まとめ
- 防衛省は2024年12月に「潜水艦発射型誘導弾」の導入方針を発表し、イメージ図を公開した。
- 新型ミサイルは敵の脅威圏外から攻撃可能で、遠方の艦船や陸上拠点への攻撃が想定されている。
- 三菱重工との開発契約を結び、2025年度予算案には取得費用として30億円を計上し、来年度から量産を開始する予定。
海上自衛隊の潜水艦 |
防衛省は2024年12月、新たな重要装備品の選定結果を公表。その中で「潜水艦発射型誘導弾」 を導入する方針を示し、イメージ図も公開しました。
海上自衛隊の潜水艦は現在、魚雷発射管からアメリカ製のハープーン対艦ミサイルを発射することが可能です。ただ射程は140kmに過ぎないため、遠方から敵の艦船などを阻止・排除することはできません。
導入が予定されている「潜水艦発射型誘導弾」は、敵の脅威圏外から攻撃が可能な、より長射程のスタンド・オフ・ミサイルです。洋上に展開する敵の水上艦艇だけでなく、拠点となる泊地などへの対地攻撃も想定されているようです。
なお、海上自衛隊の潜水艦をめぐっては、垂直ミサイル発射システム(VLS)を搭載した潜水艦も導入される予定ですが、「潜水艦発射型誘導弾」はハープーン対艦ミサイルと同様に、魚雷発射管から発射することが想定されています。
【私の論評】日本のスタンド・オフ・ミサイル搭載潜水艦は、戦略原潜に近いものになる
まとめ
- 日本の「潜水艦発射型誘導弾」は、約1,000キロメートルの射程を持つスタンド・オフ・ミサイルになる可能性があり、日本の防衛力強化と抑止力向上を目的としている。
- 防衛省は、現行のミサイルの射程を1000キロメートル以上に延伸することを目指し、2026年度に九州に新型対艦ミサイルを配備予定である。
- 一方台湾のHsiung Feng-4(雄風四型)は、射程約1,000キロメートルを持ち、これはウクライナのように他国のものではなく、自前のものであり、自国に意思決定だけで用いる事が可能。
- 日本が潜水艦からスタンド・オフ・ミサイルを発射できるようになると、中国にとって大きな脅威となり、事前の監視や攻撃が難しくなる。
- 日本の自前開発のスタンド・オフ・ミサイルは、他国の干渉を受けずに運用できかつ、戦略原潜的な運用が可能であり中国に対する抑止力を高める大きな要素となる。
スタンド・オフ・ミサイル 想像図 |
防衛省は、12式地対艦誘導弾の能力向上型を開発中であり、現行の数百キロメートルの射程を1,000キロメートル以上に延伸することを目指している。この長射程化により、敵艦艇に対して相手のミサイル射程圏外から反撃が可能となり、将来的には敵基地攻撃への活用も視野に入れている。
2024年7月の報道によると、射程1,000キロメートル超の新型対艦ミサイルが2026年度にも九州に配備される予定である。さらに、防衛省はスタンド・オフ・ミサイルの実践的な運用能力を今後5年間で獲得し、おおむね10年後までに必要量の1,500基規模を確保する方向で検討している。
これらの取り組みは、特に中国や北朝鮮などの周辺国の軍事的脅威に対応するための重要な装備となる可能性がある。防衛省は2022年度予算案にこのスタンド・オフ・ミサイルの開発費として393億円を盛り込んでおり、2025年度予算案には取得費用として30億円を計上している。これらの予算措置は、日本の防衛能力強化に向けた具体的な取り組みを示しており、今後の安全保障政策において重要な役割を果たすことが期待される。
スタンド・オフ・ミサイルの射程距離について、一般的にこれらのミサイルは数百キロメートルから1,000キロメートル以上の射程を持つことが多い。具体例として、アメリカの「トマホーク」ミサイルは約1,600キロメートルの射程を誇る。このようなミサイルが潜水艦から水中で垂直発射可能になると、敵国の領土深くまで攻撃が可能となる。
中国に関して言えば、例えば東シナ海から発射された場合、上海や広州などの沿岸都市だけでなく、内陸の都市にも到達する可能性がある。具体的には、ミサイルの射程が1,000キロメートルであれば、北京や成都といった都市にも攻撃可能な範囲に入る。
スタンド・オフ・ミサイルの利点は、敵の防空網の外から安全に攻撃できる点である。これにより、潜水艦は敵の探知を避けつつ、効果的に打撃を加えることができる。この戦略は、抑止力や攻撃能力を大幅に向上させる要素となる。
ただし、具体的な射程距離や性能については、防衛機密に関わるため、詳細な数値を示すことは難しい。
一方、台湾は様々な対艦ミサイルや対地ミサイルを自前で開発し、多数配備している。特筆すべきは、長距離巡航ミサイル「雲峰」の量産を2019年から開始していることだ。アナリストによると、雲峰の飛行距離は1000キロ以上とされる。このミサイルは、高速で飛行し、敵艦船や地上の重要な目標に対して効果的に攻撃できる能力を持っている。特に、中国本土への攻撃能力を向上させることを目的としており、台湾の防衛戦略において重要な役割を果たす。
対艦ミサイルを発射する台湾海巡署の巡視船「安平」 |
Hsiung Feng-4の射程は、台湾本島から福州や厦門などの沿岸都市を超え、北京や上海はもとより中国内陸部の重要な軍事施設や経済拠点に対しても攻撃が可能であるため、台湾の抑止力を高める要素となる。
日本のスタンド・オフ・ミサイルが潜水艦から発射できるようになると、中国にとっては台湾の長距離ミサイルよりも大きな脅威となることが考えられる。なぜなら、台湾の長距離ミサイルは陸上から発射されるため、事前の監視や攻撃がある程度可能であるが、潜水艦からの発射となると、これはほぼ不可能だからである。特に、日本のステルス性に優れた潜水艦からの発射となると現状の中国には防ぐ手立てはあまりない。
射程が1,000キロメートルのスタンド・オフ・ミサイルが発射できる潜水艦は、核兵器を搭載できる米国の戦略原潜とは異なるものではあるが、仮に日本が中国の核攻撃等を受け、全土が破壊されても潜水艦から中国本土を攻撃できるという点では、戦略型原潜にかなり近いものになる。
米海軍の戦略原潜 |
ウクライナ戦争では、ウクライナは自前では長距離ミサイルを持っておらず、西側から供与されたものを使用している。供与国によって使用が制限され、ウクライナだけの意思決定によってこれを使用できないことが問題視されている。
しかし、台湾のように自前の長距離ミサイルを持っていれば、自国の意思決定のみで長距離ミサイルを用いることができる。
日本が潜水艦に配備しようとしているスタンド・オフ・ミサイルは、自前で開発したものであり、他国の干渉を受けずに使用できるだけでなく、潜水艦から発射できるため、核兵器を搭載した米国の戦略原潜とは異なるものの、それにかなり近いものとなる。これは、中国にとってはかなりの脅威である。
しかし、台湾のように自前の長距離ミサイルを持っていれば、自国の意思決定のみで長距離ミサイルを用いることができる。
日本が潜水艦に配備しようとしているスタンド・オフ・ミサイルは、自前で開発したものであり、他国の干渉を受けずに使用できるだけでなく、潜水艦から発射できるため、核兵器を搭載した米国の戦略原潜とは異なるものの、それにかなり近いものとなる。これは、中国にとってはかなりの脅威である。
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