□
赤軍に捕虜にされたポーランド軍将兵 多くがカティンの森事件で殺害された |
確かに、ロシアの言い分を正確に理解すべきだ。だが、ロシア側の言い分を正当化すべきではない。それは、旧ソ連、共産党一党独裁時代の人権弾圧、全体主義による「犯罪」を擁護することになるからだ。
第二次世界大戦後、ポーランド、チェコ、ハンガリーなどの中・東欧諸国はソ連の影響下に組みこまれ、バルト三国は併合された。これらの国々は50年近く共産党と秘密警察による人権弾圧と貧困に苦しめられてきた。
意外かもしれないが、そうした中・東欧の「悲劇」が広く知られるようになったのは、1991年にソ連邦が解体した後のことだ。日本でも戦後長らく、ソ連を始めとする共産主義体制は「労働者の楽園」であり、ソ連による人権弾圧の実態は隠蔽されてきた。
ソ連解体後、ソ連の影響下から脱し、自由を取り戻した中・東欧諸国は、ソ連時代の人権弾圧の記録をコツコツと集めるだけでなく、戦争博物館などを建設して、積極的にその記録を公開するようになった。
そこで、私は2017年から19年にかけて、バルト三国やチェコ、ハンガリー、オーストリア、ポーランドを訪れて、各国の戦争博物館を取材した。それらの博物館には、ソ連と各国の共産党によって、いかに占領・支配されたか、秘密警察によってどれほどの人が拷問され、殺されたのか、詳細に展示している。
リトアニア KGBジェノサイド博物館(江崎道朗氏撮影) |
旧ソ連時代の共産党一党独裁の全体主義がいかに危険であり、「自由と独立」を守るため全体主義の脅威に立ち向かわなければならない。中・東欧諸国は、このことを自国民に懸命に伝えようとしているわけだ。
それは、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの指導者たちが再び、中・東欧諸国を脅かすようになってきているからだ。プーチン氏らは、旧ソ連時代の「犯罪」を「正当化」し、ウクライナを含む旧ソ連邦諸国を、再び自らの影響下に置こうとしている。
この動きに反発した欧州議会は、例えば19年9月19日、「欧州の未来に向けた欧州の記憶の重要性に関する決議」を採択している。この決議では、いまなお「ロシアの政治的エリートたちが、歴史的事実をゆがめて共産主義者の犯罪を糊塗(こと=一時しのぎにごまかすこと)し、ソ連の全体主義的体制を称賛し続け」ていることを非難し、「ロシアが悲劇的な過去を受け入れるよう求め」ている。
日本固有の領土である北方領土を「不法占拠」され、シベリア抑留に代表される「人権侵害」を受けてきた日本もまた欧州議会と連携し、ソ連・共産党時代の「犯罪」を正当化するプーチンらと対峙(たいじ)すべきなのだ。
プーチンにとっては、ウクライナはあくまで自分たちの持ち物なのですです。元KGBである彼の故郷はロシアではなくソ連邦なのです。
専門家が注目したのは、昨年7月にロシアのウラジーミル・プーチン大統領が発表した論文です。プーチンは「ロシアとウクライナは同一民族だ」と主張、1000年の歴史を強調しています。ウクライナの首都キエフは、ロシアにとって父祖の地。日本人にとっては、熱田神宮や愛知県が韓国にあるようなものと言いたいのでしょうか。 なぜこの時期にプーチンがと考えるより、常に考えていたと解釈すべきです。
ソ連崩壊後、ロシアのボリス・エリツィン大統領を、米国のビル・クリントン大統領はあざ笑い続けました。’90年代を通じたバルカン紛争の末に、エリツィンは傘下のセルビアを守り切れませんでした。
他のバルカン諸国は米欧の軍事同盟であるNATO入り、ロシアの束縛から離れ、米国の庇護下に入りました。そしてNATOは東方拡大しました。こうした旧ソ連からみれば屈辱的な状態を背景に、ロシアの独裁者となったのがプーチンなのです。
プーチンは’08年北京五輪の時も、西側陣営に馳せ参じたグルジアに侵攻。領土を掠め取りました。これに米国抜きのヨーロッパは、なすすべがありませんでした。隙あらばと、プーチンは’14年には、ウクライナからクリミア半島を奪いとりました。
我々にとっては「侵攻」であっても、プーチンにすれば「失地回復」以外の何物でもないのです。
ウクライナを狙うのは、彼が旧ソ連を取り戻そうとする行為の一環なのです。プーチンは故郷であるソ連邦の歴史を不意にしたくないし、ソ連の崩壊が米ソ冷戦の敗北だったとは決して認めたくないのです。
例えばプーチンは、ガスプロムという天然ガスの企業を用いて、ロシア人から搾取を続けています。かつてイギリスが東インド会社でやっていたような植民地化を自国で行っているのです。この事実だけから見ても、彼がロシアの愛国者ではなく、ソ連への忠誠心が高いことがわかります。
現代ロシアを理解するうえで重要なことは、ロシアとソ連は別物ということです。ロシアを乗っ取ってできた国がソ連ですから、両者を同一視するべきではありません。現在ではほとんど評価されず、単なる酔っぱらいとみられているエリツィンは間違いなくロシアの愛国者ではあったのですが、そのエリツィンから大統領の地位を禅譲されたプーチンがやっていることは、ソ連邦の復活であり、ロシアに対する独裁です。
2002年にアレクサンダー・レベジというロシアの政治家がなくなりました。彼はロシアの自由化を進め、チェチェン紛争の凍結にも尽力した人物です。NATOや日米同盟にも融和的でした。何より、近代文明とは何かを理解しつつ政策を実行しようとしました。
ロシアを支配しているのは、徹底した「力の論理」です。自分より強い相手とはケンカをせず、また、自分より弱い相手の話は聞かないのです。今回のウクライナ問題でもはっきりしたように、日本が北方領土などで話を進める気のない相手に交渉を持ち込んだところで、条件を吊り上げられるだけです。
そもそも、かつて丸山穂高氏が語ったように、戦争で取られたものは戦争で取り返すしかない、というのが国際社会の常識です。力の裏づけもないまま、話し合いで返してもらおうなどと考えている時点で、日本はあまりに甘すぎるのです。
そうして、西側諸国も一枚岩ではありません。米英仏独といった西側の大国は、必ずしもNATOの拡大を望んでいません。ソ連や帝政ロシアに苦しめられた東欧諸国はNATOに入りたいでしょうが、ロシアとの対峙は欧米にとっては迷惑な話でもあるのです。
だから、本当はロシアの隣国のウクライナは、NATOにいれるのではなく緩衝地帯として使いたいのです。
現在世界唯一の超大国である米国は、中国の台頭を脅威に感じています。ヨーロッパの問題など、本当は英仏独に任せておきたいのです。中国との対峙に専念したいのです。
そのため、中東にも不用意な手出しはしないし、アフガニスタンからも引きあげました。そうしたこの米国の心理を、プーチンは突いたのです。
10万を超えるロシアの地上軍が、ウクライナに集結している。これでは、ウクライナ全土を占拠するには到底足りないですが、それでも経済的に小国になってしまったロシアにとっては、かつてない大規模な動員です。
これに対し、バイデン米大統領は1月24日(現地時間)、フランス・ドイツなど欧州の同盟の首脳らと80分間ほどオンライン形式で会談し、ロシアのウクライナ攻撃阻止および攻撃時の対応策について議論しました。
こうした外交努力とは別に、米海軍のニミッツ級原子力空母「ハリー・トルーマン」などがこの日、NATO(北大西洋条約機構)の指揮の下、地中海一帯でロシアのウクライナ侵攻に対応した大規模な海上訓練に入りました。
米空母「ハリー・トルーマン」 |
ホワイトハウスとNATOは米空母打撃群が冷戦後初めてNATOの指揮・統制下で訓練を始めたと明らかにしました。米国防総省は米軍8500人に対し、有事の際、欧州のNATO即応部隊(NRF)に直ちに合流できるよう非常待機命令を出しました。
ロシアを地中海に絶対に出さない、との姿勢です。1万人に満たない数の小出しながら、陸軍の動員も決めました。遅まきながら、バイデンも舐められまいと身構えたのです。
米欧は、ウクライナを本気で守る以外のあらゆる方法で支援するでしょう。金を出し、兵站を整え、兵器を渡し、戦い方を教える、国境の外に軍隊を集結させる、等々です。
中国は、グルジア侵攻の時と同じくオリンピック最中だったこともあり、その後も安全地帯で、一の子分のプーチンが米欧を翻弄するのを睥睨しているだけで良いです。
ましてや、米欧がロシアに拘泥しているので、笑いが止まらないでしょう。中国の狙いは台湾。米欧が束になってロシアの侵攻を止められないとなると、台湾への野心をむき出しにするでしょう。
欧米と中露の根本的な違いは何でしょうか。「人を殺してはならない」との価値観が通じる国と通じない国です。日本は明らかに「人を殺してはならない」との価値観の国々と生きるしかありません。そうして、同盟の最低条件は「自分の身を自分で守る力があること」です。
国際社会では軍事力がなければ何も言えないのです。ようやく「防衛費GDP2%」が話題になりましたが、それで間に合うのでしょうか。 いきなり核武装しろとまでは言いませんが、国際社会での発言力は軍事力に比例します。金を出さなければ何もできないです。
このブログでのべてきたように、ロシアの現状のGDPは、韓国より若干下回る規模です。一人あたりのGDPでは、韓国を大幅に下回ります。
にもかかわらず、ロシアが世界で存在感を保てるのは、まずはロシアは旧ソ連の核や軍事技術を継承する国であること。さらに、軍事力では未だに世界第二位の地位にあることです。
コロナ収束はもちろん、景気回復もさっさと成し遂げ、軍事費を増やさないと何もできないです。それとも、このブログにも掲載したように、日本は冷戦の最中に、ソ連の潜水艦をオホーツク海に封じ込めるなどの貢献をしたにもかかわらず、今までのようにすべての周辺諸国の靴の裏を舐め、「殴らないでください」とわびながら生きるとでもいうのでしょうか。
現在の中露やイランの暗躍は、すでに新たな冷戦といって良いレベルに達しています。この新冷戦においても、日本は勝利に貢献する可能性も大きいです。それでも、まだ周辺諸国の靴の裏を舐めながら生きるというのでしょうか。これは、自分自身の生き方の問題です。
先に述べたように現在のロシアは経済的には取るに足らない小国に成り果てています。なぜ、そうなったかといえば、冷戦に負けたからです。
中国も冷戦に負けたのですが、当時の中国は経済的にも、軍事的にも取るに足りない国でした。しかも冷戦中に米国がソ連に対峙ということで、仲間に引き入れ、そこから日本や米国、EUなどの支援により、経済を伸ばし、今日のような姿になっています。ただ、今でも一人あたりのGDPはロシア並で、人口はロシアが1億4千万人に対して、中国は14億人であり、10倍です。
だからこそ、国全体ではGDPは今やロシアの10倍です。世界第二位です。だから、冷戦敗戦国という意識はあまりないようです。
世界は、そうして日本は、一人あたりのGDPでは遥かに劣る冷戦敗戦国「必要なら人を殺しても構わない」という価値観の中露にこれからも、振り回され続けるわけにはいきません。
米国としては、昨日も述べたように、シェール・ガス・オイルを増産して、産油国・ガス供給国としてのロシア経済の息の根を止めることが最優先課題だと思います。これは、バイデン政権には期待できないようですが、今年の中間選挙後には、共和党が多数派になり、実現できるかもしれません。
日本とEUは今まで以上に米国に協力して、軍事的にも経済的にも両国を追い詰めるべきです。私達は、「必要なら人殺しをしても良い」という価値観は絶対に受け入れられないし、そのような社会に住みたくないし、自分たちの子孫もそのような社会で生活させたくないはずです。