2016年11月14日月曜日

どうなる日米同盟 「基地問題を見直す好機」「日本を自ら守る気概を」 軍事評論家が激白―【私の論評】トランプ氏は米軍駐留経費負担だけでは満足しない(゚д゚)!

どうなる日米同盟 「基地問題を見直す好機」「日本を自ら守る気概を」 軍事評論家が激白

火箱芳文(ひばこ・よしふみ)氏 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
ドナルド・トランプ氏が米大統領選で勝利したことで、危惧されているのが「日米同盟」の行方だ。トランプ氏は選挙戦で「日本ただ乗り論」を主張し、在日米軍の撤退もチラつかせていた。日本の安全保障の基軸はどうなるのか。元陸上自衛隊幕僚長の火箱芳文(ひばこ・よしふみ)氏と、元在沖縄海兵隊政務外交部次長のロバート・エルドリッヂ氏に聞いた。

火箱氏は、米軍に太いパイプを持つだけに「誰が米大統領に就任しても、日米同盟の根幹が揺らぐことはないが、日本人が目覚める良い好機になるのではないか」といい、こう分析した。

「トランプ氏は『日本は在日米軍の駐留経費の全額負担をすべきだ』『応じなければ在日米軍の撤収を検討する』と主張していた。それは、『自分の国は自分で守れ』とも解釈できる。自衛隊単独で日本を完全に防衛することは難しいが、筋論としては当然だ。日本人は自らの手で国を守る気概を持つことが大事だ」

トランプ氏は、日本に「負担増」とともに「役割増」も求めてくる可能性があるとみられる。

「自衛隊の役割が増えれば、これまで米軍に流れていた予算が国民の財産として自衛隊に積み上がることになる。むしろ歓迎すべきだ。日米の軍人レベルでのつながりは強固だ。米国と対等に渡り合うチャンスだ」

火箱氏は東日本大震災時の陸幕長として7万人の陸自隊員を指揮し、米軍との共同作戦でも陣頭に立った。2011年8月に退役するまで、日米同盟の最前線に立ち続けた。

エルドリッヂ氏
 一方、エルドリッヂ氏は東日本大震災の際、米軍の「トモダチ作戦」を発案した1人である。

今回のトランプ氏の当選について、「沖縄の基地問題を見直す好機だ。(次期政権での)駐日米国大使には安全保障の専門家が就任すべきだ」といい、続けた。

「今の基地問題の基本線は約20年前、クリントン大統領と橋本龍太郎首相が合意したことがベースだ。それから世界は大きく変わり、新しい時代になった。トランプ氏の日米同盟に対する認識はかなり古い。今後、その認識は改まるだろう」

日米同盟は単なる軍事同盟ではない。「民主主義」「法の支配」「人権尊重」という基本的価値観の共有が重要である。

エルドリッヂ氏は「日本に求められるのは、米国のカーボンコピーではない。日本は人道支援などソフトパワーでの国際貢献が得意だ。同盟は夫婦関係と同じ。日本と米国はお互いが努力して良い方向に持っていくしかない」と語った。

【私の論評】トランプ氏は米軍駐留経費負担だけでは満足しない(゚д゚)!

トランプ氏の大統領選のときの発言として、日本を含む同盟国との軍事関係を経済面から見直し、在日米軍の経済的負担を日本が担わなければ、米軍撤退、そして日本の核兵器保有を容認するという発言に不安を感じる人も多いと思います。

このこのトランプ氏の発言に、日本の左派と、右派の一部が、何も考えずに単純に賛意を表明していました。ただし、左派の人たちは、核兵器保有ではなく、憲法9条が在日米軍の代わりになると考えているのが、右派の人とは違います。

しかしながら、単純に経済的負担だけを理由に在日米軍が日本から去っていくことはあり得ないと考えられます。なぜかといえば、これは米国の東アジアや太平洋の安全保障政策を大幅に縮小し、対中国・対ロシアなどを含めて、これらの脅威をいたずらに高めることになるからです。米国が、東アジアと太平洋になんの緩衝地帯もなく、海洋進出政策を活発化させ、米国が隙をみれせば、すぐにも行動を起す中国に大きな隙を与えることになるからです。

それに、すでに日本は在日米軍の駐留経費の過半を負担しています。2016年予算でも防衛省関連だけで約5400億円の巨額であり、その負担率は70%を超えています。韓国、ドイツ、イタリア、イギリスなどに比べてもその何倍、何十倍の負担額であり、負担率も米国の同盟諸国のなかでも他をかなり引き離しての一位です。

トランプ氏にいわれるまでもなく、今までの日本は米国から軍事的に「見捨てられる」可能性が起きないように、自国で在日米軍のコストを大きく引き受けてきました。
さらに、この政府予算に現れないコストも存在します。たとえば、沖縄などでの在日米軍に関するコストも無視できません。武田康裕氏と武藤功氏(共に防衛大学校教授)の著作『コストを試算!日米同盟解体』(毎日新聞社)によると、沖縄の米軍基地が存在しないときに、跡地利用などで経済効果が1兆6000億円超も生まれるそうです。



これは、それだけの金額を日本は現時点で無駄にしているといえる。これを「機会費用」といいます。また、政治的・社会的な摩擦も当然に経済評価が可能な部分があり、実際にはさらに機会費用は膨らみます。

ただし、この書籍では、日本が自主防衛に転じた場合、どの程度のコストがかかるかの試算も掲載してあります。これについては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプ氏、共和党の指名確実な情勢 クルーズ氏が撤退―【私の論評】元々自衛戦争はできる!護憲派も、改憲派も牛丼を食べるのは違憲とするのはもうやめよう(*_*)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より、日本が自主防衛に転じた場合のコストに関する部分のみを以下に掲載します。
自国の防衛を行う場合には、他国との共同防衛か自主防衛かという選択肢があります。前者は日米同盟を考えると現状に近いものです。後者は、対米追随ではなく完全自主防衛であれば、当然のことながら核兵器保有を考えなければなりません。
以下には、核兵器のコストは特に含まれていませんが、そのまま引用します。

同書には、日米同盟のコストは1・7兆円、自主防衛コストは24~25・5兆円であると掲載されています。
自主防衛コストについては、いろいろな見方があるとはいえ、日米同盟コストに今の防衛関係費を加えても6・7兆円ですが、自主防衛コスト24~25・5兆円より小さいというこの結論にはあまり変わりないでしょう。 
この現実を知れば、日米安保と自主防衛のどちらを選ぶべきかといえば、当然のことながらコストの問題から、現実問題としては日米安保にならざるを得ないです。自主防衛とすれば、トランプ氏が言うように核兵器配備は必須です。 
日本が集団的自衛権を認めれば、米国側も日米安保にメリットがありますから、日本側の負担は抑えられます。一方、集団的自衛権を認めず、日本が専守防衛に固執するなら、日本側の負担が際限なく大きくなり、米軍も撤退ということになります。 
集団的自衛権の否定論者は、トランプ氏の提案にどう答えるのでしょうか。
米軍が日本から撤退することは、米国からみれば軍事的な公共支出の削減につながり、経済面だけをみればメリットのほうが大きいことでしょう。ただし、米軍が日本から完全撤退しつつも、同等もしくはそれ以下の軍事力でも、新たなに東アジア、太平洋地域に展開することになれば、これもとてつもなくコストがかかります。

こちらの試算は、ありませんが、空母打撃群や潜水艦など、定期的に米本土や他の地域から派遣して、中国やロシアに備えるということになれば、これもかなり莫大なものになることは容易に想像きがつきます。

それを考えると、やはり日米間で集団的自衛権を行使できるように、日米安保体制は、堅持したほうが、両方にとってかなりメリットがあります。それを考えると、米軍が日本から徹底することはあり得ないです。

ただし、米国は、今まで通り日本に駐留するものとして、駐留経費負担の増額や、全額負担を政治的に迫ってくる可能性は十分にあります。

ただし、政治的・社会的コストをあえて無視すれば、予算的な規模ではたかだか2000億円を超える程度であり、金額的には限定されたものです。ただし、そのような要求をトランプ次期政権が要求してくれば、日本国内で政治的・社会的な問題化は避けられないこことでしょう。

以上のことから、米軍が日本から撤退する可能性は低いですが、日本に対し駐留経費のよりいっそうの負担増を迫る可能性はあるでしょう。ところで、日本の核兵器保有許容ですが、日本から在日米軍がいなくなれば、トランプ氏にいわれるまでもなく、国論が二分するかたちで核兵器保有が争点化することは間違いないでしょう。

それにしても、あくまで、米国に日本の防衛を丸投げしようなどという考えは、たとえ日本が米軍の駐留費用など全部負担したとしても、トランプ氏には通用しない可能性は十分あります。

それについては、以下の動画をご覧いただけると十分にご理解いただけるものと思います。江崎道郎氏は、日本では唯一といっても良いほど、トランプ氏が大統領になる可能性とその根拠を指摘した人物であり、トランプ政権になってからの、アメリカの出方や、日本の進むべき道に関して誰よりも最初に参照すべき人物であると思います。



この動画でも指摘しているように、トランプ氏は7日の演説の中で以下のように語っています。

「私は今日、外交政策で常に中心に据えるべき重要な3語を伝えるためにここにいる。それは『peace through strength(強さを通じた平和)』だ」

トランプ氏は任務に就いている陸軍兵士の数を現在の49万人から54万人に増員し、海兵隊の大隊数を23から36に増やす(1万2480人の増員)ことを提案しました。海軍では水上艦と潜水艦を合わせて現在の275隻から350隻へ拡充し、空軍では戦闘機を約100機追加して総計1200機にすることも約束しました。

ただ、そのためにどれだけの予算が必要かについては明らかにしませんでした。保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のマッケンジー・イーグレン研究員は、トランプ氏の計画を実行すれば、国防予算が年間で550億ドル(約5兆6000億円)から600億ドル上乗せされることになると試算しています。

例えば、現役の陸軍兵士を54万人に増員した場合、その費用は4年間で推定350億〜500億ドルに達するといいます。海軍の保有艦船を350隻に増やせば4年間で約130億ドル、海兵隊の大隊を36に拡充すれば4年間で約150億ドルが必要だとイーグレン氏は見込んでいます。

オバマ大統領により、ここしばらく削減され続けてきた軍事費をオバマ大統領以前の水準まではいかないものの、それでもかなり増強する意思を示したわけです。

この動画でも語っている通り、日本が米軍の駐留費をさらに負担するということだけでは、トランプ氏は満足しないでしょう。やはり、日本も太平洋が中国の海にならないように、一役買うこと表明しそれだけではなく、それを裏付ける予算措置も示さなければ、トランプ氏は納得しないでしょう。

それこそ、ブログ冒頭の記事で火箱芳文がかたるように、トランプ氏は、日本に「負担増」とともに「役割増」を求めることになるでしょう。そうして、エルドリッヂ氏がかるように、日本と米国はお互いが努力して良い方向に持っていくしかないのです。

日本としては、もう今年度は無理にしても来年度から防衛費を大幅に増大させなければならなくなると思います。これをどこに用いるのが、最も効果的なのか、日本政府の能力が問われることになると思います。

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2016年11月13日日曜日

コラム:トランプ円安はサプライズではない=村上尚己氏―【私の論評】米国経済に関しても、トランプショックに煽られるな(゚д゚)!


村上尚己氏
[東京 11日] - 米大統領選挙における共和党ドナルド・トランプ候補の勝利と、海外市場で始まった株高・金利上昇・ドル高の動き――。これらは、日本の市場関係者の多くには理解し難い出来事だろうが、筆者にとっては想定内の展開であり、違和感はない。株高・金利上昇・ドル高トレンドは継続する可能性が高い。

まずトランプ氏の勝利は、「とんでもない人物が米国の大統領になることはない」との論調が内外の大手メディアを支配していたため、「サプライズ」だと見なされた。特に日本のメディアは事前の想定が裏切られたことが驚きであるかのような論調に傾いており、例えば「トランプ氏勝利=米国社会の分裂・苦境」といったトーンが目立つ。

ただ、米国の金融市場では、もともと「トランプ大統領」は十分あり得ると認識されていた。「トランプ政権の誕生が深刻なリスクになる」といった議論を、筆者は米国人投資家の口からあまり聞いたことはない。米国メディアの報道や調査にもバイアスはあり、6月の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選んだ英国ショックのような事態が発生する可能性は当然ながら想定されていたためだ。

実際、同僚の運用者の大半は十分な備えを講じていた。つまり、米国市場にとってショックとは言い難いのである。

もう1つ、日本の市場参加者にとってサプライズだったのは、トランプ氏勝利を受けて、欧米市場は東京市場とは真逆の円安ドル高に動いたことだろう。トランプ大統領なら株安となり、安全資産の円が買われるという条件反射的な思惑は外れたわけだ。

振り返れば、日本の為替アナリストの大半は、「円は安全資産」あるいは「米次期政権はドル安志向」とのロジックを振りかざし、米大統領選は円高要因になると論じていた。それに対して、筆者は10月19日付のコラムで「トランプリスクは幻影」と書いたように、円高要因ではないと見ていた。

<「トランプ政権=ドル高」は教科書通りの動き>

さて、トランプ氏が表明している経済政策は多岐にわたり、矛盾しているものが多く、どの程度実現するかは不確実である。ただ、減税を中心に景気刺激的な財政政策が実施される可能性が高いとの見方は、多くの投資家の共通認識だ。

これは、米国の株高・景気押し上げ要因である。当社エコノミストは、米政府の拡張的な財政政策がドル高を後押しすると予想。2017年の米国内総生産(GDP)成長率は財政政策で0.5%程度押し上げられると見ている。

米国でインフレ率が高まり、名目長期金利が押し上げられ、米連邦準備理事会(FRB)が緩やかながらも利上げを続けるなら、理論的にはドル高である。多くのエコノミストにとって、トランプ政権でドル高円安となるのは教科書通りの自然な動きなのだ(トランプ政権がFRBへの介入を強めることは筆者が考える最大のリスクだが、他の政策メニュー同様に不確実で現時点では判断のしようがない)。

それでも日本の金融市場では相変わらず、トランプ氏が掲げる保護主義政策の採用やグローバリゼーション時代の終焉によってドル安がもたらされるとの見方がよく聞かれる。これは、1990年代半ばまで金融市場を支配していた「円高シンドローム」(特にビル・クリントン政権で顕著だった政治的な円高強要と日銀金融政策の機能不全がもたらした現象)が、トラウマとして為替市場参加者に影響している側面が大きいと考えられる。

ただ、現在は当時と異なり、まず黒田東彦総裁率いる日銀は強力なデフレファイターとして生まれ変わっている。また、米政府にとって貿易摩擦の最大相手国が日本だった当時の状況と今は違う。

さらに、そもそも日本のアナリストの多くが予想するドル安政策は米利上げ見通しと整合性がとれていない。実際には、金融政策は引き締め方向で、財政政策は拡張方向に進み、ドル高がもたらされる可能性が高いと筆者は考える。

ドル高の持続性の鍵を握るのは、米経済の成長やインフレ率である。そして、そうした点に変化があるようには見えないため、夏場から述べているように、行き過ぎた円高の修正は続く可能性が高いと筆者は予想しているのである。仮に円高に振れた際には、むしろ投資機会として捉えるのが正しいアプローチではないだろうか。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

【私の論評】米国経済に関しても、トランプショックに煽られるな(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事での、村上氏の結論を以下に整理して掲載すると、
ドル高の持続性の鍵を握るのは、米経済の成長やインフレ率である。これに変化があるようには見えないため、行き過ぎた円高の修正は続く可能性が高い。仮に円高に振れた際には、むしろ投資機会として捉えるのが正しいアプローチである。
ということです。この見方は全く正しいものと思います。そもそも、昨日も述べたように米国の二大政党制には政治の継続性の原則というものがあります。

これは、今回のように大統領も共和党指名の大統領なり、連邦議会も共和党が多数派となり(前回の中間選挙のときにはすでに共和党が多数派)民主党から共和党に政権交代した場合に、前政権とあまりにも政策が異なった場合混乱を招くため、政権交代があったにしても、現政権は前政権の6〜7割は同じ政策を実行し、残りの4〜3割で、現政権らしさを出すといういう原則です。

オバマ大統領の経済政策に関しては、賛否両論はあるものの、ミクロ的には問題があるものの、マクロ的には大きな失敗はなかったと思います。であれば、経済政策に関してもトランプ政権がすぐに極端に変えるということはないでしょう。ただし、中長期では当然のことながら、トランプ氏らしい政策を打ち出すことになると思います。

そうして、実ははトランプ氏の経済政策は意外とまともなものです。それに関しては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
実は意外とまとも!? 「トランプ大統領」の経済政策構想をよむ―【私の論評】米メデイアの超偏向ぶりと、公約の完全実行はあり得ない事を知らないと趨勢を見誤る(゚д゚)!
米共和党全国大会で大統領指名受諾演説をするドナルド・トランプ氏
この記事は、今年の9月22日のものです。この時期では、メディアはトランプ氏が圧倒的に優勢であり、トランプ氏は劣勢であることを伝えていました。

この記事では、トランプ候補が9月15日、ニューヨークのエコノミッククラブの講演会で、自身の経済政策の構想を明らかにしたことと、その内容について掲載しました。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、このときに発表されたトランプ氏の経済政策について以下に掲載します。
トランプ候補は、レーガン以来の大型減税と各種規制緩和、および貿易政策をテコに、10年間で2500万人の雇用を創出し、年平均で実質3.5%成長を実現させる政策を実施すると言及した。 
このうち、大型減税のメニューとしては、以下の3点を挙げている。 
①法人税の大幅減税(最高税率を現行の35%から15%へ) 
②所得税の税率適用区分の簡素化(現行の7段階から3段階へ)と税率の大幅引き下げ(12%、25%、33%の3段階へ)、および各種控除の拡充(子育て費用) 
③相続税の廃止 
一方、規制緩和に関しては、現在、オバマ大統領が推進している「パリ条約」にともなう環境政策の停止(クリーンパワープランを廃止し、石油、天然ガス、石炭の生産増をはかる)がその中心となっている。 
さらには、ニューヨークでの講演では言及しなかったものの、従来から老朽化が指摘されてきたインフラ(道路、橋、鉄道、港湾など)の整備拡充や防衛関連支出の増大も公約に掲げている。 
また、貿易政策では、TPPからの撤退と中国に対する圧力(中国を為替操作国に認定するともに、知的財産侵害や輸出補助金の廃止を中国政府に強く求める)を通じて、米国製造業の輸出を拡大させる政策を提案している。
そうして、このようなトランプ氏の政策に関するエコノミストの安達誠司氏の論評も掲載しました。それを以下に引用します。
このようなトランプ候補の経済政策は、最近のマクロ経済学の流れとほぼ軌を一にする点に注意する必要がある。 
最近のマクロ経済学では、「長期停滞」を脱する経済政策として、金融緩和よりも財政拡大を重視する動きが強まってきている(これは、金融緩和が必要ではないという意味ではない)。 
その意味で、インフラ投資の拡大を掲げるトランプ候補の主張は、「長期停滞」に対する処方箋として有効となる可能性がある(クリントン候補もインフラ整備のための公共投資拡大を政策の一つとしているため、来年以降の米国では、財政支出拡大による景気浮揚が実現する可能性が高まっている)。 
さらに、世界的な長期金利低下の一因として、緊縮財政路線による国債発行量の減少にともなう「安全資産」の相対的な不足を指摘する研究も出てきている(いわゆる「Safety Trap」の議論)。 
前述のように、トランプ候補は思い切った減税を実施する意向でもあるので、税収も大きく減少する見込みだ。そのため、インフラ整備等の公共投資拡大は国債発行増によって賄われる可能性が高い。 
トランプ氏の提唱する財政拡大政策によって米国経済の長期停滞を克服することができれば、米国債は世界随一の安全資産として世界中の投資家に選好されることにもなるだろう。
トランプの経済政策は、実際にはかなり緩和・拡大路線であるようです。勝利演説では、ケインズ的な機動的財政政策としてインフラ投資を中心に行うと発言していました。そして共和党候補としては異例なほど、雇用の創出に力点が置かれていました。まるでニューディール政策の表明のようでもありました。

金融政策については、トランプ氏のFRB(米連邦政制度理事会)の低金利政策批判が有名になっていますが、これはあまり深刻になるとは思えません。なぜなら、先の積極的な財政政策の財源を、トランプ氏は国債の借り換えに求めています。であれば、低金利維持、つまり金融緩和は必要条件です。むしろ急速な金利引き上げには、反対する可能性があります。

さらにいえば、トランプ氏は、現状のFRBの引き締めスタンスの転換を求めるかもしれません。トランプ政権は保護主義的志向という点を除けば、むしろ日本のアベノミクスと似た積極的な金融政策と財政政策の組み合わせを志向する、欧米の伝統的なリベラル政策に近い政策実行するのではないかと思います。

仮にトランプ政権がこのようなリフレ政策的なものを採用し、米国経済が好況になれば、それによって世界経済、ひいては日本経済にも益するところは大きくなることでしょう。

もちろん、これは今のところひとつの可能性にすぎません。
googleはヒラリーが有利になるようにオートコンプリートを操作していた可能性が?

このブログの購読者の方ならご理解いただけるものと思いますが、私はこのブログでは米大統領選に関して、一度もクリントン氏が圧倒的に優勢で、トランプ氏は不利などということは掲載しませんでした。最後の最後まで、両者は五分五分であると掲載してきました。 そうして、それは希望的観測というわけではなく、その根拠も掲載してきました。

しかし、日本のマスコミや、政府、多くの市場関係者等のほとんどは、トランプなど泡沫候補に過ぎず、ヒラリーが大統領になると考えていたことに代表されるように、彼らには先見の明が全くありません。彼らには、私のような一個人のブログよりもものが見えていないようです。

彼らの見方の反対が正しいかもしれないとすれば、現時点のトランプショックを煽る彼らの考え方はまた誤っているかもしれません。

とくに、トランプ氏の"②所得税の税率適用区分の簡素化(現行の7段階から3段階へ)と税率の大幅引き下げ(12%、25%、33%の3段階へ)、および各種控除の拡充(子育て費用)"の政策が実施され、大きな成果を収めた場合、8%増税をしても日本経済への影響は軽微などと語っていた人たちの信用は地に堕ちることでしょう。

いずれにせよ、経済面でも円高などのトランプショックをいたずらに煽るのは間違いであるとはいえると思います。そうして今のところは、トランプ大統領により米国経済が良くなるならないはまだ五分五分であると考えておくべきです。

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2016年11月12日土曜日

蓮舫氏「トランプ氏に失礼」でまたもブーメラン 本来の立場忘れ、本末転倒の攻撃材料に―【私の論評】TPPは頓挫していない!政治家、マスコミ、官僚も米大統領選のように判断を誤る可能性が(゚д゚)!

蓮舫氏「トランプ氏に失礼」でまたもブーメラン 本来の立場忘れ、本末転倒の攻撃材料に

蓮舫氏
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)承認案などをめぐり、米大統領選でTPP脱退を明言するトランプ氏が勝利したことを受け、民進党執行部から承認案の即時撤回を求めるような発言が相次いでいる。そもそもTPP交渉参加に向けた協議入りを決断したのは、平成23年の旧民主党・野田佳彦内閣だ。自由貿易体制を重視する本来の立場を忘れ、トランプ氏を安倍晋三政権の攻撃材料にするのは本末転倒でないか。

蓮舫代表「新大統領に対して失礼にあたるのではないかとも思い、懸念している」

野田幹事長「新しい大統領にケンカを売るような話にもなりかねない」

 蓮舫、野田両氏はトランプ氏が勝利した9日、承認案などの衆院採決を急ぐ政府・与党を批判した。

民進党野田幹事長
 民進党は「今回の交渉で農産物重要5項目の聖域が守れなかった」ことなどを理由に承認案に反対しているが、TPPの理念は否定しない立場。7月の参院選で発表した「民進党政策集2016」にも「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現をめざし、その道筋となっているTPPなどの経済連携を推進します」と明記している。

トランプ氏はTPPを「米製造業の致命傷になる」と批判するなど保護主義的な姿勢を示してきた。民進党の考えるべき道は、TPPの理念まで消え去りかねない危機への対応であり、「トランプ氏に失礼」などと肩を持つことではないはずだ。(水内茂幸)

【私の論評】TPPは頓挫していない!政治家、マスコミ、官僚も米大統領選のように判断を誤る可能性が(゚д゚)!

そもそもTPP交渉参加に向けた協議入りを決断したのは、平成23年の旧民主党・野田佳彦内閣であることは間違いありません。その当時の新聞記事のリンクを以下に掲載します。これは朝日新聞のものです。
野田首相、TPP交渉参加の方針表明
2011年11月11日23時11分

 野田佳彦首相は11日、首相官邸で記者会見し、環太平洋経済連携協定(TPP)について「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と述べ、参加国との事前協議から始まる交渉プロセスに参加する方針を表明した。首相は12日からハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、オバマ米大統領らTPPの関係各国首脳と会談し、交渉参加の方針を伝える。 
 TPP交渉に正式参加するには、すでに交渉入りした米国など9カ国と事前協議を行い、それぞれ承認を得る必要がある。日本が各国と本格交渉を始めるのは、早くても来年春以降とみられる。首相が「交渉参加に向けた協議」と表現し、事前協議を強調したのは、民主党内の反対派に配慮した面もある。 
 首相は会見で、農業や医療などの分野でTPP参加に反対する声が強いことを念頭に「世界に誇る日本の医療制度、日本の伝統文化、美しい農村、そうしたものは断固として守り抜き、分厚い中間層によって支えられる安定した社会の再構築を実現する決意だ」と強調。こうした懸念に配慮する姿勢をみせた。 
 一方で「貿易立国として活力ある社会を発展させていくためには、アジア太平洋地域の成長力を取り入れていかねばならない」と述べ、交渉参加の意義を訴えた。その上で、首相は「関係各国との協議を開始し、さらなる情報収集に努め、十分な国民的な議論を経た上でTPPについての結論を得ていく」と強調した。 
 また、首相は農業対策について、10月に政権がまとめた農林漁業の再生に向けた基本方針・行動計画を踏まえて「規模の集約化や6次産業化などを5年間で集中的に行っていく。それに基づいて必要な予算を措置する」と述べ、交渉参加と農業再生の両立を図る考えを示した。 
 首相は関係国との協議について「国益を最大限実現するプロセスの第一歩だ」と主張。昨年11月に菅前政権が「情報収集のための協議」としたTPP参加国との交流について、首相は「さらに歩みを前に出す」と位置づけた。 
 一方、慎重派の鹿野道彦農林水産相は11日夜、記者団に「総理は『参加表明』とはおっしゃらなかった。交渉参加を前提とするものではないと理解している」と指摘。首相の表明が交渉参加にはつながらないとの認識を示した。
この当時の私は、TPPそのものについては自由貿易を推進するということで反対ではないものの、野田政権というより財務省に簡単に御せられてしまう、交渉力の弱い民主党政権のときにはTPP交渉に入るのは日本の国益を損ねる危険性もあると考えていたので、一応反対はしていました。そのため、ブログには以下の様な野田氏を揶揄するような画像も掲載しました。


この記事は、2011年11月11日のものであり、今から5年前の記事です。野田氏は5年前に、自らTPP交渉参加に向けた協議入りを決断しておきながら、「新しい大統領にケンカを売るような話にもなりかねない」と発言しているわけです。

これは、非常に奇異です。ケンカのきっかけは自分が作ったにもかかわらず、自分にはもう全く関係ないかのような発言です。このような発言をするのなら、まずはきっかけを作った自分が謝罪すべきではないでしょうか。

それに、蓮舫氏の「新大統領に対して失礼にあたる」というのも本当に奇異です。蓮舫氏は、自らの二重国政問題で自らの意見を何度も何度も翻し国民を愚弄したその挙句、今でも二重国籍であるかどうかさえはっきりさせていません。国民に対してあれだけ、失礼なことをしておきながら、それは全く顧みずに、筋違いの政府批判をしています。

これらの発言から読み取れるのは、政治を考える上で、二人ともせいぜい1〜2年期間で物事を考えて発言しているとしか思えないのと、とにかく筋が通ろうが通るまいが、論理的であろうが、なかろうが、現政権を批判することしか頭にないことです。

このような発言は、無責任と断定せざるを得ません。そうは言っても、この二人にはそのようなことは全く気にもかけないでしょう。だからこそ、このような発言ができるのです。

この二人が、民進党の代表と、幹事長というのですから、情けない限りです。

それにしても、トランプ氏が大統領選に勝ってからいろいろなことが明るみに出ました。

まずは、メディアは日米ともに、最後の最後まで、クリントン優勢と報道したことからもわかるように、米国の国民の声や、考えを全く反映していなかったことが明るみに出ました。

まずは、このブログで何度か掲載してきたように、アメリカのメディアはアメリカにおそらく、半分くらいは存在していると考えられる保守派や保守派に親和性のある人々を完全に無視してきたこと、そうして日本のメディアも米国メディアの論調を鵜呑みにして、アメリカの半分の声に対してノータッチであったことが明るみに出ました。

それに、TPPに関しても、「TPPで日本は亡国になる!」と語っていた連中も大勢いましたが、トランプ氏はTPPには反対しています。亡国論者たちはTPPはアメリカの日本支配の巨大な陰謀などと語っていました。しかし、大統領選挙前からアメリカが拒否し、さらにトランプ氏も反対しています。結局、自称「保守系」経済評論家と呼ばれる人たちは、根拠の薄弱な恐怖を煽ったということで無責任であったことがはっきりしてしまいました。


しかし、TPPについては、トランプ氏が反対であることから、頓挫するのではないかというのが、日本のマスコミなどのほとんどの反応ですが、私は今のところは、完璧に頓挫したとは思っていません。

なぜそのように思うかというと、三点ばかり根拠があります。一点目は、過去に大統領選においてFTAやEPAに関して、大統領選のときには反対の意思を表明しておきながら、大統領になったらこれを批准した大統領などいくらでも存在するからです。実際、アメリカの大統領選挙の公約は守られないことが、しばしばありますし。だからといって、大きな問題になったこともありません。

二点目としては、アメリカの政治は二大政党制であり、今回のように政権交代があったとき、前政権と現政権の政治があまりにも異なった場合、とてつもなく混乱することになります。そのような混乱を避けるため、アメリカの政治では継続性の原則が貫かれています。

継続性の原則とは、たとえ政権交代したとしても、現政権は前政権の政策を6割〜7割は引き継ぎ、後の4割から3割で、新政権の色を出すというような政治手法のことをいいます。

今回のTPPに関しては、これを推進しようとしたのは元々アメリカです。これを今から完全廃止するとなると、アメリカ国内だけではなく、日本を含めた他の多くの国々に混乱をもたらします。これがかなりのマイナスとなると判断すれば、政治の継続性の原則から、混乱を招かないために、従来通り現政権もTPPを推進する事になる可能性は十分あります。

三点目としては、TPPには中国は参加しません。その意味で、TPPは中国への経済的な対抗策でもあります。トランプ氏は対中国恐慌派と目されていますから、これを理解すれば、TPPを推進するほうに立ち位置を変える可能性は十分にあります。

日本のメディアは、もうTPPは頓挫したかのように報道しているところが多いです。しかし、もっと趨勢を見極めないと、政治家、マスコミ、官僚もまたアメリカ大統領選挙の時のように、判断をまったく誤ることになるかもしれません。

アメリカの大統領がトランプ氏と決まったことを契機これからも、いろいろなことが明るみに出てくると思います。そのようなことを発見した場合、またこのブログに掲載しようと思います。

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2016年11月11日金曜日

中田宏氏「生活保護でパチンコ」おかしい 自分のカネで遊べ―【私の論評】自由とは選択の責任、権利ではなく義務!何かからの自由は特権に過ぎない(゚д゚)!

中田宏氏「生活保護でパチンコ」おかしい 自分のカネで遊べ

前・横浜市長の中田宏氏

 “人権派”曰く、生活保護費でギャンブルに興じるのは「人として当然の権利」らしい。だが、前・横浜市長の中田宏氏は「自由と権利」が一人歩きする日本社会の風潮を疑問視する。

 * * *

 「生活保護費でパチンコ」を禁じる地方自治体の試みが潰されたことをご存じだろうか。

 大分県別府市は昨秋、市の職員らがパチンコ店などを巡回。生活保護の受給者を見つけたらまず口頭注意、複数回繰り返した場合は書面での警告を経て保護費の一部の支給を1~2か月間停止していた。大分県中津市も同様の手順を経て、パチンコなどで遊ぶ受給者の保護費の一部を1か月分、減額していた。

 この対応に「当然だ」「よくやった」との声がある一方、「パチンコは個人の自由だ」「人権侵害につながる」と猛反発したのがいわゆる“人権派”の面々だ。結局、厚労省が「受給の停廃止は不適切」との方針を示し、今年度から両市はこの施策を中止した。

 日本国憲法第25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定める。生活保護制度は国民にとって最後の砦で、重要なセーフティネットであることは言うまでもない。

 だが、判例がないので私の価値観に基づいて言うが、パチンコが「文化的最低限度の生活」に必要とは思えない。私の基準では、金銭の増加によって精神的な満足を得る行為、つまりギャンブルは憲法第25条の範疇に入らない。ゆえに映画や演劇に保護費を使うのはOKだが、パチンコや競馬はダメであり、「馬の走る姿が美しい」などと訴えても、保護費で馬券を買った時点でアウトなのだ。

 生活保護法が定める制度の趣旨は、諸々の理由で生活が困窮した人を保護し、その自立を支援することだ。だが、困窮の度合いに応じて支給される生活費をパチンコに投入すれば、さらに生活が困窮する可能性が高い。これは元々の趣旨にもとる行為ゆえ、遊ぶなら公金ではなく自分のカネで遊ぶべきである。

 私は、「生活保護受給者にパチンコは必要ない」との考えは常識だと思っていたが、世の中には違う考えの人もいることを今回の件で痛感した。受給者のパチンコ禁止を「人権侵害」と難じる人々は、「権力=悪」という強い思想を持ち、権力による市民の行動抑制に徹底して反対する。個人の「自由」を最大限に尊重する立場の人々である。

 そもそも、「自由と責任」、「権利と義務」はワンセットであるはずだが、戦後の日本では、自由と権利がひとり歩きする。「国民の権利及び義務」を定めた日本国憲法第3章には「権利」が16回、「自由」が9回登場するが、「責任」と「義務」は各3回のみである。これ以上、人権派を跋扈させないためにも、この点が今後の憲法改正のポイントとなるだろう。

 この一件で腹立たしいのは、厚労省が「生活保護費でパチンコ」の是非について何の枠組みも提示せず、ただ「受給の停廃止は不適切」としたことだ。生活保護費の4分の1を負担する自治体がせっかく「けじめ」をつけさせようと頑張ったのに、国の事なかれ主義が自立支援の道を閉ざしたのである。

 本来、困った人を助けるはずの“人権派”と国が生活困窮者の自立を損ない、「生活保護依存症」を生み出しているとしたら、実に皮肉な話ではないか。

 【PROFILE】中田宏/なかだひろし。1964年生まれ。神奈川県横浜市出身。青山学院大学経済学部卒業後、松下政経塾に入塾。細川護煕氏、小池百合子氏の秘書を務めた後、衆議院議員に転身。2002年から2009年まで横浜市長を務めた。『改革者の真贋』(PHP研究所刊)、『失敗の整理術』(PHPビジネス新書)など著書多数。

【私の論評】自由とは選択の責任、権利ではなく義務!何かからの自由は特権に過ぎない(゚д゚)!

これとは、また一見別の話ですが、根底のところでは中田氏の主張と似たようなことを示唆するようなが、本日は別にもありました。その記事を以下に掲載します。
橋下氏主導の大阪市の入れ墨調査「適法」確定、拒否した職員敗訴
大阪市長を退任した橋本氏
 大阪市が実施した市職員への「入れ墨調査」の是非が争われた訴訟は、調査を適法とした二審判決が確定した。最高裁第2小法廷(小貫芳信裁判長)が9日付で、調査拒否に対する懲戒処分の取り消しを求めた職員2人の上告を退ける決定をした。 
 確定判決などによると、市は平成24年5月、橋下徹市長(当時)の主導で、入れ墨が他人から見える部分にあるかを、職務命令として全職員を対象に調査。2人に入れ墨はなかったが、プライバシー侵害に当たるとして回答を拒み、同8月に戒告処分を受けた。 
 一審大阪地裁判決は「入れ墨の有無は、差別の原因となり市条例が収集を禁じた情報に当たる」と指摘、調査は違法として処分を取り消した。二審大阪高裁は「人種や犯罪歴と違って差別の原因にはならない」と判断し、職員側逆転敗訴を言い渡した。 
 2人のうち元市バス運転手の男性は、今回の訴訟の取り下げを上司に求められて拒否した後、運転業務を外された。この転任命令の取り消しを求めた別の訴訟では一、二審とも男性が勝訴し、市が上告している。
ブログ冒頭の記事で、「(生活保護)受給者のパチンコ禁止を「人権侵害」と難じる人々は、「権力=悪」という強い思想を持ち、権力による市民の行動抑制に徹底して反対する。個人の「自由」を最大限に尊重する立場の人々である」と述べています

一方、大阪市の職員の入れ墨に関する件では、他者に見ることのできる範囲(他者が見られない範囲ではない)での「入れ墨」の調査を差別にあたるとしたものです。そうして、そうして「入れ墨」のない男性二人がこの調査そのものを違法としていたのです。

これも、細かなことはわかりませんが、これらの二人の男性自身がこの調査を「人権侵害」と断じているのでしょう。あるいは、これらの男性のバックには「人権保護派」の市民団体がついているのかもしれません。このような考えは、やはり「権力=悪」という強い思想を持ち、権力による市民の行動抑制に徹底的に反対し、個人の「自由」を最大限に尊重するという立場を背景にしているのでしょう。

よって、この2つの出来事は、一見似て非なるもののようにも見えながら、根底では同じ思想を背景にするものと考えて良いと思います。

パチンコに関しては、生活保護を受けていてもどうしてもやりたいと考える人がいたとしたら、それは病気なのではないかと思います。法律がどうのこうのの前に、医療相談などをすべきものと思いますし、その観点からサポートをする仕組みを構築すべきかもしれません。そのようなことをせずに、パチンコを自由にさせるということになれば、ますます病気が悪化することを助長するかもしれません。

中田氏は、"そもそも、「自由と責任」、「権利と義務」はワンセットであるはず"とのべていますが、これは社会生活を営む上で基本中の基本です。

さて、自由についてはこのブログでもしばしば登場する経営学の大家であるドラッカー氏は以下のように述べています。
 自由とは楽しいものではない。幸福、安心、平和、進歩のいずれでもない。それは選択の責任である。権利ではなく義務である。真の自由は何かからの自由ではない。それでは特権にすぎない。 
 自由とは、行なうことと行なわないこと、ある方法で行なうことと他の方法で行なうこと、ある信条を持つことと逆の信条を持つことからの選択である。楽しいどころか重荷である。それは、自らの行動と社会の行動にかかわる選択の責任である。
 ドラッカーの数多い言葉の中で、私が最も好きなのが、この「自由とは責任ある選択である。(Freedom is a responsible choice.)」という言葉です。

私は、この言葉のおかげで、真の自由は自分との葛藤の末、勝ち取るものなのだということが明確に理解できました。自由とは何かから逃れて得る権利ではなく、自ら進んで”選択する”義務なのです。

もちろん、「責任ある選択」はイバラの道です。しかし、イバラの道を抜けた後には、全く新しい自由な世界が広がっているはずです。

責任ある選択ができる人は、委ねられ、自由となります。そして、自由な人はより多くの”自由な人”を育て始めます。

このようなことを考えれば、「権力からの自由」という考えは、全くの間違いです。なぜなら、自由とは選択の責任だからです。権利ではなく義務でだからです。真の自由は何かからの自由ではないからです、何かからの自由とは特権にすぎないからです。 

生活保護を受けつつパチンコをする、人に見える部分の入れ墨の調査を逃れるという行為は特権に過ぎないからです。

さて、この自由という観念、実はトランプ現象とも大きく関わっています。そもそも、なぜトランプ氏が大統領千に勝つことが出来たかといえば、アメリカでも「自由」と「権利」ばかりが、主張され「責任」と「義務」があまりに軽く扱われる風潮があり、これに対して反発した人々が、トランプ氏に投票したという側面もあることは否めません。

これについては、昨日のこのブログ記事で述べました。

詳細は、昨日のブログを読んでいただくものとして、以下に一部引用します。

まずは、ハーバード大学法科大学院の学生の事例をあげます。
「表現の自由」について学ぶクラスで、リベラルな教授は言う。 
「共和党の指名争いは、歴史上稀に見る恥ずべき状態になっている」 
トランプを「差別する人」、マイノリティを「差別される人」と表現した教授に対し、授業後の立ち話でケヴィンは不快感を隠そうとしなかった。 
その決めつけこそが、ステレオタイプな差別だというのだ。 
「すべての人がすべての人を差別していると言った偉人がいるけど、僕も同感だ。マイノリティだってある意味でトランプを“差別”しているんだと思う」 
と説く彼の言葉は、ハーバード生だけあって説得力がある。そこで私が、
「なぜ、授業中に教授に反論しなかったの?」 
と聞くと、 
「一度、授業で同性婚に反対したことがある。授業が終わるとLGBT団体が僕の机まで来て、泣きながら抗議した。“あなたは私たちのことを嫌いなのね。だから、差別するのね”って。もううんざりだよ」
このようなことは、現在アメリカでは日常茶飯事のことのようです。そうして、一度「差別主義者」のレッテルをはられてしまうと、とんでもないことになりかねません。ポリティカル・コレクトネスが何より重んじられるアメリカ。インテリ層がこれを間違うと大変なことになる。信用を失い、名誉を失い、将来を失うことになりかねないのです。

もう一つの例を以下にあげます。これは、日本では「テキサス親父」としてYouTubeの動画で、日本でも有名になったトニー・マラーノ氏によるアメリカの現状を吐露した内容です。トニー・マラーノ氏はいわゆる保守派であり、「自由と責任」、「権利と義務」という考え方に関しては当然のことと思っていることでしょう。

トニー・マラーノ氏
米国は「移民の国」だ。俺の先祖もイタリアから移住してきた。米国の「建国の理念」に賛同する移民たちが、わが国に活力を与え、発展させてきた。ただ、それは合法でなければならない。トランプ氏が「不法移民を強制送還させる」と主張していることは、ある意味当然といえる。 
 社会主義者の増長は、米国型リベラリズムが、民主党や教育機関、映画などの大衆娯楽を乗っ取った結果だ。彼らは幼稚園のころから「資本主義の邪悪さ」と「社会主義への同情」を刷り込まれた。洗脳だ。自由主義や資本主義の象徴であるトランプ氏は「叩きのめすべき敵」なのだろう。 
 彼らが、トランプ氏を政治的に貶めようとすればするほど、それが逆効果になっている。米国民の多くは「抗議団=米国を3等国に転落させたい連中」とみている。最近、テロリストを支持する集会が開催されたことが、トランプ氏への得票につながったことも、米国民は知っている。
 かつて、カリフォルニア州は米国全体の流れを決めていたが、今や、他の49州の「軽蔑の対象」でしかない。現在のトランプ旋風は「伝統的な米国を守れ」という国民的運動ともいえる。
この内容は、多少誇張はあるものの、アメリカの保守派の平均的な考え方だと思います。これは、不法移民に対して、オバマ大統領が、「移民法」の改悪によってある程度条件を満たせば、滞在を認めようとしたことへの反発でしょう。結局、この改悪は共和党が多数派の連邦議会で否決されて通りはしませんでしたが、それにしてもこのような法案を成立させようというオバマ大統領のリベラル・左派的にな思考には我慢ならないのでしょう。

不法移民を滞在させるるということは、明らかに「自由」ではなく、「特権」です。とにかく、米国においては、リベラル・左派による「責任」と「義務」を軽視するような発言が目立ちます。

しかも、 アメリカのメディアの9割はリベラル・左派に占められていて、保守派メディアは1割程度にすぎず、「責任」「義務」を主張する保守派の声はかき消されてしまいます。

しかも、保守派や保守派の考えに親和的な人々はアメリカでも半分くらいはいるはずなのに、それらの声はかき消されていしまうのです。そうして、保守派の人々は自分の真意を隠しながら、まわりにあわせてきたというのが実情でした。それでも、一部の保守派は声を大きくして主張してきたようですが、そうなると、社会から弾かれるという状況になります。

このような状況が長い間続いたアメリカでは、保守派の憤懣はマグマの頂点に達していたに違いありません。その憤懣を受け止めたのが、トランプ氏だったのです。

このブログでは過去に何度もこのことを指摘してきました。このことを理解しなければ、トランプ氏が大統領選に勝利した本当の背景は、無論のこと、アメリカの半分を占める保守派ならびにそれらに親和的な考えを持つ人々の考えを理解できません。

アメリカでは、無論民主党にも、リベラル・左派にもまともな人はいるのですが、いわゆる米国型のリベラル・左派の主張が幅を効かせすぎてとんでもないことになっていました。

米国のリベラルのアメリカ社会へのあらゆる面への、
浸透をリベラル・ファシズムと揶揄する人も存在する
しかし、トランプ大統領が現実のものとなった今、保守派の価値観が見直されることになるでしょう。そうして、リベラル・左派一辺倒だった米国メデイアも、これからは保守派を全く無視することはできないでしょう。

今までの、日本では、リベラル・左派一辺倒の米国メデイアの論調や、考え方が、アメリカそのものと考えてきた人がほとんどでした。

しかし、これからは、日本でもアメリカの保守に関して、ある程度は情報が伝わってくるようになることでしょう。そうなると、日本のリベラル・左派は自分たちの主張の正当性を主張しにくくなるか、場合によっては主張できなくなるでしょう。

私は、今回の大統領選挙によって、アメリカ国民はギリギリのところで、立ち直ったとみています。クリントンが大統領になっていたとすれば、リベラル・左派はなお一層勢力を拡大して、とんでもないことになっていたと思います。

日本では、アメリカほど酷くはないですが、「責任」と「義務」があまり顧みられることなく、個人の「自由」と「権利」に重きを置き、「特権」を追い求めるという風潮が酷くなりつつあります。

この風潮は、改めなければなりません。まずは、国の事なかれ主義を廃してまともな国にしていくべきです。そのためには、アメリカの大統領選のときのような、真の保守の積極的な行動が必要不可欠と思います。

自由とは選択の責任であり、権利ではなく義務、真の自由は何かからの自由ではありません。それでは特権にすぎないという当たり前の観念を日本社会も取り戻すべきです。

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2016年11月10日木曜日

トランプ旋風でわかった“インテリの苦悩” ハーバードの学生がトランプ支持を表明できない事情―【私の論評】従来の私たちは、実は半分のアメリカにはノータッチだったことを認識すべき(゚д゚)!


■「ハーバード大学」にも吹き荒れた「隠れトランプ旋風」

粗野で無教養、差別意識を隠そうともしない南部の白人男性たち――そんなイメージで語られがちな共和党候補ドナルド・トランプ(70)の支持層だが、世界中の英知が集うハーバード大学にも、隠れた支持者たちはいる。昨年の夏から1年間、同大学のロースクール(法科大学院)に留学していた山口真由氏が、“隠れトランプ旋風”の実状を明かす。

 ***

トランプ氏
さて、ここまでハーバードにおけるトランプ支持者の“思惑”に触れてきた。だが、トランプを支持していたのは彼らのような熱心な共和党支持者や、キリスト教徒だけなのだろうか。

私は思い出していた。ハーバード・ロースクールの友人であるケヴィンが、

「ヒラリーは信用できない。トランプの方がまだ信用できるよ」

と、酔った勢いで呟いていたことを。

「表現の自由」について学ぶクラスで、リベラルな教授は言う。

「共和党の指名争いは、歴史上稀に見る恥ずべき状態になっている」

トランプを「差別する人」、マイノリティを「差別される人」と表現した教授に対し、授業後の立ち話でケヴィンは不快感を隠そうとしなかった。

その決めつけこそが、ステレオタイプな差別だというのだ。

「すべての人がすべての人を差別していると言った偉人がいるけど、僕も同感だ。マイノリティだってある意味でトランプを“差別”しているんだと思う」

と説く彼の言葉は、ハーバード生だけあって説得力がある。そこで私が、

「なぜ、授業中に教授に反論しなかったの?」

と聞くと、

「一度、授業で同性婚に反対したことがある。授業が終わるとLGBT団体が僕の机まで来て、泣きながら抗議した。“あなたは私たちのことを嫌いなのね。だから、差別するのね”って。もううんざりだよ」

■「差別主義者」のレッテル

ハーバードを卒業した白人男性は、「僕らは自分の意見を自由に表明することができない」という。ポリティカル・コレクトネスが行き過ぎた現在のアメリカでは、白人男性であることはむしろ「原罪」なのだ。努力して好成績を修めても、「優遇されてるからでしょ」と批判されることもあるという。下手に反論すれば「差別主義者」のレッテルを貼られてしまう。

私の留学中に、人種差別に抗議した黒人学生がロースクールのロビーを何カ月も占拠する事件があった。学校側は黒人学生たちに「どきなさい」とは言わないし、彼らが大量に貼り付けたポスターもそのままだ。にもかかわらず、ロビー占拠に抗議した白人至上主義の学生が、トランプのポスターを貼ると学校側によって瞬時に撤去された。

親しくなったハーバードの学生たちも「ロビーを自由に使いたい。占拠はやり過ぎだ」と口を揃えていた。

だが、どうして学校側に抗議しないのか尋ねると、

「自分が矢面に立って“人種差別主義者”のレッテルを貼られたら、この国ではまともに就職できないよ」

とあきらめ顔。

ケヴィンも酔った席での戯言を除いてオフィシャルにトランプ支持を表明することはない。

ポリティカル・コレクトネスが何より重んじられるアメリカ。インテリ層がこれを間違うと大変なことになる。信用を失い、名誉を失い、将来を失う。

トランプ支持を堂々と表明できる、粗野で素朴な南部の白人男性たちはよい。それを公表できない白人インテリ層のなかにこそ、ふつふつと不満が堆積していたのかもしれない。そして、溜りに溜まった鬱憤が、トランプ旋風に一役買ったのではないか。

■アメリカが抱える闇

そう考えると、突然の大失速にも説明がつく。

皆さんはトランプが批判の集中砲火を浴びたビデオについて、少し疑問に思われなかっただろうか。

確かに、下品極まりない内容だ。放送禁止用語の連発である。しかし、11年前の「ロッカールーム・トーク」が、これまで散々、暴言を吐いてきたトランプをここまで追い込むものだろうか。「輪姦は元気な証拠」、「女性は産む機械」等々、日本の政治家だって失言を繰り返してきたではないか。

このトランプのロッカールーム・トークに関する、ハーバードの男子学生たちの見解は興味深い。

トランプが移民を差別し、中国人を敵視しようと、コアなトランプ支持層(主に白人男性)にとって、それは「他者」に対する攻撃だ。どこかの知らない誰かが、トランプの餌食にされているくらいのことだった。

だが、今回は違った。

既婚女性を誘惑したことを、実名を出して告げ、その直後、ブロンドの美しい白人女性にエスコートされる。彼女の肩に手を置くトランプの締まりのない顔を見た時、彼らは一様に生々しさを覚えたらしい。

ギラギラとしたトランプの視線の先にいる白人女性が、自分の恋人や妹、妻や娘と重なった。その瞬間、トランプのむき出しの欲望が自分の愛する家族に向けられたような気持ちになった。彼らはそれに生理的嫌悪感を禁じ得なかったと言うのである。

トランプの「他者」に対する攻撃は、ポリティカル・コレクトネスに疲れ切った人々にとって、ある意味で爽快だったのかもしれない。しかし、「自分の守るべき家族」がトランプの欲望の射程に入っていると知ったとき、共和党のインテリ層の知的な思惑は、「気持ち悪っ……」という感情的な反発の前に、脆くも崩れ去ったのである。

トランプ現象の爆発的な広がりと、あからさまな失速はこう説明できる。

アメリカの行き過ぎたポリティカル・コレクトネスに反発したインテリ層は、自分たちが決して口にできない言葉を連発するトランプに喝采を送った。しかし、結局は、著しくポリティカル・コレクトネスに欠けるトランプの俗物性に耐えられなかった。

トランプを支持した、ハーバードのインテリ層の思惑は、彼らの人間としての感情に勝てなかったとも言える。

移民や女性への差別、格差問題に加え、インテリ層の抱える苦悩まで炙り出したトランプ旋風。

果たして、アメリカが抱える闇を余すところなく暴いたのだろうか。

 ***

特別読物「民主党の牙城『ハーバード大学』にも吹き荒れた『隠れトランプ』旋風――山口真由(弁護士)」より

山口真由(やまぐち・まゆ)

【私の論評】従来の私たちは、実は半分のアメリカにはノータッチだったことを認識すべき(゚д゚)!

昨日のこのブログでは、トランプ勝利の背後に、保守派の鬱積があったことを掲載しました。そうして、その鬱積について私自身の経験を述べました。しかし、私個人の経験では非常に弱いし、そうしてあくまで間接的なものなので、なかなか理解されないのではないかと思い、何か良い記事はないかと探していたら、ブログ冒頭の記事を発見しました。

上の記事は、週刊新潮 2016年11月10日神帰月増大号(2016/11/2発売)の記事であり、おそらくこの記事が書かれたのは、先月あたりと思います。この時点では、トランプ旋風が吹き荒れていたものの、ほとんどの人がヒラリーの勝利、トランプの敗北を信じていました。

この記事も山口真由さんも、そう思っていたのでしょう。そうして、11年前の「ロッカールーム・トーク」の件で、トランプ氏の敗北は濃厚になったと考えていたのでしょう。しかし、今回の選挙結果を見てもわかるように、この「ロッカールーム・トーク」はトランプ氏にとってマイナスに働いたものの、大統領選挙を左右するほどのダメージにはなりませんでした。

山口真由さん
結局のところ、多くのトランプ支持者は、"「自分の守るべき家族」がトランプの欲望の射程に入っている"などとは思わなかったのでしょう。所詮ネガティブ・キャンペーンの一種であり、まさにトランプ氏の言うようにロッカールーム・トークにすぎないと、多くの人は受け取ったのでしょう。

結局のところ、行き過ぎたポリティカル・コレクトネスに反発するインテリ層も結構多かったのだと思います。

そうして、アメリカのリベラル・左派が主張するポリティカル・コレクトネスには確かに行き過ぎの面があることは否めません。

私は、ゲイの人々の性的嗜好はそれは個人の自由としては認めます。しかし、時折非常に疑問に思うことがあります。たとえば、AppleのCEOである、ティム・クック氏が、昨年自らがゲイであることを告白しました。

ティム・クック氏がゲイであろうとなかろうと、私はApple製品を使い続けるでしょうし、そんなことは私にとっては、どうでも良いことです。しかし、ティム・クック氏が告白したときに「自分がゲイであることを誇りに思う」と述べたことには、違和感を覚えました。なぜなら、ゲイでない人はわざわざ「自分がゲイでないことに誇りを持つ」などとは決して言わないからです。

AppleのCEOティム・クック氏
そうして、そうしてアメリカではゲイのカップルの合法化が進められています。私自身は、ゲイの人同士が同棲することなどは別段それで良いと想いますが、さすがにゲイのカップルが普通のカップルと全く同じような法的扱いになることに関しては、やはり抵抗があります。

確かにゲイのカップルには、現在の法体系では不都合なこともあるのでしょう。しかし、だからといって、ゲイのカップルが普通のカップルと法的に全く同じ扱いにするということには、抵抗があります。そこまでしなくても、既存の法を柔軟に運用したり、それでも足りないところは、普通のカップルと同じにするというのではなく、ゲイを前提として新たな立法措置をすることで良いのではと思ってしまいます。そうして、これは、差別ではなく、区別であると思うのです。

そうして、そのように考える保守派の人も米国には多いのではないかと思います。しかし、アメリカのリベラル・左派は、このように思うこと自体を差別だと主張します。これ以上この件について述べると、深みにはまってしまいそうなので、この話自体はここでおしまいにします。

これ以外にも、カメラマンをわざわざカメラパーソンと呼ぶなどの動きもあります。これは、日本にもその動きがあり、多くの人々の賛否両論があります。これについては、以前のこのブログにも掲載したことがあります。その記事を以下に掲載します。
乙武洋匡氏 大島美幸の出産を放送することへの非難を一蹴―【私の論評】当たり前の営みを、できない人たちに配慮するなどという名目で排除したり、言葉狩りをしていてはまともなコミュニケーションが成り立たない(゚д゚)!
乙武洋匡氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では乙武氏の以下のようなツイートを掲載しました。


このツイートに関して、以下のような論評しました。
私たちは、言葉の本来の意味をよく知ってから遣うべきですし、言葉を政治利用したり、無理やり差別用語にしてしまうことや、普通の人々の当たり前の営み表わす言葉を、それをできない人たちに配慮するなどという名目で排除すべきでもありません。 
こんなことが、平然とまかり通っていては、人々がまともなコミュニケーションがとれなくなってしまいます。
確かにカメラパーソンくらいなら、なんとかなるでしょうが、何もかもポリティカル・コレクトネスなどを意識して、差別用語となるかもしれないような言葉をすべて廃止して、早急に違う言い回しにしてしまえば、コミュニケーション・ギャプが深刻になることでしよう。

実際、私はアメリカのFOXnewsなどの動画を視聴していると、大体のことはわかるのですが、特にリベラル・左派の急進派と目される人が話している動画など見ると、一体何を主張しているのかよく飲み込めません。本当に「この人は、一体何を言っているのだ」と思うことがしばしばです。無論、これは私の英語力に問題があるのかもしれませんが、どうもそれだけではないようです。

問題は、ポリティカル・コレクトネスだけではありません。アメリカのリベラル・左派による主張には行き過ぎた面があるのは間違いないようです。これに関しては、アメリカのテキサス州に在住のテキサス親父、ことトニー・マラーノ氏も語っていて、それをこのブログに掲載したことがあります。これは、特に急進的な考えではなく、米国の平均的なアメリカの保守派の考えを集約しているのではないかと思います。その記事のリンクを以下に掲載します。
【痛快!テキサス親父】トランプ旋風には理由があるんだぜ 日本では伝えられない米国の危機的事情―【私の論評】たった1割しか保守系メディアが存在しない米国で国民は保守を見直し、覚醒しつつある(゚д゚)!
テキサス親父こと、トニー・マラーノ氏 
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部のみ引用します。
米国は「移民の国」だ。俺の先祖もイタリアから移住してきた。米国の「建国の理念」に賛同する移民たちが、わが国に活力を与え、発展させてきた。ただ、それは合法でなければならない。トランプ氏が「不法移民を強制送還させる」と主張していることは、ある意味当然といえる。 
 社会主義者の増長は、米国型リベラリズムが、民主党や教育機関、映画などの大衆娯楽を乗っ取った結果だ。彼らは幼稚園のころから「資本主義の邪悪さ」と「社会主義への同情」を刷り込まれた。洗脳だ。自由主義や資本主義の象徴であるトランプ氏は「叩きのめすべき敵」なのだろう。 
 彼らが、トランプ氏を政治的に貶めようとすればするほど、それが逆効果になっている。米国民の多くは「抗議団=米国を3等国に転落させたい連中」とみている。最近、テロリストを支持する集会が開催されたことが、トランプ氏への得票につながったことも、米国民は知っている。 
 かつて、カリフォルニア州は米国全体の流れを決めていたが、今や、他の49州の「軽蔑の対象」でしかない。現在のトランプ旋風は「伝統的な米国を守れ」という国民的運動ともいえる。
この内容は、多少は誇張があるものの、インテリ、非インテリを問わず、アメリカの保守が日頃考えていることなのでしょう。

トニー・マラーノ氏は、「米国型リベラリズムが、民主党や教育機関、映画などの大衆娯楽を乗っ取った結果だ」とのべていますが、これは事実のようです。実際、アメリカのメディアは9割がリベラル・左派であり、アカデミズムの世界もそのような状況で、特に歴史学の分野においてはほとんど100%がリベラル・左派であり、ルーズベルトを礼賛しなければ、歴史学会では生き残れないということをチャンネル・クララで江崎道郎がいたくらいです。その動画を以下に掲載します。


この動画をご覧いただくと、いかにアメリカの歴史学会が偏向していて、日本の歴史を歪めていることがご理解いただけるものと思います。

このような背景があるからこそ、ブログ冒頭の記事のハーバード・ロースクールの学生のような苦悩も発生するのです。そうして、インテリの中にもトランプ支持は多数いたのです。だから、裾野の広い支持者がいたために、トランプは勝つことが出来たのです。

ブログ冒頭の記事で山口真由氏が「トランプ支持を堂々と表明できる、粗野で素朴な南部の白人男性たちはよい」と語っていますが、この言葉から私が想像したのは、「カリフォルニア」という映画に出てくるブラッド・ピットです。ブラッド・ピットは若いころは、このような役や、ジャンキーの役が結構多かったですし、かなりのはまり役でした。


アメリカのメディアは、ポリティカル・コレクトネスをはじめとしたリベラル・保守の考え方を批判したり、異議を唱えたり、今回の大統領選挙では、クリントン支持ではなく、トランプ支持をしたりするような人間は、この映画「カリフォルニア」でブラッド・ビットが扮した、粗野で野蛮な男であるかのように、徹底的にイメージを刷り込んできたのです。

だからこそ、ポリティカル・コレクトネス等が何より重んじられるアメリカで、インテリに限らずこれを間違うと大変なことになり、信用を失い、名誉を失い、将来を失うかもしれないという極端な事態を招いてしまったのです。

そうした、メディア界や教育界、映画などの娯楽界などでは実際そのようなことがあるのでしょう。だから、多くの人はそれを恐れて、「隠れトランプ支持派」となったのです。

だから、今回の選挙戦では、世論調査ではまともな結果が出ずに、最後までクリントン優勢といわれながら、トランプが勝利したのです。

このトランプの勝利に関して、以下のようなツイートを発見しました。
このように感じる人は、アメリカ人でも多いと思います。日々の情報を大手メディアで入手している人は、リベラル・左派であろうが、保守であろうが、このようになってしまいます。そうして、今回の大統領選のトランプ氏勝利の後にメディアが報道してはじめて、リベラル・左派とは考えの違う人がアメリカに半分も存在したことを認識した人も大勢いることでしょう。

意図して意識して、全米唯一の保守系大手メディアであるFOXnewsを視聴するとか、軍の研究機関や保守系シンクタンクのサイトや印刷物を見るようにしなければ、直接対話をするようなことでもなければ、保守系の考え方を支持したり、これに親和的な人がアメリカにも大勢いるということはアメリカ人ですらわかりません。ましてや、私たち日本人はほとんどわかりません。

そうして、今回の選挙でアメリカの保守系の人が大勢いるということが大勢の人にわかつたのですから、私たちも当然のことながら、これからはアメリカにはリベラル・左派ばかりではなく保守系の人が大勢いるということを前提にアメリカを見るべきです。

従来の私たちは、実は半分のアメリカにはノータッチだったことを認識すべきです。

そうして、外務省やマスコミなどもそれを強く認識すべきです。そうでなければ、今回の大統領選のように趨勢を見誤ることになります。

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2016年11月9日水曜日

トランプ氏、激勝! 米国は「分断の危機」、世界経済や安全保障にも衝撃―【私の論評】米保守派の今まで声にならなかった声が、大声となった(゚д゚)!


ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事とトランプ氏(今月1日)
全世界が注目した米大統領選は8日(日本時間9日)開票され、不動産王である共和党のドナルド・トランプ氏(70)が、激戦区で連勝を続け、第45代大統領に就任することが確実となった。民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)は想定外の劣勢だった。「米国第一」を唱え、経済協定や同盟関係の見直しにも言及しているトランプ氏が勝利し、世界の経済や安全保障に超ド級の衝撃を与えそうだ。

 トランプ陣営は、ニューヨークのホテルで支持者集会を開催し、大歓声の中で「勝利の瞬間」を待ち構えていた。正面玄関付近でも数十人がポスターや横断幕を掲げて「トランプ! トランプ!」と連呼するなど、熱気に包まれていた。

 日本時間9日午後3時10分時点で、トランプ氏は選挙人(計538人)の過半数(270人)まで26人まで迫った。

 「史上最低と史上最悪の候補の争い」といわれた選挙戦を盛り上げたのは、トランプ氏の「隠れ支持者」の存在だ。

 過激な言動を繰り返すトランプ氏には、共和党支持者も「差別的思考の持ち主と思われたくない」と距離を置く傾向があり、世論調査では正確な支持がつかめず、共和党内にも亀裂を残した。

 だが、「オバマ政治が米国の衰退を招き、世界を大混乱させた」「クリントン氏は既成政治家の代表」と感じる無党派層を含む有権者の間で、トランプ氏は着実に支持を広げ、最終盤で逆転した。

 「隠れ支持者」は500万人どころではなかったようだ。

 クリントン氏は「米国初の女性大統領」を目指して当初、選挙戦を優位に進めたが、政治の刷新を求める声の高まりや、「私用メール問題」や「財団疑惑」「健康問題」などが響いて支持を落としていた。

 選挙戦で、白人中間層や非エリート層はクリントン氏を「ウォール街の手先」と批判し、女性やヒスパニック、エリート層はトランプ氏を「差別主義者」と攻撃した。背景にある「貧富の差」や「人種間の亀裂」…。激しい中傷合戦で、米国は傷つき「分断の危機」に直面している。

 劇薬の「トランプ大統領」の誕生で、世界に多大な影響を与える。日本も例外ではない。

 トランプ氏は選挙戦で、過激な保護主義政策を訴え、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの脱退を主張した。口癖が「ディール(取引)する」だけに、条件闘争との見方もあるが、公約実現に踏み出した場合、世界経済の混乱は避けられない。

 日米同盟についても、トランプ氏は「われわれには日本を防衛する財政的余裕はない」「日本は、在日米軍の駐留経費の全額負担をすべきだ」「応じなければ在日米軍の撤収を検討する」と発言していた。

 日本は在日米軍の駐留経費として、別枠の米軍再編関連予算などを除き、2016年度予算で約5818億円を計上している。トランプ氏は今後、金銭的な「負担増」と「役割増」を要求してくる可能性がある。

 日本の安全保障の基軸は「日米安保条約」である。日本単独では、中国や北朝鮮などの脅威に対抗できないからだ。今後、日本の政界では「トランプ政権とどう向き合っていくか」という議論が起こりそうだ。

 安倍晋三首相率いる自民党は「日米同盟」を堅持する方針とみられるが、蓮舫代表の民進党は、党綱領に「日米安保条約の廃棄」を掲げている共産党との選挙共闘を進めている。次期衆院選の焦点となるのか。

 ちなみに、トランプ氏は「アンチ・チャイナ(反中国)」的な言動も繰り返している。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「トランプ氏が勝てば短期的にはマーケットの混乱があるが、長期的にみれば米経済は回復するので日本経済にとってもプラスだろう。日本の外交・安全保障を立て直すチャンスだ」といい、続けた。

 「トランプ氏は『在日米軍の半減』を求めてくるのではないか。日米安保条約の改定や、日本の防衛費をGDP(国内総生産)比2%まで引き上げることも必要になるかもしれない。憲法9条を改正し、緊迫する東アジア情勢に対応できるよう自衛隊を再編すべきだ。安倍首相からトランプ氏に逆提案し、日米関係を次のステージに進めるべきではないか」

【私の論評】米保守派の今まで声にならなかった声が、大声となった(゚д゚)!

日本では、あまり注目されませんが、大統領選と同時に行われたもう一つ重要な選挙の結果を以下に掲載します。それは、連邦議会上院、下院の結果です。

その結果は、上のグラフをご覧頂いたとおり、上院でも下院でも共和党が勝利しました。ただし、上院ではぎりぎりで、過半数を獲得しています。

なぜ、これが重要かといえば、たとえ共和党のトランプ氏が大統領選挙に勝利したとしても、議会選挙で共和党が勝てなければ、就任初日からトランプ政権は「レームダック」政権になってしまう可能性があるからです。

仮にトランプ政権が実現したとしても、その行方を握るのは連邦議会選挙の勝敗だから
です。アメリカの大統領の立法権限は極めて限られています。大統領側の政党が議会で多数派を握ってなければ、野心的な法案は何も通ることはありません。

振り返れば、オバマ大統領の大型景気刺激策、医療保険改革法など目玉の立法成果は、すべて1期目の最初の2年間だけでした。なぜなら、その時期だけ民主党が上下両院で多数党だったからです。その後は、移民関連法案の事例のようにほとんど法案を通すことができず、オバマ政権はレームダック化しました。

今回の結果をみると、上院・下院ともに共和党が勝利しています。上院に関しては僅差ですので、圧倒的に有利ということはないですが、少なくともトランプ政権が最初からレームダック化することはなくなりました。

少し前置きが長くなりましたが、今回なぜ、トランプ氏が圧勝したのか、もうすでにいろいろと分析されています。細かな票読みなどは、元々私にはできないので、他のメディアをご覧いただくものとして、私としてはその背景について掲載しようと思います。

このブログは個人ブログでもあるため、アメリカ社会を直接分析することもできないので、私が知り得る範囲で、なぜこのような結果になったのかを掲載します。

ちなみに、このブログでは、他の日米のメディアがクリントン氏有利を喧伝していても、選挙戦序盤から直前まで一環して、トランプ氏が圧倒的に不利であり、クリントン氏が絶対優位などとは掲載しませんでした。最初から、最後までトランプ氏の勝利はあり得るものと確信していました。

では、なぜこのような確信を持てたかといえば、決して希望的観測ではありません。多くの人が未だ気づいていないアメリカ社会の特徴について私が知っていたからです。

これについては、前からこのブログを良く読まれている方はすでに知っていることと思います。なぜなら、過去に何度がそれについてこのブログに掲載しているからです。

それについて掲載した代表的な記事のリンクを以下に掲載します。
米大統領選「隠れトランプ支持者」がカギ?―【私の論評】トランプ氏台頭の背景には、米保守派の憤懣の鬱積がある(゚д゚)!
 

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に部分的に引用します。
アメリカのメディアはかなり偏りがあって、リベラル・左派が9割方を占めている状況です。残りの1割が保守系メディアなので、保守系の声などはかき消されてしまいます。

現実のアメリカは、本当にリベラル・左派と保守派に真っ二つに割れていて、おそらく比率は半々くらいなのでしょうが、マスコミ・学界などが、完璧にリベラル・保守に握られており、これによって形成される世論は、リベリラル・左派的な価値観が大勢を占めているということです。

誰でも、保守派の家に生まれば、最初は当然「保守的」な考えを持つのでしょうが、学校に入ったり、もっと上の学校に行けば、そこはリベラル・左派が大勢を占めています。さらに、社会人になれば、職場でも表向きはリベラル・左派な考えが大勢を占めています。場合によっては、リベラル・左派的な考えを否定すれば、職場で周りと馴染めないどころか、場合によって追い出されてしまいかねません。

このようなことが長い間続くとどのようなことがおこるでしょうか。テレビを見ても、新聞を読んでも、保守派の考えはマイナーな扱いです。保守的な考えを持つ人々には、当然のことながら憤懣が鬱積していきます。その憤懣をぶつける場所は残念ながら従来のアメリカにはありませんでした。 
ところが、その憤懣を受け止める、トランプ氏という大統領候補が出てきたのです、そうして、この大統領候補はうわべを飾ることなく、ずけずけとものを言いますし、兵役経験者ならわかるように、何かを語って説得する場合でも決して丁寧な言葉など使いません。どちらかというと、汚いくらいの言葉を使って、話相手にショツクを与えて、これからおこることは相手が予測もしないことであることを悟らせるというような方式をとります。 
実は、アメリカは変わりつつあるのです。その先駆けとなったのが、当初泡沫候補であるといわれたトランプ氏がここまでしぶとく大統領選を闘いぬいているという事実なのです。
 ブログ冒頭の記事では、米国は「分断の危機」としていますが、アメリカはもともと分断していたのです。ただし、アメリカのメディアのほとんどがリベラル・左派であり、保守の声などかき消され、あたかも分断していなように見えただけなのです。今回の大統領選挙により、それが大きくクローズアップされただけです。

このような、自分の考えをなかなか表明できず、アメリカの現状に不満をつのらせた多数の生粋の保守派と、それに生粋の保守派ではないもののアメリカの現状に業を煮やしているものの、これまた自分の考えをなかなか表明することのできなかった「隠れトランプ支持者」が 大勢存在したのでしょう。

そうして、この両者ははっきりと分かれているのではなく、重なる部分も多いのでしょう。危機感をつのらせた、米保守派はかなり熱心に選挙活動をして、多くの人々に働きかけたのでしょう。そうして、両者をあわせると実数として無視できないくらいの数になっていたのでしょう。これらが、トランプ氏を支持したのです。そうして、その多くは、アンケートなどでは、クリントン支持と答えておきながら、実際の投票ではトランプに入れたのでしょう。

だからこそ、CNNなどの世論調査では圧倒的にクリントン有利と言われていたものが、今回のトランプ氏の大勝利につながったのです。

このアメリカの現状に不満をつのらせた、アメリカの保守派の気持ちは間接的ながら、私も理解できたことがあります。

それは、Googleがオンラインで提供している、英語学習サイト"English Central"を視聴していたときでした。

Googleは、大統領候補としてはヒラリー・クリントン氏を支持していて、トランプ氏の台頭には危機感を抱いていました。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米産業界、トランプ氏へ懸念の声 グーグルも対策議論?―【私の論評】日本にとって自腹で動くトランプが大統領になるより、中華マネーで動くヒラリーのほうがはるかに危険(゚д゚)!
トランプ氏
詳細は、このブログをご覧いただくものとして、Googleがトランプ氏台頭への懸念を抱いていた部分をこの記事より抜粋します。
米国の産業界に、米国の大統領選の共和党候補者の指名争いで首位を走る不動産王トランプ氏の言動を懸念する声が広がっている。貿易や移民など経済政策での極端な持論が、堅調な米国経済の足を引っ張りかねないと心配するからだ。

ハイテク企業の集積地シリコンバレーの経営者らは、「移民敵視」発言に敏感だ。移民の力が技術革新を促してきた歴史があり、それを否定する考えに反対する。米メディアによると、アップルやグーグルなどの経営トップが3月上旬に共和党系会議に出席し、党の主流派議員も加わって、「トランプ対策」をテーマに話し合ったという。
この記事からもおわかりのように、Googleの経営層の考え方は、生粋のリベラル・左派なのだと思います。

ただし、検索エンジンの運用や、インターネット広告の運用などに関しては、特に生粋のリベラル・左派の考えなどあまり関係はないと思います。だからこそ、私自身も検索エンジンはGoogleをもちいていますし、このブログもGoogleが提供しているレンタル・ブログサービスであるBloggerを用いています。その他にもGoogle+やドライブやその他のサービスもかなり利用しています。

これらのサービスを利用している限りにおいては、あまりストレスを感じたことはありません。

しかし、英語学習サイト"English Central"は違いました。ただし、このサイト自体は英語学習サイトとしてかなりの優れものです。これは、現在ではGoogleの傘下にある、YouTubeの動画を英語教材に用いています。

英語学習サイト"English Central"の画面
動画をみるだけではなく、サイトで単語を学習したり、自分の発音をサイトが判定したりします。動画を見終わると、それを教材として英語の先生とskypeでレッスンを受けられるようになっています。

英語学習サイトとしては、申し分のない素晴らしいものだと思います。ところが、ひとつだけストレスを感じたことがありました。それは、この学習サイトで提供される動画の内容でした。

これは、当然誰かが世界中からYouTubeに投稿された動画の中から選んでいるのでしょうが、その内容がはっきりとリベラル・左派的なものを数多く選んでいるよう感じました。

全部が全部そうだというわけではないのですが、たとえば世界中の戦場で休戦日をある一定頻度で、一日設けるという考えを持った若者が、実際にそれを各国に訴えて、ほんの一部ですが、実際に受けいられている地域もあり、そのことが動画で流れてきました。

確かに、休戦日一日を設けること自体は、それはそれで良いこととは思いますが、それだけで根本問題が解消されるわけではありません。そうして、その若者の話すシーンもでてくるのですが、それが何というのか非常に軽いのです。

後は、アジアの動画を流すにしても、韓国の内容が不自然に多かったり、中国のものも流れるのに、日本はあまりないとか・・・・・。

その他にも、アメリカのリベラル・左派と思しき人のライフスタイルなどが結構流れてきたりで、何というから見終わると脱力感を感じることもありました。ある日PUNKの人生観に関する動画が流れきました。

punk的な生き方をするのは個人の自由だが、punkの
人生観を英語教材にされてはたまったものではない
それでも、最初は英語を学習するために、このサイトを使っているのだから、結局英語ができるようになればそれで良いと思い。視聴を続けていました。しかし、ある日とうとう耐え切れなくなて、これにお金と時間を使うくらいなら他のものに使ったほうが良いということで、視聴しはじめてから、数ヶ月で視聴を中止しました。

なんというか、一言でいえば軽佻浮薄とでもいうような内容に辟易としました。無論、私がそう感じただけのことかもしれないですが・・・・・。

無論、なぜこのようなことになったかといえば、私自身がどちらかというと保守的な人間だからだと思います。リベラル・左派の人ならば、これを見ても何とも思わないのかもしれません。だから、長い期間にわたり視聴して、それなりに英語力もアップできるのでしょう。

動画を選択している人も、おそらく自分がリベラル・左派なので特に意識しないで自分の価値観に従って選んでいるだけなのかもしれません。

しかし、私には、耐えられませんでした。このサイトでの学習は一日せいぜい1時間くらいなもので、休みの日などに長くても2時間くらいだったのに、この有様でした。日本のテレビなどの番組を見ていてもリベラル・左派的なものもありますが、これほど軽くはなかったものと思います。

しかし、これがアメリカに住んだとしたら、テレビをみてもラジオを聴いても、圧倒的にリベラル・左派的な内容がほとんどであり、それどころか、学校や会社に行ってもリベラル・左派的な内容の会話が多いのだと思います。

日本も無論そのような傾向はありますが、それにしてもアメリカほどではないのではないかと思います。

このような環境長年にわたって浸り続ければどうなるのかと考えてしまいました。アメリカの保守派は、それこそ、腹の中身と会話とは全く異なるものになり、本当に打ち解けた人にしか自分の本当の考えを話さなくなったのではないかと思います。これでは、アンケートも正確にはならないわけです。

今回のトランプ氏の大勝利は、米保守派の今まで声にならなかった声が、大きな声となった結果です。

それにしても、今回のトランプの圧勝で、米保守も見直されると思います。日米のメディアも反省して、保守の声も拾い上げるようにしていただきたいものです。

そうでないと、これからもメデイアは、今回のような大間違いをしでかすことになります。

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2016年11月8日火曜日

【電通に強制捜査】「この件はわれわれに判断できるレベルでなくなった」と厚労省幹部 安倍政権、高橋まつりさん過労自殺に重大関心―【私の論評】今回の強制捜査は、公取委の出番の前哨戦かもしれない?

【電通に強制捜査】「この件はわれわれに判断できるレベルでなくなった」と厚労省幹部 安倍政権、高橋まつりさん過労自殺に重大関心

電通の東京本社に家宅捜索に入る東京労働局の
労働基準監督官ら=7日午前9時27分、東京都港区
7日の朝。東京・汐留の電通本社ビルに東京労働局の担当者約30人が家宅捜索に踏み込んだ。高橋まつりさん=当時(24)=の遺族が過労自殺を公表して1カ月。支社、子会社も含めた立ち入り調査から強制捜査へと畳みかける厚労省の姿勢は強硬そのものだ。

 「この件はもうわれわれのところで判断できるレベルのものではなくなった」。ある厚労省幹部は立件を急ぐ政権の意向をにおわせる。

 国の基準を超える残業時間の上限を労使で合意していた電通。高橋さんのケースでは残業が月約105時間に及んだことも。自己申告に基づく会社の記録では労使協定の上限をぎりぎり下回っており、遺族は「過少申告の指示があった」と主張。違法な残業隠しの有無は捜査の焦点になる。

 安倍晋三首相の周辺は「首相は高橋さんのツイッターに目を通している」と首相の関心の高さを強調。今後働き方改革の議論で過労死防止がさらにクローズアップされそうだ。

【私の論評】今回の強制捜査は、公取委の出番の前哨戦かもしれない?

今回の強制調査は、厚生労働書の範疇など超え、政府、官邸の意向が働いているのは間違いありません。

安倍晋三首相は「働き方改革」を政権の「最大のチャレンジ」と位置付け、9月末に会議の初会合を開いて議論が本格化しています。長時間労働の是正は、「同一労働同一賃金」と並ぶ改革の柱です。

「過労死ライン」とされる労災認定基準(月80時間)を大幅に超える残業は蔓延(まんえん)しています。総務省によると、昨年の基準超え残業は、労働者全体の8%強。特に30代の男性に限ると15%を超えています。

厚労省が今年10月に初めてまとめた「過労死等防止対策白書」によると、昨年度に過労自殺(未遂も含む)で労災認定されたのは93件。勤務問題を原因の一つとする自殺は2159件にも上ります。

問題は、残業時間の上限に法的な“抜け道”があることです。政府内では、残業時間の上限を労働基準法に明記し、それを超過した場合の罰則強化を検討。政府は年度内にも「働き方改革実行計画」に具体案を盛り込み、労基法改正など関連法案を来年の通常国会に提出する方針です。

このような状況での、高橋まつりさん=当時(24)=の遺族が過労自殺を公表わけですから、安倍総理としてもこれは捨て置けません。捨て置けば、「働き方改革」を本気で実行する気があるのかどうかを疑われてしまいます。

高橋まつりさんの遺影と母親の幸美さん=10月7日、東京・霞が関
私には、母親の幸美さんの悔しさがにじみ出た写真のように見えます。
今回は、電通本社だけではなく、各地の支社でも、同様の強制捜査が行われたということからも安倍総理の本気度が感じられます。

労働基準法という法律には、使用者と労働者の間の労働契約の最低限を画する機能(専門用語で「直律的効力」などといいます)があり、たとえば、一日8時間・週40時間を超える労働時間について、残業代を支払わない、という契約をしても、無効となり、労基法通りの残業代を支払わなければなりません。

ただ、労働基準法には、この民事的な効力のみならず、行政取締法規・刑罰法規としての側面があり、いわば、三つの顔を持っているのです。

従前、東京労働局や配下の労基署等が電通に対して「立ち入り調査」を行っていましたが、これは「行政取締法規」としての側面からのものです。金融庁が銀行や証券会社に対してするような意味で、監督官庁として企業に行政指導や調査をしているわけです。
(労働基準監督官の権限) 
第百一条  労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
○2  前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
昨日の「強制捜査」は、これではなく、さらに踏み込んで、刑事訴訟法に基づいて裁判所に「捜索差押令状」を請求して行った正式の捜査と思われます。いわゆる「ガサ入れ」です。根拠条文は労基法102条です。
第百二条  労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法 に規定する司法警察官の職務を行う。
この条文を読んで頂ければ分かるように、労働者を使用する企業から見た場合、労働基準監督官は、単なる監督官庁ではなく、場合によっては労基法違反を犯罪として捜査をされる警察官でもあるのです。昨日のニュースは、法人としての電通や、場合によっては、使用者個人が、犯罪を犯した(可能性のある)者として、捜査の対象となっている、ということを意味するのです。

労働基準監督官というと、最寄りの労働基準監督署(労基署)にいるイメージが強いですが、各都道府県に、その上級機関である「労働局」があり、ここにも監督官はいます。さらに各都道府県の労働局は厚生労働省の労働基準局の指揮命令を受けています。ここにも、当然、監督官はいます。本省-局-労基署という三層構造になっています。

今回の捜査ですが、東京労働局ばかりが目立ちますが、大阪、京都、名古屋の支社にも強制捜査がはいりました。当然、大阪・京都・名古屋の労働局も動いています。そうすると、厚生労働省の本省が指揮して、各地で一斉捜査をしたことになります。

ここから先は、私の推測ですが、これまでの立ち入り調査の結果、かなり悪質な労基法違反の証拠が見つかった可能性があります。電通は、残業時間は申告制になっているところ、1991年の過労自死事件の後、少なくとも本社については、別途、労働者の在社時間を自動的に測定するためのシステムを導入しているはずです。残業の申告が適正にされていなければ、在社時間と労働時間に大きな差が生まれる可能性があります。また、この間、実際の残業時間と申告された残業時間の差がかなりある、という報道がされています。

労働時間の資料は証拠隠滅できない(3年の保存義務があり、隠滅すると別途犯罪になります。)ので、今回の強制捜査は、立ち入り調査で判明したそれらの証拠(具体的には「三六協定」の上限を超えた違法残業の証拠)を、正式に差押え(押収)するための措置だと考えられます。

よく「書類送検」という言葉が使われますが、実は、捜査機関(今回の場合、労働局と労基署)は、犯罪として捜査した以上は、原則的に、送検する(全件送致主義)のです。ただ、厚労省の本省が乗り出して、強制捜査に入った以上、犯罪として立件できると考えた可能性が高く、犯罪を証明する証拠とともに各地の検察庁に「送検」される可能性が高いでしょう。

重要なのは、実は、その先です。実際に起訴するか否か、と、正式に起訴するのか、略式起訴で罰金刑で終わらせるのかを決めるのは、各地の検察庁です。現状、労働基準法の運用が消極的な理由はいくつかあるのですが、そのうちの一つは、検察庁が、この種の事件について、やる気を出さないためです。

しかし、ここまで大規模な捜査が行われたのと官邸の意向も働いている以上、潮目は変わった、と見るべきです。東京地検を始め、検察庁が、この件をどこまで本気で取り組むかも、問われます。悪質な実態が証拠で裏付けられた場合には、使用者個人への懲役刑の適用も含め、労基法の積極的な運用が期待されると言えるでしょう。

東京地検 得総本部の査察風景
また、労働基準監督官の活躍の一方で、こういう電通に対して大量に業務を発注していると思われる政府の姿勢も問われてくると思います。違法残業を立件する一方で、違法残業の元となる業務を発注していたのでは、政府がマッチポンプをやっているようなものです。

この政府のマッチポンプですが、現状ではそうせざるを得ない理由もあります。

電通は表面上は一広告代理店にすぎませんが、実は「電通」は単体では世界最大の約1兆4千億円の年間売上高を誇る広告代理店であり、日本では圧倒的な支配力を誇っています。社員約5700人を抱え、メディア・政財界に巨大な影響力をもっています。日本の大企業のほとんどが電通に広告を任せています。

電通1社で4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告市場のシェアは5割に及びます。日本の広告業界は、電通と博報堂を合わせて2社で7割を超えるという異常な状況になっています。

企業団体の宣伝広告費は新聞社やテレビ局にとって貴重な収入の柱となっており、新聞やテレビ等の主要マスコミは広告収入がなければ、成り立ちません。

これは、日本の主要マスコミに対する広告代理店の影響は絶大であるということであり、生殺与奪の権を握っているといっても過言ではありません。


このように電通が独占企業として広告業界に君臨しているため、電通はマスコミを事実上の支配下に置くことが可能となっているのです。現在のマスコミの報道がかなり偏向しているにはこのような背景もあります。

電通は日本のメディアを牛耳り、思いのままに操っているのです。その結果として、日本政治に対しても絶大な影響力を行使しているのです。

電通がこのようなビジネスモデルを築いた背景については、以前このブログでも説明したので、これに関してはその記事に譲るものとして、とにかく現状の電通が巨大な影響力を行使しているのは間違いないです。

以下に当該記事のリンクを掲載します。
電通東大卒女性社員自殺 一般家庭出身社員へのしわ寄せ―【私の論評】日本人を駄目にする悪魔企業電通は使うな、入るな、入れさせるな(゚д゚)!
電通本社ビル
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を掲載します。 
悪魔企業電通を弱体化するために、私達としては、日本人を駄目にする悪魔企業電通は、広告媒体としてなるべく使うな、雇用先として最悪の電通には入るな、入れさせるなという方針を貫くべきでしょう。 
広告媒体として使わないということは、現在では大企業には無理なのかもしれません。しかし、大企業の日本に占める割合は数%にすぎません。その他多くの星の数ほどある中堅企業や中小企業などは電通など直接にも間接的にもつかわずに、新興インターネット媒体などを使うべきです。 
就職を考える学生やその親たちも、絶対に電通を就職先に選ぶべきでもないし、選ばせるべきではありません。一般家庭出身の人であれば、電通に入ってしまえば、奴隷のように働かされるだけです。
電通に師弟を入れた著名有名人・社会的地位の高い人達は、来高畑淳子のようにの臍を噛むかも
著名・有名人・社会的地位の高い人達の師弟も、電通に入るべきではありません。入って、10年もすれば、他社では使いものにならなくなってしまいます。単なる馬鹿に成り果てて、社会に不適応な人間になるだけです。 
自分たちの子どもや孫を電通に入れるべきではありません。電通に子どもを人質にとられると、自分の仕事や事業に支障がでるかもしれません。何よりも、自分たちのこどもが、いわゆるバカ息子、バカ娘になる可能性が高まり、バカ息子にはバカ嫁が、バカ娘にはバカ婿が来ることになり将来に大きな禍根を残すことになります。 
このようなことを地道に続けていけば、電通はやがて姿を消すか、姿を消さないまでも、悪魔ではなくなり、普通の企業になることでしょう。電通が普通の企業になり、まともにイノベーションできる組織になれば、それはそれで良いことです。しかし、今のままでは日本人にとって良いことは一つもありません。
この結論で、私は日本人を駄目にする悪魔企業電通は広告媒体として使わないこと、また新卒などはこの会社にはいるべきでないこと、親などは自分の子どもをこの会社に入れさせるなと主張しました。

しかし、電通の市場独占状態とそれによる実質上のマスコミ支配をやめさせるには、これだけでは随分長い間時間がかかってしまいます。

しかし、これにはもう一つ非常に短期間で効果的に電通の市場独占状況をやめさせる方法があります。

独占といえば、これは当然のことながら、公正取引委員会のことが頭に浮かぶのが当然のことと思います。

しかし、公取委は過去においては、電通を追求することはありませんでした。

2012年当時でも、テレビのプライムタイム(19~23時)で電通は番組CMの49%(取扱い秒数シェア)を占めていました。CM枠への新規参入が極めて難しいことが、公正取引委員会などの調査で判明していました。

この調査報告書は以下のリンクから入手できます。
広告業界の取引実態に関する調査報告書
ところが公取委は、広告業界の寡占にメスを入れませんでした。背景を探ると、2002年まで公取委員長を務めた根来泰周氏が、電通に恥ずかしげもなく天下っていたのです。就任期間は2003~2010年でした。

根来氏は同時に、大日本印刷や三菱ウェルファーマといった公取委の職務権限が及ぶ巨大企業の役員に渡るなどして荒稼ぎしていました。その他歴代公取委員長も、資生堂や旧新日本石油などに再就職していました。

電通は、人脈重視の経営戦略をとっています。カレル・ヴァン・ウォルフレンは著書『日本・権力構造の謎』の中で、以下のように指摘しています。
電通が、これほど無敵の存在になれたのはその人脈のおかげである。同社の社員採用方針でつねに目指してきたのは、テレビ界や出版界のトップ・クラスの管理者や幹部役員、および特別な広告主、プロの黒幕などの息子たちや近親者からなる人材プールを維持拡充することであった。このような人脈人事がクライアントや政府機関、放送会社や出版社との非公式なつながりを強化するのに、いかに有益だと会社が考えているかが判る。
 電通は、さまざまな団体と「非公式なつながりを強化する」戦略を前提に人員採用の方針が打ち出されているというのです。この本が出版されたのは1989年です。

公職にあったものが、退任後、民間企業の幹部に就任することを「天下り」と言います。天下りの受け入れは、ウォルフレンも指摘するように「非公式なつながりを強化する」ことが目的である場合が多いです。

電通について言えば、同社は公取委委員長を6年にわたって務めた人物を、監査役として在籍させていました。その人物こそ根来泰周氏です。

参考までに、根来氏以外の歴代委員長の天下り先も紹介しておきます。

■小粥正巳(1992年9月24日-1996年8月27日)

 ※日本開発銀行総裁
 ※日本政策投資銀行総裁
 ※日本経済研究所会長
 ※資生堂

■梅澤節男 (1987年9月24日-1992年9月23日)

 ※みずほコーポレート銀行
 ※旧新日本石油(現・JX日鉱日石エネルギー )

小粥氏が再就職した資生堂は、化粧品業界では言わずと知れたトップ企業です。梅澤氏の天下り先である2社も、それぞれの業界のトップ企業です。たとえばJX日鉱日石エネルギーの売り上げは、業界で第1位です。

つまり、元公取委委員長らは、独禁法を常に意識しなければならない企業に受け入れられているのです。その最も典型的な例のひとつが、根来氏が天下った広告業界の巨塔、評論家から政治家までひれ伏す電通なのです。

しかし、公取委員長を務めた根来泰周氏が電通を退任してから、すでに6年もの月日が流れています。

さらに、最近は、公取委も変わってきています。たとえば、新聞発行本社が販売店に余分な新聞を買わせる「押し紙」をめぐり、今年3月末朝日新聞社は、公正取引委員会から「注意」を受けていました。

これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
発行部数を「水増し」してきた朝日新聞、激震! 業界「最大のタブー」についに公取のメスが入った―【私の論評】朝日はペット便所紙、引っ越し緩衝材、着火剤に最適!他に使い道なし(゚д゚)!
新聞販売店に山積みになった「押し紙」(偽装部数) 写真はブログ管理人挿入
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、押し紙は、独占禁止法の特殊指定で明確に禁止されているにもかかわらず、新聞業界では長年にわたり行われてきました。大手新聞で、押し紙を廃止したのは産経新聞だけです。

新聞業界「最大のタブー」と言われる押し紙問題に公正取引委員会が踏み込むのは異例のことで、朝日新聞社が今後どのような販売政策を実行していくのか、業界の先例として注目に値します。

この新聞業界「最大のタブー」ともいわれた、領域に踏み込んだ公取委です。電通の寡占状態についても、メスをいれる可能性は十分にあると思います。

電通1社で4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告市場のシェアは5割に及ぶという状況は異常ですし、それに大手企業に限っていえば、ほとんど100%が電通、博報堂が占めています。

平成20年には業界首位の電通がネット広告大手のオプトへの出資比率を引き上げ。さらに平成21年7月、ネット広告大手のサイバー・コミュニケーションズを完全子会社化。平成25年3月には英イージスグループを買収し、海外展開も加速しています。

また、業界2位の博報堂DYホールディングスはアサツーディ・ケイとの合弁で設立したネット広告大手のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムを連結子会社化。さらに同子会社の博報堂は平成21年2月、PRエージェンシーであるケッチャム(米)と業務提携を結びました。

業界首位の電通と2位の博報堂による再編は活発化しており、このままでは、業界における2社の寡占化は今後も進むものとみられます。

本来の公取委の機能からすれば、これを放置しておくわけにはいかないはずです。政府・官邸もこれには危機感を抱いてると思います。

私自身は、今回の厚労省による電通本社・支社に対する強制捜査は、実は公取委による審査の前哨戦ではないかと思っています。

そもそも、電通が市場を寡占して、さらには寡占を強化するためのさまざまな団体と「非公式なつながりを強化する」戦略を前提に人員採用の方針が採用されていなければ、過労死などの問題など起こらなかったはずです。

寡占により、仕事は無尽蔵といつても良いほどあり、同じ社員でも「非公式なつながりを強化する」ための人材はあまり仕事をせず、そうではない人材にしわ寄せが行くことが過労死の原因だからです。

この構造を壊さなければ、問題は根本的に解決されません。私は、電通をいくつかに分割するのが一番良い方策だと思います。それによって、電通の寡占状況がなくなり、それによって労務環境が改善されるとともに、マスコミの偏向も是正されると思います。

どう考えても、電通の寡占状態は良いことではありません。やはり、早急に公取委が審査すべきものと思います。

そうして、官邸、安倍総理は当然のことながら、このようなことを視野に入れていると思います。

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