2018年9月12日水曜日

エンゲル係数の上昇傾向はアベノミクスのせいなのか 実情無視し荒唐無稽な結論―【私の論評】エンゲル係数は日本では、馬鹿発見のための指標になってしまった?


高橋洋一 日本の解き方

日経新聞では食品の値上がりと働く女性の増加が
エンゲル係数をおしあげているとしている………

日経新聞のエンゲル係数に関する記事に掲載されていたグラフ

1世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合を示す「エンゲル係数」が急上昇しているとして、「アベノミクスのツケ」「庶民の生活は苦しくなっている」などと一部で報じられた。

 エンゲル係数はドイツの社会統計学者、エルンスト・エンゲルが19世紀中頃に提唱したもので、一般的にその値が高いほど生活水準は低く、成長して生活水準が高まるとエンゲル係数は低下するとされていた。これは「エンゲル法則」と呼ばれることもある。

 実際の数字を、総務省の家計調査からみてみよう。1960代初頭のエンゲル係数は39%程度だったが、その後は高度成長とともに、「法則」どおりに低下傾向となった。

 90年代になり、25%を割り込むと低下傾向が鈍化するようになった。2005年の22・7%が底で、その後は若干、上昇傾向になっている。直近3年の15~17年はそれぞれ25・0%、25・7%、25・5%だ。

 ここで注意すべきなのは、「エンゲル法則」には、人々のライフスタイルが変わらないという大前提がある。

 例えば、若年世代と老齢世代でも違う。一般的には若年世代は所得も多く、支出も多様であるのでエンゲル係数は小さいが、老齢世代では所得も低く支出も限定的なのでエンゲル係数は大きい。

 高齢化が進展している日本では、人口構成の変化によってエンゲル係数が高くなる傾向がある。20代のエンゲル係数は23%程度であるが、60代以上では28%程度だ。

 さらに食費についても、「家庭食」か「外食」かは食文化や習慣や家庭生活の外部化によって左右されるものなので、生活水準とはあまりリンクしていない。最近でこそ日本は外食が多くなったといわれるが、かつては国際比較すると日本は家庭食が多い国だった。一般に外食比率が高くなると、エンゲル係数も高くなる傾向がある。

 日本のエンゲル係数の動きをみると、1990代までは高齢化の影響なしで「エンゲル法則」そのものであり、先進国とほぼ同じ最低水準の25%程度まで低下した。その後、高齢化の影響で若干上昇したとみることができる。外食比率が高くなったことも上昇に拍車をかけているとも考えられる。

 しかし、エンゲル係数が上昇したといっても、30%に戻ることはあり得ず、下限水準に達しつつあるなかでの3%程度の限定的な動きにすぎない。

 これを「アベノミクスのツケ」というのはあまりに無理がある。アベノミクス批判は荒唐無稽なものが多いが、これもその一例だ。そもそも上昇傾向は2005年からであり、アベノミクス以前からみられている現象だ。

 エンゲル係数のような経済指標については、各国の国際比較も時系列でも長期のデータを取ることができる。それをみれば荒唐無稽な結論は避けられるはずなのだが、嘆かわしいかぎりだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一

エンゲル係数がなぜ上がるのかという、ブログ冒頭の高橋洋一氏の主張は正しいです。これについては、以前このブログで解説したことがあり、基本的に高橋洋一のこの見解と変わるところはありません。以下にその記事のリンクを掲載します。
エンゲル係数「上昇」の深層 「生活苦」と「食のプチ贅沢化」の関係―【私の論評】フェイクを見抜け!上昇の主要因は高齢化(゚д゚)!
この記事の元記事は、JCASTニユースの記事です。この元記事はさすがに最近のエンゲル係数の上昇は、アベノミクスのせいなどという荒唐無稽な結論ではないものの、「プチ筮竹」「食のプチ贅沢化」などわけのわからない分析をしています。それが気になったので、当時いろいろ調べてこの記事を作成しました。

この記事は、2017年5月14日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からグラフとその説明などを以下に引用します。
"
実は、07年以降のエンゲル係数上昇は、日本に限らず他の先進国でも起こっています。例えば、欧州連合(EU)の28カ国でみても、07年に23・2%まで低下した後で上昇し、14年は23・8%となりました。特にフランスやイタリアでは07年以降の上昇が大きいです。


07年以降のエンゲル係数の上昇が先進国で共通している背景には、リーマン・ショック以降、景気が落ち込んだのですが、食費は切り詰めにくいので結果的にエンゲル係数が上昇したためと考えられます。そうした世界の動きに加え、日本では、14年4月の消費増税の影響で所得が伸びなかったことの要因が大きいです。

さらに、高齢化の影響もあってエンゲル係数が伸びた面もあります。以下の図をご覧になって下さい。

データ出典 総務省統計局「家計調査報告」 以下同じ

これは、世代別のエンゲル係数の動きを示したものです。この図から明らかな通り、基本的には、若い世代ほどエンゲル係数が低く、高齢世代ほどエンゲル係数が高くなっていることが分かります。

高齢世代のエンゲル係数が高くなる理由は、多くの場合、主な収入源が、年金と貯蓄の取り崩しに限られる中、消費支出を切り詰めざるを得ない一方で、生きていくのに必要な食費は、消費支出全体の減少よりは減らない(経済学的には、食料などの必需品は需要の所得弾力性が小さい)ため、エンゲル係数が大きくなって見えるためです。

次に、下図をご覧ください。


これは各年のエンゲル係数を、世代別に分解したものです。この図から分かりますように、近年、日本のエンゲル係数に占める60歳世代以上(緑色の棒+青色の棒)のウェイトが上昇していることが確認できます。つまり、最近のエンゲル係数の上昇には高齢化が影響しているということです。これは、他の先進国でも似たような状況にあるものと考えられます。

さらに、下図をご覧ください。


この図はエンゲル係数の変化に対して、各世代のエンゲル係数の変化の寄与度を示したものです。同図からは、やはり高齢世代、特に70歳世代以上のエンゲル係数の上昇(緑色の棒)が、日本全体のエンゲル係数の上昇をけん引していることが確認できます。

もし、高齢化がエンゲル係数に与える影響が2005年水準のままであれば、他の条件が一定のもとでは、エンゲル係数は順調に低下し、例えば2016年では21.2%とまで低下していたものと、簡単な計算により確かめることができます。

結局、エンゲル係数の趨勢的な上昇をもたらしているのは、高齢化と先に述べたものも加わったことが主要因であり、アベノミクスの影響ではないということです。
"
結局、日本でのエンゲル係数上昇の主要因は高齢化によるものです。

冒頭の記事の一番最初に掲載したのは、日経新聞に掲載されていたグラフです。日経新聞は、さすがに上昇の原因はアベノミクスなどという荒唐無稽なことは言っていませんが、それにしても、主要因は高齢化とはいわず、食品の値上がりと働く女性の増加のためとしています。これらの要因も完全否定はできないかもしれませんが、主要因ではないでしょう。

あまりに分析が甘すぎます。ところで、上の高橋洋一の記事のでは、"「エンゲル係数」が急上昇しているとして、「アベノミクスのツケ」「庶民の生活は苦しくなっている」などと一部で報じられた"としていますが、これは一体どのメデイアなのでしょうか。

気になったので調べてみました。まずは、日刊ゲンダイの記事です。
アベノミクスのツケ…エンゲル係数が“最悪”視野に急上昇中
2018年9月4日
ちなみに、日刊ゲンダイは第一生命研究所の熊野氏の発言を引用していました。その熊野市のレポートのリンクを以下に掲載します。

 次は第一生命経済研究所のレポートです
ECONOMIC TREND〜エンゲル係数と高齢化~直近 12 か月で再び最高に~
 第一生命経済研究所 熊野 英生  2018 年 8 月 30 日(木)
熊野 英生氏

以下は、東洋経済の記事です。
エンゲル係数の上昇はアベノミクスの結果だ
国会論戦を受けて、分析してみた
末廣 徹 : みずほ証券 シニアマーケットエコノミスト
2018年3月20日
末広徹氏

東洋経済がよく、このようなフェイクを掲載したものだと呆れ果ててしまいます。

それにしても、素人の私がインターネットで調べれば、エンゲル係数上昇の主要因は高齢化であるということなどすぐに調べられるのに、名のある保険会社や証券会社などの研究員やそれなりに名のある雑誌がこのようなフェイクを平気で流すというのは一体どういうことなのでしょうか。

日本では、エンゲル係数は、馬鹿発見のための指標になってしまったのでしょうか。エンゲル係数=アベノミクスと声高に叫ぶ連中はすべて馬鹿だとみて間違いないです。これからも、このような馬鹿が出て来ると思います。

【関連記事】

参院予算委 アベノミクスの問題点を追及―【私の論評】主な原因は高齢化!「エンゲル係数が~」と叫ぶ輩は悪意に満ちた馬鹿(゚д゚)!


2018年9月11日火曜日

【永田町・霞が関インサイド】試練の日米首脳会談、安倍首相はトランプ氏を「説得」できるか―【私の論評】この心配は杞憂に終わらさなければならない(゚д゚)!

【永田町・霞が関インサイド】試練の日米首脳会談、安倍首相はトランプ氏を「説得」できるか

安倍首相(左)と相性のいいトランプ氏だが、貿易対決を視野に入れているのか
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 安倍晋三首相は23日午前、国連総会出席のため政府専用機で羽田空港をニューヨークに向けて発つ。そして、日米首脳会談前日の24日、ニュージャージー州にある「トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ」(ベッドミンスター)で、ドナルド・トランプ大統領と一緒にラウンドする。

 同ゴルフ場は、全米女子オープンが開催される名門コースである。

 昨年11月のアジア歴訪初日、東京都の米空軍横田基地に降り立ったトランプ氏は大統領専用ヘリコプター「マリーンワン」で、埼玉県川越市の「霞ヶ関カンツリー倶楽部」に向かった。

 安倍首相が東コース8番ホールで素晴らしいティーショットを打ち、トランプ氏は自らの拳を突き出して、安倍首相の拳にタッチした。

 日本では「グータッチ」と言うが、米国では「Fist Bump」と呼ぶ。アスリートや若者によく見られるあいさつである。

 両首脳が互いに「シンゾー」「ドナルド」とファーストネームで呼び合う親しい間柄の象徴とされてきた。では、肝心の安倍・トランプ会談でも、その親しさが継続するのだろうか。

 筆者の関心事は、その一点に尽きる。なぜか。日本の経済界が今、固唾をのんで注視しているのはトランプ氏が対米輸出自動車に追加関税25%を課すのかどうかである。仮に、25%関税が発動されれば、メルセデス・ベンツなど100%完成車を輸出しているドイツはもとより、対米輸出依存度が高い日本も壊滅的なダメージを受ける。

 自動車業界は何とか阻止してほしいというのが本音だ。だからこそ、安倍・トランプ会談に多大な期待をしている。

 日米首脳会談に先立つ21、22両日、ワシントンで第2回日米貿易協議(FFR)が開かれる。茂木敏充経済再生相は6月初旬に続いて、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表とタフな交渉を行う。

ライトハイザー代表

 超ワンマンのトランプ氏に逆らえないライトハイザー氏は、改めて自動車関税を持ち出すだけでなく、日米2国間貿易協定(FTA)を求めるなかで円安規制の「為替条項」にも言及するのではないかと指摘されている。

 日本にとって悪夢と言っていい「ワースト・シナリオ」である。

 そうした中で、米紙ウォールストリート・ジャーナルは、トランプ氏が日本との貿易交渉が不首尾に終われば、安倍首相との友情関係にピリオドを打つと述べたと報じた。

 すべては安倍首相のトランプ氏説得に懸かっているのだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】この心配は杞憂に終わらさなければならない(゚д゚)!

結論からいうと、私自身はこの心配は杞憂に終わるのではないかと思っています。自動車関税に関しては、このブログでも以前述べたように、すでに日本は産業構造をかなり変えて、米国向けの自動車の多くを米国で製造しています。

「為替条項」に関しては、物価目標2%に未だ全く届かない状況なので、日本が円安誘導しているなどということは全くありえないです。

まずは自動車のほうから解説します。これについては、以前もこのブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
【瀕死の習中国】中国国有企業の「負債はケタ違い」 衝撃の欧米リポート―【私の論評】米中貿易戦争にほとんど悪影響を受けない現在の日本の構造上の強み(゚д゚)!
 
円高下で実現した日本のグローバル・サプライチェーンにより、日本は海外で著しく雇用を生む国になっており、それが所得収支の大幅黒字に現れています。故に日本はもはや貿易摩擦の対象にはなりえない国といえます。日本が貿易摩擦フリー化、為替変動フリー化していることがうかがえます。 
・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・・ 
では日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのかといえば、それはハイテク分野の周辺と基盤の分野です。 
デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。 
また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤で見事に生きのびています。 
要するに、日本産業は超円高下で実現したグローバル・サプライチェーンにより、海外で著しく雇用を生む国になったので、米国の経済制裁の対象にはなりにくいということです。

さらに、日本の産業構造は、ハイテクを支える、素材、部品、装置などの基盤や周辺部分で必要不可欠とされる部分に特化しているため、米国の経済制裁の対象とはなりにくい体質になっているのです。

わかりやすく言うと、たとえばアップルがこれから、奇抜でみたこともないような、ガジェットを生み出そうとした場合、日本の素材、部品、装置などが必要不可欠であるということです。

米国が「通商拡大法232条」に基づき日本製アルミ製品に対して10%の追加関税を導入してから6カ月が経過しましたが、アルミ圧延品の対米輸出量に大きな変化はみられていません。

同じく、鉄鋼は7月時点の統計では、米国(11.5万トン、同26.9%減)が3カ月連続の減少となっています。このうち特殊鋼については、米国向けの輸出がどうなっているのか、手元に資料がないのですが、特殊鋼全体の輸出量に目立った変化はみられません。おそらく米国向けもさほど影響がないものと考えられます。

鉄鋼でも、特殊鋼は単価が高いですから、鉄鋼業界というくくりでいうと、米国の追加関税が鉄鋼業界に甚大な影響を与えているということはなさそうです。

実際、もし日本の鉄鋼業界が、苦境におちいっていたとしたら、マスコミもそれを報道にしているでしょうが、未だにそのような報道はありません。

さらに、鉄鋼・アルミは日本で製造したものを輸出しているわけですが、自動車は米国向けは多くが米国内で製造されています。実に米国向け日本車の7割が米国で製造されています。

以下若干古いですが、2015年のデータを用いて説明します。多少古くても、十分エビデンスとして通用すると思います。

日本が国内需要を大幅に超過して400万台のも自動車を生産しているのは事実ですし、それと同じくらい米国が輸入に頼っているのも事実です。日本は160万台を米国に輸出しています。その一方で、およそ390万台を米国で生産しています。先にも述べたように、米国内での雇用も生み出しています。

日本の自動車輸出国別 2015年

台数割合
US1,604,46635%
EU524,77011%
オーストラリア339,8417%
UAE186,7704%
中国169,2894%
サウジアラビア169,0434%
ロシア145,0433%
カナダ144,7623%
メキシコ115,8592%
オマーン99,2272%
合計4,579,078

JAMA Report: Driving America's Automotive Future

JAMAによると、日本メーカーは390万台を北米で生産し北米で販売しています。その割合は北米で販売される日本車の75%になります。同会のデータでは約160万台が北米に輸出されているので、割合としては大体一致します。

また、同会は150万人の雇用を生み出していると報告しています。

The 2015 American-Made Index では主要な車種別の工場労働者数が紹介います。北米で人気の高いトヨタのカムリがChevroletのTraverseのトリプルスコアにもなる7000人も雇用しています。

トランプ大統領は就任前から一貫して、日本がアメリカ車を買わないと述べていました。確かに日本は北米、欧州に比較すると圧倒的に国内メーカーのシェアが高いです。

なぜ日本で「アメ車」が売れないのか。その理由についてBBCは「道路事情がアメリカと異なり、家の前の道路や駐車スペースが狭い」と説明しています。

レポーターが実際にアメリカ車を日本で運転。すると、走行や駐車に苦戦したようです。この点、日本の軽自動車はスムーズにこなすことができ、アメリカ車が日本に向いていないことを紹介しました。

日本の車と比べ、ハンドルの位置が反対だったり、燃費が悪かったりすることにも触れ、性能や様式の違いが売れない要因に挙げられると言及しました。

それに、日本人は外国車を買わないわけではありません。むしろ、ベンツやBMWなどのドイツのメーカーは好まれています。日本で売れる外国車の70%が、ドイツ車だといいます。

過去にはアメリカ車、現在はドイツ車を所有する日本人の女性は、BBCのインタビューに対し、「(アメリカ車は)形は好きだが、乗ると安っぽくて安全と感じない。ドイツ車と比べてサービスが悪い」と話しました。

BBCはさらに、日本はアメリカ車のような輸入自動車に関税をかけていないが、アメリカは日本車の輸入に対して最大25%の関税をかけていると説明。「文句を言うのはやめてドイツ車を見習うべきだ」と言い放ちました。

ニューヨークタイムズも同様に、日本人がアメリカの車を求めていないと指摘しています。

2016年の自動車販売台数の500万台のうち、アメリカ製は1万5000台で、わずか0.3%にとどまります。トヨタの大規模ディーラーがカルフォルニア州で販売する車の数よりも少ないといいます。

東京都町田市で、24年前からアメリカ車専門ディーラーを営む男性は、「当時はすぐ故障し、よく客に怒られた。同じ値段だったら、日本車の方がお得だ」と、ニューヨークタイムズの取材に対して答えています。

同紙は、アメリカの自動車が、信頼性が低く燃費が悪いというイメージがついてしまっているのは問題だと指摘しています。

また、アメリカの車を愛用する男性は「アメリカの自動車メーカーは貿易障壁について文句を言うのをやめ、魅力的な車をつくることに集中するべきだ」と話しました。

こうした報道に対して、Twitter上では「売れないように仕組んでいるわけでもなく、日本人受けするアメ車がない」と賛同する声が相次いでいます。

日本人が外車ではなく、日本車を嗜好するというのは変えようがないわけで、米国の自動車メーカは、日本に車をうりたければ、日本人が好むような車をつくるべきです。トランプ大統領が、もっと日本人はもっと米国車を買えと言ったとしたらこれは、もう内政干渉としかいえません。

以上のことからして、対米輸出自動車に追加関税25%はどう考えても無理があることでしょう。米国側がいえるとすれば、さらに米国内の製造を増やすように勧告できるくらいなものです。

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円安規制の「為替条項」については、問題外です。先にも述べたように、物価目標はなかなか達成できそうにもありません。

量的な金融緩和を拡大すれば、相対的にドルより円が増えます。そうなれば、円が安くなります。円が安くなれば、日本から米国に輸出する場合、相対的に価格が安くなります。一方米国から日本に輸出する場合、相対的に価格が安くなります。

円安になれば、貿易では日本にとって有利、米国にとって不利になるわけです。しかし、日本の金融緩和は円高誘導のために実施しているわけではなく、物価目標を達成するために実施しています。

そうして、物価目標がどうなったかといえば、黒田総裁は3月の時点で、物価目標の2019年度達成を確信し、「その頃には出口策を検討しているはず」と述べていました。

確かに、この時点では、物価目標達成にはかなり自信のほどが伺えました。実際、消費者物価統計では、2月の「帰属家賃を除く総合」が1.8%の上昇と、2%一歩手前まで高まり、「コアコア」も直近半年では年率1%強まで上昇ペースを高めていました。

ところが、3月・4月(東京都区部)の物価統計が、この日銀の期待を打ち砕く結果となりました。実勢としての上昇率を見るために用いられる「季節調整後」の前月比が、3月・4月と続けてマイナスになったのです。

このため、一時半年前比年率で1%に達した「コアコア」は、3月までの半年では年率0.6%に、4月までの半年では年率0.2%に、直近3か月では年率マイナス0.8%に低下しました。

こうした状況を見る限り、2019年度中に2%に高まることは事実上不可能となりました。

これが、2%などとうに通り越して、4%でも超えていれば、米国から為替操作していると言われても仕方ないかもしれませんが、今の現状では、米国側が円安規制の「為替条項」を持ち出すことは到底不可能です。

もし、そんなことを言えば、米国こそ為替操作国ということになってしまいます。なぜなら、米国はリーマン・ショック後にすぐに量的緩和を実施し、インフレ率2%などとうの昔に通り越しているからです。

これだけ、交渉に良い材料が整っているわけですから、安倍総理はトランプ大統領をかなり説得しやすいですし、第2回日米貿易協議(FFR)において、茂木敏充経済再生相はライトハイザー代表を説得しやすいでしょう。

茂木敏充経済再生相

このようなことをいうと、日本は何でも米国の言うとおり、という人もでてくるかもしれませんが、そういう人には言いたいです。TPPはどうなったかと?

それに、トランプ大統領の取り巻きにも日本通がいると思いますから、上記のような客観的データはすぐに提供できるはずです。

この心配は杞憂に終わるでしょうし、杞憂に終わらさなければならないです。そうでなければ、これからも米国に対してしなくても良い譲歩をすることになりかねません。

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2018年9月10日月曜日

台湾「慰安婦像」の即時撤去要求 中国側のプロパガンダ工作の可能性指摘 慰安婦の真実国民運動・藤井実彦氏―【私の論評】一日もはやく、そうして中共よりもはやく、台湾をシーパワー国に(゚д゚)!


台南市に設置された慰安婦像と、見つめる台湾の馬英九前総統
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

日本の複数の保守系民間団体で作る「慰安婦の真実国民運動」(加瀬英明代表)は6日、台湾南西部・台南市で、台湾初の「慰安婦像」を設置を主導した中国国民党台南市支部に、像の即時撤去を求めるとともに、碑文の内容を問う文書を手渡した。親日的な台湾で、何が起こっているか。現地に出向いた同運動幹事の藤井実彦(みつひこ)氏が緊急寄稿した。

藤井実彦(みつひこ)氏

 問題の慰安婦像を初めて見たとき、正直ぞっとした。像は台南市の繁華街の交差点のすぐ脇に設置されており、とても目立つ場所にあった。向かいには日本のデパートがあり、真横には国民党台南支部があった。

 像の後ろには、日本語と中国語、英語、韓国語の4カ国語で、「20万~40万人の慰安婦」「強制徴用」などと、日本の保守系団体による調査・研究とまったく異なる内容が記されていた。

 日本と日本人の名誉を著しく貶めた、朝日新聞の大誤報など伝わっていないのだろう。

 私(藤井)たちは、像設置を主導した、国民党台南支部の主任委員である謝龍介・台南市議と面会し、像の即時撤去に加え、「事実と異なる内容の碑文」に強く抗議し、根拠となる資料の提出を求める文書を手渡した。台湾での公開討論会の開催も求めた。

謝龍介

 これに対し、謝氏は碑文の誤りは認めず、「台湾慰安婦の苦しみを知るべきだ。反論には憤りを覚える」などと語った。ただ、公開質問状には1カ月以内に答えるとし、公開討論会にも前向きな姿勢を示した。

 親日的な台湾に、慰安婦像が設置された背景として、「自由」と「民主主義」「人権」「法の支配」という理念を共有する日本と米国、台湾の連携を阻止する、中国側のプロパガンダ工作の可能性が指摘されている。

 現に、一般の台南市民は「台湾を好きな日本人がたくさん訪れる台南に、このような政治的な像が立ってしまうと本当に観光に影響がある。すぐにでも撤去してほしい」と語っていた。

 「慰安婦の真実国民運動」では、国民党台南支部の回答を踏まえて、公開討論会などを通じて、慰安婦問題の真実や、万死に値する朝日新聞の大誤報について、広く世界に発信していく。

【私の論評】一日もはやく、そうして中共よりもはやく、台湾をシーパワー国に(゚д゚)!

慰安婦問題をめぐり抗議するデモの参加者=10日、台北の日本台湾交流協会前

日本の対台湾窓口機関、日本台湾交流協会台北事務所前で10日、抗議活動が行われました。日本の民間団体が7日、台湾初の「慰安婦像」を設置した南部・台南市の中国国民党支部を訪れて撤去を要請した際、代表者が像を蹴るような動作をしていたことが、監視カメラの映像で判明したとして、約100人が謝罪を求めるなどしました。

抗議には、像の設置を主導した同党の台南市議や立法委員(国会議員に相当)2人、中台統一派の政党「新党」の党員らが参加。大声を上げ、代表者が職員に抗議文を手渡しました。

抗議中、数人が事務所ビルに卵を投げつけたほか、像のレプリカを掲げて規制線を突破しようとするなどして警察から警告を受けました。

慰安婦像のレプリカを掲げて規制線突破を試み、警察と押し
合いになるデモの参加者=10日、台北の日本台湾交流協会前

昨日もこのブログに掲載したように、日米英同盟と、中国の対立はシーパワー国と将来シーパワー国になろうとするランドパワー国である中国との必然的なせめぎ合いであり、これら慰安婦をめぐる対立もその一環であると認識すべきです

中国としては、日本と接近をはかる蔡英文政権にかなり危機を感じているのでしょう。日本と接近をはかるということは、日米英同目のシーパワーに接近することを意味しており、台湾が日米英同盟に取り込まれることは脅威です。

もし完璧に取り込まれてしまえば、日米英の艦艇が台湾に自由に出入りし、中国台湾は中国のものなどという認識は吹っ飛んでしまい、中国が台湾を取り込むことはかなり困難になります。

そうして、最も恐れるのは、日米英の協力によって、経済を発展させ、台湾がシーパワー国になることでしょう。そうなれば、台湾をとられただけではなく、新たな軍事的脅威が生まれ、中国の国家戦略はかなりの変更をせまられることになります。

昨日も掲載したように、シーパワーとは単に地理的条件によって生じるものではありません。そもそも、シーパワーはランドパワーの上位互換です。

アメリカは本来陸軍国でしたし、日本もそうでした。ランドパワー国家が資本を蓄積して海軍を充実させ得た状態がシーパワーなのです。

ランドパワーも無論ある程度資本の蓄積が必要です。大陸にあるからといって、ただそれだけでランドパワー国になるわけではありません。やはり、ある程度資本を蓄積して、軍備も増強して周囲に対して影響力が行使できるほどの陸軍をもって、はじめてランドパワーとなります。

さらにランドパワー国だった国でも、海に面した領土があり、がさらに資本を蓄積が進んで、海軍力を強化し、周辺に影響力を及ぼすことができるようになれば、シーパワー国となるのです。

現在は中国がそれを目指して努力を続けています。昨日も掲載したように、中国はそうなれるかどうかは、現在は定かではありません。現在の中国は資本を蓄積し、さらにテクノロジーならびにノウハウを蓄積しないとシーパワーにはなれません。



この中国が、台湾が日米英同盟に取り込まれることをかなり脅威に感じるのは、台湾が他のアジアの諸国と比較すれば、経済的にも発展してるため、経済をさらに発展させ、資本を蓄積し、中国よりも先にシーパワーになる可能性があるからです。

無論これは、数十年後か、あるいは100年後かもしれません。しかし、中国はそのくらい時間をかけてもいずれ自らがシーパワー国になるつもりです。

しかし、その前に台湾がシーパワー国になっていれば、中国は日本と台湾という2つのシーパワー国に囲まれ、中国の海洋進出は完璧に封じ込められます。

それは、かつてのランドパワー国のソビエト連邦が結局のところ、日米というシーパワー国に封じ込められ、それに米国と英国というシーパワー国が協力することにより、経済的にも軍事的にも疲弊して冷戦に負けた後に崩壊してしまったのと同じようなことになると考えられます。

ソ連軍が行った最も大規模かつ重要な軍事演習 ザーパト'81

冷戦時の日本は、オホーツク海や日本近海の、対潜哨戒能力を大幅に改善させ、米国にソビエト連邦封じ込めで、かなり貢献をしています。このことはもっと評価されても良いと思います。この日本の貢献がなければ、ソ連の崩壊はかなり遅れたかもしれません。

日本としては、こうした大きな枠組みの中で、物事を考え、慰安婦問題にも対処していくべきでしょう。慰安婦問題は、完璧に韓国による偽造であり、中国はこれを利用しているだけです。

中国は米国内でも、米国内の識者が「日本悪魔化計画」と呼ぶ、慰安婦問題により日本を貶め、それによって日米を離反させようと試みました。しかし、それは結局のところトランプ政権による対中国法益戦争のはじまりにより、結局のところ有名無実になりました。

これは、結局のところ、シーパワー国である日米両国の結束によるものと考えられます。今後日米英同盟と台湾が協力して、台湾を一日もはやくシーパワー国になれるようにすべきです。

とは、いいながら、直近では日本政府も慰安婦問題虚構に関しては、米英台に主張していくべきでしょう。

米国に関しては、先日もこのブログでも掲載したように、保守派の中には単純な「日本悪玉論」は間違いであることが認識されています。慰安婦問題に関しては、それが今後の日米関係に悪い影響を及ぼすことはないでしょう。

英国については、中国のやり口などを説明しつつ、慰安婦問題は中国が「日本悪魔化」のために、利用していることを納得させていくべきです。

台湾に関しては、日本が台湾をシーパワー国になれるように、徹底的にサポートしていくべきでしょう。それには、資金援助だけではだめです。台湾が自力で経済を発展させられるようになるのは無論のこと、独自のテクノロジーとノウハウが持てるようにならなければなりません。

いずれにしても、慰安婦問題などは、台湾がシーパワー国になり、中国が永遠のランドパワー国になるか、消滅したときには、この世から消えることでしょう。なぜなら、中国がそうなれば、慰安婦問題などで日本を追求したとしても、何のメリットもなくなるからです。

そのようなときに、韓国一国が慰安婦問題を叫んだとしても、日本は韓国に抗議をしたり、他国の誤解を説いたりする必要はあるでしょうが、何の影響も不利益もないでしょう。

しかし、台湾が中国の手に落ちるようなことがあった場合には、慰安婦問題はくすぶり続けることでしょう。まさに、台湾は日本のそうして日米英同盟の生命線でもあるわけです。

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2018年9月9日日曜日

南シナ海でイギリス海軍揚陸艦「アルビオン」航行…米国主導の「中国包囲網」に英参戦か―【私の論評】日米英同盟と、中国の対立はシーパワーとランドパワーとの必然的なせめぎ合い(゚д゚)!

南シナ海でイギリス海軍揚陸艦「アルビオン」航行…米国主導の「中国包囲網」に英参戦か

8月3日晴海埠頭に入稿した英海軍揚陸艦「アルビオン」写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 南シナ海での軍事的覇権を強める中国に対し、国際的圧力が強まっている。中国が一方的に領有権を主張する南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島付近で、英海軍が最近、揚陸艦「アルビオン」を航行させたのだ。ドナルド・トランプ米政権は南シナ海で「航行の自由」作戦を展開し、「中国包囲網」を強化している。英国の動きは対中包囲網に参戦するサインなのか。

 アルビオンの行動は6日、ロイター通信が関係筋2人の話として報じた。同艦は、地上部隊を洋上から上陸用舟艇やヘリコプターを使って展開させる揚陸艦。国連安保理決議に基づき、北朝鮮の密貿易「瀬取り」を阻止するため、5月から極東展開していた。

 記事によると、アルビオンは日本周辺での活動を終え、ベトナムのホーチミンに向かう途中、パラセル諸島近くを航行し、3日にホーチミンに到着した。関係筋は、中国が警告のため、フリゲート艦1隻とヘリコプター2機を派遣したと明らかにした。

 英海軍報道官は「アルビオンは国際法・規範に完全にのっとり、『航行の自由』について権利を行使した」と説明したが、中国は反発を強めている。

 中国外務省の華春瑩報道官は6日の記者会見で、「中国の主権を侵害する行為であり、断固として反対する」と述べた。

中国外務省の華春瑩報道官

 習近平国家主席は2015年10月、英国を公式訪問した。この際の高圧的な態度に、英国内で中国への批判が高まったとされる。

 英国の狙いについて、国際政治学者の藤井厳喜氏は「現在のメイ英政権は、中国にべったりだった前のキャメロン政権に比べると、少し距離を取るようになっている。英国は世界中に小さな領土があるため、『航行の自由』という問題については米国寄りのスタンスを取り、中国に『国際法を守れ』という圧力をかけているのではないか」と解説する。

 昨年から、日英防衛協力は確実に進んでいる。2020年までには、英空母「クイーン・エリザベス」の太平洋展開も予定されている。米国主導の「中国包囲網」に英国も加わるのか。

【私の論評】日米英同盟と、中国の対立はシーパワーとランドパワーとの必然的なせめぎ合い(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事では、藤井厳喜氏が「英国は世界中に小さな領土がある」と述べていましたが、実際どの程度あるのか以下に地図を掲載します。


上の地図で赤い部分が、イギリスの海外領土、緑はイギリス本国、青はイギリスの王室属領です。全部が島嶼です。太平洋にはイギリス領はありません。

太平洋にはイギリスの領土がないにも関わらず、イギリスは、わざわざ揚陸艦を航行させたわけですから、やはり『航行の自由』を守れという無言の圧力を中国にかけるためであったと判断するのが妥当だと思います。

以前このブログでも述べたように、日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っています。

ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本

日本は中国の海洋進出を警戒していますし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのす。

また、日英はともに米国の重要な戦略的パートナーです。日英はそれぞれ米国と深い同盟関係で結ばれ、情報や軍事、外交などあらゆる分野で深い協力関係にあります。つまり、日英が今、同盟関係に進もうとするのは歴史の偶然ではなく、地政学的な必然です。

日本と英国は事実上すでに同盟関係にあります。その同盟関係にあるイギリスが今回南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島付近で、揚陸艦「アルビオン」を航行させたことには、大きな意義があります。

日米はともに英国と同盟関係にあります。これは事実上日米英の同盟が出来上がってると言っても良いです。

現在の世界情勢は第二次世界大戦直前の様相を呈しています。つまり英を軸としたシーパワー同盟側に味方するのか、それともドイツを中心とするランドパワー側につくかという状況に似てきたということです。

国の構成は違いながら、シーパワーかランドパワーに別れているということでは、非常に似ています。

現在のシーパワー側は、まずは日米英が同盟を結んでいます。ランドパワーは中国です。ロシアは、日米が味方に引きずり込もうとしています。米露首脳会談で、すでにロシアはシーパワー側についたという見方もあります。

ドイツは、元々はランドパワーの国であったためか、つい最近までは、中国に接近していましたが、今後どうなるかはわからない状況です。ただし、ドイツがシーパワー側に完璧に離反し、中国と軍事同盟を結ぶことはないと考えられます。

英国はEU離脱で、ドイツ欧州大陸側にはつかず日本と米国を選びました。昨年、英国首相が、日本国にやってきて、安倍総理と会談し、実質的に日英は実質的に同盟関係に入りました。南シナ海に英国空母の派遣は、この同盟関係に基づくものです。

さて、大東亜戦争直前の日本は、シーパワーの国出会ったにも関わらず、ランドパワー側のドイツについて、結局敗北しました。

今回は、シーパワーである日米英同盟の結束をさらに深め、さらにロシア・フランスなどのランドパワーの国々も味方につけ、ランドパワーからシーパワーの国になろうとする中国を完全に封じ込め弱体化させていくべきでしょう。

ただし、シーパワーとランドパワーは地理的条件で決まってしまうかといえば、そうではありません。そもそも、シーパワーはランドパワーの上位互換です。

アメリカは本来陸軍国でしたし、日本もそうでした。ランドパワー国家が資本を蓄積して海軍を充実させ得た状態がシーパワーなのです。

かつてのソ連、現在のロシアは、結局現在の中国の航空母艦「遼寧」の原型である空母しかつくれなかったことが象徴するように、ランドパワーの国からシーパワーの国になることはできませんでした。

現在は中国がそれを目指して努力を続けています。シーパワー国家は海軍より先に、他国に比し突出した資本が存在しています。中国はそうなれるかどうかは、現在は定かではありません。

もし、中国がシーパワーの国になったとすれば、これは中国が主張していたように、世界の半分を支配する覇権国家になるかもしれません。

そうなれば、日本の北海道の釧路は、中国の一帯一路の拠点港とされることになるかもしれません。釧路からどこへ向かうかと言えば、北極海を通過して、欧州大陸へ向かい、ランドパワーとしての中国と、ランドパワーの欧州大陸を結びつけ世界の半分を支配することになるのです。

現在のシーパワーの国々である、日米英はとてもそのようなことは、許容できるものではありません。中国が新たなシーパワー国になることを阻止し、ロシアのように、ランドパワーの国から一歩も出られないようにするため、日米英が同盟関係になり、中国を囲い込もうとするのは、当然といえば当然です。

日米英同盟と、中国の対立はシーパワー国と将来シーパワー国になろうとするランドパワー国である中国との必然的なせめぎ合いなのです。このあたりを理解しておかないと、世界情勢は理解できないでしょう。

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2018年9月8日土曜日

【田村秀男のお金は知っている】中国のマネーパワーは「張り子の虎」 「一帯一路への支援」の裏にある真の狙いとは?―【私の論評】中国は結局中所得国の罠から抜け出せない(゚д゚)!

【田村秀男のお金は知っている】中国のマネーパワーは「張り子の虎」 「一帯一路への支援」の裏にある真の狙いとは?

 「本当は火の車なのに、よく言うね」。そう思ったのは、中国の習近平国家主席の大盤振る舞い発言だ。習氏は自身が提唱してからまる5年経つ新シルクロード経済圏構想「一帯一路」について、北京で開かれた「中国アフリカ協力フォーラム」首脳会合で、今後3年間で600億ドル(約6兆6000億円)をアフリカ向けに拠出すると発表したのだ。

 「一帯一路」は中国のマネーパワーによって推進される、とは一般的な見方なのだが、だまされてはいけない。本グラフを見ればそのパワーは張り子の虎同然であることがはっきりする。



 外貨準備など中国の対外資産は外貨が流入しないと増えない。流入外貨をことごとく中国人民銀行が買い上げる中国特有の制度のもと、中国当局は輸出による貿易黒字拡大と、外国からの対中投資呼び込みに躍起となってきた。ところが、2015年以降は資本逃避が激しくなり、最近でも3000億ドル前後の資本が当局の規制をかいくぐって逃げている。

 そこで、習政権が頼るのは債券発行や銀行融資による外国からの資金調達である。対外金融債務はこうして急増し続け、外国からの対中投資と合わせた対外負債を膨らませていることが、グラフから見て取れる。主要な対外資産から負債を差し引いた純資産は今やゼロなのだ。

 今後は「債務超過」に陥る可能性が十分ある。米トランプ政権は年間で3800億ドルの対中貿易赤字を抱えており、少なくてもそのうち2000億ドル分を一挙に削減しようとして、中国からの輸入に対し矢継ぎ早に制裁関税をかけている。中国の海外との全取引によって手元に残るカネ(経常収支)は縮小を続け、ことし6月までの年間で683億ドル、昨年年間でも1650億ドルである。対米黒字が2000億ドル減れば、中国の対外収支は巨額の赤字に転落してしまう。しかも、外国からの投資も大きく減りそうだ。米中貿易戦争のために対中投資が割に合わなくなる恐れがあるからだ。

 習氏が一帯一路圏などへの投融資を増やそうとするなら、外国からの借り入れに頼るしかないが、それなら高利貸しかサラ金並みの金利でないと、自身の負債が膨張してしまう。現に、中国による一帯一路圏向けの借款金利は国際標準金利の数倍に達しているとみられる。

 そればかりではない。習氏は外貨が手元になくても、「資金拠出します」と言ってみせるからくりを用意している。港湾や高速道路、鉄道などインフラを融資付きで受注する。受注者は中国の国有企業、それに融資するのは中国の国有商業銀行、従事する労働者の大半は中国人である。

 とすると、受注側の資金決裁はすべて人民元で済む。そして、負債はすべて現地政府に押し付けられ、しかも全額外貨建てとなる。中国はこうして「一帯一路への支援」を名目に、外貨を獲得するという仕掛けである。安倍晋三政権も経団連も「一帯一路に協力」とは、甘すぎる。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】中国は結局中所得国の罠から抜け出せない(゚д゚)!

中国はブログ冒頭の記事のような有様ですが、では日本はどうなのかといえば、財務省は5月25日、2017年末における対外資産負債残高を発表し、日本は27年連続で世界最大の債権国となったことがわかっています。発表によれば、対外資産残高は前年比2.7%増の1012兆4310億円、対外負債残高は同5.2%増の683兆9,840億円となり、対外純資産残高は同2.3%減の328兆4470億円となりました。


中国メディアの快資訊は5月25日、日本が27年連続で世界一の純債権国となったことに対し、「日本が失われた20年に陥っているなんて、大嘘だ」と主張する記事を掲載しました。

これは、実際には大嘘ではありません。日本は過去においては、国内では金融政策、財政政策において大失敗しました。デフレ傾向なのに、日銀は金融引締め的な政策ばかり実施し、財務省は緊縮財政を行いました。そのため、日本の国内経済は手酷い停滞を余儀なくされました。

記事は、中国人は近年、日本に対して大きな誤解を抱いているとし、それは、日本の経済成長率が低迷していることを「日本衰退」と思い込んでいることだと指摘。日本は国内の経済成長は確かに低迷しているが、海外への投資を通じて、海外で大きな利益を得ているのだと伝え、「中国の対外純資産残高および海外での投資活動は日本の足元にも及ばないのが現状なのだ」と指摘しました。

続けて、日本が海外に大量の資産を保有しているのは、「日本は国土が小さく、天然資源も少ないうえ、国内市場は縮小傾向にあるため、日本企業が海外に活路を見出したため」であると主張。海外での経済活動はGNPには含まれるが、GDPには含まれないと伝え、中国もGDPばかりではなく、GNPも強化していくべきだと論じました。

先にも述べたように、国内経済は疲弊しましたが、日本の大手企業などは、失われた20年より前から、そうして失われた20年中も、海外投資で手堅く稼いできたというだけのことです。

ただし、失われた20年で国内はすっかり疲弊してしまいまい、国民にとってはとんでもないことになってしまいましたから、これは日本国政府がどうしようもなくボンクラであり、民間企業が賢かったということであり、決して褒められたことではありません。

ただし、中国政府としては、人民のことなどどうでもよく、自分たちが儲かれば良いということからすれば、これは本当に羨ましいことなのかもしれません。

中国の対外純資産残高は16年末は日本に次ぐ世界第2位となりましたが、17年末はドイツに抜かれて再び3位に転落しました。財務省によれば、中国の17年末の対外純資産残高は約204兆円であり、日本と中国の差はまだ大きいものの、中国も近年は海外進出を積極化していることから、この差は縮小していく可能性もあるとしていますが、それは甚だ疑問です。

なぜなら、国内でデフレ時に緊縮財政を行うような、日本の財務省の分析、しかも中国の分析など到底信用できないからです。

以下、中国の公表するGDPなどの統計数値が正しいものとして分析してみます。現在、中国の対外純資産(対外資産-対外債務)の規模は、日本、ドイツに続く世界3位となっていますが、対外資産が生み出す収益である第1次所得収支は、恒常的な赤字となっています。


ここで、米国が断トツのマイナスになっていますが、これは当然といえば、当然です。なぜなら、米国は基軸通貨国でもあるからです。このあたりの詳細は本題とは直接関係ないので説明しません。

中国の、第1次所得収支が、恒常的な赤字その理由には以下の2つがあります。まず、中国の成長率ひいては投資収益率は海外平均に比べ高いです。2015~17年平均の名目経済成長率は、米国やドイツの3.6%、日本の2.1%に対し、中国は7.9%と高い。外国から中国に対して行う投資の収益率は高く、国際収支上は中国の対外支払額が大きくなる一方、相対的に利回りの低い先進国などに投資する中国側の受け取りは小さくなります。

これは、たとえ7.9%が嘘であったとしても、中国の経済の伸び率がある程度高いというのならあてはまることです。

2番目に、中国では外国への直接投資や証券投資での運用は相対的に小さく、大規模な外貨準備で運用する点が特徴となっています。外貨準備は国債などの外国資産で運用されるため、安全性が高いですが、収益率は一段と低くなります。

中国では、所得収支が赤字を続けるほか、海外渡航や知的財産権使用に関連したサービス収支の赤字も拡大しています。貿易収支はこれらを上回る黒字を計上してきたが、所得水準の向上などによる輸入増で黒字幅が縮小し、全てを合計した経常収支の黒字が縮小しています。

今後も経常収支の黒字を維持するためには、日本やドイツと同様に所得収支を黒字化する必要があります。中国内外の利回り格差の解消は難しいですが、対外資産の運用を政府の外貨準備から企業による直接投資・証券投資にシフトしていくことが考えられます。その実現には、為替管理の緩和などを通じて企業の海外投資を自由化する政策が求められるだけでなく、米国をはじめ、諸外国における中国の投資への警戒感を和らげることも課題となってくるでしょう。

対外資産の運用を政府によって実行すれば、最初から大失敗するのは明らかです。日本でいえば、財務省が一手に対外資産の運用を引き受けるようなものであり、官僚が運用して成功する見込みは全くありません。

多数の経験豊富な、民間企業がしのぎを削って競争しながら、実施するからこそうまくいくのです。その中には失敗するものもあれば、成功するものもあります。日本の場合は、成功する企業の割合がたまたま多いということです。

一帯一路圏への直接投資は、いくら投資したとしても、利回りが低くすぎで、たとえ習近平が狡猾に、中国企業に受注させたにしても、元々利回りが低いことには変わりはなく、実際は収益性が乏しいということです。それに、当該国の政府や企業にも、ある程度は儲けさせてやらなければ、長続きするプロジェクトにはなりません。そうなれば、ますます利回り率は低くなります。

かつて、中国が国内に投資して発展したように、国内投資に回帰すれば良いとも思うのですが、それも無理のようです。

なぜなら、中国では、大きなインフラ投資は一巡してもうめぼしいものはないからです。今更、たとえばさらに鬼城をたくさんつくるというわけにはいかないからです。それなら、人に投資するとか、産業構造を変えることに投資すれば良いと思うのですが、それも無理なようです。

中国の全国各地にみられる鬼城(ゴーストタウン)

なぜなら、産業構造を変えるには、中国の民主化、政治と経済の分離、法治国家化がどうしても必要不可欠なのですが、それを実行するとなると、中共の本質を変えなければならないからです。

現在先進国といわれる国々は、これらを実施して、いわゆる多数の中間層を輩出し、それらが活溌な政治・経済活動をすることにより、富を築いて先進国のなったのですが、現在の中国はまだその前の段階であり、しかも中共が体制を変えようとしません。

変えれば、自分たちの統治の正当性を失い崩壊してしまうことを恐れているので、結局何もできず、一帯一路でお茶を濁しているのでしょうが、それもうまくはいきそうもありません。

結局中国はミンスキー・モーメント、てっとりばやくいうとバブルが膨らむだけ膨らんで、崩壊する時の瞬間のことですが、これ迎えるしかないのでしょう。その瞬間の後には中国は中進国の状態から抜け出すことができずに、永遠に中所得国の罠から抜け出すことができなくなることでしょう。

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2018年9月5日水曜日

統一選前に台湾で政治不信増大 中国共産党もアプローチに困惑―【私の論評】台湾に限らず、日本も含めてアジアの政治家はマクロ経済政策を疎かにすべきではない(゚д゚)!

統一選前に台湾で政治不信増大 中国共産党もアプローチに困惑

民進党党首蔡英文氏 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 台湾の政治が迷走している。

 今年11月24日、台湾では統一地方選挙(「九合一」)が行われる。投票まで100日を切ったとあって、メディアの報道も熱を帯びているので、ここで一度触れておこうと思う。

 ただ、取り上げようと思う反面、気になるのが、肝心な台湾の有権者の政治への関心が一向に高まっていないことだ。

 その理由は、有権者の“政治離れ”に歯止めがかからないからである。

 中国との関係で政策が対立する台湾では、台湾独立の受け皿となる与党・民主進歩党(民進党)と大陸との統一を掲げる国民党という二大政党の対立の構造が定着している。

 互いに象徴するカラーを定め、民進党の緑に対して国民党が青。有権者の選択はずっと、緑か青かという単純なものであった。

民主進歩党(左)のシンボル・カラーは緑、国民党(右)のそれは青

 しかし、ここにきて顕著になりつつあるのが緑にも青にも「ノー」という空気である。いわゆる「無色」勢力の伸長と呼ばれる傾向だ。

 いったいなぜこんなことになったのか。

 日本では、台湾の選挙といえば、緑か青のどちらが勝ったかで、台湾の人々の対中国観をはかろうとするのだが、対外政策が選挙の中心に来るケースは極めて稀で、実際はそうではないことの方が多い。

 では、人々は何を気にしているのかといえば、当然のこと自分たちの生活の改善である。

 その意味で蔡英文総統が誕生した当初には、民進党政権に大きな期待が寄せられた。

 だが、結果的に民進党は人々の期待に応えられなかったといってもよいだろう。

 そのことは各種の世論調査に顕著だが、その一つ、台湾民意基金会の調査結果によれば、7月の政党支持率は、民進党が25・2%、国民党が20・7%だった。

 2016年に行われた同じ調査では、民進党への支持が51・6%であったことを考慮すれば、緑に対する失望の大きさは明らかと言わざるを得ない。

 ちなみに国民党の支持率は18・9%だったので、2ポイント程度伸びた計算になるが、民進党が失った支持を取り込めたとはとても言えないのが現実である。

 緑と青に代わって拡大したのは無党派で、49・6%となった。

 焦った民進党は選挙を前に慌てて基本月給や時給を引き上げる政策を打ち出したが、効果を期待する声は少ない。

 台湾住民の貯蓄率はずっと下降傾向にあるが、昨年は過去5年間で最低になるなど、家計の厳しさを示す数字は枚挙に暇がない。

台湾の個人消費の伸び率


 だが、繰り返しになるが国民党にも決め手がない。かねてから指摘される人材不足と内紛で満身創痍状態だからだ。

 興味深いのはこうした台湾の状況に中国共産党も戸惑っていることだ。

 かつて民進党の支持基盤の南部の農家から果物を“爆買い”して揺さぶりをかけたり、観光客を制限して蔡政権のプレッシャーをかけてきたが、いまは何処に向けて何を発して良いのか分からなくなっているという。

 なんとも皮肉な話だ。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

【私の論評】台湾に限らず、日本も含めてアジアの政治家はマクロ経済政策を疎かにすべきではない(゚д゚)!

上の記事を読んでいると、民進党も、国民党も結局のところマクロ経済音痴なのではないかと思います。上の記事を書いている富坂氏もマクロ経済音痴なのではないかと思ってしまいます。

なぜなら、富坂氏も台湾のマクロ経済には全く触れないからです。こういう人は、なぜかアジアに多いです。一国の経済が、マクロ経済政策すなわち、政府の財政政策と中央銀行の金融政策に全く関わりがないなどということはありません。

それどころか、大きく関与しているというか、国の経済対策といえば、財政政策と金融政策であり、それが大部分を占め、ミクロ政策などは国にとってはあまり関係のないことです。

この基本中の基本を、民進党党首蔡英文も国民党党首呉敦義氏も、理解していないのではないかと思われます。さらには、民進党や国民党の議員のもこれを理解していないのではないかと思われます。

なぜそのようなことを言うかといえば、台湾の経済対策などみていると、どうもマクロ的な政策はみあたらず、ミクロ的なものばかりが散見されるからです。

2016年に馬英九総統に代わり、蔡英文氏が台湾総統として就任しました。

蔡政権の経済政策として特徴的なのは、「新南向政策」です。これは、蔡総統就任後の2016年に打ち立てられた政策で、経済発展が著しいASEAN10ヵ国、南アジア6ヵ国、オーストラリアとニュージーランド、計18ヵ国との関係を強化し、台湾の経済発展を目指すといった政策です。この政策では、下記4つの軸を主軸として、経済成長を目指すとしています。

(1)経済貿易協力
(2)人材交流
(3)資源の共有
(4)地域の連携


経済貿易協力では、ターゲット国のインフラ建設協力や、スマート医療、IoTシステムの輸出、さらにはEコマースでの台湾製品の発信、教育やヘルスケア分野での輸出の推進を目指しています。

人材交流では、専門性の高い人材を育成・交流を図るとしています。具体的には、台湾の大学の海外分校の設立、台湾専門のクラスの設立をすることで、台湾の専門家の育成の強化を目指します。また、交流促進の為にビザ申請等の手続きを簡素化する計画があります。

台湾で働いている外国人専門家や技術者には、評価制度を設け、一定の基準を満たした場合にビザの延長許可措置が可能になる施策も盛り込まれています。

資源の共有では、文化や観光、医療等のターゲット国の生活の質向上を目指すとしています。

文化面では、メディアやゲームを利用した台湾のブランディングの向上、観光分野では、ターゲット国からの旅行者へのビザ規制緩和、医療分野では、医薬品の認証、新薬、医療機器の開発の協力を目指しています。

最後に地域の連携では、ASEANやインドとの経済連携協定締結を積極的に図るとしています。これにより、台湾からのターゲット国への投資を期待しています。また、南アジアへの進出も第三国との連携で目指すとしています。

結局、貿易を伸ばして経済成長しようということであり、国の経済の基本である、財政政策や金融政策について具体的には何の方針もありません。

金融緩和というと、蔡英文氏は貿易に何の関係もないと思っているのでしょうか、仮にいずれかの国への貿易を増やそうとして、いくら人材育成や資源の共有、地域の連携などミクロ的な努力を重ねたとしても、台湾の中央銀行が金融引締めばかりしていて、貿易相手国が徹底的に金融緩和をしていたとしたらどうなるでしょうか。

結局台湾元高になってしまい、いくら努力をしたとしても貿易では不利になってしまいます。しかし、だからといって、今度は台湾中央銀行が金融緩和に走ったとして、際限なく金融緩和を続けたとすれば、今度は台湾国内が過度のインフレになってしまいます。

そんなことにならないように、様々な方法を駆使して、金融緩和で貿易では不利にならないように、国内では、インフレが過渡に進行しないようにしなければなりません。

この仕事を行うのは、無論台湾中央銀行ですが、それにしても方針・目標は台湾政府が定めなければならないです。

また、いくら貿易に力をいれるからといって、国内をおろそかにするわけにはいきません。国内では、まともな財政政策を実施して、経済成長を実現する必要があります。

財政政策の目玉としては、2017年に台湾政府が定めた「前瞻(せん)基礎建設計画」では、次世代インフラの建設を行うことで、投資の強化を目指しています。具体的には、

(1)風力発電や太陽光発電等のグリーンエネルギー
(2)ネットやITインフラ
(3)治水、水供給等の環境インフラ
(4)高速鉄道や台湾鉄道の高度化、都市MRT等の鉄道インフラ
(5)駐車問題の改善、道路の改善等の都市・農村インフラ


を挙げています。その中でも特に金額的に大きいのは、鉄道インフラの整備となっており、訪台した観光客や現地の住民の生活の高めることを優先としていることが考えられます。

台湾の経済対策なるものは、貿易振興のための投資計画がほとんどのようです。これによって、確かに経済が良くなることは良くなりますが、あまりに投資にばかり頼ると、クラウディング・アウトに見舞われることもあります。

クラウディング・アウトとは、行政府が資金需要をまかなうために大量の国債を発行すると、それによって市中の金利が上昇するため、民間の資金需要が抑制されることをいいます。

公共投資と、同じ財政政策でも減税や、給付金などは大規模に行ってもクラウディング・アウトがおこることはありません。

減税、給付金といっても、盲滅法に行うのではなく、その時々で最も効果の上がりそうなものを選択して行う必要があります。これを行うのが、日本でいうところの財務省ですが、それにしても目標は政府が定めなければなりません。

さらに、財政政策、金融政策など、いずれの手法をとっても、効果が出てくるまでにラグがあり、このラグも考慮しながら、財政政策と金融政策をうまく組み合わせていく必要があります。

それに、金融政策は雇用政策でもあります。インフレ率を数%あげると、日本や米国では、それだけで他に何もせずとも、一夜にして数百万の雇用が生まれます。台湾では、人口のなどの規模が違うので、ここまではとはいわずとも、雇用が大量に生まれることには変わりないです。

などと、いろいろと述べましたが、台湾経済そのものは、さほど悪くはないものの、かなり良いとか、かなり伸びているともいえるような状況ではありません。それについては、みずほ銀行の資料にうまくまとめられているので、そちらをご覧になってください。以下にリンクを掲載します。
台湾経済の現状と展望2018年6月
 ただし、台湾の経済政策は上記にあげたように、貿易によって成長しようとしているようです。しかし、その前にマクロ経済政策によって内需拡大をすべきです。マクロ政策によって前途有望であると思われるような、政策を打ち出していないので、上滑り観はまぬがれず、台湾の国民は納得していないのでしょう。それは、国民党も同じことなので、国民の政治離れが進んでいるのでしょう。

それにしても、米国の経済対策など、政府は必ず財政政策や金融政策などをあげるのが常識ですが、日本をはじめとして、アジアの国々ではそうではありません。無論米国の場合は、世界経済に影響を与えるほど、米国の国内事情は重要です。だからかこそ、米国内のマクロ経済に関しては政府も公表する姿勢を貫いているのでしょう。

しかし、米国とアジアでは経済対策が異なるなどということはありません。アジアの国々も、本来政府の経済対策といえば、まずはマクロ経済政策というのが正しいありかたのはずです。

日本も、金融政策、財政政策などを政府の方針としてあげたのは、安倍政権による3本の矢においてが初めてではなかったかと思います。

お隣の韓国では、朴槿恵政権はまともなマクロ経済政策を実行せず、文在寅大統領にかわってからは、金融緩和はせずに、最低賃金をあげるという政策を実施し、これは見事に失敗して雇用が激減しています。そうして、これは金融緩和等のマクロ政策には全く関係なく、とにかく再分配を重視すべきと主張する立憲民主党の枝野氏が主張する経済政策と同じものです。

文在寅韓国大統領

このようなアジアの国々実体をみると、やはりアジアの諸国にはそのような共通点があると思ってしまいます。

ただし、中国だけは例外かもしれません。中国の場合、とにかく経済が悪くなれば、積極財政で巨額の投資をする、それでも足りなければ、金融緩和策として巨額の元を刷り増すという具合で、景気が加熱すると逆に、緊縮財政と金融引締めに転じるという具合に、単純にマクロ経済政策を実行しています。

ただし、中国の体制はそもそも、民主化、政治と経済、法治国家化がなされておらず、様々な矛盾が蓄積しているのも事実です。そのため、結局自ら他国に対して貿易戦争を仕掛けたにも等しいことをしてしまい、最近では米国から本格的に貿易戦争を挑まれるという手痛いしっぺ返しを食らっています。

日本も、ふりかえってみれば、総裁選に出る石破氏も、経済対策に関してはマクロ経済対策はあげていません。希望の党の小池氏もマクロ経済対策はあげていませんでした。

日本では、多くの政治家には、マクロ経済政策などはないものと同じようです。自民党の政治家の多くも、経済対策というと公共工事のことと思っているようです。

このようなマクロ経済政策を無視するような台湾を含めたアジアの政治は、結局うまくいかないのは確かです。

日本でも、マクロ経済的にみれば悪手中の悪手がある10%増税を来年10月からそのまま実施してしまえば、経済が停滞するのは必定です。

もし、そうなれば、台湾のような政治不信に日本も見舞われることでしょう。さらに、まかり間違って、日銀が金融引締めにでも転ずることでもあれば、韓国のように若者雇用が最悪となることでしょう。

安倍総裁の3選は間違いないようですが、予定通りに10%増税を実行してしまえば、次の任期のときに、自民党内で本格的な安倍おろしがはじまるかもしれません。ただし、安倍さんに変わって誰かが総理大臣になったとしても、まともなマクロ経済対策を実行しなければ、短命政権に終わることでしょう。

その後どの党の誰が、総理大臣になったとしても、経済政策を根本的にあらためなければ、どの政権も短命で終わることになるでしょう。

それだけ、マクロ経済政策は重大事なのです。アジアの政治家はこれをおろそかにすべきではありません。

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