2022年12月13日火曜日

中印の係争地で両軍が衝突、双方に負傷者 同地域では昨年9月にも…依然として緊張が続く―【私の論評】中国の台湾侵攻ファンタジーより中印国境紛争のほうが、はるかに深刻な現実的脅威(゚д゚)!

中印の係争地で両軍が衝突、双方に負傷者 同地域では昨年9月にも…依然として緊張が続く

インド・アルナチャルプラデシュ州の中国国境付近で巡回するインド軍兵士(2012年)

 インド陸軍は12日、北東部アルナチャルプラデシュ州の中国との係争地で9日に印中両軍が衝突し、双方に負傷者が出たと明らかにした。銃器は使われず、いずれも軽傷とみられる。既に両軍とも現場から離れた。インドメディアによると、負傷者はインド側が少なくとも6人、中国側は十数人という。

 現場は標高約5000メートルの高山地域。インド側は、中国人民解放軍の兵士300人超が侵入しようとしていたのを阻止し、小競り合いになったと主張している。この地域では昨年9月下旬ごろにも衝突が起きた。

 中印は複数の係争地を抱える。2020年6月に中国チベット自治区とインド北部ラダック地方の係争地で両軍が衝突した際には、約45年ぶりに死者が出た。一部地域では両軍の撤退が実現したが、依然として緊張が続いている。

【私の論評】中国の台湾武力侵攻ファンタジーより中印国境紛争のほうが、はるかに深刻な現実的脅威(゚д゚)!

インド北東部のアルナチャル・プラデシュ州で9日、棍棒やスタンガンで武装した200人以上の中国軍兵士と「それ以上の何か」で武装したインド軍兵士が衝突したと報じられていました。

インドと中国は2020年に国境が未確定のジャンムー・カシミール州ラダック地域で何度も衝突、中印国境紛争(1962年)以来の大規模衝突に発展する可能性を秘めていたものの、両国の粘り強い交渉で緊張緩和に成功(対立の根本的な原因は解消されていない)していましたが、現地メディアは「インド北東部のアルナチャル・プラデシュ州で9日、棍棒やスタンガンで武装した200人以上の中国軍兵士と『それ以上の何か』で武装したインド軍兵士が衝突して双方に負傷者が出た」と報じていました。


両軍がにらみ合いを始めた当初、200人の中国軍兵士に対してインド軍兵士は僅か50人だったのですが、直ぐに敵を上回る「何か」もった増援が到着して中国軍兵士を圧倒、インド当局は「味方に骨折を含む15人の負傷者が出たが中国軍側の負傷者はそれ以上だ」と述べたとされています。

因みに両軍の衝突原因についてインド当局は「前線に沿って配置された一部部隊の変更に伴い、中国軍側が自軍の優位性を見せつけようとしたため」と述べていますが、棍棒やスタンガンを「上回る何か」が何なのか気になるところです。

中印両国は昨年2月、ヒマラヤ西部の国境紛争地の一部からの軍の引き揚げで合意しましたが、その後の撤退交渉は停滞し、むしろ軍拡の動きが強まっていました。同年6月28日付ブルームバーグによれば、インドは同年6月までの数カ月間に部隊と戦闘機中隊を中国との国境沿いの3地域に移動させたといいます。

注目すべきはインドの対中軍事戦略の大転換です。インド軍の係争地駐留はこれまで中国側の動きを阻止することを目的としていましたが、この兵力再配備により「攻撃防御」と呼ばれる戦略の運用が可能となり、必要に応じて中国領への攻撃や占拠を行うことができるようになりました。

インド側の軍事力増強は中国側の動きに触発された可能性があります。インドによれば、中国人民解放軍は当時、係争地の監視を担当する軍管区にチベットから追加兵力の配備を行うとともに、新滑走路や戦闘機を収容するための防爆バンカーを整備し、長距離砲や戦車、ロケット部隊、戦闘機などを追加投入しているとされていました。

中国はなぜ急速に軍拡を進めたのでしょうか。一昨年の両国の衝突で中国側の犠牲者は、インド軍の20人を上回る45人だったとの情報があります(中国政府の公式発表4人)。一連の戦闘でも軍事力に劣るインド軍が終始優勢だったとの観測もあります。中国側に「捲土重来」を果たさなくてはならない事情があったのかもしれません。 

国境に配備された両軍の兵士は昨年時点で約20万人で、一昨年に比べて40%あまり増加したといわれています。このような両軍の軍拡の状況について、インドの軍事専門家は「国境管理の手順が壊れた現在の状態で両国が多くの兵士を配備するのはリスクが大きい。現地での小さな出来事が不測の事態を招く可能性がある」と危惧の念を隠していませんでした。

軍拡の動きはヒマラヤ西部ばかりではありません。チベットに隣接するヒマラヤ東部で中印両国は、軍隊の迅速かつ大量輸送が可能となる鉄道の建設に躍起になっています。中国は昨年7月1日、四川省とラサをつなぐ鉄道(川蔵鉄道)の一部区間を開通させました。これにより軍隊の移動が容易になりますが、この鉄道はインドのアルナチャルプラデシュ州との国境沿いを走っているため、インド側の警戒は尋常ではないといいます。

インドも対抗上、アルナチャルプラデシュ州と西ベンガル地区とを結ぶ鉄道を建設中です。難工事であることから完成時期は何度も延期されていますが、2023年はじめまでになんとしてでも完成したいとしています。緊張の高まりを受けて、インドが主導する形で両国間の外交交渉が始まっていました。

インドのジャイシャンカル外相は昨年7月14日、中国の王毅外相と会談し、「両国が昨年の合意にもかかわらず、ヒマラヤ山脈西部の国境紛争地帯での対立が解決できていないのはどちらにとっても利益にならない」との見解を示しました。インド国防省は7月末に「チベット地域における自国軍と中国軍との間にホットラインを設置した」と発表しました。

しかしインドの専門家は「中国はインドとの軍事衝突を利用して国民の不満をかわす可能性がある。ワンマン支配となった中国との平和的共存はない」と悲観的です。このように中印間でかつてない規模の軍事衝突が起きるリスクが高まっている最中で、今回の両軍が衝突したのです。

地政学車のブラーマ・チェラニー氏は、昨年中印国境から目を離すなと警告していました。

中国軍とインド軍は、国境地帯での衝突から2年を経てにらみ合いを続けています。この紛争の存在はウクライナ戦争によってかすんでいるかもしれないですが、両軍は軍備増強を進めています。

オースティン米国防長官は昨年6月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、「中国が国境沿いの陣地を強化し続けている」と警告しました。両軍とも数万人の部隊が対峙していることから、戦争まではいかなくとも、小競り合いが再び発生するリスクはかなりあります。

2020年6月15日の両国軍の衝突は、一連の小競り合いの中で最も血なまぐさいものでした。当時、インドは世界で最も厳しい新型コロナウイルス対策の都市封鎖に気をとられていました。中国はそのすきを突くようにインド北部、ラダック地方の国境地域に侵入し、強固な要塞を建設しました。

この予想外の侵入は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席による巧妙な計画ではなかったようです。中国は楽勝するどころか、中印関係をどん底に突き落としました。国境危機によりインドの大規模な軍備増強を不可避にしました。

20年6月の衝突は残忍さでも際立っていました。96年の2国間協定により両国の兵士が国境地帯で銃を使うことが禁止されたことから、中国人兵士は有刺鉄線を巻いた棒などを使い、インド軍のパトロールに攻撃しました。インド兵の一部は殴り殺され、崖から川に突き落とされた兵士もいました。その後インド側の援軍が到着し、中国部隊と激しい戦いを繰り広げました。

数時間の戦闘の後、インドは死亡した兵士20人を殉職者としてたたえましたが、中国はいまだに死者数を公表していません。米情報機関は35人、ロシアの政府系タス通信は45人と推定しています。

国境危機はインドのイメージ失墜にもつながりました。インドは中国軍に不意を突かれ、一部の中国人兵士が領土の奥深くまで侵入することを許したのに何の調査も行いませんでした。インドの国防支出は米国、中国に次いで世界第3位で、陸軍がかなりの部分を占めています。しかしインド陸軍は長年、中国とパキスタンの国境を越えた行動に何度も不覚をとってきました。

中国軍は、氷が溶けて進入路が再開される直前に危険地帯に侵入しました。ところがインド軍は、中国が国境付近で軍事活動を活発化させている兆候を無視しました。この大失態にもかかわらず、インド軍の司令官は誰ひとり解任されませんでした。さらに悪いことに、モディ首相はここ2年間、軍事危機について沈黙しています。

中国は占領したいくつかの陣地から撤退する一方、他の占領地を恒久的な軍事拠点に変えています。習氏が狙っているのは東シナ海や南シナ海と同様、軍事力で威圧をすることにより、戦わずしてインドに勝利することです。世界最大の民主国家であるインドは、民主主義と専制主義の戦いの最前線にいます。中国がインドを威圧して服従させることができれば、世界最大の専制国家がアジアで覇権を握ることになりかねません。

膠着の陰で事態は進展しています。中国は引き続きヒマラヤ地方の勢力図を塗り替えようと、国境地域に624の村落を建設したのです。南シナ海で要塞のような人工島を造る戦略に似ています。

インドとの国境付近では交戦に備えて、新たなインフラも構築しています。最近では、戦略上の要衝であるパンゴン湖を渡る橋を完成させました。さらにブータン国境の係争地にも道路や警備施設を建設。インド最北東部と内陸部を結ぶ回廊地域を俯瞰する、インドの「チキン・ネック(鶏の首)」と呼ばれる弱点を押さえようという狙いです。



その上で中国は、インドに決断を迫ろうとしています。新しい現実、すなわち中国が一部地域を奪った状態での現状を受け入れるか、それとも中国が有利に展開できる全面戦争に突入するリスクを冒すのかという決断です。

中国は1979年にベトナムを侵略した際の戦略的な過ちから学びました。現在はあからさまな武力紛争に突入することは避け、領土獲得も含めて戦略的な目標の達成を段階的に進めています。

既に中国の習近平国家主席は、こうしたサラミ戦略(小さな行動を積み重ね、いつの間にか相手国が領土を失わざるを得ないような戦略)によって南シナ海の地政学的地図を塗り替えてきました。その手法を陸上でも、すなわちインド、ブータン、ネパールに対しても効果的に展開しています。

インドがロシアのウクライナ侵攻を非難しない理由の一つが中国との国境紛争です。両軍がにらみ合っており、いつ本格的な戦闘が起きてもおかしくないです。そんなときにロシアまで敵に回すわけにはいかないのです。

チェラニー氏は中国が繰り返す領土拡張の試みについて、世界に向けて警鐘を鳴らし続けています。中国の暴挙が国際社会から不当に黙認されているという思いがあるとみられます。

確かに中国は、チベットの併合・弾圧でも、南シナ海の人工島基地建設でも、大した代償を科されていません。これではインド国境でも台湾海峡でも軍事力行使は「やり得」だと中国が考えてしまう恐れがあります。最前線に立つインドからの叫びは、世界が抱える最大の安全保障リスクは中国の野心だと思い出させてくれます。

多くの世界中のメデイアでは、台湾有事を頻繁にしかも大々的に扱いますが、このブログでも以前から主張しているように、中国による台湾侵攻は、地政学的に言ってかなり難しいです。ただ、中国が武力で台湾を威嚇したり、場合によっては台湾を破壊することは簡単にできます。しかし、台湾を併合するのはかなり難しいです。

それに比較して、インド国境での中国のサラミ戦術はかなり実施しやすいといえます。中国は、ウクライナでのロシア軍の失敗にも学んでいると考えられます。

大々的に攻めれば、国際的な非難を受けるとともに、敵方の軍隊はもとより国民を含めてこれに本格的に備えることになり、侵略するのはかなり難しくなります。ましてや海で囲まれた台湾はかなり難しいです。

しかし、陸続きのインド領内ならば、サラミ戦術でなし崩し的に侵略できる可能性があります。台湾侵攻はすぐにはできそうにもありませんが、インド攻略なら時間をかけて少しずつでもできます。

これに習近平が目をつけないはずはありません。建国の父毛沢東や、中国経済を伸ばした鄧小平と比較すれば、ほとんど手柄がない習近平が彼らと並び立ち、まだ確実とはいえない、独裁体制を確立するためには、中印国境は、比較的手軽に中国領を広げられて、手柄になると考える可能性は十分にあります。


ましてや、最近はセロコロナ政策で完全に失敗し、権威が落ちつつある習近平は、国民の注意を他に惹きつけ、自らに降り注ぐ火の粉を払い、さらに大きな手柄を得たいと考えるのは、自然な流れです。

習近平は、最初はサラミ戦術で少しずつ領土を増やし、ある時点で、台湾の面積を超えるだけの領土に侵攻し、さらに拡張できる期待も含めてこれを手柄として、独裁体制を確立して、近代中国史において、毛沢東と並び立つ存在になろうと目論むことは、十分あり得ることです。

日本を含めた、国際社会は中印国境紛争に、もっと目を向けるべきです。中印国境紛争を軽く考えていると、多くの国々が不意打ちを喰らうことになりかねません。南シナ海と同じく、安々と中国が領土を広げ、その後結局何もできないということになりかねません。

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2022年12月12日月曜日

デモで崩壊した習近平の賢明さと力の「神話」―【私の論評】ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威は地に落ちる(゚д゚)!

デモで崩壊した習近平の賢明さと力の「神話」

岡崎研究所


 11月28日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙外交問題コメンテーターのギデオン・ラックマンが、「習近平のパンデミック勝利主義が彼を再び悩ませる。傲慢と権威主義が中国を終わりのないロックダウンの罠に貶めた」との論説を書いている。

 習近平は2021年の新年の演説で中国のゼロコロナ政策の成功を誇った。2年後、パンデミック対策を個人的、体制的勝利と描く習のキャンペーンは崩壊しつつある。ゼロコロナ政策に反対するデモは、10年前に権力を得た後、習の指導に対する最も深刻な挑戦のようだ。

 抗議デモのいくつかは習個人を目標にしている。成都ではデモ参加者は「我々は終身指導者の政治体制を望まない。我々に皇帝はいらない」と叫んだ。毛沢東の死後、党は唯一の全能の指導者を作ることを避けてきた。しかし習は中国を準皇帝支配に戻そうとしている。

 転換点は先月、共産党が習を党の指導者として前例にない3期目に任命した時であった。習の前任者の胡錦涛はテレビの前で舞台から強制的に排除された。習は個人崇拝を奨励して権力掌握を正当化した。「習近平思想」は党規約に書き込まれた。習のコロナ対策での成功は彼の神話の重要な部分である。

 中国のコロナ死者数は米国よりずっと少ないのは真実である。しかしゼロコロナ政策追求のコストはますます明らかになっている。経済が停滞する中、中国の若者の失業率は 20%近い。しかし習は党大会でロックダウンに責任のある上海の党書記、李強を共産党の2番目の地位に昇進させた。

 中国は自由に対する厳しい制限の4年目に直面している。パンデミックの初期段階での中国の対応を自分の手柄とした後、習は現在の危機への責めを避けることはできない。効果的な外国のワクチンを輸入していないことは、ロックダウン緩和を中国にとって危険なものにする。これは習近平の重要技術を「中国製」にするとの民族主義に結びついている。彼は中国人の命を救うワクチンをあまりに誇り高くて輸入できないようである。

 ゼロコロナ政策は習近平の強情な性格と権威主義の反映でもある。コロナの名の下で人の動きを追跡する技術は、恒久的で陰険な政治的・社会的支配の道具となることを、中国の人々は憂慮している。

 デモ隊が街頭に出てきた時が強権指導者にとり最大の危険の時である。習のあらゆる本能は力と抑圧で対応することであろう。これは彼が2019年の香港抗議を処理したやり方であり、共産党が1989年天安門で学生運動を粉砕したやり方である。しかし、習近平の賢明さと力の神話は彼のゼロコロナ政策の崩壊を生き延びることはできないだろう。

*   *   *   *   *   *

 このラックマンの論説は、最近の中国での諸都市で起こったロックダウンへの抗議活動を論じたものであるが、的を射ている良い論説である。中国共産党大会の直後に、このような中国各地での抗議デモが起こることは予想していなかったが、一度こういうことが起こると、弾圧するか民衆の要求にある程度答えてロックダウンを緩和するかのいずれかであろう。が、いずれの方策をとっても、習近平政権への打撃は避けられないと思われる。習近平の指導力を傷つけないでこの打撃に対応するのは難問である。

 硬軟の策を繰り出し、時間をかけて事態の沈静化を図っていくという事であろうが、習近平の無謬性(infallibility)は傷つくだろう。習近平を共産党の核心とし、唯一の指導者にすることは不都合だという党内での意見も出てきかねないと思われる。

傲慢の現れたる党規約の「習近平思想」

 鄧小平が最高指導者の任期を2期10年までと定めて集団指導体制を作ったことは、先見性に満ちた賢明な制度設計であったと評価できる。これをひっくり返した習近平のワンマン体制は脆弱性を抱えると考えられたが、それが早くも出てきたということかと思われる。

 習近平が党規約に「習近平思想」を書きいれたことは傲慢さの現れであると考えられる。「習近平思想」とは何なのか、今なおはっきりしない。中華民族の夢の実現という民族主義的願望と強国建設路線であることははっきりしているが、マルクス主義の「万国の労働者よ、団結せよ」との階級を重視した国際主義とは程遠いのに、マルクス主義者を自称するなど、支離滅裂であるように思われる。

 中国の指導者が鄧小平のような賢明さを持たないこと、中国経済のさらなる発展よりも自己の政治的権力の増大に熱心であることは、日本にとりそれほど憂うべきことではない。中国は今経済力で 2033年には国内総生産(GDP)で米国を凌駕すると言われているが、その後2050年には、少子高齢化などの影響で米国に抜き返されると日本経済研究センターは予測している。が、このゼロコロナ政策に伴う混乱、大手ITへの弾圧政策、中国の人口動態などを見ると、中国経済はもっと早く減速する可能性が高いと考えられる。

【私の論評】ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威は地に落ちる(゚д゚)!

上の記事では、傲慢の現れたる党規約の「習近平思想」と掲載されていますが、これは間違いだと思います。ただ、上の記事は「習近平思想」という言葉自体が、書き込まれたとは書いていないので、実質上「習近平思想」が党規約に書き込まれたという意味なのでしょう。

中国共産党は10月26日、同月22日に閉会した党大会が採択した改定党規約の全文を公表しました。習近平総書記(国家主席)の地位を守ることを新たに党員の義務として付け加えました。

党大会前に大きく宣伝され、大会決議でも党員に順守が求められたことから、党規約に盛り込まれるとみられていた、「習氏の核心の地位」と「習思想の指導的地位」の「二つの確立」との表現は見送られましたが、習氏の権威を強化する改定です。

新たに明記されたのは、「習氏の全党の核心の地位」と「党中央の権威と集中的・統一的指導」の「二つの擁護」です。

2017年の前回改定で「行動指針」に加えられた「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」は今回も同じ名称で明記。同思想に対し、「21世紀のマルクス主義であり、中華文化と中国精神の時代的真髄だ」との説明が加わり、「習思想」をさらに持ち上げました。

台湾を巡り、「祖国統一を完成させる」との従来の表現に加え、「『台湾独立』に断固反対し、抑え込む」との文言が盛り込まれました。

また、米欧などと異なる独自の発展モデル「中国式現代化」、中国式の民主主義としている「全過程人民民主の整備」、「世界一流の軍隊の建設」、など習氏が強調してきた文言も新たに加わりました。

一方、「いかなる形式の個人崇拝も禁止する」との文言は引き続き明記。党総書記の権限を強める規定も加わりませんでした。

党規約に習氏の名前の登場は12回で、改革開放を指揮した鄧小平(とう・しょうへい)と同じ回数。建国の父・毛沢東の名前は13回登場しました。

ということなので、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」という言葉は依然として、残っており「習近平思想」という言葉に変わっているということはありません。

なぜ、「習近平思想」という言葉そのものにこだわるのかというと、以前このブログで述べたように、粉の言葉が党規約に直接書き込まれたとすれば、中共における習近平の独裁体制が固まったとみられますが、そうでなければ、まだ完璧ではないこと示しているとみられるからです。これについては、以前このブログても述べたことがあります。

その記事のリンクと内容の一部を以下に引用します。

習氏、3期目へ権威確立 李首相は最高指導部退く 中国共産党大会が閉幕―【私の論評】習近平の独裁体制構築までには、まだ一波乱ある(゚д゚)!

10月22日、中国・北京で開かれた共産党大会の閉幕式に出席した習近平総書記(国家主席)


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを掲載します。

党規約の中の習近平の思想が「習近平思想」と書かれるようになれば、そうして習近平が現役のうちにそうなれば、習近平の独裁体制が成立したとみなせるでしょうが、まだそうはなっていません。

習近平の独裁体制が確立できるかどうか、それまでにはまだ一波乱ありそうです。また、習近平が権力を握るにしても、握れないにしても、中国経済は以前このブログでも述べたように、国際金融のトリレンマと、米国による半導体の〝対中禁輸〟という2つの構造要因でこれから、従来のように伸びることありません。それどころか、かなり落ち込むことになります。

中国経済が誰の目からみても、かなり落ち込み続けることが明らかになる前までに、習近平が独裁体制を整えなければ、それは不可能になるでしょう。期限は来年中でしょう。

中国の党規約に「習近平思想」という文字は未だに見られません。いまでも「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」と長たらしい名前で掲載されています。

この意味についいては、以下の記事でその詳細を説明しました。

中国で進められる「習近平思想」の確立と普及―【私の論評】党規約に「習近平思想」と平易に記載されたとき、習近平の野望は成就する(゚д゚)!

2019年4月中国社会科学院が編集した『習近平新時代中国特色社会主義思想学習叢書』が出版された

 もし習近平が毛沢東主席並みに偉大な思想家であれば、シンプルに「習近平思想」とすればよいのなぜ、「習近平新時代中国特色社会主義思想」としたのでしょうか。

もうひとつは「習近平新時代」の意味するところが、よくわかりません。

結論からいえば、長い思想名となったのは政治的妥協の産物だからでしょう。演説集は、出版されているものの、著作が一作もない習氏の考え方を「思想」と位置づけて良いものなのでしょうか。

党内でも様々な意見がありながらも、周到な根回しが済んでいる重要案件を、党大会で無下に却下するわけにもいかず、そこで党内の知恵者が『新しい時代をユニークな社会主義路線で指導する習近平思想』はどうか等と提議して、双方が歩み寄った結果ではないでしょうか。

今回のデモを主催した人たちにも、このような見方はあったものと見られます。おそらく、今回こそは「習近平思想」と明記されているのではないかと、改定された党規約自体をみるまではそう考えていたのでしょう。かなりの危機感を抱えていたものと思います。

ところが、蓋を開けてみれば「習近平思想」という言葉はありませんでした。これで、今回のデモ主催した人たちは、習近平の独裁体制が確立するまでは、まだ一波乱あるだろうと、考えたのでしょう。

実際、今までにないような、中国全土にわたる抗議デモは時を同じくして全国で発生したのです。

中国共産党は、かなり大きなデモが起こったにしても、それが一箇所もしくは数か所で発生したというのなら、簡単に鎮圧、弾圧できるのでしよう。

実際、天安門事件、2012年あたりに激化した愛国反日デモも、必ずといって良いほどに反政府デモになってしまうので、これを鎮圧しましたし、香港の民主化デモも弾圧して、なきものにしました。

ただ、今回のように全国一斉のデモということになると、鎮圧・弾圧は難しいのでしょう。上の記事にもあるように、習近平自身も、中国共産党大会の直後に、このような中国各地での抗議デモが起こることは予想していなかったようですが、一度こういうことが起こると、弾圧するか民衆の要求にある程度答えてロックダウンを緩和するかのいずれかでしょう。

実際緩和の動きもみられます。ただ、いずれの方策をとっても、習近平政権への打撃は避けられないと考えられます。習近平の指導力を傷つけないでこの打撃に対応するのはかなり難しいでしょう。

デモの主催者からみれば、党規約にはっきりと「習近平思想」という言葉が掲載されれば、習近平の独裁体制は最終段階に入っとみられることから、まだ掲載されなかったものの、相当の危機感があったとみえて、今回のデモということになったのてしょう。

中国の新型コロナの新規感染者は11月23日に3万人超に達し、各地で大規模なデモが相次いだ27日には4万人を上回りました。抗議デモ後、封鎖エリアの絞り込みなど、ゼロコロナ政策を緩和する動きが次々と伝えられたのですが、実は、中国政府は3週間前の11月11日に「新型コロナ対策の“最適化” 20カ条の措置」として、ゼロコロナ政策の一部緩和を発表していました。

ゼロコロナ政策を止めると3カ月で死者160万人との試算がある一方で、仮に、ゼロコロナ政策をこのまま強行すれば、米国との経済競争に不利になる懸念は否めないです。習近平政権は、ジレンマに直面しています。

 こうした「20カ条の措置」による、ゼロコロナ緩和策を発表していたにも関わらず、中国国内の不満や閉塞感を和らげることができず、大規模デモに至ったのはなぜでしょうか。

「20カ条の措置」には、「『層層加碼(ツェンツェンジャーマー)』の取り締まりを強化し、むやみに封鎖することを禁止する」とあります。『層層加碼』とは、「下に行けば行くほど割り増しをする」ことを意味する中国の言葉です。


ゼロコロナ政策の現場では、「一層ずつ、下のレベル、現場に近いレベルに行くたびに、割り増しして、封鎖を厳しくしてしまっている」のです。中央政府からの指示が現場の行政レベルに達するまで、次々と際限なく、規制を厳しくしてしまうのです。

封鎖を緩和して、感染者が増加したとき、地方政府の官僚が自らが処罰の対象となることを恐れてのことです。 こうした『層層加碼(ツェンツェンジャーマー)』が横行する組織となっていることに、中国共産党指導部の責任は、どのように考えることができるのでしょうか。

中国共産党指導体制の信頼関係の欠如。その欠如は、『恐怖』による統治からもたらされたといえます。中国は、共産党の優位性を損なわない範囲で、ゼロコロナ政策を段階的に解除せざるを得ず、難しい舵取りを迫られることになるでしょう。

そうして、ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威か地に落ちるのは間違いないです。中共内の権力闘争にはまだ一波乱ありそうです。

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2022年12月11日日曜日

プーチン大統領に〝逃げ場なし〟ウクライナの最新ドローンがモスクワを急襲も 「ロシア側は対抗できない」元陸上自衛隊・渡部悦和氏―【私の論評】ウクライナが、今回の攻撃を実施してもほとんどの国が反対しない理由とは(゚д゚)!

プーチン大統領に〝逃げ場なし〟ウクライナの最新ドローンがモスクワを急襲も 「ロシア側は対抗できない」元陸上自衛隊・渡部悦和氏

ソ連製の偵察用無人機「ツポレフ141」

 ロシア国内の空軍基地への長距離無人機(ドローン)攻撃で、戦争は新局面を迎えた。ウクライナに残された旧ソ連時代の無人機が使われたとの見方のほか、ウクライナ製最新兵器の可能性を指摘する専門家もいる。いずれにせよ、ロシアの防空網の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈し、首都モスクワのクレムリン(大統領府)も標的となり得ることが明らかになった。ウラジーミル・プーチン大統領に逃げ場はなくなりつつあるのか。


 無人機攻撃を受けたのは、モスクワ南東リャザニ州のジャギレボ空軍基地と、南部サラトフ州のエンゲリス空軍基地。核兵器搭載可能な「ツポレフ160」や、「ツポレフ95」など主力長距離戦略爆撃機が配備されている重要拠点で、それぞれウクライナ国境から約500キロ離れている。

 ロシア国防省は、ウクライナからのソ連製無人機による攻撃と発表した。同国の軍事専門家は、1970年代に偵察用として開発された無人機「ツポレフ141」との見方を示す。航続距離は約1000キロで約150機生産され、ソ連崩壊後は大半がウクライナ領内に残されたという。

 一方、ウクライナでは国営の軍需企業、ウクロボロンポルムが航続距離1000キロ、搭載量75キロの新型攻撃用無人機のテストに成功したと地元メディア、ウクルインフォルム通信が伝えた。

 半世紀前と最新の無人機、使われたのはどちらか。元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、「両方の可能性が考えられる」としたうえで、こう解説する。

 「ツポレフ141だとすると、航続距離では到達可能だが、GPS(全地球測位システム)のない時代に開発されたものなので、攻撃の正確性からみると、GPSを付けて飛ばした可能性もある。ウクライナ製だとすると、最新の誘導装置を使った可能性もあるほか、ウクライナの特殊部隊が誘導に関わったとの情報もある。いずれにせよ、ウクライナ製無人機は今後、威力を発揮するだろう。1000キロの航続距離を持つ無人機を保有するのはほかに米国と中国ぐらいとみられ、ロシア側には対抗できる無人機はない」

 ロシア側にとっては、空軍基地にやすやすと攻撃を許した防空網の手薄さも重大問題だ。

 渡部氏は「ロシア側の防空システムは通常、近距離の対空機関砲から中距離、長距離の『S300』などの対空ミサイルによって重層的に構築される。領内への攻撃を油断して24時間体制の警戒ができていないか、戦力が不足している可能性もある」と分析する。

 無人機攻撃について米国は、アントニー・ブリンケン国務長官が「ウクライナにロシア国内への攻撃を促してもいない」とする一方、ロイド・オースティン国防長官が「ウクライナ自らの能力を高めるのは妨げない」と攻撃兵器開発を容認する姿勢を示した。

 ウクライナの政府顧問は、遠隔攻撃を「繰り返し行える。距離に制限なく、近くシベリアを含むあらゆるロシア内部の標的を攻撃できるようになる」とし、「ロシアに安全地帯はなくなるだろう」と警告している。

 ウクライナの首都キーウから750キロ程度の距離しかないモスクワも標的となるのか。

 前出の渡部氏は「ウクライナ製の無人機は理論上、モスクワも攻撃することができるが、ロシア側の戦術核使用を招きかねないなど過激なメッセージになる面もある。米国が今回、攻撃を是認したのは国際法にも合致しているからに過ぎない。ウクライナは軍事目標のみの攻撃を貫くべきだ」と述べた。

【私の論評】ウクライナが、今回の攻撃を実施してもほとんどの国が反対しない理由とは(゚д゚)!

ウクライナのクレバ外相

ウクライナのクレバ外相は8日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版のインタビューで「ロシアがウクライナで何をしてもよい一方で、ウクライナには同様の権利がないという考え方は道義的にも軍事的にも誤りだ」と述べ、ウクライナ軍はロシア領内を攻撃する権利があると主張した。

ロシア内陸の空軍基地に対する最近のドローン(無人機)攻撃への自国の関与を示唆した発言とみられる。

クレバ氏はまた、ロシアが2014年に併合した南部クリミア半島については国際的に認められた「他のウクライナ領と同じだ」と述べ、米国が供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」などをロシア領内への攻撃に使用しないとする原則は、クリミア半島への攻撃には適用されないとの認識を示した。

クレバ氏はウクライナが国の存続と領土保全のために戦っていると強調。「ロシアが崩壊したら世界が崩壊するとは思わない」と、ウクライナへの支援に当たってロシアへの配慮は不要だと訴えた。

ドイツ政府のホフマン第一副報道官

ドイツ政府のホフマン第一副報道官は9日、ウクライナへの脅威の源泉となっているロシア領内の軍事施設は、ウクライナ軍にとっての合法的な攻撃対象だと発言しました。

ホフマン第一副報道官が記者会見時に発言した。ウクルインフォルムの特派員が伝えました。

ホフマン氏は、「連邦政府は、ウクライナが行っていることは合法的だとみなしている。(中略)ウクライナは自国の領土一体性を守っているのであり、自らの攻撃によりロシア領から自国領へのあり得る攻撃を防いでいるのである」と発言しました。

同氏はまた、「ウクライナはロシアの侵略に対する防衛努力を実行する際に(その努力を)自国領に限定する義務を追っておらず、それを自国領土外でも行う権利を有している」とする独政府の見解を示し、さらに国連憲章第51条が自衛権を定めており、ウクライナは侵略を受けた国家であると指摘しました。

そして同氏は、ドイツ政府の見解では、ウクライナが行っていることは全て、ロシアの侵略への対応であると強調しました。

ウクライナ軍はロシア領内を攻撃する権利があるというウクライナのクレバ外相の発言、ドイツ政府のホフマン第一報道官の、ウクライナが行っていることは全て、ロシアの侵略への対応であるという発言の根拠はもちろん国際法だと考えられます。

国際法には戦争そのものを禁止する条約や慣習国際法が存在しますが、20 世紀に入ってから発展しました。始まりは1919 年に採択された国際連盟規約です。同規約は、国家間で紛争が生じた場合、平和的に解決することを締約国に義務付けます。

しかし、平和的に解決できなかった場合は戦争に訴えて紛争を解決することを禁止していませんでした。その後、1928 年に採択された不戦条約も戦争の違法化を追求しましたが、ここでも戦争の禁止は不完全に終わります。

国際法で戦争の完全禁止、違法化が達成されたのは第二次世界大戦後です。1945 年に国際連合の設立根拠として採択された国連憲章は、「武力による威嚇又は武力の行使」を禁止しています。これは「武力不行使原則」といって、世界中の国が遵守すべき慣習国際法としても成立しています。日本もそうです。素直に読めば、憲法9条は、国連憲章のコピーと言っても良い内容です。

ただし、武力不行使の原則が確立しているにもかかわらず、往々にして戦争が勃発してしまうことは歴史が証明しているとおりです。戦争そのものを禁止する国際法とは別に、そのひとたび発生した戦争において交戦国間の敵対行為を規制する国際法も存在します。

それが、武力紛争法で、19 世紀後半頃から発展しました。捕虜や文民等の戦争犠牲者の保護に関するもの(ジュネーブ諸条約)や、兵器等の戦闘手段・方法を規制するもの(対人地雷禁止条約、クラスター弾条約)等があります。武力紛争法は、国際人道法と呼ばれることもあります。

国連憲章のように戦争を禁止する国際法が存在していてもそれに違反する国が出てくる以上、ルールを守らせる仕組みが必要です。現代の国際社会では、武力不行使原則に違反した国が生じた場合、国連を通じた集団安全保障体制のもとでそれが予定されています。

ある国の武力行使を国連の安全保障理事会が平和に対する脅威だと認定した場合、安保理は平和を回復するために軍事的措置を含む必要な措置をとることを決定し、その後国連加盟国が集団で対応します。

しかしその決定には安保理常任理事国である中国・フランス・ロシア・英国・米国の同意が必要で、一カ国でも反対すれば決定はなされません。いわゆる拒否権の問題です。

1990 年にイラクがクウェートに侵攻して湾岸戦争が起きた際は、拒否権を行使する常任理事国がなかったため、国連の集団安全保障体制が機能しました。安保理の決定に基づき多国籍軍が展開した結果、イラクはクウェートから撤退しました。

今般問題となっているロシアのウクライナ侵攻は武力不行使原則に違反している可能性が極めて高いので、国連の集団安全保障体制が機能することが期待されます。しかし、安保理常任理事国であるロシアが拒否権を持っているため国連は行動を起こすことができず、機能不全に陥っている状態です。

なお、安保理が機能しない場合でも、国際法上ウクライナには個別的及び集団的自衛権が認められていますので、一定の要件の下でウクライナはロシアに対して武力による自衛のための措置をとることができると考えられます。

しかし、軍事力で劣るウクライナがロシアに単独で個別的自衛権を行使することは難しいと思われていたのが、今回はじめてウクライナがロシア領内の軍事目標に対して、大々的な攻撃を行ったのです。

そうして、この攻撃は国際法に合致した形で行われた模様です。今後このような攻撃が続けば、ロシアも安閑とはしていられなくなります。

今回の攻撃で破壊されたとみられるロシアの戦略爆撃機の尾翼

国連には、国際法に基づく裁判で国家間の紛争を平和的に解決することを任務とする国際司法裁判所(ICJ)が存在しますので、ウクライナ問題を司法の場で解決する方法も考えられます。しかし、ICJ の管轄権は紛争当事国双方による同意を基礎としているため、ロシアが同意しなければICJ は管轄権を行使することができません。

今年2 月にウクライナはロシアをICJ に提訴し、これを受けてICJ はロシアに対して軍事行動を停止する旨の仮保全措置命令を発出しましたが、ロシアはICJの管轄権を否定しているため、ICJ を通じた紛争解決の可能性も低いといえます。

戦争犯罪の責任者を裁いて国際の平和を回復する方法もあります。国際刑事裁判所(ICC)規程に基づき設立されたICC は、戦争犯罪等4 つの犯罪について管轄権を持ちます。ロシア軍によるウクライナの文民殺害や学校等民用物の破壊行為は戦争犯罪の構成要件に該当する可能性が高いといわれています。

仮に該当した場合、実際の犯罪行為者だけではなく、犯罪行為者を指揮する立場の者も刑事上の責任を問われることになりますので、ICC はプーチン大統領に逮捕状を出すことが可能かと思われます。しかし、ICC の捜査官がプーチン大統領の身柄を拘束するためにはロシアに入国する必要があります。ロシアがこれを許可することは考えられませんので、結局ICC で戦争犯罪の責任を追及することも難しいでしょう。

国連の集団安全保障体制の実効性が安保理常任理事国の同意に左右されること、そして国際司法の手続が関係国の同意にかかっていることに鑑みると、国際機関を通じた紛争の解決に過度に期待を寄せることはできません。

残念ですが、これが国際制度の現状で、ウクライナ問題を直ちに解決する術は存在しません。一方で、今年の3 月2 日に、国連総会でロシアを非難しウクライナからの撤退を要請する決議が採択されたことは希望ともいえます。

総会の決議に法的拘束力はないとはいえ、国連加盟国193 カ国中141 カ国が決議に賛成したという事実はロシアも無視できないでしょう。この国際的な民意はロシアの国際法の遵守にもつながりうると思います。

ロシアに否を突きつける国際世論の形成は、国の行動を決めることができる世界中の有権者の意思にかかっています。日本にいる私たちもその当事者であることを忘れるべきではありません。

さらに、軍事力で劣るウクライナがロシアに単独で個別的自衛権を行使することは難しいとみられていたものが、ウクライナは独自の方法でこれを行使することに成功したのです。

考えてみると、ウクライナはソ連の一部であったときには、兵器工場もあり、ロシアの兵器工場と、ウクライナの工場が戦車の開発競争を行ったという記録もありますし、ソ連の宇宙開発の一端を担っていたという事実もあります。

ウクライナは中国への軍事技術の提供を行い、中国の軍事技術の基礎を築いたという実績もあります。

ウクライナは発展途上国ではありますが、他の発展途上国とは異なり、ITも含む多くの産業基盤が存在しており、技術水準も高く、教育水準も高いです。そのため、戦争が始まる前には、中国人学生の手頃な留学先になっていたくらいです。

そうしたウクライナが、自前の技術力を駆使して、個別的自衛権を行使するのは、ある意味必然だったといえるでしょう。そうして、これに対してはウクライナが国際法を守った個別自衛権の行使をしている限り、いかなる国もこれに対して反対できません。

だから、ドイツはもとより、米国や西側諸国もこの個別的自衛権の行使に反対しないのです。

これに対して、ロシアが核攻撃や生物化学兵器を使用する危険が高まったとする見方もありますが、そのようなことをすれば、ロシアの国際的な地位はますます下がり、プーチンは窮地に追い込まれるでしょう。

それよりも、何よりも、ウクライナはロシアによる核攻撃や生物化学兵器の使用、特に核攻撃を未然に阻止するためもあって、ロシアの戦略爆撃機が存在する航空基地への今回の攻撃を行ったのでしょう。

今後ロシアが核兵器、生物化学兵器を用いる兆候があれば、ウクライナはこれを全力で阻止するでしょう。その警告の意味も含めて行ったのが、今回の攻撃だったと考えられます。

もう、2014年当時の軍事的に弱いウクライナは存在しないのです。元々腐敗まみれで、混乱しており、ロシアが少し脅せば、すぐに音を上げてしまうウクライナは、今や持てる技術力を最大限に生かして、ロシア国内を攻撃する強敵に変貌したのです。そうして、そうさせたのは他ならぬロシアです。

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2022年12月10日土曜日

サマーズ氏が予見、中国医療制度「壊滅的」影響も-コロナ政策転換で―【私の論評】6カ月後には、コロナ蔓延で中国はGDPで米国を追い越すと言われていたとは思えないような国に(゚д゚)!

サマーズ氏が予見、中国医療制度「壊滅的」影響も-コロナ政策転換で

「ゼロコロナ」終了に向けた動きは数十年ぶりの大きな政策転換に
中国は半年後に現在とは「極めて異なる」国になっている可能性も
    サマーズ元FRB長官

    サマーズ元米財務長官は、中国による「ゼロコロナ」政策終了に向けた動きについて、最終的に数十年ぶりの大きな政策転換になり、同国経済に極めて大きく、予測不可能な影響をもたらす可能性が高いとの見方を示した。

      サマーズ氏はブルームバーグテレビジョンのインタビューで、「どのような結果になるかはまだ分からない」と発言。「他国が受け入れている現実に中国も再び問題なく加われるのか。それとも、これにより中国の医療制度は壊滅的かつ非合法なものになるだろうか」と述べた。

      中国の保健当局は7日、新型コロナウイルス対策で10項目の新たな措置を発表。広範なロックダウン(都市封鎖)や集団隔離施設といった従来の方針から緩和した。

    習近平指導部の迅速なコロナ政策転換、中国人民の真の力を証明か 

      ハーバード大学の教授でブルームバーグテレビジョンの寄稿者であるサマーズ氏は、「中国で数十年ぶりとなる大規模な政策実験が見られることになりそうだ」と述べた。

      中国でコロナ政策の緩和が一段と進んでいることを踏まえ、エコノミストらは2023年の同国経済成長率の予想を引き上げている。JPモルガン・チェースのエコノミストは8日、経済活動の再開がスムーズに進めば5%程度のプラス成長は「達成可能」との見方を示した。

      サマーズ氏は、今後半年は中国により一層注意深く目を向けていく必要があると指摘。「6カ月後に中国が現在とは極めて異なる国になっている可能性は大きい」と語った。

    原題:Summers Sees Risk of ‘Catastrophic’ Hit to China Health System(抜粋)

    【私の論評】6カ月後には、コロナ蔓延で中国はGDPで米国を追い越すと言われていたとは思えないような国に(゚д゚)!

    サマーズ氏の予測は的中する可能性がかなり高いと思われます。その理由の一つとしては、苛烈なゼロコロナ政策に対する中国人の反発は抑えることがほとんど不可能ということがあります。

    ウルムチの火災で亡くなったカマニサハン・アブドラマンさんと3人の子どもたち

    今回のウルムチでの火事についてのSNSでの恐るべき、伝播の速度と広範さに関して、金盾で厳重にネット空間を検閲する中国政府内にそれを見逃したか、奨励した人がいるに違いないと推測する識者もいますが、実体はどうやらそうではなさそうです。

    「マラソン大会 11月27日北京時間18時 上海市太倉路のスターバックス 白い紙1枚持参 リツイート希望」

    27日、こんなメッセージが上海のネットユーザーを駆け巡ったとされています。中国で約13億人が使う中国版LINE「微信(ウィーチャット)」、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」、動画投稿アプリ「TikTok」の国内版「抖音(ドウイン)」など、様々なルートで拡散したそうです。

    この夜、少なくとも数百人が市内の通りに集まり、大学のキャンパス外では先駆けとなる大規模な抗議活動につながりました。白い紙は、言論統制への抗議を示しているとされています。

    社会の安定を最重視する中国政府は、影響力を増すネット空間の監視を強化。「グレート・ファイアウォール(ネットの万里の長城)」と呼ばれる検閲システムで海外からの情報の流入を厳しく制限しています。国内でも関係当局とプロバイダーなどが連携し、政権にとって都合の悪い書き込みなどを逐一削除しています。

    しかし、市民はその削除までの時間を日々体感し、素早い転送にも慣れています。メッセージは、デモを呼びかけていると当局が察知しない間に驚異的なスピードで拡散し、削除前に広く共有されたとみられます。

    海外サーバー経由でネットに接続できる仮想プライベートネットワーク(VPN)を使い、ツイッターのように中国国内では規制されるアプリを使っている人たちも、若者を中心に少なくないです。規制の外にあるネット空間を使った中国人同士による情報交換も、拡散につながった模様です。

    そうなると、中共としては、苛烈なゼロコロナ政策に反対するデモは、押さえつけるのはかなり難しいと判断したでしょう。

    建国以来毎年数万件発生しているとみられる、中国では通常の暴動はもとより、比較的大規模であった天安門事件や、いつの間にやら反政府デモになってしまう反日デモ、香港の反政府デモであっても、軍事力等を背景に中共はこれを弾圧することに成功しました。

    しかし、今回のように非常に広範囲で、同時に起こるデモに対しては、弾圧しようがなかったみえます。

    香港民主化デモに対する弾圧

    中共としては、デモを弾圧する上で、苛烈なゼロコロナ政策を継続すべきか、それともデモが起らないように、ゼロコロナ政策を緩めるかの選択に迫られたものとみられらます。中共としても、苦渋の決断だったと思います。

    そうして、結局ゼロコロナ政策を緩める方向に舵を切ったとみられます。ただ、これは国民の要求に耳を傾けたなどのことではなく、ゼロコロナ政策の限界を感じたことと、暴動が頻発するくらいなら、コロナが蔓延して、暴動が起らないようにしたほうが、中共にとっては、得策であると判断した可能性があります。

    新型コロナウイルスを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策を突如緩和した中国には今後、難題が控えています。感染者の急増が見込まれ、死者は200万人を超えるとの予測もあります。

    世界最大の人口を抱える中国は、厳格なコロナ対策の柱だった全員検査やロックダウン(都市封鎖)、集中隔離を次々と取りやめました。ところが、一連の緩和策で生じる爆発的な感染拡大への対応に備える時間はほとんどありませんでした。一部の推計によれば、ピーク時には1日当たりの感染者が計560万人に上る可能性もあります。

    米欧で起きたもぐらたたきのような感染拡大パターンとは異なり、コロナに今までさらされてこなかった市民が多い中国では感染の波が一挙に襲ってくる公算が大きいです。

    このため、中国がコロナ感染症を受け入れるなら、パンデミック(世界的大流行)でこれまで見られなかったようなことが今後起きると考えられます。

    相次ぐ欠勤で工場の操業に支障が生じるほか、病院は重症者であふれ、感染拡大を受けて住民は自宅にこもることを余儀なくされ、科学や経済の専門家は混乱が迫っているとの見方を示す。ロンドン拠点の調査会社エアフィニティの推計によると、香港のオミクロン株の経験を基に、130万-210万人が命を落とす恐れがあるといいます。

    ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)教授で、公衆衛生担当の最高戦略責任者を務めるアリ・モクダッド氏は「ほぼ同時に全国的に広がるだろうが、密集度から見てまず都市部、それから農村部となりそうだ」と分析。「今から1カ月後、感染者は非常に多くなり、その2週間後に死者が急増するだろう。現在の状況に戻ることはない」としています。

    この予測に基づくと、感染者のピークは来年の春節(旧正月)連休に近くなる可能性があります。


    上の写真は、寒さのためひとけのない春節のショッピングセンターで、大量の風船を手にひとりすわる人の写真です。この写真が2016年には、中国のSNSで「さびしい」と話題になりました。「#さびしい」とハッシュタグをつけられ、拡散されました。来年の春節には、このような風景があちこちでみられることになるかもしれません。

    日本では、中国のアウトバウンドを期待するむきもあるようですが、おそらく無理でしょう。多くの人が、感染を恐れて、海外旅行どころではなく、外出することすらためらうようになるでしょう。

    こうなると、国民はデモどころではなくなります。中共の指導層は自分たちは、米国製ワクチンや薬を確保するとともに、自らを一般人から隔離する体制を強化しつつも、できるだけ安寧な生活ができるように準備して、医療体制も整え、大きな嵐が過ぎ去るのを待つつもりなのかもしれません。

    全体主義国家の中共を甘く見るべきではありません。経済がどうなろうと、自国民が多数命を失おうが、体制を守り通そうとするのが彼らです。

    以上のようなことを考えると、サマーズ氏の「6カ月後に中国が現在とは極めて異なる国になっている可能性は大きい」という予測は的中する可能性が高いです。

    サマーズ氏は、8月の時点で、サマーズ元米財務長官は中国が経済規模でやがて米国を上回るとの予測を巡り、ロシアや日本が米経済を上回るとした過去の外れた予言と相通じる部分があるとの見解を示していました。

    サマーズ氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「半年ないし1年前の時点では、中国が将来のある時点において実勢為替レートで見た国内総生産(GDP)で米経済を追い抜くというのが自明と受け止められていた」とした上で、「今ではそれほど明確ではない」と述べました。

    サマーズ氏は「1960年代のロシア(旧ソ連)や90年代の日本について語られた経済予測を振り返った場合と同様に、2020年時点の中国に関する幾つかの予想に関しても振り返ることになるのではないか」と話しました。

    サマーズ氏は中国が抱える次の「さまざまな」課題を列挙しました。
    • 対GDP比での巨額の債務残高
    • 将来の成長を主導するダイナミクスが何か明確でない点
    • 一段と広範な民間企業への共産党の関与拡大
    • 労働年齢人口の縮小や総人口に占める高齢者の割合増加といった人口動態のパターン
    6カ月後には、中国は国内生産(GDP)で米国を追い越すと言われていた国とは思えないような国になっている可能性が高いです。



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    2022年12月9日金曜日

    旧統一教会問題めぐる被害者救済法案の成立に向け注目、国民民主党の動向 「新・与党化」に公明党反発も―【私の論評】岸田クライシスで新たな政局が生まれる(゚д゚)!



    国民民主党玉木代表

     世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受けた被害者救済新法が閣議決定された。野党には「救済につながらない」との声もあるが、実効性や問題点について考えてみたい。

     現行の消費者契約法は、霊感などによる告知を用いた勧誘に対し取り消し権がある。今回の被害者救済法案では、消費者契約法の改正により、この取り消し権の対象拡大、期間延長がなされている。

     政府案では不退去、霊感などによる告知などにより困惑して寄付した場合を禁止行為とし、取り消しができる。期間は追認できるときから1年(寄付から5年)である。被害防止策として、禁止行為、借入・自宅売却などによる資金調達要求に対し勧告、命令ができ、刑事罰を科すことができる。

     一方、立憲民主党と日本維新の会の法案も、不当拘束、霊感などによる告知、マインドコントロールを手段の悪質性として取り消しができる。また、寄付は可処分所得の4分の1を目安としている。期間は追認できるときから5年(寄付から20年)である。手段の悪質性や可処分所得の4分の1を超える寄付に対し勧告、命令ができ、刑事罰を科すことができる。

     こうしてみると、政府案と立民・維新案はかなり似通っている。

     立民・維新は「政府案は全く不十分」というが、そこまでではないだろう。行政の方でしっかりと権限行使すればその差はかなり少なくなるはずだ。

     しかし、可処分所得の4分の1などの微妙な差があるのは事実だ。それは、政府案が公明党に配慮したからだろう。もし実質的な差がなくても、政治的には差があると主張されてしまうのは政府案の弱みだ。岸田文雄政権が、被害者救済法案を提出しても、支持率が回復する気配は乏しい。

     岸田政権は支持率低迷に苦慮しているので、政権運営のカンフル剤として、自民党が公明党との連立政権に国民民主党を加える案を検討しているとの一部報道が出ている。もし国民民主党が与党入りするのであれば、年明けにも内閣改造があるだろう。

     国民民主党は、2022年度当初予算や第2次補正予算に賛成しており、今回の被害者救済の政府法案についても評価している。このため、野党からも、国民民主党は既に与党化しているので、与党入りするほうがスッキリしているという声もある。連立を組んでいる公明党は、早速「わが党にメリットはない」と反発している。

     こうした動きもあるので、被害者救済法は政府案を一部修正し、自民、公明、国民民主の賛成で、成立する公算が大きい。政治的には、立民・維新の要求を全面的にのんで政治的な手柄を与えるわけにはいかないからだ。公明党を刺激しない程度の救済法になっているので、実効性はまったくないわけでもないといったところだろう。

     万が一、国民民主党を加えた「新・与党」になった場合、これまでかなりの部分でほごにされてきた中国非難決議が、良い方向に変わるかどうかが注目だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

    【私の論評】岸田クライシスで新たな政局が生まれる(゚д゚)!

    “わが党にメリットはない”と国民民主党の連立入りに反対する中国共産党の代弁者・公明党。媚中・公明党にメリットがないということは、日本国にとって大いにメリットがあるということです。

    自民党は、公明党との連立を解消し、国民民主を迎え入れて、真の国民政党になるべきです。国民の次は維新を入れ、公明を連立離脱させ憲法改正の体制を整えてるべきです。ただ、維新に関しては、媚中議員も多いので、要注意です。維新のこれらの議員が力を増せば、公明党と変わりないということにもなりかねません。

    公明党山口代表

    ただ、公明党は党そのものが、中国を代弁するような党です。国民の生命・財産、そして領土を守る為の憲法改正等に中国の代弁者など、不要です。“救済新法”も骨抜きになってしまい、自民の一体誰が公明との連立を維持したいのかわかりません。

    国民民主党は、上の記事にもある通り、2022年度当初予算や第2次補正予算に賛成しており、今回の被害者救済の政府法案についても評価しています。

    拉致問題国際セミナー(参議院議員会館)においては、国民民主党は玉木雄一郎代表が挨拶し、岸田・バイデン間では安倍・トランプ間のような強さで拉致問題が取り上げられていない。具体的に戦略を立てて日米首脳会談に臨むべきと語りました。全くその通りです。その通

    衆議院で採決された被害者救済法案。成立に向けて与党と協議をしていたのが国民民主党です。

    玉木代表は、「あまり報道していただけませんでしたが、私たち国民民主党も1ヵ月以上にわたり与党と協議を行い、20項目近い提案を法案に取り入れてもらいました。その結果が今回の新法です。特に、家族への配慮義務を創設し、それに基づき家族が『当事者として』損害賠償できる枠組みは、国民民主党からの提案です」と、胸を張りました。

    これこそが建設的な野党のあり方です。批判ばかりと言われる政党もやり方を見習うべきです。

    自民党内でもいわゆる反岸田勢力の「岸田離れ」は収まらないですが、それが目立った「岸田降ろし」の動きにはつながっていません。それだけに、“辞任ドミノ”を抱えながらなんとか臨時国会を乗り切れた岸田首相にとって、「連立組み直しはさらなる政権弱体化につながる」との見方もあります。

    岸田首相は「年内に問題閣僚などを更迭するミニ改造を断行できれば、政権は当分安泰との考え」ているとも言われています。臨時国会閉幕と2023年度予算案の策定作業が軌道に乗れば、「今回の国民与党化の風説は、師走の寒風に吹き流されて消える」との声もあるようですが、はたして本当でしょうか。

    私は、今回の支持率低下は、「ミニ改造」をしたくらいでは、収まらないと思います。特に大反発しているのは自民党サイドで、防衛増税など容認できるわけがないということでまとまっています。

    防衛3文書の議論と税制改正の議論が並行して進んでいたので、官邸が増税というところで結論付けてしまい、自民党税調に回されてしまえば、自民党税調の宮沢洋一会長は財務省のひも付きですから、そこで増税を決められてしまうのではないかという相当な危機感があったようです。

    この防衛増税への反対の動きについては、なぜかほとんど報道されません。本日、自民党で行われた会合では、怒号が飛び交う展開となりました。その理由は、きのう岸田総理が表明した、「約1兆円強については国民の税制で、ご協力をお願いしなければならない」という発言です。

    これに党内から批判が噴出したのです。

    西田昌司政調会長代理は、「財源的には国債でいいんです。全く問題ないわけ」。柴山昌彦衆院議員「増税ありきで無理やり決めていこうというふうにしか思えない」。と発言しています。


    「増税ありき」と批判されるのは理由があります。政府は防衛費を来年度から段階的に増加させ、2027年度には今より4兆円程度増やす考えです。

    財源には歳出改革や剰余金の活用などを優先的にあて、それでも不足する1兆円強を増税で賄うとしています。

    しかし、歳出改革の中身については鈴木俊一財務大臣は、「具体的な内容の検討を今行っている最中でありますので、年末に向けて、さらに詰めていきたい」というばかりです。

    牧原秀樹衆院議員「きょう、わずか数ページの資料と言えないような資料が出てきて、それを増税でやるんだみたいな議論をするのは拙速である」と発言しました。

    マクロ経済や防衛にも疎い、自民党議員の中には、岸田首相に賛成する議員もいることはいます。ただ、これらの議員は財務相の片棒を担いでいるだけで、判断能力にも欠け、実務レベルではほとんど評価されない議員です。

    これらの議員が、権力闘争だけ強みを発揮するとは考えにくいです。無論二階氏のような例外もいますが、さりとて、今後の政局の大きな台風の目になるとは考えにくいです。

    以前にも述べたように、現状は、岸田政権の暴走により、安倍元総理支持者を中心とする保守岩盤支持層が離れてしまっています。特に、防衛増税ほど、まともな保守の憤怒のマグマを煮えたぎらせたことはないでしょう。防衛増税をして経済が落ち込めば、安全保障にも悪影響がでてきます。これでは、いつ岸田首相に向かって怒りのマグマが大噴出するかわからない状況です。

    そのような自民党にとって、喫緊の課題は以前もこのブログで主張したように、離れてしまった保守岩盤支持層の支持を急いで取り戻すことです。それには、岸田首相が退き新たな首相のもとで、出直すということも考えられます。

    ただ、現在ポスト岸田で名前の挙がっているのは茂木、河野太郎、林では、これは全く無理です。最近では、さすがに、あまりにもグレートアフォーすぎる、小泉進次郎や石破の名前はあがらなくなりましたが、それにしても、この三人では、保守岩盤支持層は全く納得しないでしょう。いくら、派閥の力学でそうなったといわれたとしても、これでは岸田首相のほうがましです。

    これらのうちの誰が、ポスト岸田になったとしても、保守岩盤支持層は、これを支持しないでしょう。岸田政権並か、それ以下に支持率が下がることさえ予想できます。


    であれば、岸田政権は継続するものとして、国民民主との連立をするという選択肢は、かなり有望であるとみられます。国民民主の玉木代表は、財務省出身であり、連立が成立すれば、岸田首相にとって強力な財務省対策にもなるものと考えられます。何よりも、玉木氏が、安倍元総理のようにマクロ経済を理解しているとみられるところが頼もしいです。

    そうして、まともな経済対策や、防衛費の嵩上げ、憲法改正論議等を行うようになれば、岩盤支持層も納得するでしょう。

    そうして自民党は黄金の三年間を利用して、次の政権の形を模索すれば良いのです。その間に若手を育成して、総理になり得る人物を育て上げるべきでしょう。

     国民民主党は、是々非々で物事をすすめる方向性で、どんどん健全かつ現実的な党になりつつあります。ぜひ、このままブレないで今のスタンスを貫いてほしいです。それができれば、公明党を排除して与党入りすることも十分ありえると思います。

    岸田クライシスで、新たな政局が生まれつつあるようです。安倍政権や菅政権が続いていれば、保守岩盤支持層は満足したかもしれません。しかし岸田政権が生まれたことにより、様々な日本の課題・問題点が浮かびあがり、それが新たな政局を生み出し、良い方向に向かう可能性もでてきました。

    安倍元総理がご存命であれば、岸田政権に睨みを利かし、良い方向に導かれ、岸田政権はそれなりの支持率を維持できたかもしれません。安倍元総理が亡くなってしまった現状では、自民党は核を失い、どんどん悪い方向に向かってしまう可能性がでてきました。そこに、国民民主との連立の可能性もでてきたわけです。これは、今すぐということではなくても、日本の政治に新たな風を吹き込むことになるかもしれません。

    党派、派閥を超えて、保守系議員の方々はこの流れを加速・強化していただきたいです。

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    2022年12月8日木曜日

    「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」習近平政権に衝撃与えた国歌斉唱…「北京でデモ」という事実の大きさ―【私の論評】中国独自の民主化推進の火種を灯したか?中国の「白紙革命」(゚д゚)!

    「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」習近平政権に衝撃与えた国歌斉唱…「北京でデモ」という事実の大きさ


    北京市で“反ゼロコロナ政策”の抗議デモが起きた11月27日の夜、私はSNSに投稿された動画などから情報を入手し、午後9時過ぎに現場に到着した。当初はそこまで人も集まっておらず、一部の人たちが声を上げていたという状況だった。

    【画像】11月28日以降、北京のデモ現場では大量の警察車両が警戒にあたる

    しかし、徐々に人は増え始め、日をまたいだ28日の午前1時過ぎには歩道から車道にまで溢れかえっていた。

    それは私が北京に赴任して1年あまりの生活で、初めて見る光景だった。

    1000人を超える市民が、目の前にいる警察に臆することなく「マスクはいらない!PCR検査はいらない!自由が欲しい!」と、繰り返しその主張を口にしていた。そして、手にはデモの象徴である「白い紙」を持っていた。

    ある中国人は私に対し「このデモの光景は中国では流れない。あなたたち外国メディアによって世界に報じて欲しい」と強く語った。

    繰り返された国歌斉唱

    北京市のデモでは、参加者らによって中国の国歌「義勇軍行進曲」が繰り返し歌われていた。

    中国の国歌には、勇ましいメロディーの冒頭に「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」という歌詞がある。デモに参加した市民は、「この歌はまさに今の私たちのためにある。今立ち上がらなければ私たちは国家の奴隷になってしまう」と話した。参加者らは自分たちを鼓舞するかのように、何度も「立ち上がれ!立ち上がれ!」と繰り返し強く歌っていた。

    皮肉にも、国が行う政策に抵抗するために、国歌が歌われていたのである。

    一方で、北京で行われたデモにはある特徴があった。

    上海のデモで聞かれた「共産党退陣!」「習近平退陣!」という現体制を直接批判し、習近平国家主席の退陣を求めるような過激な要求は、北京では起きなかったのだ。

    参加者の中には「レッドライン(越えてはならない一線)」を意識していたと思われる動きもあった。あるデモ参加者が興奮して、歴史的誤りとされた文化大革命とゼロコロナ政策を重ねて「文化大革命2.0を終わらせろ!」と大声で叫んだとき、別の参加者から「そういうことを言ってはいけない。私たちの訴えはこの不合理な防疫政策をやめさせることだ」と止める場面もあった。

    また、デモ参加者に対する警察当局の対応も、車道にはみ出た場合のみ「歩道に戻りなさい」と注意を促すだけで、警察当局が強権的な取り締まりをすることはなかった。警察当局は、力による抑え込みはしないように指示を受けていたとみられる。デモは、最終的には警察に促される形で解散となった。

    デモは「怖くない」とは言えないが…

    北京のデモ参加者は、取材に対して次のように答えた。

    ――なぜ、このようなデモが行われた?

    新型コロナが発生してからの3年間、中国人は何も話せません。そして生活は今も大きな影響を受けています。

    ――手に持っている「白い紙」にはどのような意味がある?

    この白い紙には「中国では何も話せない」という意味があります。この現実を表すものとして私たちは持っています。

    ――警察がいる前でデモをすることは怖くないか?

    北京のみんなは今日初めてここに集まりました。私には仕事があるし、妻もいるし家族もいます。だから「怖くない」とは言えません。でも私は自由が欲しい。普通の生活が欲しい。今の中国はおかしくなっています。ゼロコロナ政策は愚かな政策。私はこの国を守りたいのです。

    また別のデモ参加者は「私たちはゼロコロナ政策の全てを否定しているわけではない。過剰な政策のやり方を批判しているだけだ」と語った。

    「北京でデモが起きた」という事実の大きさ

    デモが行われてから1週間が経ち、ゼロコロナ政策の緩和とみられる動きが各地で起きている。封鎖されていた住宅や商業施設や飲食店などが開放され、48時間以内の陰性証明がなければ乗れなかった地下鉄やバスも通常に戻った。

    こういった動きに対して、日中外交筋の関係者は「やはり首都北京でデモが起きたという事実は大きかった。あの日を境にして厳格なゼロコロナ政策の風向きが変わった」と語る。その上で次のようにも指摘する。

    「共産党政権にとっては、市民がデモを行えば要求が通るとは思わせてはいけない。今、北京では表向きは当局の締め付けは穏やかに見えるが、水面下では厳しく締め付けを行っている」

    実際、北京のデモに参加した人の元に警察から直接連絡が入り、24時間取り調べを受けたという報告もある。デモ翌日にはSNS上で「北京で再び集まろう」という呼びかけのメッセージが拡散したが、実現することはなく、11月28日以降は中国で“白紙革命”は起きていない。

    一方で、中国に端を発した“白紙革命”は世界中に広がった。日本や韓国、アメリカなど少なくとも12都市で抗議集会などが開かれている。

    「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」。厳しいコロナ対策で自由が奪われることを「奴隷」にたとえ、人々が立ち上がった。今後、中国はどうなっていくのか。中国北京にいる特派員の1人として、この歴史をしっかりと取材し報じていきたい。

    【執筆:FNN北京支局・河村忠徳】

    河村忠徳

    【私の論評】中国独自の民主化推進の火種を灯したか?中国の「白紙革命」(゚д゚)!

    以下に中国の国歌の動画をあげさせていただきます。この動画には、歌詞の訳もつけられています。


    この動画では、「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」の部分は意訳されており「立ち上がれ!支配されるのを望まない人々よ!」となっていますが、中国語の元の意味では、「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」により近いです。

    ただ、「支配されるのを望まない人々よ!」としても、この歌詞はすごい意味になります。まさに、中国共産党一党支配に反対する歌詞になります。

    以下に歌詞の中国語と、その翻訳をあげます。

    歌詞の意味・和訳(意訳)
    起来! 不愿做奴隶的人们!
    把我们的血肉,筑成我们新的长城!
    中华民族到了最危险的时候
    毎个人被迫着发出最后的吼声

    いざ立ち上がれ 隷属を望まぬ人々よ!
    我等の血と肉をもって
    我等の新しき長城を築かん
    中華民族に迫り来る最大の危機
    皆で危急の雄叫びをなさん

    起来! 起来! 起来!
    我们万众一心,
    冒着敌人的炮火,前进!
    冒着敌人的炮火,前进!
    前进! 前进! 进!

    起て!起て!起て!
    万人が心を一つにし
    敵の砲火に立ち向かうのだ!
    敵の砲火に立ち向かうのだ!
    進め!進め!進め!
    1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家、中華人民共和国。建国当初は暫定的な仮の国歌として、抗日映画「風雲児女」の主題歌である『義勇軍進行曲(行進曲)』の使用が人民会議で決定されましたが、その後も結局正式な国歌は制定されず今日に至っています。

    1934年の夏に司徒逸民、龔毓珂、馬德建らの左派系文化人が集まって作った電通影片公司という映画会社が「風雲児女」の制作会社である。同社は1935年末に解散するまでに「桃李劫」「風雲児女」「自由神」「都市風光」の四本の作品を世に送り出していて、「風雲児女」は会社が創立されてから2本目の作品でした。

    1930年代に制作された上海映画の作品群の中では一際影響が大きく、主題歌の「義勇軍行進曲」は 瞬く間に全国で歌われるようになり、後に中華人民共和国の国歌になりました。

    これについては、ある方が以下のようツイートされています。
    1966年から1976年まで続いた文化大革命の最中においては、作詞者の田漢が迫害され、『義勇軍進行曲(行進曲)』の歌詞なしの演奏行われたものの、歌詞は歌われなくなりました。代わりに同時期には毛沢東を讃える『東方紅(とうほうこう)』が事実上の国歌となりました。

    学校や職場では『東方紅』が朝一番に必ず斉唱され、ラジオ放送では『東方紅』で始まり、革命歌『インターナショナル』で締めくくられる構成が日常となりました。一説には、むしろ『インターナショナル』の方が第一国歌的な扱いを受けていたとの評価もあるようです。

    文化大革命の終結後(1978年)は『義勇軍進行曲(行進曲)』に新たな歌詞がつけられ、毛沢東や中国共産党を讃える政治色の強い国歌として数年間歌われました。

    1982年12月4日の第5期全国人民代表大会第5回総会において、田漢が作詞した歌詞が再び国歌として決定されました。その後、2004年には中華人民共和国憲法が改正され、『義勇軍進行曲(行進曲)』が中国の正式な国歌であることが明記されました。

    この国歌、普通の国の国歌とは異なり、いわく付きのものだったのです。しかも、歌詞には「いざ立ち上がれ 隷属を望まぬ人々よ!」という下りもあります。この歌は、もともと反日プロパガンダ映画の中にでてくるものというのが、いかにも皮肉です。

    北京の反コロナデモで、この歌が歌われていたとは知りませんでした。そうして、この事実は、以前私がこのブログで主張していたことを裏付けるものかもしれません。その記事のリンクを以下に掲載します。
    中国「白紙革命」の行方―【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

    詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
    今回の「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えができあがりつつあります。

    ただ、これを理念と呼ぶには、まだ次元の低いものです。恐怖・憎悪の念は一時的には、多くの人の共感を呼びますが、それだけでは、一時的にも恐怖や憎悪が収まれば、消えてしまいかねません。プーチンは、NATOに対する恐怖や憎悪の念で、国民をまとめ、高支持率を獲得しましたが、その目論見はウクライナ侵攻では、裏目にでています。

    「理念」は「物事に対して“理想“とする”概念“」のことで、「こうあるべき」というベースの考え方を指すものです。 企業では、会社の方針や社員に求める行動指針などを表現する時によく使われます。

    中国においても、この恐怖・憎悪の念がいずれ誰かによって昇華され、中国国民であれば、誰もが共感できる「理念」に変わっていくかもしれません。国民国家には、「こうあるべき」という規範が必要なのです。

    その誰かは、まだ見えてきません。ただ、この共通の理念となるかもしれない中国共産党に対する多くの中国国民の恐怖・憎悪の念は、容易なことでは覆されることはないでしょう。なせせなら、これは従来とは異なり、立場や社会的地位を乗り越えてかなり多くの中国人に共有されることになったからです。

    中国は、社会階層や貧富の差、民族、宗族、地域差、文化、言語などが異なる全くバラバラの集合体であり、 中共はこれを人為的に、軍事力などを背景に無理やり一つにまとめてきました。その中国で、おそらく初めてとも言って良い、中共に対する恐怖・憎悪の念で多くの人々が一つにまとまったのです。

    西欧の近代主義的考え方も、最初は今でいえば、先制主義的な、領主、国王などに対する恐怖や憎悪の念から、自由への渇望などが生まれ、恐怖・憎悪の念が、理想や規範の次元に高められ、現在の民主主義などの考え方にまで昇華されて現在に至っているのです。

    北京の人々が、ゼロコロナ政策に反対するために、元々は抗日プロパガンダ映画の主題歌であった『義勇軍進行曲(行進曲)』を歌ったというのですから、これは先に述べたように、歴史の皮肉と言わざるを得ません。

    中国では、似たようなことが以前もありました。いわゆる2012年あたりに、過激になった反日デモです。この反日デモは、最初は官製デモともいわれていたのですが、その後政府の規制もあって、現在ではほとんど実施されることはなくなりました。

    なぜ、政府が規制するようになったかといえば、ほとんど全部の反日デモが必ずといって良いほど、反政府デモになってしまったからです。中には、最初から反政府デモを行うつもりでありながら、反政府デモということでは届けを出しても許可されないどころか、弾圧されるので、愛国反日デモを行うとして届けを出して、実際には反政府デモを行うという人たちもでてきました。

    だから、政府は反日デモの規制に乗り出したのです。さらに、政府は、反日サイトの規制にも乗り出しました。こちらのほうも、反日サイトと謳っておきながら、いつの間にか、反政府の書き込み等がふえ、反政府サイトになってしまうことがほとんどだったのです。

    ただ、こうした反政府の動きは、結局政府によって弾圧されてしまいました。反政府とはいっても、これは中国共産党中央政府に向けられたというよりは、地方政府に向けられたものが多かったとみられ、中国全土で同時に中共に向けて行われたものではなかったので、何とか弾圧できたのでしょう。

    中共は、苛烈な香港デモも鎮圧してしまいました。いくら苛烈であっても、全国レベルではなく、地域レベルのデモということであれば、中共も余裕をもって鎮圧できるとみえます。

    天安門事件も、元々は学生が起こしたものであり、学生というと、当時の学生は数が少なく、いわゆインテリ中のインテリであり、一般の人でもデモなどに共感する人はいましたが、当時の中国は極度に貧しく、同調する人がいたとしても、多くの人は生活が精一杯で何もできなかったというのが実状でしょう。

    中国の公の歴史から消された天安門事件

    だから、多くの死傷者を出しても中共はこれを弾圧して、なきものにすることができました。天安門事件は今や歴史から抹殺され、若者では知る人もあまりいないくらいです。

    しかし、今回の「白紙革命」は違います。多くの中国人が、一度に様々な違いを乗り越えて、中共に対する恐怖と憎悪の念を共有して、時を一つにして、中共に対して、反対の声をあげたのです。今回は、貧しい人たちも、富める人々も、命の危険すら身近に感じ、恐怖と憎悪に耐えかねて、反対の声をあげざるをえなかったのでしょう。

    中国からの情報は少ないので、以上のようなことは推測の域を超えていないのですが、それにしても、この推測はかなり当たっているものと思います。

    なぜなら、中国政府は、「ゼロコロナ」政策に対する抗議デモ後に、新型コロナウイルスの防疫対策を「自分で身を守る」方針に急転換したからです。これは、従来の中国では考えられないないことです。

    天安門事件も、反日デモも、香港のデモも力で弾圧した中共が、コロナ対策の方針を変えたのです。これは、やはり、今回のデモは従来のものとは、異質であり、これを従来のように強硬に弾圧すれば、これに対する反動はとてつもないことになると判断したからだと考えられます。

    おそらく、従来中国共産党を支持してきた、富裕層などからも反発・離反されたのでしょう。ただ、習近平は現代の中国を毛沢東時代の中国に戻そうとしているのですから、多くの中国人は、これからも中共や習近平に対して、恐怖と憎悪の念を持ち続け、いずれ中国人の多くが共有できる理念を生み出す人物が出てくると思います。

    できれば、大陸中国にも台湾の李登輝先生のような人物がでてきて、大きな内乱を起こすことなく、中国独自の民主化を推進していただきたいものです。

    安倍晋三氏(右)と握手を交わす李登輝氏=2010年10月、台北市

    今回の「白紙革命」により、中国にそれに向けて芽が出てきたのは間違いないと思います。中国国民にはこの芽吹きを醸成して次元を高めていただき、私達日本をはじめとする他の民主国も、この芽吹きが醸成されるのを、見守り、支援していくべきです。

    ただし、日本はもとより、米国などの西欧諸国も自分たちの価値観を押し付けることなく、台湾がそうであったように、中国独自の民主主義が醸成されるのを注意深く見守っていくべきと思います。

    それにしても、中国、ロシア、北朝鮮などの全体主義国家が、世界秩序に挑戦しつつある現在、中国にこうした芽が生まれてきたのは喜ばしいことだと思います。中共であっても、中国の多くの国民が時を一にして、共通の念を持って、反対の意思表示をすれば、その行動を変えうることを知ったことは、まことに大きな出来事であったといえます。これは、中国に真の国民国家が生まれるきっかけになり得ることを示したと思います。

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    2022年12月7日水曜日

    ロシア空軍基地爆発相次ぐ プーチン政権 事態深刻に受け止めか―【私の論評】ウクライナ戦争は、双方の弾薬不足等で塹壕戦になりかねない(゚д゚)!

    ロシア空軍基地爆発相次ぐ プーチン政権 事態深刻に受け止めか


    ロシア国内の複数の空軍基地で起きた爆発をめぐり、プーチン政権は、ウクライナとの国境から遠く離れた基地が攻撃された事態を深刻に受け止めているものとみられ、ロシア側の今後の対応が焦点です。

    ロシア中部と南部の空軍基地で5日、爆発が相次ぎ、ロシア国防省は、ウクライナ側が無人機を使って、駐機中の軍用機に攻撃を仕掛けたと主張しました。

    また、6日には、ウクライナと国境を接するロシア西部の飛行場に近い石油施設が、無人機による攻撃を受けたと、地元の州知事がSNSで明らかにしました。

    ウクライナ政府は、これまでのところ公式な発表を出していませんが、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは6日、ウクライナ政府の高官が、3つの攻撃は、すべてウクライナの無人機によるものだと認めたうえで「非常に成功し、効果的だった」とコメントしたと伝えています。

    この無人機について、ロシアの複数のメディアは、ソビエト時代に製造された偵察用の無人機を改良したものだとする見方を伝えています。

    ロシアの新聞「イズベスチヤ」は7日、「空軍基地は、いずれも強力な防空システムが機能しているはずだが、当時、ウクライナの新兵器の攻撃を撃退する準備が万全だったとは思えない」と疑問を呈しています。

    また、独立系のネットメディア「メドゥーザ」は7日、国境から600キロ以上離れた基地が攻撃されたとしたうえで「局面の大きな分岐点だ。ロシア軍は、ウクライナの前線と国境だけでなく、ロシア領の奥深くまで防空網の構築に対応する必要に迫られている」と伝えるなど、プーチン政権にとって打撃になるという見方も出ています。

    こうした中、プーチン大統領は6日、安全保障会議を招集しました。

    ロシア大統領府の報道官は、一連の爆発を受けて、急きょ対応を協議したことを示唆していて、政権が今回の事態を深刻に受け止めているものとみられ、ロシア側の今後の対応が焦点です。

    ウクライナ大統領府顧問 関与を示唆するツイート

    ロシアの空軍基地で5日、爆発が相次ぐ中、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、5日の夕方、ツイッターに「地球が丸いことは、ガリレオによって発見された。しかし、クレムリンでは天文学を研究していないのが残念だ」などとしたうえで、「他国の空域に何かを発射すれば、遅かれ早かれ飛行体は発射地に戻ってくる」と投稿しています。

    これについて、ウクライナのメディアは「ウクライナ政府は、基本的にロシアの領土内への攻撃についてはコメントはしないが、攻撃の報告を受けたあとのポドリャク大統領府顧問の投稿によって、間接的に確認されている」として、ウクライナ政府の関与を示唆する形で伝えています。

    また、アメリカのワシントン・ポストは6日、ウクライナ政府高官が、3つの攻撃はすべてウクライナの無人機によるものだと認めたうえで「非常に成功し、効果的だった」とコメントしたと伝えています。

    “ロシアの核戦力の拠点として重要な場所” 英有力紙


    5日に爆発が起きたのは、ロシア中部と南部の2つの空軍基地です。

    一つは、ロシア中部のリャザンにある空軍基地です。首都モスクワから南東におよそ200キロ、ウクライナの首都キーウからは、およそ800キロ離れています。

    ロシアの国営通信は、燃料を積んだ車が爆発し、3人が死亡し5人がけがをしたと伝えています。

    もう一つは、ロシア南部サラトフ州のエンゲルスにある空軍基地で、ウクライナの首都キーウからは1000キロ以上、ウクライナ東部の国境からは、およそ500キロ離れています。

    ロシアの複数の独立系メディアは、長距離戦略爆撃機ツポレフ95、2機が損傷したほか、兵士2人がけがをしたとしています。

    イギリスの有力紙ガーディアンは、この空軍基地には核兵器貯蔵施設があり、ウクライナへの空爆の拠点としてだけでなく、ロシアの核戦力の拠点としても、重要な場所だと伝えています。

    また、6日には、ウクライナと国境を接するロシア西部クルスク州の知事が、州内の飛行場近くにある石油施設が、無人機による攻撃を受けたと明らかにしています。

    ロイター通信によりますと、攻撃を受けたのは、ウクライナとの国境から90キロほどの場所にある施設で、映像では、石油の備蓄施設とみられる建物から炎と煙が勢いよく上がっている様子が確認できます。

    【私の論評】ウクライナ戦争は、双方の弾薬不足等で塹壕戦になりかねない(゚д゚)!

    以上のような記事をもって、マスコミはウクライナが大勝利と報道していますが、それは本当なのでしょうか。私は、まだ2つの点から慎重になるざるを得ません。

    まずは、一つ目はロシアのミサイルが枯渇ということが語られていますが、ウクライナも枯渇傾向にあるのは間違いないです。

    なぜなら、米国自体が枯渇傾向にあるからです。今年6月には、ウクライナ東部でロシア軍との激戦が続く中、ウクライナ側の弾薬不足が急速に深刻化していました。主力である旧ソ連型兵器の砲弾が払底、ロシアとの火力差は10対1に悪化したとの情報もありました。

    米欧は相次ぎ高性能兵器供与を決めたのですが、前線配備や訓練に時間を要していました。ロシアによる東部ルガンスク、ドネツク2州制圧阻止に間に合うかどうか微妙な情勢ともいわれていましたが、これには何とか間に合わせることができたようです。

    ただ、米国は、ロシア軍の侵攻と戦うウクライナにとって不可欠な弾薬を供与していますが、生産ペースが消費に追いついていないことから、10月には近く一部の弾薬を提供できなくなる見通しとも言われていました。現状のウクライナ軍は、自分たちで備蓄している弾薬を用いている可能性があります。

    米国はウクライナに対する最大の武器供給国となっており、これまでに168億ドル(約2兆4500億円)以上の軍事支援を行ってきました。だが米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン氏は最近の分析で、一部軍需品の備蓄量が「戦争計画や訓練に必要な最低レベルに到達しつつある」と指摘。侵攻前の水準まで補充するには数年かかるとの見方を示しました。

    米デラウェア州の空軍基地で、ウクライナに向けた兵器や弾薬を準備する兵士ら

    米国は、ウクライナ紛争から教訓を学んだようです。それは、必要な弾薬数は予想より「はるかに多かった」ことです。

    米国では1990年代、ソ連崩壊を受けた国防費の削減により、国内の軍需企業が大幅な減産を余儀なくされ、その数は数十社から数社にまで激減しました。だが米政府は今、軍需業界に増産を促し、2020年以降製造されていない携帯型対空ミサイル「スティンガー」などの生産を再開させる必要に迫られています。

    米国がウクライナに供与した軍需品の中には、ウクライナ軍がロシア軍の首都キーウ進軍を阻止するために使用した対戦車ミサイル「ジャベリン」や、東部・南部で現在進めている反攻作戦で重要な役割を果たしている高機動ロケット砲システム「ハイマース(HIMARS)」など、ウクライナ戦争の象徴となっているものも含まれています。

    ハイマースが使用する誘導型多連装ロケット発射システム(GMLRS)弾は80キロ以上離れた標的を正確に攻撃できますが、米国内の在庫は減少しています。

    米政府の武器調達官を務めていたキャンシアン氏は、米国がジャベリンとスティンガー同様にハイマース用ロケット弾の備蓄の3分の1をウクライナに供与した場合、その数は8000~1万発に相当すると説明。「これは数か月持つだろうが、在庫が尽きると代替手段がない」と指摘しました。ハイマース用ロケット弾の生産ペースは年間5000発程度で、米政府は増産を目指して予算を割り当てているものの、それには「何年もかかる」といいます。

    米国はウクライナに約8500発のジャベリンミサイルを供与していますが、その生産ペースは年間約1000発にとどまります。米政府は5月、3億5000万ドル(約510億円)分を発注しましたが、備蓄の補充には数年かかるとみられます。

    ジャベリンを発射する兵士

    同国はまた、北大西洋条約機構(NATO)規格の155ミリりゅう弾を80万発以上ウクライナに供与しています。米国防総省によると、この数は西側諸国からの供与分全体の4分の3に当たるとされています。

    キャンシアン氏は、米国の供与量は「おそらく自国の戦闘能力を損なうことなく提供できる限界に近い」との見解を示しました。155ミリりゅう弾の米国内での生産能力は月間1万4000発ですが、国防総省はこれを3年以内に3万6000発まで増やすと発表。しかしそれでも年間生産量は43万2000発となり、ここ7か月でウクライナに提供された数の半分に満たないのです。

    ロシア軍は、確かに高精度のミサイルは枯渇しているようです。イギリス国防省は先月26日、ロシア軍がウクライナのインフラ施設への攻撃に、核弾頭の代わりに重りを付けた巡航ミサイルを使用しているという分析を発表しました。

    このミサイルは冷戦中の1980年代に開発された物で、老朽化したミサイルを使わなければならないほど、高精度の長距離ミサイルが枯渇していることを示すものだとしています。ミサイルに用いる半導体なども枯渇しているようです。

    ただ、高精度ミサイルは別にしても、弾薬等は、北朝鮮と中国からも調達できる可能性はあります。

    米軍からの支援が滞れば、これは、ロシアに有利になります。

    そうして、米国にはもう一つの懸念があります。それは、米国議会です。

    中間選挙で議会下院を共和党が奪還し、ウクライナ支援の継続性が問題視され始めています。米南部ジョージア州の上院選の決選投票が6日に投開票されました。

    米主要メディアによると、与党・民主党現職のラファエル・ウォーノック氏がジョージア州上院議員選で当選を確実にしました。トランプ前大統領が推薦した野党・共和党新人のハーシェル・ウォーカー氏を破り、上院で多数派を固めた民主が過半数となる51議席目を確保しました。

    ただ、下院は共和党のほうが議席数は、多く、上院も民主党は圧倒的多数とは言い難い状況です。

    去る5月に400億ドルのウクライナ支援が下院で表決に付された際、57名の共和党議員が反対(149名の共和党議員と219名の民主党議員が賛成)したことがあります。

    11月初め、マージョリー・テイラー・グリーンという下院議員は「共和党支配の下では一文もウクライナには渡らない」「民主党が心配する国境はウクライナの国境だけで、米国の南の国境ではない」とトランプの集会で言い放ったのです。

    下院の民主党進歩派にも交渉を要求する勢力が30名ほどはいます。バイデン政権はいずれ議会との関係で危機管理を迫られることになるかも知れないです。

    以上のような状況を考えると、ウクライナが今後すぐにも勝利するとは言い難い状況です。

    それよりも、何よりももっと私が最も恐れているのは、ウクライナ、ロシアともに高精度のミサイルなどが枯渇して、従来のあまり精度の高くないミサイルや火力が中心となり、それこそ、第二次世界大戦どころか、第一次世界大戦のような塹壕戦のような戦いになってしまう可能性があることです。

    第一次世界大戦の塹壕戦

    両軍とも、銃や機関銃、大砲の弾丸も不足気味になり、銃剣や刀剣を用いた戦いも交えられるようになるかもしれません。

    そうなると、第一次世界大戦がそうだったように、なかなか戦争の決着がつかないうちに、多くの兵の命が失われることになりかねません。

    ウクライナ戦争がこのような戦争になる可能性はあると思います。そうなれば、戦争は長引くことになります。

    第一次世界大戦では、ロシアでは革命が起こったため、ロシアは戦線から離脱せざるを得なくなりました。

    そのようなことでもおこらない限り、戦争は長引く可能性があります。

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