2019年3月23日土曜日

【日本の解き方】米財政赤字容認する「MMT」は数量的でなく“思想優先”の極論 日本財政は標準理論で説明可能―【私の論評】貯蓄過剰の現代の世界は桁外れの金融緩和、積極財政が必要だがMMTは不要(゚д゚)!


ドル紙幣でつくられたビキニ

 米国で財政赤字の拡大を容認する「現代金融理論」(Modern Monetary Theory=MMT)の議論が活発になっていると報じられている。

 MMTは、自国通貨を無制限に発行できる政府は、政府債務(国の借金)が増えても問題がないとする経済理論だ。

 現実には、過去にデフォルト(債務不履行)に陥った国は少なくない。2001年のアルゼンチンや15年のギリシャなどの例がある。ギリシャは単一通貨ユーロを採用しているため自国で通貨を発行できなかった。

 なお、ギリシャは破綻(債務不履行と債務条件変更)の常習国だ。カーメン・ラインハート、ケネス・ロゴフ著『国家は破綻する』によれば、1800年以降の200年余の歴史の中で、ギリシャが債務不履行と債務条件変更を行った年数は50%を超える。いうなれば、2年に1度は破綻している国で、ユーロに入る以前には自国通貨でも破綻している。

 これらに対し、米国のMMT支持者は、世界の基軸通貨ドルで借金ができる米国はドルを刷ればいいので、財政破綻はあり得ないと主張する。

 米国の主流派の経済学者は、こうしたMMTの主張に対してバカげていると感情的に反発している。

 筆者にとって、数量的ではない政策議論には意味がない。米国の議論は定性的な極論か経済思想優先で、実りのある政策議論には思えない。

 従来の経済理論では、財政赤字でも中央銀行が国債を買い入れればインフレになる。そのインフレさえ感受できれば政府債務は財政上問題ない。

 これを統合政府のバランスシート(貸借対照表)から見てみよう。政府債務は、中央銀行の国債買い入れで全部または一部が銀行券に置き換わる。国債は有利子有償還であるが銀行券は無利子無償還なので財政問題はなくなる。



 一方、発行された銀行券は実体経済の生産力との関係で、過大になりすぎるとインフレを招く。これは、実体経済の生産力は潜在国内総生産(GDP)水準と近似できるが、それが政府の規模と一定関係であれば、統合政府のバランスシートでの債務超過はインフレをどの程度もたらすかと大いに関係している。また、他国との銀行券の比率において自国通貨が過大になると自国通貨安をもたらす。これらは、MMTによらずとも従来の経済理論から出てくる。

 インフレ率や自国通貨安がどの程度の弊害になるかだが、インフレ率は自国通貨安にも関係するので、結果としてインフレ率が許容範囲かどうかに帰着する。

 先進国で2%程度のインフレ目標は、最小失業率を目指したものだ。それよりインフレ率が高くなると、経済活動の障害など社会コストが高くなる。

 少なくとも、日本のように、インフレ率がインフレ目標まで達していないならば、財政赤字の心配は不要という主張は多くの人に受け入れられるのではないか。これはMMTからでなくとも導かれる標準的な内容だ。MMTの主張は極論すぎると思う。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】貯蓄過剰の現代の世界は桁外れの金融緩和、積極財政が必要だがMMTは不要(゚д゚)!

MMTには三つの以下の中核的な主張があります。
1)自国通貨を持つ国家の政府は、純粋な財政的予算制約に直面することはない。 
2)すべての経済および政府は、生産と消費に関する実物的および環境上の限界がある。 
3)政府の赤字はその他全員の黒字である。
一番目の主張は、広く誤解されている主張です。自国通貨を持つ国の政府とは、自国通貨と中央銀行を有しており、変動為替制度を採用し、大きな外貨債務がないという意味です。日本はそのひとつであり、英国、米国、豪州も該当します。ユーロ圏の国々は自国通貨を持たないので当てはまらないです。これは、当たり前といえば当たり前です。

2番目の主張は、政府はその気にさえなれば、消費しすぎたり課税しなさすぎたりして、インフレを起こすことが出来るという明白な事実を確認しているにすぎないです。現実的な限界を迎えるとき、消費の総合的な水準が、すべての労働力、スキル、物質的な資本、技術および自然資源を投入して生産できる上限を超えているといえます。

間違ったものを大量に生産したり、消費したいものを生産するために間違ったプロセスを使用することで、自然のエコシステムを破壊することも出来るということです。これも当たり前といえば当たり前です。

3番目の主張は、すべての貸し手には、必ず借り手が存在する。つまり金融制度の中では黒字と赤字は足せばいつもゼロになるということです。

政府が巨大な投資を行った場合、それはそれを実施する民間企業にわたり、それは企業の従業員の給料として支払われ、家計からは生活費などとして支払われたり、貯蓄として銀行にまわったり、税金として政府にもどってくるお金もあるということです。

政府の支出はゼロになるというわけではなく、金融制度の中では黒字と赤字は足せばゼロということであり、何やら当たり前といえば当たり前の話です。これは、日本国のバランスシートを見ればわかる話です。

ただし、1)に関しては、自国通貨を持つ国家の政府は、予算制約に直面した場合、自国通貨を自国政府の裁量で刷り増すことができるので、制約に直面することはないということです。ただし、際限なく刷り増せば、インフレになります。

標準理論でもMMTの全部の主張をいえるし、それを超えるの部分(予算制約なしなど)では極論すぎます。MMTは、定量的な議論には向いていません。つまりMMTなしでも標準理論で十分という意味で、MMTは不要です。

では、なぜこのような理論が注目を浴びているのでしょうか。それはブルームバーグの以下の記事が参考になります。
MMT台頭は積極財政論への「パラダイム転換」を示唆-PIMCO
詳細は、この記事をごらんいただくものとして、この記事から一部を引用します。
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は、「現代金融理論(MMT)」の主張がにわかに注目を集めていることについて、経済成長を促すために政府が財政手段を用いることに対する支持の拡大を示唆するとの見方を示した。 
  PIMCOのグローバル経済アドバイザー、ヨアヒム・ フェルズ氏と世界債券担当最高投資責任者 (CIO)のアンドルー・ボールズ氏は21日公表の経済見通しで、「MMTが公の論議で最近目を引いているのは、緊縮財政から、成長促進や世界的な過剰貯蓄への対応、拡大する所得・富の不平等の是正のための手段として、財政政策をもっと積極的に用いるべきだとする新たな主流の見解への広範なパラダイム転換を象徴する」と記した。
 現在では、全世界的に過剰貯蓄の状態になっているのは間違いないです。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、全世界的に過剰貯蓄なっていることを示唆する野口氏の主張を以下に引用します。
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
ローレンス・サマーズ氏

この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。
このような状況を打開するためには、無論大規模な金融緩和をしつつ、かなりの積極財政をし続けなければならないということです。そのため、MTTのような理論が形成され、話題となっているのでしょう。

それにしても、先に掲載したように、別にMTTがなくても、既存の経済理論(現在緊縮を主張する日本主流の経済学者らの理論ではありません、あくまで世界標準のマクロ経済理論ということです)で十分説明可能ですし、計量的にも、過剰貯蓄の状況は説明できますし、さらにそれに対する対処法も導くことできます。

であれば、新たな理論など構築する必要もないです。そのようなことよりも、既存の標準の理論で、日本や世界中の国々の財政を定性的・定量的に分析し、その上で対処法を決めるべきです。

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2019年3月22日金曜日

南シナ海問題、米国とフィリピンの「温度差」―【私の論評】米国とアジア各国にTPP協定を広げ対中国経済包囲網を強化するが日本の役割(゚д゚)!

岡崎研究所

 ポンペオ米国務長官は3月1日、訪問先のフィリピンでドゥテルテ大統領、ロクシン外相と会談、同外相との共同記者会見で、南シナ海における米比相互防衛条約の適用を明言した。この問題での、ポンペオ長官の発言は次の通り。

フィリピンの海岸にて

 冒頭発言:島国としてフィリピンは、自由な海洋へのアクセスに依存している。南シナ海における中国の人工島建設と軍事活動は、米国だけでなく貴国の主権、安全、したがって経済的活動に脅威を与えている。南シナ海は太平洋の一部をなしているので、同海域におけるフィリピンの軍、航空機、公船に対する如何なる攻撃も、米比相互防衛条約第4条の相互防衛義務発動の引き金となる。

 質疑応答:米比相互防衛条約下での我々のコミットメントは明確だ。我々の義務は本物であり、今日、南シナ海は航行の自由にとり重要な海域の一部をなしている。私は、トランプ政権が、地域と世界中の安全、商業的航行への自由のため、これらの海域の開放性が確保されるようコミットしていることを、全世界が理解していると思う。我々は、その取り組みにおいてフィリピンだけでなく――フィリピンはその一環である必要があるが――この極めて重要な経済的シーレーンの開放性を維持し中国がこれを閉ざすと脅さなくするべく、地域の全ての国々を支持することにコミットし続ける。

出典:‘Remarks With Philippine Foreign Secretary Teodoro Locsin, Jr.’(U.S. Department of State, March 1, 2019)
https://www.state.gov/secretary/remarks/2019/03/289799.htm

 ポンペオ長官の今回の発言は、南シナ海におけるフィリピン軍等への攻撃が米比相互防衛条約の対象になると明言したことで注目された。この発言が大きな意味をもつ理由は同条約第4条の規定にある。第4条は「各締約国は、太平洋地域におけるいずれか一方の締約国に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」としている。つまり、南シナ海は条約に言う太平洋に含まれないとも解釈する余地があったのを、太平洋を含むと明確にしたのである。

 ドゥテルテ政権下のフィリピンは、米国、中国との関係で立場がふらついているきらいがある。その原因の一つには、米国の対比防衛へのコミットメントの確実性へのフィリピン側の不安もあると思われるので、ポンペオ長官の今回の発言は歓迎できる。南シナ海における中国の軍事活動を名指しで批判したのも適切である。

 ただ、フィリピン側には、米比同盟をめぐり歴史的に複雑な感情があり、今回の共同記者会見でのロクシン外相の発言からも、それが続いていることが窺われる。ロクシン外相は、米比間の協力を強調しつつ、フィリピンにおける米比相互防衛条約の「見直し」要求があることについて、更なる考慮が必要であるとして「曖昧さの中に、不確実性つまり抑止力がある。明確化は遺漏と条約外の行動を招く。しかし、過度の曖昧さはコミットメントの強固さを疑わせることになる」と述べている。

 このように、米比間には少し温度差が見られるので、米比協力には今後とも何らかの紆余曲折があるかもしれない。米国の南シナ海における航行の自由作戦をはじめとする軍事行動を含む努力の継続が重要で、その中で、その助けとなる米比関係が緊密化していくかどうかにも注目していくということであろう。

【私の論評】米国とアジア各国にTPP協定を広げ対中国経済包囲網を強化するが日本の役割(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で、「ドゥテルテ政権下のフィリピンは、米国、中国との関係で立場がふらついているきらいがある」とありますが、確かにそのきらいがいくつかあります。

まずは、フィリピンはかつて米国の植民地だったことがあります。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【スクープ最前線】ドゥテルテ比大統領、米国憎悪の真相 CIAによる暗殺計画の噂まで浮上―【私の論評】歴史を振り返えらなければ、米国への暴言の背景を理解できない(゚д゚)!
握手するドゥテルテ比大統領と、安倍首相
この記事は、2016年10月26日のものです。このときにはまだトランプ大統領は存在しておらず、オバマが大統領でした。

この当時、米国への憎悪を顕にしていたドゥテルテ大統領ですが、その背後には米国とフィリピンの過去の関係があったのです。それは、フィリピンがスペインの植民地から独立しようとしていたとき、米国はスペインからフィリピンを買い取る約束をし、それに腹を立てたフィリピンが米国と戦争をし、結局負けて米国の植民地となったという屈辱の歴史があるのです。

これが、フィリピンが米国、中国との関係で立場がふらついていることの背景にあることは間違いありません。これについては、説明すると長くなるので、これ以上この記事では説明しません。詳細を知りたい方は、リンク先の記事をご覧になってください。

さらに、最近ではフィリピンにある旧米海軍スービック基地が中国資本の手に陥る恐れが出てきたということがあります。

1月8日、フィリピン・サンバレス州スービック湾にある造船所を運営してきた韓国の中堅造船会社の現地法人が、現地の裁判所に会社更生法の適用を申請したのが、事の発端でした。

スービック湾

地元メディアの報道によると、フィリピンと韓国それぞれの金融機関からの同社の負債総額は約13億ドル(約1430億円)となり、数千人が解雇される見通しで、フィリピン史上最大の経営破たんのひとつだといいます。

そして、そこに「中国企業が買収に名乗りを上げた」(ロドルフォ比貿易産業次官)のです。

スービック湾地域は、1884年にスペインが海軍基地として利用を開始し、1889年には米国に管理権が移り、米軍が撤退する1991年まで米海軍の重要な軍事拠点でした。海軍基地は、その後、スービック経済特別区(SBFZ)に指定されました。総面積は760キロ平方メートルと、シンガポールの面積を上回り、工業団地には日系企業も多数入っています。

一方、造船所は2006年に操業を開始し、これまでに123隻の中・大型船を建造。船舶受注残高で世界のトップ10に入ったこともありますが、10年代に造船不況が深刻化してからは下降線をたどってきました(2月13日時点で親会社の韓進重工業も債務超過となりました)。

中国が進出する南シナ海に面するスービック湾は、米軍基地がなくなったとはいえ、日本や米国の艦船の寄港地にもなっています。海上自衛隊の護衛艦「かが」は18年9月、初の海外寄港としてスービック湾に入港。

在比日本大使館によると、「かが」に乗艦・視察したドゥテルテ比大統領はこの時、社交辞令かもしれないが「日本との防衛協力を一層強化していきたい」などと語りました。

仮に中国資本がスービック湾に進出すれば、日米の艦船が中国の監視下に入ることになります。

ペンス米副大統領

ペンス米副大統領は、18年10月に行った演説で、中国について「(米国の)地政学的な優位性に異議を唱え、国際秩序を有利に変えようとしている」と批判。さらに「関税、為替操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗」に加えて、人権や宗教を弾圧しているとして、中国共産党を名指しで非難しました。

経済分野のみならず人権にまで踏み込み、共産党をも標的にしたことから、米中の「新冷戦」が本格化したと内外で受け止められました。

実際、トランプ政権は「ゼロ・サム的なアプローチ」(米高官)で貿易戦争を中国に仕掛けており、トランプ支持層の間では歓迎されています。しかし、こうした強面の手法に艶が感じられないのは、オバマ前政権が中国を念頭に構築しようとした東アジアの多国間の枠組みが軽視され、域内の米軍の前方展開も縮小の危機にさらされているためです。

オバマ前大統領は、ロシアや中国による「一方的な現状変更」に対して、軍事的な解決より対話を優先させたことから、「弱腰」と批判を浴びました。一方、「世界の警察官を降りた」(オバマ氏)かもしれないですが、同盟網の再整備と国際的なルール・規範づくりを主導することで、米国の国際社会における指導的な地位を維持しようともしました。

オバマ氏は、11年9月、「アジア重視政策」をぶち上げて、オーストラリア北部のダーウィンに2500人の米海兵隊を展開すると発表。14年4月には、米軍にフィリピン国内基地の共同使用を認める米比の新軍事協定を締結しました。これによって米軍は冷戦後、約23年ぶりにフィリピンに回帰しました。そうして、中国への経済的な包囲網は、言うまでもなく環太平洋連携協定(TPP)でした。

これに対してトランプ氏はTPPを撤退し、米国が主要メンバーである東アジアサミットを事実上欠席しました。「米軍を韓国に維持するのは非常に高くつく。いつか(撤収)するかもしれない」と在韓米軍の撤退すらほのめかしました。

トランプ政権は、北朝鮮との核協議、中国との貿易戦争とアジアで外交戦線を拡大していますが、政権発足から3年目に突入しても、いまだにアジア外交の司令塔となる国務省高官(東アジア担当の次官補)は不在のままなのです。

米国の攻勢に対して、中国側もやられっぱなしではありません。中国企業「嵐橋集団(ランドブリッジ)」が15年、米海兵隊が駐留するオーストラリア北部ダーウィンの港湾管理権を獲得(99年の貸与契約)。

習近平総書記(国家主席)は17年の共産党大会で「建国100周年を迎える49年ごろ、トップレベルの総合国力と国際影響力を有する『社会主義現代化強国』を築く。世界一流の軍隊を建設する」と高らかに表明しました。

先に記したペンス演説は、中国のこうしたスタンスに対応したものですが、アジア各国との連携がないなかで、旧スービック基地が中国企業に狙われている事実の重要性には注意が払われていません。一方、ドゥテルテ氏は「中国企業を扱うのには慣れている」と述べ、中国企業がスービックの造船所を買収しても問題ないとする立場を示しています。

フィリピンは、アキノ前政権時代、南シナ海での領有権争いをめぐり中国を国際的な仲裁裁判所に訴え、中国が主張する管轄権を全面否定する勝利を勝ち取るなど対中最強硬派を自任していました。それがドゥテルテ氏に代わって一転、「親中的」になり、昨年11月、中国との間で南シナ海での天然ガス・石油を共同で資源探査する覚書を交わしました。

スービック湾の造船所買収には、日本や豪州の企業も手を挙げています。フィリピンのロレンザーナ国防相はメディアに対して「フィリピンが造船所を引き継ぎ、海軍基地を保有したらどうか。造船技術も取得できる」と述べましたが、ドゥテルテ氏の判断はどうなるかわかりません。

貿易赤字の縮小や知的財産の保護などで中国を屈服させれば、長期的には中国によるアジア支配の勢いを阻止することができるかもしれませんが、スービック湾が中国資本に落ちることがあれば、短期的にはどうなるかはわかりません。


ドゥテルテ大統領は親日家としても知られています。日本としては、米国とフィリピンをうまくとりもつ役割をにない、さらに長期的な視野にたち、米国はもとよりフィリピンもTPPに加入できるように支援していくべきです。

TPPは今や日本が旗振り役となって、11ヵ国によりすでに発効しています。たとえ米国や中国が動かなくとも、世界は動くのです。特にこれは、貿易においては確かな事実です。環太平洋経済連携協定(TPP)は、ドナルド・トランプ米大統領が離脱を表明した2年後、TPP11という新たな装いの下で年明けとともに11カ国で始動しました。これによる最大の敗者は、米国の生産者です。おそらく、トランプの次の大統領は加入する可能性が高いと思います。

フィリピンは、現在TPPには加入していませんが、ブルネイやベトナムなど近くの国も加入しています。日本としては、いずれ加入してもらうことを前提として、様々な支援をしていくべきです。

昨年6月22日来日中のフィリピンのディオクノ予算管理大臣が朝日新聞の取材に応じ、米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP11)について、「参加することもオープンだ」と述べ、参加に意欲を示していました。タイや韓国なども参加を検討しており、協定がアジア各国に広がる可能性が出てきました。

韓国に関しては、最近日本政府が、いわゆる「元徴用工」への異常判決など、国際法や2国間協定に違反する暴挙を連発している韓国への対抗措置として、同国がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)へ新規加入を希望した場合、「加入を拒否する」方針を強めているのでどうなるかは、わかりません。

しかし、今後米国はもとより、アジア各国に協定を広げて、対中国経済包囲網を強化していくのが日本の役割だと思います。特に、米国とフィリピンが日本が主導したTPPに加入した場合、米比間の温度差はなくなる可能性が高いと考えられます。

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2019年3月21日木曜日

対中経済減速…10月消費増税に「黄信号」 田中秀臣氏「政策に大胆さ欠け手詰まり感」―【私の論評】増税すれば新たな怪物商品が登場し、日本はデフレスパイラルの底に沈む(゚д゚)!

対中経済減速…10月消費増税に「黄信号」 田中秀臣氏「政策に大胆さ欠け手詰まり感」

日本の主要貿易港の東京港。中国経済減速の影響が、対中輸出の減少に表れた

  今年10月に予定される消費税率の引き上げに、「黄信号」がともり始めた。対中経済の減速が顕在化し、国内景気も落ち込み局面に入ったようなのだ。米中貿易戦争は終止する気配がなく、英国の欧州連合(EU)からの離脱も不透明感が増す。安倍晋三首相は来月の新年度突入後、「増税見送り」を判断するのか。

 財務省が18日に発表した2月の貿易統計(速報)で、日本から中国への輸出額は前年同月比5・5%増加し、1兆円の大台に乗せた。

 だが、これは中国の経済活動が鈍る旧正月(春節)の時期が、今年は10日ほど早まり、早めに操業を休止する工場が増えた反動が大きいようだ。

 1~2月の合計でみると、前年同期の水準を6・3%も下回っている。

 2月のアジア全体(中国含む)への輸出は1・8%減の3兆3141億円と、4カ月連続マイナスになった。
 「リフレ派の論客」として知られる上武大学の田中秀臣(ひでとみ)教授は「中国との取引縮小は、世界経済悪化の象徴だ。間違いなく日本経済の足を引っ張っている。中国の経済政策は大胆さに欠け、手詰まり感があるために、今後どうなるのか、懸念材料だ」と指摘する。

 日本政府が発表する数字も悪くなっている。

 経済産業省が2月末に発表した1月の「鉱工業生産指数速報値」(2015年=100、季節調整済み)は100・8で、前月比で3・7%下げた。業種別では、全15業種のうち12業種が前月を下回っていた。

 内閣府が7日に発表した1月の景気動向指数は3カ月連続で悪化した。景気判断も「足踏み」から「下方への局面変化」に引き下げた。

 8%から10%への増税前に家計を温めるべきだが、この先、景気がさらに悪化したところで増税となれば、日本経済には大打撃になる。

 前出の田中教授は「政府や日銀には『日本経済はそれでも緩やかに成長している』との基本シナリオがあるが、間違いだ。幅広く分析すれば、14年に消費税率を8%へ引き上げた時よりも、今秋の増税で景気の落ち込みがより大きくなる可能性がある。国際情勢の不透明感もある。とても10%に上げるのは無理だ」と語った。

【私の論評】増税すれば新たな怪物商品が登場し、日本はデフレスパイラルの底に沈む(゚д゚)!

上記で、10%に増税することは無理な理由が述べられていましたが、これ以外にも今回の増税はかなり厳しい理由があります。それは、購買者の心理的要因です。

次の消費税増税は税率が10%へと2ポイント引き上げられるから、増税幅だけを見ると前回(5%→8%)より小さいです。経済学は『人間は合理的だ』という仮説に立っていますから、今回の消費増税の影響は前回より小さくなると予想することになりがちです。“2ポイントくらいたいしたことはない”というわけです。

しかし、心理学は『人間は合理的でない』という前提に立ちます。だから消費税率が3%や8%時には税額が計算しにくく、税負担をあまり考えない人も一定数いる一方、税率10%だと計算は簡単だから、誰もが“こんなに税金が高いのか”と買い控えるようになると予想できます。

今までは3%とか8%を明確に計算しながら買物をしていた人がどのくらいいたでしょうか。人間の行動に「複雑と思われる計算は簡単に諦めてしまうこと」があります。消費税そのものより明確に提示される配送料をより負荷や損失と感じる人の方が多いように思えます。

それが今度は10%という計算のしやすさから「消費増税」自体への警戒感がより強まりはしないかという点を指摘しておきたいです。

現在、多くのディスカウント衣料品チェーン店の多くで採用されている税抜き表記があります。これは税負担をイメージさせず、安さを強調しやすいテクニックとして広がっています。

衣料品の税抜き表記の事例

この総額表示義務に関する特別処置法は2021年3月末日までは有効なので、今回の増税についての影響は少ないと予想します。だいたい総額表記と税抜き表記が市場で混在していること自体、とてもフェアとは思えないですが、そこも商魂と捉えられてしまうのでしょうか。いずれにしても増税感をイメージさせない施策、取り組みが望まれるところです。

もし、10%になれば、1,000円の買い物をしたら100円の消費税、1000万円の買い物をしたら、100万円の消費税です。1億円の買い物なら、1000万円です。これは、購買心理が萎縮するのは当然です。

消費税アップの場合、言うまでもなく基準値は以前の価格です。そうして、1000円の商品Aと2000円の商品Bを考えると、当然ながらBの方が消費税アップによる値上がり幅の方が大きいです。そして人は支払い(≒手持ちのお金が減ること)が基本的に大嫌いです。

このときAとBが代替可能であれば、値上がり幅が小さいAを、すなわち低価格商品を買いたくなるのは当然の心理です。つまり消費税アップは必然的に、同じ商品カテゴリーの中で、低価格商品シフトを誘引することになるのです。

例えば、発泡酒・第三のビールと消費税とは決して無関係ではありません。実は発泡酒の歴史は意外に古くて1950・60年代には複数ブランドが販売されていたのですが、日本人が豊かになるにつれて、高価だが美味しいビールが好まれるようになり、いつしか発泡酒は市場から姿を消してしまいました。

それが1989年に、消費税が導入された直後から量販店間でビール価格の低価格競争が激化し、その流れを受けて1994年に発泡酒が発売され、さらに安い第三のビールも登場して、今やそれらの市場は本家のビールをはるかに凌ぐほどに成長しています。まさに、消費税が低価格の発泡酒を墓場から蘇らせた、と言っても過言ではないのです。

また、導入以降の消費税は数度にわたって引き上げられてきましたが、その間に牛丼やハンバーガーの低価格競争や、低価格ファストファッションや100円ショップの台頭などに代表される低価格志向が次々と起きて、日本経済はデフレからなかなか抜け出せないでいます。


それどころか、スーパー等では200円台のお弁当が売り出されるようになりました。これが最初にテレビで報道されたときは、私自身もかなり驚きました。デフレも極まったと恐怖心すら感じました。

そして歴史は繰り返すのです。2019年の消費税アップの際にも、消費者の低価格商品へのシフトは間違いなく起きるはずです。メーカー、流通を問わず、低価格志向への対応が待ったなし、です。そしてデフレ脱却はまた遠のくことになりそうです。

そうして、今回の増税により、発泡酒や200円お弁当の他にどのような怪物商品がてでくるのか、予想もつきません。

しかも、毎度の低価格商品シフトだけでも悩ましいのに、今回は酒類を除く飲食料品と定期購読新聞だけに日本初の軽減税率が適応されることで、新種の大問題が起きそうです。



例えば、マクドナルドや吉野家などの場合、店内で食べれば外食として10%(2%価格アップ)、テイクアウトすれば8%(価格据え置き)の消費税が適応され、一物二価となります。

「テイクアウト用として安く購入してこっそりと店内飲食」というズルイ抜け道はひとまず考えないこととすると、現在店内飲食している多くの客は、消費税アップ後はどういう行動を取るでしょうか。
わざわざ認知的不協和の法則を持ち出すほどもないが、以下の3タイプの消費行動に別れるでしょう。ー
①価格アップを不本意ながら受け入れて、これまで通り店内飲食 
②価格アップが嫌なので、仕方なくテイクアウト 
③価格アップかテイクアウトかの葛藤を避けるために、その店舗に行くこと自体を止める
実は飲食店にとっては①も②も、それに前述の抜け道「テイクアウト→店内飲食」も同じことです。後から行政に納める消費税額の違いだけであって、飲食店の実質的売上には関係ないです。

その意味では、飲食店にとって問題になるのは③のケースだけですが、私はそういう人が少なからず出てくるのではないかと思います。
と言うのも、当初は結構な人が「テイクアウト→店内飲食」をちゃっかりと選択するような気がするのですが、ルールを厳守する日本人の気質を考慮すると、彼らの大多数が後ろめたいとか恥ずかしく感じるはずで、やがては否応なく③を選択するようになる、と推察できるからです。

また、①と②を選んだ人にとっても、決して後味がよいわけではないです。①ではまるでボラレタような悔しさを、②では店から追い出されたような雪辱感を覚えて顧客価値が下がり、やがては来店しなくなる危惧もあります。ファストフード業界にとって、軽減税率はさぞや頭の痛い問題でしょう。

1989年に税率3%で導入された消費税は、1997年に5%、2014年に8%と7~8年の期間で逐次引き上げられてきました。今回は当初10%への引き上げを2015年に予定していたものを、2度に渡る景気判断(景気弾力条項の規定より)から先送りして、来年に施行されるといった経緯をたどりました。

前回の「8%増税」後、3年間で家計の実質消費が1か月あたり平均2万8000円(年間約34万円)も落ち込み、実質賃金は4%以上ダウンしました。高成長路線に乗ったかに見えた日本経済はあっという間にマイナス成長に転じました。

2020年オリンピックに向けてひた走る日本経済に向かってとんだ冷や水になりかねません。これに向けての対策は、簡単です、増税などしないということです。

増税は、景気が加熱し、インフレになりそうなときに実施すれば良いのです。デフレから抜けきっていないときするものではありません。

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2019年3月20日水曜日

日本もファーウェイ排除宣言を、曖昧は国を亡ぼす―【私の論評】日本には旗幟を鮮明にすべきときが迫っている(゚д゚)!




■ 「米中ハイテク覇権争い」により世界はブロック化する

今年の中国全人代、の政府活動報告から「製造2025}という言葉が消えた

 北京で開催されていた2019年の全国人民代表大会(全人代)が終了した。

 米ドナルド・トランプ政権を刺激する「中国製造2025」に言及する者はいなかった。あたかも、米中貿易戦争下において、鄧小平の「韜光養晦(とうこうようかい)」(才能を隠しながら、内に力を蓄え、強くなるまで待つこと)が復活したような状況である。

 李克強首相は、中国政府が中国企業にスパイ行為をさせているという欧米の批判に対して、次のように反論した。

 「(スパイ行為は)中国の法律に適合せず、中国のやり方ではない。スパイ行為は現在も将来も絶対にしない」

 しかし、私はこの主張を全く信じないし、これを信じる中国専門家はほとんどいないであろう。

 中国は、過去において国家ぐるみで先端科学技術などの入手を目的としたスパイ活動を活発に行ってきたし、現在も行っていて、将来においても必ず行うであろう。

 李首相の発言は、中国要人の「言っていることとやっていることが違う」という言行不一致の典型である。

 習近平主席が「中華民族の偉大なる復活」「科技強国」「製造強国」路線を放棄するわけもなく、トランプ政権が求める構造改革に応じず、結果として「米中の覇権争い」、特に「米中のハイテク覇権争い」は今後長く続くであろう。

 米中ハイテク覇権争いの焦点になっている華為技術(ファーウェイ)は、全人代開催中の3月7日、「米国で2018年8月に成立した国防権限法によってファーウェイの米国事業が制約を受けているのは米憲法違反だ」として米国政府を提訴し、全面的に戦う姿勢を見せている。

 ファーウェイの第5世代移動通信システム(5G)は、スウェーデンの通信機器大手エリクソンやフィンランドのノキアなどの競合他社を性能と価格で凌駕していると評価されている。

 世界の通信事業者にとってファーウェイは魅力的な選択肢である一方、米国側にはファーウェイを凌駕する代替案がないのが現実である。

 トランプ政権は、安全保障上の脅威を理由にして、ファーウェイを米国市場のみならず同盟諸国などに圧力をかけて世界市場からも排除しようとしている。

 その結果、世界は米国のブロックと中国のブロックに二分されようとしている。

 しかし、米国の同盟国のファーウェイ排除の動きは一致団結したものにはなっていない。

 日本やオーストラリアなどは米国の意向に沿う決定を一応下しているが、ドイツや英国は米国のファーウェイ排除の要請に対してあいまいな態度を取っている。

 その理由は、なぜファーウェイが安全保障上の脅威であるかを証明する具体的な証拠を米国が提示していないこと、トランプ大統領が同盟諸国に対して同盟を軽視するような言動を繰り返してきたことに対するドイツなどの欧州主要国の反発などであろう。

 米国は、5Gにおいて世界を米国のブロックと中国のブロックに二分する政策を取りながら、米国ブロックに囲い込まなければいけない欧州主要国の明確な支持を取りつけられていない。

 このような状況下で、英国の有力紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は「ファーウェイ、排除ではなく監視が必要」 という社説を掲載し、「各国政府はファーウェイ製品の使用を禁じるよりも、監視を続けていくことが自己利益につながる」*1
と主張した。 *1=FT、“Huawei needs vigilance in 5G rather than a ban”

■ 「ファイブ・アイズ」で異なるファーウェイ排除の姿勢

 米国主導で機密情報を共有する5カ国の枠組み「ファイブ・アイズ」の国々のファーウェイ排除の姿勢はバラバラになっている。

 かつて米国と密接不可分な同盟関係にあった英国は、ファーウェイ排除の姿勢を明確にはしていない。

 英政府通信本部(GCHQ)の指揮下にある国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)が、「ファーウェイ製品を5G網に導入したとしてもリスクを管理することは可能だ」という結論を出した。

 英国はこの春にファーウェイの処遇を決めるが、ドイツとともに排除しない方向に傾いている可能性がある。

 これに対して、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の報告書*2
は、「ノキアやエリクソンではなくファーウェイの通信機器を使用するのは甘い考えと言うしかなく、最悪の場合は無責任ということになる」と批判している。 安全性のはっきりしない機器は、これを排除する方が安心だという。英国の有力な機関が全く違う見解を公表しているわけだ。

 一方、豪国防信号局は「通信網のいかなる部分に対する潜在的脅威も全体への脅威となる」として、ファーウェイを5Gに参入させないよう求めている。

 オーストラリアやニュージーランドは5G網にファーウェイ製品を使わないことを決定している。

■ ドイツは米欧州軍司令官の警告を受けた

 米欧州軍司令官(NATO=北大西洋条約機構の軍最高司令官を兼務)スカパロッティ(Curtis Scaparrotti)大将は、3月13日の米下院軍事委員会において、次のように発言した*3
。 「5Gの能力は4Gとは圧倒的な差があり、NATO諸国の軍隊間の通信に大きな影響を与える。NATO内の防衛通信において、(ドイツや欧州の同盟国がもしもファーウェイやZTEと契約するならば)問題のある軍隊との師団間通信を遮断する」

 この発言は、ファーウェイの5Gを導入する可能性のあるドイツなどを牽制する下院議員の懸念に答えたものだ。このスカパロッティ大将のドイツに対する警告は、日本への警告と受け止めるべきであろう。

 ドイツは、ファーウェイを名指しでは排除しない方針だが、アンゲラ・メルケル首相は「米国と協議する」と発言している。

 また、ドイツで5G網の整備を目指す英国のボーダフォンCEO(最高経営責任者)は「ファーウェイ製品を使わなければ整備は2年遅れる」と指摘して、ドイツの5G網の整備をめぐる苦悩は大きい。

 *2=英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)、“China-UK Relations-Where to Draw the Border Between Influence and Interference?  ”

 *3=House Armed Services Committee、“HASC 2019 Transcript as Delivered by General Curtis Scaparrotti”

■ 新たに判明したファーウェイの野望

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は3月14日付の記事*4
で、世界のインターネット網の支配を巡る米中の海底バトルを紹介している。 米中の海底バトルとは、海底ケーブル(海底に敷設された光ファイバーの束)を巡る戦いだ。

 現在、世界で使用されている海底ケーブルは約380本あり、それらが大陸を連結する音声・データトラフィックの約95%を伝送していて、ほとんどの国の経済や国家安全保障にとって不可欠な存在となっている。

 ファーウェイはこの海底ケーブル網に食い込んでいる。

 ファーウェイが過半数の株式を保有する華為海洋網絡(ファーウェイ・マリン・ネットワークス)は、全世界において驚くべきスピードで海底ケーブルを設置し、業界を支配する米欧日3社に急速に追いつきつつある。

 海底ケーブル分野では米国のサブコムとフィンランドのノキア・ネットワークス(旧アルカテル・ルーセント)の2社による寡占状態にあり、日本のNECが3位につけ、ファーウェイは4位につけている。

 ファーウェイが海底ケーブルに対する知識やアクセス権を保有することで、中国がデータトラフィックの迂回や監視をするデバイスを挿入したり、紛争の際に特定の国への接続を遮断する可能性が指摘されている。

 こうした行為は、ファーウェイのネットワーク管理ソフトや沿岸の海底ケーブル陸揚げ局に設置された装置を介してリモートで行われる可能性があるという。

 米国などの安全保障専門家は、海底ケーブルに対するスパイ活動や安全保障上の脅威について懸念を表明し、次のように述べている。

 「ファーウェイの関与によって中国の能力が強化される可能性がある」

 「海底ケーブルが膨大な世界の通信データを運んでいることを踏まえれば、これらのケーブルの保護が米政府や同盟国にとって重要な優先事項である」

 ファーウェイは一切の脅威を否定し、「弊社は民間企業であり、顧客や事業を危険にさらす行為をいずれの政府にも要請されたことはない。もし要請されても、拒否する」と反論している。

 *4=“America’s Undersea Battle With China for Cotrol of Global Internet Grid”

■ デジタル・シルク・ロードとファーウェイの関係

 中国は広域経済圏構想「一帯一路」の一環として、海底ケーブルや地上・衛星回線を含む「デジタル・シルク・ロード」の建設を目指している。

 中国政府のDSRに関する戦略文書では、海底ケーブルの重要性やそれに果たすファーウェイの役割が言及されている。

 中国工業情報化省付属の研究機関は、海底ケーブル通信に関するファーウェイの技術力を称賛し、「中国は、10~20年以内に世界で最も重要な国際海底ケーブル通信センターの1つになる態勢にある」と述べた。

 ファーウェイ・マリンは、「一帯一路やDSR計画で正式な役割は一切果たしていない」と説明しているが、ファーウェイが中国政府の大きな戦略に組み込まれていることは否定のしようがないであろう。

■ 米国側につくか、中国側につくか?  我が国は曖昧な態度を取るべきではない

 既に記述した米欧州軍司令官スカパロッティ大将の「(ドイツや欧州の同盟国がもしもファーウェイやZTEと契約するならば)問題のある軍隊との師団間通信を遮断する」という警告は、日本にも向けられていると認識すべきだ。

米欧州軍司令官スカパロッティ大将

 日本にとってのファーウェイ問題は、米国が安全保障上の脅威と認識する以上、その意向を無視するわけにはいかない。

 なぜならば、我が国が直面する中国の脅威は、欧州諸国が直面する脅威とは比較にならないくらい大きいからだ。

 我が国の報道では、2018年12月10日の関係省庁申し合せ「IT調達に係る国の物品等又は役務の調達方針及び調達手続きに関する申し合わせ」を根拠として、防衛省・自衛隊がファーウェイ等の中国企業から物品役務を調達することはないとされている。

 しかし、この申し合わせには中国企業名が列挙されているわけではなく、あいまいさが残る。

 よもやそんなことはないと思うが、もしも自衛隊の装備品にファーウェイの技術や製品が入っている場合、米軍は「自衛隊との通信を断つ」と宣言するであろう。

 米軍にそう引導を渡されて慌てふためくことがないように、今から断固としてファーウェイやZTEなどの中国企業の製品を排除すべきだろう。

 その点で、日本政府のファーウェイなどの中国企業名を明示しないというあいまいな態度はいかがなものか。

 米国政府は、本気でファーウェイ等の中国企業を米国市場から排除しようとしている。我が国は、ドイツや英国のようなあいまいな態度を避け、断固として米国の側につくべきである。

 気になるのは、安倍晋三首相の3月6日の参院予算委員会での発言だ。

 安倍首相は、日中関係について「完全に正常な軌道へと戻った日中関係を新たな段階へと押し上げていく」「昨年秋の訪中で習近平国家主席と互いに脅威とならないことを確認した」と発言した。

 しかし、本当に日中関係が「完全に正常な軌道」に戻ったのか、本当に中国は脅威ではないのか? 

 このような楽観的な対中認識は、トランプ政権の厳しい対中認識とは明らかに違う。


 「米国側につくか、中国側につくか、日本は曖昧な態度を取るべきではない」という注意喚起は、サミュエル・ハンチントンが「文明の衝突」で日本に対して与えた警告でもある。

渡部 悦和

【私の論評】日本には旗幟を鮮明にすべきときが迫っている(゚д゚)!

ハンチントンの日本に関する基本的な見解は、『文明の衝突』日本語版に述べられています。
文明の衝突というテーゼは、日本にとって重要な二つの意味がある。
第一に、それが日本は独自の文明をもつかどうかという疑問をかきたてたことである。オズワルド・シュペングラーを含む少数の文明史家が主張するところによれば、日本が独自の文明をもつようになったのは紀元5世紀ごろだったという。 
私がその立場をとるのは、日本の文明が基本的な側面で中国の文明と異なるからである。それに加えて、日本が明らかに前世紀に近代化をとげた一方で、日本の文明と文化は西欧のそれと異なったままである。日本は近代化されたが、西欧にならなかったのだ。 
第二に、世界のすべての主要な文明には、2ヶ国ないしそれ以上の国々が含まれている。日本がユニークなのは、日本国と日本文明が合致しているからである。そのことによって日本は孤立しており、世界のいかなる他国とも文化的に密接なつながりをもたない。 
ハンチントンが言うように、日本は独自の文明です。しかも世界の主要文明のひとつです。私の知るところ、この点を最初に明確に主張したのは、比較文明学者の伊東俊太郎氏です。

人類の文明史を見るには、主要文明と周辺文明という区別が必要です。私は、日本文明は、古代においてはシナ文明の周辺文明でしたかが、7世紀から自立性を発揮し、早ければ9世紀~10世紀、遅くとも13世紀には一個の独立した主要文明になりました。

そして、江戸時代には熟成期を迎え、独創的な文化を開花させました。それだけ豊かな固有の文化があったからこそ、19世紀末、西洋近代文明の挑戦を受けた際、日本は見事な応戦をして近代化を成し遂げ、世界で指導的な国家の一つとなったのです。
15世紀から20世紀中半までの世界は、西洋文明が他の諸文明を侵略支配し、他の文明のほとんどーーイスラーム文明、インド文明、シナ文明、ラテン・アメリカ文明等――を西洋文明の周辺文明のようにしていました。この世界で、民族の独立、国家の形成、文明の自立を進め、文明間の構造を転換させる先頭を切ったのが、日本文明でした。

日本文明は、西洋近代文明の技術・制度・思想を取り入れながらも、土着の固有文化を失うことなく、近代化を成功させました。日本の後発的近代化は、西洋化による周辺文明化ではなく、日本文明の自立的発展をもたらしました。この成功が、他の文明に復興の目標と方法を示しました。
15世紀以来、世界の主導国は、欧州のポルトガル、スペインに始まり、覇権国家はオランダ、イギリスからアメリカと交代しました。この西漸の波は、西洋文明から非西洋文明へと進み、1970年代から21世紀にかけて、波頭は日本、中国、インドと進みつつあるように見えます。
 
ハンチントンの説に話を戻すと、日本文明は彼が論じるとおり「日本国=日本文明」であり、一国一文明という独自の特徴を持っています。ハンチントンは、日本文明は他の文明から孤立しているとし、そのことによる長所と短所を指摘しています。
文化が提携をうながす世界にあって、日本は、現在アメリカとイギリス、フランスとドイツ、ロシアとギリシア、中国とシンガポールの間に存在するような、緊密な文化的パートナーシップを結べないのである。日本の他国との関係は文化的な紐帯ではなく、安全保障および経済的な利害によって形成されることになる。しかし、それと同時に、日本は自国の利益のみを顧慮して行動することもでき、他国と同じ文化を共有することから生ずる義務に縛られることがない。その意味で、日本は他の国々が持ちえない行動の自由をほしいままにできる。
さて、このような日本文明を前提としているサミュエル・ハンチントン著書『文明の衝突と21世紀の日本 』(集英社新書) 新書 – 2000/1/18について解説します。この著書は新書なので、かなり読みやすいです。



『文明の衝突』を読むのは大変ですが、この書籍は日本に特化しているのと、『文明の衝突』が出版させたあとの出来事も掲載されているため、さらに理解しやすいものになっています。ただし、そうでありながら、やはり『文明の衝突』で主張されている事柄を変えることなく、解説しています。

構成は大きく3つに分かれていて、最初のパートのテーマは、冷戦時代とガラリと変わってしまった世界構造のなかで日本はどういう選択をするか、です。日本は過去、常に一番強いと思われる国に追随する戦略をとってきました。そして近い将来、中国が経済的にも軍事的にも強大になってきた時に、日本は、米国か中国か、追随すべき国の選択を迫られるといいます。

2番目のパートでは、唯一の超大国となった米国のとるべき戦略をテーマとしています。ハンチントンは、米国がパワーを保ち続けるためには、唯一の超大国であることをあからさまに押し出すべきではないとします。それをやると反アメリカ包囲網が形成されるといいます。

そして第3のパートでは、文明の衝突理論を簡明に説明しています。1993年に発表されて世界的なベストセラーとなった『文明の衝突』を読んだ人も、もう一度本書のこの部分を読むと、今世界各地で起きている複雑な紛争の意味が理解しやすくなるでしょう。

米ソ冷戦時代が終わって、世界各地で噴き出した紛争は、かつての国家間の紛争とは様相を異にしました。いわゆる内戦とも違って、民族と宗教と文化が複雑に絡み合った国家横断的な戦争が始まっていました。『文明の衝突』はそういう時代の到来を鮮やかに予測していた。本書では、当時起きている紛争を例に挙げて文明の衝突理論を解説しているのでよりわかりやすいです。

米ソ冷戦後は、国家とは別の枠組みで戦争が始まりました。それは国家を超えて影響力のある文明間の対立だといいます。これからは、国家よりも文明の差異が世界の政治・経済構造では重要になるのだそうです。

ハンチントンは、日本を中華文明から独立した1つの文明としていますが、それなら、あえて国家概念を明確にするより、曖昧は曖昧でそれを日本文明の特質とし、他文明との差異に敏感になった方がいいかもしれないです。

その上で、米国や中国をみると、今の米国は中国が世界の秩序を作り直すとはっきり宣言して以来、米国は中国に対して新冷戦を挑んでいます。これは、このブログでもかねてから主張しているように、中国が体制を変えるか、体制を変えないならば、経済的にかなり弱体化して他国に影響を及ぼせなくなるくらいに経済を弱体化させるまで継続されます。

ハンチントンは、唯一の超大国であることをあからさまに押し出すべきではないとしていしました。それをやると反アメリカ包囲網が形成されるといいます。米国は結局これは実行しませんでした。

ところが、中国が超大国になりきっていないうちから、あからさまに押し出し戦略を実行していまいました。そのため、今の世界では反中国包囲網が形成されつつあります。その中で日米はその範囲網の中核的な存在になっています。

もともと、安倍総理は安全保障のダイヤモンドや、開かれたインド太平洋地域などを構想を提唱して、中国包囲網づくりを目指してきました。全方位外交により、これをすすめてきました。トランプ政権は、この構想に乗った形で、中国包囲網の構築をすすめてきましたが、今では自ら対中国冷戦を挑んでいます。

冒頭の記事の「安倍晋三首相の3月6日の参院予算委員会での発言」ですが、これには続きがあります。

中国の海洋進出に関しては「軍事活動を拡大、活発化させている。国防政策や軍事力の不透明性と相まって国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心をもって注視する必要がある」と語っています。やはり、中国を脅威とみなしているのです。

日本政府は「IT 調達に係る国の物品等又は役務の調達方針及び調達手続に関する申合せ(以下、IT調達申合わせ)」を公表しています。  

そもそも、日本政府はサイバーセキュリティにまったく無頓着なわけではなく、従来から中国製品を警戒していました。それでも敢えてIT調達申合せを公表したのは、米国政府の要請に呼応して同調姿勢を明確化する狙いなのでしょう。 

ただ、日中関係が改善傾向にある中で、日本政府としては中国政府を過度に刺激したくないのでしょう。日本政府はIT調達申合せについて「防護すべき情報システム、機器、役務などの調達に関する方針や手続きを定め、特定の企業や機器の排除が目的ではない」と説明し、名指しは避けて中国政府に配慮した格好です。

 IT調達申合せの公表前には複数の報道機関が日本政府による中国通信大手の排除を報じ、それに中国政府は強い表現で反発しました。しかし、IT調達申合せの内容を公表後は不快感こそ示しましたが、発言は抑制的な表現にとどめました。

名指しで排除されない限り、中国政府としては強い表現での反発は難しく、この点は日本政府の狙い通りです。 IT調達申合せの内容は米国に同調姿勢を示し、また中国には配慮した結果と言えます。これが日本政府の落としどころですが、米中に挟まれた複雑な立場が浮き彫りになったといえます。 

IT調達申合せは特定企業の名指しこそ避けましたが、実際にはファーウェイやZTEの排除を念頭に置いているのは言うまでもないです。事実、IT調達申合せの公表後に一部の公的機関では公私ともに中国通信大手を避けるよう指示があったようです。

日本政府機関では情報システム、機器、役務の調達先から中国通信大手は外れますが、従来から中国製品には警戒しているため、さほど大きな変化はないでしょう。

日本政府の方針を受けて、国内の大手携帯電話事業者も中国通信大手を排除すると報じられました。ただ、誤解されやすいのだが、政府機関内ではスマートフォンなどの端末も排除の対象となりますが、大手携帯電話事業者では端末ではなく、主に基地局側の通信設備が排除の対象となるのです。

一部これに関して懸念を表明するむきもあります。通信設備や端末には多くの日本企業の部品が使われているからです。中国通信大手を締め出した結果、日本企業を含めた中国通信大手の取引先にも影響が生じる可能性があるからです。

しかし、「中国は製造2025」を打ち出しているわけですから、いずれ日本製部品などつかわず、中国製部品を使うようなるでしょう。そのときがくれば、元々日本企業の部品は中国から排除されるのです。そのような不安定な中国をあてにするのではなく、ベトナムやインドなどのこれからの市場に手を付けるなどして、これに備えるべきです。

そうして、いずれ日本も米国側につくことをはっきりさせ、旗幟を鮮明にすべきでしょう。

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2019年3月19日火曜日

混乱招いた著作権法改正案 見送りは政治的に当然だが…海賊版サイト対策も急務だ ―【私の論評】国内だけではなく、中国の知的財産権の侵害にも歯止めを(゚д゚)!

混乱招いた著作権法改正案 見送りは政治的に当然だが…海賊版サイト対策も急務だ 




 自民党が、違法ダウンロード規制を強化する著作権法改正案の今国会への提出見送りを決めた。改正案をめぐっては静止画やスクリーンショットなども対象になるとして問題視されていた。

 現在の著作権法では、音楽・映像について、違法に公開されたものと分かっていながらダウンロードする行為は違法である。これは2009年の著作権法改正によって10年1月から施行されている。12年の著作権法改正を受けて、同年10月から違法ダウンロードの刑事罰化が施行されている。

 今回見送られた法案は、著作権法を改正し、違法ダウンロードの対象を漫画、小説、雑誌などインターネット上のコンテンツに拡大する方向だった。刑事罰対象は悪質性の強いものに限定する方針のようだった。

 こうした政府・与党内での動きに対して、海賊版の被害者であるはずの一部の漫画家から、静止画やスクリーンショットなども対象にするのは問題だとの異論が出た。この動きが広がり、日本漫画家協会や日本建築学会などクリエイター団体や、法律の専門家などから反対意見が出た結果、著作権改正案の国会提出は見送りとなった。

 そもそもこの問題は、違法な海賊版サイト「漫画村」が発端だ。日本漫画家協会も、海賊版サイトは創作努力なしで利益をむさぼっていると批判していた。「漫画村」による被害は3000億円以上だという。

そこで政府は対策を求められた。18年4月、緊急措置としてプロバイダーが接続を遮断するサイトブロッキングが浮かび上がったが、憲法上の「通信の秘密」を侵害する恐れが指摘され、それに代わるものとして、著作権法改正が浮かび上がってきたというのが背景だ。

 法技術的には、適用対象を広く定めて、その中で刑事罰を限定的に絞るのは、役人経験のある筆者にはよく分かる。違法といっても罰則がないなら、訓示的に「違法」というだけで、一般人には実害はない。

 しかし、今回のように、静止画やスクリーンショットまで「違法」とされると、多くの人は過剰反応してしまうだろう。

 結果として、著作権法改正に対して日本漫画家協会から反対意見が出てくるに至っては、漫画家の権利保護のために改正するはずだったのに、誰のための改正なのか分からなくなる。このため、法案の国会提出の見送りは、政治的には当然だろう。

 しかし、今回の見送りによって、違法な海賊版サイトの問題は全く解決されていない。

 著作権法の適用対象や刑罰対象をもっと限定的にして著作権法改正をやり直すか、損害賠償をやりやすくするなどの別の方策を考えるのか、いずれにしても出直しである。

 重要なのは、創作している漫画家の権利保護であって、創作していない海賊版サイトが不当な利得を得てはいけない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】国内だけではなく、中国の知的財産権の侵害にも歯止めを(゚д゚)!

政府・与党が海賊版の被害者であるはずの一部の漫画家などの声に応える形で改正案の提出見送りを決めたことには、さまざまな立場の専門家や関係者から評価の声が上がっています。

ただ今回の提出見送りで、ダウンロード違法化と並ぶもう一つの海賊版対策も先送りされることになりました。その中でも、リーチサイトに対する対策です。

3月13日、自民党の古屋圭司・衆院議員はブログに次のように書き込みました。

自民党の古屋圭司・衆院議員

今朝の自民党幹部会にて、ダウンロード対象範囲拡大(投網で大魚だけでなく小魚も一網打尽してしまう懸念)など、まだ関係者の理解を得られていないばかりか、国民の間でも疑問が沸き起こっていることから、今国会での法案提出は見送り。 
次期国会までに関係者へのヒアリングなど丁寧な対応を行い、皆が納得できる法律にブラッシュアップして提出することを決定。 
これこそ自民党の奥深さと良識だ。
古屋氏はマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(MANGA議連)の会長を務めており、自民党内では今回の法改正について慎重派の中心だったとされます。

今回、異論の強い法案を数の力で押し切らなかった点で、確かに与党は「良識」を示したといえます。

ただ、冒頭の記事にもあように、今回の著作権法改正は2018年春以降さまざまな案が検討されてきた海賊版対策の柱として浮上したものです。いまも被害が続く海賊版に対して実効性のある策は示されていません。

コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は13日、後藤健郎・代表理事の名義で、
著作権法改正案について、今国会への提出が見送られたことは、大変遺憾です。海賊版サイト問題はますます深刻化し、文字通り喫緊の課題です。そのなかのひとつの対策であるダウンロード違法化問題に関し、私的使用目的以外の複製との混同や、対象となる行為への誤解もあったようであり、理解が得られず残念です。
と、遺憾の意を表明した。

今回、政府が提案を目指していた著作権法の改正案にはリーチサイトへの規制が盛り込まれていました。

リーチサイト運営者は、サイトに海賊版のマンガをアップロードせず、海外のストレージサイトなどへのリンクを書き込みます。

海賊版のマンガをウェブサイトにアップロードするのはすでに違法行為ですが、アップロードそのものには関与せず、「リンクを貼る」ことで規制の回避を狙ったものとみられます。

コンピュータソフトウェア著作権協会によれば、最大級のリーチサイト「はるか夢の址」(閉鎖)による被害額は、2016年7月から2017年6月までの1年間で、731億円にのぼったとされます。

私自身は、こうした国内の違法ダウンロード規制も重要だと思いますが、それ以外にも中国による日本の知的財産権の侵害などについても規制をかけるべきと思います。

ワシントンでは中国に関して「統一戦線」という用語が頻繁に語られています。中国共産党の「統一戦線工作部」という意味です。本来、共産党が主敵を倒すために第三の勢力に正体をも隠して浸透し連合組織を作ろうとする工作部門でした。

中国にはすでに、日本工作ののための工作要領がある

習近平政権は米国の対中態度を変えようと統一戦線方式を取り始めました。多様な組織を使い、米国の官民に多方向から働きかけるのです。

そんな統一戦線方式とも呼べる中国側の対米工作の特定部分がワシントンの半官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」から昨年9月上旬に学術研究の報告書として発表されました。米国全体の対中姿勢が激変したからこそ堂々と出たような内容でした。
米国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてきた。
こんなショッキングな総括でした。

これについては、すでにこのブログでも過去にとりあげました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【古森義久のあめりかノート】中国の「統一戦線工作」が浮き彫りに―【私の論評】米国ではトランプ大統領が中共の化けの皮を剥がしはじめた!日本もこれに続け(゚д゚)!



詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
中国共産党は長年外国に対して統一戦線工作を仕掛けてきましたが、中国共産党はこれを決して公にしてきませんでした。いま、米国政府は公式報告書で中国共産党の統一戦線工作を系統的に暴露し、その化けの皮をはがしています。同時にこれは、他国を転覆しようと画策する中国共産党の不道徳な国際戦略に対し、米国が照準を向けたことをも意味します。 
過去数十年に渡り、中国共産党は不公平な貿易によって自身の経済規模を拡充してきました。また、非合法的な技術の取得による自身の先端科学産業を発展させてきました。そして非人道的な低賃金・人権無視の戦略を用いて外資企業を誘致しました。

その極みとして、不道徳的な統一戦線工作を通して外国の世論や政策を操り、もって他国の政権や民主主義社会の転覆を目論んだのです。 
中国共産党の正体を暴いた同報告書はトランプ政権の大きな実績です。中国共産党の各種不道徳な行為は、トランプ政権によって次々と暴露され始めています。これからも、さらに中国の異形のおぞましい姿が次々に晒されていくと思います。 
なお、この『中国共産党の海外における統一戦線工作』に書かれていことは、以前から知られていることです。多くの筋からそのような内容は、多くの人々に知られていました。その一旦は、このブログにも過去にも数多く掲載しています。 
とはいいながら、このような内容が、米国議会の「米中経済安全審査委員会(USCC)」において、8月24日に『中国共産党の海外における統一戦線工作』という報告書によって正式に公表されたという事実は大きいです。
中国による統一工作の対象は無論米国だけではありません、日本を含めた他国も工作しています。沖縄が中国によって、工作されているのも間違いないでしょう。日本の場合はスパイ保護法がないため、このような工作はもちろんのこと、産業界でも様々な工作により、知的財産が中国によって奪われているのは、確実です。

このようなことは、様々なところから漏れ聞こえてきますが、米国のように日本国内での工作が報告書によって報告されることがないので、一般にはあまり報道されることもなく、多くの国民はあまり知らないようです。そのため、いわゆる反日勢力はそのようなこはないとか、あり得ないとしていることが多いです。

日本でも一刻もはやく、様々な実体を調査し、まずは国会で報告させるような体制を整え、スパイ防止法立法への道筋をつけるべきです。

そのまま放置すれば、日本の知的財産権は侵害されつづけることになります。それだけでも大きな被害なのですが、中国の知的財産の侵害に神経を尖らせている米国は、日本経由で米国の知的財産が漏れているとか、米国製ではないものの、それと同等や類似した日本の技術の中国への漏洩が米国にとって不利益と判断した場合は、日本に対しても制裁を発動するかもしれません。

それは、個人に対するものかもしれません、あるいは企業に対するものかもしれませんし、あるいは日本国政府に対するものになるかもしれません。

米国は、トランプ政権はもとより、議会も、司法当局も中国への対決の姿勢を顕にしています。トランプ大統領がたとえ、ある程度のところで幕引きを図ったとしても、議会や司法当局はその動きはトランプ大統領も止めることはできません。米国は本気です。中国と対決するためには、あらゆる方策を実行し、可能性を探ります。そのことを忘れるべきではありません。

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2019年3月18日月曜日

中国で「日本に学べ」の声も…加速する少子高齢化―【私の論評】今後急速に弱体化する中国(゚д゚)!

中国で「日本に学べ」の声も…加速する少子高齢化


中国のお年寄り

中国の少子化が止まらない。「一人っ子」から「二人っ子」へと政策を転換したものの、その効果は早くも息切れ気味だ。高齢化も予想を超えるスピードで進んでいる。2050年には、5億人の高齢者がひしめく世界に例のない「高齢者大国」になるとの予想も出ている。危機感を強める中国では、高齢化で先をゆく「日本に学べ」との声まで出始めた。大国化へのアキレス腱(けん)ともいえる人口問題に、中国はどう対処しようとしているのか。『未来の中国年表 超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)の著書もある近藤大介さんに寄稿してもらった。

知恵を借りるべきは日本

 2月11日、中国共産党中央宣伝部の機関紙『光明日報』の16面に、でかでかと「特異な」オピニオン記事が掲載された。タイトルは、「中国と日本の医療・年金・介護の協力によって高齢化への対応の助力とする」。筆者は、「中国経済の司令塔」である国家発展改革委員会傘下のシンクタンク、中国国際経済交流センターの姜春力情報部長である。長文の記事だが、要約するとこんな内容だ。

 <2018年末時点で、中国の65歳以上の高齢者人口は1.67億人、総人口の11.9%に達した。このペースで進めば、25年には高齢社会(総人口の14%以上)に、35年には超高齢社会(同21%以上)に突入する。日本に遅れること約30年だが、人数も速度も日本とは比較にならず、「未富先老」(富裕になる前に老いる)、「未備先老」(準備が整う前に老いる)が特徴だ。

 そのようなわが国にとって、知恵を借りるべきは日本の成功体験であり、その政策の試行錯誤から教訓を吸収すべきである。医療・年金・介護の分野において、人材育成から関連器具の生産まで、中国が日本と提携できる空間は大きい>

 私がこの記事を「特異」と形容したのは、ここ10年ほど、『光明日報』や中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』など、いわゆる中国官製メディアにおいて、「日本に学べ」という記事など、ほとんど目にしたことがなかったからだ。

介護保険すらない中国

 中国の官僚たちと話していて、日本を「すでに終わった国」とみなす「冷ややかな視線」を何度感じたことか。極言すれば、10年に国内総生産(GDP)で日本を抜き去って以降、中国の目線の先にあるのは米国だけであり、中日関係は「中米関係の一部」のような扱いだった。

 そんな中で、突然の「日本に学べ」論調の出現である。中国でいったい、何が起こっているのか? それを知るにはこのオピニオン記事を書いた本人に当たるのが一番、というわけで、姜部長に見解を聞いた。

 「少子高齢化は、21世紀の中国で最大の問題になると見ています。50年には5億人もの中国人が高齢者になっているのです。それなのに、中国にはいまだ、介護保険すらありません。

 そこで世界の先進国を調査したら、わが国が一番学ぶべきは、隣国の日本であるという結論に達しました。日本は同じアジアの国で健康問題も似通っており、少子高齢化の進行及び対策が、中国の約30年先を行っている。高齢者向けの器具なども充実しています。昨年、日本へ視察に行きましたが、『日本に学べ』という確信を持ちました。

 幸い『光明日報』の記事は中国国内で反響を呼び、多くの賛意を得ました。中国の少子高齢化問題は、いまや待ったなしのところに来ています。これから日本の経験や制度を参考にしながら、来たる少子高齢化時代に対処していこうと考えています」

 中国の少子高齢化問題は、「待ったなし」のところへ来ている。高齢化については、姜部長が述べた通りだが、少子化もまた深刻なのである。

いびつな人口構成生んだ「一人っ子」政策

 昨年12月18日、習近平(シージンピン)国家主席が主催して、「改革開放政策40周年記念式典」が、北京の人民大会堂で華々しく開かれた。同時期には、「改革開放政策の総設計師」と仰がれる鄧小平元副首相を称たたえるキャンペーンが、これでもかというほど大々的に展開された。

 そんな偉大な鄧小平だが、「失政」もいくつか犯している。その代表例が、いまや悪名高くなった「一人っ子政策」である。鄧小平は1949年の中華人民共和国の建国時から、ほとんど唯一、一貫して「中国が豊かになるには人口を減らさねばならない」と主張し続けた政治家だった。そして78年に実権を握るや、その持論を実行に移したのである。「一人っ子政策」を実施、奨励、監視する官僚を15万人も配置した。

 だが結果として、見るも無残な頭でっかちの中国人口ピラミッドができ上ってしまった。2010年の全国人口調査では、一人っ子が日本の総人口よりも多い1.4億人に達し、習近平氏が共産党トップに立った12年には、16歳から59歳までの生産年齢人口も下降線となった。こうした現実を見て真っ青になった習近平政権は、13年の「三中全会」(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)で、初めて「一人っ子政策」の一部廃止を決定。16年からは、全面的に「二人っ子政策」に変えたのだった。

「子供は一人」すでに定着
 それでも、中国政府の悩みは尽きない。1月21日、一年に一度の記者会見に臨んだ寧吉テツ(吉が2つ)国家統計局長は、「昨年のGDPの伸びは6.6%だった」などと誇り高く言い放った後、口ごもるようにつぶやいた。「昨年の出生者数は1523万人だった」

 出生者数は何と、数千万人が餓死した「悪夢の三年飢饉(ききん)」の1961年以来、57年ぶりの最低記録である。しかも前年の2017年と比べても、200万人も少ない。日本の2年分の出生者数よりも多い数の子供が、この一年で「生まれなくなった」のだ。

 戦争も飢餓もなく、制約もなくなったのに、いったいなぜ? 中国人口発展研究センターの黄匡時博士は、次のように分析している。

 「出生者数激減の主な原因は二つあって、それは出産適齢期の女性の減少と彼女たちの晩婚化です。25歳から35歳までの女性は、17年から18年の間に552万人も減りました。かつ彼女たちの結婚者数も、18年1~9月で見ると、前年同期比で3.1%減っています。このままでは5年後の出生者数は、1300万人前後まで下落するでしょう」

 せっかく「二人っ子政策」に転じたのに、私の中国人の友人知人の中で、2人目の子供を出産した夫婦は、ただ一組しかいない。いまの30代までの中国人は、基本的に一人っ子なので、「小皇帝」「小公主(小さなプリンセス)」として贅沢(ぜいたく)に育っていて、「子供は一人」という概念が定着している。

 もしくは「子供なんていらない」という夫婦もゴマンといる。中国では子供を幼稚園に入れるだけで莫大ばくだいな費用がかかり、そこから小学校、中学校……と育てていくのは大変なのだ。そのうち「空中分解」(離婚)してしまう若者夫婦も増えるばかりで、すでに北京や上海などの離婚率は4割を超えている。

 5億人の老人と、減り続ける子供たち。いま中国では、こんな突飛な噂(うわさ)がささやかれている。

 「政府は『二人っ子政策』に失敗したら『三人っ子政策』を始めるのでは?」

◎プロフィル
近藤 大介( こんどう・だいすけ )
 1965年生まれ。東京大学卒業、国際情報学修士。講談社入社後、中国、朝鮮半島を中心とする東アジア取材をライフワークとする。講談社(北京)文化有限公司副社長を経て『週刊現代』編集次長、特別編集委員、「現代ビジネス」コラムニスト。明治大学国際日本学部兼任講師(東アジア国際関係論)。『未来の中国年表 超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)など著書多数。

【私の論評】今後急速に弱体化する中国(゚д゚)!

中国の高齢化については、今突然始まったことではなく、以前から多くのメディアが報道していましたし、このブログでも何度か掲載したことがあります。

たとえば、2016年3月15日、フランス紙フィガロは、中国の深刻な高齢化事情について報じました。
ある統計によると、中国の人口は2030年にピーク(14億5000万人)に達した後、毎年500万人のペースで減少を続け、今世紀末には10億人を切ると予測されている。国連の調査では、6億人にまで減少するとの見方も出ている。男女比の不均衡と、ドイツや日本、韓国よりも高齢化のペースが早いことで、中国には「史上類を見ない状況」が訪れるのだという。

こうした人口の変化で問題になるのが墓地だ。中国の国土面積は世界第3位だが、人口減少が始まると、毎年パリ市の面積の3分の1にあたる30平方キロメートルあまりの墓地が必要となり、墓地不足が課題になる。中国の80歳以上の人口は2014年時点ですでに2400万人に達しており、中国政府は昨年、一人っ子政策の完全廃止を決めたが、記事はこれだけでは高齢化の解決にはほど遠いと指摘している。
中国の高齢化問題は相当深刻です。このまま、なにもせずになし崩し的に、高齢化や人口が減少していけば、 中国の未来は暗澹たるものになるでしょう。

高齢化にともない他の様々問題も起こるようになります。2024年になると、年間600万組が離婚する時代になります。つまり1200万人で、これは東京都の人口に近い数です。ちなみに日本の離婚件数は21万7000組(2016年)なので、中国では日本の27.6倍(中国の現状の人口は日本の約10倍)も離婚していくことになります。
北京や上海などの大都市では、離婚率はすでに4割に達しています。離婚率が5割を超えるのもまもなくです。
逆に結婚件数は5年で3割減っているので、中国は近未来に、年間の離婚件数が結婚件数を上回る最初の国になるのではという懸念も出ているほどなのです。
なぜこれほど離婚が多いのかと言えば、その大きな理由として、やはり「一人っ子政策」の弊害が挙げられると思います。
中国の小皇帝
彼らは幼い頃から、「6人の親」に育てられると言います。両親と、両親のそれぞれの両親です。
祖父母が4人、親が2人、子供が1人であることから、「421家庭」という言葉もあります。そのため、上の記事にもあるように男児なら「小皇帝」、女児なら「小公主」と呼ばれ、贅沢かつワガママに育つのです。
そんな彼らが結婚しても、我慢することが苦手で、かつ便利な両親の実家が近くにあるため、容易に人生をやり直してしまうのです。
さらに、中国特有の離婚も急増中です。それは「マンション離婚」と呼ばれるものです。
マンション投資が過熱すると、価格が急騰して庶民が買えなくなるため、政府は2011年以降、「ひと家庭に1軒のみ」といったマンション購入制限令を出してきました。
それならば「離婚してふた家庭になれば2軒買える」というわけで、「マンション離婚」が急増したのです。そのため、例えば北京市役所は「1日の離婚届受け付けを1000件までとする」という対策を取っているほどです。
2025年になると、中国は深刻な労働力不足に見舞われます。15歳から64歳までの生産年齢人口に関して言えば、すでに2015年頃から減少しています。
労働力の絶対数が減り続ける上に、一人っ子世代は単純労働を嫌うので、大卒者の給料よりも単純労働者の給料のほうが高いという現象が起こってしまうのです。

中国政府は、労働力不足の問題を、AI(人工知能)技術を発展させることでカバーしようとしています。世界最先端のAI大国になれば、十分カバーできるという論理です。
しかし、労働力不足はある程度、AI技術の発展によって補えたとしても、来る高齢社会への対処は、困難を極めるはずです。
国連の『世界人口予測2015年版』によれば、2050年の中国の60歳以上人口は、4億9802万人、80歳以上の人口は1億2143万人に上ります。

「私は還暦を超えました」という人が約5億人、「傘寿を超えました」という人が、現在の日本人の総人口とほぼ同数。まさに人類未体験の恐るべき高齢社会が、中国に到来するのです。

しかし現時点において、中国には上の記事にもあるように、介護保険もないどころか国民健康保険すら、十分に整備されているとは言えません。
この未曾有の高齢社会の到来こそが、未来の中国にとって、最大の問題となることは間違いありません。日本に遅れること約30年で、日本の10倍以上の規模で、少子高齢化の大波が襲ってくるのです。

インドの世界で最も混雑している列車

そうした「老いてゆく中国」を横目に見ながら、虎視眈々とアジアの覇権を狙ってくるのが、インドです。インドは早くも6年後の2024年に、中国を抜いて世界一の人口大国になります。

しかも、2050年には中国より約3億人(2億9452万人)も人口が多くなるのです。15歳から59歳までの「労働人口」は、中国より3億3804万人も多い計算になります。

2050年のインドは、中国と違って相変わらず若々しいままです。

つまり中国にしてみれば、21世紀に入ってようやく、長年目標にしてきた日本を抜き去ったと思いきや、すぐにインドという巨大な強敵を目の当たりにするのです。

中国は2049年に、建国100周年を迎えます。その時、「5億人の老人」が、しわくちゃの笑顔を見せることは、できるのでしょうか。今のままでは、全く無理です。

現在米国は、中国に経済冷戦を挑んでいますが、長期的にみれば中国は間違いなく弱体化します。冷戦はそれを加速することになります。日本としても、短期的には中国は脅威ですが、長期的にはそうではなくなることを認識しておくべきです。

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2019年3月17日日曜日

トランプ大統領が「強すぎるドル」を徹底的に嫌う最大の理由―【私の論評】日本の政治家、官僚、マスコミ、識者は無様なほど雇用を知らない(゚д゚)!

トランプ大統領が「強すぎるドル」を徹底的に嫌う最大の理由

過激な発言の一方で冷静なところも





「アメリカファースト」の中身

 「利上げを好み、量的引き締めを好み、非常に強いドルを好む紳士がFRB(米連邦準内に1人いる」

 トランプ大統領が3月2日の演説でこう揶揄した人物とは、ほかでもないFRB議長のジェローム・パウエル氏だ。トランプ大統領は中央銀行の金融引き締め策がドル高を招き、米国経済に悪影響を与えていると度々批判している。

FRBは1月、2019年に予定していた2回の追加利上げを見送る方針を示していたが、トランプ大統領はまだおかんむりのようだ。

ジェローム・パウエルFRB議長

 金融引き締めのタイミングについては、アベノミクス以降日本でも最重要課題となっている。日米の経済を単純比較することはできないが、トランプ大統領はなぜFRB批判を繰り返すのか。

 本コラムでは再三述べてきたが、金融政策とは雇用政策であるということは、経済学の基本中の基本だ。

 ペンシルベニア大学ウォートン校卒のトランプ大統領は、政治は素人でも、この基本をよく理解している。彼のよく言う「アメリカファースト」の中身をよく見てみると、雇用の確保が最優先に据えられていることがわかる。

 FRBは雇用最大化と物価の安定の「二重の責務」を担っていると、公式に宣言している。このため、雇用となれば真っ先に矢面に立たされるのがFRBである。これは米国だけでなく欧州でもそうだ。

 ところが日本で雇用はどうするのかとなると、質問が向かうのは日銀ではなく厚生労働省だ。

 物価上昇率が高いときには失業率が低く、物価上昇率が低いときには失業率が高い。物価と雇用の関係は裏腹である。日銀の仕事は物価の安定のみと言っているが、実質的に雇用の確保の責任を持っている。

 もっとも、いくら金融政策を行っても失業率には下限があり、それは各国で異なる。日本では2%台半ば程度、アメリカでは4%程度とされている。一方、その達成のための最小の物価上昇率は先進国で似通っており、だいたい2%だ。これがインフレ目標となっているのをご存じの読者は多いだろう。

 ここで改めて、なぜトランプ大統領が「強すぎるドル」を嫌い、パウエル議長批判を繰り返すのかを考えよう。

トランプ大統領

 為替は二つの通貨の交換比率から成り立っている。もしアメリカが日本よりも金融引き締めを進めると、市場のドルは少なくなり、相対的にドルの価値は上がる(ドル高)。これは輸出減少と輸入増加を招き、結果としてGDPを減少させる要因となる。国際金融理論の実務でも有名な「ソロスチャート」にも示されている相関関係だ。

 トランプ大統領は米国の年間GDP成長率の目標を3%としていたが、'18年はこれをわずかに上回る3・1%という数値に落ち着いた。目標値を下回るかもしれないとあって、トランプ大統領は相当気を揉んでいたはずだ。国際経済学を理解する彼だからこそ、口酸っぱく金融引き締めを批判し、GDP成長率の押し上げを図っている。

 激しい言動が取り沙汰される一方で、意外と理論派なところもあるのがトランプ大統領だ。

 彼が政府の一員と言える中央銀行にどうモノ申すのか、冷静に追っていく必要がある。

『週刊現代』2019年3月23日号より

【私の論評】日本の政治家、官僚、マスコミ、識者は無様なほど雇用を知らない(゚д゚)!

この記事の冒頭の記事には「日本で雇用はどうするのかとなると、質問が向かうのは日銀ではなく厚生労働省だ」という指摘があります。

雇用に関して、雇用枠を拡大することができるのは、日銀だけです。厚生労働省にはこれはできません。厚生労働省が雇用に関して実行しなければならないのは、雇用統計と労務関連施策であって、雇用には直接関係ありません。

これは、世界の常識なのですが、なぜか日本ではこれが、いわゆる大人の常識になっていません。

多くの人が現在でも、雇用=金融政策とか雇用の主務官庁は日銀というと、怪訝な顔をするようです。

これに関しては、このブログでも指摘したことがあります。
若者雇用戦略のウソ―【私の論評】雇用と中央銀行の金融政策の間には密接な関係があることを知らない日本人?!
当時の就活中の女子大生

この記事は、2012年9月1日土曜日のものです。この当時はまだまだ就職氷河期が続いていおり、就活生の悲惨な状況が報道されていました。この状況はこの年の年末に安倍政権が成立して、金融緩和策を打ち出し、翌年の4月から日銀は異次元の金融緩和策を打ち出しました。そうして、日銀が緩和に転じて、その後雇用状況が良くなり今日に至っています。

上の記事で"「雇用のことって正直、よく分からないんだよね」。今春まで約8年間、東京都内のハローワークで契約職員として勤務していたある女性は、正規職員の上司が何気なく発した言葉に愕然としたことがある"とありますが、この正規職員の上司の発言は正しいのです。

この記事そのものは、雇用=金融政策という原理原則を知らない人が書いたものなので、そもそも読むに値しませんが、ただし、この正直者の正規職員の上司の発言だけは、日本では雇用の主務官庁は厚生労働省が多いと思い込む人が多いことの証左として、読むに値するかもしれません。

先にも述べたように、厚生労働省およびその下部機関である、ハローワークは失業率などの雇用統計や労務に関わるのであって、雇用そのものには関係ありません。厚生労働省やハローワークがいくら努力をしたとしても雇用は創造できません。当時からそのことは全く理解されていませんでした、それに関わる部分をこの記事から以下に引用します。
アメリカでは、雇用問題というと、まずは、FRBの舵取りにより、大きく影響を受けるということは、あたりまえの常識として受け取られていますし。雇用対策は、FRBの数ある大きな仕事のうちの一つであることははっきり認識されており、雇用が悪化すれば、FRBの金融政策の失敗であるとみなされます。改善すれば、成功とみなされます。 
この中央銀行の金融政策による雇用調整は、世界ではあたりまえの事実と受け取られていますが、日本だけが、違うようです。日本で雇用というと、最初に論じられるのは、冒頭の記事のように、なぜか厚生労働省です。
当時の就活中の女子大生 当時は特に女子大生の就活は大変だった
このブログでも、前に掲載したと思いますが、一国の雇用の趨勢を決めるのは、何をさておいても、まずは中央銀行による金融政策です。たとえば、中央銀行が、インフレ率を2〜3%現状より、高めたとしたら、他に何をせずとも、日本やアメリカのような国であれば、一夜にして、数百万の雇用が生まれます。これに関しては、まともなマクロ経済学者であれば、これを否定する人は誰もいないでしょう。無論、日本に存在するマクロ経済学と全く無関係な学者とか、マルクス経済学の学者には、否定する人もいるかもしれませんが、そんなものは、ごく少数であり、グローバルな視点からすれば、無視しても良いです。
それと、気になるのは、 金融政策により為替の大部分が決まってしまうことも、多くの人が知らないことです。

日本円と米ドルの比較でいえば、日本が金融引き締め政策をとり、円そのものを米国ドルよりも少なくすれば、相対的に円の希少価値があがり、円高になります。逆に日本が金融緩和政策をとり、円そのものを米国ドルより多くすれば、円の希少価値が下がり、米ドルの希少価値があり、円安ドル高になります。

無論、為替レートには様々な要因があり、短期的には為替レートを予測することは不可能です。ただし、長期的には日米政府の金融政策によって為替レートが決まります。

こんなことは、ある物が多くなれば、希少価値が少なくなり、ある物が少なくなれば、希少価値が高くなることを知っている人なら簡単に理解できることだと思うのですが、これも何故か日本ではほとんど理解されてないようです。

そうして、このことが理解できいないがために、日本では通貨戦争などを信奉する人も多いようです。通貨戦争など妄想にすぎません。

考えてみて下さい、仮に日本が円安狙いで徹底的に金融緩和策をやり続けたとします。その結果どうなるでしょうか、際限なく日本円を擦り続けた先には、ハイパーインフレになるだけです。だから、金融緩和するにしても適当なところでやめるのか普通なので、通貨戦争などできないし、妄想に過ぎないのです。

このようなことも理解していないからでしょうか、日本の雇用論議や、為替論議を聴いていると、頓珍漢なものが多いです。

私は、為替レートやGDPなどよりも、雇用が最も重要だと思っています。なぜなら、雇用が確保されていれば、大多数の国民にとっては安心して生活することができます。逆に雇用が確保されなければ、大多数の国民安心して生活できません。

仮に他の経済指数などが良くても、失業率が上がれば、政府はまともに仕事をしているとは言えません。

冒頭のドクターZの記事では、

「国際経済学を理解する彼だからこそ、口酸っぱく金融引き締めを批判し、GDP成長率の押し上げを図っている。

 激しい言動が取り沙汰される一方で、意外と理論派なところもあるのがトランプ大統領だ」。

とトランプ大統領を評価しています。

しかし、これは政治家や、マスコミ(特に経済記者)、識者(特に経済関係の識者)は、最低限知っていなければならないことだと、私は思います。

ましてや、雇用に関しては、細かいことまでは知らなくても、大きな方向性は理解していてしかるべきです。

日本では、これを理解している、政治家、官僚、マスコミ、識者はほんの一部のようです。幸いなことに、安倍総理とその一部のブレーンは知っています。それなのに、彼らの多くは米国のほとんどリベラルで占められている新聞やテレビなどのマスコミ報道を真に受けて、保守派のトランプ大統領をあたかも狂ったピエロであるかのように批判しています。

そうして、トランプ大統領のようにまともにマクロ経済の理解はしようとしません。その意味では、先に掲載した、正直者のハローワークの正規職員の上司よりも始末に負えないです。

そのようなことをする前に、彼らは無様なほど雇用を知らないことを自覚すべきです。そんなことでは、まともな経済論争などできません。顔を洗って出直してこいと言いたいです。

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