2020年1月4日土曜日

今年、米国が北朝鮮に軍事攻撃の可能性も…トランプ再選で中国共産党崩壊が加速か―【私の論評】年始早々のソレイマニ氏の殺害は、中国との本格対峙のための前哨戦か?

今年、米国が北朝鮮に軍事攻撃の可能性も…トランプ再選で中国共産党崩壊が加速か


トランプ大統領

 2020年が幕を開けた。

 19年は日韓関係が戦後最悪の状態を迎えたといわれ、18年に続き米中貿易戦争が世界経済の大きなリスクとなった。しかし、12月には安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領が1年3カ月ぶりに会談を行い、米中間の通商協議では第1段階の合意がなされるなど、事態は少しずつ動き出しつつある。

バブル崩壊の中国を追い詰める米国

 では、20年はどう動くのか。

 まず、米中合意に関しては、アメリカが1600億ドル相当の中国製品に対する関税発動を見送るとともに1200億ドル相当の中国製品に対する関税を従来の15%から7.5%に引き下げ、中国はアメリカ産の農産物を320億ドル追加購入し、さらにエネルギーやサービスの購入も増やすという内容だ。

 これは、いわば「額」に対する合意であり、問題の本質である中国の構造改革にまでは踏み込んでいない。また、中国側が大きく妥協したことにより合意に至ったが、その内容を中国側が履行しなければ、アメリカは再び関税強化に踏み切ることを明言している。さらに、複数回に分割される可能性も浮上している第2段階の合意についても、アメリカは中国が第1段階の合意内容を履行してからだとしている。つまり、交渉の本番は今年ということだろう。

 そもそも、アメリカは中国に「外国企業の企業活動の保証」「知的財産権の保護」「資本移動の自由化」「為替の自由化」「国有企業の解体や不正な産業保護の廃止」を求めており、中国の国家資本主義を問題視している。これは単なる貿易問題ではなく文明と文明の衝突であり、アメリカが最終的に中国共産党の崩壊を狙っている以上、今後も終わりなき戦いが繰り広げられるのであろう。

 19年6月から始まった香港デモが長期化し内政に火種を抱える中国は、経済面でも苦しい状況が続いている。企業物価指数が下落し消費者物価指数が上昇しており、景気悪化の中で物価が上がるスタグフレーションの状態にあるのだ。また、民間企業のデフォルト率が過去最高を記録し、高額消費の流れを示すといわれる自動車販売台数も17カ月連続で前年割れとなるなど、さまざまな経済指標を見る限り、バブル崩壊が顕在化している。

 一方、アメリカは11月に香港での人権尊重や民主主義の確立を支援する「香港人権・民主主義法」を成立させ、12月には台湾への武器供与や軍事支援などを盛り込んだ「国防権限法」を成立させるなど、中国に圧力をかけている。いずれも中国は強く反発しているが、中国のもうひとつの火種である新疆ウイグル自治区の少数民族弾圧に関しても、アメリカは「ウイグル人権法」を成立させる見込みであり、中国にとっては分の悪い戦いが続くことになるだろう。

 また、1月11日には台湾総統選挙が行われるが、現職の蔡英文総統が優勢と見られている。独立派の蔡総統が再選を果たせば、中国にとって向かい風となることは確実だ。

米国が北朝鮮へ軍事行動に出る可能性も

 選挙といえば、今年はアメリカ大統領選挙イヤーである。現状では民主党に有力な候補者がおらず、ドナルド・トランプ大統領の再選が有力視されているが、仮にトランプ政権が2期目に突入すれば、中国および北朝鮮への対応はますます厳しいものになるだろう。

 19年2月に行われた米朝首脳会談が決裂に終わって以来、北朝鮮の非核化交渉は不透明な状態が続き、金正恩朝鮮労働党委員長は再び弾道ミサイル発射を繰り返すなど、18年の米朝合意は事実上の白紙に戻っている。これは、北朝鮮がミサイルおよび核開発を停止し、その間はアメリカが北朝鮮の安全を保証するという内容であったが、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)のエンジン燃焼試験を行った可能性も取り沙汰されている。

 そのため、北朝鮮は自ら安全保障を放棄しており、条件的にはアメリカが軍事オプションを行使してもおかしくない状況をつくり出しているわけだ。アメリカとしても、この状況を放置しておくわけにもいかず、なんらかの行動に出る可能性はあるだろう。

 いわば、北朝鮮は対米融和路線から崖っぷち外交に逆戻りしたわけだが、その北朝鮮にすり寄る姿勢を見せているのが韓国だ。

 昨年、日本の輸出管理強化に反発して軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の一方的な破棄を通告したものの、失効当日になって「破棄通告を停止」するという離れ業を見せた韓国は、文大統領が指名したチョ・グク前法相が数々の不正疑惑によりスピード辞任し逮捕寸前まで追い詰められるなど、青瓦台と検察当局との対立が深まっている。任期5年の折り返しを迎えた文政権は4月に総選挙を控えており、国内世論の支持を得るために、さらに反日的な姿勢を強めるとも見られている。

 また、日本は19年の天皇譲位に伴う改元に続いて、20年も記念すべき年となる。夏に東京オリンピック・パラリンピックが開催され、それに先立ち、春には次世代通信規格「5G」の商用サービスが始まる。

 また、五輪前の7月には東京都知事選挙が控えており、11月には安倍晋三首相の連続在職日数が大叔父の佐藤栄作氏を超えて歴代1位となる予定だ。安倍首相はすでに19年11月の時点で通算在任日数で歴代1位を記録しているが、12年12月から続く連続在職日数でも憲政史上最長となるかどうかが注目される。

英国、いよいよEU離脱へ

 イギリスのEU(ヨーロッパ連合)離脱も、20年の世界の関心事のひとつだ。12月に行われた総選挙でボリス・ジョンソン首相率いる与党・保守党が圧倒的勝利を収め、1月31日の“ブレグジット”がほぼ確定した。2月以降は完全離脱の準備のための「移行期間」に入り、年末までにEUとの間で新たな自由貿易協定で合意するという課題は残っているものの、長期間の混乱に終止符が打たれることの意味は大きいだろう。

 もともと「栄光ある孤立」を外交方針としてきたイギリスは、ヨーロッパ大陸を捨てたことで、今後はアメリカをはじめとする「ファイブ・アイズ」(アメリカ、イギリスのほかにカナダ、オーストラリア、ニュージーランド)との関係を重視する戦略に転換するものと思われる。

 また、EUに加盟している以上は他国との貿易協定を結ぶことはできなかったが、今後は個別の貿易協定交渉も前に進むことになるだろう。日本との間でもTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を前提とした交渉が進んでおり、安全保障に関しても共同声明により、すでに準同盟関係が構築されている。また、ブレグジットが確定したことで、イギリスは元宗主国である香港の問題に関しても積極的に関与する体制が整ったといえる。

 いずれにせよ、20年は米大統領選とブレグジットのゆくえが世界的な注目を集め、同時にアメリカが中国および北朝鮮とどのようなディール(取引)を見せるのかが重要なポイントとなりそうだ。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】年始早々のソレイマニ氏の殺害は、中国との本格対峙のための前哨戦か?

中国情勢に関しては、このブログでも昨年は様々な内容を掲載させていただきました。その中でも今後の対米関係を最も予感させると思われる記事のリンクを以下に掲載します。
米中貿易「第1段階合意」が中国の完敗である理由―【私の論評】米国の一方的な完勝、中共は米国の要求に応ずることができず、やがて破滅する(゚д゚)!
      昨年12月13日に北京で会見する財政相副大臣の廖岷。重要な会見の
         はずなのに出席者はいずれも副大臣級ばかりだった
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を以下に引用します。米中貿易「第1段階合意」には7項目の合意事項があります。その合意事項の(7)の内容が今後の中国を運命づけるものとなったと私は考えています。
合意項目(7)の「双方による査定・評価と紛争処理」の意味は自ずと分かってくる。要するに今後において、中国側が自らの約束したことをきちんと実行しているかどうかを「査定・評価」し、それに関して双方で「紛争」が起きた場合はいかにそれを「処理」するかのことであろう。中国側の発表では一応「双方による査定・評価」となっているが、実際はむしろ、アメリカ側が一方的に中国側の約束履行を「査定・評価」することとなろう。
これは、はっきり言えば、米国による合意6項目が中国により履行されているかどうかを米国が監視を意味します。企業などでたとえると、外部から監査するようなものです。

米国はこの監査を本気で行うつもりです。その覚悟をナバロ氏やライトハイザー氏が述べています。
中国が「第一段階」の貿易協定に違反すれば米国は一方的報復を行う可能性がある、とホワイトハウスのピーター・ナバロ通商製造政策局長は15日、FOXニュースのエド・ヘンリーに語りました。 
https://www.foxbusiness.com/markets/us-retaliation-phase-one-trade-china
「私が合意で最も気に入っている部分は強制の仕組みだ。それによってもし中国が合意に違反しそれに関して何もできなければ、我々は90日以内に、基本的に一方的に報復できる」とナバロは語った。「だからそのことについては強力な合意だ。中国が約束した2,000億ドル分の農産物、エネルギー・サービス、そして製品を買うか見てみよう。それは最も容易に観察できることだろう――見たままだのことだ」
ナバロは視聴者に、米国がまだ3,700億ドル相当の中国製品に関税をかけていることを思い出させました。 
「これは中国に対話を続けさせるための保険であると同時に、我々の技術的重要資産に対する保護でもある」とナバロは語りました。
ピーター・ナバロ通商製造政策局長

ロバート・ライトハイザー米国通商代表は15日朝のCBS「Face the Nation」で同じことを指摘し、合意には「本当に確かな強制力」があると説明しました。
「最終的にこの合意全体が機能するかどうかは、米国ではなく中国で誰が決定を行うかによって決まるだろう」とライトハイザーは語りました。「強硬派が決定すれば1つの結果を得ることになる。改革派が決定を行うなら、それが我々の希望だが、別の結果を得ることになる。これがこの合意についての考え方であり、2つのとても異なる制度を両者の利益に統合しようという中での第一歩だ」
どのような反応だとしても「相応」となるとライトハイザーは述べました。
これは、以下の6項目に関して、米国が監視するということです。 
 (1)知的財産権に関する合意、(2)中国による技術移転の強要の是正、(3)食品と農産物に関する合意、要するに中国側がアメリカ側の要求に応じてアメリカから大豆や豚肉などの食品・農産物を大量に購入すること、(4)金融サービスに関する合意、アメリカ側が求めている中国国内の金融サービスの外資に対する開放、(5)為替とその透明度に関する合意、(6)貿易拡大に関する合意、中国側はアメリカ側の要求に応じてアメリカからの輸入を大幅に増やすことを約束
そうして、この合意項目が履行されていなければ、90日以内に、基本的に一方的に報復するということです。

(2)、(3)、(6)関しては、中国がすぐに実行しようと思えばできます。他の項目はなかなかできないというのが中国の実情だと思います。これは、資金を投下して政府が掛け声をかけて、できなければ、武力鎮圧して無理にでも実行させれば、できるというものではないからです。

これを実行するには、ある程度以上の民主化、政治と経済の分離、法治国家化は避けて通れません。中共自体がこのような経験が全くありません。中共幹部には、何をどうしたら良いのかさえ理解していないかもしれません。それに、実行すれば、中共は国内で統治の正当性を失い崩壊する可能性が大きいです。

上の記事にもあるように、今回は中国側が大きく妥協したことにより合意に至ったのですが、その内容を中国側が履行しなければ、米国は再び関税強化に踏み切ることを明言しています。さらに、複数回に分割される可能性も浮上している第2段階の合意についても、米国は中国が第1段階の合意内容を履行してからだとしています。つまり、交渉の本番は今年なのです。

中国側が、従来のようなつもりで、これを上辺だけ実行したようにみせかけても、米国は納得しないでしょう。そんなことは、中国のWTO加盟後の中国の不誠実な対応で懲りています。

であれば、もうすでに3ヶ月後(今年3月以降)には、米国から報復されることはほぼ確定です。これは、バブル崩壊中の中国を追い詰めることになります。これによって、中共崩壊へまっしぐらということにもなりかねません。

一方、トランプ大統領としては、中国問題がメインであり、北朝鮮、韓国はその従属関数程度にとらえていることでしょう。

なぜそうなのかといえば、米国民にとって一番の関心事は、経済だからでしょう。これは、日本でも同じことです。いや、世界中の国々がそうです。

多くの国の国民にとって経済、もっといえば暮らし向きが一番大事なのです。大多数の国民が、大金持ちにはなれなくても、努力すれば正当に報われ、将来に期待を持てるような政治を為政者が実行してくれれば、大多数の国民は満足なのです。

ただし、無論将来に期待を持てるようにするためには、安全保証も大事なことです。ただし、先立つのは国内経済なのです。本格的な総力戦にでもならない限り、これはどこの国でも同じことです。

しかし、中国が不公正な貿易や、技術の剽窃や安全保障の面で米国を脅かしつつあったので、トランプ氏は中国を叩くことを最優先したのです。

考えてみれば、韓国など日本の東京都と同程度のGDPです。ロシアも同程度です。北朝鮮などさらに小さいです。EU諸国も、EU単位ではなく、国別にみれば、いずれの国も日本よりもGDPが小さいです。

中東も同じです。サウジアラビアのGDP(国内総生産)は、世界で18番目です。ところが、米国のペンシルベニア州よりも少ないです。2017年のサウジアラビアのGDPは約6830億ドル、ペンシルベニア州のGDPは7520億ドルでした。そして、ペンシルベニア州のGDPはアメリカ50州のうち6位です。

中国は1人あたりのGDPでは、まだまだ低くく中進国の中でも低レベルですが、それにしても国レベルでいえば、人口は、13.86億人で14億人に迫る勢いで、GDPも米国についで世界第二位です。中国共産党は、この経済を裏付けに他国にはできないこともできるのです。中国のみが現在では米国の安全保障と、経済を大きく脅かす存在なのです。

このような事実をみると、米国が中国問題をメインとして、他は従属関数と考えるのは当然といえば当然です。これをトランプ大統領は「米国第一主義」と表現しているのです。そう考えれば、トランプ氏の言うことは何も矛盾していません。米国第一主義を貫くためにこそ、中国と対峙するのです。他は従属関数に過ぎないのです。


現在、北朝鮮は核を保有しているとはいえ、金正恩は、金王朝存続のために中国の干渉をひどく嫌っています。そのため、結果として北朝鮮とその核の存在が、中国の朝鮮半島全体への浸透を防いでいます。

しかし、このバランスが崩れ、中国、北朝鮮、韓国が協力関係を強め、中国主導で38度線を有名無実とし、米国と対峙したり、同盟国である日本に攻勢を強める様子をみせたりすれば、トランプ大統領は、躊躇することなく、中国と直接の軍事対決は避けつつ北朝鮮を攻撃するでしょう。

そうして、そのときはサラフィー・ジハード主義組織ISILの指導者バクダディや、イラン革命防衛隊のコッズ部隊を率いていたソレイマニ司令官を殺害したように、金正恩を斬首することでしょう。場合によっては、他の幹部も狙い撃ちするかもしれません。

これにより、米国は習近平ならびに、中共幹部にかなりの衝撃を与えることになります。米国との合意事項を守ることと、命を失うことのいずれを選ぶのかということになれば、たとえ、中共が崩壊しても合意事項を守るということになるでしょう。

年始早々の、ソレイマニ氏の殺害は、今年3月以降に考えられる、中国との本格的対峙に備えるための前哨戦のようなものと捉えるべきです。実際、米国はイラン精鋭部隊、革命防衛隊のソレイマニ司令官をイラクで殺害し中東地域で緊張が高まる中、イラクのメディアはアメリカ軍が3日、現地の民兵組織を標的にした新たな攻撃を行い、6人が殺害されたと伝えています。

米国のニューズウィークは、国防総省関係者の話として、攻撃はシーア派民兵組織「イマーム・アリ旅団」の指導者を標的に行われ高い確率で殺害したとみられると伝えています。

「イマーム・アリ旅団」は、イラクの複数のシーア派民兵組織で構成される「人民動員隊」の中の有力部隊で、ニューズウィークによりますと、今回の攻撃はイランの精鋭部隊、革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した作戦の一環として、2日にトランプ大統領が承認したということです。


トランプ大統領は、今年3月以降の中国との対峙に備えて、中東における脅威を少しでも減らしておくため、年初に攻勢にでたものと見られます。


2020年1月3日金曜日

トランプ大統領の指示でイラン精鋭部隊司令官を殺害-米国防総省―【私の論評】半年前に米軍の大型無人機が革命防衛隊によって撃墜された大事件の報復か?事態は急展開(゚д゚)!

トランプ大統領の指示でイラン精鋭部隊司令官を殺害-米国防総省

ソレイマニ司令官は革命防衛隊のコッズ部隊を率いていた有力者

イランは反撃を迫る「強い圧力」にさらされる-元CIAのピラー氏

トランプ米大統領が命じた米軍によるイラクでの空爆でイランの精鋭部隊、革命防衛隊の司令官1人が死亡した。米国とイランとの対立が深まる恐れがある。


米国防総省は2日夜、トランプ大統領の指示を受けたバグダッド国際空港付近での空爆により、革命防衛隊の有力者ソレイマニ司令官が死亡したと発表。ソレイマニ司令官は「米国の外交官やイラクや中東に駐留する米軍を攻撃する計画を積極的に策定していた」と説明した。

ソレイマニ司令官殺害を受け、米国とイランの緊張の高まりが他国も巻き込みかねない武力衝突につながるとの懸念が強まった。米株価指数先物と3日のアジア株はこのニュースを受けて反落。原油相場は急伸した。安全資産需要が強まり米国債先物と円がいずれも上昇している。

イランの最高指導者ハメネイ師は、ソレイマニ司令官を殺害した者に対する「手厳しい報復」を表明。国営タスニム通信によれば、同国政府は3日間の服喪を宣言した。

イランのザリフ外相はツイッターで、米軍による同司令官殺害を「国際的なテロ行為」と非難。「米国は不正な冒険主義の結果について全責任を負うことになる」とし、「極めて危険で愚かなエスカレーション」だと批判した。

トランプ大統領は現時点でコメントを出していないが、米国の星条旗の画像をツイートしている。


革命防衛隊コッズ部隊を率いていたソレイマニ氏

革命防衛隊コッズ部隊を率いていたソレイマニ氏は、イラン・イラク戦争の兵役経験者で、イラクとシリアにおける過激派組織「イスラム国(IS)」打倒に尽力し、米国の影響力に対抗する人物としてイランで称賛される著名人。ジョージタウン大学のシニアフェローで、米中央情報局(CIA)元職員のポール・ピラー氏は、イランは反撃を迫る「強い圧力」にさらされるだろうと述べ、対立がエスカレートする可能性はにわかに高まったと指摘した。

原題:Top Iranian Commander Killed in U.S. Airstrike on Trump Orders (抜粋)

【私の論評】半年前に米軍の大型無人機が革命防衛隊によって撃墜された大事件の報復か?事態は急展開(゚д゚)!

コッズ部隊はイランの革命防衛隊の国外介入用特殊部隊です。ソレイマニ司令官は将来を嘱望されていたエリート中のエリートで、その殺害はイランに非常に大きな衝撃を与えたはずです。

何らかの報復は必至で、米国は戦争をも覚悟した強い意志を持って作戦を決行したのでしょう。半年前にホルムズ海峡でアメリカ軍の大型無人機が革命防衛隊によって撃墜される大事件がありましたが、その報復を結果的に達成したことになります。

昨年撃墜されたとみられる米軍の無人偵察機「RQ─4Aグローバルホーク」の同型機

イランは無人機撃墜だけでなくコッズ部隊の支援を与えたシーア派民兵組織「カタイブ・ヒズボラ」によるイラクのキルクーク近くの基地襲撃などアメリカ軍への攻撃を繰り返しており、報復の連鎖が続いています。

今回の攻撃ではイランのソレイマニ司令官と一緒に「カタイブ・ヒズボラ」の指導者も殺害されています。ソレイマニがイラクに居たのは大規模な対米テロ作戦の指揮を執る為だったと思われます。
わずか数ヶ月間にイスラム国指導者バグダディに次ぎ世界最大のテロ支援国家イランのスレイマニ司令官を殺害したのですから、トランプ政権にとっては大成果です。これは、いずれトランプ大統領の支持率が、パグダディ殺害のときに上がった時のように上がるでしょう。

このブログでも掲載したように、イスラム国指導者バグダディを「厳格な宗教学者」と記したワシントンポスト紙は、世界的テロリストの筆頭格であったイラン革命防衛隊クドゥス部隊のスレイマーニー司令官を「最も尊敬された軍事指導者」と描写。左派メディアにとって反米テロリストは英雄だということのようです。



一方では、トップが死んでもイスラム過激派テロのイデオロギーもメカニズムも残存するのが実態です。それでもテロと戦い続けるしかないのです。

日本のメディアもおかしげな、報道をしているところもあります。代表的なのは、時事です。

時事通信はスレイマーニー暗殺について「関係各国・組織から3日、米国を非難する声が相次いだ」とあたかも国際世論が反米であるかのような記事を出し印象操作をしています。非難しているのはイラン影響下にあるシリア、ヒズボラ、ハマスとロシアのみです。


ソレイマニがこれまでシリアとイラクでどれほど多くの人々を虐殺してきて、これからも虐殺していったであろうことを知れば、ソレイマニ排除こそ人道的な措置とも言えます。

イラン最高指導者ハメネイ師、ローハーニー大統領らはスレイマーニー司令官の報復を宣言、現在報復作戦を検討中と伝えられています。イラクのアブドゥルマフディ首相も暗殺を実行したアメリカを非難する声明を発表しました。米国当局は在イラクの米国人に即時出国を要請しました。事態は急展開しています。


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2020年1月2日木曜日

安倍首相、任期中の改憲「黄信号」 窮屈な日程…打開には総裁4選か―【私の論評】任期中の改憲には、時間の壁と、もう一つ大きな経済という壁がある(゚д゚)!


参院予算委で答弁する安倍首相

 安倍晋三首相の自民党総裁任期満了が来年9月末に迫る中、悲願の憲法改正にどれだけ近づけるかが今年の焦点となる。ただ、昨年の臨時国会で改憲手続きを定めた国民投票法改正案の採決は見送られ、改憲日程はすでに想定よりも大幅に遅れている。自民党内には早くも、首相が改憲を実現するには総裁任期の延長が必要だとの声も出始めている。

国民投票法改正案で誤算

 「首相の任期中の改憲はすでに黄信号だ」

 自民党の衆院憲法審メンバーはこう語る。自民党は昨年の臨時国会で国民投票法改正案を成立させた上で、今年の通常国会から憲法改正原案の作成に向けた本格議論に入る青写真を描いていた。改憲原案の議論には少なくとも2国会を要するとされることから、発議に持ち込むのは最速でも今秋にも開かれる臨時国会の終盤という目算だった。

 しかし、昨年の臨時国会では首相主催の「桜を見る会」の疑惑などが影響し、改正案の採決は見送られた。自民党は20日召集見通しの通常国会で改正案の成立を図ると同時に、改憲の本体議論を並行させることで巻き返しを図りたい考えだ。

 ただ、議論の場となる衆参の憲法審査会が始動するのは、令和2年度予算成立後の4月以降になる見通しだ。7月には東京都知事選や東京五輪が控えているため会期延長も想定できず、審議時間は限られる。野党が昨年の臨時国会のような遅滞戦術に出る公算も大きく、通常国会は改正案の成立で手いっぱいというのが実情だ。


 それでも、これが実現できれば首相任期中の改憲の目は残る。国民投票は国会発議後60日から180日の間に行う。今秋の臨時国会で改憲原案を国会に提示し、来年の通常国会で発議すれば、ぎりぎりながら任期満了前の国民投票は可能だ。

原案すり合わせだけでも…

 しかし、それも一筋縄にはいかない。国民投票で賛成多数とする上でも改憲原案は超党派で国会に提示するのが理想だが、安倍政権下での改憲に反対する立憲民主党などの野党が乗ってくる気配はない。

 自民党は連立を組む公明党や改憲に前向きな日本維新の会などとの共同提出を念頭に置くが、公明党にしても憲法9条への自衛隊明記など自民党が示す改憲案に賛同しているわけではない。改憲原案のすり合わせだけを考えても相当の時間がかかる見通しだが、与党間で本格的に協議している形跡はない。

 首相は改憲について「必ずや私の手で成し遂げたい」と公言している。改憲までの道のりは綱渡りだが、自民党中堅は「今年中に衆院解散・総選挙を行って勝利し、党総裁4選を認めさせるしか方法はない」と話している。

【私の論評】任期中の改憲には、時間の壁と、もう一つ大きな経済という壁がある(゚д゚)!

上の記事を簡単にまとめてしまうと、憲法改正議論が遅れているので、このままでは時間の壁により、安倍総理は任期中に、宿願の憲法改正ができない可能性がある。その壁を克服するには、総裁四選をするしかないというものです。

しかし、たとえ安倍総理が4選を果たしたとしても、なお大きな壁があります。それは、経済の悪化です。今年の秋頃には確実に景気が下降しているのは確実です。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】令和元年の日本経済を冷やした“最悪のタイミング”での消費増税 景気対策は1度では済まない―【私の論評】すでにあらゆる数値が悪化!政府の景気対策は明らかに後手にまわり、手遅れに(゚д゚)!
浅草仲見世通り昨年暮れから新春のような賑わいをみせていた


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分のみを引用します。

そもそも補正予算の成立が遅すぎるのです。増税に伴う景気減速が目に見えていたにもかかわらず、10~12月の臨時国会での補正予算成立を目指さず、政府は1月20日に召集される通常国会での早期成立を目指す姿勢です。 
仮に1月中に補正予算が成立しても、実際に予算が執行されるのは年度末の3月になってしまいます。つまり、増税から半年も追加対策を打てぬまま時間が過ぎてしまうわけです。 
高橋洋一氏が冒頭の記事で主張するように、景気対策を一度で済ますことなく、来年度(’20年度)の補正もすぐさま打たないと景気の下支えは難しいです。政府の対策が後手に回っているのは明らかです。 
’20年はオリンピックイヤー。東京五輪直前にテレビをはじめ、家電の駆け込み需要が発生する可能性もありますが、「6月にはキャッシュレス決済のポイント還元制度が終了して消費の落ち込みが一層激しくなり、さらに五輪後にはインバウンド需要が急速に萎むでしょう。 
そうして、本格的な景気後退局面入りになるのは明らかです。果たして、いつまで安倍政権は「緩やかに回復している」と言い続けられるのでしょうか。 令和2年の日本は、いまののままでは、経済がかなり落ち込むことを覚悟をすべきです。
 自民党の規則では4選は禁じられているため、安倍現総裁の任期も最長で令和3年の9月までとなります。そして10月には衆議院議員も前回の選挙から4年がたち、任期満了となるため、それまでに動きを見せるという意味では、令和3年の冒頭までに総選挙を行うことは十分に考えられます。

私自身は、IR問題が起こる前には、来年1月解散、2月総選挙であると睨んでいました。その根拠としては、経済が落ち込む前に大規模な経済対策などを打つことを公約として、選挙をすれば十分に勝つ可能性があるからです。

秋以降だと、たとえある程度大規模な経済対策を実施したにしても、実施開始は4月以降ですから、経済がかなり落ち込むのは、目に見えているからです。しかし、IR問題が出てきたので、この線は崩れる可能性もあります。

いずれにしても、安倍政権は憲法改正を確実に成功させるためには、経済の底上げをして、衆院で勝利して、憲法改正勢力を2/3以上にしておく必要があります。


安倍政権は国会で改憲勢力が2/3以上にならなければ、改憲できない

私としては、安倍政権が憲法改正を確実にしたいというのなら、総裁四選は無論のこと、国民誰もが経済が浮揚すると思える経済対策を打つべきだと思います。

そのためには、一見夢物語にも思える、消費税を5%に戻すという案も俎上に乗せるべきと思います。そもそも、消費税を上げると景気が悪くなるから経済対策を実行するというのが、おかしなことです。経済が悪くなるとわかっているなら、増税などしなければ良いのです。

今回の10%でまた景気が悪化すれば、多くの国民は消費税増税は大失敗だったと認識するようになると考えられます。

それに、消費税を5%に戻すことができれば、日本でも景気が悪くなれば、減税などの積極財政を実施、景気が加熱すれば、増税などの緊縮財政を実行するなど、米英などでは当たり前の、機動的財政政策ができるようになるでしょう。

ただし、これには、増税しないと財政破綻するなどという、財務省の大嘘も論破しなければなりません。安倍政権が憲法改正をしたいというのなら、これは避けて通れないでしょう。

さらに、日銀法も改正して、日本国の金融政策の目標は政府が定め、日銀は専門家的な立場から、それを実行するための手段を自由に選べるようにすべきです。何しろ、これこそが、世界標準の中央銀行の独立性なのですから、そうすべきです。

そうして、早急に従来の異次元の金融緩和に戻すべきです。それに、経済対策としては、こちらのほうがより重要です。なぜなら、政府がいくら積極財政をとろうと、日銀が金融引き締めをしていれば、市場で流通するマネーは減衰するからです。これらによって、経済が回復すると市場が確信すれば、まずは株価が上がりはじます。そうして、衆院での自民党の勝利も確実になります。

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2020年1月1日水曜日

台湾・蔡総統「一国二制度は信用破産」 新年談話で中国の圧力牽制―【私の論評】日本こそ、台湾のように『中国反浸透防止法』を成立させるべき(゚д゚)!


新年談話を発表する蔡英文総統

 台湾の蔡英文総統は1日午前、台北の総統府で新年の談話を発表し、「(台湾の)主権を守り民主主義と自由を守ることが総統として堅持すべき立場だ」と述べ、中国の圧力に屈しない姿勢を改めて強調した。

 蔡氏は昨年の香港情勢の悪化を受け、中国の習近平国家主席が台湾統一の方式として掲げる「一国二制度」の「信用はすでに破産している」と指摘。「民主主義と専制は同時に同じ国家に存在できない」と述べ、一国二制度による統一を拒否する方針を確認した。

 その上で、中台関係について、(1)台湾海峡の現状を破壊しているのは中国であり台湾ではない(2)中国は(「一つの中国原則」に基づく)「1992年合意」を利用し「中華民国」の空洞化を図っている(3)主権は短期的な経済的利益と引き換えにできない(4)中国は全面的な浸透で台湾社会を分断している-とする「4つの共通認識」を挙げ、台湾の市民に「一致団結して外部の脅威に立ち向かう」よう訴えた。

 台湾の立法院(国会に相当)は31日、中国からの選挙介入を防止する「反浸透法案」を与党の賛成多数で可決した。蔡氏は法案について「人権や正常な貿易・交流は影響を受けない」と強調。「対応を取らなければ、中国の圧力の第一線にいながら台湾は(介入に)無関心だと国際社会に誤解される」と述べ、法案の影響を懸念する一部世論に理解を求めた。


【私の論評】日本こそ、台湾のように『中国反浸透防止法』を成立させるべき(゚д゚)!

31日、台北市内の立法院で、「反浸透法案」に反対し、本会議場で座り込む国民党の立法委員ら

台湾の立法院(国会に相当)は31日の本会議で、中国を念頭に域外からの選挙運動などへの介入を禁止する「反浸透法案」を採決し、法案を提出した与党・民主進歩党の賛成多数で可決した。10日以内に蔡英文(さい・えいぶん)総統の署名を経て成立する。野党・中国国民党は、来月11日の総統選直前の立法は「100%選挙目的だ」と反発しています。

同法案は、中国を想定した「域外敵対勢力」の指示や資金援助を受け、政治献金やロビー活動、選挙運動を行った者を処罰します。既存の法律で禁止されながら罰則がなかったなどの不備を補い、台湾人の「仲介者」も処罰の対象としました。

民進党は11月末、中国の工作員を自称する男性が、2018年の台湾の地方選で国民党に資金援助をしたなどとするオーストラリアでの報道を受け、議員立法で法案を提出しました。

立法院は総統選と同日に立法委員(国会議員)選があるため12月18~30日に休会していましたが、民進党は委員会審査を経ずに改選前の成立を図りました。蔡英文総統も、同法案に反対することは、「北京を安心させても国際社会は理解不能だ」として可決を促しました。

これに対し、国民党は同法案が想定する「域外敵対勢力」の定義が曖昧なため、中国で企業活動を行う台湾人やその家族、留学生が中国人と接触しただけで処罰対象になる可能性があるとし、「戒厳令時代に逆戻りする」と主張。同党の総統候補、韓国瑜(かん・こくゆ)高雄市長は29日、「台湾人民を脅して票を得ようとしている」と批判しました。

一昨年台湾統一地方選の結果、高雄市長職を20年ぶりに野党、中国国民党の韓国瑜氏が奪還

中国からの浸透は、同国に対する日本の安全保障にも直結しています。中国は移民や留学生をフルに活用して、世界中で浸透工作を行っているからです。

そんな中国の“浸透作戦”を白日の下にさらす衝撃的なニュースが、昨年オーストラリアからもたらされました。国営放送ABCなどが制作した『中国のオーストラリアにおける浸透工作』というドキュメンタリー番組です。

1昨年、豪州は中国への危機感から「外国干渉防止法」を可決し、今年に入ってから政界工作を行っていた中国人富豪の永住権を剥奪し、市民権申請も却下したのですが、中国共産党による大規模で組織的な豪州浸透工作は全く止まっていませんでした。この番組で、トニー・アボット元首相が、同国インテリジェンス機関の警告を無視して中国人富豪グループに自由党への寄付を促していたことが暴露されました。

豪州に比べると中国の日本への浸透作戦は鳥の「カッコウ」と言えるかもしれません。

日章学園九州国際高等学校では、中国人留学生が9割を占めているそうですが、元々この学校はほとんど日本人の生徒が入学していたそうです。しかし昨年は、入学した生徒は日本人16名に対して中国人167名にまでなりました。

少子化に喘ぎ、廃校寸前に追い込まれため、中国人留学生に頼ったのでしょう。私学の学校経営を事業として見るならば、それもありなのかもしれないですが、なぜ日本の高校の入学式に中国国歌を演奏したり、中国国旗である五星紅旗国旗のかが全く理解できません。(写真下)



日本の多くの大学にある『孔子学院』は、欧米ではスパイ機関と認定され、閉鎖や排斥が相次いでいるのに日本では野放しです。また中国人留学生へのビザを規制強化している米国とは反対に、日本はビザ条件を緩和しています。

しかも学費負担や海外への留学費に窮する日本人学生をないがしろにするようなことまでやっています。中国人留学生が10万7260人と全体の40%強もいるのはまだよしとして、このうち1064人が国費留学生、つまり学費から生活費までわれわれの税金で面倒を見ているのです。

まるでウグイス(日本)が自分の子を放り出されたことも知らずに、カッコウのヒナ(中国人国費留学生)を育てる姿にかぶるではありませんか。

日本こそ、台湾のように『中国反浸透防止法』を成立させるべきです。日本の、親中派財界人や、政治家などの頭をぶっ叩き、覚醒させるべきです。

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2019年12月31日火曜日

北海道の植民地化を着々と進める中国―【私の論評】中国による北海道土地買収は、長期的には中国の経済的脅威になるが、短期的には日本の安全保障上の脅威(゚д゚)!

北海道の植民地化を着々と進める中国

ニセコ町のゴルフ場

 中国は1970年代末から対外開放政策を打ち出してアフリカに進出、その後は中南米へ、そして近年は南太平洋諸国へ進出している。一帯一路に絡めた地域開発やインフラ整備を掲げで土地や資源を買い漁り始めた。

 しかし、開発に必要な労働力や資材を持ち込み、ミニ・チャイナタウンを作るので、潤うのは現地進出の中国人社会と賄賂に絡む一部の特権階層で、多くの現地人は辺鄙なところに追いやられ、期待された発展は叶えられない。

 その上に、「債務の罠」に嵌り、惨めな状況に陥ることは、現代の植民地化と言われるハンバンドタ港(スリランカ)の例が示している。

 多くの日本人は、開発途上国に特有の現象で、日本には当てはまらないと信じていたに違いない。

■ 買収された日本の地積

 10年くらい前までは、日本の土地が買い漁られるとマスコミが大きく取り上げ、危機感をもつ地元民もいた。

 しかし、年を追うごとに反対の声も小さくなり、今では買収話は当たり前になり過ぎてニュースにもならなくなったと平野秀樹・青森大学教授は語る(「略奪される国土」、『Hanada』2018年7月号所収)。

 政府は全貌を押さえてさえいない。

 実際政府が公表しているデータは林地のみで、外資(外国人、外国法人)と外資系(出資比率または役員比率の過半が国外)が買収した僅かに5789ヘクタール(ha、2018年)で、山手線の内側(6000ha)相当でしかない。

 平野氏は「全国で・・・国土がどれだけ買われ、どのように占有され、どんな利用が始まっているか。国名、面積、企業名などの全貌はもとより、個別事例とて曖昧なままだ。・・・国はこうした買収問題に対し、何の手立ても講じていない」という。

 心配になった17道県だけが、条例を制定したが、これも林地売買に際し、事前届出を課す条例を成立させただけで、買収阻止や抑制の歯止めにはならないであろう。

 2012年以降、急激に増大したソーラー発電の「発電量7900万kw(2017年)をもとに試算してみると、ソーラー用地は概ね16万~24万ha。・・・これらの買収の相当数が外資系であり、推定8万ha程度が買収(リースを含む)されたとみられる」と教授は語る。

 以上から、教授は外資保有の日本国土は10万ha程度とみる。しかし、無届の買収、日本法人(外資法人の子会社)の買収、ペーパー・カンパニーによる本体秘匿の買収、リース使用の賃借契約など膨大に隠れているとみられることから、10万haは最小値という。

 北海道に限ると、政府掌握の林地買収は2495ha(2018年)でしかないが、これは2012年の2.4倍である。

 小野寺秀(まさる・元北海道道議)氏や宮本雅史(産経新聞編集委員)氏らが7~8年前から報告し盛んに警鐘を鳴らしてきたが、現地の農協や役場は「把握していない」と関与を避け、マスコミの多くも黙殺を続けてきた。

 しかし、宮本氏の報告では、中国資本に買収された北海道の森林や農地などは推定で7万ha。北海道だけで、山手線の内側の11倍以上である(「産経新聞」平成29年2月25日付)。

■ 北海道も植民地化? 

 中でも北海道の多くの土地が中国資本に買い漁られてきた。過疎地で手が行き届かないことや、リゾート地に中国資本が入ることでより発展が期待され、活気を取り戻すと期待しての放出であったに違いない。

 しかし、「産経新聞」(令和元年12月17日付)の「外資開発もニセコ潤わず」「雇用は外国人、税収限定的」の見出しの報道からは、雇用や税収などを期待した現地を困惑させている状況が読み取れる。

 世界的なスキー・リゾート地である北海道ニセコが「債務の罠」にかかったということではないが、中国系資本への土地売却や資本導入は、アフリカや中南米、南太平洋などに置ける開発同様に、現地を潤すことはない状況が読み取れる。

 現に地元では「中国など外国資本に経済面で実効力を奪われてしまう」(同上紙)」と危惧の声が上がっている。

 すでに多くの企業が北海道に入り込み、リゾートやホテル経営、ソーラーパネル発電、高層ビル建築、高級住宅街開発などを行っている。

 千歳空港・自衛隊基地の西方数キロ先には中国人別荘地があり、17棟が立ち並んでいる。当初は1000棟の計画であったが、周辺などの反対もあり頓挫した様である。しかしいまだに空地もあり、開発会社は今後の増棟を目指すとしている。

 北海道はカネを引き出せる金庫でもあるようだ。現道知事の鈴木直道氏は夕張市長時代(2017年)に2つのホテル、スキー場、合宿の宿の4施設を2億4000万円で中国人の不動産業者に売却したが、2019年に香港系ファンドに15億円で転売されたと言われる。

 中国が北海道に食指を動かしていることは明確のようだ。

 平成17年5月、国土交通省と北海道開発局が主催した「夢未来懇談会」では、札幌市で通訳や中国語教室を手掛ける中国人社長が、「北海道人口1000万人戦略」の掲題で基調講演し、参加者を驚かせたという(上掲「産経新聞」平成29年紙)。

 農林水産業や建築業を中心に海外から安い労働力の受け入れ、北海道独自の入管法制定、授業料の安いさまざまの大学設立などで、人口を1000万人に増やすという概要で、うち200万人は移住者とすべきだと力説したとされる。移住者のほとんどは中国人であろう。

 人口増加の方法として、留学生は北海道に残留する、正式な労働者として受け入れる、北海道から都府県に行くときは日本の入管法に適応させる、札幌に中華街を建設し国際都市の先進地域としての地位を確立するなどであったというから、まるで北海道独立であり、行く行くは中国・北海道自治区や北海道省への画策であろう。

 全体主義の中国であり、こうした根っこは中国共産党の遠大な計画に繋がっているとみられる。中国の意中を知るのはいいとしても、よくも国交省や道開発局が講演させたものである。

 在日中国人のチャイナ・ウォッチャーは、一部中国メディアの間では「北海道は10年後には、中国の32番目の省になると予想されている」ともいうから、ニセコの目論見はミイラ取りがミイラになるようなものではないだろうか。

■ アフリカや南太平洋諸国の惨状

 20世紀末は中国のアフリカ進出に注目が集まっていたが、21世紀に入ると中南米、習近平氏が登場してからは南太平洋の国々に注目が注がれている。

 南太平洋諸国は第2列島線(小笠原諸島~グアム)と第3列島線(ハワイ~米領サモア)間の空白地帯であるが、日米のインド太平洋戦略にとっては重要な地域である。

 そこに中国の魔の手が伸び、併せて台湾が国交を有する17カ国のうちの6か国(キリバス、ソロモン諸島、ツバル、パラオ、マーシャル諸島、ナウル各共和国)があり、台湾の孤立化工作とも重なる。

 しかし、ほとんどの作業員も資材も現地調達ではなく中国からやってくるため、雇用や資材活用による収入などは一向に期待できない。

 それどころか、開発は中国が貸し付けた金で行われるため、年を経るごとに金利が嵩み、ほとんどの国の対中債務が全対外債務の多くを占める状況である。

 また、契約に定めた環境保護規定は悉く反古にされ、乱開発で自然環境が破壊されるが、チャイナ・マネーに依存するフィジー、バヌアツ、トンガなど貧しい島嶼国の政府には中国の横暴を止める力もないという(福島香織「南太平洋に伸びる中国の魔の手」、『正論』令和元年9月号所収)。

 それどころか、こうした悲惨な状況の報道自体が中国の力によって制約されるなど、一旦開発が始まると踏んだり蹴ったりである。

 中国の資本で国家がよみがえると期待した政府の甘い認識が国民を失望させ、契約の見直しや縮小、破棄などに至るケースが増えている。

 ハンバンドタ港などで起きたことがアフリカや南太平洋の国々でも起きようとしている。すなわち、「債務の罠」で土地の譲渡や長期貸与となり、近代版の植民地と騒がれ始めているのだ。

■ おわりに

 こうしたことがアフリカや中南米、南太平洋の島嶼国だけでないことが、ニセコの開発で明確になってきた。

 在日本の中国人70万人余のほとんどが20~30代の若者(卑近な例えでいえば、50個師団に相当)で、本国共産党や在日中国大使館の指示で動くことは長野事件(北京オリンピックのトーチリレーが長野で行われた時の中国人留学生による暴行)や東日本大震災時の一斉引揚げによって証明された。

 また、東日本大震災で退避した中国人に使用を許した学校施設で、防火などの点検を兼ねて関係者が入ろうとしたが中国人の拒否で入口に立つことしかできなかった。

 このような事実からは、日本の土地を外国系資本などにむやみに売ってはならないということである。

 駐中国日本大使館や日本総領事館をはじめ、日本と諸外国の外交施設用地は相互に賃貸であるが、唯一駐日中国大使館と中国総領事館(複数)の敷地だけが、外交の対等主義を逸脱して賃貸ではなく所有となっている。

 鳩山由紀夫氏は首相の時、「日本は日本人だけのものではない」と公言し、中国系資本による北海道をはじめとした土地の買い漁りを促進させた。

 しかし、国際関係に於いては「油断大敵」の諺が何より重要であることを忘れてはならないであろう。

森 清勇

【私の論評】中国による北海道土地買収は、長期的には中国の経済的脅威になるが、短期的には日本の安全保障上の脅威(゚д゚)!

冒頭の記事にもあるように、確かに外国人による北海道の土地買収がとどまるところを知らないです。

太平洋進出を目指している中国は、外国人土地取引に制限がない日本を標的にし、土地や水源等の買収を繰り返しています。

このようなことを中国は日本だけではなく、世界中で繰り返しています。それにしても、なぜ日本を含めて他国はこのようなことをあまりしないのに、中国はなぜこのようなことをするのでしようか。

その理由については、このブログでも以前掲載したとことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国、建国以来最大の危機…香港「独立」問題が浮上、年末に米中貿易戦争が最悪の状態に―【私の論評】ソ連と同じ冷戦敗北の軌道に乗った中国(゚д゚)!
ゴルバチョフ氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
ソ連共産党が91年に崩壊したとき、もっとも衝撃を受けたのが中国共産党でした。彼らはただちにソ連崩壊の理由を調べ、原因の多くをゴルバチョフ大統領の責任とみました。 
そのため、中国にはゴルバチョフ氏のような人物が出てこない可能性のほうが高いです。しかし、党指導部はそれだけでは不安が払拭できず、3つの重要な教訓を導き出しました。 
中国はまず、ソ連が失敗した経済の弱点を洗い出し、経済力の強化を目標とした。中国共産党は過去の経済成長策によって、一人当たりの名目国内総生産(GDP)を91年の333ドルから2017年には7329ドルに急上昇させ「経済の奇跡」を成し遂げました。 
他方で中国は、国有企業に手をつけず、債務水準が重圧となり、急速な高齢化が進んで先行きの不安が大きくなってしまいました。これにトランプ政権との貿易戦争が重なって、成長の鈍化は避けられな恒久的しかも、米国との軍拡競争に耐えるだけの持続可能な成長モデルに欠いています。 
第2に、ソ連は高コストの紛争に巻き込まれ、軍事費の重圧に苦しみました。中国もまた、先軍主義の常として軍事費の伸びが成長率を上回っています。 
25年に米国の国防費を抜き、30年代にはGDPで米国を抜くとの予測まであります。ところが、軍備は増強されても、経済の体力が続きません。新冷戦に突入すると、ソ連と同じ壊滅的な経済破綻に陥る可能性が否定できないのです。 
第3に、ソ連は外国政権に資金と資源を過度に投入して経済運営に失敗しています。中国も弱小国を取り込むために、多額の資金をばらまいています。ソ連が東欧諸国の債務を抱え込んだように、習近平政権は巨大経済圏構想「一帯一路」拡大のために不良債権をため込んでいます。 
確かに、スリランカのハンバントタ港のように、中国は、戦略的な要衝を借金のカタとして分捕っているのですが、同時に焦げ付き債務も背負うことになります。これが増えれば、不良債権に苦しんだソ連と同じ道に踏み込みかねないです。
国際投資の常識として、自国よりはるかに成長している国に投資した場合は、利益を得られますが、成長率が自国と同等もしくは、それ以下の国に投資した場合、利益を得られることはありません。 
中国の成長は落ちたといえ、公式には6%程度の成長は一応していることになっています。現在世界を見回してみると、10%以上の成長を維持している国などほとんどありません。中国の「一帯一路」はかつてのソ連のように不良債権の山を生み出すことになりそうです。
ましてや、経済成長率がかなり鈍い日本に中国が投資したとしても、何の儲けにもならないどころか、赤字になります。その中でも、特に北海道に投資したとしても、儲けるという観点からは程遠いです。

そのようなことは、わかりきっているので、米国、イギリス、フランス、ドイツなどの先進国は、日本の土地を大量に購入するなどということはないです。ましてや、日本もそのようなことはしないのです。

確かにニセコなどには、中国以外の外国の資本も参入していますが、彼らは、海外投資の専門家であり、当然のことながら、いくつかの投資先を世界中にかかえていて、リスクヘッジもした上での参入なのでしょう。中国資本にはそのようなノウハウがあるのかどうか甚だ疑問です。

ちなみに、日本も実はかなり投資はしています。ただし、日本国内はそうでもないのですが海外でかなりの投資をしています。日本はここ20年ほどは、対外純資産が世界一です。ただし、これはあまり自慢できることではないかもしれません。なぜなら、本来は日本国内の景気が良くて、めぼしい投資先があれば、本来国内に投資されていたものが、海外投資にまわっているという背景があるからです。


しかし、これは世界に日本が貸し付けている(お金等の)資産が世界一ということです。日本の場合、この資産のほとんどが、現金もしくはそれにすぐ変えられるものなどがほとんどであり、土地などではありません。

日本の機関投資家などは、外国土地を購入したしても、それは今や優良な資産ではないので、そのようなことはしないのでしょう。

一方、中国では、国内では土地を所有することはできず、土地使用権があるだけという事情もあり、海外に土地を購入したがる富裕層などもいるため、海外で土地を購入するということも活発に行われているのでしょう。

現在の中国共産党幹部の出身は、例外はあるのかどうかは知りませんが、2代、3代と遡れば、大富豪などはいないと思います。そんな彼らは、いわゆる華僑などとは異なり、大規模な国際投資には無知なのでしょう。

だから、世界各地で土地を買い漁るなどのことをしているとみえます。将来的には、北海道の土地等も、何の利益ももたらさず、あるいはもたらしたにしてもわずかのものであり、手放さざるを得なくなることでしょう。だから、長期的にみれば、中国の土地購入は、日本にとっての脅威どころか、かつてのソ連と同じく中国の脅威となる可能性が高いです。

特に中国が米中冷戦等で経済的に破綻した後には、世界中で中国政府や、中国企業によって買い占められた土地などが、手放されることになるでしょう。

ただし、短期的には中国の土地買い占めは、安全保障上の脅威になります。短期とは、いってもここ10年くらいは確実に脅威かもしれません。これに対し日本はその対応が全く出来ていません。GATS協定(サービスの貿易に関する一般協定)の影響が大きいからです。1994年、WTOでGATS協定が締結されましたが、日本は外国人等による土地取引については制限なしで署名をしてしまったのです。

この間違った判断が令和時代の今日においても深刻な影を落としています。米国を始めとする多くの国は、外国人による土地取得は条件付きで可能とし署名をしましたが、当時日本は海外からの投資を呼び込むために市場開放を優先し、安全保障の意識もなく制限なし署名をしたのです。

条約とは国内法の上にある上位概念です。GATS協定に署名をした日本が今になって土地取引に制限をかけると方針転換した場合、30近い条約を今から改正し、それに伴う国内法の整備もしていかなければなりません。当然、相手国からもその見返りを求められますし、国内産業においてあらためて外国との利害調整をしなければならないという、膨大な作業が必要となります。

また条約などを無視して国内法を優先すれば良い、今すぐにでも外国法人の土地取引について規制をかけるべきだというご意見もありますが、国際司法裁判所などに提訴されたとき、果たしてこの裁判に勝訴出来るのかと考えると、現実的には非常に疑わしいところがあるのです。

このような背景から日本でも、外国人の土地取引を制限する方法が他にないものかどうかということを今日まで模索されてきました。

例えばGATS協定にも、安全保障上の例外規定があります。例えば、日本の防衛施設等の隣に外国人が所有をする正体不明の建物等が存在し、スパイ活動や通信傍受など、安全保障上の危険があると「判断」をすれば、条約の例外規定を使いその取引に制限をかけることも可能なのです。

しかし、この制限をかけるための「判断」という責任を取りたく無いのでしょう、これまで各省庁は安全保障上の例外規定を発動しなかったのです。

しかし先般、日本政府は韓国に対して「安全保障上の問題」から、韓国をホワイト国から除外をしたり、特定3品目の韓国への輸出に制限をかけたのです。これは世耕経済産業大臣(当時)の力強いリーダーシップの下、初めてとられた安全保障上問題としての例外措置でした。

そして、米国でも大きな変化が起こっています。

米国が国防権限法を成立させたことです。背景には、「中国製造2025」を掲げ、技術大国としての開発を目標とする中国に対し、トランプ大統領は強固な姿勢を見せています。ファーウェイやハイクビジョン等、中国企業数社とその関連会社をリストに登録し規制をかけていきます。更に規制は登録企業のチップ等を使っている企業との取引にも影響があるというもので、日本企業も無関係ではいられません。

今回注目すべきは、国防権限法で新たに「外資による土地取引規制」が導入されたという点です。安全保障に影響及ぼす可能性があるものを外国人に、売却・貸与・譲渡する際、CFIUS(対米外国投資委員会)が審査することになりました。このCFIUSは土地や建物について外国法人による購入だけではなく、リースや土地使用権の取得も審査対象となる予定です。
日本でも、このCFIUSのような機関を設置すべきです。現在NSS(国家安全保障局)の中に「経済班」を設置する動きがあります。まさに日本版CFIUSともいえます。これは、2020年4月発足を目指しています。

その背景には対日投資など経済分野における安全保障上の課題を解決する必要性を、政府がようやく認識したことがあります。防衛上の課題だけでなく、米中貿易摩擦や次世代5Gの整備をめぐる動きなどに対応する必要があります。

各省庁から審議官、参事官クラス数名の態勢で精鋭を集め、新たな部署を創設し、土地や水源の取引に関わる安全保障上の審査などを取り扱い、安全保障上の問題であると「判断」する責務を負うのです。

これを実現するためには日本版CFIUSの存在・運営根拠となる立法措置も必要になってきます。これを成立させ、我国の外国資本による土地買収問題にピリオドを打つべきです。

ただし、中国人の土地購入は、日本人があまり購入しないということにも原因があると思います。根本的には、デフレで、多くの日本人が土地を購入したり、借りたりして新たな事業を起こそうということが少ないため、土地を外国人にでも売らざるを得ないという背景があると思います。

日本で初めてスキーに挑戦する中国人の子どもたち

日本国内の景気が良くないということも、外国人土地購入問題の背景にあるのはまちがいないです。従来のように、土地転がしなどで、お金を簡単に儲けられるというのも問題でしたが、日本も少なくともデフレから完全に脱却して、景気を良くするべきです。

現象面でいえば、少なくとも、ニセコ等の日本の国際的なスキー場に押し寄せるスキーヤーの約半分くらいが日本人になるべきなのです。日本の国会議員には、単に外国人が日本の土地を購入することを規制するだけではなく、日本が完璧にデフレから脱却することにも努力すべきです。

そうでないと、たとえ無秩序な外国人による土地買収を防ぐことができたとしても、国内ではいたるところで無秩序なインバウンド化が起こり、日本国内にニセコのようなところがたくさん出来上がることになります。

ちなみに、このブログでも以前述べたように最早ニセコは、外国人の、外国人による、外国人のためのリゾートと化していると言って良いです。地元ニセコ町の分析でも、民間消費や観光業の生産額のほとんどが、町外に流出超過だとされています。観光客や投資の増加は、もはや地域の収入には十分つながっていないというわけです。

本年も、このブログも年内の最後の記事となりました。皆様、本年もお世話になりました。良い年をお迎えください。

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2019年12月30日月曜日

2019年の日本経済、やっぱり「消費増税」は最悪の選択―【私の論評】「もりかけ桜」では揺るがなかったが、経済の悪化が安倍政権の政権土台を揺るがすことになる(゚д゚)!

2019年の日本経済、やっぱり「消費増税」は最悪の選択だったしかし、やってしまったものは仕方ない

「デフレ脱却」はあえなく潰えた

今年は新元号・令和のスタートの年だった。1年間の景気や物価、雇用はどうだったのか。景気を左右した要因は何だったのか。振り返ってみよう。

日本全体の経済(マクロ経済)を見るとき、重要なのは雇用、景気と物価である。

まず雇用について、総務省の失業率で見ると2019年1〜10月で2.2〜2.5%、就業者数では6665〜6758万人だった。失業率は低位安定、就業者数は上昇傾向で、雇用は相変わらず良かった。


景気について、内閣府の景気動向指数の一致指数で見ると、95.3〜102.1。なお、昨年末から低下傾向であり、そのころに景気の山を迎えていた可能性がある。それ以降景気は下向きであるが、10月の消費増税がそれをさらに加速し、後押ししたようだ。


物価はどうだったのか。総務省の消費者物価指数総合(除く生鮮食品)の対前年同月比でみると、1~11月で0.3~0.9%だったが、年前半より後半のほうが伸び悩んでいる。特に、10月の消費増税の影響が出た10月と11月は、0.4%と0.5%。

今回の消費増税により、消費者物価は形式的にプラスの効果となり、その影響は0.7%程度だ。しかし、同時に幼児教育・保育の無償化が実施されている。これは物価にマイナスの効果となるが、その影響は▲0.5%程度だ。これらプラス、マイナスの結果をあわせると、10月以降の消費増税の影響は0.2%程度になる。

これを考慮すると、10月・11月とほとんど物価が上がっていない。消費増税により、「2019年内のデフレ脱却」という目標はあえなく潰えた。


総じて、2019年を振り返ると、景気や物価は徐々に悪くなりつつあるが、雇用は相変わらずよかったという評価だ。もっとも、雇用は景気に遅れる遅行指数であるので、今後の先行きは暗い。

増税分を吐き出す景気対策が必要

ちなみに、内閣府の景気動向指数の先行指数でみると、1月の96.3から始まり10月の91.6までほぼ一貫して下降している。これも、来年の景気の先行きを不安視させる数字だ。

本コラムでは以前にも言及したが、景気足踏みや後退傾向は、2018年から見られていた。しかも、日本だけでなく世界経済の環境も、米中貿易戦争、ブレグジットの混迷などマイナスが多かったので、日本への悪影響が懸念されていたところだ。その中で、10月の消費増税は最悪のタイミングであった。

しかし、やってしまったものは仕方がない。消費増税分を吐き出すような景気対策が必要だ。

幸いにも、来年1月からの通常国会では、冒頭で補正予算が審議される。総額4.5兆円のうち、経済対策は(1)災害からの復旧・復興と安全・安心の確保2.3兆円、(2)経済の下振れリスクへの備え0.9兆円、(3)未来への投資など1.1兆円で合計4.3兆円だ。これは、消費増税による増収額(平年ベース)とほぼ見合っており、消費増税を吐き出すものだといえる。これ1回きりではなく、来年度でもあと1、2回の景気対策が必要になるだろう。

さらに、来2020年度予算をみてみよう。2020年度当初予算案の一般会計総額については、102兆6580億円と、2019年度当初予算と比べて1兆2009億円の増加となった。マスコミは「過去最大」と、拡大に否定的なトーンで報じている。

例えば、NHKでは「来年度予算案 過去最大の102兆円超 歳出膨張に歯止めかからず」としている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191221/k10012223561000.html

新聞各紙の社説でも、同じような報道である。
朝日新聞「100兆円超予算 健全化遠い実態直視を」(https://www.asahi.com/articles/DA3S14302417.html毎日新聞「過去最大の102兆円予算 『身の丈』に合わぬ放漫さ」(https://mainichi.jp/articles/20191221/ddm/005/070/093000c読売新聞「20年度予算案 『100兆円』は持続可能なのか」(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20191220-OYT1T50394/日経新聞「財政の持続性に不安残す来年度予算案」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53620900Q9A221C1SHF000/産経新聞「来年度予算案 歳出の改革は置き去りか」(https://www.sankei.com/column/news/191221/clm1912210003-n1.html

筆者が大蔵官僚の時代には、来年度予算について課長補佐クラスか課長クラスが各紙の論説委員のところに、エンバーゴ(情報解禁日時)付きの資料をもって事前に説明に行っていた。

その後、各社の社説が出ると、大蔵省幹部が説明した課長補佐クラスか課長クラスを全員集めて、各社の社説を論評したものだ。「この社説はよく書けているな、この社説はダメだ」。もちろん、大蔵省の意向に沿っている社説が「よく書けている」と評価されるわけだが、同時に課長補佐・課長クラスが、どこまでマスコミを丸め込めたかという「仕事ぶり」も評価されているのだ。

おそらく今でも、財務官僚は似たような方法でマスコミに対して事前レクをしているのではないか。だとすれば、各紙の論調が似ているのは事前レクのためではないかと邪推してしまう。その際、「予算の膨張や財政再建の遅れを批判してもかまわない」と財務官僚が説明したら、各紙はそのように社説を書くのではないだろうか。

「過去最高の予算額」は悪いことなのか

しかし、過去最高の予算額は悪いことなのか。予算額は、いうまでもなく名目値である。名目値の経済統計数字は、年々増加し大きくなるのが通例だ。だから、それが過去最高になるのは当然であり、前年を下回っているほうが、むしろ問題だろう。「過去最高」を問題視するのは、デフレ思考そのものであり、それこそが問題だ。

ちなみに、名目GDPと一般会計歳出総額を比較すると、一般会計総額の方が名目GDPより伸びが低い。つまり、安倍政権において年々緊縮度合が高まっている。過去最大の予算が問題なのではなく、名目GDPに対して一般会計総額が相対的に縮小していることのほうが問題だ。


各紙ともに財政再建を気にしているのもおかしい。筆者は、国のバランスシートが健全であることや国の倒産確率が無視できるほど小さいことから、これまで本コラムで何度も、財政再建の必要が乏しいことを書いてきている。各紙はそうした合理的な主張を無視して、財務省の言い分を無批判に信じているかのようだ。

新聞各紙は、軽減税率の恩恵を受けられるので、消費増税に賛成する立場だ。2019年10月の消費増税の結果、来年度予算の歳入では、史上初めて消費税による税収が最も多い税目となった。

消費増税を悲願としてきた財務省にとっては喜ばしいことだろうが、そのせいで景気は落ち込んでおり、景気対策も必要になっている。いったい何のための消費増税だったのか。

「臨時・特別の措置」の意味

来年度予算の歳出総額は102兆6580億円であるが、そのうち、「臨時・特別の措置」1兆7788億円が含まれている。「臨時・特別の措置」とは、消費増税対策でもあるキャッシュレス・ポイント還元事業の2020年度分2703億円や、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(2018年12月14日閣議決定)の2020年度実施分1兆1432億円などが含まれる。

つまり、「臨時・特別の措置」の残りの部分100兆8792億円は「通常分」というわけだ。財務省としては、「臨時・特別の措置」は2020年度限りのものであり、2021年度ではなくなる。そうして財務省は、緊縮財政の姿勢を示しているのだ。

それが色濃く出ているのが、公共事業費だ。2020年度の公共事業費は6兆8571億円だが、その中に、「臨時・特別の措置」7902億円が含まれている。「通常分」は6兆0669億円で、前年から1%程度減っている。

要するに財務省としては、「公共事業費を減額したが、2020年度は『臨時・特別の措置』で膨らんだ」という説明なのだ。

このように「臨時・特別の措置」というのは、財務省が緊縮財政姿勢を示そうとするときに、よく用いられる手法である。

本来であれば、マイナス金利か極めて低い金利環境を反映して、公共事業の採択基準の際の割引率を見直し、公共事業の大幅増を行うのが筋だ。

なにしろ割引率はここ15年も4%で据え置かれており、誰の目から見てもおかしい。現在の金利環境で見直せば、割引率は0.5~1%程度になるので、採択可能な公共事業を3倍増させることも可能だが、来年度当初予算は古い公共投資の採択基準のままなので、公共事業費は伸びていない。

15年も割引率を見直さない奇妙さ

ちなみに、アメリカではこの割引率は毎年見直されており、年末に予算管理局が機械的にアップデートしている。2020年度の想定国債実質金利は3年、5年、7年までマイナス金利、10年はゼロ金利である(https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2019/12/M-20-07.pdf)。

実は、筆者は18年前に国交省に出向していたとき、各国の費用分析を比較・調査するために海外出張したことがある。そのとき訪れた各国でも、割引率は随時見直すと言っていた。国交省が15年にわたって割引率を見直さないのは、必要な公共事業を行わなかったという意味で罪深いものだ。

いずれにしても財務省は、割引率の見直しをせずに、「臨時・特別の措置」として公共投資増を計上しただけだ。この意味で、今回の予算案は本質的な仕事になっていない。

文教・科学振興費も若干のマイナスになっている。公共事業費とともに、これらはモノとヒトに対する将来投資である。現在は国債がマイナス金利または超低金利なので増額する絶好のチャンスであるが、その良好な環境を活用しているとは言い難い。

【私の論評】「もりかけ桜」では揺るがなかったが、経済の悪化が安倍政権の政権土台を揺るがすことになる(゚д゚)!
冒頭の記事にもあるとおり、2020年度の歳出総額は102兆6000億円ですが、2019年度予算が101兆4000億円なので前年から約1.2%の増額予算です。まず、政府歳出が経済成長に及ぼす影響をみるために、名目GDP(国内総生産)と比較した伸び率を比較する観点があります。

2013~2018年度の名目GDPは平均約プラス1.8%、そして政府は2020年度約プラス2%の名目経済成長を想定しており、ほぼ変わらないです。2020年度の歳出の伸びが名目経済成長率より低いので、政府歳出は経済成長率を抑制する方向に作用する可能性が高いです。

より厳密に見るために、政府の税収の伸びと歳出の伸びを考えます。2013~2017年度の名目GDPは平均約プラス2.1%、同期間に2014年度の消費税率引き上げ(5%から8%)の影響を除いて税収は平均約3.4%増えました。経済成長率よりも税収の増減率が大きくなるため、2020年度が政府の想定通りの経済成長率なら10月からの消費増税がなくても税収は3%以上増えます。

少なくとも税収(2017年実績106兆8000億円、地方を含めた国全体ベース)がプラス3%以上増え、政府歳出(同121兆8000億円)がプラス1%程度であれば財政収支は改善します。これは、家計・企業などの民間部門から政府に対する支払いが増える緊縮財政です。


2020年度予算案は一般会計の歳出規模が2年連続で100兆円を
                 超えることになったが、この財政政策は実は緊縮財政

さらに2019年10月からの消費増税によって、教育費無償化などの家計への恩恵を含めても恒久的に家計に2~3兆円負担が増えると考えられます。このため、2020年度の税収はさらに1~2%ポイント上乗せされます。この結果、税収と歳出のバランスでみると、2020年度はかなりの緊縮財政になるでしょう。ただ、消費増税で経済成長率がゼロ%前後に落ち込むとみられ、実際の税収の伸びはプラス3%を大きく下回るでしょう。

このため、2020年度予算では、歳出が抑制される中で増税が行われるので緊縮財政が続くと見るのがより正確でしょう。つまり、「過去最大規模」「100兆円」という2つのワードを強調するメディアは的外れです。

12月初旬に政府が発表した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」において公的支出は13兆円の規模ですが、これが日本の経済成長率を高める可能性は極めて低いです。実際、同様の大規模対策となった2016年8月の経済対策によって、その後の政府支出の伸びが全く高まりませんでした。


こうなる理由の一つは、補正予算で事業規模が増えても、その影響で当初予算ベースの歳出が減ることです。

さらに、12月の経済対策で公共投資が上積みとなったため、2020年度の予算では公共工事関係費は前年から減額になりました。なお、消費増税によって家計の実質所得が目減りする個人消費への悪影響を、建設業などに恩恵が偏る歳出拡大で対応する政策は資源配分を歪める弊害が大きいです。

このため、当初予算で公共投資を減らすことは問題ではないとしても、個人消費の落ち込みへの手当として、低所得者向けの社会保障関連などの歳出を拡大させる余地が大きいです。

いずれにしても、大規模な経済対策を発表しても、政府による歳出上乗せが実現しなければ、先に述べたとおり2020年は増税によって緊縮財政となります。2%インフレの早期実現のために、金融財政双方において景気刺激的な運営が求められるとすれば、これは大きな問題です。

米国では、著名経済学者であるラリー・サマーズ教授が2013年に長期停滞論を唱え始め、政府による歳出拡大の必要性を訴えています。長期停滞論そのものに対しては懐疑的なところもあります。

ただし、同氏が2013年に主張した後、先進国の中で経済正常化が最も進んだ米国でも、極めて低い金利とインフレ率が長期化したままです。同氏が主張する拡張財政政策には説得力があり、その慧眼に感服せざるを得ないです。

さらに、米国の大物経済学者であるオリビエ・ブランシャール元IMFチーフエコノミストは、国債金利が名目経済成長率を下回る場合に、総需要を増やす財政政策が必要であり、特に日本は長期停滞に陥っているため金融・財政政策でテコ入れする必要がある、と主張しています。

オリビエ・ブランシャール氏

これら米国の一流の経済学者の提言は、日本の経済政策運営には残念ながらほとんど生かされていません。標準的経済理論を軽視した政策運営が続くため、オリンピック・パラリンピックを迎える2020年の日本経済は長期停滞から脱することは極めて難しいでしょう。

そして、従来からこのブログでも指摘していますが、現在の経済政策運営が安倍政権の政治的土台を揺るがすリスクが高まることになるでしょう。

「もりかけ桜」では、結局安倍政権の政治的土台を揺るがされることはありませんでした。特に、「桜を見る会問題」で内閣総辞職になるなどということはあり得ません。しかし経済の悪化は確実に政権土台を揺るがすことになるでしょう。

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