安倍首相(右から2人目)の後継が有力視される菅官房長官(左)。その次は… |
安倍首相は8月28日午後5時から記者会見を開き「辞意」を表明した。
「悪夢の民主党政権」で疲弊した日本を成長軌道に戻し、体調を悪化させる原因にもなったと思われる「不眠不休」の新型コロナウイルス対策で爆発的流行が起こらなかったことなど、日本のために尽力されたことにまずは「ありがとうございます」と述べたい。
菅義偉官房長官が後継総裁として有力視されているが、もしそうなれば、後世の歴史に間違いなく残るであろう傑出した大宰相の路線が引き継がれると期待できる。
忘れてならないのは、「日本国首相」が日本国民の代表であるとともに、「世界の主要国日本の顔」であることだ。
蜜月時代を築いたドナルド・トランプ米大統領だけではない。世界中の首脳からのメッセージは、安倍首相のリーダーシップへの評価がどれほど高かったのかを如実に示している。
特に米国が離脱した後の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を11カ国でまとめ上げたことは、その中に米英など5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」構成国が3カ国入っていることを考えても、日本が第6番目の国として参加する可能性を高めたと言える。
辞任後も「世界が安倍晋三を求めている」。体力的に当面は外務大臣等の職務は難しいであろうが「元首相」や「外交特別顧問」としての活躍は期待できるのではないだろうか。
さらには、今回の辞任で3度目の安倍政権の可能性はむしろ高まったと言えるかもしれない。難病を抱え激務で疲労困憊している中で本人がそこまで考えたかどうかはわからないが、残り1年の任期に執着せず、潔く決断したことは間違いなく「次につながる」行動だ。何事も安倍首相のせいにする「アベノセイダーズ」たちに、「安倍首相以外」の政治家がどのような結果をもたらすのかを体験させる良い機会であるともいえる。
先読みしすぎかもしれないが、安倍首相復活の鍵はトランプ大統領再選にあると言える。
偏向メディアは日本でも米国でも、とにかく反トランプ一色だが、そうしたメディアが行うアンケートでもトランプ氏がバイデン氏を急速に追い上げ、互角と言ってよい戦いになっている。
黒人差別反対運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」と結び付いた反トランプ勢力を恐れて、「トランプ支持」を公然と述べない人が多い。それを考えれば、前回の大統領選と同じように、世論調査に関わらず、トランプ氏が有利な状況ではないだろうか。
景気の落ち込みは現職にかなり不利だが、それを補って余りあるのが民主党のジョー・バイデン前副大統領のお粗末さだ。ウクライナや中国など息子を含めた金銭疑惑は晴れておらず、認知症疑惑も深刻だ。
大統領選の山場は、9月29日から始まるトランプ氏とバイデン氏の3回のテレビ討論会だ。熾烈な言葉のやりとりが全国民に向かって放映される中で、バイデン氏の「失言」が続けば、勝敗は明らかであろう。
もしトランプ氏が再選されれば、民主主義の敵・中国と対峙するための最大の同盟国である日本のリーダーに誰を望むかは明らかだ。
日本の懸念は安全保障だけではない。習近平国家主席が「食べ残しを厳しく戒める」ほど、中国の食糧難到来の可能性は高いが、日本は中国から多くの食品を輸入している。大半が中国からの輸入だったマスクのような「品不足騒動」が起こったら、国民の生命が危険にさらされる。
食糧が戦略物資となり世界中で争奪戦が起こる可能性が高い。世界最大級の食糧生産国である米国などとの友好関係を盤石にするためにも、安倍首相にはまだまだ頑張ってもらわなければ困る。
■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。
【私の論評】安倍晋三氏が次の次の総裁選に出馬するということは、十分にありえるシナリオ(゚д゚)!
自民党内では安倍総理が辞任を表明する前から、「プーチン方式」という言葉が冗談交じりで語られていたそうです。ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領は、2000年に大統領就任。ロシアは大統領連続3選が禁じられているので彼は、2期8年務めた2008年、メドベージェフ氏を後継指名しました。
安倍総理とプーチン露大統領 |
メドベージェフ氏が大統領になると、プーチン氏は指名を受ける形で首相になりました。もちろんロシアのトップは大統領ですがプーチン首相は事実上の院政を敷き、メドベージェフ氏をあごで使いました。そして次の2012年大統領選で大統領に復帰。さらに今年の大統領選でも勝ち2024年まで大統領にとどまることになりました。
「プーチン方式」を日本の政治に当てはめれば、2021年3期を終える安倍氏は後輩にいったん首相の座を譲り、後継者が1期を終えたところで返り咲くということになります。「プーチン方式」で安倍氏が2024年9月に首相に返り咲いたとします。9月21日の誕生日までに総裁選が行われれば安倍氏は69歳。若いとは言えないですが、十分首相を務められる年齢です。
安倍氏とプーチン氏は気が合って、首脳会談も重ねています。安倍氏はプーチン氏のことを「ウラジーミル」とファーストネームで呼びます。そういう間柄であることも、プーチン氏の手法を参考にするのではないか、との臆測の根拠の1つとなっています。
3年間、首相の座を「レンタル」する人物として、最近「ポスト安倍」候補として注目度が高まっている加藤勝信・党総務会長の名を上げる人物までいました。
しかし、安倍総理の体調が崩れず辞任を公表することもなければ、わざわざ3年間、他人に首相の座を譲るような、まどろっこしい方法をとる必要があったでしょうか。もし、2021年以降も権力の座にとどまろうと考えるのなら、ブランクはつくらず、首相を続けて4選を狙う方が手っ取り早いです。今の自民党の党則は4選を禁じているが、党則は変えられます。安倍総理が体調を崩さなければ、こうした道を歩んだ可能性もあります。
以上は一見乱暴な議論のように聞こえるかもしれません。しかし2015年、安倍氏が無投票で再選を果たした時、党則で3選は禁じられていました。この段階では、安倍氏は2018年、9月に首相から退くことが党則で決まっていました。
3選できるようにしようという機運が高まり始めたのは、翌2016年の夏ごろ。2020年の東京五輪を「安倍首相」で迎えようという意見とともに党則改正論が台頭しました。
2016年8月、リオデジャネイロ五輪の閉会式で、安倍氏が「スーパーマリオブラザーズ」のマリオに扮して出席した時、感想を求められた二階俊博幹事長が「(3選の)意欲がなければリオには行かないだろう」と語ったあたりから流れができました。同年秋から党内で党則改定の議論が始まり、翌年3月の党大会で正式決定しました。
当然、石破茂氏、岸田文雄氏ら「次」を狙う議員の周辺からは「なぜ今なのか」と異論も出ましたが、それほど大きな声になりませんでした。あまり反対論を唱えると、逆に安倍氏を封じ込めて自分が総裁になりやすくしようとしていると思われるのを気にしたのです。
当時の党内の議論で、注目すべきことがあります。議論が始まった時から3選に道を開くことでは大筋固まっていたのですが、具体的な方法として2案あったのです。
1つ目は「連続3期9年」まで可能にする案。もう1つは「多選制限撤廃」案。つまり3期にとどまらず4期でも5期でも無制限でできるようにする案です。
最終的には党の議論をリードした高村正彦氏の持論である「3期9年」で落ち着いたのですが、「多選制限撤廃」は2年前の議論でも有力な案の1つでした。再燃する素地は十分あります。
安倍氏は3選された後、さかんに「残る3年」という言葉を繰り返しました。4選など全く想定していないことを強調しているように聞こえます。実際、安倍氏は現段階で4選を基軸に考えていたわけではないでしょう。
ただ、周辺が4選の機運を高めていった時、どう考えるべきでしょうか。その時の政治情勢も勘案しながら、2年前のように、野心を抱き始めることもあるでしょう。
もちろん、4選という力技を実現するには前提条件が必要です。安倍氏が安定的に政権運営し、その上で「安倍氏にしか進めることができない」という政治課題が存在することが条件となるでしょう。
昨年の参院選で、自民党が勝利を収めたので、安倍総理の4選論の出発点となるはずでした。。
この時点で憲法改正の道筋がつかず「改憲が決着するまで」という理屈で続投の理由をつけられる状態ではありませんでした。もし、昨年時点で改憲の方向性が出ていれば、拉致問題や北方領土などの外交課題を持ち出して「安倍氏にしか解決できない」ということもできたかもしれません。4選を目指すことさえ決まれば、理屈は後からついてきたでしょう。
こういった噂が出る背景には、安倍氏の後継候補がなかなか見えてこないという事情があります。石破氏は先の総裁選の地方票で健闘して「ポスト安倍」レースで一歩抜けた印象があるが、肝心の国会議員票では2割も満たせませんでした。
その他は岸田氏、茂木氏の名があがっていましたが、政治的力量、知名度、人望ともに心もとないです。石破氏、岸田氏は、いずれも60歳代。64歳の安倍氏とほぼ同世代です。菅氏は71歳です。これでは、対外的に世代交代したというアピールができません。
ならば、39歳と若い小泉進次郎・環境大臣等がもう少し経験を積むまでの間、安倍氏に続けてもらったらどうか。そういう考えを抱いた議員が自民党内に少なからずいたはずです。
フィクサーと言われた男 金丸信 |