤にかける中国

米、中国企業・銀行に措置も ロシアの戦争支援巡り=国務副長官

まとめ
  • キャンベル米国務副長官が、ロシア支援の中国企業・金融機関への制裁を示唆
  • 米国だけでなく、他国も中国のロシア支援に対して措置を取る可能性
  • 欧州とNATO諸国に、中国への共同懸念表明を要請
  • 日米韓外務次官協議で、中国のロシア支援を非難
  • 年内の日米韓首脳会談に向けた準備として、3カ国協議を位置付け

キャンベル米国国務副長官

 キャンベル米国務副長官は、ロシアの戦争を支援する中国企業や金融機関に対する制裁措置を検討していることを明らかにしました。

 この発言は、日米韓3カ国の外務次官協議で行われました。キャンベル氏は、米国だけでなく他の国々も中国のロシア支援に対して措置を取る可能性があると述べ、欧州とNATO諸国に中国への懸念表明を求めました。

 また、年内に予定される日米韓首脳会談の準備として、この3カ国協議を位置付けました。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。「まとめ」は元記事を箇条書きにしたものです。

【私の論評】中国経済の窮地がロシア支援を左右、財布と面子を両天秤にかける中国

まとめ
  • 中国は、ロシアに対して軍事関連物資、半導体、エネルギー設備、金融支援など、ロシアの軍事・経済力維持に不可欠な物資を提供。
  • 中国経済は、不動産バブル崩壊と西側諸国からの経済制裁により、経済成長率が低下し、失業率が高騰。
  • 中国のロシア支援は、戦略的パートナーシップよりも、経済的窮地からの脱却が主な目的。
  • 最近の中露のガスパイプライン交渉の行き詰まりは、中国の強硬な価格・購入量要求によるものであり、中国が経済的利益を最優先にしている証拠。
  • 米国の制裁により、中国はロシア支援を取りやめる可能性が高いが、国のプライドや政治的思惑も影響する。

中国によるロシアへの支援は、軍事関連物資、半導体や電子部品、エネルギー関連設備、金融支援など、多岐にわたっています。具体的には、ドローンや車両部品といった軍事利用可能な物資、制裁対象となっている高度な半導体技術製品、さらには石油・ガスの採掘・精製設備など、ロシアの軍事力と経済力を維持するのに不可欠な物資が提供されています。

金融面では、中国企業がロシア企業への投資を増やし、ルーブル建ての取引を拡大することで、国際的な金融システムから孤立したロシアを支援しています。

プーチンと習近平

しかし、この支援の背景には、戦略的パートナーシップ以上の、中国自身の経済的窮地を脱する狙いがあります。

中国経済は現在、二つの大きな問題に直面しています。一つは不動産バブルの崩壊です。中国は長年、不動産部門に依存した経済成長モデルを採用してきました。建設ラッシュと地価の高騰が経済を牽引し、地方政府は土地売却収入に依存していました。

しかし、この不動産バブルが崩壊し始め、大手デベロッパーの経営破綻や建設プロジェクトの停滞など、経済全体に深刻な影響を及ぼしています。

もう一つの問題は、西側諸国、特に米国からの経済制裁です。米中貿易戦争は関税引き上げによる輸出入の減少をもたらし、さらに米国は中国の技術発展を抑制するために、半導体など先端技術分野での制裁を強化しています。これらの制裁は、中国の産業界、特にハイテク産業に大きな打撃を与えています。

これらの要因により、中国の経済成長率は著しく低下し、一時は30年ぶりの低水準に落ち込みました。特に若年層の失業率が高騰し、大学卒業生の約5人に1人が職を見つけられない状況です。消費者信頼感は低下し、内需も伸び悩んでいます。


昨年3月31日、中国の鄭州大学で開催された合同企業説明会には就職先を求める学生が殺到

このような経済的窮地を脱するために、中国はロシアへの輸出拡大を重要な戦略と位置付けています。西側諸国の制裁によって孤立したロシアは、中国にとって格好の市場となっています。ロシアは制裁によって多くの国々から製品を輸入できなくなり、代替供給元を必要としています。一方の中国は、自国製品の新たな販路を求めています。

例えば、ロシア市場での中国車の販売は急増しており、ロシアの自動車市場における中国ブランドのシェアは、2022年に約5%だったものが2023年には約40%にまで拡大しました。同様の傾向は他の産業分野でも見られ、家電製品、建設機械、通信機器など、幅広い中国製品がロシア市場に流入しています。

つまり、中国のロシア支援は、単なる戦略的パートナーシップの表れというより、自国の経済的な苦境を乗り越えるための打開策としての側面が強いのです。ロシアへの軍事関連物資の提供は、確かに両国の戦略的な結びつきを示していますが、それ以上に、制裁下のロシアへの輸出拡大を通じて、中国は自国経済の回復と成長を図ろうとしているのです。

また、中国が明確に軍事目的の物資をロシアに提供しているとの証拠はまだ限定的です。「軍事利用可能な」物資という表現は適切ですが、直接的な武器供与の証拠は少ないのが現状です。パートナーシップ、特に軍事的なそれを重視するなら、直接的な武器・弾薬等の供与を重視するはずです。

以上ので述べたように、経済的動機が、中国のロシア支援を促進する主要な要因となっています。

このようなことを裏付けるようなことも発生しています。

中国との大型ガスパイプライン契約をまとめようとするロシアの取り組みが暗礁に乗り上げているというのです。ロシア政府は、ガスの取引価格と供給水準に関する中国政府の無理な要求が足かせになっていると見ています。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が2日、関係者3人の発言を引用して伝えました。 中国はガスの取引価格を、大幅な補助金が付いているロシアの国内価格に近づけるよう要請していました。

その半面、中国が表明している購入量は、建設を計画しているパイプラインの輸送能力の一部にとどまるというのです。 ロシアは同国産天然ガスを北部ヤマル半島からモンゴル経由で中国に輸送するパイプライン「シベリアの力2」(年間輸送能力500億立方メートル)の建設について何年も協議してきました。

ロシアのノバク副首相は先月、同パイプラインに関して同国と中国が「近い将来」契約を締結する見通しだと発言しました。


中国とロシアのガスパイプライン交渉の行き詰まりは、中国のロシア支援が経済的打開策としての側面が強いことを裏付けています。中国はロシアの国内価格に近い大幅な値引きを求め、さらにパイプライン能力の一部しか使用しない意向を示しています。

この強硬な姿勢の背景には、不動産バブル崩壊と西側諸国の制裁による中国経済の悪化があります。中国は、エネルギーコストを引き下げることで、製造業の競争力維持と消費の刺激を図ろうとしています。

この交渉は、中国がロシアの孤立を利用して、自国の経済的利益を最大化しようとしていることを象徴しています。中国のロシア支援は、戦略的パートナーシップというより、自国の経済的窮地を脱する手段としての性格が強いのです。

ちなみに北朝鮮のロシア支援も、中国と同様に、自国の経済的窮地を脱する手段としての性格が極めて強いと言えます。

長年の経済制裁、非効率な経済体制、コロナ禍による国境封鎖で、北朝鮮の経済は壊滅的状態です。この危機を乗り越えるため、北朝鮮はロシアに大量の弾薬を供給しています。見返りに、北朝鮮は食料、エネルギー、外貨、技術、インフラ支援など、生存に不可欠な資源をロシアから得ています。

金正恩総書記のロシア訪問も、この文脈で理解できます。北朝鮮は自国の軍事資産を、経済再建に必要な資源と交換しているのです。表面上は戦略的協力に見えますが、その本質は極めて切迫した経済的動機に基づいています。中国が経済回復と成長を目指すのに対し、北朝鮮は文字通りの経済的生存を賭けているのです。

米国が中国企業や銀行を制裁したら、中国はロシア支援をやめるでしょうか?可能性は高いです。

今、中国経済は不動産問題などで苦しい上、制裁が加われば更に悪化します。経済的に苦しい時、国のプライドより財布の心配が先に立つからです。

ただ、簡単には決められません。米国に屈するのは面子が立たず、長期的にはロシアとの関係も大事だと考えるかもしれません。また、制裁範囲次第で支援継続の余地もあります。

結局、中国は経済重視でロシア支援をやめたい、でも国のプライドや政治的思惑もあり、財布と面子、どちらを取るか最後まで悩むでしょう。米国としては、様子を見ながら、さらに制裁を強化するかどうか検討するでしょう。

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2024年5月28日火曜日

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”―【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”

服部倫卓( 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)

まとめ
  • ロシアがウクライナ侵攻後、次にモルドバを標的にする可能性がある。モルドバには親ロシア地域が存在する。
  • 10月に大統領選と並行してEU加盟の是非を問う国民投票が予定されており、親欧米派のサンドゥ大統領が有力視されている。
  • 経済問題などで国民の不満が高まる中、ロシアが選挙介入などで親欧米路線を妨げようとしている。
  • サンドゥ大統領が再選されても、来年の議会選で与党が敗北すれば大統領の権限が制限される可能性がある。
  • ウクライナ情勢次第で、ロシアの軍事的脅威にさらされる恐れがあるが、武力に対する抵抗力は乏しい。


 モルドバは小国ながら、ロシアとEUの狭間に位置する地政学的に重要な国である。ロシアによるウクライナ侵攻の最中、プーチン政権がウクライナの次の標的としてモルドバを見据えているのではないかとの懸念が生じた。モルドバには親ロシア地域が存在し、ロシアがこうした地域を梃子にしてモルドバ全土を支配下に置こうとする可能性がある。

 一方で、モルドバは欧州連合(EU)加盟を目指しており、今年10月に大統領選と並行してEU加盟の是非を問う国民投票が実施される予定だ。現職の親欧米派サンドゥ大統領が有力視されているものの、経済問題などで国民の不満も高まっている。ロシアが選挙介入や買収工作などで親欧米路線を妨げようとする動きも見られる。

 さらに、仮にサンドゥ大統領が再選されても、来年夏の議会選挙で与党が敗北すれば、大統領の権限が制限されかねない。モルドバの政治体制は議会と内閣の権限が大きいためだ。ロシア側は、この議会選挙に向けても工作を強めるものと予想される。

 ウクライナ情勢次第では、モルドバはロシアの軍事的脅威に直面する可能性もある。しかし武力に対する抵抗力は乏しく、サンドゥ大統領が国外退避を選び、多くの市民がルーマニアなどEU域内に逃れる事態も想定される。

 このように、モルドバはロシアとEUの狭間に位置する小国ながら、その帰趨がロシアの影響力の及ぶ範囲やEUの東方拡大、ひいては地域秩序全体に大きな影響を与えかねない重要な試金石となっている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響

まとめ
  • モルドバはEUとロシアの狭間に位置する緩衝地帯であり、その動向が地域秩序に大きな影響を与える。
  • モルドバ国内にはロシア世界への親和性の高い勢力が存在し、分離独立運動地域「プリドネストロヴィエ共和国」も存在する。
  • モルドバの民族・言語面ではルーマニアと深い繋がりがあり、国家統一の可能性がある。
  • モルドバがロシアの影響下に入れば、ウクライナへの新たな軍事的脅威となる。
  • モルドバはウクライナ情勢次第で、黒海を北上するロシア軍の通り道となる可能性がある。
モルドバ共和国は1991年に旧ソ連から独立した東欧の小国です。ルーマニア系住民が大多数を占め、ルーマニア語が公用語となっています。経済はロシアからのエネルギー供給に依存する一方、欧州連合(EU)加盟を目指す親欧米路線を掲げています。

しかし国内にはロシア世界に親和的な親ロシア派勢力も根強く、実効支配下にある分離独立運動地域「プリドネストロヴィエ共和国」も存在します。ウクライナ情勢次第では、この地域をめぐってロシアとの対立が深まる可能性もあります。このようにモルドバは小国ながら、EUとロシアの狭間に位置する緩衝地帯として、その動向が地域秩序に大きな影響を与えかねない重要な国となっています。

モルドバの地政学的重要性は非常に大きいと言えます。以下に簡単にまとめます。
  • ロシアとEUの狭間に位置する緩衝地帯。モルドバがロシア陣営に入れば、ロシアの影響力がさらに拡大する。一方でEUに加盟すれば、EUの東方シフトが進む。
  • モルドバにはロシア世界を象徴する分離勢力地域(プリドネストロヴィエ)が存在する。この地域をめぐってロシアとの対立が生じかねない。
  • モルドバの民族・言語面ではルーマニアと深い繋がりがあり、国家統一の可能性も存在する。その場合、ルーマニアを介してEUとロシアの対立が先鋭化する恐れ。
  • モルドバがロシアの影響下に入れば、ウクライナのもう一つの軍事的脅威になる。その意味でもウクライナ情勢に影響を与える。
  • 黒海に面さず内陸国ながら、ウクライナ情勢次第では黒海を北上するロシア軍の通り道となりかねない。
モルドバ東部でウクライナに接する赤色部分がプリネストロヴィエ(PMR)

プリドネストロヴィエ(PMR)とは、モルドバ領内に実効支配する分離独立運動地域です。1992年にモルドバから分離を宣言しましたが、国際社会からは承認されていません。住民の多くがロシア系で、ロシア語が公用語となっており、ロシア軍も駐留しています。

PMRは「プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国」として独立宣言を行っています。無論、モルドバはこれを認めていません。ロシア、アブハジア、南オセチア、ナウル共和国のわずか4か国のみがこれを独立国として認めていますが、他の国はこれを認めていません。

この地方は、「沿ドニエストル地方」とも呼ばれますが、その地理的な位置を表した別の呼び名です。プリドネストロヴィエは「ドニエストル川沿い」を意味する語源から来ています。

プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国とは、モルドバ東部のウクライナとの国境に位置する、モルドヴァから実効支配上分離しているドニエストル川沿いの地域を指す、自称独立国家のことになります。

PMRの首都とされるティラスポリ市の市庁舎

地理的には「沿ドニエストル地方」ですが、政治的実体としては「プリドネストロヴィエ・モルドヴァ共和国」と呼ばれる分離独立運動体制のことを指しています。

ロシアの支援を受けて独立を主張するPMRの存在は、モルドバの親ロシア傾斜を生み出す一因ともなっています。モルドバは領土の一体性を重視していますが、PMRとの交渉は難航しており、この問題がモルドバ情勢を不安定化させる要因の一つになっています。今後、ロシアがウクライナ侵攻の口実としてPMRを利用する可能性も危惧されています。

このようにモルドバの行方は、ロシアとEUの勢力圏の行方、ウクライナ情勢などに大きな影響を与える重要な地政学的位置にあります。

モルドバとウクライナ南部一帯がロシアに占領され、ロシアとモルドバの間に回廊が設置されれば、そこから様々な深刻な地政学的リスクが生じる可能性があります。

まずロシアの影響力が黒海に至るまで拡大することになり、NATOやEUなど西側勢力との対立がさらに先鋭化してしまいます。ウクライナはポーランド国境以外は、ロシアに包囲されてしまい、国土が事実上二分される恐れがあります。

一方のモルドバも同様に包囲され、親ロシア地域の離反や、ロシアの事実上の支配下に置かれるリスクにさらされる。両国から大量の難民流出も起こりかねない。さらにルーマニアまでがロシアに囲まれる事態となれば、東西間の緊張は最高潮に達するでしょう。

最悪の場合、このまま事態がエスカレートすれば、新たな東西冷戦状況に陥る危険性すらあります。この地域一帯がロシアの影響下に置かれれば、ロシアの勢力圏拡大とNATO/EU側の対抗姿勢から、欧州の安全保障は極めて深刻な事態に陥ることになるでしょう。

モルドバのチーズ専門店

ただし、モルドバとウクライナ南部一帯がロシアに占領され、ロシアとモルドバの間に回廊ができる可能性は、現状では低いでしょう。

その理由の一つは、ウクライナ軍の強硬な抵抗があり、ロシア軍がウクライナ南部を完全に制圧することは容易ではないということです。さらに、ロシア軍の兵力と武器は十分ではなく、新たな大規模作戦を展開するのは現実的ではないです。

そのような行動を取れば、国際社会からの非難と追加制裁を受けるリスクも高まります。加えて、モルドバはNATO非加盟国ではありますが、EUメンバーのルーマニアが防衛面で深く関与しているため、ロシアが容易にモルドバに進出できる状況にないです。

また、モルドバ国内に親ロシア勢力は根強いものの、現政権与党は親欧米路線を掲げていることも影響しています。このように、客観的に判断すると、ロシアがモルドバまで勢力範囲を広げて回廊を確保する可能性は現時点では低いと言えます。ただし、ウクライナ情勢次第では、この地政学的リスクを完全に除外することはできないでしょう。

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戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ―【私の論評】大戦の脅威を煽るより、ロシアの違法な軍事行動に対し、断固とした姿勢で臨め

戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

まとめ
  • 歴史学者ティモシー・スナイダーは、ロシアと戦うウクライナが第3次世界大戦を防いでいると述べ、現在の状況を第2次世界大戦直前に例えた。
  • スナイダーは、ウクライナをナチスに降伏したチェコスロバキアになぞらえ、ウクライナが諦めると将来ロシアがさらなる戦争を引き起こすと警告した。
  • 現在のウクライナ紛争は第3次世界大戦の危機を高めているが、NATO諸国は関与を避け、暴力の拡大を防ごうとしている。
  • ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナがロシアに敗れれば次にヨーロッパの他の国が攻撃対象になると警告している。
  • ベラルーシのルカシェンコ大統領も世界が崖っぷちに立たされていると警告し、第3次世界大戦の懸念を表明している。

ウクライナ軍女性兵士

 著名な歴史学者ティモシー・スナイダーは、ロシアと戦っているウクライナが第3次世界大戦を防いでいると述べた。彼は米イェール大学の歴史学教授で、東欧とソビエト連邦を専門家だ。スナイダーは、ウクライナとロシアの全面戦争が3年目に突入している現状を、第2次世界大戦直前の時期に例えた。

 彼は2024年を1938年と比較し、ウクライナが第2次大戦初期にナチスに降伏したチェコスロバキアと似ていると述べた。1939年、ナチス・ドイツがチェコスロバキアに侵攻し、これによりイギリスとフランスがポーランドの同盟国としてナチス・ドイツに宣戦布告し、第2次世界大戦が始まった。スナイダーは、エストニアのタリンでの会議で、ウクライナが諦めるか、国際社会がウクライナを見捨てれば、将来的に異なるロシアが戦争を行うことになると警告した。

 スナイダーは、ウクライナが現在の状況を引き延ばし、1939年のような大戦の勃発を防いでいると述べた。ウクライナでの2年以上にわたる紛争は、第3次世界大戦の可能性を高めているが、NATO諸国はウクライナ戦争の当事者ではないと強調し、暴力が国境を越えて広がるのを防いでいるとした。ウクライナは、ロシアに敗北すれば次にヨーロッパの他の国がロシアの攻撃対象になると警告している。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2022年2月、ロシア軍がウクライナに侵入してきた直後に、ウクライナの戦いを支援するよう呼び掛けた。彼は「もしウクライナが倒れれば、ヨーロッパも倒れる」と述べた。また、3月中旬には世界が「本格的な第3次世界大戦の一歩手前」にあると警告した。

 一方、プーチンの忠実な味方であるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は2024年2月に世界が「再び崖っぷちに立たされている」と警告し、第3次世界大戦について「懸念する根拠はある」と述べた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ロシアの経済的制約と西側の圧力 - ウクライナ侵攻の行方

まとめ
  • 現代ロシアは軍事力は侮れないが、経済力ではナチス・ドイツほどの潜在力はない。資源依存型の経済構造が足かせとなっている。GDPでは韓国を若干下回る程度である。
  • 一方、当時のドイツは再軍備と経済成長の相乗効果で、ヨーロッパ有数の経済・軍事大国として台頭していた。
  • ロシアのウクライナ侵攻は長期化すれば、その経済的制約からロシアに第三次世界大戦を引き起こすだけの実力はない。
  • 重要なのは、ロシアの違法な軍事行動を容認せず、ウクライナの主権と領土を守ることである。
  • 米国を筆頭に西側がロシアへの圧力を強める動きは、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かう決意の表れである。
第二次世界大戦中のドイツSS(親衛隊)

現代ロシアは確かに軍事力に優れていますが、経済面ではナチス・ドイツほどの潜在力はありません。現在ロシア経済は天然資源、とりわけエネルギー輸出に過度に依存しているのに対し、かつてのソ連は現在のロシアと比較して、製造業や先端技術分野での地位ははるかに上位に位置し、米国としのぎを削っていました。国内総生産(GDP)でも、米中に大きく水をあけられている有様です。  

これは、第二次世界大戦前のドイツとはかけ離れた状況です。1939年当時、ドイツの名目GDPは約411億ドル(1990年価格換算)と、アメリカに次ぐ経済大国でした。軍備増強と内需拡大策の効果により、ドイツは欧州有数の経済力を誇っていました。軍事と経済の相乗効果で、ヨーロッパ全域に影響力を及ぼすに至ったのです。

一方の現代ロシアは、2022年のGDPがわずか1.7兆ドル程度に過ぎず、主要欧州諸国よりも小さい規模です。世界ランキングでは11位と、韓国をわずかに下回る程度です。これは日本でいえば、東京都と同じくらいです。長年の対外制裁と資源依存の経済構造が災いし、伸び悩んでいるのが実情です。

軍事パレードをするロシア軍兵士

このように、ナチス政権下のドイツは再興期にあり、軍備増強と経済発展を遂げ、ヨーロッパでの覇権を狙っていました。一方でプーチン政権のロシアは、経済的な盤石さを欠いており、他国に影響力を及ぼす余地は限られています。

こうした経済力の違いが、ロシアのウクライナ侵攻の遂行能力に大きく影響しています。戦争が長期化するなか、ロシアは経済的に行き詰まる可能性すら浮上してきました。第三次世界大戦を引き起こせるような実力は、到底持ち合わせていないと言えるでしょう。  

武力面ではロシアが軍事技術と核兵器で優れているのは事実です。しかし経済規模が韓国と肩を並べるに過ぎなければ、その行動には自ずと一定の制約がつきまとうはずです。つまり、現在の紛争が再び世界大戦に発展するリスクは、杞憂に過ぎないのかもしれません。かえって、目の前の現実的で差し迫った問題から目を逸らしかねません。

重要なのは、第三次世界大戦の脅威などではなく、ロシアのウクライナ侵攻が国際法に明白に反すること、これを決して容認できないことです。欧米諸国を中心に、ロシアのこの暴挙に対する責任を明確に追及し、ウクライナの主権と領土保全を尊重した平和的解決を目指すべきなのです。  

もちろん、ロシア軍の戦力は侮れません。しかし、ウクライナ軍の強固な決意、西側からの軍事支援、そしてロシア自身の経済的制約といった要因を考えれば、ロシアがこの紛争で完全勝利を収めることは極めて困難です。平和の実現に向けては、第三次世界大戦を恐れるのではなく、ロシアのこの明白な違法行為に毅然と対処することこそが重要なのです。

ロシアの侵攻は確かに現実的で差し迫った脅威です。しかし同時に、ウクライナの奮闘、国際社会の広範な支援、ロシア自身の能力の限界という現実も見逃せません。こうした要因を組み合わせれば、この脅威を最終的に封じ込め、抑止できるはずです。

その実現に向け、何よりも冷静さを失わず、ロシアの軍事行動を断固として非難し続けることが大切です。そうすれば第三次世界大戦の悪夢は現実のものとはならず、かえってロシアが現実路線に傾き、停戦への道を模索せざるを得なくなるでしょう。平和を願うなら、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かうことこそが何より重要なのです。

第三次世界大戦をテーマとしたゲームの画面

実際、米国はロシアの違法な軍事行動に対する姿勢を一層厳しくしつつあります。ウクライナを訪問中のブリンケン国務長官は15日、米国製兵器を使ったロシア領内への攻撃を容認する可能性に言及し、「この戦争をどう遂行するかは最終的にはウクライナが決断することだ」と述べました。

バイデン政権はこれまで、ロシア領への直接攻撃を制限してきましたが、この発言はその方針の転換を示唆しています。ロシア側に有利に働いているとの批判を受けて、制限撤廃の要望が高まっていたためです。   

このように、おくればせながらも、米国を始めとする西側諸国がロシアへの圧力を強める動きは、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かう決意の表れと言えるでしょう。平和実現に向けては、第三次世界大戦の脅威を煽るよりもロシアの違法な軍事行動に対し、断固とした姿勢で臨むことが何より重要なのです。

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2024年5月18日土曜日

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”―【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”

まとめ
  • ロシアの今年1月から3月までのGDP伸び率が去年の同期比で5.4%と発表された。
  • これは4期連続のプラス成長で、経済好調の兆しとされる。
  • 専門家は、軍事費の増加が経済を一時的に押し上げていると分析。
  • IMFは、ロシアの今年のGDP伸び率を3.2%と予測。
  • プーチン大統領は経済と軍事の統合を進めるため、新たな国防相に経済閣僚の経験者を起用。
プーチン大統領

 ロシアの今年1月から3月までの国内総生産(GDP)の伸び率は去年の同期と比べて5.4%のプラス成長を記録し、4期連続のプラス成長となったことが発表された。この成長は、ウクライナへの軍事侵攻以来の軍事費の増加による一時的な効果と分析されている。

 専門家は、軍需産業への労働力の増加が国内経済に好影響を与えていると述べている。また、IMFはロシアの今年のGDP成長率を3.2%と予測している。プーチン大統領は、経済と軍事の統合を進める目的で新たな国防相に経済経験者を起用した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細をごらんに成りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

まとめ
  • ウクライナでの戦争継続のための軍需産業の興隆がロシアのGDP成長に貢献している。
  • 第二次世界大戦中、日本をはじめとする多くの国で軍事費増大により経済成長が見られた。
  • ロシアのGDP統計には透明性が欠け、疑問点が多いが、それでもロシアのGDPが伸びている可能性はある。
  • プーチン大統領は経済と軍事の統合を目的に経済経験者を新たな国防相に起用した。
  • 経済と軍事の統合は重要だが、戦争の結果はより広範な要素によって左右される。
上の記事で、1月〜3月のロシアのGDPの伸びを専門家は、軍需産業への労働力の増加が国内経済に好影響を与えているとしています。これは正しい見方だと思います。なぜなら、戦争中、特に総力戦中にはGDPが伸びるというのは普通の現象だからです。

それを裏付ける資料として、第二次世界対戦中の主要国のGDPを以下に掲載します。
第二次世界大戦戦前・戦中の主要国のGDP

数字の羅列だけだと理解しづらいので、以下にグラフを掲載します。 アメリカは本土が戦場にならなかったこと、ソ連は戦争中のデータがないことなどから、以下にそれ以外の国のGDPの推移を掲載します。


フランスは、ドイツに占領されたことが影響し、1939年を頂点に下がっています。これは、戦争を継続する必要がなくなったからとみられます。イタリアも、
1943年9月8日枢軸国側から、連合国側に寝返り、そこから先はドイツ軍に占領されたということもあり、国情が安定せず1939年をピークに下がっています。

イギリス、ドイツ、日本は、戦争末期は別にしてGDPは右肩あがりに上がっています。これは、戦争を継続するために、軍需物資を増産したからに他なりません。

日本では、戦争中には原油が不足しましたが、パスなどの公共交通機関では、それを補うために、木炭を燃料としてバスを運行したこともありました。これは、燃費もかなり悪く、非効率の極みなのですが、それにしても、このバスを走らせるために、木炭を製造したり、それを運んだりするための人件費などはGDPに計上されます。

戦争中にはこのような非効率なことも多く行われますが、それでもこれらは、GDPに計上されることになるのです。

このブロクでは以前述べたように、経営学の大家ドラッカー氏は、第二次世界大戦中の経済について、以下の発言をしています。
数字だけを見れば、第二次世界大戦は、単なる好景気だったように見えるだろう。
これは、第二次世界大戦中、多くの国が軍事費を増大させたことで、経済成長を遂げたという事実に基づいています。例えば、米国では、第二次世界大戦中のGNPは、戦前の約2倍強にまで増加しました。これは、軍需産業の急速な発展によるものです。

第二次世界大戦中、日本も、軍事費を大幅に増大させ、軍需産業の急速な発展を促しました。その結果、日本の経済も、戦前の約2倍弱にまで成長しました。

1930年代から1940年代にかけて、日本は戦争に伴う軍事費の増大や、戦時体制の導入により、経済成長を遂げました。また、国民生活の面でも、食糧や衣料などの物資の配給が徹底され、国民の生活水準は維持されていました。

本当に窮乏化したのは、1944年以降であり、連合国軍の空襲が本格化し、米軍による通商破壊がすすみ、日本各地で大きな被害が発生し、国民生活は困窮化しました。それは、上のグラフでも示されています。

現在のロシアのGDPの伸びも、軍需産業の急激な発展によるものと考えられます。ただしロシアのGDP統計に関しては多くの疑問が呈されています。これは透明性の欠如、データ収集方法の問題、および非公式セクターの存在など、複数の要因に基づいています。ただ、現状では断言するには、至っていません。しかし、戦争を遂行すれば、経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)等は別にしてGDPは上向く傾向があります。

上の記事でもう一つ気になるところがあります。それは「プーチン大統領は、経済と軍事の統合を進める目的で新たな国防相に経済経験者を起用した」ことです。

ロシアのプーチン大統領が新しい国防相に経済学者のアンドレイ・ベロウソフ氏を指名した事例は、現代においては注目すべきものです。ベロウソフ氏は経済の専門家であり、プーチン氏の側近として長年にわたり経済開発相や経済担当の大統領補佐官を務めてきました [1]。彼の指名は、ロシアがウクライナとの戦争に備えて戦時経済を強化するための戦略的な措置とされています。ロシアの軍事支出は約51兆円にも上り、効率的な運用が求められているため、経済学者のベロウソフ氏を起用したとみられています。

アンドレイ・ベロウソフ氏

経済と軍事の統合は、国の戦争遂行能力を高めるために重要な戦略であると考えられますが、戦争の結果を決定する要因は多岐にわたります。経済合理性の追求は、資源の効率的な利用や生産能力の最大化といった面で戦争遂行能力を支えることができますが、それだけが勝敗を左右するわけではありません。

戦争の結果は、軍事戦略、国際政治、同盟国との関係、技術革新、民心の支持といった多数の要素によって影響されます。ナチスドイツの場合、軍需相であったフリッツ・トートやその後任のアルベルト・シュペーアによる経済と軍事の統合は一定の効果を発揮しましたが、結局は連合国の圧倒的な軍事力、資源、及び戦略的な決断によってドイツは敗北しました。

フリッツ・トートはナチス・ドイツ初期の主要な建設プロジェクトを担当し、特に高速道路「アウトバーン」の建設を通じて失業対策を行いました。これらの大規模プロジェクトは、1930年代の経済危機と大量失業に直面していたドイツにおいて、多くの労働者に仕事を提供し、失業率の減少と経済回復に大きく貢献しました。トートの取り組みはナチス政権の支持基盤を固めるのに重要な役割を果たしましたが、後に軍事拡張とユダヤ人などの強制労働の利用に繋がりました。

航空機墜落事故によって死亡したトートに変わり、アルベルト・シュペーアが軍需相となりました。アルベルト・シュペーアは、ナチス・ドイツの軍需相および戦争経済大臣として、経済と軍事の統合において重要な役割を果たしました。彼の下で、軍事生産の効率化と最大化が推進され、特に「全戦争」概念の実施により、軍需産業の生産能力が大幅に向上しました。

シュペーアは労働資源の再配分、生産設備の合理化、そして技術革新の促進により、短期間でドイツの軍事力を強化することに成功しました。しかし、これらの努力にも関わらず、戦争の長期化と連合国の圧倒的な経済力・軍事力により、最終的にドイツは敗北しました。シュペーアによる経済と軍事の統合は効果を発揮したものの、戦争の全体的な結果を変えるには至りませんでした。

プーチン大統領が経済経験者を国防相に起用したことは、戦時下における経済の軍事への統合を強化し、より効率的に資源を管理しようとする試みとみることができます。しかし、戦争の結果はこのような内部の効率化だけでなく、外交政策、国際社会との関係、軍事戦略など、より広範な要素に左右されます。

結局のところ、経済と軍事の統合は戦争遂行の一環として重要ですが、戦争の大局を決定するには、それだけでは不十分であり、より複合的な要因を考慮する必要があります。今回のアンドレイ・ベロウソフ氏を国防相に任命したこと自体は、戦局を大きく変えることにはつながらない可能性もあります。

ただし、ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4%ということだけを根拠として、ロシア軍最強とか、ロシアが必ず勝つとか、先進国の経済制裁は全く効いていない等という見方は、誤りであることは確かでしょう。

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