2022年4月12日火曜日

バイデン外交の欠陥が露呈しているウクライナ戦争―【私の論評】バイデンは、中東諸国やイスラエル、トルコ等とはある程度妥協しても良いが、中国にロシアを説得させてはいけない(゚д゚)!

バイデン外交の欠陥が露呈しているウクライナ戦争

岡崎研究所

 3月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストの ジャナン・ガネシュが、ウクライナ問題では、バイデンの理想主義的外交がサウジアラビア等の離反を招き米国外交の足かせとなっており、もっと現実主義的外交をすべきであると論じている。


 ガネシュは、ウクライナ戦争を民主主義と独裁主義の戦いと位置付けたのでは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、更には中国の協力を得ることができないので、より現実的な外交政策をとるべきだと述べる。歴史的にも、米国は、ソ連との対抗で中国に肩入れしたり、韓国やラテンアメリカの軍事政権を支援したりしたように、目的のためには、非民主的勢力の協力を得て来たと指摘する。そして、今後の中国との覇権争いにおいても、そのような戦術が必要となると論じている。

 バイデン外交には、人権・民主主義を重視する民主党の基本的立場が背景にある。また、トランプの理念なき外交を批判して政権を獲得したこともあり、自らの持論でもある民主主義重視の価値観外交を進めて来た。

 また、バイデンの個人的性格にもあるのか、これまでサウジやア首連の指導者、イスラエル首相、ブラジル大統領など、政策的に問題のある政治指導者とは会おうとしなかった。政策や意見が合わなくとも、いざという時のために、首脳レベルで直接働きかけを行なえるような最低限の個人的関係が構築されていることが望ましい。

 また、このようなバイデンの頑なさと共に、あまりに率直な発言に、やや不安を覚えるところがあった。バイデンは、早々にウクライナに軍事介入をしないことを明言し、プーチンを戦争犯罪人と呼び、また、制裁が効果を生ずるのには時間がかかるなど、それらが事実であるにしても、外交駆け引き的な要素が少なく選択の余地を自ら狭めている印象もある。

 バイデンは、プーチンの理不尽な侵略に対して米国自身が交渉する余地は無く、当面制裁強化一本やりということであろうが、そうであればこそ、実利を重視し民主的とは言えない第三国に対しては今後もう少し柔軟な対応に軌道修正し、少しでも対ロシア制裁への協力を求めることが望ましい。西側同盟以外の国々が制裁に参加せず協力しないということは、制裁の抜け穴が広がることを意味しかねない。ウクライナ後の中国対策においても同様であろう。

即時停戦がロシアのためであるという説得を

 3月16日頃には、ウクライナ筋から15項目からなる停戦合意が近いとの見通しも報道されたが、3月23日には、ロシア側から米国が停戦を妨害しているとのコメントがあり、停戦の機運が遠のいているが、これはロシアが交渉を引き延ばしていることを示唆している。プーチンは、もともと停戦するつもりは無く文民に対する無差別攻撃を継続、強化することにより、ウクライナ側の戦意喪失を待つ作戦なのではないかと疑いたくなる。

 ウクライナ人の命を救うためには、プーチンがこのような軍事侵攻に踏み切った理由やこれまでの経緯を考慮すべきだとの意見が内外に散見されるが、これは正に信用できないプーチンの主張である。ウクライナ人側には、命を懸けても守りたいものがあることを理解すべきであろう。

 ロシアに影響力を持つ国や人脈を持つ人物は、全力でロシア側に即時停戦を働きかけ、無差別攻撃を続けることが利益とならないことをロシア側に理解させるよう努力すべきである。特にプーチンに対しては、その意図は交渉により実現すべきもので、そのためにはまず即時停戦が必要であると説得するべきであり、それができるのはロシアが頼りとしている中国しかない。

 3月24日の北大西洋条約機構(NATO)緊急首脳会議でもそのような意見が出たようであるが、中国には、そのような役割を果たす重い責任があるというべきであろう。

【私の論評】バイデンは、中東諸国やイスラエル、トルコ等とはある程度妥協しても良いが、中国にロシアを説得させてはいけない(゚д゚)!

ロシア軍がこのような苦戦するのは、最初からある程度予想がつきました。軍事専門家らによれば、ウクライナ全土を制圧するには最低60万人の軍が必要だとされています。

ソビエト連邦軍主導のワルシャワ条約機構軍による軍事介入したチェコ事件においては、80万人の軍隊が動員されました。チェコの人口は1000万人(ウクライナ4000万人)ですし、面積も半分以下です。

にもかかわらず、ウクライナに投入された軍は19万人です。しかも、キエフ、ハリコフ、東部、南部と広い戦線にわたって投入されました。これでは、制圧どころではありません。

苦戦するのが最初から目に見えていました。仮に、西側諸国からの支援がなかったにしても、かなり苦戦したでしょう。

さらに、ロシアの経済が脆弱(GDPでは韓国より若干下回る、一人あたりGDPは100万戦後で、これは韓国をはるかに下回る)であることから、ロシア軍の戦いはお粗末なものになるであろうことは、最初から予測されたことです。

初戦でのロシア軍のウクライナー侵攻

こうしたことはバイデン政権もわかっていたはずです、プーチンにロシアがウクライナに侵攻すれば、相当苦戦することや、西側諸国が支援すれば、さらに苦戦することなどをプーチンに知らしめるべきでしたし、ある程度戦争がエスカレートした場合は、米軍が直接介入する可能性を示唆すべきでした。バイデンはやはり、外交で失敗したと言えるのだと思います。

特に、上の記事でも述べているように、バイデンは、早々にウクライナに軍事介入をしないことを明言し、プーチンを戦争犯罪人と呼び、また、制裁が効果を生ずるのには時間がかかるなど、それらが事実であるにしても、外交駆け引き的な要素が少なく選択の余地を自ら狭めている印象もあるとしていますが、まさにそのとおりです。

腹の中ではどう思っていても、ウクライナに段階的に軍事介入する可能性ははっきり否定すべきではありませんでした。それに制裁されるにしても、それが効き目がでてくるのに時間はかかると認識させたのは間違いないです。

これでは、プーチンは下手をすると、米国やNATOはウクライナに対して、武器供与も、軍事費の支援もしないと思い込んだかもしれません。制裁も、ウクライナを打ち負かす前までに効力を表すことはないとの確信を抱いたかもしれません。

現在、ロシアはウクライナに侵攻を行ったと国際社会から批判されています。侵攻とは、挑発もされないのに、先制武力攻撃を行うことです。プーチンは色々と言い訳をして「ウクライナが先に挑発してきた」と言っていますが、国際社会の圧倒的多数は「それは挑発と認められない」と評価しています。

一方で、バイデン大統領は相当のポンコツです。ポーランドに行ってロシアの国際法違反を片っ端からあげつらうまでは良かったのですが、「プーチンを権力の座に留まらせない」とまで発言しました。さすがに同盟国の英仏が「我々は知らん」「いい加減にしろ」と呆れられていましたが、米国政府の高官も火消しに必死でした。

それはそうでしょう。プーチンを「挑発もされないのにウクライナに手を出した」と批判しているのに、バイデンがプーチンを挑発してどうするのでしようか。


そうして、最近のマスコミなどの論調では、真実をつきとめようとか、ロシアの立場にもたってみるべき、などのごたくを並べる者もいますが、これは明らかな間違いです。現在進行形の出来事に、しかも戦時に「真実が知りたい」と思い、探ること自体が、プロパガンダに騙される原因になるだけです。真実など歴史にならないとわからないのに現在進行形の時に探るものではありません。

そのようなことよりも、西側諸国としては、この戦いに何としても、勝つべきです。そのためには、より現実的な外交政策をとるべきなのは間違いありません。戦争が現に始まっているのですから、まずはこれに勝たねばなりません。

勝つためには、場合によっては、妥協も必要です。ただ、やって良い妥協とそうではない妥協とがあります。それは、踏まえるべきでしょうが、して良い妥協はすべきです。

妥協には2つの種類があります。1つは古い諺の「半切れのパンでも、ないよりはまし」、1つはソロモンの裁きの「半分の赤ん坊は、いないより悪い」との認識に基きます。前者では半分は必要条件を満足させます。パンの目的は食用であり、半切れのパンは食用となります。半分の赤ん坊では妥協にもなりません。

ソロモン王の裁き

何が受け入れられやすいか、何が反対を招くから触れるべきでないかを心配することは無益であって、時間の無駄です。心配したことは起こらず、予想しなかった困難や反対が突然ほとんど対処しがたい障害となって現れことになります。

何が受け入れられやすいかからスタートしても得るところはありません。それどころか、妥協の過程において大切なことを犠牲にし、正しい答えはもちろん、成果に結びつく可能性のある答を得る望みさえ失うことになるのです。

現在でいえば、バイデンは中東諸国やイスラエル、トルコ等とはある程度妥協しても良いと思います。ただ、上の記事にもあるように、中国に即時停戦が必要であるとロシアを説得させることはするべきではありません。

それで、ロシアが即時停戦をしたとすれば、習近平の存在感は嫌がおうでも高まります。下手をすると、習近平はノーベル平和賞を受賞するかもしれません。そうなると、習近平はそれを利用して、国内での権威付け行い、統治の正当性を強化するでしょう。

そうなると、習近平は余勢をかって、喜び勇んで台湾併合にはずみをつけるかもしれません。その後世界は中国にさらに翻弄されることになるでしょう。これは、悪い妥協です。バイデンはこの種の妥協は、絶対にすべきではありません。

今のところ、そのような兆候はありませんから、さすがのバイデンも中国に利するような真似はしないつもりなのでしょう。

無論、戦争に勝つためには、戦争や戦闘における真実を知る努力は、必要ですが、それ以前のなぜ戦争になったのかなどという事柄は、裁判のとき、さらにその後で、歴史的事実になった後に詳細を分析して、後世に役立てるべきです。

そうして、そのようなことよりも、日本としては、ウクライナがロシアに降伏して、何か良いことがあるのか自問すべきです。 自分を殴っている相手に自らの生殺与奪の権を委ねれば、殺されるだけです。

 国が殺されるとはどういうことでしょうか。男は奴隷にされます。現に、ロシアに捕まったウクライナ人の少なからずがシベリア送りにされています。女は犯される。降伏するとは、殺され、犯され、奴隷にされることなのですが、それで良いはずはありません。  

事実、プーチンはそれを実行してきました。そんな国が日本の隣にあるのです。 では、どうすべきなのでしょうか。

殴られないようにするには、軍事力をつけるしかありません。そうして、それを可能にする経済力もつけねばならないです。ドイツは「防衛費をGDP2%超にする」と宣言しましたが、最低の数字です。 日本は、これを上回るようにすべきです。

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2022年4月10日日曜日

新築住宅に太陽光パネル メーカー義務化、条例改正へ―東京都―【私の論評】太陽光パネルを義務化するくらいなら、原発を稼働させよ(゚д゚)!

新築住宅に太陽光パネル メーカー義務化、条例改正へ―東京都


 東京都は、住宅メーカーなどを対象に、新築物件の屋根に太陽光パネルの設置を義務付ける新制度を創設する。全ての住宅への一律設置を課すのではなく、事業者単位で目標を設定して達成を求める方針。住宅分野の脱炭素化が目的で、都の検討会で制度の導入時期など詳細を詰め、今秋以降に関係条例の改正を目指す。

出光、太陽光パネル生産終了 中国勢にシェア奪われ―来年6月

 設置を想定しているのは、延べ床面積が2000平方メートル未満の中小規模の住宅やビル。これまでは主に大規模建築物を対象に環境配慮を求めてきたが、着工棟数の大半を占める中小物件の対策を後押しする。総延べ床面積で年間2万平方メートル以上を供給するメーカーや不動産デベロッパーなどを義務付けの対象にする。

 都の調査によると、都内住宅の約85%で屋根にパネルを設置して発電することができる。都は日照条件などの地域差をさらに考慮した上で、各メーカーなどが供給する棟数に応じて設置すべき目標を定める。各棟の合計で目標を達成すればよい仕組みにする。

 新制度ではこのほか、断熱など一定の省エネ性能確保も義務付ける方針。都内の二酸化炭素排出量のうち、住宅を含む家庭部門からの割合は約3割を占めており、都は太陽光発電機能と省エネ性能を兼ね備えた住宅を普及させることで排出量の削減につなげたい考えだ。

【私の論評】太陽光パネルを義務化するくらいなら、原発を稼働させよ(゚д゚)!

国土交通省・経済産業省・環境省では昨年、住宅や建築物への太陽光パネルの設置や省エネ性能確保などに関する議論を行ってきた。8月23日に開催された「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」では、新築住宅では義務化は見送りになっていました。


政府は2030年に、新築される住宅でのZEH水準の省エネ性能(再エネを除き20%削減)と、新築される建築物でのZEB水準の省エネ性能(再エネを除き20%~40%削減)の確保と、新築戸建住宅6割における太陽光発電導入を目指します。

50年には、ストック(中古物件)平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保と、導入が合理的な住宅や建築物で太陽光発電などの再エネ導入が一般的となることを目指す。大きな論点となった太陽光パネルの設置は、公共の新築住宅・建築物では原則設置となりましたが、新築住宅では義務化は見送りとなりました。

日本政府は昨年CO2削減目標を26%から46%へ20%も引き上げました。固定価格買い取り制度(FIT)の実績からいえば1%当たり毎年1兆円の費用がかかっており、単純計算しても毎年20兆円の費用が追加でかかれのか。政府がほのめかし、東京都が目指す太陽光発電の設置義務化を実行すれば国民は疲弊し、産業は高コストになり、日本経済は弱体化します。


太陽光パネルは確かに従前よりは安くなったのですが、まだ電気料金への賦課金を原資に寛大な補助を受けています。太陽が照ったときしか発電しない間欠性という問題は解決していないため、いくら太陽光発電を導入しても火力発電所は必要なので二重投資になるし、火力を減らしてしまえば停電のリスクが高くなります。

安価に太陽光発電を設置できる場所も減ってきており、これも今後の高コスト要因になります。小泉進次郎氏が環境相の時、まだ空いている屋根があるから設置をすればよいと言ったが、なぜまだ空いているのか理由を考えなかったのでしょうか。これまでも莫大な補助が与えられたにもかかわらず、採算が合わなかったのです。

こんなことは、最初からわかりきっていたので、 CO2削減目標を46%に引き上げることを宣言した菅総理(当時) の頭の中には、原発再稼働も視野に入っていたのではないかと思います。

そもそも太陽光発電はCO2排出こそ少ないですが、本当に環境に優しいかも疑わしいです。かなり頻繁に誤解されているようですが、太陽光や風力発電は「脱物質化」などでは決してなく、むしろその逆です。

太陽光や風力発電は、確かにウランや石炭・天然ガスなどの燃料投入は必要ないです。一方で、広く薄く分布する太陽や風のエネルギーを集めなければならないです。このため原子力や火力よりも多くの発電設備が必要で、大量のセメント、鉄、ガラスなどの材料を投入せねばならず、結果、廃棄物も大量になります。

屋根ではなく地上に設置する方がコストは安くなりますが、広い土地を使います。農地や森林がその代償で失われます。施工が悪ければ台風などで破損したり土砂災害を起こしたりして近隣に迷惑が掛かかります。

日本には1993年を最後に、中心気圧が940ヘクトパスカル以下の横綱級の台風は不思議と来なくなりましたが、またいつ来るか分からないです。日本の太陽光発電設備はいまだそのような台風を経験していないので心配が募ります。

太陽光発電設備は安くなったといいますが、その理由は何でしょうか。太陽光発電にはさまざまな方式があるが、いま最も安価で大量に普及しているのは結晶シリコン方式であり、世界における太陽光発電用結晶シリコンの80%は中国製です。そうして、うち半分以上が新疆ウイグル自治区における生産であり、世界に占める新疆ウイグル自治区の生産量のシェアは実に45%に達します。

高いシェアの理由は、安価な電力、低い環境基準、そして低い賃金です。多結晶シリコンの生産には大量の電力が必要で、新疆では安価な石炭火力で賄っています。また、製造工程では大気・土壌・水質に環境影響が生じ得るので、規制が厳しいとコスト要因になります。

では賃金が低い理由は何かと考えると、強制労働に太陽光発電産業も関わっている疑いがあります。コンサルタントのホライゾンアドバイザリーの報告によると、世界第2位の多結晶シリコン製造事業者・GCLポリエナジー、および同第6位のイーストホープが、強制労働の疑いのある「労働者の移動」プログラムに明白に参加しています。

ほかにも複数の中国企業の名前が挙がっています。海外の太陽光発電関係企業は、米国のウイグル強制労働防止法や、それに追随するであろう諸国の規制への対応を検討しています。既に、米国の大手電力デューク・エナジーやフランスのエンジーなど、175の関係企業が、サプライチェーンに強制労働がないことを保証する誓約書に署名しました。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、中国製の輸入を止めると太陽光パネルの価格は倍増します。日本もこの覚悟が必要です。

中国産太陽光バネルについて、「強制労働によってつくられていることが排除できない」として、米国当局は、新疆ウイグル自治区でこのようなものをつくっている主要企業を「エンティティ・リスト」に入れ、「ここからの輸入はダメ」という方針にしています。これは問題があるということです。それに、東京都が加担して良いはずがありません。

太陽光発電の問題点を以下に簡単にまとめておきます。
  • 太陽光発電は同等能力の待機発電設備必要 
  • 関係特定業者の利権に 
  • 費用対効果が悪く電気料金負担増(現在一割増に) 
  • 住宅建設費増ー私有財産制への侵害 
  • 利用後、製品有害物廃棄処分未解決 
  • 部品調達は中共ジェノサイドに加担.人権問題有 
  • 景観悪化
政府は住宅への設置義務化は見送りましたが、官公庁の建築物へは設置を義務化する方針です。しかし官公庁だからコストを度外視してよいという発想は誤りではないでしょうか。おおよそ技術は進歩してみな安くなりますが、政府はわざわざコストのかかる政策を選んで実施するのが得意だということを忘れてはいけないです。

国民の納税は公務のためであり、太陽光発電のためではありません。太陽光発電の政策の実施に当たっては、1tのCO2削減に何円かかるのかを明らかにし、それによって実施の可否を決めるべきです。コスト無視の官公庁には炭素税も効果がなさそうですが、「政策の削減コスト」によって無駄遣いに歯止めをかけることができるでしょう。

新築住宅も同じです。「削減コスト」に注目し、原発や化石燃料と比較し「削減コスト」がそれを下回らないかどうかを検討してから導入を検討すべきです。

原発などと比較すれば、太陽光パネルによる発電はコスト高になるのは、目に見えています。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻をきっかけにしたエネルギー価格の高騰などを踏まえ、イギリス政府は、原子力発電所を最大8基新設することを柱とする新たなエネルギー計画を発表しました。

英国の新規原発開発計画

この計画は、コロナ禍からの経済活動の再開による需要の増加や、ウクライナへの軍事侵攻をきっかけにしたエネルギー価格の高騰を踏まえ、イギリス政府が7日までに発表しました。

それによりますと、2030年までに最大8基の原発を新設し、2050年には電力需要のうち最大25%を原子力発電でまかなうとしています。

「小型モジュール炉」と呼ばれる次世代の原子炉の開発も急ぐ方針です。

日本もまずは、現在稼働中止中の原発のうち安全が確認されたものは、すぐにでも稼働させるべきです。原発を稼働させさえしなければ安全という考え方は、妄想に過ぎません。現実には、稼働させようにさせまいと、安全性に違いはありません。であれば、稼働させるべきです。

太陽光発電を中国製の太陽光パネルを用いて大々的に実施すれば、国際的にも非難される可能性がありますが、安全が確保された原発を稼働させても、そのようなことはありません。

電力不足による危機は、思ったよりもはやくなりそうです。その兆候はすでに見え始めています。学校やトンネルなどの公共施設で使う電力は国などが入札を行って契約先を決めますが、参加する電力会社がなく入札が成立しないケースが各地で相次いでいることがNHKの取材で分かりました

燃料価格の高騰などを背景に、電力会社が決まった価格で長期間の契約を結ぶことに慎重になっているとみられます。

太陽光パネルでこの問題は俄には解決しません。一番はやく解決できるのは、原発再稼働です。これですと、2週間もあれば再稼働できます。

今のままだと、あなたの職場が電気不足で操業できず、自宅待機になるかもしれません。職場はなんとか、電気を確保してみたところで、電車は電力不足で満足に動かなくなるかもしれません。その状態が続けば、解雇されるかもしれません。いや、それどころか、家族が病気になっても、病院が停電で満足に手当を受けられないかもしれません。学校も、コロナでもないのに閉鎖されるかもしれません。

そうなれば、家でテレビでも見ていれば良い、スマホでも見ていれば良いと考える人もいるかもしれませんが、電気がなければそれもできないのです。

そうなる前に、原発を再稼働すべきです。

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2022年4月9日土曜日

アメリカの「利上げ」、意外にも日本経済に「いい影響」を与えるかもしれない…!―【私の論評】米国の利上げの追い風でも、酷い落ち込みならない程度で終わるかもしれない日本経済(゚д゚)!

アメリカの「利上げ」、意外にも日本経済に「いい影響」を与えるかもしれない…!

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長


「逆イールド」の意味

 3月のFOMC(連邦準備理事会)で利上げが始まった。ウクライナ情勢が世界経済を失速させるなどの悲観論がとりあえずは和らいだこともあって、米国の金融市場では金利が大きく上昇している。

 特に、パウエル議長が3月21日に50bps(0.5%)の利上げを行う姿勢を示した後に、政策金利引き上げが急ピッチになるとの期待で、FRB(連邦準備理事会)が操作する「FF金利」の見通しが影響する2年満期の国債金利などが大きく上昇、満期が長い国債金利が低くなる、いわゆる「逆イールド」が金融市場で観測されている。

 債券市場で逆イールドが増えていることは、将来の米国の景気後退が迫っているシグナルとして意識される。1980年以降の景気後退局面(5回)の前に、10年国債と2年国債の格差でみた逆イールドが定着したケースでみると、逆イールドが始まってから平均15ヵ月後に景気後退となっている。

 もっとも、逆イールドは観測され始めたばかりで、これが定着するかどうかは不確実だし、逆イールドとなってから景気後退までに至る期間は差がある。

 一方、FRBは過去の分析などから、10年国債と2年国債の金利差が示す逆イールドは、景気後退のシグナルとして必ずしも適当ではない点を指摘している。FRBは、より短い年限(1年半と3ヵ月の格差)でみたイールドカーブの方が、景気後退のシグナルとして有用としている。このため、景気の先行きとイールドカーブの関係について、様々な議論が行われている。

 年限別のイールドカーブのうち、どれが最も使えるのか。それぞれのイールドカーブには特徴があるので、特定のイールドカーブだけで景気判断を行うことは、難しいのではないかと筆者は考えている。

 4月1日にわずかながらもマイナスとなった10年-2年国債の金利差は、長期的に経済成長率やインフレ率が鈍化する可能性を示している。ただ、これが景気後退に直結するはっきりとした理由はない。また、満期が長い米国の金利は、国債購入政策によって低く抑制されているので、従来ほどは景気後退のシグナルとしての有用ではなくなっている可能性がある。

 一方、FRBが重視する短い年限のイールドカーブ(上記の「1年半と3ヵ月の格差」など)は、景気後退到来を予知するシグナルとしては有用とみられるが、将来予想のツールとして説明できる範囲は限定的になる。

すぐに景気失速することはない?

 確かなことは、パウエル議長などのFRBの主流派は、逆イールドにはなっていない短い年限のイールドカーブを重視しており、長期国債の年限で観測される逆イールドを問題にはしていないことである。インフレ鎮静化とインフレ期待安定を重視するなかで、高インフレが続く限り利上げを続けるとみられる。

 パウエル議長などの発言を踏まえると、当面のFOMCにおいて中立的な水準であるFF金利2%超を目指して、1回の会合での50bpsの利上げが数回行われる可能性が高い。

 インフレ抑制のために2023年前半までFRBの引き締め政策が続く可能性が高いが、米国経済が早々に失速するリスクは大きくないと、筆者は現状では考えている。

 ただ、2023年半ばから利上げの景気抑制効果が本格化するとみられ、米国経済のダウンサイドリスクが高まるだろう。コロナ後の回復が未だに緩慢なままの日本経済にとっては、米経済の減速、そしてウクライナ情勢への不透明感もあり、外部環境について逆風が和らぐ展開は期待しづらいのではないか。

黒田日銀の「円安容認」姿勢

 一方、FRBの利上げ期待がもたらした米金利上昇をうけて、3月中旬から一時1ドル125円程度円安に振れるなど、ドル高円安が進んでいる。そんななか日銀は、現行の政策の枠組みを維持し、為替市場において円安を容認することで、事実上緩和政策を強化している。外部環境はほとんどがネガティブだが、数少ない日本経済にとっての追い風が、FRBからもたらされていると位置付けられる。

 ガソリンや食料品などの価格上昇で、家計の日常生活が苦しくなる側面はある。このため、ガソリンなどの個別の価格上昇するなか、落ち着いている一般物価(経済全体のインフレ)とガソリン・食料品などの個別の物品の価格が同一視され、しかも円安が進んでいるため、日本銀行の金融緩和政策に批判的な意見も増えている。

 ただ、日本は持続的なインフレには至るにまだ距離が残っているため、現行の政策対応を続けるとの姿勢を、黒田総裁らは一貫して保っている。こうした姿勢が揺るがないということが、3月後半の日銀の行動によって裏付けられた。長期金利目標レンジを維持するための大規模な国債購入発動をおこない、金融緩和を強化するアクションを取ったのである。

 今後、円安があまりに急ピッチで進む場合には事態が変わる可能性があるが、日銀の現行の金融緩和政策は基本的には続くと見られる。

 実際に、4月1日に発表された日銀短観においても、製造業、非製造業とも業況判断が悪化した。事前予想ほど悪化しなかったことなどややポジティブに評価できる点もあるが、海外情勢の悪化に加えて、原材料価格の上昇を販売価格に十分に転嫁できていないこと、そしてコロナ対策の営業制限の余波が残っていることが、企業の景況感を曇らせている。

 業種別に景況感をみると、対個人サービス業、飲食サービスなど、営業制限を受けた個人消費関連の景況感の悪化が目立つ。ガソリンなど資源価格上昇への対応に加えて、景気停滞に対して、政策によるサポートが必要な状況と言える。

 また、日本においては、労働市場の逼迫がもたらす賃金上昇は始まっていない。コロナの影響が比較的軽微だった大企業製造業の春闘において、若干のベースアップが行われる兆しが見え始めた程度である。米金利の上昇を通じて日本の金融緩和が強化されることは、家計所得を後押しして、日本経済がコロナからの復調を目指す後押しするツールと位置付けられると思われる。

 日銀による金融緩和政策について、物価高などに対して批判的な世論を理由に、岸田政権から圧力がかかるリスクを筆者は懸念していた。ただ、岸田政権を支える主要政治家は、3月後半に、ガソリン高などを理由に金融緩和をやめるのは難しいと発言するなど、緩和を継続する日銀の対応をバックアップしていると思われる。

 また、年金給付者への5000円給付という与党政治家から提唱された対応は、シルバー政治の象徴とも言え、様々な観点から問題が大きいと思われるが、どうやら白紙になった模様である。ガソリンなど物価高の弊害を和らげるために、2022年度予備費を財源とした2兆円規模の対策が策定されるとの観測記事もある。最終的にどうなるかは不明だが、自民党の内部からの拡張的な金融財政政策を重視する声が、岸田政権の政策にも影響し始めたのかもしれない。

 日本経済を成長させる大胆な政策がでてくるとまでは期待はしづらいだろうし、「新しい資本主義」のメニューのなかで、増税政策を打ち出される可能性もある。ただ、仮に、岸田政権の対応が経済成長を重視する方向に転換されれば、株式市場において、好調だった米国株に対して日本株のリターンが負け続けた昨年までの状況は、2022年は回避されるかもしれない。

村上 尚己(アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト)

【私の論評】米国の利上げの追い風でも、酷い落ち込みならない程度で終わるかもしれない日本経済(゚д゚)!

上の記事をざっくりまとめてしまうと、債券市場で逆イールドが増えていることは、将来の米国の景気後退が迫っていることを示しているようにも見えるが、現状では米国の景気がすぐに落ち込み、それが日本にも悪影響を与えて、日本がすぐに景気が落ち込むことはないでしょうということです。

なぜそのようなことがいえるかといえば、米金利上昇をうけて、3月中旬から一時1ドル125円程度円安に振れるなど、ドル高円安が進んでいますが。日銀は、円安を容認することで、事実上緩和政策を強化しているからです。

国際的にみると、現状では日本経済にとっては、エネルギー価格の上昇や、資源価格の上昇など、日本経済にとって良いことはあまりないのですが、米国の利上げにより、円安傾向が続くことは日本の経済にとってプラス働くとみられます。

3月18日日銀の黒田東彦総裁は金融政策決定会合後の会見で円安を容認する考えを示し、東京外国為替市場では一時、1ドル=119円台まで円安が進みました。

日銀・黒田東彦総裁は、「円安が経済・物価を共に押し上げ我が国経済にプラスに作用している基本的な構造は変わりはない」と語りました。

黒田総裁は日本の企業が海外であげた収益を国内に送金する際に「円建ての金額は円安によって拡大しGDPもプラスになる」と述べ、円安を容認する考えを示しました。

発言を受けて円相場は一時およそ6年1カ月ぶりの水準となる1ドル=119円台まで円安が進みました。

金融政策については原油価格の高騰などで消費者物価が「4月以降2%程度の伸びとなる可能性がある」としながらも引き締め策を取ると企業収益を悪化させ家計の負担を増やすとして「金融緩和を続ける」との考えを強調しました。

このほか物価の上昇と景気の停滞が同時に起こる「スタグフレーション」については「そういう恐れが日米欧にあるとは思っていない」と述べました。その理由として「資源価格の上昇は一時的なものでコロナ禍からの経済回復は明確だ」としました。

この円安容認が、まさに日本にとって吉と出ることになりそうなのです。

そもそも、為替が10%円安になるとGDPは0.2~0.5%アップすることは従来から試算で確かめられています。だから円安で輸入物価が上がっても日本経済としてはそれを上まわるメリットがあるのです。

円安と原油高、小麦粉などの資源高を分けて考えてみます。円安にはメリット、デメリットの両面があるとしても、短期的には景気に対してメリットが大きいと考えるのが一般的です。購買力を低め内需を低迷させる効果と比べ、外需を増加させる効果の方が大きいとみられるためです。

こうしたメカニズムを確認するには、マクロ計量モデルの推計結果が有用です。日本では、少なくとも数年の期間では自国通貨安(円安)は国内総生産(GDP)にプラスの影響を及ぼします。先にも述べたように、これは内閣府の短期マクロモデルでも確認できます。10%の円安によって、GDPは0.2~0.5%程度増加します。


このように自国通貨安が経済全体にプラスの影響を与えることはほとんどの先進国でみられる現象です。どの国も総じて輸出産業は世界市場で競争している優良企業群で、輸入産業は平均的な企業群です。優良企業に恩恵を与える自国通貨安は、デメリットを上回って経済全体を引き上げる力が強いとみるべきです。
 
 例えば、経済協力開発機構(OECD)のインターリンクモデルでみても、輸出超過、輸入超過の貿易構造にかかわらず自国通貨安は短期的には景気にプラスです。その影響は貿易依存度によって異なり、依存度が高い国ほどプラス効果が大きいです。

日本は、先進国の中では内需依存で貿易依存度が低いことから、円安の効果は他の国と比べると実はそれほど大きくはありません。ただ、これは逆の方向からいえば、市場関係者らが唱える円安弊害論は、一部の産業に限られており、日本経済全体の話ではないのが実態です。

一方、原油・資源価格の上昇はどうでしょうか。これは交易条件の悪化を通じて、日本経済からの海外への所得移転になり、日本のGDPを低下させます。この意味で、原油高・資源高は日本経済にマイナスです。

2011年初から13年末頃まで、原油価格は1バレル80~100ドル程度の高値で推移しました。今後も、新型コロナからの回復に合わせてエネルギー価格が上昇したことと、ロシアに対する経済制裁で、さらに上昇する可能性はあります。ちなみに、本日は、96.9ドル↑ (22/04/08 08:41 EST)です。

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ただ、日本は原油価格が高かった11~13年でも一般物価上昇率はマイナスで、デフレのままでした。こうしたことから、原油・資源価格の上昇が限定的ならば、一般物価上昇率はそれほど上がらないでしょう。つまり悪い物価上昇でもなく、スタグフレーションまでいかないでしょう。

むしろ、原油や小麦粉などの個別価格が上がっても、ここ1年ほど消費者物価総合が前年比マイナスとなるなど一般物価上昇率がデフレ基調であることの方が問題です。個別物価、一般物価の区別もつかず、「悪い円安」だ、「悪いインフレ」だと騒ぎ回る人がいることには、本当に疑問を感じます。

「悪い円安」「悪いインフレ」とは結局スタクフレーションのことであり、これは全体の供給不足で起こる現象ですが、日本の足下では需要不足のほうが心配です。


ここ数年、老舗の廃業が時々報道されますが、これを見ていると材料費や燃料が値上がりしているのだからと、単純に「値上げすれば良いのに」と思ってしまいますが、デフレ気味の日本では、なかなか値上げができないのです。

「悪い円安」だ、「悪いインフレ」という声に乗って、金融引締をしたり緊縮財政をしてしまえば、日本はまたデフレスパイラルのどん底に沈むことになります。

いまやるべきは、目一杯の金融緩和、積極財政を行いつつ、減税などで、エネルギー価格、資源価格の上昇の悪影響を抑えることです。それ以外の政策は、日本経済を毀損するだけです。そして、それは円安を容認することでもあります。日銀は、円安を容認することを表明しましたが、政府・財務省もそれを容認すべきです。

ただ、本来は政府は大規模な補正予算組むべきですが、政府にはその気はなく、何とコロナや今般のロシア制裁による悪影響への対策に5兆円の予備費をあてようとしています。

先日も述べたように、現在では30〜40兆円の需給ギャップ がありますから、これでは全くの焼け石に水であり、これこそ、日本経済にとって大きな悪影響を与えることになります。

アメリカの「利上げ」が日本にとって、追い風になりそうなのに、単に「ひどい経済の低迷」にならない程度で終わってしまうかもしれません。

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2022年4月8日金曜日

ウクライナ危機はやはり自由主義を守る戦争―【私の論評】日本人にとっても、自由民主主義は守り抜く価値がある(゚д゚)!

ウクライナ危機はやはり自由主義を守る戦争

岡崎研究所

 著書『歴史の終わり』で有名な米国の政治学者フランシス・フクヤマが、フィナンシャル・タイムズ紙に3月4日付で‘Putin’s war on the liberal order’と題する論説を寄稿し、民主的価値はプーチンのウクライナ侵略の前から脅威に晒されていた、しかし今や1989年の精神を呼び覚ますべきだ、と述べている。



 フクヤマの主張は、
①自由主義の秩序は、プーチンの前からポピュリズムや独裁者など社会の左右から攻撃を受けてきた。
②ウクライナの危機は自由な世界秩序を当然視できないことを明確にした、闘わねば消滅する。
③プーチンが負けても自由主義の「仕事」は終わらない、その後に中国やイラン、ベネズエラ、キューバ等が控えている。
④自由主義の精神はウクライナで生きている、その他の国の我々も徐々に覚醒している。
ということで。フクヤマの自由主義への強い信念と中国など反自由主義国に対する強い危機感が印象的だ。

 ウクライナ戦争につき「これはロシアの戦争ではない。プーチンの戦争だ」という見方がる。確かにその側面は強いが、ロシアのシステム、社会の問題も大きい。ロシアが民主主義であったならば、今回の侵略のようなことは起こらなかっただろう。

 ロシア国内の民主化の動きが注目される。3月14日夜には、国営テレビの放送中に同テレビ局関係者が「戦争反対」の看板を掲げてニュース・キャスターの後ろに立った。冷戦終了後の民主化、自由主義の芽は、いくらプーチンが摘もうとしても確実に育っているのだろう。

 世界から真実を伝えていくことが重要だ。元加州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーが3月17日付アトランティック誌サイトに、「ロシアの友人へのメッセージ」と題し、ウクライナ戦争の真実を発信している。音声メッセージも付いたパワフルな発信だ。

やはり、「歴史は終わらない」

 フクヤマは、近々新著「自由主義とその不満者達(Liberalism and Its Discontents)」を出版する。フクヤマは1989年にナショナル・インタレスト誌に論文「歴史の終わり」を発表、世界に大きなインパクトを与えた。しかし、世界ではその後もウクライナを含め武力紛争が絶えない。フクヤマは、今回の記事で、間接的ではあるが、ウクライナ侵略を多くの人が「歴史の終わり」の終わりを画するものだと見ていると述べる。

 なお、フクヤマの後93年にはサミュエル・ハンティントンが、論文「文明の衝突か?」等を出し、歴史は終焉しないと主張した。当時日本を含め多くの学者達がハンティントンの議論について学問的でない等と辛辣な批判をした。こうした批判は不合理だったように思われる。「冷戦後の世界の紛争は文明間の紛争になるのではないか?」とのハンティントンの問いかけは重要だったと言ってよいだろう。

 残念ながら国際社会から紛争は無くならない。その意味で「歴史は終わらない」のである。しかし、ベターなイデオロギーがない以上、長期的に自由主義は勝利するだろう、そうであっても、自由主義を守る闘いを続けていくことが必要だ、とのフクヤマの主張に異論はない。とりわけ、権威主義的な大国である中国による脅威の増大を抱え、自由主義秩序の維持は死活的に重要な問題である。

【私の論評】日本人にとっても、自由民主主義は守り抜く価値がある(゚д゚)!

フクヤマの『歴史の終わり』を、単に冷戦中に考えられたアメリカの一方的な政治観だと切り捨ててしまうのは間違いです。

フクヤマの議論は、自由民主主義に対抗できるイデオロギーが現代でも出てきていないことを考えると、いまだに説得力がある議論だからです。

また、『歴史の終わり』はその後の国際政治学に大きな議論を巻き起こしており、国際政治を学ぶ上では必ず知っておくべき思想です。


フクヤマの議論の要点は、
  • 自由民主主義は最良…自由民主主義に対抗できるイデオロギーは存在しない
  • 自由民主主義は普遍的…あらゆる歴史、文化、文明を持った国家に適合する
  • 自由民主主義は永遠…今後は自由民主主義が最高のイデオロギーとして一貫し、滅びることはない
ということです。

自由民主主義という単一のイデオロギーをここまで支持するのは、もちろん理由があります。

ハンチントンによると、自由民主主義が優れている理由の一つは、国内で大きな政治問題があった場合に最も柔軟に対応できるのが、自由民主主義国家だからということです。

なぜなら、自由民主主義国家は、普通選挙によって問題のある政党を政権交代させることができるため、国家全体が破滅することがないからです。

しかし、「それでも、共産主義に代わる別のイデオロギーが登場する可能性があるのでは?」と思われるかもしれませんが、これもフクヤマはないと考えました。

なぜなら、イデオロギーは歴史上、その他のイデオロギーと対抗し、互いに吸収・止揚してきて、その最後のイデオロギー闘争だったのが「共産主義VS自由民主主義」だったからです。

対立するイデオロギーの止揚を繰り返した結果、最後に残ったのが自由民主主義なのだから、今後対抗する概念が登場することはないのだ、とフクヤマは主張しました。

さらに、自由民主主義は他のイデオロギーに比べて経済発展に貢献すると考えました。

フクヤマは、シーモア・M・リプセット(Seymour Martin Lipset)の説に同意し、安定した民主主義と経済発展には強い相関関係があると考えました。

しかし、高度な経済発展は自由民主主義だけでなく、開発主義的な権威主義国家(国家が強く経済を統制し経済成長させる中国などアジアに多く見られる体制)にも行き着く可能性があります。

これに対し、フクヤマは確かに短期的には開発主義国家が発展するが、長期的には結局自由民主主義国家の方が発展するのだと考えました。

なぜなら、権威主義的国家は利益団体が政治と癒着し、国家が非効率な産業を保護することにより、経済発展が遅れるようになるからです。

そのため、結局は自由な経済活動が認められ、国家が経済に介入しない、自由主義的な民主主義国家が優れている、というのがフクヤマの主張です。

フクヤマは、ヘーゲルの「最初の人間(他人に認められるために、命を脅かすような行動すら行う)」に対して、「最後の人間(何かを犠牲にする覚悟はないが、承認を求めて衝動的に行動する)」という人間観を主張しました。

ヘーゲルが唱えた「最初の人間」は、名誉のために生存本能に反した闘争を行い、その勝敗が階級社会を生んだ(それが「歴史の始まり」だった)という議論です。

これに対して、フクヤマの「最後の人間」は、ニーチェ哲学の概念で、
最初の人間のような名誉を求めて闘争するような勇気は持たないし、命を懸けて行動するような覚悟もない。しかし、承認を求めて衝動的に行動してしまうのだ
と考えました。

例えば、現代においても天安門事件やタハリール広場、またテロ活動のように、命を投げ出して行動する人々がいます。これを認知を求める闘争と言います。

自由民主主義が優れているのは、この「認知を求める闘争」に寛容だからです。

共産主義は、この個人への認知を与えず、人々を画一的に扱います。そのため、共産主義は政治を動かすエネルギーを失い、崩壊してしまったのだ、とフクヤマは主張します。

フクヤマは、このような人間観に基づいて、歴史を、
  • 人間の「認知を求める闘争」であり、イデオロギー闘争である
  • 多様なイデオロギーが自由民主主義に向かって弁証法的に発展していったものである
と考えました。

よく考えてみてください。

なぜ戦争は、何百万人も殺戮し国土を灰にしてしまうほど苛烈になってしまうのでしょうか?また、冷戦期のように地球を何度も滅ぼせるような兵器を作ってしまうのはなぜでしょうか?それほどのエネルギーがあるのであれば、産業の発展に投資して経済成長させた方が良いとは思いませんか?

しかし、このように合理的に行動できないのが人間の本性なのだ、とフクヤマは考えました。

フクヤマは、それが人間の本性である「認知を求める闘争」だと考えます。人間は、「自分のことを知って欲しい!」という「認知」をモチベーションにして行動し、その結果として歴史が発展するということです。

この人間本性があるからこそ、人間は時に非合理的な行動をとりそれが歴史を動かしていくのです。

つまり、合理的選択ではなく、精神的なもの(=イデオロギー)が歴史を発展させ政治を動かすということです。

このように、フクヤマは歴史をイデオロギーの闘争としてとらえたのですが、さらに歴史を「自由民主主義に向かって弁証法的に発展する」ものだとも考えました。

このように言うと、

「ヘーゲルやマルクスが行った古い議論では?」

「アメリカの価値観を最高のものと考える自民族中心主義では?」

と思われるかもしれません。

しかし、フクヤマの考えはそうではありません。

上で解説したような理由から、自由民主主義は他のイデオロギーに対して客観的に優れたものだと考えられるし、事実、自由民主主義体制の国家は増えています。アメリカが太平洋戦争における日本や、冷戦におけるソ連に勝利できたのは、自由民主主義という普遍的なイデオロギーを持っていて、国民の支持を得ることができたからだ、とフクヤマは考えました。

そのため、イデオロギー闘争は自由民主主義の勝利によって終結し、イデオロギー闘争という歴史は終わったのだ、と主張したのです。

しかし、フクヤマは自由民主主義の勝利によって生まれる問題点も指摘しました。

それが以下のものです。
  • 歴史が終わることで人々は闘争する理由を失い、歴史を発展させるエネルギーを失ってしまう
  • 自由民主主義の浸透によって共同体的な価値観が崩れ、「人間の尊厳は何によって構成されているのか?」ということについて合意できなくなる
こうした『歴史の終わり』において行われたフクヤマの議論は、その後批判されるようになりました。

冷戦終結によって、確かに自由民主主義がイデオロギーとして勝利しましたが、その後大きく経済発展したのは、中国をはじめとする開発主義的・権威主義的体制のアジアの国家だったからです。

アメリカより統制的な経済体制であったり、そもそも民主主義でもない国家が大きく成長したのです。

また、『歴史の終わり』的に自由民主主義が唯一のイデオロギーだと考える思想は、アメリカの価値観を普遍的なものと考え、それを国際政治に介入する理由にするネオコン的な思想にも繋がります。

こうした理由から『歴史の終わり』は厳しく批判されたのです。

とはいえ、フクヤマの議論後には「イデオロギー闘争の終焉」に関する議論が行われ、特にフクヤマの師匠であるハンチントン『文明の衝突』は有名です。

それに、体制としては開発主義的国家が成長しましたが、それらの国家が普遍的なイデオロギーを生んでいるとはいえず、依然として自由民主主義が世界で普遍的で理想的なイデオロギーと考えられています。

この点で、フクヤマの議論はすべてが間違っていたとは言えませんし、その後の議論を生んだ点意義があるものだったのです。

ソ連崩壊後も、世界には戦争が絶えませんでした。そうして、現在はロシアがウクライナに侵攻しています。

フランシス・フクヤマ氏は、ロシアのウクライナ攻撃が始まった直後の2月26日、台湾の大学が開催したオンライン講演で力を込めて語りました。 

フランシス・フクヤマ氏

「ロシアのウクライナ侵略はリベラルな国際秩序に対する外部からの脅威であり、全世界の民主政治体制は一致団結して対抗しないとならない。なぜならこれは(民主体制)全体に対する攻撃だからだ」 

『歴史の終わり』の趣旨からすれば、今回のウクライナ出兵は予想外のものであり、民主主義の拡張と経済相互依存が世界を支配するという未来への想像を打ち砕くものでした。 

ただ、フクヤマは2015年ごろから主張を修正し、中国による科学技術を駆使した高いレベルの権威主義体制には成功のチャンスがあり、「自由主義世界にとって真の脅威になる」とも述べていました。 

フクヤマは今回の講演のなかで、台湾に対する中国の武力行使は、近年の国際環境の変化とウクライナ情勢によって「想像できない事態から想像しえる事態になった」とし、ウクライナと比べると台湾は自ら戦う決意が弱いように見えており、「もしも自らのために戦わなければ、台湾は米国が救いにくると期待することはできない」と述べました。これは台湾への叱咤激励であり、警告でもありました。 

台湾の世論調査では、6割以上の人は台湾が侵略を受けた場合は武器を取って戦うと答えています。一方、台湾社会は、世界が心配するほどには、中国の武力行使を不安視しない傾向がありました。

ウクライナ戦争で新たに焦点となった問題で、中国が攻撃した場合に米軍が台湾を支援するかどうかという長年の議論があります。これについて米国は「戦略的あいまいさ」で明確な回答を示していないです。

与党民進党で国防・外交委員会の委員を務める羅致政議員は、米政権が先週、ロシアのウクライナ侵攻直後に元政府高官のチームを台湾に派遣したことについて、米国は当てにならないという考えを払拭する狙いがあったと主張しました。

「海峡の向こう側と台湾の人々に、米国は信頼できるというメッセージを送った」と、党のポットキャストで8日に述べました。

半導体の主要生産国である台湾は、その地理的、サプライチェーンの重要性から、ウクライナとは異なることを望んでいます。

しかし、バイデン政権は繰り返しウクライナへの派兵を否定しており、台湾の一部では不安も広がっています。

かつて大陸委員会副主任を務めた台湾・中国文化大学の趙建民氏は、「台湾の人々は本当に欧米諸国が助けに来てくれると思っているのだろうか」と疑問を呈しました。

フランシス・フクヤマ氏の主張するような、「歴史の終わり」はいつか来るのかもしれません。ただ、現状はまだ歴史は終わっておらず、少なくともここ数十年くらいは来そうにもありません。

であれば、我が国日本も、それを前提として行動しなければなりません。産経新聞の記者の阿比留瑠比氏が、興味深いツイートをしていました。

これが多くの高校生の典型的な反応だとは思いたくありませんが、日本では自由主義が隅々まで行き届き、フランシス・フクヤマ氏がいう「最初の人間(他人に認められるために、命を脅かすような行動すら行う)」はいなくなり、「最後の人間(何かを犠牲にする覚悟はないが、承認を求めて衝動的に行動する)」ばかりになっているとしたら、恐ろしいことです。

彼らには、逃げた先に何が待っているのか、そうして逃げた後の自分たちの町や、学校がどうなるのか、想像もつかないのかもしれません。

ロシアがウクライナに侵攻した今日、中国、ロシア、北朝鮮などの全体主義国家に囲まれている日本は、いつ戦争に巻き込まれるかなどわかったものではありません。

ウクライナで苦戦しているロシアをみた中国は、最初に軍隊を海上輸送して、それで制圧して占領するなどという行動をとらないかもしれません。

極端なことをいうと、最初に、自分たちの役に立つと思われる、工場や、研究開発施設などは外して、そのほかの人口密集地や米軍の基地や、自衛隊の基地等に戦術核を打ち込み、さらにサリン等を撒いて、大量に人々を殺傷して、その後に軍隊を送り込むなどということをするかもしれません。

これに対して米国は反撃するでしょうか。あるいは、自らの危険を顧みずに、日本のために、中国に対して核攻撃をするでしょうか。それは、確かであると誰も確信を持っていうことはできないと思います。

そうなった場合、どこに逃げて、どこで生活の糧を得て、どこでどのような生活するというのでしょうか。どこに逃げようと、現在普通に思われているような生活が、まったく崩壊してしまうだけではなく、命の危機さえあるのです。

ドラマ『日本沈没 希望のひと』より関東沈没のシーン

昨年「日本沈没 希望の人」というテレビドラマが放映されていました。私は、Tverで見ましたが、日本の沈没することが明らかになった後に、日本政府は世界中に日本人の町をつくることを世界中の国々にお願いしていました。そうして、その中には中国もありました。

そうして、いずれの国に行くかは、自ら選べず政府の抽選になるというストーリーでした。自分が、その場にいたらどうするだろうかと考えました。そうして出した結論は、中国に行くことが決まったら、自分はそれを拒否して、日本に残るだろうとと思いました。

中国などに行けば、ウイグル人やチベット人などのジェノサイドが行われていますし、ゼロコロナ政策などで、漢族ですらもかなり迫害されているのですから、日本人である自分が行けばどうなるかなど、容易に想像がつくからです。

そのような悲惨な目にあうくらいであれば、自分はそのまま日本に残るだろうと思いました。

 そうして、このドラマは意外な方向に展開しました。日本は予想どおりに沈没したのですが、何と九州と北海道は残ったのです。

これは、ドラマの話なのですが、それにしても、自分がこのドラマと同じ状況におかれていたとしたら、私が現在住んでいるのは札幌ですから、これは大正解だったことになると、思いました。

まさに、「希望の人」になることができるのです。中国に行ってでも、当座の命を守りたいのか、日本に残って、たとえ生命を失ったとしても日本と運命をともにするかは、個々人の価値観によるでしょうが、それにしても中国に行けば何の希望も持てないでしょうし、命の危険にもさらされることになるでしょう。

しかし、日本の残ったこと、それも運良く北海道に残れば、次の希望が持てるということです。このようなことは現実の世界でもあり得ると思います。人は貧乏であれ、たとえ危険であったにしても、先に希望が持てれば、苦難や自らの死の危険をも乗り越えていくこともできますが、希望を失えばすぐに活力を失います。

日本人は自由民主主義を守るために、「最後の人間」ではなく「最初の人間」になることを選ばざるをえない局面もあるということを認識すべきと思います。そうして、現在の自由主義体制が他国によって奪われたら、どのような運命が待っているのか、想像力を養う教育も欠かせないと思います。

日本人にとっても、自由民主主義は守り抜く価値があるのです。それには、上で述べたようなことを知らなくても、想像力を働かせれば、誰にでも理解できるはずです。

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2022年4月7日木曜日

中国による侵攻への準備を見せる台湾の離島軍事演習―【私の論評】台湾の大繁栄とロシアのウクライナ侵攻の大失敗が、習近平の企みを打ち砕く(゚д゚)!

中国による侵攻への準備を見せる台湾の離島軍事演習

岡崎研究所

 3月16日付のロイター通信が、台湾が馬祖列島の東引島で実弾演習を最近実施したことを取り上げ、その背景と東引島の戦略的意味を解説する記事を出している。


 3月16日、台湾国防当局は、台湾の最北端に位置する離島・東引島(Dong In Dao)で軍事演習を行ったことを公表した。台湾国防省は、台湾対岸の福州沖にある金門島、馬祖島に近接した東引島での演習は「通常業務」であったと述べている。

 この演習は、ロシアのウクライナ侵略後に中国がロシアと同様の動きをすることを警戒して、台湾国防当局が行った軍事演習であったにちがいない、とロイターの解説記事は述べているが、その通りだろうと思われる。

 ウクライナへのロシアの侵略が、中国の言う「一つの中国」の原則に如何なる影響を及ぼすことになるのか予断しがたい面はあるが、今回の軍事演習は蔡英文政権下において中国解放軍に対する警戒心が強まりつつあることの具体的現れの一つとみるべきだろう。

 金門島、馬祖島はもともと、第二次大戦後、国民党政府軍が大陸を追われ、台湾に亡命政権をつくった頃より、台湾政府が全島を要塞化してきた島嶼である。なかでも東引島は馬祖島列島の北部に位置し、対岸の福州に近く、1950年代から台湾防衛の最前線に当たってきた。

 東引島の軍隊は台湾の自作の対艦ミサイル(Hsiung Feng〈雄風〉II)、地対空ミサイル(Sky Bow〈天弓〉II)を装備しており、「最も戦略的に重要な」離島になっている、という。約1500人の一般市民が住むこの島は、中国が台湾を攻撃する場合、東部の浙江省から南に向かう中国軍にとって、重要な通路に当たる。

 中国の人民解放軍が台湾を攻撃する場合、「東引のミサイル基地は最初の標的の一つになるだろう」というのが、台湾の軍事専門家の見方であるという。「この島は台湾海峡北部の支配の鍵」と言われる所以だ。

 2月4日の北京オリンピックの開会に際し、プーチンと習近平は北京で首脳会談を行い、中露共同声明を発出した。この共同声明は、相互に「核心的利益」なるものを支持しあっている。すなわち、ロシアは「一つの中国の原則」を支持すると述べ、「台湾は中国の固有の領土」であり、如何なる形であれ台湾の独立に反対することを確認する、と述べた。そして、ウクライナの名前は明記しないまでも、中露双方は「北大西洋条約機構(NATO)の拡大に反対する」と書き込んだ。

 さらに、「中露両国の友情に限界はなく、協力に禁止区域はない」、とも記述した。その際、プーチンがウクライナへの軍事侵攻をどの程度具体的に習に話したかわからないが、この共同声明から見る限り、中露両首脳にとって、ウクライナへの侵略行為と台湾への行動という二点は連動していることが明白だ。

それでも、台湾侵攻は起こり得る

 ロシアのウクライナへの侵略行為はいつ、どのように終結するのか。習近平から見れば、ロシアの侵略行動の結果、ウクライナが短期間に降伏するのであれば、台湾についても中国は同様に、これを好機とみて、あまり時間を空けずに台湾併合への行動をとることを考えたかもしれない。しかし、プーチンの誤算はいまやだれの目にも明らかだろう。プーチンやロシアに科された経済上、軍事上その他の制裁措置から見て、習近平としても今の状況下で、台湾併合への具体的動きを取れば、結果的に世界の多くの国々を敵にまわす可能性が出てきたことに内心衝撃を受けているかもしれない。

 かといって、中国共産党にとって「核心的利益」たる台湾統一へのスローガンを放棄することもありえないだろう。このような状況下において、台湾当局としては、「台湾関係法」をもつ米国の支援に期待しつつも、いざとなれば、自らが可能な限り自らを守るための準備を行わなければならない、という厳しい現実に直面している。最近の東引島における台湾の軍事演習はそのための準備の一例を示すものに他ならないと考えられる。

【私の論評】台湾の大繁栄とロシアのウクライナ侵攻の大失敗が、習近平の企みを打ち砕く(゚д゚)!

東引島といっても、地理的にピンと来ない方も多いでしょうから、以下に地図を掲載しておきます。下の地図で、馬祖列島はすべて台湾領です。金門島も台湾領です。廈門は、中国福建省に属します。馬祖列島といい、金門島といい、台湾ではなく、大陸中国にかなり近いことにあらためて驚かされます。


台湾の呉ショウ燮(ゴ・ショウショウ) 外交部長(外相)は「中国の “台湾侵攻”費用は、ロシアのウクライナ侵攻より、費用がかなりかかるだろう」という警告のメッセージを発しました。

呉外交部長は、きのう3日報道された英国日刊紙“ザ・タイムズ”の日曜版“サンデータイムズ”とのインタビューで「台湾と中国の間には海があり、台湾が全世界のハイテク供給網において重要な役割を果たしているという点などを根拠に、先のように語った」と“自由時報”など台湾メディアがきょう(4日)伝えました。

呉外交部長は「中国がロシアのウクライナ侵攻を見守りながら、台湾への侵攻能力と国際社会の反応について再評価した可能性が高い」と語りました。つづけて「引き続き、非対称戦略の発展と全民防衛能力強化に力を注ぐと同時に、米国などの国々と安保対話を続けていく」と語りました。

また「ロシアのウクライナ侵攻後、ジョー・バイデン米大統領は歴代の高位官僚たちで構成された代表団を台湾に派遣し、台湾への支持を示してくれた」と強調しました。 呉外交部長は「中国はこの1年の間、1000機ちかい軍用機による “台湾防空識別区域(ADIZ)への進入”というグレー地帯戦術以外にも、これまでとは異なる情報戦・認知戦(cognitive warfare)などの安保脅威を行なっており、このような経験をヨーロッパ諸国と積極的に共有している」と語りました。

台湾呉外交部長

一方、米国の外交専門誌“フォーリン・ポリシー(FP)”は「米ウィリアム・アンド・メアリー大学の教授・研究・国際政策(TRIP)プロフェクトが、昨年5月からことし3月までに平均800余人の国際関係学者を対象に調査した結果、『中国は台湾に侵攻しないだろう』という回答が70%を占めた」と報道した。 また「もし中国が台湾に侵攻すると仮定した場合、90%以上は『対中制裁に賛成する』とし、80%は『台湾への軍事支援拡大を支持する』と答えた」と伝えました。

私は、このブログでは、中国による台湾侵攻はしばらくはないだろうということを主張してきました。そのため、この調査結果十分に頷けるものです。

中国軍の資料などから、中国軍は最初にミサイルで台湾沿岸部を狙い、空港や通信施設、レーダー設備、物資輸送の結節点、政府機関などを重点的に攻撃し、その後、大規模な上陸作戦を展開する計画だとされています。

しかし、近年の研究で、台湾や米国、日本は中国が攻撃を始める60日余り前に攻撃準備の情報を把握できると見積もられています。台湾侵攻程度の大作戦になれば、その全貌を隠し果せることなどできません。

この期間中に、台湾は軍の指揮・管制施設を山中に移転させたり、海中に機雷を仕掛けたりするなど、中国の侵攻に備えることが十分できます。

さらに、台湾の地形からいっても、中国軍が上陸しうる場所は台湾西部に13カ所しかありません。さらに、台湾の沿岸部の街には化学工場が多くあり、ここをミサイル攻撃すれば、中国軍は有毒ガスの脅威にさらされる可能性があります。

中国軍が上陸に成功したとしても、台湾各地の都市やジャングルに散らばる250万人の予備兵と戦う必要があります。中国は、海上輸送力が脆弱であり、一度に輸送できる部隊は、10万人以下の数万単位です。中国には空挺部隊もありますが、その規模は3万人です。

そうなると、中国は最大でも一度には10万以下の部隊しか台湾に送り込むことかできず、これは台湾軍に逐次撃破されてしますます。

それに実際に中国の台湾侵攻がはじまりそうになれば、日米やEUも台湾に支援を行うでしょう。支援だけではなく、日米が軍事的にも介入した場合、このブログでも何度か主張したように、日米は中国よりも圧倒的にASW(対潜水艦戦闘)力に優れているため、台湾を攻撃する艦船のほとんどは台湾に到着する前に撃沈されてしまうことになります。

それでも中国が甚大な被害を受けても陸上部隊を台湾に上陸させたとしても、米国が台湾を複数の攻撃型原潜で包囲した場合、台湾に近づく補給船や、航空機はことごとく破壊され、台湾に上陸した部隊への補給が途絶え、上陸部隊はお手上げになってしまいます。

ただ、ロシアのウクライナ侵攻についても、多くの識者が「ありえる」と予想していた一方、多くの軍事専門家は、ロシアがウクライナ全土を制圧するのは不可能とみており、そのため侵攻もないだろうし、あったとしても東部一部だけだろうと見ていたのも事実です。

ロシアは東部ドネツクだけではなく、首都キーフやハリキウおよび南部にも侵攻しました。しかし、当初の予想通りかなり苦戦しています。この点プーチンには何らかの誤算があったものと考えられます。

習近平が何らかの誤算をすれば、プーチンと同じように、台湾に武力侵攻する可能性はあります。そうなると、習近平も台湾侵攻でかなり苦戦することになるでしょう。最終的には、軍事目的を達成できずに終わる可能性が高いです。しかし、それでも台湾に被害が出るのは間違いなく、やはり最初から習近平が台湾に軍事侵攻させないようにするべきです。

中国は米国が同盟国との一枚岩を誇示することに激しく反発し、日本については米国の「奴隷」、カナダのトルドー首相については米国の「走狗」と強く批判しています。

西側の結束のほころびを誘おうと中国が練っているのは、米国の同盟国に対して個別に中国と関係を強めるよう働き掛けることです。まず、経済的なメリットを提示し、それでも反中国の協調行動から手を引かないなら、懲罰を与えるという戦略です。

新疆問題で中国の当局者に制裁を科したEUに対しては、不相応なほど厳しい対抗措置を講じており、EUが待望の末にようやく大筋合意した投資協定が破棄される恐れもあります。

民間シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)のアジア・プログラム・ディレクター、ヤンカ・エルテル氏は、中国政府は米国とEUの連合によって核心的利益を脅かされるのであれば、EUとの経済利益は犠牲にする覚悟だとみています。

そうしたメッセージを強調するかのように、習近平氏は最近、ドイツのメルケル首相(当時)との電話会談で、EUが自らの「独立性」に関して正しい判断をするよう望むと伝えました。

ただ、中国はなおも欧州の技術や投資が必要であるのは間違いないです。中国の技術力は進んだとされている一方で、中国は自身の力では、欧米の一歩先を行くことはできても、その先へ進むことはまだできません。一方欧米は、自力で何歩も先へ進み、それどころか、現状の技術力とは断絶したような新しい領域にまで自力で到達することができます。

平たくいうと、中国は今まで聞いたもの見たものの発展系は創造できますが、今まで聞いたことがない、見たことがない領域には踏み込めません。それは、中国には平和賞や文学賞を除いてノーベル賞受賞者がいないことをみても理解できます。

そのため、中国は、中国と競うよりは手を組む方が得だと米国を納得させるのをあきらめたわけではないようです。これは先週に米国のケリー気候変動問題担当特使に対し、22─23日に米国が主催する気候変動サミットに関し、中国として支援する姿勢を見せたことからもよく分かる。

米国が中国を敵とするより友人扱いする方が、米国の利益になると認められるようになることを中国は願っているようです。

ただ、プーチンと同じように勘違いして、台湾に武力侵攻すれば、その道は閉ざされることになります。

日米及びその同盟国は、プーチンが誤算して、ウクライナに侵攻したように、習近平が誤算して台湾に侵攻しないように策を巡らすべきでしょう。

そのためには、中国が軍事的に台湾に侵攻すれば、どのようなことになるかを知らしめるのも一つの方法だと思います。だからこそ、私はこのブログで、中国が台湾に軍事侵攻すれば、大失敗するであろうことを主張してきたのです。

中国の台湾侵攻を懸念するのは悪くはないとは思いますが、それが度が過ぎて、多くの人が、中国が台湾に侵攻すれば、いともたやすく台湾を負かして、台湾を占拠できると思い込めば、それは中国を利することにもなりかねません。本当に台湾の軍事力がその程度でならいたしかありませんが、そうではないことを周知するのは正しいことだと思います。

中国人民解放軍海軍陸戦隊

世界は台湾対して軍事だけではなく、経済的にも支援すべきでしょう。特に経済的には、ただ資金を提供するだけではなく、台湾が経済的にも社会的にも繁栄するような様々な支援をすべきです。

台湾が繁栄し、高度な社会を築き、文化的にも繁栄すればするほど、大陸中国の人々は自分たちの体制が間違いであることに気づき、やがて中共は内部から崩壊するでしょう。

そうして、もう一つの方法としては、世界は、ロシアのウクライナ侵攻は、誰が見ても完璧な失敗だったということを中国に思い知らせるべきです。そのためにも、世界一致協力して、ロシアのウクライナ侵攻を是が非でも大失敗に導かなければならないのです。


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2022年4月6日水曜日

民間人殺害、まず調査を 中国がEU外相の批判に反論―【私の論評】ウクライナ危機は前哨戦か?最悪中露印との連合軍との戦いも!自衛のための核保有も議論せよ(゚д゚)!

民間人殺害、まず調査を 中国がEU外相の批判に反論

中国外務省の趙立堅副報道局長

 中国外務省の趙立堅副報道局長は6日の記者会見で、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどでロシア軍の撤退後、民間人とみられる多数の遺体が確認されたことについて、「中国は民間人の被害に重大な関心を寄せている。事件の真相と原因を調査しなければならない」と指摘した。ただ、「調査の結論が出る前に、ゆえなく責め立てることは避けるべきだ」とも述べ、ロシアに対する糾弾に同調しない考えを強調した。

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 一方、欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は5日の欧州議会で、1日にオンライン形式で開いた中国との首脳会談に関し、「中国のリーダーはウクライナについて話したがらなかった」と中国側の姿勢を批判した。これに対し、趙氏は6日の会見で「会談は成功裏に行われた。事実に符合しない、無責任なコメントはすべきでない」と反論した。

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今回のウクライナ侵攻で、「中国がどう出るか」ということがかなり注目されていますが、いまのところ、よくわかりません。安保理の会合ではロシアに同調しているような感じはします。

最初は中国は、ロシアに武器を供与するという話もありました。しかし、それもいまは進んでいないので、様子を見ていると考えられます。 

中国は、これだけロシアが国際社会のなかで孤立しているのを見て、あまりそこに引き摺り込まれたくないという考えはあるのでしょう。ただ、中国には『唇滅びて歯寒し』ということわざがあります。

歯にとって、唇は盾のようなものです。ロシアがいなくなり、中国だけが欧州や米国と対立しなければいけなくなると厳しいので、ロシアがいてくれた方が少しは助かるという。そういう微妙な気持ちもあるようです。

中国にとっては、ロシアはないよりはあった方が良いのです。

現在のロシアは経済的には極めて脆弱です。GDPの規模は韓国を若干下回ります。一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回り、中国と同程度ですが、人口が韓国よりも多いので、それで韓国なみになっています。

ロシアの人口は、1億4千万人で、中国のそれは14億人で丁度10倍です。一人あたりのGDPでは中露はほぼ同じですが、人口が10倍なので、国単位では中国のGDPはロシアの10倍です。ロシアの輸出産業といえば、天然ガス、石油、小麦くらいしかなく、かなり脆弱な国です。

ただ、旧ソ連の核兵器と軍事技術を継承しているため、軍事力は突出しています。ただ、その軍事力ですら、現状では軍事費はインドを下回り、米国、中国などに遠く及びません。真の軍力としてはどの程度なのかは、未知数扱いにされるようになってきています。 一方で、中国は経済的には、未だロシアよりは極めて強いです。GDPも米国を抜く勢いなどといわれていますが、一人あたりのGDPからいけば、中国が米国を追い越すことは、しばらくはあり得ないものの、国全体としてはそういうこともあり得るわけで、そうなると、そのうちロシアは中国の属国になりかねないという見方もあります。

先日、政治学者で立命館大学教授の上久保誠人さんが、『ダイヤモンド・オンライン』に寄稿していました。
『中国がロシアを飲み込み「モンゴル帝国」再出現?日本の難しい舵取り』~『ダイヤモンド・オンライン』2022年4月5日配信記事 より
中国が台頭し、ロシアを飲み込めば、モンゴル帝国の再出現するのではないかという内容です。これは、まさに「タタールのくびき」ですね。ユーラシア大陸が中国中心に再構築されて、ロシアはそこにぶら下がるだけの国になる可能性があるというのです。

ロシアからすると、それは嫌でしょう。キプチャク・ハン国はロシアに圧政を強いましたから、ロシアにとっての黒歴史そのものです。 そうは言いつつ、プーチン政権が続く限りは西側の制裁は終わらないです。しかも、プーチン大統領が自らすぐに身を引くとは思えないので、制裁が長く続けられことになるでしょう。そうするとロシア経済が低迷し、崩壊するでしょう。


今回のブチャ虐殺で、欧州がロシアから天然ガスを輸入しないという方向に舵を切りつつあります。そうなると、輸出先は中国しかなくなってきます。また、VISAやMastercardが使えなくなっているということで、銀聯(UnionPay)カードという、中国のクレジットカードがロシアで使えるようになるのではないかという話もあり、ロシアが中国経済的な枠組みのなかに取り込まれていく可能性はあります。

銀聯(UnionPay)カード

そうなると、一帯一路を中心として、中東諸国がどこまで中国に飲み込まれるかということになります。 明らかに「ロシア・中国対西側」ではなく、中国が盟主になるということです。

ユーラシアの一帯一路を軸にして、そうなる可能性は大きくなりつつあります。 地政学の基本に立ち返れば、ランドパワーとシーパワーの対立ということも考えられます。

今後世界は新冷戦に入るという話もありますが、中国の現状がかつての米ソ対立と違うのは、ソ連は経済的にも駄目になって、今や韓国より若干少ない程度で、ある意味、ロシアはもはや自壊した帝国になってしまったということがあります。しかし、中国の経済がすぐロシアなみに衰退する可能性は、現時点でほとんどありません。

 ただ、中露の結びつきは強く、強固なサプライチェーンを構築しています。 半導体でいえば、例えば台湾に侵攻して、台湾が制圧されれば、世界の半導体シェアの多くを中国が握ることになります。

もちろん、半導体の素材は日本が供給している部分も大きいので、必ずしも中国だけが供給できるというわけではないのですが、世界経済に対する影響力は極めて強くなります。 飯田)そうですね。 

ロシアによる今回のウクライナ侵攻は大変な事態なのですが、これは後世から見ると、「前哨戦だった」ということになるかもしれないのです。実は「中国対西側」というのが最大の主戦場になる可能性は極めて高いですし、この事態がどういう結末を迎えるのか、現状では全く検討もつきません。

ただし、このことは米国も強く意識していて、このブログにも以前掲載したように、米国は中国の対立を優先する旨をはっきりさせています。バイデン政権の初の「インド太平洋戦略」においては、「ロシア」という言葉は一言もでてきません。

そうして、米国はいずれ「中国対西側」という対立軸で、ロシアを実質的に飲み込んだ中国との対峙がもっとも重要とみているのでしょう。

3月2日の国連総会の「ロシア非難決議」に141カ国が賛成しましたが、インドは棄権しました。米国との関係は冷え込み、使用している武器の多くもロシア製です。中国との仲はかなり悪いのですが、経済制裁に対抗する形でロシアと中国が近づけば、3国が大同団結する可能性を否定できないです。


ロシアは米国を上回る数の核を保有します。中国の国内総生産(GDP)は世界第2位だ。ここに近い将来に人口が世界1位になると見込まれるインドが加わると人口30億人規模の勢力になります。これは、規模で言えば「モンゴル帝国」を上回るかもしれません。

 バイデン政権の経済制裁は、これらの国々に「米国中心の金融・経済システムは安全保障上危険だ」という恐怖を与え、軍事面だけではなく経済、金融システムにおいても団結を強めさせる恐れがあります。

その点、トランプ政権が中国を貿易戦争で攻めて、ロシアとの友好関係は維持し、両者を分断しようとしたのは正しかったといえるでしょう。 中印露の3カ国が結束することは、日本の安全保障においても脅威です。

ロシアは日本の経済制裁を理由として「平和条約締結交渉の打ち切り」を宣言しました。中国が尖閣諸島や台湾に侵攻したときにロシアが中立を保つと考えるのは期待薄です。それどころか北方領土にミサイル基地を建設する可能性さえ出てきました。

不幸にも日本はロシア、中国、北朝鮮に囲まれており、彼らが結束した場合のリスクはかなり大きいです。 日米安全保障条約は「片務契約」で、米国は日本を守るために戦いますが、日本は米国を守るためには戦う必要がないです。

ところが、実際に中国が尖閣に侵攻したときに、米国は第三次世界大戦のリスクを犯してまで日本を守るでしょうか。ウクライナで派兵をしない米国が、日本には在日米軍が存在するから、日本はウクライナと違って同盟国だからといって、尖閣での闘いに参加するでしょうか。

そこからさらに沖縄、さらに本土に手を出してきた場合、核保有国である中国と真正面から闘いを挑むでしょうか。

おそらく、挑むとは思います。ただ、今後世界情勢はどんどん変わっていきます。現在の米国の姿勢がいつまで続くかなど保証の限りではないのです。 ウクライナ危機は、明日の日本の危機でもあります。核共有の議論はもちろんですが、本来憲法上は問題がないはずの「自衛のための核(独自)保有」も議論しなければならないほど切迫した状況になりつつあるといえます。

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 ウクライナ侵攻は「戦争犯罪」 松野長官


松野博一官房長官

 松野博一官房長官は5日の記者会見で、ロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪人」と批判する声が国内外から上がっていることに関して、「わが国も戦争犯罪が行われたと考えられることを理由に、ウクライナの事態を国際刑事裁判所(ICC)に捜査を付託した」とする政府の立場を説明した。

 松野氏は「無辜(むこ)の民間人に対する(ロシアによる)極めて凄惨な行為が繰り広げられていたことが次々と明らかになっている。民間人殺害は国際人道法違反で断じて許されず厳しく非難する」と重ねて表明した。

 プーチン氏をめぐっては5日、自民党の茂木敏充幹事長が「民間人を殺害することは断固として許されるべきではない。国際人道法に違反する。定義にもよるが、戦争犯罪者と呼んでもいいのではないだろうか」と語った。

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プーチン氏は戦争犯罪人である可能性が高いことについては、昨日もこのブログで掲載しました。これは、誰でもそう思うでしょう。

そうして、昨日もこのブログで主張したように、戦争犯罪は国際法に照らして、裁かれるべきです。

プーチン

ただ、そのことと、これから先に戦争が起らないようにすることとは、別次元の問題です。

経営学の大家ドラッカー氏は平和について、以下のように語っています。

われわれが平和を手にする日は、旅を終える日でも始める日でもない。それは馬を替える日にすぎない。(『産業人の未来』)

ドラッカーがこれを書いたのが、1941年、米国に移り住んで四年目、チャーチルの激賞を得た処女作『経済人の終わり』刊行の2年後でした。

結局は、米国もこの戦争(第二次世界大戦)に参戦するだろう。そして勝つだろう。しかし、政府統制的、国家総動員的なことはいっさい行ってはならない、勝つための一時のこととの触れ込みで始めても、必ず永続してしまうから。おまけに産業力がものをいう戦争においては、自由で創造的な産業活動のほうが優れているに決まっているではないか──という趣旨です。

そうしてドラッカー氏は以下のようにも語っています。

機能する自由な産業社会を実現するうえで最も重要でありながら最もむずかしく思われることは、明日の社会と政治にとって、自由こそが決定的に重要な問題であることを認識することである。(『産業人の未来』)

この自由を追求しようというのが、日本も含めた自由主義諸国です。一方、世界には中露、北朝鮮、イランなどのように全体主義的な国々も存在しています。

われわれが平和を手にする日とは、第二次世界大戦の終了を意味するのでしょうが、その後にドラッカー氏は「旅を終える日でも始める日でもない。それは馬を替える日にすぎない」としています。

ドラッカー氏

この言葉は、見事に的中しました。第二次世界大戦が終了してから、今日まで紛争・戦争はたえず、今般は国連安保理次回で拒否権を持つロシアが、ウクライナに侵略をしています。

この戦争はいずれは、終焉を迎えることでしょう。しかし、それとて、われわれが平和を手にする日は、旅を終える日でも始める日でもない。それは馬を替える日にすぎないのです。

新たな馬とは、それは新たな世界秩序と言い換えても良いと思います。そうして、自由こそが決定的に重要なのです。今回のウクライナ戦争の後には、ロシアは自由化されるか、されなければ、世界から隔離されることでしょう。しかし、世界に中国など全体主義体制の国があります。これをどうするかが、大きな問題となるでしょう。

第二次世界大戦終了後の世界秩序は大きく変わりました。にもかかわらず、国連憲章にはまだ中華民国、ソビエト連邦という文言が残り、中華人民共和国とロシア連邦がその継承者として、常任理事国の地位を引き継いでいます。

第二次世界大戦後、いくつもの大きい戦争があったにもかかわらず、世界は馬を乗り換えることもなく第二次世界大戦直後の秩序にしがみつき、それを前提として、国際連合を運営してきました。そのためもあり、今日ロシアのウクライナ侵略に対して、何らの有効な手を打つこともできず、機能不全に至っています。

そうして、それは日本も同じです。未だに防衛費の1%枠にこだわり、核シェアリングの議論さえ禁忌とされています。これでは、世界も日本も、新しい馬に乗り換えることはできません。一日でもはやく、新しい馬に乗り換えるべきです。

そうして、ロシアのウクライナ侵攻という出来事の後では、世界も日本も状況が変われば、すぐに新しい馬に乗り換えられるようにすべきです。そのための、国際組織の革新は今回のウクライナ戦争の後の緊急の課題です。これを過去のように疎かにすれば、第2、第3のウクライナ戦争が勃発します。それどころか第3次世界大戦すら起きかねません。

さて、ドラッカーは、「自由こそが決定的に重要な問題」としていますが、これについても重大な提起をしています。それぞれの社会で様々な形はあるかもしれませんが、責任のともなう真の自由こそ、社会の目的なのですが、ドラッカー氏は次のように語っています。

経済の成長と拡大は、社会的な目的を達成するための手段としてしか意味がない。
(『「経済人」の終わり』)
経済の発展は、社会的な目的の達成を約束する限りにおいて望ましいのです。約束が幻想であることが明らかになれば、当然その価値は疑わしくなります。

社会秩序および信条としての資本主義は、経済的な進歩が、個人の自由と平等を促進するとの信念に基づいているのです。

これに対しマルクス主義では、そのような社会は、私的な利潤を廃止することによってもたらされると期待したのです。全体主義においては、凡庸な大衆よりも、有能な独裁者こそが個人の自由と平等を促進するという信念に基づいているのです。

ドラッカーは、資本主義は自由で平等な社会を自動的に実現するための手段として、利益を積極的に評価した最初で唯一の社会的信条だったといいます。

資本主義以前の信条では、私的な利益は社会的には有害なもの、少なくとも中立的なものと見ていました。

かつての社会秩序においては、個人の経済活動を、意図的に狭い領域に閉じ込め、社会的に意味のある領域に与える影響を最小限にしようとしていました。しかし、資本主義は、経済に独立性と自立性を付与しました。それどころか、経済活動を非経済的な要因に左右されることのない上位に位置づけました。

ドラッカー氏は、次のようにも述べています。

まさに、経済的な進歩が千年王国を実現するがゆえに、経済的な目的の実現のために、あらゆるエネルギーを注がなければならない。これが資本主義である。しかし、それは、本来の社会的な目的を実現できなかければ、意味をなさず、正当化されず、存続の可能性すらない。

これを前提とした上で、ドラッカーは自由主義諸国の市場の権力の構造についても語っています。
最も重要でありながら最も理解されていないものが、市場における権力の構造である。(『産業人の未来』)
いわゆる自由市場には、どんな種類の制約も存在しないといわれてきました。政府が企業や個人の経済活動に干渉せず、市場の動きに任せる状態をレッセフール(自由放任主義)といいます。仏語で「なすがままに任せよ」の意味です。

ところが、ドラッカーは、そのような無秩序な市場が存在したためしはない、と喝破しています。

City of London

若い頃に英国の金融街・シティで働いた経験を持つドラッカーは、市場ではどのように権力が
行使されるのか観察していたのです。

英国記入の権威筋が、市場の代表的な機関、すなわち証券売買市場、資本調達市場、外国為替市場などを通じて、権力を行使していました。彼らは、市場のヒートアップを危惧しても、通達の類いを出しませんでした。抑圧的な規制はルールに反したからです。

不心得者に対する権威筋の意向は、昼食時の雑談、電話でのさりげない会話、あるいは取引所や仲買人たちを通じて、非公式に伝えられました。このサインは、控え目に二回まで出されます。そして、ある日突然、裏書が拒否されます。それまで、不心得者が市場と関係していたことで得られた権威は、すべて取り上げられたといいます。
市場には、常に市場自体の規制や権威が存在した。この経済的な領域における支配もまた、政治的な領域における政治的権力と同様、その権力を実際に行使した。(『産業人の未来』)
今日のグローバル市場でも、米国などがこのような役割を担ってきたし、WTOという組織も作って世界共通のルールを適用しようとしたのですが、それをことごとく破ってきたのが、中国でありロシアです。

今後、経済的な領域における新たな権力構造も樹立すべきでしょう。世界市場による不心得者を見つけ出し、不心得者が市場と関係していたことで得られた権威をすべて取り上げる仕組みを構築すべきです。

不心得ものがいくら、経済的に恵まれていたとして、それに期待して、不心得ものを放置すれば、市場は無秩序になりそのような市場は存続しようがなくなり本末転倒になってしまうからです。実際世界はそうなりかけていました。

現在多くの国々が、ウクライナに侵攻したロシアに対してかつてない厳しい経済制裁を課していますし、これからも制裁を強化しようとしています。これが新たな仕組みのモデルとなるかもしれません。

世界の新た秩序を構築するにおいては、社会的な目的を達成するため、国際政治においても、世界市場の権力構造においても、我々は常に新しい馬に乗り換え続けなければならないのです。一度新しい馬に乗ったからといって、安心してはならないのです。


ウクライナ戦争で迎えるポスト・アメリカ時代―【私の論評】ウクライナ戦争はいずれ終わり、第二次世界の戦後も終わり、本格的な新冷戦が勃発する(゚д゚)!

2022年4月4日月曜日

ロシア軍「ジェノサイド」確実 耳切り取り歯を抜かれ…子供にも拷問か 西側諸国による制裁長期化 「ロシアはICCで裁かれる」識者―【私の論評】プーチンとロシアの戦争犯罪は、裁かれてしかるべき(゚д゚)!

ロシア軍「ジェノサイド」確実 耳切り取り歯を抜かれ…子供にも拷問か 西側諸国による制裁長期化 「ロシアはICCで裁かれる」識者


 ウクライナ国防省は、首都のあるキーウ(キエフ)州全域を奪還したと発表した。ただ、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍による攻撃は、一般市民までも巻き込んだ大虐殺と化しており、血の気が引くような殺害が繰り返されている。「ジェノサイド(民族大量虐殺)」は確実といえ、西側諸国によるロシアへの制裁が長期化するものとみられる。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日放送の米CBSテレビで、キーウ周辺の被害を「ジェノサイドだ」と非難した。拷問にあった子供もいるとみられ、ロシア軍が地雷を設置していることから住民にはすぐに帰宅しないよう呼び掛けている。

 犠牲になった一般市民の遺体は至る所で放置されている状況だ。

 英紙サンデー・タイムズによると、領土防衛隊としてキーウ近郊の警備に当たる庭師のトロビクさん(53)が、別荘地の地下室で18人の遺体を目にしたと証言した。「(ロシア軍は)拷問していたんだ。一部は耳が切り取られ、ほかは歯が抜かれていた。14歳くらいの子供の遺体もあった」という。

 これらの蛮行に対し、英国のボリス・ジョンソン首相は3日の声明で、「ロシアのプーチン大統領や軍が戦争犯罪を重ねていることのさらなる証拠だ」と非難した。英国は国際刑事裁判所(ICC)が進める捜査を全面的に支持するとの立場を示した。

 国連のアントニオ・グテーレス事務総長も、自身のツイッターで調査の必要性を訴え、「ウクライナのブチャで殺害された民間人の画像に深いショックを受けた」と投稿した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領や、米国のアントニー・ブリンケン国務長官らも、ロシアの責任を追及する構えを見せた。

 米情報当局は、ロシア側が5月初めまでにウクライナ東部での勝利宣言をする可能性があるとも伝えるが、「戦争犯罪」から免れるはずもない。

福井県立大学の島田洋一教授は「ロシアの行為はICCで裁かれることになる。プーチン政権である以上、ロシアにはさらなる制裁強化も予想される。露骨な蜜月ぶりを披露してきた中国が賢明であるならば、積極的には動きづらい状況である。今後、勝利宣言に向けて戦火が広がれば、戦争犯罪も増えることが予想される」と指摘した。

【私の論評】プーチンとロシアの戦争犯罪は、裁かれてしかるべき(゚д゚)!

国際社会は、プーチンを「露骨に国際法を破った無法者」と非難しています。国際法とは、法律のように誰かに強制される法ではありません。国際社会の合意として成立している慣習です。この慣習は掟でもあり、従えない国は文明国として扱われないのが普通です。

国際法には、大きく二種類あります。一つがユスアドベルム(戦争のための法)、戦いの正当性に関する掟です。もう一つがユスインベロ(戦争における法)、戦い方の正当性に関する掟です。


ユスアドベルムには、以下の5つの条件があります。
  1. 正しい理由(攻撃に対する防衛・攻撃者に対する処罰・攻撃者によって不正に奪われた財産の回復)の存在
  2. 正統な政治的権威による戦争の発動
  3. 正統な意図や目的の存在
  4. 最後の手段としての軍事力の行使
  5. 達成すべき目的や除去すべき悪との釣り合い
ユスインベロには、以下に条件があります
  1. 戦闘員と非戦闘員の区別(差別原則)
  2. 戦争手段と目標との釣り合い(釣り合い原則=不必要な暴力の禁止)
テレビ、特にワイドショーなどでは、このあたりを曖昧にして論議をしていて、結果として米国批判、ロシア擁護のようになっている論調が見受けられることには驚くことがあります。

国際法ついては、詳細は以下の記事をご覧下さい。非常にわかりやす行く解説されています。
敵基地攻撃の装備を検討 脅威高まり「専守防衛」拡大
プーチンはユスアドベルムとユスインベロの双方に違反しています。プーチンとその支持者は「NATOが東方拡大の約束を破ったから」とウクライナの領土を戦車で踏みにじりました。

この「他国の領土を許可なく戦車で通る」は、ユスインベロです。ユスアドベルムにおける正当性が証明される限り、まったくの正当な戦い方です。ただし、仮にユスアドベルムの正当性が証明されなかったとしても、違法ではありますが犯罪ではありません。ましてやプーチンの命令に従って戦ったロシアの軍人個人に責任はありません。

またプーチンは、「ウクライナがロシア人を虐殺している」と自らを正当化していますが、開戦事由にはならないです。それが一国の判断で許されるなら、侵略戦争はやりたい放題になります。仮にユスインベロに関してウクライナに非があったとて、ロシアをユスアドベルムで正当化できないです。

そもそも。人の世に殺し合いはなくならないです。事実、現在のウクライナとロシアは敵同士です。しかし、お互いが敵になったのですが、人間でなくなったわけではないです。だから、戦いの正当性如何にかかわらず、戦い方には掟があると考えるのが国際法です。

ウクライナ国防省は3月2日(現地時間)、フェイスブックに「捕虜になった息子があなたを待っている」というタイトルで投稿し、母親たちがウクライナに息子を連れに来れば捕虜を返すことにしたと明らかにした。[ウクライナ国防省のフェイスブック]

だからこそ許されない戦い方があるのです。民間人への無差別攻撃、病院への攻撃、原発への砲撃、核兵器の先制使用による威嚇、などなど。他にプーチンは、非武装地帯を設定して、そこを通る者を虐殺する常習犯です。これは違法ではなく、明確な犯罪です。

違法と犯罪は違います。浮気と殺人の違いくらい違います。

ユスアドベルム=ロシアのウクライナ侵攻に正当性があるか?
ユスインベロ =ロシアがウクライナでやっていることに正当性があるか?

プーチンとそのプロパガンダを垂れ流す論者の主張を、これに当てはめてみます。

■ユスアドベルム(jus ad bellum)に関するプーチン及び擁護者の主張
①NATOが約束を破って東方拡大した。
②ウクライナはロシア人を虐殺している。
③ウクライナはネオナチだ。
④ウクライナはディープステートだ。
①~④の後に「だから自衛行動をとる」と続きます。

①は1945年にロシア自身が禁止した「予防戦争」です。1914年までなら問題ないですが、現在は違法です。

②であれば、国連に訴え、その調査を待てばよいです。満洲事変でこれを実施した日本を批判していたのは、どこの国だったでしょう。

なお、「ウクライナ人がモスクワで無差別テロをやった」という主張があり、国連決議を採れれば、9.11テロでアフガンのタリバン政権を破壊した米国と同じです。

仮にウクライナ政府がロシア人を虐殺しているとしても、手続き上の正当性はありません。満洲事変の時の日本政府でさえ、中華民国に何度も抗議をしています。


これは事実だとしてもユスインベロであり、ユスアドベルムではない。ここをごちゃまぜにしていることを、プーチン擁護論者はわかっているのでしょうか。

③これは、ロシアの外交官が主張しています。これが開戦事由なら、日本の右翼が北方領土に上陸したら、東京にミサイルを撃ち込んで占領して良いという理屈になります。尖閣諸島に、中国が民兵を上陸させたら、日本は香港にミサイルを打ち込んで占領して良いという理屈になります。この程度のレベルですから、ロシアは今や同盟国にすら笑い者にされているのです。

④は、さすのプーチンすら言っていません。これを語る日本人は、アタマは大丈夫なのでしょうか?もちろん、開戦事由にならないのは③と同じことです。

国際紛争において、正当性が無い相手だからと何をやっても良い訳ではありませんし、正当性があるからと何をやっても良い訳ではありません。

たとえば、「相手がネオナチだから」とか、「ディープステートだから」それだけの理由で虐殺してよい訳ではありません。無論これは立場を変えて、相手がプーチンの侵略戦争に加担しているロシア人だからと、何をやってもよいというわけではありません。

国際法は「お互いに敵になっても人間でなくなったわけではない」を大原則とします。これを認めないと、戦いは無限大に悲惨となります。だから、「殺し合いにおいても守らねばならない掟がある」と説いたのが、フーゴ―・グロティウスです。

以上を踏まえた上でユスインベロ、プーチンの行動は正当化されるるかどうか検討してみます。

■ユスインベロjus in bello

①正規軍隊による国境突破。→ユスアドベルムが証明される限り正当。
②民間人への殺人→原則違法。あるいは犯罪。
ただし、正当な理由がある限り、正当。誤認の場合は、謝罪・賠償・責任者処罰・再発防止を自分で行う。復仇として認められる場合もありますが、著しい過剰防衛は許されないです。正当性の証明は一義的に加害者が行う。
③核兵器の先制使用による恫喝
これは、意味不明です。少なくとも、非核国のウクライナ相手に行う理由はありえないです。
④原発への先制砲撃。
人類史上初の行為なので確立した国際法はなく、今回が先例となるでしょうが、確実に人道に対する罪。つまり、ヒトラーと同ですじ。ロシア政府公式見解「ウクライナが挑発してきた」ならばですが、この時点で100%の犯罪です。ロシア側は「やってない!」と国連で主張しています。
⑤正規軍隊による占領、領土の一部ないし全部の割譲。
講和条約の条件となるので、ユスアドベルムに戻ります。ユスインベロに著しく反している場合、国際社会が認めない場合が多いです。ちなみに、プーチン擁護論者は、ここまで「違法(行為)」と「犯罪」を区別して使ったの、理解しているのでしょうか。わからなければ、身近な外交官にでも質問すべきです。
ユスアドベルム(戦争のための法)において、その戦いの正当性が証明されなかった場合は、単なる違法です。負ければ、国が領土や賠償金を払って償わなければならないです。逆にユスインベロ(戦争における法)を犯した者は、戦争犯罪人として牢屋行きです。

スロボダン・ミロシェビッチやサダム・フセインは容疑の証明が曖昧だったにもかかわらず、牢屋に送られて死にました。 日本人はプーチンを甘やかしてきましたが、奴は日本とって味方でも何でもないことを認識すべきでしょう。

上の記事では、ロシアの行為はICCで裁かれることになるとされていますが、それは可能なのでしょうか。

ICCにおいては、戦争犯罪行為を実行した兵士の法的責任を追及する「侵略戦争を引き起こした」罪でも起訴することができます。

これは、正当化できない侵略や紛争、正当化できる自衛の範囲を超えた軍事行動などに適用さます。

こうした行為が犯罪と見なされるのも、ニュルンベルク国際軍事裁判が発端です。当時のソヴィエト連邦政府が派遣した判事が連合国に対し、ナチスの指導者を「平和に対する罪」で裁判にかけるべきだと説得したのがきっかけです。

しかし、これには問題があります。英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンのフィリップ・サンズ教授(国際法)によると、ロシアはICCの締約国ではないため、その指導者を平和に対する罪では裁けないといいます。

理論的には、国連安保理が平和に対する罪についてICCにで捜査を依頼することもできます。しかし常任理事国のひとつとして、ロシアはこれにもやはり拒否権を発動するでしょう。

ICCや国際法が現実でどのような効力を発揮するのかは、条約そのものだけでなく、政治や外交にも左右されます。

サンズ教授をはじめとする専門家らは、今回のロシアのウクライナ侵攻の処理はニュルンベルク裁判のように、外交と国際的な合意に委ねられるとみています。

サンズ教授は各国首脳に対し、ウクライナ侵攻における犯罪を裁く特別法廷を設けるよう働きかけています。いずれにせよ、どのような形式であれ、これは裁かれるべきでしょう。

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