従来モルディブには80人を超えるインド兵が駐留していたが、ムイズ氏は彼らの撤収を明言し、当初3月15日とされていた期限が5月10日に延期された。一方、2月には中国の調査船がモルディブに寄港し、インドはこれを「スパイ船」と警戒している。
モルディブはインドと中国双方が影響力を競う海上交通の要地であり、今回の動きはインドの立場が後退し、中国の影響力が高まる可能性を物語っている。
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スリランカの南西約700㎞に位置するモルディブは、26の環礁や約1200の島々からなり、インド洋に浮かぶ「島々の花輪」と呼ばれています。
12世紀にアラブ人がイスラームを伝えて以降イスラーム国家として成立し、その後ポルトガル、オランダの統治下に入り、1887年にイギリスの保護領となりました。1965年に主権国家として独立し、1968年にはスルタンによる世襲王制を廃止し共和国に移行しました。
食料や工業製品の大部分を輸入に頼っているため、輸出1.8億ドルに対して輸入29.6億ドルと大幅な輸入超過となっています(2018年)。輸出を支えるのが、マグロ・カツオ漁業と水産加工業で、輸出総額の約60%以上を占めます。
モルディブと中国が軍事同盟を結んだことは、以下のような重大な影響があると考えられます。
インドの影響力低下 :従来、モルディブではインド軍が駐留し、インドの影響力が強かったですが、今回の軍事同盟でインドの立場が大きく後退することになります。
海上交通路の安全性への影響 :モルディブ周辺は、アジアと中東を結ぶ重要な海上交通路です。中国の軍事プレゼンスが高まれば、この地域の海上交通路の安全保障環境に変化が生じる可能性があります。
モルディブが事実上、中国の軍事拠点となれば、インド洋における米中の覇権争いに直接関わってくる可能性があり、地域全体の緊張が高まるリスクがあります。
モルディブと中国の軍事同盟は、日本の安全保障環境に以下のような影響を及ぼします。
第一に、モルディブが中国の軍事拠点となれば、日本への資源・エネルギー輸送路となるインド洋の海上交通路の安全が脅かされかねません。
第二に、この動きはアジア太平洋のみならずインド洋地域における中国の影響力拡大を象徴し、日本は中国の現状変更の試みに一層警戒を強めるでしょう。
第三に、一帯一路構想の推進という中国の戦略に対する対応が課題となり、日米同盟の重要性が高まるとともに、インド太平洋地域の様々な国々との連携の必要性が増すことになります。
このように、モルディブと中国の軍事提携は、日本の安全保障上の懸念材料となり、日本の対中戦略や地域安全保障政策に大きな影響を及ぼす可能性があります。
同盟国・パートナー国と緊密に連携し、外交、軍事、経済面で多角的な対応を組み合わせることが不可欠となります。中国への過度な牽制は避けつつも、地域の安全保障秩序を守るためのしっかりとした取り組みが望まれます。
経済的に立ち遅れた国ほど、中国の影響力拡大に同調しがちであるという傾向があります。その背景には以下のような要因が考えられます。
資金の制約: 経済的に立ち遅れた国は、インフラ整備などに必要な資金が不足しがちです。中国は、そうした国に対し、低金利での融資や無償援助を行うことで、自国の思惑通りに傾斜させようとしています。
外交的選択肢の限界 :経済的基盤の弱い国は、大国に対して外交的な選択肢が限られます。中国の経済的・政治的影響力の高まりに伴い、中国に過度に追随せざるを得なくなる可能性があります。
債務の問題 : 中国からの過剰な借り入れにより、債務が累積すると、中国に従属せざるを得なくなるケースもあります。モルディブなども中国への債務が GDP比で20%近くに上るとされています。
一方で、バルト三国のように経済基盤が整備された国は、中国への過度な依存を避けやすく、主権を守る姿勢を示しやすいということができます。経済的自立を果たすことが、中国の影響力に翻弄されない重要な鍵となっているのです。
モルディブ親中政権誕生へ 大統領選、ムイズ氏勝利―【私の論評】モルディブ親中派指導者の台頭と中国の影響力拡大の危機(゚д゚)!
【私の論評】インド洋における中国の影響力拡大と日本の安全保障上の懸念
まとめ
- 中国とモルディブの軍事同盟によりインド洋における中国の存在感拡大とインドの影響力低下が懸念される
- アジア太平洋のみならずインド洋での中国の影響力拡大は、日本にも大きな影響を及ぼす
- 一帯一路構想の推進に伴う対中対応の必要性と、日米同盟・インド太平洋連携の重要性増大
- インド洋の海上交通路の安全確保への懸念が生じかねない状況である
- 経済基盤が立ち遅れた国ほど、中国の支援に惹かれ影響力拡大に同調しがちな傾向があり、西側諸国は包括的な経済基盤支援こそが、中国の影響力拡大に対する最良の対抗策になり得ると
12世紀にアラブ人がイスラームを伝えて以降イスラーム国家として成立し、その後ポルトガル、オランダの統治下に入り、1887年にイギリスの保護領となりました。1965年に主権国家として独立し、1968年にはスルタンによる世襲王制を廃止し共和国に移行しました。
食料や工業製品の大部分を輸入に頼っているため、輸出1.8億ドルに対して輸入29.6億ドルと大幅な輸入超過となっています(2018年)。輸出を支えるのが、マグロ・カツオ漁業と水産加工業で、輸出総額の約60%以上を占めます。
インド洋における中国の存在感拡大 :モルディブはインド洋の要衝に位置しており、中国がここに軍事的足がかりを得たことで、インド洋における中国のプレゼンスが大きく高まります。これはインドの安全保障上の懸念材料となるでしょう。
インドの影響力低下 :従来、モルディブではインド軍が駐留し、インドの影響力が強かったですが、今回の軍事同盟でインドの立場が大きく後退することになります。
海上交通路の安全性への影響 :モルディブ周辺は、アジアと中東を結ぶ重要な海上交通路です。中国の軍事プレゼンスが高まれば、この地域の海上交通路の安全保障環境に変化が生じる可能性があります。
モルディブが事実上、中国の軍事拠点となれば、インド洋における米中の覇権争いに直接関わってくる可能性があり、地域全体の緊張が高まるリスクがあります。
一帯一路への布石: 中国は一帯一路構想の一環として、沿岸国との軍事関係を強化しており、モルディブとの同盟はその一里塚と見られます。
総じて、今回の軍事同盟は、インド洋における勢力図の変化を象徴する出来事と言え、この地域の地政学的なリスクが高まったと言えるでしょう。
総じて、今回の軍事同盟は、インド洋における勢力図の変化を象徴する出来事と言え、この地域の地政学的なリスクが高まったと言えるでしょう。
モルディブの水上コテージのプールの縁に座る女性 |
第一に、モルディブが中国の軍事拠点となれば、日本への資源・エネルギー輸送路となるインド洋の海上交通路の安全が脅かされかねません。
第二に、この動きはアジア太平洋のみならずインド洋地域における中国の影響力拡大を象徴し、日本は中国の現状変更の試みに一層警戒を強めるでしょう。
第三に、一帯一路構想の推進という中国の戦略に対する対応が課題となり、日米同盟の重要性が高まるとともに、インド太平洋地域の様々な国々との連携の必要性が増すことになります。
このように、モルディブと中国の軍事提携は、日本の安全保障上の懸念材料となり、日本の対中戦略や地域安全保障政策に大きな影響を及ぼす可能性があります。
同盟国・パートナー国と緊密に連携し、外交、軍事、経済面で多角的な対応を組み合わせることが不可欠となります。中国への過度な牽制は避けつつも、地域の安全保障秩序を守るためのしっかりとした取り組みが望まれます。
小さな国であっても、バルト三国のような国民一人あたりのGDPが一万ドルを超えるよう国は、一帯一路から抜けたように、中国の思い通りにならないことが多いのですが、モルディブのように一万ドルをはるかに下回るような国は、中国の支援に期待して、中国との関係を強埋めようする傾向がみられます。
海と高床式のヴィラが連なるモルディブのホテル |
その背景として以下のようなことがあげられます。
経済的に立ち遅れた国ほど、中国の影響力拡大に同調しがちであるという傾向があります。その背景には以下のような要因が考えられます。
経済発展への渇望 :一人当たりGDPが低い国ほど、経済発展を最優先課題としており、中国から得られるインフラ投資や支援に惹かれがちです。中国の一帯一路構想は、こうした支援と引き換えに影響力を拡大する戦略と見なされています。
資金の制約: 経済的に立ち遅れた国は、インフラ整備などに必要な資金が不足しがちです。中国は、そうした国に対し、低金利での融資や無償援助を行うことで、自国の思惑通りに傾斜させようとしています。
外交的選択肢の限界 :経済的基盤の弱い国は、大国に対して外交的な選択肢が限られます。中国の経済的・政治的影響力の高まりに伴い、中国に過度に追随せざるを得なくなる可能性があります。
債務の問題 : 中国からの過剰な借り入れにより、債務が累積すると、中国に従属せざるを得なくなるケースもあります。モルディブなども中国への債務が GDP比で20%近くに上るとされています。
一方で、バルト三国のように経済基盤が整備された国は、中国への過度な依存を避けやすく、主権を守る姿勢を示しやすいということができます。経済的自立を果たすことが、中国の影響力に翻弄されない重要な鍵となっているのです。
今後日本をはじめとして、西側諸国はモルディブのような国々に対して、単なる支援だけではなく、経済基盤を整備する方向で支援をしていくべきでしょう。包括的な経済基盤支援こそが、中国の影響力拡大に対する最良の対抗策になり得ると考えられますが、相応の労力とコストが伴うため、戦略的な取り組みが求められます。
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