フランスとスペインが共同開発したスコルペヌ型潜水艦 |
【まとめ】
・フィリピンがフランスから潜水艦2隻を導入することについて、両国政府間で協議が開始。
・米がフィリピンへの通常型潜水艦供与に乗り出せば、フランスはまたもや米との潜水艦導入競争に直面する可能性も。
・南シナ海の海洋権益を主張してフィリピンと領有権問題が生じている中国からは、潜水艦導入への猛反発が予想される。
フィリピン海軍の長年の夢である潜水艦の保有に関してフランスが前向きであることが明らかになった。東南アジアではインドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、ミャンマーの5カ国が潜水艦を導入し実際に運用している。
このように東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国のうちすでに半数の国が潜水艦を導入しており、フィリピンはかねてから潜水艦取得に意欲をみせていたが、なかなか実現していなかった。
9月13日にフランスは「フィリピン海軍の潜水艦を艦隊に含めた近代化計画に関してフィリピンを支援しかつ協力する準備が整っている」と前向きの姿勢を示し、フランスからの潜水艦導入が本格的に動き出す可能性が出てきた。
フィリピンは南シナ海で中国との間で領有権問題を抱え、中国海軍艦艇や海警局船舶などによる領海侵犯や排他的経済水域(EEZ)内での違法操業などに長年悩まされているという問題がある。
またフランス側にも2021年9月16日にオーストラリアがすでにフランスと契約していた潜水艦12隻の導入計画を破棄した。
フィリピンの現地報道などによると、9月13日に在フィリピン・フランス大使館のミシェル・ボッゴズ大使がフィリピン海軍記念日の記念式典後の記者会見で「フランスはフィリピンと緊密に協力して戦略的な関係を構築することにコミットしているので準備はできている」として両国政府間ですでに潜水艦2隻の導入に関して協議を始めていることを明らかにした。
具体的にはフランスの造船会社「ネイバル・グループ」との間で潜水艦とその関連施設を設計・建造することで協議が進んでいるという。
さらにフランス側は「要員を派遣して潜水艦乗組員の教育、訓練、技術移転をすることも検討している」として全面的に支援する姿勢を示している。
フィリピン政府はまだ潜水艦導入に関してフランス政府となんら合意、調印、契約には至っていないが、フランス側の積極的な「売り込み」に具体的な検討に着手する可能性が高いとみられている。
フィリピンは2018年にロシアとの間で潜水艦導入を検討したことがあり2021年にも韓国との間で検討されたものの、いずれも正式な契約には至らなかった経緯があるという。
★米と競争か フランスの通常型潜水艦
フランスがオーストラリアに総額500億ドルともいわれる潜水艦12隻の導入計画をキャンセルされた背景には、フランスの潜水艦は通常型潜水艦で原潜に比較すると潜水時間が限定的で長期間の潜航はできないことがあるのは間違いない。
さらに米英豪による軍事同盟である「AUKUS」が2021年9月15日に設立が発表され、その直後にオーストラリアはフランスとの契約を破棄し、その後米原潜の導入を決めた。
これは、南シナ海や太平洋での潜水艦作戦には長期潜航可能な原潜が必要との判断によるものとされている。
もっともその理由以外に、遥か彼方のフランスより太平洋や南シナ海で共同訓練や作戦行動を共にする米海軍との関係を重視した結果の選択といわれている。
フィリピン海軍が原潜を運用することはかなり非現実的だが、今後の進展次第では米がフィリピン海軍の近代化を含めて通常型潜水艦供与に乗り出してくる可能性も否定できず、フランスはオーストラリアに続いてフィリピンでも米との潜水艦導入競争に直面する可能性も予想されている。
★ASEANの潜水艦事情
ASEAN各国ではシンガポールが6隻のスウェーデン製潜水艦を有用しているほか、インドネシアが韓国、西ドイツ、自国製の5隻を保有、マレーシアがフランスから2隻を導入、ベトナムは6隻をロシアから導入しているとされ、ミャンマーも2021年に中国製1隻を導入したとされている。
このようにASEAN各国海軍の潜水艦戦力はその多くが旧式の通常型潜水艦とはいえ一定の能力を維持している。
フィリピンは群島国家であり同時に海洋国家であり、特に南シナ海では中国との間で領有権を巡る争いを抱えており、海軍力の近代化、整備がドゥテルテ政権の喫緊の課題となっていました。
ドゥテルテ・フィリピン大統領と安倍総理 |
2018年にはフィリピンの国防相が「ロシアあるいは韓国」を念頭にして潜水艦導入計画があることを示唆したものの、その後計画は一向に具体化していませんでした。今回フランス製潜水艦導入が実現すればフィリピン海軍としては史上初の潜水艦保有となります。
フィリピンやインドネシアという群島国家、さらにマレー半島とボルネオ島に領土を持つマレーシア、南シナ海に面したベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国には海洋権益保護や海上警戒警備のために海軍力の整備近代化、多角的な運用が求められている国が存在します。
しかし潜水艦となるとシンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムがそれぞれ新造艦や中古艦を保有しているものの、フィリピンはこれまで保有していなかったという経緯があります。
ASEANの潜水艦保有国の中でシンガポール以外のマレーシア、ベトナムは南シナ海で中国と直接領有権問題を抱え、インドネシアは南シナ海南端のインドネシア領ナツナ諸島の北方海域に広がる排他的経済水域(EEZ)への中国漁船の侵入、不法操業という問題に直面しています。
こうしたことから東で太平洋に面し、西で南シナ海に面しながら唯一潜水艦を持たないフィリピン政府や海軍にとって「潜水艦保有」は長年の宿願でした。
2018年6月にはフィリピンのデルフィン・ロレンザーナ国防相が潜水艦導入計画で「ロシアと韓国を視野に入れている」と発言したことが地元紙に報じられました。
ロレンザーナ国防相は「海軍近代化プログラムの中で潜水艦を導入する方針を決めた」と改めて強調し「ロシア、韓国そしてそれ以外の国も視野に入れている。潜水艦の建造には5~8年かかるため、なるべく早く発注したい」との意向を明らかにしました。
この時もロレンザーナ国防相は「隣国であるマレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムは潜水艦を保有しているのに、フィリピンだけが持っていない。フィリピンの安全保障のためにも潜水艦は必要だ」として、潜水艦保有への熱い思いを語っていました。
フランスの造船会社「ネイバル・グループ」関係者は潜水艦導入計画が今後具体化すれば「乗組員の教育訓練に加えて潜水艦の運用、修理点検整備など全ての面でフィリピン海軍と協力関係を築くことができる」として全面的にサポートする姿勢を強調していました。
ただ、ドゥテルテ政権は他の主要ASEAN加盟国と同様に深刻なコロナ禍とそれに伴う経済不況に直面していました。新型コロナウイルスの感染者数、感染死者数ではフィリピンは域内でインドネシアに次ぐワースト2を記録し続けていました。
こうした未曾有の事態で一般国民がコロナ感染とそれに伴う失業や生活困窮などに喘ぐなか「いくら国防のためとはいえ潜水艦導入を今積極的に進める必要が本当にあるのか」との意見も根強く、結局はドゥテルテ政権では実現しませんでした。
2014年のシャングリラ・ダイアログにおける当時の安倍首相の演説 |
冒頭、林大臣は「中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みは東シナ海や南シナ海でも継続しており、われわれは国際秩序に対する多くの挑戦に直面している」と述べました。
協議で取りまとめられた共同声明では、海洋進出を強める中国を念頭に、東シナ海や南シナ海の状況に深刻な懸念を表明し、緊張を高める行為に強く反対しました。
そして、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、悲惨な人道上の影響が出ていると非難するとともに、こうした侵攻は、力による一方的な現状変更を認めない国際秩序の根幹を危うくし、ヨーロッパにとどまらずアジアにも影響を及ぼすという認識を共有しました。
また、日本・フィリピン両国の間で防衛装備品や技術の移転を進めるとともに、自衛隊とフィリピン軍との間で物品などの相互提供を円滑にするための枠組みについて検討を始めるなど、防衛協力を強化していくことで一致しました。