2019年4月8日月曜日

歴史の法則で浮かんできた、安倍政権「改元後半年で退陣」の可能性―【私の論評】安倍総理の強みは、経済!まともな政策に邁進することで強みが最大限に発揮される(゚д゚)!

歴史の法則で浮かんできた、安倍政権「改元後半年で退陣」の可能性
このまま増税を実施するならば…

大阪の成長は安泰だが、では日本の成長は…?

先週の本コラム「平成は終わるが、大阪の成長を終わらせてはいけない 大阪選挙の論点を11の図表で確認」https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63847)では大阪ダブル選挙の情勢について取り上げたが、フタをあけてみれば、大阪ダブル選挙は吉村・松井の維新コンビがそれぞれ府知事・市長に当選した。

これまでの実績が十分にあり、さらに2025年に開催予定の大阪万博と夢洲にIR(統合型リゾート施設)を建設する、という将来への布石も打ってきた維新が負けるはずないと思いながら、選挙は水ものなので、筆者の中にも一抹の不安はあった。

しかし、やはり大阪府・市民は賢明な選択をした。選挙当日、お笑い芸人・ブラックマヨネーズの吉田氏が、ツイッター(https://twitter.com/bmyoshida/status/1114602103056375808)で、

<【大阪】人が必死で考えて、結果まで残して言う意見に対して、「それは違います」と言いきる。背筋を伸ばし首を横に振るだけ。そして、代替案は話し合いが大事だという。いいか?相手の意見を首振って否定する、そんな奴が話し合いで解決できるとか言わないで欲しいんだ。>
とつぶやいたが、これは大阪で維新を支持する一般的な人の、まっとうな感想だろう。
さて、これで2025年万博も夢洲IRも実施に向けて動くことになるので、大阪の成長はひとまず安心である。

一方、日本全体の成長はどうなるか。次の元号が「令和」に決まり、慶賀ムードが高まっているが、「令和」はどのような時代になるのだろうかを予測してみたい。

結論から言えば、それは、今後安倍政権がどこまで続くか、その上でもし安倍政権が続く場合、どのような政策を打つのか、によって大きく異なってくるだろう。

自民党の一部からは、自民党総裁の任期を延長して「安倍四選でいい」という話も出てきているが、これまでの歴史をみると、そう簡単ではないことが分かる。

明治以降、改元があったのは①1912年7月3日(大正元年)、②1926年12月25日(昭和元年)、③1989年1月8日(平成元年)と、今回の④2019年5月1日(令和元年)である。

それぞれ、①は第二次西園寺内閣(1911年8月3日0~1912年12月21日)、②は第一次若槻内閣(1926年1月30日~1927月4月20日)、③は竹下内閣(1987年11月6日~1989年6月3日)の時に起こっている。そして④が第四次安倍内閣(2017年11月1日~)である。

これまでの改元では、改元後半年たらず(ほぼ5カ月後)にその時の内閣が退陣している。①大正後は5カ月18日、②昭和後は4カ月26日、③平成後は4カ月26日で、それぞれ内閣が倒れている。これまでの改元は天皇崩御に伴うもので、今回の譲位はまったく違うものではある。

しかし、それにしても過去3回で改元の5カ月後に内閣が退陣している、というのは不吉な事実である。

改元後、各政権で何が起こったか

①の内閣退陣は、日露戦争後の情勢変化により、当時勢力を強めていた軍部と財政難を理由とする内閣との争いが原因で、1912年12月に、西園寺内閣が総辞職に追い込まれた。

②は、1927年3月の昭和金融恐慌が原因であった。経営危機となった台湾銀行を救済する緊急勅令案発布について、1927月4月に枢密院が否決して若槻内閣が倒れた(枢密院は戦前の天皇の諮問機関であり、戦後は廃止されている)。

③は記憶に新しい。1988年12月24日の消費税導入を柱とする「税制改革法」を竹下内閣は剛腕で成立させた。しかし消費税への反発は強く、そのうえ竹下内閣で不祥事が相次いだこともあり、内閣支持率が低下し、1989年6月に退陣に追い込まれた。

いずれも、今とは時代背景が異なるので、軽々に「歴史は繰り返す」とは断言できない。しかし、若干の示唆もあると筆者は思っている。

①は、国際情勢が大きく変化していたにもかかわらず、それを考慮せずに緊縮財政を言い過ぎた結果といえる。②は、若槻内閣の後を継いだ田中義一内閣の高橋是清蔵相が、モラトリアム(支払猶予令)と大量の日銀券増刷を実施することで昭和金融恐慌がおさまった。裏を返せば、若槻内閣が倒れたのは金融引締政策を行ったためだと解釈できる。③は、いうまでもなく消費税が原因である。

これをあえて、今のマクロ経済政策の財政政策と金融政策に置き直してみると、①と③は財政緊縮政策、②は金融引締政策がそれぞれ原因であると整理できる。

マクロ経済政策という観点から、改元後、半年足らずで安倍内閣退陣が起こりえるのかを考えてみよう。

まず、安倍政権のマクロ経済政策は、アベノミクスの第一の矢である「金融緩和」と第二の矢である「機動的財政」である。2013年からの安倍政権をみると、金融政策では異次元緩和を実施してきたが、2013年から2016年9月までは年80兆円日銀保有国債ペースの金融緩和、2016年9月以降は年20兆円の弱い金融緩和、財政政策では、2013年はまさに積極財政、2014年以降は消費増税を強行した。つまり、「なんちゃって」財政政策というべきもので、これは積極財政とはいいがたい。


こうしたマクロ経済政策の推移をみると、最近の景気動向指数の動きをよく説明できる。
これについては、下図や3月25日付け本コラム<消費増税、予定通り進めれば日本に「リーマン級の危機」到来の可能性>https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63706)を見てもらいたい。

今の状況はどうかというと、安倍政権が実施する金融政策は弱く、財政政策も積極的とはいえない。ということを考えると、実は過去の「改元後退陣内閣」の状況と似ていると言えなくもない。

しかも、今年10月には消費増税を予定している。いくら消費増税を見越して経済対策を行うとはいえ、それが切れたときには消費増税の悪影響をもろに被ることになる。これは、特に③の前例が繰り返されるそれが強い。

参院選、消費増税で敗北すれば…

国際社会からも「このタイミングで消費増税はないだろ…」という常識論がでてきた。3月25日付け本コラムやその他で何度も指摘しているが、中国の経済低迷やイギリスのブレグジットに伴う世界経済の悪化が予想されているが、これらはいわゆる「リーマン・ショック級の出来事」になりうるからだ。

これについて、4月3日のウォール・ストリート・ジャーナルの社説で、日本が今年10月からやろうとしている消費増税は「経済を悪化させるワケのわからない政策だ」と皮肉っている(https://www.wsj.com/articles/land-of-the-rising-unease-11554333457)。

別に米紙にいわれなくても、おかしな政策であることは、例えば、今年6月の大阪G20サミットに参加する中国やオーストラリアが、増税ではなく減税政策をやろうとしていることから、誰でもわかるだろう。G20では世界経済の話も議題として出てくるはずだが、議長国の日本がヘンテコな政策をやろうとしていることが世界に伝われば、恥をさらすことになるだろう。

冒頭の大阪ダブル選挙に戻ると、筆者は大阪の経済を考えれば、維新が勝利してよかったと思っている。このダブル選挙において、反維新勢は自民と公明が中心であった。一方、国政では、維新は今年10月からの消費増税に反対しているが、自民と公明は消費増税を推進している。

官邸はまだ最終的な決断をしていないものの、自民党の大半と公明党はほとんど財務省の追随と言っていいぐらい、増税に傾いている。もし、大阪ダブル選挙で、一つでも反維新が勝利していたら、10月からの消費増税を大阪府市民が望んでいる、という間違ったメッセージを与えかねなかった、と筆者は思っている。

いずれにしても、このまま今年10月からの消費増税を行えば、今年7月の参院選に安倍政権はまともに勝てない可能性がある。そうなると、安倍政権は、四選どころか、即退陣も現実味を帯びてくる。

安倍総裁の四選を、という声が自民党から出てくるのは、安倍総裁下の自民党が選挙に強いからであり、逆に最大の強みである選挙に負ければ退陣を迫られる、ともいえるのだ。実際、第一次安倍政権は2006年9月26日にスタートしたが、2007年7月29日の参院選で自民・公明を合わせて過半数をとれず、9月26日に退陣した。

このときを参考にするなら、参院選で負ければその2カ月後に退陣である。今回の参院選は7月に行われるが、それに負ければ9月に退陣となる。つまり、改元の後、半年ももたずに内閣退陣になり、明治以降の「改元後半年もたたずに内閣退陣」という悲劇が繰り返される可能性があるのだ。

この悪夢を吹っ飛ばすには、「リーマン・ショック級」があり得ることを見越して、今年10月からの消費増税を取りやめにするしかないと筆者は思っている。

【私の論評】安倍総理の強みは、経済!まともな政策に邁進することで強みが最大限に発揮される(゚д゚)!




新元号「令和」に国民の好感が広がっているとみて、安倍政権が安堵(あんど)しています。

内閣支持率も押し上げる結果になり、安倍晋三首相は新時代の象徴として、さらにアピールしていく考えです。過去3回の改元では、立ち会った首相はいずれも半年以内に退陣に追い込まれた。安倍首相がこのジンクスを打ち破れるかも注目です。

「いよいよ令和の時代が始まる」。首相は3日、国家公務員合同初任研修で新人職員約780人を前に訓示。新元号が、万葉集にある梅の花を歌った和歌の序文を引用したことを引き合いに、「それぞれの花を大きく咲かせてほしい」と激励しました。首相は令和時代の政権維持に向け、統一地方選や夏の参院選の勝利に全力を挙げる方針です。

新元号決定をめぐり、首相が心配したのは、事前の情報漏えいに加え、国民の評判でした。首相は1日夜のテレビ番組で「多くの方々が前向きに明るく受け止めていただいて本当にほっとした」と語りました。一部報道機関の世論調査でも令和に好感を持つ人が八割強に上り、内閣支持率も上昇。初めて日本古典を典拠としたことも評価され、政権は自信を深めています。

首相は1日夜、自民党幹部と会食した際、「万葉集がブームになる」と述べるなど上機嫌でした。出席者からは「この勢いで(参院選に合わせた)衆参ダブル選は勘弁してください」との声が上がり、首相は笑って聞いていたといいます。

これまで改元を経験した首相はこの記事の冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるとおり3人。大正(1912年)の西園寺公望首相(当時、以下同)は陸軍2個師団増設問題をめぐる軍部との対立で総辞職。昭和(1926年)の若槻礼次郎首相は金融恐慌によって、平成(1989年)の竹下登首相は消費税への反発とリクルート事件をめぐる疑惑でそれぞれ退陣しました。

ただ、皇位継承に伴う一連の儀式が来春まで続き、国民の祝賀ムードも持続しそうな今回は過去の改元とは状況が違うとの見方が多いです。政府関係者は「当面、自民党は首相を代えられない」と語ったとされています。

今年予定されている儀式

このようなことがあるため、私自身は安倍内閣は仮に消費税増税をしたとしても、参院選で負けることもなく、しばらくは退陣ということにはならないとは思いますが、そのかわり、実質的に増税後は、憲法改正もできずに、レイムダックになり総裁任期の2021年9月までは総理でありつづけるでしょうが、その後の4選の目はでないと思います。

安倍総理が総理大臣になり、他の総理大臣のように劇的に支持率が落下しなかった最大の要因は、やはり経済政策です。その中でも、財政政策は増税により失敗しましたが、金融政策においては、最近は実質上の引き締めに近いところがありますが、それでも過去の政権と比較すれば結果として緩和を実行し続けたことです。

これにより、雇用情勢はかなり良くなっています。これが、安倍内閣の強みの源泉です。これは、理想からいえばは十分とはいえませんが、それにしても、過去の内閣にはない強みです。

さらには、残念ながら自民党の他の幹部や、野党には全くこの金融政策が理解できていません。安倍総理は憲法の改正等その他のことでは、これほどの強みを発揮することはできなかったでしょう。実際、第一次安倍政権はまともなマクロ政策を打ち出すことができず、退陣しました。

やはり、多くの人々は、自分たちや周りの人たちの暮らし向きを最重点に考えるのです。その中でも、雇用は根幹的なものであり、これが確保されなければ、他の経済指標がいくら良くても、政府の経済政策は失敗です。一部の変わり者は別にして、大多数の日々の普通の生活者にとっては、憲法改正など二の次です。まずは、雇用です。

しかし、安倍総理が、10月の消費税増税を実行してしまえば、金融緩和政策の効き目も、完璧に相殺され、安倍総理は強みを失ってしまうことになります。

経営学の大家ドラッカー氏は、強みについて以下のように語っています。
誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思う。だが、たいていは間違っている。わかっているのは、せいぜい弱みである。それさえ間違っていることが多い。しかし、何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない」(『プロフェッショナルの条件』)
ドラッカーは、この強みを知る方法を教えています。“フィードバック分析”です。なにかまとまったことを手がけるときは、必ず9ヵ月後の目標を定め、メモしておくのです。9ヵ月後に、その目標とそれまでの成果を比較する。目標以上であれば得意なことであるし、目標以下であれば不得意なことです。
ドラッカーは、こうして2~3年のうちに、自らの強みを知ることができるといいます。自らについて知りうることのうちで、この強みこそが最も重要です。
このフィードバック分析から、いくつかの行なうべきことが明らかになります。行なうべきではないことも明らかになります。
もちろん第1は、その明らかになった強みに集中することです。強みがもたらす成果の大きさには、誰もが驚かされるはずです。
第2は、その強みをさらに伸ばすことです。強みを伸ばすことは、至ってやさしいです。ところが誰もが、弱みを並の水準にするために四苦八苦しています。
第3は、その強みならざる分野に敬意を払うことです。不得意なことを負け惜しみで馬鹿にしてはならないです。自らにとって弱みとなるものに対してこそ、敬意を払わなければならないです。
第4は、強みの発揮に邪魔になることはすべてやめることです。強みを発揮できないほどもったいないことはないです。
第5は、人との関係を大事にすることです。そうして初めて強みも発揮できます。
第6は、強みでないことは引き受けないことです。正直に私は得意ではありませんと言うべきなのです。
第7は、強みでないことに時間を使わないことです。いまさら直そうとしても無理です。時間は、強みを発揮することに使うべきなのです。
これからは、誰もが自らをマネジメントしなければならない。自らが最も貢献できる場所に自らを置き、成長していかなければならない。(『プロフェッショナルの条件』)
安倍総理には、自らの強みを最大限に発揮していただき、増税を見送り、現在日本にとって最も重要なマクロ経済政策に邁進していただきたいです。

そうして、それは必ず大多数の国民に支持されることになります。

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2019年4月7日日曜日

「国民党が勝てば中台統一が加速」 2020年台湾総統選を台湾の保守系シンクタンクが解説―【私の論評】トランプ・安倍台湾電撃訪問で蔡政権・台湾独立派を勢いづかせる起爆剤に(゚д゚)!

「国民党が勝てば中台統一が加速」 2020年台湾総統選を台湾の保守系シンクタンクが解説

新台湾国策シンクタンク査部長 張人傑

張人傑氏 1956年生まれ。台湾の東海大学社会学部博士課程修了,淡江大学欧州研究所博士課程修了、
張榮發基金会・国家政策研究センター研究員。淡江大学公共行政学部専任講師退職。

台湾では2020年1月、総統選挙が行われる。この選挙の結果は、日本だけでなく、アジア全体の方向性を決めるものとなる。

台湾統一を狙う中国の習近平国家主席は今年1月の演説で、香港やマカオに適用している「一国二制度」の受け入れを台湾側に迫った。

これを断固拒否する姿勢の与党・民進党からは、現職の蔡英文総統と頼清徳・前行政院長(首相)が一騎打ちで公認候補を争う構図だ。

一方、台湾の親中派の野党、中国国民党からは、朱立倫・前党主席、王金平・前立法院長(国会議長)、韓国瑜・高雄市長らが出馬意欲を見せている。

来年の台湾総統選で、台湾の未来はどう変わるのか。台北市にある台湾独立志向の新台湾国策シンクタンクを訪れ、台湾政治に詳しい専門家による解説を聞いた。

(国際政治局 小林真由美)

◆     ◆     ◆


国民党が勝てば中国との統一が加速

台湾は今、これまで以上の危機に直面しています。中国国民党の呉敦義主席は今年2月、「国民党が総統選に勝利した場合、中国との平和協議に署名する可能性がある」と述べており、5月の新総統就任後、中国による台湾統一が一気に加速する恐れがあるのです。

これはまさに、中国が建国直後の1949年にチベットに侵攻し、併合した時と同じ状況になることを意味します。中国政府はウイグル人に対しても、最初はじわじわと同化政策を行いましたが、現在は数百万人ものウイグル人を強制収容所に入れて教育するという強硬手段に出ています。

中国共産党は、自由や民主主義の価値観を大事にする台湾人を洗脳し、中国人にしたいと考えているとみられます。今ある台湾の自由を守るためには、中国国民党への政権交代は何としても阻止する必要があります。

台湾メディアも中国共産党の影響下に

気になるのは、来年の総統選で民進党は勝利できるのだろうか、という点です。

昨年11月の統一地方選で、民進党は惨敗しました。この時、中国共産党と中国国民党がフェイク・ニュースを流したことも選挙戦に大きく影響したとみています。

今年3月の台南市の補欠選挙では、民進党は何とか議席を維持しましたが、中国国民党とその背後にいる中国共産党は今回もフェイク・ニュースを流して世論を変えようとしました。

現在、中国国民党と中国共産党は結託して、「民進党が勝ったら独立宣言をする。そうしたら台中関係は非常に緊張し、軍事的な危機が迫る恐れがある」というフェイク・ニュースを盛んに報じ、台湾の人を脅しています。

一方で、「中国国民党が勝ったら中国と平和協議を結ぶ(=台湾が中国に併合される)」というニュースはあまり広く知られていません。民進党は、この危険性をもっと訴えるべきです。

台湾の選挙でこの「フェイク・ニュース作戦」が成功したら、中国共産党は、今年の日本の選挙でも、来年のアメリカの大統領選挙でも同じ手を使うでしょう。来年の総統選挙でも、フェイク・ニュースに惑わされないことが大事です。

ところが、台湾のメディアの多くは中国共産党の影響を受けているため、中国共産党を批判するメディアは少なくなっています。むしろ、台湾では、「中国が短期間でいかに経済を発展させたか」を報じる番組が増えています。

台湾では「中台統一派」が増えている

台湾では現在、いわゆる機会主義者(オポチュニスト)が増えています。「中国に付いた方が有利そうなら中国に付く」という層です。日本人が考えている以上に、中国との統一を「悪くない」と考える中台統一派は多いのです。

台湾の文化は中国の影響を強く受けていますが、その点で宗教も大きな役割を果たしています。台湾には、観光地としても有名な龍山寺などに多くの台湾人が参拝していますが、そこで祀られている神様は皆、中国の神様です。その信仰の中身は、基本的に現世利益的なので、台湾人は一生懸命、「私はお金がほしいです」と神様に祈っている状態です(笑)。

台湾人の考え方が唯物論的になると、商売繁盛、経済発展が最優先になります。民進党も中国国民党も経済政策がダメとなると、「中国と統一した方が経済的に潤うのでは」と考える人が増えるのです。中国側も、台湾は武力侵攻しなくてもお金で買うことができると考えているとみられます。

台湾の唯一の友人は日本

現在、アメリカと台湾の関係は強化されていますが、それはお互いの利益のためであり、「友情」はないです。共通の敵である中国に対抗するために、台湾はカードとして使われていると指摘する専門家も多いです。

でも日本は違います。「台湾が中国の一部になれば、日本も危ない」という運命共同体という言葉以上の友情でつながっていると信じています。台湾の唯一の友人は日本だけです。

中国国民党も中国共産党も、来年の選挙で中台統一を実現したいと考えており、もし国民党が勝ち、民進党が敗れれば、中国の太平洋進出や世界大国化が一気に進みます。来年の総統選は、台湾の未来、日本の未来、そしてアジア全体の未来を分ける非常に重要な選挙になると言えるのです。(談)

【私の論評】トランプ・安倍台湾電撃訪問で蔡政権・台湾独立派を勢いづかせる起爆剤に(゚д゚)!

最近の台湾情勢については、以下の動画がかなりコンパクトでしかも、理解しやすいです。是非ご覧になってください。


この動画で、渡辺哲也氏が、トランプ大統領の台湾電撃訪問の可能性について語っています。

これは、確かにありそうですし、もし実現すれば台湾にとって、というより蔡英文政権にとって本当に良いことになります。

求心力を失いつつある与党が支持率を回復させる起爆剤となるのは、まさに「トランプ米大統領の台湾訪問」でしょう。
イラクを電撃訪問したトランプ米大統領

トランプ政権では、歴代政権に比べて米政府高官が訪台する頻度が多く、長らく凍結していた台湾への武器の売却も決定。米議会も、環太平洋合同演習(リムパック)への台湾の参加や、米台による合同軍事演習の実施を求める法案を提出するなど、政権も議会も台湾重視が鮮明となっています。

そうした中で、政府高官の相互訪問を可能にした「台湾旅行法」に基づき、トランプ氏が台湾を訪問すれば、蔡氏の支持率は一気に回復し、「台湾独立論」を勢いづかせることになります。同時に、中国に接近する台湾の「親中派」の勢いが削がれ、対中包囲網のつながりが強化されるのは違いないです。

もちろん、中国を大いに刺激することにはなりますが、中国がアジアの支配圏を強め続けるのであれば、トランプ氏の訪台は、極めて効果的なけん制球になります。トランプ氏は、対中包囲網の形成を後押しするためにも、台湾への訪問を実現すべきです。
以前、このブログでは、蔡英文総統はまともなマクロ経済政策を実行すべきということを掲載しましたが、確かにこれで蔡英文総統は人心を掌握し、来たるべき2020年1月、総統選挙を有利に運ぶことができるはずです。
しかし、これだけだとインパクトにかけるところがあります。しかし、トランプ米大統領台湾電撃訪問ということになれば、断然現政権にとって有利になります。
日本も、米国が昨年3月に成立させた『台湾旅行法』と同じような法律を成立させるべきです。同法は、閣僚級の安全保障関連の高官や将官を含む米政府当局者全員が台湾に渡航し、台湾側の同等役職者と会談することや台湾高官が米国に入国し国防総省や国務省の当局者と会談することを定めた法律です。
米国は中国との国交樹立以降、台湾とのこうした交流を自粛してきましたが、これをトランプ大統領は反故にしました。ラブコールを送る友人に日本も応えるべきです。

台湾に対する支援は、覇権主義の中国、「怨恨」感情を露わにする韓国や、強欲ロシアとの北方領土返還交渉にカネを使うより費用対効果は高いはずです。

オバマ政権末期に真珠湾を電撃訪問した安倍総理

そうして、日本は日本版『台湾旅行法』を成立させるだけではなく、トランプ大統領が台湾を訪問するしないは別にして、安倍総理が電撃訪問をすべきです。

無論トランプ大統領も電撃訪問したほうが良いに決まっています。トランプ・安倍台湾電撃訪問で蔡政権・台湾独立派を勢いづかせる起爆剤となれば、最高です。

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2019年4月6日土曜日

不安出ずる国、日本の消費増税(ウォール・ストリート・ジャーナル)―【私の論評】WSJの記事には、間違いもあるが概ね正しい。増税はすべきでない(゚д゚)!

不安出ずる国、日本の消費増税(ウォール・ストリート・ジャーナル)


日本は、経済成長の鈍化に直面する世界の多くの国々の仲間入りをしつつある。しかし、ある点において日本は異彩を放つ。安倍晋三首相は年内に消費税率を引き上げ、景気を悪化させると固く心に決めているように見えるのだ。

 日銀が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、警戒感を助長する内容だった。企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業・製造業でプラス12となり、昨年12月の19から悪化。7ポイントの悪化は2013年以降で最大となった。中小企業の業況判断も同様に暗くなった。これより先に発表された2月の小売売上高と鉱工業生産もさえない内容だ。鉱工業生産指数は1月までは数カ月連続で低下していた。2018年の国内総生産(GDP)成長率はかろうじて0.8%増となったが、今年は同様の水準を達成するのも難しいかもしれない。

 アジア経済を巻き込んでいる米中貿易戦争を含め、外圧は日本の助けになっていない。輸出依存型の日本経済は依然として、欧州や中国の経済減速の影響を受けやすい。

 加えて、国内問題もある。安倍首相の経済再生計画「アベノミクス」は8年目に入るが、いまだに完全には実施されていない。財政支出の増加や異次元金融緩和は行われたがが、アベノミクス「第3の矢」だったはずの政策改革は全く始まっていない。これが投資と生産性の伸びを圧迫している。

 安倍首相は、今年10月に消費税率を現行8%から10%に引き上げることで日本経済に大打撃をもたらそうとしている。企業も家計も、かつての経験から消費増税がどんな結果を生むか知っている。1997年以降、政府が消費税率を引き上げるたびに景気低迷、あるいは景気後退が到来した。安倍首相は2014年の消費増税(5%から8%)で経済が停滞した後、さらなる引き上げを延期した。しかし、財政規律強化を求める財務省は安倍氏に対し、財政赤字および政府債務の削減のための増税でプレッシャーをかけている。どういうわけか、増税後も債務は増え続けている。景況感指数が悪化するのも無理はない。

 日本はこれまで、毎年のようにケインズ主義的な財政支出やマイナス金利など金融政策の力で景気停滞からの脱却を目指してきた。しかし、思うような効果はあげられていない。世界の経済成長が加速し、米国発の貿易摩擦が緩和すれば、日本を後押しするかもしれない。しかし、安倍首相の増税は自分で自分の首を絞めることになるだろう。

(The Wall Street Journal)

【私の論評】WSJの記事には間違いもあるが概ね正しい。増税はすべきでない(゚д゚)!

昨日も消費税がらみのことをこのブログに掲載したのですが、この記事はかなり気になりましたので、本日も消費税がらみを掲載させていただきます。

名門経済紙と言われるウォール・ストリート・ジャーナルにここまで書かれては、さすがの財務省も気になるかもしれません。

上の記事で、あえて反論するところといえば、日本は輸出依存型の経済ではないことと、本当は財政赤字ではないというところでしょうか。

そもそも、国内総生産(GDP)とは「国内消費(C)+政府支出(G)+国内投資(I)+輸出(X)-輸入(M)」と定義されます(支出項目別の場合。なお、本当は在庫品調整なども含まれるのですが、金額的に大きくないので、ここでは考慮しません)。

GDP=C+G+I+X-M

つまり、大きく内需部分(C+G+I)と外需部分(X-M)から構成されているのですが、外国に輸出する金額(X)の比率が大きければ、外国から貿易関税などを突きつけられた場合の打撃が非常に大きい、ということがよくわかるでしょう。

また、外需の純額(X-M)が低くても、XとMのそれぞれのGDPに対する比率が高ければ、その分、貿易依存国家であるといえます。たとえば、外国から半製品や資本財を買ってきて国内で加工し、製品化して外国に輸出しているようなケースだと、XとMがともに大きくなります。

以上を踏まえ、総務省統計局が公表する『世界の統計2018』によれば、米国、中国、その他の主要国のGDP比率は、次のとおりです(図表)。

(【出所】総務省統計局『世界の統計2018』図表3-5/図表9-3より作成。ただし、Xは輸出依存度、Mは輸入依存度であり、計算方式の違いなどにより、合計しても100%にならない)

日本の輸出(X)は13.1%であり、これは米国よりは高いですが、他国よりは低いです。これでは、日本はどう考えても、輸出依存度が高い国とはいえません。昔は、依存度が高かったと思う人がいるかもしれませんが、過去に高かったという事実はなく、8%程度のこともありました。

以下に日本の貿易依存度のグラフを掲載しておきます。



2015年あたりまでは、輸出依存度が高まる傾向にありましたが、近年はまたもとの水準に戻っています。いずれにせよ、日本は貿易立国などと思いこんでいる人は、考え方を改めるべきです。

内需(C+G+I)の比率は、米国が103%と100%の水準を超えているのですが、これは米国が貿易赤字国である以上は当然のことです。要するに、「国内の生産力が足りないから、外国から輸出している状態だ」、と言い換えても良いでしょう。

一方、「輸出立国」と呼ばれる日本については、内需の合計はほぼ100%であり、純輸出(X-M、つまり貿易黒字の比率)もGDPの0.8%に過ぎません。このため、日本は米国ほどではないにせよ、諸外国と比べ、内需の比率は高いということです。

これに対し、中国、韓国、ドイツの3ヵ国の事例は極端です。いずれも内需を合計すると100%になりません(中国は95%、韓国は94%、ドイツは93%)。ということは、これらの国は貿易黒字によってその差額を埋めているということを示しています。

さらに、輸出依存度だけで見ると、中国は20%近く、韓国とドイツに至っては40%近くに達しており、これらの国が「貿易戦争」の影響を強く受けることは明白です。日本は、これらの国ほど「貿易戦争」の影響を受けることはありません。

次に、財政赤字ですが、これについてはこのブログでは以前IMFのレポート等で紹介しましたが、日本の財政赤字だけをみると、とんでもないと思いがちですが、日本政府の負債だけではなく、資産(現金・預金が7割を超えている、他の不動産なども超優資産ばかりで、現金に替えやすいです)も加味すると、政府の借金はゼロに近いというものです。

以下に、その記事のリンクを掲載します。
コラム:日本の純資産はプラマイゼロ、IMFの新国富論―【私の論評】財務省は解体し複数の他官庁の下部組織として組み入れ、そのDNAを絶つべき(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
巨額の借金を抱える日本の場合、負債額はGDPの283%に相当するが、その半分以上を日本銀行を含めた政府機関が抱えている。他の資産も考慮に入れて試算すると、日本の「純資産」はほぼプラスマイナスゼロになると、IMFは指摘している。

IMF Fical Motitor 2018に掲載されたグラフ
一方で、財政黒字を誇るドイツの場合、純資産はマイナスだ。
資産も含めれば、日本の資産はプラマイゼロということです。これは、英米よりも良い状況です。

以上の2点は、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事は間違いだと思いますが、その他はすべて正しいと思います。

この状況を踏まえると、安倍晋三首相は年内に消費税率を引き上げ、景気を悪化させると固く心に決める必要など全くありません。

そのようなことより、さらに積極財政と金融緩和を行い、デフレから完全脱却と、世界経済の悪化に備えるべきです。

現状で、消費税を上げると、消費が減って内需を減らすということになります。日本ではGDPに占める個人消費の割合は6割台です。これが減れば、GDPも低迷するのは当然です。

現在日本経済に必要なのは、増税という緊縮財政ではなく、積極財政です。さらに現状実質的に引き締め傾向である、金融政策を改めて、さらなる量的な金融緩和策を実行することです。

どう考えても、増税などすべきではありません。そのことを理解してるからこそ、ウォール・ストリート・ジャーナルは安倍総理を揶揄するような記事を掲載したのでしょう。

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2019年4月5日金曜日

安倍首相は「令和」機に消費税と決別を デフレ不況深刻化の元凶 ―【私の論評】令和年間を「消費税増税」という大間違いから初めてはいけない(゚д゚)!


元号を発表する菅官房長官

 5月から「令和」の時代に移ることになった。漢和辞典によれば、「令」の原義は神々しいお告げのことで、清らかで美しいという意味にもなるという。日本の伝統とも言える「和」の精神にふさわしい。

 だが、ごつごつとした競争を伴う経済社会では、清らかに和やかに、では済まされない。

 野心と挑戦意欲に満ちた若者たちがしのぎを削り合ってこそ、全体として経済が拡大する。経済成長は国家が担う社会保障の財源をつくり出し、競争社会の安全網を充実させ、和を生み出す。社会人になっていく若者たちの負担が軽くなるし、家庭をつくり子育てしていけるという安心感にもつながる。

 そこで、新元号決定直後の安倍晋三首相の会見をチェックしてみると、「次の世代、次代を担う若者たちが、それぞれの夢や希望に向かって頑張っていける社会」「新しい時代には、このような若い世代の皆さんが、それぞれの夢や希望に向かって思う存分活躍することができる、そういう時代であってほしいと思っています。この点が、今回の元号を決める大きなポイント」と「若者」に繰り返し言及し、若者が「令和」時代を担うと期待している。

 だが、超低成長のもとでは「令」も「和」も成り立ち難い。若者は経済成長という上昇気流があってこそ、高く飛べると楽観できる。ゼロ成長の環境下では、殺伐とした生活しか暮らせないケースが増える。

 グラフは、平成元年(1989年)以来の日本の実質経済成長率の推移である。日本と同じく成熟した資本主義の米欧の年平均の実質成長率が2~3%台だというのに、日本はゼロコンマ%台のまま30年が過ぎた。原因は人口構成の高齢化、アジア通貨危機、リーマン・ショックなどを挙げる向きが多いが、ホントにどうなのか。



 高齢化はドイツなど欧州でも進行している。アジア通貨危機では直撃を受けた韓国はV字型回復を遂げたし、リーマンでは震源地の米国が慢性不況を免れた。いずれも日本だけがデフレ不況を深刻化させた。経済失政抜きに日本の停滞は考えにくい。

 最たる失政は消費税にある。政府は平成元年に消費税を導入、9年(97年)、そして26年(2014年)に税率を引き上げた。結果はグラフの通り、実質成長率はよくても1%台に乗るのがやっとで、家計消費はマイナス続き、外需頼みである。

 消費税はデフレ圧力を生み、経済成長を抑圧するばかりではない。所得が少ない若者や、子育てで消費負担が大きい勤労世代に重圧をかける。今秋の消費税率10%への引き上げは、首相が力説した、若者が担うはずの「令和」時代に逆行すると懸念せざるをえない。

 首相はデフレ下の増税に決別し、経済成長最優先という当たり前の基本路線に回帰すべきだ。その宣言は秋の消費税増税中止では物足りない。思い切って消費税率の引き下げを打ち出す。平成が終わり、令和にシフトする今こそ、政策転換のチャンスではないか。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】令和年間を「消費税増税」という大間違いから初めてはいけない(゚д゚)!

最たる失敗は確かに冒頭の記事にもあるように、諸費税増税です。他が駄目であっても、少なくとも消費税増税をしていなけれは、日本の経済はこれほど低迷することはありませんでした。

トリンプは、2018年11月29日、世相を映すブラジャーの新作として、東京スカイツリーを
モチーフにした「平成ブラ」(非売品)を発表しました。トリンプは1987年から世相を反
映した下着を定期的に発表し、今回が63作目でしたが、世相ブラは今回で終了するそうです。

「平成」には経済に関して本当に良い思い出は少ないです。先進国の中で、日本だけが経済成長しませんでした。世界各国の国内総生産(GDP)の推移をグラフで書くと、日本だけが横ばいで、この意味で「平に成った」と皮肉ることもできるかもしれません。

先進国で唯一ともいっていいくらいの「デフレ」で悩まされました。少なくとも「失われた25年」といえるでしょう。平成30年間のうちの25年ですから、ほとんどの期間が失われていたということになります。

そうして。もう一つ日本を駄目にしたのは、日銀による金融政策です。日本が最初にデフレになったのは、インフレ率が高くないにもかかわらず、日銀がバブル潰しとして金融引き締めを行ったからです。それは間違いだったのに、その後も日銀が間違いを続けたため、日本はデフレ状況から抜け出すことができませんでした。さらに、これに消費税増税が追い打ちをかけました。

新しい元号「令和」の決定を受け、記者会見で談話を発表する安倍首相

しかしそれは、平成最後の安倍晋三政権でただされました。2013年4月から、異次元の金融緩和を行い、日本経済が急速に改善しはじめました。ただし、その後2014年4月から、消費税を8%にあげ、さらには2016年9月で事実上の金融引き締めを行い、景気も17年12月あたりがピークとなってその後下降気味で、すでに腰折れしているようです。

今月1日に公表された日銀短観は、これらを確認するものでした。大企業・製造業の業況判断指数は、前回の昨年12月調査から7ポイント悪化し、悪化幅は12年12月調査以来、6年3カ月ぶりの大きさとなりました。

平成は、日銀の間違いから始まって、間違いで終わるのでしょうか。そうして、「令和」元年は、10%への消費税増税という間違いから始まるのでしょうか。

もし、そうなれば、「若い世代の皆さんが、それぞれの夢や希望に向かって思う存分活躍することができる、そういう時代」とは程遠い時代になります。

また、若者が真っ先に苦しむ時代になります。それだけは、避けたいです。令和年間を「消費税増税」という大間違いから初めてはいけないのです。

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2019年4月4日木曜日

北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!


金正恩氏は東倉里から“人工衛星”を発射するのか

 北朝鮮が「人工衛星」と称して弾道ミサイルを発射する可能性が現実味を増してきた。北西部・東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射場の準備が完了したとの分析があるのだ。「Xデー」として、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の祖父、金日成(キム・イルソン)主席の誕生日(15日)などが予想されている。米朝首脳会談の決裂を受け、北朝鮮は再び「瀬戸際外交」に戻るのか。朝鮮半島の緊張が高まっている。

 「北朝鮮が東倉里長距離ミサイル発射場の整備を事実上終えた」「最高指導部が決心すればいつでも発射できる状態を維持中」

 韓国紙、中央日報(日本語版)は2日、韓国政府当局者がこう伝えたと報じた。

 記事では、北朝鮮が3月27日にドイツ、同29日にフィンランドで予定されていた会議への出席を、ドタキャンしてきたことも伝えた。こうした状況から、国会に当たる最高人民会議が開かれる今月11日や、日成氏の誕生日などに、「人工衛星打ち上げ」を強行する可能性もあると指摘した。

 北朝鮮は2017年11月29日を最後に、弾道ミサイルを発射していない。だが、2月末にベトナムの首都ハノイで行われたドナルド・トランプ米大統領と正恩氏による首脳会談が決裂してからは、ミサイル発射施設を整備する動きが、たびたび確認されている。

米政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)と、北朝鮮分析サイト「38ノース」は3月7日、衛星画像に基づき、東倉里にあるミサイル発射場の構造物の再建が完了し、稼働状態に戻ったとの分析を発表した。

 北朝鮮は緊張を高めることによって、交渉相手に譲歩を迫る「瀬戸際外交」を得意としてきた。ただ、この手法が、トランプ氏や、北朝鮮が「死神」と恐れるジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に通用するかは不明だ。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「北朝鮮が弾道ミサイル発射や、ロケットエンジンの燃焼実験をする可能性は十分ある。発射までの経緯や打つ方向によって、その後の展開は変わってくるだろう。例えば、北朝鮮が『人工衛星』として発射予告をした時点で、米国が『絶対に許さない』と警告したにもかかわらず強行すれば、『戦争のリスク』を孕むことになる」と語った。

【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!

さる2月27、28日に行われた2回目の米朝首脳会談ですが、ドナルド・トランプアメリカ大統領と金正恩北朝鮮労働党委員長の会談は、事実上の物別れに終わり、共同声明すら出されませんでした。

なぜこのようになったかといえば、そのキーワードは、Status quo(ステイタス・クォー)です。この一言さえ意味が分かっていれば、今回の会談を読み解くなど、たやすいです。さらに、北朝鮮がミサイルの発射実験を開始したり、それら継続することになれば、どうなるかを予測するのもたやすいです。ラテン語の原語の意味では「現状」ですが、現代では「現状維持」とも訳されます。


米朝首脳会談に関係するアクターの中で、Status quoを望まない国はどこだったのでしょうか。そもそも誰がアクターなのかを理解していれば、愚かな報道には惑わされることはありません。

「朝鮮戦争が終結する」「日本人拉致被害者が帰ってくるかもしれない」「朝鮮半島の新時代に向けて、日本は巨額の資金供出をしなければならないのか」などなど。はっきり言いいますが、この状況で北朝鮮が日本人拉致被害者を一人でも帰してくるならば、何かの嫌がらせ以外にあり得ないです。

現代の情勢を分析する前に、Status quoを望まない国、すなわち現状打破勢力の歴史を知っているほうが、急がば回れで米朝会談の真相が見えてきます。

第二次世界大戦直前。1939年の時点で、現状維持勢力の代表はイギリスでした。しかし、大英帝国は既に絶頂期の勢力を失い、新興大国の米国が覇権を奪う勢いでした。英米の関係では、イギリスが現状維持国で、米国が現状打破国でした。

だが、両国には共通の敵のソ連がいました。ソ連は共産主義を掲げる、現状打破を公言する国でした。共産主義とは「世界中の国を暴力で転覆し、世界中の金持ちを皆殺しにすれば、全人類は幸せになれる」という危険極まりない思想です。

ソ連に対して、英米は共通の警戒心を抱く現状維持国でした。ここに、ナチスドイツが現れまし。アドルフ・ヒトラー率いるナチスは、第一次大戦の敗戦国としてのドイツの地位に甘んじないと公言する現状打破国でした。

英独ソの3国は主に東欧での勢力圏をめぐり抗争しました。現状維持を望む英国に対し、ドイツが東欧を侵略して第二次世界大戦がはじまりました。イギリスは米国を味方に引き入れドイツを倒したと思ったのも束の間、東欧を丸ごとソ連に併合されました。辛抱強く現状を変更できる戦機を待った、ソ連の独裁者・スターリンの悪魔のような慧眼の勝利でした。

ソ連の衛星国となった東欧諸国


さて、現代も現状維持勢力と打破勢力の相克で動きます。ただし、世界大戦のように劇的に動く時はめったにありません。では、東アジアにおいて、誰が今この瞬間の現状打破を望んでいるでしょうか。

昨年の米朝会談で、北朝鮮は核兵器の全面廃棄と今後の核実験の中止を約束しました。約束を履行した場合の経済援助も含みがありました。

北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。

この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。

だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。

ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。

ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。

では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。

米・中・露とも朝鮮戦争の再開など望んでいない

しかも、文在寅は在韓米軍の撤退を本気で考えています。そうなれば、朝鮮半島が大陸(とその手下の北朝鮮)の勢力下に落ちます。ならば、少しでも韓国陥落を遅らせるのが現実的であって、38度線の北側の現状変更など妄想です。

しかも、以前からこのブログにも掲載しているように、現状をさらに米国側から検証してみると、北朝鮮およびその核が、朝鮮半島全体に中国の覇権が及ぶことを阻止しているのです。北の核は、日米にとって脅威であるばかりではなく、中国やロシアにとっても脅威なのです。

さらに、韓国は中国に従属しようとしてるのですが、韓国は中国と直接国境を接しておらず、北朝鮮をはさんで接しています。そうして、北朝鮮は中国の干渉を嫌っています。そのため、韓国は米国にとってあてにはならないのですが、かといって完璧に中国に従属しているわけでもなく、その意味では韓国自体が安全保障上の空き地のような状態になっています。

この状況は米国にとって決して悪い状態ではないです。この状況が長く続いても、米国が失うものは何もありません。最悪の自体は、中国が朝鮮半島全体を自らの覇権の及ぶ地域にすることです。これは、米国にとっても我が国にとっても最悪です。

昨年の米朝合意は特に期限を設けていません。「本気で核廃絶する気があるのか?」「あるから制裁を解除しろ。金寄越せ」「順序が違う!」と罵りあっていて、何も困ることはありません。成果など不要なのです。

さて、米中露北の関係4か国の中で、今この瞬間の現状打破を望む国はゼロです。関係者すべてがStatus quoを望んでいるのです。「米朝会談成果なし」など、外交の素人の戯言に過ぎません。

そもそも、外交交渉における「成果」とは何でしょうか。自らの何らかの国益を譲歩することです。仮に一方的に要求をのませるとしたら相手の恨みを買います。それは降伏要求であって、外交ではありません。北朝鮮は中露を後ろ盾にしている限り米国に譲歩する必要もないし、逆に米国だって同じなのです。

今回の交渉は、続けること自体に意味があったのです。さて、わが日本はどうでしょうか。安倍晋三首相は、トランプ大統領に拉致問題の解決を要請したとされています。

そして、拉致問題の解決なくして1円も北に資金援助はしないとの立場を伝えたそうです。当たり前です。これまでの外交では、その当たり前のことを毅然とできなかったからと安倍外交を称賛しなければならないとしたら、本当に情けないことです。

今の日本は現状打破を望む必要はないです。交渉で被害者を取り返せば良いのです。全員奪還が我が国是です。だが、北は何人かを帰して幕引きにするカードをちらつかせています。日本に独自の軍事力がないから舐められているのです。日本の道は、防衛費増額しかないのです。

さて、北朝鮮が核実験や核ミサイルの発射実験を開始したらどうなるかということですが、先に述べたように、北朝鮮も現状維持を望んでいます。であれば、せいぜい人工衛星の打ち上げ実験程度にとどめて、あとは核実験や、ミサイル発射実験などはしないでしよう。

もし従来のようにミサイル発射実験や核開発をすれば、どうなるでしょうか。現状維持を望む、米国、中国、ロシアから圧力を加えられ、制裁がますます厳しくなるだけのことになります。そのようなことは、北朝鮮自身が望んでいないでしょし、余計なことをすれば、現状が崩れることを金正恩は理解していることでしょう。

にもかかわらず、北がミサイル発射実験や核開発を継続すれば、米国が軍事攻撃する可能性もでてきます。さらに、米国が中露にたとえ北朝鮮の体制が変わったとしても、現状維持することを約束するとともに、中露も現状変更をしないことを米国に約束すれば、中露は米国の北に対する軍事攻撃を許容する可能性も十分あります。そうなった場合には、米国は北を軍事攻撃することでしょう。

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2019年4月3日水曜日

次世代の米国の安全保障を担うのは海軍なのか―【私の論評】米軍はインド太平洋地域を重視しており、海軍を中心に中国に対峙しようとしている(゚д゚)!

次世代の米国の安全保障を担うのは海軍なのか

岡崎研究所

米国は、中東で顕著なように、陸上軍による対外介入を大きく縮小しようとしている。こうした中、どこが米国の安全保障を担う中心となるか、議論が出て来るのは自然である。これに関して、ユーラシア・グループ専務理事のロバート・カプランは、「次世代の米国の安全保障は海軍が支配的地位を占めるだろう」と題する論説を3月13日付でワシントン・ポスト紙に書いている。以下に、論説から注目点をいくつか抜き出してみる。

米海軍

・米国は、ブッシュ(父)大統領による1991年のクウェート解放から始まった、中東における陸上の介入の時代を終わらせようとしている。それは繰り返されるべきでない。

・地上軍による介入をしないということは孤立主義を意味しない。米国は、地球の広大な地域に力を投射すべきである。世界中に常時力を投影できる海軍は、米国の主要な戦略手段である。ここで海軍とは海、空、ミサイルのあらゆる側面を含む。海軍は空軍の支援を受け、泥沼に陥ることなく関与し、圧倒的な影響を与えることができる。

・もし例えばイランと中東でもう一度戦争をするとなれば、米国は海軍、空軍、サイバー司令部、それにミサイルと衛星の展開を重視するだろう。中国との戦争は主として海軍とサイバーだろう。ハイテク戦争の性質と技術で地球が小さくなることから、ミサイル、大気圏の力、海軍のプラットフォームの抽象的な領域が生まれ、その世界では紛争は一つの危機圏から他の危機圏に容易に移り得る。

・地上軍の展開は、ロシアのバルト3国併合や北朝鮮の崩壊など、最も重要な国益が関わっている場合に限られることになろう。政治のみならず軍事でもトランプ以前の時代に戻ることはできない。海軍の世紀がやってくる。それはグローバル化がコンテナ船の航行の安全にかかっている時代である。とはいえ、海軍の世紀が平和的であるとも言えない。

参考:Robert D. Kaplan,‘The coming era of U.S. security policy will be dominated by the Navy’(Washington Post, March 13, 2019)
https://www.washingtonpost.com/opinions/2019/03/13/coming-era-us-security-policy-will-be-dominated-by-navy/

論説は、米国が中東における地上軍の介入の時代を終わらせようとしている、と述べている。そして地上軍による介入に代わるものは、海軍による力の投射であるという。海軍の世紀がやってくるとまで言っている。

 地上軍による介入が原則行われなくなるのはその通りだろう。米国はイラクとアフガニスタンで大々的な介入を行い、多大な犠牲を払ったが、それに見合う成果は上げていない。地上軍による介入が割に合わないのは、レジーム・チェンジの後の国造り、治安の維持が極めて困難で、介入の対象となった国が自力で対処できないからである。アフガニスタンがそのいい例だろう。アフガニスタンでは、政府を辛うじて維持していくのに依然として米軍の駐留を必要としている。アラブの春でチュニジアを除いて民主化に成功しなかったのは、独裁者を排除した後の国を管理する能力が無かったためである。

 地上軍の介入の時代が終わるのは別に中東に限らない。しかし、これまでの米国の地上軍による介入の最たるものが、イラク、アフガンと中東であったこと、中東地域は不安定で米国の介入が望まれるような事態が発生しやすいことから中東が特記されている。

 地上軍による介入に代わるものは海軍による力の投射とされるが、論説も指摘しているように、厳密に海軍だけというのではない。空軍、ミサイル、サイバー、宇宙などが含まれる。要するに地上軍以外ということである。これらはいずれもハイテク関連で機動性に富んでいる。論説は中国との戦争は主として海軍とサイバーだろうと言っているが、今後とも大国間の全面戦争は考えられないのではないだろうか。

 なお、中東ではイランに注意を要する。今トランプ政権はイランを厳しく非難し、イラン包囲網を作ろうとしている。トランプ政権がイランを攻撃するのではないかとの憶測が飛び交っている。イスラエルがイランの脅威を盛んにトランプ政権に吹き込んでいる事情もあり、トランプ政権にイラン攻撃をけしかけているのではないかと推測される。もし万一戦争になった場合には、米国の地上軍の派遣は考えられない。海、空軍による空爆、ミサイル攻撃、サイバー攻撃などが行われることになるのだろう。仮にイランとの戦争が始まれば、どこまでエスカレートするか予測がつかない。

【私の論評】米軍はインド太平洋地域を重視しており、海軍を中心に中国に対峙しようとしている(゚д゚)!

実質的に、次世代の米国の安全保障を担うのは海軍というのは、確かなようです。なぜなら、米国最大の米インド太平洋軍(米太平洋軍から昨年改称)の司令官が引き続き海軍となったことによって裏付けられているからです。

米軍の統合軍は全部で九つあります。地域が割り当てられているのは、6つの統合軍であり、以下に地域別の統合軍の名称と、担当する地域を示した地図を掲載します。



それぞれに司令官がおり、作戦上は、大統領、そして国防長官に次ぐ地位になります。大統領は米軍の最高司令官であり、それを国防長官が支えます。

統合参謀本部は、米国においては作戦上の指揮権を持っていません。米国の統合参謀本部は大統領と国防長官に助言をする立場です。

統合軍の司令官を動かすことができるのは大統領と国防長官だけです。それだけ大きな権限が統合軍の司令官には与えられているのです。

米軍といえば、多くの日本人にとって、陸軍、海軍、空軍、海兵隊というのが普通のイメージであり、実際にそうなのですが、戦闘においてはそれぞれが独自に作戦を行うわけではありません。各軍が必要に応じて連携し、統合作戦を担わなくてはならないのです。それを担うのが統合軍です。

九つの統合軍のうち、六つが地域別になっており、三つが機能別になっています。機能別の統合軍は、戦略軍、特殊作戦軍、輸送軍です。戦略軍は核兵器やミサイル、そして宇宙を管轄し、隷下にはサイバー軍も有しています。特殊作戦軍は文字通り特殊作戦を担います。輸送軍は米軍の人員・物資を輸送することを専門にしています。

地域別の統合軍は、北米を管轄する北方軍、中南米を担当する南方軍、中東を担当する中央軍、アフリカを担当するアフリカ軍、欧州を担当する欧州軍、そしてインド太平洋軍です。

こうした地域分割は国連その他の機関によって米軍に委任されているものではなく、いわば勝手に米国政府が世界を分割し、それぞれの地域における米国の権益を守るために軍を置いていることになります。

インド太平洋軍は九つの統合軍のうちで最大規模であり、地球の表面積で見ても52%という広大な地域を担当します。米国西海岸の映画産業の拠点ハリウッドから、インドの映画産業の拠点ボリウッドまで、北極熊から南極ペンギンまでが担当地域なのです。

ところが、一昨年11月に、米海軍が過去70年にわたって手にしてきた米太平洋軍司令官のポストが、米海軍太平洋艦隊艦艇が立て続けに重大事故を引き起こしてしまったことの影響により、アメリカ空軍の手に移りそうな状況に直面していました。

太平洋軍時代のハリー・ハリス氏

その後、現在米太平洋空軍司令官を務めているテレンス・オショネシー空軍大将が、前米太平洋軍司令官ハリー・ハリス海軍大将の後任の最有力候補でした。しかし、「伝統ある重要ポスト」を失いたくない米海軍側、とりわけ米海軍の擁護者である故ジョン・マケイン上院議員らの強力な巻き返し工作が功を奏して、米海軍はなんとか米太平洋軍司令官のポストを失わずにすむことになりました。

米太平洋艦隊所属の軍艦がたて続けに民間船との衝突事故を起こし、多数の死者まで出すという醜態を晒すこととなったアメリカ海軍ではありましたが、結局のところは、人望が高かった太平洋艦隊司令官スウィフト海軍大将をはじめ、米太平洋艦隊の幹部たちを更迭することで、事態の収束がはかられ、「米太平洋軍司令官のポストを海軍から取り上げられてしまう」というアメリカ海軍にとっては極めて重い「お灸を据えられる」措置までには立ち至らなかったのです。

トランプ政権により韓国大使となったハリス提督の後任として、2018年5月30日に米太平洋軍から名称変更された米インド太平洋軍の司令官に、前米艦隊総軍司令官のフィリップ・デイビッドソン海軍大将が指名されました(米艦隊総軍:かつては米大西洋艦隊司令官と兼務されるポストでたが、現在は米艦隊総軍に統合された。直属の部隊は第2艦隊です。ちなみに米太平洋艦隊直属の部隊は第7艦隊と第3艦隊です)。

もっとも、行政府であるトランプ政権や海軍をはじめとする軍部が賛同していても、日本と違ってシビリアンコントロールの原則が正常に機能している米国では、連邦議会の承認がなければ政権によって指名されても自動的に司令官のポストに就くことはないです。一昨年4月26日、連邦議会上院はデイビッドソン大将の指名を承認しました。

先に述べたように、担当領域が広大なだけでなく、米インド太平洋軍司令官は、米国にとっては依然として油断のならない北朝鮮や、北朝鮮の比ではない軍事的外交的脅威となっている中国に最前線で向き合わなければならないのです。

太平洋軍からインド太平洋軍へと名称変更をしなければならなくなった最大の要因は、太平洋郡時代に中国海洋戦力が飛躍的に強力となってしまったという現実があるからです。

中国海洋戦力は、中国本土の「前庭」に横たわっている東シナ海や南シナ海で軍事的優先を拡大しているだけでなく、中国本土からはるかに離れたインド洋へもその影響力を及ぼしつつあるからです。

とりわけ、中国は、トランプ政権が一昨年末から昨年の1月に公表した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦力」などで明確に打ち出した「大国間角逐」という国際情勢認識の最大の仮想敵国と名指しされています。

また、ロシア領土(とその上空)は米太平洋軍の担当区域外である(米ヨーロッパ軍の担当)が、ロシア太平洋艦隊が日常的に活動するオホーツク海や北太平洋それに西太平洋は米インド太平洋軍の責任領域です。

要するに米インド太平洋軍司令官は、トランプ政権の軍事外交政策の根底をなす「大国間角逐」の相手方である中国とロシアのそれぞれと直面しているのです。そのため、世界を六つの担当エリアに分割してそれぞれに設置されている米統合軍司令官のなかでも、米インド太平洋軍司令官は極めて重要なポストと考えられています。

それだけではありません。米インド太平洋軍の担当地域には、日本、韓国、フィリピンそれにオーストラリアなどの同盟国や、米国にとっては軍事的に支援し続ける義務がある台湾、それに中国に対抗するためにも友好関係を維持すべきベトナムやインドといった軍事的、外交的あるいは経済的に重要な「味方」も数多く存在しています。

つまり、米国だけで危険極まりない強力な仮想敵である中国に立ち向かうのでなく、同盟国や友好国を活用して「大国間角逐」に打ち勝つことこそが米国にとっての良策なのです。

そのため、米インド太平洋軍司令官には、とりわけ現状では、軍事的指導者としての資質に加えて、外交官的役割をも果たせる資質が強く求められています。実際にデイビッドソン氏は米連邦議会上院公聴会で次のように述べています。

「中国には、(米国政府内の)あらゆる部署が協力し合い一丸となって立ち向かう必要を痛切に感じております。そのために(米インド太平洋軍)は国務省とも密接に協働するつもりです。……それに加えて、これは極めて重要なのですが、われわれ(米インド太平洋軍)は同盟諸国や友好諸国と連携して中国に対処していかなければならないのです」

この公聴会に先だって、指名承認のための基礎資料としてデイビッドソン大将は連邦議会からの「インド太平洋軍司令官に任命された場合に実施すべきであると考えるインド太平洋軍の政策や戦略に関する質問」に対する回答書を提出しました(50ページにわたる、詳細な質疑回答書は公開されています)。

現米インド太平洋軍司令官の

当然のことながら、次期太平洋軍司令官として、トランプ政権が打ち出した安全保障戦略や国防戦略と整合したインド太平洋軍の戦略をどのようにして実施していくのか?という国防戦略レベルの質疑応答から、軍事的リーダーとしてだけでなく外交的役割をも担う米インド太平洋軍司令官として国務省はじめ様々な政府機関や連邦議会などとどのような関係を構築していくのかに関する詳細な方針、それに責任地域内でインド太平洋軍が直面している軍事的、外交的、経済的諸問題のそれぞれに対してどのような方針で対処していくつもりなのか?に対する具体的対応策まで、質疑応答は多岐にわたっています。

デイビッドソン大将が連邦議会に対して公式に陳述した以上、それらの回答内容は、米インド太平洋軍司令官として着実に実施していく義務が生ずるのは当然です。要するに、今後重大な地政学的変動が生じないかぎり、上記「質疑回答書」は、少なくともデイビッドソン大将が指揮を執る期間中は、米井戸太平洋軍の基本路線なのです。

そのデイビッドソン次期米インド太平洋軍司令官の対中国戦略、対北朝鮮戦略、そして日米同盟に関する所見などの詳細については稿を改めなければ紹介できないが、デイビッドソン海軍大将が陳述した米インド太平洋軍司令官にとっての最優先責務とは次のようなものです。
1:米国の領域を防衛する
2:米インド太平洋軍担当領域での米軍戦力を再調整する
3:同盟諸国や友好諸国との二国間関係や多国間協力を強化発展させる
4:多様な脅威に対処するために米政府内そして同盟国の軍事部門以外の諸部門との協力を推進する
われわれは、日本を含むアジア太平洋の安定を考える際、在日米軍だけではなく、日本ではあまり知名度が高くはない、インド太平洋軍全体に対する理解を深める必要があります。

在日米軍司令部のある横田の向こうにあるのは、国防総省のあるワシントンDCだけではない。その間にあるハワイ(インド太平洋軍の司令部がある)にも注目しなくてはならないです。

インド太平洋軍が統合軍で最大であること、その司令長官が海軍出身であるということから、私達は、米軍はインド太平洋地域を重視しており、海軍を中心に中国に対峙しようとしていることを前提にものを考えなければならないのです。

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