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2025年4月6日日曜日

二大経済大国、貿易戦争激化へ 中国報復、米農産物に打撃 トランプ関税―【私の論評】米中貿易戦争の裏側:米国圧勝の理由と中国の崩壊リスクを徹底解剖

二大経済大国、貿易戦争激化へ 中国報復、米農産物に打撃 トランプ関税

まとめ
  • 米中貿易戦争が激化し、相互関税の応酬が続く。トランプ政権は5日から一部関税を発動、中国は34%の追加関税で対抗。米国では農産物輸出や景気への悪影響が懸念。
  • TikTokの米事業売却が新たな火種に。トランプが期限を75日延長するが、中国は報復で承認を保留。依存度低下で報復に自信か。
  • 米国にとって中国は重要な輸出先。前回の貿易戦争で農産物輸出が急減、農家は今も苦境。対立はエスカレートする一方だ。

激論するトランプと習近平 AI生成画像

米国と中国の間で貿易戦争が激化し、相互関税の応酬がエスカレートしている。トランプ米政権は5日、一部関税を発動し、これに対し中国は米国からの輸入品すべてに34%の追加関税を課す対抗措置を打ち出した。米国では農産物の輸出減少や景気全体への悪影響が強く懸念されており、中国は報復として大豆やトウモロコシなど米国産農産物にも対象を広げている。

関税は2段階方式で、5日からすべての貿易相手国に一律10%が適用され、9日から貿易赤字の大きい国への上乗せ分が追加される。TikTokの米国事業売却問題も新たな火種となり、トランプ大統領は売却期限を延長したが、中国は相互関税への対抗として承認を保留している。

オランダのエコノミストは、中国の対米輸出依存度が低下していると指摘し、報復への自信を強めていると分析。米国農業界は前回の貿易戦争で受けた輸出急減などの打撃を訴え、再びの悪影響を避けるよう求めているが、事態悪化への懸念は収まる気配がない。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】米中貿易戦争の裏側:米国圧勝の理由と中国の崩壊リスクを徹底解剖

まとめ
  • 米中関税合戦では米国が圧倒的に有利。国際金融のトリレンマで、変動相場制の米国は自由に動けるが、管理変動相場制の中国は人民元を縛られ、金融政策が制限される。輸出品でも米国の大豆や天然ガスは代替が難しく、中国の電子機器や服は簡単に他国に切り替えられる。
  • 経済規模と貿易依存度でも差は歴然。米国のGDPは25兆ドルで内需が強く、輸出はGDPの11%。中国は18兆ドルで輸出依存度20%と高く、米国市場を失うと痛手が大きい。2018~2019年の貿易戦争で中国経済は揺れ、米国は平然と耐えた。
  • 技術とサプライチェーンでも米国がリード。ファーウェイ制裁や半導体規制で中国を締め上げ、TikTok売却問題でも圧力をかける。中国が報復関税に固執するのは意地だけだ。変動相場制と市場自由化が必要だが、共産党の統制がそれを阻む。
  • 共産党の体制が中国の足かせだ。民主化、政治と経済の分離、法治国家化が改革に必要だが、党の支配が崩れるのを恐れてできない。このままでは経済が衰退し、ソ連崩壊のような末路が待つ。経済に疎い習近平にはこの現実が見えていない可能性がある。
  • 現実が明らかになれば、中国は軍事で賭けるかもしれない。2024年の台湾演習や軍事費2450億ドルが示すように、覇権強化を狙う可能性がある。だが、米国は2正面作戦に限界があり、2025年トランプはアジアシフトを宣言。AUKUSや日韓協力で迎え撃つ準備を進めている。

トランプが「関税」のハンマーを振りかざし、習近平を圧倒! 米国の経済力と技術優位が中国を追い詰める   AI生成画像

米中間の関税合戦が火を噴いている。だが、マスコミがあまり騒がない裏で、中国が明らかに不利で、米国が圧倒的に有利な状況が広がっているのだ。この現実は、国際金融のトリレンマという世界の金の流れを支配するルールや、為替の違い、貿易への依存度から見ると、ビシッと浮かび上がる。米国は変動相場制で自由に動き回れるし、輸出品の強さ、国内市場の巨大さ、技術の力でも中国をぶっちぎっている。
中国が報復関税で意地を張っても、自分の首を絞めるだけだ。生き残る道は、為替制度をガラッと変え、市場を自由に開くことしかない。なのに、中国はそれができない。共産党の政治が足を引っ張り、民主化や法治国家への道を塞いでいるからだ。このままじゃ、長く衰退し、ソ連が崩れたみたいな末路が待っているかもしれない。
しかも、この現実は経済に疎い習近平やその取り巻きたちが強く認識していない可能性がある。今は報復関税に終始しているが、いずれ誰の目にも明らかになる。その時、中国は最後の賭けに出るかもしれない。それは、軍事力を使った覇権の強化だ。だが、米国は今、2正面作戦を余裕でこなせる状態じゃない。だからこそ、トランプはアジアにシフトすると宣言しているんだ。さあ、一気にその核心に突っ込んでみよう。
まず、国際金融のトリレンマだ。これは、金の流れを動かす3つの柱——為替を固定するか、資本を自由に動かすか、金融政策を自分で決めるか——を全部は手にできないという法則だ。どれか2つしか選べない。経験も数字もこれを裏付けている。米国は変動相場制を選んだ。ドルは世界の基軸通貨だ。資本を自由に動かしつつ、連邦準備制度が金融政策をガンガン進められる。2022年、インフレを抑えるために利上げした時、ドル高がグイッと進んだ。だが、米国経済はビクともしなかった。
変動相場制を採用している国なら、関税で輸出が減ると通貨が下落し、輸出品が安くなって競争力が回復する。2015年の日本の例を見ると、円安が進んだことで自動車や電子機器の輸出が持ち直し、経済が安定した(日本銀行データ)。米国も変動相場制だ。2022年、FRBがインフレ抑制のために利上げした時、ドル高が進んだが、その後調整が入り、輸出産業は大きなダメージを免れた(米国商務省)。つまり、米国は関税戦争の影響を為替の動きでカバーできる余地がある。

だが、中国のような固定相場制に近い管理変動相場制の国では話が違う。人民元はドルに縛られ、自由に動けない。中国人民銀行は為替を一定の範囲に抑えるため、2018~2019年の貿易戦争で外貨準備を大量に投入した(中国人民銀行発表)。為替が動かないから、関税のダメージを緩和する余地がない。2018年、米国が中国製品に25%の関税をかけた時、中国の輸出は急減し、GDP成長率が6.6%から6.1%に落ち込んだ(中国国家統計局)。一方、米国は為替調整で輸出競争力を維持し、内需の強さもあって経済は安定した(米国経済分析局)。
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次に、輸出品の違いだ。米国の対中輸出は大豆、トウモロコシ、天然ガスといった生活や産業に欠かせないものだ。中国が関税をかけても、完全には切れない。2018年、米国産大豆に25%の関税をぶつけた時、輸入は減った。だが、中国はブラジルに頼るしかなく、コストが跳ね上がった。米国農務省のデータを見れば、2020年以降、中国の需要が戻って輸出が盛り返している。一方、中国の対米輸出は電子機器や服だ。米国が関税をかければ、ベトナムやメキシコにサクッと切り替えられる。商務省の数字でも、2018~2019年に中国からの輸入が減った分、東南アジアがグンと伸びた。このズレが、中国をジリ貧に追い込む。

経済の大きさと市場の力も見逃せない。米国のGDPは約25兆ドル(2023年IMF推計)。中国は18兆ドルだ。米国は世界一の消費市場で、中国企業には欠かせない。2018年、トランプが中国製品に500億ドル、後に2500億ドルの関税を叩きつけた。中国の報復は米国製品600億ドル止まりだ。なぜか? 中国の対米輸出は総輸出の16%(2022年中国税関総署)。米国は7%(2022年米国商務省)。中国企業は米国を失うと痛い。
米国企業は他でカバーできる。貿易への依存度も目を引く。米国の輸出はGDPの11%(世界銀行、2022年)。内需がガッチリ支えている。中国は最近内需にシフトしたとはいえ、まだ20%だ。関税で輸出が減ると、中国経済はガタガタ揺れる。2018~2019年、輸出企業が売上を落とし、仕事が減った。米国は内需の力で平気だ。また米国の一人当たり名目GDPは約76,399ドルで、世界でもトップクラスに位置している。これに対し、中国の一人当たり名目GDPは約12,720ドル。この数字から、米国の一人当たりGDPは中国の約6倍に達している。この差はデカすぎる。
技術とサプライチェーンでも米国が圧倒する。半導体や先端技術でリードし、中国を締め上げる。2020年のファーウェイ制裁、2022年の半導体規制で、中国のハイテク産業は大打撃だ。国産化を急ぐが、台湾のTSMCや韓国のサムスンに追いつけない。米国は中国の安物に頼らず、サプライチェーンを広げられる。TikTokの話もそうだ。2025年4月、トランプが売却期限を75日延ばしたが、中国が承認を渋り、計画はポシャった。米国市場を失うリスクは中国側に重く、米国は平然と圧力をかける。
中国が報復関税にしがみつくのは、意地っ張りにしか見えない。経済に疎い習近平やその側近が、現実を分かってないのかもしれない。2018~2019年、GDP成長率が6.6%から6.1%に落ち(中国国家統計局)、製造業も低迷した。中国のGDP統計なんて信用ならないが、落ち込んだのは確かだ。関税は輸入コストを上げ、自国を苦しめる。抜け道はある。変動相場制にして人民元を市場に任せ、市場を自由にすればいい。2015年の人民元切り下げで輸出が持ち直した例もある。資本を自由に動かし、投資を呼び込めば、経済は強くなる。だが、中国は動けない。
なぜだ? 共産党の体制が邪魔をする。経済は党が牛耳り、人民銀行も国有企業も党の言いなりだ。変動相場制は人民元を市場に預けること。資本の自由化は資金が海外に逃げるリスクを孕む。それを防ぐには市場を透明にしないといけないが、共産党はそんなこと許さない。国有企業を優遇し、民間を締め付ける。2021年、アリババや滴滴出行を叩いたのは、党が経済を握りたいからだ。1989年の天安門後、鄧小平は経済を開いたが、政治は触らなかった。
今の習近平は権力を握り、改革を嫌う。本当は、民主化、政治と経済の分離、法治国家が必要だ。米国や西側じゃ当たり前だ。だが、中国では共産党が法の上に立ち、経済も党の道具だ。民主化は国民の声が力を持つ。政治と経済が別れれば、国有企業の利権が消える。法治国家なら党の勝手が通らない。だが、これをやれば共産党の支配が崩れる。だからできない。改革は体制を揺るがす爆弾だ。
だから中国は動けない。関税で意地を張るだけだ。だが、この現実は、いずれ誰の目にも明らかになる。経済に疎い習近平やその取り巻きは、今は報復関税に終始している。2025年3月、中国外務省の王毅は「米国の一方的ないじめ」と非難し、対抗措置をチラつかせた(CNN報道)。だが、経済は弱り、成長率は2010年代の8%超から5%台へ(2023年予測)。人口は減り、借金は膨らむ。
中国人民解放軍は今月2日間にわたって、台湾周辺で実弾演習を行った
ソ連は計画経済で潰れ、1991年に崩壊した。中国も同じ道をたどるか? その時、最後の賭けに出るかもしれない。軍事力を使った覇権の強化だ。2024年10月、習近平は台湾周辺で軍事演習を強化し、「戦争準備」を叫んだ(BBC報道)。中国の軍事費は2450億ドル(ストックホルム国際平和研究所、2023年)と米国(9160億ドル)の4分の1だが、アジアに集中すれば脅威だ。
だが、米国は今、2正面作戦を余裕でこなせる状態じゃない。ウクライナと中東で手一杯だ。2022年、ロシアのウクライナ侵攻で米国は軍事支援に追われ、2023年にはイスラエル支援も重なった(米国防総省)。兵站も予算も伸びきっている。だから、トランプはアジアにシフトすると宣言したのだ。2025年1月、彼は「アジアが最優先」と演説し、日本や韓国との同盟強化を強調した(AP通信)。AUKUSやクアッドも動き出し、2023年に米国、日本、韓国がキャンプデービッドで協力を固めた(ホワイトハウス発表)。中国が軍事で賭けに出ても、米国はアジアで迎え撃つ準備を進めている。
結論だ。米国は経済の力と体制の柔軟さで中国をぶっちぎる。報復関税は中国を弱らせるだけだ。為替と市場を変えなければ生き残れない。だが、共産党がそれを許さない。民主化も法治も無理だ。この現実を習近平が見誤れば、いずれ崩壊が誰の目にも明らかになる。その時、軍事で賭けるかもしれないが、米国はアジアにシフトして備えている。この戦い、米国が圧倒的に有利なのは、経済と現実が証明する揺るぎない真実だ。
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2025年3月6日木曜日

トランプ大統領が「日本の消費税廃止」を要求? JEEP以外のアメ車が日本で売れない理由は「そこじゃない」―【私の論評】トランプの圧力で変わるか?都内の頑丈な鉄橋の歴史が物語る日本の財政政策の間違い

トランプ大統領が「日本の消費税廃止」を要求? JEEP以外のアメ車が日本で売れない理由は「そこじゃない」

まとめ
  • 2025年1月20日就任のトランプ大統領が日本の消費税廃止に言及したとネットで話題だが、伝統メディアではあまり報じられていない。
  • 「相互関税」を提案し、アメリカ製造業の再生と販売促進を目指す。メキシコやカナダに25%関税を検討中。日本・EUには付加価値税(消費税)は、関税と同じようなものと主張。
  • 日本で消費税が廃止されても、アメリカ車の販売が大きく伸びるとは限らず、右ハンドル対応や販売網整備等が課題。
  • アメリカ車は、燃費や品質で日本車に劣るイメージが根強く、アメリカ市場でも日本車や欧州車が人気。
  • 関税政策は公正な貿易環境整備が目的と見られ、日本での販売拡大より企業判断に委ねる姿勢とみられる。筆者は消費税引き下げを期待。

なにかと話題なトランプ大統領の言動は、今後自動車の分野でも影響が出そうだと関係者たちは語る。今すぐは難しいかもしれないが、もしかすると今後アメ車が日本で買いやすくなる可能性も!?

 2025年1月20日に就任したアメリカのドナルド・トランプ大統領は、物議を醸す発言で注目を集めており、最近では日本の消費税廃止に言及したとの報道がネット上で話題となっている。ただし、新聞やテレビなどの伝統的なメディアではほとんど取り上げられていない。トランプ氏は「関税」を武器に各国との交渉を進めており、アメリカ製造業の再生と製品の販売促進を背景に、メキシコやカナダに対しては不法移民や違法薬物の取り締まり強化を求めつつ、全輸入品に25%の関税を課す計画を進めている。本稿執筆時点では、この関税導入が目前に迫っている状況だ。

 さらにトランプ氏は「相互関税」という概念を提案し、相手国がアメリカ製品に課す関税と同じ水準をアメリカへの輸入品に課すことを検討中。この調査対象に消費税のような付加価値税が含まれ、トランプ氏は「付加価値税と関税は本質的に同じ」と発言したと報じられた。これがネット上で「日本の消費税廃止を要求している」と解釈され、議論を呼んでいる。しかし、消費税が廃止されただけでアメリカ車が日本で売れるようになるかは疑問だ。シボレー・コルベットやジープの一部は右ハンドル仕様があるが、ドイツ車ほど右ハンドル対応が一般的ではなく、アメリカ車ファンの中には「ジャパンナイズ」された仕様に抵抗を示す人もいる。

 一方、アメリカ車を個人輸入する愛好家もおり、左ハンドル車を好む層も存在する。販売網の充実がなければ、消費税廃止だけでは販売が飛躍的に伸びるのは難しい。過去、バブル期には「燃費が悪く品質が劣るアメリカ車」とのイメージが報道で強調され、その印象が今も残る。現在のアメリカ車はダウンサイズが進み、1.5~2リッターのターボエンジンが主流だが、日本車に比べ燃費性能が劣るとの声もある。

 アメリカ国内では、日本車や欧州車、韓国車が人気で、特にハイブリッド車が売れている。フォードは日本市場から撤退したが、ジープやGMは右ハンドル車を用意し堅実な展開を続ける。トランプ氏の関税政策は公正な貿易環境整備が目的と見られ、日本でのアメリカ車販売拡大を直接目指しているわけではないだろう。筆者は、消費税の大幅引き下げを庶民として期待している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプの圧力で変わるか?都内の頑丈な鉄橋の歴史が物語る日本の財政政策の間違い

まとめ
  • トランプ圧力によって、日本の消費税廃止が実施されれば、購買力が増え、GDPが3~5%押し上げられる可能性がある。
  • 消費税撤廃で消費が活性化し、アップルやハーレーなど輸入が増え、米国製品の輸入も増える可能性がある。
  • しかし、関税引き上げをすれで、景気が悪化し、米国製品が売れなくなる可能性がある。
  • コルビーが防衛費GDP比3%超を主張、石破首相は増税を検討するかもしれないが、それでは経済低迷で米国製品の売上減少を招くことになる。
  • 増税でなく国債で賄えば現世代の負担が減り、景気回復で米国に利点。関東大震災復興の鉄橋がその有効性を示す。
トランプ大統領が、「日本の消費税廃止を要求している」という話題については、最近このブログに述べたばかりである。その記事のリンクを以下に掲載する。
日中の通貨安誘導を批判 関税引き上げ示唆―トランプ米大統領―【私の論評】トランプの相互関税が日本を直撃!消費税撤廃で米国製品輸入増か、関税戦争で景気後退か?

この記事では、日本が消費税を撤廃した場合、どうなるかについて述べた。以下にその部分を引用する。

日本で消費税が撤廃されれば、消費者の可処分所得が増え、購買意欲が高まる。2025年3月時点で日本の消費税率は10%。これがゼロになれば、家計の実質的な購買力は大きく向上する。2014年に消費税が5%から8%に引き上げられた際、個人消費が落ち込み、GDP成長率がマイナスに転じた。逆に、消費税を撤廃すれば、内閣府の試算によるとGDPは3~5%押し上げられる可能性がある。

景気が回復すれば輸入需要も増し、米国産の農産物やエネルギー、工業製品の需要が拡大するかもしれない。日本は米国農産物の主要輸出先であり、年間約150億ドルを輸入している。消費税撤廃で日本の消費が活性化すれば、米国の農家にとっても追い風となる。結果として、米国の対日貿易赤字(2024年で約600億ドル)も縮小する可能性がある。

しかし、輸入増加が米国製品に集中するとは限らない。為替レートや中国、EUとの競争が影響し、米国製品が割高なら効果は限定的だ。

確かに、消費税を撤廃したからといって、急激にアメ車が売れるとは限らない。しかし、消費税があるよりは、売れやすくなるのは間違いない。

アメリカ製品といえば、車以外にも様々なものがある。パソコンなどのデバイスではアップル製品があり、バイクはハーレダビッドソンなど、根強い人気がある。ハーレーダビッドソンは、輸入二輪車市場でシェアトップを維持している。

これらだけではなく、他の製商品も米国企業が日本にあわせたマーケティング戦略をとれば、さらに売れる可能性は高まるだろう。

私自身も、50年代の米国音楽や、雰囲気が好きで、そのようなテーストのある店には、今でも足繁く通っている。ただ、そのような店は減りつつあり残念に思っている。

50年代ジャズが聴ける"D-Bop"Jazz Club

消費税を撤廃すれば、米国製品・商品は今以上に売れる可能性は高まる。しかし、関税があがると岸田、石破政権の経済差政策の不味さもあいまって、日本の景気は後退し、米国製品が今以上に売れる可能性はなくなるどころさらに売上は下がるだろう。一般にどこの国でも、景気が良くなると輸入が増え、景気が悪くなると輸入は減る。米国にとっては、短期的には関税は良いかもしれないが、中長期的には良くない。

このような状況のなか、エルブリッジ・コルビー元国防副次官補は、トランプ米大統領による国防総省政策担当次官への指名に伴い、上院の承認プロセスで、日本が防衛費をGDP比3%以上に早期に引き上げるべきだと主張した。

現在の日本の方針である2027年度の2%目標を「不十分」と批判し、中国や北朝鮮の脅威を考慮すれば2%では不合理だと述べた。また、日本は西太平洋の防衛で更さらに大きな役割を担うべきとし、台湾にはGDP比10%の防衛費を求めた。一方、石破茂首相は5日の参院予算委で、防衛費は他国の指示で決めるものではなく、積み上げによる慎重な議論が必要との立場を示した。

石破総理は、防衛費増の財源としては、消費税などの増税しかないと考えているのだろう。しかし、現状で増税すれば、日本経済は低迷し米国製品はますます売れなくなってしまうだろう。

いつまでも、増税に拘っていれば、ますます米国製品は日本国内で売れなくなるだろう。このジレンマを解決するには、財源を消費税などの増税ではなく、国債によって賄うことを考えるるべきだろう。

長期政策を実施を税金だけに頼ると、現世代が長期政策の全コストを背負い、将来世代がその恩恵をほとんど負担せずに受け取る構造になる。これは現世代に過剰な負担を強いるだけでなく、世代間の不公平を生み、経済的・社会的な歪みを引き起こす。現実は、財務省が主張する、将来世代への付け回しではなく、現世代が多大なコストを背負わせることを意味するのだ。国債を活用すれば、この負担を将来に分散させ、現世代と将来世代の間でより公平な分担が可能になる。

このことは、都内の江東地区に多い頑丈な鉄橋をみてもわかる、これらの橋梁は関東大震災の復興で実施されたものだが、この復興はほとんどが国債で賄われている。関東大震災で江東地区は灰燼に帰し、ほんどの木造の橋が燃えてなくなってしまった。それを復興で現在のような丈夫な鉄橋に架替えたのだ。

江東新橋

これらの頑丈な鉄橋は、建造後20年後に絶大な威力を発揮した。1945(昭和20)年3月9日深夜から10日未明、アメリカ軍のB-29重爆撃機の大編隊が東京を焼夷弾で絨毯爆撃し、江東地区は再び灰燼と化した。しかし幸いなことに、震災復興橋梁のうち鉄橋のほぼ全部が激しい空襲に耐えて避難路となったため、多くの被災者の命が助かっている。無論それでも死者数は多く、このときの東京大空襲の死者は江東区を含めて10万人とされている。しかし、もし鉄橋がなかったら、更に多くの人々がなくなっていただろう。

さらに、これらの橋は、戦後80年を経ても今でも使われていて、多くの車両や人々が行き交い、私達は今でもその便益を受けている。今でも、江東新橋などの橋がテレビドラマなどにでてくるのを見かける。

この橋の建設を含むを首都崩壊の復興が、税金だけで賄われたとしたら、どうだっただろう。建設当時の人々の負担は、目を覆うばかりのものとなっただろう。当時豊かではなかった日本では、多くの人々が貧困にあえぐことになっただろう。そうして、その後の世代は立派な橋が残っても、貧困で、せっかくの立派な橋も経済活動が乏しいため、あまり有効に使われないという結果になっただろう。この事例のように長期にわたって便益を与える大きなブロジェクトは、国債で賄うべきなのだ。これらの橋とその歴史がその正しさを示している。

トランプ大統領の関税圧力や防衛費増額圧力などが、日本の財政政策を結果として良い結果に導くならば、歓迎したい。ただ、米国の圧力で日本経済が復活するのではなく、やはり自発的にこれを行うべきだろう。

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コラム:「トランプ関税」に一喜一憂は不要、為替変動が影響緩和

まとめ
  • トランプ政権の関税政策: トランプ大統領はメキシコとカナダに対して25%の関税を導入し、その後延期を発表した。中国に対する追加関税は引き続き適用されている。
  • 為替市場の反応: 関税発表後、ドルはメキシコペソとカナダドルに対して急上昇したが、関税延期の発表により反落した。ドル指数は一時上昇したものの、変動が見られた。
  • 関税のマクロ経済への影響: 為替レートの変動は関税の影響や米国の物価上昇圧力を和らげる可能性があるが、その結果、金利や債券利回りに多くの変化を引き起こすこともある。
  • 実効関税率とインフレ: ゴールドマン・サックスの試算によると、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税が持続すれば、米国全体の実効関税率が7%上昇し、コア個人消費支出価格指数が0.7%上昇するとされる。
  • 中央銀行の姿勢: 各国の中央銀行は関税問題に対して慎重な姿勢を保ち、不確実性が高いため、急いで利下げを行う必要がないと見ている。トランプの関税政策は、米国の物価に影響を与える一方で、為替市場の動きによってその影響が和らぐ可能性がある。

米ドルとユーロ紙幣

トランプ米大統領の関税政策が外為市場に敏感に反応しており、特にメキシコとカナダに対する25%の関税発表とその延期がドルの価値に大きな影響を与えた。ドルは当初、メキシコペソやカナダドルに対して急上昇したが、関税の延期が発表されると反落した。これにより、関税の導入が市場の「反応関数」によってドル高を促進する可能性があることが示唆された。

関税が海外経済に与えるダメージや米国内のインフレを引き起こす懸念が、ドル高要因である金利差の影響を増幅することが考えられる。ドル高が続けば、海外企業は米国での商品のドル建て価格を引き上げずに市場シェアを維持できるため、一定のプラス効果が見込まれる。

しかし、関税導入による影響は複雑で、企業の対応や不透明感が国内経済活動やグローバルな信頼感にどの程度影響するかは意見が分かれる。また、関税が実施されるかどうかやその規模が明確にならない限り、マクロ経済への最終的な影響を正確に予測するのは難しい。

ゴールドマン・サックスによると、カナダとメキシコからの輸入品に持続的に25%の関税が課される場合、米国全体の実効関税率が7%ポイント上昇し、コア個人消費支出価格指数が0.7%上昇すると試算している。この実効関税率の上昇が、昨年10月以来のドル指数の上昇とほぼ一致していることも興味深い。

このような複雑な要因を考慮すると、各国中央銀行が関税問題について一貫した姿勢を取らない理由が理解できる。米連邦準備理事会(FRB)高官は追加利下げの計画が消えていないことを示しつつ、トランプ氏の政策の全体像を見極めるために急ぐ必要がないと判断している。一方、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BOE)、カナダ銀行、メキシコ銀行などは利下げを進めている。

トランプ氏の関税政策の真の意図は不明だが、関税が米国の物価を押し上げる影響や相手国への圧迫効果は、外為市場の迅速な動きによってある程度和らぐ可能性がある。全体として、外為市場は関税引き上げに対する即効性のある相殺要因となり得る。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧なってください。

【私の論評】変動相場制の国カナダ、メキシコとは異なる中国の事情

まとめ
  • 関税の影響: 関税が導入されると、輸入品の価格が上昇し、国内の物価も押し上げられるが、為替変動によってその影響が緩和されることがある。
  • 消費者の選択: 関税によって輸入品が高くなると、消費者は国内や他国の製品を選ぶ傾向が強まり、国内産業が一時的に利益を得る可能性がある。
  • 固定相場制の影響: 固定相場制を採用する国(例: 中国)では、為替レートの調整ができないため、企業は価格を引き下げることが難しく、競争力が低下する。
  • クルーグマンの見解: ノーベル経済学者ポール・クルーグマンは、為替の変動が国際貿易において重要な役割を果たし、関税の影響を緩和する可能性があると指摘している。
  • 経済への深刻な影響: 米国市場での中国製品の競争力が減少し、経済への影響が深刻になるリスクが高まる。
タリフ(関税)マンを自称するトランプ大統領

関税がマクロ経済に与える影響は、為替変動によって緩和されることがある。関税が導入されると、通常、輸入品の価格が上昇し、国内の物価も押し上げられる。しかし、為替レートが変動することで、これらの影響が相殺されることもある。

関税が導入されると、輸入品の価格が上がるため、消費者は代替品を選ぶ傾向が強まる。これにより国内産業が一時的に利益を得ることが期待されるが、同時に消費者の購買力が減少し、経済活動全体が鈍化する可能性がある。また、関税によってドルが強くなると、米国製品が海外市場で高価になり、米国の輸出は不利になる。

ノーベル経済学者ポール・クルーグマンは、国際貿易における新しい経済地理学の視点から関税の影響を分析している。彼は、関税が導入されると、対象商品に対して価格が上昇し、消費者の選択肢が狭まることを指摘している。これにより、国内産業が短期的に利益を得る可能性があるが、長期的には市場の効率性が損なわれる恐れがあると警告している。

クルーグマンはさらに、為替レートの変動が国際貿易において重要な役割を果たすことを強調する。彼によれば、為替が柔軟に変動することで、関税による価格上昇の影響が緩和され、経済全体の均衡が保たれる可能性がある。例えば、関税が導入されると、輸出国の通貨が下落し、輸出の競争力が回復することがある。これにより、関税のネガティブな影響が相殺され、経済の安定が期待される。

変動相場制を採用しているカナダやメキシコなどの国々では、関税の影響が為替の変動によって軽減されることが期待される。特定の製品に関税がかけられた場合、為替レートが調整されることで、これらの国の輸出品の競争力が維持される。

メキシコ国旗(左)とカナダ国旗 AI生成画像

一方、中国のように固定相場制を採用している国では状況が異なる。米国が中国からの輸入品に関税をかけると、米国内の輸入品の価格が上昇する。この影響で、米国内の消費者は高くなった中国製品の代わりに、国内や他国の製品を選ぶ傾向が強まる。

この結果、米国内では中国製品を避ける動きが出てくる。中国の企業は売上を維持するために価格を引き下げる必要が生じるが、固定相場制のため為替レートの調整ができない。カナダやメキシコのように為替レートの調整によって価格を下げることはできず、企業努力で価格を引き下げざるを得なくなる。

そのため、中国の企業は自社製品の価格を十分に引き下げることができず、輸出品の価格が高くなり、米国市場での競争力が低下する。結果として、米国市場での中国製品の競争力が減少し、経済への影響が深刻になる可能性がある。

中国製品をボイコットする女性 AI生成画像

このように、関税が米国内の消費者や市場に与える影響は、中国製品の選択に大きく影響し、結果として中国の企業の競争力にも影響を及ぼす。最終的には、米国市場での中国製品の競争力が減少し、経済への影響がさらに深刻になるリスクが高まる。

変動相場制の国同士の貿易の場合は、関税の影響は直接的には物価上昇を引き起こすが、為替変動によってその影響が緩和され、経済全体に対するネガティブな影響が軽減される可能性がある。これは、経済が複雑な相互作用の中で動いていることを示す一例であり、政策決定者はこれらの要因を考慮に入れる必要がある。 

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2024年9月3日火曜日

習近平の中国で「消費崩壊」の驚くべき実態…!上海、北京ですら、外食産業利益9割減の衝撃!―【私の論評】中国経済のデフレ圧力と国際金融のトリレンマ:崩壊の危機に直面する理由

習近平の中国で「消費崩壊」の驚くべき実態…!上海、北京ですら、外食産業利益9割減の衝撃!

まとめ
  • 上海と北京で消費が深刻に低迷しており、特に上海では6月の小売総額が前年同期比で9.4%減少した。
  • 上海の宿泊・外食関連売上は6.5%減、日用品は13.5%減少し、市民の生活が「縮衣節食」に変わっている。
  • 北京でも上半期の小売総額が0.8%減少し、外食産業の一定規模以上の飲食店の利益が88.8%減少した。
  • 消費低迷は政府関係者や富裕層を含む市民全体の金銭的余裕の欠如を示しており、未曾有の大不況が進行している。
  • 上海と北京の消費崩壊は、中国全体の経済に深刻な影響を与える可能性があり、今後の経済政策に注目が必要。
上海の目抜き通り

上海と北京という中国の主要な経済都市で、深刻な消費低迷が発生している。これらの都市はかつて「中国の繁栄」の象徴とされていましたが、現在は「消費崩壊」とも言える状況に直面している。

上海では、2024年6月の小売総額が前年同期比で9.4%減少した。特に、宿泊や外食関連の売上は6.5%減、食料品は1.7%減、衣料品は5.0%減、日用品に至っては13.5%も減少している。このような数字は、上海の市民が外食を控え、日常生活においても節約志向が強まっていることを示している。市民は「縮衣節食」の生活に入り、消費活動が大幅に縮小している。

一方、北京でも同様の傾向が見られます。2024年上半期の北京市の小売総額は前年同期比で0.8%減少したが、外食産業に関するデータは特に衝撃的だ。一定規模以上の飲食店の利益が前年同期比で88.8%も減少し、これは業界全体にとって深刻な問題を示している。外食産業全体の売上は637.1億元で前年同期比3.5%減に留まっているが、利益の大幅減少は、激しい価格競争に巻き込まれていることを意味している。飲食店は、最低限の売上を維持するために価格を抑え、利益を削るしかない状況に追い込まれている。

このような消費の低迷は、政府関係者や企業の経営者、富裕層を含む市民全体が金銭的な余裕を失っていることを示している。特に、北京は中央官庁や大企業の本社が集まる場所であり、ここでの消費低迷は驚くべき現象だ。飲食を重視する文化を持つ北京っ子が、外食を控えるほどの節約を強いられていることは、未曾有の大不況が進行している証拠だ。

上海と北京での消費崩壊は、これらの都市の経済に大きな打撃を与えるだけでなく、中国全体の経済にも深刻な影響を及ぼすだろう。これらの都市でさえ消費が低迷しているとなれば、全国の消費市場がどれほどの不況に陥っているかは明白だ。さらに、不動産開発という中国経済の支柱産業が崩壊している中で、消費の低迷が続く場合、中国経済はさらに厳しい状況に直面することが予想される。

このように、上海と北京の消費低迷は単なる一時的な現象ではなく、深刻な経済問題を反映しています。これらの都市での消費の縮小は、中国全体の経済に対する警鐘であり、今後の経済政策や市場の動向に注目が必要です。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国経済のデフレ圧力と国際金融のトリレンマ:崩壊の危機に直面する理由

まとめ
  • 中国政府が公表する公式のGDP統計は信頼できないが、消費動向や物価指数から中国経済がデフレ圧力に直面していることが明らかである。
  • 消費の低迷や不動産市場の低迷が進行しており、デフレ圧力が拡大しているため、政府は内需刺激策を検討しているが、人民元安への懸念から大規模な金融緩和には踏み切れない。
  • 中国経済は国際金融のトリレンマに直面しており、独立した金融政策、為替相場の安定、自由な資本移動の3つを同時に達成することができない状況にある。
  • 中国共産党は統治の正当性を維持するため、経済成長や社会の安定を重視しており、変動相場制や資本自由化の根本的な制度改革を躊躇している。
  • トリレンマから脱出できない場合、経済成長の鈍化や不動産市場の崩壊、金融システムの機能不全が進行し、最終的には経済崩壊に至る可能性がある。
中国の経済状況について、中国政府が公表する公式のGDP統計は信頼できないと、このブログでは何度か述べてきました。しかし、これだけでなく、消費動向などの実態からも中国経済の状況を把握することができます。消費の低迷は、中国経済がデフレ傾向にあることを示唆しています。例えば、6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+0.2%とほぼゼロに近い水準であり、コアCPIも+0.6%と低い水準が続いています。


また、景気減速を背景に消費が低迷しており、特に上海や北京などの主要都市でも消費の落ち込みが顕著です。さらに、消費者の低価格志向が強まり、小売業では値下げ競争が激化しています。このような状況では、需要が低迷する一方で生産が続いているため、需給ギャップが拡大し、デフレ圧力を招いていると判断できます。

加えて、不動産市場の低迷も影響を与えています。不動産価格の下落は資産デフレを引き起こし、さらなるデフレ圧力となっています。これらの要因から、中国経済はディスインフレ段階を経て、デフレ圧力に直面しているといえます。

政府もこの事態に危機感を強めており、内需刺激策を検討していますが、人民元安への懸念から大規模な金融緩和には踏み切れない状況です。したがって、公式のGDP統計の信頼性に疑問があるとしても、消費動向や物価指数などの実態的な指標から、中国経済がデフレ圧力に直面していることは明らかだと考えられます。

中国経済がデフレ圧力に直面していることは明白ですが、金融緩和に踏み切れない主な理由は以下のとおりです。

第一に、人民元安への懸念があります。中国当局は人民元の為替レートを非常に重視しており、過度な人民元安を避けたいと考えています。金融緩和を行えば、金利差から資金流出が加速し、人民元安が進行する可能性が高まります。昨年は人民元安により米ドル建てGDPが29年ぶりに減少し、世界経済における中国の存在感低下につながりました。このような事態の再発を当局は恐れています。

第二に、国際金融市場の動向があります。米国ではインフレの粘り強さが意識され、FRBの金融政策に対する見方が変化しています。これにより米ドル高圧力が生じており、中国が金融緩和に動けば、金融政策の方向性の違いから更なる資金流出と人民元安を招く恐れがあります。

第三に、不動産市場や家計債務への懸念があります。金融緩和は不動産市場の過熱や家計債務の拡大につながる可能性があり、これらのリスクを当局は警戒しています。

これらの要因により、中国当局は金融緩和に慎重にならざるを得ず、景気下支えのための対応は「小出し」に留まる可能性が高いと考えられます。デフレ圧力に直面しながらも、人民元安や金融リスクを恐れて大規模な金融緩和に踏み切れない状況が続いているのです。

以上は、現象面を指摘してきましたが、このような現象を招いているのには根本的な要因があります。

中国経済は随分前から、国際金融のトリレンマ(三すくみ)に直面しています。このトリレンマとは、一国が「独立した金融政策」「為替相場の安定」「自由な資本移動」の3つを同時に達成することができず、2つしか選択できないという理論です。この理論は、経験則的にも数学的にも証明されているものです。


中国の場合、独立した金融政策を維持したいという意向がある一方で、人民元の急激な変動を避けるために為替相場の安定も重視しています。そのため、資本移動を部分的に制限しています。

しかし、近年の段階的な資本自由化により、人民元相場と内外金利差の相互影響が強まっており、中国はトリレンマの制約を強く受けるようになっています。金融緩和を行おうとすると、資本流出と人民元安の圧力が生じ、人民元安を防ぐためには外貨準備の取り崩しが必要になります。

また、資本規制を強化すると国際化が後退するリスクもあります。これらの要因により、中国当局は大規模な金融緩和に踏み切れない状況にあります。

トリレンマの制約が強まる中で、金融政策の独立性、為替相場の安定、資本移動の自由化のバランスを取ることがますます難しくなっています。結論として、中国はデフレ圧力に直面しながらも、国際金融のトリレンマゆえに大規模な金融緩和に踏み切れない状況に陥っているのです。この問題を解決するには、長期的には変動相場制への移行など、より根本的な制度改革が必要になると考えられます。

以上のようなことは、経済理論から言って明らかといえるのですが、中国共産党が変動相場制への移行や資本自由化などの根本的な制度改革を躊躇しています。その根本原因は、党の統治の正当性に深く関わっています。

中国共産党の統治の正当性は、主に以下の要素に基づいています:
1. 経済成長の維持と国民生活の向上
2. 社会の安定性の確保
3. 国家主権と領土保全の維持
4. ナショナリズムの高揚
変動相場制への移行や資本自由化は、これらの要素を直接的に脅かす可能性があります。

まず、経済成長の維持について、変動相場制への移行は人民元の急激な変動をもたらす可能性があり、輸出主導の経済構造を持つ中国にとって、経済の不安定化を招くリスクがあります。これは党の経済運営能力への信頼を損なう可能性があります。

次に、社会の安定性に関して、資本自由化は大規模な資本流出のリスクを高めます。中国の富裕層を中心に、「自国内に全財産を置くことに政治的リスクを感じる人は少なくない」とされており、資本移動が完全に自由になれば、海外資産の保有割合を大きく増やす可能性があります。これは国内経済の不安定化につながり、社会の安定を脅かす可能性があります。

さらに、国家主権の観点から、資本自由化は外国資本の影響力を増大させ、中国共産党の経済政策の自主性を弱める可能性があります。党は「独立した金融政策」と「為替相場の安定」を重視しており、これらを犠牲にすることは党の統治能力への疑念を生む可能性があります。

中国の政治体制における「正統性」の問題は、経済社会の変容に適応しながら、いかに党の統治を正当化するかという課題と密接に関連しています。急激な制度改革は、党が長年かけて構築してきた正統性の基盤を揺るがす可能性があるため、慎重にならざるを得ないのです。

加えて、資本規制は経済的理由だけでなく、情報統制や社会管理の手段としても機能しています。資本の自由化は、これらの統制手段を弱める可能性があります。

また、近年の米中対立の激化や、COVID-19パンデミック後の世界経済の不確実性の増大により、中国政府はより慎重な姿勢を取っています。これらの国際情勢の変化も、根本的な制度改革を躊躇させる要因となっています。

一方で、中国の金融政策は必ずしも完全に閉鎖的ではなく、徐々に開放を進めている面もあります。例えば、人民元の国際化や、外国投資家向けの債券市場の開放などが挙げられます。これらの段階的な改革は、急激な変化を避けつつ、国際的な要請に応える試みと見ることができます。

北京 天安門

結論として、中国共産党は経済の安定と成長、社会の安定、国家主権の維持、ナショナリズムの高揚を通じて統治の正当性を確保しています。変動相場制への移行や資本自由化などの根本的な制度改革は、これらの要素を脅かす可能性があるため、党はこれらの改革を慎重に進めざるを得ない状況にあると言えます。同時に、国際的な要請に応えるため、段階的な開放政策も進めており、中国共産党はこの複雑なバランスの中で制限をうけながら、政策決定を行っています。

中国が国際金融のトリレンマから脱出できない場合、長期的には深刻な経済問題に直面し、最終的には経済崩壊に至る可能性があります。具体的には、経済成長の鈍化と停滞が予想されます。資本移動の制限により、海外からの投資が減少し、国内の資金調達コストが上昇することで、企業の投資意欲が低下し、経済成長が著しく鈍化する恐れがあります。

最悪の場合、経済の完全な崩壊と政治体制の崩壊につながるリスクも否定できません。中国政府は段階的な改革を進めていますが、根本的な制度改革を先送りし続ければ、長期的には経済崩壊のリスクが高まることは避けられないでしょう。

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2024年1月6日土曜日

インド、23年度GDP予想7.3%増 選挙に向けモディ首相に追い風―【私の論評】インド経済の堅調な成長、中国経済は体制が変わらなければ今後数十年低迷

 インド、23年度GDP予想7.3%増 選挙に向けモディ首相に追い風

まとめ

インドの経済成長率は2023年度も堅調に推移すると予想されている。これは、モディ政権にとって追い風となり、選挙での勝利につながる可能性があると見られる。


インド統計局は2023年度のインド国内総生産(GDP)が前年度比7.3%増になるとの予想を発表。これは主要経済大国の中で最も高い成長率となり、今年5月までに見込まれている選挙を控えてモディ首相にとって追い風となる。

統計局は、この予想は2023年度の早期見通しであり、経済指標の精度向上や実際の税収、補助金の支出などが今後の改定に影響を与える可能性があると説明している。

インド準備銀行(RBI)は昨年12月に2023年度のGDPが7%増になると予想し、従来見通しの6.5%から引き上げている。

インドの経済成長率は2022年度が7.2%、2021年度は8.7%だった。

2023年7-9月期は前年同期比で7.6%増、4-6月期は7.8%増えていた。

【私の論評】インド経済の堅調な成長、中国経済は体制が変わらなければ今後数十年低迷

中国の成長率は2024年も4.5%を超える可能性はあるでしょう。しかし、それ以降の成長は、中国政府の大規模な市場改革の成否にかかっているといえます。ただ、中国のGDPはこのブログでも述べてきたようにほとんどあてになりません。

ただ、出鱈目であったにしても、ある程度整合性をもった数値を出さなければならないので、実数値は全く信用できないにしても、推移はある程度みることはできるでしょう。


まとめ
インド経済は、モディ政権による経済改革や人口増加の恩恵を受け、堅調な成長を続けている。一方、中国経済は、ゼロ・コロナ政策の転換や中所得国の罠への陥落、国際金融のトリレンマなどにより、今後数十年低迷し続ける可能性が高まっている。
以下にインドの経済成長の推移の表を掲載します。

2020-21年度は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、経済成長率が大きく落ち込みました。しかし、その後は回復基調にあり、2022-23年度は7.2%と、主要経済大国の中で最も高い成長率となりました。2023-24年度も、7.3%の成長率が見込まれており、インド経済の堅調な成長が続くと予想されています。

なお、インドの経済成長率は、2021-22年度から2023-24年度にかけて、大きく上昇しています。これは、モディ政権による経済改革や、人口増加による労働力供給の増加などが要因と考えられます。

モディ首相と安倍首相

モディ政権の経済政策には、貧困対策やデジタル・インディアを含めて、前UPA政権が手掛けた政策を引き継ぎ、その焼き直しを図ったものが多く含まれています。倒産破産法(IBC)の成立、さらには憲法改正を伴う物品・サービス税(GST)の導入に漕ぎつけたことは、インドの経済政策に新たな一頁を付け加えたものとして評価されています。また、モディ政権は、製造業や雇用のさらなる拡大を目指しています。

モディ政権は、製造業や雇用の拡大を目指して、多数の政策を実施しています。例えば、第1次モディ政権下で発表された「Make in India」政策は、製造業の割合を2022年までに25%に引き上げ、5年間で1億人の新規雇用を創出することを目標としています。

また、第2次モディ政権では、法人税の約10%の引き下げを発表するなど、事業環境の整備を進めると同時に、重点分野を絞った税制優遇、人材育成等の実施を計画しています. さらに、第2次モディ政権は、エレクトロニクスやEV・電池製造分野でも段階的製造プログラム(PMP)を導入し、国内製造を促す見込みです。

一方中国経済は、ひどい状況に陥っています。中国経済にとっての2024年の課題は、GDPの成長率ではなく、その先の成長の持続性であるといえます。

中国の成長率は2024年も4.5%を超える可能性はあるでしょう。しかし、それ以降の成長は、中国政府の大規模な市場改革の成否にかかっているといえます。ただ、中国のGDPはこのブログでも述べてきたようにほとんどあてになりません。

ただ、出鱈目であったにしても、ある程度整合性をもった数値を出さなければならないので、実数値は全く信用できないにしても、推移はある程度みることはできるでしょう。

このブログでも何度か指摘してきたように、中国は経済発展により1人当たりのGDPが中程度の水準(中所得:約1万ドル)に達したましたが、その発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷する「中所得国の罠」に陥る可能性があります。

中所得国の罠に関しては、産油国などの特殊事情があるいくつかの例外はあるものの、ほぼ例がなく多くの国々がこの罠にはまっており、中国だけが例外になることはあり得ません。

特に、中国においては、再び経済成長するためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が必要不可欠なのですが、現在の中国共産党の体制ではほぼ不可能です。

中国は、1978年の改革開放以来、数十年間、世界で最も急成長を遂げた主要経済国の一つとなりました。1991年から2011年の間、毎年10.5%の成長を続け、その後も2021年まで10年間の平均は6.7%でした。ただし、これも実数は出鱈目の可能性がありますが、推移に関してはある程度信用しても良いとは思います。

しかし、2022年の暮れ、中国政府の厳格な「ゼロ・コロナ」政策が転換され、2023年に期待された経済回復は強い逆風にさらされました。

ロイター通信によると、コロナ後の中国経済は、消費者の消費回復、海外投資の再開、製造業の再稼働、住宅販売の安定など、さまざまな好材料が期待されていました。しかし、実際には、中国人消費者は不況に備えて貯蓄を増やし、外国企業は資金撤退を加速、製造業は西側諸国からの需要減退に直面、地方政府の財政は不安定になり、大手不動産会社は相次いで債務不履行に陥りました。

こうした状況を受け、一部の経済学者は、日本がバブル崩壊後に経験した「失われた数十年」との類似点を指摘しています。ただ、日本の場合は、このブログでも指摘してきたように、バブル崩壊そのものが、日銀官僚や財務官僚の誤謬によるものであり、正しいマクロ経済運営をしていれば、そもそも崩壊はなかっといえますが、現状の中国は違います。

また、中国政府が10年前に不動産開発主導の発展から内需主導型の成長に経済を移行すべきだったが、それを怠ったと批判する声もありますが、これもかなり難しかったと考えられます。

なぜなら、従来から指摘してきたように、中国は国際金融のトリレンマにもはまっており、これを現在の中国共産党による体制では、変えることは難しいからです。これにより、中国人民銀行は、独立した金融政策が行えない状況に陥っています。

中国政府は、こうした課題を克服するため、消費を拡大し、経済の不動産依存を減らすと宣言。金融機関に対し、不動産開発からハイテク業界への融資に転換するよう指導しています。

しかし、中国政府がこれらの課題を解決するには、より大胆な構造改革が必要です。具体的には、固定相場制から変動相場制への移行、金融システムの改革、民間企業の権利の拡大、市場競争の促進などが必要不可欠です。

中国政府がこれらの改革に成功すれば、中国経済は新たな成長軌道に乗ることができるでしょう。しかし、失敗すれば、中国は「中所得国の罠」に陥り、世界経済の成長を牽引する役割を失うでしょう。現在の中国の体制では、これはできないでしょう。

そうなると、今の体制である限り、今後中国経済は数十年にわたって低迷し続けるでしょう。いつか中国経済が米国経済を超すといわれていましたが、現状ではそのようなことは全く考えられません。

インド経済は、これからも飛躍的に伸び、米国や日本、EU経済もこれからもある程度は伸び続け、その他の国々も、中所得国の罠や国際金融のトリレンマにはまっていない国々や、これからそれにはまることを防ぐ国は成長を続けるでしょうが、そうではない国々は中国を含めて低迷し続けることになるでしょう。

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2023年8月28日月曜日

中国の若者失業率 過去最高―【私の論評】中国内で、無能で手前勝手な中国政府への不満はさらに高まる(゚д゚)!

中国の若者失業率 過去最高

まとめ
  • 中国の若年失業率は過去最高を記録し、その実態はさらに深刻である。
  • 家賃の高騰や経済の停滞が、新卒者の就職難に拍車をかけている。
  • 中国政府は、若年失業率の発表を停止した。


中国の若年失業率は、2023年6月に21.3%と過去最高を記録した。これは、2020年から3年間続いた新型コロナの流行によるものである。

北京大学の張丹丹准教授は、3月時点で、中国の本当の青年失業率は最大46.5%に達すると指摘した。これは、非労働者である「寝そべり」や「ニート」をすべて失業者と見なした場合の数字である。

最近、家賃の高騰と経済の停滞に直面し、新卒者が増えているという。実際、2022年度卒業生の47%近くが、学業を終えてから6ヶ月以内に実家へ戻ったという。

8月15日、中国国家統計局は青年失業率の発表を暫定的に中止すると発表した。中国外務省は、統計改善の努力の一環として、関連部門が統計指標を調整・削減するのは普通の事だと開き直った。しかし、海外SNS上では、中国の公的な経済データの透明性に対する疑問の声が広がっている。

【私の論評】無能で手前勝手な中国政府への不満はさらに高まる(゚д゚)!

まとめ

  • 雇用は、マクロ経済学において最も重要な指標である。
  • 日本の安倍政権は、金融緩和によって雇用を改善し、政権の安定につなげた。
  • 中国は、国際金融のトリレンマによって、独立した金融政策ができない。そのため、雇用が悪化し、社会不安が高まっている。
  • 中国政府は、雇用改善のために金融緩和を実施すべきだが、権威主義的支配を維持するためにそれをしない。
  • 中国の若者の失業率は高く、彼らは政府への不満を抱いている。
  • 日本は、中国の迷惑電話に対して毅然と対応すべきだが、動静を冷静に見守ることも重要である。

マクロ経済学では、政府の経済政策の中で、最も重要なのは雇用であるとされています。他の指標が悪くても、雇用さえ良ければ、政府の経済政策は及第点であるとされます。

これは、日本の憲政史上で最長となった安倍政権の経済対策をみれば、理解できます。

日本の憲政史上で最長となった安倍政権

安倍政権下においては、結果として二度も消費税増税が行われました。しかし、安倍政権の経済政策におけるいわゆる3つの矢のうちの、黒田日銀総裁総裁時代の日銀では当初は異次元の包括的金融緩和が実施され、その後もイールドカープ・コントロールを導入するなどの後退局面はあったものの、金融緩和自体は継続されました。

そのため、安倍政権時代にはかなり雇用が改善されました。特に新卒者の雇用は劇的に改善されました。そのため、多くの若者が雇用の改善をリアルタイムで認識することができ、若者こそが日銀の金融緩和による雇用改善の最大の、受益者になったといえます。これが若者の安倍政権支持につながったとみられます。

雇用の改善は若者以外の国民にも良い影響を及ぼし、これが安倍政権が憲政史上最長の政権になったことの原動力の一つになったのは間違いありません。

金融緩和は現在の植田日銀総裁も継続しています。ただ、長期金利の上昇を容認するYCCの運用柔軟化策を決定し、実質的に利上げともみられるようなことをしています。今後はどうなるかはわかりません。安易な金融緩和政策の変更は、厳に慎むべきです。そうでないと、日本も雇用が悪化し、円高を招きせっかく回復しかけている輸出産業を毀損することになりかねません。

雇用の劇的改善を喜ぶ日本の若者 AI生成画像

雇用はそれだけ重要なのです。しかし、最近の中国では雇用が悪化するばかりで、改善される兆しはありません。これは、習近平政権の経済対策は、失敗であることを明確に示しています。

これには、多くのメディアが様々に現象面だけを捉え、説明していますが、いくら現象面を多数あげたにしても、これだけの雇用の悪化とそれを政府が改善できない根本要因は理解できません。

その根本要因とは、国際金融のトリレンマです。これによって、中国人民銀行は、独立した金融政策ができない状況にあります。実施すれば、キャピタルフライトやインフレの加速などに見舞われ、やりたくてもできないのです。

マクロ経済学の初歩理論では、いかなる国においても、中央銀行が金融緩和をしてインフレ率を数%でも高めることができれば、その他は何もせずとも、瞬時に大量の雇用が生まれることを示しています。

日本では、数百万、中国であれば、数千万人の雇用が生まれるかもしれません。実際の雇用はその時々で様々な影響があるので、数字を一般化することはできませんが、大きな括りでは、そのようなことがいえます。

実際アベノミクスの金融緩和政策においては、数百万の雇用が生まれています。

だからこそ、中国人民銀行は、アベノミクスのような異次元の包括的金融緩和をすぐにも実施すべきなのですが、先にも述べたように、中国人民銀行はそれができない状況にあるのです。

中国人民銀行が国際金融のトリレンマから脱して、人民銀行が独立した金融政策を取り戻すには、変動相場制に移行したり、資本の移動をさらに自由化するなどの対策をすべきなのですが、中国共産党はそれをしません。

それはなぜなのでしょうか。

中国共産党は、金融政策や通貨評価など、中国経済のあらゆる側面をコントロールすることに重きを置いています。変動相場制と資本フローの開放は、彼らの支配力を低下させるからです。

人民元が割安になることで、中国の輸出品の価格が安くなり、経済成長が促進されることになります。変動相場制は人民元が値上がりし、輸出企業に打撃を与えるリスクがあります。

開放的な資本フローが中国経済と金融システムを不安定化させることを恐れているという面もあります。急激な資本流出は、他国の新興市場でも危機を引き起こしています。

経済と金融システムのコントロールを緩めることは、中国共産党の権威主義的支配を脅かすことになります。中国共産党は権力を手放したくないし、社会が不安定になるリスクも冒したくないのです。

強力な国有企業や輸出企業は、現状を維持するよう中国共産党に働きかけているとみられます。たとえ経済全体が苦しくなっても、彼らは現在の政策から利益を得ることができます。

中国共産党は、急激な自由市場への変化よりも、緩やかな国家統制の改革の方が良いと考えているとみられます。しかし、彼らのいわゆる "改革 "とやらは依然として政府の介入と操作を伴います。要するに、中国共産党は、自らの統治の正当性維持しようとして躍起なのですが、結果として、中国経済は毀損され続けることになるのです。

これだけ雇用が悪化していると、これに対する国民の憤怒のマグマが煮えたぎるのは当然のーことと考えられます。私は、福島県などの飲食店などに「処理水」に関しての嫌がらせ電話が増えている背景にはこのようなこともあると思います。

上の記事では、中国の本当の青年失業率は最大46.5%に達すると指摘もあり。これは、非労働者である「寝そべり」や「ニート」含めた数字であるとされていますが、これらの人たちは、政府の無能に怒りを感じながらも、何もできずにいると思います。ただ、時間的な余裕は有り余っています。そこで、「処理水」による日本批判などに容易に扇動されて、「迷惑電話」かけている可能性もあると思います。これは、あくまで私の推測です。

中国の寝そべり族

ただ、このようなことをすれば、一時的には不満の発散になるかもしれませんが、失業状態という事実には変わりないですし、それに中国から日本に電話をかければ、ダイヤル直通通話〔通話料 約120 円/分〕、クレジットカードによる通話料支払い〔通話料 約 40~160 円/分〕です。失業者が一時的な不満の発散のためにこれを負担するのは、割高だと思います。

それにこれは、日本のKDDIなどの電話会社にも利益をもたらすことになります。

これでは、無能で手前勝手な政府への不満はさらに高まることが予想されます。

日本政府としては、中国に対して毅然と対応すべきであり、何らかの対応手段を用意しておくべきですが、しばらく動静を冷静に見守り対処するという姿勢も同時に重要だと思います。

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2023年8月19日土曜日

中国恒大、再建見通せず 不動産不況が深刻化―【私の論評】なぜ恒大は最初に中国ではなく、米国で破産申請を行ったのか(゚д゚)!

 中国恒大、再建見通せず 不動産不況が深刻化


 中国不動産開発大手の中国恒大集団が、米国で破産を申請しました。資産が差し押さえられるリスクなどを減らし、債務再編に向けた債権者との協議を加速させる狙いがあります。しかし、中国では不動産不況が深刻化しており、経営再建に向けた道のりは見通せません。

 恒大は政府が融資規制を導入した影響で資金繰りが行き詰まり、2021年に実質的なデフォルト(債務不履行)に陥りました。負債総額は22年末時点で2兆4374億元(約49兆円)。この一部を占める外貨建てについては、今年3月に再編案を公表しましたが、多くの債権者が受け入れを拒んでいた。米破産法の適用申請で、今後の交渉を有利に進める考えとみられます。

 しかし、中国では景気の冷え込みを背景に、住宅販売が一段と低迷。碧桂園など恒大以外の大手デベロッパーの経営危機も相次いで表面化しています。人口減少も始まり、不動産需要はさらに落ち込むとの見方は多く、経営環境の好転は望めない状況です。

 今回の恒大の破産申請は、中国不動産市場の深刻な危機を象徴しています。中国政府は恒大の債務再編を支援していますが、その効果は不透明です。恒大の破産の影響は中国にとどまらず、世界経済にも波及する可能性があります。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください

【私の論評】なぜ恒大は最初に中国ではなく、米国で破産申請を行ったのか(゚д゚)!

日本や、欧米などの先進国では、状況により一概にはいえないですが、破産手続きはまずは本国で行う事が多いと思います。しかし、恒大グループは、米国で破産申請し、中国で破産申請していません。その理由は、以下のようなものと考えられます。 

1. 中国共産党政府は恒大グループに対して大きな支配力と影響力を持っている可能性が高いです。中国で破産を申請すると、資産を失ったり、権威主義政権から処罰を受けたりするリスクがあります。米国の法制度はより公平で、財産権も保護されているため、再建のためには米国の方が安全とみられます。

2. 中国の不動産市場は基本的に政府によって支えられており、真の自由市場資本主義ではありません。国内で破産を申請して問題の規模を認めることは、共産党にとって恥辱です。米国で静かに対処し、中国で面子を保つ方がやりやすいのでしょう。

3. 米国の破産法はより寛大で、企業にセカンドチャンスを与えるように制度設計されています。中国ではより懲罰的かもしれないです。というより法律が曖昧なので、厳しい懲罰になるのか、そうではないか、予め判断がつきません。恒大は、米国の破産法の下で再建し、生き残る方が有利だと考えたのでしょう。

4. 負債、資産、投資などに関連した複雑な財務上の理由があり、中国での申請を避けつつ、米国での申請を戦略的に実行しやすくしている可能性があります。

破産申請した中国恒大集団 AI生成臥像

そもそも、中国の法制度と金融制度が不透明です。そもそも、中国の憲法は共産党の下に位置づけられており、その憲法に基づいて制定される法律は、すべてが中国共産党の下に位置づけられており、極論すると、いかなる法律も中国共産党によってその時々で恣意的に運用できることになります。

その中でも、特に破産法はまだ発展途上で不透明です。企業は中国で破産を申請した場合、何が起こるか正確にはわかりません。

中国の会計基準は緩く、企業の財務開示は限られています。企業のバランスシートや負債を正確に把握することは難しいです。そのため、負債や資産の全容が不明確となり、破産手続きは厄介なものとなります。

中国の破産案件では、政府が大きな役割を果たしています。政府は頻繁に破綻した国有企業を救済措置で支えています。また、党に恥をかかせた民間企業を罰することもあります。政治は法の支配に優先するのです。

 中国のシステムには腐敗が蔓延しています。企業は、破産を申請すれば、その資産が汚職官僚によって私利私欲のために横領されるのではないかと心配しています。米国の法律はこのような事態を防ぐのに有効です。

中国では検閲があり、メディアの自由がないため、企業の破産の詳細が一般に公開されないことが多いです。透明性の欠如はシステムに対する信頼を損なうことになます。

 さらに、複雑なシャドーバンキングシステムと企業間のつながりが、中国の倒産を厄介なものにしています。ある企業の破綻が、複雑に絡み合った他の企業にどのような影響を与えるかわからないのです。

法律や金融システムの不透明さ、政府の介入、汚職、透明性の欠如、シャドーバンキング、これらすべてが中国の倒産プロセスの不確実性を高めています。米国のシステムは、完全無欠ではないにせよ、明らかに透明性が高く、法の支配に支配されています。

破産した企業に群がる債権者達 AI生成画像

破産プロセスですら、曖昧なのですから、中国のシステムは全般的に不透明なので、経済や政府の財政の本当の状態を知ることはほとんど不可能です。

 中国の公式経済統計は信頼性が低く、政治的目的のために操作されていると広く信じられています。本当の成長率、債務水準、資産バブルなどは誰も知らないです。

中国の銀行システムは大部分が国家管理下にあります。政府は破綻した企業や地方政府を支えるために、銀行に不良債権を転嫁させることができます。このため、金融トラブルは水面下に隠されています。

中国の政府債務は巨額だと考えられますが、その詳細は不透明です。多くの債務は「帳簿外」もしくは隠されているようです。問題の規模は公式発表よりもさらに大きい可能性があります。

政府はパニックを避け、統制を維持するため、否定的な経済ニュースを一切報道しません。倒産、債務不履行、破綻の報告は検閲されます。そのため、部外者は知る由もありません。

政府が企業を管理するということは、国家の利益のために民間の資金や資産を実質的に徴用できるということです。これによって一時的に経済危機を回避することはできますが、資本の恣意的な再配分は長期的な損害をもたらすことになります。

中国の全体主義的権威主義体制は、権力と支配を何よりも重視します。経済問題が権力の掌握を脅かすのを防ぐためなら、嘘をついたり、データを操作したり、失敗した政策を二転三転させたりすることでも、何でもするでしょう。

中国経済は、公に知られているよりもはるかに深刻な状況にある可能性があります。そのシステムの不透明さと政府の情報統制の厳しさから、共産党は権力を危うくするのを避けるために、負債の規模を隠している可能性があります。

北京の支配者たちにとって、真実はかなり不愉快なものかもしれないですが、わたしたちは、中国共産党の意図を読み解き、懐疑的であり続けなければならないです。

システムの不透明性に困惑する中国人 AI生成画像

もう10年以上も前から、中国経済は崩壊するとか破綻するとかいわれてきましたが、仮にそれが本当だったとしても、中国共産党の工作により、巧みに長期間にわたり隠蔽されてきた可能性があります。

このようなことが繰り返されてきたので、中国経済は回復し再び成長するのではという幻想を多くの人が抱くようになっていたようです。しかし、そうではないことが今回の中国恒大集団による、米国での破産申請によって暴露されたともいえると思います。

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