2022年2月14日月曜日

原発が最もクリーンで経済的なエネルギー―【私の論評】小型原発と核融合炉で日本の未来を切り拓け(゚д゚)!

原発が最もクリーンで経済的なエネルギー

岡崎研究所

 ロバート・ハーグレイヴス(ThorCon International共同創立者)が、1月26日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)に、「もしきれいな電力が欲しいのなら、核分裂を利用せよ。核事故は起こるが、害のリスクは極めて小さい」との論説を寄せ、原子力発電を推奨している。


 この論説の筆者はダートマス大学で教えている人物で、原子力エンジニアリング会社、ThorCon Internationalの創立者である。そういう彼の立場からの論説と言えるが、同時に原発の利用を推奨して、それなりに説得力のある論を展開していると言える。

 地球温暖化と、それに伴う気候変動は、すでに台風やハリケーン・サイクロンの巨大化、山火事の多発と巨大化などで、人類に大きな災害をもたらしている。多くの死者も出ている。

 これから脱炭素社会を作っていく必要ははっきりしているが、その中で、「(火力のように二酸化炭素を排出しない)クリーンで(再生可能エネルギーより)経済的な」原子力発電を重視していく事が必要であろう。再生可能エネルギーで世界のエネルギー需要をまかなえればそれでもいいが、今後も増え続ける発電の断続性など、克服すべき課題は多い。これに対し、原発は既に確証された技術である。事故が起きたときに、被害を限定するために原子炉の小型化、地下への設置などの方策も考えられるだろう。

 世界的には、ハーグレイヴスが言うように、原発をさらに作る方向が、EUでの原発のグリーン認定の動きや中国の原子炉建設計画などで出てきている。世界では、現在、57の原発が建設中であるという。

 欧州では、英国のジョンソン首相、フランスのマクロン大統領が国内での新しい原発の建設を承認した。中国は1年当たり10基の原発を約束しているというし、中東等でも原発建設が予定されている。

 ドイツの原発ゼロ政策はこの動きに反するが、気候変動への懸念が広がるにつれ、原発は増える方向にあると判断される。

日本も科学的、建設的な議論を

 日本に関しては、2011年の東日本大震災による福島原発の事故により、それまで54基あった原発はほとんどが稼働停止となった。10年経った21年3月現在で、定期検査中も含めて稼働中のものは9基のみである。また、21基につては既に廃炉することが決まっている。今後、現在停止中の原発をどのように再稼働して行くのか、廃炉の決まった原子炉の放射能物質の処理をどうするのか、具体的道筋がまだ見えて来ない。

 日本の中長期的エネルギー政策をどうするか、脱炭素社会の経済構造をどうするかなど、感情的短絡的議論ではなく、より冷静で科学的、建設的かつ世界的視野をもった論議を期待したい。

 21年夏には、持続的エネルギーとされている太陽光パネル設置の土地開発で、水害による人的被害が大きくなったという指摘もあった。ただ、論説でも指摘された通り、事故があったから使用ゼロではなく、事故の再発防止を徹底して行く方向で、技術が人間の生活にもたらす恩恵には真摯に向き合って行く姿勢が大事ではないだろうか。飛行機にしても、車の交通事故、ロケットなどにしても、そうして継続されているのだろう。

【私の論評】小型原発と核融合炉で日本の未来を切り拓け(゚д゚)!

原発を巡っては現在主に2つの動きがあります。

一つは上の記事にもある通り、小型化です。

ざっくりと言ってしまうと、小型原発は、従来の原理の原発を小型化したものです。従来の出力100万キロワット超の原子力発電所と異なり、1基当たりの出力が小さい原子炉のことです。大型の原子炉に比べ冷却しやすく、安全性が高いとされます。

2011年の東京電力福島第1原子力発電所の事故をきっかけに欧米を中心に「原発離れ」が進みました。しかし脱炭素の機運が高まる中、温暖化ガスをほぼ出さず、大型炉よりも安全で低コストの小型炉に注目が集まっています。小型原発は規模が小さいがゆえに、たとえ電源がなくても、冷却ができるため、より安全とされています。

これは、従来の原発より出力が小さい「小型モジュール炉(SMR)」として、脱炭素社会に適した次世代技術として注目を集めています。米国など主要国の後押しを受け、メーカーが開発を加速。発電量が天候に左右される風力、太陽光など再生可能エネルギーの弱点を補う「安定性と柔軟性」(米企業)に期待が高まる一方、コスト面から専門家の間には商用化に慎重な見方もあります。

1年の多くが氷で閉ざされるロシア北東のチュコト自治管区ぺベクの港に、全長144メートルの巨大な「船」が停泊している。船内では小型原発2基(出力計7万キロワット)が稼働し、地域の電力源を担う。開発したロシア国営企業ロスアトムは、既存の火力発電所などに取って代わることで「年間5万トンの二酸化炭素(CO2)排出を削減できる」と説明しています。

ロシア国営企業ロスアトムが開発した小型モジュール炉を搭載した船

SMRは、脱炭素の機運が急速に高まる中で、小回りの利く安定電源の候補として浮上しました。米国やカナダ、英国が開発資金を拠出しているほか、昨年10月にはフランスのマクロン大統領も巨額投資の方針を打ち出しました。日本でも萩生田光一経済産業相が今月6日、SMR開発をめぐる国際連携に政府が協力する方針を明らかにしました。

開発を競うメーカーで、商用化に最も近いと目されるのが米新興企業ニュースケール・パワーです。出力7.7万キロワットのSMRは米当局の許認可手続きで先行し、2027年の稼働開始を目指します。同社は「需要に合わせて供給量を調整できる」と、発電量が不安定な自然エネルギーの補完的役割を強調。外部電源や注水に頼らず、原子炉を自然冷却する「これまでにない性能」を持つと安全性をうたいます。

半面、原発が避けて通れない核廃棄物の処理問題や、事故のリスクは解消されていません。SMRは安全性やセキュリティー面を考慮すると、発電コストが割高になり、商用化のハードルはかなり高くなる可能性も指摘する識者もいます。

ニュースケール社が設計したSMRの上部約3分の1の実物大模型=米オレゴン州コーバリス

もう一つの動きは、核融合炉です。これは、原子核融合反応を利用した、原子炉の一種です。発電の手段として2022年時点では開発段階であり、21世紀前半における実用化が期待される未来技術の一つです。

これに関しては、「核大国」米国の現状を把握しておくべきでしょう。 米国は原子力発電所の国内での新設はもちろん、輸出もできないデッドロックに直面していました。ところが 豪州に対する原潜の技術供与により、オーストラリア原潜向けに発電所用の小型原子炉を「輸出」できる展望が開け、デッドロックから脱出する道筋が見えてきたのです。

それは原子力関連の技術維持にも役立ちます。 米国の国益にとって決定的なブレイクスルーであり、原子力産業と軍産複合体にとっては「光明」とも言えます。 原潜向けの小型原子炉は、発電所に使われる「加圧水型原子炉(PWR)」とほぼ同じもので技術的な差はありません。

米国は上記でも述べたように、部品を現地に運んで組み立てる「小型モジュール炉(SMR)」を開発中で、オーストラリア南部アデレードで組み立てるとみられます。

一方核融合は水素などの軽い原子核どうしが融合して新しい原子核になる反応で、太陽など恒星の中心部で生み出される膨大なエネルギーの源。発電にあたり温室効果ガスや、高レベル放射性廃棄物を排出しないことから、エネルギー問題や環境問題の解決につながるとして期待がかかります。

核融合炉の詳細については、以下を御覧ください。


核融合炉の利点・欠点は以下のようなものです。

〈利点〉
  • 核分裂による原子力発電と同様、温暖化ガスである二酸化炭素の排出がない。
  • 核分裂反応のような連鎖反応がなく、暴走が原理的に生じない。
  • 水素など、普遍的に存在する資源を利用できる。
  • 原子力発電で問題となる高レベル放射性廃棄物が継続的にはあまり生じない(もっとも古くなって交換されるダイバータやブランケットといったプラズマ対向機器は高い放射能を持つことになる。ただし開発が進められている低放射化材料を炉壁に利用することにより、放射性廃棄物の浅地処分やリサイクリングが可能となる)。
  • 従来型原子炉での運転休止中の残留熱除去系のエネルギー損失や、その機能喪失時の炉心溶融リスクがない。
〈欠点〉
  • 超高温で超高真空という物理的な条件により、実験段階から実用段階に至る全てが巨大施設を必要とするため、莫大な予算がかかる。
  • 炉壁などの放射化への問題解決が求められる(後述)。
核融合関連の技術開発に取り組む京都大発のベンチャー、京都フュージョニアリング(KF社、東京)は2月2日までに、核融合発電の実証実験プラントの建設を計画していることを明らかにしました。2023年中にも着工し、核融合反応で生じたエネルギーを発電用に転換する技術開発を進めます。同社によると、核融合を想定した発電プロセスの実証施設は世界でも例がないといいます。


核融合炉内の反応で生み出されるエネルギーはそのままでは発電に使えず、転換には特有の技術が必要とされます。

計画するプラントでは、核融合反応でエネルギーが放出される状況を疑似的に再現し、同社が開発する装置で熱エネルギーに変換。さらに発電装置を駆動することで、実際に電気を起こします。プラントは十数メートル四方に収まる規模で、想定している発電能力も数十キロワットとごく小規模といいます。

核融合発電を巡っては、現在、実用化できる規模の反応を安定的に維持するための開発競争が繰り広げられています。KF社は、こうした技術的ハードルが近い将来に克服されることを見越し、さらにその先の技術を確立させることでスムーズな実用化につなげます。長尾昂社長は「核融合発電を実用化するにあたって将来、避けては通れない部分。知見を重ねて技術的に先行したい」といいます。

同社は2日、三井住友銀行や三菱UFJ銀行といった大手金融機関やベンチャーキャピタルから総額約20億円の資金を調達すると発表。技術開発の加速や人員体制の強化などに充てるとしている。

プラントは23年中の着工を目指し、現在、建設候補地の検討を進めています。実証プラントに設置する装置の製造は国内のメーカーに依頼する方針といい、国内で技術やノウハウを蓄積することで、将来的な国際的競争力も確保します。

小型原発も、核融合炉も日本も手がけており、日本でも将来的には両方とも実用化される可能性は高いです。まさに、日本は小型原発と核融合炉で日本の未来を切り開きつつあるといえます。

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2022年2月13日日曜日

ロシア「米潜水艦が領海侵入」 米軍は否定―【私の論評】日本は新冷戦においても冷戦時と同じくロシアを封じ込め、東・南シナ海で米軍に協力し、西側諸国に大きく貢献している(゚д゚)!

ロシア「米潜水艦が領海侵入」 米軍は否定


 ロシア国防省は12日、クリル諸島(北方四島と千島列島)近くのロシア「領海」で米海軍の潜水艦を探知したと発表した。ロシアのインタファクス通信などが報じた。米軍はロシアの発表を否定し、米ロ対立がインド太平洋地域でも改めて浮き彫りになった。

 ロシア国防省によると、同国の太平洋艦隊が軍事演習を実施していたクリル諸島近くの海域で米海軍の攻撃型原子力潜水艦を探知したという。ロシアは「しかるべき措置」を講じたところ、潜水艦が領海内から出たと主張した。

 米国のインド太平洋軍の報道担当者は12日の声明で「ロシアの領海で我々が活動していたという主張は真実ではない」と反論した。「潜水艦の正確な位置についてコメントはしないが、我々は国際水域で安全に飛行し、航行し、活動している」と強調した。

 米国とロシアはウクライナ情勢をめぐり対立を深めている。バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領は12日に電話協議したが、米政府高官は記者団に対し「数週間前からの状況に根本的な変化はなかった」と説明した。米政権はロシアがウクライナに侵攻すると懸念し、ロシアは否定している。

【私の論評】日本は新冷戦においても冷戦時と同じくロシアを封じ込め、東・南シナ海で米軍に協力し、西側諸国に大きく貢献している(゚д゚)!

ロシア側は、どのような報道をしているかは、以下のリンクをご覧ください。

https://ja.topwar.ru/192232-istochnik-raskryl-podrobnosti-obnaruzhenija-amerikanskoj-podlodki-v-rajone-kurilskih-ostrovov.html

これは、ロシア語のソースを機械翻訳をしたもののようで、ロシアのどの艦艇がどの潜水艦(バージニア型)を発見したかなどの詳細は記述されているものの、大筋では上の記事で示されている内容と同じであり、ここでは特に内容を掲載はしません。

米バージニア型原潜

潜水艦の行動は、各国海軍とも極秘だ。米国大統領でも、米原子力潜水艦の動きは知らさていません。これは、世界共通です。日本も例外ではありません。

ただ、日本でも例外はあります。

それは、このブログにも掲載したことがあります。海上幕僚監部は2020年9月15日、当時実施中の「2020(令和2)年度インド太平洋方面派遣訓練」に、潜水艦1隻を追加派遣すると発表しました。

潜水艦の行動は先にものべたように、「極秘中の極秘」であり、この公表は極めて異例でした。同盟国・米国も了解しているとみられます。国際法を無視して、南シナ海の岩礁を軍事基地化している中国への牽制とともに、中国の具体的行動への“警告”と分析する関係者もいました。

米中貿易戦争が激化するなか、中国の軍事的挑発を阻止する狙いだったのでしょうか。中国は反発しましたが、動揺を隠しきれないようでした。

海自の「そうりゅう型」潜水艦

当時安倍晋三首相は同年9月17日夜、テレビ朝日系「報道ステーション」に生出演した際、「自衛隊の訓練は、練度を向上させるためで、どこか特定の国を想定したものではない。南シナ海における潜水艦の訓練は15年前から行い、昨年も一昨年もしている」と説明しました。

重ねて、当時の安倍首相は「事実上、そうした訓練は(近隣国である)相手方も、十分に承知していることが多い」とも述べており、中国を意識したメッセージであることは、間違いありませんでた。

中国は南シナ海のほぼ全域に歴史的権利があると主張し、独自の境界線「九段線」を引いています。

国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所は2016年、こうした主張を否定したにもかかわらず、中国は、スプラトリー(中国名・南沙)諸島の岩礁を勝手に埋め立てた人工島に滑走路やレーダーを建設したほか、パラセル(同・西沙)諸島に地対艦ミサイルを配備し、軍事拠点化を進めています。

当時防衛省がリスクを侵してまで潜水艦派遣公表したのには意図があったと考えられます。これはあくまで推測ですが、中国が南シナ海で何らかの許容できない行動をしたのではないでしょうか。

中国は現状を少しずつ変更して、軍事的覇権を強める戦術を取っています。自衛隊がそれを察知し、米国と情報共有したうえで、中国側にメッセージを伝えたとみるのが自然でしょう。

自衛隊の哨戒能力は世界最高です。日本周辺で各国艦船や潜水艦の動向をリアルタイムで把握しています。当時の中国の抑制的な反応を見る限り、日本のメッセージは伝わったのではないでしょうか。

これについて解説した私のブログではこのメッセージについて、「海洋戦術・戦略においては、中国は日米に到底及ばないことを誇示するため」のものとしました。これは図星でしょう。

中国がいくら艦艇数を増やしてみたところで、現代の海戦の主役は潜水艦です。水上に浮かぶ艦艇は、今やミサイルや魚雷で破壊される標的にすぎません。

中国は無論攻撃型原潜や、通常型潜水艦も建造していますが、それでも日米の世界トップクラスの哨戒能力で中国の潜水艦の行動は逐一日米に把握されてしまいますが、日米の潜水艦の行動、特にステルス性に優れた日本の潜水艦の行動は全く把握できていません。

ASW(対潜水艦戦闘力)では、日米に到底及ばない中国は、海洋戦においては日米に勝つことはできません。実際に日米あるいは、日本と単独とでも真っ向から海戦になった場合には、中国は勝てません。

だからこそ、防衛省は上記のようなメッセージを発信したのでしょう。そうして、この強いメッセージに対しても、中国は抑制的な反応しかしませんでした。これは、日本を下手に刺激すると、日本がさらに南シナ海に多数潜水艦等を派遣して、中国海軍の動きを完璧に封じる挙に出ることを恐れたためと考えられます。

そうして、ロシアが今回「米潜水艦が領海侵入」を公表したことにも何らかのメッセージが込められていると受け取るのが普通でしょう。

それは無論のこと、米国に対する牽制でしょう。実際米国は現在アジア太平洋地域に空母3隻のほか2隻の強襲揚陸艦も派遣しており、これはベトナム戦争以降最大数の派遣です。

これについても以前このブログに掲載したことがあります。以下に一部を引用します。
米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。
実際、ロシアは広大な国土を守備しなければならず、国土の東側の部分で日米が大々的に軍事演習などを実施されると、こちら側にも兵力を割かなければならなくなります。

ロシアはこうした動きを牽制するためにも、「米潜水艦が領海侵入」 したことを公表したのでしょう。

ただ、昨日このブログに掲載したように、バイデン政権はインド太平洋戦略をホワイトハウスのサイトに公表しましたが、その中でロシアについては一言も言及していません。

新たにインド太平洋戦略を公表したバイデン政権

昨日のブログでは、このあたりについて以下のように言及しました。
米国としては、ロシアのインド・太平洋地域における影響はなしとみているといえると思います。実際そうなのでしょう。ロシアの太平洋艦隊も、ロシアの原潜等も、米国には脅威とみなしていない、少なくとも米国のコントロール下にあると見ているのだと思います。無論、それには日本の強力な対潜水艦戦闘力(ASW)等が関係していると思います。

そうして、この地域における最大の脅威はとりもなおさず、中国であるということです。そうして、これこそが米国にとって大きな脅威であると認識しているのです。しかも、軍事力だけではなく、経済力や技術力などによるこの地域への浸透と不安定化を懸念しているでしょう。
実際、上の記事にもあるとおり、米国のインド太平洋軍の報道担当者は12日の声明で「ロシアの領海で我々が活動していたという主張は真実ではない」と反論したのみです。

ロシアに関しては、冷戦中に日本がそうしたように、日本の優れた対潜哨戒能力で、ロシア海軍特に、潜水艦の動きを封じ込めるだろうと考えており、さらには今や一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回るロシアにできることは限られているので、特に脅威とはみなしていないのでょう。

日本の対潜戦闘力(ASW)は、はやばやと潜水艦22隻体制を整えるとともに、日本独自の新型哨戒機P1も多数導入したうえ、対潜ヘリコプター搭載護衛艦を各種導入し、冷戦時よりもさらに強化されており、当然のことながら中国とともにロシアの動きも監視しており、米国としてはインド太平洋地域でのロシアの動きはさほど脅威とは感じていないのでしょう。

ただ、だからといって、ロシアは旧ソ連の核兵器と軍事技術を継承しており、決して侮れる相手ではないものの、インド太平洋地域においては当面大きな脅威になるとはみなしていないのでしょう。そんなことよりも、この地域への中国の浸透のほうが、かなり大きく深刻であると判断しているのでしょう。

ロシアの動き封じるという意味では、日本は新冷戦においても冷戦時に旧ソ連を封じ込めたのと同じくロシアをオホーツク海で封じ込めています。さらに東シナ海、南シナ海でも米軍に協力し西側諸国に大きく貢献しているといえます。

ただ、軍事に疎いマスコミがこれを報道しないのと、先に潜水艦の行動は「極秘中の極秘」であり、政府も防衛省もほとんど公表しないので、あまり注目されないだけです。

日本はこうした動きを継続拡大し、新冷戦でも西側諸国にさらに貢献すべきです。これには、岸田政権そのものにはあまり期待できそうもありませんが、岸防衛大臣には期待できそうです。そうして、新冷戦に日本が勝利すれば、日本の国際的地位は飛躍的に高まり、国内でもこれを評価しないわけにはいかなくなるでしょう。

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2022年2月12日土曜日

米バイデン政権が「インド太平洋戦略」を発表 「台湾侵攻の抑止」明記 高まる日本の重要性―【私の論評】現在バイデン政権は、ウクライナ問題に対処しているが、最優先はインド太平洋地域の安定であることを、改めて明らかにした(゚д゚)!

米バイデン政権が「インド太平洋戦略」を発表 「台湾侵攻の抑止」明記 高まる日本の重要性

バイデン大統領

 アメリカのバイデン政権は11日、最重要と位置づけるインド太平洋地域での外交や安全保障、経済政策の指針となる「インド太平洋戦略」を発表しました。中国に対抗する姿勢を強調し、台湾への軍事侵攻を抑止する方針も明記されています。

■中国の台頭へ警戒感 同盟国と連携強化

 「インド太平洋戦略」では、バイデン政権が「唯一の競争相手」と位置づける中国について、「経済、外交、軍事、技術力を結集して、世界で最も影響力のある大国になろうとしている」と指摘。「今後10年間のアメリカの努力次第で、中国が現在のルールや規範を変えてしまうかどうかが決まる」として、アメリカがインド太平洋地域への関与を強める方針を明確にしました。

 そのために、日本とアメリカ、オーストラリア、インドの枠組み、いわゆる「クアッド」や、ASEAN(=東南アジア諸国連合)などとの関係を強化し、地域の様々な問題に、各国が共同で対処する能力を高めることが重要だとしています。

■「台湾海峡の平和・安定維持」明記 日韓関係の改善も促す

 安全保障面では、「台湾海峡の平和と安定」を維持し、「台湾海峡を含むアメリカや同盟国などへの軍事侵攻を抑止する」ことが明記されました。また経済面では、バイデン政権が打ち出したインド太平洋地域の「新たな経済枠組み」を、今年の早いうちに立ち上げるとしています。

 一方、地域内外の連携構築の重要性にも触れ、日本と韓国を名指しして「互いに関係を強化するべきだ」と指摘。冷え込みが続く日韓関係の改善も促しています。

■日本への言及増加 専門家の見方は

 米中関係に詳しいCSIS(=戦略国際問題研究所)のマシュー・グッドマン上級副所長は、今回の戦略で同盟国などとの協力強化が強調されていることについて、「気候変動や新型コロナ対応など、この地域の重要な課題への対応には、各国の助けが必要だというメッセージだ」と分析しています。

 さらに、日本や「クアッド」への言及が多く、アメリカにとっての重要性が増していると指摘。「サイバーセキュリティーや、重要技術の保護など対中国のあらゆる分野でアメリカは日本に支援してほしいと考えている」と指摘しています。

【私の論評】現在バイデン政権は、ウクライナ問題に対処しているが、最優先はインド太平洋地域の安定であることを、改めて明らかにした(゚д゚)!

バイデン政権が公表したインド太平洋戦略の5本柱は以下のようなものです。


この戦略は、ホワイトハウスのサイトに掲載されています。そのリンクを以下に掲載します。

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/02/11/fact-sheet-indo-pacific-strategy-of-the-united-states/

以下に、日本語の機械翻訳を掲載します。翻訳は、Deeple translatorを用いました。一部、手直しをいれています。

ファクトシート: 米国のインド太平洋戦略

「私たちは、開かれた、つながった、繁栄した、弾力性のある、安全なインド太平洋を思い描いており、その実現のために皆さんと協力する用意があります」。
ジョー・バイデン大統領
            東アジアサミット
2021年10月27日

バイデン=ハリス政権は、インド太平洋における米国のリーダーシップを回復し、その役割を21世紀に適合させるために、歴史的な前進を遂げました。昨年、米国は、中国との競争から気候変動、パンデミックに至るまで、緊急の課題に対応するため、長年の同盟関係を近代化し、新興のパートナーシップを強化し、その間に革新的なつながりを構築した。世界中の同盟国やパートナーがインド太平洋地域への関与をますます強めており、米国議会でも米国が関与すべきとの超党派の幅広い合意が得られているときに、米国はこれを実現したのである。インド太平洋は世界で最もダイナミックな地域であり、その将来は世界中の人々に影響を与える。

この現実が、米国のインド太平洋戦略の基礎となっている。この戦略は、インド太平洋において米国をより強固に位置づけ、その過程でこの地域を強化するというバイデン大統領のビジョンを概説するものである。その中心的な焦点は、地域内外の同盟国、パートナー、機関との持続的かつ創造的な協力関係である。

米国は、次のようなインド太平洋地域を追求する。

1.自由で開かれた地域

私たちの死活的利益と最も近いパートナーの利益は、自由で開かれたインド太平洋を必要とする。自由で開かれたインド太平洋には、政府が独自の選択をすることができ、共有領域が合法的に統治されることが必要である。我々の戦略は、米国で行ってきたように個々の国の中でも、国同士の間でも、弾力性を強化することから始まる。我々は、以下を含む、自由で開かれた地域を推進する。

・民主的な制度、自由な報道機関、活気ある市民社会に投資する。

・インド太平洋地域の財政の透明性を高め、汚職を明らかにし、改革を推進する。

・この地域の海や空は、国際法に従って管理され、利用されるようにする。 
・重要な新興技術、インターネット、サイバー空間に対する共通のアプローチを推進する。
2. 地域内のつながり

自由で開かれたインド太平洋は、新しい時代のための集団的能力を構築してこそ実現できるものです。米国とそのパートナーが構築に寄与してきた同盟、組織、規則を適応させなければならない。われわれは、この地域の内外で、次のような方法で集団的能力を構築する。

オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、およびタイとの 5 つの地域条約同盟をさらに深める。

・インド、インドネシア、マレーシア、モンゴル、ニュージーランド、シンガポール、台湾、ベトナム、太平洋諸島など、地域の有力なパートナーとの関係を強化する。

・パワーアップした統一ASEANへの貢献 
・クアッドの強化と公約の実現
・インドの継続的な発展と地域のリーダーシップを支援する 
・太平洋諸島のレジリエンス(回復力)構築のための提携 
・インド太平洋地域と大西洋地域の結びつきを強化する。 
・インド太平洋地域、特に東南アジアと太平洋諸島における米国の外交プレゼンスを拡大する。

3.地域の繁栄

毎日のアメリカ人の繁栄は、インド太平洋とつながっています。この事実は、イノベーションを奨励し、経済競争力を強化し、高賃金の仕事を生み出し、サプライチェーンを再構築し、中流家庭のための経済機会を拡大するための投資を必要とする。インド太平洋地域では、この10年間で15億人が世界の中産階級の仲間入りをすることになる。我々は、以下を含め、インド太平洋の繁栄を推進する。

・インド太平洋の経済的枠組みを提案し、これを通じて以下を行う。
高い労働・環境基準を満たす貿易への新たなアプローチを開発する。
新しいデジタル経済の枠組みを含め、オープンな原則に従って、デジタル経済と国境を越えたデータの流れを管理する。
多様で、オープンで予測可能な、弾力的で安全なサプライチェーンの推進
脱炭素化、クリーンエネルギーへの共同投資
・2023年の開催年を含め、アジア太平洋経済協力(APEC)を通じて、自由、公正、かつ開かれた貿易・投資を促進する。
・G7パートナーとのBuild Back Better Worldを通じて、地域のインフラギャップを解消する。

4. 安全保障

米国は75年間、地域の平和、安全、安定、繁栄を支えるために必要な、強力で一貫した防衛プレゼンスを維持してきた。我々は、その役割を拡大、近代化し、我々の利益を守り、米国の領土や同盟国、パートナーに対する侵略を抑止する能力を高めている。我々は、侵略を抑止し、強制に対抗するために、以下を含むあらゆる力の手段を駆使して、インド太平洋の安全保障を強化する。

・統合的抑止の推進 
・同盟国・パートナーとの協力関係の深化と相互運用性の向上
・台湾海峡の平和と安定の維 
・宇宙、サイバースペース、重要技術・新興技術分野など、急速に進化する脅威環境において活動するための技術革新。 
・拡大抑止と韓国・日本の同盟国との連携の強化、朝鮮半島の完全な非核化の追求 
・AUKUSの継続的な実現 
・米国沿岸警備隊のプレゼンスとその他の国境を越える脅威に対する協力の拡大 
・太平洋抑止イニシアティブと海上安全保障イニシアティブに資金を提供するため、議会と協力すること。

5. 対応力強化

インド太平洋地域は国境を越えた大きな課題に直面している。気候変動は、南アジアの氷河が溶け、太平洋諸島が海面上昇という存亡にかかわる問題に直面する中で、かつてないほど深刻さを増している。COVID-19の大流行は、この地域全体に人的・経済的損害を与え続けている。そして、インド太平洋地域の政府は、自然災害、資源不足、内戦、ガバナンスの課題に取り組んでいる。こうした力を放置すれば、この地域は不安定化する恐れがある。我々は、21世紀の国境を越える脅威に対する地域の回復力を、以下を含む方法で構築する。

・同盟国やパートナーと協力して、2030年および2050年の目標、戦略、計画、政策を策定し、世界の気温上昇を1.5℃に抑制する。

・気候変動や環境悪化の影響に対する地域の脆弱性を低減する。

・COVID-19の流行に終止符を打ち、世界の健康安全保障を強化する。

###
米国が現状のように、ロシアによるウクライナ侵攻の危機が叫ばれている時にこのような戦略を公表する意図は何なのでしょうか。ちなみに、バイデン政権のこの戦略の中には、ロシアもウクライナも一切でてきません。

インド太平洋戦略について述べているわけですから、出てこないのは当たり前といえば、当たり前なのかもしれませんが、それにしても、インド・太平洋地域というと、ロシアもオホーツク海を介して太平洋と繋がっているのですから、何らかの影響力があれば、言及されるはずです。

米国としては、ロシアのインド・太平洋地域における影響はなしとみているといえると思います。実際そうなのでしょう。ロシアの太平洋艦隊も、ロシアの原潜等も、米国には脅威とみなしていない、少なくとも米国のコントロール下にあると見ているのだと思います。無論、それには日本の強力な対潜水艦戦闘力(ASW)等が関係していると思います。

そうして、この地域における最大の脅威はとりもなおさず、中国であるということです。そうして、これこそが米国にとって大きな脅威であると認識しているのです。しかも、軍事力だけではなく、経済力や技術力などによるこの地域への浸透と不安定化を懸念しているでしょう。

これについては、バイデン政権がこのような戦略を改めて打ち出さなくても、ある程度は認識することができました。それについては、このブログでもすでに述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
海自艦が米軍と共同訓練 ウクライナ危機と台湾有事の連動警戒 台湾「米国含む価値観が近い国々とパートナーシップ関係を深める」―【私の論評】インド太平洋地域と地中海への米艦隊の派遣の比較から見る、米国の真意(゚д゚)!

  共同訓練を行う、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」(中央)と、
  海自護衛艦「こんごう」(左から5番目)など(海自提供)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

ロシアは戦争を起こしたとしても、クリミアのときのように短期で局所戦のみでしょうが、中国は現在はともかく将来は長期的な総力戦も遂行できるようになる可能性があります。米国もこれには、長期に渡る対応が必要になります。

バイデン政権か優先しているは、やはり中国への対峙なのでしょう。インド太平洋地域にベトナム戦争意向最大数の空母などを結集させていることがそれを示しています。そうして、日本の海自もこれらと行動をともにしているのです。直近の2回の日米合同演習がそれを示していると思います。

これは米国が日米の協同が、中国対応への一つの鍵だとみている証拠です。日本は米国に頼りにされているのです。日本のマスコミはこれを報道しませんが、日本としてはこれをしっかり認識すべきです。重い責任を担うことにもなりますが、日本の存在価値を高めるチャンスでもあるととらえるべきです。
私は、これがバイデン政権の本音であり、それがバイデンの「インド太平洋戦略」にも色濃く反映されていると思います。

最近マスコミでは、ロシアによるウクライナ侵攻ばかりがクローズアップされており、それを裏付けるように、米国防総省のカービー報道官は9日の記者会見で、ロシアによるウクライナ侵攻に備え、米軍がウクライナに駐在する米国人の退避支援を検討していると明らかにしたことが報道されています。

米軍の大規模部隊が6日、ポーランドの空港に到着した

米メディアによると、バイデン大統領が支援計画を承認しました。米国が増派した隣国ポーランドの国境近くに一時的に避難所を設けて対応するとしています。

これでマスコミなどは、ロシアによるウクライナ侵攻をさらに煽るのでしょうが、米国としてはロシアがウクライナに本当に侵攻するしないは別にして、退避勧告をしたり、退避支援を検討するのは当たり前のことでしょう。

しかし、米国のこうした対応には、隠された意図があるかもしれません。

2020年1月19日付朝日新聞デジタル版は、北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返していた2017年の秋、アメリカ政府が日韓に在住する米市民の退避を真剣に検討していたとしています。

その内容を明かしたのは、退避が検討されていた当時に在韓米軍司令官であったビンセント・ブルックス元陸軍大将です。

記事によると数十万人規模の退避計画で、「早期退避」を目的としていたそうです。つまり、北朝鮮が攻撃を仕掛ける前に、あるいはその気配が濃厚になる前に退避させるというものでした。これに対して当時のブルックス氏は、この計画が実施に移された場合には、北朝鮮側が状況を読み間違えて戦争につながる恐れがあるとして反対したというのです。

ブルックス氏は実際の早期退避行動を行うためには、①敵意から身体に危害を加える状況へと変わっている②北朝鮮への戦略的圧力として効果がある――のいずれかが必要だと考えていたといいます。検討の結果、いずれの条件も満たされていないうえ、退避行動を行えば北朝鮮が「米国が開戦準備をしている」と受け止め、「読み違えによって容易に戦争が起こり得る」と判断し、実施に反対したというのです。

今回のロシアへの対応では、ロシアによる「読み違え」をあまり意識していないように見えます。ロシアのウクライナ方面での行動に関しても、米国のコントロール下にあると考えているのかもしれません。

米国からすれば、ロシアはウクライナに侵攻しないだろうし、侵攻したとしても部分的であり、大戦争にはならないと見ているのでしょう。さらに侵攻すれば、それを理由にし、ウクライナをNATOに編入して、ウクライナにNATO軍を進駐させたり、中短距離ミサイルを配備できるようになるとみているのでしょう。

これは、憶測ですが、これが当たっていようがいまいが、現在バイデン政権は、ウクライナ問題に対処はしていますが、最優先はインド太平洋地域の安定であることを、改めて明らかにしたというのが、今の時期にわざわざ「インド太平洋戦略」を公表したことの背景にあるのは間違いないでしょう。

バイデン政権としては、旧ソ連の核や軍事技術を継承しているロシアは決して侮ることはできないものの、今や一人あたりGDPが韓国を大幅に下回るロシアに、振り回されることなく、インド太平洋地域の戦略を第一義に考えていることをアピールするという目的もあったのではないかと思います。

そうしなければ、マスコミはウクライナ問題ばかり報道し、バイデン政権はウクライナ問題に忙殺されているように国民から受け取られ、同盟国からもインド太平洋地域を軽視していると受け取られかねません、それだけは避けたかったのでしょう。

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2022年2月11日金曜日

AUKUSで検討されている新戦略―【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論は、あってしかるべき(゚д゚)!

AUKUSで検討されている新戦略

岡崎研究所

 1月21日付のASPI(豪戦略政策研究所)Strategistで、元豪州国防省戦略担当副長官のピーター・ジェニングスが、AUKUS(豪英米軍事同盟) による豪州の原潜調達がうまく行かない可能性がある、その場合の代替案としてB-21長距離爆撃機の調達を検討すべきだと述べている。
 

 ジェニングスは、元米国防次官補のシュライバーが「両国の政治指導者の持続的なコミットメントが必要であり、それがなくなれば豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べたことを紹介し、①原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)が必要だ、②B-21(最新長距離爆撃機)の調達を検討すべきだと主張する。

 B-21は高い柔軟性、早い補充性等の利点を有するという。しかし、B-21も最新技術を使用しており、米国の技術供与同意はジェニングスが前提にするほど簡単ではないであろう。

 大きな驚きはない。昨年9月15日、AUKUSは良い意図をもって作られ、豪州が英国または米国製造の原潜8隻を購入、運用することに合意したが、契約済みの仏通常推進潜水艦購入計画を破棄し、米国の同盟国であるフランスを激怒させた。

 更に原潜の技術移転や必要なインフラ整備、人員の訓練、財政負担、就役予定、運用方針など莫大な問題が残っており、全体としてやや拙速に進められた感は免れなかった。国際原子力機関(IAEA)のセーフガード適用も厄介な問題として残っている。更にジェニングスが指摘する米国海軍の反対や米豪英3カ国の指導者交替などは、原潜の成否に大いに関係するであろう。

 インド太平洋の戦略情勢に大きな影響を与えるこのプロジェクトの進捗を注意深くフォローしていく必要がある。

豪州に原潜は来ないかもしれないという警告

 この論説の契機になったのは、シュライバーの見解を報道した1月16日付オーストラリアン紙記事(「元トランプ政権高官、豪州に原潜は来ないかもしれないと警告」)と思われる。同記事の主要点は次の通り。

 (1)シュライバーは、米国海軍の反対や米豪両国の政治的交替を含め「双方にある多くの潜在的障害」のために8隻の原潜の豪州供与は実現しないかもしれないと述べるとともに、「(原潜計画への)両国政治指導者の大きなコミットメントが必要であり、それがないと豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べた。

 (2)先月米国大統領府は、豪州への原潜の「できるだけ早期の」供与は順調に進んでいるとの声明を出し、原潜展開は想定より遅くなり、コストも仏通常潜水艦購入に比べ一層大きくなるとの推測を打ち消そうとした。

 (3)シュライバーは、「インド太平洋におけるフランスとの関係を修復する必要がある。フランスは当該地域で英国よりも大きい安全保障上、人口上の存在である」と述べるとともに、ダットン(豪国防相)やアボット(元首相)が言っている米原潜の貸与(リース)案について「難しいが不可能ではない」、「その場合、米国の船員も乗船するか、米国が原潜につき究極的なコントロールをすることが必要になろう」と述べた。

 (4)昨年9月のAUKUS発表では、原潜技術を英米のどちらが供与するのか、如何なるコストがかかるのか、いつ原潜建造が完了するのか、どの部分が南豪州で製造されるのかなどについては明らかにされていない。

 (5)戦略国際問題研究所(CSIS)のエデルは、大統領府が海軍の反対を抑えない限りAUKUS の原潜は「実現する可能性は少ない」と述べ、「米国海軍は最重要の技術の共有には極めて慎重、理由は技術の安全保障上の懸念と共に安全上の懸念にある」と述べた。

【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論はあってしかるべき(゚д゚)!

豪州に原潜は来ないというのは明らかな事実です。少なくとも、2040年までは来ません。実は米英の技術提供の下で豪で製造される潜水艦は原子力潜水艦で完成は2040年になってしまうからです。2040年というと、18年後です。約20年後です。

昨年9月16日のAP通信が“Australia: Strategic shifts led it to acquire nuclear subs”(オーストラリア:戦略的転換により原子力潜水艦を保有することになった)というタイトルで、オーストラリアのモリソン首相の言葉として伝えています。

AUKUS結成を伝える豪モリソン首相

報道によればモリソン首相は「オーストラリアの都市アデレードに建設される予定の原子力潜水艦の1号機は、2040年までには建造されるだろうと期待している」と語ったといいます。

なぜオーストラリアの原潜製造が20年先の2040年にしか完成しないかといえば、やはり人材の欠如でしょう。日本などは、原潜を製造した経験こそないものの、原子炉や通常型潜水艦の技術はあり人材も存在しますから、日本が米英からでも技術供与をうけながら、原潜開発ということになれば、10年以内にできるでしょうが、オーストラリアには原発も潜水艦製造の技術もありません。

そもそも、オーストラリアには原発がありませんし、通常型潜水艦は他国から導入(コリンズ型はスウェーデンから)したものです。

オーストラリアにとって、原潜を製造することは、何もないところから一つの巨大産業を起こすようなものであり、それには膨大な労力と、経費と時間がかかるのです。

そうはいっても、オーストラリアで製造しなければ「レンタル」に等しく「技術移転」にはならず無意味です。

2040年と言えば、マスコミなどによれば中国のGDPはとっくに米国を抜いているとされる時期です。ただ私自身は、このブログで何度か述べているるように、中国の一人あたりのGDPは一万ドルくらいになったため、今後は中所得国の罠にはまり経済が伸びることなく、そうなるとは思いませんが、それにしても20年後というと隔世の感があります。生まれたばかり赤ん坊が、成人するまでの時間です。

私は、この頃には、米国による制裁や、中国自身の問題で、中国の将来は見通せる状況になっており、さほど危険な国ではなくなっている可能性が大きいと思います。そもそも、現体制がそのまま続いているかどうかさえ疑問です。その頃になって、はじめてオーストラリアが原潜を持ったにしても、ほとんど意味がなくなっている可能性すらあります。

20年も経つうちにはオーストラリアの首相は何代も代わっているでしょうし、国内世論もどうなっているか分からないです。

オーストラリアは元々は「反原発」の国なので、そもそも国民が受け入れるのか否かという面もあり、2040年までの政権交代の中で廃案になっている可能性すらあります。

そうなると、20年後までAUKUS内でオーストラリアを機能させないままにするのかという議論にもなると思います。それは、あり得ないでしょう。

原潜が製造できるようになるまで、オーストラリアが何もしないというのでは、AUKUS結成の意味がなくなります。

上の記事で、シュライバー氏は、「原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)」としていますが、オーストラリアが原潜を製造できるようになるまでには、20年かかるというのですから、原潜計画が旨くいこうがいくまいが、当面のプランは当然に必要になると思います。

2020年2月、蔡英文台湾総統(右)を表敬訪問したシュライバー氏(左)

オーストラリアがB-21長距爆撃機を所有するというのも一つの案だと思います。上の記事にもあように、「ダットン(豪国防相)やアボット(元首相)が言っている米原潜の貸与(リース)案について「難しいが不可能ではない」と思います。

実際米シンクタンクのウイルソン・センターが主催したイベントに登場したアボット元豪首相は「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得したい」と語り注目を集めました。

米英と締結した地域安全保障条約(AUKUS)に基づく原潜導入を発表したオーストラリアはその後18ヶ月間の時間を費やし「どんな原潜をどのような手順で何時までに導入するのか」を決定するため、現時点では「原潜を導入」としか分かっていないですが、新たな国が「第3ヶ国の支援を受けて原潜を調達する」というプロセスは非常に稀(ブラジルのみ)なため世界中が注目をしており、この話題に触れるオーストラリアの政治的指導者も多いです。

アボット元豪首相もその一人で米シンクタンクのウイルソン・センターが主催したイベントで「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得したい」と独自の考えを語り注目を集めました。

アボット元豪首相は「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得し、オーストラリア海軍の指揮下で運用することは可能だろうか?私がもしロンドンにいれば英国に同じような提案をするだろう」と語りました。

さらに、訓練目的で取得するロサンゼルス級原潜は「必要に応じて西太平洋での戦力増強に貢献することもできる」と独自の原潜導入アプローチを披露しましたが、米メディアのTheDriveはアボット元豪首相の提案は「米国の政治的指導者の決断がなければ実現が難しい」と見ているのが興味深いです。

真珠湾に入港するロサンゼルス級原潜

TheDriveは「2015年まで首相を務めたアボット氏はモリソン政権に参加していないが依然として自由党の一員であり、元豪首相という立場で原潜導入に関する発言を行った裏には豪外務・国防省からの非公式の依頼か承認があったはずだ=事実上モリソン政権の意向という意味」と指摘した上で「控えめに言っても興味をそそられる」と言っています。

ただ、退役するロサンゼルス級原潜をオーストラリアに移転するには核燃料の補給とオーバーホールが必要で潜水艦自体の寿命延長プログラムも行わなければならず、原潜を第3国に移転するためのルール整備も手つかずの「未知の領域」だと主張しました。

しかしオーストラリアが原潜を製造できるようになるまで、オーストラリアがAUKUS内で何もしないということはありえませんから、これとは別に、オーストラリアが戦略爆撃機を運用できるようにしたり、退役する米原潜を運用できるようにするなどのこともすべきでしょう。あるいは、通常型潜水艦をレンタルするというのもありだと思います。

そうして、オーストラリアによるロサンゼルス級の取得はバイデン大統領の鶴の一声で政治的に実現する可能性も十分にあります。

AUKUSで検討されている新戦略とは、まさに直近でオーストラリアは対中国で何をすべきかという課題の検討ということだと思いますし、これはなされてしかるべきものだと思います。


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2022年2月10日木曜日

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る―【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る

岡崎研究所

 ウクライナ危機は、プーチン政権の終わりにつながり得るかもしれない。ウクライナ危機が深刻化する中、こうした指摘も増えてきているようだ。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジェニファー・ルービンは、1月26日付けで‘The West may not be able to deter Putin. But at least he knows the consequences will be devastating.’(西側はプーチンを抑止することができないかもしれない。しかし少なくとも彼は結果が破壊的であることを知っている)と題する論説を書いている。

 上記のルービン論説の他、ウォールストリート・ジャーナル紙も1月26日付で同紙コラムニストのホルマン・ジェンキンズによる‘Waiting for the Last Days of Putin’(プーチンの最後の日々を待つ)と題する論説を掲載している。また、ワシントン・ポスト紙は1月28日にもカール・ビルト(スウェーデン元首相)の‘Why Putin’s gamble on Ukraine is insane’(なぜプーチンのウクライナについてのギャンブルは気違い沙汰なのか)という論説を掲載、ビルトは「ロシアの侵攻は長期的対決の始まりになり、結果としてより大規模な戦争とロシアの政権の崩壊につながる可能性がある」としている。

上記ルービンは、今回のウクライナ危機についての諸問題を、次のように指摘する。

・ロシアが侵攻すれば、西側同盟を再活性化し、ロシアは経済的にどうしようもない国、国際的な「のけ者」になる。プーチンはこれを理解しているだろう。

・ホワイトハウス高官は、「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、従来のような漸進主義はとらず、今回はエスカレーションの梯子のトップから始め、そこにとどまる」と言っている。

・米政権は、北アフリカ、中東、アジアを含む世界の各地で、ロシア産でない天然ガスの追加量を見出し、欧州に割り当てようとする努力をしている。ノルドストリーム2は閉鎖されうる。

・米政権は、人工知能、ロボット、レーザー、防衛、航空宇宙のような分野(プーチンが石油・ガスから経済を多様化させようと力点を置いている)で対ロ制裁の構えを見せている。

・ロシアの侵攻は、スウェーデンやフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加入、NATOの拡大につながるだろう。

・ウクライナ軍の抵抗によるロシア側の死傷者を考えると、軍事的冒険は、国内での愛国的プーチン支持を巻き起こすよりもロシアを混乱させるだろう。しかし、プーチンは自らを追い込んでおり、後戻りするのは難しいかもしれない。

 その上で、ルービンは、今後の見通しについて、ロシアにおけるプーチン政権の終りにつながりうると論じている。ルービンの論旨には賛成できる。

ソ連の栄光は取り戻せない

 ロシア人は、今ウクライナと戦争をすることを支持する気分にはないだろう。ウクライナとの戦争でロシア国民が愛国心を高揚させて、プーチンの支持率が大きく上がるというようなことは考えられない。

 プーチンは何かを勘違いしているように思われる。小規模であっても、旧ソ連を復活させることは、歴史を書き換え、逆回転させることであって、昔の栄光を取り戻したいという、いわばノスタルジア政治であるが、そのようなことは起きないし、無理にそうする力は今のロシアにはない。プーチンが今の路線を突き進むとプーチン政権の崩壊に至る可能性もあるとのルービンその他の指摘は、その通りであろう。今度の危機は、まさに現実が見えなくなった独裁者の末期的な誤判断であると思われる。

 プーチンの退場が早ければ早いほど、世界平和のためにも欧州の平和のためにも良い。今すぐにというわけではないが、キエフでのレジーム・チェンジより、モスクワでのレジ-ム・チェンジの可能性が、出てきたのではないだろうか。プーチン後の政権は、今の政権よりはましであろうから、それが出てきたときに日露関係の改善も考えたらよいだろう。

【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

2017年当時も、北朝鮮はミサイルを連射し、トランプ政権は3つの空母打撃軍を朝鮮半島付近に派遣し、さらにこの打撃群には、外見は空母のように見える、日本のヘリコプター搭載護衛艦も旭日旗を掲揚しつつ随伴していました。

        星条旗を掲げ航行する米原子力空母「ジョージ・ワシントン」(奥)と
          これに伴走する旭日旗を掲げた海自「いづも型」護衛艦(手前)


その姿は米国で毎日のようにテレビで報道され、米国では今にも日米合同軍が、北朝鮮に攻め込むのではないかという雰囲気だったと、知り合いの米国人が語っていたのを思い出します。

無論、冷静に考えてみれば、日本の海自が北朝鮮に攻め込むなどということはあり得ないし、さすがに米国の報道機関も、日本が北朝鮮に攻め込むなどとは報道はしてはいないのですが、日本のことをあまり知らない多くの米国人はそのように思ってしまうのかもしれません。

実際、日本による北朝鮮侵攻はありませんでしたし、米国によるそれも結局ありませんでした。

ロシアのウクライナ侵攻もこれと似たようなところがあるのかもしれません。連日のように、ロシア軍の動きをテレビなどで報道されると、多くの人はそう思ってしまうのかもしれません。


ただ、一番の責任はプーチンにあるのではないかと思います。このブログでもすでに何度か述べたように、現在のロシアはウクライナに攻め入り、ウクライナ全土を占拠する力はありません。

その理由ははっきりしています。まずは、現在のロシアのGDPが韓国なみであるということです。しかも、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。そのロシアが、いくら旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承する国家であったにしても、大戦争を遂行する力はありません。

上の記事では、「プーチンは何かを勘違いしているように思われる」としていますが、私はプーチンは意図的にロシアによるウクライナ侵攻を喧伝しているか、喧伝するのを許容しているのだと思います。

そうでなければ、すぐにウクライナ国境付近から軍隊を引き上げさせ、通常の守備レベルに戻すと思います。そうすれば、西側諸国もすぐにロシア批判をやめるでしょう。

プーチンとしては、現状のように西側諸国が、ロシアの軍事的脅威を煽るのは、決して悪いことではないのでしょう。

プーチンは旧ソ連に戻ったような気分が味わえますし、ロシア国民にもそのような気分を味合わせることができます。何よりも現状のロシアやプーチンの立場の弱さを糊塗し、さらに米国やEUに対して大きな譲歩を迫ることができる可能性もあります。プーチンとしては、現状を放置したままにして、そうした機会をうかがっているというのが実情でしょう。

実際、ロシアは弱体化傾向にあります。

まずは、直近で一番国民生活を苦しめているのはインフレです。ロシアでは2020年から食料品を中心にインフレが進んでいます。昨年12月のインフレ率は8.4%と中央銀行の目標値(4%)の2倍以上となりました。日本でも、原油価格の高騰によりインフレになるのではと心配する人もいますが、日本では日銀の物価目標2%にも到達していない有様です。ロシアと比較すれば、杞憂に過ぎないです。


ウクライナ情勢の緊迫化により通貨ルーブル安も進み、「輸入品の価格上昇でインフレ率が2桁になる」との懸念が高まっています。

ロシアの中央銀行は昨年12月、主要政策金利を7回連続で引き上げており、金利高による景気悪化も現実味を帯びつつあります。

プーチン政権の長期化への不満がこれまでになく高まっている中で、インフレと不景気の同時進行(スタグフレーション)が起きるリスクが生じています。

上のグラフご覧いただければ、2015年あたりには、ロシアはかなりのインフレだったことがわかります。これは、無論ロシアのクリミア侵攻に対する西側諸国の報復制裁の悪影響によるものです。これは、最近のことなので、多くのロシア国民の記憶にも新しいでしょう。

ロシアでは、ソ連崩壊後の1990年代前半のインフレや経済の混乱は極めて深刻でした。男性の平均寿命がいっとき60歳を切った時期さえありました。忍び寄るインフレの足音がソ連崩壊時の悪夢を多くの国民やプーチン大統領の脳裏に呼び覚ましていたとしても不思議ではないです。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

さらに、現在のロシアは人口が減少傾向です。ロシア連邦統計局は1月28日に、「同国の人口が昨年に100万人以上減少した」と公表しました。

減少幅はソビエト連邦崩壊以降で最悪であり、日本の年間の人口減少数(約50万人)をも上回っています。経済が悪化したことで出生率が低下し死亡率が上昇しているロシアに対し、新型コロナのパンデミックが追い打ちをかけた形です。

ロシア政府は2020年夏に世界で初めて新型コロナのワクチン(スプートニクV)を承認したのですが、自国産ワクチンに対する国民の根強い不信感から接種率40%台と低迷しています。このことも出生率に悪影響をもたらしているようです。

最後に、ロシアでは、石油資源が減少化傾向にあります。ロシアの昨年の原油生産量は前年比25万バレル増の日量1052万バレルだったのですが、ソ連崩壊後で最高となった2019年の水準(日量1125万バレル)に達していません。

ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯でした。巨大油田が集中し、生産コストが低かったのですが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、過去10年で約10%減少しています。

ロシアが原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないのですが、2014年のロシアによるクリミア併合に端を発する欧米諸国の経済制裁の影響で技術・資金両面から制約を受け、期待通りの開発が進んでいません。

ロシア政府が2020年に策定した「2035年までのエネルギー戦略」では「2035年時点の原油生産量は良くても現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と予測しています。その後ロシア政府高官が相次いで「自国産原油の寿命は20年に満たない可能性がある」とする悲観的な見方を示しています。

このような状況で、西側諸国の制裁がさらに強まれば、ロシアはとんでもないことになります。

ただ現在のような状況をいつまでも続けているわけにはいきません。会津の什の掟ではありませんが、「ならぬことはならぬものです」。いずれプーチンは、ウクライナ侵攻をきっぱりと否定しなければならなくなります。その時期を誤れば、プーチンのロシア国内での威信は地に落ち、それこそプーチン政権崩壊につながりかねません。

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米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!

2022年2月9日水曜日

海自艦が米軍と共同訓練 ウクライナ危機と台湾有事の連動警戒 台湾「米国含む価値観が近い国々とパートナーシップ関係を深める」―【私の論評】インド太平洋地域と地中海への米艦隊の派遣の比較から見る、米国の真意(゚д゚)!

海自艦が米軍と共同訓練 ウクライナ危機と台湾有事の連動警戒 台湾「米国含む価値観が近い国々とパートナーシップ関係を深める」

   共同訓練を行う、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」(中央)と、
   海自護衛艦「こんごう」(左から5番目)など(海自提供)

 日米が抑止力強化を進めている。海上自衛隊は8日、イージス護衛艦「こんごう」などが4~7日、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」などと沖縄周辺海域を含む東シナ海、西太平洋で共同戦術訓練を実施したと発表した。ロシアがウクライナ侵攻をチラつかせ、中国が台湾への軍事的圧力を強めるなか、日米同盟の絆を見せつけた。

 日米が抑止力強化を進めている。海上自衛隊は8日、イージス護衛艦「こんごう」などが4~7日、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」などと沖縄周辺海域を含む東シナ海、西太平洋で共同戦術訓練を実施したと発表した。ロシアがウクライナ侵攻をチラつかせ、中国が台湾への軍事的圧力を強めるなか、日米同盟の絆を見せつけた。


 共同訓練に参加したのは、海自は「こんごう」とP3C哨戒機、米海軍は「エーブラハム・リンカーン」と、強襲揚陸艦「アメリカ」、巡洋艦「モービル・ベイ」、ミサイル駆逐艦「スプルーアンス」、ドック型輸送揚陸艦「グリーン・ベイ」など計11隻。

 6日には、南西諸島への展開手順を確認する目的で、陸上自衛隊の離島防衛専門部隊「水陸機動団」(長崎県)が加わり、ヘリコプターによる米強襲揚陸艦への着艦訓練も実施した。

 ウクライナ危機が「台湾有事」「日本有事」に連動する危険性が指摘されるなか、日米は、中国の海洋進出が強まる海域に大規模な艦艇を展開させて抑止力を誇示した。

 海自は1月17~22日にも米空母2隻などと共同訓練を実施している。

 中国は「平和の祭典」である北京冬季五輪の開幕(4日)前の1月31日にも、台湾の防空識別圏(ADIZ)に複数の軍用機を進入させた。

 台湾国防部によると、進入したのは戦闘機「殲16」3機と、電子戦機「殲16D」1機、早期警戒管制機「空警500」1機。殲16Dはレーダーや通信システムなどを攪乱(かくらん)・無力化する能力を持つ。ロシアがクリミア併合で見せた「ハイブリッド戦」を意識した脅しとみられる。

 こうしたなか、米国務省は7日、台湾の地対空ミサイル「パトリオット」などを維持、改良するための装備売却(約1億ドル=約115億円)を承認、議会に通知した。

 台湾総統府の報道官は8日、「台湾は自衛能力を向上させ、米国を含む価値観が近い国々とパートナーシップ関係を深める」と強調した。

【私の論評】インド太平洋地域と地中海への米艦隊の派遣との比較から見る、米国の真意(゚д゚)!

上の記事には、海自は1月17~22日にも米空母2隻などと共同訓練を実施している旨が欠かれていますが、それについてはこのブログでも解説しました。

さらに他の記事では現在、米軍はインド太平洋地域に3隻の空母のほか、強襲揚陸艦2隻も派遣しており、これはベトナム戦争以来のことであることも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!
1月17~22日海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。

空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻が同じ時期にインド太平洋地域に出現しており、これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結と言っても良いです。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしていると考えられます。

さて、この記事でも上の記事でも、空母2隻(「エイブラハム・リンカーン」と、「カール・ビンソン」)という言葉があり、インド太平洋地域に米軍は空母打撃群を2つしか派遣していないのではないか思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、やはり3隻の空母が、インド太平洋地域に現在、派遣されているのです。そうして、上記で示した2隻以外のもう1隻はどこにいるかといえば、それは現在日横須賀に停泊中でメンテナンス中だったのです。その空母の名称は「ロナルド・レーガン」です。

さて、米軍はもちろん他の地域にも空母を派遣しています。米海軍第6艦隊は2022年2月7日(月)、フランス、イタリア両国とともに地中海で共同訓練を行ったと発表しました。

参加したのは米空母「ハリー・S・トルーマン」を中心とした空母打撃群で、フランスからは空母「シャルル・ド・ゴール」を中心とした「タスクフォース473」、イタリアからは空母「カブール」を中心とする戦闘群です。この3か国の空母と随伴する多くの艦船が統合され、訓練しつつ一定期間、艦隊を組んで航海しました。

     並走する米仏伊3カ国の空母。手前から仏空母「シャルル・ド・ゴール」、
     伊空母「カブール」、米空母「ハリー・S・トルーマン」

なお現在、米海軍の「ハリー・S・トルーマン」空母打撃群には、ノルウェー海軍フリゲート「フリチョフ・ナンセン」が、協力的配備計画の一環として、同空母群の指揮下に入り活動しています。

一方、フランス海軍の空母「シャルル・ド・ゴール」を中心とした「タスクフォース473」には、スペイン海軍イージス駆逐艦「アルミランテ・ファン・デ・ボルボン」や、ギリシャ海軍フリゲート「アドリアス」を始めとして、ベルギーやドイツといったNATO加盟国のほか、モロッコ軍艦も指揮下に入り行動中のため、今回の艦隊演習には米仏伊の3か国以外にもこれら各国艦船が集結したことになります。 

加えて、同じく2月7日には、ロシア北方艦隊の軍艦3隻も地中海へ入ったそうです。ロシア海軍によると、ジブラルタル海峡を通過して地中海へ入ったのは、スラヴァ級ミサイル巡洋艦「マーシャル・ウスチーノフ」、フリゲート「アドミラル・カサトノフ」、ウダロイ級大型駆逐艦「ヴィツェ・アドミラル・クラコフ」とのことです。

ロシア海軍は、この北方艦隊3隻のほかに、ウラジオストクのロシア太平洋艦隊からスラヴァ級ミサイル巡洋艦「ヴァリヤーグ」、ウダロイ級大型駆逐艦「アドミラル・トリブツ」、ボリス・チリキン級補給艦「ボリス・ブトマ」の3隻を分派しており、今後は地中海エリアで、黒海艦隊を含めた艦隊間演習などを実施する予定としています。

以上は、当然のことながら、ウクライナを意識してのことでしょう。

これら、中露を東西から挟むような艦隊の配置から、米国の意図が読み取れると思います。

米軍が地中海に派遣した空母は、「ハリー・S・トルーマン」1隻です。ただ、仏・伊の空母も参加していますから、大艦隊であることは間違いありません。

ただ、米国は3つの空母打撃群と、2隻の強襲揚陸艦をインド・太平洋地域に派遣する米国の意図は何なのでしょう。もちろん、中国・北朝鮮を牽制することもありますが、同時にロシアを東から牽制するという意味もあると考えられます。

それについて述べた部分を以下に引用します。ウクライナ情勢に関しては、以前このブログにも述べたように、現在のロシアは一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、米国を除いたNATOと正面から対峙するのは困難です。それに、ロシア地上軍は今や20数万人の規模であり、ウクライナ全土を掌握することはできません。

現在のロシアにできることは、ハイブリット戦などを駆使したとしても、ウクライナの一部の州もしくは、一部の州のロシア国境側の地域等の占拠のみということになるでしょう。ウクライナ全土に侵攻できる軍事力はありませんし、もしそうしたとしたら、ウクライナをはじめ周辺諸国が軒並みNATOに加盟することになります。

そうなると、ロシアはNATOと直接軍事衝突しなければならなくなります。それでは、勝ち目は全くありません。運が悪ければ、NATO軍にロシア領内深くまで攻め入られることになりかねません。

米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。

そうして、バイデン政権は、ロシアへの脅威に対しては、米国も参加するものの、あくまでもNATOが対処すべきであり、また現状のロシアならNATOで十分対応できるとみているのでしょう。

しかし、中国は違います。中国は現状では軍事的には未だ未整備な部分が多いですが、それにしてもGDPでロシアをはるかに上回っています。一人あたりのGDPはロシアと中国はさほど大きな差はありませんが、人口はロシアが1億4千万人、中国は14億人で丁度ロシアの10倍です。そのため、ロシアのGDPは中国の1/10で韓国と同じくらいです。

しかし、ロシアの領土は広大です。ロシア軍は中国よりも広大な領土を守備しなければならないのです。たとえ、韓国がロシアのように核兵器と優秀な軍事技術を持ち、人口もロシアと同じくらいだったにしても、韓国の経済力でロシア全土を守備し、それに加えてウクライナ全土に侵攻して、占拠できるなどと考える人は誰もいないでしよう。

ロシアは戦争を起こしたとしても、クリミアのときのように短期で局所戦のみでしょうが、中国は現在はともかく将来は長期的な総力戦も遂行できるようになる可能性があります。米国もこれには、長期に渡る対応が必要になります。

バイデン政権か優先しているは、やはり中国への対峙なのでしょう。インド太平洋地域にベトナム戦争意向最大数の空母などを結集させていることがそれを示しています。そうして、日本の海自もこれらと行動をともにしているのです。直近の2回の日米合同演習がそれを示していると思います。

これは米国が日米の協同が、中国対応への一つの鍵だとみている証拠です。日本は米国に頼りにされているのです。日本のマスコミはこれを報道しませんが、日本としてはこれをしっかり認識すべきです。重い責任を担うことにもなりますが、日本の存在価値を高めるチャンスでもあるととらえるべきです。

ロシア、中国、イランの策動は今後も続き、これら3枢軸国と、米国とその同盟国を中心とした、「米国連合」の対峙はもうすでに新冷戦の様相を示しています。もう、両陣営とも引き返すことはできない所まで来ています。いずれ決着をつける時は必ずきます。

ヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」、後方は同「いせ」

「3枢軸国」と「米連合」を比較すれば、信条・価値観などが近いのは無論「米連合」です。「3枢軸国」のそれは、日本国民のほとんどは受け入れられないでしょう。

日本は、かつて冷戦において、日本は米軍に基地を提供する以外にも、オホーツク海においてソ連原潜の動きを封じ込め、西側諸国に大きな貢献をして冷戦戦勝国に名を連ねることができました。新冷戦でもそのような道を選ぶことが、日本の進むべき道です。

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2022年2月8日火曜日

台湾、福島など日本5県産食品の輸入解禁 早ければ今月下旬にも公告へ―【私の論評】日台には未だ尖閣、南京に関する懸案事項が存在するが、互いに関係を深めていくべき(゚д゚)!

台湾、福島など日本5県産食品の輸入解禁 早ければ今月下旬にも公告へ

関係省庁のトップらと共に会見に臨む行政院の羅報道官(右から4人目)

 行政院(内閣)の羅秉成(らへいせい)政務委員(無任所大臣)兼報道官は8日、福島など5県産食品に対する輸入禁止措置の解除について、早ければ今月下旬にも正式に公告する見通しだと明らかにした。今後は規制の対象を「特定の地域」から「特定のリスクのある品目」に変更し、福島など5県産のコシアブラやキノコ類、野生鳥獣肉(ジビエ)の輸入は引き続き禁止する。

 台湾は2011年の東京電力福島第1原子力発電所事故以降、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産食品の輸入を禁止していた。環太平洋経済連携協定(TPP)への加入を目指す蔡英文(さいえいぶん)政権にとって、輸入規制の撤廃は解決すべき重要な課題だったが、昨年12月の国民投票で成長促進剤「ラクトパミン」を使用した豚肉の輸入継続が決まったことが5県産食品の禁輸解除への追い風となった。

 5県産食品の輸入に当たっては、リスクがある品目を対象に放射性物質検査証明と産地証明の2つの証明の添付を求めるほか、5県産の全ての食品に対して水際で全ロット検査を実施する。日本で流通が禁じられている食品の輸入は認めないとしている。

 羅氏は記者会見で、現在TPP加盟国を含む40余りの国々がすでに輸入規制を完全に撤廃しており、米国やイスラエルも昨年、これに続いたと言及。5県産食品の輸入を完全に禁止しているのは世界で台湾と中国のみであり、ハイレベルのTPPに加入を果たすならば科学的基準と根拠は無視できないと主張し、「政府は日本が提示する合理的な訴えから目を背けることはできない。責任を持って問題に向き合い、問題を解決する必要がある」と説明した。

【私の論評】日台には未だ尖閣、南京に関する懸案事項が存在するが、互いに関係を深めていくべき(゚д゚)!

自民党の高市政調会長は8日、台湾当局が福島県など5県産の食品に関する輸入禁止措置の解除を発表したことを受け「台湾との友情、協力関係を深めていきたい」と強調しました。

台湾当局は2011年、東日本大震災による福島第一原発事故以降、福島県、栃木県、群馬県、茨城県、千葉県の5県産の食品の輸入禁止措置を続けてきました。

8日に台湾当局がこの禁止措置解除を発表したことを受けて、高市氏は記者会見で「この緩和というのは多くの加工業者、生産業者にとって嬉しいことだと思う」と歓迎する考えを示しました。

その上で「台湾との友情、協力関係をこれからも深めてきたい」と語りました。また中国や韓国を念頭に、輸入制限を続けたままの国々に解除を促すよう政府に対応を求めました。

高市政調会長は、この件に関して、以下のようなツイートもしています。
台湾は親日国とされていますが、日台間には様々な懸案事項もあります。その一つが、福島県など5県産の食品に関する輸入禁止措置でした。

他にはどのようなものがあるかについては、以前このブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「尖閣は台湾のもの?」“二重国籍”蓮舫新代表が知っておくべき日本と台湾の対立点―【私の論評】南京・尖閣問題で台湾は決して親日ではない(゚д゚)!
民進党代表決定の名前を呼ばれる直前にハンカチで目頭を押さえる 蓮舫新代表=2916年9月15日

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に台湾と日本の対立点をこの記事より引用します。
台湾は、戦後のある時期から「尖閣諸島は我々のものだ」と主張をしており、今もその立場を変えていない。

尖閣問題というと、対中国(中華人民共和国)のことを想定しがちだが、台湾もまたこの問題に絡んでいるのだ。

この主張がかなりの無理筋であることは、この記事に掲載してありますので、是非それを参照していただきたいです。

もう一点は、現在でも中国と台湾の両方が、いわゆる南京虐殺事件において「30万人(100万人とも言っている)の南京市民が犠牲になった」と主張していることがあります。これについても、この記事に詳細を記してありますので是非御覧ください。

尖閣は台湾領であることと、南京虐殺に関しては台湾は現在でもそう主張しています。これは、事実です。

無論だからといって、私は日台がいがみ合うべきなどと主張するつもりはありません。ただ、懸案事項に関しては、これから話し合いをして、解消に向けて努力すべきだと言いたいのです。

日台には、福島など日本5県産食品輸入禁止のように、後に撤回されたものもあります。

沖ノ鳥島は、日本の領土ではなく単なる「岩」だとした主張を事実上撤回したことです。

2016年5月5日海上保安庁が沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)で違法操業していた台湾漁船1隻を拿捕(だほ)した問題で、台湾の馬英九政権が、沖ノ鳥島を国連海洋法条約でEEZを設定できる「島」ではなく、設定できない「岩」だと主張し始めました。

台湾ではこの拿捕をきっかけとして、小規模の抗議活動が起こり、台湾当局は 公船を当該海域に派遣するなどして緊張が高まったのですが、5月 20 日の政権交代を機に対話路線へ転じ ることとなりました。

沖ノ鳥島に上陸して、日章旗を掲げた在りし日の石原慎太郎氏 2012年5月

台湾の行政院(内閣に相当)の童振源報道官は2016年5月23日、沖ノ鳥島について、国連大陸棚限界委員会の決定を尊重し、決定前には「法律上、特定の立場を取らない」と述べ、「岩」だとした馬英九前政権の主張を事実上、撤回しました。

また、日台双方の窓口機関が「海洋協力対話」の枠組みを立ち上げることで一致したとも発表しまし。そうして、この対話は実際に何度かなされています。

このような問題も日台で話し合われているわけですから、尖閣や南京に関しても、両国で話あいの場を持ち解決の道を模索していくべきです。

そうして、日台は友好国から、実質的な同盟国にまで関係を深めていくべきと思います。台湾が香港のように中国に飲み込まれてしまえば、日本にとって大きな危機となります。

だからこそ、麻生太郎前副総理兼財務相は昨年7月5日、東京都内で講演し、中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法が定める「存立危機事態」に認定し、限定的な集団的自衛権を行使することもあり得るとの認識を示したのです。



今回の福島など日本5県産食品の輸入解禁により、台湾のTPP加入ははずみがつくと思います。日本としては、台湾のTPP加入を後押しし、安全保障の面でも関係を深めていくべきです。

私は、このブログでは主に軍事的根拠を示しつつ、中国による台湾武力侵攻はないであろうことを強調してきました。しかし、武力侵攻以外にも台湾に浸透する方法はいくらでもあります。

特に台湾には、戦後に台湾に移り住んだ、外省人やその子孫の人たちも大勢います。その人達の中には大陸中国に親しみを感じる人も多いです。さらに中国では国民動員法が施行されて以来台湾に在住する中国人は有事には中国共産党の意図に沿って動かざるを得ないこともあり得ます。

その意味では、台湾は常に安全保障上の危機に直面していることは間違いないです。こうした面でも、日本は台湾に協力すべきですし、スパイ防止法すらない日本は、それを有するとともに、中国の浸透を防ぐために施行された「反浸透法」を有する台湾を参考にすべきです。

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2022年2月7日月曜日

北方領土の日 露の不当性を広く訴えよ―【私の論評】冷戦勝利に続き、新冷戦でも日本が戦勝国になれば、北方領土をとりもどせる(゚д゚)!

北方領土の日 露の不当性を広く訴えよ

出邸する岸田文雄首相=3日午前、首相官邸

 ロシアによるウクライナ再侵攻が国際的に懸念される中で、2月7日の「北方領土の日」を迎えた。岸田文雄首相には、日本固有の領土である北方四島返還に向けた決意を、国民の代表として力強く語ってほしい。

 ただし、求められているのは、日本にますます傍若無人な態度をとるプーチン露政権に迎合し、懇願するような対露外交ではない。

 ウクライナ危機でロシアの無法ぶりが国際的に批判されている折である。日本がなすべきは、対露制裁の策定などで米欧と歩調を一つにし、さらには北方領土問題でのロシアの不当性を広く国際社会に訴えることだ。

 近年のプーチン露政権は北方領土が「第二次大戦の結果としてロシア領になった」との虚説をふりまき、領土問題の存在すら否定する。一昨年の露憲法改正では「領土割譲の禁止」を盛り込み、厳しい罰則規定も設けた。ロシアのガルージン駐日大使は最近の日本外国特派員協会での記者会見で、日本と行ってきたのは平和条約締結交渉であり、北方領土交渉ではないと言ってのけた。

 昨年の北方領土の日に本紙「主張」は「日本を愚弄し、翻弄し続けるプーチン政権との領土交渉はこちらから打ち切る決断をすべきときではないか」と訴えた。この立場は何ら変わっていない。

 今の日本が全力を尽くすべきは、民主主義陣営の結束強化であり、北方領土問題の「国際化」である。1990年から92年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)は毎年、議長声明や政治宣言でソ連・ロシアに北方領土問題解決を促した。これに倣い、日本への支持を広く取り付けてロシアに圧力をかけることが重要だ。

 ロシアは2014年、ウクライナ南部クリミア半島を併合し、東部でも親露派武装勢力を支援して政府軍との紛争を惹起(じゃっき)した。昨年秋以降もウクライナ国境近くに10万人以上の軍部隊を集結させ、軍事的威嚇を続けている。

 北方領土でソ連・ロシアの侵略を受けてきた日本は、ウクライナと認識を共有し、ウクライナを支える米欧諸国と協調すべきだ。歴史的にソ連・ロシアに辛酸をなめさせられてきた東欧・バルト諸国の知見にも学ぶ必要がある。

 北方領土を返還させる好機は必ず来る。着々とそれに向けた素地をつくっておくことだ。

【私の論評】冷戦勝利に続き、新冷戦でも日本が戦勝国になれば、北方領土をとりもどせる(゚д゚)!

ウクライナ問題が深刻になり、ロシアの軍事進攻の可能性の有無が喫緊の国際問題になっているように見えます。最大の問題は、ロシアが昨年の2月頃および昨年末に、10万から12万余りのロシア軍をウクライナ国境に配備し、今年初めにはベラルーシにも軍を展開したことです。

その前提となっているのが、「1990年代初めに、NATOは1インチも拡大しないとNATOや米国はロシアに約束したのに、口頭の約束だったのでそれを破って、西側は1997年以来次々とNATO拡大を続けてきた」とのプーチンのに主張です。

昨年12月23日の毎年ロシア恒例の大記者会見で、プーチン大統領は英国記者の「あなたは無条件に、ロシアが本当にウクライナや他の主権国家を攻撃しないことを保証することができるか?」との質問に「NATOに関しては、あなた方は90年代に、東方には1インチたりとも拡大しないとわれわれに言ったではないか。われわれは騙されたのだ。あなたたちは露骨に騙したのだ」ときわめて感情的な言葉を投げ返しました。

この「約束」を前提に、ロシアはNATOあるいは米国に、NATOの今後の不拡大と、東欧・バルト諸国の軍備を1997年以前に戻すことを、今度は口頭ではなく文書で約束することを強く求めてきました。

更に問題なのは、日本のメディアや専門家・政治家たちが、「90年代初めの口頭での約束」というロシア(プーチン)側の主張を当然の前提として、様々な情報や見解などを展開していることです。

例えば1月28日20時からのBSフジ・プライムニュースや29日の午前9時30分からのBSテレビ東京などのウクライナ特集です。後者は、放送局自体が、1990年2月9日の米国ベイカー国務長官とゴルバチョフ会談の写真を示し、この場で「NATOは1インチも拡大しないと約束したが、文書にしなかった」と解説し、それを前提に全ての番組は組み立てられていました。

この28日、29日の放送では、招かれた専門家や政治家たちも、この前提については、それを復唱する者はいても疑問を呈する者は誰もいませんでした。

しかし、ロシア側が前提としている「NATOは1インチも拡大しないと約束」しことはなく、全くの間違いまたは意図的なフェイク情報です。それは、ロシア側の情報からも裏付けることができます。いくつかあげます。

まず、最初は露紙『新時代』(2016.1.18)掲載の国際記者B・ユナノフの記事の一部です。
1994年4月初めのNATO評議会は、NATOは東方のボスニア戦争に介入すべきではないとした。しかしM・ヴェルナーNATO事務総長は逆に、民族浄化のボスニア和平の為に、NATOは東方に介入すべきだと主張し、評議会で支持された。 
こうして「NATO東方拡大」の概念が生まれた。といっても、当初これはロシアへの接近ではなく、セルビアのような独裁体制を抑える為だった。しかし今年(2016)の1月5日に、プーチン大統領はこの事実を否定し、彼は突然、「ベルリンの壁が崩れた後、NATOは東方に拡大しないと言った。私の記憶によると、そう言ったのは、当時のNATO事務局長ヴェルナーだった」と述べた。 
NATOの元軍事委員会議長K・ナウマンは2010年に、「NATOの東方拡大の否定は、口頭でも文書でも、誰もソ連に対して述べたことはない」と私に言明した。 
つまり、1992年のボスニア戦争によって「NATOの東方拡大」という概念が生まれたが、プーチンの主張とは逆に、その頃はウクライナやジョージアに拡大するなど誰も考えていなかった。皆が考えていたのは、崩壊したユーゴにおける民族浄化と「大セルビア」主義への対応であった。プーチンは「NATOの東方拡大」の脅威をいつも呪文のように唱えている。そして追随者たちも、同じことを唱えている。
次の証言は露紙『独立新聞』(2015.12.15)のものです。1990年代初めルツコイ副大統領の報道官で、その後は作家、評論家として活動したN・グリビンスキーの論文の一部です。「プーチンの生んだ神話」の催眠術的影響を次のように述べています。
ロシア国民はテレビによって危険な催眠術にかけられ、次のような神話が広められている。西側はロシアを敵視し、ロシアを侮辱し略奪し滅ぼそうとしている、と。 
この神話の核心は「侵略的なNATO」だ。NATOはロシア国境へ接近し、ロシアへの最初の一撃を狙っている、という。しかし明確なことは、1991年からクリミア事件に至るまでは、西側はロシアに重大な損害は何も与えていない、ということだ。 
西側はロシアが国内政治で危機に陥っていた時(1990年代)も、ロシアの地方の分離主義や住民投票を煽ったり併合したり孤立させるのではなく、逆に重要な国際組織に加盟させた。わが国で生じた諸困難の責任は、神話的なNATO拡大や「国際的陰謀」にではなく、我々自身にあるのだ。

NATO拡大に関し、「欧米はゴルバチョフに拡大しないと約束した」というのも神話だ。ゴルバチョフ自身が2014年10月16日に、「当時はNATO拡大の問題そのものが提起されなかった。それは私が責任をもって確言できる」とRussia Beyond the Headlines(露の英語メディア)で述べている。 
当時ロシアは西側諸国にとって敵ではなく、彼らの同盟国やパートナーとなると期待されていた。必然的に、ロシアがリベラルな民主主義の路線から離れれば離れるほど、ロシアにとって「NATOは敵」というイメージが強まるのだ。

ロシアの安全保障問題の権威で、現ロシア政権の安全保障顧問で元下院議員の世界経済国際関係研究所安全保障センターのA・アルバトフは次のように述べています。(『独立新聞』2022.1.17)
NATOの拡大は止まらず、現在NATO加盟国は16カ国から30カ国になった。その責任はNATO側にあるとしても、われわれも自らに「冷戦終了後に、なぜ14カ国の東欧、旧ソ連諸国が、中立国ではなくNATO加盟を望んだのか、それを考える必要がある。 
この変化の結果、今日のNATO30カ国の兵員数や軍備は、拡大前の16カ国よりも少ない。では何故ロシアは不安を感じているのか。ロシア側の要求で欧米が受け入れ不可能なのは、NATO不拡大の要求だ。 
その理由は、この要求がNATO条約に反するからだ。NATO条約第10条は、NATOの諸原則を受け入れる全欧州諸国は加盟申請を受け入られるとしているからだ。 
申請国の加盟は、NATO全加盟国の同意により認められる。ウクライナとジョージアをこの例外にするにはNATO条約の改定が必要だし、その改定にも、現加盟国30カ国の同意が必要となる。 
今日においては、NATO諸国の半分と、米国のエスタブリッシュメントの大部分は、ウクライナとジョージアのNATO加盟に反対している。問題は、わが国の武力と圧力や外交手腕により相手側を譲歩させられるのか、あるいは「原則は譲らない」という相手の立場をさらに強めるのか、だ。 
われわれはウクライナが、モスクワに5-10分で到達するミサイルを保有することを容認できない。そのようなミサイルがABM条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)以前のように、ウクライナや欧州諸国に現れないように、米国と再び交渉して合意することができるだろう。

NATO非加盟の中立国フィンランドやスウェーデンは、ウクライナを巡る戦争が始まったとしたら、直ちにNATOに加盟するだろう。そうなるとロシアは、ウクライナとの国境の代わりに、フィンランドとスウェーデンとの間に、陸上、海上を含めてNATOと数千キロメートルにわたり国境を接することになる。つまり、バルト海沿岸諸国は黒海沿岸諸国と同じく、全てが敵国になるのだ。
以上、プーチンが「西側は、NATOは1インチたりとも拡大しないとの約束を破った」と呪文のように唱える被害者意識について、90年代初期のロシア側当事者や関係者、また近年の露メディアなども、それが事実ではないと否定しているのです。

プーチンだけでなく、わが国のメディア、政治家、専門家たちが考えるべきは、A・アルバトフの「冷戦終了後に、なぜ14カ国の東欧、旧ソ連諸国が、中立国ではなくNATO加盟を望んだのか」という問題なのです。

1990年代はプーチンが被害妄想で述べるように、西側諸国はソ連に続きロシア連邦の瓦解や分裂を望んでいたのではありません。逆に、核兵器を持つロシアがユーゴ化したら人類の危機だとの問題意識から、ロシアが混乱なく民主主義、市場経済に軟着陸するための「対露支援」が国際的な重要課題でした。

わが国では「日本国際問題研究所」が中心となり、日、米、露の「三極フォーラム」を組織し、日・米・露の関係改善を模索しました。また領土問題を抱えながらも、日本が行った対露支援「マネタイゼーション」、食料や生活必需品を日本商社を通じてロシアに寄贈し、それをロシアの店で売って、売上金を国民福祉に使うという試みも実施されました。

これに関わった人々は、90年代の西側諸国の対露姿勢をよく知っています。APECへのロシア加盟を強く推し進めたのも日本です。

NATOの拡大や欧米とロシアの関係悪化は、ロシアの「大国主義の復活」「勢力圏拡大」に大きな関係があります。改革派だったA・チュバイス元副首相も、2003年にはソ連時代の大国主義を賛美して「リベラルな帝国主義」を主張し(『独立新聞』2003.10.1)、やはり改革派だったV・トレチャコフ『モスクワ・ニュース』紙編集長も、2006年には中央アジアなどの「民意に従う」ロシア併合などを唱えました(同紙2006.3.3-9)。

また、ロシア外務省高官は、2006年に「領土保全」に代えて「自決権」を正面に出し(『イズベスチヤ』2006.6.2)、2008年のロシア軍のグルジア侵攻による南オセチア、アブハジアの「独立」や2014年の「クリミア併合」の伏線を用意しました。

プーチンが「ドネツク共和国」や「ルガンスク共和国」の、あるいはウクライナ東南部の「ノヴォロシア」の独立とかロシア併合を認めないのは、ウクライナが2つに分裂すると、同国の西側は必然的にNATOに加盟するからです。

ただ、ウクライナ全体をロシアに併合するのは、政治・経済的に負担が大きすぎます。このブログでは過去に何度も述べた来たように、ロシアのGDPは現在では日本の1/3程度に過ぎず、韓国を若干下回る程度です。

しかも、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。ただ、ロシアは旧ソ連邦の核兵器と軍事技術を継承する国であり、決して侮ることはできませんが、それにしてもロシア経済は元々規模も小さいし、いっときは石油・天然ガスで経済発展していた時期もありますが、今は見る影もなく、これから発展していく見込みも全くありません。

現状では、ロシア軍は米国を除いたNATOとも経済的にあまりに差がありすぎて、いくらハイブリット戦を駆使したにしても、直接対峙するようなことはできません。イギリス、ドイツ、フランスは一国でも、ロシア経済を遥かに凌駕しています。



直接戦えば、確実にNATOに負けます。初戦においては、軍事技術に優れたロシア軍は高いパフォーマンスを発揮して善戦するかもしれませんが、戦いが長引くうちに、兵站に支障をきたすようになり、NATO軍にかなり痛めつけられることになるでしょう。最終的には、NATO軍に惨敗することになります。

エマニュエル駐日米大使は7日、「北方領土の日」に合わせてツイッターに動画を投稿し、「北方四島に対する日本の主権を(米国は)1950年代から認めている」と説明し、北方領土問題の解決に向け日本を支持すると強調しました。

エマニュエル駐日米大使

大使はロシアによる「主権軽視」の例として、ウクライナにも言及。緊迫するウクライナ情勢と北方領土問題を重ねることで、日本の協力を促し、ロシアをけん制する狙いがあるとみられます。

これは無論のこと、このブログにも最近掲載した、米軍の空母三隻と、強襲揚陸艦のインド・太平洋地域への結集とも関係しているでしょう。その記事のリンクを以下に掲載します。
米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。 

空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻が同じ時期にインド太平洋地域に出現しており、これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結と言っても良いです。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしていると考えられます。

2017年11月の北朝鮮の核・ミサイル危機当時、米空母3隻が韓半島近隣で訓練しました。このため北朝鮮に対する警告性のメッセージだという解釈が出ていました。

米海軍勢力が2017年当時と異なるのは最新ステルス戦闘機F35を搭載している点です。「カール・ビンソン」「エイブラハム・リンカーン」はF35C(空母搭載型)を、「アメリカ」「エセックス」はF35B(垂直離着陸型)をそれぞれ搭載しています。

ウクライナ情勢に関しては、以前このブログにも述べたように、現在のロシアは一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、米国を除いたNATOと正面から対峙するのは困難です。それに、ロシア地上軍は今や20数万人の規模であり、ウクライナ全土を掌握することはできません。

米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。

装備はなお移動中ですが、当局者や専門家は、ロシアによる軍備増強の次の段階なのか否かを見極めようとしています。

 こうした米国の動きに日本の自衛隊も関与しているのですから、これは中露・北に対して大きな圧力になることは言うまでもありません。

海上自衛隊は1980年代、対潜哨戒機P-3Cを100機整えることによってソ連潜水艦の動向を察知し、いざという時にはこれを撃沈する態勢を整えることによって、西側そうして日本も勝利した冷戦の終結に大きく貢献しました。

今日も、中露にとって最も嫌なことは自国のSSBN(弾道ミサイル搭載原子潜水艦)を探知、攻撃される態勢を整えられて自国が締め上げられることです。日本の努力指向も、ここに集中しなければならないでしょう。

そうして、日本はASW(対潜水艦戦闘能力)を高めるため、潜水艦22隻体制をはやばやと整えています。新型のP1哨戒機は、42機体制であり、旧型のP3Cは44機数配備され、延命措置をほどこされ、今も最前線で活躍しています。

潜水艦については、日本の潜水艦のステルス性は世界一であり、哨戒能力も高く、他のASW(対潜水艦戦闘力)関連の艦艇や、技術は米国と並び世界トップクラスであり、中露をはるかに凌駕しています。

これによって、日本は再び新冷戦の終結に多いに貢献できるでしょう。新冷戦が終結した場合、北方領土交渉は格段にしやすくなるでしょう。西側諸国は無論、多くの国々が日本への北方領土変換に賛成することでしょう。

一回の冷戦勝利では、あまり日本にとって良いこともなかったようにも見えますが、それはリリベラル・左派がそれを喧伝させないようにがんじがらめにしただけであって、本当はそうではありません。その実績がなけば、日本の安倍元総理が、インド太平洋戦略やQUADなど提唱してもいずれの国も振り向かなかったでしょう。

また、これらを成就するために、日本が架け橋になることもなかったでしょう。

さすがに、2回続けて、冷戦戦勝国になれば、諸外国が日本を見る目だけではなく、日本国内も変わってくるでしょう。日本国内のリベラル左派、左翼、メディアなどもプーチンのようにフェイクを語ったり、習近平のように妄想に耽っていることもできなくなるでしょう。

その頃には、中露は国力が凋落しており、相変わらず危険な相手あることには違いないでしょうが、それでも西側諸国に伍して、外交問題を解決するどころではなくなっていることでしょう。

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2022年2月6日日曜日

土地利用規制、200カ所指定へ―【私の論評】「土地利用規制法」の全面施行では今だ不十分!日本の不動産取引は未だ国際的に開かれ過ぎた自由市場(゚д゚)!

 土地利用規制、200カ所指定へ


陸上自衛隊東千歳駐屯地の周りの広大な土地を囲むように中国が買い占めてる ことはよく知られている。住宅の中には使途不明のアンテナがたてられている

 政府は、安全保障上重要な施設などを対象とした「土地利用規制法」を今年9月に全面施行するのに合わせ、全国の約200カ所を重要度の高い「特別注視区域」に指定する方向で検討に入った。南西諸島付近で中国が軍事活動を活発化させていることを踏まえ、沖縄県与那国町の陸上自衛隊与那国駐屯地の周辺などを含める。政府関係者が6日、明らかにした。

 同法は自衛隊基地や、領海の根拠となる国境離島、原発周辺の土地を特別注視区域や「注視区域」に指定。所有者の調査のほか、施設の機能を妨害する行為への中止勧告・命令を可能とする。特別注視区域では一定面積以上の売買に事前届け出も義務付ける。

【私の論評】「土地利用規制法」の全面施行では未だ不十分!日本の不動産取引は国際的に開かれ過ぎた自由市場(゚д゚)!

上の記事にもでてくる「土地利用規制法」について、詳細を知りたいかたは以下のリンクを御覧ください。





本法は、国土のうちの国の安全保障等に関係する重要な土地等につき注視区域・特別注視区域を指定し、注視区域においては土地等の利用者等に利用規制を課し、特別注視区域においては、この規制に加え、所有権等の契約の締結の際に事前に届出義務を課し、場合によっては罰則を科すことも定めるものです。

このことは、これらの区域における不動産の取引において影響を及ぼすものです。本法の定める土地等の所有権、利用権に対する規制は、その必要性・内容・程度に照らすと、土地の公共性、公共の福祉のための内在的な制限で、合理的なものであり(憲法29条2項、民法206条参照)、従来野放図に放置され、後手に回っていた問題に対して必要な最少限度の規制を定めたものです。

今後、本法の制定の背景になった流動的な国際環境等にさらに重大な変化が生じる等した場合には、迅速な適用だけでなく、必要な法改正によって的確、柔軟な対応ができるようにすることも課題です。本法は、必要な規制の第一歩であり、過大な制限ではなく、遅ればせの規制であるといえます。

土地等の取引においては、取引に関与する事業者としては、まず、安全保障等に関係する地域に注目しつつ(国境の島部、本州等4島の海岸線、自衛隊等の施設等)、注視区域、特別注視区域を確認し、取引の当事者が誰であるか等を確認した上で、これらの区域内において前記内容の利用制限、所有権等の契約締結前の届出規制があることを説明することが必要かつ重要になります。なお、本法は、通常の社会生活、社会活動、経済活動を行う者にとっては何らの制限、制約はありません。

土地等の取引の当事者の中には、名義貸し、ダミーの利用、取引目的等の虚偽の説明、利用状況の偽装、違法行為の仮装等が行われる可能性が相当にあるため、不動産の事業者としては、取引の目的・内容、当事者の属性、土地の所在、周囲の状況等の事情を様々な方法で確認し、適正な取引であるかを判断することが必要になります。当事者が安易に不正な取引、利用を行った場合には、これに加担したものとして責任が問われる可能性があります。

この法律に対しては、与党の一部や野党、弁護士会などから「財産権、プライバシー権などの人権を侵害する」「曖昧な要件の下で刑罰を科しており、罪刑法定主義に反する」などの反対論が相次ぎました。しかし、国家安全保障の観点から人権が一定の制限を受けることは当然であり、また、運用方針を具体的に定めることによって恣意(しい)的な刑罰適用は避けることができます。

ただこの法律は、安全保障の観点からはまだまだ不十分であると言わざるを得ないです。この法律は「外国人は日本の土地を買うことができない」というものではなく、あくまでも、その利用行為に限って制限を加えたものに過ぎないからです。

ネックになるのが、日本が1994(平成6)年に加盟したGATS(サービス貿易に関する一般協定)における「日本人と外国人の待遇に格差を設けてはならない」(内国民待遇の保障)という国際ルールの存在です。

それでも、加盟時に土地取得に関する「留保」を行っておけば外国人の土地所有を禁じることもできたのですが、お粗末なことに、日本は世界からの投資を呼び込みたいがために、この「留保」を行っていなかったのです。

しかしながら、外国人の土地取得は国家の存立にかかわる問題です。日本は不動産取引については国際的に開かれ過ぎた自由市場であり、常に外国人による買い占めの危険にさらされています。今回の9月からの法律全面施行で安堵することなく、国際ルールの壁を乗り越えるために、GATS加盟国への働きかけを強め、協議を進めていくべきです。

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