2018年2月23日金曜日

「中国が土地を収奪している」 モルディブの野党指導者、対中批判強める 中国の手法は「債務のわな」―【私の論評】アジア諸国を「一帯一路」という妄想の犠牲にするな(゚д゚)!


記者会見する野党指導者のモハメド・ナシード前大統領=1月22日、スリランカのコロンボ
政治的混乱が続くインド洋の島嶼(とうしょ)国モルディブで、野党指導者が「中国によって土地が収奪されている」と批判を強めている。不透明な土地取引が行われ、投資には高額の金利が課されているとの主張だ。中国に傾斜するヤミーン大統領を批判する思惑もあるが、強引な中国の手法に警戒感を示した格好だ。

野党指導者のナシード元大統領は、AP通信やインド英字紙タイムズ・オブ・インディアなどとのインタビューで、「中国のモルディブでのプロジェクトは土地の収奪だ」などと主張している。

政権側を批判するスローガンを叫ぶ野党の支持者たち=4日、モルディブの首都マレ
 ナシード氏によると、中国はモルディブで既に17の島々の権利を取得しているが、どれも手続きは不透明だという。中国は取得した島に約4千万ドル(約43億円)を投資すると約束しているが、ナシード氏側は「高金利であり、いずれモルディブ側は返済に窮する」と主張している。

野党側が念頭に置くのが、スリランカ南部ハンバントタ港の事例だ。中国の出資で港湾設備が建設されたが、スリランカは巨額の金利返済に苦しみ、最終的に昨年末に99年間の長期リースの形で中国側に明け渡すことになった。援助を受けていたはずが奪い取られた格好だ。ナシード氏は中国の手法は「債務のわなだ」と主張。憲法を改正して、外国人への土地販売を容認したヤミーン氏についても批判している。

政権側を批判するスローガンを叫ぶ野党の支持者たち=4日、モルディブの首都マレ
 最高裁の政治犯釈放命令に端を発したモルディブの混乱をめぐっては、ヤミーン氏は5日に発令した15日間の非常事態宣言をさらに30日間延長することを決定。ヤミーン氏側は、中国に特使を派遣して支持を訴えており、ここでも両国の蜜月の関係がうかがえる。一方、ナシード氏側はインドに援助を求めており、与野党の対立は深まる一方だ。

【私の論評】アジア諸国を「一帯一路」という妄想の犠牲にするな(゚д゚)!

モルディブとはどのようなところなのか、まずは下に地図を掲載します。


モルディブは 1,000 を超える珊瑚島と 26 の環礁からなるインド洋に浮かぶ熱帯の国で、ビーチやブルーラグーン、そして豊かに広がる珊瑚礁で知られています。首都マレでは、目抜き通りのマジディーマグ沿いに活気ある魚市場、レストラン、ショップなどが並んでいます。また、同市にある 17 世紀のフクルミスキー(金曜モスクとしても知られる)は、切り出した白珊瑚でできています。

以下の写真でもわかるように、典型的なリゾート地です。



このようなところで、中国の土地収奪がおこなれているという事自体がなかなか日本人にはピンとこないかもしれません。

しかし、ここの土地を収奪する中国にはそれなりの意図があります。それは、無論一帯一路と多いに関係しています。


「一帯一路」とは、(1)支那西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、(2)支那沿岸部から東南アジア、インド、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の二つの地域で、交通インフラ整備、貿易促進、資金の往来を促進していく構想です。夢のような構想ですが、中国は「本気」であり、具体的な目標を高速鉄道の建設に置いています。

実際に、中国浙江省義烏と英ロンドンを結ぶ国際定期貨物列車の運行が、始まっています。支那が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の一環で、支メディアによると、両国間の直通貨物列車は初めて。支那は欧州との経済関係強化のため、中央アジアを通じた鉄道物流の充実を図っています。

中国は「一対一路」で「経済スーパーパワー外交」を展開するつもりのようです。中国の成長果実を周辺国にもシェアすることによって、周辺国との経済圏を構築し、善隣関係を強めることがねらいですが、同時に、過剰投資に悩む国内産業の新たな市場開拓、対外投資の拡大、約4兆ドルの外貨準備の運用多角化といった中国自身の経済的な思惑も込められています。

「一帯一路」を言い出したのは習近平・国家主席であり、彼の権力確立に伴って、この構想にも勢いをつけようとしています。私自身は、この構想は最初から失敗すると思っています。

なぜなら、世界航路や陸路などのインフラ整備はもうすでに出来上がっていて、われわれはそのインフラによってすでに貿易を行っています。そうして、このインフラは各国政府や民間機企業が、長年にわたり競争をしつつ切磋琢磨してつくりあげてきたものであり、さらに現在でも改良・改善が加えられています。

今更中国が後から割って入って、最初から計画してつくりだすにしても、現在までにつくりあげられてきたインフラにまさるものを中国が中心になってつくりあげることはほとんど不可能だからです。

中国としては、過去の国内のインフラ整備による経済成長が忘れることができず、その夢をもう一度海外で実現したいのでしょうが、国内において、共産党中央政府の鶴の一声で、何でも自由にできましたが、外国ではそういうわけにはいきません。

そのため、「一帯一路」は中国の妄想にすぎないと私は思っています。もし、これが成功するというのなら、共産主義も成功するはずです。しかし、一昔前は、計画経済により大成功するだろと思われた、共産主義は大失敗しました。

現在では中国ですら共産主義体制をとっていません。共産党という名称は残っていますが、その実体は国家資本主義です。

さて、モルジブはこの「一帯一路」の「21世紀海上シルクロード」の付近に位置しています。中国としては、ここを「一帯一路」の何らかの拠点にしたいと目論んでいるのでしょう。たとえば、このあたりに軍事基地を設置して、「一帯一路」構想が妨害されないように睨みをきかせる、あるいは物流の中継地点にするなどのことが考えられます。

中国は巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによって信頼を失っています。

習近平が提唱する「中国夢」は妄想に過ぎない
これは、軍事的には南シナ海や尖閣諸島付近で顕著にあらわれています。通商に関してもこれが如実にあらわれているのが「一帯一路」です。「内向き」国家である中国は自らの戦略が世界中の国々に通用するものであるという身勝手な妄想を現実のものにしようとしています。

「一帯一路」構想は、いずれ崩壊するブロジェクトですが、崩壊するまでの間に、中国が世界各地に投資をしたり、国営ゾンビ企業などの中国人労働者を大量に送り込んだりして、世界各地で軋轢を生むことになります。

以上のようなことから、安倍政権は、習近平の「一帯一路」に絶対に協力するようなことはあってはならないです。むしろ逆に、「一帯一路」に脅威を感じて抜け出そうとしているアジア諸国に、「駆け込み寺」としての受け皿を用意しておくことが日本の使命であり、国益に叶った戦略です。

モルジブのような平和な島々が土地を収奪され、中国の発展妄想の犠牲になることがあってはならないです。

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2018年2月22日木曜日

国会公聴会で話した「アベノミクス擁護」の理由―【私の論評】雇用の主務官庁は厚生労働省だと思い込む人には、雇用も財政も理解不能(゚д゚)!

国会公聴会で話した「アベノミクス擁護」の理由

高橋洋一

 2月21日に衆議院予算委員会公聴会に公述人として呼ばれた。公聴会というのは、予算案採決を前に、各党がそれぞれ推薦する有識者が意見を述べ、参考にするのだが、筆者は自民党推薦の公述人だった。

 話したのは、予算案作成のバックボーンとなっている財政金融政策などについてだ。

マクロ政策の中心は雇用確保安倍政権が支持される理由だ

 今回の30年度予算案に関連して、主に話したのは次のことだ。
第一に、政府のマクロ経済政策は雇用確保を中心とすべきこと、
第二に、財政事情は統合政府(政府と中央銀行を会計的に一体と見て考える)で見るべきこと
第三に、規制改革をもっと徹底すべきこと
 この3つだ。

  まず確認されるべきなのは、政府のマクロ経済政策の中心は雇用の確保ということだ。

 政府はすべての人に職があることを目指すべきだ。職があれば、社会の安定にもつながる。

 職があることは、就業者数で見てもいいし、失業率でもいい。

 例えば、失業率が低くなれば、自殺率は顕著に下がるし、犯罪率も下がる。社会問題のいくつかは、失業率を低下させることで、ある程度解決する。

 さらに、若者にとって職があることは重要だ。例えば、大学の新卒者の就職率は1年前の失業率に連動する。

 一流大学の就職率は常にいいが、筆者が教える大学では雇用事情の影響をもろに受ける。5、6年前には就職率は良くなかったが、今では全員が就職できるまで上昇している。

 この5年間、学生の学力が目立って上昇したわけではない。ただ、アベノミクスに異次元金融緩和があっただけだ。

 学生は就職が自分たちの“実力”のせいでないことをリアルに感じている。就職は学生の一大関心事なので、だから安倍政権の人気が高いのだ。

 マクロ経済政策が雇用政策であることは、欧米では常識だ。

 そして、このことは「左派政党」がいち早く主張した。ところが、日本では、保守の安倍政権が初めて主張して、結果を出している。一部の野党が、いまの金融緩和策を否定しているのは、世界から見れば雇用の確保を無視しているわけで、海外では理解不可能なのではないか。

 マクロ政策で雇用確保に熱心でない一部の野党が、労働法制の議論で細かい話をしているのは、かなり奇異に見える。

 雇用と物価、マクロ政策の関係を示すフィリップス曲線というのがある。

 図表1の横軸はインフレ率、縦軸は失業率を示し、インフレ率と失業率は逆相関の関係であることがわかる。



 これをフィリップス関係という。一般的な経済学の教科書では、横軸が失業率、縦軸がインフレ率なので、縦と横が逆になっているが、内容は同じだ。

 インフレ率がマイナスの時には、失業率が高く、インフレ率が高くなるにつれて失業率が下がる。しかし、失業率はある率から下がりにくくなる。

 この失業率の下限を「NAIRU(インフレを加速しない失業率)」という。実際の値を推計するのは簡単な作業ではないが、私は「2%台半ば」と推計している。

 経済学は精密科学でないので、小数点以下に大きな意味はないが、あえてイメージをハッキリさせるために、図では2.5%と書いた。これは、2.7%かもしれないし2.3%かもしれない。2.5%程度と言うと、2.5が一人歩きするので、「2%台半ば」と言っている。

「インフレ目標」というのは、このNAIRUを実現する最小のインフレ率で、これが現状は、2%程度だ。目標なので2%と言ってもいい。

 こうしたフレームワークは、先進国では共通だ。


インフレ目標は「2%」には根拠がある


 先日のダボス会議(「世界経済フォーラム」)の黒田日銀総裁が出席したセッションで、こんなやり取りがあった。

 ダボス会議は、経済の専門家らも討議を聞いいる。フロアから、「インフレ目標は2%がいいのか」という質問があった。

 これに対して、黒田総裁は、

 <インフレ目標の物価統計には上方バイアスがあるので、若干のプラスが必要なこと、ある程度プラスでないと政策の対応余地が少なくなること、先進国間の為替の変動を防ぐことなどの理由で、先進国で2%インフレ目標が確立されてきた。>

 と答えた。

 国会答弁ならこれでいいのだが、ダボス会議ではこれでは通用しない。会場には妙な空気が流れた。

 「正解」は、

<インフレ目標は、フィリップス曲線上でNAIRUを達成するための、最低のインフレ率である。日本では、NAIRUは2.5%程度なので、インフレ目標は2%。これ以下だと、NAIRUが達成できずに失業が発生する。これ以上だと、無駄なインフレ率で社会的コストが発生する。>

 だ。日本でも国会は、日銀総裁らに「日本のNAIRUはどの程度なのか」と質問したらいいだろう。これが答えられないようでは、中央銀行マンとして失格ということだ。

 図表1で示したことは、先進国で共通だ。

 アメリカでは、NAIRUは4%程度、インフレ目標は2%だ。

 現在、アメリカの失業率は4.1%、インフレ率は2.1%なので、ほぼ最適点。その上で、トランプ政権は大減税しようとしている。それは経済を右に動かす、つまりインフレ率を高めるから、FRBが金融引き締めするのは理にかなっているのだ。

 日本では2016年9月に、量的緩和から長期金利の誘導目標を「0%程度」とする、「イールドカーブコントロール(長短金利操作)」という金利管理に移行した(図表2)。


 量と金利の関係は、コインの裏表の関係なので、上手くやればスムーズに移行するはずだった。しかし、実際には、10年金利は実勢のマイナス0.2%から0%へと引き上げられた。これは、ちょっとした逆噴射になった。この政策のこれからに注目したいと思っている。


適切なGDPギャップは「プラス2%」まだ需要追加策が必要

 話は戻るが、インフレ率と失業率がどう動くかは、実は、GDPギャップの数字がポイントだ(図表3、図表4参照)。


 ここでのGDPギャップは、内閣府が計算した数字を出している。具体的な算出は、現実のGDPと、完全雇用で供給能力がフルに使われた場合の潜在GDPの差額を潜在GDPで割ることによって求められる。

 (現実のGDP-潜在GDP)/潜在GDP

 政策効果としては、積極的な財政政策をすると、公的部門の有効需要が高まるので、GDPギャップは増える。また、金融緩和すると、実質金利が下がり、設備投資などの民間部門の有効需要が高まり、やはりGDPギャップは増える。

 すると、半年くらいのラグがあって、インフレ率は高まり、失業率は低下する。

「2%のインフレ率、2.5%の失業率」を達成するためには、どうすればいいのかというと、GDPギャップをプラス2%程度にすれば達成できる。

 今のGDPギャップは0.7%なので、あと1.3%程度、需要を増やす必要がある。

 現在の日本経済は、GDPギャップはプラスになったので、もういいと言う人もいるが、それでは、インフレ目標2%と、NAIRU2.5%は達成できない。

 なお、その状態になると、賃金は顕著に上がり始める。人手不足になるので、企業でも賃金を上げざるを得なくなる。

 有効需要を作るには、財政政策だけが手段ではない。金融政策もその手段となり得る。

 なので、政府と日銀は、インフレ目標、その裏にあるNAIRU2.5%を共有する必要がある。

 その結果、マクロ経済の良好なパフォーマンスは、経済の一部門である財政にも好影響を及ぼすのだ。


「統合政府」論で考えれば財政再建はできている


 財政の健全化度合いを示すフローのプライマリー収支(基礎的財政収支)は、前年の名目GDP成長率と高い相関がある(図表5)。これは日本に限らず先進国で見られる現象だ。

 であれば、財政健全化を進めるには名目成長率を高くすればいいとなる。

 しばしば、日本は財政状況が悪いという声を聞くが、筆者にはかなり疑問だ。

 経済学では、政府と中央銀行を会計的に合算した「統合政府」という考え方がある。もちろん、行動として中央銀行は、政策手段の独立性があるが、あくまで法的には政府の「子会社」なので、会計的には「連結」するというわけだ。


 この場合、財政の健全化を考える着目点は、統合政府BS(バランスシート)のネット債務ということになる。図6は、財務省ホームページにある連結政府BSに日銀BSを合算し、「統合政府BS」として、私が作成したものだ(図表6)。

 統合政府BSの資産は1350兆円。統合政府BSの負債は、国債1350兆円、日銀発行の銀行券450兆円になる。

 ここで、銀行券は、統合政府にとって利子を支払う必要もないし、償還負担なしなので、実質的に債務でないと考えていい。

 また国債1350兆円に見合う形で、資産には、政府の資産と日銀保有国債がある。

 これらが意味しているのは、統合政府BSのネット債務はほぼゼロという状況だ。

 このBSを見て、財政危機だと言う人はいないと思う。

 もっとも、資産で売れないものがあるなどという批判があり得る。しかし、資産の大半は金融資産だ。天下りに関係するが、役人の天下り先の特殊法人などへの出資金、貸付金が極めて多いのだ。

 売れないというのは、天下り先の政府子会社を処分しては困るという、官僚の泣き言でもある。もし、政府が本当に大変になれば、関係子会社を売却、民営化する。このことは、民間会社でも同じだ。

 例えば、財政危機に陥ったギリシャでは政府資産の売却が大々的に行われた。道路などの資産は売れないというが、それは少額であり、数字的に大きなモノは、天下り先への資金提供資産だ。

 海外から見れば、日本政府はたっぷりと金融資産を持っているのに売却しないのだから、財政破綻のはずはないと喝破されている。

 もちろん、海外の投資家は、政府の債務1000兆円だけで判断しない。バランスシートの右側だけの議論はしない。あくまで、バランスシートの左右を見ての判断だ。

 この「統合政府」の考え方からすれば、アベノミクスによる量的緩和で、財政再建がほぼできてしまったといえる。

 かつて、私のプリンストン大での先生である前FRB議長のバーナンキが言うっていた。

「量的緩和すれば、デフレから脱却できるだろう。そうでなくても、財政再建はできる」

 まさにそのとおりになった。

 実際に、財政再建ができたということを、統合政府BSに即して、具体的に示そう。

 資産が900兆円あるが、これは既に述べたように大半は金融資産である。その利回りなどの収益は、ほぼ国債金利と同じ水準であり、これが統合政府には税外収入になる。

 また、日銀保有国債450兆円は、統合政府にとっては財政負担はない。この分は、日銀に対して国が利払いをするが、日銀納付金として、統合政府には税外収入で返ってくるからちゃらだ。

 つまり、負債の1350兆円の利払い負担は、資産側の税外収入で賄われる。この意味で、財政再建がほぼできたといってもいい。

 フローの毎年度の予算では、それほど税外収入はない。これは、政府子会社や特別会計で、資産化して税外収入を減らすという会計操作をしているからだろう。かつて、私は「埋蔵金」として、そうした資産化したものを吐き出させた経験がある。

 この問題は、本来なら経済財政諮問会議などにおいて政府内できちんと議論すべきだと思っている。

日本の財政緊縮度先進国に比べて高くはない





 いずれにしても、ネットで債務を見れば、日本の財政はそれほど悪くない。ちなみに、ネット債務額の対GDP比を日米で計算してみよう(図表7は中央銀行を含まないベース、図表8は中央銀行を含む統合政府ベース)。これを見れば、日本の財政状況はアメリカより悪くないことがわかる。

 また図表9は、先進各国での財政政策の「緊縮度」を見ようとしたものだ。

 各国でのマクロ経済でGDPギャップがあるときに、財政政策でどこまでそれを解消しようとしているかがわかる。 

 例えば、GDPギャップがマイナス3%のとき、プライマリー収支をマイナス4%にすれば、つまり財政赤字を出して需要を増やせば、GDPギャップとプライマリー収支の差額を算出して、▲3-(▲4)=1となる。この数字が大きいほど、経済状況に応じて財政緊縮度は少ないと判断していい。

 それで見ると、日本は他の先進国に比べて、緊縮度が高いというわけではない。

 ただし、2014年の消費増税以降は、やや緊縮的な財政運営になっているようだ。

最後に、規制改革を述べたい。

 昨年は、加計学園問題が国会で取り上げられたが、はっきりいって時間の無駄だった。

 そもそも、大学の設置申請すらさせないという文科省告示はいかがなものか。認可制度があるのだから、申請は自由なはずで、ダメなら認可で落とせばいい。その申請をさせるというのが、特区の成果だと聞くと、正直あきれ果てる。

 たとえていえば、自動車の運転免許は別に受けてもらうが、自動車学校への入校を特区で認めるといわれるようなものだ。

 だがこうした中身のない規制改革でも、加計学園問題のように社会問題になると、規制改革自体の推進力が衰える。

 しかも、認可申請をさせないという文科省告示は依然として有効であり、それを使って、都心の大学設置も規制するという。驚きを通り越してしまう。

 政府は規制改革のネジを巻き直してもらいたい。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)

【私の論評】雇用の主務官庁は厚生労働省だと思い込む人には、雇用も財政も理解不能(゚д゚)!

下に、2月21日の衆議院予算委員会公聴会で高橋洋一氏が公述したときの動画を掲載します。


この動画の内容といい、ブログ冒頭の記事といい、高橋洋一氏のこれらの発言や、記事に私のようなものが付け加えたり、批判するなどのことは全くありません

さすがに、元大蔵官僚であり、その後さまざまな機会に、具体的なエビデンスを元に政治家にアドバイスしたり、書籍を書いたり、様々なソースに対して記事を書いたりしてきた人だけに、簡潔に誰にでも理解しやすく、現状の政府がマクロ政策を実施すべきときの留意点など、まとめています。

これ以上理解しやすくまとめたものは、他にはないかもしれません。すべての政治家は高橋洋一氏の話に虚心坦懐に耳を傾けるべきです。特に財政政策と、金融政策については、これを本当に理解すべきです。

そうすれば、現在の政府の金融・財政の課題などすぐに理解できるはずです。これは、与党は国民から支持を受ける上で、理解していなければならない基本的な事項です。

野党からすれば、国民から支持を受けるため、与党の力の及ばないところをみつけ、まともな政策論争をしていく上で必要不可欠な事項です。

しかし、現実にはこれを理解したり、理解しようとする政治家は少ないです。現状では、野党ではほとんど皆無であり、与党でも安倍首相とその側近やブレーンなど限られた人しかいません。

なぜそのようなことになってしまうのでしょうか。

私は、まずはブログ冒頭の高橋洋一氏の記事の中の図表1の内容が理解されていないことに原因があると思います。


これを理解していれば、日本のマクロ経済を考えるときに、さほど大きな間違いをおかしたりすることはありません。

そうして、この図を理解する前提として、特に雇用に関して、大雑把にいうと長期的には金融政策が、短期的には財政政策が大きくかかわってくることを理解していなければならないと思います。これが理解されていなければ、ブログ冒頭の記事のように、高橋洋一氏がエビデンスをもとに、わかりやすい説明をしても、右の耳から入って、左の耳から抜けていくだけになります。

さらにもっと話を単純化にすると、雇用に責任のある官庁はどこなのかといことを理解しているかいなかというところまで遡ると思います。

日本で、雇用関係統計数値の主務官庁というと、厚生労働省ということになると思います。主務官庁とは、ある行政事務を主管する行政官庁のことです。失業率など雇用に関する統計事務の主務官庁は確かに厚生労働省です。

では、雇用そのものの主務官庁は、どこなのでしょうか。多くの人は、雇用の統計数値の主務官庁が厚生労働省なので、雇用の主務官庁も厚生労働省だとみなしているのではないでしょうか。

これは、大きな間違いです。雇用そのものの主務官庁は日本銀行です。厚生労働省は、企業の労務管理などの主務官庁です。

実際、厚生労働省は雇用そのもの、特に雇用自体を生み出すことに関してはほとんど何もできません。

そもそも、厚生労働省とは、社会福祉、社会保障および公衆衛生、また労働に関する行政を主務する国の行政機関です。そうして、労働に関する行政とは、労務管理に関する行政と言い換えても良いと思います。

労務管理などの標準的テキストには、確かに雇用という項目もありますが、それは企業などが人を採用するときに関わるものであって、雇用そのものを増やしたり、減らしたりなどということは関係ありません。

昔、確か年末になると派遣村が日本のあちこちにできていたような時期に、ハローワークで働いていたある女性がサイトに「自分の上司である、課長が"私は正直、雇用というものがどういうものなのか良くわからないんだ"と語っていたのでショックを受けた」ということがサイトに掲載されて、話題になったことがあります。

私自身は、この課長さんの語ったことは、正しいと思います。無論、この課長さんは、雇用事務とか雇用や労務にかかわる法規のことなどはそれなりに知っていたと思います。しかし、当時の雇用情勢が非常に悪かった時期に、雇用を増やすために具体的に何をやるべきなのか、わからないという意味で、「雇用というものがどういうものかわからない」と語ったのだと思います。そうして、それは正しいです。

確かにハローワーク自体そうして、それを主管する厚生労働省は、雇用にはかかわっていますが、それは雇用事務、雇用のミスマッチングの是正、失業率等の労務関係の統計の計算事務などに関わっているだけの話であって、雇用を増やすことには関わりがないです。

厚生労働省は雇用そのもの主務官庁ではない
雇用を増やすことに直接関わっているのは、日本であれば日本銀行です。簡単に言ってしまえば、金融緩和をすれば、雇用が増え失業率が下がります。実際、インフレ率を数%高めば、日本や米国などでは、他には何をせずとも、一夜にして数百万の雇用が生まれことが経験的に確かめらている事実です。

金融政策を実施できない、厚生労働省は雇用そのものの主務官庁でないことは明らかです。

特に、中央銀行は、「雇用の最大化」つまりは事実上の完全雇用を達成することに責務をもつものといって良いでしょう。これについては、欧米のように法制化されているところもありますし、いまの日本でも議論され始めている点でもあります。

残念ながら日本では法制化はされていないが、日銀は「雇用の最大化」を責務とする官庁である
日本では、経済といえば、雇用が最も重要であるという観念が少ないようであることと、さらに雇用とくにその時々の経済状況における「雇用の最大化」に責任があるという、観念も希薄なのだと思います。

ブログ冒頭の記事で、高橋洋一氏は「マクロ政策で雇用確保に熱心でない一部の野党が、労働法制の議論で細かい話をしているのは、かなり奇異に見える」と掲載していますが、彼らはそもそも「日銀が雇用そのものの主務官庁」であるという意識が全くないのでしょう。

そうして、雇用の主務官庁は厚生労働省であると考えているからこそ、労働法規の議論で細かい話をしているというか、せざるを得ないのでしょう。

まずは、雇用そのものの、主務官庁は日銀であるという認識がなければ、上で高橋洋一述べていたようなことは、何一つ理解できず、馬の耳に念仏ということになると思います。

もし、このような認識があれば、雇用における問題も正しく認識できるはです。たとえば、アベノミクスで当初実質賃金が下がったことなど、日銀が金融緩和をしたために、雇用が増えたことが原因であることがすぐに理解できるはずです。

要するに、雇用が増えるときには、最初は企業がパート・アルバイトのような人をまず積極的に採用するため全体を平均すると賃金が低くなるのは、当然といえば当然です。そうして、雇用を増やせば、当初は企業は教育・訓練をしなければならいので、労働生産性も落ちます。

しかし、さらに日銀が金融緩和をして、企業の雇用が増えれば、やがて賃金をあげなければ、人を採用できなくなるし、採用してから時間がたてば、労働生産性も上がることになります。企業としては、人手不足になっている昨今将来のことを考えれば、一時労働生産性が下がっても、人を採用するのは当然のことです。

このあたりのことは、図表1の内容がしっかりと頭に入っていなければ、ほとんど理解できませんが、入っていればすぐに理解できます。

さらに、このくらいのことがわからない人は、雇用におよばず、日本政府の財政をみるときに、まずはBSで見るべきこと、それと企業ではすでに法制化されてるように、親会社と子会社の連結でみなければならないのと同じように、政府と日銀をあわれせた統合政府ベースでみるべきことも気づかないのだと思います。

雇用の主務官庁は、厚生労働省ではないことは当たり前といえば、当たり前なのですが、この当たり前のことを理解していない人がここ日本ではあまりにも多すぎるように感じます。

これは、ある意味目印にもなると思います。雇用のことを話している人で、雇用の主務官庁が厚生労働省と思い込んでいる人とは、まともに雇用の話などできません。そのような人は、雇用のことなど全くわかってないとみなすべきです。何かもっともらしいことを言っていても本当はわかっていません。

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2018年2月21日水曜日

【国防最前線】政府は部隊・装備の必要性示せ 100%安全な乗り物なし、事故があればひたすら謝罪では…―【私の論評】政府は、装備品の調達システムを変更せよ(゚д゚)!

【国防最前線】政府は部隊・装備の必要性示せ 100%安全な乗り物なし、事故があればひたすら謝罪では…

沖縄県うるま市・伊計島の砂浜に不事着した米軍UH1ヘリコプター=今年1月
 佐賀県での陸上自衛隊ヘリコプターの墜落事故後、政府関係者は平身低頭で、ひたすら謝罪をしている。腫れ物に触るようにわびている姿に、口には出さないまでも憤りを感じている自衛官が全国に少なからずいる。

 「なぜ、殉職した隊員に対する弔意を表さないんだ」と。

 これには、「民間人に多大な被害と迷惑をかけたのだから、当たり前だ」「関係議員や防衛省の苦労を分かっていない」と反論したい関係者もいるだろう。

佐賀県神埼市の民家に陸上自衛隊の戦闘ヘリコプターが墜落した事故で、陸自は7日、墜落現場付近で、
現場検証を続けるとともに、落下した部品などの回収を始めた。写真後方はヘリが墜落し炎上した民家
 事実、基地や駐屯地を置いてもらうということは長年にわたる交渉努力と、防衛予算の中から多大な金額を割いて折衝してきた成果である。だが、悔しい、やりきれない気持ちは隊員たちの偽らざる本音である。政治的な事情など知らない隊員には、政府の姿勢は非情にしか映らない。

 私が事故がある度に感じるのは、国が装備などの安全性を約束しようとするのは無理があるということだ。安全性を追求することは大事だが、その部隊や装備がなぜ必要なのかという「必要性」は、ほとんど語られない。あたかも自衛隊や米軍は迷惑なもので、地元に我慢して置いてもらっているかのようだ。

 防衛予算における基地対策費は多額で、米軍だけでなく地方自治体の要望に応じているものも多い。いずれにしても、訓練の必要性が語られないまま、事故が起これば飛行停止ということを繰り返せば、操縦士や整備員の練度をどう保てばいいのか。100%安全な乗り物などなく、高い安全性を証明できたとしても不安を持つ人がいる限り、理解は得られない。

 一方、米軍機による事故も多発している。米政府監査院などは「訓練時間の不足」「部品が間に合わず整備不良になっている」といった調査結果を公表している。第7艦隊や海兵隊、空軍も、同様の結果となっている。原因は、オバマ政権時代の大幅な予算削減であることは明確なようだ。

 朝鮮半島危機や南シナ海で中国の活動が活発化していることで、警戒・監視の実任務が増えているのに、人や部品が足りないという。

 同じことが自衛隊にも起きている。今回の事故原因と結びつけることは避けたいが現実である。

 佐賀の墜落現場では、自衛隊による機体の回収が続けられている。いつものような災害派遣ではなく、「加害者」となった自衛隊にお礼を言う人もいない。田畑も私有地であれば所有者を探し、お願いすることから始めなくてはならず、途方に暮れる作業だ。

 だが、もし予算不足と任務増加が、日米ともに事故多発につながっているとしたら、彼らは「被害者」である。無意識の加害は他にもあり、航空機が予防着陸すると騒ぎ立てられるが、それに躊躇(ちゅうちょ)して事故になったら、誰が責任を取るのか?

 そうならぬよう、政府には「謝罪よりも必要性の説明」を求めたい。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 防衛問題研究家。1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。テレビ番組制作などを経て著述業に。防衛・安全保障問題を研究・執筆。著書に『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)、『自衛官の心意気-そのとき、彼らは何を思い、どう動いたか』(PHP研究所)など。

【私の論評】政府は、装備品の調達システムを変更せよ(゚д゚)!

上の記事では、装備品の説明責任を果たしていない政府の責任を追求していましたが、自衛隊の装備品に関しては、その調達方法そのものにも問題があります。

8月31日、防衛省は来年度予算の概算要求で、過去最大となる5兆2551億円の計上を決定しました。昨今は概算要求から漏れた装備を当年度の補正予算で購入することが慣例化しており、昨年度の補正予算は約2000億円でした。本年度補正予算を含めると来年度の実質的な防衛予算は5兆5000億円近くなる可能性があります。

では、膨らみ続ける防衛予算は適正に使われているのでしょうか。  

課題は多いです。たとえば自衛隊では米軍と同じ機関銃(ベルギーのFN社のMINIMIをライセンス生産したもの)を採用しています。これは型式が古いうえに、品質的にもオリジナルより劣っているのですが、米軍の10倍の単価約400万円を支払って調達しています。防衛予算を増やす前に不要な支出を抑える努力をすべきでしょう。

諸外国ではどのような装備をいつまでに、いくつ調達を完了し戦力化し、その予算はいくらになるという計画を立てます。議会の承認も必要です。ところが防衛省・自衛隊の調達ではほとんどそれがないのです。

装備にしてもどれだけの数をいつまでに調達・戦力化し、総予算はいくらになるかを明記した計画がなく、国会議員もそれを知らないのです。各幕僚監部内部では見積もりを出してはいるのですが内輪での話であり、議会が承認しているわけではありません。

国会はその装備がいつまでに、いくつ必要で、総額がいくらかかるかも知らずに、開発や生産に許可を与えているのです。このため調達自体が目的化して、いたずらに長期化することになります。

最近の事例では、陸上自衛隊が3月から導入する新しい制服が、全隊員への配布を終えるまで約10年かかることが今月19日、分かりました。15万人分を一括でそろえられるだけの予算確保や生地の調達ができないためですが、陸自隊員には時間がかかりすぎることへの不満や士気の低下への懸念が広がっています。自民党国防族も問題視しており、防衛省に調達計画を前倒しして配布期間を短縮するよう求めています。


これは、たまたま制服の事例ですが、日本で小銃の調達ですら、このような曖昧なことが行われています。

具体例として89式小銃を見てみましょう。1989年に調達が開始された89式小銃は28年経った2017年現在まで調達が完了していません。それでも調達計画がたとえば30年と決まっているならまだしも、それすらも決まっていないのです。諸外国では小銃の更新は6~8年程度、長くても10年ほどです。この少量調達をダラダラ続けているために89式小銃の調達単価は40万円と、同時代の他国の小銃の7~8倍にもっています。

89式小銃
ドイツの状況をみると、日本との差が明確に浮かび上がります。ドイツ連邦軍は現用のG36小銃の更新を計画していますが、12万丁の新型小銃を2019年4月から2026年3月までの7年間で調達する予定で、予算は2億4500万ユーロ(約300億円)と見積もっています。

ただし、2015年にはこのG36が、連射による過熱によって命中精度が著しく低下するという問題について、製造元H&K社・国防総省・軍の3者間で緊張が高まっていました。軍・国防総省は2015年4月の再監査において欠陥は自動小銃の設計上の問題であるとし、これにH&K社は強く反論していますが、2015年7月7日、軍の調達本部(Bundeswehr-Beschaffungsamt)は、H&K社に対し納入分全17万丁の引取りないしは改修を命令するよう裁判所に申し立てていました。これに対しH&K社は同日、国を相手取り「欠陥は認められない」と反訴していました。

ドイツ連邦軍の現用のG36小銃
業者からすれば、一つの小銃の採用が決まればドイツのように短期のうちに、納入するというのであれば、莫大な利益になることは間違いありません。そのため、このような問題も生じるという問題もあります。

ドイツでは新しい小銃の候補はこれから絞られますが、光学照準器や各種装備を装着するためのレールマウントを装備し、同じモデルで5.56ミリおよび7.62ミリNATO弾を使用する2種類の小銃を調達すことになっています。

フレームの寿命は最低3万発、銃身寿命は1万5000発(徹甲弾は7500発)以上が求められています。調達予算には光学サイト&ナイトサイト、メカニカルサイト、銃剣、クリーニングキット、サプレッサー、通常型弾倉とドラム型弾倉、二脚、フォアグリップ、ダンプポーチ、輸送用バッグが含まれており、オプションとして射撃弾数カウンターと2連装弾倉ポーチが挙げられています。こういう情報が、入札が行われるはるか前に公開されているのです。

それに対して日本はどうなのでしょうか。防衛省・自衛隊は国会にこの程度の情報すら公開していないのです。89式に関して国会議員は何丁が、いつまでに、総額いくらで調達されるかも知らないのです。このような過剰な秘密主義は民主主義国家の「軍隊」ではありえないです。防衛省や自衛隊の情報に対する考え方はむしろ中国や北朝鮮に近いかもしれません。

ドイツ連邦軍は、日本の89式調達単価の6割の予算、4分の1以下の期間で、最新式の小銃と豊富なアクセサリーをそろえることができるのです。かつてドイツ連邦軍が旧式のG3小銃がG36に更新したときもおおむね7年程度で終了しています。これが「普通の国」の調達なのです。残念ながら防衛省・自衛隊にはこのような「計画」が存在しません。

なぜ「計画」が存在しないのでしょうか。原因は防衛省・自衛隊の装備調達人員が諸外国に比べて圧倒的に少なく、業務の質も高くないことにあります。このために当事者能力が欠如し、調達のあり方が「無計画」にならざるをえないのです。

たとえば主要装備などの仕様書をメーカーに丸投げしているのは公然の秘密です。競争入札で特定の企業が仕様書を書けば、当然自社に有利な仕様書になります。これでは競争入札の意味がありません。また調達されている装備が適正かどうかをチェックする人員もいないのです。

防衛装備庁の人員は総兵力24万7000人に対して約2000人だ。他国の国防省や軍隊と単純比較はできないが、予算規模や人員の規模が近い英独仏などの主要国の国防省と比べると、人員が1ケタ少ない状況です。

総兵力15万5000人の英軍を擁する英国防省の国防装備支援庁の人員は約2万1000人(対外輸出関連部門はUKTI、通商投資庁に分離統合されたので、実態はさらに大きい)です。兵力がわずか2万2000人のスウェーデン軍の国防装備庁ですら3266人を擁しています。自衛隊の調達人員がいかに少ないかがわかるというものです。

スウェーデン国防軍最高司令官の日本訪問 平成27年3月2日(月)
人数が少ないだけではありません。そのうえ効率も悪いです。これは先述のように自衛隊の装備調達が長期にわたって少量ずつ行われるためです。諸外国が5年ほどで完了する調達を20年かけて行っていたりするのです。

仮に調達ペースが諸外国の1万人に対して1000人、調達期間が4倍だとしましょう。装備調達というものは1個調達しようが1000個調達しようが、同じ人員が拘束されるのです。そのため防衛省の調達人員の生産性は諸外国の4分の1程度になります。つまり1000人の人員は250人しかいないのと同じです。これは10倍の人員の差が実に40倍になってしまう計算です。

効率が悪いために、東京・市ヶ谷の防衛省、防衛装備庁、内局、自衛隊の各幕僚監部の調達担当者は極めて忙しく仕事をしています。帰宅は恒常的に遅く、防衛省に寝泊まりすることも少なくないです。各部隊など地方調達の担当者も同様です。長時間の過重労働が恒常化しています。調達システムに問題があり、生産効率が低いためです。システムの構造的な欠陥を現場のガンバリズムで支えているのが現状であり、調達システムを見直すような余裕はありません。

効率的な調達システムを採用し、調達期間を短縮するだけで、人員を増やすことなく、現在の調達人員を数倍に増やすのと同じ効果を得ることが可能なのである。調達改革を早急に行うべきでしょう。

自衛隊というと、最新式の装備の導入が話題になったり、憲法改正のことばかりが話題になりますが、装備品の必要性に関する説明責任がじゅうぶんなされず、さらに調達方法がこれだけ歪なのですから、まずはこのあたりを大改革を行うべきです。

まずは、政府としては防衛大綱に直接結びつく、自衛隊の装備品に関してそれがなぜ必要なのか、説明責任を果たすとともに、装備品の調達システムも変更して、効率をあげるべきです。

仮に、最新鋭の装備品が導入され、憲法が変わったにしても、このあたりが変わらなければ、何も変わらないのです。私は、自衛隊に関しては憲法改正の前にやるべきことは、山積していると思います。

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2018年2月20日火曜日

中国と延々と渡り合ってきたベトナムに日本は学べ もしも尖閣で紛争が起きたら日本はどうすべきか―【私の論評】緒戦での大勝利と、国際政治のパラドックスを迅速に最大限に活用せよ(゚д゚)!

中国と延々と渡り合ってきたベトナムに日本は学べ もしも尖閣で紛争が起きたら日本はどうすべきか


 ベトナムは中国と国境を接し、有史以来、何度も戦火を交えてきた。昨今の日中関係を考える時、その歴史から学ぶところは多い。

 ベトナムは長い間中国の支配下にあった。その支配は漢の武帝(前141~前87年)の頃に始まり、約1000年間続いた、しかし、唐が滅びて五代十国と言われる混乱の時代を迎えると、その隙をついてベトナムは独立した。938年のことである。

 ただ、その後も、宋が中国大陸を統一するとベトナムに攻め入った。その際は、今でもベトナムの英雄である李常傑(1019~1105年:リ・トゥオーン・キエット、ベトナムでは漢字が用いられてきた)の活躍により、なんとか独立を保つことができた。ただ、独立を保ったと言っても冊封体制の中での独立。ベトナムは中国の朝貢国であった。

李常傑
 中国大陸に新たな政権が生れるたびに、新政権はベトナムに攻め込んだ。朝貢していても安全ではない。相手の都合で攻めて来る。

 日本を攻めた元は、ベトナムにも船を使って攻め込んだ。たが、元は船を使った戦いは得意ではなかったようだ。日本に勝つことができなかったように、ベトナムにも勝つことができなかった。

 そんなベトナムが大きな危機を迎えたのは、明の永楽帝(1360~1424年)の時代。靖難の変によって甥から政権を簒奪(さんだつ)した永楽帝はなかなか勇猛な皇帝であり、武力による対外膨張政策を実行した。コロンブスよりも早く大洋に乗り出したとされる鄭和(ていわ)の南海遠征も永楽帝の時代に行われている。

永楽帝
 永楽帝の時代にベトナムは再び明の統治下に置かれる。しかし、永楽帝の死後、これもベトナムの英雄である黎利(レ・ロイ、1385~1433年)の活躍によって独立を回復している。

 その後、乾隆帝(1711~1799年)の時代に清がベトナムに攻め込むが、ベトナムは現在のハノイ・ドンダー区で行われたドンダーの戦い(1788~89年)において、大勝することができた。これは中国との戦いにおいて、ベトナム史上最大の勝利とされる。しかしながら、戦いに勝利したベトナムは直ちに使者を送って、清の冊封体制の下で生きることを約束している。

 中国とベトナムは1989年にもベトナムのカンボジア侵攻を巡って戦火を交えている。この戦争は、社会主義国同士の戦争として日本の進歩的文化人を困惑させたが、社会主義国の間では戦争が起こらないなどという話は神話だろう。歴史を振り返ってみると、ベトナムと中国は基本的に仲が悪い。

「中国は平和主義の国」は全くのウソ

 ベトナムの歴史から、以下のような教訓を引き出すことができるだろう。

(1)中国は新たな政権ができるたびに、冊封下にあるベトナムに攻め込んでいる。冊封体制の下にあるといっても安心ではない。「中国は平和主義の国であり、外国に攻め入ったことがない」などという話は全くのウソである。

(2)強い皇帝が現れた時に対外侵略が行われる。漢の武帝、明の永楽帝、そして清の乾隆帝の時に、大規模な侵略が行われた。そして、明の永楽帝が亡くなるとベトナムが独立を回復したことからも分かるように、中国との関係を考える際には「強い皇帝」がキーワードになる。

(3)実は中国軍は弱い。小国ベトナムを相手にして、ここ1000年ほど負けっぱなしである。特に船を用いた戦いに弱い。大陸国であるために、船を乗りこなすのが苦手だ。現在のハロン湾周辺の河口域で行われた戦において、ベトナム側の同じような戦法に引っかかって何度も負けている。

(4)小国ベトナムは、勝利した後に素早く使者を送って、へり下る形で和睦している。冊封体制の下で生きることを選んだと言える。冊封体制下で生きることはメンツを失うことになるが、中国から派遣された代官の暴政にさらされることはなくなる。朝貢しなければいけないが、お土産を持って行けばそれに倍するお返しをもらえたことから、名を捨てて実を取る選択と言ってよい。

尖閣諸島をめぐる争いは緒戦が重要

 幸いにして、中国と日本の間には海があったために、中国大陸に新たな王朝ができるたびに攻め込まれるなどということはなかった。だが、近年は尖閣諸島を巡って対立が続いている。

 そんな日本にとって、ベトナムの歴史から学べる最も重要な教訓は、中国の攻勢は長期間続かないということである。強い皇帝が出現して対外強硬政策を採用しても、代が変われば政策は変更される。せいぜい30年ほど時間を稼げばよい。

 中国は大国、ベトナムは小国。だから、一度や二度、中国が部分的な戦いに負けたとしても、再度大軍を派遣すればベトナムを打ち破ることができたはずだ。しかし、中国は負けた際に再度大軍を派遣することはなかった。対外戦争に一度でも敗れると内政が不安定化して、大軍を派遣することが難しくなるためと考えられる。

 ベトナムはそこをよく見ていた。だから、ここ一番の戦いに全力を挙げて部分的な勝利を納めると、それ以上中国を追い込むことはしなかった。戦いに勝利するとすぐに和平の使者を派遣して、朝貢体制の下で生きることを選択した。

 面白いのは清の乾隆帝である。清がベトナムと戦ったドンダーの戦いは、ベトナムではベトナム史上最大の戦勝と言われている。しかし、先にも書いたようにベトナムが戦勝の直後に和平の使者を派遣して冊封下で生きることを約束したために、清はその戦いを乾隆帝の十大武功の1つとしている。清は、国内にはベトナムに勝ったと宣伝したのだ。ベトナムは乾隆帝のメンツを立てることによって、それ以降の戦いを避けた。

ドンターの戦いの錦絵
 尖閣諸島をめぐる争いでも、緒戦が重要になる。日本は緒戦に勝てるように十分に準備しておく必要がある。中国は緒戦に負けると、戦争を続けることが難しくなる。その機運を素早く読み取り、中国のメンツが立つようにして、和平に持ち込み実利を取るのが有効な対処法であろう。

 中国は秦の始皇帝以来、約2300年にわたり東アジアに君臨してきた大国であるが、大き過ぎるために、内政の取りまとめが難しい。そのため、国を挙げて他国と戦いを続けることができない。緒戦でちょっと負けると不満分子が政権を揺さぶるからだ。一方で、東アジアの歴史において常に大国であったために、メンツをとても重視する。そんな中国とは対峙するには、軍事的に隙を見せることなく、なおかつ中国のメンツが立つような外交を心がけるべきであろう。

 過去約1000年間にわたり、小国ベトナムは中国と陸続きで対峙しながら、その間、実際に中国に占領されたのは20年間という短い時間であった。その歴史から、学ぶところは多い。

【私の論評】緒戦での大勝利と、国際政治のパラドックスを迅速に最大限に活用せよ(゚д゚)!

米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも昔から大国は、小国に勝てないということを主張しています。確かに、そういわれてみればそうです。米国もベトナムには勝てませんでした。

ルトワック氏は、そもそも中国は「大国は小国に勝てない」という「戦略の論理」を十分に理解していないと主張しています。

ある大国がはるかに国力に乏しい小国に対して攻撃的な態度に出たとします。その次に起こることは何でしょうか。

周辺の国々が、大国の「次の標的」となることを恐れ、また地域のパワーバランスが崩れるのを警戒して、その小国を助けに回るという現象があらわれるのです。その理由は、小国は他の国にとっては脅威とはならないのですが、大国はつねに潜在的な脅威だからであす。

米国はベトナム戦争に負けましたが、ベトナムは小国だったがために中国とソ連の支援を受けることができたのです。

しかも共産国だけではなく資本主義国からも間接的に支援を受けています。たとえば英国は朝鮮戦争で米国側を支援したのですが、ベトナム戦争での参戦を拒否しています。

米国が小さな村をナパーム弾で空爆する状況を見て、小国をいじめているというイメージが生まれ、最終的には米国民でさえ、戦争を拒絶するようになってしまいました。

『戦争の恐怖』1972年6月8日、AP通信ベトナム人カメラマンだった、ニック・ウット氏撮影。
南ベトナム軍のナパーム弾で、火傷を負った子供らが逃げてくる場面を捉えたもの
つまり国というものは、強くなったら弱くなるのです。戦略の世界は、普通の生活とは違ったメカニズムが働いているのです。

近年、中国は香港で民主化運動に弾圧を加え続け、さらには激しい言論統制を行っています。北京側が今回、香港で誘拐したり投獄したりと極めて乱暴に振舞ったことで台湾国内の親北京派の力を削いでしまいました。

中国指導層にとって、香港は攻撃可能な「弱い」相手でもありました。それが台湾という「周辺国」の反発を生んだのです。

このあたりの詳しいことはルトワック氏の『戦争にチャンスを与えよ』をご覧になってください。

日本とベトナムとを比較すると、当然のことながら、経済でも軍事でも日本が大国であることは間違いありません。であれば、日本はベトナムから学べるところと、学べないところがあるということになると思います。

以下にルトワックの提唱する中国の戦略を振り返ってみます。

中国は、2000年代に入ってすぐに『平和的台頭』という戦略を採用しました。これは、他国と余計な摩擦や衝突を起こさずに国力を上げるという戦略です。これは、大成功を収めました。これをルトワックは「チャイナ1.0」と呼称しています。

しかし世界を震撼させた2008年のリーマン・ショックを機に「チャイナ2.0」へと大きくシフトした。これは、中国はもはや小国でなく、大国として積極的に攻勢に出るべきだという圧力が国内に充満したのを受けて、それを国家戦略にしたものです。

これは、明らかに大きな誤りでした。その後2014年になり、習近平政権が再び中国の戦略を変更しました。それが「中国 3.0」です。この戦略は選択的攻撃というものです。

戦略を変更するきっかけとなったのは、南シナ海で中国に対して強い抵抗を示したベトナムと、東シナ海で断固とした姿勢を貫いた日本だったとルトワックは指摘しています。

中国は、ベトナム、フィリピン、韓国などに対し、宥和政策を積極的に展開するとともに、日本には尖閣諸島付近で挑発を繰り返すなどの行動に出て、対中包囲網そのものに手を突っ込み、包囲網の分断を図ってきました。

中国は大国戦略をとって強く外にでたのですが、抵抗にあうことで立場が弱くなってしまったのです。このような国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムを、ルトワックは「パラドックス」と名づけています。

プレイヤーが競合関係にある場では、このようなメカニズムが常に発生しているのですが、中国はいまだそれを理解できておらず、不安定な国です。

そうして、ルトワックが提唱する「中国4.0」に関しては、習近平はそのような戦略はとれないとしていますので、ここでは解説しません。

いずれにせよ、当面日本は「中国3.0」の戦略をとり続ける中国と対峙しなければならなのです。

そこで、参考になるのがベトナムです。特に、「中国は大国、ベトナムは小国。だから、一度や二度、中国が部分的な戦いに負けたとしても、再度大軍を派遣すればベトナムを打ち破ることができたはずだ。しかし、中国は負けた際に再度大軍を派遣することはなかった。対外戦争に一度でも敗れると内政が不安定化して、大軍を派遣することが難しくなるためと考えられる」というところは参考になります。

緒戦で圧倒的な勝利を収めることが重要なのです。だから、尖閣諸島をめぐる争いでも、緒戦が重要になるのです。日本は緒戦に勝てるように十分に準備しておく必要があるのです。中国は緒戦に負けると、戦争を続けることが難しくなるのです。

これは、今でも同じでしょう。尖閣でも、緒戦の段階で日本が圧倒的な勝利を収めれば、未だ国内で権力闘争を継続している中国はその後戦争を続けることが難しくなるのです。

そうして、この緒戦の勝ち方については、ここでは詳細は述べませんが、これについてはルトワック氏も詳細を述べていて、このブログでも何度か紹介したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の“海軍力”はアジア最強 海外メディアが評価する海自の実力とは―【私の論評】日本は独力で尖閣の中国を撃退できる(゚д゚)!
尖閣は自分で守れと主張するルトワック氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ルトワック氏も緒戦で勝利を収めるべきことを主張しています。以下にこの記事から一部引用します。

"
人民解放軍がある日、尖閣に上陸した。それを知った安倍総理は、自衛隊トップに電話をし、「尖閣を今すぐ奪回してきてください!」という。自衛隊トップは、「わかりました。行ってきます」といい、尖閣を奪回してきた。

こういう迅速さが必要だというのです。なぜ? ぐずぐずしていたら、「手遅れ」になるからです。ここで肝に銘じておくべきなのは、
「ああ、危機が発生してしまった。まずアメリカや国連に相談しよう」
などと言っていたら、島はもう戻ってこないということだ。ウクライナがそのようにしてクリミア半島を失ったことは記憶に新しい。(p152)
安倍総理は、「人民解放軍が尖閣に上陸した」と報告を受けたとします。「どうしよう…」と悩んだ総理は、いつもの癖で、アメリカに相談することにしました。そして、「国連安保理で話し合ってもらおう」と決めました。そうこうしているうちに3日過ぎてしまいました。尖閣周辺は中国の軍艦で埋め尽くされ、誰も手出しできません。
"
このような状況になってしまっては、もうどうしようもありません。中国はさらに後続部隊を送ってくることでしょう。そのうち、工科部隊を送り込み、基礎工事をして、その後には本格的に業者を送り込み、尖閣諸島を軍事基地化することになり、南シナ海と同じような状況になることでしょう。

だからこそ、緒戦が大事なのです。緒戦で明らかに日本が大勝利という形をつくってしまえば、習近平も国内で面子を失い、反対派が勢いづきその後、尖閣に兵を出し続けることは困難になります。

そうして、その後ですが、その後はベトナムの中国対応は参考になりません。特に「戦いに勝利するとすぐに和平の使者を派遣して、朝貢体制の下で生きることを選択した」というようなことは日本はできませんし、決してやってはいけないことです。

これは、小国であるベトナムだから通用してきた手であって、小国ではない日本などの国がとる手ではありません。このような手を打てば、中国は錯誤するだけです。

なぜなら、中国は巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによって信頼を失っているからです。

そうして、中国が尖閣を攻めた途端に、国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムである「パラドックス」が生じているからです。

中国が大きくなり、日本の領土を攻撃したということにでもなれば、それに対抗しようとする同盟も大きくなります。中国が日本に対して本格的に圧力をかけようとすると、アメリカが助けに来るし、べトナム、フィリピン、それにインドネシアなども次々と日本の支持にまわり、この流れの帰結として、中国は最初の時点よりも弱い立場追い込まれことになります。これが中国の錯誤の核心です。

日本は、このパラドックスを最大限に利用すべきだし、利用すべくすぐに行動すべきなのです。これを実行するためには、過去のベトナムのようにすぐに和平に走ってはならないのです。

さらに、同盟を強化して、日本だけではなく同盟により中国に圧力をかけ、さらに中国を追い込み強力に包囲するのです。これによって、習近平の面子が潰れても全く気にする必要はありません。これにより、中国国内では、習近平反対派が勢いづき、再び権力闘争が激化します。


中国では、昨年の党大会までは、権力闘争が激化していましたが、現在は沈静化の方向にあります。しかし、習近平が尖閣奪取の挙にでて、それが大失敗したとなれば、習近平の面子は丸つぶれとなり、中国内では反習近平派(江沢民派など)が勢いづくことになります。

これは、主席が誰であろうと、尖閣を奪取しようとして、緒戦で大失敗すれば、同じことになります。

そうなれば、習近平は尖閣どころではなく、国内政治にエネルギーを割くことになります。中国の権力闘争は、日本などとは異なり、熾烈を極めます。下手をすれば、命を失います。そうなれば、尖閣の危機は遠のきます。

ここで、過去のベトナムのようにすぐに和平に走れば、習近平が国内政治を御しやすくするだけであり、再び尖閣どころか、今度は沖縄まで危機にされされることになりかねません。

日本は中国が尖閣を奪取しにきた場合は、当然緒戦で大勝利を収めるべきですし、それは日本にとっては十分可能なことです。ただし、そのために法整備などをしておく必要があります。私は、これは憲法を改正しなくてもできると思っています。

そうして、それだけに甘んずることなく、中国が尖閣を攻めた途端に、国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムである「パラドックス」を迅速にそうして、最大限に利用すべく普段から準備しておくべきなのです。

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2018年2月19日月曜日

無理筋だった韓国の五輪外交、北の時間稼ぎに利用される ぶれていない米国の強硬姿勢―【私の論評】長期では朝鮮半島から北も韓国も消える可能性も(゚д゚)!


平昌冬季五輪の開会式で韓国の文在寅大統領(左)と握手する北朝鮮の金与正氏=9日
 平昌五輪の開会式に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、与正(ヨジョン)氏らが出席し、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が融和姿勢を示した。これによって核・ミサイル開発をめぐる米朝関係に何らかの影響が出てくるのだろうか。

 米国は、ペンス副大統領を平昌五輪に派遣し、「北朝鮮が核・弾道ミサイル開発を放棄するまで同国を経済的、外交的に孤立させ続ける必要があるとの認識」を強調した。ペンス氏は「問題は言葉でなく行動だ」と、北朝鮮の非核化に向けた具体的な行動を文氏に求めた。

 ペンス氏の行動ははっきりしていた。9日、文氏が主催した事前歓迎レセプションを事実上、欠席した。

 実は、ペンス氏と安倍晋三首相は、レセプション開始時刻を10分も過ぎて到着した。その後、ペンス氏はレセプション会場に入っても主賓の席に座らず、北朝鮮高官代表団団長の金永南(キム・ヨンナム)氏を除く要人と握手して、立ち去ってしまった。

レセプション場を着席することもなくわずか5分で出ていったペンス副大統領 
 韓国としては、レセプションの座席配置も米朝の了解を得ていたつもりで、同じテーブルでペンス氏と金永南氏が同席するだけでも絵になるともくろんでいた。しかし、米国がそれを認めるはずもなく、ペンス氏は、北との接触を回避するというより、平然と無視していた。

 一連のおぜん立ては文氏の平和演出であろうが、これは無理筋だ。北朝鮮側の事実上トップだった金与正氏は、米国の制裁対象者でもあり、米国としては無視するのは当然だ。

ペンス氏は、文氏に「米国は、北朝鮮が永久的に不可逆的な方法で核兵器だけでなく弾道ミサイル計画を放棄するその日まで、米国にできる最大限の圧迫を続ける」と伝えた。訪韓前に日本で安倍首相と行った首脳会談でも、「近日中に北朝鮮に最も強力かつ攻撃的な制裁を加える」と明らかにしたという。

ペンス米副大統領が、訪韓前に日本で安倍首相と行った首脳会談
 マティス米国防長官は、平昌パラリンピック(3月9~18日)の後に、軍事演習を再開することを明言している。

 一方、金永南氏は、文氏との会談において、米韓軍事演習などを中止し、訪朝を最優先とすることを要請したようだ。金正恩氏は、9月9日の北朝鮮建国50周年までに南北首脳会談を実現したい意向と伝えられている。

会談する韓国の文在寅大統領(右から3人目)と北朝鮮の金与正氏
(左から2人目)、金永南氏(同3人目)=10日午前、韓国大統領府
 はっきりいえば、これは北朝鮮の時間稼ぎである。北朝鮮の核・ミサイル技術はロシア製なので、進展度合いを技術的に読むことが可能だ。米国に到達する弾道弾について、実戦配備可能な技術的な時期はあと3カ月から6カ月以内というのが通説である。

 米国は、やられる可能性があれば、その前にやる国だ。平昌五輪前日、北朝鮮では軍事パレードを行い、「火星15」とみられる大陸間弾道ミサイル(ICBM)も披露したという。これは、米国人にとって「不穏な動き」と見られなくはない。北朝鮮に対し、「核を放棄せよ、さもないと叩く」という米国の姿勢は全くぶれていない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】長期では朝鮮半島から北も韓国も消える可能性も(゚д゚)!

平昌五輪という一大イベントを契機に南北関係が改善すること自体は、一見して評価して良いかのようにもみえます。しかし、露骨な政治利用が続くことに「もはや“平壌五輪”なのでは」といった声も聞こえてくるのが実情でした。そうして、この背後には、北朝鮮の並々ならぬ危機感がみてとれます。

そもそも、韓国と北朝鮮が融和したところで朝鮮半島危機は終息しません。重要なのは北朝鮮の非核化です。また、今回のアプローチは北朝鮮主導で行われており、仮に南北統一が実現するとしても、このままいけば北朝鮮が主導権を握ることになります。核を持つ北朝鮮と、アメリカに見限られかねない韓国を比較すれば明らかです。北朝鮮のほうが立場は上です。

これまで、日米は韓国を「反共の壁」として利用してきました。中国やロシアとの間の緩衝地帯であると同時に、日本海の安全を守るための橋頭堡という位置付けです。その代わりに、日本は韓国に膨大な資本投下や技術移転を行うことで発展を支え、いわば「自由社会のショーケース」として共存してきました。

しかし、韓国が北朝鮮に懐柔されるかたちで統一すれば、これらはすべて無駄になります。
地政学的に見れば、韓国は日本にとって非常に重要な位置にあり、日本海を軍事的対立線にしないための役割も担っています。しかし、韓国の国民が北朝鮮主導による南北統一を選ぶのであれば、日本にそれを阻止する手段はないに等しいです。ただし、米国は黙ってはいないでしょう。

かつて、日本の保守勢力と韓国の政界は深い関係を持っており、韓国の内政に日本の影響力を行使することもできました。しかし、現在はそうした人脈が失われつつあります。

すでに、世界は「平昌五輪後」の情勢を見据えています。欧米メディアからは「五輪が終わるまでは……」というフレーズが多く聞かれ始めています。振り返ってみれば、2014年のロシアによるクリミア侵攻もソチ五輪の閉幕直後でした。前述したアメリカの独自制裁も含め、五輪後に北朝鮮情勢に新たな動きがあったとしてもおかしくありません。

ロシアによるクリミア侵攻
平昌五輪終了後の半島情勢は以下のようなシナリオが考えられます。ただし、このシナリオ内でも大きなバリエーションのあるものになりそうです。

①北朝鮮の崩壊と新体制の確立 ②現状維持 ③朝鮮半島の合意一体化の3つです。②と③は北朝鮮の実質勝利です。日本や中国を含む多くの国は目先②を望むのでしょうが、それは案外、可能性が低い選択肢かもしれません。なぜなら、②は単なる北朝鮮の時間稼ぎに利用されるだけだからです。

ただ、現状維持とはいっても様々な事態が予想されるかもしれません。たとえば、米は経本格的に海上封鎖することになるかもしれません。それも中途半端なことはせずに、海上に機雷を敷設して完璧に封鎖ということも十分考えられます。場合によっては、北と中国の間の鉄橋などを破壊するかもしれません。こうなると、もう戦争状態です。

中国が描くシナリオは③である可能性が高いです。その場合、いったん韓国を左派色に染めて北朝鮮との色の差を薄くし、アメリカと韓国との色の差を強調するかもしれません。

一方、中国にとって日本は戦略的に重要な立場になるため、南京事変といった歴史問題は当面横に置いておき、日本とのコミュニケーションをスムーズにしておくことを推し進めるかもしれません。

日本の報道では日中関係改善と報じられていますが、外貨不足の中国による日本からの外貨誘導のための改善かもしれません。実質的には巧みに計算された政策です。日本政府ももちろん、それは理解していることでしょう。

仮に③のシナリオとなった場合、韓国の中で右寄りの思想の人たちが日本に渡ってくる可能性は大いにあります。

ただし、同じ③でも、米国主導により、北朝鮮・韓国の現体制抜きで、半島全体に新たな秩序をつくりだすということも考えられます。これについては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日韓合意検証発表】交渉過程の一方的公表を韓国メディアも批判「国際社会の信頼低下」―【私の論評】北だけでなく朝鮮半島全体に新レジームが樹立されるかもしれない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
現在の文在寅政権は、かなり親北的です。これは、日米からみると、北が米国の圧力に屈したり、武力攻撃で崩壊したしたにしても、韓国にその勢力が残存することになり、実質半島全体が北朝鮮になってしまうかもしれません。これはかなりやっかいなことになります 
中露からすれば、北朝鮮が一方的になくなれば、いずれ韓国が北の領域も併合することになるかもしれないという危機感があります。そうなると、今までは日米との間に北という緩衝地帯があったにもかかわず、それがなくなることを意味します。 
これは、日米中露にとっては良いことではありません。であれば、朝鮮半島全域を日米中露と他国をも含めた国連軍などで統治した後に、ここに日米寄りでも、中露寄りでもない中立的な新国家を設立するというのが最も望ましいかもしれません。 
しかし、北の後には、韓国を何とかしなければならないという機運は、日米中露の間で高まるのは間違いないものと思います。ただし、これはすぐにということではなく、北朝鮮崩壊後数年から10年後ということになるでしょう。
このように、長期では、半島全体に北朝鮮や韓国とは全く異なる、中立的な新国家を樹立ということになる可能性も十分あると考えられます。

また①のシナリオ、つまり斬首作戦はアメリカがどういう分析をしているかによるでしょう。仮に金一族を否定することが北朝鮮国民のマインドを喪失させるのか、かつての日本のように180度転換できるのか、その場合、誰かリーダーになれる人はいるのか、疑問だらけではあります。

つまり首を取るのは簡単でもその後の2500万の残された国民の対応は、結局のところ未だわかりません。ただし、今の国民は体制のことを考えることすら許されていません。であれば、それを考えることが許される体制への変化は受け入れやすいかもしれません。それに、リーダー足り得る人も存在すると思います。

平昌五輪・パラリンピック終了後の4月頃には米韓合同軍事演習や文大統領の来日も予定されていますが、今は春に向けて政治的駆け引きが活発化しています。

かつて、太平洋戦争前の1941年11月に「ハル・ノート」と呼ばれる交渉文書がアメリカから日本に提示されました。これは日本に中国およびインドシナからの撤退などを求める内容で、事実上の最後通牒とみなされています。

そして、要求をのめなかった日本は開戦へと突き進むことになったわけですが、今回の日米首脳の訪韓は、ある意味で韓国に向けた「現代版ハル・ノート」といえるのかもしれません。

かつて、アメリカの国務副長官リチャード・アーミテージが9/11直後、パキスタンが、アフガニスタンの盟友、タリバンを即座に裏切り、アメリカにアフガニスタン侵略の為のパキスタン内軍事基地の使用を認めなければ、「アメリカがパキスタンを爆撃して石器時代に戻してやる」とパキスタンの諜報機関ISI長官マフムード・アフメド中将を恫喝したとムシャラフは主張していました。

アーミテージ
今回もペンス副大統領がこれに近いことを文在寅に吹き込んだ可能性すらあるのではないかと私は睨んでいます。

そこまでいかなくとも、日米と中国との狭間で、どっちつかずのバランス外交をしていると、半島から北はもとより、韓国も消える可能性もほのめかしたしたかもしれません。そうして、それは日米だけではなく、中露も望んでいる可能性があります。

何しろ、ここ70年朝鮮半島は、各国にとって少しも良いことはありませんでした。今の状況は、北朝鮮は中露の同盟国とは言い切れない状況にあります。また、韓国が日米の同盟国ということも言い切れません。かといって、無論北朝鮮は日米の同盟国にはなり得ません。同じく、韓国が中露の同盟国となることも不可能です。

こんなことを考えると、日米中露が朝鮮半島全体に新たな秩序をつくりだすことには、それなりの意義と合理性があります。

いずれにしても、朝鮮半島には今までの常識では計り知れない何かがおこる可能性が大です。すべての可能性を除去することなく考えておくことによってのみ適切な対応が可能になるでしよう。これをきっかけに、日本も大きく変わる可能性もあります。

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2018年2月18日日曜日

FBI、孔子学院をスパイ容疑で捜査―【私の論評】今後の捜査でスパイ活動にかかわっていることがはっきりすれば日本も排除を検討すべき(゚д゚)!

FBI、孔子学院をスパイ容疑で捜査

アメリカの連邦捜査局(FBI)がアメリカ国内で活動する中国政府対外機関の「孔子学院」をスパイ活動やプロパガンダ活動など違法行為にかかわっている疑いで捜査の対象としていることが議会の公式の場で明らかにされた。孔子学院は日本の主要大学でも中国の言語や文化、歴史を広めるという活動を展開している。

クリストファー・ライFBI長官
この捜査の報告は2月13日、アメリカ連邦議会上院の情報委員会の公聴会でクリストファー・ライFBI長官自身によって言明された。ライ長官は同委員会の主要メンバーのマルコ・ルビオ議員らの質問に答えた。ルビオ議員は地元選挙区のフロリダ州での孔子学院は中国政府の命令により、アメリカの大学に影響を行使し、中国の共産主義思想などを広めるとともに、その関係者を使ってのスパイ活動までを働く疑いがある、と主張した。

マーク・ルビオ議員
ライ長官は次のような骨子の証言をした。

・中国政府はアメリカ国内の大学などに設けた孔子学院を利用して、中国共産党思想のプロパガンダ的な拡大だけでなく、米側の政府関連の情報までも違法に入手するスパイ活動にかかわっている容疑があり、FBIとしてすでに捜査を開始した。

・孔子学院は中国の言語や文化の指導を建前としているが、現実には中国共産党政権の指揮下にある機関としてアメリカなど開設相手国の中国留学生を監視し、とくに中国の民主化や人権擁護の運動にかかわる在米中国人の動向を探る手段とされている。

・中国側はアメリカでの学問の自由や大学の開放性を利用する形で主要大学などに食い込み、アメリカ人学生への思想的な影響行使のほか、中国人留学生をひそかに組織して民主化運動に走る中国人学生を取り締まっている。
孔子学院 出典:The Confucius Institute at The University of Manchester
アメリカでは孔子学院が全米的に広がりをみせた後、ここ数年はいくつかの大学で政治的な問題を起こし、閉鎖を命じられるケースも増えていた。シカゴ大学では大学当局が一度は学内に開設を認めた孔子学院を2014年に閉鎖した。だがFBI長官が公式の場で孔子学院自体を捜査の対象としていると言明したことの意味は大きい。

日本でも孔子学院は早稲田大学、立命館大学、桜美林大学など10校以上の主要大学に開設されているという。

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【私の論評】今後の捜査でスパイ活動にかかわっていることがはっきりすれば日本も排除を検討すべき(゚д゚)!

札幌においては、札幌大学内に「孔子学院」が設置されています。札幌大学では、2016年に、[札幌大学孔子学院設立10周年記念と銘打ち、中国・広東外語外貿大学学生芸術団の日本公演を開催しました。そのポスターが以下の写真です。
[札幌大学孔子学院設立10周年記念]中国・広東外語外貿大学学生芸術団の日本公演を開催します
クリックすると拡大します
札幌孔子学院では、ブログも解説しており、以下のような内容の記事も掲載されていました。

札幌大学孔子学院 / Confucius Institute At Sapporo University
「第12回日中経営フォーラム」が広東外大で開催され、「一帯一路」と企業の国際化を討議しました
2017年10月28日に「第12回日中経営フォーラム」が中国・広州市にある広東外語外貿大学北キャンパスの国際会議ホールで開催されました。今回のテーマは「一帯一路」と企業の国際化です。 
開幕式には、広東外語外貿大学副学長焦方太教授,華東理工大学商学院副院長李玉剛教授、札幌大学総合研究所所長・孔子学院院長輔佐汪志平教授などが出席しました。

当然のことながら、このフォーラムでは「一帯一路」の良い面ばかり協調した極悪な内容が喧伝されたのでしょう。

孔子学院については、以前からその存在のいかがわしさが指摘されていました。このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「孔子学院」にノー 米シカゴ大、契約打ち切り―【私の論評】中国の思想侵略にノーをつきつけたシカゴ大!学問の独立を守るということはこういうことだ。日本の大学も見習え(゚д゚)!
シカゴ大学キャンパス
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
米シカゴ大学は27日までに、学内の中国語教育機関「孔子学院」との契約更改交渉を打ち切ったと発表した。中国政府の方針に基づく運営が「学問や言論の自由を脅かす」として、多数の教授が連帯し、学院の閉鎖を求める運動が起きていた。名門シカゴ大の決定は、孔子学院を抱える他の大学にも影響を与えそうだ。 
大学の担当者によると、孔子学院との契約は9月末で切れるため、既に予算が拠出された講座や研究計画の終了後、閉鎖される公算が大きい。 
孔子学院は中国の「ソフトパワー」拡大の拠点として中国政府が全面的に出資し、世界各国の大学に開講されている。一方で運営をめぐるトラブルも相次ぎ、米大学教授協会は「中国政府の一機関」と批判、各大学に契約の打ち切りを促す声明を出している。
さて孔子学院がなぜ問題になるのか、そのヒントになる内容として、南開大学周恩来政府学院国際関係学部の韓召頴教授が2011年の季刊「公共外交(パブリック・ディプロマシー)」誌(秋季号)に、孔子学院設立目的を分かりやすくまとめているので以下に抄訳します。
 孔子学院は中国公共外交における重要な役割を担っており、中国外交の選択肢を大きく広げるものである。 
 20世紀の1990年代にはいると、中国の総合国力と国際影響力の増強スピードに比較して、各国の対中理解は乏しく、むしろ中国脅威論やその変種のチャイナリスク、中国崩壊論、中国分裂論などが広がっている。これらの対中観が一部の人間に意図的に扇動されているのでなければ、中国に対する理解不足、認識不足が原因である。この多くの国々が中国に対して持つ不安や心配を緩和・解消し、中国が平和と発展と協力の外交を行っているのだとアピールすることが、中国外交の新たな課題である。このため、公共外交が国家の外交政策における手段の一つとなる。 
 大衆の世論は国家の外交政策に影響する。いかなる国家・政府とも対外政策を決定するとき、国内の大衆世論を顧みるだけでなく、自国の国家利益に有利なように外国の大衆の世論を作ろう、あるいは誘導しようと試みるものだ。語学教育などの教育文化交流を通じた公共外交は、外国の大衆に自国国家の政治、経済、社会および文化を理解させ、支持を取り付けやすくする。このため、公共外交という外交政策の効果はますます明らかに重要度を増している。
表現は取り繕っていますが、孔子学院の設立の趣旨は、要するに漢語授業を通じて、中国当局に都合の良い中国の歴史や政治や経済・社会制度を理解してもらうことで、中国支持者を増やしていき、中国脅威論を解消していこう、という明確な政治目的を備えた外交政策だと、中国自身が認めているわけです。

語学の基本は丸暗記と暗誦です。丸暗記というのは、洗脳の定番の手法です。毛沢東語録も丸暗記させることで、学生たちを熱狂させました。大人ならまだしも、子供なら中国当局の思惑通りの中国イメージを植え付けることはできるでしょう。

そういう面もあるので、2010年2月に、南カリフォルニア州アシエンダでは、中学校の孔子教室開講を共産主義の洗脳だとして住民の抗議活動が起こったこともあります。地元教育委員会は9月、中学校に対する中国側の資金援助も教師派遣も拒否する決定をしました。

2011年7月、オーストラリアのシドニーでは7カ所の学校に開設された孔子教室の閉鎖をもとめる4000人の署名が地元議会に提出されました。テキストに天安門事件や中国の人権問題に触れていないことへの反発からだといわれています。

またカナダのナショナル・ポスト紙(2010年7月9日付)によれば、カナダ情報局が国民に対し、外国の諜報活動に気を付けるよう警告し、そのリストの中に孔子学院が含まれていました。

前アジア太平洋局責任者の作家、マイケル・ジュノー・カツヤが「孔子学院は慈善的理念で設立したものではなく、中国共産党の戦略の一部であり、諜報機関と関連のある組織から資金提供も受けている」とコメントしています。日本の大阪産業大学の事務局長も孔子学院を「文化スパイ機関みたいなもの」と発言し留学生から猛反発をくらい、平謝りしたことがあります。

ちなみに、孔子学院に否定的な動きのある地域が、中国からの移民が多い地域であることは偶然ではないでしょう。米国やカナダやオーストラリアなどの中国移民の中には文化大革命や天安門事件を契機に祖国を捨てた人も多く、普通の外国人以上に中国共産党アレルギーが強いです。

そういう人がわが子に「我是中国人、不是美国人」という例文を暗誦させられれば、洗脳か!と敏感に反応するのは当然のことと思います。

孔子学院が単なる語学学校でないことは、その資金の潤沢さからわかります。

孔子学院が海外に作られ始めたのは2004年。最初は韓国のソウルにできました。以来、世界各国に急速に増え続け、目下、世界106カ国に350カ所以上の孔子学院が設立され、500カ所以上の小中学校に孔子教室が開講されています。

孔子学院を管轄しているのは中国教育部傘下の俗に「漢弁」と呼ばれる国家漢語国際推進指導弁グループ弁公室ですが、世界のどこかに一つ孔子学院が開設するとなると、漢弁から準備金として10万ドルの資金が降りるといわれています。

しかも中国側はボランティア教師を派遣し、奨学金を出して留学プログラムも組んでくれるそうです。提携先の外国の教育機関としては、さほど予算がなくても、ほとんど全部中国側がやってくれるのでありがたいです。

漢弁は2010年までに孔子学院開設費用として5億ドルを投じたとしていますが、それ以外に毎年1校につき年間10万~15万ドルの運営費が投じられ、年間2000~3000人の派遣のボランティア教師には1人当たり1万ドル以上の手当てを出しているほか、数万人単位の外国人漢語教師の育成、教材の寄贈、各国における宣伝広告費も中国側が請け負っているといいます。年間平均予算は、ドルにして億単位と見られています。
1989年から始まった希望工程(中国国内の学校のない貧困地域に国内外の寄付によって学校を建てるプロジェクト)で集まった寄付金が2009年までの20年間で計約50億元(7.5億ドル)ということを考えれば、孔子学院に投入されているお金の多さが半端ではないことがわかります。

しかし、中国側にしてみれば、対象国の世論を自国に有利になるように誘導することは国家として当然の戦略であり、中国共産党がさんざん孔子を否定してきた歴史もさらりと忘れたふうに、孔子を持ち上げることにも矛盾も感じないのでしょう。

「毛沢東学院」じゃ外国人は誰も寄ってきません。中国が対外的にプラスイメージ発信に利用できるのはパンダが孔子ぐらいしかないのだからしかたないのかもしれません。

それを洗脳などと批判されることは彼らからすれば心外なのかもしれません。中国からみれば、それなら米国のフルブライト・プログラムだって洗脳だ、ということになります。

フルブライト・プログラムにも、親米派を育成し、米国の影響力を拡大する戦略性はあります。結局のところ、留学生の招聘や自国語学習者の拡大に、相手国の世論を自国に有利なものに導く公共外交としての政策性や戦略性を持たせることは「どこの国もやっている」当たり前のことでもあります。それを露骨に出すか出さないかだけの差かもしれません。

そもそも公共外交とは民間に直接しかけられた外交でもあります。カウンターパートは政府ではなく民間、つまり孔子学院を受け入れる教育機関であり、授業を受ける大衆なのです。政府が政策的にこれを退けることは、お角違いなのかもしれません。

だからこそ、こういう公共外交による“洗脳合戦”時代に大切なのは、民間の普通の人々の外交意識なのだと思います。自らが外交の担い手であり、孔子学院が公共外交の一種であるという意識を持って向き合えば、少なくとも一方的な「洗脳」ではなく、むしろ相手国の文化や思考を知った上で、いかに対処すれば自国に有利な外交ができるかを考えるようになることでしょう。

日本にも孔子学院は相当増えてきました。安価で中国語を勉強できる機会が得られるという点では良いともいえます。洗脳されるのか、外交的ライバルを研究する機会とするか、それはあなた次第ということかもしれません。

ただし、自我がまだまともに形成されていない、現代の若者は、洗脳ばかりされてしまい、外交的ライバルを研究する機会にすることはできないかもしれません。これには、学生自身というよりは、その親も関与すべきですし、その判断に委ねられるべきなのかもしれません。

何しろ、これは実際に有名大学に通われている息子や息子さんの複数の親御さん直に聴いた話ですが、最近の大学生の精神の発達度合いは遅れていて一昔前の高校生なみだということです。彼らを決して、昔の大学生並に扱ってはならないといいます。

確かに、私自身も、新入社員と話をするとそのように感じることも多いです。孔子学院で学ぶかどうかは、親御さんも参加して意思決定したほうが良いように私自身は思います。

とはいいながら、最近の若者はマスコミには印象操作されなくなりつつあります。彼らの多くは、情報の入手先がマスコミではなく、インターネットであり、自分で判断しながら情報を取捨選択しています。

そのような若者は、精神的に一昔前よりは脆弱なところもありますが、容易に印象操作は受けないという面が確かにあります。であれば、さほど心配する必要はないのかもしれません。かえって心配なのは、団塊の世代あたりかもしれません。孔子学院で中国語を学んでいる学生は、孔子学院で話される理想の中国と、現実の中国は違うということ前提としているのかもしれません。

そもそも、いくら精神的に多少脆弱であったにしても、大学生にもなってすぐに洗脳されるような人は、将来役に立つような人材にはなりえないです。いつまでも、人に指示されないと何もできない人になる可能性が高いです。

しかし、ブログ冒頭のように、孔子学院がスパイ活動にかかわっている容疑があることや、中国の民主化や人権擁護の運動にかかわる在米中国人の動向を探る手段にされている可能性、アメリカ人学生への思想的な影響行使のほか、中国人留学生をひそかに組織して民主化運動に走る中国人学生を取り締まっている可能性などが、指摘されており、今後FBIの捜査の進展により明らかにスパイ行為などかあることが立証された場合話は違ってくることになります。

明らかにスパイ活動をしているというのなら、米国でもはっきりと廃止の方向に向かうでしょう。その時は、日本も排除を検討すべきでしょう。

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