2019年10月19日土曜日

ソ連に操られていた…アメリカが隠していた「不都合な真実」―【私の論評】ヴェノナを知れば、あなたの歴史観は根底から覆る(゚д゚)!

ソ連に操られていた…アメリカが隠していた「不都合な真実」

第二次世界大戦から朝鮮戦争、そして冷戦。現在へと続く戦後の歴史は「アメリカ覇権の歴史」でもある。

そのアメリカが今、「ある文書」によって自国の戦中・戦後史の見直しを強いられていることをご存じだろうか。そして、この歴史の見直しは日本にも暗い影を落とすものかもしれない。

■ソ連の暗号解読が引き当てたとんでもない事実

『ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動』(扶桑社刊)は、アメリカが1995年に公開するまでひた隠しにしてきた「ヴェノナ文書」を軸に、戦中・戦後のアメリカの政策決定が「スパイ」によってゆがめられていた可能性を指摘する。

『ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動』(扶桑社刊)  表紙

話は1943年、第二次世界大戦中にさかのぼる。アメリカ陸軍情報部の「特別局」の情報官がこんな噂を聞きつけた。

「独ソが英米を出し抜いて単独和平交渉を行っている」

この和平が成立すれば、両国は結託して戦争資源を米英に集中してくる可能性がある。この噂は当時の米軍にとって極めてデリケートな情報だった。

真偽を確認するために、アメリカは在米ソビエト外交官がソ連本国と交わしている秘密通信の解読プロジェクトを立ち上げ、そのプロジェクトを「ヴェノナ作戦」と名づけた。

「論理的に解読不能」とされる複雑な暗号システムに挑む困難なプロジェクトだったが、アメリカの情報分析官たちの奮闘によって、アメリカはついに暗号を部分的にではあるが解読することに成功。通信の内容は「独ソの和平交渉」を示してはいなかった。

しかし、これでひと安心、とはいかなかった。その代わりにもっととんでもない事実が明らかになったのである。

■なぜこんなに早く? ソ連の原爆保持の謎

話がそれるが、第二次世界大戦終戦当時、核戦力を持っていたのは世界の中でアメリカだけだった。そして、そのままアメリカのみが核を持っている状態であれば、今の世界秩序は全く違ったものになっていたはずだ。終戦後長くつづいた米ソの冷戦は、両国ともに核という「最終兵器」を持っていたからこそ起こり、維持されたものだからだ。

ソ連がはじめて核実験を成功させたのはアメリカに遅れること4年、1949年のことだった。たった4年である。不自然ではないだろうか。核物質の精製技術や兵器化の技術というのは、当時のソ連の技術水準からしてそれほどの短期間にものにすることができるものだったのか。

「ヴェノナ作戦」がソ連の暗号通信を徐々に解読できるようになったのは1946年。すでに戦争は終わり、「独ソの平和交渉」の証拠をつかむという当初の目的はすでに無意味になっていた。

しかし、最初にまとまった文章として解読された通信内容が示していたのは驚くべき事実だった。ソ連はアメリカ最大の秘密計画だった原爆プロジェクトに深く浸透していたのだ。

ソ連は主にアメリカ共産党員をエージェントとしてリクルートし、国内に大規模なスパイネットワークを作り上げていた。それはアメリカの国家中枢にまでおよび、軍事と外交に関わるほとんどすべての主要官公庁の内部に多数のスパイを獲得していた。アメリカの原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」の内部でも、クラウス・フックスとセオドア・ホールの二人の物理学者、そして技術者のデイヴィッド・グリーングラスらが、ソ連に多くの技術情報を渡していたとされる。

ソ連がわずかな期間できわめて安価に核開発を成功させることができたのは、米国のスパイからもたらされる情報によるところが大きかった。このスパイネットワークを通じて、アメリカの原爆プロジェクトはソ連に筒抜けだったのである。

話は原爆だけにとどまらない。後の捜査でわかったことだが、スパイの中にはイギリスのウィンストン・チャーチルやルーズベルトと個人的に会うことができるほど高位にあった者もいれば、軍の高官もいた。外交官もいた。

そして厄介なことに、「ヴェノナ作戦」によるソ連通信の解読文に出てきた、ソ連に協力するアメリカ人の数は349名。しかし大部分はコードネームを使って活動しており、本名を特定できたのは半数以下だったという。残りの半数以上は摘発されることなくスパイ行為を続け、国家の中枢でアメリカの利益を損ねる行動を繰り返しているのかもしれなかった。

当時のアメリカは、身内に裏切り者がいるのは確かだが、それが誰かわからない状態でソ連と外交交渉をしなければならないという、非常に困難な状況に追い込まれていたのだ。

『ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動』はソ連のスパイネットワークがどのように形成され、スパイたちはどのように活動し、それがどうアメリカの政策決定に影響していたか、そしてアメリカはなぜ「ヴェノナ文書」をひた隠しにしてきたのかを、当時の歴史背景を交えながら解説していく。

「スパイ」「ソ連」と聞くとなにやら陰謀論めいた話に聞こえるが、「ヴェノナ文書」の存在も、それが長く封印されていたことも事実である。原爆の製造情報をソ連に渡した容疑で逮捕され、のちに死刑となったジュリアスとエセルのローゼンバーグ夫妻には40年以上も冤罪疑惑がつきまとっていたが、この文書の公開によって実際にスパイであったことが証明されている。

学校で教わったり本で読んだ戦後史の裏側にあるもう一つの物語。本書は、誰にとってもスリリングな読書経験となるはずだ。
(新刊JP編集部)

【私の論評】ヴェノナを知れば、あなたの歴史観は根底から覆る(゚д゚)!

今回が発刊された『ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動』に関連する、倉山満氏、江崎道郎氏、上念司氏の鼎談の動画を以下に掲載します。


本作品は2010年にPHP研究所より発刊された『ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動』が絶版となっていたのですが、再発刊されたものです。今回はkindle版も発行されるそうです。 

米ソ同盟の裏で行われたコミンテルン(ソ連のスパイ)の諜報活動を暴く「禁断の書」書籍として、再発刊が待望されていました。 

米国の軍事機密がソ連に筒抜けだった事実は、日本にとって何を意味するのでしょうか。ソ連はアメリカの原爆プロジェクト「マンハッタン計画」を事前に把握しつつ、1945年8月6日の広島への原爆投下を見届け、同月8日に対日戦線布告を行ったということです。

ブログ冒頭の記事には、日本のことは出ていませんが、戦時中の近衛内閣はかなりコミンテルン(ソ連のスパイ)が浸透していたことや、コミンテルンによるアジア浸透戦略がヴェノナ文書で裏付けられています。それについては以前このブログでも紹介させて頂いています。その記事のリンクを以下に掲載します。
アメリカを巻き込んだコミンテルンの東アジア戦略―【私の論評】他の陰謀論など吹き飛ぶ! これこそ陰謀中の陰謀だ! 世界は、日本は、あなたはとうに滅亡したソビエトにまだ欺かれ続けるのか?
ヴェノナ文書により、ソ連の陰謀は白日の下にされされた
詳細は、この記事をご覧になってください。以下にこの記事の結論部分のみ掲載させていただきます。
今や、EUが本気になれば、ロシアを一捻りできるほどに衰退しました。プーチンは、衰退したロシアを少しでも強く見せるため奔走し、これ以上譲歩させられることを何としても防ごうとしています。 
しかし、隣には人口13億、経済的にロシアを凌駕した中国が控えており、いつ出し抜かれるかわかりません。そうして、今やロシアの世界に対する影響力はソ連当時と比較すると見る陰もありません。 
しかし、アジアでは、旧ロシアに変わって、中国がソ連コミンテルンの陰謀によって築かれた「戦後体制」保持し、ソ連に成りかわりアジアの覇者になること虎視眈々と狙っています 
史実が明らかになった今、日本を含めた世界の多くの国々が、ソ連の仕掛けた陰謀に未だにはまっているのは不合理そのものです。一日もはやく、旧ソ連の陰謀によって、できあがった、ソ連に都合の良い、そうして今では、中国にとって都合の良い、「戦後体制」なるものは、捨て去り新たな世界秩序をうちたてるべきです。
私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?
さて、コミンテルンは今はもう なくなりましたが、  実は共産党員でもなく 共産主義者でもないのに 実は隠れ共産主義者あるいは本人は共産党員でもないし共産主義者でもないと思ってるのに 実は共産党に操られてる人たちが日本は無論のこと世界中に相当存在しているようです。

こういう人たちをデュープスと言います。(デュープス=Dupes=騙されやすい人・お馬鹿さん・間抜け)

本人は共産主義者でもないし共産党員でもないのですが、 結果的に共産党やソ連の味方をしてしまう人たちのことです。

このように、芸能人、スポーツ、学者、政治家、文化人 に共産党に所属させないで 共産党の言ってることを代弁させるような工作活動 これを「影響力工作」と言いますが、これ共産党の得意技なのです。デューブスになりそうな人たちに、自分たちに直接属させたり、直接仕向けるのではなく、デュープスにさせるのです。このようなデューブスを数多く輩出することに共産主義者は長けているのです。

米国においては、マッカーシー旋風の時に 戦中・戦後の反省をして 共産党的なことやソ連の味方を してる人を全部共産主義者 と決めつけました。しかし、それは間違いでした。米国にはいわゆるデュープスが存在していたのです。そのためこの人達は共産党員でもないし共産主義者でもないのです。

共産党無自覚なのに自分たちに味方する人たちをつくるのです。だから、私達もそういう人たちも居るって言うことを理解するべきなのです。 そのた、むやみやたらに 彼らを共産党のスパイだとか 共産主義者等と烙印を押してはいけないのです。

精神医学 つまり ブレインウォッシング (洗脳)を含めて、心理学や洗脳工作や宣伝 プロパガンダ工作という形で多くの人々に影響力を与えることができるように、共産主義者らは精神世界に関する学問を徹底的に学び、多くの仲間を作ることに成功したのです。

ドイツ には ヴィリ・ミュンツェンベルク という映画製作者がいて ハリウッドも含めた 映画を上手く使いながら 世界の人を洗脳せよと いう工作方針を出しました。彼のそういう工作方法を学んだ人間が中国の周恩来、野坂参三などの共産主義者なのです。

こういうことを学んで 洗脳工作をしたのです。洗脳するためには教育界と メディア界を支配するのが近道です。だから彼らは、今でも教育とメディアに一生懸命入浸透しようとするのです。

米国では、大統領選で トランプが劣勢だった時に トランプを絶対応援すべきだと言って全米の保守派に号令をかけた人がいました。フィリス・シュラフリーという人なのですが、日本で言うと櫻井よしこさんのような人です。

1975年インタビューを受けるフィリス・シュラフリーさん

彼女は全米の草の根保守のリーダーです。日本ではあまり知られていないようですが、米国では著名人です。1100万人の人たちを率いてると言われていた人ですが 、彼女もまたヴェノナ文書のおかげでようやく私たち保守派の言ってることの正しさが証明されたと語っていました。

彼女は、真珠湾攻撃はルーズベルトが日本に仕掛けたんだということを保守派のある程度 物を分かっている人は知っていると語っていました。

ところが、 米国 メディアは 自分たち保守派の意見を全然報じないので、日本にほとんど伝わっていないが、 我々保守派はそういう事実を認識している ということを一所懸命言っていました。

フィリス・シュラフリーさんは 2016年の大統領選挙の2ヶ月前に亡くなったのですが、葬儀には トランプ氏も出席しました。

米国保守派は、 ルーズベルトと スターリン、レーニンこそが最大の敵なのであり、 だからこそ日本よりも スターリンと ルーズベルトがもっと悪いと いうを考え方を持っている人たちです。日本の保守派もこういう人たちと協力できるようになっていくと 力強いと思います。

その意味でも、すでに読んだ方は、今一度『ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動』を読んで見る価値がありますし、読んでいないかたには、その価値は十分あると声を大にして言いたいです。

ヴェノナプロジェクトの内容を知ることは、日米双方の保守派にとって、協力するための一厘塚になるものと、私は確信しています。さらに、この書籍を読んだことのない方読めば、政治的信条がどうであれ、あなたの歴史観は根底から覆されることになります。

ベェノナ文書は、それだけインパクトのあるものでしたし、これからも多くの人々にインパクトを与え続けていくことでしょう。

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2019年10月18日金曜日

米 対EU関税上乗せ発動 最大25% EUも対抗の構え―【私の論評】トランプ大統領の本質を知らないEUは、「米中貿易戦争」と同じ過酷な体験を味わうことに?



アメリカ政府は、EU=ヨーロッパ連合から輸入されるワインやチーズなどに最大25%の関税を上乗せする措置を、日本時間の午後1時すぎに発動しました。これに対して、EUも対抗措置に踏み切る構えで、双方の対立が激しくなる見通しになっています。

アメリカとEUは、互いの航空機メーカーへの補助金をめぐって対立が続いていて、WTO=世界貿易機関は14日、両国とも不当だとしたうえで、まず、アメリカによるEUへの対抗措置を正式に承認しました。

これを受けてアメリカは、日本時間の18日午後1時すぎ、EUから輸入される年間で最大75億ドル、日本円で8000億円分に、高い関税を上乗せする措置を発動しました。

対象は160品目で、フランス産のワインやイギリス産のウイスキー、各国のチーズなど農産品に25%、航空機に10%の関税を上乗せするとしています。

これに対してEUも、アメリカからの輸入品に関税を上乗せする措置の発動に踏み切る構えですが、トランプ大統領は16日、「EUが報復することはありえない」と述べて、EU側をけん制しています。

さらに、トランプ大統領は、貿易赤字を削減するため、ドイツなどから輸入される自動車についても「アメリカを長年苦しめてきた」と述べ、高い関税を課すことを検討しています。

双方の対立は激しくなる見通しになっていて、世界経済の減速リスクがさらに高まるおそれが出ています。

【私の論評】トランプ大統領の本質を知らないEUは、「米中貿易戦争」と同じ過酷な体験を味わうことに?

トランプ米大統領はこれまで「中国よりEUの方が強硬だ」などとたびたび発言。貿易赤字を抱えるEUへの不満を強めてきました。米政府は昨年6月、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を実施。対抗するEUは、米国が誇るブランド「ハーレー・ダビッドソン」の2輪車や、ケンタッキー州のバーボンなどを標的に報復関税を発動していました。

米欧は昨年7月に貿易協議開始で合意したのですが、交渉は停滞。米国は欧州製の自動車への高関税措置をちらつかせ譲歩を迫っています。フランスが米IT大手を念頭にデジタル課税を導入しており、米欧関係は冷却化する一方です。

そうした中、2004年に米欧が相互に世界貿易機関(WTO)に提訴し、長期化していた航空機補助金紛争で、米政府は報復関税を断行しました。鉄鋼・アルミ関税と異なり、今回はWTOの紛争解決手続きを経て承認された手段となります。

米国が関税を上乗せする約75億ドル分のEU産品は、EUからの全輸入品の2%未満です。計約3600億ドルに達する中国への制裁関税の規模に比べれば、米欧経済の打撃は限定的とみられます。

ただ、米欧が互いの名産品などを狙った報復を繰り返せば、対立が深まり和解の機運は一段と遠くなります。米国は中国と部分合意して制裁関税を先延ばししたのですが、EUとは対抗策の連鎖に陥る恐れが出てきました。

今日のような事態に至ることは前から十分予想できました。トランプ氏は既存の政治家とは全くタイプが異なります。どちらかというと、中小企業の経営者のような雰囲気です。しかし、だからといって、メディアなどがトランプ氏が既存の政治家のように振る舞わないからといって、批判するのは筋違いです。

なぜなら、米国民は既存の政治家の行動や政策に辟易として、選挙で既存の政治家でないトランプ氏を選んだという側面は否定できないからです。

このようなトランプ氏がどのような行動をするのか、それを予想するのは既存の政治家を予想するように予想していては不可能です。トランプ大統領の「次の一手」を予想するには経営者としての視点が必要です。

トランプ大統領の究極の目的は「米国ファースト」という言葉にあらわれています。オバマ政権の間の「乱脈経営」で蹂躙、破壊された米国を立て直し、競合を撃破し米国の確固たる地位を確立することこそ、トランプ氏の究極の目的です。

強大な敵である共産主義中国やロシアも大きな問題なのですが、これらに対しては、すでに対策をとり始めていますし、すでに方向性はみえてきていいます。

だとすれば、トランプ氏の次のターゲットとなるのはEU以外にないでしょう。そうしてEUはトランプ政権との交渉ですでにミスを重ねています。

EUの幹部は政治エリートの集まりで「特権階級」です。そのようなエリート「プロ政治家」と、4度の倒産を乗り越えたたたき上げの庶民派であるトランプ大統領が、意志の疎通を行うことは困難です。

そのためでしょうか、EUはトランプ氏から見れば「屁理屈」としか思えないような「エリートの論理」を、米国大統領に傲慢に投げつけて平然としていられるようです。

トランプ大統領と強い政治的パイプを持たないEUおよび加盟国の首脳は、同じくパイプが弱い習近平氏の「米中貿易戦争」と同じような過酷な体験を味わうことになるかもしれません。

フランスのマクロン大統領は、2004年、国立行政学院(ENA)を卒業。その後、財務省の中心機関であるアンスペクション・ジェネラル・デ・フィナンス(IGF)の監査官に就任しています。フランス最高峰のエリート集団であるENA卒業生の中でも別格であり、エリート中のエリートです。

実際、「パンが無ければケーキを食べればいいのに……」というマリー・アントワネットの言葉に匹敵するような、テレビでのマクロン氏の庶民感覚ゼロの失言に対するフランス民衆の怒りが、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)抗議活動の導火線の1つになったともいえます。

もう1つのEUの中心軸であるドイツのメルケル首相は旧東ドイツ生まれで、東西ドイツが統合されるまで徹底した共産主義教育を受けています。

自由主義・資本主義を信奉するトランプ大統領とそりが合わないのは当然です。EUの両雄ともいわれる、ドイツとフランスの指導者がトランプ氏とは、意思疎通ができないのです。

前列左より、トランプ、メルケル、マクロン

そもそも、カール・マルクスが生まれたのはドイツであり、その後、共産主義は階級社会である欧州に広まりました。

米国のルーツは欧州だといわれることもありますが、より正確にはジョン・ロックの「市民政府論」に遡る英国です。

大陸欧州は、アドルフ・ヒットラーのナチス帝国、イタリア社会党の中心人物であったベニート・ムッソリーニ率いるファシスト党政権など、全体主義・独裁政権が目立つし、フランスも、フランス革命でルイ16世の首をはねたにもかかわらず、その後「国民の総意」でナポレオンに皇帝の地位を与えています。

このような文化を持つ大陸欧州とトランプ大統領が融和するとは考えにくく、英国がブリグジットでEUから脱出し、日米あるいはTPP11に接近するのは賢明な戦略です。

さらに、米国とEUの間に横たわるのが、EUは対米貿易で大幅な黒字を稼いでいるということです。しかも、対中貿易は赤字、つまりEUは、対中貿易の赤字を対米貿易の黒字で穴埋めしている形になっています。

「米中貿易戦争」で激しい戦いを繰り広げている米国が、「事実上の対中赤字」である「対EU赤字」を放置しておくはずが無いです。

昨年の米国とEUの輸出

「対中貿易戦争」における米国の勝利は確実と言って良いですが、「落としどころ」はまだはっきりと見えないです。しかし、何らかの「決着」に至れば、次の矛先が欧州に向くことは確実です。

米国にとって、ロシアはもちろん脅威ではあるが、現在のところ「最大の脅威」は中国であり、その対策に注力しています。

それに対して、欧州にとって最大の脅威は間違いなくロシアです。欧州と地続きであり、現在はEU加盟国となっている旧ソ連邦の東欧の国々にかけ続けるプレッシャーや、ウクライナでの「占領」行為も許しがたいものです。

欧州にとってロシアは、地政学的に言えば日本にとっての朝鮮半島や中国大陸に近い存在で、「地理的に近いゆえ見逃せない」のです。

それに対して共産主義中国は、欧州から見れば「遠く離れたエキゾチックな東洋」です。しかも、欧州発祥の共産主義が根付いた国であり、我々が思っているのよりも好感度が高いようです。

上海のタクシーの多くがフォルクスワーゲンの車であるのも、同社が早くから中国に進出したためですが、EUと中国は地理的な距離の割には政治的・経済的結びつきが強いです。

「米中貿易戦争」で、欧州も中国経済の低迷による打撃を受けるのは当然ですが、防衛問題でも、米軍の費用分担問題もさらに強く迫られるだろうし、「ロシアから守ってほしければ、『中国対策』もきちんとやってくれ」ということになります。

「米中貿易戦争」や「米中冷戦」で苦しんでいる共産主義中国が、欧州攻略の橋頭堡にしようとしているのがイタリアです。

ファシズムというと、アドルフ・ヒットラーの名前がすぐに思い浮かびますが、ファシズムの創始者はベニート・ムッソリーニです。彼は元々、イタリア社会党の党員として大活躍し、ロシア共産主義革命の立役者ウラジミール・レーニンから「イタリア社会党に無くてはならない人物」と絶賛されています。

しかし、その後、ムッソリーニは、共産主義・社会主義に飽き足らなくなり、彼自身の手で「改良」を加えました。そして生まれたのがファシズムです。したがって、共産主義(社会主義)はファシズムの生みの親とも言えるのです。

その後、イタリアではファシスト党が政権をとって、ムッソリーニが指導者となったのですが、第2次世界大戦が始まる前は、欧州において「ババ抜きのババ」扱いで、ムッソリーニがナチス・ドイツと手を組んだ時には、「連合国に入らなくてよかった」と首脳陣が胸をなでおろしたといわれるほどの「お荷物」でした。

実際、第2次世界大戦が始まってからムッソリーニがヒットラーの意向を無視し、勝手に行った北アフリカ攻略は惨敗。ドイツはロンメル将軍などの優秀な人材を北アフリカに張り付けざるをえなくなり、ロシア戦線での敗因になったともいわれています。

さらに、大戦末期にはムッソリーニの傍若無人ぶりに耐えかねた国民が反発。最終的にイタリア国王から解任を申し渡されて首相の座を追われ拘束されました。

そのホテルで拘束されていたムッソリーニを、グラン・サッソ襲撃と呼ばれる電撃的なグライダ―による作戦で救出したのが盟友ヒットラーです。

グラン・サッソ衝撃で用いられたドイツ軍のグライダーと降下猟兵

その後、北イタリアに樹立されたドイツの傀儡国家の指導者(忠犬)となって生き伸びたムッソリーニですが、第2次世界大戦の末期にパルチザンにとらえられ、ヒットラ―自殺の2日前に処刑されました。

しかも、その死体は民衆から殴るけるの暴行を加えられた後、ミラノ・ロレート広場のガソリン・スタンドで逆さにつるされました。

イタリアは結果的に「枢軸国」として大戦に参加しながら、ムッソリーニの失脚もあり「連合国」側の戦勝国として終戦を迎えています。

この油断できないイタリアを、欧州攻略の糸口にしようしている習近平氏は、後で後悔することになるのではないでしょうか。

いずれにせよ、そりの合わない、トランプ米大統領とEUは、EUがある程度折れないことはには、今後本格的な貿易戦争に突入していく可能性が高いです。

ただし、米国の中国に対する対峙は、トランプ政権がどうのこうのという次元ではなく、議会でも超党派でコンセンサスを得ているものですから、トランプの次の大統領でも継続されますが、EUとの対立は、次の大統領になった場合は、次がどのような大統領になるか次第ですが、収束する可能性は高いです。しかし、トランプ氏が大統領である間は予断を許さない状況が続くことでしょう。

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2019年10月17日木曜日

トランプは大差で再選される──最も当たる調査会社が予測―【私の論評】現時点で、トランプの再選はないと、どや顔で語るのは最悪(゚д゚)!

トランプは大差で再選される──最も当たる調査会社が予測
Historically Accurate Forecast Predicts Trump Win in 2020 
ニューズ・ウィーク

フロリダ州オーランドの選挙集会で再選への出馬表明をしたトランプ大統領夫妻(6月18日)

<1980年の大統領選以来、一度しか予測を外したことのないムーディーズ・アナリティカがトランプ勝利を予測する背景は>

2020年米大統領選挙をめぐる世論調査で、ドナルド・トランプ大統領は現在のところ、民主党の複数の有力候補に遅れをとっている。だが、正確さで定評のある大統領選予測モデルを擁する調査会社ムーディーズ・アナリティクスは、トランプが大差で勝つと予測している。

同社は、1980年以降すべての大統領選で勝者を的中させてきた。唯一外れたのは、トランプとヒラリー・クリントンが対決した2016年の大統領選だけ。もっともこの時は、他の予測もほとんどがクリントンの勝利を予測した。トランプ勝利を予測できたほうが例外的だ。

赤がトランプ(共和党)が勝つと予想される州、そして青が民主党が勝つと予想される州。
    ムーディーズ・アナリティクスは、トランプが激戦州を制すると予想

ムーディーズ・アナリティクスのマーク・ザンディ、ダン・ホワイト、バーナード・イェーボスの3人は、「2016年大統領選で予測が初めて失敗した理由の一つは、想定外の人々が投票に出かけたことだった」と書いている。

「我が社のモデルは、候補者がどの政党の支持者かという以外の個人属性を考慮していなかった。つまりトランプとクリントンの得票は、それぞれの所属政党の支持者の動向で決まると思っていたが、そうではなかった」

ムーディーズは、経済面で3つのモデルを使って予測を立てているが、いずれのケースでも、2020年の大統領選でトランプは少なくとも全部で538人の選挙人中289人を獲得する見通しだという。

市場の評価は今一つだが

3つのモデルのうち1つ目の「財布」モデルでは、経済についての3つの変数を重視している。ガソリン価格、住宅価格、個人所得の3つだ。いずれも、価格の変動が財布の中味に直結する。好調な米経済を背景に、トランプがいちばん大差で勝つのはこのモデルで、351人という圧倒的な選挙人を獲得する。

「有権者が主として自分の懐具合に基づいて投票した場合、トランプが圧勝するだろう」とムーディーズ・アナリティクスのリポートは書く。

2つめは「株式市場」モデルで、これがトランプにとっては最も厳しい。ここで重視するのは、スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数とそこに組み込まれている優良企業500社の収益動向だ。米企業と株式市場は今、主にトランプの貿易政策をめぐる不透明感から悪影響を受けている。だからトランプに厳しくなるが、それでも、現時点ではまだトランプが勝つという予測になっている。

最後の「失業率」モデルでは、現在の低失業率が来年半ばごろまで続くという見通しを背景に、トランプの楽勝を予測する。

ムーディーズ・アナリティクスは、前回の大統領選では予測を外したものの、同社が2016年にトランプの大統領在任中の経済状況について行った予測は、おおむね現実になっている。

<参考記事>嘘つき大統領トランプがアメリカの民主主義を打ち砕く
<参考記事>民主党予備選で着実に支持を上げるエリザベス・ウォーレ

2016年、ムーディーズ・アナリティクスはトランプ政権下の経済について以下のように予測した。

「トランプの経済政策は、米国経済の孤立化を深める結果になるだろう。国際貿易と移民は大幅に減少する。貿易と移民の減少に伴い、外国からの直接投資も減少するだろう」

「この分析のもとになった経済モデルや根本的な仮定の正確さに若干の変動があったとしても、トランプの経済政策の影響に関しては、次の4つの基本的な結論が得られる。1) 米国経済の国際性が低下する結果になる。2) 政府の赤字と負債が増加する。3) きわめて高収入の世帯が主に恩恵を受ける。4) 米国経済が弱体化し、雇用が減少して失業率が上昇する」

もっとも、2020年の大統領選についてもまた外れる可能性はあると、ムーディーズ・アナリティカは警告する。トランプの経済政策には「詳細が欠けているため、定量化には複雑さが伴う」という。

「トランプという候補が過去の例からあまりにも逸脱しているために、モデルがうまく機能しない可能性もある」とザンディは述べる。「結局、モデル化できない原動力に結果を左右されていた、ということになるかもしれない」

【私の論評】現時点で、トランプの再選はないと、どや顔で語るのは最悪(゚д゚)!
米国のトランプ大統領は、日米メディアや、日米リベラル左翼からは史上最も人気のない大統領と思われているようです。政権はスタッフの入れ替わりが激しく、主要な政策を進めるのにも苦労しています。それでも、トランプ大統領が2020年に再選される可能性は高そうです。

トランプ大統領

ギャラップが4月17~30日世論調査では、トランプ大統領の支持率は約45%でした。これはオバマ前大統領の同時期の支持率とほとんど変わらず、前大統領は2012年に再選されています。

2011年4月中旬にオバマ前大統領が再選を目指すと発表した直後、その支持率は43%から45%あたりを推移していました —— まさにトランプ大統領のう4月の水準と同じです。

なお、ギャラップによると1995年4月中旬に支持率が46%だったクリントン元大統領も、再選を果たしています。

トランプ大統領には現職大統領として、資金集めの面で有利です。民主党候補には2月から3月にかけて数多くが名乗りを上げていて、立候補者の間で資金が割れてしまっています。

トランプ大統領は2019年の第1四半期に3000万ドルを集め、総額約4000万の現金が手元にあります。一方、民主党内の候補者としては、資金集めでリードしている民主党のバーニー・サンダース上院議員が第1四半期に集めたのは1820万ドル、カマラ・ハリス上院議員は1200万ドルでした。

同時に、有権者はトランプ大統領の経済政策を圧倒的に支持しているようです。これも再選を目指すトランプ大統領にとっては良いサインです。

直近のデータは、4月時点では、アメリカの雇用市場は依然として好調で、賃金も上昇していました。9月の米雇用統計は非農業部門の雇用者数が緩やかな伸びを示しました。これは製造業の軟調さが経済全体に広がっている兆しを示している可能性がある一方で、雇用の伸び鈍化は予想の範囲内で基本的には労働市場は健全であることが単に示されただけかもしれないと受け止められています。

消費マインドも4月には不況以来、最も高い水準に近いことを示していました。8月の米小売売上高で、前月比0.4%増と、市場予想の0.2%を上回る大幅な伸びとなりました。これらを見る限り、米中冷戦によね製造業のマインド悪化が雇用や賃金、個人消費など、人々のおサイフや消費行動にまで波及している様子は伺えないです。そうして過去のデータを見ると、経済が好調だと大統領の再選の可能性が高まることも分かっています。ただし、そのつながりは近年、弱まっているようです。

CNNが3月中旬に実施した世論調査で、アメリカ人の71%は経済がうまくいっていると回答。これは2001年以来、最も高い数字です。

同調査では、回答者の過半数(51%)がトランプ大統領の経済政策を支持しています。これは調査会社「リアル・クリア・ポリティクス」が出した各社の世論調査(トランプ大統領の経済政策への支持)の平均値、51.5%とほぼ同じです。

さらに、ジョージタウン・インスティテュート・オブ・ポリティクス・アンド・パブリック・サービス(Georgetown Institute of Politics and Public Service)が3月下旬から4月上旬にかけて実施した「バトルグラウンド・ポール(Battleground Poll)」調査では、2020年の大統領選で投票する「可能性が高い」と見られる登録有権者の58%が、トランプ大統領が経済のためにやってきた仕事を支持すると回答しています。

同調査ではまた、回答者の55%がトランプ大統領を全体として支持しないと答え、57%がアメリカは誤った方向へ向かっていると答えています。しかし、共和党支持者の間でトランプ大統領を支持する有権者は依然として多く、その74%が米国は正しい方向へ進んでいると答えました。

そして、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が2月に実施した調査では、米国人にとって最大の課題は経済の強化と考えられていることが分かりました。ただし、調査によってはヘルスケアといった別の課題が経済よりも上位にきています。

再選に向けて、トランプ大統領の経済政策に対するプラスの評価がどれだけのアドバンテージになっているかは分からないが、マイナスになることはないようです。

さらに、今回の、ムーディーズ・アナリティカの分析によっても、トランプ大統領の勝利が予測されています。

さらに、このブログでも解説したように、米国では最初から禁じ手とわかっている「弾劾」を今回だけではなく、過去にも画策して結局失敗した民主党は、相当追い詰められているとみべきです。その記事のリンクを以下に掲載しておきます。
民主党へのしっぺ返しもあるトランプ弾劾調査―【私の論評】トランプ弾劾は不可能、禁じ手を複数回繰り出す民主党は相当追い詰められている(゚д゚)!
リチャード・ニクソン氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、米国では民主的手続きで選ばれた大統領を弾劾することについては、党派を問わず反対する人も多いにもかかわらず、民主党は複数回にわたってトランプ大統領を弾劾しようとしており、これは民主党が大統領選ではよほど窮地に立たされている見るべきであるとの結論を下しました。

この予想や、今年はじめの複数の調査会社の調査結果や、今回のムーディーズ・アナリティカの調査においても、トランプ大統領が大統領選で大差で再選されると予測しているわけですから、よほどのことがない限り、トランプ氏が再選されるとみて間違いないのではないでしょうか。

ただし、選挙は水ものですから、最後の最後までどうなるかはわかりはしません。ただし、現時点で、トランプは弾劾されるとか、トランプの再選はないと、さしたる裏付けもないにもかかわらず、日米のテレビや新聞の情報だけで判断して、どや顔で語るのはやめておいたほうが良いと思います。

はっきりいいますが、そのようなことをすれば、馬鹿と思われるだけでなく、信用を失います。

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2019年10月16日水曜日

対中を意識した日EUのパートナーシップ強化―【私の論表】現在日本が世界の自由貿易をリードしている(゚д゚)!

対中を意識した日EUのパートナーシップ強化

岡崎研究所

 安倍総理大臣は9月27日、ユンケル欧州委員会委員長の招きに応じ、ブリュッセルで開催された「欧州連結性フォーラム」に出席、基調講演を行ったほか、両首脳は『持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ』と題する文書に署名した。まず、同文書の総論に当たる、第2パラグラフと第3パラグラフを以下の通り紹介する。


 日本とEUは,デジタル,運輸,エネルギー及び人的交流を含むあらゆる次元における連結性に,二国間及び多国間で共に取り組む意図を有する。パートナーのニーズと需要を十分に考慮し,かつその財政能力及び債務持続可能性に最大限留意して,日本とEUは,特に西バルカン,東欧,中央アジア,インド太平洋及びアフリカ地域において,第三国パートナーとの連結性及び質の高いインフラに関するそれぞれの協力の相乗効果と補完性を確保し,活動を協調させるよう努める。
 日本とEUは,開放性,透明性,包摂性,連結性に関する投資家及び産業を含む関係者のために対等な競争条件を促進するために共働することを構想する。双方はまた,自由で,開放的で,ルールに基づく,公正で,無差別かつ予測可能な,地域的及び国際的な貿易・投資,透明性のある調達慣行,債務持続可能性と高い水準の経済,財政及び金融,社会及び環境上の持続可能性の確保を促進する意図を有する。この文脈に関連して,日本とEUは,質の高いインフラ投資に関するG20原則の支持を歓迎し,これらの原則を適用し促進する。双方は,2019年4月の首脳宣言で合意されたパリ協定の完全かつ効果的な実施に対するコミットメントを想起する。
出典:外務省HP 安倍総理の「欧州連結性フォーラム」出席
 上記文書は、2018年10月18-19日のアジア欧州会合(ASEM)、2019年4月25日の日EU定期首脳協議、2019年6月28-29日のG20大阪サミットにおける文書を踏まえたもので、日EU間の戦略的パートナーシップ強化の文脈の中に位置付けられる。
 一読して明らかな通り、対中国を念頭に置いたものであることは確実であろう。文書で挙げられている具体的な地名のうち、西バルカン、東欧は、欧州において中国が一帯一路を通じて影響力を強化している地域であり、アフリカでも中国が経済援助により影響力増大を図っており、インド太平洋地域は言うまでもなく対中戦略において最重点の地域である。また、自由、開放的、ルールに基づく、公正、無差別かつ予測可能、透明性、債務持続可能性、といった語は、既存の国際秩序からの中国の逸脱を牽制する常套的キーワードである。
 EUでは、欧州委員会メンバーが11月から新メンバーに代わり、フォン・デア・ライエン前ドイツ国防相がユンケル委員長の後継の新委員長となる。フォン・デア・ライエン氏は、次期欧州委員会を「持続可能な政策にコミットする地政学的な委員会」と位置づけ、自己主張を強める中国との関係を定義することを目指している。彼女が掲げる「地政学的委員会」の旗がどれだけ本物か、注目されるところである。
フォンデアライエン(左)と10月末に退任するユンケル

 日本と欧州のインド太平洋における戦略的協力は日EUの枠組みだけでなく、二国間や様々な多国間の取り組みがあり得る。その例として、EUの最主要国の一つであるフランスとの「日仏包括的海洋対話」を紹介しておきたい。9月20日に同対話の第1回会合が仏領ニューカレドニアで開催された。外務省の発表によれば、本年6月の日仏首脳会談の際に作成された『日仏ロードマップ(2019~2023)』に基づき、インド太平洋地域における日仏パートナーシップ及び(1)航行の自由・海洋安全保障、(2)気候変動・環境・生物多様性、(3)質の高いインフラの3つの柱に係る協力を進める、という。海上保安庁と仏海洋総局間での海洋情報の共有・交換、日仏の艦船が共同活動を行う際の協力、日仏を含む共同演習(本年5月には日仏米豪共同訓練「ラ・ペルーズ」が行われるなどしている)の機会の追求、インド太平洋地域沿岸国における能力構築に係る日仏協力の検討、などが具体的課題として挙がっている由である。なお、ニューカレドニアは南太平洋にあるフランスの海外領土である。開催時期は、偶然とはいえ、ソロモン諸島とキリバスが国交を台湾から中国に切り替え、中国の太平洋島嶼国への浸透を見せつけたタイミングに一致する。日仏協力の必要性をより強く想起させたことと推測される。
【私の論表】現在日本が世界の自由貿易をリードしている(゚д゚)!
「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」について、以下にプレスリリースされた内容を掲載します。

日EUパートナーシップの文書に調印する安倍総理大臣(左)とユンケル欧州委員会委員長(右)

Brussels, 27/09/2019 - 09:50, UNIQUE ID: 190927_2
Press releases

<日本外務省仮訳>
1. 2018年10月18-19日のアジア欧州会合(ASEM)、2019年4月25日の日 EU 定期首脳協議及び2019年6月28-29日のG20 大阪サミットにおける文書を想起し、日本とEUとは、共有する価値としての持続可能性、質の高いインフラ及び対等な競争条件がもたらす利益に対する確信に基づく連結性パートナーシップを確立するとのコミットメントを確認する。 
2. 日本とEUは、デジタル、運輸、エネルギー及び人的交流を含むあらゆる次元における連結性に、二国間及び多国間で共に取り組む意図を有する。パートナーのニーズと需要を十分に考慮し、かつその財政能力及び債務持続可能性に最大限留意して、日本とEUは、特に西バルカン、東欧、中央アジア、インド太平洋及びアフリカ(注)地域において、第三国パートナーとの連結性及び質の高いインフラに関するそれぞれの協力の相乗効果と補完性を確保し、活動を協調させるよう努める。 
3. 日本とEUは、開放性、透明性、包摂性、連結性に関する投資家及び産業を含む関係者のために対等な競争条件を促進するために共働することを構想する。双方はまた、自由で、開放的で、ルールに基づく、公正で、無差別かつ予測可能な、地域的及び国際的な貿易・投資、透明性のある調達慣行、債務持続可能性と高い水準の経済、財政及び金融、社会及び環境上の持続可能性の確保を促進する意図を有する。この文脈に関連して、日本とEUは、質の高いインフラ投資に関するG20 原則の支持を歓迎し、これらの原則を適用し促進する。双方は、2019年4月の首脳宣言で合意されたパリ協定の完全かつ効果的な実施に対するコミットメントを想起する。 
4. ルールに基づく連結性を世界的に促進するとのコミットメントに鑑み、双方は、G7、G20、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、欧州復興開発銀行、アジア開発銀行(ADB)といった国際的な場を含む国際及び地域機関と協力する意図を有する。双方はまた、21 世紀における自由で、開かれた、ルールに基づく公正な貿易及び投資のための高い水準のルールのモデルである日・EU 経済連携協定の達成の観点から、規制に関する協力を、また、革新的な技術を高めるための政策協調を推進する。双方は、持続可能な開発のための2030アジェンダの実施に対する持続可能な連結性の積極的な貢献を強調し、投資を刺激する環境作りのためにパートナー国を支援する用意があることを想起する。 
5. 日本とEUは、民間投資を活発化させるために手段やツールを動員する重要性を認識し、あり得べき共同事業等を通じて、民間部門の関与も得て、持続可能な連結性のための資金供給を促進するために協力する意図を有する。この関連で、双方は、国際協力機構(JICA)と欧州投資銀行(EIB)との了解覚書を歓迎する。同覚書は、両機関間の緊密な協力を強化し、開発途上国における民間部門資金の需要に応える投資を促進することが期待される。双方は、この目的のために、国際協力銀行(JBIC)とEIBとの間、日本貿易保険(NEXI)とEIB との間を含む既存の協力取決め及び覚書の下での協力を促進していく意図を有する。適当な場合には日欧産業協力センターが関与する。 
6. 日本とEUは、開発途上国において、デジタル及びデータ・インフラ、政策及び規制枠組み等を通じて、包摂的な成長及び持続可能な開発の力強い実現手段として、デジタル連結性の強化に協力する。日本とEUは、デジタル経済の発展は、開かれ、自由で、安定した、利用しやすい、相互運用性のある、信頼性の高い、安全なサイバー空間と、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT:大阪でG20首脳が宣言したもの)に依拠することを強調する。2019年1月に採択された双方の十分性認定といったこれまでの協力に支えられ、日本とEUは、互いの規制枠組みを尊重しつつ、データ・セキュリティ及びプライバシーに関する信頼を強化する目的を含め、DFFTの概念を更に精査し、促進し、運用化するために共に取り組む意図を有する。日本とEUはまた、「大阪トラック」の下、デジタル経済に関する大阪宣言に定められたとおり、国際的な政策討議、特に電子商取引の貿易関連の側面に関するWTOにおける国際的なルール作りを進めるために共に取り組む意図を有する。日本とEUは、人工知能(AI)、クラウド、量子コンピュータ及びブロックチェーンを含むイノベーションを加速する政策を引き続き促進する意図を再確認する。 
7. 日本とEUは、規制枠組み同士のより深化した協力及び相乗効果、運輸回廊の相互接続及び運輸の安全性とセキュリティの強化を通じて、持続可能な運輸の連結性を強化するために引き続き共に取り組む。既存の日・EU運輸ハイレベル協議は、あらゆる輸送手段及び横断的な課題に関与し協力する枠組みを提供する。 
8. 双方は、水素及び燃料電池、電力市場の規制並びに液化天然ガスの世界市場といった分野において引き続き協力し、既存の日・EUエネルギー対話に基づく持続可能なエネルギー連結性を引き続き支持する。双方は、低炭素エネルギーシステムへの転換を促進するため、地域的及びグローバルなエネルギー市場及びエネルギー・イノベーションを強化する観点から、持続可能なエネルギー・インフラへの投資について議論する意図を有する。 
9. 日本とEUは、高等教育及び研究分野における機関間の国際的な人的交流を拡大するため共に取り組む。この文脈で、双方は、第 1 回日 EU 教育・文化・スポーツ政策対話での共同声明に基づく日・EU共同修士課程プログラムの立ち上げ及び科学技術協力合同委員会を通じた取組を歓迎する。 
10. 連結性パートナーシップの枠組みにおける協力は、可能な場合には、既存の対話及び協力枠組みを通じて、とりわけ日・EU間の戦略的パートナーシップ協定及び経済連携協定の文脈において行われる。定期的に行う進捗状況のレビューは、日・EU戦略的パートナーシップ協定の下に設置された合同委員会によって行われる。さらに、日・EUハイレベル産業・貿易・経済対話は、連結性パートナーシップの下での戦略的議論の場として機能し得る。連結性パートナーシップは、日・EUのいずれに対しても国際法又は国内法上の法的拘束力のある権利又は義務を創設すること意図するものではない。 
(注:TICAD 並びに持続可能な投資及び雇用に関するアフリカ

同文書は、EUが締結する初めての連結性(コネクティビティ)に関する文書となります。それは、二者間だけでなく第三国や多国間の場において、連結性の全ての分野で実務的な協力を推進するという意思の政治的な表明です。

重点テーマは、デジタル、輸送、エネルギー、人的交流で、また両者が恩恵を享受できるように優先的に展開する地域(西バルカン、東欧、中央アジア、アジア太平洋、アフリカ)のバランスにも配慮しています。

日本とEUは持続可能な連結性と質の高いインフラへのコミットメントとして、投資家と企業のために連携して、公開性、透明性、公平な競争環境を担保します。双方は債務の持続可能性や経済・財政・金融・社会・環境の持続可能性を担保するために協力します。 また、パリ協定の全面的かつ実効的な実施に向けて取り組みます(2019年4月の首脳会合の合意事項)。

今回の、日欧パートナーシップの基礎となったのは、やはり今年2月1日に発効した日欧EPAです

これは、日本とEUヨーロッパ連合による経済連携協定のことです。これにより世界の貿易のおよそ4割、人口では6億人を超える巨大な自由貿易圏が誕生しました。工業製品からチーズ、ワインといった食品まで、大半の貿易品目の関税が撤廃。例えば毛皮にかかっている最大20%の関税も最終的に0%になり、安く輸入できるようになる。

わずか5年ぐらい前までは、日欧EPAは締結は不可能と考えられていました。世界の自由貿易の歴史を振り返ると1996年にWTPO(世界貿易機関)ができました。これは、加盟国により、自由貿易に関するルールを皆で作りましょうという趣旨で設置されました。

ところが、2000年に入ってから中国をWTPO入れてしまったのが間違いの元でした。ほとんどの場合中国が悪いのですが、中国には中国のロジックがあり、そうすると加盟国全体で自由貿易のコンセンサスできなくなってしまったのです。これには、さらにロシアが2012年に加入し追い打ちをかけました。

本来自由貿易は、参加国の全員一致、満場一致をしてルールを決めるべきものです。米国に都合の良いルール、中国に都合の良いルール、ロシアに都合の良いルールなどがあってはなりません。

世界の常識からかけ離れた、ロジックで動く、中国とロシアがWTPOに加入したため、世界共通のルールが簡単にはできなくなってしまったのです。

そうなると自由貿易を旨とする国々は、中国やロシアを覗いて個別国同士ののEPAを作るしかなくなってしまったのです。そのなかでいちばん大きな協定の一つが、日EUのEPAだったわけです。

ところがEU側は、以前はあまりその気がはなかったのです。ところが、最近、これが急速に動き出したのです。

もともとヨーロッパは日欧EPAの他にも、優先順位の高いものががあったのですが、米国のトランプ大統領が「アメリカファースト」等と主張し、自由貿易のことを重視しなくなったように見えたため、米国とEUの単独のEPA協定だけでは、危機を感じるようになったのです。無論、その根底には、ルールを守らない中国やロシアの問題があったのも事実です。

トランプ米大統領

EUと日本の大きな関心事は、農業です。この農業の問題がネックになってなかなか日欧EPA議論は困難だったのですが、背に腹は代えらなくなったのです。トランプ大統領が存在する以上、米欧EPAの他に、日欧でもEPA協定を結び、それで自由貿易のシステムを維持しなくてはならないと考えるようになったのです。

日本もEUも、国内の農業を保護していかないと、将来、不測の事態が起こったときに大きなダメージになることがありえます。日本は守るべきところは守っています。

そのため、日欧EPAでは、米についてはまだ対象には入っていません。麦や乳製品については、セーフガードを確保していますから、完全に自由化しているわけではありません。ソフト系のチーズは関税割り当てにしているし、数量はある程度国内と両立するような形にしています。いろいろ工夫はしているわけです。

EUとしては本来は、全面開放を狙っていたのですが、EUにとっては米国とのEPAだけでは不安なため、まずは日本とEPA締結すること方が優先したということです。そのため、この交渉がうまくまとまったのです。

このように、日本とヨーロッパの思惑がやっと一致して、協定に向かって動くことができたのです。これが2017年です。そうして、今年の2月に発効したのです。

日本は自由貿易で最も伸びる国のひとつですから、こういう形で貿易のルール作りの主導権を握っていくということは大事です。

そうして、こうした日欧の貿易協定の脅威ともなり得る、中国に対して日欧は貿易以外でもパートナーシップ強化して、対抗していこうとしているのです。

さらに、日本は米国が抜けたTPPも、発効にこぎつけました。現在日本が世界の自由貿易をリードしていると言っても良い状況になりました。この面で日本はこれからも引き続き努力していくべきです。

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2019年10月15日火曜日

消費税12%への増税は数年内に来る! 海外の“反緊縮”の流れ無視して世論誘導を図る「総動員体制」―【私の論評】仰天電撃解散で、菅内閣樹立!安倍総理は財務大臣となり財務省改革を(゚д゚)!

消費税12%への増税は数年内に来る! 海外の“反緊縮”の流れ無視して世論誘導を図る「総動員体制」

悲願の増税を果たした財務省。これで打ち止めではないのか

  10月から消費税率が10%に引き上げられたが、財務省はこれで満足するはずもない。次の引き上げは、どのような形やタイミングを狙ってくるのか。

 これまでの消費税の歴史は、1989年4月に3%で創設され、97年4月に5%に、2014年4月に8%、そして19年10月に10%となった。30年間で3回、計7%の消費増税である。次は12%への増税を数年のうちに狙ってくるだろう。

 安倍晋三首相は消費税率について「今後10年は上げる必要はない」と述べたが、首相退陣後5年もたてば、その発言の効力はなくなるので、財務省は気にしていないだろう。

 10年くらいのスパンで考えると、自公政権は1度や2度は必ず弱くなり、その間に政権交代もあり得るかもしれない。そのときが財務省の狙い目である。政権運営に不慣れなところをつき、民主党時代の与野党合意による消費増税と同じ夢をもう一度と願っているだろう。

 現在のような長期政権も財務省にとっては増税の狙い目だ。政権運営のためには、財務省の予算作成能力は欠くことのできないものだからだ。

 財務省はマスコミや経済界に対してアメとムチを持っており、その能力を侮ることはできない。安倍政権は、経済産業省の官僚をうまく使うことで財務省の官僚に取り込まれないようにしてきたが、財務省は安倍首相の盟友である麻生太郎財務相を取り込んで、1つの政権下で2回という消費増税を成し遂げた。

 短期政権が続くと、財務省もかなり困るだろう。しかし、今回、軽減税率によってマスコミの頂点に立つ新聞を取り込んだので、マスコミをフル稼働し財政再建・財政緊縮(増税)キャンペーンを続けるだろう。

 財政再建・財政緊縮(増税)の思想は、成功した経営者と親和性があるので、一定の社会的な理解を得やすいだろう。

 ただし、海外では、過度な緊縮思想による経済運営は危険だとの意見が多くなっている。財務省お得意の論法は、「海外ではこうなっている」という事例を用いて世論を誘導することだが、おそらく海外での思想の変化には言及せず、欧州では消費税の税率が20%以上と高くなっていることを強調するだろう。

 そこでは、欧州以外では10%程度の国が多いという事実や、欧州の場合、国土が小さく、国を超えた人の移動が比較的自由なために、所得税では十分に対応できないので、結果として消費税に頼らざるを得ないという事実は無視される。

 こうした財務省の論法のおかしな点が報じられることは少ない。一般的なマスコミで重用されている学者、エコノミストや経済評論家は、税に関する知識などで財務省に依存している人も多いので要注意だ。

 筆者は既存のマスコミへの露出度合は大きくないが、ネット社会では引き続き指摘していくつもりだ。

 しかしながら、財務省は今後、軽減税率を新聞から書籍やネットメディアにも拡大してまでも、こうした自由な言論を抑えてくる恐れもゼロでない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】仰天電撃解散で、菅内閣樹立!安倍総理は財務大臣となり財務省改革を(゚д゚)!

ブログ冒頭の、高橋洋一の記事で「欧州以外では10%程度の国が多いという事実や、欧州の場合、国土が小さく、国を超えた人の移動が比較的自由なために、所得税では十分に対応できないので、結果として消費税に頼らざるを得ないという事実」ということが言われています。

これは、事実ですが、さらにEUと日本の違いがあります。それは、EUでは低所得層に対する支援が行き届いているということがあります。

このことを無視して「ヨーロッパの先進国に比べれば日本の消費税はまだ全然安い」消費税推進派の人たちは、よくこう言います。というより、このことを最大の武器にしてきました。

消費税の最大の欠点は、「低所得者ほど負担が大きくなる」ということです。年収200万円の人は、年収のほとんどを消費に使うので、年収に対する消費税の負担割合は、限りなく10%に近くなります。


一方、年収1億円の人はそのすべてを消費に回すことはあまりありません。2割を消費に回すだけで十分に豊かな生活ができます。2000万円の消費に対する消費税は200万円です。

そうすると年収1億円に対する消費税の負担割合は、2%に過ぎません。つまり、年収200万円の人からは年収の10%を徴収し、年収1億円の人からは年収の2%しか徴収しないのが、消費税なのです。このように間接税というのは、低所得者ほど打撃が大きいのです。

EUの先進国は、間接税の税率は高いですが、低所得者に対する配慮が行き届いています。EUでは、低所得者に対して様々な補助制度があります。

英国では生活保護を含めた低所得者の支援額はGDPの4%程度です。フランス、ドイツも2%程度あります。が、日本では0.4%程度なのです。当然、低所得者の生活状況はまったく違ってきます。

日本では、低所得者の所得援助というと「生活保護」くらいしかありません。しかも、その生活保護のハードルが高く、本当に生活に困っている人でもなかなか受けられるものではありません。

日本では、生活保護基準以下で暮らしている人たちのうちで、実際に生活保護を受けている人がどのくらいいるかという「生活保護捕捉率」は、だいたい20~30%程度とされています。

生活保護というと不正受給ばかりが取り沙汰されますが、本当は「生活保護の不受給」の方がはるかに大きな問題なのです。英国、フランス、ドイツなどの先進国では、要保護世帯の70~80%が所得支援を受けているとされています。

EUの先進国では、片親の家庭が、現金給付、食費補助、住宅給付、健康保険給付、給食給付などを受けられる制度が普通にあります。また失業者のいる家庭には、失業扶助制度というものがあり、失業保険が切れた人や、失業保険に加入していなかった人の生活費が補助されるのです。この制度は、英国、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデンなどが採用しています。

たとえばドイツでは、失業手当と生活保護が連動しており、失業手当をもらえる期間は最長18か月だけれど、もしそれでも職が見つからなければ、社会扶助(生活保護のようなもの)が受けられるようになっているのです。

他の先進諸国でも、失業手当の支給が切れてもなお職が得られない者は、失業手当とは切り離した政府からの給付が受けられるような制度を持っています。

また貧困老人に対するケアも充実しています。たとえばドイツでは年金額が低い(もしくはもらえない)老人に対しては、社会扶助という形でケアされることになっています。

フランスでも、年金がもらえないような高齢者には、平均賃金の3割の所得を保障する制度があり、イギリスにも同様の制度があります。

さらに住宅支援も充実しています。フランスでは全世帯の23%が国から住宅の補助を受けています。その額は、1兆8千億円です。またイギリスでも全世帯の18%が住宅補助を受けています。その額、2兆6千億円です。 日本では、住宅支援は公営住宅くらいしかなく、その数も全世帯の4%に過ぎません。支出される国の費用は、わずか2000~3000億円程度です。先進諸国の1~2割に過ぎないのです。

またヨーロッパ諸国では、軽減税率も細やかな配慮があります。日本でも、今回2019年10月の増税からは、軽減税率が適用されることになっています。が、軽減税率と言っても8%に据え置かれるだけですから、たった2%の軽減しかないのです。

一方、イギリス、フランスなどでは、軽減税率が細かく設定され、食料品や生活必需品は極端に税率が低いなどの配慮がされています。イギリス、フランスの付加価値税の軽減税率は次の通りです。
●英国の付加価値税の税率・標準税率20%
・軽減税率5%  家庭用燃料・電力の供給、高齢者・低所得者を対象とした暖房設備防犯用品等、チャイルドシート、避妊用品など
・軽減税率0% 食料品(贅沢品以外)、上下水道、出版物(書籍・新聞・雑誌)、運賃、処方に基づく医薬品、医療用品、 子ども用の衣料・靴、女性用衛生用品など

●フランスの付加価値税の税率
・標準税率20%
・軽減税率10% 惣菜、レストランの食事、宿泊費、旅費、博物館などの入場料
・軽減税率5.5% 水、非アルコール飲料、食品(菓子、チョコレート、マーガリン、キャビアを除く)、書籍、演劇やコンサート料金、映画館入場料
・軽減税率2.1% 演劇やコンサートの初演(140回目まで)、処方のある医薬品、雑誌や新聞
・非課税  医療、学校教育、印紙や郵便切手
ただし、私自身は、軽減税率には反対です。このような複雑なことをせず、減税、給付金、補助金などで対応すべきと思います。

とはいいながら、このように、軽減税率も含めてEU諸国は低所得者に手厚い配慮をした上での「高い消費税」なのです。しかし、日本では低所得者の配慮などほとんど行わないまま、名ばかりの軽減税率はあるものの、複雑で混乱を生じさせているだけです。

そうして、消費税をガンガン上げています。 最近、国際機関から「日本の貧困率、貧富の格差は先進国で最悪のレベル」という発表が時々されます。それは、こういう日本のお粗末な政策が数値としてはっきり示されているのです。

「日本の場合は深刻な少子高齢化社会になっているので、イギリス、フランス、ドイツなどとは状況が違う」と思っている人もいるでしょう。ところが、実は少子化という現象は、日本だけのものではありません。むしろ、欧米の方が先に少子化になっていたのです。日本の少子化というのは1970年代後半から始まりました。一方、欧米では1970年代前半から少子化が始まっていました。

そして1975年くらいまでは、欧米の方が日本よりも出生率は低かったのです。つまり、40年以上前から少子高齢化というのは、先進国共通の悩みだったのです。

ところが、この40年の間、欧米諸国は子育て環境を整えることなどで、少子化の進行を食い止めてきました。1970年代の出生率のレベルを維持してきたのです。だから、日本ほど深刻な少子高齢化にはなっていません。

一方、日本では、待機児童問題が20年以上も解決されないなど、少子化対策をまったくおざなりにしてきました。そのために、1970年代から出生率はどんどん下がり続け、現在、深刻な少子高齢化社会となっているのです(下グラフ参照)。これを見ても、日本の経済政策がいかに愚かだったかわかるはずです。



そんなところに、安倍政権が出現して、いっときは3本の矢の政策を打ち出し、増税も二度も先送りして、日本経済は随分回復しました。特に、雇用はかなり改善しまた。しかし、14年の8%増税に続き、今年10月には10%増税が実行されてしまいしました。

これでは、また日本はデフレだった頃の昔の日本に戻ることになってしまいます。 こういう愚かな日本の政治状況を、何の改革もせずに、ただただ消費税を上げるだけでは、日本は完全に壊れてしまうはずです。

それを財務省は実行しようとしているのです。そのような財務省の暴走はいずれ誰かが止めなければなりません。

今後、日本がデフレに舞い戻り、経済がかなり悪化した場合には、内閣支持率が下がり、今後の選挙では議席数をかなり減らし、安倍総理の念願である改憲どころではなくなるかもしれません。

このままだと、安倍政権は、民主党よりはましな政権として、そうして安倍総理は消費税を二度増税した総理として歴史に刻まれることになってしまいます。そうして、政権は完璧にレームダックになってしまうでしょう。

では、今後安倍政権はどうすべきなのでしょうか。一つのシナリオを考えてみます。

安倍首相が消費税の5%への減税を宣言します。さらには、 軽減税率の適用をやめ、低所得層への補助金・給付金制度を打ち出します。そうして、総辞職。電撃的に自民党総裁選を行い、一気に菅内閣を樹立。

菅官房長官が総理に?

そうして、その後の組閣で、麻生氏は財務大臣以外の大臣となり、安倍総理は、財務大臣に就任して、本格的な財務省改革を行うことを宣言するのです。

人心一新、過去の増税の単なる延期等ではなく財務省改革、景気回復までの政策を公約に総選挙を断行するのです。そうすれば大勝もありえます。ここまでやるシナリオなら多くの支持を集めることができるでしょう。経済も良くなり、憲法改正もできます。安倍晋三氏は偉大な宰相として、歴史に名を留めることになるでしょう。

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2019年10月14日月曜日

【東アジアの動乱と日本の針路】日米関係は本当に順調なのか? 「日本は中国に対して甘すぎる」米国の不満が爆発すれば―【私の論評】安倍外交は、戦略と戦術で分けてみよ(゚д゚)!


安倍首相(左)と、トランプ大統領の個人的関係は良好だが…

日米両政府は7日(日本時間8日)、新貿易協定に正式署名した。表面上、日米関係は順調なように見える。だが、本当にそうだろうか。

 米国は、チャイナ(中国)の政治的、経済的脅威を深刻に認識している。ドナルド・トランプ政権だけでなく、野党・民主党も中国には厳しい態度で迫っている。

 チベットやウイグルでは、人権無視の強圧政策が継続している。特に、ウイグルでは100万人以上のウイグル人が強制収容所に収監されている。香港民主化運動は説明するまでもない。米国は「経済」と「人権」で中国を追い込んでいる。

 トランプ大統領と、安倍晋三首相では「中国の脅威」の認識について、大きな隔たりがある。日本の認識は、甘いと言わざるを得ない。

 実は日本こそ、知的所有権の窃盗などで、中国に経済制裁を発動してもおかしくないが、その動きはない。経済界には「トランプ氏が保護主義政策を振り回して、わが国は迷惑している」といった発言をするリーダーまでいるほどだ。

 最近では、日本は、中東・ホルムズ海峡の安全確保に向けた米主導の「有志連合」構想への参加を表明していない。トランプ政権や米軍からすれば、日本は中国にあまりに妥協的で、フラストレーションがたまっている。安倍首相とトランプ氏の個人的関係だけに依存していると、日本が制裁を受けることもあり得るのだ。

 それでは、米国の対中政策は継続するのか?

 これは、トランプ氏の大統領再選にかかっている。再選されれば、中国が根を上げるまで、米国は制裁を続けるだろう。

 筆者は現時点で、トランプ再選の可能性は7割以上とみている。民主党の大統領候補がみんな小物で、急進左翼色が濃厚なのである。中産階級の支持を幅広く集められるスター性のある候補者がいない。

 民主党は最近、「ウクライナ疑惑」なるものを持ち出して、トランプ氏の弾劾プロセスを開始した。この成功の可能性は、ほとんどゼロ%である。ロシアゲートの二番煎じの茶番劇である。

 トランプ氏が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に、ジョー・バイデン前米副大統領の息子のスキャンダル調査を依頼した。これは、バイデン氏が副大統領時代、息子のハンター氏がウクライナの天然ガス企業の重役に就任していた問題である。

 以前から、これは「ウクライナ政府による、バイデン氏への贈賄に当たるのではないか」との疑惑が持たれていた。バイデン氏は現時点で、民主党予備選の有力候補であり、この真相が明らかになると、民主党は壊滅的な打撃を受ける。それを阻止しようと、「窮鼠猫を噛む」で弾劾を言い出したと分析している。

 トランプ氏によるウクライナへの捜査依頼は合法的な行動であり、弾劾の開始はむしろ、民主党が窮地に陥っていることの表れである。=おわり

 ■藤井厳喜(ふじい・げんき) 国際政治学者。1952年、東京都生まれ。早大政経学部卒業後、米ハーバード大学大学院で政治学博士課程を修了。ハーバード大学国際問題研究所・日米関係プログラム研究員などを経て帰国。テレビやラジオで活躍する一方、銀行や証券会社の顧問などを務める。著書・共著に『国境ある経済の復活』(徳間書店)、『米中「冷戦」から「熱戦」』(ワック)など多数。

藤井厳喜氏

【私の論評】安倍外交は、戦略と戦術で分けてみよ(゚д゚)!

日本は、中国に対して甘すぎるという指摘は、冒頭の記事の藤井厳喜氏だけではなく、産経新聞のワシントン駐在客員特派員である、古森義久氏も同じようなことを主張しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
【古森義久のあめりかノート】危うい安倍首相の対中観
古森義久氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より結論部分を以下に引用します。
 安倍政権が中国に対して唱える「競合から協力へ」という標語や中国の「一帯一路」構想への間接協力はトランプ政権の政策とは正反対である。同政権は中国を米国主導の既成の国際秩序を崩そうとする危険な挑戦者と位置づけ、「協力から競合へ」と主張する。「一帯一路」も習政権の覇権的な野望として排する。 
 トランプ政権は今月にはウイグル民族の弾圧にかかわる中国政府高官の訪米を拒む措置を発表した。安倍政権の「交流拡大」とは完全な逆行である。
 安倍政権のこうした対中融和姿勢にはトランプ政権の関係者からすでに抗議が発せられた。同政権の国務省引き継ぎの中核となったクリスチアン・フィトン氏は最近の論文で警告していた。 
 「米国が中国の無法な膨張を抑える対決姿勢を強めたときに日本が中国に融和的な接近をすることは日米同盟やトランプ政権への大きな害となる」

 現在は米研究機関「ナショナル・インタレスト・センター」上級研究員のフィトン氏はこう述べて、このままだと「安倍首相はトランプ大統領の友人ではなくなる」とか「米国は日本製自動車への関税を高める」という最悪シナリオをも示すのだった。(ワシントン駐在客員特派員)
第2次安倍晋三政権が発足して早くも7年近くがたちました。ちまたには多くの「安倍外交論」がります。上記の藤井厳喜氏、古森義久の記事もそれらの一つです。これらは、安倍総理の対中国外交を危惧するという内容です。

私としては、外交、それも多元的な外交という面から見れば、また違った見方ができるのではないかと思います。

外交には3つの側面があります。第1は、国民感情や国内の権力闘争とは一線を画し、純粋に国際政治・経済・軍事上の利益を最大化する知的活動。第2はこれとは逆に、国内政治上の一手段として権力者が権力基盤を維持するために行う対外活動です。どちらを重視するかで評価は大きく変わります。

第3は、過去10年間で始まった国際的な政治潮流の変質です。グローバリズムと国際協調に代わって自国第一主義と排外差別主義が復活し、1930年代のような「勢いと偶然と判断ミス」による政治判断がまかり通っています。これら3つの側面に配慮しない外交政策はいずれも成功しないでしょう。

この国際政治・軍事環境の大転換期に発足したのが第2次安倍政権でした。目指した外交政策は2006~07年の第1期と大きく変わっていないです。具体的には、日米韓の同盟・準同盟を基軸に、台頭する中国を牽制し、ロシアとの関係改善を計りつつ、東南アジア、欧州、中東との関係を維持することです。

第2期に安倍外交が花開いたのは、首相の個人的能力もさることながら、安倍外交の基本政策がより多くの国民に支持され始めたことが大きいです。

転機は12年の尖閣諸島をめぐる日中衝突でした。当時の中国のかたくなな姿勢に直面し、国民はより強いリーダー、より毅然とした対外政策を求めたのだろう。各主要国に対する個別の安倍外交はどうでしょうか。

まずは日米関係ですが、日米同盟関係が今ほど円滑であった時期は記憶にないです。東アジアで中国の台頭に直面しながら、付き合い方の難しいバラク・オバマ、ドナルド・トランプ両政権と良好な関係を巧みに保ちつつ、日米連携の維持・拡大をリードした功績は素直に評価すべきです。

続いて中国です。安倍政権の対中政策は戦略的でブレていません。政権発足直後こそ日中関係はギクシャクしましたが、14年以降徐々に中国が日本に歩み寄るようになりました。しかし、日中関係はしょせん米中関係の従属変数です。米中関係が悪化した今、安倍外交は巧みに対中関係の戦術的改善を進めています。

勿論、これで中国が歴史、靖国や尖閣問題で実質的に譲歩するとは到底思えないです。米中関係が険悪であり続ける限り、中国は対日関係を維持せざるを得ないです。

しかし日本がこれを公式に言えば中国の面子が潰れることになります。日中関係は双方の智恵の勝負となるでしょう。

そうして、中国にとって日本は潜在的敵対国であり、尖閣や歴史問題での戦略的対日譲歩はあり得ないです。現在の対日秋波は日本からの対中投資を維持しつつ日米同盟関係に楔くさびを打つための戦術でしかありません。

一方、日本にとっても中国の潜在的脅威は今後も続く戦略問題です。であれば、現時点で日本に可能なことは対日政策を戦術的に軟化させた中国から、経済分野で可能な限り譲歩を引き出すことでしょう。

現在日中間で進んでいるのはあくまで戦術的な関係改善にすぎません。こう考えれば、欧米と普遍的価値を共有する日本が、藤井氏や、古森氏が強く反対する安倍首相が「軍事や経済などで強国路線を突き進む中国に手を貸す選択している」とまではいえないと思います。外交は、戦術と戦略とにわけて考える必要もあるのです。

安全保証のセキュリティーダイヤモンドを構想した、安倍総理が戦術的に一旦中国に歩み寄っているようにみえるからといって、戦略は変わっていないのです。

朝鮮半島は日本にとって鬼門です。元徴用工の訴訟や秘密情報保護協定(GSOMIA)問題での韓国の強硬姿勢は想定外でした。残念ながら、北朝鮮との拉致問題も解決の糸口を見いだせないでいます。南北朝鮮については、外交の国際的側面と国内政治的側面のバランスの維持が非常に難しいです。

さらに困難なのが、東アジアでのいわゆる歴史問題の扱いです。安倍外交の基本姿勢は確かなものですが、国際的利益と国内的政治配慮のどちらを優先するかは微妙です。13年の靖国参拝では後者を優先し、15年の戦後70年談話では前者を優先しています。

米国でも、特に知日派は日本外交の、こうした戦術面、戦略面は理解していることでしょう。

尖閣は長期戦略では中国の確信的利益である(尖閣に中国の軍事施設が設営された場合の想像図)

最後にロシアに触れます。北方領土をめぐる日ロ首脳交渉は、日本国内への配慮というより、米中ロ間のバランス変化を踏まえた戦略的な一手です。残念ながら今回ロシアは米ロ関係の悪化を受け、中国の戦略的脅威よりも米国に対する中ロ連携を重視しました。日ロ関係の再活性化は容易ではなです。ただし、このブログでも何度か掲載した通り、米国の対中冷戦が進化して、中国が弱体化したときには、日露関係の再活性化が期待できます。

過去7年弱の安倍外交は、不確実性が高まる東アジアで日本の国益と存在感を高めることにおおむね成功しました。懸念材料は、日韓関係悪化に伴い従来の日米韓3国の連携が失われる可能性です。今後日本が米国と共に韓国をどこまで引き留めるのか。これが安倍外交8年目の課題です。

本日韓国のチョ・グク法相は14日、法相を即日辞任すると表明した。チョ氏の妻ら親族の疑惑について検察が捜査を進めており、チョ氏は「これ以上、私の家族のことで文在寅(ムン・ジェイン)大統領や政府に負担をかけてはならないと判断した」と辞任の理由を説明した。今後、文在虎政権はレームダック化する可能性があり、そうなると、日本としは、交渉がしやすくなる可能性がでてきまた。

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2019年10月13日日曜日

自然災害大国ニッポン、災害で壊れたインフラ「そのまま放置」のワケ―【私の論評】令和年間は緊縮財政を捨て、公共投資に力を入れよ、現状ではそれが国富を高めることになる(゚д゚)!

自然災害大国ニッポン、災害で壊れたインフラ「そのまま放置」のワケ
もとは私たちのお金なのに…

財務省に気をつかって…

9月11日に発足した第4次安倍晋三第2次改造内閣の基本方針に、「国土強靭化」という文言が躍った。

「まず何よりも、『閣僚全員が復興大臣である』との意識を共有し、熊本地震、東日本大震災からの復興、そして福島の再生を、更に加速する。全国各地で相次ぐ自然災害に対して、被災地の復旧・復興に全力を尽くす」という。

千葉県を襲った台風15号など、自然災害による被害は枚挙に暇がない。

台風19号により一部結界した千曲川の堤防
'18年には「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が閣議決定され、国土交通省の'20年度概算要求は7兆円を超えた。だが、どうも国交省には財務省に対して及び腰なところがある。

まず、財務省は引き続き緊縮財政一本槍で、'25年度の国・地方を合わせたPB(基礎的財政収支)の黒字化目標を譲らない。「国土強靭化」の軸はインフラ整備になるが、PB黒字化の前でこうした事業は悪者扱いになる。

インフラ整備は建設国債を財源とすることが一般的だ。赤字国債とは異なり、ただ使われるものではなく、長期的視点では社会に有用な資産を残すものだ。ところが、バランスシートの上では、建設国債もただの「借金」のような扱いになる。あくまで財務省の理屈では、インフラ整備のための建設国債発行はできるだけ避けたいのだ。

とはいえ、これだけの災害が頻繁に起こっているのだから、国交省もより強気で臨むべきなのだが、どこか財務省に遠慮がちだ。その一例が、国債マイナス金利という絶好の環境をうまく生かしていないことだ。

マイナス金利下では、国は国債を発行すればするだけ儲かる理屈だ。国債調達資金を塩漬けしてもいいが、インフラ投資にまわすのが現状では最上ではないだろうか。

国交省内には、公共投資の採択基準がある。公共投資による社会便益が費用を上回っていることが条件だ。これは先進国ではどこでも採用されている基準で、社会便益をB、費用をCとすれば、B/Cが1を超えるものが採用という数式だ。

ただし、これを計算するうえで、現在の価値と将来予測される価値を調整するために、「社会的割引率」が用いられる。詳しい説明は省くが、この割引率(4%が一般的)を適用すると、よほど計画性のない公共事業でないかぎり、B/Cは1を超える。計算上はだいたいのインフラ整備が採用されるのだ。

向こう4~5年は超低金利が続くと予想されている。それにもかかわらず、国交省は割引率を見直すことなく、一方で公共投資を「自主規制」し、財務省の緊縮財政に協力する格好になっている。国土強靭化に熱心な政治家や関係団体も、国交省役人が財務省の走狗となり、社会的に必要な投資を制限していることに気づかない。

防災のためのインフラ整備は待った無しだ。南海トラフ地震や首都直下型地震が、今後30年間で起こる確率は7割以上だという。これらに備えるうえで、マイナス金利環境は絶好のタイミングだ。

人命のかかった防災対策で財務省が緊縮を突き通す道理はなく、国交省も財務省に気を遣っている場合ではない。秋の臨時国会では両省がどのような態度を取るのか、注視する必要がある。

『週刊現代』2019年10月5日号より

【私の論評】令和年間は緊縮財政を捨て、公共投資に力を入れよ、現状ではそれが国富を高めることになる(゚д゚)!

こちらは、札幌市ですので、台風が直撃することもなく、今回の台風による被害はありませんでした。このブログの読者の方々は、全国にいらっしゃいますので、被害に遭われた方々もいらっしゃると思います。

被害に遭われた方々に、まずはお見舞い申し上げます。一日も早く復興されますことをお祈り申し上げます。
さて、振り返りますと「平成」(1989~2019年)は、“災害の時代”だったといえるのではないでしょうか。

10名以上の死者・行方不明者を出した主な自然災害だけに絞っても、その発生数は15件に上ります(下表)。


単純計算では、2年に1度は何らかの自然災害が発生し、10名以上の死者・行方不明者が出ていることになります。この数字を多いと見るか、少ないと見るかは、人によって判断が分かれるところかもしれないです。

全国の交通事故による死者数を見ると、毎年減少傾向にはあるものの、それでも3,500人以上に上ります。死者数だけを比べれば、交通事故死のほうがよほど深刻だといえるからです。

ただし、自然災害では、人が死ぬという人的な被害だけにとどまらず、建築物やインフラなどが破壊されるという物的な被害も発生します。その経済被害は、莫大な額に上ります。

東日本大震災の被害総額は16兆円以上(内閣府試算)、西日本豪雨では1兆円以上(国土交通省試算)にもなります。福岡県の年間GDPが19兆円ほど(16年県民経済計算)なので、2つの災害の経済被害は、福岡県経済が消滅するのと同等だといえます。

自然災害は国民の命を奪い、国民の経済力―ひいては国力までも根こそぎ奪います。平たくいえば、自然災害によって国民は死に、生き残った者は貧しくなるのです。
「激甚災害」に指定された九州北部豪雨(福岡県朝倉市など)による被害総額は、2,000億円(福岡県試算)近くに上りました。東日本大震災や阪神・淡路大震災(内閣府試算で約10兆円)に比べるとさすがにケタが違うのですが、ローカルな被害総額としては甚大なものです。

とはいえ、「2,000億円の被害が出た」と嘆いてばかりいても仕方がないです。取り戻さなければいけないのです。それが、災害からの復旧・復興の最も重要な中身の1つです。

復旧・復興には、被害総額と同等かそれ以上の投資が必要になります。阪神・淡路大震災には16兆円以上、東日本大震災には35兆円以上の復興関連予算がこれまでに投じられました。

「予算は国家の意思を示す」という言葉があります。国の予算を見れば、その国が何をしたいのかが見えるという意味を含んでいます。ときの首相が「内閣を挙げて復興に取り組む」などと宣言するのは単にパフォーマンスであって、実際に費用を予算に盛り込むことこそが、真の意思表示に当たります。

何をもって復興完了とするか定かではないですが、被災自治体などが策定した復興計画などが完了すれば、一応「復興は終わった」とみなすことができるようです。

それでいきますと、阪神・淡路大震災の場合は10年後の2005年度に復興が完了、東日本大震災も10年後の20年度に復興が完了する予定ということになります。九州北部豪雨の復興計画は、5年後の22年度中が目標年次です。

ちなみに、10万人を超える死者を出した関東大震災(1923年)では、発災から6年で復興事業が完了。7年後の1930年3月に帝都復興の勅語が出されています。

時間や場所、規模などが異なる災害を単純比較することはできないですが、平成の復興はスピーディーとはいえないようです。なぜ復旧に時間がかかるのかだが、単純に「国力が低いから」と考えて差し支えないと思われます。国力には、政治力、財政力、行政力を始め、危機管理能力なども含まれます。

緊縮に凝り固まった財務省

出典:国土交通省

「国力の低さ」の一例は、「公共投資額」の低さに見て取れます。上表は、1989年度から2018年度までの「平成の御世」の公共投資の推移を示すもので、しばしば引用される有名なグラフです。

これを見る限り、平成初期の投資額は増加傾向にあり、98年にピークの14.9兆円に達しました。その後は減少が続き、10年度以降は、ピークの3分の1である5兆円程度で推移しています。

なお10年度は東日本大震災が発生した年ですが、それ以降、基本的に投資を増やしていません。前半に阪神・淡路大震災、後半に東日本大震災を経験しながらも、平成年間を通して、公共投資を減らし続けてきたわけです。平成は、「災害の時代」であるとともに、「公共投資削減の時代」でもあったといえます。

日本政府は、自然災害が多発し、復旧復興や災害対策が必要なのにも関わらず、元手となる投資額を減らし続けてきたわけです。なぜ政府は、このような不可解なことをするのでしょうか。たとえば、財務省の財政制度等審議会の資料のなかに、こういう文言があります。

「公共事業については、『量』で評価する時代は終わり、選択と集中の下、より少ない費用で最大限の効果が発揮されているかという『質』の面での評価が重要な時代になっている」。

「人口減少社会の本格的な到来も踏まえれば、予算の総額を増やすということではなく、引き続き総額の抑制に取り組むなかで、日本の成長力を高める事業と防災・減災・老朽化対策への重点化・効率化を進めていく必要がある」。

この文章からは、「とにかく予算は減らす。メリットのある事業しかやらない」という強いメッセージが伝わってきます。防災関連はやらないとはいえないが、「重点化・効率化」という“クギ”を刺しています。

一見もっともらしいようにも思えますが、「本当に大事な事業で、かつ効率的にならなければ予算はつけないよ」という意図が見え隠れしています。

財務省のこうした意見は、「緊縮財政」の考え方に基づいています。財政規律(プライマリーバランス)を遵守し、いわゆる国の借金を増やさない(減らす)という政策的立場です。

この立場の是非について、このブログでは全く間違いであることをこのブログで過去に訴えてきました。それにしても、緊縮財政という明確な政策意図の下、公共投資額が減らされ続けてきたことは、多くの国民が知っておく必要があるでしょう。

「令和」を災害の時代にするな

自然災害は、前兆があれば予測はできるのですが、あらかじめ「いつ」「どこで」発生するかを予想することはできないです。そのため、災害対策は基本的に事後対応になります。今にも崩れそうな崖、ちょっと雨が降ったら溢水しそうな河川などは、予防保全的に対策を講じる必要があります。

上の記事にもあるように、政府は昨年、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」として、人命とインフラを守るため、3年間で7兆円を投じることを決めました。何もしないよりはマシですが、事業効果は限定的だと言わざるを得ないです。

日本全国をカバーするには、事業規模が小さすぎるからです。かつての政府には「10年間で200兆円」を投資する「国土強靭化」の構想があったのですが、新たな政策は投資額比率にして約8.5%に過ぎないです。「インフラなどの機能維持」に成り果ててしまった感があります。

緊縮財政が続く限り、令和の御世でも、このような対症療法的な“行きあたりばったりな”災害対策は続いていくでしょう。それは「災害の時代」を繰り返すリスクを孕み続けていることを意味します。そのような状況下で起こった自然災害は「天災」ではなく、もはや「人災」といえるのではないでしょうか。

旧民主党、ならびにそこから派生した野党の議員などは、民主党が政権与党だった時代に「コンクリートから人」などというキャッチフレーズで、公共工事をどんどん減らしたという経緯があります。その象徴が八ッ場ダムだったともいえます。

八ッ場ダムは群馬と利根川流域の人々を救った

台風19号による河川の氾濫が相次ぐ中、国が来春の運用開始を目指し、10月1日に貯水試験を始めたばかりの八ッ場(やんば)ダムに称賛の声があがっています。

利根川水系の最上流にある八ッ場ダムは、2016年6月14日からコンクリート打設を開始し、2019年6月12日に打設完了式を開催。また、2019年10月1日には試験湛水(たんすい)が開始されたばかりでした。

本体工事がほぼ完成した群馬県長野原町の八ツ場ダム=6月12日午前9時48分

国土交通省関東地方整備局の速報によると、13日午前5時現在の水位は標高573.2メートルとなり、満水時の水位(標高583メートル)まで10メートルほどに迫ったそうです。台風によるダムの被害は確認されていません。

周辺では11日未明から13日朝までに累計347ミリの雨が降り、山間部から流れ込んだ水でダム湖の水位は約54メートルも上昇しました。水没予定地に残された鉄橋も11日時点では見えていましたが、完全に水の底に沈みました。

もし、八ッ場ダムがなかったら、群馬県が終わっていたという声もあがっています。ネット上には以下のような声が上がっていました。
「無駄な治水事業など無い」「民主党政権のままだったら下流は今頃大洪水か」「これで助かった命はたくさんあるんだろうな。現場の方、大変お疲れ様でした」
旧民主党政権が実施したパフォーマンス的事業仕分けのようなものは、百害あって一理なしといえると思います。

旧民主党の議員だった人たちは、巨大な投資をどう思っているのでしょうか。これは、私の推測ですが、ひよっとすると、巨大ダムなどに巨大な投資をすると、投資した資金はこの世から消えてしまうと思っているのではないでしょうか。

このブログの読者であれば、よもやそのような人はいないと思いますが、そんなことはありません。このような巨大なインフラ投資は、工事をすることにより、工事を請け負う会社にお金が入り、多くの人々に賃金がわたり、また政府に税金が戻ってきます。

さらには、こうした巨大インフラ工事をしたことにより地域がより安全となり、利根川水系付近にはさらに多くの人々が集まり、それまでなかった新たな事業機会が増えることになります。地域の人々がその機会を獲得して、様々な事業を展開すれば、これらの地域に新たな富が創造されることになります。

そうなると、政府が投資をしたよりもはるかに大きな富が創造され、政府も投資したよりも、さらに大きな富を税金として回収できることになります。

このようなインフラ投資を徹底して行って急速な経済発展をしたのが最近までの中国です。ただし、最近では国内のインフラ投資はほぼ一巡して、めぼしい投資先が亡くなっているのも事実です。そのため、中国政府は「一帯一路」というプロジェクトで、海外でも投資をして儲けようとしています。

「一帯一路」はこのブログでも過去に説明したように、中国政府の思惑通りにうまくいくことはないでしょうが、いずれにせよ、インフラ投資は条件を満たせば地域や政府を潤すのは事実です。習近平など現状の日本が国内に巨大インフラ投資案件がかなりあることを知れば、羨ましく思うことでしょう。そうして、単に羨ましがっているだけではなく、民間会社などを通じて北海道の土地を買い漁ったりしているようです。

昔の政治家など、マクロ経済政策に疎くて、経済対策というと公共工事によるインフラ投資だと思いこんでいる人も大勢いました。

しかし、このようなごうつくばりの政治屋たちが、利権を貪り、あまり必要もないような公共工事を行い過ぎたため、日本ではこれに対する批判が高まりました。

確かに無駄な工事などはする必要はないですが、社会便益をB、費用をCとすれば、B/Cが1を超えるもののみ採用するという方式を取り続けていれば、何も不都合は起きなかったのに、1を超えるものまで実施してこなかったというのが今日の姿です。

さらには、上にもあるように、国債マイナス金利という絶好の環境を活かしていないというのも問題です。国債はなせか、将来世代へのつけを回すものとして、忌み嫌われるようになりましたが、本来は自然災害などのときに、自然災害にあった世代だけではなく、インフラ投資の恩恵にあずかる将来世代にも応分に負担してもらい、世代間の公平を期して導入されたものです。

これも勘違いしている愚かな議員が大勢います。旧民主党の議員などは、馬渕氏や金子洋一氏などを覗いて、全員がそうです。自民党にも大勢いますが、若手で小泉進次郎などその典型例だと思います。

国債がマイナス金利であるという、絶好のタイミングを捉え、ゼロ金利になる程度までは、国債をどんどん発行し、それを財源として、令和年間は、公共投資を強力に推進すべきです。

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