2018年10月25日木曜日

冷戦Ⅱ?米中関係の新たな時代の幕開け―【私の論評】冷戦Ⅱは、先の冷戦と同じく米国が圧勝!中国には微塵も勝ち目なし(゚д゚)!

冷戦Ⅱ?米中関係の新たな時代の幕開け

岡崎研究所

 10月4日、ペンス副大統領は米国の保守系シンクタンクであるハドソン研究所で、トランプ政権の対中政策に関して、約43分間にわたる演説を行なった。米国政府の対中政策として包括的な演説であり、以下に要点を紹介する。なお、ペンス副大統領は11月中旬に来日予定である。

10月4日の、ペンス副大統領の演説は中国を名指しで具体的に非難するものだった

・トランプ政権は、昨年4月6日に米国で、11月8日に中国で、米中首脳会談を開催し、個人的信頼を築きながら対中関係を優先的に推進してきた。しかし中国は、政治的、経済的、軍事的手段及びプロパガンダを利用して、米国における自国の利益や影響力を高めようとした。

・昨年12月にトランプ大統領が発表した国家安全保障戦略では、「大国間競争」の時代が明記された。これら外国勢力は国際秩序を自国に有利になるように変えようとしている。この戦略で、トランプ大統領は、米国が中国に対して新アプローチを採用したことを明らかにした。

・1949年、中国共産党は政権を取るなり、独裁膨張主義に走るようになった。ともに戦った第二次世界大戦から5年しか経っていないにもかかわらず、米中両国は朝鮮半島で戦火を交えた。父は現地で参戦した。1972年、中国との敵対関係は終わり、ほどなく米中は国交回復した。ソ連が崩壊後、自由中国の出現は不可避と思ったが、希望は満たされなかった。自由の夢は中国の人々からは遠ざかったままだ。

・この17年間で中国のGDPは9倍になり、今や世界第2の経済大国である。その成功は米国の対中投資に依るところも大きい。中国共産党は、自由で公平な貿易とは相いれない政策を行なった。それには、関税、為替操作、知的財産権の窃取、技術移転の強要、産業補助等が含まれる。米国の対中貿易赤字は、昨年は3750憶ドルで、これは全世界の半分を占めた。トランプ大統領曰く、25年間で「米国は中国を再建してあげた」のである。

・中国共産党は、「メイド・イン・チャイナ2025」計画で、世界の最先端産業のロボット、AI、バイオ産業等の90%を占めようとしている。中国は、米国の財界に、中国でビジネスをしたいなら企業秘密を渡すよう要請する。

・中国は、その経済力を軍事力にも使用した。中国の国防予算は、他のアジア諸国のそれを合算したものに相当する。中国は、日本が施政権下におく尖閣諸島周辺に定期的にやってくる。南シナ海には人工島を作り対艦・対空ミサイルを配備した。自由航行作戦を展開している米国艦船に中国艦船が接近してきた。

・中国共産党は、自国民への規制、人権弾圧も強化している。チベットの仏教徒は、政府の弾圧に抗議して、過去10年で約150人が焼身自殺した。新疆では、約100万人のウイグルのイスラム教徒が収容所に入れられた。先月、中国最大のキリスト教地下教会群が閉鎖させられた。

・中国は、米国の大学、学者、メディア、シンクタンク等に、影響力を行使しようとする。資金援助をして親中派を増やしたり、また、反中派には中国に招待すると言ってサイバー攻撃をかけたりする。ビザ更新等で圧力をかけることもある。米国内の留学生や中国人団体等が中国共産党の諜報機関的役割を果たすこともある。

・米国の今年の中間選挙、2020年の大統領選挙に、共和党やトランプ大統領が勝利しないように、プロパガンダを仕掛けている。

・トランプ政権は、中国が公平、相互的かつ主権を尊重するように、様々な措置を取っている。2560憶ドル相当の品目に課す関税措置、レーガン政権以来の軍備費拡大、対米投資委員会の規制強化、司法省の中国メディアへの措置等がそうである。米国は、決して屈することはない。

参考:White House‘Remarks by Vice President Pence on the Administration’s Policy Toward China’October 4, 2018

 上記の演説内容で特徴的なのは、今回、ペンス副大統領は、中国の政治的、経済的、軍事的、社会的行動の具体例をかなり挙げて、中国を名指しで非難したことである。「攻撃」や「盗んだ」、「債務外交」等、否定的言葉が目についた。中国のことを「中国共産党」と呼ぶこともマイナスの意味合いを持つ。

 米国の論調は、このペンス演説を、米中関係の新たな時代の幕開けと見ている。例えば、10月4日付でワシントン・ポスト紙コラムニストのジョッシュ・ロウギン氏は、米中関係はこれによりリセットされたと述べている。また、10月8日付ウォールストリート・ジャーナル紙にはウォルター・ラッセル・ミード教授が、このペンス演説は1972年のキッシンジャー訪中のように米中関係を決定的に変えるもので、この米中関係を「冷戦Ⅱ」であると呼んだ。

 この冷戦Ⅱはおそらく進行し加速する。冷戦Ⅱの事象は、演説で述べられこことだけではない。10月10日、司法省は、中国情報機関高官による産業スパイを摘発したことを公表した。同じく10日、財務省は対米投資規制の詳細を発表し、半導体、情報通信、軍事など 27産業を規制対象に指定した。9月20日には、中国がロシアから SU-35戦闘機とS-400地対空ミサイルを購入したことに関連して人民解放軍に制裁を発動した。

 こうしてみると、冷戦Ⅱは既に、米中対立が貿易戦争の枠を超えてきていることがわかる。さらに、貿易戦争自体、早期に収拾されることは期待できず、覇権争いになってきていることがうかがえる。事実、ペンス演説でも、昨年12月にトランプ大統領が発表した国家安全保障戦略に触れ、世界的に影響力を行使し国際秩序を自身の良いように変えようとしている大国がある、と指摘された。

 ペンス副大統領は、11月、シンガポール及びパフア・ニュー・ギニアで開催されるASEANやAPEC(アジア太平洋経済協力会議)など、アジア地域で行われる多国間会議に、大統領の代理で米国を代表して出席すると言う。自由で開かれたインド太平洋地域に関する演説も準備中だそうだ。安倍総理も同様の会議に参加予定である。

【私の論評】冷戦Ⅱは、先の冷戦と同じく米国が圧勝!中国には微塵も勝ち目なし(゚д゚)!

ペンス副大統領の演説は、以前もこのブログで紹介しましたが、演説内容の詳細までは掲載しませんでしたので、本日は上の記事を掲載することにさせていただきました。

というのも、この演説は歴史に残るものになると予想されるからです。しかも、米国の圧倒的勝利になることが最初から明らかだからです。

本日は、なぜそういうことがいえるのかを具体的に解説します。

米国経済はトランプ政権になってから力強い成長を続けています。米国は、貿易戦争によるマイナス面は気にする必要など全くありません。

さらに、中国の輸出依存度が24.1%であるのに対して、米国の輸出依存度はたった9.4%です。どちらに軍配が上がるかは最初から明らかです。

ちなみに日本の貿易依存度は14.6%です。20数年前までは、8%台でした。通説の「日本は輸出(貿易)立国」であるという話は全くの間違いです。ましてや、日本の高度成長は貿易によってもたらされたというのも間違いです。日本も米国にならぶ内需大国であるということができます。


そうして内需大国であるということは、悪いことではありません。なぜなら、経済の大半が自国内で完結してしまうので、外国の影響を受けることが少ないです。それは、極端にグローバル化をすすめた韓国が現状どうなっているかを見れば明らかです。ただし、ギリシャのような国はまた別です。自国内の経済の規模もかなり小さく、外需もめぼしいものがないです。

さらに、中国が13億人を養う食料を集めるのにかなりの輸入で四苦八苦しているのに対して、米国はあり余る食料を輸出しています。

また、世界最大の産油国は現在ロシアです。サウジアラビアではありません。さらに、来年(2019年)には米国が世界最大の産油国になる見込みです。近年のシェール・オイルの開発・増産が寄与しています。

エルサレムに米国の駐イスラエル大使館を移したことは暴挙とされましたが、これは米国が、湾岸戦争の時のように、産油国であるアラブ諸国に気を使う必要など無くなったからできたことです。

それに対して、中国の2018年7月の原油の国内生産量は日量375万バレルです。そして、税関発表の輸入量は同850万バレル。全体の7割の原油を輸入に頼っている状況です。

この弱点ゆえ、今回の米国との貿易戦争においても輸入原油は報復関税の対象リストに入れることができなかったのです。

日本やドイツが第2次世界大戦を起こした大きな理由の1つが、石油などのエネルギー確保のためであることはよく知られた事実です。共産主義中国もこの生命線を今まさにつかれているのです。

誰もが認める最新兵器に支えられた軍事力はもちろんのこと、前述の食料・エネルギー、さらにはシリコンバレーの頭脳など、どこをとっても世界最強国である米国に対して、中国はエネルギーも食料も自立できないですし、軍事力も遠く及ばず、しかも自国の優秀な頭脳はシリコンバレーに吸い上げられています。

この中国が米国に刃向かったのは無謀以外の何ものでもありません。

過去を振り返ると自由主義を信奉する米国は、もともと共産主義独裁国家を毛嫌いしていました。
ただ、米中国交回復以後は米国は「豊かになれば共産主義独裁国家もいつか民主化するのでは無いか?」という考えで積極的に中国の発展を支援しました。米国だけでは無く欧州でもその考えが主流でした。
ところが、中国は一人あたりのGDPなどでは、未だ日米は愚か他の先進国には及ばない状況ながらも、人口が13億以上と多いため、総体のGDPでは米国の背中が見えるほど巨大になったにもかかわらず、共産主義中国の民主化は一向に進展せず普通選挙さえいまだに実現されていません。行われているのは共産党が仕切る人事と幹部の指名です。
それどころか、習近平氏は、大躍進と文化大革命で中国人民を大量虐殺した毛沢東を目指すとまで言い始めています。
テロ容疑者として中国に逮捕された15歳から30歳のウィグル人男性たち
さらに、中国によるウイグルに対する弾圧は見過ごせない状況になってきています。また、尖閣や、南シナ海などでの領土的野心を隠さない行為も米国を大いに刺激しています。。
多くの日本人同様、多数の米国民も「共産主義中国に恩をあだで返された」と感じています。

中国が豊かになれば、いずれ先進国並みに、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がされるのではないかという甘い考えが幻想であることが分かれば、共産主義中国にどのように米国が対応すべきかは明らかです。

関税だけでは無く、中国企業の米国内の活動そのもの国防上の観点から大幅に規制しようとするZTEに対するようなアクションは、まさに「戦争に備える国防問題」なのです。

北朝鮮のICBMが米国本土に届くかもしれないということが話題になり、それを阻止することもトランプ大統領にとって重要課題ですが、共産主義中国の核兵器やICBMは、米国にとってそれをはるかに上回る現実の軍事的脅威です。

ただ、現在、徴兵制を停止(制度そのものは現在も存続。停止したのは議員の息子が徴兵されることによって、ベトナム反戦運動が激化したため)している米国が、米国の若者の血を大量に流す本物の戦争を長期間続行するのは、国民からの人気を人一倍気にするトランプ大統領が避けたいことです。

北朝鮮や共産主義中国などのならず者国家は、その事情を見透かしているところがあります。

しかし米国は、どのような国も太刀打ちできない最新兵器に裏打ちされた強大な軍事力だけでは無く、血を流さない戦争=「無血戦争」においても圧倒的な強さを持っています。

「貿易戦争」もその1つですし、本当の戦争で言えば「海上封鎖」に相当するような「経済制裁」も、ボディーブローのようにじわじわ効いてくる効果的な戦略です。対北朝鮮では、この戦略を極めて有効に活用しています。

世界最大の金融街 ウォール・ストリート

しかし、「無血戦争」における米国最大の武器は「金融」です。世界の資金の流れを支配しているのは間違いなく米国です。戦争用語の「制空権」ならぬ「制金権」を米国が握っているのです。

そもそも、米国ドルは国際決済で、最も用いられています。人民元の信用度は現在まだ高いですが、それは中国がおびたたしい量のドルと、米国債を所有していることによるものです。これがなくなれば、人民元は紙切れです。

米国はドルが足りなくなれば、勝手に自分で刷り増すことができますが、中国にはそれができません。やれば、単なる偽札づくりです。

このこと一つとっても、米国の「制金権」は圧倒的であり、中国は足元にも及ばないことが理解できます。

その他にも例えば、北朝鮮やイランの高官の口座を経済制裁の一環として凍結したというようなニュースを聞くことがあります。その時に、「どうやって口座を調べたのだろう」という疑問を持つ人も多いのではないかと思います。

このような人物が本名で海外に口座を開くとは考えにくく、当然偽名やトンネル会社などを使用します。しかし、そのような偽装をしても、FBIやCIAの捜査官は、例えば田中一郎という口座名義人が、実は大原浩であるということを、口座間の送金履歴、入出金履歴などを解析して簡単に見つけ出すことができるのです。この基本技術は、30年ほど前から実用化されているといわれています。

その後、日本でもテロ対策、マネー・ロンダリング対策で銀行口座開設や送金の際の本人確認が非常に厳しくなって「面倒くさい」と思っている方も多いと思います。これは日本政府や銀行協会の方針でというよりも、米国の指示によるものです。つまり日本だけでは無く世界的な現象なのです。

これは以前、スイスのプライベートバンクの匿名性が攻撃され、口座情報が丸裸にされたのもこの戦略と関係があります。ナチス残党の秘密口座などがやり玉に挙がっていましたが、本当のところは、米国の敵国(実は同盟国も……)の指導者の口座情報を得るための手段であり、米国はスイス政府に猛烈な圧力をかけたのです。

結局、少なくとも米国の同盟国・親密国においては、どのような偽装をしても米国の監視の目からは逃れられないということです。

そして、北朝鮮、共産主義中国など米国と敵対している国々のほとんどの幹部は、汚職で蓄財した個人資産を時刻に保管しておくには適さないです。いつ政権が転覆したり革命が起きるかわからないので、米国やその同盟国(親密国)の口座に保管をするしかないのです。

米国と敵対する国々の指導者の目的は、もちろん国民の幸福では無く、建前は色々と言っていますが、個人の蓄財と権力の拡大ですから、彼らの海外口座の個人資産を締めあげれば簡単に米国にひれ伏すことになります。

そんなことによりも、彼らの海外口座の個人資産を凍結したり、あるいはサイバー攻撃により消滅させるようなこともできると思います。私は、そのうち習近平をはじめとする、中国の幹部の中で、不正に蓄財した財産を消滅させられて、無論誰に訴えることもできず希望を失って発狂する者もでてくるのではないかと思っています。

さらに、米国はすでに挙党一致で、議会主導で中国を叩いています。一方の中国は、未だに権力闘争が続いていて、とても一致協力して米国と闘う体制にはなっていません。そのうち、冷戦Ⅱを権力闘争に利用し、習近平派を潰そうとする輩が目立つようになることでしょう。

その時には、習近平派は失脚するかもしれません。しかし、中国は次の体制になっても、基本的には中国共産党一党独裁は変えないでしょうから、その後も冷戦Ⅱが続き、いずれソ連崩壊の二の舞いを舞うことになるでしょう。

その後は、中国もかなり弱体化し、現ロシアなみのGDPに落ち込むことになるでしょう。ちなみに、現ロシアのGDPは韓国よりも少し少ないくらいです。韓国は、東京都なみのGDPです。今やロシアは、どうあがいても米国に立ち向かうことはできません。ロシアの人口は1億4千万人で、日本より二千万人多いくらいで、中国は13億を超えていますから、そこまではいかなくとも、かなり弱体化することになるでしょう。

孫子は「戦わずして勝つ」ことを最良の戦略としていますが、まさに多くの手法を駆使した「無血戦争」で、連勝を続けているトランプ氏は、歴代まれに見る策士なのかもしれません。

1989年のベルリンの崩壊と1991年のソ連邦の崩壊で冷戦が終了し、共産主義国家はいずれ消え去ると思われていました。ところが共産主義国家群はしぶとく生き残り、共産主義中国のように国家資本主義体制ともいえる体制に移行して、一時的に繁栄する国まで出てきました。

しかし、全体主義的・専制主義的国家が現代の先進的経済社会で繁栄し続けることはありえないです。

小手先で市場化・民主化を気取っても、「国家の繁栄」によって人民が民主化、政治と経済の分離、法治国家化をを要求するようになることが、共産党にとって最大の脅威なのです。それが達成されてしまえば、中共は統治の正当性を失うことになります。そうなば、中共は崩壊するしかありません。だから、結局経済的繁栄よりも一党支配による独裁を選ばざるを得ないのです。

1936年ナチス政権下で行われたベルリンオリンピック
全体主義国家であった、ナチス・ドイツはベルリンオリンピック開催後10年以内に崩壊しました。同じ全体主義国家であった、ソビエト連邦も、モスクワオリンピック開催後ほぼ10年で崩壊しました。

中国は、2008年に北京オリンピックが開催されて、今年で10年ですが、中国の場合はさすがに崩壊しませんでしたが、今年は事実上崩壊が決まった年となりました。

中間選挙でのトランプ氏の行く末が注目を浴びていますが、それがどうなろうと、あるいはトランプ氏が来年の選挙で大統領になろうとなるまいと、そうして、習近平が失脚しようがしまいが、長年準備されてきた「対中無血戦争」は、中国が全面降伏するまで延々と続くことになります。

この戦争は「自由主義社会」と「全体主義(専制主義)」との全面対決であり、ペンス副大統領が言うように、冷戦Ⅱ(無血戦争)と呼ぶことができます。そして勝敗は初めから分かっています。

米国が勝ち、中国が負けるのです。ペンス副大統領は、勝ち戦をすると言っているのです。

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2018年10月24日水曜日

習近平の「自力更生」は「中国製造2025」を達成することを指す―【私の論評】技術の漏洩を防げば「中国製造2025」は最初から頓挫することはわかりきっている(゚д゚)!

習近平の「自力更生」は「中国製造2025」を達成することを指す


10月23日、「港珠澳大橋」開通を祝う習近平国家主席

習近平が最近よく言う「自力更生」は、決して文革時の毛沢東返りではなく、「中国製造2025」によりコア技術の自給自足達成を指している。「中国製造2025」を見なければ中国も米中関係も日中関係も見えない。

◆「中国製造2025」に対する鮮明なメッセージ_新華網

その証拠に、2018年5月8日の中国政府の通信社「新華社」電子版「新華網」の報道を見てみよう。「“中国製造2025”:困難に遭い、自ら強くなる」というタイトルで「中国製造2025」と「自力更生」の関係が書いてある。文字だけでなく写真に大きく「中国製造2025」とあるので、一目瞭然だろう。なお、中国語では「製造」は「制造」と書く。

小見出しには「2018年は絶対に普通ではない年になる!」とあり、冒頭に、おおむね以下のような趣旨のことが書いてある。

――いまわれわれは国家戦略「中国製造2025」を推進しており、改革開放40周年を迎えようとしている。ある国が、わが国に高関税をかけて、わが国のハイテク製品輸出に徹底的な打撃を与えようとしている。どこまでもつきまとう執拗な封鎖を通して、われわれは「困難から抜け出すには、ただ一つ、自力更生以外にない」ということを知らなければならない!

ここにある「ある国」とは、言うまでもなく「アメリカ」のことである。

アメリカが中国のハイテク製品に高関税をかけ、ハイテク製品製造のためのコア技術であるアメリカ製半導体の対中輸出に規制を掛けていることに対して、それなら「自力更生」以外にないと言っているのである。

この報道一つを見ただけでも、「自力更生」とは「中国製造2025」を達成して、中国のハイテク産業のコア技術に関する自給自足を指していることが歴然としている。

◆東北視察で習近平が「自力更生」を呼びかけた_新華網
2018年9月25日から28日にかけて、習近平国家主席は中国の東北三省を視察した。その模様を新華網が報道した。

それによれば、習近平は国有の重工業製造企業である「中国第一重型機械集団有限公司(略称:一重集団)」を訪問した際に以下のように述べている。

――いま国際社会では一国主義、貿易保護主義の風潮が高まっているが、われわれは必ず自力更生の道を断固として歩まなければならない。中国が本当に発展しようと思うならば、最終的には自分自身に頼るしかない。

◆習近平が広東視察で「自力更生」を呼びかけた_CCTV
 2018年10月22日、習近平は広東省珠海の視察を行なった。ここは改革開放の地として、習近平の父親・習仲勲が「経済特区方案」をトウ小平に提起し、そこから改革開放が始まった記念の場所の一つである。だから、2014年12月、国家主席就任後に最初に視察した場所も、ここ広東だった。

10月23日、中央テレビ局CCTVの「時政新聞眼」という番組は、習近平の広東視察を特集し、習近平が述べた以下の言葉で番組を締めくくっている。

――大国から強国になるには、必ず実体経済を発展させなければならず、いかなる時も実態から離れて虚構に走ってはならない。製造業は実体経済の中の一つの重要なキーで、必ず自力更生によって奮闘し、中国自身によるイノベーションを獲得していかなければならない。真に中華民族の偉大なる復興を目指すなら、自らがイノベーションを勝ち取っていく気骨と気概を持たなければならない。

◆「中国製造2025」発布直前から「自力更生」を提唱_人民網
中国共産党機関紙「人民日報」電子版「人民網」は、2015年2月16日に「習近平:コア技術は周辺に頼るな、自力更生あるのみだ」というタイトルの記事を掲載した。

「中国製造2025」が発布されたのは2015年5月。

しかし、10月23日付けコラム<背景には「中国製造2025」――習近平による人民の対日感情コントロール>に書いたように、2013年に習近平は既に「中国製造2025」に関して「製造強国戦略研究」という重大諮問プロジェクトを立ち上がらせている。2014年には答申を受けているので、2015年2月の時点で「中国製造2025」に関して「自力更生」を強調するのは当然のことだ。

◆「自力更生」の相手国が日本からアメリカに!

このとき「周辺に頼らない」としていた相手国は「日本」だった!

 <背景には「中国製造2025」――習近平による人民の対日感情コントロール>に書いたように、発端は2012年9月の「反日デモ」で、「メイド・イン・チャイナ」か「メイド・イン・ジャパン」かが問題になったのだ。だからコア技術を「メイド・イン・チャイナ」に持っていくべく立てた国家戦略だった。

ところがアメリカにトランプ大統領が現れて、中国の国家戦略「中国製造2025」が持っている恐るべき狙いを見抜いてしまったものだから、トランプは猛然と「中国製造2025」を完遂させまいと中国への攻撃を始めた。武力攻撃をするわけにはいかないので、「貿易」という手段を使って中国の国家戦略を潰しにかかっているわけだ。

そうしないと、中国がやがて半導体産業というコア技術においても宇宙支配においても、そしてやがては軍事においてもアメリカを凌駕し、地球は中国の天下になると、トランプは警戒しているのである。

アメリカ・ファーストにより「再び偉大なるアメリカを取り戻す」と宣言したトランプは、なんとしても「中国製造2025」を潰したい。

「それならば」とばかりに、習近平は日本に近づいてきた。

◆「自力更生」は文革の再来ではない
習近平の「自力更生」を文革(文化大革命)の再来とか、個人崇拝させるための毛沢東返りなどと批判している一部の中国研究者あるいはメディアは、目を覚まして習近平の正体を見抜かなければならない。そもそも文革は「政府(劉少奇国家主席)を倒すこと」が目的だったので、文革にたとえること自体「習近平が政府(習近平国家主席)を倒そうとしている」ということにつながり、中国の何たるかを全く理解してないとしか言いようがない。それを無視して、習近平の権力闘争とか我欲に目を向けさせたいあまり、習近平の正体が見えないように仕向けている。そのような矮小化が、どれほど大きな損害を日本にもたらすか、気が付いてほしい。 

「中国製造2025」を直視しなければ、中国のなんたるかも見えなければ、米中関係も日中関係も、いま「どこにいるのか」が見えないのである。

より多くの日本人が、どうか真実を見る勇気を持ってくれることを、切に望む。

【私の論評】技術の漏洩を防げば「中国製造2025」は最初から頓挫することはわかりきっている(゚д゚)!



これまで中国は「 世界の工場」と呼ばれ、製造業の規模で世界一の地位を占めてきました。しかし、それは、豊富な労働力と低賃金に支えられた労働集約型の製造業でした。

製造プロセスの管理やオペレーションの最適化の面では、ドイツ、米国 、日本などの後塵を拝してきました。

「中国製造2025」は、この状態を大きく変え、2045年に「製造強国のトップ」になることを目指すものです。

そのため、ITやロボット、AIを活用した「技術密集型/知能的集合型」の産業にシフトするといいます。

情報技術と製造技術の融合による製造方法の実現が主軸なので、中国版「インダストリー4.0」と呼ばれることもある。あるいは、「データ駆動型の製造プロセス」と言われることもあります

これに関しては、中国は有利であると思われている点があります。それは、膨大なデータを国家主導でなんの制限もなく取得できるという点です。これは、人権を尊重する先進国ではなかなかできないことです。

最近、フェイスブックが情報流出問題で揺れています。米大統領選挙でトランプ陣営が契約していたデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカ(CA)が、フェイスブック利用者の個人情報を不正収集していたと報道されました。

社会的な批判が高まり、その結果フェイスブックの株価が下落しています。

これは、フェイスブックという一企業の問題ではない。広く社会体制と技術の関係にかかわる問題です。

すでに述べたように、AIの機械学習のためにはできるだけ大量のデータが利用できることが望ましいですが、この点において、日米やヨーロッパ社会が中国と比較して、不利な立場に置かれているのは、否定できない事実です。

この問題をどう解決していくかは、現代技術の最大の問題でしょう。

もちろん、個人の権利の 尊重や多様性の維持は、健全な社会のために絶対に必要なことです。

個人情報の乱用を避けつつ、米国がAIの開発で中国より優位に立つためには、米国社会の持つ多様性を活用する必要があります。

まったく新しい発想のために社会の多様性が必要であることは、例えば、ライト兄弟による動力飛行機の開発が示しています。当時、エンジンを積んだ物体が飛行するのは、不可能と言われていました。ライト兄弟が初飛行に成功した後でさえ、そのような考えが、専門家の間では支配的でした。

このような「異端の」発明は、全体主義国家や大企業からは出てきません。多くの独創的なアイディア発明は 、社会の大勢とは異質の部分から出てくるのです。

PCも、インターネットも、AIも、米国社会の多様性の中から生み出されたものです。共産党独裁政権に支配されている中国社会で生まれたものではありません。

中国は、生み出された技術を進歩させることには優れているかもしれません。しかし、まったく新しいことを生み出す力はありません。

情報技術の場合には、創造性がとりわけ重要な意味を持ちます。したがって多様性は本質的に重要であるはずです。

これは、1980年代に日本と米国の間で生じた問題と似ている。日本は産業技術を改良し、生産工程を改善して能率を上げ、米国製品を市場から駆逐しました。

しかし、長期的に見れば、は新しい産業を発達させることによって成長しました。

いま、それと同じことが米国と中国の間で起ころうとしているのかもしれないです。それも、さらに大きくて深い次元でそれが起きようとしているかもしれません。

ただし、当時の日本と現在の中国とは全く異質です。現在の中国は未だに、民主化も、政治と経済の分離も、法治国家化もなされていません。しかし、1980年代の日本はすでになされていたどころではなく、実施されてからかなり時間がたっていました。

第二次世界大戦前から、現在の中国よりははるかに実施され、戦後さらに実行され、当時の日本では民主化、政治と経済の分離、法治国家化は、わざわざ言うまでもなく、当然のことになっていました。

ここが、日米を含む世界の先進国と、中国の大きな違いです。これらが前提となる社会でなけば、とても多様性が保たれる社会とはなりません。まさに、中国はそのような暑苦しい社会であり、建国以来毎年2万件も暴動があり、2010年あたりからは10万件を超えたといわれています。

この暴動を現在の中国は、社会変革などをつうじて改善・改革するなどということはせず、城管、警察、人民警察を用いて徹底的に弾圧してきました。このような社会で「製造2025」が成功するとはとても思えません。


これがどのように進展していくかを現時点で正確に見通すことは難しいですが、多様性を許容しない中国社会が、どこかで本質的な限界に直面するのは確実です。

そもそも、先進国が豊かになったのにはわけがあります。それは、民主化と、政治と経済の分離、法治国家化を当然のこととしたため、多くの中間層を輩出し、それらが自由に経済・社会活動を行ったため、の結果です。

先進国でも、過去には中国共産党のように、まともな国の体裁をなしおらず、人民を弾圧して意のままにするという傾向がありましたが、国民国家が誕生するにおよび、国家を強くするため、富ませるために、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を進めていったので、国民国家として強くなり豊かになったのです。

中国は豊かになったのは、このようなプロセスを経たわけではありません。多くの人口をかかえ、無尽蔵の市場が存在すると考えた米国などが中国の将来を期待して天文学的な投資をしたからです。そうして、米国などは中国が豊かになれば、先進国と同じような体制に変わることを期待しましたが、その期待はいまのところ完全に裏切られてしまいました。

中国には、国民国家の軍隊すら存在しません。国民国家の軍隊の主な任務は、国民の財産、生命を守ることですが、人民解放軍は、軍隊ではなく共産党の私兵であり、しかも、このブログでも過去に掲載したように、その実体は様々な事業を営む武装した商社でもあります。ただし、最近は習近平が人民解放軍が事業をすることを禁止しています。

人民解放軍は軍隊もどき

このような異常で異様な社会で、新たなライフスタイルが生まれ、それに適したものが製造されたりすることなど想像できません。人民を弾圧するための全く新しいイノベーションはできても、新たな価値を創造して、富をもたらすことなどできません。できるのは、せいぜい、効率を良くすることです。

現在主流である、スマホはAppleが最初に市場に出し、大成功しました。実は、フィンランドのノキアは、IPhoneと同じようなスマホのプロトタイプをAppleより先に、開発していましたが、市場に出す時期を誤り、大失敗しました。

当時の中国では、たとえ経済が現在と同じくらいの水準にあったとしても、スマホなど開発などできなかったでしょう。ただし、すでに出来上がった技術をもとに様々な改善や付加をするということには長けているようですが、自ら新しいものを開発することはできないようです。

米国は、社会の多様性を維持し、さらに発展させ、それが産業社会の新しい発展のために不可欠であることを、実績で示していくべきです。ただし、先進国は中国が技術を盗んだり、タダ乗りすることは、当然のことながら、排除すべきでしょう。

このあたりさえしっかりしておけば、私は「中国製造2025」は失敗すると思います。せいぜい現在私達の頭の中にある様々な新技術をさらに改造して発展させることはできても、それ以上のことは何もできません。

考え見てください。古代にAIがあったとして、大量の奴隷のデーターを集めて、分析したとして、それで何が生まれるというのでしょうか。せいぜい、奴隷が仕事をサボっているかいなかが詳細にわかるだけで、それでは何の富も生み出すことはありません。

しかし、奴隷が市民となり、生活の糧を得て、ある程度以上の余裕を持ち自ら何かを作り出したり、社会に役立つことを考えて、実行したりし、そこにAIが加われば、大きな富を生み出す機会はかなり増えることになります。

中国にはこのような考えはないようです。国家主導で、金をつかってAIを導入し、まともな社会構造も形成せずに、国家主導で人民を鼓舞すれば、何かが変わると信じているようですが、そんなことはありません。

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2018年10月23日火曜日

一帯一路で急接近、日本人が知るべき中国の思惑―【私の論評】日本は対中国ODA終了とともに、対中関与政策をやめ攻勢を強めていくことになる(゚д゚)!

一帯一路で急接近、日本人が知るべき中国の思惑

日中平和友好条約発効40周年の今年、中国の日本に対する柔軟姿勢が目立つ。今月25日には安倍首相が北京を公式訪問し、翌日、習近平・国家主席らと会談する予定だ。中国に向き合っていく上で、欠かすことのできない視点は何か。元海上自衛隊司令官で、安全保障問題が専門の香田洋二さんが解説する。

◆失速する巨大経済圏構想

中国海南省で開かれたボーアオ・アジアフォーラムで演説する習近平国家主席。
「一帯一路」などによる中国主導の新国際秩序作りの推進へ意欲を示した(今年4月)

 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」における多数の途上国のインフラ整備計画のいくつかが挫折し、一部の参加国は中国に疑念を持ち始めるとともに、対中債務に起因する自国社会・経済の崩壊が現実のものとなってきた。一帯一路構想は、中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)とセットで中国の国家威信をかけて推進されてきたが、この5年の経緯を振り返れば、参加国、周辺国そして国際社会に不安と混乱をもたらした面が強い。

 ジャーナリストの福島香織氏が論評しているように、中国にとって本構想は、(1)先進諸国からの新植民地主義との非難、(2)途上国からの悪徳金融業者に例えられる遺恨、そして、(3)中国の銀行や企業の利益回収の見込みがない投資の継続と債務不履行の恐怖、という三重苦の提供元、本音は「厄介者」になりつつあると推察される。

カンボジア南西部の空港建設予定地に立てられた巨大
な看板。「一帯一路」の漢字表記もある(今年8月)

 中国指導層も「現下の好ましくない事案の連鎖反応」は承知していると考えられるが、昨年秋に一帯一路構想を党規約にまで盛り込んだ中国共産党と習近平国家主席(党総書記)が、自らの威信を犠牲にしてまで、現在の路線を変更する公算は皆無と言える。その上、現在の米国との厳しい経済と貿易の対立は解決策さえ見いだせないことも影響し、中国経済の将来に暗雲が漂い始めたことは明白である。オウンゴールとも言える一帯一路構想の失速と、米中の厳しい経済対立がもたらす中国経済へのストレスは、中国を抜き差しならない窮地に陥れさせ始めている。最悪の場合、トランプ米政権は、中国経済を再起不能になるまで追い詰める公算さえ否定できない現状である。
◆米国を孤立させ、覇権狙う

東方経済フォーラムの全体会合で握手を交わす安倍首相(左)
と習近平国家主席(今年9月、ロシア・ウラジオストックで)

 一帯一路構想が行き詰まり、米中貿易摩擦に苦しみ、その影響で人民元が急落する中で中国が起死回生の望みをかけた国が、日本である。それを裏付けるかのように、昨今の日中関係の改善は目覚ましく、両国とも具体的な協力策を模索している。その線上で安倍首相は「今年5月の李克強首相の来日により、日中関係は完全に正常な軌道に戻った」とまで述べている。今月の安倍首相の訪中とあわせ、経済界から大型代表団も訪中するとのことであり、その一部からは我が国企業の一帯一路構想への参画とビジネスチャンス獲得への期待が早くも漏れ聞こえてくる。

 仮に、我が国政府が一帯一路構想への参画を決定するとすれば、それは、瀕死とは言わないまでも、三重苦に苦しみ急速に症状の悪化が進んでいる中国自身及び一帯一路双方の窮状を救うカンフル剤になることは確実である。更に「清廉潔白」な我が国の一帯一路構想への参画が、急速に広がった同構想に対する国際社会の不信感の緩和に大きく貢献する公算は大きい。

 そのような現状の下で我々が認識すべきは、中国が中華思想の下で「中華民族の偉大な復興」を実現するための手段が一帯一路構想であるという現実であり、その結果、生ずる関係国の債務超過による従属国家化などは意に介さないことも明白である。さらに、開発途上国に対する債務によるコントロールに加え、世界規模の一大経済圏を構築することにより、米国と張り合える経済力を獲得して米国と欧州の分断を図り、米国を孤立させて中国が世界の覇者となる有力な手段が一帯一路構想であることも忘れてはならない。
◆「急場しのぎに日本を利用」が本音か

中国漁船を追跡する海上保安庁の巡視船(2013年2月、沖縄県宮古島沖で)=海上保安庁提供

 中国の一帯一路とは全く異なる、自由と民主主義を共通の価値観とする米国、豪州、インドに代表される国々と手を携え、アジア諸国と共に「自由で開かれたインド太平洋」の構築を目指す我が国は、近視眼的な経済上の利益にのみ目を奪われ、国家の本質と目的が水と油以上に異なる中国、特にその一帯一路構想に肩入れすることは,国家百年の計において取り返しのつかない禍根を残すこととなる。同様に米国は、一連の貿易問題を通して明らかになった中国固有の異質性を強く認識したからこそ、先日のペンス副大統領の演説に代表される、妥協のない新たな対中政策を発表したものと考えられる。

 中国の対日接近は、長年の日中対立案件の基本まで立ち返った中国の我が国に対する厳しい立場、つまり、歴史認識や尖閣諸島領有に関わる一方的な主張を根本から変更するものではないことは明白である。それは、中国が陥っている現下の政治と経済の窮状から抜け出るために最も効果的な切り札としての日本を、便宜的かつ一時的に使うことを狙ったもの以外の何物でもない。

 最後に、最近筆者が参加した国際会議における経験を紹介すると、ある中国人パネリストは、「中国は一帯一路構想において何ら困っていない。但(ただ)し、日本が構想に参画を希望するのであれば一切拒まない。それは『アベノミクス』の失敗で低迷し、苦しむ日本経済を救済するビジネスチャンスを日本に与える中国の親心と思いやりである」という趣旨の発言をした。「何をかいわんや」であるが、ここに中国の本音が垣間見えるとともに、これが極めて正直な中国の思惑の表れであろう。

香田洋二氏

元海上自衛隊自衛艦隊司令官 香田洋二

【私の論評】日本は対中国ODA終了とともに、対中関与政策をやめ攻勢を強めていくことになる(゚д゚)!

冒頭の記事の香田洋二氏の記事は、的を射たものと思います。このようなことは、なぜ米国が中国に対して経済冷戦を挑んでいるのか、考えればすぐに理解できると思います。

米国では、歴代政権が保ってきた中国への関与政策が失敗だと認識され、中国に対する警戒心が高まり、トランプ大統領が開始した中国への貿易戦争は、今や超党派による議会レベルの経済冷戦にまでたかまり、これはトランプ政権がどうのこうのという次元を超えて、かなり長期にわたり継続されることになるでしょう。

米国では、米中国交樹立以来40年近く、歴代政権が保ってきた関与政策が失敗だったという判断が超党派で下されたのです。

関与(Engagement)とは、中国が米国とは基本的に価値観を異にする共産主義体制でも、米国が協力を進め、中国をより豊かに、より強くすることを支援し、既成の国際秩序に招き入れれば、中国自体が民主主義の方向へ歩み、国際社会の責任ある一員になる-という政策指針でした。

このブログでも過去に掲載してきたのですが、中国が豊かになれば、先進国並みに民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされると米国はみていたのです。

ところが習近平政権下の中国は米側の関与での期待とは正反対に進んだことが決定的となりました。その象徴が国家主席の任期の撤廃でした。習氏は終身の独裁支配者になることになったのです。

実質的に中国の皇帝となった習近平

近年の中国はそれでなくても侵略的な対外膨張、脅威的な軍事増強、国際規範の無視、経済面での不公正慣行、そして国内での人権弾圧の強化と、米国の関与の誘いを踏みにじる措置ばかりを取ってきました。こうした展開が米側でこれまでの対中関与政策の失敗を宣言させるようになったのです。トランプ政権も昨年12月に発表した「国家安全保障戦略」で対中関与政策の排除を鮮明にしました。
ここ数十年の米国の対中政策は中国の台頭と既成の国際秩序への参加を支援すれば、中国を自由化できるという考え方に基礎をおいてきた。だが中国は米国の期待とは正反対に他の諸国の主権を力で侵害し、自国側の汚職や独裁の要素を国際的に拡散している。
トランプ大統領も2月下旬、保守系政治団体の総会で演説して、米国が中国を世界貿易機関(WTO)に招き入れたことが間違いだったと強調しました。中国のWTO加盟こそ、米側の対中関与政策の核心だったのです。だからトランプ氏は関与政策を非難したわけです。

さらに注視されるのは野党の民主党側でも関与政策の破綻を宣言する声が強いことです。オバマ政権の東アジア太平洋担当の国務次官補として対中政策の要にあったカート・キャンベル氏は大手外交誌の最新号の「中国はいかに米国の期待を無視したか」という題の論文で述べていました。
米国歴代政権は中国との絆を深めれば、中国の国内発展も対外言動も改善できるという期待を政策の基本としてきた。だがそうはならないことが明らかになった。新しい対処ではまずこれまでの対中政策がどれほどその目標の達成に失敗したかを率直に認めることが重要である。
反トランプ政権のニューヨーク・タイムズも2月末の社説で主張しました。
米国は中国を米国主導の政経システムに融合させようと努めてきた。中国の発展は政治的な自由化につながると期待したのだ。だが習近平氏の動きは米国のこの政策の失敗を証明した。習氏は民主主義的な秩序への挑戦を新たにしたのだ。
米国の歴代政権の対中政策は失敗だったと、明言しているのです。

トランプ氏自身、北朝鮮への対処にからみ習近平氏への親しみを口にしたことはありますが、中国への対決の基本姿勢は既に明確にしました。米国のこの動きは総額6兆円以上の公的資金を供与して中国を豊かに、強くすることに貢献してきた日本の対中関与政策にも、決算の好機を与えました。

日本の対中ODAは1979年から開始されましたが、これまで円借款(有償資金協力)は約3兆2079億円、無償援助1472億円、技術協力が1505億円にのぼりました。一部には対中ODAはすでに終了したとの誤解がありますが、終わったのは円借款(08年度で終了)だけで、残りの無償援助と技術協力は今も続いています。

実はここまでは外務省のホームページを見ればわかるのですが、さらにその先には隠れODAとも言うべき対中援助があります。それが、ODAと同時に財務省が始めた低金利・長期間融資の「資源開発ローン」です。こちらもすでに廃止されたとはいえ、3兆円弱になりました。

日本の対中ODAは3兆円と公表されているのですが、それは外務省の関与する公的な援助だけであり、後者の資源開発ローンをカウントしていない数字であります。事実上は日本の対中公的援助は6兆円を軽く突破しているのです。

このODAの終了は、今月26日に行われる安倍総理大臣と李克強首相との首脳会談で合意する見通しです。このODA終了は、もう日中は対等の立場であるとの日本側からの中国側への表明でもあると思います。



私自身は、これは、安倍政権による対中関与政策の終焉を意味するものだと思います。私は、安倍総理は米国に次いで、中国に対して今後は日本も関与政策はやめると伝えるのではないかと思っています。

そもそも、私自身は日本はもっとはやく中国への関与政策をやめるべきでした。本当は、2012年の段階でそうすべきだったのです。2012年といえば、中国による対日本宣戦布告とも受け取れる発表があった年です。これについては、昨日の記事にも掲載しました。

以下に一部昨日の記事から引用します。

日中関係が改善されるのは、良いことのようにもみえますが、決して油断することはできないです。中国は6年前、尖閣、沖縄を奪取するための戦略を策定しました。「広義」での「日中戦争」は、もう始まっているのです。
"
私自身「日中戦争が始まった」という事実に大きな衝撃を受けたのは2012年11月15日のことでした。
私はこの日、「ロシアの声」(現「スプートニク」)に掲載された「反日統一共同戦線を呼びかける中国」という記事を読みました(現在リンク切れ状態になっています)。この記事には衝撃的な内容が記されていました。
・中国は、ロシア、韓国に「反日統一共同戦線」の創設を提案した。 
・「反日統一共同戦線」の目的は、日本の領土要求を断念させることである。 
・日本に断念させるべき領土とは、北方4島、竹島、尖閣および沖縄である。 
・日本に沖縄の領有権はない。 
・「反日統一共同戦線」には、米国も引き入れなければならない。
これを読み、私は「日中戦争が始まった」ことを確信しました。そうして、中国は米国を「反日統一共同戦線」に米国を引き入れようとしましたが、米国はそれに応じなかっために、米中もまもなく戦争状態に入りました。これは、はっきりしませんが、おそらく2016年か2017年頃だと考えられます。
"
「反日統一戦線」に関しては、今日米国がこれに加わらなかったことによって、中国は大きな誤算をしたと思います。

2012年当時の中国は、米国のあらゆる組織や個人に対して工作をして、いずれ米国は間違いなく「反日統一戦線」に加わると確信していたと思います。

しかし、米国はこれには結局加わらず、中国は米国との対立も余儀なくされることになりました。ロシアも韓国もこれに加わるとの発表は未だにしていません。

確かに、当時は米国内では、中国側に籠絡された個人や、組織などもありましたが、それは決して多数ではなかっのです。保守層は無論のこと、リベラル派の中にも中国の挙動に疑問を持つ人は大勢いました。

それが、2016年の米国大統領選挙により、さらに中国に対する疑問は大きくなり、中国をあからさまに非難するトランプ氏が米国大統領となり、昨年12月にトランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」で対中関与政策の排除を鮮明にしました。そうして、それが今日の米国による対中国経済冷戦となり具体的に実行されています。

こうした一連の流れをみていると、やはり日本はODA終了とともに、対中国関与政策をやめ、中国に対して攻勢を強めていくことになると考えるのが、妥当であると考えます。今回、安倍総理の中国訪問時にそれを公にするか否かは別にして、日本はそのような方向に進むだろうし、進まざるをえないと思います。

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2018年10月22日月曜日

【国難突破】習政権が目論む“情報洗脳的世界支配” 日米連携で中国「情報謀略網」解体を―【私の論評】2012年から日中は戦争状態!なるべく多くの国々と同盟関係になることが日本を守る(゚д゚)!

【国難突破】習政権が目論む“情報洗脳的世界支配” 日米連携で中国「情報謀略網」解体を

マイク・ペンス米副大統領が4日、ワシントンでの公園で、かつて米国政府が
したことのない中国非難を展開した。写真はブログ管理人挿入 以下同じ。

 マイク・ペンス米副大統領が4日、ワシントンでの講演で、かつて米国政府がしたことのない中国非難を展開した。

 《中国共産党は、米国企業、映画会社、大学、シンクタンク、学者、ジャーナリスト、地方、州、連邦当局者に見返りの報酬を与えたり、支配したりしている。最悪なことに、中国は米国の世論、2018年の選挙、そして、20年の大統領選挙につながる情勢に影響を与えようとする前例のない取り組みを始めた(概略)》

 衝撃的な率直さと言うべきだろう。しかも、ペンス氏は中国国内の監視体制についても次のように言及している。

 《20年までに、中国の支配者たちは、人間の生活の事実上すべての面を支配することを前提とした、いわゆる『社会的信用スコア』と呼ばれるジョージ・オーウェル(=英作家、全体主義国家の恐ろしさを描いた小説『1984年』が有名)式のシステムを実施することを目指している(同)》

 要するに、中国は世界最強国・米国を、軍事や産業のみならず、大規模な情報工作で大統領選まで蚕食しつつ、一方で「1984年」的な支配網の構築を急いでいることになる。

 ペンス氏は、いずれの戦略目標年限も2020年だとしている。とすれば、これは中国の現執行部が、20年までに情報洗脳的な世界支配をもくろんでいると言っているに等しい。

 対岸の火事でないどころか、ペンス氏の指摘は、日本の「存亡の危機」そのものではないか。

 CIA(中央情報局)とFBI(連邦捜査局)を持ち、世界最強の軍隊を持つ米国がここまで蚕食されているというのだ。すべてにおいて無防備、無警戒な日本の「企業、映画会社、大学、シンクタンク、学者、ジャーナリスト、地方と国の当局者」に、すでに幅広く中国の間接支配網ができていると仮定しないとすれば、その方がよほどどうかしていよう。

 とりわけ、「モリカケ」問題による長期的な疑惑キャンペーンは、日本のマスコミの反保守・反自民の慣習を差し引いても、あまりにも常軌を逸していた。

 私は繰り返し提言しているが、この倒閣キャンペーンについては、情報謀略と、間接協力者らに関して、徹底的に検証すべきだ。

 折しも、外交評論家、宮家邦彦氏が『正論』10月号への寄稿で、中国の諜報への対処を切言し、「外国の諜報員に諸外国なみの厳罰を科すことなどを可能とする『スパイ防止法』の制定を急ぐべきである」と論じている。

 宮家氏は外務省キャリア出身で、穏当な議論を立てる方だが、その氏をして、ここまで言わしめる段階に日本はいたっているのだ。

 日本政府は、あらゆる非難に怯まず、米国と連携して、中国の情報謀略網の解明・解体へと、断固たる一歩を踏み出してもらいたい。=おわり

 ■小川榮太郎(おがわ・えいたろう) 文芸評論家。1967年、東京都生まれ。大阪大学文学部卒。埼玉大学大学院修了。国語や文学の衰退など、日本人の精神喪失に対して警鐘を鳴らす。一般社団法人「日本平和学研究所」理事長を務める。第18回正論新風賞を受賞。著書に『天皇の平和 九条の平和-安倍時代の論点』(産経新聞出版)、『徹底検証 安倍政権の功罪』(悟空出版)など多数。

【私の論評】2012年から日中は戦争状態!なるべく多くの国々と同盟関係になることが日本を守る(゚д゚)!

中国を厳しく非難するペンス副大統領の演説を、米国による中国への宣戦布告であると評する人々もいます。私は、そうは思いません。なぜなら、すでに米中は以前から、戦争状態に入っていたとみなすべきだからです。ペンス大統領の演説は、中国に対する宣戦布告ではなく、すでに戦争状態に入っている両国との戦いに米国は絶対に勝つとの意思表示であると私は思います。

多くの人々は気づいていないようですが、実は日本もすでに、中国と戦争状態に入っています。とはいいながら、最近日中関係が、一見改善されてきているようにみえます。安倍総理は昨年11月11日、ベトナムで習近平と会談しました。雰囲気は、きわめて友好的で、両首脳は関係改善への意欲をはっきり示しました。さらに、今週は安倍総理が中国を訪中する予定です。
日中関係が改善されるのは、良いことのようにもみえますが、決して油断することはできないです。中国は6年前、尖閣、沖縄を奪取するための戦略を策定しました。「広義」での「日中戦争」は、もう始まっているのです。
私自身「日中戦争が始まった」という事実に大きな衝撃を受けたのは2012年11月15日のことでした。
私はこの日、「ロシアの声」に掲載された「反日統一共同戦線を呼びかける中国」という記事を読みました(現在リンク切れ状態になっています)。この記事には衝撃的な内容が記されていました。
・中国は、ロシア、韓国に「反日統一共同戦線」の創設を提案した。 
・「反日統一共同戦線」の目的は、日本の領土要求を断念させることである。 
・日本に断念させるべき領土とは、北方4島、竹島、尖閣および沖縄である。 
・日本に沖縄の領有権はない。 
・「反日統一共同戦線」には、米国も引き入れなければならない。
これを読み、私は「日中戦争が始まった」ことを確信しました。そうして、中国は米国を「反日統一共同戦線」に米国を引き入れようとしましたが、米国はそれに応じなかっために、米中もまもなく戦争状態に入りました。これは、はっきりしませんが、おそらく2016年か2017年頃だと考えられます。
しかし、普通の人がこれを読んでも「確かに衝撃的な内容だが、『戦争が始まった』というのは、大げさだ」と思うでしょう。そう、日本人は「戦争」というと、バンバン撃ち合う「戦闘行為」を思い浮かべます。いや、それしか思い浮かべることができないようです。
具体的な戦闘こそ起きていないが、「情報戦」は展開しており、日中戦争は
実質的には始まったと考えるべき。今や米国に次ぐ軍事費大国に
なった中国と戦闘をせずに勝つために、日本は何をすべきなのだろうか?

実をいうと、「戦争」は「戦闘」に限定されません。むしろ「戦闘」は、広い意味での「戦争」の「最終段階」で起こります。そして実際は、戦闘が起こった段階で、勝敗は決している場合がほとんどなのです。
J国とC国が、同じ物を欲しているとします(例えば島など)。そこで、J国とC国は話し合いをするのですが、埒があかない。それで、C国の指導者の頭の中に、「戦争」という2文字が浮かびます。そう、戦争は、まずどこかの国の指導者の「頭の中」「心の中」で始まるのです。
さて、「戦争」の2文字を思い浮かべたC国の指導者は、翌日J国に軍を送るでしょうか?そんな愚かなことはしません。まず彼は、「戦争に勝つ方法」(=戦略)を考えます。
次に、「情報戦」を開始します。情報戦の目的は、「敵国(この場合J国)は、悪魔のごとき存在で決して許すことができない」と、自国民や全世界に信じさせることです。現在の日米と中国はこの「情報戦」を展開している段階なのです。
まず、自国で「反戦運動」が盛り上がって戦争の邪魔をされないようにしなければならないです。次に、国際社会で敵国の評判を失墜させ、いざ戦争(戦闘)が始まったとき、敵が誰からも支援されない状況をつくる必要があるからです。
「情報戦」の良い例が、1930年代初めにあります。満州問題で日本と争っていた中国は、日本の「世界征服計画書=田中メモリアル(田中上奏文)」という偽書を世界中にばらまきました。それで、非常に多くの人々が「日本は世界征服を企んでいる」と信じてしまったのです 


次に「外交戦」で、自国の味方を増やし、敵国を孤立させます。必要とあれば、「経済戦」を仕掛けます。わかりやすい例は、日本が石油を買えないようにした「ABCD包囲網」でしょう。そして、最後に、必要とあらば「戦闘」し、望みのものを手に入れるのです。
さて、私が「戦争がはじまった」と確信した12年11月15日、中国はどの段階にいたのでしょうか。
日本をつぶす戦略は、すでに立てられていました。そして、ロシアと韓国に「反日統一共同戦線」創設を提案しているので、すでに「情報戦」「外交戦」は開始されていたことがわかります。
私は、決して「誇大妄想的」に「戦争が始まった」と思ったわけではありません。実際、12年11月、「日中戦争」は開始されたのです。ただし、その後、「反日統一共同戦線戦略」は、かなり無力化されています。中国にとって全くの誤算だったのは、米国が「反日統一共同戦線」に入らなかったことです。そうして、結局米中は戦争状態に突入しました。
普通の国が「反日統一共同戦線」のような情報を得れば、即座に対応策を考え始めるでしょう。つまり、対抗するための「戦略」を練るのです。しかし、日本はなかなかそうなりません。
日本では、「平和ボケ病」に冒された左派寄りの人たちと、「自主防衛主義(専守防衛主義)」、さらには「核武装論」を主張する右派寄りの人たちが議論を戦わせています。しかし、いずれも日中戦争に勝つ結果にはつながらない発想です。
平和論者の人たちは、「世界は第2次大戦後、平和になった」と主張します。しかし、新世紀に入って以降も、世界では以下のような戦闘が起きています。
2001年 アフガニスタン戦争が始まった。 
2003年 イラク戦争が始まった。 
2008年 ロシアージョージア(旧グルジア)戦争が起こった。 
2011年 リビア戦争があり、カダフィが殺された。 
2014年3月 ロシアがクリミアを併合。続いて、ウクライナ内戦が勃発した。 
2014年9月 米国を中心とする「有志連合」がIS空爆を開始した。 
2017年4月 米国は、シリアをミサイル攻撃した。 
そして現在、世界は「朝鮮戦争は起こるのだろうか?」と恐怖しています。事実を見れば、「今の時代」は決して「平和な時代」ではなく、逆に「戦国時代」であることがわります。

「平和憲法があれば、戦争は起こらない」「平和主義を守れば、日本は安全」という神話もあります。「平和主義なら日本は安全」というのなら、なぜ中国は、虫も殺さぬ平和主義のチベットを侵略し、100万人を虐殺したのでしょうか

このように「平和ボケ病」は、「戦略的思考」を停止させるようです。彼らによると、「何もしなければ戦争は起こらない」。だから、「戦争に勝つ方法」(=戦略)を考える必要は、まったくないという結論になってしまうのです。

一方、右派寄りの人たちは、自国防衛の強化を主張します。しかし、もはや中国の軍事力は、実際にはまだまだとはいいつつ、現状でも侮れない状況になっています。

16年の中国の軍事費は2150億ドルで、米国に次いで世界2位でした。日本の防衛費は461億ドルで世界8位。中国の軍事費は、なんと日本の4.6倍です。さらに中国は、米国、ロシアに次ぐ「核兵器大国」でもあります。

今から中国に追いつくべく、大金を投じて軍拡するというのは、現実的ではありません。「いや、そんなにたくさんの金はいらない。なぜなら核武装すればいいからだ」という意見もあります。確かに、最貧国の北朝鮮が保有していることからもわかるように、核兵器は「もっとも安上りな方法」かもしれません。

しかし、これも話は簡単ではありません。核兵器の拡散を防ぐ「核拡散防止条約」(NPT)があります。NPTは、米国、英国、フランス、ロシア、中国以外の国の核保有を禁ずる、極めて「不平等」な条約です。それでも、現在190ヵ国が加盟し、世界の安定を守る秩序として、機能しています。

世界には、「NPT未加盟」で「核保有国」になった国もあります。すなわち、インド、パキスタン、イスラエルです。NPTに加盟していたが、脱退して核保有国になった国も、一国だけあります。そう、北朝鮮です。

日本が核武装を決意すれば、NPTを脱退せざるを得ないです。つまり、核武装論者は、「日本は、北朝鮮と同じ道を行け!」と主張しているのです。そんな道を行けば、国連安保理で過酷な制裁を課されることは、想像に難くないです。

日本の核武装論者は、「日本の立場は特殊だ」と主張するのですが、「アグレッシブな核保有国が近くにいる」のは日本だけではないです。

たとえば、核大国ロシアと戦争したジョージアは、自衛の為に核を持つべきでしょうか。ロシアにクリミアを奪われたウクライナは、核を持つべきでしょうか。核大国・中国の脅威に怯えるフィリピンやベトナムは、核を保有すべきでしょうか。

「すべての国は平等」という原則に従えば、「持つべきだ」となるでしょう。あるいは、「すべての国が核を廃棄すべきだ」と。しかし、これらは、いずれも「非現実的な議論」に過ぎないです

結局、「自分の国を自分で守れる体制を今すぐ作ろう」という主張は、とても現実的とはいえないです。では、中国に屈伏するしか道はないのでしょうか。

実をいうと、柔軟に考えることができれば、「中国に勝つ方法」を考え出すのは難しくないです。

日本には、世界一の軍事力を誇る米国という同盟国がいます。この事実について、「米軍に守ってもらうなんて日本は属国に等しい。恥ずべきだ」という意見があります。しかし、冷静に考えて、これは「恥ずかしいこと」なのでしょうか。



たとえば、欧州には、北大西洋条約機構(NATO)があります。これは、29ヵ国からなる「対ロシア軍事同盟」です。そして、内実を見れば、「NATO加盟国28ヵ国は、米国に守ってもらっている」状態です。NATOの中には、英国、フランス、ドイツのような大国もいます。彼らですら、核超大国ロシアの脅威に対抗するため、米国に頼っているのです。

ただ、日本とNATO加盟国の違いもあります。NATO加盟国は、どんな小国でも「NATOに貢献しよう」という意志を持ち、実際に行動しています。

日本の場合、「米国が日本を守るのは当然だが、日本が米国を守ることはできない。なぜなら日本は平和主義国だからだ」というロジックを持っており、長らく、まったく貢献する意志を見せてきませんでした。ただし、小泉総理時代から、少しずつ変わってきてはいます。

これは、日本人に言わせれば「平和主義」である。しかし、米国からは、そう見えないです。

「米国兵が日本のために何万人死んでも、それは当然だ。しかし、日本兵が米国のために死ぬことは、1人たりとも許さない」という大変狡猾なロジックだからです。

それで、安倍総理は「安保法」を成立させ、「集団自衛権行使」が可能になりました。日本は米国を守れるようになったので、もはや「属国だ」と卑屈になる必要はないのです。

また、「いざという時、米国は日本を守りませんよ」と断言する「専門家」も多いです。そうかもしれないですが、実際、日米安保は機能しています。

たとえば10年の「尖閣中国漁船衝突事件」、12年の「尖閣国有化」。これらの事件の直後、日中関係は大いに悪化し、人民解放軍は尖閣に侵攻する意志を見せていました。しかし、どちらのケースでも、米国政府高官が「尖閣は、日米安保の適用範囲」と宣言したことで、中国はおとなしくなりました。

そう、日米安保には、いまだに「中国の侵略を抑止する効果」が十分あるのです。

とはいえ、米国の衰退は著しいです。引き続き、米国と良好な関係を維持するのはもちろんですが、日本は未来に備える必要があります。その「未来の同盟国」とは、将来中国に並ぶ大国になることが確実なインドです。

安倍総理は今、「インド太平洋戦略」を提唱し、トランプ大統領も乗り気です。これは、日本、米国、インド、オーストラリアで、中国を牽制するのが目的です。

とにかく日本が中国に勝つには、一貫した誠実さと努力によって、強い国々を味方につけていく必要があります。具体的には、最重要国家として、米国、インド。次に、EU、ロシア。そして、東南アジア諸国、オーストラリア。これらの国々との関係をますます強固にすることで、日本は守られます。

そうして、安倍総理はこの方向で外交を強力にすすめ、今日多くの国々が日本と同盟関係に入ったり、入りつつあります。

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2018年10月21日日曜日

【日本の解き方】財務省の「パワー」の源泉は税務権力 政権・政治家は怯え…メディアや財界も事を荒立てず―【私の論評】安倍政権は、国税庁と財務省を分離し、互いに別の省庁の下部組織に組み込め(゚д゚)!

【日本の解き方】財務省の「パワー」の源泉は税務権力 政権・政治家は怯え…メディアや財界も事を荒立てず

写真はブログ管理人挿入 以下同じ

消費増税をめぐって、財務省は政権やメディアなどにどうやって力を及ぼしているのか。政権は財務省の意向をはね返すことはできないのか。

テレビなどで筆者が財務省のパワーについて話をすると、「政治家が情けないからだ」と言われることが多い。形式的には正論であるが、その実態をあまり知らないのだろう。

財務省OBの筆者は、財務省のパワーの源は税務権力だと考えている。税務権力は軍事力、警察権力と並んで、国家権力の典型である。こうした国家権力はいうまでもなく強力で、政治学や社会学では軍事力や警察権力はしばしば「暴力装置」と呼ばれる。学問の世界では税務権力は暴力装置から外されることが多いが、筆者は含まれていると考える。

一般的に、政治家、官僚、一般人の間では「じゃんけんの関係」が成り立つといわれる。一般人は選挙があるので政治家に強く、政治家は官僚の上に立つので官僚に強く、官僚は許認可の実務を行うので一般人に強いという「三すくみ」の関係になっているという説明だ。

しかし、財務省はじゃんけんの例外だ。というのは、外局の国税庁を事実上、支配下に置いているからだ。同庁の国税権力を背景とすれば、政治家を脅すことも可能になる。

国税庁

筆者の例であるが、若いときに地方の税務署長をしていた。そのとき、選挙を控えた政治家に税金の督促状が筆者名で出された。この督促状は自動発信だったことを筆者は全く知らなかった。

ところが、その政治家からいきなり筆者のところに電話があり、すぐ金を持っていくというのだ。筆者は事実を知らなかったし、リークするつもりもなかったが、政治家はかなり狼狽(ろうばい)していた。これでわかるように、税務権力は政治家を脅せるのだ。

軍隊や警察はどうかといえば、独立した組織があり、その権力行使は抑制的である。しかし、国税庁の場合、完全に独立しておらず、財務省の下部機関になっている。これは本来の姿ではないが事実だ。

独立した組織なら、国税庁長官には国税庁キャリアがなるべきだが、戦後は一貫して財務省キャリアが就任しているのは、国税庁が財務省の下部機関(植民地)となっていることを示しているといえるだろう。

この税務権力は、マスコミ対策にもかなり有効だ。マスコミには定期的に税務調査が入り、交際費などについて徹底的に調査される。調査された側では、財務省に「忖度(そんたく)」する人も出てくるというのが実態である。検証のしようがないことではあるが、マスコミなどで財務省に不利な発言をすると税務調査が厳しくなるという有識者もいる。

もちろん財界も税務調査に加え、法人税減税や租税特別措置などもあるので、財務省と事を荒立てない方が得策と考える人が多い。

こうしたパワーを持つ財務省を政権・政治家も侮れない。財務省は税務権限の他に、人的ネットワークも凄く、政治家は一目を置かざるを得ないという現状もあるのだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】安倍政権は、国税庁と財務省を分離し、互いに別の省庁の下部組織に組み込め(゚д゚)!

冒頭の記事で、高橋洋一氏は、「政治学や社会学では軍事力や警察権力はしばしば「暴力装置」と呼ばれる。学問の世界では税務権力は暴力装置から外されることが多いが、筆者は含まれていると考える」としています。

税務権力、すなわち現在の日本の国税庁が暴力装置とは、どういことでしょうか。まずは、国税庁には徴税権があること、納税を適正に行わない個人や組織に対して国税庁は強制調査をする権限があり、それで適正に納税が行われていない場合、後から追徴課税をすことができます。

よくテレビでも、ドラマなどて国税庁による査察のシーンが放映されたりします。以下にその典型的なものを掲載しておきます。



国税庁の査察は拒否することはできません。査察官はピストルなどの武器は携行しないものの、こうした強制調査ができる権限か与えらています。これは確かに「暴力装置」の一種と言っても良いでしょう。

そうして、大きな問題なのが、こうした強制調査権を持つ国税庁が財務省の下部組織であることです。

これは、どういうことかといえば、わかりやすく言うと、強制捜査のできる組織が、財務省の下部組織にあるということであり、強制捜査は財務省の意向でもできるということを意味しています。これは、脱税するしないは別にして、すべての個人や組織にとっては、財務省にはなかなか逆らえないと認識させるのに十分です。

さらに、国税庁は徴税する権限があります。それと、財務省は国の財政を計画したり実行する権限があります。これが直接結びついているということは組織上全く良いことではありません。

そもそも、徴税する部署と、国の財政の計画を立案したり、実行に絡む部分が一つの組織になっているということは組織論的に言っても決して良いことではありません。

これは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ただ事ではない財務省の惨状 同期ナンバーワン・ツー辞任 ちやほやされてねじ曲がり…―【私の論評】統治と実行は両立しない!政府は統治機能を財務省から奪取せよ(゚д゚)!
財務省(当時大蔵省)57年入省組の記念写真 佐川氏、福田氏の他片山さつき氏も・・・・・

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみ引用します。
統治と実行の分離は、民間の大企業ならすでに実行されていることです。ただし、大企業に属する人でも、統治に関わる人はトップマネジメントであり、少数に限られますし、中小企業や小規模企業だと、程度の差はありますし時期にもよりますが、企業の仕事のほとんどが実行であり、統治の割合はかなり低く、それこそドキュメント化されることもなく、経営者の頭の中で行われていることが多いです。 
だから、企業は無論のこと政府の統治機能についてもあまり一般の人に理解されていません。学校でもあまり教えられていないようです。大企業でもこれを理解しないトップマネジメントが存在し、度々不祥事を起こしています。 
理想的な政府を目指すなら、まずは財務省の解体により、現在の財務省の統治企画部門と実行部門を完璧に分離し、現在の財務省の統治機能は、財務省から完璧に切り離し政府が担うようにすべきなのです。そうして、なぜ最初に財務省なのかといえば、改革ということでは、財務省が本丸だからです。最初に財務省を改革してしまえば、後は右に習えです。 
そうして、私は現在の財務省が堕落した真の要因は、誤った組織設計や制度設計にあるのであり、ある意味官僚は犠牲者でもあると思います。まさに、高橋洋一氏が言うように、財務省の絶大な権限が、新卒の時には希望に萌えた善良だった彼らをねじ曲げているのです。
このようにこの記事では、財務省が統治と実行を同じ組織が実行していることを指摘しました。統治と実行部分は現在の企業組織、それも大企業であれば、会社法などで様々な規則があり、統治と実行部分が分離されていなければ、上場はできません。

実行部分でも、企画をする部門と、実行する部門では明確に分離されていなければ、やはり上場はできません。日本の財務省は民間組織よりも遅れた組織なのです。

たとえば、上場企業では財務部門と経理部門は明確に分かれて別組織になっていなければなりません。

経理部門は、会社の売上や支払の記帳や請求書を発行する部署となります。小さな未上場企業などでは、財務部と一緒で財形部ということもあります。ただし、経理と財務ではやることが違います。厳密には、経理はお金廻りの書類を扱います。主に伝票や請求書の処理と各種帳票への記載、さらには主計と呼ばれる財務諸表等などをまとめる等の仕事が主な仕事となります。

財務部門はお金を扱いますが、財産の管理と考えた方が良いでしょう。経理が処理した伝票をもとに支払をしたりお金を受け取る等の管理をしています。また、工場の設備や不動産などの管理も行っている場合もあります。わかりやすく言えば出納係りといっても良いでしょう。現金も財産ですから、その出し入れは財務部の管轄です。銀行からの借り入れを行う場合などは、財務部が窓口となります。

経理部門と財務部門が分かれているのには、理由があります。大きな点は不正を防ぐためということもあります。一緒の部署であれば、伝票を起票して支払をしてしまうということが部署内で完結してしまいます。そういったことは、他からの調査が入らないとわかりません。そのため、経理部門と財務部門は分かれています。

以下に、経理と財務の内容を表にまとめておきます。


財務省と、国税庁が同一組織であるということは、企業でいえば、経理部門と財務部門とが同一組織であるのと同じくらい以上なことです。これは、不正を助長しているようなものです。

強制捜査権まで持つ、徴税の実行組織である、国税庁は、発足当時から大蔵省の下部組織でした。国税庁は1949年(昭和24年)6月1日 - 旧大蔵省の外局として設置されました。この時点で、日本政府は組織論的な間違いをおかしていたことになります。

2001年(平成13年)1月6日  中央省庁再編により、国税庁は財務省の外局とななりました。長官官房国税審議官は長官官房審議官に改称となりました。

しかし、結局は国税庁は財務省の外局となりました。組織改編があってもこれでは何も変わりありません。本来は、この時点で、国税庁と財務省は全くの別組織にすへきだったでしょう。

そうして、このことが、政権・政治家は財務省に怯え、メディアや財界も財務省批判で事をで荒立てず、財務省がフェイクと言っても良い財政再建のため増税の必要性など訴えても、誰もそれに真っ向から反対しないという異常事態を生み出しているのです。

まずは、組織上、国税局を財務省から引き離し、それだけだと結局何も変わらないので、国税局を他省庁の下部組織に組み込み、財務相も国税庁が組み込まれた省庁と別組織の下部組織として組み込むべきでしょう。中途半端に他省庁に組み込んだりすると、財務相は他省庁を植民し、結局元通りになります。

安倍政権には、憲法改正だけではなく、このような政府組織の改革・改善も行っていただきたいものです。現在の財務省には、政府の下部組織という本来の地位を遥かに超えた権限が集中しています。これをなんとかしないと、政治主導など永遠にままならないていです。安倍総理は、将来の政府が財務省の軛から開放されるように、任期中にぜひとも、財務省と国税庁の完全分断も行って頂きたいです。

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