2022年7月5日火曜日

米国の台湾への「戦略的明晰さ」と中国の焦り―【私の論評】中国が台湾を武力で威嚇すれば、1998年の台湾海峡危機のように、なすすべもなく後退するしかなくなる(゚д゚)!

米国の台湾への「戦略的明晰さ」と中国の焦り

岡崎研究所

 6月15日付のTaipei Times紙の社説が、シャングリラ会合での中国の魏鳳和国防相による攻撃的発言と、台湾海峡は国際水域ではないとする中国側の発言をとらえ、中国封じ込めが唯一の選択肢である、と主張している。


 Taipei Timesが、最近の中国の台湾をめぐる激しい言葉の恫喝に対しては、米国の軍事力を背景にして、中国を封じ込める以外ないのではないか、との趣旨の論説を掲げている。Taipei Timesの本論説は、台湾海峡や周辺海域の現状を一方的に変えようとする中国の威嚇的行動を非難するもので、台湾の危機感を示すものである。

 Taipei Timesが最近の中国の極端な台湾攻撃の好例として挙げるのが、(1)シンガポールでの「シャングリラ対話(Shangri-La Dialogue)」における中国の主張と(2)さらには、台湾海峡は中国の「内水」であり、国際法の適用がある国際水域ではない、との中国外務報道官の主張である。

 シャングリラ対話において、中国の魏国防相は「これだけははっきりさせておきたい。台湾を中国から切り離そうとする者に対しては、誰であれわれわれはひるむことなく、あらゆる代価を払っても最後まで戦う。これは中国にとっての唯一の選択肢である」と述べた。

 この発言の前日、シャングリラ対話の場で、オースティン米国防長官は、中国が台湾海峡の「現状維持」を一方的に変更しようとしていることに対して警告した。「米国の政策は全く変わっていない。しかし、残念なことに中国の政策はそうではなく、現状を変更しようとしている」と述べた。

 シンガポール会議の前月には、バイデン大統領が、訪問中の東京で、米国は台湾の防衛に「コミットしている」との趣旨の発言を行い、これは「失言ではないか」などという反応を引き起こしたばかりであった。シンガポールでの魏の発言の背景にはこのバイデン発言も当然影響を与えたと見るべきだろう。

 最近、中国は米国が台湾の地位について、「戦略的曖昧さ」ではなく「戦略的明晰さ」へと変わりつつあるのではないか、との危惧の念を持ち始めているのかもしれない、というのがTaipei Timesの論説の趣旨でもある。

中国が仕掛けてきている「法律戦」の新説

 ごく最近、中国外交部の王報道官は、台湾海峡について「台湾海峡は中国の主権下にある『内水』のようなものである」と述べ、国際海峡のように、他の国々が勝手に「無害通航」することは出来ない、と指摘したが、これは今までに中国が公然と主張したことのない新説ともいうべき主張である。

 Taipei Timesはこのような中国の主張を新たな「法律戦」と呼び、これを全くの「たわごと」(poppycock)であると一蹴しているが、中国側のこのような言説には、警戒が必要である。

 このような「法律戦」は、台湾海峡のみならず、東シナ海、南シナ海の海域を自らの主権の範囲内とする一方的な領土拡張の覇権主義に繋がっており、尖閣の領有権のことを考えれば日本としても断じて看過することは出来ない主張だろう。

 振り返れば、1998年、江沢民下の中国は、台湾北部沖合と南部沖合に対し、ミサイルを発射し、台湾を威嚇したことがある。台湾が初めて民主主義に基づく総選挙を行い、李登輝総統を選出した時である。

 この時、クリントン政権下の米国は、2隻の空母を台湾海峡に急派したのに対し、中国はなすすべなく後退したことがあった。この「台湾海峡危機」においてさえ、台湾海峡が、中国の内水である、などという主張を中国は行ったことはない。

 その後の中国の防衛費増額などを考えれば、軍事力強化の今日と25年前との違いは歴然としている。そして、最近中国が建造した第3隻目空母「福建」には、台湾対岸の省名がつけられており、中国の台湾侵攻を狙う特別の思いさえ感じることが出来る。

 中国の「法律戦」のようなフェイク・ニュースに惑わされることなく、日本としては台湾海峡の平和と安定の重要性を堅持する姿勢を貫く必要があることについては、多言を要しないだろう。

【私の論評】中国が台湾を武力で威嚇すれば、1998年の台湾海峡危機のように、なすすべもなく後退するしかなくなる(゚д゚)!

「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」については以下の記事をご覧いただけると良く理解できると思います。
戦略的曖昧さ vs. 戦略的明確さ 〜 アメリカの台湾政策を理解するフレームワークとは?

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から結論部分を引用します。

IPEF設立に向けたオンライン会合で記念撮影に応じるバイデン大統領、岸田首相、インド・モディ首相の3首脳

現在、アメリカはインド太平洋重視の外交政策を進め、同盟国と共同作戦を行う能力を高めている最中であるが、軍事バランス的にまだ充分ではないと判断しているのだろう。今後中国よりも西太平洋における自国及び同盟国の軍事力が上回ったという確信を持てば、「戦略的明確さ」を宣言する可能性がある。

中国がインド太平洋地域での覇権を確立すべく、軍事的・経済的な活動を活発化させる中で、中国による台湾の武力統一を防ぐことができるかは、未だかつてないほど重大な地域の安全保障課題になりつつある。

「戦略的曖昧さ」及び「戦略的明確さ」にはそれぞれの抑止の論理があり、どちらかが絶対に最善の結果を約束しているわけではない。だが、どちらの戦略を採るにしても、重要な論点は中国による台湾の武力再統一を阻止できるかということだ。

米国が「戦略的明確さ」を宣言するためには、米国の西太平洋における軍事力のみならず、台湾有事の際の日本の後方支援能力も充分に確保されなければならない。米国の政策変更は日本の安全保障政策にも大きな影響を与えるだろう。
戦略的明確さ、曖昧さについては、この記事に書かれていることが、一般的な見方だと思います。

ただ、この論評に限らず米国の台湾戦略に関しては多くの論評にはある前提があります。それは米海軍と中国海軍は軍事的に拮抗しているか、インド太平洋地域に限れば、凌駕しているという前提です。

この前提は実は正しくはありません。これについては以前このブログで述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進―【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない!主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

米国防省などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはありません。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

特にその中でも、米海軍はASW(対潜水艦戦闘力)が中国海軍をはるかに凌駕しており、その中でも対潜哨戒力は、中国を圧倒しています。さらに、米軍の攻撃型原潜は、いまや水中の武器庫と化しており、巡航ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷などありとあらゆる武装を格納しています。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

その中国海軍と米海軍が戦えば、米軍が圧倒するのは疑いがないです。よって、台湾有事においては、米海軍攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、それで解決できます。大型のものを3隻派遣して、交代制で24時間常時台湾近海に1隻を潜ませ、中国海軍が台湾に侵攻しようとすれば、魚雷、ミサイルですべての艦艇、多くの航空機を撃沈することができます。

それどころか、巡航ミサイルで中国のレーダー基地、監視衛生の地上施設なども叩くことができます。

それでも仮に、中国軍が陸上部隊を台湾に上陸させることができたにしても、攻撃型原潜で陸上部隊への補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。

この記事で「ゲームの目的」とは米海軍の弱点補強のための予算獲得や、多くの人の耳目を惹き付けることです。この目的のため、台湾戦略ということになると、国防省はもとより海大でも、米国の原潜、特に大型の攻撃型原潜や米海軍の世界トップレベルの対潜哨戒能力は急に姿がなくなってしまいます。

国防省や海大が公式にこのような戦略案を出しているわけですから、米国政府としては、これを無視するわけにも、ましてや否定するわけにもいきません。ただ、国務省などは様々なインテリジェンスから、台湾防衛は比較的簡単だし、たとえ台湾を巡って中国海軍と海戦になったとしても米海軍側の犠牲者は多くはならないことを知っていることでしょう。

そうなると、自ずと台湾戦略については、あるときは明確に、またある時は曖昧にならざるを得なくなります。

さらに、上の記事では、「米国が"戦略的明確さ"を宣言するためには、米国の西太平洋における軍事力のみならず、台湾有事の際の日本の後方支援能力も充分に確保されなければならない」としていますが、これは事実だと思います。

インド太平洋地域は広大です。米国一国だけでは守備するには広すぎます。多くの国の支援が必要です。であれは、米軍が台湾を守備するのは簡単だと言ってしまうよりは、危機を煽っておいたほうが、良いという判断もあるでしょう。

そうして、米軍が台湾有事で、攻撃型原潜を用いようとしていると考えられることは、米国ポウ長官オースチン氏の発言からもうかがえます。これについては、以前このブロクでも述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。

米潜水母艦「フランク・ケーブル」6年ぶり来航 台湾情勢にらみ抑止力強化【日曜安全保障】―【私の論評】オースティン長官の「抑止」とは、最恐の米攻撃型原潜による台湾包囲のこと(゚д゚)!
2021年12月4日、レーガン国防フォーラム(Reagan National Defense Forum)において、オースティン(Lloyd James Austin III)米国防長官は、2022年初頭に公表される新しい国防戦略に言及し、その中で、新国防戦略の核となる「統合抑止(Integrated Deterrence)」に関して述べています。

米オースティン国防長官
その「統合抑止(Integrated Deterrence)」には、無論のこと攻撃型原潜による台湾防衛も含まれているだろうという趣旨でこの記事を書きました。この記事から一部を引用します。

この記事は、昨年12月12日のものです。潜水母艦「フランクケーブル」の日本寄港に関して、推測しています。
一方米攻撃型潜水艦は、潜水母艦から迅速に補給を受けつつ攻撃ができますから、トマホークなど1000発でも、2000発でも打ち放題になるので、圧倒的に有利に戦闘を展開できます。それにもしかすると、台湾にも補給基地を用意しているかもしれません。それに、日本の米軍基地からも補給が受けられます。交代しながら、24時間臨戦態勢で、攻撃ができます。

もし、それでも台湾に上陸した中国の地上部隊が台湾軍を攻撃をしようとすれば、台湾軍に撃破されることになるでしょう。それでも諦めなければ、潜水艦によりほぽすべての艦艇が撃沈され、中国海軍は壊滅します。このような攻撃ができる米軍の攻撃型原潜がすでに台湾付近に潜航しているとみなすべきです。

そのことを米軍は、「フランク・ケーブル」を神奈川・横浜、広島・呉、長崎・佐世保、そして沖縄と、立て続けに寄港させるこによって、中国に対してはっきりわかるように示しているのです。私は、オースティン国防長官が述べた「抑止」の全貌(ブログ管理人注:台湾戦略における「抑止」)はこのようなことだと思います。これでは、中国は台湾への武力侵攻はあきらめざるをえません。侵攻すれば、中国海軍は崩壊し多数の犠牲者を出し、習近平の権威は地に落ちることになります。

 このような現実があり、中国海軍は米海軍に勝てる見込みはないので、中国は「法律戦」を仕掛けようとしているのではないでしょうか。

中国が台湾に本格的な軍事的介入をしようとすれば、1998年、江沢民下の中国は、台湾北部沖合と南部沖合に対し、ミサイルを発射し、台湾を威嚇した時、クリントン政権下の米国は、2隻の空母を台湾海峡に急派したのに対し、中国はなすすべなく後退したことがあったことの再現になることでしょう。

米国は、台湾近海に攻撃型原潜を派遣して、24時間の防備体制をしくことを宣言することになでしょう。そうすれば、中国はなすすべもなく、後退することになります。後退しなければ、中国は海軍は新型空母「福建」を含め、崩壊することになります。

1998年の台湾海峡危機での屈辱を晴らすために、中国は海軍の増強に勤めました。そうして、艦艇数は増やしたものの、対潜水艦戦争(Anti Submarine Wareare)では未だ米国には追いつけません。特に対潜水艦哨戒能力では日米に大幅に遅れをとっています。

その結果として、中国は海戦能力では到底日米に及びません。その屈辱を晴らそうにも、従来のように日米から技術を剽窃しようとしても日米ともに従来よりもはるかにガードを固め容易ではありません。それにロシアも対潜哨戒能力が低いのであてになりません。

この1998年の「台湾海峡危機」においてさえ、台湾海峡が、中国の内水である、などという主張を中国は行ったことはないのに、中国がそのような主張はじめたことが、上で述べたことを裏付けていると思います。

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2022年7月4日月曜日

ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑―【私の論評】ウクライナを経済発展させることが、中露への強い牽制とともに途上国への強力なメッセージとなる(゚д゚)!

ロシアの欧州逆制裁とプーチンの思惑

岡崎研究所

 6月14日、ガスプロムはノルド・ストリーム経由のドイツ向けガスの供給を40%削減すると発表した(翌15日にはこれを60%に拡大した)。その理由としてパイプラインの部品の定期修繕がカナダにあるシーメンスの工場で行われているが、それがカナダ政府の対ロシア制裁によって再納入出来なくなっているとの事情をあげているという。

 しかし、その説明を鵜呑みにする向きはない。イタリアのドラギ首相が言うように、その説明は嘘であり、「小麦が政治的に使われているのと同様、これはガスの政治的利用である」に違いない。


 既にポーランド、オランダ、ブルガリアに対するガス供給は停止されている他、幾つかの企業に対する供給も削減されているようであるが、ここに来て欧州の弱みに本格的につけ込む戦略の一手を打った(ガス需要が高まる冬には更なる削減を仕掛けるかも知れない)ということであろう。いわば西側の制裁に対して逆制裁をもって対抗する構えではないかと思われる。

 その決定の背景には、エネルギー輸出が減っても、価格の上昇がこれを補って余りあるとの計算が働いたことがあるに違いない――ウクライナ侵攻以降100日のロシアのエネルギー輸出は930億ユーロで、2021年の輸出額の約40%を100日で稼いだことになるとの試算がある。

 また、プーチン大統領が西側の制裁を乗り切れると信ずるに至ったこと(その判断の当否は別として)があるかも知れない。6月17日、サンクトペテルブルグの国際経済フォーラムで演説した同大統領は西側の制裁を「常軌を逸し(insane)」「狂気じみた(crazy)」ものと呼び、西側はロシア経済を暴力的に崩壊させることを予想したが、そうはならなかった、ロシア経済は正常化する、「ロシアに対する経済的電撃戦は最初から失敗する運命にあったのだ」と述べた。

 欧州ではエネルギーと食料の価格が高騰し、5月のインフレ率が8.1%と高い水準を維持する状況にあって、6月9日、欧州中銀は7月に量的緩和政策を終了し政策金利を引き上げることを発表している。

 これが債権市場の動揺を招き、イタリア国債の利回りは急上昇した。10年物国債の利回り(年初は1%)は急上昇して一時4%を超えたが(目下3.7%程度)、ユーロ圏の安定を不安視する向きもある。

耐えるしかない欧州

 こういう状況を見て、プーチン大統領はガス供給を絞り、特に脆弱なドイツとイタリアを標的に、市民生活を直撃し、インフレを煽り、欧州経済に圧力をかけ、厭戦気分を醸成することを思いついたに違いない。小麦もそうである。ロシアがオデーサの食料倉庫を攻撃・爆破したとの報道があるが、世界的な食糧危機を更に進行させ、その責任を西側になすりつけることを思いついたのであろう。

 欧州は耐えるしかない。ロシアの逆制裁を逆手に取ってエネルギーのロシア依存の脱却を急ぐしかないであろう。他方で、欧州連合(EU)はロシア原油の禁輸の徹底を急ぐ必要がある。

 ロシア原油は中国とインドが調達を拡大しており、米欧の禁輸の実効性が失われている印象である――このような事態を防ぐために、ロシア原油を輸送するタンカーに対する海上保険の付与の禁止でEUと英国が合意したはずであるが、その効果を検証する必要があろう。

【私の論評】ウクライナを経済発展させることが、中露への強い牽制とともに途上国への強力なメッセージとなる(゚д゚)!

ロシアからみれば欧州連合(EU)が米英と足並みを揃えたことは、おそらく予想外だったでしょう。EUの中核国である独仏は米英よりもロシアに宥和的な姿勢をとってきました。EUは化石燃料をロシアに依存するなど経済的な結び付きも緊密です。その分だけ、EUによるロシアへの経済制裁の効果は高いですが、EU側が受ける痛みも大きくなります。


ロシアは、EUの脱ロシアの動きを座視するつもりはないでしょう。ロシアにとってもパイプライン・ガスの代替先の早期確保は難しいですが、ロシアにはEUが脱ロシア・ガスを実現する前に供給停止のカードを切り、揺さぶりを掛けることでしょう。

すでにロシアが一方的に決めたガス代金のルーブル建てでの支払いに応じなかったなどの理由で、ポーランド、ブルガリアに始まり、ドイツ、イタリアなどへのガス供給を停止・削減しています。ガスを巡るEUとロシアの攻防は、需要期となる今年秋口以降に向けて、激しさを増すことになるでしょう。

米国と欧州が国際社会を動員してロシアを政治的、経済的に孤立させようとする中で、あまり注目されなかった事象として、中国、インド、そして発展途上国の多くが乗り気でなかったことがあります。これは実利的な面もあります。

ロシアは世界の多くの地域にとって食糧、燃料、肥料、軍需品、その他の重要な商品の主要な供給国です。しかし、ロシア型の社会の腐敗、非自由主義、民族主義が、世界の多くの地域で、ルールではないにせよ、一般的であることも理由の1つです。世界の多くの国の指導者は、冷戦後の時代を形成してきた西側の制度や規範に対するプーチンの広範な拒否に共感しているようです。

ただ、このブログでもたびたび主張しているように、民主化は経済発展のためには欠かせません。民主化と経済は密接に関係しているのです。しばしば腐敗が取りざたされる、韓国は民主国家なのかというのは疑問があるところですが、それでも中露からみれば、はるかに民主化が進んでいます。

その韓国は現在ロシアのGDPを若干上回っています。しかも韓国の人口は約5000万人ですが、ロシアの人口は1億4000万人であるにもかかわらずです。これは韓国の一人あたりのGDPがロシアのそれを大幅に上回っているからです。

中露の一人あたりのGDPは10000ドル強にすぎません。これは、韓国はもとより、台湾や、バルト三国よりもかなり低いです。

なぜ、このようなことになってしまうかといえば、先進国においては民主化を進めた結果、多く中間層を輩出し、これらが自由に社会経済活動を行い社会のありとあらゆるところでイノベーションを起こし、富を生み出すことになるのですが、民主化が進んでいない中露などでは、政府などか大規模な投資をしてイノベーションを行ったにしても、西欧諸国のような大規模で、星の数ほどのイノベーションにはなりえず、結果として経済が発展しないのです。

それは、下の髙橋洋一が作成したグラフでも明らかです。


このグラフ、相関係数が0.7 となっていますが、これは社会現象の相関係数としてはかなり高い数値です。

欧米の指導者たちは、世界を気候変動から救うという名目で、発展途上国に対して自国の石油やガス資源の開発、および化石燃料へのアクセスによって可能になる経済成長をあきらめるよう促してきました。

先進国経済が今でも化石燃料に大きく依存していることから、アフリカをはじめとする途上国政府は、これを当然ながら偽善と判断することになります。一方で貧しい国々では石炭火力発電を段階的に廃止するよう提唱しているのです。富裕国政府は、自国の資源を利用し続けながらも、貧しい国々の化石燃料インフラ整備に対する開発資金をほとんど断ち切っているのです。

恨みは深いです。何十年もの間、欧米の環境NGOやその他のNGOは、政府や国際開発機関の間接的なあるいは直接的な支援を受けて、ダムから鉱山、石油・ガス採掘に至るまで、大規模なエネルギー・資源開発に幅広く反対してきたのです。

NGOの環境問題や人権問題に対する懸念は、たいてい本物です。しかし、これらの問題に対する欧米の取り組みが十字軍的で、しばしば恩着せがましいのは、NGOの地元キャンペーンが主に欧米によって資金が出され、人員が動員され、組織化されているという事実と結び付き、植民地時代から続く反欧米の深い溝を生み出してしまっているのです。

日本人はこれを理解するのは難しいかもしれませんが、未だにくじらの町太地町に居座る、環境保護団体を思い浮かべると理解しやすいと思います。特にオーストラリアの保護団体の活動は執拗なものでした。オーストラリア人活動家の押し付けがましい発言や、自分たちが絶対に正しいという信念からの無謀な行動をみて反発しなかった日本人はいなかったでしょう。

途上国に対する NGO の働きかけは、日本に対する鯨問題へのいやがせのスケールをはるかに上回るものであり、途上国の大きな怒りを買うことになったのです。

一方中露は環境問題などに躊躇せず、エネルギー、資源採掘、インフラへの投資をテコに途上国における地政学的利益を拡大してきました。その意図は、モスクワと北京の経済的優先順位を高める形で開発途上国の依存関係を構築し、かつ国際的な影響力を生み出すことです。ウクライナ侵攻以来、この戦略の有効性は誰の目にも明らかになりました。

ロシアのウクライナ侵攻、先進国による対ロ制裁を契機に、先進国と新興国との間には一気に軋轢が強まっています。そのため、G7は有効な対策を打ち出すことが難しくなっており、この点は今回のG7サミットでも改めて浮き彫りとなっています。

先進国としては環境問題では、発展途上国が化石燃料を用いて産業を起こしても、当初はそれはわずかなものであり、さほど問題にはならないはずですから、発展の段階に応じて、それを要求するようにすべきです。人権問題に関しては、人権問題自体だけを問題にするだけではなく、人権を重視しないような非民主的国家では経済発展しようがないことを中露などを例にとってわかりやすく啓蒙していくべきです。

そのプロセスを欠いて、いきなり環境問題や、人権問題に走るから反発されるのです。

ウクライナ産の小麦に依存するアフリカ・中東諸国の国々は、価格高騰のみならず、戦争の影響でウクライナ産の小麦の入手が難しくなっています。そうしたもとで、多くの国が輸出制限を実施していることが、食料危機をより深刻化させています。

G7サミットではバイデン米大統領が途上国へのインフラ整備支援を打ち出したのですが、これは、中国の「一帯一路戦略」に対抗するものです。世界経済が抱える課題に対応するというよりも、先進国の利害に強く関わる政策です。世界のリーダーたちが、国を超えて世界全体が抱える諸問題への対応を推進する、という本来のG7の意義は後退してしまっているのではないでしょうか。

フィンランドに拠点を置く独立系の「エネルギー・クリーンエアー研究センター(CREA)」がまとめた報告書では、ロシアの戦費は1日あたり約8億7600万ドルと見積もられています。

一方、CREAは、ロシアはウクライナにおける紛争が始まった2月24日から6月3日までの100日間に、化石燃料の輸出で970億ドルの収入があったとしています。1日に換算すれば9億7000万ドル程度です。ロシアの戦費は化石燃料の輸出による収入で賄われたことになります。

取引価格を一定水準以下に抑えることを、石油タンカーでの船舶保険の利用条件とする案が浮上しているといいます。しかし、そうした枠組みが本当に有効に働くかどうかは疑問です。実際には、ロシア産原油の輸出を抑制することに一定程度働く一方、一段の価格高騰を招くことにはならないでしょうか。

考えれば考えるほどロシアの先行きは暗いですが、「何があっても確実にロシアに残るもの」も少なからず存在する。例えば以下のような要素です。
(1)地球上の陸地面積の6分の1を占める広大な国土
(2)潤沢な地下資源(ただし効果的に使えるかどうかは不明)
(3)安保理常任理事国の地位(拒否権は永遠)
(4)膨大な量の核兵器

ロシアは、世界最大の国土面積を有する巨大国家です。万一誰かに攻め込まれた場合には、戦略縦深の後退によっていくらでも時間を稼ぐことができます。その上で正規軍とパルチザンによる反撃が可能です。つまり守りに対しては絶対的に強いのです。ロシアは過去においては海外から攻め込まれたときの勝率は100%です。

ただし自分たちが他国に攻め込んだときはその限りではありません。露土戦争(1877年~1878年)は負けているし、日露戦争(1904年~1905年)もそうです。今回の対ウクライナ戦争も、多分にその公算が大です。守りの絶対王者は、攻めに回ると意外と心許ないのです。それでも、他国に攻め込まれて白旗を掲げる、ということだけは考えにくいです。最後は必ず、プーチンを相手に「交渉」という形で終わらせることになるのでしょう。

「この戦争によってロシアが新たに得るもの」も検討しなければならないです。それはおそらく「中国との腐れ縁」ということになるのではないでしょうか。

すでにロシアからは、欧米を中心に1000社近くが撤退しているなか、中国企業の「残留」が目立ちます。

西側のグローバル企業がどんどん撤退する中で、ロシア・ビジネスは彼らには「おいし過ぎて止められない」のではないでしょうか。対ロシア経済制裁が長期化し、西側企業の撤退が続くにつれて、その穴を埋めるのは中国企業ということになるのでしょう。

ロシア産の資源をアジア勢がディスカウント価格で買っているお陰で、国際商品価格の上昇に歯止めがかかっているという現実もあります。いずれにせよ、こういう状況が続くにつれて、ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなることが避けられないのではないてしょうか。

サンクトペテルブルクで開かれた17日の国際経済フォーラムでプーチン大統領は、軍事同盟ではない欧州連合(EU)へのウクライナ加盟を容認する姿勢を見せる一方で、それはウクライナの「半植民地化」を意味するとしました。プーチン大統領は強気姿勢を維持するのですが、海外からの資金調達、支援が得られない中で戦争を続ければ、ロシア経済は一段と悪化していくことになります。

海外企業のロシア国内での事業停止・撤退の痛手も今後本格的に出てきます。そうしたなか、ロシアは中国に一段と接近し、経済面では中国の「半植民地化」することを受け入れないと、この先、経済の発展は望めなくなるのではないでしょうか。

プーチンと習近平

ただ、先程述べたように、中露の一人あたりのGDPは両国とも10000ドルに過ぎません。中国はロシアの10倍の人口を擁しているから、経済も10倍なのであって、経済発展のノウハウなどありません。

実際このブログでも以前述べたように、バルト三国等の東欧諸国が、当初中国の「一帯一路」の投資を受け入れたのは、国民一人ひとりを豊かにしたいと考えたからでしょう。しかし、バルト三国より一人あたりのGDPが低い中国にはもともとそのようなノウハウも知識もありません。

東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったといえます。

ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなって、中国の投資を受け入れたとしても、経済発展は望めません。せいぜい、ウクライナ戦争開始前の水準に戻すことは、ひょっとするとできるかもしれませんが、それ以上は望めません。

中国は過去には、国内で大規模なインフラ投資をしてきたので、経済発展してきたのですが、いまや投資が一巡して、国内では目ぼしい投資案件がなくなったため、「一帯一路」に望みをかけたのでしょうが、そもそも経済発展のノウハウがない中国が海外投資で、地元国を潤わせさらに、自らも潤うなどという芸当はできません。

ロシアも復興のためには、中国の支援を受け入れるかもしれませんが、その後も中国に頼り、中国のジュニア・パートナーであり続けることはないでしょう。

中露は人口が減少傾向にあり、民主化して体制を変えない限り、没落の道をたどるだけです。欧米としては、ウクライナを取り込み、この国を経済発展させるべきでしょう。それが、何よりも中露への最大の牽制となり、途上国への強いメッセージとなることでしょう。


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2022年7月3日日曜日

戦争は「誇張」されている?「夏を満喫」するウクライナ市民の写真が意味するもの―【私の論評】戦争の一側面しか見ない人に戦争を語る資格なし(゚д゚)!

戦争は「誇張」されている?「夏を満喫」するウクライナ市民の写真が意味するもの

<ウクライナで「夏を楽しむ」人々の写真が投稿され、一部からは「戦争のひどさが誇張されているのでは?」との声も上がるが>

オデーサのビーチには地雷を警告する看板が

ウクライナでは今も激しい消耗戦が続いている。特に東部での戦闘が激化し、ウクライナ軍はセベロドネツクの南北などでロシアの進軍に抵抗している。

一方、戦場がおおむね東部に移ったことで、広大な国土を持つウクライナのほかの地域では、戦いの激しさを以前ほど身近には感じなくなってきているのかもしれない。そうした地域の人々が、夏の到来を「楽しんでいる」様子を収めた写真がネットにはいくつも投稿されている。

しかし、これらの写真を見て、ウクライナは「報道されているほどひどい爆撃を受けていないのではないか?」と、主張する人が現れている。ウクライナの「惨状」は誇張されており、ここまで資金をつぎ込んで支援しなくても大丈夫ではないのか、というのだ。果たして彼らの主張は正しいのか?

6月16日に投稿されたあるツイートには、ウクライナの首都キーウの小さなビーチと思われる場所を数十人が利用する写真が掲載されている。

このツイートは、ユーチューバーのアレックス・ベルフィールドが投稿したもので、1万人以上が反応している。ベルフィールドはツイートの中で、メディアが戦闘の激しさを誇張し、誤解を招くような報道を行っていることを示唆している。


キーウの写真を掲載し、戦闘の激しさを疑問視するようなツイートはほかにもある。これらのツイートで紹介されている写真は、キーウを東西に横切るドニエプル川で撮影されたものだ。

ドニエプル川沿いは以前から、キーウ市民が水泳や日光浴を楽しむ人気のレジャースポットだが、それは2022年も例外ではないようだ。

■広大な国土すべてが戦場ではない

ウクライナはロシアに次いで、ヨーロッパで2番目に大きい国であり、直接的な軍事行動が比較的少ない地域もあるのは当たり前のことだ。

首都キーウはここ数週間にも砲撃を受けるなど無傷なわけではないが、それでも現在の主な戦場は北東部やドンバス地域であり、キーウからはかなり離れている。例えば、ロシアがまだ奪取を宣言していないハルキウまでは、キーウから車で約6時間かかる距離がある。

戦争が始まって2カ月間、ロシアの砲撃が続いたものの、その後ウクライナ軍は、首都と隣接地域から侵略軍を追い出すことに成功した。ただし、ロシア軍が再び攻撃を仕掛け、キーウの奪取を試みる懸念も残っている。

■絶望的な状況でも「日常」を求める心理

キーウは現在の戦闘休止状態によって、やや落ち着きを取り戻したとも言われている。しかし、政府当局は市民に対し、水辺で爆発物の調査が続いているため、ビーチに近づかないよう警告している。

また、ドニエプル川などで撮影された写真は絵のように美しいかもしれないが、キーウでは今も時おり空爆があり、ボランティアによる瓦礫の撤去が続いている。空襲警報はほぼ毎日、全国各地で発令されている。しかし、戦争の脅威がより明白な地域でも、ビーチや公共空間を利用する人々の姿が写真に収められている。

本誌がソーシャルメディアアプリのテレグラムで見つけた未検証の投稿では、(キーウよりはるかに戦場に近い)オデッサで、ミサイル防衛システムが背後で発射されるなか、市民が公共空間で詩を朗読したり、海からの侵入を防ぐバリアが設置されたビーチで、日光浴を楽しんだりしている。

オデーサの海岸を利用していた複数の市民が、地雷で命を落としたという投稿もある。

言うまでもないことだが、国の一部の人々の行動を捉えた写真が、必ずしもほかのすべての人々の行動や考え方を反映しているとは限らない。2020年には、新型コロナウイルス感染症によってソーシャルディスタンスの確保が求められ、効果的なワクチンもなく、感染者数が増加していたにもかかわらず、欧米のビーチや公園には大勢の人が訪れていた。

ユーチューバーのベルフィールドは、ほかの投稿でも誤解を招くような主張を行っている。彼らのツイートには、戦争に関する十分な裏付けがある証拠が欠けているように見える。なにより、人は絶望的な状況であっても、必死に「日常」を求めようとすることに対する繊細な理解も欠けているように見える。

ツイッターで共有されたこれらの写真は、ウクライナにおける戦争の存在や、その激しさの反証にはならない。キーウのビーチを満喫する人々の写真が存在するのは確かだが、これは決してメディアが戦争を誇張している証拠ではない。さらに、戦争の脅威がより明白である地域の映像は、リスクが高まっていても同じ生活を続け、残酷な戦争のなかで平常心を保とうとしている人々の姿を示しているように見える。
(翻訳:ガリレオ)

【私の論評】戦争の一側面しか見ない人に戦争を語る資格なし(゚д゚)!

このようなツイートをする人は、現実認識能力に著しく欠けているのでしょう。戦争していても、人々は日常生活を送るわけですし、食事をしたり、学校に言ったり、仕事をして生活の糧を得たり、恋愛したり、結婚したり、子供を産んだり、時には息抜きもするのです。日常生活の一面だけみて、それを全部であるというのは明らかに間違いです。

1995年に封切られた『きけ、わだつみの声 Last Friends』という映画で主人公の織田裕二さんが「誰がこの戦争を始めたんだ!」などと、主人公が悲痛な叫び声をあげるシーンが予告編としてテレビCMで何度も映されたことがあり、その予告を見た、曽野綾子さんが「戦争中にはこんなことは全くなく、淡々と日々が過ぎていった」と語っておられました。


確かに、戦中末期には、食料不足などが顕著になっており、その面では大変だったでしょうが、戦前・戦中が軍部が専横した暗黒時代であるような見方は全くの間違いです。

そのような話は、私は伝聞として聴いたことがあります。私の曽祖父は太平洋戦争直前の頃も札幌に住んでおり、太平洋開戦時には、家に訪ねてきた近くの駐在さんと、開戦の話になり駐在さんも曽祖父も「いやー大変だ、日本と米国が戦争になった、日本は負けてしまうだろう、とてつもないことになった」と互いに大声で話ていたと祖父が私が中学生くらいのときに語って聞かせてくれました。

 確か、私が映画か何かで「官憲が一般市民を監視して、弾圧」をしていた映画のシーンなどをみて「あれは本当なのか」という質問を祖父にしたときの答えだったと思います。

当時の日本軍部が、ナチスのように振る舞い、国民を弾圧したなどというのは全くの間違いです。無論、官憲による弾圧が全くなかったとはいえず、そのようなこともあったとは思いますが、しかし、それがナチスのように、国家レベルで組織的に体系だてて行われていたかといえばそれはなかったと思います。

ある期間戦争をしていても、たとえば年単位で数字だけをみれば、戦争などしたなどということが認識できないこともあります。また、日本は戦後すべてが焦土と化して、そこから戦後日本がスタートしたという見方も、一見正しいようですが、これも正しくはありません。

これについては以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
【田村秀男のお金は知っている】「新型ウイルス、経済への衝撃」にだまされるな! 災厄自体は一過性、騒ぎが収まると個人消費は上昇に転じる―【私の論評】今のままだと、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は落ち込み続ける(゚д゚)!
この記事は、2020年2月のものであり、コロナが流行り始めたばかりの頃です。この頃は、マスコミは日本の経済停滞はコロナのせいであるとして、それ以前に増税がなされて経済が停滞していたことを無視するような報道をしていました。この記事は、それに対する批判の記事です。

その後皆さんご存知のように、コロナはパンデミックとなり、世界中で経済の停滞をもたらしましたが、安倍政権でコロナが流行り始めてから、政権交代した菅政権の両政権の期間において、当時いわれていた需給ギャップ100兆円に匹敵するほ合計100兆円の補正予算を組み、この期間には失業率が2%台という低さに抑え、大成功しました。

ただ、マスコミがこれを報道しないため、これを偉業であると認識しない人も多いです。

さて、本筋に入るため、この記事から一部を引用します。
あの第二次世界大戦であってさえ、統計上は年度ペースでみていれば、多くの国々で後の歴史学者は第二次世界大戦があったことさえ気づかないだろうと、あの経営学の大家ドラッカー氏が述べていました。

簡単にいうと戦争中は、各国が戦争のために、兵器などを大量に製造し、戦後は復興、復旧のためものすごい勢いで、生活物資などを増産するため、年度ベースでみると戦争の形跡など見当たらなくなってしまうのです。

日本も例外ではありませんでした。日本は確かに、原爆を2発も落とされ、主要都市はことごとく爆撃され、とんでもない状態になりましたが、それでも統計上は終戦直後には、国富の70%が残り、そこからスタートしたのであり、良くいわれているように戦後のやけのヶ原でのゼロからのスタートではなかったのです。

大都市や中核都市は焼け野原になっていても、地方での農産物や、製造の基盤は残っており、そこからのスタートであり、決してゼロではなかったのです。そのような物資や基盤を求めて、終戦後しばらくの間は北海道への他地区からの移入が続きました。

しかし、日本の場合は他の先進国では見られなかった特殊な現象がありました。それは、軍部による様々な物資の莫大な隠匿でした。それは、金塊から、米、小麦粉、砂糖、塩、医療品、衣服など様々な膨大な隠匿物資があったそうです。

NHKスペシャル「東京ブラックホール」で紹介された、旧日本軍による隠匿物資
これらは、戦争中は戦争継続という意味合いで、まだ理解できますが、戦争が終わっても隠匿していたのは理解できないところです。これは、はっきり言うと犯罪です。

このように、様々な物資が隠匿されたため、終戦直後の多くの国民の生活はかなり貧しいものでしたが、それら隠匿物資も、米軍に摘発されたり、闇市で売られるようになったり、その闇市が日本の警察によって摘発されるなどして、市場に出回るようになりました。そうして、ご存知のように日本は驚異の高度成長を遂げることになるのです。

日本の軍人というか、陸軍省等実体は役人ですから、何やら日本の役人には、物資を隠匿するような習性が元々あったようです。そのような習性は、現在の財務省の官僚や、日銀の官僚などに今でも色濃く受け継がれているようです。 

なお、戦後の物資隠匿については、以下の記事が詳しいです。是非ご覧になってください。

敗戦直後の「地獄」は、物資の隠匿に狂奔したエリートの不正によってもたらされた〔前編〕 貴志謙介『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』より
敗戦直後の「地獄」は、物資の隠匿に狂奔したエリートの不正によってもたらされた〔後編〕 貴志謙介『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』より

多くの日本人は未だに、官僚に欺かれているようです。財務省による増税の論理や、消費税の社会保障目的税化の理屈を聴いていると、本当にそうだと思います。

そうして、いえるのは戦争にも様々な局面があり、ある一面だけをみてそれが全部であるかのように思うことは明らかに間違いであるということです。

感情だけで戦争を見るのも良くないですし、経済合理性だけでみて、年次ベースで経済指標だけみていれぱ、戦争があったことにすら気づかないかもしれません。マクロ的視点だけでも、ミクロ的視点だけでも戦争の実像は捉えられません。

確かに、日本は戦後国富が七割が温存され、そこからスタートという、他のアジア諸国などから比較すれば、恵まれたスタートを切りましたが、一方で第二次世界大戦では大勢がなくなっていますし、日本の都市部の多くが焼け野が原になったのは事実です。


そうして、沖縄戦においては、軍人の戦死者が一番多かったのは北海道出身者であり、1万800名と記録されています。

私は旭川の高校を卒業しましたが、在学中に同じクラスの人に、祖父が沖縄で戦死したという話を聞いた後で、また同じ学年の他のクラスの人の祖父もやはり沖縄で、戦士したという話を聴いたので、郷土史を調べたところ、その事実を発見しました。沖縄戦で軍人で一番戦死者が多かったのは北海道ということには本当に驚きました。

当時、日本史の先生にそのことを話すと、先生も驚いていました。

郷土史によれば、北海道の上川地方では、沖縄戦の戦死者も含めて、農家の戦死者が多く、戦後しばらく農村社会に影を落としていた時期があったそうです。

以下に沖縄戦での北海道の戦没者数を市町村別に掲載します。

「本籍地市区町村ごとの刻銘者数〈市区町村名は合併前のもの〉」【北海道】

ー北海道計1万800ー

石狩支庁〉ー1092ー

札幌市761、江別市82、千歳市32、恵庭市34、広島町17、石狩町25、当別町52、新篠津村10、厚田村35、浜益村39、不祥5

渡島支庁〉ー1354ー

函館市684、松前町78、福島町46、知内町26、木古内町47、上磯町60、大野町37、七飯町46、戸井町44、恵山町25、椴法華村7、南茅部町27、鹿部村15、砂原町15、森町67、八雲町85、長万部町39、不祥6

檜山支庁〉ー326ー

江差町41、上ノ国町41、厚沢部町31、乙部町44、熊石町37、大成町32、奥尻町10、瀬棚町29、北桧山町25、今金町36

後志支庁〉ー1299ー

小樽市557、島牧村17、寿都町72、黒松内町26、蘭越町45、ニセコ町24、真狩町22、留寿都村34、喜茂別村34、京極町31、倶知安町42、共和町51、岩内町89、泊村40、神恵内村19、積丹町41、古平町33、余市町116、仁木町13、赤井川村11、不祥3

空知支庁〉ー1612ー

夕張市168、岩見沢市115、美唄市155、芦別市43、赤平市55、三笠市119、滝川市86、砂川市59、歌志内市66、深川市119、北村20、栗沢町66、南幌町17、奈井江町27、上砂川町32、由仁町49、長沼町58、栗山町71、月形町17、浦臼町17、新十津川町55、妹背牛町26、秩父別町30、雨竜町27、北竜村21、沼田町51、幌加内町40、不祥3

上川支庁〉ー951ー

旭川市304、士別市82、名寄市92、富良野市65、鷹栖町30、東神楽町10、当麻町31、比布町21、愛別町18、上川町16、東川町31、美瑛町48、上富良野町29、中富良野町26、南富良野町22、占冠村2、和寒町24、剣淵町19、朝日町12、下川町17、美深町25、音威子府村6、中川町19、不祥2

留萌支庁〉ー238ー

留萌市50、増毛町37、小平町29、苫前町23、羽幌町41、初山別村17、遠別町9、天塩町19、幌延町13

宗谷支庁〉ー198ー

稚内市41、猿払村20、浜頓別町4、中頓別町23、枝幸町11、歌登町15、豊富町13、礼文町18、利尻富士町41、利尻町11、不祥1

網走支庁〉ー1147ー

北見市163、網走市109、紋別市82、東藻琴村17、女満別町33、美幌町63、津別町39、斜里町50、清里町17、小清水町26、端野町28、訓子府町36、置戸町35、留辺蘂町41、佐呂間町60、常呂町20、生田原町25、遠軽町54、丸瀬布町14、白滝村17、上湧別町30、湧別町54、滝上町43、興部町37、西興部村25、雄武町29

胆振支庁〉ー583ー

室蘭市205、苫小牧市64、登別市28、伊達市65、豊浦町34、虻田町24、洞爺村15、大滝村7、壮瞥町26、白老町31、追分町26、厚真町21、鵡川町16、穂別町21

日高支庁〉ー223ー

日高町11、平取町26、門別町34、新冠町8、静内町35、三石町26、浦河町37、様似町27、えりも町19

十勝支庁〉ー929ー

帯広市194、音更町86、士幌町22、上士幌町25、鹿追町29、新得町30、清水町58、芽室町67、中札内村17、大正村4、更別村18、忠類村10、大樹町27、広尾町31、幕別町62、池田町40、豊頃町43、本別町54、足寄町43、陸別町19、浦幌町49、不祥1

釧路支庁〉ー489ー

釧路市214、釧路町26、厚岸町51、浜中村33、標茶町28、弟子屈町42、阿寒町30、鶴居村12、白糠町29、音別町23、不祥1

根室支庁〉ー207ー

根室市100、別海町36、中標津町31、標津町20、羅臼町8、歯舞町10、千島択捉郡留別村1、千島択捉郡泊村1

樺太庁〉ー152ー

以上は、沖縄戦だけの戦没者数です。

戦争の一側面しか見ない人は、以上で述べたようなことを見逃してしまうのでしょう。左翼運動家などが「戦時中沖縄は捨て石にされた」などと暴言をはいたりすると、ほんとうにやるせない気持ちになったことがあります。

私は、戦争の一側面しか見ない人に、戦争を語る資格はないと思います。

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