2019年5月21日火曜日

追い詰められるファーウェイ Googleの対中措置から見える背景―【私の論評】トランプ政権が中国「サイバー主権」の尖兵ファーウェイに厳しい措置をとるのは当然(゚д゚)!


[山田敏弘ITmedia]



中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の任正非・最高経営責任者(CEO)は2019年1月20日、中国中央テレビ(CCTV)のインタビューで、ファーウェイ排除の動きを強めている米国に対し、こんな発言をしている。

 「買わないなら向こうが損するだけだ」

 ファーウェイの騒動が18年に大きく動いてから、任正非CEOやファーウェイは強気の姿勢を崩していない。

 ただその一方で、ファーウェイはこんな「顔」ものぞかせている。実は最近、同社はメディアに対する「怪しい」PR活動をしていることが暴露されているのだ。

追い詰められたファーウェイの今後は……

 米ワシントン・ポスト紙は3月12日、「ファーウェイ、“お色気攻勢”も意味ないよ」という記事を掲載。この記事の筆者であるコラムニストが、「これまで聞いたこともないようなPR企業から、広東省深セン市にあるファーウェイ本社のツアーの招待を受けた」と書いている。

 さらにコラムニストは、「この申し出によれば、私が同社を訪問し、幹部らと面会し、『同社が米国で直面しているさまざまな課題についてオフレコ(秘密)の議論』をする機会があるという。ファーウェイはこの視察旅行で全ての費用を支払うつもりだとし、さらにこの提案を公にはしないよう求めてきた」と書く。「そこで私は全てのやりとりと、申し出を却下する旨をTwitterで公開した」

 これは、米国のジャーナリストの感覚では買収工作にも近い。またワシントン支局に属するロイター通信の記者のところにも同様の招待が届いていたことが明らかになっている。そちらは、なぜか中国大使館からの申し出だったという。

 ちなみに、ファーウェイは騒動後も、中国政府との密な関係を否定している。それにもかかわらず、大使館が関わっているというのは奇妙である。

 こうした一連の動きを見ていると、ファーウェイが表の発言とは裏腹に、やはり焦りがあったのだと感じる。そして、そんなファーウェイが今度こそ、絶体絶命の状況に陥っている。

 5月15日、ドナルド・トランプ大統領が、「大統領令13873」に署名。これは、「インフォメーションやコミュニケーションのテクノロジーとサービスのサプライチェーンを安全にするための大統領令」であり、サイバー空間などで国家安全保障にリスクがあるとみられる企業の通信機器を米国内の企業が使うことを禁じる。ファーウェイはここでは名指しされていないが、明らかに同社を対象にした措置である。

 さらに同じタイミングで、米商務省もファーウェイと関連企業70社を「エンティティーリスト」という“ブラックリスト”に追加すると発表した。これにより、ファーウェイは米政府の許可を得ることなく米企業から部品などを購入することが禁止になった。

 つまり、このままではファーウェイは米国企業とのビジネスを遮断され、身動きが取れなくなる。米国はファーウェイ、つまり中国に対して、「最後通告」ともとれる措置を行い、その力を見せつけたのだ。

 この騒動、一体どこに向かうのだろうか。そして、米国の措置はどこまで広がるのか。

政府の方針を受けて、米企業も対応を迫られている

 まず大統領令と商務省のブラックリスト入りしたことにより、ファーウェイ製品は使えなくなるのか。特にスマートフォンなどファーウェイ製品のユーザーは日本でも少なくないため、気になっている人も多いだろう。

 現時点で明確なことは、Googleの声明にある。Googleは5月20日、Twitterで「私たちのサービスを利用しているユーザーは、Google Playや、セキュリティサービスであるGoogle Play プロテクトを既存のファーウェイ機器で引き続き使える」との声明を発表している。

Googleのアプリにアクセスできなくなる可能性も

 だが、ロイター通信の取材に応じたGoogleの広報担当者らによれば、ここ数日、国外のネット上で浮上していた同社のスマートフォン用OS「Android」や「Gmail」「YouTube」などへのアクセス禁止も現実味を帯びてきているという。

 同記事で広報担当者は、「私たちは(政府の)措置を順守するし、その影響を慎重に調査している」とも語っている。つまり、現時点ではまだ全ては「確定」しておらず、Googleも詳細を社内で検討しているという。

 また記事にコメントした関係筋は、「ファーウェイはAndroidの公開バージョンのみ利用することができ、Googleが特許権を持つアプリやサービスへのアクセスが不可能になる」と語っているという。つまり、Androidの今後のアップデートが利用できなくなる可能性がある。

 ただ世界的に使われている米国製ソフトウェアは何もGoogleだけではない。マイクロソフトのWindowsなど、数多くの米国製ソフトウェアが存在する。それらはどこまでファーウェイとの取引を続けるのか。今後の動きが注目されている。

 筆者はこれまで、Androidの使用も禁じられるところまではいかないのではないかと思っていた。もちろん、米政府の措置では、そこまで規制を広げることは可能であるが、ファーウェイのスマホやタブレットなどの既存ユーザーが多いことからも、そこまでやってしまえば、Androidの信用、また米企業の信用そのものにも関わるのではないかと考えていた。よって、米政府もさじ加減で、そこまではやらないのではないかと考えていたのである。

 だが現実に、Androidまで禁じる可能性が高まっている。ファーウェイも頭を抱えているに違いない。とはいえ、ファーウェイは、Googleが使えなくなったときのために、独自のOSを開発しているとメディアに語っていたこともある。そのファーウェイOSが実際に開発されているにしても、ユーザーを満足させられるものなのかはまったくの未知数である。

“妥協”して制裁解除したZTEのケース

 この動きを見ていて思い出すのが、中国通信機器大手である中興通訊(ZTE)に起きたケースだ。米政府は18年、ZTEを米国内で活動禁止にしてから、禁止解除の条件としてかなりの妥協を引き出した経緯がある。

 現在のファーウェイ問題の顛末(てんまつ)がどうなるのかを予測する際には、このケースがヒントとなりそうだ。

 17年、米政府はZTEが対イラン・北朝鮮制裁に違反して米国製品を輸出し、米政府に対しても虚偽説明をしたとして米国市場から7年間締め出す制裁措置を発表した。

 これにより、スマホを製造する際の半導体といった基幹部品などを米企業に依存していたZTEは、事実上ビジネスを続けられなくなった。だが、当時話を聞いた米政府関係者はこう語っていた。「結局、ZTEは習近平国家主席に泣きつき、その後、習近平はトランプ大統領にこの措置を緩めるようお願いをした。そこでトランプは、非常に厳しい条件を提示して、制裁を解除したのです。まさにトランプによる『ディール』ですね。これはトランプの手腕としてもっと評価されてもいい」

 米政府は習国家主席の要請に応じ、ZTEへの制裁措置を10年間先延ばしにすることにした。その条件として、ZTEは10億ドルの罰金を支払い、エスクロー口座(第三者預託口座)に4億ドルを預託、さらには、米商務省が指名した監視チームを10年にわたって受け入れることにも合意させられている。

 今回のファーウェイへの強硬措置もこの流れがある。

 つまり、ファーウェイはこれと同レベルまたはそれ以上の妥協をしない限り、今後米企業とビジネスを続けることはできなくなるのではないだろうか。また、中国政府が製造業で世界的な覇権を手にすべく15年に発表した「中国製造2025」の実現のために重要な企業の一つとして、ファーウェイを位置付けてきた中国も、おそらく現在関税合戦で全面衝突の様相にある米中貿易交渉で妥協を強いられることになるだろう。

Googleの言動に感じる、中国への“報復”

 ちなみに、「情報戦争を制するものは世界を制する」という旗印のもと、5G(第5世代移動通信システム)時代の通信機器シェアを広げようとしてきた中国は、ファーウェイに1000億ドルともいわれる莫大な補助金などを与えて育ててきた経緯がある。CIA(米中央情報局)の元幹部は筆者の取材に、「ファーウェイが、中国政府、つまり中国共産党と人民解放軍とつながっていないと考えるのはあまりにナイーブである」と語っている。別の元CIA関係者も「共産主義国家が自国の産業界をスパイ工作に使わないのではないかと思っている記者がいるとすれば、その人は記者失格である」とまで、筆者に述べている。

 米中貿易交渉では、米国は中国に対して、主に次のようなことを求めている。「対米貿易赤字を縮小」「米国からの輸出品への制限の緩和」「中国市場に進出する外国企業に要求しているテクノロジーの技術移転の中止」などだ。またファーウェイやZTEなど中国通信会社に対しては、中国政府のスパイ工作に手を貸すのはやめるようプレッシャーを与えている。

 こうなると、米政府の要求を飲まなければ、ファーウェイは完全に追い詰められ、今後のビジネスもままならなくなるだろう。ここまでくれば、トランプは「ディール」を結ぶまで、引き下がらないかもしれない。

米政府の要求を飲まなければ、今後のビジネスに大きな打撃を受けるかもしれない

 もう1点、この騒動から感じられるのは、Googleも対ファーウェイ、すなわち対中国の措置に協力的であるかのようにすら見えることだ。というのも、Googleにしてみれば、やっと中国に対して「報復」できる時が来た、ということになるからだろう。

 どういうことか。事は2010年にさかのぼる。

 Googleは同年、人民解放軍につながりのある中国系ハッカーによる激しいサイバー攻撃に見舞われていると公表した。そしてそれを理由に、当時ビジネスをしていた中国市場から撤退する可能性があると発表して大きなニュースになった。このサイバー攻撃は米政府関係者の間では「オーロラ工作」と呼ばれている。

 Googleによれば、この攻撃によって同社はハッキング被害にあい、中国に内部システムへ侵入されてしまったという。

ハッキングによって、何が起きたのか

 結局、何が起きたのか。米NSA(国家安全保障局)の元幹部であるジョエル・ブレナー氏は筆者の取材に対して、検索エンジン技術の「ソースコードが中国に盗まれてしまった」と語っている。また米ニューヨーク・タイムズ紙のデービッド・サンガー記者も、中国は盗んだソースコードで「今は世界で2番目に人気となっている中国の検索エンジン、百度(バイドゥ)を手助けした」と指摘している。

 この「オーロラ工作」では、Google以外にも、金融機関のモルガン・スタンレー、IT企業のシマンテックやアドビ、軍事企業のノースロップ・グラマンなど数多くの企業が中国側からの侵入を許したと報じられている。

 Googleはその後、中国本土から撤退し、香港に移動した。この因縁が今も尾を引いているのである。今回の米政府の措置で、Googleが前のめりに見えるのはそういう背景もありそうだ。

 そもそも大手SNSのFacebookやTwitterなども、中国国内では禁止されており、事実上締め出されている。要は、どちらの国もやっていることは同じなのである。

 冒頭のコラムニストは、こう記事を締めくくっている。

 「ファーウェイが、安全保障を守るという理由だけで米政府によって不公平に標的にされていると非難するのはばかげている。中国の共産党が産業政策を武器化している方針こそが非難されるべきだ。米国は単純に現実と向き合い、自国を守っているだけだ。他の国も、後に続いたほうが賢明だ」

 G20(金融・世界経済に関する首脳会合)大阪サミットでこの問題が話題になることは間違いない。日本にとっては、この騒動が、ひょっとすると消費増税の延期を左右する「リーマンショック級」の出来事という認識になる可能性もある。今後の動きから目が離せない。

【私の論評】トランプ政権が中国「サイバー主権」の尖兵ファーウェイに厳しい措置をとるのは当然(゚д゚)!

米国トランプ政権はファーウェイに対してなぜここまで過酷ともいえるような措置をとるのでしょうか。それは、以前もこのブログに掲載したように、本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎず、ファーウェイはこの小道具の開発や運用を担う中国共産党「サイバー主権」の尖兵だからです。

中国の「サイバー主権」を知れば、なぜ米国トランプ政権がこのような措置をとるのか理解できると思います。

「サイバー主権」については以前もこの記事に掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ―【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

この記事から「サイバー主権」に関わる部分のみを引用します。
中国は「サイバー主権」という概念を唱え、それを促進するため、国連に対するロビー活動を行ってきました。インターネット規制を国家に限定すべきだと主張する一方、業界や市民社会を脇役に押しやりました。 
中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。 
同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。 
中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。
同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。 
具体的には情報ネットワークの運営者に対して利用者の実名登録を求めているほか、公安機関や国家安全機関に技術協力を行う義務も明記。「重大な突発事件」が発生した際、特定地域の通信を制限する臨時措置も認めています。

こうした規制強化について、中国は「サイバー空間主権」なる概念を打ち出して正当化しています。2016年12月に国家インターネット情報弁公室が公表した「国家サイバー空間安全戦略」は、IT革命によってサイバー空間が陸地や海洋、空などと並ぶ人類活動の新領域となり、「国家主権の重要な構成部分」だと主張。インターネットを利用した他国への内政干渉や社会動乱の扇動などに危機感を示し、「テロやスパイ、機密窃取に対抗する能力」を強化すると宣言しました。 
また同弁公室は今年3月に発表した「サイバー空間国際協力戦略」でも「国連憲章が確立した主権平等の原則はサイバー空間にも適用されるべきだ」と主張。「サイバー空間主権」の擁護に向けて「軍隊に重要な役割を発揮させる」とも言及しました。

そもそも「サイバーセキュリティ」とは何でしょうか。サイバー空間に対する立ち位置は各国によって千差万別ですが、その概念は大きく二つに分かれます。

一つは、通信・金融・エネルギーなどを始めとする「国民の社会生活や経済活動の基盤となっている国家重要インフラに対するサイバー攻撃」を脅威とみなし、その保護を目指すものです。前提としては、サイバー空間を自由なものとしてとらえており、米国・欧州諸国・日本はこの理念をかまえています。

もう一つは、国家重要インフラへの脅威だけでなく「国内体制を不安定にする情報」も脅威とみなす考え方です。サイバー空間を政府がコントロールすべきとしてとらえ、「その情報が脅威にあたいするかどうか」を決めるのは当該政府であり、その恣意性のもとに「サイバーセキュリティ」が運用されます。中国とロシアはこの理念を国家戦略として明確にかまえており、アラブ諸国・アフリカ諸国もこれに近いスタンスを取っています。

両者の隔たりは大きく、大まかには、米国主導のサイバー空間管理に中国とロシアが共闘して対抗する構図にあります。

たとえば、サイバー犯罪を規制するための国際条約「サイバー犯罪条約」においては、2014年7月の発効から米国・欧州諸国・日本など主要国が相次いで締約するなか、中国・ロシア・アラブ首長国連邦などは継続して反対運動を展開しています。

あるいは、欧米各国が1998年に「ITセキュリティ分野における国際相互承認に関するアレンジメント」を締結し、IT製品のリスク管理を相互に承認するなか、中国とロシアは国内IT事業者の優遇政策を進めており、その主眼は安全保障にあると推測されています。

とりわけ中国においては、2014年12月以降、IT製品業者に対してプログラム設計図の提出、強制監査の受け入れ、「バックドア」の設置義務などの規制が設けられており、外国企業の参入がいちじるしく阻害されています。

この「バックドア」とは、正規には公開されないシステムの「裏口」を指し、対象のシステムを第三者がハッキングしたり盗み見したりする際に使われます。この設置が義務付けられることは、機密保持における大きな懸念となることは言うまでもないです。

 総じて、中国セイバーセキュリティ法を考えるにあたっても、「日本や欧米とはサイバーセキュリティの考え方が、まったく異なる」ことに留意する必要があります。

このサイバーセキュリティ法と時同じくして「ネットニュース情報サービス許可管理実施ガイドライン」「ネット情報内容管理行政執法プロセス規定」なども施行されました。これは微博や微信を使ったニューメディアに対する規制管理強化であり、微信などでメディアアカウントが当局の許可を得ずに、ニュース情報を提供してはならない、ということを規定しています。2017年1月に出されたVPN規制の通達とセットとなって、ネットユーザー、公民がアクセスする情報のコントロール強化に拍車がかかっています。

2020年にはネット人口9億人が予測されている世界最大の中国ネット市場です。中国がこのように、インターネット規制・コントロールに力を入れているのは「サイバー主権」という概念を打ち出しているからです。

つまり、海洋や領土、領空の主権のように、ネットでも中国の主権を主張する、ということなのです。だから、中国でネットを使いたかったら、中国の法律、ルール、価値観に従え、ということです。領域を広げ、主権を主張することが、覇権につながります。それは海洋、宇宙、海底、通貨への覇権拡大の発想とも共通しています。

そうして恐ろしいことには、この中国のネット主権の考え方に、中東諸国など結構賛同する国もあったりします。米国が生み出し米国が支配していたネット世界ですが、中国が世界最大規模の市場を武器に「サイバー主権」を唱え始めたことで、ネット世界全体の形が変わろうとしているのです。

民主と自由を建前にする米国が生み出したネット世界は、国境のない自由な世界という理念を打ち出していました。ところが、中国はこれを真向から否定してネットをむしろ社会のコントロール、管理のためのツールであるとし、実際に信じられないような厳格なネットコントロールを実施しています。

これに対し、米国ネット企業までが、批判するどころか、中国のネットルールに従ってもいいからその巨大市場に進出したいという態度を隠さなくなってきていました。

そう考えると、このサイバーセキュリティ法は、単に中国の不自由なネット環境が一層不自由になった、という意味以上の影響力があります。中国が世界のネット覇権をとるや否や、中国は世界のネットでも「サイバー主権」を主張することになるでしょう。

人民解放軍全面協力で制作された中国のドラマ「熱血尖兵」より

そうして、ファーウェイはこの中国の「サイバー主権」を5Gという小道具を用いて、世界に敷衍(ふえん)するための尖兵なのです。

この脅威を察知したからこそ、トランプ政権はファーウェイに対して厳しい措置をとっているのです。

【関連記事】

習近平氏、窮地! トランプ氏、ファーウェイ“完全排除”大統領令に署名 「共産党独裁国家の覇権許さず」鮮明に―【私の論評】本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎない(゚д゚)!

いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ―【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

2019年5月20日月曜日

米中貿易戦争 検証して分かった「いまのところアメリカのボロ勝ち」―【私の論評】中国崩壊に対して日本はどのように対処すべきか(゚д゚)!

米中貿易戦争 検証して分かった「いまのところアメリカのボロ勝ち」

そして、その先にあるものは…

ついにばれてしまった中国の手口

先週13日に発表された3月の景気動向指数は、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」であった。GDPと景気動向指数はかなりの相関があるので、本日月曜日に発表される1-3月期のGDP速報もマイナスになっている可能性がある。

政府与党は「雇用や所得など内需を支えるファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)はしっかりしている」、「内需、設備投資はいい傾向が出ている」として防衛線を張っているが、雇用、設備投資、所得などは「遅行指数」といわれ、景気の後からやってくるものだ。これらがいいといっても、既に景気の下降局面であることは否定できないのだ。

国内の景気が良くないうえ、これからは海外要因も日本の景気への足かせになるだろう。米中貿易戦争は当面の出口が見えず激化の一途をたどっているし、欧州のブレグジットでも当面の混乱は避けられない。

筆者はこれまで米中貿易戦争について数々の書物を書いてきたが、例えば『米中貿易戦争で日本は果実を得る』では、米中貿易戦争は結果的に中国経済への打撃が大きく、アメリカへの影響は軽微であると分析している。そのうえで、もちろん日本への影響もあるが、上手く振る舞えば漁夫の利もありえるとしてきた。

これは、IMFレポートなどで書かれている国際経済の分析フレームワークを使えば、当然に出てくる答えであるが、最近の情勢を踏まえて、さらに先を読んでみよう。

目先の関心は、いつ頃米中貿易戦争が終息するかにあるだろうが、結論からいえば、当分の間、米中が互いに譲歩することはなかなか考えにくい。

これは、本稿コラムで再三指摘してきたが、米中貿易戦争は貿易赤字減らしという単なる経済問題ではなく、背景には米中の覇権争いがあり、それは、古い言葉で言えば、資本主義対共産主義の「体制間競争」まで遡るものだからだ。

この体制間競争は、旧ソ連の崩壊で決着がついたが、中国は旧ソ連の体制をバージョンアップさせて、再びアメリカに挑んできたともいえる。

たしかに中国はしたたかで、トランプ大統領率いるアメリカは昨今いろいろな国と摩擦を生み出している。アメリカが孤立し、結果として中国が中心に新たな国際社会が成る、という見方もある。

しかし、ここで思い出すのが、フリードマンの『資本主義と自由』だ。同書の第1章「経済的自由と政治的自由」で、フリードマンは経済的自由と政治的自由は密接な関係だとし、経済的自由のためには資本主義の市場が必要だと説いている。

この観点から言えば、政治的自由のない中国では経済的自由にも制約があり、そうである限りは本格的な資本主義を指向できない。結局、政治的自由がないのは経済には致命的な欠陥なのである。それでもこれまで中国は、擬似的な資本主義で西側諸国にキャッチアップしてきたが、トランプ大統領は中国の「窃盗」を見逃さなかった。

つまり、資本主義国に追いつくために、中国はこれまで知的所有権・技術の「窃盗」を行ってきたことがバレたのだ。

勝ち目はないようにみえるが…

米国議会報告書等が、その手口を明かしている。典型的なのは、まず中国への輸出品について、中国当局が輸入を制限する。それとともに、輸出企業に対して「中国進出しないか」と持ちかける。

ただし中国進出といっても、中国企業を買収し、100%子会社にするのではなく、中国企業との合弁会社を持ちかけるのだ。その場合、外国資本の支配権はないようにしておく。そして、立ち上げた合弁企業から技術を盗みだし、中国国内で新たな企業を創設して、その技術の独占を主張するといった具合だ。

このような事例は、決して珍しいわけではないし、また中国が他の先進国に直接投資し子会社を設立してから、投資国の企業や大学などから企業秘密や技術を盗むこともしばしば報告されている。

筆者が「中国の共産主義は旧ソ連のバージョンアップ版である」というのは、中国はソ連のような体制内のブロック・閉鎖経済を志向するのではなく、貿易については世界各国と取引しているからだ。貿易で対外開放しているかのように見せかけたうえ、中国内への投資も自由なように見せかけているのは、旧ソ連とは明らかに異なる。

共産主義の本質は「生産手段の国有化」であるので、完全には対内投資を自由にできない。そこで、中国は実質的に支配する合弁会社を利用するという手段で、見かけ上は中国への対内投資が自由にできるようにしているのだが、これがソ連のバージョンアップ、というわけだ。そしてその隠れ蓑のなかで外国の技術を盗み出すわけでだからなかなか巧妙である。

しかし、アメリカは、中国による知的所有権・技術の「窃盗」を見逃さず、それを梃子にして中国を攻めている。それが、アメリカの対中関税の引き上げにつながっているわけだ。

もちろんそれに対し、中国も報復関税をアメリカに対して課している。しかしながら中国のアメリカからの輸入額が1300億ドル、アメリカの中国からの輸入額は5390億ドルなので、報復関税をやりあっても、中国のほうが先に弾が切れてしまう。このことだけをみても中国には勝ち目はないように見える。

もっとも、報復関税に関して本当に勝敗がつくのは、関税によって自国の輸入製品の価格が上昇するときだ。実は、どのくらい関税をかけられるかではなく、関税の結果、価格が上昇するかしないか、が勝負の本質なのである。

物価指数をみれば一目瞭然

この観点からいえば、アメリカの勝ちは明白だ。というのも、米中貿易戦争以降も、アメリカの物価はまったく上がっていないからだ。インフレ目標2%に範囲内に見事におさまっている。


これは何を意味するのか。アメリカが中国からの輸入品に関税を課したら、関税分の10~25%程度は価格に転嫁されて、結果、価格上昇があっても不思議ではない。しかし、それでも物価が上がっていないということは、関税分の価格転嫁ができていないのだ。それは、中国からの輸入品が、他国製品によって代替できているということだ。価格転嫁ができなければ、輸出側の中国企業が関税上乗せ分の損をまるまる被ることになる(一方アメリカ政府は、まるまる関税分が政府収入増になる)。

中国の物価はどうか。中国では、食品を中心として物価が上がっている。つまり、価格転嫁が進んでいるのだ。



これで、(現時点では)貿易戦争はアメリカの勝ち、中国の負けということになる。

もっとも、中国がアメリカからの輸入品(農産物)に関税をかけ続ければ、そのうちアメリカの輸出農家も影響を受けるだろうともいわれる。しかし、その場合には、アメリカ政府は輸出農家に何らかの形で補助金を出せばいい。なにしろ関税収入があるので、補助金対策の財源には困らないからだ。

崩壊、が見えたワケ

それでも、中国は負けを認めるわけにはいかないから、「wait and see」(当面注視)と言い続けざるを得ない。この「wait and see」は、トランプ大統領が好む言葉で、これを中国は負け惜しみで使っているが、持久戦になれば中国にとって不利であるのは間違いない。

これをやや長期的な視点で見ると、前述の体制競争論にあるように「自由のない共産主義体制下においては、経済成長は難しい」という結論が導き出される(再確認される)ことになるだろう。

さらに中期的にみても、脱工業化に達する前に消費経済に移行した国は、一人あたりの所得が低いうちには高い成長率になるものの、結局先進国の壁を越えられない......という「開発経済の限界」が中国にも当てはまることになるかもしれない。これが中国にもあてはまるならば、次の10年スパンで中国の成長が行き詰まる可能性が高いだろう。

かつてレーガン米大統領は、1980年代初頭に「力による平和」を旧ソ連に仕掛け、それがきっかけになり、旧ソ連の経済破綻、旧ソ連の崩壊を10年で引き起こした。

筆者には、トランプ大統領の対中強硬姿勢が、かつてのレーガン大統領の対旧ソ連への強硬姿勢にダブって見えるのだ。

トランプ大統領は、中国の知的所有権収奪と国家による補助金を問題にしている。もちろん、中国はこれらを拒否しているが、それも当然。なぜならこれを拒否しなければ、中国の社会主義体制が維持できないからだ。中国の一党独裁体制の下で進められた政策を放棄すれば、それは体制否定にも成りかねない。

つまり、この貿易戦争は、中国国内の政治構造にも大きく影響を与えるだろう。中国は広大な国土をもつ国なので、日本では想像ができないくらいに中央と地方の関係は複雑である。

そのなかで、これまで経済発展のためには、ある程度地方分権を容認せざるを得なかったが、習近平体制になってから、逆に中央集権化の流れを加速している。そして知的所有権収奪と国家補助金については、中央政府とともに地方政府もこれまで推進してきたが、それを「アメリカの追及が厳しいから、もうやめよう」と習主席が認めると、地方政府からの突き上げをくらう可能性が高い。だから、習主席としては絶対に認められないのだ。

ということは、米中貿易戦争はしばらく続くことになるが、続けば続くほど、中国にとっては不利で、結局、習近平体制の基盤を揺るがすことにもつながるかもしれない。こうしてみると、ひょっとしたらトランプ大統領は中国の現体制の崩壊まで、この貿易戦争を続けるつもりなのかもしれない。

【私の論評】中国崩壊に対して日本はどのように対処すべきか(゚д゚)!

上の記事などを読むと、中国が崩壊するのは今後10年から20年とみて、日本などそれに対する準備をすべきと思います。

中国の過去の帝国が崩壊したときには、国内が、血で血を洗う内戦に突入しました。中華皇帝が倒れると中国は何時もとんでもない内戦になり人口が激減しました。

今回は、単に中国が歴史を繰り返すというわけにはいかないでしょう。何しろ現在の中国は核を保有しています。

通常想定されている核戦争は、双方に核を持っている者同士の戦いです。中国の過去の内戦は、核のない時代でも、多数の人間が死ぬ戦争ものでした。それも、人民を多数巻き込んだものでした。

もし、仮に現在の中国で内戦状態になったとき、核戦争にならない保証はありません。核抑止とは、国対国において成り立つことで、現在の中国が内戦状態になったときには、に通用するとは限らないです。

もともと中国でいう国とは、都市部のことで農村のことではありません。国という漢字を見るとわかるように壁に囲まれた都市の中に玉があります。これが、中華の国の概念です。過去においては、都市を殲滅できないから、外で戦っていました。

しかし現代は、ロケット戦争の時代です。外で殺し合いをしなくてもボタンを押すだけで都市を破壊できます。
現代の中国は、米国のように敵の居場所を特定する手段を持っています。独裁国家は、頭を倒せば崩壊します。これほどわかりやすい体制はないですし、これほど分かりやすい標的はないです。

日本には、毎年中国から大量の黄砂がやってきます。現在でも、PM2.5を含む黄砂のせぃで、体調不良を訴える人が大勢います。さらに、最近では黄砂がなくても、PM2.5が中国から到達していることもわかっています。もし中国が最悪の事態になったとしたら、協力な放射性物質が日本に襲ってくることにもなりかねません。



さらに、もっとも警戒しなければならなのは難民でしょう。無論中国が内覧状態になった場合当初は、中国から北朝鮮やロシアに大勢の難民が押し寄せるでしょう。しかし、北朝鮮やロシアは最初は多少は受け入れても、後には軍事力でこの難民の流入を防ぐでしょう。

その頃韓国が経済的に疲弊していれば、多数の韓国人難民や中国人難民が入り乱れて、日本に押し寄せてくる可能性もあります。そうなると、日本も対岸の火事どころではなくなります。

中国が緩やかな連邦国家等に移行できるのなら、分裂した多くの中国が存在した地域の国々と日本は、国交を結ぶことが出来るかもしれません。多くの民族が、独自に国の色を出す世界ができれば、中国は大繁栄するでしょう。

しかし、そのような簡単なことではすまないでしょう。中国には中華思想などという厄介なものがあります。新たな指導者はまた、習近平のように皇帝を目指すでしょう。

そうなれば、人が入れ替わるだけであり、何も変わらないことになります。放置しておけば、中国は必ずそのような道を歩むことになるでしょう。

それを防ぐために、米国などが直接介入しても、困難でしょう。しかし、それを防ぐ方法はあります。それは先日このブログでも掲載したように、中国内のいくつかの地域を互いに競わせるようにすることです。

競わせるとはいっても、無秩序に競わせるのではなく、かつて西欧列挙が歩んできたように、民主化、政治と経済の分離、法治国家を実現して国を富ませ、その結果国力を強化できたような形で競わせるのです。そうして、互いに拮抗した新たな秩序を形成するのです。

この考えの詳細については、ここで再び掲載すると長くなってしまいますのて、当該記事のリンクを以下に掲載します。
天安門事件30年で中国は毛沢東時代に逆戻りする予感アリ―【私の論評】毛沢東時代に逆戻りした中国はどうすべきなのかを考えてみた(゚д゚)!
紅衛兵に髪を掴まれて引き回される彭真の画像
米国や他の先進国がこのようなことを実施して、現在の中国に民主的な国家が成立する可能性はあると思います。しかし、それ以前に現中国が崩壊するときには、とんでもないことになることが予想されます。

もし、中国が崩壊するような事態になると、今の体制に肩入れしている人間は、全員、標的になります。日本の政権与党がタイミング悪く、中国に肩入れしていたとしたら、日本も標的にされかねません。

中国が崩壊ということになれば、当然のことながら、中露対立が再燃するでしょうし、インドとも対立が激しくなるでしょう。ベトナムや北朝鮮も行動を起こすかもしれません。

中国には中東のような宗教という支えがないです。結局は、俺が、俺がの世界です。過去においては、中華皇帝が入れ替わるとき、前の皇族は一族郎党が殺されました。さらに、民族浄化も起きたこともあります。それらを一挙にかたずける方法が現代にはあります。とにかく、現中国が崩壊すれば、周辺国に大迷惑を掛けることになることは大いにありそうです。

これにどのように日本は対処すべきなのでしょうか。どうすれば、最悪の事態を避けられるか今から真剣に考えておくべきです。

2019年5月19日日曜日

「丸山が電話に出ない。孤立させるのではなく、再生のチャンスを」丸山穂高議員への辞職勧告に元経産官僚が涙の訴え―【私の論評】辞任勧告決議はどう考えても行き過ぎ(゚д゚)!

「丸山が電話に出ない。孤立させるのではなく、再生のチャンスを」丸山穂高議員への辞職勧告に元経産官僚が涙の訴え


17日、日本維新の会、立憲民主党、国民民主党、共産党、社会保障を立て直す国民会議、社民党が丸山穂高議員に対する辞職勧告決議案を国会に提出した。丸山議員を除名処分とし、辞職を促してきた維新の協力要請に応じた形だ。一方、共同提案を持ちかけていた与党側は慎重な姿勢で、態度を保留した。

その丸山議員に対し、同日放送のAbemaTV『AbemaPrime』で「まず、一緒に診断を受けてみよう。一人じゃない。アルコールの問題を抱えている人は日本に何百万人といる。そういう仲間と一緒に道を歩んでみないか」と涙を浮かべて呼びかけたのが、元経産官僚の宇佐美典也氏だ。宇佐美氏は丸山議員と同じく東京大学経済学部に学び、経済産業省でも1年先輩に当たる。


今回の決議案の内容について宇佐美氏は「これまでの辞職勧告決議は、違法行為や不正行為が伴っていた。しかし今回は言論に対してのもの。もちろん戦争発言は憲法の趣旨に反しているが、単に糾弾するだけの決議案なら、言論の自由を保障した憲法の趣旨に反していると思う。私は彼に責任を取らせないといけないと思うし、辞職すべきだとも思っている。ただ、辞職した後の道が見えなければ辞職はできない。そして、彼の問題発言の背景には、お酒の問題があったことは間違いない。そこも含め、"あなたの将来のためにも議員を辞めたほうが良い"というメッセージを伴った決議案にすべきだった」と指摘する。

「今まで週刊誌に報じられたものもあるが、周りが隠してきたものもある。お酒を飲むと強気になってトラブルを起こすというようなことは学生時代から聞いていたし、経産省に入ってからもお酒絡みのトラブルで2か月間くらい普通の仕事をしていない時期もあった。経産省を辞めた原因の一つだと思う。2016年に禁酒宣言をしたのでやめたと思ったわけだが、今回のことで飲んでいたことが期せずして分かった。彼がアルコール依存症かどうか、医師の診断もないので現時点ではわからないが、飲み始めると止まらない"ビンジドリンカー"であることは間違いないと思う。本人は反省していると言っているが、本当に覚えているかどうかは疑問だ。"いつでもやめられるんだ"と言って、自分が依存症であることを否認するケースは多い。だから映像や音声が残っていたのは、彼にとっては良いことだと思う。プロが介入し、治療や回復に向けて説得するチャンスだ。ここで孤立させてしませば、その働きかけが困難になってしまう。少なくとも、医師の診断を受けかせてから除名処分にするべきだったと思う」。


経産省を退職後、ギャンブル依存症問題もコミットしてきた宇佐美氏。自身もギャンブル依存症に悩んだ経験を明かし、涙を堪えながら、次のように訴えた。

「私は大学4年生の時にパチンコにハマってしまい、経産省の内定をもらっていたのに留年してしまった。それでも経産省は"働きながらでいいから残りの単位を取れ。仕事で返してくれればそれでいい"とチャンスを与えてくれた。だから僕なりに克服し、どこまで仕事で返せたかは分からないが、一生懸命に働いた。そして、それが今に繋がっている。依存症の人というのは、周りに相談しても、大抵の場合"お前がしっかりしないから"と言われてしまう。でも、そんなことは本人が一番よく分かっているし、後悔もしている。だからこそ、蜘蛛の糸を垂らすことが組織として大事だと思う。やはり依存症の人が希望を断ち切られたら、依存していた対象に戻るしかない。日本維新の会は今まで"ちゃんと依存症対策をやるからカジノを作っても大丈夫"と言い続けた党。大嘘じゃないかと思う。身内の中にそういう疑いのある人が出てきたの場合どう対応すればいいのか、という模範を示し、社会の理解を深めるべきだ。それなのに維新は真逆のことをやっている。除名し、批判し、辞職勧告した。彼を排除し、どんどん孤立に追い込んでいる。今、丸山に電話しても通じない、出ない。どうしろというのか。もう酒を飲むか死ぬかしか道がないかもしれない。それは自民党も同様だ。あるいは、ギャンブル依存症を根拠に、国会でさんざんカジノに反対してきたは野党はどうなのか。かつて堀江メール問題で辞職した永田寿康という議員がいた。彼もそういうチャンスが与えられず、精神病になって最終的には自殺してしまった。彼は民主党の議員だった。立憲民主党の人たちは、あのときに何も学ばなかったのか。責任と向き合わせると同時に再生のチャンスを与えるということが依存症対策で最も大事なこと。やはりここは維新が中心となって、辞職勧告決議案を修正するなりして、ちゃんと責任をもって対応してほしい」。


テレビ朝日政治部デスクの足立直紀氏は「国会議員というのは有権者に与えられた身分なので、まずは自分で律しなさいというのが与野党問わず基本。だからこそ維新も除名にした段階で一段落、"あとは自分で辞めろよ"ということだと思っていた。ところが批判が止まなかったことから、都構想実現への流れを断ち切られたくないという考えがあったと思う。松井一郎代表に"何とかならないか"と言われた遠藤国対委員長が動き出し、立憲に相談が行き、立憲が野党に持ちかけるという形でトントン拍子で決まっていった。果たして野党の中で、議員の身分を奪うという重要性について、どれだけどこまで吟味したのかというのは甚だ疑問に感じているし、維新としても除名したから関係ないではなく、ちゃんと責任を取るところまで面倒を見なければいけないと思う」と話す。

その上で与野党の温度差について「今までに辞職勧告決議案が可決された議員は4人いるが、いずれも辞めなかった。丸山議員も辞めないとなると、国会の権威にも関わる。また、自民党が慎重なのは、国会議員の身分が憲法でも保障されている以上、それを奪うということは非常に重いという認識があり、これまで刑事事件に発展するようなケースでしか提出していない。丸山議員は小選挙区で6万人以上の有権者に選ばれた国会議員。発言自体は問題だが、辞職勧告にまで持っていくのは違うだろうという考えだ。もしそれが乱発されるようなら、今後も失言やスキャンダルで出すことになってしまう。与党であれば、野党の議員に対し"あいつ辞めさせたいから出しちゃえ"ということも可能になる。だから自民党としては慎重なスタンスだ」と説明した。


 作家の乙武洋匡氏は「国会議員であるべきはないとしっかりと意思表示をし、彼にも理解させ、私人に戻ったところで、"ただ、お前の人生、このままほっとくわけにはいかない。党職員という立場でやり直さないか"というのが然るべき順序なのではないか。それをせずに、いきなりなんとかしようというのは、有権者の理解も得られないのではないか」と話していた。

決議案の扱いは、週明けの21日に議院運営委員会で協議される見通しとなっている。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

【私の論評】辞任勧告決議は、どう考えても行き過ぎ(゚д゚)!

丸山議員の北方領土発言についてロシア側が怒っているというが、9年前、当時のメドベージェフ・ロシア大統領が「敗戦国のくせに領土を返せという国がある。戦争で捕ったものは戦争でしか解決しない」と言っています。ロシアはそれを十分分かっていてて丸山発言を非難しています。ロシアとはそういう国なのです。

日本のマスコミや、識者などは、このことはすっかり忘れているようだし、いかに丸山氏の発言の場がまずいとはいえ、ロシアの大統領が同じような発言をしてもあまり騒がなかったにもかかわらず、丸山議員が似たような発言をすれば、大騒ぎというのは、本当に典型的な二重基準だと思います。

ただ、お花畑の人々が多い日本では良く理解されていないようですが、丸山議員も、メドベージェフ大統領も実は国際法上の常識を語っただけなのです。

武力で奪われた領土や自国民を武力で取り返す事は国際法上認められています。しかし、これは、裏返せば「戦争で奪われた領土は、戦争で奪い返すしかない」ということです。

丸山議員は、この当たり前のど真ん中を言いたかったのかもしれません。ただし、報道されている内容をみるとたしかに不適切なところもあったことがうかがえます。

以下に発言の経緯を北海道 NEWS WEBから引用します。
【「戦争」発言の経緯】
日本維新の会の丸山穂高議員は衆議院の沖縄・北方問題特別委員会の委員で、「ビザなし交流」の訪問団の顧問として今回、北方領土を初めて訪問しました。 
丸山氏は今月11日午後4時すぎから国後島の古釜布でロシア人の家庭を訪問して食事しながら交流を深める「ホームビジット」に参加しました。 
この際、丸山氏は「たくさん酒を飲んだ」と13日の記者会見で説明しています。 
丸山氏は午後7時ごろ宿泊施設に戻ったあと、施設にある食堂で団員と話をしていたということです。 
訪問団の同行記者によりますと、午後8時ごろ、国後島出身で訪問団の団長を務める大塚小彌太さんに2人の記者が取材していたところ丸山氏が割って入り、記者の質問をたびたび遮ることがあったということです。 
そして丸山氏は、大塚さんに「戦争で島を取り返すことには賛成か反対か」「戦争しないとどうしようもなくないか」と、大きな声でただしたということです。 
これを受けて、12日昼、宿泊施設の食堂に団員が集まり、参加者の1人が「大きな声を出したり、話を遮るという行為はビザなし訪問という活動以前に社会的に許されないことだ」と指摘し、丸山氏に対し謝罪を求めました。 
これに対し丸山氏は「かなり酒が入っていて大きな声を出したり、話を妨げたりしてしまった。ご迷惑をおかけしたことをおわびします」と述べ陳謝しました。 
丸山氏は根室港に戻ったあと、13日、記者会見で、戦争で島を取り返すことの是非などを尋ねた発言について「団員にタブーなく考えを聞く中で、団長にも聞いたが、それが最善とは思っていない。交渉の中で国益を勝ち取るのが当然の話で、真意が伝わらなかった」などと述べました。 
その後、13日夜、東京都内で記者団に対し、発言をした際、酒を飲んでいたことを認めた上で、「誤解を与えてしまうような極めて不適切な発言で、特に元島民の方に対し、非常に配慮を欠いた形だった。一般論として話を聞いたつもりだったが、私自身がそう考えていると誤解を与えてしまうような状況だった」と述べました。
その上で、丸山氏は、「私の発言で、国益を損ねかねない状況になれば、真意ではない。 
心から、今回の発言を謝罪し、撤回させて頂く」と述べました。
以下に丸山議員の問題発言の録音を含む動画掲載します。



いずれにしても、場所柄をわきまえてはいなかったと思います。これが、国会の中での議論であったり、少なくともビザなし交流の場でなければ、私としては何の問題もなかったと思います。

動画で、発言内容を聞いた限りでは、丸山議員は「北方領土を取り返すために戦争すべきである」と直接言っているわけではないことがわかります。それに、酔っていたこともあって、話が途中で終わっているのか、それても途中までしか録音されていなのかはをかりませんが、丸山議員が単純に、戦争をして北方領土を奪い返すと思っているとは到底思えません。

当然言いたいことは他にあったと思います。私としては、おそらく私が以前このブログ記事に掲載したように、中国が新冷戦で弱体化したときには、かつての中ソ対立のように、中露対立が再燃し、中露国境紛争が再燃する可能性があり、そうなると当然のことながら、ロシアは弱体化するはずであり、そのときこそが、北方領土交渉の好機であるというものに近いことを考えているのではないかと思います。

ここでは、詳細はに述べません。興味のあるかたは、以下に当該記事のリンクを貼っておきますので、そちらをご覧になってください。
対ロ交渉、長期化色濃く=北方領土の溝埋まらず―【私の論評】北方領土は今は、返ってこなくても良い(゚д゚)!
    河野太郎外相は16日(日本時間17日)、ロシアのラブロフ外相と、
    平和条約交渉の責任者に就いてから2度目となる会談に臨んだ。

丸山議員には、本当は何を言いたかったのかを明らかにするための説明責任があると思います。

以上のような経緯から、私自身は、日本維新の会から除名処分を受けたこと自体は致しかたないとこがあるとは、思いますが、議員辞職決議までもっていくのは非常に問題だと思います。

自民党が丸山氏への議員辞職勧告に慎重なのは、氏の発言を擁護してのものではないです。罪を犯したわけでもないのに、簡単に議員辞職勧告が出されるようになれば、将来への禍根を残す可能性があるからです。

自民党が決議案に賛成して可決されると、今後は決議案が失言をした閣僚らに対する野党の追及材料になりかねないです。一方、野党も安易に考え過ぎです。今回決議案が通って、実際に丸山議員に勧告が出されば野党側にも将来不都合なことが起こりえます。

たとえば、野党議員が不適切な発言を行えば、今度は与党側から、辞任勧告決議案が出され野党議員に辞任勧告が出されることになる可能性もでてきます。この場合、与党は多数派ですから、確実に勧告が出されることになります。野党議員は、この危険性に気づいていないようです。日本の将来を考えない無責任な態度は、政治家としての資質を疑われても仕方ないです。

これにより、何度も辞任勧告を出された議員は、それこそ議員をやめなくても、レイムダックになってしまうということも十分に起こりえます。政敵を倒すために、政権与党がこの手を頻繁に使うようになれは、野党自体が最初から無力になってしまう危険性もあります。このような危険性に気づかない野党は非常に問題だと思います。

【関連記事】

対ロ交渉、長期化色濃く=北方領土の溝埋まらず―【私の論評】北方領土は今は、返ってこなくても良い(゚д゚)!

天安門事件30年で中国は毛沢東時代に逆戻りする予感アリ―【私の論評】毛沢東時代に逆戻りした中国はどうすべきなのかを考えてみた(゚д゚)!

孤立する金正恩氏 中国すら制裁履行で…“プーチン頼み”も失敗か 専門家「露、大して支援はしないだろう」 ―【私の論評】ロシアは、朝鮮半島の現状維持を崩すような北朝鮮支援はしないしできない(゚д゚)!

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達―NYタイムズ―【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い(゚д゚)!

【危機の正体】“弱体政権”の影で中ロがやりたい放題!解散で強い政府を―【私の論評】国家を理解していない、現代のニッポン人には、これを解決することは出来ない!

2019年5月18日土曜日

天安門事件30年で中国は毛沢東時代に逆戻りする予感アリ―【私の論評】毛沢東時代に逆戻りした中国はどうすべきなのかを考えてみた(゚д゚)!

天安門事件30年で中国は毛沢東時代に逆戻りする予感アリ

北朝鮮よりも悲惨だった時代に…









改革開放の行き着いた果て

2018年末で、改革開放40周年を迎えたことを共産主義中国は喧伝しているが、6月4日に30周年を迎える天安門事件については、沈黙を通すどころか、積極的な言論統制を行うであろう。インターネット上の関連記事も、削除されたり、嫌がらせを受けたりするはずだ。

何しろ「クマのプーさん」の関連記事を徹底的に検閲する国である。習近平氏がプーさんに似ていることから、「隠語」として使われていたらしい。

改革開放40年、天安門事件30年、どちらもこれからの中国に大いに影響を与える重要な歴史的事実だが、まず改革・開放がようやく軌道に乗り始めたばかりの時期に、天安門事件という先進諸国を敵に回すような「大問題」を引き起こしてしまった原因について考える。

なぜ天安門事件が起こったのか?

意外に意識されていないことだが、ロシア革命は、1917年に2回起きており、最初の2月革命は、自由主義者が中心の「民主国家」を目指すもので、ブルジョア革命とみなされていた。この革命が成功していれば、ロシア(ソ連邦)は、もしかしたら先進資本主義・自由国家の一員となっていたかもしれない。

ロシア2月革命 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

ところが、この臨時(革命)政府に内紛が勃発し、同じ年の「10月革命」によってソヴィエトの権力が支配的となり、世界初の社会主義(共産主義)政権が樹立されたのである。当時のロシア人民は、先進資本主義や民主主義よりも、皇帝支配下の農奴制への回帰とも言える共産主義(社会主義)を選択した。

そのソヴィエトの強い影響下で1949年10月1日に成立した共産主義中国(中華人民共和国)において、資本主義が激しい攻撃を受けて、党幹部などの「走資派」と指さされた人々が紅衛兵などにリンチを受けるシーンを見たことがある読者も多いだろう。

いうまでもなく、中華人民共和国は、日本が1945年に受け入れたポツダム宣言の相手国、中華民国(現・台湾、民主主義中国)とは別の国である。

実はこの毛沢東が行った「文化大革命」と呼ばれる集団リンチ・暴行・処刑運動が、鄧小平をはじめとする「八大元老」と称される人々の脳裏に「恐怖体験」のトラウマとなって焼き付いたことが、後の天安門事件の大きな原因になった。

文革開始時に政府や党の要職にあった彼らは失脚し、毛沢東が動員した若者たちによって激しく糾弾された。例えば鄧小平は共産党総書記を解任されて労働者として地方に送られ、学生だったその息子は取り調べ中の「事故」で身体障碍者となる。

また、紅衛兵に髪を掴まれて引き回される彭真の画像は世界に衝撃を与え、習近平現国家主席の父親である習仲勲は、長期の監禁生活を送った。

紅衛兵に髪を掴まれて引き回される彭真の画像

改革派と学生運動が連携して保守派に牙を剥いたときの恐怖を考えると、長老たちが天安門で起こったデモに過剰反応して大事件となったことも、ある程度、納得できる。

鄧小平が、ようやく軌道に乗り始めた改革開放政策を危機に陥れ、諸外国から絶縁されるリスクを冒してまで、天安門広場で数千人(西側推定)もの中国人民を戦車などでひき殺して虐殺した過剰反応は、このようなトラウマに原因がある。

そうして、もう1つ言えることは、一党独裁の共産主義中国では「党の存続・繁栄」が中国人民の幸福よりもはるかに重要であるということである。

絶対王政における王家が、国民の幸福よりも王家の存続・繁栄を気にかけるのと同じだ。改革・解放の立役者である鄧小平もその点は意見を同じくする。彼は決して民主主義者でも、自由主義者でもない。

改革・解放によって「共産党一党独裁」が脅かされるのならば、「改革・解放などやめてしまえ!」というのが中国共産党の基本方針であり、毛沢東暗黒時代への回帰を目指す習近平氏の政策がまさにその典型である。

鄧小平だけが可能だった改革開放

まず、共産主義一党独裁のままでの「市場経済の導入」は、鄧小平という超人だからできたことである。この点については当サイト1月9日の記事「客家・鄧小平の遺産を失った中国共産党の『哀しき運命』を読む」を参照いただきたい。

我々は、すでに40年にわたる改革・解放の成果を目の当たりにしているから、当然のように思われているが、改革開放が始まった40年前は東西冷戦の真っ最中で、共産主義国家が資本種後の象徴とも言える「自由市場」政策を取り入れるなどということはまったく考えられなかった。

今では、そのあまりの非効率さのゆえに「絶滅危惧種」となっている5ヵ年計画などの「計画経済」が当時の共産主義国家の基本理念であり、党が「指導する」という共産主義思想にも合致していた。

その中で鄧小平が、毛沢東に蹂躙され、現在の北朝鮮よりもひどい状態であった中国を復活させる起死回生の手段として採用したのが「改革開放」である。

1978年12月に開催された中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議で提出されたのが始まりだが、その後しばらくの間、中国の国民は冷ややかな目で見ていた。

なぜなら毛沢東時代の1956年から57年に共産主義中国で行われた政治運動「百花斉放、百家争鳴」の結末を知っていたからである。

当初、「共産党に関する自由な意見を募集中」ということで始まったこの運動に賛同し、大学教授をはじめとする多くの国民が意見を述べた。ところが、後に方針が転換され、この時の共産党に対する批判を理由に多くの国民が粛正された。

最初、中国人民が「共産党の指導など気にせずに、自由に商売をやってください」と言われたときに「例の反体制派あぶり出し作戦だな」と思ったのも無理は無い。

その後、鄧小平の懸命な努力で徐々に改革開放政策が浸透したのだが、その過程で不平等や腐敗の蔓延などの問題も生じてきた。その時に起こったのが、1989年の天安門事件である。

鄧小平

これは、鄧小平が主導する改革開放に対する痛手であったが、共産主義中国の人権問題に対する非難は「反日政策の強化」で欧米の目をそらした。さらには、1992年に行われた「南巡講話」で中国国民に再度呼びかけたことが効を奏し、その後の爆発的な経済成長を生み出した。

そもそも、北朝鮮よりも貧しい(改革開放初期と同時期の北朝鮮は、地下資源などで意外に潤っていた)状態からスタートしたのだから、その成長ぶりは天文学的である。

ただ、同じことを北朝鮮に期待している欧米の投資家は良い結果を得ないだろう。金正恩氏とトランプ氏の交渉がうまく決着し、北朝鮮版・改革開放が始まったとしても、「共産主義一党独裁と自由市場」という相反するものを鄧小平のようにうまく操れるはずが無く、結局とん挫するはずである。

また、習近平氏以前は一応、鄧小平路線を保っていたので、1997年の鄧小平没後も経済は順調に拡大し、2008年の北京オリンピックで頂点に達した。

共産党のための中国が鮮明になった

しかし、習近平氏の時代に入り、輝かしい鄧小平の遺産は次々と破壊され、毛沢東暗黒時代への回帰色が鮮明になった。

ここで長い歴史を振り返れば、中華世界(中国大陸)では反乱・革命や異民族の征服によって200~300年ごとに王朝の交代を繰り返しているが、各地の統治機構はずっと継承されて中央と人民の橋渡し役となってきた。

中国がモンゴルの植民地であった「元」の時代にも、統治機構はあくまで中華世界の伝統的なものであった。

士大夫が支える地方の社会機構こそ共産主義革命を経ても続く伝統であり、過去の戦乱を乗り越えて社会を維持してきた根幹といえる。

革命を完遂するには、社会の隅々に残るこれら伝統を根こそぎ破壊する必要があり、そのためには、良識や教養と呼ばれているものすら邪魔になる。

そこで文化大革命の革命の初期に標的とされたのはまさに旧思想、旧文化、旧伝統、旧習慣と名指しされた中国社会の支柱そのものであった。

実利主義によって経済の建て直しを行う組織や人々(走資派と呼ばれた)、伝統的な価値観や文化を継承して社会の安定を図る人々は、全て社会主義革命を後退させる敵であり打倒すべき階級と認識しなければならないというわけだ。そうした人々は「牛鬼蛇神」という庶民にわかりやすい悪役のイメージで糾弾された。

しかし、そのように、かつて毛沢東暗黒時代に走資派と呼ばれた人々や、中華社会の伝統的価値観を持つ人々こそが「改革開放」において重要な役割を果たした。市場経済を立ち上げたり、世界中に広がる華僑ネットワークをフルに活用したのも彼らだ。

               1984年10月1日に中国建国35周年のイベントで「こんにち、
                小平さん」の横断幕を掲げ、鄧小平が主導する改革開放を
                 歓迎する意を表した群衆。
 

その鄧小平をはじめとする中国繁栄の恩人たちをないがしろにし、毛沢東暗黒時代に回帰しようとする習近平氏は、共産主義中国をかつての北朝鮮並みの「暗黒時代」に引き戻そうとしているといえる。

習近平氏が愚かなのも原因の1つかもしれないが、より根本的には、「中国の経済的繁栄よりも共産党一党独裁の方が重要である」ということだ。

筆者は、アリババの創業者、ジャック・マー氏の突然の引退がその路線転換の象徴だと考えている。

<主要参考文献>人間経済科学研究所HP・藤原相禅研究レポート「六四天安門事件30周年を前に文革の意義を考えてみる」

【私の論評】毛沢東時代に逆戻りした中国はどうすべきなのかを考えてみた(゚д゚)!

ブログ冒頭の大原の記事には、以下のようなくだりがありました。
ロシア革命は、1917年に2回起きており、最初の2月革命は、自由主義者が中心の「民主国家」を目指すもので、ブルジョア革命とみなされていた。この革命が成功していれば、ロシア(ソ連邦)は、もしかしたら先進資本主義・自由国家の一員となっていたかもしれない。
私もそう思います。現在の先進国は、フランスのような過激であったか、英国のようにもっと穏健であったにしても、ある程度犠牲をはらって民主化するという道をたどり、さらに様々な経緯を経て現在に至っています。

その過程において、先進国は民主化だけではなく、政治と経済の分離、法治国家化を実現し社会構造変革を行い今日に至っています。日本も、明治維新後に急速にこれを実施し、世界の列強に仲間入りました。

まさに、今日「民主国家」といわれている国々と、中国・ロシアや他の発展途上国とはここに大きな差があります。

今日「民主国家」と呼ばれる国々は、どうして民主化、政治と経済、法治国家化の道をすすめたかといえば、個々の事情は各国で違うところがありますが、当時のヨーロッパでは、強国がいくつかあり、それらの国々が富国強兵策をとっており、他国に国力で劣ってしまっては、他国に征服されるという危機感があったからだと思います。

軍事力も国の富が土台になっています。経済がある程度は良くないと強い軍隊は持てません。国を富ますためには、一部の富裕層だけや政府が努力したとしても限界があります。

国を富ますことは、多数の中間層が、自由に活発に社会経済活動を行える体制を整えてはじめてできるものです。

だからこそ、先進国は先進国になる前に、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を行い、社会構造変革をなしとげ多数の中間層を輩出し、これらが自由活発に社会経済活動を行える体制を整えたのです。そうして、経済を富ませて、軍事力を強化したのです。無論、西欧では、民主化とはいっても、白人だけのものでしたが、それでも国力を増すことはできました。

日本も明治維新をなしとげ、当時の西欧なみに、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を成し遂げたからこそ、今日先進国の一端を担うことができているのです。

ロシアや中国はこのプロセスを欠いて、経済だけ発展させることに成功しました。ロシアは、ソ連時代に敗戦国ドイツからの科学技術を導入したこと等により、発展することができました。

中国は、主に海外からの巨額な投資を得て、発展することができました。しかし、両国とも西欧や日本にみられるような、社会構造改革は行われませんでした。そのため、今でも両国は遅れた社会構造がそのまま温存されています。

       中国には選挙制度はないが現在のロシアにはそれがある。
       ところがロシアはとても民主国家と呼べる状況ではない


ソ連は、結局社会構造改革をしないまま、冷戦による疲弊も手伝い崩壊しました。ロシアがその後を引き継ぎましたが、軍事的には侮れないですが、今日その経済規模は、韓国を若干下回るほどの規模しかありません。

先進国は、中国が経済的に豊かになれば、先進国が過去に行ったような、社会構造改革を実行して、先進国のような体制になると信じて、中国の動向を見守りましたが、結局それはなされずに今日に至っています。

そうして、現在は中国もソ連のように、社会構造変革ができないまま、経済は衰退しつつあるところに、米国から貿易戦争を挑まれています。

このブログでも過去に何度か述べてきたように、この貿易戦争はやがて、本格的な冷戦にまで発展し、中国が体制を変えるか、経済的に他国に影響を及ぼせないくらい経済が衰退するまで、続けられることになります。

ブログ冒頭の記事で、大原氏が語っているように、「中国の経済的繁栄よりも共産党一党独裁の方が重要である」という理念を変えることはないでしょから、中国は他国に影響を及ぼせないくらい経済が弱体化するしかないようです。

私は、経済が弱体化した後の中国は「図体だけが大きい、アジアの凡庸な独裁国家になり果てる」と過去の記事で何度か主張してきましたが、これがまさしく、冒頭の記事で大原氏が語っている「毛沢東時代に逆戻り」ということだと思います。

もし中国がそのような状態となった場合、どうすれば良いのかという問題があります。先進国も中国には経済発展してもらいたいとは思っているのでしょうが、その結果過去の中国がどのようになったかを考えれば、単純に経済支援や技術協力などできないと思います。

私は、現在の中国の版図がいくつかの国に別れて、かつて西欧諸国が富国強兵のために、互いに競い合っていた時代のような環境ができれば良いと思っています。

互いに競い合い、分裂した国々が、富国強兵でしのぎを削るのです。相手をしのぐため、民主化と、政治と経済の分離、民主化を成し遂げ、社会構造改革を実現して、中間層を多数輩出させ、彼らが自由に社会経済活動ができるようにして、各々の国が自国を富ませるように仕向けるのです。

これにより、中国ははじめて民主的国家もしくは国家群になることができるかもしれません。そうして、この競争にロシアも加わるべきだと思います。

このような競争を経れば、ユーラシア大陸の中国とロシアと大きな領域が、民主主義国家に生まれ変わるかもしれません。それには最低でも数十年という年月が必要かもしれません。しかし、それを待つ価値は十分にあると思います。

経済が衰弱し、他国に影響力を及ぼせないまで疲弊した中国やロシアよりは、世界にとってもこのほうが良いのではないかと思います。

米国は、たとえ冷戦で中国に勝利したとしても、その後に何をどうするのかを今から考えておくべきです。そのまま放置しておけば、中国は疲弊したままで、世界経済にも良いことは一つもありません。

ただし、米国が直接干渉することは、良い結果を招くことはないと思います。しかし、互いに競争させるように仕向けることはできると思います。そうして、日本をはじめとする他の先進国もそのように仕向けることに協力すれば、意外とうまくいくかもしれません。

そうして、そう仕向けることが、ソ連に返り咲こうとするロシアを強く牽制することになると思います。

【関連記事】

習近平氏、窮地! トランプ氏、ファーウェイ“完全排除”大統領令に署名 「共産党独裁国家の覇権許さず」鮮明に―【私の論評】本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎない(゚д゚)!



米中貿易戦争「中国のボロ負け」が必至だと判断できる根拠を示そう―【私の論評】中国は米国にとってかつてのソ連のような敵国となった(゚д゚)!

2019年5月17日金曜日

習近平氏、窮地! トランプ氏、ファーウェイ“完全排除”大統領令に署名 「共産党独裁国家の覇権許さず」鮮明に―【私の論評】本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎない(゚д゚)!


トランプ大統領

米国が警戒する背景には、次世代通信規格「5G」の到来がある。

 5Gは、現在の4Gの100倍とも言われる速度での通信を可能にし、あらゆるものがインターネットにつながる。共産党独裁国家である中国が5Gを「支配」すれば、安全保障への影響ははかりしれない。トランプ政権は、同盟国にも「ファーウェイ排除」を要請している。

 こうした、トランプ氏の対中強硬姿勢には、党派を超えて支持が広がっている。

 米民主党の大物、チャック・シューマー上院院内総務はツイッターで、「中国にタフな姿勢を貫け」と投稿し、トランプ氏の決断に賛同した。米世論調査会社ギャラップが4月下旬に実施した世論調査で、トランプ政権の支持率は過去最高の46%を記録した。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「米中貿易戦争は、世界制覇をめぐる権力闘争といえる。習近平国家主席が提唱した『中国製造2025』が実現すれば、欧米や日本のハイテク産業は壊滅し、世界経済の覇権は完全に中国共産党に握られる。自由も人権も、法の下の平等もなくなる。トランプ政権は『断固戦う』との国家意思を示した。今回の大統領令署名は、同盟国にも強いメッセージを発した形になった」と語った。

 米国が警戒する背景には、次世代通信規格「5G」の到来がある。

 5Gは、現在の4Gの100倍とも言われる速度での通信を可能にし、あらゆるものがインターネットにつながる。共産党独裁国家である中国が5Gを「支配」すれば、安全保障への影響ははかりしれない。トランプ政権は、同盟国にも「ファーウェイ排除」を要請している。

 こうした、トランプ氏の対中強硬姿勢には、党派を超えて支持が広がっている。

 米民主党の大物、チャック・シューマー上院院内総務はツイッターで、「中国にタフな姿勢を貫け」と投稿し、トランプ氏の決断に賛同した。米世論調査会社ギャラップが4月下旬に実施した世論調査で、トランプ政権の支持率は過去最高の46%を記録した。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「米中貿易戦争は、世界制覇をめぐる権力闘争といえる。習近平国家主席が提唱した『中国製造2025』が実現すれば、欧米や日本のハイテク産業は壊滅し、世界経済の覇権は完全に中国共産党に握られる。自由も人権も、法の下の平等もなくなる。トランプ政権は『断固戦う』との国家意思を示した。今回の大統領令署名は、同盟国にも強いメッセージを発した形になった」と語った。

【私の論評】本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎない(゚д゚)!

トランプ米大統領は15日、安全保障上の脅威があると判断した外国の通信機器の使用を禁じる大統領令に署名しました。次世代通信規格「5G」ネットワークの主導権を米国と争う中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)排除が念頭にあり、米商務省は同日、ファーウェイに対して米製品を許可なく販売することを禁じる措置を発表しました。

このブログでは、以前も5Gについて掲載しました。その記事の中では、5G問題の本質は、
"中国の「サイバー主権」を囲い込むこと"であると掲載しました。

このことは、多くの識者がそのようにとらえているようです。そうして、冒頭の記事の藤井厳喜氏も、それに近いようなことは述べています。しかしなぜか「中国のサイバー主権」については直接は述べていません。他の識者も中国の「サイバー主権」については5Gの問題について直接関連付けて述べる人はいないようです。

このことが、多くの人々のこの問題に関する認識を若干弱めているのではと思います。当該記事のリンクを以下に掲載します。
いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ―【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

この記事から「サイバー主権」に関わる部分のみを引用します。

中国は「サイバー主権」という概念を唱え、それを促進するため、国連に対するロビー活動を行ってきました。インターネット規制を国家に限定すべきだと主張する一方、業界や市民社会を脇役に押しやりました。 
中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。 
同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。 
中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。
同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。 
具体的には情報ネットワークの運営者に対して利用者の実名登録を求めているほか、公安機関や国家安全機関に技術協力を行う義務も明記。「重大な突発事件」が発生した際、特定地域の通信を制限する臨時措置も認めています。

こうした規制強化について、中国は「サイバー空間主権」なる概念を打ち出して正当化しています。2016年12月に国家インターネット情報弁公室が公表した「国家サイバー空間安全戦略」は、IT革命によってサイバー空間が陸地や海洋、空などと並ぶ人類活動の新領域となり、「国家主権の重要な構成部分」だと主張。インターネットを利用した他国への内政干渉や社会動乱の扇動などに危機感を示し、「テロやスパイ、機密窃取に対抗する能力」を強化すると宣言しました。 
また同弁公室は今年3月に発表した「サイバー空間国際協力戦略」でも「国連憲章が確立した主権平等の原則はサイバー空間にも適用されるべきだ」と主張。「サイバー空間主権」の擁護に向けて「軍隊に重要な役割を発揮させる」とも言及しました。
そもそも、インターネットを構築したのは米国であり、その影響は避けられないです。中国のネット検閲技術も米国企業が協力したとされています。中国当局にはインターネットの情報を完全にコントロールできないことへのいらだちがあるようです。サイバー空間主権を掲げることで、領土内の決定権は中国にあると強調したいのでしょう。

そうして、「サイバー主権」は2017年に発表されたことと、5G問題は2018年あたりから、表面化したため、両者は互いに関連付けられることはあまりありせんが、これは不可分に結びついています。

というより、本質は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその道具に過ぎないともいえます。

この記事より、5G問題に関する部分を以下に引用します。
今後世界は5Gを中心として、オープンモデルの世界と、クローズドモデルの世界に分断されていく可能性が大です。クローズドモデルは闇の世界となることでしょう。 
私自身は5Gの問題の本質はここにあると思います。日米などの先進国は、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進することによって、中間層を多数輩出させ、彼らに自由な経済・社会活動を保証することにより、国富を蓄積して国力を増強しました。このようなことを実現した先進国では、インターネットは当然オープンなものと受け止められているのです。
しかし、中国にとっては5Gは、まず自国内での「サイバー主権」を確実に実行するための道具なのです。そうして、中国は次の段階では、世界の通信秩序をつくりかえようとしているのです。

もともと、米国がつくりだしたインターネットは、軍事的なものでした。当時はあり得ることと認識されていた、世界中が核兵器で破壊されても、通信インフラが多少でも残っていれば、世界中と連絡がとれるということが、当初の目的でした。

しかしこれが、軍事目的のほかに、学術面で使用されるようになりました。このオープンなシステムを用いて、従来では考えられなかった用途が考え出されました。

たとえば、学術誌で有名だったケミカル・アブストラクトがインターネットを介して、情報を提供するようになりました。

ケミカル・アブストラクトは、最新の化学物質の組成や性質を掲載したものですが、当初は冊子体は非常に大きく(1年で厚さ数メートルとなる)なるものでした。

ケミカル・アブストラクツ(冊子)の表紙

多くの化学者は、新たな化学物質を合成した場合、この冊子を検索して、自分の開発した物質が、本当に新しいものであるかどうかを確かめました。しかし、このような冊子であることから、更新に時間がかかり、たとえその冊子に掲載されていなくても、他の学者がすでに開発していたなどということもしばしばありました。

多くの化学者が自分では、ノーベル賞級の発見をしたつもりでも、たまたま冊子に掲載されていなかっただけで、実は他の学者がとっくに発見していたということもありました。

しかし、これが現在では、すべてデータベース化されていて、インターネットで検索できるようになっていて、オンラインで申請し要件を満たしていれば、すぐに新たな発見がデーターベースに掲載されるようになりました。

現在の化学者は、日々このデーターベースで検索していて、自分の発見が本当に新しいものであるか、そうではないかを検索することができます。これは、インターネットが普及するまでは考えられないことでした。

このように、インターネットの学術利用が普及していきました。そうして、次の段階では、一般の人もつかえるように、インターネットの商用利用がはじまり、今日に至っています。

このような歴史をたどった、インターネットは今日でも、基本的にオープンな仕様になっています。

しかし、中国はこのオープンなインターネットを「サイバー主権」なる主張をもとに、自分たちに都合の良いものに作り変えようとしているのです。その尖兵が5Gなのです。

こう考えると、5G問題は、単に技術上の問題であるとか、米国と中国の覇権争いなどという単純なものではないと理解できると思います。

基本的に、自由でオープンなインターネットを自分たちの都合の良いように作り変え、中国共産党の統治の正当性をより確かなものにしようとすることを許さない米国との対立というのが、5G問題の本質なのです。

もともと米国で開発されたインターネットは、当初は軍事目的だったものの、今日では自由でオープンな特性を活かし、社会の重要なインフラとなっています。

しかし、中国はこれをつくりかえ、まずは自国内で情報を政府が一元的に管理可能なものにつくりかえようとしています。さらに、中国の覇権の及ぶ他国においもその国の政府がインターネットを一元的に管理できるようにすることを目指していることでしょう。さらに、将来は、世界の情報を一元的に管理しようとの目論見も当然あることでしょう。

これからの世界は、中国の通信モデルと既存のモデルのせめぎあいになることが考えられます。ここは、なんとしても米国に勝利してもらい、通信インフラの世界を中国の都合のようにつくりかえることを防ぐべきです。

インターネットが中国の都合の良いようにつくりかえられてしまえば、世界は暗黒の闇になります。世界中がジョージ・オーウェルが描いた世界「1984」になってしまうかもしれません。これだけは、米国の覇権がどうのこうのという前に、絶対に避けるべきなのです。

この問題は、トランプ大統領からすれば、米国の信じる理念と、中国の信じる理念との対決なのです。

トランプ大統領がファーウェイ“完全排除”大統領令に署名したのは、背後にこのようなことがあることを理解すべきでしょう。本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎないのです。単なる技術上の問題とか、米国と中国の覇権争いだけのようにみてしまうと、本質がみえなくなります。

【関連記事】

いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ―【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!



2019年5月16日木曜日

野党破滅も!? 衆参W選、最短「6・30」断行か 識者「安倍首相、G20でのリーダーシップが最大の選挙運動に」―【私の論評】安倍総理は、令和元年に平成年間には一度もなかった衆参同時選挙で大勝利して財務省を沈黙させる(゚д゚)!


安倍総理(左)と麻生副総理兼財務大臣(右)

米中貿易戦争の激化による世界経済の失速を警戒して、日経平均株価は14日、一時2万1000円を割り込んだ。内閣府が13日に発表した3月の景気動向指数の基調判断も6年2カ月ぶりに「悪化」に下方修正された。こうした現状を受け、安倍晋三首相が10月の消費税増税を延期する可能性が指摘され、悲願の憲法改正の是非も加えて「国民の信」を問うため、今夏の参院選に合わせた「衆参ダブル選」の断行が取り沙汰されている。注目の「決戦日」(投開票日)について、最速、「6月30日」というスケジュールもありそうだ。


 「(2007年参院選の惨敗で)政治は安定を失い、とうとう、『悪夢のような民主党政権』が誕生した」「このような状況を再び招いてはならない。歯を食いしばり、夏の参院選を勝ち抜かないとならない」

 安倍晋三首相は14日、盟友である麻生太郎副総理兼財務相率いる麻生派(志公会)が都内で開いた政治資金パーティーでこう語った。参院選勝利への並々ならぬ決意が伝わった。

 麻生氏も「参院選を断固勝ち抜き、安倍政権のど真ん中で『輝く日本』をつくる」といい、「自民党結党以来果たせなかった憲法改正は、残された大きな課題だ」と、安倍首相と共通する改憲への意欲も示した。

 日本の経済政策を牽引(けんいん)する2人だが、パーティーでは世界経済の懸念材料である米中貿易戦争には触れなかった。

 ただ、麻生氏は同日の閣議後の記者会見で「(世界の)覇権というものを意識して考えないと。(米中の争いは)そんなに簡単に決着するものではありません」と語った。

 確かに、ドナルド・トランプ米政権は「中国が知的財産権を侵害している」として、制裁措置を発動している。中国の横暴を放置すれば、米国のハイテク技術は盗まれ続け、経済優位性は損なわれ、安全保障上の脅威となり、中国に覇権を奪われかねない-という強い危機感があるのだ。

 米国はすでに、輸入額の半分近くの2500億ドル(約27兆4000億円)分に25%の追加関税を課しているが、中国は対抗して13日、米国からの輸入品600億ドル(約6兆6000億円)分の追加関税率を最大10%から同25%に引き上げると発表した。これに対し、米国は13日、輸入品3000億ドル(約33兆円)分に最大25%の追加関税を課すと発表した。

 日本経済も当然影響を受ける。前出の基調判断が「悪化」に転じたなかで、米中の「関税制裁合戦」が過熱すれば、厳しい局面を迎える。

 安倍首相が「外的要因」を背景に、消費税増税の再々延期や、憲法改正の是非などを名分に、「伝家の宝刀」を抜くこともありそうだ。

 では、決戦のタイミングはいつになるのか。

 公職選挙法によると、参院選は改選議員の任期満了(7月28日)から「30日以内」と規定されている。投開票日は日曜日が通例であり、6月30日、7月7日、14日、21日の4パターンから選択が可能だ。


 一方、衆院選は公選法で「解散の日から40日以内に行う」と規定されている。

 これまで、通常国会の会期末解散で「7月4日公示-21日投開票」が有力視されていたが、ジャーナリストの安積明子氏はいち早く、「6月30日投開票」説をネットで発信した。

安積氏は「永田町で、特に野党が『6月30日』説に色めき立ち、慌てている」といい、続けた。

 「6月28、29両日には、大阪でG20(20カ国・地域)首脳会議が開かれ、世界各国から要人が集まる。安倍首相が議長としてリーダーシップを発揮すれば、メディアでも大きく報じられる。最大の選挙運動にもなる。野党は候補者不足など、壊滅する可能性がある」

 安積氏の予想通りなら、参院は6月30日から少なくとも「17日前」に、衆院も「12日前」までには公示日を迎え、選挙戦に入ることになる。

ジャーナリストの安積明子氏

 政府・与党は「常在戦場だから」(閣僚経験者)と、衆参ダブル選への覚悟を決めつつある。

 自民党の二階俊博幹事長は13日の記者会見で、衆参同日選について「安倍首相が判断すれば、党として全面的にバックアップし、対応する用意はある」と発言した。

 安倍首相は14日の経済財政諮問会議で、日本経済の実態について、「このところ、輸出や生産の一部に弱さが見られており、先行きも海外経済の動向などに十分、留意する必要がある」と、警戒感をにじませた。

 今月20日には1~3月期の国内総生産(GDP)の速報値も発表される。月内には、政府が独自の景気認識を示す月例経済報告など、経済指標の公表が相次ぐ。

 こうしたなか、トランプ大統領が25~28日に国賓として来日する。安倍首相は国内経済の現状を踏まえたうえで、日米首脳会談などで米中貿易戦争の展開などを把握し、最終決断を下すことになりそうだ。

【私の論評】安倍総理は、令和元年に平成年間には一度もなかった衆参同時選挙で大勝利して財務省を沈黙させる(゚д゚)!

増税見送りもしくは、凍結を公約として、衆参同時選挙をする可能性が高いことについては、このブログでも過去に何度か解説しました。そのため、ここではこれについては、解説しません。詳細を知りたい方は、この記事の一番下のほうに、【関連記事】を掲載してありますので、そちらをご覧になってください。

衆参同時選挙については、野党画をも相当危機感を感じているようです、国民民主党の小沢一郎氏は14日夜、民放のBS番組で、野党勢力の結集ができていない状況では、衆参同日選挙の可能性があり、野党側が敗北すると指摘したうえで、比例代表では野党の統一名簿を作成すべきだという考えを重ねて示しました。

この中で、国民民主党の小沢一郎氏は、「結集ができていない、今の野党の状況なら、『衆参ダブル選挙』はありうる。このままの状況なら、野党が立ち直れないくらいの壊滅的な敗北になる」と指摘しました。

そのうえで、小沢氏は、「いわゆる『オリーブの木』で、1つの傘のもとで戦う状態にならないと勝てないし、そういう状態になれば、圧勝する」と述べ、参議院選挙の1人区と衆議院選挙の小選挙区で、野党側の候補者を一本化し、比例代表では野党の統一名簿を作成すべきだという考えを重ねて示しました。

一方、小沢氏は、党内でのみずからの処遇について、「2か月後は選挙だから、ポジションは『あっちだ、こっちだ』と言っている場合ではない。『勝利するために、どうしたらいいのか』という話で、ポストをどうこうする必要はない」と述べました。

果たしてダブル選はあるのでしょうか。こればかりは安倍首相の心一つですが、少なくとも衆院を解散するのは、選挙を有利に戦えると踏んだときです。その判断材料の一つになるのが野党の動向です。

周知の通り、前回の衆院選で旧民進党は分裂し、当時の感情的なしこりが野党結集を妨げる一つ要因となっています。立憲民主党と国民民主党が主導権争いで対立する場面も多く、この間、野党が政権交代の受け皿になってきたとは言い難いです。

産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、結党直後に11・6%だった立憲民主党の支持率は昨年2月の15・6%をピークに下落傾向に入り、今月6、7両日実施の調査では9・6%でした。国民民主党の支持率は1・6%で、野党第一党と第二党を合わせても10%程度にしかなりません。

一方、安倍内閣の支持率は、前月比5・2ポイント増の47・9%で上昇傾向にあります。

野党共闘のあり方にも課題があります。4月21日に投開票された衆院沖縄3区補選では勝利したのですが、同日の大阪12区補選は共産党系候補への支援のあり方をめぐり、足並みが乱れました。

共産党は、同党の元衆院議員を無所属で擁立する異例の対応を取り、他党が相乗りしやすい環境づくりを目指したのですが、共産党以外で推薦したのは自由党のみでした。立憲民主党や国民民主党は自主投票で臨み、立候補した4候補中、最下位の惨敗に終わりました。

共産党は夏の参院選と次期衆院選から、野党共闘の条件として候補の「相互推薦・支援」を求めていますが、大阪補選で浮き彫りになった野党間の溝はハードルの高さを物語っています。

野党5党派は参院選の勝敗を分ける32の改選1人区で候補の一本化作業を進めていますが、これまで事実上合意したのは愛媛、熊本、沖縄の3選挙区にとどまり、調整は大幅に遅れています。

こうした野党の体たらくを安倍首相サイドからみれば「解散の好機」と捉えることができるでしょう。

実際、ダブル選は地方に強固な組織を持つ自民党に有利とされます。自民党は沖縄、大阪補選や大阪府知事・市長のダブル選で敗れたものの、県議・市議選など統一地方選全体では着実に議席を伸ばしました。ダブル選ならば野党共闘態勢の構築も難しくなり、圧勝できると見る向きも多いようです。

一方、平成29年衆院選では、旧民進党と小池百合子東京都知事率いる旧希望の党による合流劇で、一時は政権交代も予感させました。小池氏の「排除」発言によって機運は急速にしぼんだのですが、官邸は肝を冷やしたに違いないです。

ダブル選になれば、野党結集が一気に加速する可能性があります。そこを官邸がどう判断するかが重要になってきます。

平成の時代に一度も行われなかったダブル選は、令和元年に実現するのか。夏の政治決戦に向けて、与野党の神経戦は既に中盤を迎えています。

安倍総理にとって有利なのは、増税延期の理由を海外に求めることができるということです。

これは米中貿易戦争の悪影響だけでありません。市場では、ヨーロッパが景気後退に入ったという見方が支配的になっています。一部では、欧州発の金融危機発生という見方さえ出始めています。

さらに、IMFが4月9日に発表した世界経済見通しでは、2019年の世界の実質経済成長率が1月に、同月発表の3.5%から、さらに下方修正されて3.3%となりました。この成長率は、リーマンショック後の長期停滞局面の成長率を下回っています。

安倍総理が言い続けてきた「リーマンショック並みの経済危機」に世界経済はすでに陥っているのです。そうした状況下なら、増税を延期しなければならない理由は、野党が主張するような「アベノミクスの失敗」ではなく、あくまでも日本政府がコントロールできない海外要因によるものだと強弁することが可能になります。

伊勢志摩サミットでも「リーマンショック前と似た状況」と語っていた安倍総理

安倍総理は、消費税増税延期のカードをすでに掌中にしている。4月21日に行われた大阪と沖縄の衆院補選で自民党が惨敗した流れを考えれば、自民党内に安倍総理の掲げる増税延期を否定する声は、さほど強く上がらないのではないでしょうか。

唯一の懸念は、財務省です。これまで幼稚園や保育園の無償化、軽減税率の導入、ポイント還元など、消費税増税による増収分をすべて使い尽くすくらいの大盤振る舞いで、増税実施への努力を続けてきたのですから、財務省としては、増税延期は絶対に許したくない政策です。

これからの2カ月、安倍総理と財務省の間で、消費税増税の延期をかけた壮絶な戦いが、水面下で始まることでしょう。

ただし、安倍総理には伝家の宝刀があります。それは、衆参両院選挙です。これで消費税見送りか、凍結、もしかすると減税をかかげて選挙に大勝すれば、財務省とて官邸には逆らえないです。このようなことは過去二度あって、実際に増税が見送られました。

二度あったことは、三度あるとみておくべきでしょう。ただし、今回は参院選だけでなく、衆院選も同時に行い、令和元年に平成年間には一度もなかった衆参同時選挙で大勝利して財務省を黙らせる算段でしょう。

【関連記事】


安倍首相、ついに“消費増税凍結+衆参W選”決断か!? 4月に訪米する『隠された理由』とは…―【私の論評】日米首脳会談で消費税凍結が決まる(゚д゚)!



2019年5月15日水曜日

「Made in China」が米国市場から消える日―【私の論評】米国は中国が図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家になるまで制裁をやめない(゚д゚)!

「Made in China」が米国市場から消える日

立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

対中制裁第4弾が発動される。トランプ米政権は5月13日、年間の輸入総額約3000億ドル分の中国製品に最大25%の追加関税を課す詳細案を公表した。米中の戦いは本格化する。

トランプが狙っている「戦勝」とは?

 トランプ大統領は5月1日のツイッターでこう語った――。

「Such an easy way to avoid Tariffs? Make or produce your goods and products in the good old USA. It’s very simple!(高い関税を避けたければ、非常に簡単な方法がある。アメリカに戻ってきて製品を生産することだ。とても簡単だろう)」

 人間(企業)は往々にして退路を断たれなければ、なかなか重い腰を上げようとしないのだ。トランプ氏は中国からのほぼすべての輸入品に対して関税を引き上げることにより、中国との「全面戦争」を宣告し、企業の退路を断った。

 多くの在中国外資系製造企業に残される道は、米国や台湾、日本など本国への引き揚げ、あるいはベトナムなどアジア第三国への移転にほかならない。要するに、中国からの転出である。この大移動は、移動する個別の企業の単純総和だけではない。最終的にサプライチェーンの移動であり、つまり「量」の積み上げにより、「質」の根本的変化を遂げることである。

 昨年12月9日付けの寄稿「休戦あり得ぬ米中貿易戦争、トランプが目指す最終的戦勝とは」にも書いた通り、いわゆる交渉は、休戦でも停戦でもなく、激戦の先送りに過ぎず、トランプ氏が目指しているのは、最終的な「戦勝」である。さらに、この「トランプを読み解く」シリーズで何度も繰り返しているように、トランプ氏の交渉は妥結を目的としていない。交渉は最終的な「戦勝」を得るための小道具にすぎない。

 では、トランプ氏が描いた「戦勝」とは、どんなものであろうか。氏の胸中を推し量ることは難しいが、本シリーズの初回寄稿「1ドルで働く大統領の欲求とは?」に、私はマズローの欲求5段階説を根拠に、トランプ氏は「歴史を創る」あるいは「歴史に名を残す」というような最高次欲求である第5段階の頂上に立とうとしているのではないかと仮説を立てた。

「歴史を創る」というキーワードから引き出される「戦勝像」とは、「新たな秩序を創り上げる」辺りにたどり着く。その内実は、米国はあらゆる勢力の台頭や挑戦を排除し、世界で唯一のスーパーパワーとしてその地位を維持し続けることではなかろうか。

 パワーの保有を裏付ける指標は、「ルールの制定権」にほかならない。国家最大のパワーは何と言っても法律の制定権であるのと同じように、世界のルールを決める王者は1人(1国)しかあり得ないのである。

米中妥結があり得ない理由

 この辺、中国は米国と非常によく似た考え方を持っている。「一山容不下二虎」(1つの山に2頭の虎を収容する空間はない)という中国のことわざがある。さらに、「一決雌雄(勝負を決する)」(『史記』項羽本紀、『三国演義』第31回)という形で最終的に勝敗、上下の位置を決める。

 歴史を見ても、中華中心の朝貢制度の下で、「皇帝」の唯一性は中国にとって譲れない一線だった。周辺属国に「王」がいても良いが、「皇」は許されない。皇帝は「天子」であり、天からミッションを託され、世界の中心に存する唯一の最高権力だったからだ。そこで、日本に「天」を戴く「皇」たる「天皇」が存在することは、中国にとってまったく面白くない話であった。

 天が広くても1つしかない。同じ天を戴く複数の「皇」が存してはならない。それこそ、漢語成語の「不共戴天」があるように、同じ天を共に戴くのは敵にほかならないという歴史の経緯を見れば、今日に至るまで日中関係に抜本的な改善が見られないことも理にかなっているといえる。

 中国が考えている他国との友好関係は、基本的に上下の位置を明確にしたうえでの平和親善に過ぎない。対等の友好関係と勝手に思い込んで中国と付き合おうとする日本には理解できない本質なのかもしれない。友好関係の構築にはまず、中国に頭を下げて「臣服」する必要があったからだ。米国にも同じことが言える。ついに力が付いたと自認する中国は、米国との勝負に出て上下を位置づけようとしていた。米国に残される道は1つしかない――勝負を決する。


 中国は一旦他国との上下関係が確定すれば、経済的利益を多少は度外視してもよいというスタンスであり、これも歴史的に検証可能である。属国の地位を認めた時点で中国から若干の経済的利益を引き出すことはさほど難しくない。要するに、「量」と「質」の関係を明確に切り離し、「量」は相談可能だが、「質」は原則の問題で一歩も譲ることができないということだ。

 トランプ氏はこれをよく理解しているようだ。対中交渉の過程を見ても分かるように、中国は米国からの輸入をどんどん増やしてもよいという条件をアピールし続けてきた。ところが、トランプ氏は一点張りで中国に構造的改革を迫った。まさに「量」と「質」の議論で噛み合うはずがない。

時間は誰の味方か?

 貿易交渉の席では、一連の妥結を引き出した後、米国側が中国に約束の執行(実施)の担保を求めた。その要求には数多くの国内法の改正も含まれていたであろう。国内法の改正は主権問題であり、外圧に屈しての国内法改正はまさに負けを意味する。これは政治的に断じて受け入れられないことである。すると、米中交渉の実質的決裂はいずれ不可避になる。

 トランプ氏はもしや、これを知っていたのか? この辺は、拙稿「悪人よりも悪魔を目指すトランプ、毒は猛毒をもって制す」で述べたように、トランプ氏の中国との戦い方は、洗練された紳士ルールよりもむしろ無頼漢らしきものが目立つ。「以其人之道,還治其人之身」(朱熹『中庸集注』第13章)。「その人のやり方をもって、その人を倒す」という意味で、俗にいえば、「毒をもって毒を制す」という策略だった。

 面白いことに、「無毒不丈夫(情に引かれめめしい振る舞いをせず、毒をもって、容赦なく徹底的に相手を叩きつぶす者こそ真の男だ)」という中国のことわざがあり、こうした「仁義なき戦い」のできる猛毒男トランプ氏は逆に、中国人から尊敬されているのではないだろうか。

「サプライヤー、製造施設の中国外移転を加速―米中交渉結果待たずに」。5月8日付けのブルームバーグ記事が報じているように、企業はもう動き出した。トランプ氏が狙っていたところだ。ここにも中国の誤算があった。

 中国は対米交渉で従来の「引き延ばし」戦略を使った。トランプ氏が次期大統領選で落ちれば、局面を挽回できると考えていたのだろう。これに対してトランプ氏はあえて、「交渉は急がない」と微笑んで対応した。理由は簡単だ。企業はもうこれ以上待てない。交渉が引き延ばされている間に、製造業はどんどん中国から逃げ出している。次期大統領選まではもたない。

 時間は誰の味方か? これを考えれば分かる。中国は経常収支が赤字に転落し、数千万人あるいは億単位の失業者が路頭に迷う。一方、米経済は好調だ。

「ゼロ和ゲーム」の仕掛け

 ゼロ和ゲーム(「ゼロサムゲーム」とも言われる)とは、一方の利益が増せば、その分だけ他方の損失が増え、参加者の得点と失点の総和(サム)がゼロになるゲームを指す。これに対し、非ゼロ和ゲームでは両方(全員)が勝者となる場合や、両方(全員)が敗者となる場合を指している。

 中国は盛んに「米中の戦いは、両方が敗者となるから、止めよう」と呼び掛けている。つまり中国は両敗の非ゼロ和ゲームと主張している。しかし、トランプ氏はどう思っているのだろうか。この辺、彼は明言しない代わりに、新冷戦下の「take sides(どちらか一方の側につく)」、つまり米中のどちらかの陣営を選ばざるを得ないムードを漂わせている。

 米ジャーナリストのトーマス・フリードマン氏は東西冷戦について、「It was also a zero-sum game, in which every gain for the Soviet Union and its allies was a loss for the West and NATO, and vice versa.(あれはゼロ和ゲームだ。ソ連とその同盟国のあらゆる『得』は、西側諸国やNATOにとっての『損』になる。逆もまた然り)」と指摘した。この法則は米中の「新冷戦」に適用するかどうか、これからの見所だ。

 イデオロギー対立に基づく対決の姿勢も度々示唆された。

 トランプ大統領が2018年9月25日、第73回国連総会演説で、ベネズエラのマドゥロ社会主義政権を例に引き、「少し前までベネズエラは世界で最も豊かな国の1つでした。今日、社会主義は石油資源に恵まれた国を破産させ、国民を赤貧に至らせました。事実上社会主義や共産主義が試みられたところではどこでも、苦悩、腐敗、そして衰退を生んできました。社会主義の権力への渇望は、拡張、侵略、そして抑圧へとつながります。世界の全ての国は、社会主義とそれが全ての人にもたらす悲惨さに抵抗すべきです」と社会主義や共産主義を痛烈に非難した。

 さらに、2018年11月7日、ホワイトハウスは「共産主義犠牲者の国民的記念日」(ロシア・ボルシェビキ革命101周年記念)に際してトランプ大統領の声明を発表した。「今日、私たちは共産主義によって生命と自由、そして幸福を追求する祝福を奪われた方々のことを偲び、共産主義の下でこれだけ多くの人たちが蒙った耐え難い損害を悼みますとともに、あらゆる人のために自由と機会を求め続けることを改めて誓います」

「Made in China」が米国市場から消える日

 米陣営側で注目すべきは、共産主義に背を向けたベトナムと、中華圏の民主主義老舗である台湾、そしてこれからの出方が注目される日本である。

 先の米朝ハノイ会談で、なぜベトナムが会談地に選ばれたかといえば、トランプ氏が意図的に社会主義の行方を示唆しようとしたのではないだろうか。社会主義や共産主義に対する明確な変節宣言がなくとも、米陣営側に立った時点で、現にベトナムは中国からの産業移転の受け入れ先として莫大な利益を手に入れようとしている。

 さらに台湾。中国からの産業移転先として、労働集約型のベトナムと並んで、台湾は高度な電子部品の生産などハイテク産業の受け皿になる。明確な役割分担があって都合が良い。米国が米台FTA、日本はTPPとそれぞれ台湾を後押しすれば、アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化する……

 というのが、トランプ氏の描いている将来像ではないだろうか。

「トランプを読み解く」と題して10回連載してきたが、一旦ここで筆を擱きたい。トランプという人物は総じて言えば、決して日本人が好むようなタイプではない。政治というものは将来のある時点に立てば、歴史になる。歴史的視点から人物像を評価する場合は、結果を折り込んだ包括的なパースペクティブが可能になり、また評価される歴史的時点にかかわる種々の利害関係から脱することも可能になる。そうした意味で、もう少し客観的かつ公正な評価もできるようになろう。

 とは言っても、数十年数百年経っても、悪人は相変わらず悪人であり続けることもある。善人として歴史から消えるのと、悪人として歴史に残るのと、選べるとすれば、どっちを選ぶか、トランプ氏に聞いてみたい。答えは恐らく後者だろう。

 米中の戦いはどうなるか分からないが、もし、「Made in China」(の大部分)が米国市場から消えるのなら、トランプ氏は間違いなく「名君」として歴史に名を残すことになろう。

【私の論評】米国は中国が図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家になるまで制裁をやめない(゚д゚)!

冒頭の記事にある、サプライチェーンとは、日本語で「供給連鎖」と訳され、原材料・部品等の調達から、生産、流通を経て消費者に至るまでの一連のビジネスプロセスのことです。

サプライ・チェーン・マネジメント(英: supply chain management、SCM)、供給連鎖管理とは、物流システムをある1つの企業の内部に限定することなく、複数の企業間で統合的な物流システムを構築し、経営の成果を高めるためのマネジメント手法です。

なお、この場合の「複数の企業間」とは旧来の親会社・子会社のような企業グループ内での関係に留まらず、対等な企業間で構築される物流システムもサプライ・チェーン・マネジメントと呼ばれます。しかし、実際には企業間の取引は対等であると限らず、現実と理論との乖離があり、その隙間(gap)分析が重要になります。


米議会の米中経済安全保障調査委員会(USCC)は年次報告書を公表し、米国は中国からのリスク増大に直面しているとして、テクノロジー企業のサプライチェーンに対する脅威や中国のインド太平洋地域における軍備拡大、対北朝鮮制裁を弱める中国の取り組みなどを列挙した。

USCCは昨年11月14日公表の報告書で、重要な技術開発への中国政府の支援や「米国と中国のサプライチェーンの密接な統合、米国に対する経済的軍事的な競争相手としての中国の役割が、米国にとって経済や安全保障、サプライチェーン、データプライバシーの面で非常に大きなリスクをもたらす」と分析しました。

2000年に議会が設置したUSCCは、中国の経済的・軍事的台頭に関して通常、批判的な評価を行い、貿易制裁などの対抗措置を勧告しています。

中国が米国の追加関税引き上げに対して、600億ドル相当の米国製品の関税を5~10%から最大25%に引き上げる報復措置を取ることを発表しました。これは、米国が2000億ドル分の中国製品に対する追加関税を10%から25%に引き上げたことを受けての報復関税で、6月1日に発動するといいます。



米国が強硬姿勢に出たことで、中国も対抗せざるを得ないという事情はよくわかります。しかし、600億ドル分の内訳を見ると、中国の厳しい現状が浮き彫りになっています。

報復措置の対象となるのは5140品目。液化天然ガスや大豆、落花生油、石油化学製品、冷凍野菜、化粧品など2493品目に対する追加関税は25%に、そのほかの1078品目は20%となる一方で、原油や大型航空機などは追加関税の対象外だといいます。

関税が上がる製品のほぼすべてが生活必需品であり、代替手段が取りづらいものです。そのため、関税引き上げは中国の消費者物価を直撃することになる可能性が高く、メンツを重視した中国は自分で自分の首を絞めることになりかねないです。また、この動きを見て、企業の投資計画などが変更される可能性も高く、冒頭の記事にもあるように、サプライチェーンの切り替えが進むことになります。

また、米国による対中輸出の規制も強化され始めている。米商務省は、中国企業6社、パキスタン企業1社、アラブ首長国連邦(UAE)が本拠の企業5社による、米国からのハイテク製品などの輸出を禁止したことを5月13日に発表した。同省によると、中国企業のうち4社は、米国の輸出規制に違反するかたちでイランの大量破壊兵器と軍事プログラムに転用可能な米国のコモディティを調達しようとした疑いがあり、ほか2社は制限されている技術の輸出に関与し、中国人民解放軍の関係団体に供与した疑いがあるといいます。

さらに、近いうちに米国輸出管理改革法(ECRA)も発動すると見られています。これは昨夏に米国防権限法に盛り込まれて成立した新法であり、米国の安全保障にとって必要な新興技術や基盤技術を輸出規制の対象とすることなどを定めたものです。

これまでも兵器転用可能な技術に関しては規制が設けられていたのですが、それに「バイオテクノロジー」「人工知能および機械学習技術」「測位技術」など14分野が新たに加えられました。これは、習近平国家主席が掲げる「中国製造2025」に指定されている分野とほぼ同じであり、中国に対する強烈な牽制です。

また、この分野や品目は今後も対象が拡大すると思われ、米国は先端技術に関しても、国家の安全保障にかかわるものとして「中国に渡さない」という意思を明確にしています。

かつて、主に旧ソ連をターゲットにした対共産圏輸出統制委員会(COCOM)という規制がありましたが、ECRAは中国を狙い撃ちにした現代版COCOMといえます。これは日本にとっても他人事ではなく、そのため今後は中国向け全般の投資と輸出計画の変更を余儀なくされるケースが増えるでしょう。


加えて、米通商代表部(USTR)は対中関税の「第4弾」として、3805品目3000億ドル分の中国製品に対し、最大25%の上乗せを検討することを発表しました。従来は対象外だったスマートフォンなども含まれ、中国からの輸入品のほぼすべてに制裁関税が発動されることになります。

品目や税率は6月の公聴会を経て調整される可能性がありますが、いずれにせよ、ここ数日の進展で米中貿易戦争の落としどころはさらに難しくなったといえます。

ちなみに、「中国は最後の手段として保有する米国債を売ればいい」などという主張も見かけるが、それはあり得ません。まず、中国の外貨準備には日本とは異なり、国有銀行保有分も含まれています。

中国の国有銀行の対外債務は1.6兆ドル(3カ月以内の短期1.1兆ドル)で、米国債は1.1兆ドルとなっています。つまり、ドルだけで見れば債務超過の状態であり、米国債を売れば国有銀行が破綻することになります。

また、米国はその気になれば米国債の売買そのものを無効化することもできます。米国は国際緊急経済権限法(IEEPA)や米国自由法により、米国の安全保障に重要な影響を与えると判断される経済活動を制限することができ、その対象となる資産を凍結することなどもできるためです。

さらに、現在の米国債は債券の現物がなく、米財務省に登録されている電子データにすぎないため、中国が不穏な動きを見せれば、米国側はボタンひとつで無効化することも可能です。

これらの事情に鑑みても、やはり中国のほうが分が悪いのははっきりしていますが、対立の妥協点はなかなか見つけることはできないでしょう。

以前から、このブログにも掲載しているように、米国をはじめとする先進国は中国が先進国並みに、民主化、政治と経済の分離、法治国家をして、まともな取引ができる状態にしたいと考え、過去には中国が経済発展をすれば、そうなるだろうと考えてきましたが、それはことごとく裏切られました。

中国が体制を変えない限り、いくら米国が厳しい措置をとったにしても、何も変わりません。しかし、中国にとって体制を変えるということは、中国共産党が統治の正当性を失うということを意味します。そうなれば、共産党一党独裁体制は崩れます。であれば、中国共産党は体制は変えないでしょう。

であれば、米国はこの対立を、中国が経済的に弱体化し、他国に影響力を及ぼせなくなるまで続けるしかありません。私としては、どの程度まで弱体化させるかといえば、今日のロシアと同程度か、それ以下ではないかとみています。

現在のロシアのGDPは、東京都よりも若干小さな規模です。無論ロシアは、旧ソ連の核や軍事技術の継承者であり、軍事的には侮れない存在ですが、それにしても経済に関しては、取るに足らない存在に成り果てました。

これを考えると、いくらロシアが頑張って他国に覇権を及ぼそうにも、経済的な裏付けがないため、せいぜいクリミア・セバストポリの併合くらのことしかできません。ロシアが超大国に返り咲くことはもはや不可能です。

米国は、中国の経済をロシア並みもしくは、それ以下になるまで、対立を続けると思います。もしそうなれば、ロシアの人口は1億4千万人で、中国の人口は13億人ですから、一人あたりのGDPはロシアの1/10くらい、日本の1/100くらいになることになります。

こうなると、中国は図体が大きいだけで、他国には何の影響も及ぼせないアジアの凡庸な独裁国家となるわけです。そうなると、中国は自国を守るだけで精一杯になります。ロシア、中国国境間紛争がまた再燃することでしょう。その時には、北方領土の変換交渉ははじめて、日本に有利になります。中国共産党が統治し続ける限り、中国に残された道はこれしかありません。

【関連記事】

誤算?無策?習政権、トランプ氏“逆鱗”読み切れず… 中国「報復」示唆も米側は切り札投入―【私の論評】「大幅な譲歩」か「強行路線」か?いずれに転んでも、習近平は過酷な状況に直面せざるを得ない(゚д゚)!

「河村たかし前市長の政策と理念を引き継ぐ」名古屋市長選で広沢一郎が当選 自・立・国・公推薦の大塚耕平さんら破る―【私の論評】名古屋市長選の勝因と敗因:広沢氏の戦略とメディアの責任を問う

「河村たかし前市長の政策と理念を引き継ぐ」名古屋市長選で広沢一郎が当選 自・立・国・公推薦の大塚耕平さんら破る  河村市政15年の評価などが争点となった名古屋市長選挙が11月24日、行われ、新人で元副市長の広沢一郎さんが当選を果たしました。 【動画で見る】「河村たかし前市長の政...