2022年2月3日木曜日

日韓関係改善のカードも飛び交う韓国大統領選―【私の論評】韓国には日米は何の期待もできないが、これからも安全保障上の有益な空き地であり続けるべき(゚д゚)!

日韓関係改善のカードも飛び交う韓国大統領選

岡崎研究所

 3月9日の韓国大統領選挙に向けて与野党の選挙戦が激しくなってきた。1月13日付けの中央日報の社説は、「革新与党候補者李在明(前京畿道知事)の強い要請にこたえて、文在寅が3月の選挙の前に補正予算を組むことを受け入れた。そのために企画財政部は税収見通しを操作しているようだ。ポピュリズムがフル回転している」と批判する。与党は現在国会で安定過半数を維持しており、補正予算承認は簡単であろう。


 革新与党は、ポピュリストの性格が強い。その候補者である李在明は、日韓関係を含め自分は何よりも実用主義を重視すると言っているが、強い信念というよりも世間のムードで動くポピュリストの性格が色濃い印象を受ける。予測不可能な印象も受ける。発言の撤回も多いようだ。

 世論調査の結果も振れており、目下の選挙戦は混とんとしている。1月17日発表の韓国の世論調査会社リアルメーターの支持率調査では、尹錫悦(保守野党、前検事総長)40.6%、李在明36.7%、安哲秀(中道野党、実業家、政治家)12.9%となり、再び尹錫悦リードに反転した。この発表の10日前の7日の韓国ギャラップの結果は、李在明36%、尹錫悦26%、安哲秀15%だった。

 尹錫悦の急落は、保守野党に衝撃を与えていた。尹錫悦を支持してきた若者層が安哲秀に流れたといわれる。尹錫悦の急落には理由があった。ひとつは12月来に激化した野党選対委の内部分裂だった。もう一つは尹錫悦の夫人金建希の略歴詐称・誇張(結婚前のものだが)のスキャンダルだった。夫人は12月26日記者会見を行い謝罪、国民の許しを請った。


 支持率急落を受けて急遽党内で和解した。また尹錫悦と安哲秀の間の野党候補統一化の可能性が取り沙汰されるようになった。しかしそれは保守野党にとっては一つの可能性にはなるが、過去の例を見ても実現はそう簡単ではない。

 主要候補者はどちらも特徴的である。2人とも国会議員の経験はなく、いずれも党内政治的にはアウトサイダー、パラシュート型の候補者であり、党内基盤も強固ではない。

 李在明は、文在寅派、李洛淵の非主流派のいずれでもない、謂わば「その他」に属する。尹錫悦は朴槿恵前大統領訴追の際の検事で、今回選挙前に保守野党「国民の力」に入党したばかりだ。両者ともにスキャンダルを抱えている(李在明は大庄洞開発疑惑等、尹錫悦は上述の通り)。人格的には、李在明は直情的、実用主義、ポピュリスト等、尹錫悦は優柔不断とも言われる。

 選挙まで1カ月少々となったが、選挙の帰趨はまだまだ分からない。世論調査の結果は非常に不安定だ。保守党寄りになっていた若者層の帰趨も不安定である。他方、政権交代論は非常に強い(世論調査でもそれを望むとの数字が高い)。これは野党に有利になるが、自責点をしないでそれを生かせるかどうかは野党次第である。

 また今後経済が大きなイシューになると思われ、両候補の経済政策が注目される。尹錫悦も効果的な経済政策が必要となる。外交問題では既にある程度の議論は出ている。李在明は、今のところ文在寅政権の政策の範囲内のことしか言っていない(南北や対中関係を重視、対日・対米関係は慎重)。尹錫悦は、現実主義で、日米韓や日韓関係重視、対中警戒、南北警戒と言える。

候補者が日本大使と会見という異例事態も

 日韓関係については、今後実際の行動を見る必要があるものの、李在明は対日強硬、尹錫悦は現実的である。李在明は、対日強硬のイメージ払拭のため11月下旬頃より実用主義で行くとスタンスを修正したが、これまでの強硬な発言は消し難く、ポピュリズムの動向や党の枠の規制も受けるだろう。尹錫悦については日米韓、日米関係重視の発言は安心感を与える。

 今回選挙で異例のことは両候補が日本大使と会見したことだ。11月下旬、尹錫悦は相星駐韓大使と会見した。日韓関係改善のカードを公式化した。

 それから1カ月後の12月下旬には李在明も日本大使と会見した。日韓関係が選挙の直接のイシューになっている訳ではないが、日韓関係の改善の一般的必要性は多くの国民の間に一定の底流として共有されていると思われる。

 しかし、特にいわゆる「労働者問題」(徴用工問題と呼ばれたりもするが適切ではない)は、解決案の中味が問題であり、韓国側が「国内措置」として解決しようとしない限り、解決はなかなか見通せない。それにしても文在寅政権の過去5年の責任は大きく、「労働者問題」と「慰安婦問題」の二つの問題が日韓の「永遠のトゲ」となって歴史に残らないよう、文在寅には残る数カ月の間にもそれを解決する責任があると言わざるを得ない。

【私の論評】韓国には日米は何の期待もできないが、これからも安全保障上の有益な空き地であり続けるべき(゚д゚)!

韓国政府は、朴槿恵(パク・クネ)大統領のときも反日であり、しかもプーチンにまで告げ口外交をする始末であり、今後誰が大統領になったにしても、反日姿勢は変わらないとみておくべきでしょう。一旦影を潜めたようにみえても、何かの危機があれば、すぐに再燃すると考えるべきであり、まかり間違っても新大統領になったからといって、関係を修復するべきではありません。

朴槿恵前韓国大統領とプーチン・ロシア大統領

その理由は、以前にもこのフログに上げたことがあります。それは米国の戦略家ルトワック氏の『自滅する中国』(2012年出版)に掲載されている韓国の分析です。以下にそれを再掲します。
●国家は普通は独立を尊ぶものだが、従属したがる国もある。それが韓国だ。 
●彼らは中国と中国人にたいして、文化面で深い敬意を持っている。中国の「マーケットの将来性」にもその原因がある。 
●韓国における中国と中国人への尊敬の念は明の時代にまでさかのぼることができる。その一番の担い手は、知的エリートとしての官僚である両班だ。 
●面白いことに、中国文化の影響が非難されるのは北朝鮮。北では漢字は事実上禁止され、ハングルの使用だけが許されているほど。 
●韓国では教育水準が高ければ高いほど反米の傾向が強まる。しかも最近はアメリカが衰退していると考えられているために、中国の重要性のほうが相対的に高まっている。個人で中国でビジネスを行っている人が多いという事情もある。 
●極めて奇妙なことに、韓国は大規模な北朝鮮の攻撃を抑止するのは、グローバル規模の軍事力を持つアメリカの役目だと考えられており、実際に天安沈没事件や延坪島の砲撃事件にたいしても(死者が出たにもかかわらず)ほとんど報復は行っていない。 
●つまり実際のところ、韓国政府は米国と中国に依存する従属者となってしまっている。米国には全面戦争への抑止力、そして中国には一時的な攻撃にたいする抑止力を依存しているのだ。 
●ところがこれは、米国にとって満足できる状況ではない。韓国を北朝鮮から庇護するコストとリスクを、米国は独力で背負わなければならないからだ。 
●その上、韓国への影響力は中国と折半しなければならない。中国は北朝鮮への統制を中止すると脅かすことで、常に韓国政府を締め上げることができるからだ。今のところ韓国が中国に声を上げることはない。 
●米韓同盟を形成しているものが何であれ、そこには共通の「価値観」は含まれていない。なぜなら韓国はダライラマの入国を中国に気兼ねして堂々とビザ発給を拒否しているからだ。 
●現在のような政策を保ったままの韓国は、いわゆる「小中華」の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員となることを模索しているのかもしれない。韓国が自国の安全保障のコストとリスクを受け入れず、かわりに従属者になろうとしているのは明らかだ。 
●このような韓国の安全保障の責任を逃れようとする姿勢は、「日本との争いを欲する熱意」という歪んだ形であらわれている。ところが日本との争いには戦略的に何の意味もないし、日本へ無理矢理懲罰を加えても、韓国側はリスクを背負わなくてすむのだ。
1.米国に従属している韓国は、同時に中国にもすり寄っていこうとしている。 
2.その大きな理由は二つ:歴史的・文化的な面での尊敬と、ビジネスのチャンスだ。 
3.安全保障面では、北のコントロールを中国に、そして全面戦争の抑止は米国に依存。 
4.その責任逃れの憂さ晴らしとして、日本にたいする情熱的な敵対心を展開。
この状況は根本的にも現在でも変わっていません。注目すべきは、ルトワック氏が、韓国の保守・リベラル左派とか、与党・野党などと区分して語ってはいないことです。韓国というシステムそのものの特徴や属性を語っているのです。もちろん、韓国にもこの特徴や属性にあてはまらない人もいます。しかし、韓国全体ではこのような特徴と属性を有しているといえるでしょう。

韓国には、他にも問題があります。それは、韓国という国の戦略的な脆弱さです。ソウルは北との国境線である非武装地帯から近く、対空防衛システムや防空シェルターなども十分ではないという脆弱性を晒しており、韓国の軍隊は自国をまったく守れない状態にありました。というのが40年以上も前の状況でしたが、実は今も全く同じなのです。

政府機能や民間企業の本社などを、ソウルから遠くに分散するなどの対策を一切実行していません。空襲に対応するシェルターも不十分です。40年数年前と違うのは、北朝鮮が核兵器や長距離ミサイルを開発したことだけです。もし戦争が起きれば、北朝鮮は最初の一撃で韓国の指揮所や対戦車兵器などを潰せます。

40年前にアメリカが提案した、首都機能を南に移すことや、企業の光州への移動や、軍事面での72項目にものぼる細かい変更など、ほとんどなされていません。半島有事の際に作戦を指揮する権限は、いまだに韓国軍ではなく長い間在韓米軍司令官にありました。米国側が長年、返還を示唆しても逃げ口上を駆使して延期し続けていました。これについては、2017年ようやっと韓国軍に引き継がれました。ただ韓国は、北朝鮮の核開発を阻止する動きは今でも全く見せていません。
ルトワック氏は韓国を強く批判し、次のように述べています。
韓国は北朝鮮の非核化には殆ど興味がなく、金正恩体制の崩壊は望んでいない。日米が直面しているのは「朝鮮半島問題」で、二つの国で構成されている。一つは北朝鮮であり、どんな手段でも核武装解除を進めるべき国である。そしてもう一つは、韓国という無視すべき国である。
このような現実をみれば、日本が韓国に対してどのような姿勢を取るべきか明らかです。無論、無視です。ただ、韓国が、日本政府が「佐渡島(さど)の金山」(新潟県)」を世界文化遺産候補として推薦したことに対して、批判した場合などのように、歴史の歪曲などをした場合は、これに対して史実等をもとに反論をすべきでしょう。

その他は、輸出入管理でも、通貨スワップでも、信用保証やその他の関係でも日本の都合だけで決め、韓国は一切無視で良いです。

上の記事にもあるように、韓国は安全保障面では、北のコントロールを中国に、そして全面戦争の抑止は米国に依存という虫の良い考え方をしているようですが、そのような考え方が通用するはずもありません。

そもそも、北朝鮮は中国の浸透を嫌っています。そうして、このブログで以前述べたように、北朝鮮には核ミサイルがあり、この核ミサイルは日米などに向けられているのと同時に、中国にも向けられているものであり、結果として北朝鮮とその核は朝鮮半島への中国の浸透を防いでいます。もし、そうでなければ、韓国は中国に擦り寄り姿勢であり、今頃朝鮮半島は中国の朝鮮省になっていたかもしれません。 

私は、最近の北朝鮮のミサイル発射について、以下のように分析しました。

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。しかし、それを盛大に祝うための成果が、ミサイル発射以外にないという状況にあります。だから、ミサイルを連発しているのでしょう。

日米に対して、何かのプロパガンダを発しているとか、何らかの要求をしているという面は、全くないとはいいませんが、それにしても、従来のように米国などに明確にメッセージを発しているというようには見えません。

ただ、現在北は表には出しませんが、コロナ感染症で経済・社会かなり痛めつけらており、これに乗じて中国が北朝鮮に浸透しようとするかもしれないとの危惧の念を抱いており、これに対する牽制の意味もあって、ミサイルを連発している可能性もあるとみています。

1 月5日に発射したとみられる北朝鮮の超音速ミサイル

国連児童基金(ユニセフ)は昨年9月1日、北朝鮮が中国製(シノバック)の新型コロナウイルスワクチン約300万回分の受け取りを拒否したと明らかにしています。北朝鮮は世界的なワクチン不足を考慮し、感染状況がより深刻な国にワクチンを回すよう求めたとされています。

韓国紙、中央日報は17日、韓国政府筋の話として、国連が北朝鮮へ新型コロナウイルスワクチン6千万回分(を支援する案を打診したと報じました。昨年10~11月に米ニューヨークで、国連関係者が北朝鮮の金星国連大使に提案し、金氏は平壌の返答を待っているとしていました。この打診がその後どうなっかについての報道はありません。

ただ、中国製ワクチンを拒否したことについては、そもそも中国のワクチンの効き目を信じていないという憶測もありますが、私としては、中国の浸透を忌み嫌う北朝鮮側の意向もあったのではないかと推測しています。

この状況のなかでは、韓国は日米にとって最早安全保障上は空地のような存在ではありますが、それでもこの空地があるという状態は決して悪い状況ではないのです。

最悪の状況は、北朝鮮が非核化し、米国側につくのであれば良いですが、そうではなく北が中国に飲み込まれ、ついで韓国も飲み込まれ、結果として朝鮮半島全体が中国の支配下に入ることです。こうなると、38度線は、対馬海峡になることになります。これだけは、避けるべきでしょう。韓国には何も期待できないですが、そこに安全保障上の空地があるということが重要なのです。これからも、日米の空き地であり続けるべきです。

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2022年2月2日水曜日

トランプのPACが2021年下半期に5100万ドルを集める―【私の論評】トランプは2024年大統領選挙の有力な候補者である(゚д゚)!

トランプのPACが2021年下半期に5100万ドルを集める

<引用元:FOXニュース 2022.1.31-2.1
トランプのPACは1億2200万ドル以上の現金を手中に
29日にテキサス州コンロ―の集会で話しをするトランプ前大統領
トランプのセーブアメリカ政治活動委員会(PAC)による1月31日の発表によると、トランプ前大統領のPACは2021年下半期に5100万ドルの資金を集めており、PACは1億2200万ドル以上の現金を手にしている。

「トランプ前大統領が前代未聞のペースで資金集めを継続していることから、2022年以降の共和党の未来は、おそらく米国の歴史上で引き続き最強となることがわかる―MAGA運動は浸透している!」と発表には書かれていた。

さらにセーブアメリカPACは、集めた全資金には、トランプのプラットフォームに向けたり、トランプの似顔絵や推薦を使用したりして他のキャンペーンで集めた数億ドルは含まれていないと指摘した。

「ドナルド・J・トランプ大統領は、継続して共和党の未来を獲得し明確にする政治団体を作り上げた」とトランプの広報担当部長テイラー・ブドビックは声明で述べた。

「トランプ大統領は、彼の指導力の必要性がかつてないほどに重要になる中で11月以降を見据えて非常に良い位置にある」とブドビックは続けた。

だがトランプが2021年下半期に集めた5100万ドルは、前大統領が同年の上半期に集めた8200万ドルから著しく減少した。

トランプは2024年の大統領選再出馬をほのめかしているが、今のところ正式な発表は控えている。先週はトランプが「45代及び47代」の米国大統領となるだろうと述べた動画が浮上した。先週土曜日のテキサス州コンロ―でのセーブアメリカ大会で、トランプはもし自身が再度大統領となったら2021年1月6日の議事堂暴動に参加して収監された人々に恩赦を与えると示唆した。

「もし私が出馬して勝ったら、あの1月6日の人々を公平に扱うだろう」とトランプは、多くがワシントンDCに収監されている暴動参加者について述べた。

「そしてもし恩赦が必要なら、恩赦を与えるだろう。なぜなら非常に不公平な扱いを受けているからだ」とトランプは続けた。
【私の論評】トランプは2024年大統領選挙の有力な候補者である(゚д゚)!

日本では、ほとんど報道されませんが、ドナルド・トランプ前大統領は29日にテキサス州コンロ―の集会で1万人を超える参加者に話し、バイデン政権の外交政策と「不正な」2020年選挙を批判しました。


以下に要旨のみを掲載します。
毎日、バイデンの無能さが米国を危機にさらしている。みなさんご存知の通り、私が大統領だったら、プーチンとロシアがウクライナにやっていることは決して起こらず、可能性すらなかった。
とトランプは、ウクライナ国境で高まるロシアの侵攻に言及しました。

トランプはジョー・バイデン大統領のアフガニスタン撤退も批判し、米国は850億ドル相当の軍装備品をタリバンに与えたと指摘しました。トランプは、バイデンの政策は「本物の第三次世界大戦の危険」を作り出していると主張しました。

また前大統領は、バイデンのCOVID-19パンデミック対応について話し、
米国人が全てのCOVID関連の義務化から独立を宣言する時だ。
と主張しました。

トランプはさらに、「不正な」2020年選挙と民主党が今月初めに提案して失敗に終わった選挙権法案を批判しました。
我々の国を真に取り戻すためには、あらゆる問題の中で最も重要な事を解決しなければならない。自由で、公平で、正直な選挙を守ることだ。2020年選挙は不正操作されたのであり、誰もがそれを知っている。他の誰よりもそれを知っているのは誰か分かるだろうか?民主党だ。 
ちょうど昨日、素晴らしいペンシルベニア州で我々は大勝利した。全州の裁判所は、盗まれた選挙の直前に民主党によって導入された弁解なき郵便投票行為は、違法であり著しく憲法に違反していると判決を下した。それゆえに我々が州で勝利していたのだと確信している。
トランプはこう続けました。
我々はウィスコンシン州でも大きな訴訟に勝利した。本当に不正が盛んで、裁判官はドロップ・ボックス、彼らは鍵付きボックスと呼ぶが我々は鍵なしボックスと呼んでいるのだが、それが違法だと判決を下した。それらは違法だった。何万票も。それが違法だという判決が出た。
トランプはまた2022年と2024年の「レッド・ウェーブ」を呼びかけました。

2024年の大統領選挙には、トランプ前大統領が共和党の候補として出馬する可能性が高いですし、そうでなくてもトランプ氏寄りの人が出てくる可能性は否定できないです。

最近、有力候補としてメディアで名前が上がり始めたのは、フロリダ州のデサンティス知事です。彼はもともと、トランプ氏の支持を得てフロリダ州の知事になっています。ただし、大統領選挙に名乗りを上げるかは定かではないし、彼自身は現在、トランプ氏とは微妙な距離を保っているようです。

フロリダ州 ディサンティス知事

仮にトランプ氏が出馬するならば、彼に勝てる人はいないてしょう。しかし、仮に出ない場合、昨年11月のバージニア州知事選挙が参考になります。

バージニア州知事選では、トランプ氏が支持を表明した共和党の実業家グレン・ヤンキン氏が勝利しました。いまやトランプの支持を得ることは、共和党の中で勝ち残るためには有効な手段なっているのです。

たとえば、トランプ支持者が納得するような候補者を立て、予備選の段階ではトランプの支持を全面に出しておき、選挙本戦ではトランプを隠して、トランプ色を薄めるような戦略も考えられます。そうすれば、トランプが嫌いな人や無党派層の票も取り込めるので、選挙で勝てるのです。

グレン・ヤンキン氏

では、バイデンはどうなのかといえば、年齢から言っても懐疑的にならざるをえないです。

トランプ前大統領は70歳で大統領に就任し最年長でしたが、その後、78歳で就任したバイデン大統領がその記録を塗り替えています。バイデン大統領は現在79歳で、現役大統領として最高齢記録を更新しました。2024年に仮に選挙に勝利したとすると、2期目の就任時には、82歳になります。

それにバイデン大統領のスピーチ能力にも心配がある。彼がアドリブで話す時には、ファクトの間違いが多いと指摘されているいます。たとえば彼は、自分が10代の頃、公民権運動に関連して逮捕されたということをしばしばスピーチの中で披露していのですが、彼が逮捕されたという記録は確認できない上、逮捕されたとされる場所も曖昧で、当時の年齢についても13歳という時もあれば15歳と発言する時もあるのです。

また、カマラ・ハリス副大統領のことを過去何度も、「ハリス大統領」と言い間違えていることでも有名です。1月中旬に、1月6日の議会占拠1周年を記念した式で演説をした時にも、「先週、ハリス大統領と私は……」と述べ、訂正もしませんでした。

これらは、大きなミスではないかもしれないですが、1度や2度ならず複数回も間違えるとなれば、一国の大統領としての資質を問われても仕方がないです。

バイデン大統領(左)とカマラ・ハリス副大統領(右)

一方、ハリス副大統領の大統領候補の可能性ですが、残念ながら1年目の彼女の功績はほとんどない上、担当した移民問題でも、昨年6月の中南米訪問で「(移民はアメリカとの)国境に来ないで」と発言してしまいました。彼女の支持率は低いです。

他にもピート・ブティジェッジ運輸長官、テキサス出身のベト・オルーク元下院議員などの名前が出ることもありますが、まだまだ民主党の候補の方は不透明です。

NBCテレビによりますと、トランプ氏がこれまでに支持を表明している候補者は現職を含めおよそ90人いて、今年の中間選挙でこうした候補者たちが当選するかどうかが、トランプ氏の影響力を測る試金石になるとして注目されています。現時点では、トランプ氏は次期大統領選挙での有力な候補者と言って間違いないです。

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2022年2月1日火曜日

バイデン政権をかき乱す文在寅の北朝鮮交渉―【私の論評】文在寅5年間の対北融和政策の失敗等で、北・韓国が派手に外交の表舞台にでてくることはなくなる(゚д゚)!

バイデン政権をかき乱す文在寅の北朝鮮交渉

岡崎研究所

 北朝鮮は新年早々、新たなミサイル実験を繰り返している。極超音速ミサイルではないかとも言われている。米国は従来同様、同盟国と非難声明を発出し、新たな制裁を発表した。しかし、バイデンの「戦略的忍耐」は持続可能ではないように見える。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロウギンは1月13日付けの論説‘We can’t neglect North Korea for another year’で、北朝鮮をもう一年無視することはできない、人道支援のキッカケを掴むべく北を試していくべきだと述べている。

 ロウギンは、⑴ 北朝鮮は2021年世界保健機関(WHO)からの医療物資支援の受け入れを再開し、国際赤十字が同国内で活動を行うことを許可した、⑵ 金正恩の最近の動きは米のワクチンを含む大規模の人道支援を受け入れる兆候とも受け取られ、米国はこれを試すべきだ、⑶ それは交渉のキッカケになるかもしれない、と言う。

 コロナ対策を含む人道支援の可能性は以前より多くの者が言ってきたことであり、誰も異論はないであろう。しかし、目下バイデンが、対中関係、ウクライナなど対露関係、より良い再建法案の議会通過などに忙殺されている現状には留意せざるを得ない。しかし、北が真剣に重大なシグナルを出してきているのであれば、米国は逃すことなく追求していくべきだろう。

 1月17日にも北は再びミサイルを発射した。今年になって4回目となる。北のシグナルは判然としない。北が交渉に出て来ることを拒んでいる以上、他に良いオプションはない。その間に北の武器開発が進むことは、我方にとりジレンマだが、北に交渉の主導権を与えることも得策ではない。当面は国際社会の結束を維持し、ワクチン支援などあらゆるキッカケを見つけながら、辛抱強く対処するしか妙案はない。

 北には硬軟両様の対応が必要である。1月12日の米の独自制裁は評価できる(ロシア人を含めたことも良い)。また、米国がこれを基に安保理による制裁拡大を提案していることも適切である。日本など関係国の非難声明発出も良かったと思われる。

 目下対中国、ロシア関係は厳しいが、北の問題には努めて中国とロシアの関与を求めることも必要だろう。中露の対北協力(政府の関与だけなく民間の関与、取引を含めて)を遮断することが重要である。北が武器の委託実験場になっているのではないかと勘繰りたくもなる。

バイデン政権を苦しめる文在寅のこだわり

 文在寅は、朝鮮戦争終了宣言の発出に執着している。文は豪州訪問(12月)中、米中と南北は戦争終了宣言に原則合意したと述べ、北の条件は米国による対北敵視政策の終了であり、そのために南北や米朝が交渉につけないでいると述べた。

 これに関連して、米国のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャが、「(韓国は)同盟国をコーナーに追い詰めるな」と題する異例の批判記事を書いている(12日付朝鮮日報英文)。文在寅政権のやっていることは、まさにバイデン政権を追い詰めていると言ってよい。文在寅政権による自分のアジェンダ推進のための不正確な記者発表や過早な発言の事例はしばしば見られてきた。

 なお、文在寅は戦争終了宣言を米と合意し、北の同意も得て、2月の北京冬季五輪に乗り込み、南北外交を展開することを構想してきた。しかし、12月6日に米国は北京五輪の「外交ボイコット」を発表、1月5日には北が北京五輪不参加を正式に通知した(金正恩の訪中もない)。

 文在寅は12月上旬から「北京五輪ボイコットは検討しない」と言い続けたが、1月12日に青瓦台は、文在寅が北京五輪には出席しないと正式に表明した。これで文在寅の戦争終了宣言構想や南北五輪外交構想は霧散した(退任の5月までにまた動くかもしれないが)。文在寅の構想は余りにも現実を無視した、独善的な構想だと言わざるを得ない。

【私の論評】文在寅5年間の対北融和政策の失敗等で、北・韓国が派手に外交の表舞台にでてくることはなくなる(゚д゚)!

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は7日、同国オリンピック委員会と体育省が中国オリンピック委員会などに書簡を送り、北京冬季五輪への不参加を伝えたと報じました。

これを受け、中国が落胆ないし不快感を覚えることはないでしょう。北朝鮮選手団の不参加が五輪に与えるダメージは大きくないですし、中国は北朝鮮の窮状を誰よりも理解しているからです。

こけれに比べ、韓国の文在寅大統領の落胆はかなり大きなものだっだでしょう。

任期が残りわずか(来年5月9日に任期満了)となった韓国の文在寅氏にとって、最大の外交的課題は朝鮮戦争の「終戦宣言」を実現することでした。もし、北朝鮮が金正恩総書記か、妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長を北京五輪の開会式に送ったとしたら、文在寅氏は自ら現地に乗り込んで米国との対話を促し、終戦宣言への道筋をつけようとしたはずです。

しかしそれも、北朝鮮が五輪不参加を表明した以上、実現可能性はなくなりました。しかし、北朝鮮が北京五輪に参加していたとしても、終戦宣言には到達できなかった可能性の方が高いです。

米国政府は先月10日、人権侵害などを理由に北朝鮮の李永吉(リ・ヨンギル)国防相と中央検察所を制裁指定しました。これは、バイデン政権発足後に初めて出された人権問題に関する制裁だ。政治犯に対する虐待や公開処刑などの人権侵害を、決して見過ごさないという態度表明と言えます。

金正恩氏(右)と李永吉氏(左)/2015年10月朝鮮中央通信より

米財務省は「北朝鮮の個人は強制労働と持続的な監視、自由と人権の深刻な制限に苦しんでいる」とし「中央検察所と北朝鮮の司法体系は不公正な法執行をし、これは悪名高い強制収容につながる」と説明した。

続いて、外国人も北朝鮮の不公正な司法体系の被害者になることがあるとし、オットー・ワームビアさんの事例に言及した。オットー・ワームビアさんは大学生だった2016年、北朝鮮訪問中に体制転覆容疑で逮捕され、昏睡状態で米国に送還された後に死亡しました。

米財務省は「生きていれば今年27歳のワームビアさんに対する北朝鮮の処遇は非難されるべき」とし「北朝鮮政府は人権に関連する悲惨な事件に対して今後も責任を取らなければならない」と主張しました。

米財務省は外貨稼ぎの手段として悪用される北朝鮮労働者の海外違法就職斡旋会社も制裁の対象に含めました。

バイデン政権に入って北朝鮮に新たな制裁を加えたのは今回が初めてです。バイデン政権はその間、北朝鮮との対話が必要だという立場を守り、従来の制裁を維持してきました。

米財務省は12日、北朝鮮の核・ミサイル開発などに関わったとしてアメリカ財務省が、12日、北朝鮮の男6人とロシア人の男のあわせて7人と、モスクワにある企業に対して、資産の凍結などの制裁を科したと発表しました。

今回の制裁にあたって米財務省は「北朝鮮は去年9月以降、弾道ミサイルを6回発射し、国連安保理の複数の決議に違反している」と、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮を強く非難しました。

文在寅氏の望みは事実上、これらの米国の態度表明により潰えました。

一部では、米国が北朝鮮を非核化交渉テーブルに引き出すために制裁カードを活用することもできるという一種の警告メッセージを送ったという解釈もあります。

金正恩氏が、人権問題で非難されるのを何より嫌っていることは広く知られています。それなのに敢えて、人権問題で制裁を加えたのは、バイデン政権に金正恩体制を甘やかす気がないことの表れと言えます。

そうして、最近の北によるミサイルの連続発射は、この警告メッセージへの反発ともみてとれますが、それは先日もこのブログに掲載したように、みせかけであり北朝鮮の苦しい現状を反映したものではないかと考えられます。

北朝鮮では、今年が故金日成(キム・イルソン)主席の生誕110年、故金正日(キム・ジョンイル)総書記の生誕80年に当たります。

2018年に開催された〝太陽節〟金日成主席の生誕祭

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。しかし、それを盛大に祝うための成果が、ミサイル発射以外にないという状況です。

北のミサイル連発に、バイデン政権はすで答えを出しています。それは、先日もこのブログにのべたように、一つはトライデント弾道ミサイル20基と核弾頭数十発を搭載するネバダは15日、グアムにある海軍基地に入港させたことです。

弾道ミサイル原潜がグアムに寄港するのは2016年以来で、寄港が発表されるのは1980年代以降でわずか2度目です。

もう一つは、米軍は空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻を同じ時期にインド太平洋地域に派遣したことです。これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結です。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしています。

バイデン政権としては、中露や北朝鮮が新たな政治的なカードを持ち出すことを封じるためにこのようなことをしているのでしょう。バイデン政権としては、北や韓国、ロシアの撹乱を防ぎ、中国と本気で対峙しているという覚悟をみせた形です。

バイデンを応援する米国メディアは、どちらもありそうもない、中国の台湾侵攻を煽ったり、ロシアのウクライナ侵攻を煽っていますが、これによって、厳しく中露に対峙するバイデン政権をアピールしたいのでしょう。

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

米国内や米国議会における超党派での反中世論の高まり、アフガニスタンでの失敗や、今秋の中間選挙に向けての劣勢挽回のためにも、バイデン政権は中国に対する融和策を取ったり、大きな失敗はできません。北朝鮮や韓国の撹乱等を真に受けている暇などありません。

北と韓国は、最近ロシアからミサイル関連の技術の供与を受けているようです。上の記事にもあるように、北が武器の委託実験場になっているのではないかという憶測もあります。

一方韓国では2021年9月15日のSLBM発射に合わせて、航空母艦キラーと呼ばれる超音速巡航ミサイルも公開されました。射程距離500キロメートルのミサイルがマッハ3の速度でターゲットに命中する映像が公開されたのですが、ロシアの超音速ミサイル(P800、ヤホント)をコピーしたとみられます。韓国はロシアから兵器を導入する「プルゴム事業」プロジェクトを進めてきました。

これは、韓国が1991年にソ連に提供した経済協力借款14億7000万ドルについて、ロシアが現物償還を提案し、1995年から行われてきた事業です。韓国はロシアから携帯用対戦車誘導弾、携帯用対空ミサイル、戦車(T-80U)、装甲車(BMP3)、空気浮揚艇などを受けました。 2007年からは「韓露軍事技術協力事業」の形でロシアの軍事技術を取り入れています。

ロシアの支援で韓国は弾道ミサイルや巡航ミサイルなど各種の核心軍事技術を手に入れました。今回公開された超音速ミサイルはその一環でしょう。SLBM関連技術もロシアからもらった可能性を排除できないです。

韓国のSLBM開発にロシアが貢献したのなら問題は簡単ではないです。

もし、ロシアが韓国にSLBM関連技術を提供する代わりに、韓国に対して何か相応の情報を求めていたなら問題です。

韓国が有する軍事情報の中で、ロシアが関心を持つのは米国製兵器と運用方法に関することです。 日本をはじめとする自由陣営が対中国や対ロシア牽制に余念がないなか、中国に歩み寄り、ロシアと軍事技術協力事業を行う韓国を米国は疑っていることでしょう。韓国は、のようなことをする前にすべきことがあるはずです。

文在寅氏の、5年間にわたる対北融和政策は失敗に終わりました。その最大の原因は、何より彼自身が、米国との信頼関係構築に失敗したことです。

北朝鮮も結局、長期にわたるミサイル発射により、大きく世界を変えることはできませんでした。

文在寅や金正恩は、結局何も変えられませんでした。何一つ世界に貢献することはありませんでした。プーチンもそうです。結局、韓国・北朝鮮、ロシアは米中対立を複雑にしただけです。

今後、韓国や北朝鮮が、外交の表舞台に出てくることはなくなるのではないでしょか。あるとすれば、北や韓国が直接ということではなく、北は中国やロシアが仲介することになるでしょう。韓国の場合は米韓の首脳級の会談などあまりなくなり、事務方の話し合いが中心になるのでないでしょうか。日本も韓国に力添えすることもないでしょう。

そもそも、北や韓国が派手に外交の表舞台に立っていたことこそが、異常だったのかもしれません。今後はそのようなことはなくなるかもしれません。

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2022年1月31日月曜日

一行目から馬脚をあらわした 岸田首相の『文藝春秋』寄稿の笑止―【私の論評】岸田首相の経済政策は、財務省による遠大な計画を実現するための持ち駒にすぎない(゚д゚)!

一行目から馬脚をあらわした 岸田首相の『文藝春秋』寄稿の笑止

「新しい資本主義」は「新しい社会主義」か?








もう、お里が知れる

 本コラムでは、これまで岸田政権のグダグダ、モタモタを散々と書いてきた。

  2021年12月13日付の「この一ヵ月で岸田政権が間違えた3つのこと」、同27日付の「年の瀬までグダグダ・モタモタの岸田政権 いったいどこに向かうのか?」など, いくら書いても書き足りないくらいだ。これほど「とろこい」政権はひさしぶりだ。 

  筆者は、岸田政権の本質を「左派」だと見てきた。そこで新年早々に出版したのが『岸田政権の新しい資本主義で無理心中させられる日本経済』(宝島社)である。

  岸田首相は、『文藝春秋』2022年2月号に「新しい資本主義」を寄稿した。本コラムの読者であれば、昨年、矢野財務次官が寄稿した『文藝春秋』11月号の原稿について、筆者が会計学的・金融工学的観点から「落第」判定をしたのを覚えているだろう(2021年10月11日付「財務事務次官『異例の論考』に思わず失笑…もはや隠蔽工作レベルの『財政再建論』」)。またも同じ『文藝春秋』上の出来事なので、苦笑せざるを得なかった。


  岸田首相の寄稿を、筆者も早速読んでみた。この種の雑誌寄稿は、実際は首相の首相のブレーンが執筆するものだが、当然岸田首相が了解済みのものだ。

  失笑ものの矢野氏の寄稿を、岸田氏は容認した。それだけでも問題だと思うが、今度は一応本人名義の寄稿である。  総字数は1万をやや超える程度であるが、はじめの1節を読んでみて、さっそく「お里」が知れてしまった。

  はじめの1節は、問題意識や検討対象を述べる重要な箇所だ。そこではこう書かれている。  〈市場や競争に任せれば全てがうまくいくという考え方が新自由主義ですが、このような考え方は、1980年代以降、世界の主流となり、世界経済の成長の原動力となりました。他方で、新自由主義の広がりとともに資本主義のグローバル化が進むに伴い、弊害も顕著になってきました。〉

霞が関の必殺技「真空切り」

 はっきり言えば、これから後は読む必要のないほどの馬脚を露わしている。「新自由主義」なるものを糺していきたいという意気込みがわかるが、問題は「新自由主義」の定義である。岸田首相は、新自由主義を「市場や競争に任せれば全てがうまくいくという考え方」というのだ。

 どのような経済学者に聞いても、市場や競争に任せれば全てがうまくいくと考える人はいない。どのような経済学テキストでも、市場の失敗も政府の失敗の可能性も示される。市場や競争に任せればすべてうまくいくことはないし、政府に任せたからといってすべてうまくいくとは限らない。市場・競争と政府のバランスの問題なのだ。

 ところが岸田首相は、はじめの定義の段階で誤っている。無意味な定義からスタートすれば、それ以降の議論はまったくナンセンスになる。論理学ではよく知られた話ではあるが、どんなデタラメを言おうと形式論としては「正しい論法」となるから、これは最強論法だ。

 こうした論法は、官僚の世界では「真空切り」と言われる。真空切りは、たとえば予算査定においてとんでもなく大きく減額しておいて、補正で手当をしなければいけないような「あり得ない」予算査定のことを指していた。

 しかし、他の場面でもよく使われる。

 第一次安倍政権時代、筆者の仕事で、国会公務員法を改正して天下り斡旋を禁止しようとした。職業選択の自由に反する建前があるため、国家公務員の天下りそのもは規制しづらかった。しかし天下りは役所の人事の一環なので、役所(国家公務員)による斡旋が重要な構成要素となる。天下りの斡旋自体を禁止しようとしたのだ。

 しかし、役所は猛反対した。そのときに、役所側が提示してきた案の一つに「営利法人による斡旋」の禁止があった。役所の人事の一環である天下りを斡旋するのは役所(国家公務員)だから、ありえない前提だ。営利法人を規制しても意味がない。

 ありえない前提を持ち出すことで、規制をまったく骨抜きにする手法だ。これも霞が関における「真空切り」である。

 真空切りで始まる岸田氏の寄稿は、岸田政権のブレーンが書いたにしろ、あまりにもお粗末だ。この「新自由主義」への前提を読めば、その後は読まなくても、デタラメのオンパレードというのは容易に想像できる。

所信表明演説では触れていない

 なお、その他の各論については、長谷川幸洋氏と原英史氏にと私による鼎談(「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル 【岸田政権】『新しい資本主義 徹底分析』」)をご覧いただきたい。



 霞が関文学における「真空切り」論法では、しばしば荒唐無稽な「反対解釈」へと誘導されることが多い。岸田首相の場合も、「市場や競争に任せれば全てがうまくいくという考え方」を否定することで、あたかも「政府に任せれば全てがうまくいく」と思っているかのようだ。

 その一例について、先述した鼎談の中でも触れた。岸田首相は寄稿で「メインバンクの判断で債務軽減できる法整備」を主張している。債権者平等という民法原則に挑む野心策であるが、世界の資本主義国では聞いたことがない手法だ。誰かの一存により他の債権者の権利侵害を平気で行えるとは、まるで全体主義のようだ。

  筆者の周りの経営者の中にも、岸田政権の「新しい資本主義」は「新しい社会主義」ではないかと懸念する人は多い。

  岸田首相のこうした野心的な政策は、所信表明や施政方針演説では、当然ながら言及されていない。一方で、それ以外の政策については、「10兆円規模の大学ファンド」のように、これまで安倍・菅政権でやってきたことをあたかも「新しい」ことにように看板替えしただけだ。

  最後に、本コラム(2022年1月10日付「オミクロン株対策を迷走させる『岸田の鉄砲、官僚の逃亡、メディアの沈黙』」)でも指摘してきた岸田政権の「ちゃぶ台返し」について触れておこう。 

 佐渡金山の世界遺産登録の推薦で、岸田首相はまた「ちゃぶ台返し」をやった。岸田首相は外相時代に「軍艦島」の遺産登録で大トラブルになった経験もある。外務省も文科省も、佐渡金山の推薦見送りを事前説明したはずで、そのつもりだったはずだ。

  だが先々週あたりから安倍元首相を含めた自民党保守系議員から、推薦見送りはおかしいという意見が出始めた。先週1月24日の国会では、高市政調会長の質問に岸田首相はタジタジになった。翌25日の首相動静を眺めていると、関係役人を官邸に呼んでいることがわかったので、一転して推薦すると直感した私は、ツイートし、私のチャンネルでも推薦の見通しを述べた。案の定、28日、岸田首相は、佐渡金山の遺産登録推薦を表明した。 

 この調子で、新型コロナについても「ちゃぶ台返し」で感染症法上第2類相当から第5類への引き下げを期待したいところだが、当分はありそうにない。仮にあったとしても新型コロナが落ち着いてからになるだろう。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】岸田首相の経済政策は、財務省による遠大な計画を実現するための持ち駒にすぎない(゚д゚)!

岸田総理大臣は1月25日の衆議院予算委員会のなかで国民民主党の前原氏の質問に対して答えるかたちで、看板に掲げた「新しい資本主義」の分配政策面に関し、株主利益の最大化を重視する「株主資本主義」の弊害を是正したいとの考えを示しました。


「株主資本主義からの転換は重要な考え方の1つだ。政府の立場からさまざまな環境整備をしなければいけないという問題意識を持っている」と述べました。 

これは、一体何を意味するかといえば、「株主資本主義ではなくて株主社会主義を」目指すということでしょうか。そうして、このなかには「財務省の遠大な戦略」があるようですが、それについてはなぜか誰も解説しません。本日はそれについて解説しようと思います。 

まず、岸田氏は、「労働者の利益のため」と語っていますが、それにはは撒き餌というか見せ金があって、それが「賃上げ税制」なのです。岸田政権でも賃上げ税制による税収効果がわかるのですが、せいぜい1000億円程度過ぎません。

そうして、その次に、「資本家の方から金を取る」という意味合いで、配当課税の強化ということになるのです。岸田総理の「新自由主義」発言は、これを糊塗するためのものに過ぎません。配当課税の強化が本命で、こちらは数千億円~1兆円規模のの増収になります。

「配当課税の強化」と「賃上げ税制」をセットにし、「撒き餌」としての賃上げ税制があり、その後に配当課税の強化を実施する腹積もりでしょう。そういう財務省による遠大な計画があって、岸田氏の「新自由主義」発言は、それに則っているだけなのです。

体よく「労働者のために」という言い方をしますが、逆に言うと経営者、資本家の方から金を取るという政策です。 

配当課税の強化とは、分離課税を見直しの一環であり、今回の「株主資本主義」という言葉は、その布石のためのものです。労働者の賃上げをするふりを見せて撒き餌を行い、最後に配当課税の方に持って行くというシナリオです。

これは、すでに総裁選のときに岸田氏から少し出ていたのですが、批判があまりに多くて一旦うやむやになったものです。あまり考えずに 言ってしまったのが、大きな反発をくらってしまったので、うやむやにしたということです。


そのため今回は「株主資本主義」などと遠回しに言っているのでしょう。質問されたときは当面、賃上げ税制の話をしておくわけです。賃上げ税制は、せいぜい1000億円程度のものであり、全く効果がないですし無意味ですから、いくら語っても良いと考えているのでしょう。

そのうち頃合いを見て、配当課税の話に行くでしょう。そうなると、勤労者からすれば、賃上げはほとんどなく、そうして配当課税の方で「ドカン」と増税ということになります。配当課税方がはるかに税収も大きいから、そこを狙っているのでしょう。要するに平たく言えば大増税です。

 分離課税をする理由は、日本でも広く一般に投資をやってもらおうという、NISAやiDeCoと同じ流れのように見えるのですが、そこに政府が手を入れたいとことなのでしょう。資本家の懐の方に手を入れると成長の元手がなくなるのですが、今回の岸田政権には成長戦略がないこととも符号します。それと表裏一体です。 

成長戦略がなく、パイを大きくせずに、パイの切り分け方だけを考えているということです。岸田首相の背後には財務省がいて、取りやすいところに手を突っ込むという戦略の一環です。

財務省にとっても、本来はパイを大きくしてからの方が財政再建になるのではとも見えるのですが、 財務省は本当は財政再建を考えていないのです。考えているように見せかけるのは、先の戦略を成就させるために過ぎません。

はっきり言えば、元々政府には資産を考慮に入れたり、統合政府(政府と日銀を含めた連結決算ベース)でみれば、財政赤字などはなく、財政再建は必要ないですから、そのことを財務官僚は知っており、財政再建は先の戦略を成就するための隠れ蓑にすぎないわけです。そのために言うだけで本当は、必要ないのです。

岸田首相の経済政策は、財務省による遠大な計画を実現するための持ち駒にすぎないようです。このようなことを実行して、政権支持率が急降下しても、財務省は岸田政権を助けるようなことはしないでしょう。

財務省は、自分たちの省益を追求しているだけなので、岸田政権が存続しようが、短期政権で終わろうが、どうでも良いわけで、とにかく少しでも税金を多く徴収し、それによって各省庁を差配できる幅を増やし、自らの権力基盤を強化し、優雅な天下り生活をすることだけしか考えていないのです。

岸田政権が崩壊しても、国民経済が落ち込もうが、次の政権でまた増税ができて、国家・天下などどうでもよく、とにかくとびきり優雅な天下り生活に一歩でも早く近づければれば、それだけで満足であり、理念も哲学も、矜持も、品性も何もないのです。彼らは、そのためだけに日々邁進しているのです。

岸田首相はそのことにはやく気づくべきです。気づかないようなら、短期政権で終わらせるべきです。

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2022年1月30日日曜日

米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!

米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ

昨年12月1日に開いた党中央委員会政治局会議に参加した金正恩

 バイデン米政権がウクライナ危機の対応に集中する中、北朝鮮が今年7回目のミサイル発射を行った。対話の門戸を開き続けるだけの対北政策の行き詰まりは明白だ。核・ミサイルの脅威に対する優先度の低さを金正恩(キム・ジョンウン)政権に印象付け、開発を進める時間を与えている。

 「われわれの皿の上にはたくさん(の課題や脅威が)のっていて、その一つ一つに集中している」

 国防総省のカービー報道官は今月27日の記者会見でこう語った。ロシアによるウクライナ侵攻危機、中国による台湾への統一圧力と同時に、北朝鮮の挑発にどのように対処するのか-という質問に対する釈明は、米国が陥ったジレンマを浮き彫りにしている。

 バイデン政権は昨年、「現実的アプローチ」という対北政策を打ち出した。「最大限の圧力」を使い首脳間対話を実施したトランプ政権と、「戦略的忍耐」というオバマ政権の中間といわれてきたが、実情は個別の発射実験に声明で非難と対話呼びかけを繰り返すのみだった。

 米国が中国とロシアとの二正面の対処に追われていく過程で、北朝鮮の弾道ミサイル発射は頻度を増し、受け身の対北政策は「もはや機能しないという結論」(米誌フォーリン・ポリシー)が出たといえる。

 ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は本紙取材に「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したり、金正恩氏が首脳会談を提案したりすれば、バイデン大統領は北朝鮮に集中するだろう」と語る。そうした優先度の低い姿勢が、同国がICBMや核実験に踏み切るまで「傍観する」というシグナルを与えてしまった。

 その間に、北朝鮮は極超音速や多弾頭のミサイル開発など「米国と同盟国のミサイル防衛網を突破する」(米議会調査局の報告書)目標に着実に進んでいる。

 バイデン氏が今、プーチン露大統領に毅然(きぜん)と対処できなければ、金氏や中国の習近平国家主席を喜ばせるだけだ。米主導の世界秩序に挑戦する複数の脅威に対峙(たいじ)しつつ、対北圧力強化へ早急な転換が迫られる。

【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分対応している(゚д゚)!

北朝鮮はこのところ、なぜミサイルを発射し続けるのかということについて、様々な憶測が流れていますが、私はマスコミが報道するようなことはほとんど根拠がないと思います。

これには、北朝鮮が今年大きな節目を迎えることが関係していると思います。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は4日付の記事で、2022年は「わが党と人民にとって特別に重要で意義深い年」だと伝えましたた。

今年が故金日成キム・イルソン)主席の生誕110年、故金正日キム・ジョンイル)総書記の生誕80年に当たることを踏まえ、「意義深い今年を革命的大慶事の年として輝かせることは、偉大なる首領様の子孫、偉大なる将軍様の戦士、弟子たちであるわが人民の本分だ」と指摘しました。

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。

2018年に開催された〝太陽節〟金日成主席の生誕祭

北朝鮮が金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)について金日成主席から3代続く「白頭血統」の正当性を連日強調し、結束を図っていることからも、先代の節目の生誕記念日を一段と際立たせるとみられます。

しかし、金正恩は体調不良説が噂されているとともに、この節目に相応しい成果をほとんど何も上げていません。コロナ対策は無論のこと、食糧増産、経済強国を目指したリゾート開発でも何も成果を上げられませんでした。

ただ、一つだけ例外があります。それが、核開発やミサイル開発です。党指導部は、その優れた技術力、特にそれが韓国に先んじているということを喧伝し、「国内における政権の正当性」を強化したいと考えているのでしょう。これは同時に日米韓への国外へのメッセージにもなっていると、国内に向けての大きなメッセージになります。

北朝鮮は今年から、新たな経済5カ年計画を始めました。正恩氏は昨年12月1日に開いた党中央委員会政治局会議で「国家経済が安定的に管理され、わが党が重視する農業部門と建設部門で大きな成果を収めた」と語りました。

しかし、金正恩は「制裁が続く限り、生産設備の保守・更新に必要な資材が入ってこない。自力更生路線だけでは、徐々に生産量は落ちていくだろう。このままなら、新たな5カ年計画も失敗に終わるだろう」とも語っています。

そうして、それは現実のものになりつつあります。そうなると、今年大きな節目に成果を誇れるものは何もないということになってしまいます。それを打開する窮余の策が、新技術を用いた核ミサイルの発射なのでしょう。

そのため、ミサイル発射は北京五輪の前には終了し、五輪開催中は実施しないでしょう。五輪が終わってからは、また再開するかもしれません。

そのあたりは、米国も見抜いているのでしょう。それにしても、万一に備えて、米国はそれに対して手を打っています。

このブログにも以前掲載したように、一つはトライデント弾道ミサイル20基と核弾頭数十発を搭載するネバダは15日、グアムにある海軍基地に入港しました。弾道ミサイル原潜がグアムに寄港するのは2016年以来で、寄港が発表されるのは1980年代以降でわずか2度目です。

もう一つは、23日、日本の海自と米海軍と沖縄南方で17~22日に大規模な共同戦術訓練を実施したことです。欧米諸国がロシアのウクライナ侵攻に警戒心を募らせるなか、北朝鮮は今年に入って極超音速ミサイルや弾道ミサイルの発射を繰り返している。中国が台湾への軍事的圧力を強める可能性も指摘される。日米共同訓練は、これらに対して牽制をする意味もあります。

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

北朝鮮もこうした米国の動きに抗って、わざわざ核ミサイルを日本や韓国などに打ち込むつもりなど、全くないでしょう。

このブログにも述べたように、イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあります。

とりわけ、米国の制裁に対抗しようとするイランの動きが目立ちます。イランは昨年9月、ライシ師がタジキスタンで開催された「上海協力機構(SCO)」首脳会議に出席、機構への正式加盟が承認されたのですが、これもそうした動きの一環です。

このSCOに北朝鮮は参加していません。ちなみに、SCO参加国は、中華人民共和国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタン・イランの9か国にです。

これらの国々による多国間協力組織、もしくは国家連合です。中国の上海で設立されたために「上海」の名を冠するが、本部(事務局)は北京です。加盟8か国の人口は世界の4割、国内総生産は世界の2割、面積はユーラシア大陸の6割を占める。アメリカ一極集中への対抗軸としての性格が濃いうえ、紛争地帯を域内や隣接地帯に抱えるという地政学的意味合いもあり、国際的に存在感を強めています。

北朝鮮はSCOに加入するどころではないのでしょう。あるいは、SCO加盟国、特に中露イランなどからは、戦力外とみられているのでしょう。実際、北朝鮮にはミサイル発射実験くらいしかできないです。

だからといって、危険であることには変わりはなく、これに対する対処は考えなくてはなりません。特に日本はそうです。

それにしても、上の記事のように米の対北政策行き詰まりなどというこはないです。通常潜水艦の行動は、いずれの国も表に出さないのが普通ですが、上で述べたように、ネバダがグァムに寄港したことを公表し、さらに2つの空母打撃群が日本と共同訓練をしていますが、現状では海外で作戦中の米海軍の原子力空母は計4隻ですが。このうち地中海で中東関連の任務を担当する「ハリー・トルーマン」(CVN75)を除いた残り3隻がインド・太平洋で集結しています。

このように空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻が同じ時期にインド太平洋地域に出現しており、これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結と言っても良いです。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしていると考えられます。

ワスプ型強襲揚陸艦「エセックス」

2017年11月の北朝鮮の核・ミサイル危機当時、米空母3隻が韓半島近隣で訓練しました。このため北朝鮮に対する警告性のメッセージだという解釈が出ていました。

米海軍勢力が2017年当時と異なるのは最新ステルス戦闘機F35を搭載している点です。「カール・ビンソン」「エイブラハム・リンカーン」はF35C(空母搭載型)を、「アメリカ」「エセックス」はF35B(垂直離着陸型)をそれぞれ搭載しています。

ウクライナ情勢に関しては、以前このブログにも述べたように、現在のロシアは一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、米国を除いたNATOと正面から対峙するのは困難です。それに、ロシア地上軍は今や20数万人の規模であり、ウクライナ全土を掌握することはできません。

米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。

装備はなお移動中ですが、当局者や専門家は、ロシアによる軍備増強の次の段階なのか否かを見極めようとしています。

以上のような事実から、米国が対北政策行き詰まりと見るのは明らかに筋違いです。米軍は、中露北の不穏な動きに対して十分に対応しているといえます。

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2022年1月29日土曜日

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ウクライナ大統領、ロシア侵攻めぐる発言の抑制要求 「これはパニック」

ロシア侵攻に関する発言が「パニック」を引き起こしていると訴えるゼレンスキー大統領

ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、他国の指導者がロシアとの戦争の可能性を誇張し、「パニック」とウクライナ経済の不安定化を引き起こしていると訴え、発言の抑制を求めた。

外国報道陣との会見で述べた。これによると、ゼレンスキー氏はバイデン米大統領やマクロン仏大統領との電話会談で、ロシアからの脅威は「差し迫った絶え間ない」ものではあるものの、2014年の侵攻以降、ウクライナ国民はこうした脅威と暮らすことを学んできたと説明したという。

ゼレンスキー氏は「彼らは明日にも戦争になると言っている。これはパニックを意味する」と述べた。

ロシアはウクライナ国境に数万人規模の兵力を集結させており、プーチン大統領が侵攻を計画しているとの懸念の声が上がる。ただ、ロシアはウクライナ侵攻を繰り返し否定している。

ロシアの脅威の深刻さは正確には不明なままで、この点をめぐりゼレンスキー氏とバイデン氏の見解が対立しているとの情報がある。

ウクライナ高官がCNNに明かしたところによると、両氏の27日の会談は不調に終わったとされる。バイデン氏がロシアの侵攻はほぼ確実で差し迫っていると警告する一方、ゼレンスキー氏は脅威は「危険だがあいまい」なものにとどまるとの認識を改めて表明したという。

一方、ホワイトハウスはこの説明に異を唱え、匿名の情報筋が「偽情報をリーク」していると指摘。報道官の1人は、バイデン氏はゼレンスキー氏に2月侵攻の「明確な可能性」があると警鐘を鳴らしたと述べた。

【私の論評】ウクライナ問題を複雑化させる右翼武装グループ「ロシア帝国運動」と「アゾフ連隊」(゚д゚)!

このブログでは、ロシアによるウクライナ侵攻の確率はかなり低いことを主張してきました。その論拠としては、まずはロシアのGDPは今や韓国と同程度あり、しかも人口はロシアが1億4千万人、韓国は5千万であり、一人あたりのGDPとなると、韓国を大幅に下回ることです。

これだけGDPが低く、しかも国土は世界一の広さとなると、守備すべき国境線も長大であり、最早ロシアは大きな戦争はできません。米国抜きのNATOともまともに戦えば、負けます。

さらに、もう一つの論拠はロシア地上軍は兵站を鉄道にかなりの部分を頼っており、脆弱であることを考えると、ロシア軍はウクライナ全土に侵攻するのは不可能というものです。よって、侵攻するのは最大でもドネツクなどのいくつかの州であり、それも州全部ではなく、州の骨棘近くまでかもしれません。

なぜなら、兵站を鉄道に頼るロシア地上軍は、国境近くでは、高いパフォーマンスを発揮できるものの、それを超えると急激にパフォーマンスが低下するからです。

ウクライナ南部クリミア半島で18日、高速道路を走るロシア軍の装甲車

さらに、26日には別の論拠もあげました。それは、米国のランド研究所のアナリストによれば、ウクライナによる反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要するとしていることです。

そうなると、ロシアは88万6000人の占領軍を必要とする計算になり。明らかに非現実的であり、反乱を鎮圧するのは困難だというものです。

ロシア地上軍の兵力は、2016年現在、約27万人の兵力と戦車を約2,700両(その他保管約17,500両)保有している(国境警備隊や内務省軍などの準軍事組織を含まない)に過ぎません。これでは、ロシア全陸軍を投入したとしてもウクライナを占拠するのは、到底不可能です。

以上は、純粋に軍事的な観点からの分析です。実は、この他にウクライナ問題を複雑にしている問題があります。それは、ウクライナとロシアに存在する過激な右翼団体の存在です。これについては、情報も少ないので、このブログではとりあげてきませんでしたが、最近は少しずつでてきているので、本日はこれについて掲載します。

ウクライナ側の右翼団体は、アゾフ連隊です。ロシア側のそれは、ロシア帝国運動です。

これについては、以下の記事が詳しいですし、よくまとまとまっています。日本にいて、漏れ聞こえてきた情報をまとめると、おおよそこの記事のようになると思います。私の知り得た情報もこれ以上のものはありません。
ウクライナ危機の影の主役――米ロが支援する白人右翼のナワバリ争い
以下に一部をこの記事から引用します。
クリミア危機の後のミンスクII合意でロシアと欧米そしてウクライナは「外国の部隊」の駐留を禁じることを約束した。これは緊張緩和の一環だった。

ところが、その後もロシア系人の多いウクライナ東部ではウクライナからの分離独立とロシア編入を求める動きが活発化しており、その混乱に乗じて2019年段階ですでに50カ国以上から約17,000人の白人系右翼が集まっていたと報告されいる。

彼らは立場上「民間人」ですが、実質的には外国人戦闘員です。とりわけ多いのがロシアから流入した白人系右翼で、その背後にいるのが「ロシア帝国運動」だ。

「ロシア帝国運動」の国内でのデモ

民間人の立場を隠れ蓑に軍事活動を活発化させるロシア帝国運動は、ウクライナでエスカレートする緊張と対立の、いわば影の主役とさえいえる。
そうして、影の主役はウクライナ側にもいるのです。ウクライナの右翼団体アゾフ連隊です。
アゾフ連隊(現在はアゾフ大隊と呼ばれている)は2014年、クリミア危機をきっかけに発足し、民兵としてロシア軍やロシア帝国運動と戦火を交えた経験を持ち、その頃から民間人の虐殺といった戦争犯罪がしばしば指摘されてきた。そのためロシアメディアではネオナチ、ファシストと呼ばれている。 
ロシア軍のクリミア侵攻の時に記念写真をとるアゾフ連隊
戦場の様子などもFacebookなどで発信し、欧米からも右翼活動家をリクルートするアゾフは、欧米での白人テロを誘発させかねない存在として危険視されている。実際、アメリカ議会は2015年、アゾフを「ネオナチの民兵」と位置付け、援助を禁じる法案を可決した。

ところが2018年、国防総省からの圧力で議会は法案を修正し、それを皮切りに欧米はアゾフに軍事援助をしてきた。ジョージワシントン大学研究チームが昨年発表した報告書によると、アゾフやその下部団体のメンバーは米国をはじめ欧米諸国から訓練を受けており、なかにはイギリス王室メンバーも卒業生のサンドハースト王立陸軍士官学校に留学した者までいる。

要するに、欧米はロシアを睨んでアゾフを手駒として利用しようとしているのです。これこそ冷たい国際政治の現実であるが、欧米での右翼過激派の動向を考えれば、危険な賭けであることも確かです。

しかし、それはアゾフには関係ない。むしろ、欧米から承認を取り付けたアゾフは、ウクライナ危機がさらにエスカレートすれば、これまで以上に活動を活発化させることになるだろう。

いわば世界が懸念を募らせるウクライナ危機は、日陰の身にあったコーカソイド系右翼にとっての晴れ舞台ともなり得るのである。

ウクライナ問題で、こうした右翼の影の動きがほとんど報道されなかったのは、 ロシアは武装グループである、「ロシア帝国運動」を支援して都合よく使ってきたからであり、欧米やウクライナもロシアの抵抗勢力として、アゾフ連隊を手駒として用いようとしてきたからでしょう。

こうした右翼団体の活動が、両陣営のコントロールが及ばなくなったときのことも想定して、ロシア軍は国境に大部隊を配置している面は否めないと思います。何しろ、ロシアはウクライナと国境を接しているので、その緊迫感は欧米よりは高いでしょう。

国境を直接接していない欧米側は、あくまでウクライナ政府にコントロールさせようとしているのでしょう。

ロシア側としては、「ロシア帝国運動」がロシアの意向に反した行動をした場合、あるいはしそうな場合は、これを攻撃して阻止するつもりでしょう。

また、アゾフ連隊が越境したり、越境しそうな場合には、これを攻撃して阻止するつもりでしょう。また、アゾフ連隊がウクライナ領内外の「ロシア帝国運動」の拠点を潰したり、潰そうとした場合これを攻撃して、拠点を確保するつもりだと思います。そうして、あわよくば、その拠点を増やそうという腹だと思います。

また、「ロシア帝国運動」や「アゾフ連隊」が不穏な動きをしないように、抑止するという意味もあると考えられます。

以上のようなことを知らない人が、ウクライナ情勢をみると、一触即発でウクライナとロシアがすぐに大戦争を始めてしまう可能性を危惧してしまうのでしょう。

米国、NATO、ウクライナ、ロシアもそれは望んでいないでしょう。ロシアとしては、戦争を望んではいないのでしょうが、ウクライナがNATOに入るのは許容できないのでしょう。

冒頭の記事でのゼレンスキー大統領の発言は、以上のようなことを説明していないので、なんとも歯切れがわるいというか、理解しにくいものになっています。

ウクライナ問題を解決するには、まずは両陣営とも、テロリストでもある右翼武装グループに対する支援を打ち切ることだと思います。その方が良いですし、そもそもテロリストはいつ飼い主の手を噛むかわかったものではないからです。

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2022年1月28日金曜日

首相「最後は俺が決める」 佐渡金山で外務省押し切り―【私の論評】今回のちゃぶ台返しは評価できる!岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しを(゚д゚)!

首相「最後は俺が決める」 佐渡金山で外務省押し切り


 岸田文雄首相は「佐渡島の金山」(新潟県)をめぐる韓国との「歴史戦」に挑むにあたり、さまざまな情報の間で揺れ動いた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する覚悟を決めたのは27日だった。「最後は俺が決める」。そう周囲に語る言葉は自身を鼓舞するようでもあった。

 「世界遺産に登録できるように、冷静で丁寧な議論をやろう。米国や韓国をはじめ、関係国にしっかりと説明してくれ」

 首相は28日午後、官邸の首相執務室に林芳正外相や末松信介文部科学相ら関係閣僚を集め、こう指示した。

 首相は、昨年末に佐渡金山が世界遺産の推薦候補に選ばれてから、推薦の可否を慎重に探ってきた。

 外務省からは、韓国が3月に大統領選を控え、佐渡金山を「日本たたき」に利用する懸念が伝えられた。ウクライナ危機を抱える米国は日韓間の対立が深まることを憂慮しているとの見立てもあった。「簡単には通らないな」「今年やるのが良いのかどうか」。そんな慎重な思いが広がっていた。

 外務省などが推薦見送りの調整に動き、自民党重鎮議員らへの根回しに入っていた。これに対し自民党内からは「来年に先送りして登録の可能性が高まるのか」(安倍晋三元首相)、「誤ったメッセージを国際社会に発信することになりかねない」(高市早苗政調会長)などの声が強まった。

 推薦論と見送り論の板挟みになったが、首相は平成27年に長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」が登録された際の外相だ。当時は、韓国の主張を一部認めることで登録を実現させたが、韓国はその後も問題を蒸し返しており、軍艦島は今も韓国との歴史戦の最中にある。

 首相は佐渡金山の推薦を見送っても、韓国を相手に登録への道が開ける保証はないとの判断に傾いていった。地元・新潟の強い希望も踏まえた。

「安倍政権のときのような『歴史戦チーム』を復活させたい」

 首相は22日、安倍氏にそう打ち明けた。韓国から疑義が呈された場合、一つ一つ証拠を挙げて反論する態勢を整えるためだった。外務省、文科省を中心に省庁一体で取り組むタスクフォースを早期に発足させるという。「登録に向けて早く議論を始めるべきだ」と語る首相の韓国との「歴史戦」が始まった。(永原慎吾)

【私の論評】今回のちゃぶ台返しは評価できる!岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しを(゚д゚)!

この岸田総理の決断本当に良かったと思います。また、ちゃぶ台返しという批判もあるようですが、このようなちゃぶ台返しなら、何度もやっていただきたいです。

このような決断をしなかった場合、韓国側の主張を認めるような流れのなかで推薦を見送るということになり、諸外国から「日本には後ろめたいところがあるのだろう」と疑われることになったはずです。

 韓国は「安倍晋三政権とは違って、岸田文雄政権はイチャモンをつければ折れてくる」と見て、あらゆる分野で対日攻勢をかけてきたでしょう。というよりは、私は文在寅は、岸田政権を値踏みしていたのだと思います。

推薦を見送った場合、慰安婦問題に関する「河野談話」に匹敵する大失政になりかねない状況だったと思います。

ちなみに 「佐渡島の金山」への韓国側のイチャモンは、「強制動員労働の現場だった」というものです。そんな場所を「日本政府は世界遺産に推薦してはならない」と主張しています。

 本当に「強制動員労働の現場」だったのでしょうかか。 朝鮮日報(2022年1月20日)に、佐渡島の強制動員労働の被害者の娘2人(82歳と77歳)の話を掲載しました(下写真)。 2人の父が佐渡島に入ったのは1940年のことでした。


つまり、徴用令が朝鮮人に適用される(44年9月)前のことです。父は生まれたばかりの長女ともに佐渡島へなどの話をしていますが、ここからして疑問です。そうして、勘違いされないように年のため付け加えておくと、徴用=強制労働ではありません。韓国では、両者を同じように語る人もいるようですが、これがそもそも大きな間違いです。

大戦中は、日本で日本人(当時は朝鮮は日本領だったので、当然のことながら、朝鮮人もふくまれる)が徴用されるのはごく普通のことでした。いや、世界中の他の国々でも、戦争で人手が足りなかったので、米英豪でも、フランス、ドイツでもイタリアでも、当時のソ連でも徴用はありました。

世界中の国々で、男性だけではなく、多くの女性も徴用されました。下の写真は、第2次世界大戦中の女性の徴用工の写真です。


戦時徴用され航空機づくりの作業に従事しているアメリカ人女性

そうして、徴用といった場合、給料を支払われました。強制労働ではありません。

ただ、実際に強制労働をさせた国はありました。それは、どこかといえば、ソ連です。いわゆるソ連によるシベリア抑留です。これは、第二次世界大戦の終戦後、武装解除され投降した日本軍捕虜らが、ソビエト連邦(ソ連)によって主にシベリアなどへ労働力として移送隔離され、長期にわたる抑留生活と奴隷的強制労働により多数の人的被害を生じたことに対する、日本側の呼称です。

ソ連によって戦後に抑留された日本人は約57万5千人に上ります。厳寒環境下で満足な食事や休養も与えられず、苛烈な労働を強要させられたことにより、約5万8千人が死亡しました。このうち氏名など個人が特定された数は2019年12月時点で4万1362人です。

朝鮮人もシベリア抑留された事実も2010年に明らかになっています。しかし、韓国は当時のソ連の非道ぶりを批判するのではなく、この事実を日本への攻撃材料として用いています。

このソ連の行為は、武装解除した日本兵(当然のことながら朝鮮人も含めて)の家庭への復帰を保証したポツダム宣言に反するものでした。ロシアのエリツィン大統領は1993年(平成5年)10月に訪日した際、「非人間的な行為」として謝罪の意を表しました。ただし、現在ロシア側は、移送した日本軍将兵は戦闘継続中に合法的に拘束した「捕虜」であり、戦争終結後に不当に留め置いた「抑留者」には該当しないとしています。

少し話が横道にそれたので、朝鮮日報の話に戻ります。記事に書いてあることから推測できるのは、「日本の強制動員労働」とは、妻子も一緒に連行するばすもなく、この記事の二人の父親は、高給目当ての「押しかけ応募工」だった可能性が高いです。 長女は「奴隷のような待遇だった」という話を具体的に述べています。小学生前の見聞を、82歳になっても鮮明に記憶しているとは俄に信じがたいです。 

それよりも、そうした環境にいた父親が、佐渡島で2女と3女をもうけた事実に着目せざるを得ないです。奴隷のような待遇にあったとは思えません。

 戦時の混乱で、朝鮮人を含む労働者に月給が支払われなかった一時期があったことは確かにあります。しかし、その金額が後に供託された証拠が日本には残っています。供託するにあたっては、賃金台帳がなければできませんが、それも残っています。その一例が下の写真です。

当時徴用された朝鮮人の名簿「半島労務者」、「給与係」と書かれ
ている所に注目 これは今でいえば、賃金台帳のようなものです。

「強制動員労働させられた奴隷」が月給をもらっていたというのは理屈にあいません。しかも、 日本に来たために奴隷のようなひどい目に遭ったというのに、戦後も日本に住み続け、現に娘たちも日本にいるのは、日本人の感覚からすると、どうにも不可解すぎます。

 韓国が慰安婦関連資料のユネスコ登録を目指した際、日本は「関係国が合意しない限り申請しない」という制度導入に中心的役割を果たしました。このため、外務省は「佐渡島の金山」の推薦に消極的だと日韓双方のマスコミは伝えています。

 しかし、慰安婦関連資料が登録を目指したのは「世界記憶遺産」(Memory of the World)Mであり、「佐渡島の金山」が登録を目指すのは「世界文化遺産」(World Heritage)です。基本的性格が異なるものです。

 岸田首相周辺からは「日本政府が推薦すると、韓国が日本に対する悪宣伝を展開しかねない」との見方が伝えられています。甘い見方です。 イチャモンを付けられることを恐れて推薦を見送れば、「悪罵の大国」はますます図に乗って、世界中で対日悪宣伝を進めるでしょう。

 今さら官房副長官が「韓国の主張は受け入れられない」と述べたところで、日本が韓国のイチャモンに屈したとの見方を、どうして払拭できるでしょう。

 宮沢喜一首相と河野洋平官房長官(ともに当時)の〝宏池会コンビ〟が1993年、簡単にだまされて(=もしかしたら、だまされたふりをして)犯した大失策を想起しなくてはならないです。「ケンカするのは怖いから嫌だよ」 岸田首相と林外相のコンビは、同じ轍をもう少しで踏むところでした。

今後も、高市政調会長や安倍元総理なども含めて、まともな自民党国会議員は今後も岸田政権の動向に注目して、今回のような事態が起こりそうなれば、国会で追求したり、忠告をしたりして阻止していただきたいです。

そうして、岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しをしてください。外務省、財務省、厚生労働省、その他の官僚達をきりきり舞いさせて欲しいものです。

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2022年1月27日木曜日

中国の太平洋進出を許しかねないソロモン諸島の経済問題―【私の論評】中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させることに(゚д゚)!

中国の太平洋進出を許しかねないソロモン諸島の経済問題

岡崎研究所

 11月24日に始まったソロモン諸島の首都ホニアラでの暴動は、豪州など部隊の介入により、一応抑圧された。この暴動は、中国をめぐる地政学的文脈を持つものとして報道された。略奪された財産の多くは中国人所有のものであったし、ほとんどの暴徒の出身州であるマライタ州知事スイダニは、2年前ソガバレ(首相)が外交承認を台湾から中国へ切り替えた時に反対運動をしたという経緯もある。


 ソロモン諸島は人口70万を擁し、太平洋島嶼国の中では大きな国だが、ここ20年余り政治状況は不安定である。その背景には、①中国と台湾・米国の間の競争(2019年に外交承認を中国に切り替えた。マライタ州は台湾を支持)、②経済発展の欠如(若者が職に就けない)と州間の経済格差の不満、③本島のガダルカナル島と最多人口を擁するマライタ島の対立と指導者の対立(首相のソガバレは中国寄り、マライタ州のスイダニは親台湾で両者はパーソナリティーでも競争している)などが複雑に絡んでいるようだ。

 フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張する。豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べている(11月26日付ローウィ研究所サイト)。

 しかし、12月6日にはソガバレに対する不信任案が議会で投票に掛けられ(結果的には否決された)、その過程で野党代表がソガバレは「一つの大国の利益」だけを考えていると批判し、ソガバレはマライタ州は「台湾の代理人」であり、暴徒は政府転覆を謀っていると応酬したことなどを見れば、中台という地政学が大きな不安定要素になっていることは否定できない。

 中央政府の要請を受けた豪州、フィジー、パプアニューギニア、ニュージーランドの軍・警察部隊の介入で平静を取り戻したことは評価される。しかし、ヒルが指摘するように、ソロモン諸島の経済や政治が変わらない限り、再発する可能性がある。日本を含め関係国が夫々の協力を強化するとともに、太平洋の安定のために島嶼国支援を強化していくべきである。

中国も食指を動かす太平洋島嶼地域

 太平洋島嶼地域の戦略上の重要性は一層増大している。恐らく中国は斯かる重要性を十分認識の上、これらの国々との関係強化に努めているのであろう。何れ中国が南シナ海でやっているような軍事化を太平洋の中心で行うような事態になれば、それは危険である。

 太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間である。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではない。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。

 12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」には多くの島嶼国が招請されたことが注目される(フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ)。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようだ。

 日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要である。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言う。地政学の舞台は益々大陸から大洋のオープン・エリアに拡大している。

【私の論評】中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させることに(゚д゚)!

中国は、様々な面でソロモン諸島と親交を深めつつあります。

外交部の趙立堅報道官は26日の定例記者会見で、中国の援助物資を満載したチャーター機が26日、ソロモン諸島の首都ホニアラに到着したことを明らかにしました。

趙報道官は、「ソロモン諸島側の要請に応じて緊急提供した5万回分の新型コロナワクチン、2万人分の検査キット、6万枚の医療用マスクなどの感染症対策物資と、これより以前に中国がソロモン諸島政府の治安維持と暴動防止を支援するために約束した約15トンの治安用物資が含まれる」と説明しました。また、中国側の治安顧問チームと建設支援プロジェクト専門家チームも同じチャーター機で到着しました。

趙報道官は、「中国側は今後も引き続きソロモン諸島の国内の安定維持、国民の安全と健康の保護、経済発展と国民生活改善のためにできる限りの支援を提供し、両国の良好な関係の恩恵が両国民に行き渡るようにしていく」と表明しました。


中国は、台湾の国際的活動空間を狭めることで、台湾の蔡英文政権に圧力を加えていますが、2019年にはソロモン諸島と、次いでキリバスが台湾との国交断絶を発表し、中国との外交関係の樹立を発表しました。

これには、大きな中国マネーが動いたと言われています。2019年10月24日号の英エコノミスト誌によれば、中国土木・建設会社は、外交関係の変更のために50万ドルの借款・贈与を提供しました。

他にも、中国鉄道会社は、金鉱再生のために8億2500万ドルを貸すと約束しました。中国政府はスポーツ・スタジアムを建設し、台湾への借金120万ドルを肩代わりすると申し入れました。

上の記事では「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と指摘しています。

ソロモン諸島の経済はどうなのか、一人あたりのGDPを以下にあげておきます。

一人あたりのGDPは、2千ドル台ですから、これは日本円になおすと大雑把に2万円台です。いかに貧しいかがわかります。中国の一人あたりのGDPは1万ドル前後ですから、これは中国よりもかなり低いです。

以前このブログで私は、中東欧諸国が中国から離反して、台湾への接近を推し進める理由をあげたことがあります。それを以下に再掲します。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。
中東欧諸国は、先進国のように豊かではありませんが、リトアニアを含めほとんどの国々が一人あたりのGDPは、中国を上回っています。そのため中東欧諸国は、中国に取り込まれる危険はなくなったというか、最初から取り込まれる危険はなかったといえると思います。

台湾も一人あたりGDPが中国をはるかに上回っています。だからこそ、台湾人は大陸中国に飲み込まれることを嫌がるという側面は否めません。

しかし、ソロモン諸島は違います。時間をかけ民主主義を値付け、政治と経済の分離を図り、法治国家化をすすめることにより、多数の中間層を生みだし、それらが自由に社会活動をした結果富を生み出した西欧諸国のような発展方式より、短期間に政府主導で経済を成長させた、中国の方式のほうが通用することが考えられます。日米豪などが、対応を間違えば中国に取り込まれてしまう危険は十分にあります。

そうして、ソロモン諸島は人口が70万弱ということも、西欧諸国と違った形で経済成長する可能性を示唆しています。たとえば、シンガポールです。シンガポールは、都市国家であり、人口は568万人です。

シンガポールは一党独裁状態にあります。日本をはじめとする先進国の政治体制とは仕組みが異なりますので、一概には比較できないですが、①政治の強いリーダーシップと、それに伴う迅速な意思決定力があり、②1971年に発表された長期計画(コンセプトプラン)の維持と、見直しが継続的に行われていること、③他政府の事例等を学びながら、良いところと課題を抽出し、シンガポールに合った形に組み換え実行すること。この3つの力がシンガポールの経済発展をもたらしました。

ただ、私自身はシンガポールは都市国家であったからこそ、管理が行き届き、一党独裁であっても優れた経済政策を打ち出すことができ経済発展できたのでしょう。しかし、逆に優れた経済政策が打てなければ、一党独裁であるが故に、経験交替が起こらず、経済が低迷した状況が長く続くことになると思います。

ただ、ある程度以上の人口を抱えた国では、1党独裁であっては経済発展できないです。それは高橋洋一氏が作成した以下のグラフではっきりと示されていると思います。


このグラフをみると、一人当たりのGDPが1万ドル以下までは、民主化と一人あたりのGDPはあまり関係ないのですが、1万ドル超えると、民主化と一人あたりのGDPには明らかに相関関係があることが示されています。相関係数は0.71であり、社会現象としては高い相関を示していると思います。

ソロモン諸島は、当面一党独裁で中国やシンガポールのような発展をすることもできますし、西欧諸国のように民主化をすすめて経済発展をすることもできます。しかも、ソロモン諸島の人口は70万弱です。そうなると、シンガポールのように一党独裁を保ったままでも、かなりの経済発展ができる可能性すらあります。

しかも、中国の援助を受けながら、将来的には中国と貿易をしながら、経済発展するという道もあります。そうなると、ソロモン諸島等が中国に飲み込まれる可能性は、中東欧諸国やASEAN諸国よりもはるかに高いと認識する必要があります。

第2次世界大戦中、この地域は日米の激戦地でしたが、これらの諸島が持つ地政学的価値があるからです。特に、これらの諸島は米国と豪州を結ぶシーレーンの上にあります。日米豪印が進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとって、中国の進出は、その戦略を進めていく上で、大きな阻害要因になります。これは日米豪間で話し合うべき問題です。

太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間です。中国が今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と考えているとしても不思議ではありません。中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させます。  

中国は、A2AD(anti-access と area-denial)戦略をとっていると言われてきました。これは防衛的戦略とも言えますが、中国の戦略的意図はそういう防衛的な考え方からより積極的な影響圏の拡大になって来ていることを、この南太平洋への進出は示しているといえます。

中国が進出する前に、あらゆる手段を講じて、阻止すべきです。中国はすぐに軍事基地を設けたりはしないかもしれません。南シナ海のように、サラミ戦術を用いてゆっくりと数十年かけてソロモン諸島を傘下に収め、軍事基地を設営するかもしれません。

日米豪印は、南シナ海の失敗を繰り返さないように早めにを手を打つべきです。一度南シナ海のように、既成事実化されてしまうと、それを元に戻すことは難しいです。

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2022年1月26日水曜日

バイデンが持つウクライナ〝泥沼化〟戦略―【私の論評】ウクライナで失敗すれば、それは米国の失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となる(゚д゚)!

バイデンが持つウクライナ〝泥沼化〟戦略

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのデビッド・イグネイシャスが、1月6日付け同紙に、バイデン政権はウクライナをロシア軍に攻め込まれてもこれに頑強に抵抗するハリネズミのような国にすることを検討しているとの論説(‘Biden wants to turn Ukraine into a porcupine’)を書いている。


 要点を一部抜粋して紹介すると次の通りである。

 「ロシア軍が国境線を越えれば、米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国は長期の抵抗戦のための兵器と訓練を提供する。米国と同盟国は、訓練とスティンガー防空ミサイルを含む兵器をもってウクライナの反乱を支援する方法を考え始めている。ランド研究所のアナリストによれば、そのような反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要する。だとすれば、ロシアは88万6000人の占領軍を必要とする計算になる。明らかに非現実的であり、反乱を鎮圧するのは困難だ」

 「ウクライナの抵抗能力を強めるために、最近になって、米国とNATOは防空、ロジスティックス、通信、その他の枢要な部分の調査のためのチームを派遣した。米国はロシアのサイバー攻撃と電子戦争に対するウクライナの防衛能力の梃入れもしたようだ」

 敵に侵攻を断念させるため抑止を働かせることが望ましいが、米国と欧州にはウクライナの防衛のために欧州を戦場としてロシアと戦う意思がない。そうであれば、ロシアが一旦国境を越えれば、これに抵抗するウクライナの反乱闘争を武器の提供をもって支援し、泥沼に足を取られるロシアに最大のコストを払わせることをもって戦略とせざるを得ないであろう。厳しい経済制裁だけでは抑止として不十分だと思われるので、この戦略を加えて抑止とすることが重要と考えられる。

 筆者のイグネイシャスは政権の内部情報に通じた人物であるので、論説に書かれているウクライナをハリネズミとする戦略が米国とNATOで検討されていることは事実であろう。もし、1月から始まった一連のロシアとの協議を通じて、ロシアがディエスカレーションに関心がなく、協議を侵攻のための口実作りに利用しているに過ぎないことが明らかになる場合には、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきであろう。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討に値しよう。

NATOとロシアの政治的合意も形骸化

 イグネイシャスは上記論説で、侵攻があれば、NATOは兵を前方に動かすことを議論している、とも書いている。その具体的な内容は分からないが、もはや、1997年5月のNATO・ロシア議定書の規制に縛られる必要はない。

 この議定書はNATOの東方への拡大が議論されていた当時、ロシアを慰撫し、ロシアとの関係を維持するために作成された政治的合意(法的拘束力はない)であるが、その中でNATOは旧共産圏諸国への実質的戦闘部隊の常駐を控えるとの自己規制を表明している。それゆえに、NATOは、バルト三国とポーランドへの部隊の派遣はローテーションによることとしてきた。

 しかし、この規制は「現在および予見し得る安全保障環境」と「ロシアが同様の抑制を行使する」ことを前提とすることが議定書に記述されている。ロシアのクリミアの奪取とウクライナ東部への干渉、更には昨年来のウクライナ国境における軍事的威圧に鑑みれば、規制は死文化していると言うべきであろう。

 恐らく、プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう。

【私の論評】ウクライナての失敗は米国の失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となる(゚д゚)!

このブログでは、以前からロシアによるウクライナ侵攻の可能性は低いことを掲載してきました。特に、ロシアがウクライナに侵攻して、全土を掌握することは、かなり難しいことを掲載してきました。

その根拠としては、現在のロシアの一人あたりのGDPは、韓国を大幅に下回るろ(ロシア10,126.72 USD、韓国 31,489.12 USD)こと、さらにロシア軍の兵站は主に鉄道に頼っており、非常に脆弱であることをあげました。

韓国とロシアは国としては、GDPは大体同じくらいでロシアの方が若干少ない程度ですが、韓国の人口は5174万5000人であり、ロシアは1.441億です。韓国よりは、ロシアのほうが軍事技術ははるかに進んでおり、大きな軍隊を持っていますが、それにしても韓国程度の経済力で軍事的に何ができるかと考えれば、ロシアのできることは限られているとみるのが普通だと思います。

韓国とロシアのGDPは同じくらいだが、一人あたりGDPではロシアは韓国よりはるかに低い

この2つをもっても、ロシアがウクライナ侵攻して、全土を掌握するのはかなり困難だということがいえると思います。鉄道に兵站を頼っているロシア軍は、鉄道を破壊されてしまえば、補給が絶たれることになります。

そのため、特にロシア陸軍は国境付近では高い能力が発揮できますが、ウクライナ奥地に入り込むに従い、兵站をウクライナ軍や、NATO軍などにより破壊され、弾薬、水食料、燃料などが手に入りにくくなり、進撃をストップせざるをえなくなります。ちなみに、線路の破壊は、手榴弾でもできます。

そのため、ロシアはウクライナ侵攻はできません。できるとすれば、ロシア国境に近いいくつかの州を掌握できるくらでしょう。それも無理かもしれません。いくつかの州のロシア寄りの狭い部分を掌握できるだけかもしれません。それも、いわゆるハイブリット戦を駆使しまくってもその程度でしょう。

上の記事にもあるように、ランド研究所のアナリストによれば、ウクライナによる反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要するとしています。これが、どのようにして計算されたものかは知りませんが、これが正しいとすれば、ロシアのウクライナ全土への侵攻は全く不可能ということになります。

上の記事では、ロシアはウクライナを占領するのに、88万6000人の占領軍を必要としますが、ロシア陸軍の兵力は、2016年現在、約27万人の兵力と戦車を約2,700両(その他保管約17,500両)保有している(国境警備隊や内務省軍などの準軍事組織を含まない)に過ぎません。これでは、ロシア全陸軍を投入したとしても到底不可能です。

1945年から1948年にかけて、動員解除によってソ連軍は1130万人から280万人に減らされ、1946年には33に増加していた軍管区が21に減らされました。また、地上軍は982万2000人から244万4000人に人員を減らしました。減らしたといっても、244万ですから、現状のロシアとは全く異なります。

過去40年では最大のツゴル演習場で行われた露中合同軍事演習「ボストーク2018」にて

ロシアというと、かつての超大国ソ連のイメージが強く残っており、軍事力も世界で第二位とされるので、ロシアによるウクライナ侵攻などを簡単に思ってしまう人も多いようですが、少し数字を確認すれば、そうではないことがわかります。

このことが理解できない人たちは、ロシアがウクライナを破壊することと、ロシアがウクライナを占拠することとは、大違いであることを知らないのかもしれません。破壊するだけなら、核ミサイルを数発発射したり、航空機等を用いれば、それで良いです。

しかし、破壊するだけであれば、ほとんど意味を持ちません。ロシアの狙いは、NATO拡大を防ぐことです。破壊してしまえば、NATOに格好の口実を与え、NATOはウクライナに軍隊を進駐させることでしょう。

しかし、占拠するとなると、多数の軍隊を派遣して、これらに兵站を通じて、弾薬・水・食料(一日3000kcal)等を補給し続けなければなりません。これは、経済力がなければなし得ないことです。現状では、NATO諸国と比較すると、ロシアの経済力はかなり見劣りします。現在のロシアでは、米国を除いたNATOにさえまともに対峙できる状況ではないです。

ただ、ロシアは旧ソ連の核と、軍事技術を継承しています。その点では、決して侮れる相手ではありませんが、過大評価はすべきでないです。あくまで、等身大で見るべきと思います。

そうして、上の記事の結論部分の「プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう」も正しいと思います。

プーチンは、バイデンを値踏みしているともいえると思います。どの程度圧力をかけられるか、その限界はどこまでか、またどの程度圧力をかけるとどの程度の譲歩をするかなどを推し量っていることでしょう。これが、プーチンの目的といえるでしょう。

バイデンとしては、ここで下手な譲歩はするべきではありません。昨日も述べたように、もはやウクライナ情勢一つとっても、米国とロシアの対決という単純なものではなくなっているからです。

昨日も述べたように、イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあるからです。北朝鮮は危険ではありますが、すでに世界の対立軸からは姿を消したとみるべきでしょう。北に接近し、対立軸の中に入ろうとした韓国も姿を消しました。

バイデンがウクライナで下手な譲歩をすれば、バイデンの失敗ではなく「米国連合」の失敗ということになり、「反米枢軸」は「米国連合」の脆弱な点を見つけ出し、その点を突き、自分たちに有利になるように、あらゆる攻勢をしかけてくることになります。

「米国連合」側である、日本やその他の同盟国は、そうした観点からウクライナ情勢を見るべきであり、ウクライナで失敗すれば、それはバイデンの失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となるとみるべきです。

上の記事にもあるように、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきです。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討すべきです。

「枢軸側」が勝利を収め続けることになれば、日本にも悪影響がでてくるでしょう。たとえば、一見ウクライナ情勢とは無関係にみえる、「北方領土交渉」もかなり不利になる可能性があります。

逆に、「米国連合」が勝利を収め続け新冷戦に勝利すれば、日本は旧ソ連との冷戦・中国との新冷戦の両方の戦勝国となり、世界における日本の存在感が増し、「北方領土交渉」どころか、多くの面で有利になるのは確実です。2回におよぶ冷戦の勝利により、名実ともに日本は真の独立を勝ち得ることになるでしょう。

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