2024年8月17日土曜日

総裁選「地震」で不出馬に追い込まれた岸田首相 ダメ押しは日向灘地震と中央アジア訪問ドタキャン 米対応で高市氏の存在が浮上―【私の論評】高市早苗氏の米国連邦議会での経験と自民党総裁選の重要性

 高橋洋一「日本の解き方」

総裁選「地震」で不出馬に追い込まれた岸田首相 ダメ押しは日向灘地震と中央アジア訪問ドタキャン 米対応で高市氏の存在が浮上

まとめ
  • 岸田文雄首相が9月の自民党総裁選への不出馬を表明し、党内外に衝撃を与えた。
  • 政権の危機管理能力の低下が背景にあり、能登半島地震後の補正予算未実施や日向灘地震後の中央アジア訪問中止が問題視された。
  • 総裁選は事実上開始され、麻生太郎副総裁と菅義偉前首相が争う可能性が高い。
  • 高市早苗経済安保相が注目されており、彼女は米大統領選への対応力を持つ稀有な候補者とされている。
  • 今後の総裁選では活発な政策論争が期待され、日本の政治の方向性を左右する重要な選挙となる見込み。
麻生太郎副総裁と菅義偉前首相

 岸田文雄首相が9月の自民党総裁選への不出馬を突如表明したことは、党内外に大きな衝撃を与えた。この決定は、前日まで出馬を検討しているとみられていただけに、より一層驚きを呼んだ。岸田政権の末期症状は、特に危機管理の面で顕著に表れていた。

 能登半島地震後の対応は、その綻びの一つだった。震度7の大地震に対して補正予算を組むことは政治家として絶好の機会であったにもかかわらず、岸田首相はその機会を逃した。さらに、8月8日の日向灘地震への対応も批判を浴びることとなった。南海トラフ巨大地震への懸念がある中、首相は予定されていた中央アジア訪問をキャンセルした。これは危機管理の観点からも、外交面からも適切ではない。

 中央アジア5カ国への訪問は、日本にとって戦略的に重要な機会だった。これらの国々はロシア、中国、イラン、アフガニスタンに囲まれ、ユーラシア大陸の中心に位置している。日本の国益確保の面でも重要な地域であり、この訪問のキャンセルは「外交の岸田政権」の看板に疑問を投げかけるものとなった。

 こうした一連のミスが、岸田首相の政権運営の限界を示すこととなり、総裁選不出馬という決断につながったと考えらる。もちろん、「政治とカネ」の不祥事も政権に打撃を与えてきたが、最終的には地震対応の危機管理の問題が決定打となったようだ。

 総裁選は事実上始まり、キングメーカーとして麻生太郎党副総裁と菅義偉前首相の争いが注目されている。菅氏は小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相らへの影響力があり、優勢とみられている。一方、麻生氏は高市早苗経済安保相を推す可能性もある。

 高市氏は特に注目されており、米大統領選への対応力が評価されいる。政策の観点からトランプ氏が勝利しても、女性同士であることや高市氏はかつて米民主党議員のスタッフの経験もあることからハリス氏が勝利しても対応できる稀有な人物といえる。保守政策への理解と、過去の民主党議員スタッフの経験を持つ高市氏は、幅広い対応力を持つ候補者といえる。

 今後の総裁選では、こうした候補者たちによる活発な政策論争が期待されており、日本の政治の方向性を左右する重要な選挙となることが予想される。

 この記事は、元記事の要約です。詳細知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】高市早苗氏の米国連邦議会での経験と自民党総裁選の重要性

まとめ

  • 高市早苗氏は、米国連邦議会でCongressional Fellowとして活動し、米民主党下院議員パトリシア・シュローダーの事務所で議員立法の調査や分析を行った経験がある。この経歴は日米関係において重要な意味を持つ可能性がある。
  • 高市氏の経歴については、過去に「議会立法調査官」としての呼称が経歴詐称と指摘されたが、後に「Congressional Fellow」という正式な名称に訂正され、事実であることが証明されている。
  • 自民党総裁選の情勢が変わる中、麻生太郎副総裁が高市氏を推す可能性が注目されている。麻生氏は高市氏との政策的親和性が高く、保守派の結集を図る狙いがあると見られている。
  • 他の総裁候補では、トランプ氏の予測不可能な政策に対して十分な対応策を持っているとは言い難く、特に安倍元首相のような個人的な信頼関係を構築できる候補がいないことが課題である。
  • 自民党総裁選は、単なる人気投票ではなく、自民党や岸田政権の支持率低下の原因を真摯に反省し、信頼回復と政策の明確化を図る選挙でなければ、党勢は衰え、下野する危機に直面することになるだろう。

上の記事では、高市氏はかつて民主党議員のスタッフの経験もあるとされていますが、これは意外と知られていないようです。私も色々調べてみましたが、これに関する情報はなかなか見当たりませんでした。

結局のところ米国連邦議会Congressional Fellowであったことがわかりました。これについ調べていくと、2016年あたりに、いわゆる経歴詐称問題があったことを思い出しました。

米国連邦議会Congressional Fellowは、研究者や実務家に米国連邦議会の仕組みや政策形成プロセスについて実践的に学ぶ機会を提供するプログラムです。参加者は議員オフィスや委員会スタッフとして実際の業務に携わり、政策立案や法案作成のプロセスを間近で観察・参加します。通常、数ヶ月から1年程度の期間で行われ、参加者は無給または低賃金の研修生的な立場で活動します。

高市早苗氏は、このCongressional Fellowの経験を持っています。高市氏の公式プロフィールによると、彼女は「米国連邦議会Congressional Fellow(金融・ビジネス)」として活動しました。具体的には、1987年から1989年にかけて、アメリカ下院議員パトリシア・シュローダーの事務所でCongressional Fellowとして勤務し、議員立法のための調査や分析を行ったとされています。

アメリカ下院議員パトリシア・シュローダー氏

パトリシア・シュローダーは、1973年から1997年まで24年間にわたり、コロラド州第1選挙区選出の民主党下院議員を務めました。彼女はコロラド州から初めて連邦議会に選出された女性議員であり、リベラルな立場から社会福祉、女性の権利、軍事支出などの問題に取り組みました。シュローダーは下院軍事委員会の初の女性メンバーとなり、軍事費削減や女性の軍隊での権利擁護に尽力しました。

パトリシア・シュローダーが活躍した時代の民主党は、確かにリベラルな立場を取りながらも、現代の民主党とは異なる特徴を持っていました。

当時の民主党は、リベラルな政策を推進しつつも、より穏健で中道的な立場を維持していました。労働者の権利や社会福祉の拡充を重視しながら、経済政策においては比較的バランスの取れたアプローチを取っていました。

この時期の民主党は、今日見られるような極端な左翼思想の影響を受けておらず、アイデンティティ政治やポリティカル・コレクトネスへの傾斜も顕著ではありませんでした。代わりに、幅広い有権者層の利益を代表することに重点を置いていました。

特に注目すべきは、当時の民主党と共和党の間に存在した相互尊重の雰囲気です。両党間での対話や妥協が可能であり、政策立案においてより建設的な協力が行われていました。これは、現代の極端な政治的分断とは対照的です。

シュローダー氏自身も、強い信念を持ちながらも、他党の議員とも協力できる柔軟性を示しました。これは当時の政治文化を反映しており、今日の民主党とは異なる、より実務的で妥協を重視するアプローチを示しています。

このように、シュローダー氏が活躍した時代の民主党は、リベラルな価値観を持ちつつも、今日のような極端な左傾化や分断を避け、より広範な国民の支持を得られる政党として機能していたと言えるでしょう。

ただし、この経験の呼称については後に議論がありました。高市氏は帰国後、「議会立法調査官」という訳語を使用していましたが、これが2016年2月ジャーナリスト鳥越太郎氏により経歴詐称ではないかという指摘を受けました。その後、高市氏は「Congressional Fellow」という正式な名称を使用し、「議会立法調査官」という呼称の使用を止めました。高市氏は自身の業務内容に関するシュローダー議員によるサイン入り文書と、研究費としての月2000ドルの送金記録を提示し、自身の経験を証明しています。

米国連邦議会Congressional Fellow時代の高市早苗氏

このように、高市早苗氏のCongressional Fellow経験は事実であり、米国議会政治の実態を学ぶ貴重な機会となったと考えられますが、その経験の呼称や内容については一時期議論があったことが分かります。

結局のところ、経歴詐称とマスコミが騒ぎ立てたのですが、その後それが事実ではないことがわかり、現在でマスコミなどがこの問題に関しては、沈黙しているということなのでしょう。そのため、「民主党議員のスタッフの経験」とだけ検索すると、ほとんど出てこないという状況になっているのだと思われます。

高市早苗氏の経歴は、確かに他の総理候補と比較して特異であり、その経験は日米関係において重要な意味を持つ可能性があります。トランプ氏、ハリス氏のいずれが大統領になったにしても十分に対応できる可能性が高いです。

全体として、他の候補ではトランプ氏の予測不可能な政策や交渉スタイルに対して、十分な対応策を持っているとは言い難い状況です。特に、安倍元首相のようなトランプ氏との個人的な信頼関係を構築できる候補が見当たらないことが、大きな課題です。

また、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策に対して、日本の国益を守りつつ協調関係を維持するための具体的な戦略が、いずれの候補からも明確に示されていないことも懸念材料です。

自民党総裁選の情勢が大きく変わる中、麻生太郎副総裁の動向が注目されています。岸田文雄首相の不出馬表明を受け、麻生氏が高市早苗経済安保相を推す可能性が浮上しています。

麻生氏は党内で強い影響力を持つ実力者であり、高市氏との政策的親和性が高いことから、保守派の結集を図る狙いがあると見られています。高市氏は女性リーダーとしての注目も集めており、自民党が女性の登用を重視する中で有力な候補者となっています。

一方で、河野太郎デジタル担当相の動向も注目されています。河野氏は麻生氏と菅義偉前首相の間で板挟みになっている状況が報告されています。麻生氏が河野氏の出馬を認めない可能性がある一方、菅氏は河野氏を重要な候補者と見なしているようです。

麻生氏が高市氏を推すことで、党内のパワーバランスを保とうとする可能性もあります。しかし、高市氏の一部の政策や発言が党内リベラル派や親中派の反発を招くこともあり、麻生氏の判断は慎重になると予想されます。

安倍総理と高市氏

総裁選に向けて、麻生氏の動向は党内外から注目されており、高市氏への支持表明があれば、それは大きな政治的意味を持つことになるでしょう。今後の展開や、新たな総裁が誰になるかについては、まだ不透明な状況が続いています。

このような状況の中で、自民党総裁選が単に次の選挙に当選したいだけの議員らによる人気投票になってはいけません。自民党や岸田政権の支持率が落ちた理由、特に従来の保守岩盤支持層が離れていった理由を精査し、かつ真摯に反省し、その前提に立った総裁選を行わなければ、自民党の党勢は衰え、下野する危機に直面することになるでしょう。党としての信頼回復と政策の明確化が急務であり、これを怠れば、国民の支持を失いかねません。

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2024年8月16日金曜日

太陽電池の過剰生産で自滅しかねぬ習政権 大掛かりな奨励策でメーカー同士の競争が白熱化 日本は中国製輸入の大幅削減を―【私の論評】日本の太陽光発電における課題とリスク:制度の欠陥と国際的影響


まとめ
  • 災害時の太陽光パネルの破壊が、感電事故や環境破壊につながる懸念がある。
  • 中国が世界シェアの8割を占める太陽光発電の負の側面が政治家やメディアに無視されている。
  • 太陽光発電は環境改善効果がなく、不安定な電力供給や国民負担増加、人権問題などの問題がある。
  • 日本政府や政治家は中国製パネルの輸入見直しに消極的で、むしろ設置拡大を推進している。
  • 中国の過剰生産と安値輸出により、日本を含む西側世界は中国製パネルへの依存を強いられている。

自然災害による太陽光パネルの破壊

 台風シーズンや南海トラフ巨大地震のリスクが高まる中、太陽光パネルの破壊が感電事故や環境破壊を引き起こす懸念が強まっている。特に、中国が世界の太陽光発電パネルの80%を生産しており、日本が大量に輸入していることは問題である。

 さらに、太陽光発電が地球環境改善に寄与せず、不安定で質の悪い電気を生み出すことで国民に経済的負担を強いる可能性も高い。また、中国における新疆ウイグル自治区での強制労働による生産の問題も浮上しており、日本の政治家やメディアは太陽光発電の負の側面を無視している。

 さらに、中国国内では太陽電池の過剰生産が進んでおり、安価な輸出攻勢が強化されている。習近平政権は太陽電池を「新質生産力」と位置づけ、大規模な生産奨励策を展開している。特に地方では、不動産バブル崩壊後の景気対策として太陽光発電に注目が集まっている。

 しかし、この政策には問題点がある。太陽電池メーカー間の過当競争が激化し、農地が太陽光パネルで覆われることで食料生産能力が損なわれている。さらに、過剰生産が祟って習近平政権が自滅の道をたどる可能性もある。

 このような状況下で、日本の農地が太陽光発電所の建設に転用され、農業生産能力が損なわれる事態になっている。

 日本政府は、太陽光発電の弊害を適切に評価し、中国製パネルの輸入を大幅に削減すべきである。これにより、国民の安全や環境保護、さらには人権問題への配慮をすべきである。

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【私の論評】日本の太陽光発電における課題とリスク:制度の欠陥と国際的影響

まとめ
  • 日本の太陽光発電に関する問題点には、公金の不適切な利用や無秩序な導入があり、固定価格買取制度(FIT)が長期的な視点を欠いた導入を助長している。
  • 一部の地方自治体では、補助金を受け取りながら発電設備の導入が進んでいない疑惑があり、特に静岡県企業局や宮崎県串間市の事例が指摘されている。
  • 太陽光パネルの輸入依存度が高まり、特に中国製パネルへの依存が産業政策や安全保障の観点から懸念されている。
  • 習近平政権の「新質生産力」政策は過剰生産と過当競争を招き、第二の不動産バブルを引き起こす危険性がある。
  • 日本政府が中国製パネルの輸入を続けることは、習近平政権の無為無策を助長し、エネルギー安全保障や環境問題に悪影響を及ぼす可能性がある。
日本での太陽光パネル設置に関する問題点として、公金の不適切な利用や無秩序な導入があげられます。

太陽光発電投資における利益獲得の仕組み

固定価格買取制度(FIT)の導入により、太陽光発電事業が投資や利益目的の対象となり、長期的な視点や計画性を欠いた導入が進んだ面は否めません。FIT制度による国民負担の増加も問題視されており、再生可能エネルギー賦課金の上昇により電気料金への上乗せが増加しています。

具体的な事例として、静岡県企業局が運営する太陽光発電所で、実際の発電量を上回る売電収入を得ていた疑惑が報じられています。また、大手電機メーカーの子会社が、FIT制度を利用して不当に高額な売電収入を得ていた疑いで経済産業省から調査を受けたとの報道もあります。

さらに、一部の地方自治体では、太陽光発電事業の名目で国からの補助金を受け取りながら、実際には発電設備の導入が進んでいない可能性が指摘されています。例えば、宮崎県串間市では、市が出資する第三セクター「串間エネルギー」が、太陽光発電事業で財政難に陥ったとの報道がありました。

これらの問題に加え、太陽光パネルの輸入依存度の高さも課題となっています。国産パネルの比率が低下し、輸入品の割合が高まっているとされています。特に中国製パネルへの依存度が高いとされ、産業政策や安全保障の観点から懸念が示されています。

また、太陽光発電の大量導入に伴う電力系統の安定性の問題も指摘されています。天候に左右される発電量の変動が大きいため、既存の火力発電所の稼働率低下や、余剰電力の処理などの課題が生じる可能性があります。

これらの問題に対し、より組織的で計画的なエネルギー供給体制の構築が求められています。しかし、現状では短期的な利益追求や無秩序な導入が先行している面があり、長期的な視点に立った政策の見直しが必要です。

習近平政権は太陽電池やEV車を「新質生産力」として推進していますが、過剰生産と過当競争が深刻なリスクをもたらしています。特に、太陽電池の輸出価格は2023年6月に前年同期比で46%も下落しました。これにより、中国の太陽電池メーカー同士の競争が激化し、経済の健全性が損なわれています。

EV車についても、米国が中国製品に対する制裁関税を引き上げる方針を示しており、国際的な摩擦が増加しています。

中国製EV

さらに、「新質生産力」の推進は、第二の不動産バブルを招く危険性があります。政府の大規模な投資と奨励策により、特定の産業に資金が集中し、過剰な設備投資や投機的な動きを引き起こす可能性があります。これは、かつての不動産バブルと同様のパターンを繰り返すリスクがあります。

これらの問題が続けば、企業の経営悪化や失業の増加、国際市場での信用低下などが進行し、習近平政権の政治的安定性にも影響を及ぼす可能性があります。「新質生産力」政策が、持続可能な経済成長ではなく、新たな経済バブルを生み出す危険性に注意を払う必要があります。

日本政府が太陽光発電の弊害を適切に評価せず、中国製パネルの輸入を大幅に続ける場合、さまざまな問題が生じるでしょう。まず、習近平政権の過剰生産政策を助長することになります。中国の太陽電池産業は既に過剰生産と過当競争の状態にあり、日本の大量輸入はこの状況をさらに悪化させる恐れがあります。

また、この行動は人権問題への加担にもつながります。中国の新疆ウイグル自治区での強制労働の疑いがある中で、日本の大量輸入は習近平政権による人権弾圧を助けることになります。

さらに、中国製パネルへの依存度が高まることで、エネルギー安全保障上のリスクも高まります。特定の国からの輸入に過度に依存することは、地政学的リスクを増大させる可能性があります。

中国製パネルの輸入を続けることは、習近平政権の無為無策や無能を助長することに

加えて、環境問題や廃棄物問題を悪化させることになります。中国製パネルの品質や耐久性、廃棄時の環境負荷が適切に評価されていない場合、長期的な環境問題につながる恐れがあります。

これらの問題を考慮せずに中国製パネルの輸入を続けることは、習近平政権の無為無策や無能を助長するだけでなく、日本自身にもさまざまな悪影響をもたらすことになるでしょう。

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2024年8月15日木曜日

「特攻資料館に行きたい」卓球・早田ひなに称賛の声 終戦の日を迎え投稿増加 著名人も反応「有難う、早田さん」感謝の思い―【私の論評】早田ひな選手の発言と特攻隊の評価が示す日本の誇りと未来への指針

「特攻資料館に行きたい」卓球・早田ひなに称賛の声 終戦の日を迎え投稿増加 著名人も反応「有難う、早田さん」感謝の思い

まとめ
  • パリ五輪で銅メダルと銀メダルを獲得した早田ひな選手が、帰国会見で「知覧特攻平和会館」を訪れたいと発言し、SNSで称賛の声が多数寄せられた。
  • 早田選手は「生きていることや卓球をできることが当たり前ではない」と感じたいと述べ、著名人も彼女の姿勢を評価した。
  • 知覧特攻平和会館は特攻隊員の遺品を展示しており、他のオリンピック選手も訪問しており、注目が集まっている。
早田ひな選手

 パリ五輪で卓球女子シングルス銅メダルと団体銀メダルを獲得した早田ひな選手が、帰国会見で休養中に訪れたい場所として「知覧特攻平和会館」を挙げたことが大きな反響を呼んでいます。

 早田選手は「生きていることを、そして自分が卓球を当たり前にできていることが当たり前じゃないと感じたい」と述べ、この発言に対してSNSでは多くの称賛の声が寄せられました。著名人も反応し、作家の門田隆将氏は感謝の言葉を述べています。

 この発言をきっかけに、特攻隊員の遺品や関係資料を展示する知覧特攻平和会館が改めて注目を集めています。過去には、パリ五輪女子マラソンで6位入賞した鈴木優花選手も訪問しており、鈴木はXに「この時代に生きているということだけでありがとう、と思った」と投稿していた。

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【私の論評】早田ひな選手の発言と特攻隊の評価が示す日本の誇りと未来への指針

  • 早田ひな選手の発言は、特攻隊員の犠牲を思い起こし、日本の誇りと感謝の心を示しており、若い世代に日本の伝統的価値観を受け継ぐ姿勢を示しています。
  • 特攻隊の存在は、日本本土への侵攻の危険性を示し、米軍の戦略に影響を与えたとされ、チェスター・ニミッツ提督は特攻隊員の勇気を高く評価しました。
  • フランスの文化相アンドレ・マルローや日本の作家三島由紀夫は、特攻隊員の自己犠牲の精神を日本文化の象徴として高く評価しています。
  • 特攻隊への評価は、戦略的・文化的観点からのものであり、倫理的問題や若い命の犠牲を軽視するものではなく、多面的な視点から慎重に行われるべきです。
  • 早田選手の姿勢は、過去から学び、未来を築くための重要な指針を示し、我々が誇りを持って世界に示すべき日本の姿を体現しています。
出撃する約30分前に記念写真におさまった、知覧特攻基地の特攻隊員ら

早田ひな選手の知覧特攻平和会館に行きたいという発言は、我が国の誇るべき精神を体現した素晴らしいものです。この若きオリンピックメダリストが、自身の栄光の瞬間に特攻隊員の犠牲を思い起こしたことは、日本人としての誇りと感謝の心を示しています。

早田選手は、現代の平和な日本で卓球ができることが当たり前ではないと認識し、先人たちの尊い犠牲の上に今の日本があることを深く理解しているのです。

彼女の発言は、若い世代にも日本の伝統的価値観が脈々と受け継がれていることを示しています。国のために命を捧げた特攻隊員たちへの敬意と感謝の表れであり、真の愛国心の証です。特攻資料館を訪れたいという願望は、歴史から学ぶことの重要性を認識している証拠です。

過去の犠牲を忘れず、平和の尊さを実感しようとする早田選手の姿勢は、まさに日本人として模範的であり、若者の手本となるべきものです。

このような発言ができる選手が日の丸を背負って戦っていることは、我々日本人にとって大きな誇りです。早田選手の言葉は、日本の明るい未来を示唆するものであり、真の日本精神を体現しているのです。

内外から特攻隊への評価の声があがつています。これには、戦略的意義と精神性や文化的側面の両面があります。軍事的観点からは、特攻隊の存在が日本本土侵攻の危険性を示し、米軍の戦略に影響を与えたとされています。

アメリカの歴史家ジョン・トーランドは、特攻隊が米軍の日本本土侵攻計画に大きな影響を与えたと指摘しています。日本の軍事評論家志方俊之氏も、特攻作戦が米軍に与えた心理的影響の大きさを分析しています。

チェスター・ニミッツ太平洋艦隊司令長官

特に注目すべきは、チェスター・ニミッツ太平洋艦隊司令長官の評価です。ニミッツは「我々の歴史上、これほど勇敢で名誉ある敵と戦ったことはない」と述べ、特攻隊員の勇気を高く評価しました。

さらに、フィリピン戦での特攻による損害を見て、「神風特別攻撃隊という攻撃兵力はいまや連合軍の侵攻を粉砕し撃退するために、長い間考え抜いた方法を実際に発見したかのように見え始めた」と特攻が大きな脅威になったと認識しています。ニミッツは特攻の成功を日本軍に知らせまいと、特攻に関するニュースを全て検閲する指示を出すほど、その影響力を重視していました。

文化的側面では、フランスの文化相を務めたアンドレ・マルローが特攻隊員に深い敬意と評価を示しています。マルローは「日本は太平洋戦争に敗れはしたが、そのかわり何ものにもかえ難いものを得た。それは世界のどんな国でも真似できない神風特別攻撃隊である。彼らには権勢欲とか名誉欲などはかけらもなかった」と述べ、特攻隊員を「最も高貴な自己犠牲を実践した者」として絶賛しています。

アンドレ・マルロー

日本の作家三島由紀夫も、特攻隊を日本の伝統的な武士道精神の現代における表れとして高く評価しました。三島は特攻隊員の自己犠牲の精神を日本文化の本質的な価値観の表現として捉え、その行動を日本の伝統的精神性の現代における具現化として解釈しています。三島にとって、特攻隊員の行動は単なる軍事行動を超えた、日本の文化的・精神的価値の象徴でした。

しかし、これらの評価は主に戦略的・文化的観点からのものであり、特攻作戦の倫理的問題や若い命が失われた悲劇性を軽視するものではありません。特攻隊への評価は、軍事的効果、倫理的問題、歴史的意義など、多面的な視点から慎重に行われるべきものです。

早田ひな選手の発言や特攻隊への評価は、我々が過去から学び、未来を築くための重要な指針を示しています。特攻隊員たちの自己犠牲の精神は、単なる過去の遺産ではなく、現代においても我々が大切にすべき価値観を教えてくれます。

彼らの勇気と献身は、困難に立ち向かう力を与えてくれるものであり、我々が直面するあらゆる試練に対する不屈の精神を育むものです。今こそ、彼らの犠牲を無駄にしないためにも、我々一人ひとりがその精神を受け継ぎ、平和で豊かな日本を次の世代に引き継ぐ責任を果たすべきです。

早田選手のように、歴史を尊重し、未来を見据える姿勢を持つことが、真の愛国心の表れであり、我々が誇りを持って世界に示すべき日本の姿なのです。この精神を胸に、我々は更なる高みを目指し、国際社会においても凛とした存在感を示していくべきでしょう。

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2024年8月14日水曜日

ウクライナはクルスク電撃侵攻をどのように成功させたのか 現代戦の最前線―【私の論評】電撃戦の戦術と現代の海洋防衛戦略:島国侵攻におけるASW能力の重要性

ウクライナはクルスク電撃侵攻をどのように成功させたのか 現代戦の最前線

まとめ
  • ウクライナ軍は2024年8月6日にロシア西部クルスク州に電撃的な侵攻を開始し、短期間で広範囲を制圧した。
  • この成功は、ウクライナ軍が新たに開発した電子戦とドローン技術を駆使した戦術によるものである。
  • ウクライナ軍はまずロシアの偵察ドローンを撃墜し、通信を妨害することでロシア側の監視網を無力化した。
  • 大量のFPVドローンを使用して、掩蔽施設や塹壕を爆撃し、敵兵力を排除した後、迅速に地上部隊が進軍した。
  • ロシア側の防衛が不十分だったことや、ウクライナ軍のジャミング技術が効果的だったことが、作戦成功の要因となった。

ウクライナ軍は2024年8月6日、ロシア西部クルスク州に対して電撃的な侵攻を開始した。この攻撃は、ロシア側に予想外の展開をもたらし、ウクライナ軍は短期間のうちに広範囲の地域を制圧することに成功した。この急速な進展は、ウクライナ軍が新たに開発した革新的な戦術によるものだと考えられている。

ウクライナ軍の新戦術は、電子戦とドローン技術を巧みに組み合わせたものだった。まず、ウクライナ軍はロシア側の偵察ドローンを撃墜し、敵の監視網を遮断した。次に、短距離ジャマー(通信妨害装置)を前線に配置して、ロシア側の通信を効果的に妨害した。これにより、ロシア側のドローンが無力化され、ウクライナ軍の機甲部隊が安全に進軍できる環境が整った。

さらに、ウクライナ軍は大量のFPVドローンを駆使した独自の戦術を展開した。これらのドローンを使用して、ロシア側の掩蔽施設や塹壕を爆撃し、開口部を作成した。その後、熟練したドローン操縦士がFPVドローンを使って塹壕内部を掃討し、敵兵力を排除した。加えて、新型の急降下爆撃ドローンも投入され、地上部隊への効果的な支援を行った。

この作戦が成功した背景には、いくつかの要因があった。まず、ロシア側がこの地域に最新の防衛機材を配備していなかったことが挙げられる。また、ウクライナ軍のジャミング技術がロシア側のドローン対策を上回っていたことも大きな要因だった。さらに、ウクライナ軍の「レンジャー」部隊が素早く移動し、制圧した地域を迅速に確保したことも、作戦の成功に貢献した。

この侵攻作戦は、現代の戦争におけるドローン技術と電子戦の重要性を如実に示す新たな事例となった。ウクライナ軍の革新的な戦術は、従来の戦争の概念を覆し、技術と戦略の融合が戦場でいかに大きな影響を与えうるかを明らかにした。今後の軍事戦略や戦術の発展に大きな影響を与える可能性があり、世界中の軍事専門家たちの注目を集めている。

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【私の論評】電撃戦の戦術と現代の海洋防衛戦略:島国侵攻におけるASW能力の重要性

まとめ
  • 電撃戦は機動力と集中攻撃を重視し、敵の防御を迅速に突破することを目的とする戦術である。
  • 現代の電撃戦ではドローン技術が重要な役割を果たし、情報収集と精密攻撃能力を向上させている。
  • ウクライナの成功によってドローンの脅威が高まり、日本も脆弱になると考えるのは杞憂である。海洋に囲まれた島国への侵攻には、優れたASW(対潜水艦戦)能力、特に潜水艦探知能力が不可欠である。
  • 島国の防衛には、敵の発見・位置特定能力と自国の艦艇・施設を守る能力の両方が重要である。
  • 地理的特性の違いにより、今回ウクライナの戦術を日本や台湾などの島国にそのまま適用することは困難である。
電撃戦(ブリッツクリーク)は、第二次世界大戦中にドイツ軍が用いた戦術で、迅速かつ圧倒的な攻撃力をもって敵を混乱させ、短期間で戦闘を決着させることを目的としていました。この戦術の基本的な要素として、まず機動力の重視があります。

電撃戦に用いられたドイツ軍の急降下爆撃機『スツーカ』

電撃戦では、機甲部隊である戦車と航空部隊の急降下爆撃機を組み合わせ、敵の防御線に突破口を開きます。これにより、迅速に敵の後方に進出し、指揮系統や補給線を破壊することが可能になります。

また、電撃戦では集中攻撃が重要です。敵戦線の弱点に戦力を集中させ、砲兵や航空機の強力な援護を受けながら、戦車部隊が迅速に戦線を突破します。その後、後続の機械化歩兵が進出し、制圧地域を確保します。

このようにして、スピードとサプライズを活かして敵に心理的ショックを与え、敵の組織的な防御を麻痺させることが狙いです。物理的に敵を圧倒するのではなく、敵の防御能力を無力化することが重要なポイントです。

さらに、電撃戦の成功には補給と兵站の管理が欠かせません。迅速な進撃を特徴とする電撃戦ですが、補給線が滞ると進撃が停止するリスクがあるため、補給と兵站の管理が非常に重要です。これが不十分だと、逆に大規模な敗北を招く可能性があります。

電撃戦は、特にフランス侵攻やポーランド侵攻で成功を収めましたが、補給の問題や敵の抵抗により、後の戦線では困難に直面しました。この戦術はその後、他国でも研究され、現代の戦術の基礎となっています。

現代の電撃戦では、ドローン技術が新たな要素として加わっています。ドローンは情報収集や精密攻撃に利用され、従来の戦術を大きく変えています。敵の偵察ドローンや攻撃ドローンを無力化するためには、ドローンを用いた航空戦力が必要です。

これにより、地上攻撃の成否が左右される可能性があります。ドローン技術を駆使した現代の電撃戦は、迅速な情報収集と精密な攻撃を可能にし、敵の防御を突破する新たな戦術として注目されています。

爆弾を投下するドローン

今回のウクライナの成功により、ドローン攻撃により、日本や台湾も脆弱になるのではと心配するむきもあるかもしれませんが、それは杞憂です。ウクライナの成功した戦術が日本や台湾にそのまま適用することは難しいです。

それは、地理的な条件が大きく異なるためです。ウクライナとロシアの国境は陸続きであり、地上部隊が比較的容易に侵攻できる環境にあります。これに対して、日本は四方を海に囲まれた島国であり、陸続きの国境がありません。このため、地上部隊による直接の侵攻は物理的に不可能です。

さらに、日本や台湾は海洋国家として、海上自衛力や空中防衛力を重視しています。海が自然の防壁となっているため、敵が日本に侵攻するには海を越える必要がありますが、これは非常に大きな制約となります。海を越えての侵攻は、海上輸送や空中支援が必要であり、これらの手段を日本の防衛力が阻止できる可能性が高いです。

また、ドローン攻撃に関しても、日本は海洋を挟んでいるため、ウクライナのように地上から直接ドローンを展開することは困難です。ドローンを用いた攻撃が行われる場合でも、海上や空中での迎撃が可能であり、ウクライナの戦術がそのまま適用されることは考えにくいです。

このように、日本の地理的特性と防衛体制は、ウクライナの戦術が直接的に適用されることを防いでいます。したがって、ウクライナの成功をそのまま日本に当てはめて心配する必要はありません。

日本や台湾、英国のような海洋に囲まれた島国への侵攻は、陸続きの国への侵攻とは大きく異なります。これらの島国を侵攻するには、侵攻側が優れたASW(対潜水艦戦)能力を持つことが不可欠です。

特に重要なのが潜水艦を探知する能力です。潜水艦は海中に潜んでいるため、その存在を見つけるのが非常に難しいのです。高性能のソナーシステムや対潜水艦用の航空機、艦艇を使って、敵の潜水艦を探知し追跡する能力が必要です。

どんなに優れた武器システムを持っていても、敵を発見できなければ無用の長物になります。最新鋭の潜水艦や高性能のドローン、さらにはレールガンやレーザー兵器を持っていても、敵の位置を特定できなければ攻撃ができません。

守る側の島国は、自国の周辺海域に潜水艦を配備し、侵攻してくる敵の輸送船団を攻撃します。これは、第二次世界大戦中にドイツのUボートが連合国の輸送船団を攻撃したのと同じ戦術です。一隻の潜水艦でも、多くの輸送船を沈めることができ、侵攻作戦全体を頓挫させる可能性があります。

日本の3,000トン型潜水艦「たいげい」

近年の技術発展により、水上艦艇の脆弱性が増しています。ウクライナが開発した水上ドローンや既存のドローン技術の進歩により、かつては強力な空母や巨大強襲揚陸艦でさえ、大きな標的となっています。これらの大型艦艇は、以前はミサイルなどの脅威にさらされていましたが、今では小型で安価なドローンによっても攻撃される可能性が高まっています。

このような状況では、守る側は敵を発見し、正確に位置を特定する能力がますます重要になります。同時に、自軍の艦艇や施設を敵のドローンやミサイルから守る能力も不可欠です。現代の海洋戦では、敵を発見する能力と自軍を守る能力の両方が求められています。

したがって、海洋に囲まれた島国への侵攻作戦では、攻撃する側は特にASW能力、特に潜水艦探知能力において圧倒的な優位性を持つことが必要です。日米はともにASWにおいては現在では、世界最高の水準にあり中露を圧倒しています。

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2024年8月13日火曜日

米国、イランによるイスラエル攻撃の可能性一段と高まったと認識―【私の論評】イランの攻撃準備が引き起こす第5次中東戦争の脅威:日本経済と日銀政策の岐路

米国、イランによるイスラエル攻撃の可能性一段と高まったと認識

まとめ
  • 米と同盟国は攻撃の可能性に備える必要-米NSCのカービー氏
  • 同盟国は全面戦争回避に努める、米は中東への軍展開を強化
米カービー戦略広報調整官

イランによるイスラエル攻撃の可能性が高まっており、米国を中心とした国際社会が緊張を強めている。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は12日、イランやその支援を受ける組織が早ければ今週中にも報復攻撃を行う可能性があると警告した。この懸念は、先月イランの首都テヘランでハマスの前最高幹部ハニーヤ氏が殺害されたことに端を発している。
米国は事態の深刻さを認識し、オースティン国防長官が中東地域に追加の空母打撃群の派遣を指示するなど、軍事態勢の強化を進めている。同時に、バイデン大統領はイギリス、フランス、ドイツ、イタリアの首脳と電話会談を行い、共同声明を発表してイランに自制を求めた。

一方で、イスラエルのガラント国防相は米国防長官との電話会談で、イランが大規模な攻撃を準備している兆候があると伝えている。イスラエルの情報機関は、イランが数日以内に直接攻撃を実行する可能性があると分析しているとされている。

この緊張状態は、今月15日に予定されているガザ地区での停戦交渉にも影響を与える可能性がある。国際社会は、全面的な戦争への発展を懸念しており、外交努力と軍事的抑止の両面から事態の沈静化を図ろうとしている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】イランの攻撃準備が引き起こす第5次中東戦争の脅威:日本経済と日銀政策の岐路

まとめ
  •  イランがイスラエルに対する大規模な攻撃を準備している兆候があり、複数の組織による同時多発的な攻撃の可能性がある。
  • 現在、第5次中東戦争の可能性が高まっている。イスラエルによるハマス指導者の殺害が背景にある。
  • 中東戦争が勃発した場合、日本のエネルギー安全保障が脅かされ、原油価格の高騰や経済への打撃、金融市場への影響が懸念される。
  • 円高が進行する可能性が高く、世界的な危機時には「質への逃避」が観察される。これにより、日本経済や金融市場に大きな影響が及ぶ可能性がある。
  • 日銀の金融政策: 日銀は2024年に利上げを実施したが、戦争が勃発した場合、これらの措置を見直し、再び金融緩和策に転じるべきである。
イランによるイスラエル攻撃の可能性

イランによるイスラエル攻撃の可能性が高まっています。イスラエルのガラント国防相は、米国防長官との会談で、イランが大規模な攻撃を準備している兆候があると伝えました。イスラエルの情報機関は、イランが数日以内に直接攻撃を実行する可能性があると分析しており、この見方は米国の警告とも一致しています。

カービー大統領補佐官は、イランだけでなく「イランの支援を受ける組織」も攻撃に関与する可能性があると述べており、これはレバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など、イランの影響下にある武装組織を指すと考えられます。米当局者は「一連の重大な攻撃」に備える必要があると強調しており、複数の組織による同時多発的な攻撃の可能性も示唆しています。このような状況は、イスラエルとイランの直接対決にとどまらず、中東地域全体の安定に影響を与える可能性があります。

第5次中東戦争の可能性と歴史的背景

現在、第5次中東戦争の可能性が高まっています。過去の中東戦争を振り返ると、第一次中東戦争(1948-1949年)はイスラエル建国直後にアラブ諸国がイスラエルを攻撃したことで始まりました。第二次中東戦争(1956年)はエジプトによるスエズ運河国有化を契機に勃発し、第三次中東戦争(1967年)は六日間戦争とも呼ばれ、イスラエルが周辺アラブ諸国を急襲して勝利しました。第四次中東戦争(1973年)はヨム・キプール戦争として知られ、エジプトとシリアがイスラエルを奇襲攻撃しましたが、最終的にイスラエルが勝利しています。

イスマイル・ハニャ氏

今回の危機の背景には、イスラエルによるハマス政治指導者イスマイル・ハニヤ氏の殺害があります。イランはこれをイスラエルの「重大な失敗」とし、報復を公言しています。これらの状況は、国際社会にとっても深刻な懸念材料であり、さらなる緊張を引き起こす要因となっています。

日本への影響と対応

第五次中東戦争が勃発した場合、日本はさまざまな重大な影響を受ける可能性があります。中東は世界有数の石油産出地域であり、戦争によって原油の供給が不安定になる恐れがあります。

これにより、日本のエネルギー安全保障が脅かされ、原油価格の高騰が懸念されます。原油価格の上昇は、日本の製造業やサービス業に打撃を与え、物価上昇や景気後退のリスクが高まります。過去の中東戦争時に起きた石油ショックのような事態が再現される可能性があります。

このような状況下では、日本のエネルギー政策の見直しが求められ、再生可能エネルギーへの転換や原子力発電の再評価が必要になるかもしれません。地政学的リスクの高まりにより、金融市場にも影響が及ぶでしょう。株式市場が大きく下落する可能性があり、円高ドル安の進行や、安全資産とされる円や金への逃避が予想されます。

この現象は「質への逃避」と呼ばれ、経済不安や市場の混乱時に投資家がリスクの低い、安全性の高い資産を求める行動を指します。具体的には、株式や高リスクの債券から、国債や金、そして日本円のような安全とされる通貨へと資金が流れる傾向があります。

新一万円札

さらに、中東地域との貿易が滞る可能性があり、特にエネルギー関連の輸入に支障が出る恐れがあります。スエズ運河などの重要な海上交通路が影響を受けることも考えられます。外交的な観点からも影響が出るでしょう。日本は中東諸国との関係を重視しており、戦争の勃発によって外交的な立場が難しくなる可能性があります。

また、国際社会での平和維持活動への参加要請が高まることが予想されます。日本政府は、国連安全保障理事会での議論に積極的に参加したり、中東地域の安定化に向けた外交努力を強化うべきです。

日本の中東における権益や在留邦人の安全確保も課題となります。難民問題など、間接的な影響も考慮しなければなりません。これらの影響を最小限に抑えるために、日本政府は状況を注視し、エネルギー安全保障の強化や経済対策の準備、外交努力の継続など、多面的な対応を迫られるでしょう。また、企業や投資家も、リスク管理や投資戦略の見直しが必要になります。

日銀の金融政策対応

日本銀行は2024年3月に0.1%のプラス金利を導入し、7月には0.25%に引き上げました。しかし、第五次中東戦争が勃発した場合、これらの利上げ措置を取り消し、再び大規模な金融緩和策に転じる必要性が出てくる可能性があります。

具体的には、政策金利の再引き下げや国債買い入れの増額、株式ETFの買い入れ再開などが検討されるでしょう。これらの措置は、急激な円高による輸出企業への打撃を緩和し、経済の下支えを図るためです。急激な円高は日本の輸出企業の競争力を低下させ、経済成長を鈍化させる可能性があります。また、デフレ圧力を強め、日銀の物価目標達成を困難にする恐れもあります。

為替市場と「質への逃避」

世界的な危機時には「有事の円買い」や「質への逃避」と呼ばれる現象が観察されます。過去の事例(2008年の世界金融危機、2011年の東日本大震災後など)では、円が急激に買われ、大幅な円高が進行しました。円は長年にわたり、安定した経済と政治システム、そして大規模な対外純資産を持つ日本の通貨として、安全資産の地位を維持してきました。


このような円高の背景と世界的危機時の円買い現象は、為替市場の動向を理解し予測する上で重要な要素となります。第五次中東戦争が勃発した場合、これらの要因が複合的に作用し、日本経済や金融市場に大きな影響を与える可能性があります。

結論

第五次中東戦争のような危機的状況下では、日本の金融政策は複雑な課題に直面します。政府や日銀は、国内経済の安定と国際金融市場の動向のバランスを取りながら、適切な政策対応を行う必要があります。エネルギー安全保障、為替市場の安定、経済成長の維持など、多面的な課題に対して迅速かつ柔軟な対応が求められるでしょう。これにより、日本は国際的な不安定要因に対処し、持続可能な経済成長を確保することが可能となります。

結局は、第五次中東戦争が起こらないことにこしたことはないですし、そうなる可能性もかなりあります。それでもその不安が、円買を加速可能性は十分にあり得ることです。これに日本は、備えるべきでしょう。さらに、南海トラフ地震のような大きな地震がっても、円買いが進む可能性があります。以上のような不安要素が複数あるときに、わざわざ利上げをして、それを維持する必要性など全くありません。

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2024年8月12日月曜日

「令和のミスター円」神田前財務官が出した「日本経済の処方箋」は破綻している…マスコミも学者もダマされた「財務省のいつものやり方」―【私の論評】日本経済の停滞を招く公共投資の低下とマクロ経済政策の誤り

「令和のミスター円」神田前財務官が出した「日本経済の処方箋」は破綻している…マスコミも学者もダマされた「財務省のいつものやり方」

まとめ
  • 神田真人前財務官が主催した懇談会は、財務省の見解をそのまま反映した報告書を作成し、労働市場の流動性を日本経済停滞の主因としていますが、議論の深さや間口の広さに問題がある。
  • 報告書は、バブル崩壊後の日本経済の停滞を労働市場の流動性の低下に原因を求めているが、実際には金融政策の失敗や公共投資の不足が主要な要因である。
  • 日本の公共投資は他のG7諸国と比較して著しく低下しており、これは経済成長を阻害する要因となっている。報告書はこの事実を無視し、労働市場の流動性を改善することで問題を解決しようとしており全く実効性に欠ける。
  • 財務省の報告書は、財政健全化を理由に公共投資を抑制する論理を展開しているが、これは事実に基づかないものであり、経済成長を阻害する誤った政策である。
  • 経済政策は、総需要の刺激、金融政策の適切な運用、財政政策の積極的な活用を通じて包括的に設計されるべきであり、懇談会の議論はこれを欠いているため、実効性に欠ける。

神田前財務官

神田真人前財務官が主催した「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」という懇談会は、国際収支の観点から日本経済の課題を洗い出し、その解決策を議論するために開催された。懇談会には、学者やエコノミストなど20人が参加し、非公開で議論が行われた。

懇談会の報告書では、日本経済の停滞の原因として「労働市場の流動性の低さ」が挙げられている。報告書は、既存の雇用や企業を守ることに重点を置いた支援策が長期間実施されてきたため、資本や労働が生産性の低い分野に固定され、賃金上昇や設備投資が停滞したと指摘している。

しかし、この見解は明らかな間違いである。日本の労働市場の流動性はもともと低く、バブル崩壊前後で経済成長率が変化したのは、労働市場の流動性ではなく他の要因が影響している。具体的には、バブル崩壊後の緊縮的な金融政策がマネー伸び率を低下させ、名目経済成長率を阻害したことが大きな要因である。

さらに、日本が他のG7諸国と比較して公共投資を怠ってきたことが経済停滞の一因である。G7諸国では公共投資と名目GDPに高い相関(0.9)が見られる一方で、日本だけがこの相関が見られない>

財務省の報告書は、こうしたマクロ経済の基本的な事実を無視し、労働市場の流動性を高めて海外からの投資を呼び込むことを提案している。しかし、現実には過小投資が問題なのであり、まずは国内投資の活発化を図るべきである。政府投資の不足が経済停滞の原因であるにもかかわらず、報告書はこれを認識していない]。

また、報告書は「財政健全化」を理由に公共投資を抑制する論理を展開しているが、これは事実に基づいていない。金利が上昇しても、資産サイドの金融資産運用利回りも上昇するため、財政状況は悪化しない。財務省の報告書のロジックが破綻しており、報告書に関与した学者やマスコミはこの点を反省すべきだ。

【私の論評】日本経済の停滞を招く公共投資の低下とマクロ経済政策の誤り

まとめ
  • 懇談会の議論は、労働市場の流動性に過度に焦点を当て、マクロ経済学の基本原則を無視しており、総需要の不足や金融政策の不適切さといった重要な要因を見逃しています。
  • 日本の長期的なデフレは、金融政策の不十分さに起因する部分が大きく、懇談会は金融政策の重要性を軽視しているため、経済成長を妨げる要因を正しく認識していません。
  • 財政政策において、公共投資の削減は経済成長を阻害する誤った政策であり、特にインフラ投資や教育への投資が長期的な経済成長の基盤を強化する重要な手段です。
  • 日本の公共投資の対GDP比は過去数十年で著しく低下しており、特に地方圏の公共投資が減少して地域経済の発展を阻害しています。
  • 日本は自然災害が多い国であり、公共投資の削減は国土の安全性に悪影響を及ぼす可能性があるため、公共インフラの整備や維持は非常に重要です。
懇談会での議論は、マクロ経済学の基本的な原則を無視した議論は、経済政策の効果を誤解し、実効性のある解決策を提示していません。

マクロ経済学の基本原則の一つは、総需要と総供給の均衡を保つことです。経済が不況に陥るとき、総需要が不足していることが一般的な原因とされます。したがって、政府は財政政策や金融政策を通じて総需要を刺激する必要があります。


金融政策は、金利を調整することで経済活動を刺激または抑制する手段です。低金利政策は、消費や投資を促進し、経済成長を支える重要なツールです。バブル崩壊後の日本では、金融政策が十分に活用されなかったことがデフレを長引かせました。

財政政策は、政府支出を通じて経済を直接的に刺激する手段です。特に不況時には、公共投資を増やすことで失業率を低下させ、経済活動を活発化させることが求められます。財政赤字を恐れて公共投資を抑制することは、経済の停滞を長引かせるリスクがあります。

懇談会での議論は、労働市場の流動性に過度に焦点を当てており、マクロ経済学の基本原則を無視している点で批判されるべきです。労働市場の流動性は重要な要素ですが、それだけに依存することは問題です。経済停滞の原因を労働市場に限定することは、総需要の不足や金融政策の不適切さといった他の重要な要因を見逃すことになります。

日本の長期的なデフレは、金融政策の不十分さに起因する部分が大きいです。懇談会での議論が金融政策の重要性を軽視しており、経済成長を妨げる要因を正しく認識していません。財政赤字を理由に公共投資を抑制することは、経済成長を阻害する誤った政策です。マクロ経済学の観点からは、政府支出を増やすことで経済を活性化させることが求められます。特にインフラ投資や教育への投資は、長期的な経済成長の基盤を強化する重要な手段です。


日本の公共投資は、1990年代には景気対策の中心的役割を担っていましたが、その後の経済政策の変化に伴い、公共投資の対GDP比は低下してきました。具体的には、かつて日本の公共投資の対GDP比は約6%であったのに対し、現在では欧米諸国と同様の約2%にまで減少しています。この低下は、日本の経済成長を阻害する要因となっており、公共投資の重要性を再評価する必要があります。

さらに、日本の公共投資は地域間での偏りも指摘されています。特に、地方圏における公共投資が減少しており、これが地域経済の発展を阻害する要因となっています。この偏りは、公共投資が大都市圏に集中し、地方圏への投資が減少していることを示しています。公共投資の需要創出効果や経済活動の安定化機能が十分に発揮されていないとの指摘もあり、特に地方圏における産業基盤投資の効率性が低下していることが、公共投資の見直しを求める声につながっています。

また、日本は自然災害が多い国であり、欧米諸国と同水準の公共投資では、国土が荒廃する可能性が高いです。地震や台風などの自然災害に対する備えとして、公共インフラの整備や維持は非常に重要です。公共投資の削減は、災害対策の遅れや国土の荒廃を招く恐れがあり、長期的な国土の安全性や経済の安定性に悪影響を及ぼす可能性があります。

このように、日本の公共投資の低下は、経済成長を阻害するだけでなく、国土の安全性にも影響を及ぼす可能性があるため、その重要性を軽視することは、経済政策の方向性を誤る結果を招く可能性があります。懇談会がこの事実を無視していることは、政策提言の実効性を著しく損なっていると言えます。公共投資は、経済の基盤を強化し、長期的な成長を支える重要な要素であり、その役割を再評価することが求められています。


また、マネー伸び率と名目経済成長率の高い相関(相関係数0.9程度)が示すように、金融政策の適切な運用が経済成長に寄与することが明らかです。日本の経済停滞は、金融政策が十分に活用されなかったことに起因する部分が大きいと考えられます。

これらのエビデンスを踏まえると、懇談会での議論は、マクロ経済学の基本的な原則を無視しており、実効性のある政策提言を行うには不十分であると言えます。経済政策は、総需要の刺激、金融政策の適切な運用、財政政策の積極的な活用を通じて、包括的に設計されるべきです。

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2024年8月11日日曜日

スウェーデン「ロシア支持のくせに我々の援助を受け取るな」→マリが大使を国外退去――他の先進国は続くか―【私の論評】ウクライナ侵攻がもたらす国際関係の変化とスウェーデン外交の影響

スウェーデン「ロシア支持のくせに我々の援助を受け取るな」→マリが大使を国外退去――他の先進国は続くか

まとめ
  • マリの軍事政権は、スウェーデンの閣僚がロシア接近を批判したことに反発し、スウェーデン大使を国外退去させると発表した
  • マリは、ロシアが侵攻を続けるウクライナとの外交関係を断絶した
  • スウェーデンのフォシェル国際開発協力・貿易相は、ウクライナ侵攻を支持する国がスウェーデンからの援助を受けることはできないと発言した
  • マリやニジェール、ブルキナファソの軍政は、欧米からの距離を強め、米国やフランスの部隊を撤収に追い込んでいる
  • 他の先進国がスウェーデンに同調する可能性は低いとされており、援助停止が逆効果を招くリスクがあるため、慎重な対応が求められている。

マリ共和国(緑色の部分)

 スウェーデンの大臣が、マリがウクライナ侵攻に対して先進国と同調しないことを理由に援助停止を示唆したことが外交的な緊張を引き起こした。これを受けて、マリはスウェーデン大使の国外退去を命じたが、他の先進国がスウェーデンを支持する兆候は見られない。この状況にはいくつかの背景と理由がある。

 まず、スウェーデンの国際開発協力担当大臣ヨハン・フォルセルがロシアによるウクライナ侵攻を支持する国に対して援助を停止するべきだと発言したことが、マリの反発を招いた。マリはスウェーデン大使に72時間以内の退去を命じ、この外交的措置は断交に次ぐ強い意味を持ち、両国間の緊張を一層高める結果となった。

 他の先進国がスウェーデンを支持しない理由として、まず援助停止の効果とリスクが挙げられる。援助停止は現代の国際関係において効果が薄く、むしろ逆効果を招く可能性がある。援助を停止することでロシアや中国の影響力が増すリスクがあり、先進国としては慎重な対応が求められる。冷戦時代とは異なり、現在の国際社会では援助を受ける国が複数の選択肢を持つことが一般的であり、援助国が一方的に条件を押し付けることは難しくなっている。

 次に、ウクライナによるマリ反体制派支援の疑惑が問題視されている。マリは、ウクライナが同国北部の分離主義者や過激派に軍事支援を行っていると非難し、ウクライナとの外交関係を断絶した。この疑惑はウクライナ政府が否定しているものの、他の先進国がこの問題について沈黙していることからも、疑惑の深刻さがうかがえる。このため、ウクライナの行動を理由にマリを非難することは、他の先進国にとってリスクが高いと考えられている。

 さらに、スウェーデンの国内政治的背景も影響しています。スウェーデンでは極右系の政党が影響力を持ち、反イスラーム的な姿勢を強調することが国内政治的に支持を集める手段となっている。スウェーデン政府は、マリとの関係悪化を利用してイスラーム嫌悪に傾いた支持者へのアピールを図っている。しかし、このような国内政治的動機に基づく外交政策は、他の先進国にとっては受け入れがたく、スウェーデンに追随することは避けられている。

 結論として、スウェーデンとマリの関係悪化はウクライナ侵攻をめぐる国際的な対立の一環として発生したが、他の先進国はスウェーデンの方針に追随することに慎重だ。援助停止がもたらす国際的な影響や、ウクライナとマリ間の複雑な関係、さらにはスウェーデンの国内政治的背景が絡み合い、他の先進国がスウェーデンを支持することは難しい状況となっている。

国際政治学者
博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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【私の論評】ウクライナ侵攻がもたらす国際関係の変化とスウェーデン外交の影響

まとめ
  • ウクライナ侵攻は西側諸国の外交政策に影響を与え、アフリカ諸国は西側の対応をダブルスタンダードとして批判している。
  • 戦争経済の時代には、国益に基づく行動が重視され、経済的合理性よりも軍事的同盟や安全保障が優先される。
  • スウェーデンのような国が特定の外交政策を取ると、他の先進国が同調する可能性があるが、現在は様子見の状況にある。
  • マリの行動がロシア主導の経済活動を強化し、アフリカ諸国のロシアとの関係が深まる可能性がある。
  • 西側諸国は、スウェーデンに同調するというよりも、さらに厳しい措置を取る可能性がある。
昨日のブログ記事では、「ウクライナの侵攻は西側諸国の外交政策にも影響を与えています。アフリカ諸国は、西側諸国の対応をダブルスタンダードとして批判しており、ウクライナ避難民への手厚い支援が報道されるたびに、西側諸国からの距離が広がっているように見えます」と指摘しました。上の記事でのマリのスウェーデン大使の国外追放は、この内容を端的に示しているといえると思います。

戦争経済の観点から、グローバリズムの時代と比較して他の先進国がスウェーデンに同調する可能性について考察すると、いくつかの重要な要素が浮かび上がります。

グローバリズムの時代には、各国は経済合理性に基づいて、世界中で最もコストが低くなるように経済活動を行っていました。このため、各国は相互依存を深め、国際的な協力を促進することが一般的でした。しかし、戦争経済の時代には、必ずしも経済合理性が優先されるわけではなく、国益に基づく行動が重視されるようになります。

戦争経済が深化することで、国家間の経済的な競争が激化し、特に軍事的な側面が強調されるようになります。このため、各国は自国の安全保障を優先し、経済的利益よりも軍事的な同盟や協力を重視するようになる可能性があります。これにより、スウェーデンのような国が特定の外交政策を取った場合、他の先進国がそれに同調する可能性が高まるかもしれません。

さらに、戦争経済の進行に伴い、国際的な経済協力が減少し、国家主義的な政策が台頭することが考えられます。このような環境では、各国が自国の利益を最優先に考え、他国との協力を控える傾向が強まるかもしれません。しかし、共通の脅威に対抗するために、特定の国々が協力を強化する動きも見られる可能性があります。


『戦争と交渉の経済学: 人はなぜ戦うのか』の著者でもある、クリストファー・ブラットマンの視点を加えると、戦争経済の中での国際関係の変化についてさらに理解が深まります。ブラットマンは、戦争が単なる経済的合理性だけでなく、誤認識や感情的な要因によっても引き起こされることが多いとしています。

彼の分析は、国家間の対立が必ずしも合理的な経済的利益に基づくものではなく、より複雑な要因が絡み合っていることを示しています。誤認識や楽観バイアスが戦争の引き金となることがあり、このような心理的要因が国家の意思決定に影響を与えることがあります。

戦争経済では、国家が自国の安全保障を優先し、経済的利益よりも軍事的な同盟や協力を重視するため、国益に基づく行動が重視されます。ブラットマンの理論は、これらの要因がどのように国家間の協力や対立に影響を与えるかを理解するための枠組みを提供しています。

彼はまた、戦争を避けるための平和的な手段についても考察しており、取引や交渉が戦争を防ぐための重要な要素であることを示唆しています。これが戦争経済における国家間の関係にどのように影響するかを理解する鍵となります。このように、戦争経済の中での国際関係の変化を考える際には、ブラットマンの理論が重要な視点を提供していると言えます。

スウェーデンにおいては、移民の増加が社会に大きな影響を与えています。2015年から中東難民を大量に受け入れた結果、スウェーデンでは犯罪率が急増し、社会的な混乱が生じています。現地法務部によると、外国移民家庭の子供たちの犯罪率は、スウェーデンの親から生まれた子供たちよりも3.1倍高いと報告されています。さらに、暴力組織と警察の癒着が指摘されるなど、治安の悪化が深刻化しています。これにより、スウェーデンはかつての平和な国から、犯罪率が欧州で2番目に高い国へと変貌しました。

トルコは移民難民の通過点となる率が高かく、それを考慮するとスウエーデンが受け入れ率が最も高かった

結論として、戦争経済が深化する中で、他の先進国がスウェーデンに同調する可能性は、グローバリズムの時代よりも高まる可能性があります。これは、国家間の経済的な結びつきが弱まる一方で、軍事的な同盟や安全保障上の協力が重視されるようになるためです。国益に基づく戦略的判断が優先される状況では、スウェーデンの政策に同調することが戦略的に有利と判断される場合も考えられます。

スウェーデンは、移民政策や治安対策において多くの課題に直面しています。過去に多数の難民を受け入れた結果、社会的な混乱や犯罪率の上昇が問題視されています。これに対して、他の国々がスウェーデンの経験を参考にし、移民政策を見直す動きが見られます。例えば、デンマークやノルウェーなどの北欧諸国は、スウェーデンの移民政策を教訓に、より厳格な移民政策を採用する方向にシフトしていることが示唆されています。

マリの行動を許しておくと、アフリカ諸国におけるロシア主導の経済活動が強化される可能性があります。現在、マリはロシアと非常に親密な関係を築いており、ロシアは民間軍事会社「ワグネル」を通じてマリに戦闘員や兵器を送り込んでいました。

これにより、マリはロシア支持を鮮明にしています。ロシアは、アフリカでの影響力を拡大するために、ワグネルを通じてリビアやスーダン、中央アフリカなどの不安定な国々で軍事的、経済的な利権を確保しようとしていました。

ワグネルの創設者であるプリゴジン氏の死後、ロシア政府はアフリカでの活動を引き継ぐために新たな準軍事組織を立ち上げました。これにより、ロシアはより直接的にアフリカでの影響力を強化しようとしています

マリでは、フランス軍の撤退後にイスラム過激派によるテロが悪化しており、ロシアはマリとの協力を強化しています。ロシアのプーチン大統領は、マリの軍事政権とテロ対応や経済、人道面での協力強化について話し合いを行っています

プーチン

これらの動きから、マリがロシアとの関係を深めることで、他のアフリカ諸国もロシア主導の経済活動に引き込まれる可能性があります。特に、ロシアがアフリカでの影響力を拡大する中で、アフリカ諸国がロシアとの経済的・軍事的な関係を強化することが予想されます。これにより、ロシアはアフリカにおける戦略的な地位をさらに強化することができるでしょう。

このような動きが顕著になる前に、西側諸国はスウェーデンに同調するというよりは、さらに厳しい措置を取る可能性は十分あります。現在は様子見という状況にあるだけでしょう。

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