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2022年9月18日日曜日

ポーランド、ロシア領迂回の運河開通―【私の論評】NATO艦隊がヴィスワ潟湖を利用できることになれば、ロシアとしては心穏やかではない(゚д゚)!

ポーランド、ロシア領迂回の運河開通

ポーランドのグダニスクから見たバルト海

 ポーランドは17日、バルト海(Baltic Sea)から同国北部のエルブロンク(Elblag)港まで、ロシアの領海を迂回(うかい)して入港できる運河を開通させた。

 エルブロンクは、地峡と呼ばれる細長い陸地によってバルト海と隔てられている。これまではロシアのカリーニングラード湾(Kaliningrad Bay)にあるバルティスク(Baltiisk)の近くを航行するほかなく、ロシア当局の許可を要した。新たな運河は、ポーランドの町クリニツァモルスカ(Krynica Morska)の西方約5キロの同国領内を通っている。

   17日の開通式に出席したアンジェイ・ドゥダ(Andrzej Duda)大統領は「わが国に対して友好的でない国の認可をこれ以上求めずに済むよう、このルートを開通させたかった」と述べた。

 当面、新運河を航行できるのは小型船のみだが、ポーランド当局によると来年9月までに全長100メートル、幅20メートルまでの船舶の航行を可能にするため引き続き、総額20億ズロチ(約610億円)規模の工事が行われている。

 一方、環境保護活動家などからは、運河の建設によってビスラニー湾(Wislany Bay)の塩分濃度が変化し、生態系が脅かされるとの批判が上がっている。

【私の論評】NATO艦隊がヴィスワ潟湖を利用できれば、ロシアとしては心穏やかではない(゚д゚)!

上の記事では、地図がないので、何を言っているのかよくわからない人も多かったのではないかと思います。下に掲載した地図をご覧いただければ、良くご理解いただけるのではないかと思います。


従来の航路では、ポーランドの船は、ロシアの飛び地であるカリーニングラードの領海および内水の通過航行許可を取得してポーランドのエルブ ロング港まで航行しなければならなかったが、ヴィスワ砂州横断運河が完成し、ロシア領海および内水の通 過航行許可は必要なくなるということです。

ヴィスワ砂州横断運河建設計画では、35,000DWT級貨物船(最大載貨重量35,000t)、許容喫水12m、最大全長200mの船舶が航行できるようになります。完成すると大型船舶の航行が可能になり、エルブロンクの港湾・コンテナターミナル整備による物流活性化、グダンスク、グディニャ、ソポットの港湾の混雑緩和、エルブロンクの観光業振興、NATOの軍事面での東方防衛強化が図れると期待されています。

下は、ヴィスワ砂州横断運河の予想図です。予想図の奥がバルト海、手前がヴィスワ潟湖。2つの旋回橋で交通が制御、水門で水位が調整さ れます。


バルト海からポーランド領域内でのヴィスワ潟湖へのアクセスを実現するプランは、第二次世界大戦後の早い時期から存在していました。1945年には、戦前に商工省大臣、副首相兼財務大臣を歴任しグディニャ港の建設を主導したエウゲニウシュ・クファトコフスキがヴィスワ砂州横断運河建設を計画したが、実現には至りませんでした。

現在でも、この計画には、バルト海からヴィスワ潟湖への唯一の海峡を有しその航行の既得権を持つロシア側からの強い反発があります。また、ヴィスワ潟湖の生態系を破壊し、自然環境が悪化するという内外の反発も強いです。

世界で唯一のエロブロンク運河の水陸両用挺

しかしながら、ポーランド政府は、2022年頃の完成を目指して、着々と準備を進めてきました。ヴィスワ砂州横断運河が完成し、エルブロンク港が整備されたとして、それが経済的にどのくらい波及効果を持つかという問題もありますが、少なくとも、ポーランドとロシア(カリーニングラード)をまたぐ潟湖へのバルト海からの進入のコントロール権は、ロシアの独占が崩れることになります。特に、NATOの艦隊がここを利用できることになれば、ロシアとしては心穏やかでなないでしょう。

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2022年8月24日水曜日

バイデン政権はロシアにもっと強硬に―【私の論評】バイデン政権は、これから段階的にいくつも強硬策のカードを切ることができる(゚д゚)!

バイデン政権はロシアにもっと強硬に

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」



【まとめ】

・今まで一定以上のウクライナ支援を抑制してきたバイデン政権だが、ロシアへの姿勢が軟弱すぎるとの批判が高まっている。

・バイデン政権は、アメリカが強硬な軍事措置をとれば、ロシアは全面戦争も辞さない反撃措置に出る可能性があると説明してきた。

・しかし戦略研究家マックス・ブート氏は、プーチン氏は自滅的ではなく合理的な判断をしており、バイデン政権は必要のない譲歩や後退をしていると批判した。

 ロシアのウクライナ侵略もこの8月ですでに半年が過ぎた。戦況は膠着状態とも、消耗戦とも評される。ウクライナ側の善戦にもかかわらず、ロシアの侵攻は止まらない。そのウクライナを支援するアメリカ国内ではバイデン政権のロシアへの姿勢が軟弱に過ぎるという批判が高まってきた。バイデン政権がロシアのプーチン大統領の爆発的な反撃を恐れて、抑止のための強固な措置がとれないというのだ。

 だがそのバイデン政権のプーチン大統領に対する「なにをするかわからない危険な人物」という認識はまちがいだとする意見がアメリカ側の著名な戦略研究家から発せられた。この意見はプーチン大統領もアメリカの戦力の強大さを知る現実的で合理的な指導者だから、バイデン政権がもっと強く出れば、自制を効かす、と強調している。

 バイデン政権ではロシアのウクライナ侵略に強い反対を表明しながらも、一定以上のウクライナ支援には一貫して慎重な抑制を示してきた。アメリカ軍を直接にウクライナに投入するなどという案は最初から「飛んでもない暴挙」として排除された。

 アメリカと同盟を結ぶNATO(北大西洋条約機構)の加盟国が軍隊を送ってロシア軍と戦うという案にも、バイデン政権はもちろん大反対だった。バイデン政権はNATO側のポーランドが自前の戦闘機を隣国のウクライナに送って支援することも明確に反対した。

 バイデン政権のこうした姿勢の説明としては大統領国家安全保障担当のジェイク・サリバン補佐官の「ロシアとの第三次世界大戦を引き起こすわけにはいかないから」という言葉がいつも引用されてきた。つまりアメリカ側がある程度以上に強硬な軍事措置をとると、ロシアのプーチン大統領はアメリカ側との全面戦争をも辞さない反撃措置に出るだろう、という示唆だった。その背景にはプーチンというロシアの最高指導者は大規模で破滅的な戦争をも仕掛けてくる爆発的、破滅的な傾向を有する人物だ、という推定があるわけだ。

 さてこうした背景のなかで、バイデン政権の対プーチン観、対ロシア観に正面から反対する見解がアメリカの戦略研究でも著名な学者から発表された。外交関係評議会の上級研究員でワシントン・ポストなどの主要メディアに国際問題についての寄稿論文を定期的に発表しているマックス・ブート氏である。ロシア生まれで幼い時期に家族に連れられてアメリカに移住したブート氏は教育はすべてアメリカで受けて、1990年代から保守派の論客として活躍するようになった。ただしトランプ前大統領に対しては批判を表明してきた。

 ブート氏のワシントン・ポスト7月28日付に掲載された論文は「アメリカはロシアよりずっと強い。われわれはそのように行動すべきだ」という見出しで、バイデン政権のロシアへの姿勢を軟弱に過ぎると批判していた。そのブート論文の骨子は以下のようだった。

〇バイデン政権はロシアのウクライナ侵略に対して一定以上に強硬な対策をとると、プーチン大統領が無謀で非合理な行動で反撃し、核兵器までを使用しかねないと恐れている。だがプーチン氏はこれまで5ヵ月にわたるウクライナでの戦争で冷酷かつ残虐的であることを示したが、自滅的ではなく、合理的な判断を下していることが明確になった。

〇プーチン氏はウクライナの首都キーウの攻略を当初、目指したが、その実現が難しいとわかるとすぐにその作戦を撤回した。ウクライナ軍が一時、ロシア領内の標的にまでミサイル攻撃を加えたが、冷静に対応して、報復としての戦線拡大はしなかった。プーチン大統領はウクライナの兵器や弾薬の供給発信地となっているポーランドにも攻撃はかけず、NATOへの加盟の動きをとったスウェーデンとフィンランドに対しても威嚇の言葉を述べても、実際の行動はなにもとっていない。

〇プーチン氏はこうした実際の言動から弱いとみなす相手(たとえばジョージア、ウクライナ、シリアの反政府勢力など)には容赦のない威嚇と実際の攻撃をためらわないが、アメリカやその他のNATO加盟国との直接の軍事対決はあくまで避けるという合理的かつ計算高い行動様式が明確となった。実際の戦闘でもウクライナ軍を相手にしてすでにこれだけ苦労するのだからNATO軍との衝突はあくまで避けるという合理性を有することは確実だといえる。

〇アメリカは核戦力ではロシアと互角の水準にある。非核の通常戦力ではアメリカはロシアよりはるかに優位にある。しかしバイデン政権はあたかもアメリカ側の軍事能力がロシアよりも弱いかのようにふるまっている。その結果、プーチン大統領はアメリカがウクライナにより強力な軍事支援を供することを抑止することに成功してきた。

〇ウクライナでの戦闘ではロシア軍はすでに戦車1000台以上を失い、6万人以上の戦傷者を出した。今後ウクライナ軍がこれまでよりも強力な戦術ミサイル・システムなどをアメリカから得れば、ロシア側の敗北は確実となる。だがバイデン政権はなおロシア側の自暴自棄的な反撃を恐れて、その種の兵器のウクライナへの供与をためらっている。このロシア認識は変えるべきだ。

 以上、要するにプーチン大統領はいざとなればアメリカとの全面戦争をも辞さないような強気の言動をみせてはいるが、それはたぶんに演技あるいは、はったりであり、実際にはアメリカの軍事能力の優位を認め、自国の安全保障保持のためには合理的な判断を下して、アメリカやNATOと全面衝突するような方途は選ばない――という分析だといえる。だからその分析はバイデン政権がプーチン大統領のその真の姿を読みとれず、必要のない譲歩や後退をしているのだ、という批判につながるわけである。

☆この記事は日本戦略研究フォーラムの評論サイトに掲載された古森義久氏の寄稿論文の転載です。

【私の論評】バイデン政権は、これから段階的にいくつも強硬策のカードを切ることができる(゚д゚)!

今から振り返ると、開戦前から、ロシアの「強気」な姿勢に対し、アメリカ及びNATOの動きは弱いうえに遅いのが目立っていました。

バイデン大統領は、1月19日、就任1年を迎えたスピーチにおいて、ロシアはウクライナに侵攻するとの見解を示した上で、「深刻で高い代償を払うことになる」との警告を発していましたが、同時にロシアがウクライナを侵攻する脅威について問われた際、「小規模な」攻撃ならアメリカやその同盟国の対応はより小さくなるかもしれないと示唆していました。

トランプの大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)だったキャスリーン・マクファーランドはFOXニュースに対して、バイデンの発言はプーチンにとって、ウクライナ侵攻の「ゴーサイン」を意味したと主張しました。

「バイデン大統領が先週、プーチンにゴーサインを出すような発言をしたことで、今やプーチンがどんな行動に出る可能性もあると思う。ウクライナ侵攻の可能性もあるし、ハイブリッド戦争を仕掛ける可能性もある。今すぐ、もしくは今後1年の間に、彼は何らかの方法で自分の目的を達するだろう」

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はその後、ロシア軍がウクライナとの国境を越える動きがあれば、それは全て「新たな侵攻」であり、「アメリカと同盟諸国は迅速に厳しく、一致団結して」対応すると説明。バイデンの発言を事実上修正しました。

昨年12月の段階ではウクライナへの米軍の派遣は明確に否定していました。それどころか、1月23日、米国務省は、ウクライナの首都キエフにある米大使館職員家族に退避命令を出したことを明らかにしていました。

バイデン氏は、昨年8月の米軍のアフガニスタン撤退でも、米軍幹部の反対にもかかわらず、早い段階から「8月撤退」を公言し、発言を撤回しませんでした。撤退時期を事前に言ってしまえば、武装派勢力がそれに合わせて攻撃計画を練るのは当然だ。結果として、撤退直前にテロ攻撃され、米兵13人の命が失われてしまった。重大局面での大統領の失言、妄言は、いまや定番です。

米軍のアフガニスタン撤退

NATOは、1月12日の「NATO・ロシア理事会」終了後、ロシアが求めるNATO東方不拡大の法的保証を拒否したことを伝えていましたが、次回会合に望みをつなげること以外、具体的方針は示していませんでした。むしろ、米国がウクライナへ武器供与を承認したのに対し、ドイツがウクライナからの武器供与の要請を拒否したことが伝えられており、NATO内での不協和音も認められました。

1月24日、NATOのストルテンベルグ事務総長は、NATO諸国が東欧の防衛力増強のため部隊の派遣を進めていることを発表し、米国防省も、8,500人規模の部隊に派遣に備えるように指示を出したことを明らかにしました。NATO諸国がロシアの強硬姿勢に、遅ればせながら力による対応措置を講じ始めました。

チキンゲームの観点からは、ウクライナに対するロシアの「強気」に対し、NATOの「強気」の範囲はNATO域内にとどまっていました。これにより、ロシアのウクライナに対する「強気」を、アメリカを含むNATOが是認する可能性が高くなったいえます。

ウクライナはNATOへの加盟を希望しているものの、現時点では加盟国ではなく、NATOとしても集団防衛の義務は負ってはいません。また、バイデン大統領は8月のアフガニスタン撤退に関し、国内外から批判を浴びたことから、海外への米軍派遣には消極的と見られています。

これらのことから、ロシアのウクライナに対する軍事力行使という「強気」に対し、NATOが軍事力行使という「強気」に出て、両者が直接軍事衝突する可能性は低いと見積もられていました。

これらが、プーチンのウクライナ侵攻を後押ししたことは間違いないでしょう。

それもそうですが、実際に侵略が起こった時点でも、即時にHIMARSのような武器が使えるように早めに支援を行い、ロシア側にもその事実を知らせるとか、場合によっては、NATOがロシア国内を攻撃するなどのことを告知していれば、ロシアのウクライナ侵攻を事前に防げたかもしれません。

そういうと、後知恵のように思われるかもしれませんが、私自身は、ロシアのウクライナ侵攻は無理であると当初から考えていて、その根拠の一つとして、いくらロシアがソ連の核兵器や軍事技術を継承した国であり、決して侮ることはできないものの、現在のロシアのGDPは韓国を若干下回る程度あり、東京都と同程度であり、とても NATOと対峙できる状態ではないということがありました。

しかも一人あたりのGDPでは、韓国を大幅に下回る状況です。にもかかわらず、広大な領土を抱えており、ロシア連邦軍の守備範囲も広く、現在のロシアには、ウクライナに攻め込むような大戦争は到底できないと考えたからです。

しかし、結局バイデンの弱気発言などが、ロシアのウクライナ侵攻を後押ししてしまいました。

ただ、プーチンは驕りから失敗しました。しかし、バイデンは駆け引きがあまりに下手すぎです。トランプだったら脅してすかしていなして、最後には「わが友、プーチン」くらいは言って侵攻を止めさせたかもしれません。それがビジネスマンです。

【G7サミット】膝詰めで議論を重ねる安倍晋三首相(中央)トランプ米大統領(手前右)ら

バイデン大統領の外交については、当初から危惧されていました。バイデンが副大統領をつとめたオバマ大統領は外交経験に乏しく、外交の中心はバイデンが担っていました。ところが、オバマ政権で国防長官だったロバート・ゲイツはバイデンについて「過去40年、ほぼ全ての主要な外交、国家安全保障問題で間違っていた」と回顧録で切り捨てています。

「誤り」として挙げられるのはイラク戦争への対応のほか、国連決議に基づいていた1991年の湾岸戦争への反対、2011年のイラク撤退でテロ組織の台頭を許したと批判されていること、アフガニスタンへの増派反対などがあります

米企業公共政策研究所の外交政策専門家コリ・シェイクも、バイデン外交について「軍事力をいつどのように使うかという一貫した哲学に欠けている」と米誌アトランティックへの寄稿で批判しています。

シェイクは、トランプの外交よりは良いとしながらも「バイデンが混乱し、誤った外交政策を唱え続けていることは見落とされるべきではない」と警告していました。

擁護の声もあります。プリンストン大教授アーロン・フリードバーグは「湾岸戦争への反対もイラク戦争への賛成も、同じ投票をした民主党議員はほかにもいた。バイデンは基本的には海外での軍事介入に熱心でなく、党内でもリベラル寄りだ」と語つてまいす。

バイデンはトランプが「同盟国との関係を損ない、北朝鮮など独裁国家の首脳との関係を重視してきた」と非難しました。民主主義国との同盟を再構築すると訴えました。

ただ、フリードバーグは、バイデン外交について「対中国を含め自身は強い信念を持っていない。そのため、政策は周囲の助言に左右される」とその不確実性を指摘しています。

一方、米国は昨年にアフガニスタンからの撤退を完了させ、今回のロシアのウクライナ侵攻にも、軍の直接介入を行わず、兵力を温存しています。これによりバイデン政権は国内政治的なリスクも回避したことも事実です。

しかも、今回のウクライナ軍のロシアの侵攻への善戦の背景に、米国の武器供与、財政支援、インテリジェンス情報共有、サイバー空間での協力などがあることは明らかです。バイデン政権は、米国との同盟国でなくとも、米国の支援を得ることできれば、大国を相手に自国を守ることができるという構図を世界に印象付けつつあります。

過去に米国民に多大な犠牲をもたらし、国内外からの批判に晒されたベトナム戦争やイラク戦争などと異なり、米国の負担を最小にして、世界からは支援と賛同も得られる効果的な協力を行っています。

1960年代フロリダ大学の学生による反戦運動

今後、ロシアがウクライナの戦争の継続あるいは停戦のカギは、ロシアのパートナー国である中国の動き次第です。ウクライナ侵攻前の2月4日、中ロ共同声明において、両国の友情には「限界はない」と宣言しましたが、中国は必ずしもロシアに全面的な支援を与えてはいません。

もし中国が、バイデン政権が再三警告する対ロシア軍事支援に踏み切れば、ウクライナでの戦争はさらに長期化するでしょう。一方で、中国がロシアの長期化する軍事作戦を支えることは、中国の体力も奪うことになり、米国にとって中国との長期的な競争には、米国が優位に展開することになるでしょう。米国にとって中国へのけん制は、いわば「王手飛車取り」です。中国が軽々にロシア支援に動けない理由がそこにあります。

ロシア・ウクライナ戦争は、軍事介入への高いハードルという米国のおかれた状況を考えると、インテリジェンスの先制的な開示という非常手段をとっても、抑止できませんでした。また、結果として、バイデン政権の軟弱な対応が、プーチンを後押ししたという面は否めません。

しかし、この戦争がどのように終結するかどうかで、その帰結は変わってくるため、軽々に結論づけることはできないですが、一方で、軍事介入への制約ゆえに、黒子に徹することしかできない米国に、あらたな戦略と優位性を与える可能性は十分あります。

その優位性を与える一つの方法として、バイデン政権は時にはロシアに対してもっと強硬に出るという方法もあるのではないかと思います。現在まで、バイデン大統領は強気な発言をしたことはありますが、それを実行したことはありません。しかし、そのせいで、バイデン大統領には、さまざまなカードか残されているということができます。

たとえば、NATO軍や米軍のウクライナへの派遣、派遣でも様々な段階があります。軍事訓練から、実際の戦闘に加わることか、戦略の一翼を担うまで、様々な段階があります。さらに強力な武器の供与、これも通常兵器から核兵器に至るまで様々な段階があります。

「飛行禁止空域」の設定も様々な段階があります。ウクライナの一部の空域から、ウクライナ全土まで様々な段階があります。

いきなり、過激な段階ではなく、米国側が何らかの条件を出し、その条件をロシアが満たさなかった場合、段階的なさまざまなカードを切れば良いのです。それも、はっきり目にわかるかたちで切れば良いのです。

この方針の転換が、プーチンを恐慌状態に陥れ、さら追い詰めることになります。今からでも遅くありません。十分できます。それに、ロシアが残虐なやり方をしてきたから今だからこそ、強硬な手段をとっても、国内外から非難を受けることもありません。それどころか、称賛の声が沸き起こるかもしれません。

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2022年8月12日金曜日

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く―【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く

バルト三国

バルト3国のエストニアとラトビアは11日、中国との経済的な協力枠組みからの離脱を決めたと発表した。枠組みにはかつて中東欧などの17カ国と中国が参加していたが、リトアニアが昨年離脱を宣言しており、これでバルト3国全てが離脱することになった。

 枠組みは2012年に始まり、巨大経済圏構想に関する経済協力などを掲げていた。エストニアとラトビアの外務省は「中国とは今後、国際ルールに基づく秩序と人権を尊重した協力を通じ、建設的で実利的な関係を築く努力を続ける」との声明を出した。ラトビアは「現在の外交、通商政策の優先順位を考慮して決定した」としている。

【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

昨年リトアニアが、中国との経済枠組から離脱したことは、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
リトアニアでも動き出した台湾の国際的地位向上―【私の論評】国際社会からの共感とNATOによる兵力配備がリトアニアの安全保障の根幹(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からリトアニアが離脱した経緯に関わる部分を引用します。

リトアニアは先にも掲載したように、2012年に開始された「中・東欧サミット」、いわゆる「17+1」の参加国でした。同サミットは、EU加盟国のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア、スロベニア、リトアニア、ラトビア、エストニアの11か国とEU非加盟国のセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、アルバニア、モンテネグロの5か国の合計16か国でスタートし、2019年にギリシアが加わり17か国となりました。

中国が一帯一路の一環として、これら諸国との貿易、投資を増大させることが期待されていました。しかしながら、今年5月にリトアニアは、「期待していたほどの経済的メリットを得られない」として、「17+1」の枠組みからの離脱を明らかにしました。台湾代表処の設置は、これに引き続くものであり、単純に、台湾からの経済メリットのほうが中国より大きいと判断したかのように見えますがそうではありません。

リトアニア国防省は、今後10年間を対象とする「脅威評価2019」という文書を公表しています。旧ソビエト連邦の共和国として、長年独立運動を実施していた歴史から、脅威評価のほとんどはロシアで占められています。

しかしながら、脅威として名指しされていた国は、ロシアの他は中国のみです。ロシアの脅威が政治、経済、軍事と幅広く述べられているのに対し、中国からの脅威は、情報活動の拡大ででした。中国は、香港や台湾に対する中国の主張を正当化する勢力の拡大を図っており、今後このような活動がリトアニアを含むEU諸国で広がってくるであろうという評価です。

「17+1」が経済的繁栄を目指すものではなく、中国の影響力拡大に使われているというのがリトアニアの見方です。今年5月リトアニア議会は中国のウィグル人に対する扱いを「ジェノサイド」として、国連の調査を要求する決議を行いました。リトアニアでは1990年の独立に際し、ソ連軍により市民が虐殺されるという事件が起こっており、共産党に対する嫌悪感も相まって、反中国に傾いたという事ができます。
今回は、リトアニアに続き、エストニアとラトビアも離脱ということで、全バルト三国が離脱したのです。

リトアニアの首都ヴィリニュス ゴシック建築と近代的ビルが混在して立ち並ぶ

こうした背景には、上で述べたようなものもありますが、それ以外にもやはり経済的な背景もあると考えられます。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!
世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

「16+1」は、中国と中東欧の16ヵ国の対話・協調を促進するための枠組みであり、年に1度の首脳会合を通じて様々な合意を生み出すものとされていました。元々は「17+1」でした。ギリシャは遅れて入ったので、「+1」されています。後にチェコが離脱したので現在は「16+1」とされています。
しかし「16+1」を通じた中国の対中・東欧投資は、多額のコミットがなされたものの、その多くが実現されず、実現されても大幅に遅れたり、当初の想定を遙かに超える莫大な費用がかかることが明らかとなったりしてきました。

インフラ工事のための労働力も全て中国から調達したため、中・東欧現地の雇用も促進されませんでした。「16+1」の枠組みを用いて中国と協議を行い、中国の市場開放を促すことを試みていたバルト諸国なども、頑なに市場開放に応じない中国の態度に失望を隠さなくなりました。
そもそも、一人あたりのGDPの低く国際投資のノウハウに乏しい中国が、中国よりは一人あたりのGDPが高いバルト三国に投資したとしても、バルト三国の国民が豊になることなどありません。

ちなみに、以下に中国とバルト三国の一人あたりのGDP の比較を掲載します。単位はドルです。
中国 12,359 ラトビア 20,581 エストニア 27,282     リトアニア 23,473
中国というと経済大国というイメージが強いですが、一人あたりのGDPではこの程度(世界65位)なのです。人口が 14億人もいるので、国単位としては、大きい経済であるというだけです。

中央東欧諸国では、一人あたりのGDPでは、中国を凌ぐ国も多くあります。このような国々では、  今後もバルト三国のように枠組みから抜ける国も続くでしょう。

今後は、中東欧だけではなく、世界中の中国から投資を受けている国のうち、まずは一人あたりのGDPが中国との経済枠組みから抜け出ていくことでしょう。

そうなると、いわゆる貧乏国だけが、一帯一路などの枠組みに残ることになります。そうなると、中国は投資をしても、元をとることすらできなくなる可能性があります。

中国は、国内投資でも失敗続きです。不動産バブルの崩壊はすでに報じられているところですが、高速鉄道の投資においても、大失敗しています。

2月に開かれた北京冬季五輪のために中国が整備した高速鉄道(中国版新幹線)の新路線が、需要不足で1日1往復だけの運行になっています。駅前の商業施設は閉鎖中。国家の威信をかけたプロジェクトが有効活用されていません。

 中国は北京と河北省張家口に分散する五輪会場を約1時間で結ぶ新路線を建設。中国メディアによると総投資額は580億元(約1兆2千億円)。「万里の長城」の地下深くを通る全長約12キロのトンネルを貫通させ、「ハイテク五輪」の象徴として自動運転システムも導入しました。

 大会中は1日17往復ほど運行。最高時速350キロで大会関係者や報道陣を運び、国際的に注目されました。

中国版新幹線「高速鉄道」を運営する国有企業、中国国家鉄路集団の路線延伸がとまりません。景気底上げを目指す政府の意向をくみ、2035年に路線を現在より7割増やす方針だというのです。

ただ、無軌道な拡大で不採算路線が増え、足元の負債総額は120兆円の大台に達しました。今後さらに70兆円超の建設費がかかるとみられます。

中国の高速鉄道の借金が120兆円を超える!事業は赤字続き

さらに恐ろしいのは、これが高速鉄道ばかりでなく、高速道路や国際空港でも同じように債務を増やしていることです。
 
中国の道路は、一般道はもちろん高速道路が実に立派です。貧困地域である河南、貴州や、人より羊が圧倒的に多いウイグルであっても片側3車線という立派さです。

また、発着が1日に1便のみだったり、人影さえ見ない国際空港が300を超えるとも言われています。その1つは、江沢民元国家主席が妾に会うために建設させたと噂になっているものまであります。それぐらい、中国は“隠れ不良債権”が山となっているのが実情です。

中国の「過剰債務」が表ざたになれば、世界経済はパニックを起こしかねないです。

巨大国有企業が抱える「国の隠れ債務」が、中国経済のリスク要因となる懸念があります。

国内投資でも失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきったことだったといえると思います。


巨額貸し倒れリスクに怯える中国、これが「第二のスリランカ候補国リスト」だ―【私の論評】中国は民主化しなければ、閉塞感に苛まされるだけになる(゚д゚)!


2022年8月7日日曜日

台湾 軍による沿岸での「重砲射撃訓練」開始へ 中国軍に対抗か―【私の論評】大国は小国に勝てないというパラドックスに気づいていない、愚かな中国(゚д゚)!

台湾 軍による沿岸での「重砲射撃訓練」開始へ 中国軍に対抗か


 台湾が陸軍による沿岸での射撃訓練を行うと発表しました。中国の大規模な軍事演習に対抗する狙いがあるとみられます。

  台湾の陸軍は、8月9日と11日に台湾の南部沿岸周辺で「重砲射撃訓練」を行うと発表しました。

  中国軍による台湾周辺での大規模な軍事演習が行われたことを受け、部隊の戦闘能力をテストする予定だということです。

  また、台湾の海軍からは対艦ミサイルの写真が公開され、台湾海峡の状況を24時間体制で監視しているとする声明が発表されました。 

 台湾当局は、中国政府に対して「理性的に自制をするように」と呼び掛け、日本を含めた周辺諸国に台湾への理解と支援を求めています。

【私の論評】大国は小国に勝てないというパラドックスに気づいていない、愚かな中国(゚д゚)!

中国がペロシ米下院議長の訪台に反発し軍事的な圧力を強めていますが、しかしこれはもともと中国が一つの中国を主張するだけではなく、台湾に軍事侵攻する旨を明らかにしており、これに対する対抗措置として、ペロシ氏が実行したものです。

中国はこれを無視して、一方的にペロシ氏を非難しています。これに対して台湾が反発するのは当然で、これは中国も織り込み済みなのでしょうが、中国は、国際政治のパラドックスに関しては、過去の反省も、現状の分析もしていないようであり、今回の台湾を脅す軍事演習は、中国にとってさらに悪い結果を招くであろうことを理解していないようです。

米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも昔から大国は、小国に勝てないということを主張しています。確かに、そういわれてみればそうです。米国もベトナムには勝てませんでした。ロシアに侵攻されたジョージアは一部取られたとはいえ、独立を保っています。アフガニスタンからは、過去には英国、ソ連が、昨年は米国が撤退を余儀なくされました。ウクライナ侵攻でロシアは苦戦しています。

米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも中国は「大国は小国に勝てない」という「戦略の論理」を十分に理解していないと前から主張していました。

ある大国がはるかに国力に乏しい小国に対して攻撃的な態度に出たとします。その次に起こることは何でしょうか。

周辺の国々が、大国の「次の標的」となることを恐れ、また地域のパワーバランスが崩れるのを警戒して、その小国を助けに回るという現象があらわれるのです。その理由は、小国は他の国にとっては脅威とはならないのですが、大国はつねに潜在的な脅威だからです。

米国はベトナム戦争に負けましたが、ベトナムは小国だったがために中国とソ連の支援を受けることができたのです。

しかも共産国だけではなく資本主義国からも間接的に支援を受けています。たとえば英国は朝鮮戦争で米国側を支援したのですが、ベトナム戦争での参戦を拒否しています。

米国が小さな村をナパーム弾で空爆する状況を見て、小国をいじめているというイメージが生まれ、最終的には米国民でさえ、戦争を拒絶するようになってしまいました。

『戦争の恐怖』1972年6月8日、AP通信ベトナム人カメラマンだった、ニック・ウット氏撮影。
南ベトナム軍のナパーム弾で、火傷を負った子供らが逃げてくる場面を捉えたもの

つまり国というものは、強くなったら弱くなるのです。戦略の世界は、普通の生活とは違ったメカニズムが働いているのです。

こうした事例は、最近でもありました。それは、リトアニアです。

リトアニアと中国の関係が急速に悪化したのは、2021年7月にリトアニアが「台湾」の名称で台湾当局の代表処を設置することを認めた以降です。中国外交部はこれを強く批判、駐リトアニア大使を召還する決定を行っています。

リトアニアは、同年8月23日に国防省の調査報告として国内の5G関連移動通信体(モバイルデバイス)のサイバーセキュリティ上の評価を公表している。その中で、中国企業であるHuawei(ファーウェイ)、Xiaomi(シャオミ)及びOnePlus(ワンプラス)について、併せて10のサイバーセキュリティ上のリスクがあるとし、その内4つは製造時に実装されたものであると結論付けています。

2021年9月16日、EUは「インド太平洋戦略」を公表しました。経済の相互依存状況、地球規模の課題解決等を考えると、EUとインド太平洋の未来は密接に結びついているとし、中国の軍事力増強が南シナ海や台湾海峡を緊張状態にしているとの認識のもと、EUが積極的にインド太平洋地域に係るという方針を示しています。

その戦略として、「同じ志を持つパートナー」との協力を強化するとしている。戦略文書では、「同じ志を持つパートナー」として、日本、インド、オーストラリア、米国、韓国と並んで台湾を挙げています。同戦略には、インド太平洋における海洋安全保障のため、EU諸国が同地域に海洋プレゼンスを示すことに加え、「デジタルパートナーシップ」の作成にも言及されています。

EUはインフラ接続に関し、中国の「一帯一路イニシアチブ」の代案となる「グローバルゲートウェイ」を公表している。デジタルガバナンスに関し、インド太平洋方面の諸国と連携を深め、これを足掛かりに、すでにガバナンスが定着しているオーストラリア、韓国、米国、カナダ等との連携を強化することを目指しています。

海洋プレゼンスの強化に関しては、英仏の空母機動部隊やドイツ海軍艦艇のインド太平洋方面行動は、EUの戦略文書を先取りした行動でした。同年11月5日に、ドイツ海軍艦艇が約20年ぶりに日本に寄港したが、ドイツ外務省報道官によれば、ドイツ政府が申し入れていた同艦の上海寄港は中国が受け入れを拒否したとしています。

中国が、ドイツ海軍艦艇のインド太平洋展開を自国に対する圧力と認識し、不快感を示したものでしょう。同年10月21日に、EU議会でEUと台湾の関係を強化すべきという法案が580対26という大差で可決された背景には、EUのインド太平洋戦略の影響があります。

同年10月30日、中国外務省報道官は、リトアニアとEUに対中関係を悪化させるべきではないと警告を発している。中国がリトアニアとEUの動きを結託したものとみている証左です。

それにもかかわらず、同年11月3日、EU議会の代表者は台湾を訪問、蔡英文総統と会談し「あなた方は孤立無援ではない」とのメッセージを伝えたと報道されています。小国リトアニアと大国中国の対立はEU対中国の対立に変化しました。

同年11月3日付のGlobal Times紙(中国環球時報英語版)は、台湾を訪問した代表団は一部の反中国派議員であり、騒ぎ立てることにより自らの存在感を示そうとしているだけであり、相手にするのは時間と資源の無駄であるとの論評を掲載しています。

同紙は、中国政府の方針を代弁することが多く、中国としては、EUとの対立を、控えめに扱うことにより沈静化を図っていく方針であることを示すものでしょう。小国リトアニアに、台湾という名前を冠した連絡事務所を設置させないという中国の目的は果たすことができず、結果的には中国は勝つことができなかったのです。

リトアニアが中国からの圧力に屈しなかった理由は、EUがリトアニア側についたという事が大きいが、中国への経済依存度も低く、距離的にも中国から遠いという背景があることも事実です。

しかしながら、台湾が中国と対峙する場合、教訓とすべき事項も多いです。その一つは、「同じ志を持つパートナーとの連携」強化です。もちろん米台関係が基軸であることは確かですが、EUがインド太平洋戦略において台湾を米国や英国、日本、オーストラリアと並んでEUの「同志」と位置付けていることを重視すべきです。

アフガニスタンからの米軍の撤退に見られるように、最終的な価値基準は国益です。米台、日台のみに依存する安全保障は心もとないです。価値観を共有する国々との関係を強化することはもちろんのこと、軍事だけではなく、経済、外交、科学技術あらゆる分野で安全保障を担保する方策を講じる必要があります。

そうして、台湾はその方向に進みつつあるようです。すでに、中米の島嶼国セントビンセント・グレナディーンのラルフ・ゴンザルベス首相が7日朝、台湾に到着しました。桃園国際空港で談話を発表し、中国に対し台湾周辺での軍事演習をやめるよう呼び掛けました。

ラルフ・ゴンザルベス首相

中華民国(台湾)と外交関係を結ぶセントビンセント・グレナディーン。ゴンザルベス氏は政府の招待を受けて来訪し、12日まで滞在します。談話では、台湾が厳しい状況に直面する中、訪台できたことを喜び、攻撃や暴力による圧力は受け入れられないとの立場を示しました。ゴンザルベス氏の訪台は具体的な行動によって台湾との関係の強固さを示すだけでなく、台湾への支持を示す意義もあるとした。

また、リトアニア運輸通信省のバイシウケビチウテ副大臣らで構成される代表団も7日、台湾入りした。

リトアニア運輸通信省のバイシウケビチウテ副大臣

英下院外交委員会の代表団が、おそらく今年11月か12月初旬に台湾を訪問する計画だと、英紙ガーディアンが1日に報じていました。 報道によると、同委は今年の早い段階で訪台を計画していたのですが、代表団の1人が新型コロナウイルスに感染して延期していました。 報道によると、訪台は当初計画段階で、英国が台湾を支持していることを示す目的があったといいます。

今後、様々な国々の代表が台湾を訪れることになるでしょう。

外務省は6日、中国による台湾周辺での大規模軍事演習を巡り、林外相と米国のブリンケン国務長官、オーストラリアのペニー・ウォン外相が「即刻中止」を求める声明を発表しました。

声明では、中国の軍事演習について、「国際的な平和と安定に深刻な影響を与える」と懸念を表明。中国の弾道ミサイル5発が初めて日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したことに関しては、「緊張を高め、地域を不安定化している」と非難しました。

私は、この日米豪を含む多数の国が、いずれ近いうちに、中国の演習に対抗して、台湾防衛を目的とした、かなり大規模な軍事演習をすると思います。

中国の今回の暴挙に反応して、多くの国々がこれを脅威に感じ、これに備えようとするでしょう。

そうして、大国は小国に勝てないというパラドックスの新たな事例がまた生み出されていくことになるでしょう。

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2022年8月2日火曜日

台湾と香港の「心をつかめ」、習近平氏が中国共産党に要求―【私の論評】米中の真の戦争は「地政学的戦争」、表のドタバタに惑わされるな(゚д゚)!

台湾と香港の「心をつかめ」、習近平氏が中国共産党に要求

中国共産党中央統一戦線工作部についての会合で演説する習近平氏(中央)

 中国の習近平(シーチンピン)国家主席は2日までに、中国共産党に対して香港、マカオ、台湾の人々の「心をつかむ」ことを強く求めた。それこそが「国家を再生する」取り組みの一環だとの認識を示した。

 習氏の要求は、週末にかけて開かれた高位の当局者が集まる会合でのもの。中国共産党中央統一戦線工作部(統戦部)に向けて提示された多くの重要任務の一つだった。この組織は中国内外で影響力を獲得する任務を担う。

 国営新華社通信によると、習氏は北京での会合で統戦部について、中共が敵を打ち破るための重要な保証になると指摘。国の統治と再生のほか、国内外の全中国人を結集させ、国家再生を実感させることも請け合う組織だと強調した。

 具体的な取り組みとしては、国内において「共通性と多様性の適切なバランスを取り」「香港、マカオ、台湾、さらに海外の中国人の心をつかむ」ことを含むべきだとの見方を示した。

 香港は民主化を求める大規模な抗議行動を受けて習氏による弾圧の対象となり、現在は中国政府が統治する半自治区として運営されている。マカオでも同様の体制が敷かれる。台湾では民主主義に基づく自治が行われているが、中国共産党はこれを自国の領土とし、「再統一」を目指すと公言している。中国が台湾を統治したことは過去に一度もない。

 「複数の取り組みを通じて海外の愛国者らを強化するほか、より多くの外国人にも理解を促し、中国に対して友好的になるようにするべきだ」(習氏)

 海外に暮らす中国人向けの業務も統括する統戦部の動きについては、近年国際社会が否定的な目を向けていた。背景には、世界的な影響力の増進を図る中国に対する懸念がある。

 他方、統戦部の国内での活動を巡っては、共産党に反発する可能性のある人々を鎮圧する手段と長く目されてきたが、ここにも国際社会からは否定的な見方が出ている。その権限によって特定の宗教や民族に属する集団を弾圧していると考えられているためだ。

 習氏は統戦部の任務として、「民族問題」において「中華民族への強い共同体意識を育てる」ことに言及。また各宗教に関しては「中国的な背景の中で」発展させていく考えを示した。人権擁護の活動家などからは、このような認識の一環として最近特定の宗教や民族に対する弾圧が行われていると非難する声が上がっている。

 習氏はさらに「中華民族の全ての息子たち、娘たちを1つにする」必要性も強調。専門家によるとこの言葉は共産党の構想を指しており、中華民族であればたとえ中国籍を持っていなくても全員を結び付けるというのがその主旨だという。

 この構想に対しては反発する中国系住民もいる。とりわけ物議をかもしているのは、一部の西側諸国で中国系の人々が不当な取り締まりの標的にされているとの見方が出ている点だ。これらの国々では、中国によるものとみられるスパイ行為の封じ込めに取り組んでいる。

【私の論評】米中の真の戦争は「地政学的戦争」、表のドタバタに惑わされるな(゚д゚)!

現在、中国はペロシ氏が実際に訪台すれば軍事的な対応をすると警告を出しています。対応の内容は特定していないものの、2大経済大国の間の危機の引き金になりかねないなどと報道されています。


中国の習近平国家主席は先週の首脳会談でバイデン米大統領に対し、台湾問題で「中国の国家主権と領土の一体性を断固として守る」とし、「火遊びをする者はやけどを負う」と語ったとされています。

中国が全面的な台湾侵攻を計画している兆候はほとんどないですが、外国の当局者による過去の台湾訪問の際、台湾の防空識別圏(ADIZ)に中国軍機の大規模侵入があるなどしました。

台湾のテレビ局TVBSは、多数の中国軍機が1日午前に台湾海峡の中間線に接近したと伝えるとともに、台湾の複数の軍艦も通常任務を展開していると付け加えました。

台湾の複数のメディアによると、中国海軍の空母「遼寧」と「山東」を中心とする2つの艦隊が2日までに、母港のある青島と海南島を離れたという。台湾海峡に向かっているのかどうかは不明だが、ペロシ下院議長の動向に合わせた動きとみられます。

空母「山東」
また、2日午前に台湾の桃園国際空港に対し「ペロシ氏の台湾訪問を阻止するため3つの爆発物を設置した」との脅迫メールが届いたという。これまでのところ爆発物が見つかったという発表はないが、警察が警備を強化しメールの発信元を調べている。
米海軍は2日、台湾東方のフィリピン海に空母を含む艦艇4隻を配備していることを明らかにした。「通常の」配備と説明している。

配備されているのは、空母「ロナルド・レーガン」、ミサイル巡洋艦「アンティータム」、駆逐艦「ヒギンズ」、強襲揚陸艦「トリポリ」。

海軍関係者はロイターに対し匿名を条件に「万一の事態に対応できるが、通常の配備だ」とし、正確な場所についてはコメントできないと述べたそうです。

以上、ペロシ訪台を巡ってのドタバタを掲載しましたが。これは、本当にドタバタです。なぜなら、ペロシが訪台するかもしれないと公表されている最中、習近平(シーチンピン)国家主席は中国共産党に対して香港、マカオ、台湾の人々の「心をつかむ」ことを強く求めているのです。

習近平が、もし本気でペロシが訪台すれば、軍事的報復に打って出ると考えていれば、いずれの会議においても台湾の人々の「心をつかめ」などと言う必要性など全くありません。

習近平として、恫喝は恫喝、本心は本心と使い分けているのかもしれませんが、これは本当に不自然です。それに、中国外務省の華春瑩報道官は2日、予想されるペロシ米下院議長の台湾訪問について、米国と連絡を取り合っていると述べました。

これは、結局米国のペロシ訪問を受けて、中国はこれに対して反対したり恫喝したりするものの、恫喝は恫喝であり、中国も本気ではないし、米国もそれを重々承知しているとみるのが妥当だと思います。

このうよな事実を見聞きしても、私自身はあまり不思議には感じませんが、これを不思議に感じる人も多いかもしれません。そうい人には、ある情報が欠けているのかもしれません。それは、中国は当然のことながら、米国でもあまり報道されませんので、仕方ないことなのかもしれません。

それは一体どのような情報であるかといえば、それはこのブログにもいくつか掲載したことがあります。その代表的なものの記事のリンクを以下に掲載します。
ペロシ米下院議長、アジア歴訪を発表も訪台は明示せず 割れる賛否―【私の論評】ペロシの台湾訪問は米国による対中国「サラミスライス戦術」の一環(゚д゚)!
米オハイオ級攻撃型原潜
中国はASW(Anti Submarine Warfarea:対潜戦)においては日米に著しく劣る中国海軍には、これに対抗する術はほとんどありません。中国軍は、米攻撃型原潜が台湾沖に恒常的に潜むことになり、米軍がそれを公表する事態になれば、第三次台湾海峡危機(1995年-1996年)において、米軍の空母に対応できず、軍事恫喝を継続することができなかったときのように、再度米国の攻撃型原潜に屈服することになります。

これについては、米国の著名な戦略家、ルトワックも台湾有事には米軍は攻撃型原潜を2、3隻攻撃型原潜を台湾沖に派遣(ブログ管理人注:年中休みなしに24時間体制するなら、2〜3隻は必要という意味と考えられる)すれば、十分防衛できると主張しています。台湾有事に、わざわざ空母打撃群などを最初に派遣して、中国軍に大きな標的を与える必要性など全くありません。

一部の米評論家は、この事実を見ようともせず、米国がやっていることはまだ十分ではない、米国は台湾に軍隊を駐留させるか、あるいは習近平氏により明確な公開警告を発するべきと信じているようです。

しかし、米軍の海戦能力が中国を遥かに凌駕している現在、「曖昧戦略」は取り消しても良いかもしれませんが、それ以上は必要があるとは到底思えません。無論、サラミスライス戦術が功を奏して、台湾に米国が軍隊を駐留させても良いとか、習近平にはっきりと警告を出しても良い時期が来た場合には、すべきとは思います。

米軍に中国に比較すると、圧倒的に強い対潜水艦戦能力を有しているので、海戦ということになれば、未だに中国は米国の敵ではありません。

実際に、米中が台湾を巡って武力衝突したとすると、米国は台湾近海に派遣した攻撃型原潜から大量にミサイル、魚雷を発射し、瞬時に台湾海峡に存在する中国艦隊、航空機のほとんどは壊滅、それだけではなく、 中国軍の台湾侵攻に用いる、防空施設、監視衛星要施設を破壊します。

これで、事実上中国の台湾攻撃部隊は、ほとんど壊滅しますが、それでも足りなければ、米軍は、二次攻撃、三次攻撃もするでしょう。これで、中国海軍と関連施設は崩壊するでしょう。

そのようなことになるのは目に見えているので、中国が台湾に武力侵攻できる見込みはほとんどありません。

ただ、米中が台湾を巡って軍事的に対立した場合、米軍によって中国の台湾侵攻を阻止することはできるものの、中国は台湾に向けてミサイルを多数発射するかもしれません。場合によっては、核ということも考えられます。

それどころか、日本や韓国も攻撃するかもしれません。そうなるとかなりやっかいです。ですから、米国としてもできれば、中国とは直接武力衝突をしたくないと考えているでしょう。

このブログでも何度も述べきたように、米国と中国の真の戦場は、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

さらに、米国も中国を武力で追い詰めれば、中国の核兵器の使用を誘発し、中国が核を使えば米国もそれに報復することになり、エスカレートして終末戦争になることは避けたいと考えているからです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえば過去に英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

そうして、習近平が、"香港、マカオ、台湾の人々の「心をつかむ」"と語ったことも、これと密接に関係しています。要するにこれらの地域の、漢人はもとより、中国に親和的な人々の心をつかみ、「地政学的な戦い」の強化を図れということなのです。

上の記事の結論部分は、
 習氏はさらに「中華民族の全ての息子たち、娘たちを1つにする」必要性も強調。専門家によるとこの言葉は共産党の構想を指しており、中華民族であればたとえ中国籍を持っていなくても全員を結び付けるというのがその主旨だという。

 この構想に対しては反発する中国系住民もいる。とりわけ物議をかもしているのは、一部の西側諸国で中国系の人々が不当な取り締まりの標的にされているとの見方が出ている点だ。これらの国々では、中国によるものとみられるスパイ行為の封じ込めに取り組んでいる。

と締めくくられていますが、なぜこのようなことになってしまうかとえば、2010年7月1日に施行された『国防動員法』は、「満18歳から満60歳までの男性公民及び満18歳から満55歳までの女性公民は、国防勤務を担わなければならない」「必要な予備役要員を確保する」「公民及び組織は、平時には、法により国防動員準備業務を完遂しなければならない」と規定しており、外国在住の中国人も免除対象ではなく国防勤務の対象者なのですです。

有事の際には、外国の国内の中国資本企業や中国人が所有する土地や建物が中国の国防拠点になる可能性も十分にあるのです。

さらには、中国には厄介な『国家情報法』があります。これは、2017年6月28日に施行されました。

国家の安全・利益の擁護を目的として、「国家情報工作」に関して法的根拠を与え、工作機関や工作員の権限、一般の組織や市民に対する工作活動への協力についても定めています。

『国家情報法』でも、外国国内において中国資本企業や中国人が諜報活動を行うことを、国家が保護するようにも読めます。

これについては、高市早苗氏のコラムに詳しく掲載されています。です。興味のある方は是非読んでみてください。

米中の真の戦いのフィールドは「地政学的戦争」、表のドタバタに惑わされるべきではないのです。ただし、米中双方とも、軍事的な対立が有利とみれば、そちらがわに舵を切ることも十分にありえるので、軍事衝突の可能性も捨てきることはできないですし、中国が台湾を武力で侵攻できる力をつければ、威嚇も何もせずに、速やかに武力で侵攻するでしょう。その後は尖閣でしょう。しかし、現状ではあまりにも武力ばかりが強調されすぎるきらいがあります。

いずれにしても日本を含めた自由主義陣営の国々は、「地経学的戦争」にも本気で備えるべきなのです。特に、日本では台湾有事、尖閣有事ばかりが大きく取り扱われ、「地政学的戦争」は、あまり報道されておらず、無防備、無関心な人や組織が多いことが気がかりです。

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2022年7月29日金曜日

米中新冷戦下で見える途上国の「事なかれ」外交―【私の論評】戦後にウクライナが EUに加入し、急速な経済発展を遂げれば、途上国も「事なかれ」主義ではいられなくなる(゚д゚)!

米中新冷戦下で見える途上国の「事なかれ」外交

岡崎研究所

 ロシアによるウクライナ侵略を巡る国連緊急特別総会では、141カ国がロシア非難決議に賛成し、棄権した国の中にもロシアの行為を認めない発言をした国が多いが、対ロシア制裁に参加している国は40カ国強に過ぎず、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ諸国は、ほとんど参加していない。


 その背景には、貿易や武器供与等のロシア依存、ソ連時代からの伝統的な友好関係、自国が関係する紛争について安保理でロシアに借りのある国々、欧米諸国に対する一般的な反発、或いは単に自国と関係のない紛争に巻き込まれたくないとの事なかれ主義など、さまざまな事情がある。

 Foreign Policy誌のコラムニスト、ジェイムス・トラウブ7月9日付けの論説‘Cold War 2.0 Is Ushering In Nonalignment 2.0’は、このような途上国がウクライナ問題で西側とロシアの間で中立の立場をとるのは、それ以前の米中覇権争いにおいて、既に醸成されていた超大国の間でいずれかの側に付くような選択を強いられたくないとの主張が結晶化したもので、新たな非同盟運動とも言える、と分析している。

 その背景には、西側諸国への批判と自国の利益を守るための実利的、方法論的判断基準があり、伝統的な非同盟運動がイデオロギーに基づいていたこととは異なっている。従って、ウクライナ戦争を民主主義と独裁主義の対立と位置付けるバイデン外交は、これらの途上国の支持を得られず、むしろ亀裂が深まっているのは、北と南の関係であると指摘する。

 しかし、非同盟運動は現在でも存在しており、現在はウガンダが議長国で2023年までには首脳会議が開催される予定である。非同盟運動の平和10原則の第1が基本的人権と国連憲章の趣旨と原則の尊重であり、第2が全ての国の主権と領土保全の尊重であるので、ウクライナ戦争での中立的立場とは相いれないはずである。

 非同盟運動はこの平和10原則と不可分のはずなので、最近の非同盟諸国の脱イデオロギー的な中立の傾向を第2次非同盟運動と呼ぶことにはやや抵抗感を覚え、むしろ非同盟運動の変質というべきであろう。

 バイデンの価値観外交とウクライナ戦争でロシアを敗退させるという外交目的の間では矛盾が生じ得る。すなわち、途上国には、民主的とは言えない国が多いのは現実であり、内政不干渉は非同盟運動のもう一つの重要原則でもあるので、米国による突出した民主化の圧力はこれらの国をロシア側に追いやってしまうことにもなりかねない。民主化促進は、国連や地域的国際機関或いは利害関係国との協調で取り組むといったバランス感覚が必要ではなかろうか。
経済は中国、安保は米国

 途上国は、経済的利益では中国を重視するが、安全保障の面では米国を頼りにしている国も多い。新冷戦構造において、これらの国々が中国を支持する側に付くかどうか注目される。

 この点につきトラウブは、「中国の一帯一路政策の背景には、経済面以外に、台湾有事の際に国連で非難決議が採択されないよう、インフラへの資金供給と引き換えに核心的利益の相互支持を取り付けるといった政治的意図がある。新冷戦構造が深刻化すれば、南の国々は、米中いずれの立場にもくみしないという中立原則をより重視することとなり、中国の思惑通りに行かない可能性がある」と分析する。しかし、そうなるかは、それぞれの国が置かれている状況にもよるので、そう単純な問題ではないと思われる。

【私の論評】戦後にウクライナが EUに加入して、急速な経済発展を遂げれば、途上国も「事なかれ」主義ではいられなくなる(゚д゚)!

上の記事では、米国による突出した民主化の圧力ということを強調していますが、民主化というと単なる理想主義と考えられている節がありますが、それは完璧な間違いです。実は、民主化は経済発展には欠かせないのです。

それは下の高橋洋一氏が作成したグラフをご覧いただければ、一目瞭然です。


中露の一人あたりのGDPは10000ドル強にすぎません。これは、韓国はもとより、台湾や、バルト三国よりもかなり低いです。

なぜ、このようなことになってしまうかといえば、先進国においては民主化を進めた結果、多く中間層を輩出し、これらが自由に社会経済活動を行い社会のありとあらゆるところでイノベーションを起こし、富を生み出すことになるのですが、民主化が進んでいない中露などでは、政府などか大規模な投資をしてイノベーションを行ったにしても、西欧諸国のような大規模で、星の数ほどのイノベーションにはなりえず、結果として経済が発展しないのです。

民主化しない国は、産油国などのほんの一部の例外を除いて、多くの途上国では政府が掛け声をかけて、投資をして様々な産業振興策を行えば、ある程度経済発展します。しかし、一人あたりのGDP が 10000万ドル前後になると、それ以上は経済が伸びないのです。

ロシア現在その状態にあります。中国は、数年前までは、経済発展してきたようですが(中国の出す経済統計はデララメなのでこうとしか言いようがない)ですが、一人あたりGDPは10000ドルを超えたあたりから足踏み状態です。

これは厳然たる事実です。民主化は、経済発展には欠かせないのです。西欧諸国はある時点で国内の民主化をして、経済を発展させ、国を富ませ、軍隊を強化することができ、現在に至っています。

さらに、一帯一路が頓挫しそうな状況であることも明らかになりつつあります。

世界銀行のデータによれば、中国から新興国の政府部門への資金の純移転は、16年をピークに減少し、19年と20年にはマイナスに転じています。中国の国有銀行はすでに成長のための資金提供者から債務の回収者へと転じている可能性が大きいです。

これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請―【私の論評】スリランカ危機の背景にある、一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!
スリランカのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領
セバスチャン・ホーン、カーメン・ラインハート、クリストフ・トレベシュは、Centre for Economic Policy Researchのオピニオンサイト、VoxEU.orgに寄稿した論考で、一帯一路に代表される中国の海外投資ブームが、ロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかるだろうと述べています。

その根拠となるのは、中国の政府系金融機関がロシアとウクライナ、およびベラルーシに対して行っている融資額の大きさです。ホーンらによれば、中国の国有銀行は2000年以降、ロシアに対しエネルギー関連の国有企業を中心に累積1250億ドル以上、融資してきました。

中国はまた、ウクライナに対しても主に農業とインフラストラクチャー分野のプロジェクトを中心に70億ドル程度、さらに、ベラルーシに対しても80億ドル程度、融資してきました。この3カ国を合わせると、過去20年間の中国の海外向け融資の20%近くを占めるといいます。

もともと、近年急激に増加しつつある中国の対新興国への資金貸付は、どのような基準に基づいて行われているのかが明確ではなく、債務不履行などのリスクを生じやすいものであることが指摘されてきました。スリランカはまさにその一つの例です。ホーンらは、中国の対外貸付のうち、債務危機にある借入国に対する比率は10年の約5%から現在では60%にまで増加したと指摘しています。

世界銀行のデータによれば、中国から新興国の政府部門への資金の純移転は、16年をピークに減少し、19年と20年にはマイナスに転じています。ホーンらはこのデータをもって、中国の国有銀行はすでに成長のための資金提供者から債務の回収者へと転じている可能性があるとしています。ウクライナ危機およびその後の経済制裁によってロシアおよびその同盟国の経済が直面することになったリスクは、その傾向をさらに増幅させることになるでしょう。

中国の政府系金融機関は、今後ロシアなどに対する融資が不良債権化するリスクを、よりリスクの高い債務国への新規融資の停止あるいは債権回収によって埋め合わせるかもしれないです。このことが持つインパクトは、おそらくこれまで西側諸国によって喧伝されてきた「一帯一路が『債務の罠』をもたらす」という問題よりもはるかに大きなものになると考えられます。

さらに、 中国にもともとどうしようもない欠陥があります。それについても、以前このブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

【日本の解き方】中国経済もはや重篤なのか 食い止められない資本流失―【私の論評】日銀に振り回され続けるか、資本規制かを選択せざるをえなくなった中国(゚д゚)!

これは2016年の記事です。 この頃、中国政府は、景気回復を狙い「固定為替相場制」をあきらめて、人民元を切り下げたところ、資本流出が加速したため、今度は資本規制に乗り出していました。

なぜこのようなことになるかについては、もともと「国際金融のトリレンマ」という原則があります。以下にその部分を引用します。

日本をはじめとするいわゆる先進国は、「固定為替相場制」を放棄して、変動為替相場制に移行しています。これによって、「独立した金融政策」「自由な資本移動」を同時に達成することができました。

しかし、中国の場合は「固定為替相場制」を維持していますから、これをこれからも維持し続けるというのなら、国際金融のトリレンマを克服するためには、「独立した金融政策」もしくは、「自由な資本移動」のうちのいずれかを捨てなけれはならないということになります。

以下に国際金融のトリレンマの図と若干の説明を掲載します。

  • ある国はこの3つの「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」のうち2つだけを受容することができます。もしある国が a の位置を選択し、「自由な資本移動」と「固定相場制」を導入するのであれば、金融政策の独立性は失われます。

  • 実際の例としては欧州連合ユーロ圏が挙げられます。もしユーロを受容し自国通貨を放棄すれば、ユーロ圏内で為替を固定することになります。また、域内での自由な資本移動も認められています。しかし、金融政策はすべて欧州中央銀行に一任することになります。
中国が、固定相場制を堅持し、自由な資本移動も堅持したとしたら、何がおこるかといえば、それは日本などをはじめとする、外国の金融政策に左右され「独立した金融政策」を実行できなくなるということです。

実際にそれはもうすでに発生していました。日本が2013年の4月から、金融緩和に転じてから、円安状況になり、それまで円高の状況とは異なり、中国経済にとっては、独立した金融政策が脅かされる事態となりました。

それまでの、中国の経済発展を支えていたのは為替操作によるキャッチアップ型の経済成長であり、円高とデフレを放置する日本銀行によるものでした。

慢性的な円高に苦しんでいた日本企業は、過度な「元安」政策をとる中国に生産拠点を移し、出来上がった製品の一部を逆輸入していました。日本国内で一貫生産するより、わざわざ中国を経由した方がもうかる構造になっていたのです。

日銀は、「デフレ政策で日本の産業空洞化を促進し、雇用と技術を中国に貢ぎ続けていた」のです。まさに、日本経済はこれによって、中国に振り回されていたのです。

しかし、2013年の4月から、日銀が金融緩和に転じたため、この構造は崩れ、今度は中国が日本の金融政策に振り回されるようになり、「独立した金融政策」を維持することが困難になってきたのです。 

脅威の経済発展をした頃の中国の経済運営は、単純でやりやすいものでした。景気が加熱して、超インフレになれば、金融引締、緊縮財政を行い、素早くインフレから脱却し、抑制状況になれば、今度は金融緩和して、積極財政をするという具合で、これを交互に繰り返し、中国は驚異の経済発展をしました。

しかし、日銀が2013年4月からまともな金融政策に展示、デフレを克服のために、金融緩和をはじめてから、中国金融は大きな問題を抱えるようになったのです。

先にもあげたように、人民元を切り下げる(金融引き締め)をすると、資本流出が加速したため、その後すぐに資本規制に乗り出すという有様です。

以前の中国であれば、国内で大規模投資するなら、元を大量にすればそれですんだものが、現在ではそのようなことをすれば、すぐに超インフレになったり、資本流出が起こるなどのことが起こるようになったのです。

さらに、過去には国内のインフラ投資を熱心に行ってきたため、それが一巡して、国内に優良な投資案件がなくなってしまったのです。だからこそ、中国は「一帯一路」に望みをかけて、海外投資によって発展する道を選んだのですが、これも国際金融のトリレンマにより、ドル資本流出が激化するなどのことがおこり、うまくはいかなくなったのです。

だからこそ、中国から新興国の政府部門への資金の純移転は、16年をピークに減少し、19年と20年にはマイナスに転じるなどのことが起こっているのです。

中国を救う道はあります。それは、日本が再び金融引締に転じることです。このような馬鹿なことはすべきではないと思いますが、親中派の林外務大臣が存在する岸田政権においては、また金融引締に転じて、中国を有利にする道を歩むことになるかもしれません。

これは、来年の4月、現在の黒田日銀総裁の任期が終了し、新たな日銀総裁が誰になるかではっきりするでしょう。いわゆる緊縮派の総裁になれば、中国は大喜びで、また海外投資を始めるでしょう。ただ、それを米国が座視するとも思えません。そのようになれば、米国は何らかの方法で中国のみならず、日本に対して報復に打って出るでしょう。

上の記事では、バイデン氏による民主化への圧力を、おせっかいのように批判しているところがありますが、そんなことはないと思います。

突然並外れた産油国になるなどのことでも起こらない限り、途上国は民主化しない限り、経済発展する見込みはありません。

途上国が民主化を嫌がるのは、その国の統治者とそれにつながる者たちの利権を離したくないという単純な理由でしょう。民主化をすれば、自国は豊かになるのは明らかですが、そうしたとしても、利権を手放せば、自分たちには全くメリットはないと考えているのでしょう。

そのような連中からすれば、中国は投資すれば良いだけの存在てあり、投資ができなくなった中国には何の関心もないでしょう。米国についても、投資はできそうだが、投資と引き換えに、民主化を強制されれば、自分たちの利権を失うということで、これにもあまり魅力はないのでしょう。

そうして、こうした途上国の多くの国民は、貧乏で、日々暮らすのに精一杯であり、民主化への声を上げることなど、思いもよらないというのが現実でしょう。一部の変わり者が、その声を上げることもあるでしょうが、変わり者が、多くの国民の声を代表するようにはならないというのが現実です。

結局、統治者とそれに連なる者たちの、利権が脅かされない限り、彼らは現在の投資しない中国にも米国にも無関心でありつづけ、これが続く限り、途上国は途上国のままであり続けるでしょう。

ただ、こうしたことを打ち破る可能性もでできました。それは、ウクライナの経済発展です。世界銀行は4月10日、ウクライナの2022年の経済成長率見通しをマイナス45.1%と発表しました。

大幅な落ち込みの要因は、鉄道や橋、港、道路などのインフラ設備が破壊されたことによって経済活動の継続が不可能になったことや、貿易の停止、多くの国民が隣国に避難したことや収入喪失による家計消費の急激な下落など。世界銀行によると、軍事侵攻によってウクライナ企業の約半数が閉鎖に追い込まれ、残りの半数も事業を縮小せざるを得ないといいます。

確かに、直近では経済が落ち込むのが目に見えていますが、戦争が終了すれば、復興がはじまります。また、ウクライナはEUに入ることを宣言し、EUもその前提で交渉をすすめています。そうして、なんとロシアのプーチンは、これに反対していません。

しかし、これは後にロシアを後悔させることになるかもしれません。なぜなら、人口が比較的に多く、軍事産業や宇宙産業、最近ではIT産業などもある、産業基盤がある程度整ったウクライナがEU諸国並に民主化されれば、急激に経済成長する可能性があるからです。

ウクライナが経済成長し、ロシア経済と同等もしくはそれ以上になれば、中露に対しては大きな牽制になります。何しろ、武力侵攻すると、武力侵攻された側が、一時的には疲弊しても、民主化の道を選べば、経済発展することが明るみにされるからです。

ロシアの隣にロシアと同程度の経済力を有するウクライナができあがれば、安全保障上にも良いことですし、途上国の国民に対しても強力なメッセージなります。いわゆる大国にいつも脅かされるような貧乏な国であっても、民主化すれば、その大国に経済的に対抗できるような国に生まれ変わることができるかもしれないという希望が生まれるからです。これは、バイデンの価値観外交よりもはるかにインパクトがあります。

米中新冷戦下で見える途上国の「事なかれ」主義にも大きな影響を与えることになるでしょう。

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2022年7月7日木曜日

スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請―【私の論評】スリランカ危機の背景にある、一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!

スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請

スリランカのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領

 ウクライナで侵攻を続けるロシアのプーチン大統領に対して、スリランカの大統領が支援を要請しました。国家の破産を表明したスリランカで一体、何が起きているのでしょうか。

 国家の「破産」。人々は怒っています。

 治安部隊は放水銃で応戦。催涙弾も使われています。

 国が破産するとは、一体、どういうことなのか。

 ウィクラマシンハ首相:「今までは発展途上国として(IMF(国際通貨基金)と)交渉してきた。今は破産国家として交渉に臨んでいる」

 通貨の下落と、極端な物価の上昇。

 1日に何時間も停電になり、米はこの1年で4倍に値上がりしています。

 給油待ちの人:「3日前から並んでいます。いつガソリンが手に入るか分かりません」

 怒りの矛先はラジャパクサ大統領ら、政治指導者に向かっています。

 運転手:「人々が何日も列に並んでいるのは、支配者たちの近視眼的な政策のせいです。これは大きな犯罪だと思います」

 外貨不足により、輸入に頼る医薬品も不足。弁護士の団体もデモに参加するなど、あらゆる階層が声を上げています。

 弁護士:「私たちは、この腐敗した政治家たちと戦います。彼らは何十年もかけて私たちの国を台無しにしてきました」

 祖国の窮状を憂いている男性。都内でスリランカ料理店を営むカピラさんです。

 タップロボーンオーナー、カピラバンダラさん:「もともと多分、破産していた。これはきのう、きょうの話じゃなくて、今の大統領は政治家として何も知らない人」

 大統領の一族による政治支配が今の状況を招いたとカピラさんはみています。

 タップロボーンオーナー、カピラバンダラさん:「(政治家を)選んだ国民が今お返しをもらっている。日本の国民に言いたいんですが、やっぱり選挙は大事なもの。日本の皆様も他人事じゃないと思います」

 国家の破産。ラジャパクサ大統領は燃料輸入のため、ロシアのプーチン大統領に支援を要請しました。

テレビ朝日

【私の論評】スリランカは始まりに過ぎない!一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!

スリランカは、中国から融資を受けて、南部ハンバントタ港や同国最大の都市コロンボの港湾開発事業など、次々と発展プロジェクトを展開しました。同国が過去10年間にわたり、インフラ投資の名目で中国から受けた融資は総額50億ドル (約5,693億6,497万円)を上回りました。

スリランカはたちまち返済に窮し、2018 年には「借金のカタ」に、ハンバントタ港を中国の国有企業に引き渡す羽目に陥りました。同港の運営権は今後99年間にわたり、中国が握りました。

スリランカのラジャパクサ大統領(左側)と中国の王毅外相(右側)が1月9日、中国の投資で建設したコロンボ国際金融都市を見学

追い詰められた同国のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は2022年1月9日、同国を訪問していた中国の王毅国務委員兼外相に、対中債務返済計画の再考と2021年の輸出品目35億ドル(約3,985億7,819万円)に対する関税条件の緩和を要請しました。

王外相はこれに対し、「両国は地域包括的経済連携、中国を含むアジア太平洋の自由貿易協定、および中国市場の広大さから利益を得るよう努めるべきだ」と述べ、中国とスリランカの間の自由貿易協定についての協議を再開するよう求めました。

さらに、スリランカが一帯一路イニシアチブの恩恵を受けている点を強調し、今後もスリランカが「一時的な困難」を乗り越えるために支援を継続する意向を明らかにしました。しかし、肝心の債務返済についてはノーコメントでしたた。「債務のワナ」については、事実無根と反発しました。

こういう状況だったスリランカにさらに追い打ちをかけるようなことがありました。まずは、パンデミックによって観光客が来なくなり観光業が壊滅しました。そうして今年2月からのウクライナ紛争によって食料や燃料の輸入が困難になり、それが危機に拍車をかけました。

物資不足のため国内ではインフレが進行し、庶民は食料や燃料を手に入れることが難しくなりました。生活苦を理由として3月頃から国内でデモ・暴動が頻発し、2019年から務めていたマヒンダ・ラジャパクサ首相(ゴタバヤ・ラジャパクサ現大統領の兄)は国内の混乱の責任を取る形で5月9日に辞任しました。

その直後に現職のウィクラマシンハ首相が就任したのですが、首相が交替しても経済危機は全く収まりませんでした。4月18日には約7,800万ドル(約105億円)分の米ドル建て債の利払い期限を迎えたが支払えず、その後1ヶ月の猶予期間を経ても支払えなかったために、スリランカは5月18日にはデフォルトとなりました。

通貨であるスリランカルピーも今年になって暴落。1~2月は1ドル=200ルピー付近で推移していたレートですが、3月以降はルピーが暴落して6月には1ドル=360ルピーと年初の半分近くの価値になりました。

5月のデフォルト以降は政府による借り入れが難しくなり、国内の経済事情はさらに悪化しました。ガソリンがほとんど手に入らないため、ガソリンがあるスタンドには常に大行列ができています。また食料品が手に入らず1日3食食べられない国民も増えています。

そのような状況が続き、今週5日にウィクラマシンハ首相は議会演説でスリランカの「破産」を宣言しました。この宣言をもってすぐに状況が一段と悪化するわけではないですが、スリランカ経済が極めて厳しい状況にあることが改めて確認されました。現在スリランカのインフレ率は年間50%程度と言われており、ウィクラマシンハ首相は「年末までに60%になる見通し」と述べていました。


しかし本当の問題はスリランカだけではありません。パンデミックによるサプライチェーンの混乱やウクライナ紛争によって、世界的に食料や燃料が手に入りにくくなっている。日本でも食料品の値上げが毎日のように発表されているものの、日本はそれほど深刻ではありません。

中東やアフリカの途上国ではスリランカのように食料や燃料が手に入らず、経済危機に陥る可能性のある国が増えています。サプライチェーンの混乱やウクライナ紛争が続く限り、世界的なインフレや途上国の危機は終わりが見えないです。

セバスチャン・ホーン、カーメン・ラインハート、クリストフ・トレベシュは、Centre for Economic Policy Researchのオピニオンサイト、VoxEU.orgに寄稿した論考で、一帯一路に代表される中国の海外投資ブームが、ロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかるだろうと述べています。

その根拠となるのは、中国の政府系金融機関がロシアとウクライナ、およびベラルーシに対して行っている融資額の大きさです。ホーンらによれば、中国の国有銀行は2000年以降、ロシアに対しエネルギー関連の国有企業を中心に累積1250億ドル以上、融資してきました。

中国はまた、ウクライナに対しても主に農業とインフラストラクチャー分野のプロジェクトを中心に70億ドル程度、さらに、ベラルーシに対しても80億ドル程度、融資してきました。この3カ国を合わせると、過去20年間の中国の海外向け融資の20%近くを占めるといいます。

もともと、近年急激に増加しつつある中国の対新興国への資金貸付は、どのような基準に基づいて行われているのかが明確ではなく、債務不履行などのリスクを生じやすいものであることが指摘されてきました。スリランカはまさにその一つの例です。ホーンらは、中国の対外貸付のうち、債務危機にある借入国に対する比率は10年の約5%から現在では60%にまで増加したと指摘しています。

世界銀行のデータによれば、中国から新興国の政府部門への資金の純移転は、16年をピークに減少し、19年と20年にはマイナスに転じています。ホーンらはこのデータをもって、中国の国有銀行はすでに成長のための資金提供者から債務の回収者へと転じている可能性があるとしています。ウクライナ危機およびその後の経済制裁によってロシアおよびその同盟国の経済が直面することになったリスクは、その傾向をさらに増幅させることになるでしょう。

中国の政府系金融機関は、今後ロシアなどに対する融資が不良債権化するリスクを、よりリスクの高い債務国への新規融資の停止あるいは債権回収によって埋め合わせるかもしれないです。このことが持つインパクトは、おそらくこれまで西側諸国によって喧伝されてきた「一帯一路が『債務の罠』をもたらす」という問題よりもはるかに大きなものになると考えられます。

ただ、国土面積も大きく、人口も比較的多く、基盤産業もある程度整っているウクライナはEUに入ることができて、戦争によってロシアの一部領土を掠め取られたにしても、大部分がウクライナの版図として残りますから、これから経済発展することが望めますし、中国からの債務も返していくことができるでしょう。

しかし、スリランカやベラルーシのような中国からの返済が危うい国は他にも多数あります。


中国が新興国に対する気前のよい資金供給者の役割から撤退するならば、そのあとにどのようにしてそれらの国々の持続的な経済成長を支えていけばよいのでしょうか。長期化が懸念されるウクライナ危機は、国際社会に対してこのような問いを突き付けていることを忘れるべきではありません。

そうして、スリランカの危機は、こうした危機の始まりに過ぎないことを認識すべきと思います。

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2022年7月6日水曜日

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟―【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!

近づきつつある民主主義国ウクライナのEU加盟

岡崎研究所

 6月23日、欧州連合(EU)の首脳会議において、ウクライナとモルドバにEU加盟候補国の地位を付与することが承認された。この決定は大きな意味を持ち、歴史的決定と評価していいだろう。


 これに先立つ6月17日、欧州委員会は、両国を加盟候補国とするよう勧告していた。その文書には、次のような内容が含まれていた。
・ウクライナは民主主義を保証する諸制度の安定性達成、法の支配、人権尊重、少数派の尊重と保護で相当前進しており、ロシアの侵攻にかかわらず引き続き強いマクロ経済指標を示している。

・しかし、ウクライナの加盟は腐敗とオリガルヒの影響を減らす「野心的構造改革」にかかっている。ウクライナは最高裁判所判事の選出手続きを見直し、腐敗と資金洗浄と戦っていることを証明し、反オリガルヒ法を執行し、メディアを「既得権益」から自由にする必要がある。

 戦争後のウクライナの方向性がこれで決まったとも言える。実際の加盟までには、欧州委員会の文書でも明らかなようにウクライナは腐敗防止など多くの改革を要し、多くの交渉が妥結する必要があるが、ウクライナが西側の国になることになったと言える。ロシアはウクライナへの侵攻を続けているが、ウクライナの版図がどうなるにせよ、ウクライナの大部分が生き残り、EU加盟を目標とした諸改革に取り組むことになろう。

 ウクライナは政治的には人権が尊重される自由民主主義国、経済的には自由な市場経済国になる道筋がつけられたと判断される。

 プーチンは無謀にも、ウクライナを国家として亡き者にし、ロシアに吸収合併し、ロシア帝国の再興を夢見ていたと思われるが、結果としてプーチンが目にするのはロシア離れをした民主主義国ウクライナということになると思われる。EUに加盟したウクライナは、ロシアにとって政治面での脅威になることは明らかである。 

 ロシアは強権指導者に率いられる酷い迫害を伴う権威主義体制を続けそうであるが、ロシア人とウクライナ人は兄弟民族であり、ウクライナが自由民主主義で迫害もなく生きていく中で、ロシアでは今の権威主義体制に対する反発は大きくなってくるだろう。

経済的にもウクライナに寄与

 経済的にはウクライナの一人当たり国内総生産(GDP)はEUで最も低いブルガリアの半分にもならない。ウクライナ人労働者がEU諸国で働くだけでも、ウクライナは大きな経済的便益を受け取り、加盟当初から何年かは高い経済成長を達成するだろう。他方で、ロシアは、エネルギー輸出が気候変動対策で脱炭素化の流れの中で伸びず、ますます苦境に陥るだろう。

 ロシアにとってはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟よりもEUとの統合の方が脅威であるように思われる。それが現実味を帯びてきている。大変歓迎できることである。

 なお、ロシアのメドヴェージェフ前大統領は、2年後にはウクライナは世界地図から消えているだろうと発言している。これはプーチンが当初の数日でキーウを占拠、ゼレンスキーを排除し、親ロシアの傀儡政権の樹立を企画したことが実行されるとの前提の話であり、今はその可能性はない。

 プーチン自身はウクライナが軍事組織ではないEUに入ることに反対しないと、サンクト・ペテルブルグの国際経済フォーラムで述べた。プーチンは、今やウクライナの存続を前提にした話をしている。

【私の論評】プーチンのウクライナ侵攻は、結局ウクライナの台頭を招くことに(゚д゚)!

ウクライナの詳細については、外務省のサイトをご覧いただくと良くわかると思いますので、詳細はこちらに譲るとして、以下にはウクライナはIT大国であるという観点から、ウクライナの概要を掲載します。

ウクライナは、旧ソ連構成国の中でロシアに次ぐ2番目に大きな人口、4159万人(※2021年の統計)を抱えます。国土は日本の約1.6倍の面積があります。ロシアを除けば、国土面積ではヨーロッパ最大です。

人口ではドイツ、イギリス、フランス、イタリアに次ぎます。 ハリコフ、キエフ、オデッサなど24の州oblast'とクリミア自治共和国からなります。 ウクライナという名称は〈辺境〉を意味するクライkraiからつくられたもので、12世紀ころから使われていました。

国旗の2色の意味は、青色が空、黄色が小麦畑とされます。(※諸説あります)1991年にソ連崩壊とともに独立したウクライナですが、それまでも、2色の旗は、ウクライナ人やウクライナ民族解放運動のシンボルとして知られていました。

ウクライナは、現在の中国の軍事技術の多くを提供したといわれ、軍事産業があり、またもし
ウクライナの宇宙産業がなければ、世界の多くの宇宙開発計画は存在しなかったといわれる宇宙産業も存在します。

また隠れたスタートアップ拠点そしてIT大国として世界で注目されています。JETRO=日本貿易振興機構によりますと、ウクライナのIT産業は1990年代初頭から発展し2010年から急速に成長。2018年のIT産業市場規模は約45億ドルと10年で9倍近くになりました。

背景には、優秀な人材と豊富な教育機関があると言います。

ウクライナのエンジニアリングの学位取得者は欧米諸国と比べても多く、フランスやドイツ、英国より多い統計があります。(図参照)


さらにJETROによりますと、人件費は米国の4分の1程度だということで、欧米諸国はウクライナのIT人材に注目しています。

ウクライナ発のIT企業として有名なのは「Ring」や「Grammarly」です。

「Ring(リング)」は住宅のドアに設置する防犯カメラを開発する会社で、画像認識機能やAI(人工知能)で来訪者を見分けることもできるといいます。Amazonに買収されたあとも多機能なセキュリティーカメラのメーカーとして注目されています。


Grammarly(グラマリー)」はAI(人工知能)やNLP(自然言語処理)を用いて、文法チェックやスペルチェックそして盗用の検出といったサービスを提供しています。2009年にウクライナで創業され、業務を拡大させています。このアプリは私もお世話になっています。

また、世界中で使われるあのメッセージアプリも実はウクライナ出身の実業家が創業しました。

米大手メッセージアプリ会社WhatsApp(ワッツアップ)の共同創業者で、2018年まで最高責任者を勤めたジャン・コウム氏は、ウクライナのキエフ生まれで、のちに米国に渡ったといいます。米国での報道によるとコウム氏は、フィットネスジムを利用している際に「電話をとりそこなうのでどうにかできないか」とアプリ開発につながるアイデアを思いついたそうです。
WhatsAppは2020年時点で世界で約20億人が利用すると発表しています。

日本でもウクライナ人女性が、女性のためにと起業しました。アンナ・クレシェンコさんらは2020年、妊婦さんや子育てママのサポートや月経・妊活そして更年期への対応など、女性のライフステージにあわせた心のケアを展開する会社Flora(フローラ)を起業。登録すると、専門家への相談や情報交換あるいは講義が受けられるとしています。

Floraを創業したアンナ・クレシェンコさん

女性の心の不調が社会課題のひとつとされるなか、クレシェンコさんは、身近な出来事をきっかけに、解決に取り組みたいと起業したといいます。

人を動かす、ウクライナのIT技術。その行方にも世界中が注目しています。

ウクライナの、国民総生産(GDP)1,555億ドル(2020年:世銀)、一人当たりGDP3,726ドル(2020年:世銀)です。

現在のウクライナは、上でも示した、一人あたりのGDPではEUでは最低の9,975.78 ドル(2020年)のブルガリアの半分にも満たないです。

これは常にロシアによる危機や干渉があったこと、そうして特にゼレンスキー政権の前の政権までは政界、産業界も腐敗まみれであり、とても民主主義体制であるといはいえなかったことが最大の原因でしょう。

これでは、いくらある程度の産業基盤があっても経済は発展しません。ウクライナがEUに加盟して、ロシアから干渉を抑え、西欧並の民主化に成功すれば、急速に経済成長するのは目に見えています。これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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プーチンと習近平

詳細はこの記事をご覧いただものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。

バルト三国等の東欧諸国が、当初中国の「一帯一路」の投資を受け入れたのは、国民一人ひとりを豊かにしたいと考えたからでしょう。しかし、バルト三国より一人あたりのGDPが低い中国にはもともとそのようなノウハウも知識もありません。

東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったといえます。

ロシアは中国のジュニア(立場の低い)・パートナーとなって、中国の投資を受け入れたとしても、経済発展は望めません。せいぜい、ウクライナ戦争開始前の水準に戻すことは、ひょっとするとできるかもしれませんが、それ以上は望めません。

中国は過去には、国内で大規模なインフラ投資をしてきたので、経済発展してきたのですが、いまや投資が一巡して、国内では目ぼしい投資案件がなくなったため、「一帯一路」に望みをかけたのでしょうが、そもそも経済発展のノウハウがない中国が海外投資で、地元国を潤わせさらに、自らも潤うなどという芸当はできません。

ロシアも復興のためには、中国の支援を受け入れるかもしれませんが、その後も中国に頼り、中国のジュニア・パートナーであり続けることはないでしょう。

中露は人口が減少傾向にあり、民主化して体制を変えない限り、没落の道をたどるだけです。欧米としては、ウクライナを取り込み、この国を経済発展させるべきでしょう。それが、何よりも中露への最大の牽制となり、途上国への強いメッセージとなることでしょう。
中露の一人あたりのGDP1万ドル台です。ウクライナがEUに加盟し、経済成長しこの水準を突破すれば、中露にとってかなりの脅威になるでしょう。中国はEUに加盟するウクライナを「一帯一路」に取り込むことは困難になるでしょう。
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詳細は、この記事をご覧いただものとして、この記事では人口や一人あたりのGDPからウクライナの一人あたりのGDPから、ウクライナの一人あたりのGDPが韓国を若干上回れば、ウクライナのGDPはウクライナ戦争直前のロシアを上回る可能性を指摘しました。 

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

産業基盤もあまりなく、国土も狭く、人口も少ない国が EUに加入したとしても、あまり大きな期待はできませんが、ウクライナは違います。 21世紀には、過去の日本や中国、インドのように急速に経済発展する国はもうないと思われていましたが、ウクライナにはその可能性が十分にあります。国土が広いので経済発展すれば、人口も伸びるでしょう。

ウクライナが経済的にも大国になれば、世界の秩序は一変します。プーチンはロシアにとって良かれと思ってウクライナに侵攻したのでしょうが、それは全く想定もしなかったウクライナの台頭を招くことになりそうです。

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