リバタリアン・マインド渡瀬 裕哉
バイデン政権が中国の影響力拡大に対して中長期的に十分に対応できない可能性がある. |
<バイデン政権発足して3週間程度が経過したが、現状でも対中政策上の問題点が徐々に明らかになりつつある...... >
バイデン政権はトランプ時代の対中政策の方向は維持しつつ、欧州諸国とインド太平洋諸国が中国に対して抱く懸念のレベルを調整し、両地域の国々を米国の味方につける体制を築こうとしている。トランプ政権が単独行動主義で中国に挑んで激しい抵抗にあった結果、バイデン政権は東アジアにおける米国と中国の彼我の経済的・政治的な力量が極めて拮抗している現実を受け入れたということだろう。
このアプローチが功を奏するか否かはいまだ不明であるが、バイデン政権が中国の影響力拡大に対して中長期的に十分に対応できない可能性があることは事実だ。
もちろん米国は同盟国であり、日本にとって重要なパートナーであるが、力ある友人として常に信頼を置くか否かは米国の実際の行動と裏付け次第である。バイデン政権発足以来の米国の外交安全保障政策の優先順位はやや不明瞭であり、対中国の対処能力や本気度に疑問が残る。そのため、我々日本人も独自の戦略的なアプローチを展開することを検討するべきであろう。
バイデン政権の外交安全保障上の懸念点
バイデン政権の政権発足以来の外交安全保障上の懸念点を幾つか挙げていこう。
(1)気候変動問題に対する再エネ振興で中国へのレアアース依存が強化される
バイデン政権はケリー元国務長官を気候変動担当大統領特使として任命し、気候変動問題に積極的に取り組む意欲を見せている。政権発足早々に大統領令でパリ協定復帰に署名したこと、キーストンXLパイプラインの建設凍結、新規のオイル・ガス掘削を禁止したことなど、米国の化石燃料産業に敵対的な姿勢を見せている。
一方、バイデン政権が掲げているグリーン・ニューディールは、CO2の排出量こそ低下するかもしれないが、蓄電池、風力発電、太陽光発電、その他諸々のインフラ整備のために膨大なレアアースを必要とする。そして、それらレアアースの最大供給国は中国であり、中国無しでは再生可能エネルギー社会を構築することは困難である。
つまり、仮にバイデン政権が気候変動の優先順位を本当に引き上げ続ける場合、それはレアアース問題で中国に完全に首根っこを掴まれることを意味する。(更には、米国の化石燃料産業が衰退したところで、ロシアやサウジなどの他の産油国が勢いを増すだけかもしれない。)
そのため、米国は中国へのレアアース依存への危機感を募らせており、サプライチェーンの見直しなどに着手している。しかし、それでも十分に問題に対処することはできないだろう。その上、日本は中国のレアアース依存リスクにほぼノーガードのままグリーン産業化に舵を切ろうとしている。日本の無邪気な振る舞いは東アジアの地政学を変更する可能性があるリスクがあることを認識するべきだ。
(2)中国の超音速ミサイルに対する同盟国防衛が無策に陥る可能性がある
中国人民解放軍は射程約2500キロ、マッハ5以上で飛来する超音速ミサイル「東風17」を台湾沿岸部に配備したとされる。同ミサイルは米国のミサイル防衛システムでは迎撃困難であり、台湾は言うまでもなく、日本にとっても極めて重大な脅威となる存在だと言えるだろう。
バイデン政権はロシアのプーチン大統領との間で2月3日、両国間の唯一の核軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)を2026年まで延長すると正式に発表した。トランプ政権時代に既にINF全廃条約が失効しており、同条約が延長されない場合、米国やロシアの軍拡競争に拍車がかかる可能性があったため、同協定の延長は最低限妥当な判断であったように思う。
しかし、東アジア地域における中国の超音速ミサイル問題については解決される見通しや対話が行われる兆しすらない。地域の安定と発展のためには、米ロだけでなく中国も含んだ新しい軍縮枠組みが必要なことは当然だ。
バイデン政権は中国のA2AD能力強化に対してより効果的で安価な対中兵装を整備して対抗することを示唆しているが、それらはあくまでも米国の対中能力維持を意味するものであり、日本の安全保障に直接的に貢献するものであるかは疑問だ。したがって、日本は東アジアの核による均衡は既に崩れているというシナリオを想定し、独自の安全保障政策の検討に踏み切るべきだ。
(3)カート・キャンベル、インド太平洋調整官の対中認識が甘すぎる
バイデン政権でインド太平洋調整官に就任したカート・キャンベル氏は、フォーリン・アフェアーズ・リポートの中で、
「地域内秩序内に北京の居場所を確保し、秩序を支える主要国際機関における中国のメンバーシップを認め、中国がルールに即して行動することを前提に予測可能な通商環境を提供し、気候変動対策、インフラ整備、COVID19パンデミック対策をめぐる協調から恩恵を受ける機会をともに共有していくことだ。」
「システムのパワーバランスと正統性をともに維持するには、同盟国やパートナーとの力強い連帯、そして中国の黙認と一定の応諾を取り付けておく必要がある。」
と述べている。同氏が就任したポストはホワイトハウスのポストであり、連邦上院議員による厳しい対中質疑を受けた上で承認されるポストではない。仮に連邦議会でこのような甘い認識を露呈したならば、同氏が共和党側から激しい批判にさらされたであろうことは想像に難くない。中国が厳しい競争相手であることは議論の余地はないが、同氏の中国側の善意に期待する仮定に仮定を重ねた論稿には説得力が欠けている。
気を抜けば目まぐるしく変化する国際情勢から一瞬で取り残される
以上のように、バイデン政権発足して3週間程度が経過したが、現状だけでも対中政策上の問題点が徐々に明らかになりつつある。
日本政府はバイデン政権の対中外交安全保障政策に対する懸念に真摯に向き合うべきだ。新しい時代の幕が既に上がっており、ここで気を抜けば目まぐるしく変化する国際情勢から一瞬で取り残される事態が起きることになるだろう。
IMF(国際通貨基金)によると、中国のGDPは2019年、14兆7318億ドル。日本のGDPは同年、5兆80億ドル。中国のGDPはすでに日本の約2.9倍の規模です。ただし、中国の経済統計は、かつてのロシアと同じように、ほとんと出鱈目といわれています。
軍事費(防衛費)の差は、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、日本の防衛費は2019年、476億ドル。中国の軍事費は同年、2610億ドルで、日本の約5.5倍とされています。
中国の経済規模は表向きは、日本の約2.9倍。軍事費は約5.5倍です。
しかし、「巨大な国」イコール「脅威」とはいえないです。米国は経済力、軍事費で、いまだに世界一の地位を保っています。ところが、日本の脅威ではありません。
中国はどうなのでしょうか。これに関連して、3つの事実を示します。
まず、中国の公船は2020年4月14日から8月2日まで、111日間連続で尖閣諸島周辺の接続水域を航行しました。これは過去最長でした。
さらに、20年10月11日から13日、57時間以上にわたって領海に侵入していました。これも過去最長でした。
さらに中国海警局は尖閣周辺で日本漁船を見つけたら、直ちに追跡する方針を定めました。
中国海警局の艦船が8月以降、尖閣諸島周辺の日本領海で日本漁船を見つけた場合、原則直ちに追跡する方針に変更したと日本政府が分析し警戒を強めていることが28日、分かった。
「沖縄タイムス+プラス(沖縄タイムス電子版)」2020年12月29日 10:18
つまり、中国は尖閣周辺について、「中国の領海」として行動するようになっています。これらの事実を見れば、「中国は日本の脅威だ」と言わざるをえないだろう。
どうすれば日本はこの超大国に対抗することができるのでしょうか。
劣勢の日本に道を示してくれるのが、英国の歴史です。「古典地政学」の祖、英国の地理学者ハルフォード・マッキンダーの定義では、日英はとてもよく似ています。
マッキンダーはユーラシア・アフリカ大陸を「世界島」と呼びました。「世界島」の心臓部を「ハートランド」としました。「ハートランド」はおおよそ今のロシアにあたります。
ハートランドを取り巻く地域を「内周の半月弧」と呼びます。これは欧州、中東、インド、中国などてす。
さらに、内周の半月弧の外側に位置するのが、「外周の半月弧」です。「外周の半月弧」に含まれるのは、英国、南アフリカ、豪州、米国、カナダ、日本などです。
マッキンダーの特殊性はユーラシア・アフリカ大陸を「世界島」と見るだけでなく、南北アメリカ大陸、オーストラリア大陸も「島」と見ます。それで、彼の地政学では、米国も豪州も「島国」とされるのです。
しかし、「外周の半月弧」の中で、日本と英国だけは、「ユーラシアのすぐ近くにある」という特徴があります。日本と英国の重要性については、米国を代表する地政学者ニコラス・スパイクマンも語っています。
ユーラシア大陸を囲んでいる海の沖合にある島々の中で我々にとって最も重要なのは、イギリスと日本。なぜならこの二国は政治的・軍事的なパワーの中心地だからだ。(『平和の地政学』72P)日本と英国は明らかに地政学的に似ています。ただ、日本は東洋にあり、英国は西洋にあるという違いだけです。
日本は20世紀を通して、「アジア最強の国」でしたた。一方、英国は19世紀、「世界の覇権国家」でしたた。ところが20世紀に入ると、英国を脅かす国が登場しました。ドイツ帝国です。
著名なリアリストであるジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授によると、1903年時点で、ドイツの国力は英国を上回りました。そして、その差は年々開いていくばかりでした。20世紀アジア最強国家だった日本が、21世紀になって中国にその座を追われた状況に似ています。
英国を脅かす存在だったドイツ帝国。マッキンダー地政学によると、「ハートランド」ロシアの周辺にある「内周の半月弧」に属するランドパワー(大陸国家)です。
現在日本を脅かしている中国も、同じく「内周の半月弧」に属するランドパワー(大陸国家)です。つまり、中独は似ています。
なぜ英国は第一次世界大戦でドイツ帝国に勝つことができたのでしょうか。
「英国一国で勝てなければ、仲間を増やして対峙(たいじ)すればいい」これが英国の基本戦略た。実際、英国はどう動いたのか?
「フランスとの和解」
1890年時点、英国最大の仮想敵はフランスでした。しかし、英国はドイツに対抗するため、フランスと和解することを決意。1904年、「英仏協商」が調印されました。ここで、エジプト、モロッコ、マダガスカル、タイ、西アフリカ、中央アフリカ、ニューファンドランドなどの権益が定められています。この後、英国とフランスは結束してドイツの海洋進出を阻止するようになっていきました。
20世紀初め、ロシアは英国にとって最大の脅威でした。英国は1904年~1905年の日露戦争時、同盟国であった日本を大いに支援し、日本の勝利に貢献しました。ところが、日露戦争が終わると、今度はロシアに接近。1907年、「英露協商」を締結しています。ここでは、イラン、アフガニスタン、チベットにおける英露の勢力範囲が確定されました。
英国は1902年、日本と同盟を結んでいます。これはもちろん「対ロシア」でしたが、「対ドイツ」でもありました。
イギリスは1902年に締結した条約によって先手を打ち、日本とドイツが同盟を結ぶ可能性を封じていました。(『自滅する中国』エドワード・ルトワック 95P)
「米国との和解」
英国と同国の元植民地米国の関係は基本的によくありませんでした。しかし、英国は19世紀末、米国との和解に動いています。1898年、米国とスペインは戦争をした(米西戦争)。米国はこれに勝利して、スペインからフィリピン、プエルトリコ、グアムを奪いました。英国はこの戦争で、米国の側についたのです。"このように第一世界大戦における両陣営の同盟関係が成立すると、ここから生ずる結果は自ずから明らかだった。
英国は外交で日本、米国、ロシア、フランスの4大国を味方につけることに成功しました。この同盟関係についてルトワックは以下のように書いています。
海上では、イギリス、フランス、そして日本の艦隊が、その世界中に広がった給炭地のネットワークを活用して全ての外洋航路を支配下におき、ドイツ海軍を本拠地である無益な北海の中に封じ込めてしまったのだ。(同前96P)"
なぜ、落ち目の英国は台頭するドイツに勝てたのか? 理由は明らかです。
要するに、英国は日本、米国、ロシア、フランスを味方につけたから勝てたのです。第一次大戦が起こった時、英国は経済力でも軍事力でも、ドイツに劣っていました。
ところが、外交による「同盟戦略」によって勝利することができたのです。
日本は100年前の英国から何を学ぶことができるのでしょうか。
「圧倒的な国力の差は、仲間を増やすことで補え」ということでしょう。
日本は現在、米国、インド、豪州(いわゆるクアッド=日米豪印戦略対話)と共に、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を進めています。
最近は香港問題に憤った英国、フランス、ドイツなどがインド太平洋に艦船を派遣し、クアッドに加わる動きを見せています。
さらに、日米豪印はASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国がこのグループに加わるよう、働きかけを行っています。これらはすべて、強大な中国に対抗するための正しい戦略、動きです。
米国では親中派と言われることもあるジョー・バイデン氏が大統領になった。
しかし、日本のやるべきことは、トランプ時代と変わらないです。仲間を増やすことで、中国が手出しできないようにするのです。これが戦争(戦闘)を回避するための最善の方策です。
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