2023年10月31日火曜日

経済減速の中国に日本と米国は何を言うべきか―【私の論評】習近平政権の展望:経済課題とリーダーシップの動向を対中強硬派マット・ポッティンジャーが語る(゚д゚)!

経済減速の中国に日本と米国は何を言うべきか


岡崎研究所


まとめ

  • 習近平は共産党大会を支配し、政治的ライバルを排除し、現在も党内での権力集中を進めている。
  • 中国経済の減速は、習近平が地政学的な利益を優先し、台湾問題を力で解決しようとする可能性を示唆している。
  • 米中関係は緊張しており、中国は米国を弱体化しているとみなしているが、台湾問題に対する強硬姿勢が悲惨な戦争を引き起こす可能性もある。
  • 現在は米中関係が緊張しており、中国は譲歩する必要があるとされている。
  • 中国は次期米国大統領選において、NATO、ウクライナ、台湾を支援する候補者が大統領になることを恐れている
マット・ボッティンジャー氏

 2023年10月9日、英フィナンシャル・タイムズ紙は、元国家安全保障担当次席補佐官(注:トランプ政権時)であるマット・ポッティンジャー氏とのインタビュー記事(「経済が弱くても習近平は大胆になり得る」 :China expert Matt Pottinger:‘Even with a weak economy, Xi is feeling emboldened’)を紹介した。


 記事では、習近平が共産党大会を支配し、ライバルを排除したことを背景に、現在も党内のリーダーシップを強化しようとしていると指摘されている。習近平政権では反腐敗キャンペーンが進行し、多くの党員が追放されていることが強調された。


 ポッティンジャー氏は、中国経済の減速が習近平をリスクを冒すように促す可能性があると指摘し、地政学的な利益を確立するために行動する可能性を示唆した。また、中国は現在の米国を弱体化していると考えており、台湾問題において力の行使が最善の抑止策であると述べた。


 また、将来の米中関係について、デリスキングではなく秩序だったデカップリングを目指していると述べ、トランプ政権下での対中政策とバイデン政権下での対中政策の違いについて議論した。


 最後に、中国共産党がトランプとバイデンのどちらを好むかについて、中国がトランプ第二期政権で最も恐れるのはNATO、ウクライナ、台湾を支援することであると指摘した。


 ポッティンジャー氏の発言は、習近平政権の特徴や中国の経済状況が政治的リスクにどのように影響するかについて示唆に富んでいる。ただし、中国が実際にどのような行動を取るかは予測が難しく、コミュニケーションと戦略が重要であると述べている。


 これは、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。


【私の論評】習近平政権の展望:経済課題とリーダーシップの動向を対中強硬派マット・ポッティンジャーが語る(゚д゚)!


まとめ

  • マット・ポッティンジャーは元米国国家安全保障副顧問で、中国の専門家であり、対中国強硬政策の主要提唱者として知られています。
  • ポッティンジャーは中国に対してタカ派的なスタンスを取り、貿易関税や台湾との緊密な関係を提唱しました。
  • 彼はトランプ政権時代に中国を米国の競争相手と見なし、「戦略的競争」政策の推進に貢献しました。
  • ポッティンジャーの見解では、中国は米国の開放性を利用しつつ、自国のシステムを制限しており、デカップリングが必要だと主張しています。
  • ポッティンジャーの見解は、今も米中関係に影響を与えており、中国の野心に対する警戒と抑止が重要であると主張している。

トランプ大統領とマット・ポッティンジャー氏(中央)

マット・ポッティンジャーはトランプ政権で活躍した元米国国家安全保障副顧問です。中国の専門家であり、対北京強硬政策を形成する第一人者とされています。ポッティンジャー氏についていくつか紹介します。


彼は ジャーナリストとしてのバックグラウンドを持ち、ロイターとウォール・ストリート・ジャーナルの中国駐在記者を長年務めました。この経験により、中国の政治と政策について貴重な見識を得ました。


彼は、中国に対してタカ派的なスタンスをとり、米国の利益に対する脅威が高まっていると見ていました。彼は中国に対抗するため、貿易関税、渡航禁止、台湾との緊密な関係といった政策を提唱しました。


彼はトランプ政権の国家安全保障戦略とインド太平洋戦略の形成に尽力し、中国を米国の力を弱めようとする競争相手と見なしました。中国との「戦略的競争」政策の推進に貢献しました。


また、中国語を流暢に話し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで国際関係学の修士号を取得。彼の専門知識と経験は、政策立案に信頼性をもたらしました。政府を去ってからも、中国への厳しいアプローチを主張し続けています。彼は、米国の中国への「関与」は失敗し、中国は自国のシステムを制限しながら米国の開放性を利用しようとしていると考えています。競争条件を公平にするためには、デカップリングが必要なのだとしています。


ポッティンジャーは現在、フーバー研究所の特別客員研究員および民主主義防衛財団の上級研究員です。彼の見解は米中関係に関する議論に今も影響を与え続けています。


ドラゴンスレイヤー(対中国強硬派の意味) AI生成画像

 批評家たちは、ポッティンジャーは中国に対してタカ派的でイデオロギー的すぎると主張しています。彼の政策提言は、米中関係の緊張と不安定を煽る危険性があるとしています。しかし、支持者たちは、中国の野望を前にした彼の警告は先見の明があると見ています。


マット・ポッティンジャーは影響力のある対中国タカ派であり、トランプ政権時代に競争力のある政策アプローチを推進するのに貢献した専門家です。彼の見解は、米国が台頭する中国にどう対処すべきかという外交政策サークルや議論において、今もなお際立っています。


上の記事で示されているポッティンジャーによる分析も、洞察に満ちています。いくつかの重要なポイントが目立ちます。 


第一に習近平は権力を強化したが、依然としてライバルを排除し、支配力を強化しようとしているとしています。反腐敗キャンペーンは真の改革ではなく、政敵を対象としています。習近平の支配力は、彼を大胆にしていますが、同時に不安でもあります。


第二に、中国経済の減速は、習近平が国民の目をそらし、中国の強さを主張するために、より大きな地政学的リスクを取ることを促す可能性があると指摘しています。これは懸念すべきことであり、警戒が必要です。


第三に、 中国は現在、米国を弱いと見ており、台湾については武力が必要かもしれないと考えています。この攻撃性と米国の弱さの認識は危険をもたらします。米国は強さを示さなければならないです。


第四に、 米国は、単なる「リスク回避」ではなく、中国からの「秩序ある離脱」を追求すべきとしています。緊密な経済関係は中国に影響力を与えており、ある程度の切り離しは賢明です。


第五に、 中国は、NATO、ウクライナ、台湾を支持する第二次トランプ政権を恐れているとしています。このことは、中国がバイデン政権を好んでいることを示唆しています。しかし、どちらの政権も中国に立ち向かわなければならないです。


日米 AI生成画像

これに対し、日米は以下を行うべきです。


 第一に、 中国の経済と政治を注意深く監視すべきです。弱体化した中国は暴発する可能性があり、協調的な抑止力が必要となります。


第二に、 習近平政権の下でのさらなる権力強化を阻止すべきです。習近平の野心を牽制するため、民主改革と政治的野党を支援すべきです。


第三に、中国の侵略、特に台湾への侵略を抑止すべきです。武力の誇示と同盟関係の緊密化は、米国の弱さに対する中国の認識に対抗することができます。


第四に、主要技術やサプライチェーンにおける中国からの「秩序ある切り離し」を継続すべきです。これにより、中国が地政学的に利用できる経済的レバレッジを減らすのです。


第五に、トランプ政権とバイデン政権のいずれかが、NATO、ウクライナ、台湾を支持すべきです。中国とロシアに立ち向かうことは、誰が指導者であるかに関係なく国益にかなうものです。


第2次トランプ政権は中国に対してよりタカ派的になるかもしれないですが、政策はイデオロギー的な傾向ではなく、中国の行動によって導かれるべきです。日米は、民主主義的価値観を共有し、インド太平洋における戦略的利益に基づき、協力すべきです。


警戒と抑止が鍵です。減速する中国経済と習近平の野心には、地政学的リスクと修正主義を抑制するための断固とした協調的対応が必要です。特に今後数年間は緊密な協力が不可欠です。


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2023年10月30日月曜日

「増税メガネ」岸田首相も財務省に「毒されている」…頑なに消費税減税しないワケ―【私の論評】岸田政権の経済対策は、規模が小さすぎる(゚д゚)!

「増税メガネ」岸田首相も財務省に「毒されている」…頑なに消費税減税しないワケ

まとめ
  • 岸田政権は、物価高騰対策として、所得税減税1人当たり4万円と、非課税世帯への7万円の給付金を検討している。
  • これらの対策に対する世論の評価は芳しくない。
  • 世論の批判の理由は、以下の3点である。①対策が遅い、②対策が小さい、③対策が不十分
  • 岸田政権は、来年度通常国会で具体的な対策を発表する予定だが、世論の支持を取り戻すには、これらの批判を踏まえた対策を検討する必要がある。

 岸田政権の物価高騰対策に対する世論の評価が芳しくない理由は、以下の3点である。

対策が遅い

 岸田首相は、2022年10月23日の所信表明演説で「国民への還元」を強調したが、具体的な内容は示さなかった。その後、10月24日の代表質問において、所得税減税を明言したが、税法改正案は来年度通常国会での提出が想定されている。

 物価高騰は、2022年春頃から急速に進んでいる。岸田政権は、物価高騰対策の検討を早急に進めるべきであり、来年度通常国会での提出では遅すぎるとの批判がある。

 例えば、2022年9月の消費者物価指数は、前年同月比で2.1%上昇した。これは、2014年4月以来の高水準である。また、ガソリン価格は、2022年10月時点で、前年同月比で約2倍に上昇している。

 このような物価高騰の状況下で、岸田政権の物価高騰対策が遅すぎるとの批判は当然である。

対策が小さい

 政府・与党が検討している所得税減税は、1人当たり4万円程度とされている。これは、岸田首相が公約として掲げた「1人当たり10万円」の半分にも満たない。

 4万円の所得税減税は、現行の所得税率制度では、給与所得で年収約200万円の世帯が対象となる。この世帯の平均的な月々の家計支出は約30万円であり、4万円の所得税減税は、家計支出の約1.3%に相当する。

 物価高騰による家計への負担は、1.3%程度の減税では十分に軽減されないとの批判がある。

 例えば、2022年9月の総務省の家計調査によると、食費の平均支出は3万円を超えている。また、ガソリン代や電気代などのエネルギー費も、物価高騰の影響で上昇している。

 このような状況下で、4万円の所得税減税では、物価高騰による家計への負担を十分に軽減できないとの批判は当然である。

対策が不十分

 政府・与党が検討している所得税減税は、給与所得者を対象としたものだ。しかし、物価高騰による家計への負担は、給与所得者だけでなく、自営業者や年金受給者などにも広がっている。

 岸田政権は、給与所得者以外の世帯にも配慮した、より包括的な対策を検討すべきとの指摘がある。

 例えば、自営業者には、売上減少による収入減を補てんするための支援策が必要である。また、年金受給者には、物価高騰に伴う生活費の上昇を補助するための給付金が必要である。

 このような状況下で、給与所得者を対象とした所得税減税だけでは、物価高騰による家計への負担を十分に軽減できないとの批判は当然である。

 岸田政権は、来年度通常国会で具体的な対策を発表する予定だが、世論の支持を取り戻すには、これらの対策を検討する必要がある。

 この記事は元記事の要約です。詳細をご覧になりたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】岸田政権の経済対策は、規模が小さすぎる(゚д゚)!

まとめ
  • 岸田政権が2023年10月26日に発表した経済対策は、規模が明らかに小さく、物価高騰による家計への負担を十分に軽減できない。
  • 経済対策を効果的に実施するためには、規模、時期、範囲を明確にすることが重要である。
  • 規模については、需給ギャップを埋めるだけの規模が必要である。
  • 時期については、経済が最も停滞している時期に実施することが重要である。
  • 範囲については、家計を最優先することが重要である。

要約文には、含まれていませんが、元記事の最後の結論部分は以下です。
 財務省にとって、消費税の社会保障目的税と歳入庁がないのは好都合だ。 

 保険料は労使折半なので企業負担もあるが、消費税は企業負担がないと経済界は考えて、消費増税前向きだ。その上に、財務省が消費増税と法人税減税のバーターを持ちだすので、さらに経済界は消費増税に前のめりになる。歳入庁がないのは国税庁支配力の維持に好都合だ。岸田首相も財務省の手の上で踊らされている。

おそらく、岸田首相には経済対策に関して、財務省に限らず、様々な人が様々な意見を語るのでしょう。その中には、経済的な観点から、政治的な観点から、財務省など官僚の観点から、その他産業界の特殊事情の観点から、派閥の力学の観点からと、様々な種々雑多な観点からの意見があるのでしょう。 

財務省

かつて「聞く耳を持つ」と語っていた岸田首相は、これらをすべて聴いた上で、経済対策を決定しようとしているのかもしれません。

しかし、そのようなことは不可能です。

このたとえが、適切かどうかはわかりませんが、たとえば要人のスケジューリングをするにおいて、まず最初にここだけは動かせないといういくつかのポイントを決めることが重要です。

例えば、
  • 要人の出張や会議の予定
  • 重要な会議や打ち合わせの予定
  • 要人が必ず出席しなければならない予定
などです。

これらのポイントを決めることで、スケジュールの調整範囲を絞り込むことができます。また、要人の意思を尊重しながらも、効率的にスケジュールを決めることができるようになります。

ここだけは動かせないといういくつかのポイントを決めないで、多くの人の意見を聴いていれば、いつまでたっても、スケジューリングはできませんし、できたとしても、とうてい当の要人が満足するものにはなり得ません。

スケジューリングではここだけは動かせないというポイントを見出すことが重要

経済対策においては、要人のスケジューリングよりはるかに多くの考慮しなければならないことは多くあります。しかし、ここだけは動かせないいくつかのポイントがあります。

それは、まず第一に、経済対策の規模です。

ここを勘違いする政治家がいるので、驚くことがあります。「最初から規模ありきというのでは〇〇」という愚かな政治家います。こういう政治家は、様々な必要な経費などを積み上げて計算すべきと思っているようですが、その必要は全くありません。

その規模を知るのは、意外と簡単なことです。それは、すでに需給ギャップとして計算されています。経済対策の規模は、このギャップを埋めるだけのものが必要だということです。

需給ギャップとは、潜在GDPと実際のGDPの差を表す指標です。潜在GDPとは、経済が完全雇用で生産できる最大のGDPです。実際のGDPとは、実際に生産されたGDPです。

需給ギャップが正の値であれば、経済は潜在GDPを下回っており、需要不足に陥っています。この場合、政府は経済対策によって需要を拡大し、経済を回復させることが求められます。

内閣府の推計によると、2022年4-6月期の需給ギャップは、名目GDP比で-2.7%、年換算で-14.8兆円となっています。これは、潜在GDPを下回る需要不足を示しています。

この需給ギャップを埋めるためには、約15兆円程度の経済対策が必要です。これに対しても異を唱える不思議な人がいますが、これも多すぎたり、少なすぎたりすれば、後でいくらでも修正できますが、規模の少ない対策を打ち、そのままにしていれば、経済は間違いなく悪化します。

第二に経済対策の時期です。

経済対策の効果が最大限に発揮される時期は、経済が最も停滞している時期です。そのため、需要不足が深刻化している現在、早急に経済対策を実施することが重要です。

経済対策は、政府の財政負担を増加させます。そのため、経済対策を実施する時期は、財政状況が安定している時期にすることが望ましいです。

現状の日本では、経済が停滞しており、財政状況も安定しています。そのため、経済対策を実施する時期としては、現在が最適と言えるでしょう。

具体的には、2023年12月から2024年1月頃に、経済対策を実施することが考えられます。この時期は、年末年始の消費のピークが過ぎて、景気が落ち着き始める時期です。そのため、経済対策の効果が最大限に発揮されると考えられます。

第三に、経済対策の範囲です。

需給ギャップを埋めるためには、対象範囲を適切に決めることが重要です。対象範囲を広げすぎると、経済対策の目的が達成できなくなる可能性があります。また、対象範囲を狭めすぎると、経済対策の効果が十分に発揮されない可能性があります。

具体的には、以下の対象範囲が考えられます。
  • 家計支援:低所得者、子育て世帯、高齢者など
  • 設備投資:中小企業、製造業、農業、漁業など
  • 成長産業育成:環境対策、デジタル化など
これらの対象範囲を踏まえて、具体的な経済対策を検討することが重要です。

範囲まで含めると、考慮しなければならない点が相当増えますが。ただ、これらにあまり神経質になる必要はありません。有効需要という考え方からすれば、経済対策の効果を最大化するためには、手法を細かく検討するより、規模と時期を逸しないことが重要です。

範囲としては、現状では、物価高騰による家計への負担を十分に軽減することを最優先すべきです。

バーナンキ氏はかつて「日銀はトマトケチャップを買え」と発言しましたが、経済対策の実施を急ぐことの重要性を説いたものと言えるでしょう。経済対策は、需要不足を解消するために迅速に実施することが重要です。そのため、何をすべきかということを神経質に考えるあまり、規模や時期を逸するよりは、素早く実行することが重要と言えます。

多少まずいことがあったにしても、これはあとからでも修正することはできます。しかし、規模や時期を間違えていれば、これを修正するのはかなり難しいです。そうして、経済が悪化し、雇用が激減したり、貧困層が増えたりして、これに後追い的に手当をせざるを得なくなります。

そうしても、経済はすぐは元に戻らないこともあります。結局最初に適切な経済対策をすべきだったという事になります。このような愚かなことを日本は平成年間に何度も繰り返してきたといえます。

岸田政権は、2023年10月26日に、所得税の1人当たり4万円減税と、所得が低い世帯への7万円給付を打ち出しました。

所得税減税の規模は、対象者数を約1億人に想定した場合、約4兆円となります。給付金の規模は、対象者数を約5000万人に想定した場合、約3.5兆円となります。

したがって、所得税減税と給付金の合計規模は、約7.5兆円になると試算できます。これでは、明らかに少ないですし、物価高騰による家計への負担を十分に軽減することはできません。

岸田首相としては、経済対策の規模と時期、範囲としては家計を最優先すること、最初にこれらを譲れないポイントとしたうえで、多くの人の意見を聴くという姿勢を貫くべきでした。

今回の失敗を糧に、次の経済対策では以上の3つを譲れないポイントしてすすめるべきです。

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2023年10月29日日曜日

いずも型護衛艦「空母化」必要なの? 軍事的な合理性はあるか それ以上に大切な「日本の見られ方」―【私の論評】空母の利点と使い方:軍事戦力から災害支援まで(゚д゚)!

いずも型護衛艦「空母化」必要なの? 軍事的な合理性はあるか それ以上に大切な「日本の見られ方」

まとめ
  • 日本は空母を保有することになり、軍事力と国際社会における存在感を高める。
  • 空母の導入は軍事的な合理性よりも政治的な理由によって決まった。
  • 空母は戦闘にはそれほど有効ではないが、平時の外交の道具としては有効。
  • 空母は災害救援や平和維持活動などにも活用できる。
  • 空母の保有は日本の軍事力だけでなく、外交力も高める。
2027年度に軽空母化改修が完了する予定の護衛艦「いずも」

 日本の空母保有は、軍事的な合理性よりも政治的な理由によって決まったと言える。その根拠は、日本の防衛政策においては基本的に航空自衛隊の活動範囲内での作戦が推定されるから。加えて空母は高価であり、維持費や運用費も考慮するなら空中給油機のほうが、はるかに戦力の向上につながるだろうと考察したため。

 しかし、空母は政治的に非常に大きな意味合いを持つ。東アジアでは、中国の軍事的な挑発や領土問題が深刻化しており、日本は将来的にあり得る中国の海洋進出に対抗するために、自国の防衛力を強化するだけでなく、同盟国や友好国との連携を密にする必要があった。

 その点では、空母は有効な手段であると言え、日本は空母を持つことで、自国の防衛意志や能力を示すことができ、また空母はヘリコプターの運用拠点としては非常に効果的であることから、その能力を使って他国で協力や支援を行うことで、日本は国際社会から尊敬される存在として認められることにつながるかもしれない。

 空母は「軍事的合理性」だけで見るなら、日本にとってはそれほど必要ではないだろう。しかし、平時の外交の道具として見た場合は別だ。日本は空母を持つことで、自国の防衛意志や能力を示すことができ、また空母はヘリコプターの運用拠点としては非常に効果的であることから、その能力を使って他国で協力や支援を行うことで、日本は国際社会から尊敬される存在として認められることにつながるかもしれない。

 さらに、空母の保有は日本の軍事力だけでなく、外交力も高めることができる。かつて大日本帝国海軍(旧日本海軍)は世界最大級の空母艦隊を保有していましたが、それは侵略戦争の象徴となってしまいました。それを教訓とするなら、日本はいずも型護衛艦を使って自国の「お行儀よさ」を世界にアピールし、国際的な正当性を守っていることを示すことが重要になると筆者は考えます。


【私の論評】空母の利点と使い方:軍事戦力から災害支援まで(゚д゚)!

まとめ
  • 空母の最大の利点は、機動性と攻撃力であり、航空機を搭載し、任意の地域に短時間で展開し、遠距離から効果的な攻撃を行える。
  • 空母は制空権と制海権を確保した地域に展開し、敵の軍事施設、地上部隊、補給線、味方の支援などで効果的な攻撃を実施できる。
  • 潜水艦は海戦において重要で、発見や攻撃が困難。対潜水艦戦争(ASW)の能力が海軍の強さの指標で、日米が世界トップ。
  • 米国が空母を東地中海に派遣し、イスラエルとハマスの紛争拡大を防ぐために軍事的・政治的意味がある。
  • 空母は被災地支援にも活用可能で、過去の事例からその有効性が認識されており、国内外で平和的な軍事・政治的プレゼンスを高める手段として活用すべきであ。

空母の最大の利点は、その機動性と攻撃力にあります。空母は、航空機を搭載して、比較的短時間で任意の地域に展開することができます。また、艦載機は、さまざまな兵器を搭載して、遠距離から効果的な攻撃を行うことができます。

そのため、空母は、比較的限定された地域において、自軍が制空権と制海権を得た場合、その地域に空母を派遣して、ピンポイント的に効果がある地点に継続的に攻撃をすることができます。

具体的には、以下のような場面で空母の利点が発揮されると考えられます。
  • 敵の軍事施設やインフラへの攻撃
  • 敵の地上部隊への攻撃
  • 敵の補給線や輸送路の遮断
  • 味方の部隊への支援
もちろん、空母は非常に高価な兵器システムであり、その維持費や運用費も莫大です。そのため、空母を保有するには、十分な財政力と政治的意思が必要となります。

しかし、空母は、現代の軍事において非常に重要な存在であり、その利点は決して小さくありません。

世界最大の空母「ジェラルド・R・フォード」(手前)

ただし、自軍が制空権と制海権を得ていなければ悲惨な結果をまねくことになります。

現代海戦においては、艦艇は水上艦艇と潜水艦の二種類あると考えるべきです。自軍が制空権と制海権を持っていない海域においては、水上艦艇は空母も含めてミサイルや魚雷等の大きな標的でしかありません。しかも、現状の誘導型ミサイルや魚雷であれば、命中率は極めて高く、すぐに撃沈されてしまいます。

一方、潜水艦はそうではありません。いずれの潜水艦も敵方に発見されないうちに予めある水域に潜み動かなかったり、あるいは動力を駆動させずに、潮流に乗って移動している限りにおいては、敵方に発見されることはありません。

このような潜水艦を探知するのは容易ではありません。艦艇や航空機、監視衛星をもってしても現状では発見するのは困難です。

ただし、その状況で敵方を攻撃をすれば、敵方に発見される可能性は高まります。発見された場合は、攻撃を回避するためにできるだけ早く移動することになります。敵方に発見されないようにするためには、敵の探知を妨害する能力や、潜水艦のステルス性を高める必要があります。

この能力を含め、潜水艦を発見する能力、潜水艦を攻撃する能力を含めた総合的な能力を対潜水艦戦争(Anti Submarine Wafare:ASW)といい、現代海戦においては、この能力が高い海軍が海戦に強い海軍ということになります。

日本の対潜哨戒機P1

いかに多数の艦艇を持っていたにしても、ASW能力が低ければ、多くの艦艇が敵方に発見され、撃沈されることになります。

日米は、この能力に秀でており、どちらも世界トップクラスです。米国は、原潜しか所有しておらず、原潜であるがゆえにステルス性には若干劣るものの、ありとあらゆる武器を大量に搭載した巨大な水中武器庫ともいえる、攻撃型原潜を所有しています。日本は、原潜は保有していないものの、ステルス性では世界トップクラスの通常型潜水艦を備えています。

そうして、両者に共通するのは、世界トップクラスの対潜哨戒能力(潜水艦を発見する能力)です。これは、日米ともかなり高く、能力の方向性が若干異なるので、どちらが優れているかということは、甲乙付けがたいところがありますが、それにしても、日米と他国を比較すると日米は突出しており中露を含めた他国をはるかに凌駕しています。

このような観点からすると、日本の海自が過去には22隻の潜水艦隊を構築することに尽力してきたこと、台湾が自前で潜水艦を建造したことは、軍事合理的観点からコスト・パフォーマンスという観点から高く評価することができると思います。

米国が昔から空母を保有し続けていたり、日本がこれから空母を所有しようとするのは、上の記事で指摘されているとおり、軍事的合理性というより、政治的な意味合いが大きいです。中国もそうです。

アメリカ国防総省は、東地中海に追加の空母打撃群の派遣を指示しました。イスラエルとハマスの衝突が拡大するのを防ぐためだとしています。

国防総省のオースティン長官は14日の声明で、アメリカ海軍の空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」を中核とする空母打撃群の東地中海派遣を命じたと明らかにしました。

アメリカ軍はすでに最新鋭の原子力空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群を東地中海に配備していて、2隻目の空母も合流するということです。

ハマスは海軍力、空軍力は皆無ですし、イランを含めた中東地域の国々には海軍力、空軍力は脆弱です。ここに、空母打撃群を派遣することは軍事的にも政治的にも大きな意味を持ちます。

このように、空母は軍事力と戦力の投射のために依然として重要な役割を果たしています。潜水艦がステルス性や奇襲攻撃において有利なのは確かですが、それが故に潜水艦の行動は、昔から秘匿されるのが通例です。

一方空母は敵を威嚇する目に見える強さの誇示を可能にします。空母はまた、自国から遠く離れた場所での軍事作戦に比類のない航空戦力を提供できます。多くの軍事的な弱小国においては、空母を威信とグローバル・リーチ(世界中への展開力)の象徴として重視しています。時代遅れだという意見もあますが、空母は、公海での優位性を主張しようとする世界の大国にとって、今後もその役割を果たし続けるでしょう。

さらに、空母は被災地支援等に活用することができます。

  • 災害発生直後の救援活動
  • 救援物資や人員の輸送
  • 医療支援
  • 復興支援

空母は、その機動性や輸送能力を活かして、被災地支援に大きな効果を発揮することができると考えられます。

熊本地震の災害支援のために「いずも」に乗り込む自衛隊員ら(2016年4月19日)

以下に、空母等が被災地支援に活用された事例をいくつかご紹介します。

  • 2004年のスマトラ沖地震では、米国の空母「カール・ヴィンソン」が被災地支援に投入され、復興支援物資の輸送や医療支援などに貢献しました。
  • 2011年の東日本大震災では、米国の空母「ロナルド・レーガン」が被災地支援に投入され、復興支援物資の輸送や医療支援などに貢献しました。
  • 2016年海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」熊本地震の被災地支援のために陸上自衛隊の輸送にあたった。

これらの事例から、空母等は被災地支援に有効な手段であることが世界中で認知されつつあると言えるでしょう。

日本としては、国内外の被災地支援でも空母を活用しつつ、平和的に軍事・政治的プレゼンスを高めるべきです。ただ、軍事的・政治的プレゼンスを高めるにもコスト・パフォーマンスは常に意識すべきでしょう。その上で、活用すべきはどんどん活用していくべきです。

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2023年10月28日土曜日

「増税感」の背景 国民1人71万円の「所得損失」 田中秀臣―【私の論評】岸田政権の経済政策は? 減税や給付で15兆円の需給ギャップを埋められるのか(゚д゚)!

ニュース裏表

まとめ
  • 岸田首相は「増税メガネ」と呼ばれている。
  • 国民は、岸田政権の増税感を強く感じている。
  • 国民の増税感は、政府の税収増と国民の所得損失の乖離による。
  • 岸田政権は、所得減税で名誉回復を図ろうとしている。
  • 消費税減税が最も望ましいが、期限付きの所得減税でも評価は上がる。

 岸田首相は、2021年10月就任以来、増税を否定し、減税を強調してきた。しかし、国民の間では、消費増税や防衛費増額などによって、実質的に増税が行われているとの不満が根強くある。

 このような国民の「増税感」は、経済学における「機会費用」という考え方によって理解することができる。日本経済は、毎年1%以上の成長をすることが望ましいが、2019年の消費増税や2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大などの影響で、その成長は阻まれていた。その結果、国民1人当たりの実質GDPは、2018年度から2022年度までに約71万円も減少している。

 一方、政府予算は、毎年度4兆円以上の税収増を続けている。国民の所得は減少しているのに、税収だけが増えていることで、国民の増税感は高まっている。

 岸田首相は、こうした国民の増税感を意識して、2023年10月に期限付きの所得税減税を表明した。これは、増税感の払拭に向けた「名誉回復」の試みと言える。しかし、消費税減税ができないのは残念であり、規模や「期限付き」の中身次第では、依然として「増税人間」の評価がついてしまう可能性もある。

 要するに、岸田首相は、国民の増税感を理解し、対応すべきである。具体的には、消費税減税の実現を目指すとともに、所得税減税の規模や「期限付き」の中身を国民の納得が得られるものにする必要がある。

 この記事は元記事の要約です、詳細を知りたい方は元記事を御覧ください。

【私の論評】岸田政権の経済政策は? 減税や給付で15兆円の需給ギャップを埋められるのか(゚д゚)!

まとめ
  • 岸田政権の増税、減税の具体的な動きは、防衛費増額による実質増税と所得税減税による実質減税の二つに集約されている。
  • 防衛費の増額は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて実施され、10兆円の規模となっており、国民の負担への懸念が高まっている。
  • 防衛増税に関する法案は提出されておらず、与野党間で賛否が分かれるため、国民の理解と支持が必要とされている。
  • 所得税減税と非課税世帯への給付が実施されており、経済対策に取り組んでいるが、一部批判もある。
  • 現状は、複数年度にまたがっても需給ギャップを埋める経済対策をすべき。

岸田政権による増税、減税の具体的な動きは、以下の二つです。その他は、議論がなされているというだけであり、具体的なものではありません。

岸田政権が成立してからの減税、増税の具体的な動きは、防衛費の増額による実質増税と、所得税減税による実質減税の二つの動きに集約されます。

2022年10月に、岸田首相は、防衛費の増額を決定しました。この増額は、10兆円に上り、過去最大の規模となりました。この増額は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、防衛力の強化を図る狙いがあります。しかし、この増額によって、国民の負担が重くなるとの懸念が高まっています。

しかし、防衛増税そのものはすでに決まったことではありません。

2023年10月28日現在、防衛増税に関する具体的な法案は提出されていません。岸田文雄首相は、2023年7月20日の参議院本会議で、防衛費をGDP比2%に引き上げることを表明しましたが、具体的な増税額や増税方法については、今後の議論の中で検討していくとしています。

防衛増税は、与野党間で賛否が分かれる議題であり、実現には国民の理解と支持が必要です。そのため、防衛増税が実現するかどうかは、今後の議論の行方次第となります。

ただし、岸田政権は、防衛増税を実現する強い意欲を持っています。そのため、今後の議論の中で、防衛増税の実現に向けた具体的な方策が検討され、実現に向けた動きが加速していく可能性は十分にあります。

一方、2023年10月には、岸田首相は、所得税減税と非課税世帯への給付を打ち出しました。この減税は、1人あたり4万円で、期限は2025年末までとなっており、物価高騰による国民の負担を軽減する狙いがあります。しかし、消費税減税を実現できなかったことや、規模が小さいことへの批判もあります。

今後、岸田政権は、国民の増税感を払拭するために、消費税減税や、所得税減税の規模拡大などの対応を迫られると考えられます。

岸田政権になってから、岸田政権そのものは、増税について具体的な言及をしていませんが、税調や財界人がその発言を繰り返しています。そのため、岸田政権は増税するだろうという認識が高まったと考えられます。

影響が大きかったものとしては以下のものがあります。

・政府税調の中期答申
2023年6月30日に公表された政府税制調査会(首相の諮問機関)の中期答申では、消費税率の13%への引き上げや、富裕層への課税強化など、増税を含む幅広い税制改革が提言されました。この答申は、岸田政権の税制改革の方向性を示すものとして、大きな注目を集めました。

 ・自民党税制調査会の宮沢洋一会長の発言

自民党税制調査会の宮沢洋一会長は、消費税率の13%への引き上げや、所得税の累進課税の強化など、増税を容認する発言を繰り返しています。宮沢会長は、岸田政権の税制改革を担う立場にあるため、その発言は大きな影響力を持っています。

・財界人などの発言

財界人の中にも増税すべきという人は少なくありません。

経団連会長の十倉雅和氏は、2023年7月の定例記者会見で、「財政再建の遅れは、経済の潜在成長率の低下や、社会保障の持続可能性を脅かす」と指摘し、増税の必要性を訴えました。また、消費税率の13%への引き上げについては、「国民の理解と納得を得ることが重要」と述べ、政府に丁寧な説明を求めました。

日本商工会議所会頭の三村明夫氏は、2023年7月の定例記者会見で、「財政再建は喫緊の課題であり、増税は避けられないだろう」と述べ、増税の可能性をにらみました。また、消費税率の13%への引き上げについては、「国民の負担を軽減する対策を講じることが重要」と述べました。

日経連会長の中西宏明氏は、2023年7月の定例記者会見で、「社会保障の持続可能性や、防衛費の増額など、財政再建には増税が不可欠だ」と述べ、増税の必要性を訴えました。また、消費税率の13%への引き上げについては、「国民の理解と納得を得ることが重要」と述べ、政府に丁寧な説明を求めました。

これらの財界人は、いずれも日本の経済界を代表する存在であり、その発言は、政府の政策に大きな影響を与えると考えられます。そのため、彼らが増税を容認する発言を繰り返していることは、岸田政権の増税への傾斜を示すものとして、注目されています。

ただし、岸田政権は、増税については具体的な言及を避けており、最終的な判断は、今後の議論の中で行われることになるでしょう。

こうした議論の中で、減税を選挙目当ての、バラマキなどと批判するむきもありますが、減税自体は、どんな形であれ、歓迎すべきものです。

上の記事で、田中氏は、「岸田首相は、国民の増税感を理解し、対応すべきである。具体的には、消費税減税の実現を目指すとともに、所得税減税の規模や『期限付き』の中身を国民の納得が得られるものにする必要がある」としていますが、その通りだと思います。

減税、給付その他を含めて、少なくとも15兆円(需給ギャップ)以上の経済対策を実行すべきです。

このブログでは、安倍・菅両政権において合計100兆円の補正予算を増税なしで組み、経済対策を行い、コロナ感染による経済の悪化を抑えることに成功したことを何度か掲載しました。し安倍元総理の言葉を借りると、この補正予算は、「政府日銀連合軍」により、政府が国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式で賄われました。


この方式を政府の借金が増えるからなどとして、批判するむきもありましたが、政府の借金は増えるどころか、ここ数年政府の一般税収は過去最高を更新しています。そうして、何よりも、「政府日銀連語軍」方式が巨大な借金を生み出しているなら、財務省や増税派はこれを「それみたことか」と喧伝するはずですが、そのようなことは一切ありませんでした。

ただ、安倍政権のときには、60兆円の補正予算であったので、当時は需給ギャップが100兆円だったので、若干不安感を感じていました。しかし、その後の菅政権がすぐに、40兆円の補正予算を組み経済対策を実行したので、計100兆円となり、安心しました。

この対策は、経済音痴のマスコミは評価しませんが、かなり功を奏したのは間違いありません。経済対策は必ずしも、単年度ですべて実行しなくても複数年度で実行し続けるという手法もあるのです。

こうしたこともあって、岸田政権は経済では比較的安定したスタートを切ることができました。しかし、その後のエネルギー・資源価格の高騰があり、岸田政権はこれに対処しなければならなくなりました。これには、需給ギャップを考えれば、先に述べた15兆以上の対策が必要です。

岸田政権は、2023年10月26日に、所得税の1人当たり4万円減税と、所得が低い世帯への7万円給付を打ち出しました。

所得税減税の規模は、対象者数を約1億人に想定した場合、約4兆円となります。給付金の規模は、対象者数を約5000万人に想定した場合、約3.5兆円となります。

したがって、所得税減税と給付金の合計規模は、約7.5兆円になると試算できます。

なお、この規模は、あくまでも試算であり、今後の議論の中で変更される可能性もあります。

また、所得税減税の対象となる所得は、給与所得と事業所得であり、給与所得者のうち、給与所得控除額が38万円を超える人が対象となります。給付金の対象となる世帯は、住民税非課税世帯と、住民税の課税額が3万円以下の世帯です。

7.5兆円だと、15兆円の半分ですが、これを単年度で終わらせることなく、複数年度で実施するとか、さらに消費税減税も行うことによって、複数年度では15兆円以上の対策をすることができます。

そうして、財源は税収上ブレ分を使うという考えもありますか、それだけでは15兆円には足りないです。需給ギャップの15兆円を国債で賄っても、それが借金になるということはありません。それは、安倍・菅両政権であわせて、需給ギャップに相当する100兆円の国債を発行しても、そうはならなかったことを見ればご理解いただけるものと思います。要するに、現在の日本は、財源の心配など全くせずに、減税できるのです。

スーパーを視察した岸田首相

国民も、そうして志のある野党も、マスコミや識者などのネガティブキャンペーンに煽られて、「どうせ増税」などと諦めずに、岸田政権が正しい経済政策を実行するように、これから世論を形成していくべきです。

ただ、岸田政権に反省を促したいのは、はやめに「消費税減税」を打ち出していれば、政権運営も安定していたであろうことです。しかも、規模としては、100兆円でなくて、15兆円です。やる気になれば、何とでもなると思うのですが、そんなに難しいことなんでしょうか・・・・・・。


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2023年10月27日金曜日

現時点では考えにくい中国の台湾侵攻―【私の論評】中国の台湾侵攻、兆候は「弱さを偽る」戦略?戦争を防ぐには(゚д゚)!

現時点では考えにくい中国の台湾侵攻

まとめ
  • 米国がウクライナやイスラエルに気を取られているので、中国が今こそ台湾を侵攻する絶好の機会だという見方あり。
  • 中国共産党は台湾侵攻の準備がまったくできていない。
  • 現時点で中国が台湾へ侵攻する可能性は著しく低い。

習近平国家主席は9日午後、米上院のシューマー院内総務率いる超党派議員団と北京の人民大会堂で会談

 現在、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとガザ地区のハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派といった紛争が続いており、イスラエルがガザ地区に地上部隊を投入するという動きもある。この状況下で、中国が台湾を侵攻する絶好の機会という意見があるが、その現実味は低いと言える理由が複数存在する。

 まず、中国政府自体が内部で不安定であり、軍事と外交の機能が低下している。また、習近平主席は暗殺やクーデターを恐れて身を隠し、国内外を頻繁に移動しており、台湾侵攻の準備が整っているとは考えにくい。

 中国の経済状況も不安定で、不動産市場の問題や金融危機の懸念がある。これらの要因から、中国が台湾への侵攻に備えているとは考えにくい。

 さらに、中国の人民解放軍は戦争に対する意欲が低く、長期戦に耐えられる資源や実戦経験が不足している。習近平主席も軍のトップを粛清し、統一的な指導を行う難しさがある。

 最後に、アメリカは中国との対話を促進し、習近平政権の安定を保とうとしており、敵対的なアプローチは取っていない。中国の台湾への侵攻は、国際的な混乱を招く可能性があるため、アメリカは穏便な解決を模索している。

 これらの要因から、現在の段階では中国が台湾に侵攻する可能性は低いと言える。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国の台湾侵攻、兆候は「弱さを偽る」戦略?戦争を防ぐには(゚д゚)!

まとめ
  • 中国が台湾に侵攻するのは、現時点では考えにくい。
  • 中国が台湾に侵攻するのは、ロシアのウクライナ侵攻と同様に、かなり難しい。
  • 中国が台湾に侵攻する兆候としては、ロシアのように「弱さを偽る」戦略を実行することが挙げられる。
  • 中国が台湾と統一のための交渉を平和的に実施しだしたら、逆に危険である。
  • 戦争を防止するためには、交渉の過程を適切に分析し、相手国の意図を正しく理解することが重要である。

私は、上の記事に関しては、基本的に賛成します。ただ、現時点では中国の台湾侵攻は考えにくいということであり、現時点というのがどの時点までを指すのかは、明示されていません。

私自身は、今年や来年辺りはないとはいえると思いますが、その後はなんとも言えないと思います。様々な条件が整えば、その後はないとは断言はできないです。

私は、開戦前の時点でさえ、GDPが韓国を若干下回るロシア(人口は韓国はロシアの35%程度)がウクライナに侵攻するのは難しいし、NATOと対峙するのは不可能と考えていました。そうして、ロシアがウクライナに侵攻したとしても、占拠できるのは、東部のいくつかの州に限られるだろうと予測しました。そうして、戦況はそれに近い形で推移しています。

私はが、ロシアがウクライナに侵攻すると考えだしたは2022年の1月から2月の頭くらいでした。その頃には、多数のロシア軍のウクライナ国境付近への配置状況からみて、これは侵攻する可能性が高まったと判断せざるを得なくなりました。

このロシアの挙動は台湾を考える上でも、参考になると思います。このブログでは、過去に中国が台湾に侵攻するのは、かなり難しいことを掲載してきました。ロシアのウクライナ侵攻は困難ですが、中国の台湾侵攻もかなり難しいです。

台湾は島であり、中国が台湾を侵攻するには大軍を海上輸送しなければならないですし、中国にはそれだけの兵員を一度に運ぶ海上輸送能力はありません。さらに、台湾の領土のほとんどは山岳地帯(台湾の最高峰玉山は富士山よりも高い)であり、台湾の東側は海からすぐに急峻な山がたちはだかり大軍が上陸するのは無理です、さらに、西側も上陸する地点は限られています。

山岳地帯の多い台湾では山の上にも多くの人々が住む

台湾軍は独自の対艦ミサイル、対空ミサイルを多数配備していますし、最近では最新型の潜水艦も配備しつつあります。それに台湾有事には、日米やその同盟国なども様々な形で加勢する事が考えられます。それを考えるとかなり難しいです。

ただ、ロシアはウクライナに侵攻するのは難しいとわかり切っていながらも、結果として侵攻しました。そうして、予想通りに苦戦しています。

今月に防衛研究所が公表した、政策研究部防衛政策研究室 研究員の本山 功氏の以下の論文は中国が本当に台湾を侵攻する兆候を見逃さないようにするための情報を提供しています。

ウクライナ危機における戦争の交渉と「弱さを偽る」戦略

本論文では、ウクライナ危機におけるロシアとウクライナの交渉を分析し、ロシアが「弱さを偽る」戦略をとった可能性を指摘しています。

「弱さを偽る」戦略とは、弱い姿勢を装うことで、相手を過大な警戒心や油断に陥らせ、有利な条件を引き出す戦略です。

論文では、ロシアがウクライナ侵攻直前、以下のような行動をとったことを指摘しています。

  • ウクライナ周辺に大量の軍を集結させたが、侵攻の意思を否定した。
  • ウクライナとの交渉を開始したが、交渉の過程で譲歩の姿勢を見せ、ウクライナを弱体化させようとした。

これらの行動は、ロシアがウクライナを弱体化させ、国際社会からの圧力を弱めるために、弱い姿勢を装ったのではないかと考えられます。

ウクライナ軍女性兵士

論文では、ロシアの「弱さを偽る」戦略は、一定の成果を上げたと評価しています。しかし、ウクライナの抵抗と国際社会の制裁により、ロシアの戦略は失敗に終わり、泥沼化した戦争を引き起こしたとしています。

論文の結論として、本山氏は、以下のように述べています。

戦争は、交渉の失敗によって引き起こされることが多い。したがって、戦争を防止するためには、交渉の過程を適切に分析し、相手国の意図を正しく理解することが重要である。

この論文は、ウクライナ危機におけるロシアの戦略を理解する上で、重要な洞察を与えるものです。また、戦争を防止するためには、交渉の過程を分析する重要性を示唆しています。

中国は、台湾に侵攻するのは、先に述べたように一般に考えられているよりは、かなり難しいです。軍事的破壊=侵攻ではないからです。侵攻とは、交戦したあとに、交戦地域を占拠することも含みます。

破壊しただけでは、占拠したことにはならないですし、占拠できなければ侵攻は失敗です。ロシアは、ウクライの多くの都市を破壊しましたが、占拠できた地域はわずかです。占拠した地域がわずかであっても、首都を占拠すれば、侵攻は成功したともみなせますか、それには失敗しています。これからできる見込みもありません。これを考えると、中国が台湾を侵攻するのは難しいです。

ロシア軍に破壊されたウクライナの都市

しかし、ロシアが無謀なウクライナ侵攻をしたように、中国が台湾侵攻をする可能背は否定はできないです。

中国が本気で台湾を侵攻する腹を決めたときには、ロシアのように中国も「弱さを偽る」戦略を実行する可能性が高いです。戦狼外交で、台湾に武力侵攻するなどと脅しているうちは本気ではないでしょう。台湾と統一のための交渉を平和的に実施しだしたら、逆に危険とみなすべきです。

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2023年10月26日木曜日

民間で唯一「潜水艦の目」開発拠点、33年ぶり新装 進む艦艇の無人化 ソナー需要爆上がり!?―【私の論評】日本が誇る水中音響技術、世界トップクラスへ(゚д゚)!

民間で唯一「潜水艦の目」開発拠点、33年ぶり新装 進む艦艇の無人化 ソナー需要爆上がり!?

まとめ
  • 海に設置された水中音響計測施設「SEATEC NEO」が完成
  • 海水の自然な状態を反映した試験が可能
  • 水中音響機器の開発・試験に貢献
  • 日本の海洋防衛能力の向上に期待
  • 世界トップクラスの水中音響技術の実現に期待
 

 沖電気工業(OKI)が33年ぶりにリニューアルした水中音響計測施設「SEATEC NEO」は、大型化が進む自立型無人潜水機(AUV)や感覚走査型無人潜水機(ROV)、無人潜水艇(USV)などのUUV(Unmanned Underwater Vehicle:無人潜水艇)のテストに対応できる設備を備えています。

 従来の施設では、開口部が小さく大型の機器を吊り下げることが難しかったため、バージの外で試験を行うことが多かったといいます。しかし、SEATEC NEOでは開口部が広く、最大2tまでの機器を吊り下げることができるため、屋内でも安定した試験が可能になりました。

 また、使用可能な電力の容量もアップし、より多くの機器を同時に使用できるようになりました。さらに、屋上のソーラーパネルで発電した電力を施設内で蓄電し、24時間連続で監視カメラや気象観測装置を稼働させることができるようになりました。

 OKIは、海洋事業への参入を視野に、SEATEC NEOを拠点に海洋データプラットフォームの事業化を目指しています。

 具体的には、風向、風速、気温、湿度、降雨量、水温、塩分濃度、溶存酸素量、日照などのデータを年間通じて取得し、海洋情報を必要とする漁業関係者へのデータ提供や、新たな事業創出などに活用していく計画です。

 SEATEC NEOは、OKIの海洋事業拡大に向けた重要な拠点となると期待されています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本が誇る水中音響技術、世界トップクラスへ(゚д゚)!

水中音響計測施設は、潜水艦等の目ともいわれる海中音響機器等が海中でどのように動作するかを調べるための施設です。海中音響機器は、海水の音響特性や、海流や潮流などの環境条件の影響を受けるため、これらの条件を再現した状態で試験を行うことで、水中音響機器の性能を正確に評価することができます。

その中でも、「SEATEC NEO」は海上に設置されているというか、船のように移動できる特殊なものです。

SEATEC NEOの内部

沖電気工業がリニューアルした水中音響計測施設「SEATEC NEO」に関して、軍事的、地政学的な意味を掲載します。

まず、軍事的な意味から掲載していきます。AUVやROV、USVは、いずれも無人水中システム(UUV)と呼ばれるもので、潜水艦や艦船の代わりに海中での偵察や攻撃を行うことができます。近年、これらの機器は大型化・高性能化が進んでおり、より高度な任務を遂行できるようになっています。

SEATEC NEOは、これらの大型化・高性能化したUUVのテストに対応できる設備を備えているため、海上自衛隊の潜水艦や艦船の能力向上に大きく貢献すると考えられます。

具体的には、SEATEC NEOは以下の点で海上自衛隊の軍事力向上に寄与すると考えられます。大型化したUUVのテストが可能になる

SEATEC NEOは、従来の施設よりも開口部が広く、最大2tまでの機器を吊り下げることができるため、大型化したUUVのテストが可能になります。これにより、海上自衛隊はより高度な任務を遂行できる大型UUVを開発・運用できるようになるでしょう。より安定した試験が可能になります。

SEATEC NEOは、従来の施設よりも波浪の影響を受けにくい場所に設置されているため、より安定した試験が可能になります。これにより、UUVの性能をより正確に評価できるようになり、開発の効率化にもつながるでしょう。より多くの機器を同時にテスト可能になる

SEATEC NEOは、従来の施設よりも使用可能な電力の容量がアップしているため、より多くの機器を同時にテスト可能になります。これにより、UUVの開発・試験のスピードアップが期待できます。

また、SEATEC NEOは海洋データプラットフォームの事業化も視野に入れており、海洋に関するデータを収集・蓄積する機能を備えています。これらのデータは、海上自衛隊の運用や訓練にも活用できると考えられます。

このように、SEATEC NEOは海上自衛隊の潜水艦や艦船の能力向上に大きく貢献する可能性を秘めた施設と言えるでしょう。

SEATEC NEOの整備は、自衛隊が今後本格的にUUVを活用することを暗に示していると言えるでしょう。

近年、UUVは急速に技術革新が進んでおり、潜水艦や艦船の代わりに海中での偵察や攻撃を行うことができるようになりました。また、UUVは人命や艦船を危険にさらすリスクが低いため、自衛隊にとって非常に魅力的な兵器となっています。

SEATEC NEOは、これらの大型化・高性能化したUUVのテストに対応できる設備を備えているため、自衛隊がUUVを本格的に運用していくための重要な拠点となるでしょう。

日本のUUV「OZZ-5 自律型水中航走式機雷探知機」模式図

具体的には、SEATEC NEOは以下の点で自衛隊のUUV運用に貢献すると考えられます。

・UUVの開発・試験の加速
SEATEC NEOは、大型化したUUVのテストが可能であるため、自衛隊はより高度なUUVを開発・運用できるようになるでしょう。また、より安定した試験が可能であるため、UUVの性能をより正確に評価できるようになり、開発の効率化にもつながるでしょう。
・UUVの運用能力の向上
SEATEC NEOは、海洋に関するデータを収集・蓄積する機能を備えています。これらのデータは、UUVの運用や訓練にも活用できるため、自衛隊のUUV運用能力の向上につながるでしょう。
なお、海上自衛隊は2022年3月に、UUVの運用を本格化するための「無人水中システム運用構想」を策定しています。この構想では、2030年代までに大型UUVを導入し、海上自衛隊の潜水艦や艦船の能力を向上させることを目標としています。

SEATEC NEOの整備は、この構想を実現するための重要な取り組みと言えます。

SEATEC NEOは海に設置されていますが、中国やロシアはこのような施設はなく巨大な水槽で行っています。水槽で行う水中音響計測では、水槽内の海水の状態を人工的に制御することができます。例えば、水温や塩分濃度、濁度などを一定に保つことで、より正確な試験結果を得ることができます。

ちなみに、日本にも水槽の水中音響計測施設が存在します。代表的な施設としては、以下のようなものが挙げられます。
  • 三菱重工水中音響試験場(三重県伊勢市)
  • 東芝海洋音響研究所(茨城県那珂市)
  • 日本大学水中音響研究所(神奈川県藤沢市)

三菱重工の水中通信機器の音響特性を計測する世界最大級の無響水槽

これらの施設は、主に民間の企業や大学によって運営されており、UUVやソナーシステムなどの開発・試験に活用されています。

一方、SEATEC NEOは海に設置されている(船のように移動できる)ため、海水の自然な状態をそのまま反映した試験結果を得ることができます。これは、実海域での運用を想定した試験を行う上で非常に重要です。

また、SEATEC NEOは、海洋に関するデータを収集・蓄積する機能を備えています。これは、水槽では実現できない機能であり、SEATEC NEOの大きな強みと言えるでしょう。

ちなみに、米国にもSEATECH NEOのように海に設置された施設があります。

その名は、Naval Undersea Warfare Center (NUWC) Keyport(ワシントン州)です。この施設は、米国海軍によって運営されており、潜水艦や艦船のソナーや、UUVなどの開発・試験に活用されています。

SEATEC NEOとこの米国の施設は、中露の水槽とは根本的に異なる水中音響計測施設です。

具体的には、SEATEC NEOと中露の水槽の違いは以下のとおりです。


SEATEC NEOは、海洋に関するデータを収集・蓄積する機能を備えているため、地政学的な影響力という観点からも、中国とロシアの施設よりも優れていると言えるでしょう。

「SEATEC NEO」の整備は、地政学的には、以下の2つの影響を与えると考えられます。

・日本の周辺海域の監視能力の向上

SEATEC NEOは、大型化したUUVのテストに対応できるため、日本の周辺海域の監視能力を向上させることができます。これにより、中国や北朝鮮などの軍事活動をより正確に把握できるようになり、日本の安全保障につながるでしょう。

・海洋資源開発の促進

SEATEC NEOは、海洋に関するデータを収集・蓄積する機能を備えているため、海洋資源開発を促進することができます。これにより、日本の海洋権益を拡大し、経済力を強化することにつながるでしょう。
SEATEC NEOは日本の海洋防衛能力と海洋権益の拡大に大きな可能性を秘めた施設と言えるでしょう。


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高橋洋一「日本の解き方」

高橋洋一

まとめ
  • 一帯一路は当初の期待に沿った成果を上げていない。
  • 先進国からの参加は減少しており、中国からの投資も低下傾向にある。
  • 中国経済の失速や米中対立の激化なども、一帯一路の進展を阻む要因となっている。
  • 中国は債務返済が困難になった国の救済に消極的であり、一帯一路の評判は低下している。

一帯一路の国際フォーラムで演説をする鳩山元首相

 中国は10年前に提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」の10周年を記念して国際フォーラムを開いた。中国はこれまでの実績を強調したが、出席者は先進国の代表団が減少し、グローバルサウスが中心だった。

 また、中国は「一帯一路内の貿易額が増加している」と主張するが、実際には投資額はピーク時の2015年以降減少している。さらに、中国経済の失速や米中対立、中露接近も一帯一路への関与を冷え込ませている。

 特に、中国経済の失速と米中対立は、一帯一路の今後にとって大きなマイナス要因となると考えられる。

 中国は債務返済が困難になった国への救済にも消極的であり、スリランカは中国の「あこぎな金融」の罠にはまった例とされている。日本はスリランカ債務問題について中国抜きで協議を開始しており、中国の思惑どおりに進んでいないことは明白だ。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事を御覧ください。

【私の論評】一帯一路構想の失敗から学ぶべき教訓(゚д゚)!

まとめ
  • 一帯一路構想は、開発経済学的に見て、無理がある。
  • 中国は、まだ発展途上国であり、貧しい国々を豊かにするノウハウがない。
  • AIIBの融資金利が高い。
  • 中国は、国内の投資案件が減少したことで、海外への投資を拡大しようとした。
  • 中国は、当面海外投資から手を引き、まずは国内問題を片付けるべき。

一帯一路構想は一見壮大なものだかその現実は・・・・

高橋洋一氏は、一帯一路構想が公表された直後、そのバスは「オンボロ」「高利貸」なのでやめた方がいいと語っていました。私も当時そう思いました。その理由は主に以下の二つの理由からでした。

まず第一に、開発経済学的に見て、無理があるというものでした。

開発経済学においては、自国より経済成長率が高い国に対する投資は、経済の拡大によって新たな需要が生まれるため、投資の機会が多く、利益率も高くなると考えられています。しかし、自国より経済成長率が低い国への投資は、利益率が低くなるというものです。

具体的には、以下の理由が挙げられます。
  • 経済成長率が高い国は、国内の需要が拡大するため、企業の売上や利益が増加する。
  • 経済成長率が高い国は、労働力や資源などの生産要素が不足するため、投資によって生産性の向上を図ることができる。
  • 経済成長率が高い国は、政治や社会の安定性が高く、投資リスクが低い。
もちろん、必ずしも自国より経済成長が高い国に投資すれば利益が上がるわけではありません。投資先の国やプロジェクトの選定は慎重に行う必要があります。

以下に、投資先の国やプロジェクトの選定において考慮すべき点をいくつか挙げます。
  • 経済成長率の見通し
  • 政治・社会の安定性
  • 法制度の整備状況
  • インフラの整備状況
  • 人材の質
  • リスクの大きさ
また、投資先の国やプロジェクトの選定にあたっては、専門家のアドバイスを参考にすることも重要です。しかし中国は過去に植民地経営をした経験はなく、海外に投資した経験も少ないですから、海外投資の専門家はいないと言っても良い状況でした。

中国政府は、一帯一路の推進にあたり、海外投資の専門家を育成するための取り組みを行ってきました。しかし、それらの取り組みが十分に成果を上げていないことも、一帯一路の失敗の一因と考えられます。

海外投資の専門家は、投資先の国やプロジェクトの選定において、経済成長率の見通し、政治・社会の安定性、法制度の整備状況、インフラの整備状況、人材の質、リスクの大きさなどの要素を総合的に判断する能力が必要です。また、投資先の国やプロジェクトの現地事情をよく理解し、リスクを回避するための対策を講じる能力も求められます。

中国が、一帯一路の成功を収めるためには、海外投資の専門家をさらに育成し、彼らの能力を最大限に活用することが重要なはずでした。

具体的には、以下の取り組みが必要でした。
  • 海外投資の専門家を育成するための教育・研修の充実
  • 海外投資の専門家が活躍できる環境の整備
  • 海外投資の専門家と政府や企業との連携の強化
これらの取り組みが十分になされていれば、中国は海外投資の経験とノウハウを蓄積し、一帯一路の成功につなげることができたかもしれませが、それを怠って失敗したのが中国です。

そもそも、一帯一路のほとんどのプロジェクトは、もし中国で海外投資の専門家が十分に養成されていれば、その専門家は実施すべきではないと判定していたでしょう。

年々参加者数が減る一帯一路国際フォーラム

第二には、中国は世界第二の経済大国といわれながらも、一人あたりのGDPは一万ドルを少し超えた程度であり、これは日本など世界の他の先進国や、韓国、台湾よりもかなり低いし、貧しいといわれる中東欧諸国のほんどの国よりも低いです。

そのような国が、貧しい国に投資して、プロジェクトを起こしたにしても、中国には元々貧しい国の人々を豊かにするノウハウはないので、一帯一路がうまくいく可能性は低いと考えられたからです。

中国の一人あたりのGDPは、2023年時点で約12,500ドルです。これは、日本の一人あたりのGDP(約40,000ドル)の約3分の1、韓国の一人あたりのGDP(約35,000ドル)の約4分の1、台湾の一人あたりのGDP(約30,000ドル)の約4分の3に過ぎません。また、貧しいといわれる中東欧諸国の平均的な一人あたりのGDP(約15,000ドル)よりも低い水準です。

このような状況で、中国が貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、中国自身が貧しい国の人々を豊かにするノウハウを持っていないことから、一帯一路がうまくいく可能性は低いと考えられます。

具体的には、以下の理由が挙げられます。
  • 中国は、まだ発展途上国であり、自国内でも貧困や格差の問題を抱えています。そのような国が、貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、そのノウハウが十分に確立されていない可能性があります。
  • 中国は、政治体制が独裁制であり、民主主義体制の国とは価値観や考え方が大きく異なります。このような国が、民主主義体制の国に投資してプロジェクトを起こしても、そのプロジェクトが現地のニーズに応えられない場合もあります。
  • 中国は、債務漬けの問題を抱えています。そのような国が、貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、そのプロジェクトが債務の負担となり、現地の経済を悪化させる可能性があります。
もちろん、中国が一帯一路を通じて、貧しい国の人々の生活を改善する取り組みを行っていることは事実です。しかし、中国自身が抱える課題や、一帯一路に対する批判などから、一帯一路が今後も成功を収めることは難しいです。

以下に、中国の経済状況と一帯一路の課題に関する数字的な根拠をいくつか挙げます。
  • 中国の一人あたりのGDPは、2010年から2023年の間に約2倍に増加しました。しかし、依然として世界平均の約半分に過ぎません。
  • 中国の外貨準備は、2010年から2023年の間に約3倍に増加しました。しかし、債務の増加に伴い、対外負債の割合も拡大しています。
  • 一帯一路の参加国は、2013年から2023年の間に約70カ国から約140カ国に増加しました。しかし、そのうちの多くの国は、中国の債務の罠にはまっているとの指摘があります。
中国が、一帯一路を通じて世界経済に貢献し、貧しい国の人々の生活を改善するためには、まずは、自国の課題を克服し、一帯一路の取り組みを改善していくべきです。

この二つについては、中国自身もよく理解していたと思われます。

そうして、一帯一路を支えるAIIBにも最初から問題がありました。AIIBとは中国の主導によって設立された国際金融機関のことで、アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank, AIIB)と呼ばれる、アジア向けの国際開発金融機関です。

複数の国によって設立され、アジアの開発を目的として融資や専門的な助言を行う機関の一種で、米国主導のIMF(国際通貨基金)や、日米主導のADB(アジア開発銀行)のような機関です。これは一帯一路のプロジェクトを推進することも目的に創設されたものです。

プロジェクトの種類や融資額などによって異なりますが、一般的には、ADBの融資金利よりも0.5~1%程度高いと言われています。例えば、AIIBの融資金利は、インフラ整備プロジェクトの場合、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)に上乗せした5.5~6.5%程度となっています。一方、ADBの融資金利は、インフラ整備プロジェクトの場合、LIBORに上乗せした4.5~5.5%程度となっています。


AIIBの融資金利が高い理由は、AIIBの資金調達コストを賄うためです。AIIBは、中国が主導して設立された機関ですが、出資国は中国以外の国も多く、その出資比率は中国が30%程度に過ぎません。しかも、致命的なのは、日米が参加していません。そのため、AIIBは、国際市場からの資金調達に依存しており、その資金調達コストを賄うために、融資金利を高く設定せざるを得ないのです。

それでも、中国が強引に一帯一路をすすめたのは、中国は、2000年代以降、急速な経済成長を遂げ、国内の投資案件が減少してきましたため、中国政府は、海外への投資を拡大することで、経済成長を維持しようとからだと考えられます。

一帯一路構想は、中国の海外への投資を促進するためのものであり、中国政府は、この構想を通じて、海外のインフラ整備や資源開発に投資し、中国企業の海外進出を支援してきました。

中国は、一帯一路構想を通じて、貧しい国々の経済発展にも貢献しようと考えていました。しかし、その一方で、中国の経済的利益を追求することも、一帯一路構想の重要な目的であったことは否定できません。

中国は、一帯一路構想を通じて、海外への投資を拡大し、経済成長を維持しようとしていますが、その取り組みは、必ずしも成功しているとは言えません。

先進国からの参加が減少し、中国からの投資も低下傾向にあることに加え、債務問題や環境問題など、一帯一路構想に対する批判も高まっています。

中国が、一帯一路構想を通じて、経済成長を維持し、政治的・経済的影響力を拡大するためには、これらの課題を克服していく必要があります。

以上、長くなってしまいましたが、これが現時点での、最新の一帯一路のまとめです。

中国は、当面海外投資から手を引き、まずは国内問題を片付ける必要があります。その上で、個人消費を高める政策をとるべきですが、そのためには、経済的中間層を増やし、これらが自由に経済活動ができる体制を整えるべきです。

そのためには、民主化、経済と政治の分離、法治国家化は避けて通れません。

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