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2023年7月10日月曜日

「多臓器不全」に陥った中国経済―【私の論評】何度でも言う!中国経済の低調の真の要因は、国際金融のトリレンマ(゚д゚)!

「多臓器不全」に陥った中国経済


 2023年7月6日、米国のイエレン財務長官が中国を訪問しました。これは、約5年ぶりのこと。

 同月1日、中国は「対外関係法」を施行しました。これは、習近平政権が長年、蓄積してきた外交原則(「戦狼外交」)を合法化し、米国の「ロングアーム管轄権」(被告が当該州に所在していない場合であっても、被告がその州に最小限度の関連がある時、当該州の裁判所に裁判管轄が認められる)への対抗を目的としている。

 中国経済が低迷する中、李強首相は多くの経済学者を集めて会議を開き、経済を救うための助言を求めた。

 専門家らは、李強率いる国務院(内閣)が今の中国経済をどうすることもできないと匙を投げた。問題の根源は中南海にあり、習主席が米国に対抗しようと固執している限り、経済危機は相次いで発生し、救済策はないと分析している。

 台湾のエコノミスト、呉嘉隆によれば、現在の中国経済は、(1)不動産価格の下落、(2)地方政府の債務過多、(3)外資の受注撤回と逃避、(4)雇用悪化、と複数の危機が同時に噴出し、いわば“多臓器不全”の状況ではないかという。

 呉嘉隆が指摘した問題点を具体的に述べてみよう。

 まず、第1に、米不動産コンサルティング大手、戴徳梁行(Cushman & Wakefield)は、深圳のトップ商業オフィスビルの空室率が2023年上半期には24.5%にものぼるとの新たなレポートを発表した。

 空室率の高さから、大家はテナントを誘致するため値下げに踏み切り、今年上半期の賃料水準は、2018年同期比で28.6%も急落し、中国メディアもより悲観的な予測を発表している。

 第2に、海外メディアは中国の地方政府債務をアジアでナンバー1の金融リスクに挙げている。専門家は、同リスクが最大の地雷原であり、中南海はこの地雷原がどれほどの大きさで、いつ爆発するかわからないため、現状を「だらだら引き延ばす」しかないという。

 7月3日、公債発行データによれば、今年上半期の地方債発行額は約4兆4000億元(約86兆6800億円)だったと、中国メディア『第一財経』が報じました。前年同期の5兆3000億元(約104兆4100億円)を約17%下回ったものの、依然として高水準にある。

 このうち、新規発行が約2兆7400億元(約53兆9780億円)、借換債が約1兆6200億元(約31兆9140億円)で、全体の約37%を占め、古い借金の返済に充てられている。

 なお、今年、地方政府の債務返済額は3兆6500億元(約71兆9050億円)にのぼるとみられる。

 第3に、2021年から現在に至るまで、国際市場と技術、管理、受注、国際協力、国際分業などによる中国の輸出主導経済発展の契機は消えてしまった。

 サプライチェーンはまだ全部は移転されていないので、東莞の工場などはまだ一部残っている。問題の核心は、欧米市場からの注文が徐々に減っている点ではないか。

 注文がなくなり、労働者が解雇され、工場が倒産し、その機械設備や工場だけが残る。もし誰かがそれらを買収しなければ、スクラップとなって中国経済バブルの残骸となるだろう。
第4に、中国人力資源・社会保障部の予測によると、2023年の中国の大学卒業者は1158万人に達し、新記録を樹立するという。

 目を見張るのは、「BOSSダイレクト・リクルートメント」が第1四半期だけで1461万人の新規ユーザーを獲得し、前年同期比57.5%増と急増した。多くの人が仕事を失って転職市場に押し寄せている証とみられる。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】何度でも言う!中国経済の低調の真の要因は、国際金融のトリレンマ(゚д゚)!

私にとっては、上の記事は驚きです。多くの識者やマスコミ等は、中国経済の現象面だけを捉えていて、根本原因を述べません。国際金融のトリレンマは中国の経済政策にとって大きな制約であり、中国経済がこのような困難な状況に陥っている主なというか、最大の原因の一つです。

悪化する中国経済 AI生成画像

国際金融のトリレンマについては、このブログの読者であれば、過去に何度か説明させていただいたので、ご存知とは思いますが、ご存知ない方のために再度以下に説明します。国際金融のトリレンマとは、ある国が同時に以下の3つの政策を同時に実行することはできないという経済学の概念です。できるのは、せいぜい2つの政策です。概念とはいいながら、数学的にも経験則的にも証明されています。
  1. 固定為替レート
  2. 独立した金融政策
  3. 自由な資本移動
ある国が固定相場制を維持したいなら、独立した金融政策を持つことを諦めなければならないです。なぜなら、為替レートを固定したいのであれば、外国為替市場に介入して自国通貨を売り買いしなければならないからです。この介入は、その国の金融政策に大きな影響を与える可能性があります。

例えば、ある国が為替レートの固定を維持したいと考え、自国通貨の価値が下がり始めた場合、中央銀行は自国通貨を買って価値を下支えする必要があるかもしれないです。これによって国内の通貨供給量が増え、インフレにつながる可能性があります。

同様に、ある国が独立した金融政策を望むのであれば、為替レートを固定することをあきらめなければならないです。中央銀行が金利の上げ下げを可能にしたいのであれば、固定為替レートに縛られるわけにはいかないからです。

最後に、ある国が自由な資本移動を望むのであれば、固定為替相場制や独立した金融政策を実施す能力を放棄しなければならないです。資本が自由に出入りすれば、中央銀行は通貨価値や金利をコントロールできなくなるからです。

中国は、国際金融のトリレンマに直面している国の良い例です。

中国は、国際金融のトリレンマに直面している国の良い例です。中国は固定為替レートを採用していますが、同時に独立した金融政策を望んでいます。このことが、インフレや経済の不安定化など、中国にとって多くの問題を引き起こしています。

このトリレンマを解決するためには、中国は固定相場制を諦め返答相場制に移行するか、独立した金融政策を諦めるか、自由な資本移動を諦めるかのいずれかを選択する必要があります。これは難しい選択であり、簡単な答えはなです。

以下は、中国が考えうる解決策です。

固定相場制を放棄し、通貨価値の変動を認めるのです。そうすれば、中央銀行の金融政策の柔軟性は増すでしょうが、通貨の変動は大きくなるでしょう。

独立した金融政策を放棄し、通貨価値を米ドルなど他の通貨に連動させることです。そうすれば通貨価値は安定しますが、金融政策で経済を管理する能力も失うことになります。そうして、今の中国がまさにこの状態にあります。

資本規制を実施し、資金の出入りを制限します。これにより、中国は固定為替レートと独立した金融政策を維持することができますが、中国での企業活動はより困難になでしょう。

中国にとって最善の解決策は、国の経済目標や政治情勢など、さまざまな要因によって異なるでしょう。しかし、国際金融のトリレンマは、中国が直面する現実的な課題です。

メディアや識者は、不動産価格の下落や失業率の上昇など、中国経済問題の現象的な側面に焦点を当てることが多いです。しかし、これらの問題は、国際金融のトリレンマという深い問題の一症状に過ぎないのです。

中国がこのトリレンマから脱却する方法を見つけることができない限り、中国が経済を改善し、若者の雇用を創出することは難しいでしょう。

中国の現状を理解するためには、国際金融のトリレンマを理解することが重要です。これは複雑な問題ですが、中国の経済問題や直面している課題を理解するためには、この問題を理解することが不可欠です。

メディアや識者が国際金融のトリレンマについてほとんど言及しない理由をいくつか挙げてみましょう。

これは、複雑な問題であり、単純に説明するのが難しいです。特に、経済音痴のマスコミなどは、一つのことで頭がいっぱいになるのに、国際金融のトリレンマは、3つのことを同時に考えなければなりません。

さらに、これは新しい問題ではなく、何年も前から存在している問題ということもあるでしょう。

さらに、多くの人を耳目を引き付けるような問題ではないですし、見出しにもなりません。しかし、中国の経済問題や直面している課題を理解するためには、国際金融のトリレンマを理解することが重要だと私は思います。

それにしても、李強が集めた専門家たちが、国際金融のトリレンマについて一言も述べないのは不可思議です。問題の根源は中南海にあり、習主席が米国に対抗しようと固執している限り、経済危機は相次いで発生し、救済策はないと分析していますが、これは間違いです。


李強は専門家を集めたが、中国経済改善策はみつからなかった AI生成画像

根本要因は、国際金融のトリレンマにより独立した金融政策が実施できないことなのですから、たとえ米国が何の制裁を課さなかったとしても、中国経済はかなり落ち込んでいたでしょう。ただ、米国としては、中国がなにか事を起こした場合に、制裁するとい構えは維持しておきたいのでしょう。

イエレンもこのことは、知っていると思います。何もしなくても、中国経済は長いスパンでは、自滅すると踏んでいるでしょう。ただ、懸念しているのは、中国が変動相場制に移行するなどの大胆な改革をした場合、中国は人口が多いですから、内需だけでかなり経済を発展させることができますから、そうなれば、本当に米国の脅威になりえます。

ただ、今回の訪問でも、そのような話は一切でなかったのでしょう。イエレンとしては、様子見をしつつ、米国を毀損しない形で、効果のある中国制裁を模索していく腹でしょう。

ただ、私は習近平も、李強首相もこのことを知っているとは思います。しかし、中国が変動相場制への移行など、思い切った構造改革ができない理由は以下のことが考えられます。

政治的配慮。中国政府は、変動相場制は通貨をより不安定にし、金融市場の不安定化につながることを懸念しています。これはひいては社会不安につながりかねず、政府はこれを避けたいと考えているのでしょう。

経済的配慮。中国政府は、変動相場制によって輸出主導の成長モデルを維持することが難しくなることも懸念しているのでしょう。これは、変動相場制によって通貨が割高になり、中国の輸出競争力が低下するためです。

国内への配慮。中国政府はまた、変動相場制が経済のコントロールを失うことを懸念しているのでしょう。経済運営の重要な手段である通貨価値を政府が直接コントロールできなくなるからです。

こうした政治的、経済的、国内的な配慮に加え、中国が変動相場制に移行するために対処しなければならない現実的な課題も数多くあります。これらの課題には以下が含まれます。

強力な金融システムの必要性。変動相場制には、通貨の変動に耐えうる強力な金融システムが必要です。中国の金融システムはまだ比較的脆弱であり、これを強化する必要があります。

柔軟な労働市場の必要性。変動相場制には柔軟な労働市場も必要です。変動相場制は輸出入価格の変動につながり、それが労働需要の変動につながるからです。中国の労働市場はまだ柔軟性に欠けており、変動相場制を導入するには、より柔軟性を高める必要があります。

こうした課題を考えれば、中国が変動相場制への移行など、思い切った構造改革に踏み切れないのも理解できます。しかし、中国が長期的に成長と繁栄を続けたいのであれば、いつかは国際金融のトリレンマに対処する必要があります。これができない限り、中国は何をしようとも、弥縫策を繰り返すだけになり、何の解決にもなりません。

10年以上前の中国なら、以下のような多くの政策を実施することで、国際金融のトリレンマから逃れることができました。

過去の中国は国際金融のトリレンマから逃れることができた

為替レートの固定。中国は長年にわたり、自国通貨である人民元の価値を米ドルに対して固定してきました。これは経済を安定させ、企業にとって予測しやすくするのに役立ちました。

資本規制の実施。中国は資本規制を敷き、国内外への資金の出入りを制限しています。これは人民元の変動が経済に影響を与えるのを防ぐのに役立ちました。

独立した金融政策の利用。中国は独立した金融政策で経済を管理してきました。これによって、政府は金利やその他の金融政策ツールを調整し、経済状況に対応することができるようになりました。

こうした政策は、中国が国際金融のトリレンマから逃れ、不況から素早く立ち直るのに役立ってきました。しかし、状況は変わりつつあります。中国経済が世界経済との一体化を深めるにつれ、人民元を固定し、資本規制をかけることが難しくなっています。そのため、中国が独自の金融政策で経済を管理することが難しくなっています。

李強が集めたという専門家らは、固定相場制から変動相場制に移行するなどの、根本的な構造改革は抜きにして、当面の弥縫策を求められたのかもしれません。だとしたら、確かに匙を投げざる負えないです。

その結果、中国は多くの課題に直面しています。国際金融のトリレンマのバランスを取る方法を見つけなければ、将来的にさらなる経済の不安定化に直面することになるでしょう。これを防ぐには、金融システム改革等様々な改革をしつつ、段階的に変動相場制に移行するしかないでしょう。

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2023年3月18日土曜日

習近平政権3期目のサプライズ人事―【私の論評】中国が効き目のある金融・財政政策ができないのは、米国等の制裁ではなく国内の構造問題に要因があることを習近平は理解すべき(゚д゚)!

習近平政権3期目のサプライズ人事


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国で全人代が北京で開催され、習近平政権第3期目が正式に発足した。

・「李克強派」である人民銀行総裁易綱と財政相劉昆が留任。習主席が金融危機を恐れているのは明らか

・李尚福国防相就任は、今後の米中関係に大きな影響を与える可能性が高い


今年(2023年)、中国では全国人民代表大会(全人代)が3月5日から13日まで北京で開催された。そして、習近平政権第3期目が正式に発足した。新政権は、ほとんどが習主席の忠実なる部下で構成されている。

だが、各種メディアで既報の通り、中国人民銀行総裁の易綱(65歳)と財政相の劉昆(66歳)が留任した。これまでは、65歳になると、定年退職しなければならなかった(新政権には易綱と劉昆以外にも定年を超えた人事が行われている)。

今回、この件が驚きをもって迎えられたのは、李克強前首相派閥の人間が残留した(a)からである。習主席としては、国務院(内閣)から「李克強派」をすべて一掃したかったに違いない。

けれども、国務院トップの李強・新首相は地方(上海市等)政府出身のため、中央政府で務めた経験がない。習主席としては、金融・財政政策に不安を抱いたのだろう。そこで、易綱と劉昆という人材を残したと考えられる。

易綱は米イリノイ大学で博士号を習得し、インディアナ大学で教鞭を執っていた(b)。その後、帰国して北京大学の教授となっている。

易綱は、2017年の党大会で中央委員候補に選出されていた。ところが、昨2022年の党大会では、中央委員はおろか、中央委員候補にも名を連ねていなかったのである。その易綱が人民中央銀行総裁に留任した。異例の人事だろう。

習政権としては、易綱ならば、米国と金融関係の話ができるので、バイデン政権と金融面で話し合う用意があるというメッセージを米国へ送ったのではないだろうか。米国側も、その点を評価し、歓迎しているかもしれない(ただ、今秋、易綱は更迭されるのではないかという噂がある)。

他方、劉昆は、厦門大学経済学部で財政・金融を学んだ。1982年、広東省人民政府に入省し、2010年、広東省人民政府副省長にまで昇進(c)している。2013年5月、財政部副部長(副大臣)に抜擢された。その後、2018年3月、李克強首相(当時)の下、財政部長(財政相)に就任している。この2人の人事を見れば、習主席が金融危機を恐れているのは明らかではないだろうか。

実は、もう1人、新政権でのサプライズ人事があった。それは、魏鳳和を引き継いだ李尚福(65歳)新国防相(d)である。李尚福は、人民解放軍総装備部副部長、戦略支援部隊副司令官兼参謀長、中央軍事委員会装備開発部長等を歴任した後、2019年7月に上将に昇格(e)した。

李尚福は航空宇宙分野にも精通しており、西昌衛星発射センターで長年勤務している。そして、同センター司令官、月探査プロジェクト発射場システム最高指揮官、嫦娥二号発射場エリア司令官等を務めた。

2018年9月、米国務省は「米国の敵を制裁するための法案」(2017年8月に成立)に基づき、ロシアの大手武器輸出企業、ロシア防衛産品輸出公社(Rosoboronexport)との「重要な取引」について、中国共産党中央委員会に制裁を科したと発表した。

米国務省によると、この制裁は、中国共産党が2017年にSu-35戦闘機10機を、2018年にS-400地対空ミサイルシステムを購入したことに関連するものだという。その結果、李尚福は、ロシアの戦闘機・ミサイルを購入したという理由で、米政府から制裁を受けている

ところで、3月6日、習近平は中国実業家の前でワシントンを名指しで批判し、「米国を中心とする西側諸国による対中封じ込めと抹殺は、我が国の発展に前例のない挑戦をもたらす」と述べた(f)。

また、翌7日、秦剛外相は、最初の記者会見で、米国の中国への政策方針が変わらなければ、「間違いなく対立があるだろう」とワシントンに警告している。

おそらく、習主席は3期目が米国との“競争”によって特徴づけられると確信しているのかもしれない。習政権が敢えて李尚福を国防相に任命したのは、米国に対する一種の「デモンストレーション」ではないかと、香港メディアは報じている。

しかし、国防相の最も重要な責務は「軍事交流」である。李尚福国防相就任は、今後の米中関係に大きな影響を与える可能性が高いのではないか。また、米中両国国防相が会談する場合、「非常にデリケート」になると予想される。

もしかすると、習政権は、李国防相を通じて、米国の中国共産党に対する“忍耐力”をテストするつもりではあるまいか。その後、北京は対米軍事戦略を決定するのかもしれない。今後、習政権は米国との対決姿勢を鮮明にしていく公算が大きい

〔注〕

(a)『万維ビデオ』「李強では安心できない この2人の李克強派が予想外の留任となる」(2023年3月12日付)


(b)『China Vitae』易綱



(d)『中国中央人民政府』李尚福


(e)『万維ビデオ』「この閣僚の任命は奇妙だ 習近平は彼に米国をテストするように頼んだ」(2023年3月12日付)


(f)『中国瞭望』「習主席の覇権掌握に不安はない。だが、新政府にサプライズがないわけではない」(2023年3月13日付)


【私の論評】中国が効き目のある金融・財政政策ができないは、米国等の制裁ではなく国内の構造問題に要因があることを習近平は理解すべき(゚д゚)!

上の記事では、習主席としては、金融・財政政策に不安を抱いたのだろう。そこで、易綱と劉昆という人材を残したと考えられるとしています。しかし、現在の中国の金融政策や財政政策がうまくいかないのは、米国のせいではありません。それは、中国の内部の事情によるものです。

仮に、米国が制裁を行っていなかったとしても、中国の金融政策は機能不全に至っていたとみられます。それは、国際金融のトリレンマによるものです。これによれば、金融政策が機能不全に陥れば、財政政策も機能不全に陥ります。これについては、このブログでも何度か指摘してきました。

以下にその記事の典型的なもののリンクを掲載します。
姑息な〝GDP隠し〟習政権が異例の3期目 経済の足引っ張る「ゼロコロナ」自画自賛も 威信を傷つけかねない「粉飾できないほど落ち込んだ数値に」石平氏―【私の論評】習近平が何をしようが中国経済は、2つの構造的要因で発展しなくなる(゚д゚)!
詳細は、粉の記事をご覧いただくものとして、以下に国際金融のトリレンマに関わる部分を掲載します。この内容をご存知の方は、これを読み飛ばしてください。
中国の経済の停滞の原因は、ゼロコロナ、不動産バブルだけではありません。これだけであれば、この2つの不況原因を取り除けは、中国経済は再び発展することになりますが、そうではないのです。

この他に2つの構造的な要因があります。一つは、国際金融のトリレンマによるものであり、もう一つは、ごく最近新たに付け加わった、ジョー・バイデン米政権が打ち出した、「半導体技術の対中国禁輸」です。
まずは、国際金融のトリレンマによる構造的要因です。この理論によれば、独立した国内金融政策、安定した為替相場(固定為替相場制)、 自由な資本移動、の三つは同時に実現できません。実際、日米を含め殆どの国は上記三 つのいずれかを放棄しています。

これに対して中国は、金利・為替・資本移動の自由化を極 めて漸進的に進める過程において、国内金融政策の自由度を優先しつつ、状況に応じ て為替と資本移動に関る規制の強弱を調整することで、海外の資本・技術を取り入れて 成長し、グローバルな通貨危機等の波及を阻止できました。 

しかし、資本移動を段階的に自由化した結果、最近では人民元相場と内外金利差の相 互影響が強まっています。これにより、国内金融政策が制約を受けたり、資本移動の自由 化が一部後退するなど、三兎を追う政策運営は難しくなりつつあります。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられません。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルが膨らむ恐れがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになります。

ただ、はっきりいえば、段階的にでも変動相場制にするか、自由な資本移動を禁止して、すべての国際金融の流れを政府が一元的に管理するかいずれかを選択しなければならないです。

前者にすれば、中国による独立した金融政策、資本自由な移動はできます。

後者にすれば、自由な資本移動はできなくなるものの、固定相場制、独立した金融政策は実施できます。

後者にすれば、中国はほぼ国際金融から切り離されることになります。ほとんど資本移動がなかった一昔前の中国に戻るしかなくなります。ただ、これでは中国の経済発展は望めません。

中国がこれからも経済発展をするつもりなら、やはり日本をはじめとする先進国のほとんどがそうしているように、変動相場制に移行するしかないのです。すぐに移行するのが無理でも、少しずつそちらのほうに舵を切るしかないのです。

独立した金融政策とは、日本のようなもともと独立した金融政策を行っている国にいる人達にはりかいしにくいかもしれません。特に日本では、独立した金融緩和を実施することができるにも関わらず、長年日銀はこれを行って来なかったので、さらにわかりにくくしている部分があります。

これは、たとえば、日銀は雇用が悪化していれば、雇用を改善するため金融緩和を実施し、失業率がNAIRU(インフレ率を上昇させない失業率 :non-increasing inflation rate of unemployment)をに達すれば、緩和をやめる等のことを行うことができます。

日本や米国などでは、インフレ率を数%高めることができれば、他に何もしなくても、数百万人の雇用が生まれます。中国では、数千万人の雇用が生まれます。これは、マクロ経済学上の常識です。下にこれを示すグラフを掲載します。

日本等の先進国では、これは通常の金融政策であり、日銀はこのようなことを行うことができます。ただ、日本においては黒田総裁前までの総裁はこのような政策を取らなかったため、雇用は改善されず、日本人の賃金は30年も上がらずじまいでした。

しかし、本来ならば先に上げた金融政策を実行して、雇用を改善すべきでした。しかし、このようなことをしなかったのが、過去の日銀です。

ところが、現在の中国においては、このようなことができないのです。なぜなら、雇用改善のため金融緩和をすると、インフレが亢進したり、キャピタルフライト(資本の海外逃避)などが起こってしまうからです。

このようなことは、李克強が首相のときにすでに発生していました。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

中国・李首相が「バラマキ型量的緩和」を控える発言、その本当の意味―【私の論評】中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせい(゚д゚)!

この記事は、2019年の記事3月31日のものです。この頃は、まだコロナ禍は深刻な影響を与えていないはずです。この記事より一部を引用します。

2019年に入り、中国の景気減速がしきりに報じられるようになった。今年1~2月の小売売上高の伸び率は前年比8・2%となり、'03年並みの水準に逆戻りしたという。

こうしたなか、李克強首相は「量的緩和(QE)や公共投資の大幅な拡大などの措置を講じようという誘惑に抵抗する」と発言した。緩やかな減税は継続するが、景気拡大を狙った量的緩和は控える、という判断である。 

この記事の【私の論評】において、当時私は、中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせいとしてますが、それはより具体的にミクロ的にみれば、そうだということであり、マクロ的にはやはり国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策が実施できないことが原因です。

中国においては、最近でも雇用が悪化していることが指摘されていますが、日本の多くマスコミは、コロナ前からの構造的なものとは捉えず、コロナ禍の影響とみているようであり、そうであれば、コロナ禍から回復すれば、そうして米国等が制裁をやめれば、中国経済はまた以前のように成長するという見方になるのでしょうが、それは間違いです。

中国経済は、コロナ禍とは無関係に、国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状態にあり、これを改善するために、固定相場制から変動相場制に移行するか、自由な資本移動ができるようにするか、あるいは両方を実施するなどの抜本的な改革ができるかどうかにかかっています。米国の制裁は国際金融のトリレンマにより惹き起こされる不都合よりは、はるかに軽いものです。

問題は、このことを習近平が理解するかどうかです。上の記事では、中国人民銀行総裁の易綱は米イリノイ大学で博士号を習得し、インディアナ大学で教鞭を執っていて、その後帰国して北京大学の教授となっているので、国際金融のトリレンマについては熟知しているでしょう。財政相劉昆は、厦門大学経済学部で財政・金融を学んでいますから、これも基本的なことは理解していると思います。

問題は、この二人が李強首相や習近平にこれを正しく伝え、二人が、特に習近平がこれを理解するかどうかです。理解しないととんでもないことなりかねません。

上の記事は、以下の文で締めくくられています。

もしかすると、習政権は、李国防相を通じて、米国の中国共産党に対する“忍耐力”をテストするつもりではあるまいか。その後、北京は対米軍事戦略を決定するのかもしれない。今後、習政権は米国との対決姿勢を鮮明にしていく公算が大きい

習近平が国際金融のトリレンマを理解せず、独立した金融政策ができないのは、米国等の制裁によるものと曲解して、米国の制裁等を理不尽と受け止めれば、かなり危険な状況になると考えられます。

米国下院に最近設置された「中国委員会」のギャラガー委員長は、米中の戦略的競争において長期的には米国が有利だが、10年の短期では危険な状態にあると述べています。中国は人口減少が生む経済問題などから「無謀さを増す」とし、中国に対し米国は対策を誤っていると具体的指摘もしています。

人口減少自体は、マクロ経済学における「装置化」により、日中ともにこれを改善し、人口減少しても経済を拡大することはできるでしょう。「装置化」とは、平たくいうと「機械化」のことであり、現在でいえば、ロボット化やAIの活用です。

日本では、日銀が金融政策さえ間違えなければ、「装置化」によって、人口減少しても十分経済発展は可能であり、むしろこれを機会と捉えることさえ可能です。

しかし、独立した金融政策が取れない現状の中国はそうではありません。独立した金融政策ができなければ、「装置化」によって、生産性が飛躍的に高まっても、それに対応した緩和ができず、それを満たすだけの需要が見込めず、結局デフレになるだけです。それでも、中国が構造的な要因をとりのぞかなければ、デフレがさらに深化するだけです。

このままの状況であれば、10年後には確実に経済もかなり落ち込み、中国はかなり弱体化することになります。そうなる前に、何とかしようと、習近平は何らかの冒険に打ってでる可能性は高まったといえます。

そうならないように、日米などの民主主義国家は、対中国政策を強化し、対中国に関する軍事力強化、中国の国内への浸透を防止する法律を整備、中国が台湾に侵攻した場合の制裁の規定や法律を強化などをすべきです。さらに、同盟国、同士国との結束を固めていくべきです。

それとともに、中国が独立した金融政策ができなくなったのは、米国等による制裁によるものというよりは、中国の国内の問題であり、何よりも国際金融のトリレンマという構造的な要因によるものであり、それを解消するには、変動相場制に移行するか、自由な資本の移動をできるようにし、国際社会に復帰するしか方法がないことを説得していくべきでしょう。

そのためには、ある程度の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化は、避けられないことも説得していくべきでしょう。特に、軍事行動を起こしたとしても、何も変えられず、国際金融のトリレンマからは逃れられず、ますます悪くなることを説得すべきでしよう。

それによって、中国が考えを変えなかったにしても、10年もたてば、中国は確実に弱体化し、他国に影響力を及ぼすことはできなくなり、国内の問題に対処するだけで精一杯で、一昔前の他国との関係が希薄な元の中国に戻るだけです。その時まで、とにかく、中国が他国に対して武力を行使させることを思いとどまらせるべきです。ウクライナの二の舞いを演じることだけは避けるべきです。

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2020年6月29日月曜日

香港・国家安全法が「中国の没落」と「日本の復活」をもたらす可能性 — 【私の論評】東京・ニューヨークが国際金融センターのトップとなる日が来る!(◎_◎;)

香港・国家安全法が「中国の没落」と「日本の復活」をもたらす可能性 

ついに見えた、中国政府「衣の下の鎧」





 中国の「香港国家安全法案」が月内にも全国人民代表大会で成立する見通しだ。その場合、香港にどのような影響を与えるか。

  【写真】「韓国が嫌いな日本人」を世界はどう見ているのか

 この国家安全法は、国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為を取り締まり、処罰する。香港政府が「国家安全維持委員会」を設立し、関連事務に責任をもつが、中国政府は指導・監督のため香港に「国家安全維持公署」を設置する。国家安全法が香港の他の法律と矛盾する場合、国家安全法を優先するとしている。

  このような、国家転覆を企てる行為を処罰する法制はどこの国にもある。しかし、中国は共産党が憲法の上位に位置する一党独裁国家であり、共産党批判は国家転覆につながるとみなされる。一方、民主的な国では、政権交代のための民主主義プロセスがあり、政権・政党批判は容認される。

 よく香港に関しては一国二制度といわれるが、その矛盾は、今回のような国家安全法制が出てくると、よくわかる。

  欧米の自由・民主主義国では、高度な自治を有する一国二制度ともいえる自治領が歴史的にも存在してきたが、やはり中国では、自由も民主主義の歴史もないので、一国二制度は当初から無理だったのだろう。これまでも中国政府は、一国二制度は「香港固有のものではなく、全て中央政府から与えられたものである」と公言してきたが、今回の香港国家安全法で、ついに衣の下から鎧があらわれてしまった。


 香港から一国二制度を取ったら何が残るというのだろうか。その証拠に、政治的基盤が揺らぎ始めてから、香港経済はガタ落ちだ。

  香港の2019年7-9月期の実質域内総生産(GDP)成長率は、前年同期比でマイナス2.8%。四半期のマイナス成長はリーマン・ショック以来10年ぶりで、民主化デモの深刻化による観光客の減少と、米中貿易摩擦による中国経済の減速のダブルパンチだった。10-12月期も前年同期比でマイナス2.9%と景気後退になった。2020年1-3月期は、コロナでマイナス8.9%とダメ押しになっている。

  香港は、イギリス・スタイルの規制の緩い世界有数の金融センターだった。

  イギリスのシンクタンクZ/Yenグループが2007年3月から、国際金融センターの国際的競争力を示す指標(国際金融センター指数)を公表している。100以上の都市・地域を対象とし、年2回ランキングを出している。

  2020年3月に公表された最新版によれば、香港のランクは3位から6位まで低下してしまった。

  その前まで、ニューヨーク、ロンドンに次ぐ3位をシンガポールと競っていたが、一国二制度が揺らいでいることから、今回は下がってしまったわけだ。

自由な政治がなければ、自由な経済もない




 もちろん、香港の国際金融センターとしての魅力は、自由な金融取引ができなければ維持できない。もはや、金融センターとしての香港の将来はないだろう。

  特に香港ドルについてはドルペッグされており、これが香港の金融インフラを支えている。米国がドル決済で国際金融機関に制限をかければ、香港の金融経済はまったく機能しなくなり、ひとたまりもなく没落する。米国はドルという世界最強通貨をもっているので、その気になれば香港の生殺与奪を握っているともいえる。

  中国にとって、香港を失うのは経済的な打撃である。国際金融センターとして上海が伸びてきているので、香港の代替ができるのではないかという意見もあるが、筆者は否定的だ。

 というのは、そもそも国際金融センターとして不可欠な「自由な資本移動」が、中国では不可能だからだ。

 これをきちんと理解するためには、まず国際金融の知識である「国際金融のトリレンマ」についての理解が必要だ。ざっくりいうと、(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを同時に実行することはできず、このうち二つしか選べないというものである。

 このため、先進国の経済は二つのタイプに分かれる。一つは日本や米国のような変動相場制である。(1)の自由な資本移動は必須なので、(2)の固定相場制をとるか(3)の独立した金融政策をとるかの選択になるが、ここで金融政策を選択し、固定相場制を放棄している。

  もう一つはユーロ圏のように、域内は固定相場制、域外に対しては変動相場制を取るというものだ。(1)の自由な資本移動は必要だが、域内では(2)の固定相場制のメリットを生かし、かわりに独立した金融政策を放棄する。もっとも、域外に対しては変動相場制なので、域内を一つの国と思えばやはり変動相場制ともいえる。

  いずれにしても、先進各国は(1)の自由な資本移動を最優先で確保している。逆にいえば、自由な資本移動があって、自由な国際金融センターがないと、先進国の資格がないというわけだ。先進国クラブといわれるOECD(経済協力開発機構)の加盟条件として、資本の自由化が含まれているのはそのためだ。

 中国経済は、そうした先進国タイプになれない。

 中国は、一党独裁社会主義であるので、(1)の自由な資本移動が基本的に採用できない。例えば、土地などの生産手段は国有というのが社会主義の建前だ。中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持てない。中国へ出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはない。

  要するに、中国では自由な資本移動がないために、本格的な国際金融センターを擁することも不可能なのだ。

  なお、先進国はこれまでのところ、基本的に民主主義国家である。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制も作れず、その結果としての成長もないからだ。このあたりの理論的な説明は、フリードマン『資本主義と自由』に詳しい。

  この理論を進めると、今の中国の一党独裁体制では、経済的な自由の確保ができないので、いずれ行き詰まることが示唆される。

 この議論は、近く中国が崩壊するという悲惨な予測や、中国も経済発展を遂げればいずれ民主化するという楽観論とも一線を画しており、そうした予測をするものではない。

日本は「漁夫の利」を狙える

 いずれにしても、香港の将来は明るいとはいえない。香港の企業、金融機関や人々は、これから中国に従うか、それとも香港から脱出するかの二択を迫られることになるだろう。香港の人口750万人のうち、半数程度は香港に居づらくなるだろう。

  香港は、モノとカネによって中国と世界をつなぐ重要なゲートウェイだったが、もはや今後、その役割を担うことはなくなるだろう。

 それにしても、中国は香港について間違った選択をしている。あと10年くらい「一国二制度」を維持していれば、香港の能力をもっと活用できただろうに、そのチャンスを自ら失ってしまった。香港の自由が、中国の一党独裁という政治的な「不自由」に、よほど脅威だったのだろう。金の卵である香港を切り捨ててでも、一党独裁体制を守りたかったに違いない。

 もっともこの状況は、日本にとっては「漁夫の利」になる可能性がある。国際金融センターとしての東京の復権のためには、大きな援軍となるのだ。折しも実施される東京都知事選で、ここを是非とも争点にしてもらいたいところだが、そうした機運がないのは極めて残念だ。

  イギリスのロンドンもEU離脱により、国際金融センターとしての地位を低下させるだろう。イギリス経済をTPP(環太平洋パートナーシップ)に取り込み、さらに香港の国際金融センターとしての機能も企業とともに取り込んだら、日本の将来にとって大きな資源になるはずだ。

  香港国家安全法案が可決されたら、日本は「遺憾」を表明するだろう。これは、17日の先進7か国(G7)の共同声明での「重大な懸念」より踏み込んだ表現だ。それと同時に、香港から脱出する人に対して受け入れを優遇し、国際金融センター機能の取り込みもしたらいいだろう。

コロナ「第二波」はあるのか



 最後に、話題は変わるが、コロナ感染の第2波について気になっていることを書こう。

 新型コロナウイルスの感染者が、東京都内などで増加傾向にある。海外でも引き続き感染者が増えているが、今後どうなるのか。

  最近、一部週刊誌で、緊急事態宣言や活動自粛措置は意味がなかったとする見解が出ている。吉村大阪府知事は騙されたとするものもある。もっとも吉村知事は「騙されていないし、後出しジャンケンは有害以外の何物でもない」としている。

  筆者は1月下旬から、2日に1回のペースで感染拡大の予測を公表してきた。予測は感染症数理モデルによるもので、一定の前提条件の下で、新規感染者数についてピークの到来時期と落ち着く時期を明示した。

  筆者の予測は、3月下旬に1回だけ見直している。その当時の前提条件(自粛の緩みなど)が現実と乖離していたからだ。もちろん予測は常に外れる可能性があるので、前提条件と現実との乖離を注意深く見ての判断だった。それ以降見直しはせず、4月上旬がピーク、5月下旬に落ち着くとの予測はほぼ当たった。

  これが科学の流儀である。前提条件の違いを考慮し、修正を加えながら予測すべきで、その妥当性は予測が当たるか当たらないかで判断される。一部週刊誌は、こうした予測もできないくせに、難癖をつけたにすぎない。まさに吉村知事が言う通りの後出しじゃんけんだ。

  今の東京での新規感染者数をみると、筆者が予測を見直した3月下旬とはやや違うとの印象もある。クラスターは発生しているが、感染経路が比較的はっきりしており、爆発的な広がりの兆候は少ない。もっとも、第二波といえるかどうかは、もう少しデータが入らないと判断できない。

 今のところ、「第2波」はあっても、第1波ほどにはならない可能性が高いとみるが、今後もデータを注視していきたい。

【私の論評】東京・ニューヨークが国際金融センターのトップとなる日が来る!(◎_◎;)

国際金融都市とは、グローバルな金融機関が拠点を構えたり、株式や為替など世界の金融・資本市場の中心となる取引所が所在する都市のことです。

ニューヨークやロンドンは歴史的に株式・為替取引が多いことからも、その代表格といえます。最近では香港やシンガポールも存在感を高め、国際金融都市の仲間入りをしていました。

国際金融都市は国際金融センターとも呼ばれ、その基準の一つとされているのが、イギリスのシンクタンクが発表する「世界金融センター指数」です。これは世界の100以上の都市・地域を対象に、金融センターとしての国際競争力を測るものです。

2019年9月に発表された最新版では1位がニューヨークで2位がロンドン。3位に香港、4位にシンガポール、5位上海とアジアが続いて、東京はその次の6位となっています。

やはりニューヨーク、ロンドンの2大都市は国際金融都市の不動のツートップ。イメージ通りの実力のようです。

それを追いかけるのがアジア勢で、中でも上海は2018年に東京の順位を追い抜き、上位勢に迫る勢いを見せています。中国のメディアは「国際社会が上海を国際金融センターとして認めるようになった」と分析。胸を張っています。

この中では、東京はツートップの“控え”のようなポジションというイメージでした。

出典:東京都政策企画局2015年「東京国際金融センター推進会議」資料より転載
東京の国際金融都市を目指す動きの前に、他の都市につい少してみておきます。

「国際金融センター指数」ランキングの興味深いところは政治的な国情があまり反映されない点です。昨年のランキングでは、例えば市民デモが続く香港は政治情勢が揺れ動いていたのですが、3位という国際金融センターとしての地位は安泰でした。また、ブレグジットを巡って揺れ続けているイギリスにおいてもロンドンは国際金融センターとして世界第2位の位置を堅持していました。

香港やロンドンを見ると、いったんその地位を築くと簡単には揺らぐものではないといえそうでした。その意味で上海の躍進は特筆すべきところではありました。

日本の場合、国情の安定性という点ではまったく問題はないのに、ランキングでは上海に抜かれて6位ということは、政治以外の環境、特にビジネス面での環境があまり高く評価されていな買ったということがうかがえます。

興味深いのが韓国で、ソウルの「国際金融センター指数」のランキングはなんと36位。これは、韓国がソウルと釜山の両方を金融都市として発展させようとしたために力が分散してしまった結果とみられています。

2017年11月、東京都はアジアナンバーワンの国際金融都市としての地位を取り戻すために、「国際金融都市・東京」構想をまとめました。

ここでは、①魅力的なビジネス面、生活面の環境整備 ②東京市場に参加するプレーヤーの育成 ③金融による社会的課題解決への貢献、という3つの取り組みを中心に進められることが発表されました。

この一環として2019年4月には、官民連携で各種プロモーションを展開する組織「一般社団法人東京国際金融機構」(通称:FinCity.Tokyo)が設立されました。この機構にはメガバンクや大手証券会社、金融関連業界団体のほか、東京都も正会員として参加しています。

東京国際金融機構では、世界に向けて金融都市としての東京の姿を発信すること、国際的な金融機関などが日本に参加しやすいよう支援すること、東京の金融エコシステムをアップグレードすることなどを通じて、国際金融都市を目指して東京を海外にアピールしていきます。

東京がアジアでナンバーワンの金融センターとなり、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ国際金融都市となるのは、決して容易なことではありません。しかし、このまま香港、シンガポール、上海に水をあけられっぱなしでいいはずもありません。同機構のこれからに注目したいところです。

以上か昨年までの国際金融センタへに関する一般的な見方でした。しかし、香港の問題や、コロナ禍により、今年に入ってからこの状況はすっかり変わってしまいました。

英国のシンクタンクZ/Yenと深セン市(Shenzhen)の中国総合開発研究所が3月26日に発表した「世界金融センター指数(Global Financial Centres Index)」で、香港に大きな衝撃が起きました。ニューヨーク、ロンドンに次ぐ世界3位から一気に6位に転落。「世界三大金融センター」の座から滑り落ちたのです。昨年から続くデモ活動の影響とみられます。

世界金融センター指数は、金融センターの国際的競争力を示す指標として2007年3月にスタート。「ビジネス環境」「人的資源」「インフラ」「国際金融市場としての成熟度」「都市イメージ」の5項目を基準に、100以上の都市・地域を1000点満点で点数化し、毎年3月と9月に順位を公表しています。

最新の上位10都市は、ニューヨーク(769点)、ロンドン(742点)、東京(741点)、上海(740点)、シンガポール(738点)、香港(737点)、北京(734点)、サンフランシスコ(732点)、ジュネーブ(729点)、ロサンゼルス(723点)。

点数で見ると、上位10都市すべてが前回よりポイントを落としています。これは新型コロナウイルスや世界的貿易摩擦、英国の欧州連合(EU)離脱など全世界共通のマイナス材料による影響ですが、香港は34ポイントマイナスで、10都市の中でも最も下落しました。

国際金融のトリレンマには、さすがに中国もいくら資金を使っても、工作員派遣して、何らかの工作をしようとしても、これを破ることはできないようです。

国際金融センターの条件として、香港問題をきっかけに、国際金融のトリレンマが、クローズアップされ、コロナ禍により、防疫体勢を含めた、安全性が注目されるようになったのでしょう。そのため、世界金融センターとしての東京の地位が上がってきたのでしよう。

ただし、今回は東京が地位をあげたというよりは、他都市が地位を下げたということが言えると思います。

特に、国際金融センターとして東京が活躍するためには、日本の銀行の生産性が低すぎです。生産性を飛躍的に高めないと、せっかくの国際金融センターとしての活躍のチャンスが巡ってきたのに、それを不意にすることになりかねません。

ただ、これもこれからの本格的な人手不足が解消することになるでしょう。生産性を上げるか、淘汰されるしかないわけですがら、これは日本の銀行なども必死になっ生産性を上げることでしょう。

日本の東京はこれにより、国際金融センターとしての地位を向上させていくでしょう。自由のない香港、上海、シンガポールなどは、これからますます地位を下げていくでしょう。

ロンドンは、ブレグジットにより、地位を下げることになります。となると、未だコロナの感染者数が増え続けている米国の状況を見ると、東京・ニューヨークが世界の金融センターの事実上のトップとなる時がきたとしてもおかしくはありません。

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2022年8月31日水曜日

〝中国経済失速〟でウォン急落の韓国と共倒れ!? 日本企業はサプライチェーン見直しの動き 石平氏「もはや留まる理由は見当たらない」―【私の論評】中国では金融緩和が効かない状況にあり、変動相場制に移行する等の大胆な改革が無い限り停滞し続ける(゚д゚)!

〝中国経済失速〟でウォン急落の韓国と共倒れ!? 日本企業はサプライチェーン見直しの動き 石平氏「もはや留まる理由は見当たらない」


秋の中国共産党大会で3選される見通しの習近平国家主席だが、中国経済は厳しさを増している。中国への依存度が高い韓国経済は巻き添えを食い、ウォンも急落するなど共倒れの危機に直面する。一方、日本は経済安全保障の観点から対中姿勢を見直す構えだが、サプライチェーン(供給網)の面でも「脱中国依存」を進める企業が相次いでいる。

中国の4~6月の国内総生産(GDP)は前年同期比0・4%増だった。日米などと同じ前期比年率換算すると10%程度の大幅なマイナス成長となる。「ゼロコロナ」政策による上海などの封鎖措置や、習指導部の格差解消政策「共同富裕」で、不動産業界やIT企業など規制強化を進めたことが背景にある。

不動産市況も深刻で、開発業者の資金難で建設工事が中断するマンションが全土に広がっている。購入者が、抗議のためにローン返済を拒否する動きが拡大するなど社会問題化し、金融機関の不良債権拡大につながる恐れもある。

7月の鉱工業生産や小売売上高も低調で、雇用も16~24歳の失業率は19・9%。熱波による電力不足で、生産停止する工場も相次いだ。

こうした不安な状況を受けて、今年上半期の家計部門の銀行預金残高は10兆3000億元(約205兆円)と前年同期から13%増えた。一方、7月の個人向け融資は前年同月比63%減と落ち込んでいる。

第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「かつての中国の消費は『見栄』が左右し、家計による借り入れ拡大が消費の牽引(けんいん)役になってきたが、現状は雇用環境が厳しさを増すなかで家計の財布のひもが固くなっている。青年層の失業率の高さは、1000万人強の新卒者が社会に出るタイミングで就職の難しさを意味する。統計は景気の頭打ちを示唆している」と解説する。

中国経済不振の直撃を受けるのが韓国だ。韓国にとって、中国は最大の貿易相手だが、くしくも尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足した5月以降、対中貿易赤字が続いている。朝鮮日報は、1992年の国交正常化以来、初めて対中貿易収支が4カ月連続赤字となる見通しだと報じた。

西濱氏は「中国の生産が伸び悩むと韓国は玉突き的に弱くなる。物価高で輸入が減らない一方、輸出だけ悪化する構図だ。『工業化が進んだ経常黒字国』とみられてきた韓国だが、黒字幅はかなり圧縮されている」と分析した。

ウォン安と物価高が進むなか、韓国銀行(中央銀行)は25日、4会合連続の利上げを実施。2022年のGDP成長率見通しを2・7%から2・6%に下方修正した。

日本も「チャイナ・リスク」への対応を迫られる。自動車大手マツダは取引先の部品メーカーに、中国製部品に関して、中国以外の並行生産や在庫積み増しや、日本での在庫保有を要請した。同社メディアリレーション部は「ロックダウンで影響が出て、業績にもかなりインパクトがあった。中国を経由する部品が他社と比べて比較的多いと認識しており、できるだけ早く手元に引き寄せることが必要」と説明している。

産経新聞は、ホンダがサプライチェーンを再編し、中国とその他地域をデカップリング(切り離し)する検討に入ったと報じた。ホンダの生産拠点は二輪、四輪、エンジン工場などが中国や日本のほか、米国、カナダ、メキシコ、タイなど24カ国に及ぶ。中国からの部品供給を東南アジアやインド、北米などにシフトできるか検討する方向とみられる。

政府は今月、経済安全保障推進法の一部を施行した。中国を念頭に置いた経済リスクへの認識も高まっているが、岸田文雄政権はどう動くのか。

評論家の石平氏は「中国経済は構造的に停滞しており、台湾有事の懸念もある。専制国家では海外企業が市場を一夜にして失うリスクがあることは、ロシアの前例が示した。日本企業は産業スパイの危険が指摘されながらも中国依存を続けてきたが、もはや留まる理由は見当たらない」と強調した。

【私の論評】中国では金融緩和が効かない状況にあり、変動相場制に移行する等の大胆な改革が無い限り停滞し続ける(゚д゚)!

上の記事で、ミクロ経済に関する描写などはある程度正しいですが、マクロ経済的な見方は間違いだと思います。

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 上の記事で、「かつての中国の消費は『見栄』が左右し、家計による借り入れ拡大が消費の牽引(けんいん)役になってきた」としていますが、見栄で経済が良くなるというのなら、中国人民銀行(中国の中央銀行) が金融緩和をすれば、中国人民にもお金がまわり、中国経済はまた繁栄するはずです。

しかし、現実はそのような、生易しい状況ではないのです。それについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを掲載します。
中国共産党中央政治局、当面の経済情勢と経済活動を分析研究する会議を開催―【私の論評】「流動性の罠」と「国際金融のトリレンマ」で構造的に落ち込む中国経済!(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、簡単にいうと中国はすでに「流動性の罠」にはまっていて、中国人民銀行が、金融緩和政策を打ち出しても、効き目がない状態に陥っています。

流動性のワナ(Liquidity Trap)とは、金融緩和により金利が一定水準以下に低下した場合、投機的動機による貨幣需要が無限大となり、通常の金融政策が効力を失うことを指します。金利水準が異常に低いと、いくら金融緩和を行っても景気刺激策にならない状況に陥ります。

実際、この記事にも掲載した通り、中国では以下のような状態になっています。
中国が何もしていないということはなく、現在金融緩和を実施しています。ところが、中国の銀行システムには十分過ぎるほどの流動性があるものの、借り入れ需要が低調なままで、銀行間の翌日物レポ金利は昨年1月以来の水準まで低下しています。
現在中国では過剰な資金が実体経済に行き渡るのではなく、金融システムに積み上がっているようです。金融緩和で需要を押し上げることができない「流動性のわな」のリスクが高まりつつあり、 コロナ感染が各地で見つかる中、7月の借り入れ需要は前月から鈍化したもようです。

この状況は、その後も改善された兆候はなく、すでに中国経済は、「流動性の罠」にはまっていたと見られます。 

では、何かこの状況を打開する方法があるかといえば、あるにはあります。国際金融には、国際金融のトリレンマという、昔から知られている原則があり、その原則に従って、大規模な改革を行えば、中国経済はまた発展する可能性があります。

最近の中国は、すでに数年前から、国内の金融政策が大幅に制限されることになっていました。現状の中国では金融緩和を実施すれば、投資効率の低下、資産負債比率の上昇という構造問題が深刻化することが見込まれているからです。さらに、資本の海外逃避も加速されることになります。債務の株式化も低調であるため、政府はリスクに配慮した慎重な金融政策をせざるを得ないのです。

為替制度を選択する際、中国も他の国々と同様、為替の安定と独立した金融政策、更には自由な資本移動、この三つを同時に達成することはあり得ないという国際金融のトリレンマに制約されているのです(図)。

つまり、その3つの選択肢からどの2つを選ぶのか、言い換えればどれを放棄するのかという選択に直面しているのです。中国は自由な資本移動を放棄する形で独立した金融政策と為替の安定(固定レート)を選んでいるのですが、今後政策的に資本移動が自由化されてくると、独立した金融政策を維持するためには為替レートの安定をある程度犠牲にしなければならなくります。



図 国際金融のトリレンマ


香港は少し前までは、上の表の状態だったのですが、現在では中国と同じ状況であり、今後香港が世界の金融センターではなくなります。

10年ほど前、中国では人民元改革と称して、変動相場制に移行すると思われた時期もあったのですが、結局資本移動の自由に立ち入ることはできませんでした。そのつけが回って、現在金融緩和しても効き目がない状況担っているのです。

このブログの購読者ならご理解いただけるでしょうが、金融緩和政策ができないということは、雇用が悪化することを意味します。

中国の若者の就職難

中国が独立した金融緩和政策を取り戻すには、固定相場制をやめるか、一昔前の中国のように、自由な資本移動をやめるかいずれかを選ばなければならないのです。ただ、独立した金融政策をしたいがために、自由な資本移動を完璧にやめてしまえば、中国に対する海外からの投資を自ら、絶つことになります。

やはり実用的なのは、固定相場制をやめることです。中途半端をしている限り、中国経済は良くならず、金融緩和したくても効き目がなくなるか、そもそも最初からできなかのいずれかの状態が続きます。

この状況は構造的なものであり、何か抜本的な対策を打たなければ、中国経済が再び発展することはありません。

冒頭の記事で、様々な中国のミクロ経済の停滞が、描写されていますが、その根本原因はやはり国際金融のトリレンマにあるのです。

この状況は、たとえ習近平が失脚して、新たな人物がトップになったとしても、固定相場制をやめるなどの大胆な改革をしなけば、継続することになります。

いまのところ、そのような動きは全く見られません。いまのままなら、中国の経済の停滞はますます深刻化していくばかりです。

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2022年7月30日土曜日

中国共産党中央政治局、当面の経済情勢と経済活動を分析研究する会議を開催―【私の論評】「流動性の罠」と「国際金融のトリレンマ」で構造的に落ち込む中国経済!(゚д゚)!

中国共産党中央政治局、当面の経済情勢と経済活動を分析研究する会議を開催



 中国共産党中央政治局は28日に会議を開き、当面の経済情勢を分析・研究し、下半期の経済活動を手配しました。この会議は習近平中国共産党中央委員会総書記が主宰しました。

 会議では、「今年に入ってから、複雑で厳しい国際環境と国内の改革・発展・安定の任務に直面し、われわれは感染症対策と経済・社会発展の取り組みを効果的かつ統一的に計画してきた。新型コロナウイルス対策は積極的な成果を収め、経済・社会発展は新たな成果を収めた。同時に、現在の経済運営はいくつかの際立った矛盾と問題に直面している」との認識が示されました。

 会議では、「下半期の経済活動は質の高い発展の推進に力を入れ、新型コロナウイルス感染症を防ぎ、経済を安定させ、発展を安全にするという要求を全面的に実行していく。経済の回復・好転傾向を固め、雇用の安定・物価の安定に力を入れ、経済の動きを合理的な範囲内に保ち、最善の結果の実現を目指す」と強調しました。

 さらに、会議では、「改革開放を経済発展の原動力とする必要がある。国有企業改革3カ年行動案を引き続き実施しなければならず、プラットフォーム経済の規範的で健全な持続的発展を推進していく。輸出を積極的に促進し、輸入を拡大し、技術と外資導入をしっかりと行い、『一帯一路』共同建設の質の高い発展を推進していかなければならない」と指摘しました。

 また、国民生活保障を着実に行うことが強調され、困難を抱える人々の基本的生活の保障に力を入れ、大卒などの重点対象の就職をしっかりと支援する必要があるとしています。

【私の論評】「流動性の罠」と「国際金融のトリレンマ」で構造的に落ち込む中国経済!(゚д゚)!

上の会議、当面の経済情勢を分析・研究し、下半期の経済活動を手配したとしていますが、上記の記事を読んでいる限りでは、具体的な政策は何もありませんでした。

この会議では、成長押し上げに向けた新たな刺激策、投資と消費に破滅的な打撃を与えているコロナ封鎖の緩和、そして何より重要な不動産市場に対する締め付け解除について、何も決定されませんでした。

それどころか、中国指導部は今年の成長目標について、事実上の撤回に動いた。秋に異例の3期目続投を目指す習近平国家主席にとって政治的に重大な年に、中国経済が直面する逆風を暗に認めたと言えそうです。中国経済の突然の減速の詳細については、他のメディアをあたってください。

ここでは、中国経済の急減速、に対してなぜ何の対策も打とうとしないのか、その理由について掲載します。

ただ、中国が何もしていないということはなく、現在金融緩和を実施しています。ところが、中国の銀行システムには十分過ぎるほどの流動性があるものの、借り入れ需要が低調なままで、銀行間の翌日物レポ金利は昨年1月以来の水準まで低下しています。

翌日物レポ金利は27日に1%割れ。今月に入り94ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下しており、中国人民銀行(中央銀行)が供給している流動性の多くが市中銀行に滞留していることを示唆しています。

中国当局は景気てこ入れを図るのですが、直面する難しさが浮き彫りとなっています。新型コロナウイルスを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策や住宅危機の拡大で資金需要は低調なままで、潤沢な流動性が需要喚起につながっていないのです。


さらには、低水準の資金調達コストを利用して銀行がレバレッジ増や国債・政策銀行債への投資を進めている兆しもあります。

現在中国ではは過剰な資金が実体経済に行き渡るのではなく、金融システムに積み上がっているようです。金融緩和で需要を押し上げることができない「流動性のわな」のリスクが高まりつつあり、コロナ感染が各地で見つかる中、7月の借り入れ需要は前月から鈍化したもようです。

さらに、中国河南省の省都・鄭州市で10日、不正流用事件のため、預金の引き出しを停止した地元銀行の預金者約3000人が集団抗議を行い、警官隊と衝突しました。日本では考えられないような異常事態です。

日本等の変動為替相場で、資本の移動が自由な国であれば、流動性の罠に陥り、名目金利が限界まで引き下げられなくなっても、マネーの量的拡大によって「いつかはインフレになる」と民間が予想することになります。それを利用して需要を創出することができます。

しかし、現状の中国はなかなかそうはいかないようです。昨日のブログに掲載したとおり、中国は国際金融のトリレンマにより独立した金融政策ができない状況に陥っています。

中国は、2016年頃、景気回復を狙い「固定為替相場制」をあきらめて、人民元を切り下げたところ、資本流出が加速したため、すぐに資本規制に乗り出していました。

日本をはじめとするいわゆる先進国は、「固定為替相場制」を放棄して、変動為替相場制に移行しています。これによって、「独立した金融政策」「自由な資本移動」を同時に達成することができました。

しかし、中国の場合は「固定為替相場制」を維持していますから、これをこれからもこれを維持し続けるというのなら、国際金融のトリレンマを克服するためには、「独立した金融政策」もしくは、「自由な資本移動」のうちのいずれかを捨てなけれはならないということになります。「自由な資本移動」を捨てるとは、中国から海外への投資や、海外からの中国への投資をさせないということです。中国は資本移動のある程度の規制をしてはいますが、それを完璧に捨て去るようなことはとてもできないでしょう。
国際金融のトリレンマ


変動相場制に移行すれば、元はかなり安くなることが予想されます。おそらく、中国はこれかも、過去のようにその都度弥縫策を講じて何とかしようとするでしょう。結局現状維持をするでしょうから、これからも独立した金融政策ができないことになります。

そうなると、上で示した、日本等の変動為替相場で、資本の移動が自由な国であれば、流動性の罠に陥り、名目金利が限界まで引き下げられなくなっても、マネーの量的拡大によって「いつかはインフレになる」と民間が予想することになり、それを利用して需要を創出することができますが、中国にはできないということになります。

「流動性の罠」にはまった現在、これを解消しようとして金融緩和をしても現状では効き目がなく、かといって金融緩和を継続し続けると、「国際金融のトリレンマ」によって、資本の海外逃避や、不況下のインフレ(スタグフレーション)が起こったりで、何らかの不都合が起こるため、それもできません。

今後、何かを根本的に変えないと、中国経済は低迷し続けることになります。少しうがった見方かもしれませんが、中国政府はすでにこのことに気付いているため、それをカモフラージュするため、「ゼロコロナ」政策に固執しているようにみせかけ、経済の落ち込みは主にこれによものとみせかけ、時間稼ぎをしているのかもしれません。

ただ、いくら時間稼ぎをしたとしても、何かを根本的に変えないと、中国経済は今後成長する見込みはなさそうです。

この秋に中国共産党第20回党大会を控え、習近平政権は内憂外患の危機に直面しています。国内には習政権の新型コロナウイルス対応に対する不満が噴出し、経済は急減速し回復の見込みもなく、外交面ではロシアのウクライナ侵攻以降、中露の同一視に基づく対中包囲網の形成が進んでいます。

このような、情勢は第20回党大会で異例の3期目を迎えるであろう習近平総書記に、さまざまな試練を突き付けています。


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2023年5月23日火曜日

中国でコロナ感染再拡大 6月末にピークか「1週間に6500万人」―【私の論評】独立した金融政策が実施できない中国では、経済が再び成長軌道に戻ることはない(゚д゚)!

中国でコロナ感染再拡大 6月末にピークか「1週間に6500万人」

中国コロナ再拡大

 中国で感染症研究の権威とされる鍾南山氏は22日、中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、昨年12月前後に続く「第2波」が今年6月末にピークに達して1週間に6500万人が感染するとの予測を明らかにした。感染再拡大は経済活動の再開や中国と海外の往来に影響する恐れがある。

 中国政府は昨年末の感染爆発を経て流行が沈静化したとして対策を徐々に緩和してきたが、最近になって北京など都市部を中心に再感染する人が増加している。

 中国メディアによると、鍾氏は広東省で開かれたフォーラムで予測を発表。第2波は4月中旬に始まり、5月末には1週間に4千万人が感染するとの見通しを示した。オミクロン株派生型XBBが主流だという。

【私の論評】独立した金融政策が実施できない中国では、経済が再び成長軌道に戻ることはない(゚д゚)!

JR東日本 <日足> 「株探」多機能チャートより

上のニュースがあったため、日本でも若干影響がでてきました。JR東日本<9020>やANAホールディングス<9202>が逆行安。高島屋<8233>や三越伊勢丹ホールディングス<3099>などインバウンド関連株が安いです。中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大し、6月末にかけて週間で約6500万人が感染するとの試算が呼吸器疾患の専門家から示されたと、国内外のメディアが伝えたため、これが利益確定目的の売りを促す要因となったようです。

東証の業種別指数では陸運業が下落率トップとなっています。

ただ、こういう報道の裏には、中国でコロナ禍が完璧に終われば、また中国経済は元の軌道に戻り力強く成長を始めるのではという期待があるのではないかと思います。

しかし、その期待は間違いです。以前にもこのブログに掲載したことがありますが、中国は、数年前から国際金融のトリレンマにより独立した機金融政策ができない状況になっています。

国際金融のトリレンマとは、ある国は次の3つのうち2つしか持てないというものです。
  • 固定為替レート
  • 自由な資本移動
  • 独立した金融政策


中国は米ドルとの固定為替レートを選択しており、自由な資本移動も独立した金融政策もできないことになります。このことは、中国経済にさまざまな形で悪影響を及ぼす可能性があります。

まずは、インフレをコントロールする能力の低下です。中国がインフレを低く抑えたい場合、外資を呼び込むために金利を上げることはできません。さらに、量的緩和も難しいです。なぜなら、そうすると人民元の価値が高くなり、輸出品が割高になるためです。これはインフレ率の上昇につながります。

さらに、金融ショックに対する脆弱性が高まります。他国で金融危機が発生した場合、資本フローをコントロールできない中国は影響を受けやすくなります。投資家が中国の資産を売却するなどし、他の国に資金を移動させる可能性があるからです。これが中国の金融危機を招く可能性があります。

経済的ショックへの対応力の低下も懸念されます。中国経済が輸出の減少などのショックに見舞われた場合、金融政策で景気を刺激することはできません。外国からの投資を呼び込むために金利を上げると、人民元の価値が高くなり、輸出が割高になるため、金利を上げることができないからです。そのため、景気回復のスピードが遅くなる可能性があります。

独立した金融政策ができないことは、中国の経済政策にとって大きな制約となります。これは、長期的には中国経済に悪影響を及ぼすことになります。

国際金融のトリレンマに加え、中国経済に悪影響を及ぼす可能性のある他の要因もあります。それらは以下の通りです。

まずは、急速な高齢化です。中国の人口は急速に高齢化しています。このため、定年退職者を支える労働者が少なくなり、経済に負担がかかっています。

中国の債務水準は非常に高いです。これは経済成長率が急激に低下した場合、金融危機を引き起こす可能性があるため、経済にとってのリスクとなります。

輸出への過度の依存という問題もあります。中国経済は、輸出に大きく依存しています。そのため、世界経済の変化に対して脆弱な経済となっています。

これらは、中国経済に悪影響を及ぼす要因の一部に過ぎないです。国際金融のトリレンマは、中国が直面する課題のひとつに過ぎないですが、独立した金融政策ができないということは、今後中国経済に何が起こっても、それに対して満足な対策ができないことを意味しており、これは中国経済に甚大な悪影響を与え続けるのは間違いないです。

ただ、中国共産党(CCP)は、多くの理由から、固定為替レートや自由な資本移動を終わらせたくありません。

固定為替レートは、過去においては、中国共産党に経済に対する絶対的な支配力を与えてきました。人民元の価値を固定することで、中国共産党はインフレを抑制し、中国企業が商品を輸出しやすくすることができました。これは中国共産党にとって重要なことで、高い経済成長を維持できたからです。しかし、これはもう成り立たなくなりつつあります。実際、独立した金融政策ができないのですから、インフレ抑制もできません。

資本移動が自由であれば、外国からの投資を期待できます。外国からの投資は、中国経済にとって重要です。なぜなら、外国からの投資は、中国企業の成長に役立つ資本や技術を提供してくれるからです。中国共産党は、できるだけ多くの外国からの投資を呼び込みたいと考えており、自由な資本移動はそのための一つの方法です。

固定為替レートや自由な資本移動を終了させることは、現状の中国経済にとって破壊的なことです。どちらも長年にわたって実施されてきた政策であり、現在までの中国経済の形成に貢献してきました。これらを終了することは大きな変化であり、経済的な不安定さをもたらす可能性があります。

無論中国共産党は、固定為替レートと自由な資本移動のリスクを認識しています。しかし、そのリスクよりもメリットの方が大きいと考えているようです。中国共産党は、経済のコントロールを維持し、外資を誘致するために、こうしたリスクを取ることを厭わないようです。

上記の理由に加えて、中国共産党は政治的な理由で固定為替レートや自由な資本移動の廃止を望まないこともあります。中国共産党は中国の権力を強く握っており、これらの政策を終わらせることが経済の不安定や社会不安につながることを懸念している可能性があります。中国共産党は、経済的な柔軟性を放棄してでも、現状を維持した方が良いと考えているのかもしれません。

中国共産党が固定為替レートと自由な資本移動を維持し続けるという考えは、長期的に中国経済にとって有益かどうかは、時間が経ってみなければわからないところがありますが、それにしても今後も独立した金融政策ができないことは、長期にわたって、中国経済を蝕み続けることは間違いありません。

独立した金融政策は、国が効果的に経済を管理するために不可欠です。中央銀行が金利を設定し、マネタリーベースを設定し、その国の経済状況に最も適した方法で通貨供給量をコントロールすることができるからです。独立した金融政策がなければ、政府は市場の気まぐれに翻弄され、経済管理や望ましい目標の達成を困難にする可能性があります。

中国の場合、政府が独立した金融政策を行えないことが、すでに経済に悪影響を及ぼしています。例えば、政府は景気を冷やすために金利を上げることができず、インフレ率の上昇を招きました。また、マネタリーベースをコントロールすることができず、不動産や株式市場のバブルを引き起こしています。


これらの問題は、中国経済がより複雑化し、世界経済と統合されるにつれて、今後さらに深刻化する可能性が高いです。独立した金融政策がなければ、政府は経済を管理し、ショックに対応することができなくなります。その結果、経済の不安定性やボラティリティ(価格変動のおおきさ)が高まり、国の長期的な成長見通しに悪影響を及ぼす可能性があります。

したがって、中国にとって重要なのは、固定相場制から変動相場制に移行するとともに、金融政策の枠組みを改革し、中央銀行にさらなる独立性を与えることです。そうすれば、中央銀行はより効果的に経済を管理することができ、経済不安のリスクから国を守ることができるでしょう。

今後の中国経済の行方は、上記のような根本的な構造改革をしない限り、長期的には衰退していく方向にあるのは間違いないようです。コロナ禍がどうのという次元を超えて、これが中国経済の実体です。

こうした中国の現状を過去の日本になぞらえる人もいますが、それは違います。中国は、独立した金融政策を実行しようにも、できない状態にあるのてすが、従来の日本は、金融緩和政策など独立した金融緩和政策を実行できたのですが、日銀官僚等の誤謬でしなかっただけです。

しなかったのと、できないこととの間には雲泥の差があります。日本は今後正しい金融政策(当面金融緩和策)と、財政政策(積極財政)を実行すれば、経済の伸びしろは十分ありますが、現在の中国は変動相場制に移行するなどの思い切った構造改革をしない限り、伸びる可能性はありません。

安倍政権成立後の2013年4月から、黒田日銀総裁になってから、日銀は金融緩和に転じました。岸田政権になって今年4月からは、植田和男日銀総裁に変わりましたが、金融緩和は継続されています。植田総裁になれば、植田総裁は金融システムを重視する傾向があるので、金融緩和政策から金融引き締め策に転換するのではないかと、危惧されていましたが、そうはなりませんでした。

さすがに、現状では金融システムを最優先に考えたにしても、金融緩和策を続けた方が良いです。さすがに、金融引き締めすべきと考える人は、金融機関の中でも債権ムラの住人などごく一部でしょう。

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2023年5月11日木曜日

中国、外資系コンサル摘発強化 「機微な情報」警戒―【私の論評】機微な情報の中には、実は中国の金融システムの脆弱性が含まれる可能性が高い(゚д゚)!

中国、外資系コンサル摘発強化 「機微な情報」警戒

習近平主席


 中国の国家安全当局が、外資系コンサルティング会社や調査会社の摘発を活発化させている。米欧が対中抑止のために、コンサル会社を使って中国の機密情報を不正に入手しているという見方を強めているためだ。習近平政権は、7月に改正反スパイ法の施行を予定するなど「国家安全」の強化を急いでおり、中国でビジネスを行う外資企業は懸念を強めている。

 中国メディアは11日までに、中国の国家安全機関が、米ニューヨークと中国・上海に拠点を置くコンサルティング会社「凱盛融英(キャップビジョン)」の中国国内の拠点を調査したと報じた。同社の従業員が共産党や政府機関、国防企業の関係者などと接触し、高額な報酬を渡して中国の「デリケートなデータ」を得ていたと伝えた。

 中国国営中央テレビは、「海外の組織」がコンサル会社などを使い、「わが国の重点分野の国家秘密や情報を盗み取っている」という当局の見方を強調した。

 ロイター通信によると、3月には米企業調査会社「ミンツ・グループ」の北京事務所が家宅捜索を受け、4月には米コンサル会社「ベイン」の上海事務所が従業員の聴取を受けている。外資系コンサル会社などへの摘発をキャンペーン的に進めているもようだ。

 中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は9日の記者会見で、キャップビジョンへの調査について「正常な法執行であり、業界の健全な発展を促し、国家の安全と発展の利益を守ることが目的だ」と主張した。

 コンサル会社や調査会社は、企業が事業判断を行うのに必要な現地情報を収集している。その中には軍事関連など政権にとって機微な情報も含まれているとみられ、こうした情報が米国などに流れることを当局は警戒しているもようだ。

 習政権は、米国など西側諸国との対立長期化を視野に入れ、「国家安全」を重視する姿勢を強めている。7月1日に施行される改正反スパイ法は、スパイ行為の定義を広げており、当局の恣意(しい)的な判断で外国人も摘発対象になる可能性が増すと懸念されている。

 3月には、中国の当局者や企業幹部と交友が深かったアステラス製薬の現地法人幹部が、反スパイ法などに違反した疑いで北京で拘束された。

 習政権は「ゼロコロナ」政策で傷んだ中国経済を回復させるため、外資企業の呼び込みも同時に進めているが、北京の日系企業幹部は「安心して新規投資ができる状況ではない」と困惑する。

■中国の反スパイ法 習近平政権が2014年に施行した。今年4月には中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会が反スパイ法の改正案を可決し、7月1日に施行することが決まっている。現行法はスパイ行為の定義を「国家機密」の提供などとしているが、改正法では「国家の安全や利益に関わる文献やデータ、資料、物品」の提供、窃取、買い集めも盛り込んだ。「国家安全」の定義はあいまいなため、当局の恣意的な摘発がさらに増えることが懸念されている。


【私の論評】機微な情報の中には、実は中国の金融システムの脆弱性が含まれる可能性が高い(゚д゚)!

中国の国家安全当局が摘発している外資系コンサルティング会社や調査会社は、主に以下の分野の機微な情報を入手していると考えられています。

  • 軍事関連:軍事技術、兵器システム、軍事戦略など
  • 先端技術関連:人工知能、半導体、量子技術など
  • 経済関連:経済政策、企業情報、貿易情報など
  • 政治関連:政府機関の内部情報、政権の政策方針など

これらの情報は、中国の安全保障や経済に大きな影響を及ぼす可能性があるため、中国政府は機密扱いしています。しかし、米欧のコンサルティング会社は、中国の企業や政府機関と取引する際に、これらの機密情報を不正に入手しているという疑いを持たれています。

具体的な事例としては、2022年に中国の国家安全当局が摘発した米系コンサルティング会社「ベイン・アンド・カンパニー」が挙げられます。ベイン・アンド・カンパニーは、中国の通信大手・華為技術(ファーウェイ)の内部情報を不正に入手したとして、中国政府から罰金を科されました。

中国政府は、外資系コンサルティング会社や調査会社による機密情報の不正入手に対して、厳しい取り締まりを行っています。今後も、このような摘発が活発化していくと考えられます。

ただ、中国の軍事技術や先端技術が欧米由来であるため、進展度合いに凸凹があります。たとえば、中国はステルス戦闘機や弾道ミサイルなどの最先端兵器の開発に成功したようですが、対潜戦争や電子戦などの分野では依然として欧米に遅れをとっています。

対潜戦争は、潜水艦を探知、追跡、撃沈する能力を必要とする複雑な分野です。中国海軍は、この分野で経験が不足しており、必要な能力を獲得するために努力しています。電子戦は、敵の電子機器を妨害または無効にする能力を必要とする分野です。中国海軍もこの分野で経験が不足しており、必要な能力を獲得する必要があります。

ロサンゼルス級原子力潜水艦の上空を飛行するオライオン対潜哨戒機

対潜戦は、海洋の戦いでの勝敗を決める決定的な要素です。電子戦はすべての戦いでの勝敗を決める決定的な要素です。

中国は軍事技術の分野で急速に進歩していますが、欧米に追いつくにはさらに時間がかかります。すでに確立された研究をもとに開発は進んでいるものの、次世代の研究は欧米から比べると遅れている可能性があります。

いわゆる先端技術もこれと似たような状況にあると考えられます。このようなことから、欧米が中国から軍事技術や先端技術を手に入れるというよりは、どの段階にまだ達したかという情報を入手している可能性はあります。

私自身は、軍事・先端技術情報よりも、経済関連に関しての情報に注目しています。

現在中国は国際金融のトリレンマに直面しています。国際金融のトリレンマとは、金融政策の独立性、為替相場の安定性、資本移動の自由化の3つは、同時に達成できないというものです。正式名称は、不可能の三角形(Impossible Trinity)です。米国の経済学者であるロバート・マンデルとアラン・テイラーによって提唱されました。これは、経験則によっても、数学的にも確かめられています。

中国は、金融政策の独立性と為替相場の安定性を重視しているため、資本移動の自由化を制限しています。しかし、資本移動の自由化が制限されていることで、中国の金融システムは脆弱になっています。


中国が独立した金融政策を実施できないことを示す具体的な兆候がいくつかあります。1つの兆候は、中国人民銀行が為替レートを安定させるためにしばしば介入していることです。これは、人民銀行が為替レートを操作する能力に制限があることを示しています。もう1つの兆候は、中国人民銀行が金利を引き上げることに消極的であることです。これは、人民銀行がインフレを抑制する能力に制限があることを示しています。

先程述べたように、国際金融のトリレンマにより、国境を越えて資本が自由に移動できる場合、中央銀行は為替レートの安定、低インフレ、金融政策の独立の3つをすべて達成することはできません。

これは、中国の金融システムの脆弱性を高める可能性があり、中国人民銀行が経済の安定を維持するための十分な柔軟性を持たないことを意味しています。

たとえば、中国人民銀行がインフレを抑制しようとする場合、為替レートの安定化や金融政策の独立を犠牲にすることになります。これは、中央銀行が金利を引き上げると、国内の金利と世界的な金利の差が生じ、資本が国内に流入する可能性があるためです。資本流入は、為替レートの上昇と金融政策の独立の喪失につながる可能性があります。

この脆弱性は、中国の金融システムがショックやストレスにさらされた場合に、金融危機につながる可能性があります。たとえば、米国が中国に制裁を課した場合、中国人民銀行は為替レートを安定させるために大量のドルを購入することを余儀なくされる可能性があります。これは、中国人民銀行の外貨準備を枯渇させ、金融危機につながる可能性があります。

さらに、中国人民銀行が金利を引き上げることに消極的であれば、インフレが制御不能になる可能性があります。これは、中国の経済成長の減速と金融危機につながる可能性があります。

全体として、国際金融のトリレンマにより、中国人民銀行が独立した金融政策を実施できないことは、中国の金融システムの脆弱性を高める可能性があります。この脆弱性は、中国の金融システムがショックやストレスにさらされた場合に、金融危機につながる可能性があります。

米国は、中国の金融システムの脆弱性を把握し、金融制裁をより効果的にするために、米欧のコンサルティング会社等による金融システムに関する機密情報の不正入手を行う可能性があります。これは、諜報活動の一般的な手法であり、米国が過去に使用した手法でもあります。

中国は、米国が過去にサイバー攻撃やスパイ活動を通じて中国の機密情報を盗んだ実績があるため、米国が中国の金融システムに関する機密情報を不正に入手する可能性を懸念していると考えられます。

全体として、中国は米国が中国の金融システムに関する機密情報を不正に入手する可能性を懸念しており、それに対処するための措置を講じています。その一つが、上の記事にも述べられているように、改正反スパイ法です。


改正法では「国家安全」の定義はあいまいなため、当局の恣意的な摘発がさらに増えることが懸念されています。

改正反スパイ法に関しては、当局の恣意的な摘発の問題が指摘されることが多いですが、それだけではなく中国での投資環境に悪影響を及ぼす可能性があります。

「国家安全」の定義があいまいなため、当局は、「国家安全」を理由に、企業や個人を恣意的に摘発することができる可能性があります。これは、投資家や企業にとって大きな不確実性を生み、中国への投資を思いとどまらせる可能性があります。

また、改正反スパイ法は、中国の金融システムや市場の不透明性を高める可能性もあります。これは、投資家にとってリスクが高まり、投資を思いとどまらせる可能性があります。

最後に、改正反スパイ法は、中国の国際的な評判を傷つける可能性もあります。これは、中国への投資や貿易を思いとどまらせる可能性があります。

全体として、改正反スパイ法は、中国での投資環境に悪影響を及ぼす可能性があります。投資家や企業は、これらのリスクを認識し、中国への投資を慎重に判断する必要があります。

これだけ弊害がありながら、中国政府が外資系コンサルタントの摘発を強化するのは、いくつか理由があるのでしょうが、やはり中国の金融システムの脆弱性を隠したいという意図もあるのではないでしょうか。それだけ、中共はこの脆弱性を表には出したくないのではないかと思われます。

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