〈やっぱりあの国⁉︎〉相次ぐ海底ケーブル、海底パイプラインの破壊工作、日本が他人事ではいられない深刻な理由
まとめ
- 海底インフラの破壊活動が増加しており、特に中国船による意図的な破壊が懸念されている。
- 2016年の嵐によるイギリスとフランス間の海底送電線の切断事件が、電力供給のリスクを浮き彫りにした。
- 日本はデータセンターの国内設置が急務であり、安定した電力供給が必要である。
- アメリカでは原子力発電所近くにデータセンターを設置する計画が進行中で、電力供給の効率化が求められている。
- 日本の第7次エネルギー基本計画では、2030年度以降の電力需要の増加に対応する必要があり、自由化された市場では将来の電気料金について予見性が失われ巨額な設備投資は実行されない。投資を支援する制度の創出は待ったなしだ。
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破壊された海底ケーブル AI生成画像 |
近年、海底インフラの破壊活動が増加し、安全保障上のリスクが高まっている。2016年11月20日、ドーバー海峡で発生した猛烈な嵐により、イギリスとフランスを繋ぐ海底送電線の能力が半減した。この嵐の中、錨を下ろした船が流され、英仏間に敷設された海底送電線8本のうち4本が切断された。この結果、フランスからの電力供給に依存するイギリスは、冬の電力需要期において原発1基分に相当する100万キロワットの供給力を失うという深刻な事態に直面した。
このような海底インフラの切断は時折発生するが、意図的な破壊行為は稀であった。しかし、最近の数年間で状況が変化してきている。例えば、2022年9月にはロシアとドイツを結ぶノルドストリーム1と2のパイプラインが破壊され、その後の調査でウクライナ人に対する逮捕状が発行されるなど、国際的な緊張が高まっている。また、2023年10月にはフィンランドとエストニアを結ぶ海底パイプラインが損傷し、24年11月にはスウェーデン領海での通信ケーブルが破壊される事件が発生した。これらの事件は、中国の船による破壊工作の可能性が報じられ、国際的な安全保障に対する新たな脅威を浮き彫りにしている。
日本もこのような脅威に直面しており、海底ケーブルが破壊される危険性があるため、データセンターを国内に設置することが急務である。安定的な電力供給がなければ、AIの進展に伴うデータセンター向けの電力需要の急増に対応できず、半導体製造などの重要産業も国内に立地できなくなる。特に、AIの利用が進む中で、データセンターの電力需要は今後急増すると予測されている。
アメリカでは、データセンターの電力需要が急速に増加しており、特に原子力発電所の近くにデータセンターを設置する計画が進行中である。マイクロソフトは、閉鎖されたスリーマイル島原発1号機からの電力供給を20年間受ける計画を発表しており、アマゾンも小型モジュール炉(SMR)をデータセンターの隣接地に新設する計画を立てている。これにより、発電所からの最短距離の送電が可能となり、安定した電力供給が実現される見込みである。
欧州系石油メジャーの動きは英BPは米東海岸の洋上風力事業から撤退、シェルも、洋上風力発電事業への新規投資を中止し、石油、ガス事業への投資に振り向けると発表し。欧米石油メジャーの方向は異なるが、より収益性の高い事業へシフトしている。
一方、日本では、経済産業省が12月17日に発表した第7次エネルギー基本計画の素案が、今後の電力需要の増加に対応するための方針を示している。この計画では、2030年度の電力需要が減少から増加に転じ、2040年度には発電量が1.1兆から1.2兆kWhに増加することを目指している。具体的には、原子力発電の比率を20%、火力を30%から40%、再生可能エネルギーを40%から50%に設定している。再生可能エネルギーの導入が進む中で、電気料金の上昇と引き換えに固定価格買取制度を利用することが想定されている。
しかし、この計画を実現するためには、原子力発電の設備の新設や建て替えが必要である。自由化された電力市場においては、将来の電気料金の予見性が失われているため、巨額の設備投資が行われにくくなっている。したがって、設備新設を支援する制度の創出が急務である。これにより、日本は将来の電力供給の安定性を確保し、経済成長を支えることが可能となる。
海底インフラの破壊活動の増加は、日本の安全保障や経済成長に新たな脅威をもたらしている。具体的な数値目標を掲げるだけではなく、実現に向けた具体的な施策や道筋を示すことが求められている。これにより、日本は将来的な電力供給の不安定さや安全保障上のリスクに対処することができるだろう。
この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。
【私の論評】日本のエネルギー安保と持続可能性:原子力と省電力半導体の未来
まとめ
- 日本の電力システムは独立しており、海外からの電力輸入は行っていない。これにより安全保障上のリスクを回避している。
- フィリピンの電力供給が中国の影響下にあることは、国家安全保障上の懸念を引き起こしている。
- 再生可能エネルギーは供給チェーンの脆弱性や不安定性などの欠点があり、原子力発電への注力が必要とされる。
- 小型モジュール炉(SMR)や核融合技術の実用化により、日本のエネルギー供給の安定性が向上する。
- 原子力の推進と省電力半導体の実用化によって、日本のエネルギー供給は盤石になる。
現在、日本の国際通信は主に光海底ケーブルによって行われているが、海底送電線を用いて海外から直接電力を輸入してはいない。日本の電力システムは独立した状態にあり、他国との接続がない。特に電力を輸入していないことは、日本が島国であることに起因し、外国との間に海底送電線網を構築するには莫大な資金が必要となる。結果として、これは安全保障上正しい判断といえる。
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2017年当時。供給余力と特に地方では少ない |
フィリピンは海底送電線を用いて中国から直接電力を輸入しているわけではないが、中国は間接的にフィリピンの電力供給に大きな影響力を持っている。中国の国家電網公司がフィリピンの送電企業NGCPの株式の40%を保有しており、NGCPは2009年からフィリピン全土で送電事業を行っている。NGCPはフィリピンの家庭の約78%に電力を供給しているため、中国の影響力は無視できない。この状況には懸念も存在する。フィリピンの電力供給網が中国政府の支配下にある可能性が指摘されており、紛争時に中国が電力網を遮断するリスクがあるという内部報告書も存在する。この状況は、国家安全保障上の懸念事項である。
日本は、フィリピンのようなエネルギー安全保障上の懸念を抱えることなく、独立した電力の確保を継続するために、今後も電力の輸入はせず、外国の事業者を関与させるべきではない。これを実現するためには、特に設備新設を支援する制度の創出が急務である。しかし、再生可能エネルギーには重大な問題が潜んでいる。
現在、日本で使用されている太陽光パネルや風力発電設備の多くは中国から輸入されたものであり、特に太陽光パネルは中国が世界最大の生産国であるため、そのシェアは非常に高い。風力発電設備も多くが中国製であり、コスト面でも競争力がある。この状況はエネルギーの導入促進に寄与しているが、安保上の懸念がある。
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日本に設置されている太陽光パネルはほとんどが中国製 |
具体的には、供給チェーンの脆弱性が問題視されている。特定の国に依存することで、政治的な緊張や貿易摩擦が生じた際に供給が途絶えるリスクがある。また、重要なエネルギーインフラに関わる技術が他国に依存していると、技術的な安全性や信頼性の確保が難しくなる可能性もある。さらに、エネルギーの自給自足を強化することは、国際的な競争力の向上やエネルギー安全保障の確保にもつながる。
環境や労働条件に関する懸念も生じており、持続可能な開発を考慮した場合、地域や国内での生産を促進することが求められている。これらの理由から、日本は再生可能エネルギーの国内生産を強化し、供給チェーンの多様化を図る努力が必要である。
再生可能エネルギーにはいくつかの欠点がある。不安定性があり、太陽光や風力は天候や時間帯に依存するため、発電量が変動しやすい。また、エネルギーの貯蔵が難しく、効率的な貯蔵システムが十分に普及していない。さらに、大規模な発電所は広大な土地を必要とし、土地利用や自然環境への影響が懸念される。初期投資が高く、特定地域では資源が限られることもある。これらの課題を克服するためには、技術の進化や政策の支援が重要であり、再エネを社会のインフラにしてしまうことは大きな間違いである。
こうしたことから、再エネは将来の技術革新を促すために、実験を継続する程度にとどめて、原子力発電に傾注すべきである。特に日本は当面、小型モジュール炉(SMR)の実用化を目指し、将来的には核融合を目指すべきである。
小型モジュール炉は安全性が高く、建設コストが比較的低いため、導入が容易である。従来の大型原子炉に比べて設計がシンプルであり、事故のリスクを低減できる点が評価されている。例えば、米国のWestinghouseが開発したSMRは、冷却システムが自然循環に基づいており、外部電源がなくても冷却が可能である。これにより、重大事故のリスクが大幅に軽減される。
エネルギーの安定供給が求められる中で、SMRは地域分散型の電源としての役割を果たすことができる。特に地方の電力供給において、地域ごとの電力需要に応じた柔軟な対応が可能である。
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小型モジール炉のサイズ感 1ユニットだとトレーラーに格納することができる |
将来的には核融合技術の実用化を目指すべきである。核融合は地球上のエネルギー需要を持続可能な形で満たす可能性を秘めている。燃料となる重水素やトリチウムは豊富に存在し、核融合による発電は放射性廃棄物が少なく、事故のリスクも極めて低いとされている。国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトが進行中であり、これにより核融合技術の商業化が現実味を帯びている。
日本がSMRの実用化を進めつつ、核融合技術の研究開発を並行して行うことで、エネルギーの安定供給と持続可能性を両立させる道を確保することができる。これにより、エネルギー政策の多様化と国際的なエネルギー市場における競争力の向上が期待される。
さらに、AIの発展に伴い、電力使用量が増すことが懸念されているが、これには以前似たようなことが指摘されたことがある。たとえば、米Googleは2009年1月11日、「Googleで1回検索すると、やかんでお湯を沸かす半分のエネルギーが必要で、二酸化炭素7グラムを排出している」との指摘に対して反論している。当時はインターネットの発展に伴い電子力消費量が幾何級数的に伸び、とんでもないことになるだろうといわれていた。しかし、現実にはそうならなかった。その理由は、半導体の電力使用量が大幅に減ったからである。
現在の半導体は、20年前の半導体と比較して同じ性能を持つ場合、電力消費量が大幅に減少している。具体的には、一般的に同性能の半導体は、20年前に比べて約50%から70%程度の電力消費量を削減できるとされている。この減少は、製造プロセスの進化や微細化技術の向上、さらには新しい材料や設計手法の導入によるものである。ナノテクノロジーの進展によりトランジスタのサイズが小さくなり、電力効率が向上している。また、低消費電力の設計が求められる中で、様々な省エネ技術が開発されている。
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ラピダスの小池淳義社長とテンストレントのジム・ケラー氏 |
今後も半導体の電力消費量は減っていくであろう。特にAIの普及が進む中で、現在の技術のままでは電力消費が破滅的に増加する可能性がある。これを回避するためには、超省電力半導体の設計と製造が不可欠である。北海道千歳市で工場建設が進んでいるラピダスとカナダのテンストレントの提携は、この課題に取り組む重要なステップである。ラピダスの社長である小池淳義氏は、超省電力半導体の開発を通じて、AIやその他の高度な計算処理が求められるアプリケーションに対応できる技術を推進している。具体的には、低消費電力で高性能を実現する新しい半導体材料や構造の研究が進められている。
この提携によって、ラピダスはテンストレントの先進的な技術を活用し、次世代の半導体市場において競争力を高めることを目指している。AI技術の進化に伴い、半導体の電力効率を向上させることは、持続可能なエネルギー利用に寄与するだけでなく、経済的な成長にもつながる。
小池社長のビジョンは、こうした超省電力半導体の実現を通じて、AIの普及を支えつつ、環境への負荷を軽減し、エネルギー効率の高い社会を築くことである。これにより、技術革新が持続可能な未来を実現するための基盤となることが期待される。
結論として、原子力の推進と省電力半導体の実用化によって、日本のエネルギー供給は盤石になる。小型モジュール炉や核融合技術の開発に注力しつつ、半導体技術の進化を活用することで、持続可能で安全なエネルギー供給体制を確立することが可能である。これにより、日本はエネルギーの自給自足を強化し、国際的な競争力を高めることができる。