2023年4月4日火曜日

「執行猶予付き死刑判決」を受けた劉亜洲将軍―【私の論評】「台湾有事」への指摘でそれを改善・改革する米国と、それとあまりに対照的な中国(゚д゚)!

「執行猶予付き死刑判決」を受けた劉亜洲将軍

台湾南部・嘉義基地で行われた台湾軍の演習=1月6日

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・李先念元国家主席の娘婿である劉亜洲上将が「執行猶予付き死刑判決」を受けるだろうと報じられた。

・劉は、重大な金融腐敗に関与した疑いがあるという。

・「台湾侵攻」について書いた論文が習主席の逆鱗に触れた可能性がある。

 

 最近、李先念・元国家主席の娘婿、劉亜洲上将(70歳)が「執行猶予付き死刑判決」を受けるだろうと香港メディアが報じた(a)。

 2021年12月下旬以降、劉は姿を消していたが、重大な金融腐敗財団や協会の名義で巨額の富を蓄財―に関与した疑いがあるという。

 劉亜洲は1968年に人民解放軍に入隊し、1997年から北京軍区空軍政治部主任、成都軍区空軍政治委員、空軍副政治委員兼規律委員会書記等を歴任した。 2009年12月に国防大学政治委員となり、2017年に軍を退役している。

 劉は、江沢民・胡錦濤時代に、時事問題をテーマにした記事を書き、「国と人民を憂う」人物として、知識人界では好感を持たれていた

 まもなく劉亜洲が「執行猶予付き死刑判決」を受けた事が確認(b)された。劉亜洲は経済汚職に手を染めたとされるが、これは“政治問題”を“経済問題”として扱う共産党の“定石”である。

 習近平主席が劉亜洲に対し激怒したというが、その理由は劉の論文「金門戦役の検討」の中身である。中国共産党が台湾との平和的統一の希望を失い、台湾への武力攻撃のタイムテーブルが提出された昨今、この軍事研究論文の重要性は言い尽くせないだろう。

ただ、その研究結果は「台湾解放」を目指す習主席に冷水を浴びせるモノだった。そのため、主席の逆鱗に触れた

「金門戦役の検討」(c)は以下の通りである。

 ―今日、台湾軍はかつての蔣介石軍と同じではないし、台湾島は金門と同じでもない。しかも、天険(自然の地勢が険しい)が横たわっている。台湾海峡での戦いは、金門戦役の1万倍も困難なものになるだろう。また、目下、台湾を守るのは台湾自らだけではなく、西側諸国全体である。

 ―ある者はこう言った。「(台湾と)戦え!できるだけ早く!」と。また、ある者は、「台湾軍は我々(人民解放軍)の一撃に耐えられない。我が軍は朝攻めて夕方には勝つ」と主張した。

 ―昨年、私(劉亜洲)は台湾との戦闘が議論された会議に出席して質問した。「頭上には衛星があり、下にはレーダーのある今、丸見えの状態でどのように軍を福建省に部隊へ輸送できるのか?」

 ある男性は「簡単だよ!長期休暇があるだろう。その長期休暇に兵士を私服へ着替えさせ、列車で福建省に向かえばいいんだ。」私が最後に呟いたのは、「最大の敵は自分自身だ」だった。

 実際、劉亜洲将軍は、「台湾侵攻」の難しさを軍事的、国際政治的観点から分析し、「台湾侵攻」に対する自身の認識を幾つもの角度から検証(d)している。

(一)台湾の地形分析:台湾は海峡の片側(西側)に近く、上陸に適した海岸が少ない。 海岸線から10kmも離れていない山林には、長年にわたって築かれた要塞がある。仮に、中国軍が上陸できたとしても、遠くの高台からの火力兵器で簡単に制圧でき、上陸地点は屠殺場と化すだろう。

(二)台湾東部軍事空港は洞窟の中に構築され、海に面した外部滑走路はわずか100m~200m、加速滑走路の約1000mは洞窟の中にある。そこから出撃した航空機に、ミサイル攻撃しても無駄である。台湾空軍は強力で、パイロットは皆、米国で高度な訓練を受け、陸上・海上での飛行と空母離着陸の経験は中国空軍に劣らない。

(三)台湾はほぼ「国民皆兵制」を採用し、200万人以上の予備役兵士は、毎年集中訓練を行っている。戦争になれば、24時間以内に募集・編成され、特に訓練しなくても、そのまま戦闘に入ることが可能である。

 しかも、台湾はすでに先進的防衛兵器を大量に購入し、米国から訓練を受けており、最近ではMQ9ドローンやハープーン対艦ミサイルを購入し、中国軍の上陸作戦にも十分に対応できる。

 したがって、米軍や周辺国が戦闘に参加せず、台湾が自国軍隊だけで戦っても、中国軍は、1、2の上陸地点確保のために多大な犠牲を払うだろう。たとえ、陸海空軍にロケット部隊を加えたとしても、台湾全土の「解放」はおろか、戦闘にも勝利できないかもしれない

(四)国際情勢の分析:米韓は共同防衛条約を、日米は安全保障条約を結んでいる。ひとたび有事が起これば、米国が介入し、日米、米韓の条約は自動的に発効し、共同戦線に参加することになるだろう。

 日韓はアジアの経済大国、かつ、空海軍の強国である。韓国の海軍・空軍力は、中国と互角に戦える。また、日本の自衛隊は中国軍より数では劣るが、その実力や戦闘力は間違いなく中国に劣らない。

((d)『毎日文摘』(解放台湾,谈何容易!刘亚洲泼冷水)の引用ここまで)

〔注〕

(a)『聯合早報』

「中国軍作家・劉亜洲が重大な汚職に関与し、『執行猶予付きの死刑判決』が下される可能性」

(2023年3月25日付)

https://www.kzaobao.com/shiju/20230325/135817.html)。

(b)『中国瞭望』

「『金門戦役の検討』が習近平の逆鱗に触れて、怒りの劉亜洲切り」

(2023年3月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/03/28/2592122.html)。

(c)『禁聞網』

「劉亜洲:金門戦役の検討(2004年4月14日)」

(2023年1月23日付)

(https://www.bannedbook.org/bnews/wp-content/plugins/down-as-pdf/generate.php?id=1609505)。

(d)『毎日文摘』

「台湾解放は言うは易く行うは難し! 劉亜洲が冷水を浴びせる」

(2023年3月30日付)。

解放台湾,谈何容易!刘亚洲泼冷水)。

【私の論評】「台湾有事」への指摘でそれを改善・改革する米国と、それとあまりに対照的な中国(゚д゚)!


劉亜州は、人民解放軍(PLA)国防大学の政治委員を務めた中国の退役上級将校です。1951年、中国陝西省に生まれました。劉亜州は、中国で著名な軍人であり、中国共産党(CCP)内の「改革派」とも評されています。

劉亜州は1969年に中国共産党に入隊し、軍人としてのキャリアをスタートさせました。2007年に上級大将に昇進しました。軍歴の中で、彼はPLA空軍の副政治委員や成都軍区の政治委員など、いくつかの重要な役職を歴任しています。

劉亜州は多作な作家でもあり、軍事戦略や政治理論に関する論文や書籍を数多く出版しています。中国共産党に対する批判的な見解で知られ、中国における政治改革を提唱しています。著作では、三権分立、司法の独立、表現の自由の拡大などを訴えています。

中国共産党に批判的な意見を持ちながらも、劉亜州は胡錦濤前国家主席の信頼できるアドバイザーとして中国共産党中央委員会の委員を務めました。中国共産党では習近平総書記を筆頭にした太子党の主要人物とみなされています。父である劉保恒は、軍の上級司令官であり、中華人民共和国の創設者の一人です。

退役後、劉亜州は中国政界で著名な人物であり続け、政治改革を提唱してきました。また、汚職や環境汚染などの問題に対する中国政府の対応に批判的です。また、近年は、世界舞台で自己主張を強める中国に懸念を示し、他国との協力関係を強化するよう求めています。

このような経歴を持つ人物ですから、劉亜州が「執行猶予付き死刑判決」を受けるのもむりからぬところもあります。

2004年5月20の台湾・陳水扁総統の二期目の就任演説をはさみ、中国は前回2000年よりさらに激烈な文攻(文章・言論による攻撃)を繰り出していました。なかでも、当の中国の幹部らをも驚かせたのが当時の最高幹部の一人、劉亜州・副政治委員(中将、五十一歳)が明かした江沢民の「中台戦争不可避論」でした。江発言の真意はなにか、なぜ劉はあの時期に発表したのかをめぐり、さまざまな憶測が飛び交っていました。

結局のところ、当時から20年近くたっても、中国による台湾侵攻はありません。劉亜洲氏が指摘するように、確かに中国による台湾侵攻は難しいのは事実だと思います。このブログでも同様の分析をしています。ただ、中国が台湾に侵攻するのは、難しいですが、中国が台湾を破壊するのは簡単です。そうして、破壊することも戦争の一形態ですから、台中が戦争になる可能性はあります。

侵攻するのと、破壊するだけというのは、雲泥の差があります。破壊するだけなら物理的にはさほど難しいことでありません。中国から台湾にミサイルを発射したり、航空機で爆撃したり、艦砲射撃をするなどでかなり破壊できます。そうして台湾に深刻な被害をもたらすことになります。

ただ、侵攻するとなると、これは別問題です。中国は台湾に大部隊を送り込み、台湾軍を制圧しなければなりません。制圧した後は、統治しなければなりません。このことの難しさは、ウクライナでも実証されています。ロシアはウクライナの都市を多数破壊し尽くしましたが、それでも未だに制圧できているのは、東部の数州の一部です。それもこれからどうなるかは、わかりません。

ロシア軍に破壊されたバフムト

陸続きのウクライナですら、ロシアは攻めあぐねているわけですから、中国が海を隔てた台湾に侵攻するのはかなり難しいと考えるのは当然だと思います。両方とも特にネックになるのは、兵站です。

ロシア軍の兵站は鉄道輸送に頼るところが大きく、そのため国境付近ではロシア軍本来のパフォーマンスを発揮できるのですが、奥に進むにつれて、兵站がネックになり本来のパフォーマンスを発揮しにくくなります。

中国が台湾を侵攻するには、大部隊を運ばなければなりませんが、現在運べるのは一回に十数万程度と見積もられ、今後一般商船を用いることも含めて改善を試みているようですが、根本的な解決には至っていません。

それに、台湾軍は開戦当初のウクライナ軍よりは現代的で精強であり、対艦ミサイルの多数配備しており、多くの艦艇は撃沈されることになります。地対空、空対空、長距離ミサイルまで多数備えています。そのため、兵員輸送や兵站が途切れることが予想されます。

以上のようなことを考えれば、劉亜洲将軍の「台湾侵攻」の難しさは、習近平は全く否定することはできないはずです。

一方、米国では軍は、様々な場合を想定して、ある特定の場合には米軍は中国軍に負けることが予想されるという報告書を頻繁に出しています。これをもって、メディアなどは、米中が戦えば、米国が負けるなどと報道していますが、そうではありません。局所的には負けることも多いにありますが、全体的にいえば中国は未だ米国の敵ではありません。

米軍は、世界最強といえる軍備を持っていても、十分に至らないところを中国に突かれれば、大損害を被ることを想定し、それを防ぐ方法とともに、政府に報告し予算を得てそれを改善しているのです。

私が一番不思議に思ったのは、過去の台湾有事のシミレーションなどでは攻撃型原潜、特に大型のものは当然出動させるべきなのですが、なぜか一回も出てこなかったことです。さすがに、昨年末のシミレーションでは登場していました。その結果、台湾有事では、日米は大損害を受けるがそれでも中国は台湾に侵攻できないというものでした。

攻撃型原潜が出動すれば、戦況は米軍にかなり有利になるはすですが、登場させなければ、米軍にかなり不利になります。ただし、そうしたことも想定されるわけで、それでも十分に対応できるように、米軍は軍備を整えたか、あるい整えつつあるのだと思います。

確かに、米軍が必ず勝てる条件のみで、シミレーションをしていれば、安心かもしれませんが、それでは想定外のことが起こったときに対処できなくなります。だから、米国のやり方は正しいのかもしれません。米国の原潜も数に限りがあります。特定の海域では、攻撃型原潜なしで戦わなければならない場合も想定しうると思います。

そういう場合も想定したのか、たとえば哨戒機P-8Aとコンビを組む無人航空機として、ノースロップ・グラマンのMQ-4C「トライトン」を採用しています。米軍は、有人哨戒機に比べて連続作戦時間が長い「トライトン」で洋上を監視し、「トライトン」が不審な目標を発見したらP-8Aが急行して対処するという運用方法を構想しています。こうした着想がでてきたのも、米軍の様々なシミレーションの結果だと思います。

哨戒活動をしているMQ-4C「トライトン」

劉亜洲の「台湾侵攻の難しさ」の指摘も、米軍による「台湾有事」のシミレーションに相通じるところがあります。

同じような指摘について、米国は改善・改革をし、中国はその指摘をした人物に対して「執行猶予付き死刑判決」をしたのです。どちらが、軍隊を強くするかといえば、無論米国だと思います。

ただ、米国にはこのようなことをする余裕がありますが、中国にはそのような余裕はないのかもしれません。弱い部分を指摘されても、それを克服する方法はすぐには見つからないのかもしれません。だからこそ、習近平は激怒したのでしょう。

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2023年4月3日月曜日

プーチン大統領が国内に缶詰状態…ICCの逮捕状で同盟国まで「入国すれば逮捕」と警告する事態に―【私の論評】過去には、スペイン、台湾も中国高官に逮捕状を出し、台湾では実際に拘束された事例も(゚д゚)!


ロシアの同盟国のアルメニアが、プーチン大統領に「逮捕せざるを得なくなるから来ないよう」警告していたことが分かり、同大統領はロシア国外には出られない缶詰状態になっているようだ。

「プーチン逮捕を警告」記事を掲載した「モスクワ・タイムズ」

ロシアの日刊紙「モスクワ・タイムズ」電子版は29日「アルメニア与党、ハーグからの令状でプーチン逮捕を警告」という見出しの記事をアルメニア国民議会のカギク・メルコニアン副議長の大きな写真とともに掲載した。

それによると、同副議長は地元メディアとのインタビューで「もしプーチンがアルメニアへ来れば彼は逮捕されなければならない」と語ったという。

アルメニアは昨年12月に国際刑事裁判所(ICC)への加入のための批准法案をまとめICC入りを目指しており、加入すればICCから逮捕状が出ているプーチン大統領がアルメニアが拘束する義務を負うことになる。

「もし我々がICCに加盟すれば、その義務を果たさなければならないことになる。ロシアの問題はウクライナと解決すればよい」

メルコニアン副議長はこうとも語っている。

同盟国もロシアの侵攻に疑問?

アルメニアは旧ソ連の構成国の一つ。現在もロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国で国内にロシア軍の基地もある。ロシアの軍事同盟国であるわけだが、隣国アゼルバイジャンとの抗争をめぐって戦争犯罪を追及する目的でICCへの加盟に踏み切ったとされる。

一方プーチン大統領は、ウクライナ侵攻でウクライナの子供たちを不法に拉致した戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)から3月17日逮捕状が出されたが、米国や中国はICCに加盟しておらず主に西欧の123の加盟国を避けて通れば逮捕は免れるので実質的な拘束力はないだろうという見方が有力だった。

しかし、アルメニアはロシアが再三警告したにも関わらずICC加盟を強行したわけで、プーチン大統領自身の威信を損ねることになっただけでなく、大統領の行動範囲を著しく制限することにもなった。

さらにアルメニアの決断はロシアの同盟国の間で、今回のウクライナ侵攻をめぐって疑問が生じていることを物語っていると注目されている。

気になる南アフリカの対応

今のところ、アイルランド、クロアチア、オーストリア、ドイツなどがプーチン大統領が入国すれば直ちにICCの逮捕状を執行することを公言しているが、今注目されるのが南アフリカだ。

南アフリカでは8月後半にBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興経済5大国)首脳会談がダーウィンで開催が予定されている。プーチン大統領は2013年の第6回会議以来参加しており、今回は特にウクライナ侵攻問題が主要議題になると考えられるので出席を希望しているはずだ。

しかし南アフリカはICCの加盟国であり、ICCの逮捕状対象者が入国すれば身柄の拘束に協力する義務が生じる。このため、南アフリカ政府は専門家に対応策を検討させているが今のところプーチン大統領に出席を断念させる以外に手立てはないようだ。

プーチン大統領がロシアに心情的に近い指導者とのこの会議さえも出席できないとなると、その打撃は計り知れない。

形式だけと思われていたICCの逮捕状は、プーチン大統領を国内に缶詰状態にしてその権威を失墜させるという意味では大きな役割を果たしているようだ。 

【私の論評】過去には、スペイン、台湾も中国高官に逮捕状を出し、台湾では実際に拘束された事例も(゚д゚)!

プーチンの逮捕は、ICC加盟国に行けば現実にあり得ることですが、実はこれと似たようなことは以前もありました。それについてはこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国、チベット問題に異常な怯え 江沢民氏への逮捕状に過剰反応―【私の論評】中国高官が実際に台湾で逮捕されたこともあるし、中国5人の要人はずっと前から告発されていた!日本でも告訴せよ!これが馬鹿につける最高の良薬かもしれない(゚д゚)!
この記事は、2013年11月22日のものです。詳細は、粉の記事をご覧いただくものとして。この記事の元記事より一部を引用します。
スペインの裁判所がチベット族の虐殺に関与した疑いで、中国の江沢民元国家主席(87)ら元幹部5人に出した逮捕状が波紋を呼んでいる。中国政府はかつての国家元首に下された異例のジャッジに「強烈な不満と断固たる反対を表明する」と猛反発。ヒステリックな反応をみせる背景には「世界的な支持を得ているチベット独立運動への強い警戒感がある」(専門家)という。今後、世界中で中国共産党の横暴を告発する動きが広がる可能性もあり、不穏な空気が漂っている。

中国の最高権力者が「お尋ね者」になった。
スペインの国家裁判所に、ジェノサイドと拷問の罪で刑事告訴された江沢民・元国家主席を含む5人の中共高官
スペインの全国管区裁判所から逮捕状が出されたのは、江氏のほかに胡錦濤前主席(70)や李鵬元首相(85)ら5人。2006年、スペイン国籍を持つ亡命チベット人とともに同国の人権団体が、1980~90年代にチベット族に対して「ジェノサイド(大虐殺)や拷問などが行われた」として、当時の党指導部の責任を追及する訴えを起こしていた。

告発は、なぜ遠く離れた欧州の地で行われたのか。「スペインでは、人道に対する罪に関しては国外の事件であっても同国の裁判所に管轄権がある。98年にはチリで独裁体制を築いたピノチェト元大統領に、今回と同様に逮捕状が出され、スペイン側の要請で英国で身柄が勾留されたこともある」(外交筋)

ただ、法的拘束力は、スペインと犯罪人引き渡し条約を結ぶ国に限定されるため、実際に江氏らが逮捕される事態は考えにくい。

それでも、習近平国家主席体制下の中国はこの決定に敏感に反応し、裁判を起こしたチベット独立勢力を激しく非難。スペイン側の対応を「関係を損ねるようなことをしないよう」と強く牽制した。

2021年9月現在、スペインは世界約100カ国と犯罪人引き渡し条約を結んでいます。つまり、これらの国のいずれかで犯罪に問われた人がスペインに逃亡した場合、スペイン当局は一定の条件のもと、その国に引き渡しをして裁判を受けさせることができます。

その逆に、スペインがこれらの国に犯罪人引渡しを求め、スペイン国内で裁判を受けさせることもできます。100カ国にものぼるわけですから、これは結構厳しいともいえます。

さらに、習近平等の中国の幹部が訪米すると逮捕されるのではないかという懸念を抱いていたことが、あのwikileaksに掲載されていたことも明らかになっています。これもこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

<Wikileaks公電流出>習近平次期主席、「訪米で恐れるのは、法輪功に刑事告訴されること」―【私の論評】Wilileaksなどによる暴露などたいしたことではないが、日本でも、中国要人は全員告訴せよ!!

 この記事より一部を引用します。

習近平氏による「自分を含めて中国の高官らが訪米で最も恐れているのは、法輪功学習者に刑事告訴されることだ」という発言に関しても、さほど驚くようなことでもないし、Wikileaksで外電として出さなくても、中国に関する日本の報道のみでなくて、海外に目を通している人ならば、何を今更という程度のものです。

 2013年2月13日から17日まで中国の習近平国家副主席(当時)は、米国での正式訪問を無事終え、「私は自信を持って自らの訪米が大成功だったと言える」 との言葉を残して満足げに米国を去ったとされています。

同年秋に次期国家主席として中国の新リーダーとなった習副主席の訪米は、胡錦濤国家主席の副主席時代の訪米とは、全く異なる印象を米国民に与え、さらに、昨年の胡錦濤国家主席の訪米とも異なる様相を見せ、中国の対米外交が対等を前提とした新たな段階に入ったと言っていいだろとされていたのですが、この時習近平は逮捕されるかもしれないという疑念を拭いきれずに、訪問したようです。しかし、逮捕はされませんでした。

このときに本当に逮捕して、裁判などしていれば、良かったかもしれません。

なぜ、習近平がこのような懸念を抱くようになったかといえば、台湾では実際に中国高官が逮捕、拘束されたという事件があったからです。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

【日本で報道されない激レアニュース】台湾訪問中の中共高官2人、相次ぎ刑事告訴される―【私の論評】及び腰日本はなぜこのようなことをしないのか?
これは、2010年9月20日の記事です。この記事より、一部を引用します。
中国宗教事務局の王作安・局長は、先週15日に台湾を訪問した際、台湾法輪大法学会に、法輪功への集団弾圧を陣頭指揮した罪で告訴された。前日の14日、台湾を訪問中の陝西省趙正永・代理省長が同団体に刑事告訴されたばかり。
王作安
台湾法輪大法学会は、台湾の高等裁判所の検察署にジェノサイドと民権公約違反の罪状で二人をそれぞれ刑事告訴し、身柄拘束を要求した。同検察署は訴状を受理した。

原告側弁護団の朱婉琪・弁護士は検察署に対し、被告人の法輪功弾圧を陣頭指揮した事実をそれぞれ陳述した。それによると、王作安・局長は国内では宗教界、教育界、メディアを通して、法輪功に犯罪の濡れ衣を着せて、悪魔に仕立てる詐欺宣伝を繰り広げ、国民に法輪功への怨恨感情を煽ぎたてたこと、国外では米国や他国との宗教交流活動を通して、同様な宣伝を行ってきたという。
実際に、これら中共高官2人は、拘束され取り調べを受けましたが、結局は解放されています。それでも、これは中国高官の権威を失墜させ、台湾に二度と来れないようできたという点では、一定効果があったものとみられます。

台湾の例も、スペインの例も国内法に基づくものですから、当該国や当該国と罪人引き渡し条約を結んでに赴かない限り、逮捕や拘束されることはないですが、それにしても、心理的負担はかなり大きなものだったでしょう。

習近平も初渡米では、かなり肝を冷やしていたのではないでしょうか。

今回のプーチンへの逮捕状は、ICCによるものですから、その効力は複数の国々に及びます。ローマ規定の締約国がそれにあたります。

国際刑事裁判所ローマ規程の締約国は、国際刑事裁判所ローマ規程(ローマ規程)を批准し、またはその他の方法により同規程に加盟した国家のことです。

  締約国   未批准の署名国   後に脱退した締約国   後に署名を撤回した署名国   非加盟国

ローマ規程は、締約国の国民によって、あるいは締約国の領域内で犯された、集団殺害犯罪や人道に対する犯罪、戦争犯罪を含む一定の国際犯罪について管轄権を有する国際裁判所である国際刑事裁判所(ICC)を設立するための条約です。

締約国は、同裁判所から要請された際には、訴追された者の逮捕および引渡しや、証拠や証人を利用できるようにするといった協力を行うことが、法的に義務づけられています。

締約国は、同裁判所の運営主体である締約国会議に参加し、議事において投票する権利を有しています。

かかる議事には、裁判官や検察官といった構成員の選挙、同裁判所の予算の承認およびローマ規程の改正条項の採択が含まれます。

日本をプーチンが訪問した場合、日本もプーチンを逮捕して、ICCに引き渡す義務を負うことになります。

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2023年4月2日日曜日

中国外相、半導体規制に反発 台湾問題「介入許さない」―【私の論評】林外相は日本人男性の早期解放を要求し、それが見込めない場合訪問を取りやめるという選択肢もあった(゚д゚)!

中国外相、半導体規制に反発 台湾問題「介入許さない」

中国の秦剛国務委員兼外相(右)と会談する林外相=2日、北京の釣魚台迎賓館

 中国外務省によると、中国の秦剛(しんごう)国務委員兼外相は2日、林芳正外相との会談で、米国が主導する対中半導体規制を念頭に「封鎖は、中国の自立自強の決意をさらに呼び起こすだけだ」と述べ、日本に米国と連携しないよう求めた。

 秦氏は「日本はG7(先進7カ国)のメンバーであり、加えてアジアの一員でもある。会議の基調と方向性を正しく導き、地域の平和と安定に有益なことをすべきだ」と呼び掛けた。G7議長国を務める日本にクギを刺した。

 秦氏は「矛盾や不一致に対し、徒党を組んで圧力を加えることは問題解決の助けにはならず、お互いの隔たりを深めるだけだ」と発言。米中対立を背景に、G7メンバー国などが対中圧力を深めていることを暗に批判した。

 秦氏は、台湾問題について「中国の核心的利益の核心だ」と改めて主張。台湾との台湾との連携を進めている日本に対し、「台湾問題への介入は許されず、どのような形であれ中国の主権を損なってはならない」と警告した。

 日本政府が春以降の開始を見込む東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出については、秦氏は「人類の健康、安全にかかわる重大な問題で、日本は責任ある態度で処理すべきだ」と注文を付けた。

 日本の製薬大手・アステラス製薬の現地法人幹部男性の拘束については、「中国は法に照らして処理する」と主張した。また、秦氏は日本側に「実務協力を推進し、人文交流を増進することを望む」などと発言した。

 中国外務省によると、会談では日中韓協力や朝鮮半島情勢、国連安全保障理事会改革などについても意見交換を行った。

【私の論評】林外相は日本人男性の早期解放を要求し、それが見込めない場合訪問を取りやめるという選択肢もあった(゚д゚)!

中国を訪問中の林芳正外相は2日、秦剛政治局員(外交担当)と会談し、アステラス製薬の社員が拘束されたことに抗議し、早期解放を強く求めるとともに、日本周辺で中国の軍事活動が活発化していることについて懸念を伝えました。一方、首脳レベルをはじめ韓国を含めた3カ国の協議の枠組みを再開することで一致しました。


林外相と泰剛泰剛中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任が対面で向かい合うのは初です。ただし、林氏は会談後、記者団に対し「邦人拘束について抗議し、早期の開放を含む日本の厳正な立場を強く申し入れた」とした上で、「中国において当面予見可能な公平なビジネス環境が確保されること、安全面とともに正当な経済活動が保証されることを強く求める」と伝えたことを明らかにしました。

秦剛主任は法律に基づいて対処すると強調したのは、ようはゼロ回答です。これに対して林外相は「安全面とともに正当な経済活動が保証されない限り、日本企業の中国進出には安全が保障できないと、日本政府として警告する」等というべきでした。
中国当局は先月、日本人男性をスパイ活動に関与した疑いがあるとして拘束。アステラス製薬の広報は、同社の社員だと明らかにしている。共同通信によると、中国では2015年以降、これ以外に少なくとも16人の日本人がスパイ活動の疑いで拘束されています。

日本の外相が訪中するのは3年3カ月ぶり。このあと中国共産党の最高指導部の1人、李強首相とも会談しました。

以前もこのブログで語ったことがありますが、中国と日本とでは、政治体制や組織が異なるので、日本の序列の感覚からいうと、中央外事工作委員会弁公室主任の秦剛氏を外相とするのは間違いです。それは、中国共産党の組織図を見ればすぐわかります。この組織図は古いです。この組織図では、楊潔篪の後釜に秦剛氏がなったということです。


外務省の部長クラスとみるのが正しいです。現在の王毅氏は、政治局員であり次官クラスとみるのが正しいでと思われます。ただ、これが正しいかどうかは、意見が分かれるところだと思います。そもそも、中国では外交はあまり重視されていないようで、日本でいう外交を担当する外務大臣のような閣僚のポストはありません。

中国には選挙が存在せず、その意味では日本でいうところの政治家は存在せず、官僚ばかりと言っても良いような体制で、日本とはあまりに違いすぎるので、日本の閣僚と中国共産党のポストは単純には比較できませんが、日本の閣僚(内閣府大臣など除く)に相当するのは、中国では俗にチャイナセブンと呼ばれる、党常務委員会に属する7人のメンバーといえるでしょう。

このメンバーの中には、外交を専門とする人はいません。それだけ、中国は外交を重視していないということです。

日本のマスコミがなぜ、外交担当中央委員を外相とするのか、全く意味不明です。それに、人民大会を「日本の国会にあたる」などと報道する報道機関もありますが、これも全く間違いです。

選挙がなく、よって選挙で選ばれだ国会議員も存在しない中国に「国会」などありようもありません。中国人民大会は、日本でいえば、官僚の集会にすぎません。一応合議制のようにみせかけていますが、常務委員や常務委員の指示に従って政治局員などが決めた事柄を、追認する機関にすぎません。

首相李強氏は、さすがに日本でいっても少なくとも閣僚以上には相当するので、中国側としても、日本の閣僚としての林外相に、秦剛政治局員だけを面談させるわけにもいかず、李強氏と政治局委員の王毅氏も面談という運びになったのでしょう。

今回の林氏の訪中は、昨年11月の岸田文雄首相と習近平国家主席による日中首脳会談で合意したハイレベル往来の再開に基づくものです。

日中双方の政府関係者によると、中国側はいったん昨年12月27~28日の日程を打診したのですが、中国国内で新型コロナ感染が急拡大したことや、日本側が求めた習氏との面会に中国側が難色を示したことなどから先延ばしにされていました。

林氏と習氏の面会について、日本政府関係者は「中国外相の訪日時には首相が会ってきた。習氏個人への権力集中が進む中、直接対話の機会を確保したい意味もある」と理由を語りました。

これに対し、中国外交筋は「国家元首である習氏と日本の外相では格が違いすぎる。中国側も首相が対応してきた」と反論しました。

こうした状況を受けて、日本側は2月に離任した孔鉉佑・前駐日大使の岸田首相へのあいさつを拒否。双方の思惑がすれ違う展開が続いていました。

今回も林氏と習氏の面会は見送られ、中国側は李強(リーチアン)首相が面会に応じました。それでも日本側が訪中に踏み切ったのは、3月下旬にアステラス製薬の男性社員が拘束されたことが大きいです。

社員が拘束されたのは3月20日ごろとみられます。中国外務省は「刑法と反スパイ法違反の疑いで拘束した」と認めていますが、具体的な容疑事実は明らかにしていません。中国でスパイを取り締まる国家安全省は今後、正式な逮捕や起訴に踏み切る可能性が高いです。そのため日本側は外交を通じた早期の問題解決へ動いた形です。

過去には、2019年9月に刑法と反スパイ法違反で北京で拘束された北海道大学教授が、約2カ月後に解放された事例もあります。当時、中国外務省は「教授が容疑を認め、反省の意思を表明する手続きに応じたことから保釈した」と説明しましたが、中国外交筋は「翌年に習氏の国賓訪日が予定される中で、日本の対中感情悪化を回避するための政治判断でした。最後は習氏が決めた」と認めました。

2019年、拘束の日本人が解放されたことを発表した菅官房長官(当時)

以上を勘案すると、林外相の今回の訪中は、プラスマイナス・ゼロか若干のマイナスというところでしょうか。こうなることは、分かりきっていました。

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は2月3日、中国の偵察用気球とみられるものが米本土の機密施設の上空を飛行しているのが確認されたことについて、「容認できない無責任な」行為だと述べました。さらにブリンケン氏は翌週に予定していた中国訪問を急遽取りやめた。

林外相は今回は、アステラス製薬の男性社員の解放を強く要求して、早期解放が見込めない場合には、訪問を取りやめるという選択肢もありました。ただし、早期解放の折衝などは、外務省が継続的に行うなどのこともできたはずです。そのほうが、中国に対する牽制になったと思われます。

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2023年4月1日土曜日

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日本の解き方


 ロシアのプーチン大統領が、隣国でウクライナにも接するベラルーシに戦術核を配備する方針を表明した。実際に使用する恐れは高まるのか。

 表向きの口実は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコが、米国との核共有という考え方で、核兵器を配備していることと同じだとしている。NATOの核共有と同様に、ロシアやベラルーシが加入する核拡散防止条約(NPT)にも反しないとしている。

 1994年のブダペスト覚書では、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンがNPTに加盟したことで、米国、英国、ロシアがこの3カ国の安全を保障するとした。その結果、3カ国の核兵器はロシアに移転した。

 ところが、ロシアはこれを踏みにじってウクライナに侵攻し、核で脅した。それでも足りずに、今後はベラルーシに核を戻して(形式的には核はロシアのもの)、ロシアとベラルーシの両国でウクライナを脅すというおぞましい光景になっている。

 NPTに反しないというロシアの言い分は怪しい。NATOの核共有では保有国の軍の管理が必須だが、ベラルーシがどこまで管理できるのか疑問だ。

 それだけではない。ロシアを訪問した中国の習近平国家主席とプーチン大統領は21日、モスクワで首脳会談終了後、共同声明を発表した。その中の第7項に、すべての核保有国は「核兵器を自国領土の外に配備すべきではないし、外国に配備された核兵器は撤収しなければならない」とある。

 1年前、プーチン大統領は、北京冬季五輪の開会式に出席したが、五輪直後にウクライナ侵攻をした。これで中国のメンツは傷つけられたはずだが、またしても中露共同声明後、わずか1週間でそれをほごとするようなことをプーチン大統領は行った。はたして中国はどのような対応をするのだろうか。

 ここは冷静に考えてみよう。ロシアによるベラルーシへの戦術核配備といっても、配備しなくても、ロシアは自国内から発射できるので、戦力バランスを大きく変更するものではない。

 ロシアはウクライナに手を焼いているようなので、ベラルーシを使って恫喝(どうかつ)しているように見える。ベラルーシとしても、ロシアの手下のままでは居心地がいいはずはない。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は、配備されればベラルーシに新たな制裁を科す可能性に言及した。この方向は正しい選択だ。

 さらに、中国に対して、メンツを失ったままでいいのかという圧力をかけるべきだ。例えば、中露首脳会談で提示された「和平」は「ニセの和平」であることが、岸田文雄首相のウクライナ訪問で世界に明らかになったので、日本としてもその点をついて「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するのがいい。中露共同声明を1週間でほごにするプーチン大統領が評価するような「和平」ではダメだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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中国というと、現在林外務大臣が訪れています。林外務大臣が、上の記事で高橋洋一氏が語っているように「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張できれば良いのですが、それには疑問符がつきます。

日本では以下のような報道がなされています。
 中国政府は、林外務大臣が来月1日から2日間の日程で中国を訪問すると正式に発表しました。

中国外務省は31日、「秦剛外相の招きに応じて日本の林外務大臣が来月1日から2日の日程で中国を訪問する」と発表しました。

 秦剛外相との会談については、「両国の関係に加え、ともに関心を持つ国際問題や地域問題について深く意見交換する」と説明しました。

 また、外相会談とは別に林大臣が「中国の指導者」と面会することも明らかにしていて、外交トップの王毅氏などと会う可能性があります。

ただ、この報道はかなり誤解を招きやすいです。そもそも、泰剛氏は日本でいうところの外相ではありません。外相といえば、日本では閣僚であり、外交トップです。

 泰剛氏は、第12代外交部長ではありますが、中国において外交部長はそもそも幹部ではありません。日本でいえば、外務省の部長といっても良いほどの位置づけです。

中国で幹部といえば、中国共産党中央政治局常務委員会の7人のメンバーです。王毅氏も現在外交トップではありますが、この7人のメンバーには入っていません。現状では、序列24位です。

この7人の誰かと林外務大臣が会談できれば、中国は林氏を重要視しているとみても差し支えないと考えられますが、秦剛氏との会談だけであれば、全く重要視されていないとみて良いでしょう。

王毅氏と会談できても、中国は林氏を重要視はしていないとみて良いです。

中国共産党が重要視をしていない林氏が、幹部でもない秦剛氏、王毅氏に対して「ホンモノの和平」を主張してみたところで、それはほとんど意味を持ちません。

林芳正外相は秦剛国務委員と会談し、東・南シナ海での中国の軍事的覇権拡大への懸念を伝えるとともに、中国当局に拘束された大手製薬会社「アステラス製薬」の中国現地法人幹部の早期解放を求める方針のようです。日本政府は、外相の訪中直前、先端半導体分野の23品目について、輸出規制強化策を公表しました。中国の「名指し」は避けましたが、これは明らかに米国と事実上歩調を合わせた対中牽制です。

「中国とは多くの課題や懸案がある。主張すべきは主張し、建設的かつ安定的な日中関係構築に向け、突っ込んだ意見交換をする」

林氏は3月31日の記者会見で、こう語りました。

秦氏とは2日に会談する予定で、中国外交担当トップ(日本閣僚クラスではない)の王毅共産党政治局員との会談も調整しています。3月に就任した李強首相に、日本の閣僚として初めて面会するかも焦点です。

中国で拘束されたアステラス製薬幹部の早期解放を要求するほか、ロシアのウクライナ侵攻をめぐって責任ある行動を求める。沖縄県・尖閣諸島を含む、東シナ海情勢も議論する見通しです。

「政界屈指の親中派」とされる林氏だけに、中国が仕掛ける「罠」を警戒する声があるなか、経産省は3月31日、「半導体装置の輸出管理強化」を発表しました。

もし、林外務大臣が李強首相と会談できれば、中国は林外務大臣を重要視しており、日本の中国に対する牽制なども、林外務大臣を通じて、中国に伝わる可能性もあります。ただ、その可能性は低いようです。

なぜなら、日本はすでに、習近平訪露中の岸田首相キーウ電撃訪問で、日中関係は構造変化を起こし、もとに戻る可能性はかなり低くなっているからです。

岸田文雄首相は27日午前の参院本会議で林芳正外相の訪中について「中国側から改めて招待があったところであり、引き続き具体的な時期を調整する」と述べました。日中関係については「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含めて対話をしっかりと重ねる」とした上で「共通の課題は協力する、建設的で安定的な関係を構築する」と強調しました。

岸田首相は、習近平訪露中のキーウ電撃訪問でも「ホンモノの和平」を主張しましたが、「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するでしょう。そうして、その晴れ舞台は広島G7サミットになることでしょう。

これによって、林外務大臣の訪中など、すっかり霞むことになります。これによって、岸田首相による外交の成果は頂点に達し、林外務大臣の位打ちは、最終段階を迎えることになります。

ちなみに、岸田首相による林外務大臣の位打ちについては、以前このブログで述べたことがあります。
G7サミット・広島開催、中露に忠告する絶好の場所 日清戦争の「軍事拠点」「臨時首都」岸田首相、スピーチすれば歴史に残る!?―【私の論評】岸田首相は、令和の後白河法皇になるか(゚д゚)!


この記事は、3月5日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
林氏と岸田氏同じ出身派閥(宏池会)であり、岸田氏は総理大臣になってからも、この派閥を抜けていません。岸田氏も林氏も宏池会の中では、有力な政治家であり、岸田氏としては、林氏を入閣させて、側においておくことで、派閥内での勢力拡大を抑止しているものとみられます。これも、一つの「策士」ぶりの発露なのだと思います。
これは、林氏への「位打ち」といえると思います。最近岸田首相は、この位打ちさらなる策士ぶりを発揮しています。それは、林外務大臣に対する位打ちともみられるやり方です。
位打ちとは、昔から日本で用いられてきた手法で、時の権力者が、敵対する新興勢力を自滅させるために、その人物にふさわしくない位階を次々と与えることによって、人格的な平衡感覚を失わせ、自滅させていく手法です。
 この「位打ち」の使い手として有名なのが平安時代末期の後白河法皇で、その対象となった代表格は、平清盛であり源義経です。
天子摂関御影』より「後白河院」藤原為信 画

 

岸田首相は、林外務大臣がG20に出席しないことを決めたときには、本来尻を叩いてでも無理にでもいかせるべきだったと思われるのですが、意図的にそうはしなかったのでしょう。これによって、林外相の評判は、自民党内外で地に落ちました。もし、岸田首相が何をさておいても行くべきだと諭していれば、林外務大臣はG20に出席したと思われます。

岸田首相は、この直後に習近平が訪露中に、キーウを電撃訪問しました。一方林外務大臣はこのときに、クック諸島を訪問していました。この一連の出来事で、中露首脳会談は霞んだとともに、国内では林外務大臣の外交も霞んでしまいました。

もともと、林外務大臣は保守派議員からは親中派として嫌われていましたが、一連の出来事で、他の議員からも外務大臣としての能力も本格的に疑問視されるようになったと思います。

今回の林大臣中国訪問は、もし本人が辞退すれば、岸田首相もそれを追認したと思います。この時期にそのような判断ができれば、外務大臣として位負けしていなかったという評価もされたかもしれません。

しかし、あくまで親中派の林外務大臣は、中国を訪問することを決定し、岸田首相はそれを追認したのでしょう。

まさに、ここが林芳正氏に対する岸田首相の位打ちが、功を奏する所以ともいえます。現状では、林氏が中国を訪問したとしても、成果があげられる見込みはほとんどありません。

それどころか、中国の方から無理難題を押し付けられ、マイナスになることも十分予想されます。

一方、岸田首相は林外務大臣が、中国を訪問しても、成果はプラスマイナス0もしくは、若干のマイナスになるだろうと見込んでいると思います。

たとえ若干のマイナスになったとしても、G7広島サミットで、それは十分に取り返せると見込んでいるのだと思います。

中国に対して、ここぞとばかり、G7の国々も巻き込んで、メンツを失ったままでいいのかという圧力をかけ「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するに違いありません。

これで、岸田首相は林芳正氏への位打ちの最終ステージに一気に近づき、これによって、林氏の総理大臣の芽は積まれてしまうことでしょう。一方、岸田首相はG7における外交で、支持率をあげ、さらに国際的な評価も高めることに成功するでしょう。

場合よっては、この勢いに乗って、解散総選挙をするかもしれません。そうなったとして、林氏への位打ちについては、選挙後の組閣でどうなったか見えてくるでしょう。

そもそも、入閣しなければ、林氏は宏池会の中でも、力を失ったとみるべきです。外務大臣ではないものの、何らかの形で入閣すれば、外務大臣としてはその能力が疑われることになっても、まだ宏池会の中での勢力は衰えていないとみるべきでしょう。そうして、岸田首相の林氏への位打ちは継続されるとみるべきでしょう。

以上からもおわかりいただけると思いますが、岸田氏は一般に思われている以上に、策士の面があります。物腰の柔らかさなどから、「お公家様」とも揶揄されていた岸田氏ですが、後白河法皇のように、武力のなかった公家には公家の戦い方がありました。岸田氏には、岸田氏なりの戦い方があるのです。そうして、極端なことや法に触れることがなければ、政治においてはどのような戦い方も許容されるべきと思います。

岸田氏が、財務省が岸田政権の安定長期化に障害になると気がつけば、林芳正氏に対する位打ちのような、誰も思いつかないような妙策で緊縮財政や増税に走る財務省の力を削ぐ挙にでるかもしれません。

しかし林芳正氏への位打ちを兼ねた岸田首相の一連の外交は、それだけが主目的ではなかったものの、安倍元首相の逝去にともないう日本の外交の停滞のおそれを見事に払拭させてくれました。これは、日本にとって良いことです。

同じく、もし岸田総理が自らの政権の安定長期化を目指すために、財務省の力を削ぐ挙にでれば、それも日本にとって良いことです。

ただ、一つ忘れてはならないのは、権謀術数だけで、他のことを顧みなければ足元をすくわれ場合もあるということです。


とくに、国民経済は重要です。経済その中で特に雇用が悪くなれば、国民の不満は一気に高まります。第一次安倍政権以降、民主党政権も含めてすべての政権短期政権になったのは、まともな経済対策が打てずに、雇用や経済が悪くなったからです、それを正した、特に雇用を劇的に改善した、第二次安倍政権が第一次、第二次通算で、憲政史上最長の政権になったことを忘れるべきではありません。

それを忘れれば、岸田首相も足元をすくわれることになるでしょう。

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2023年3月31日金曜日

多くのナゾ残し「捜査終結」安倍元首相の暗殺事件 山上被告を追起訴も…消えた銃弾、遺体の所見に食い違い、動機など不可解な点―【私の論評】岸田首相は、政府主導で委員会を設置し安倍元首相暗殺事件の検証・報告にあたらせるべき(゚д゚)!

多くのナゾ残し「捜査終結」安倍元首相の暗殺事件 山上被告を追起訴も…消えた銃弾、遺体の所見に食い違い、動機など不可解な点

事件直前、奈良市で街頭演説する自民党の安倍晋三元首相。右奥は山上徹也容疑者=昨年7月8日午前

安倍晋三元首相暗殺事件で、奈良地検は30日、山上徹也被告(42)=殺人罪などで起訴=を建造物損壊のほか、銃刀法、武器等製造法、火薬類取締法の各違反の罪で追起訴した。一連の捜査は、発生から8カ月超を経て終結したというが、事件にはまだ、多くの謎が残っている。来年以降の初公判とみられる裁判で事実関係がどう認定されるのか。


安倍氏は昨年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で参院選の応援演説中、山上被告に手製のパイプ銃で銃撃されて死亡した。

奈良地検は、約半年間の鑑定留置の結果、山上被告の刑事責任を問えると判断し、今年1月、殺人と銃刀法違反の罪で起訴していた。

山上哲也被告

事件の謎の1つは、「消えた銃弾」だ。

安倍氏には銃弾2発が当たったが、致命傷を与えた1発が行方不明なのだ。「事実関係の立証に支障はない」(奈良県警)とするが、重要な物証が消えたことは確かだ。

「遺体の所見」にも食い違いがある。

安倍氏が緊急搬送された奈良県立医科大学付属病院は、直後の記者会見で、死因は失血死とみられると説明した。弾は首から入り心臓や胸の大血管を損傷、左肩にも、弾が貫通したとみられる傷が1つあったという。

これに対し、県警は司法解剖の結果、死因は左上腕部を撃たれて動脈を損傷したことによる失血死だと発表しているのだ。

このほか、「動機」や「背景」「第三者の関与」「手製銃の威力」など不可解な点は多々ある。裁判員裁判で、検察側が提出する証拠をもとに、どのような事実認定がされるのか注目される。

【私の論評】岸田首相は、政府主導で委員会を設置し安倍元首相暗殺事件の検証・報告にあたらせるべき(゚д゚)!

安倍元首相暗殺事件は、日本にとって未曾有の大事件であり、国民の不安や衝撃は非常に大きいです。警察の捜査に加えて、政府主導で事件の検証・報告が必要かどうかは、検討すべき問題です。

ケネディ暗殺事件のときには米国では当時リンドン・ジョンソン大統領によってウォーレン委員会が設置され、その背景や事情が異なるため、単純に比較することはできません。ただし、過去において政府主導で事件の検証・報告が行われた例もあります。例えば、1995年に発生したオウム真理教の一連の事件について、政府は「オウム真理教事件等に係る内閣調査委員会」を設置して、事件の検証・報告を行いました。

下は、1964年9月24日ウォーレン委員会報告書をジョンソン大統領に提出する委員たちのものです。左から右へ ジョン・ジェイ・マックロイ 、 ジェイ・リー・ランキン、 リチャード・ラッセル、 ジェラルド・フォード、委員長アール・ウォーレン、 大統領リンドン・ジョンソン、 アレン・ダレス, ジョン・シャーマン・クーパー, ヘイル・ボッグス。


ウォーレン委員会は、独自調査として延べ552人の証人喚問を行い、やがて1964年9月に全文約296,000語、全888ページに全26巻(20000ページ以上)、委員会文書1553の膨大な関連資料が付いた報告書がまとめられました。そして 1964年9月24日に調査の結果を報告書(Warren Commission report)としてジョンソン大統領へ提出され、その3日後に一般公開されました。

報告書の結論

1.ケネディ大統領を殺害し、コナリー知事を負傷させた銃弾(複数)は、テキサス教科書倉庫の南東角にある6階の窓から発射されたものである。

2.ケネディ大統領は、最初に首の後ろから入って首の前の下の部分から出た弾丸に撃たれたが、必ずしも致命傷にはならなかっただろう。 大統領は、頭の右後部に当たった2発目の弾丸で、致命的な大怪我を負った。

3.コナリー知事は、背中の右側から入った弾丸が胸の右側を通り、右の乳首の下から出て、右手首に当たった。この弾丸はその後、彼の右手首を通り、左大腿部に入り、表面的な傷を負わせた。

4.発砲がトリプル地下道や、車列の前方から、又はその他の場所から行われたという信頼できる証拠はない。

5.証拠の重みからみて、発砲は3発であった。

6.どの発砲がコナリー知事に命中したかを決定することは、委員会の本質的調査には必要ではないが、大統領の喉を貫いたのと同じ弾丸がコナリー知事の傷の原因となったことを示す、専門家の非常に説得力のある証拠が存在する。しかし、コナリー知事の証言やその他の要因によって、この可能性については意見が分かれている。しかし、委員会のどのメンバーにとっても、大統領とコナリー知事の傷の原因となったすべての銃弾がテキサス教科書倉庫の6階の窓から発射されたことは疑いのないことである。

7.ケネディ大統領を殺害し、コナリー知事を負傷させた銃弾(複数)はリー・ハーヴェイ・オズワルドによって発射されたものである。

8.オズワルドは、暗殺の約45分後にダラス警察のJ.D.ティピット巡査を殺害した。

9.ジャック・ルビーは1963年11月24日午前11時17分過ぎにダラス警察署の地下に入り、午前11時21分にリー・ハーヴェイ・オズワルドを殺害した。ルビーの侵入手段に関する証拠は決定的ではないが、証拠の重みから、ルビーはメイン通りから警察署の地下に通じるスロープを歩いたと考えられる。ルビーがオズワルド殺害に際してダラス警察の職員に助けられたのではないかという噂を支持する証拠はない。
10.委員会は、リー・ハーヴェイ・オズワルドまたはジャック・ルビーのいずれもが、ケネディ大統領を暗殺するための国内外の何らかの陰謀に加わっていたという証拠を発見していない。 
11.委員会の全調査において、連邦、州、地方のいかなる役人による、米国政府に対する陰謀、転覆、背信の証拠も見つかっていない。

12.委員会は、オズワルドの動機について決定的な判断を下すことはできなかった。 
13.委員会は、今回の調査で明らかになった事実によって、大統領警護の改善を勧告せざるを得ないと考えている。

ただ、この結論には今なお多くの米国民が納得しておらず、未だケネディ暗殺に関しては、様々ななところで議論されている状況です。最近でも、SNSなどで活発に議論されています。 

ケネディ大統領は1963年11月22日、テキサス州ダラスを訪問中に狙撃された

安倍元首相暗殺事件についても、政府主導での事件の検証・報告が必要かどうかは、慎重に検討する必要があるでしょう。政府主導での検証・報告には、警察や検察などとは異なる視点から事件を見ることができるというメリットがあります。一方で、政府主導での検証・報告が、事件の真相を隠蔽する可能性や、事件を政治利用する可能性があるというリスクもあります。

安倍元首相暗殺事件について、政府主導での検証・報告が必要かどうかは、今後の裁判などの状況を踏まえながら、慎重に判断する必要があると言えます。

ただ、上の記事でも指摘されたようなたとえば「消えた弾丸の行方」「遺体の所見」の食い違いなど初歩的ともいえるような疑問点は、少なくとも払拭すべきでしょう。できれば、裁判に明らかにすべきです。しかし、これすら明らかにならなければ、政府主導で、米国のように委員会を構成し、検証・報告させるべきです。

政府主導で事件の検証・報告を行う場合、以下の留意点が考慮されるべきです。

1.独立性の確保:政府主導での検証・報告が、事件の真相を隠蔽したり、政治的利用がなされることを防ぐために、独立した調査委員会を設置する必要があります。調査委員会のメンバーは、事件に関係のない第三者や専門家で構成されることが望ましいです。

2.透明性の確保:調査委員会の報告書は、公開されることが望ましいです。また、報告書作成のプロセスも公開されることで、報告書の信頼性が高まります。

3.時限の設定:調査委員会には、期限が設定され、その期限内に報告書を作成する必要があります。期限を守ることで、無限に検証・報告が続くことを防ぎます。

4.資金の確保:調査委員会には、必要な資金を充当することが必要です。資金不足が原因で、調査・報告が不十分なものになってしまうことを防ぐために、十分な予算を確保する必要があります。

ケネディ暗殺事件のように、事件の真相が解明されない場合には、調査委員会は、不十分な点を明確にし、後の調査方針や検証方法を示す必要があります。さらに、調査委員会の報告書には、真相解明に向けた新たな情報提供を呼びかけることで、事件の解明に向けた展開を期待することができます。

私自身は、裁判の結果などにかかわらず、国民の不安や疑問を払拭するためにも、岸田政権は委員会を設置し、この問題の解明にあたらせるべきと思います。

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2023年3月30日木曜日

英のTPP加盟、31日にも合意 発足11カ国以外で初―【私の論評】岸田首相は、TPPの拡大とそのルールをWTOのルールにすることで、世界でリーダーシップを発揮すべき(゚д゚)!

英のTPP加盟、31日にも合意 発足11カ国以外で初

2018年3月8日、日本やカナダを含む11カ国は、環太平洋連携協定(TPP)に修正を加えた「包括的および先進的環太平洋連携協定(CPTPP)」に署名した

 環太平洋連携協定(TPP)に参加する日本など11カ国が31日にもオンライン形式で閣僚会合を開き、英国の加盟に大筋合意する見通しであることが分かった。複数の日本政府関係者が29日、明らかにした。発足時のメンバー以外では初となる。年内に、各国の閣僚がルールや新規加盟を議論する最高意思決定機関「TPP委員会」で正式に承認する見込みだ。


 TPPは、関税撤廃や知的財産などの統一的ルールにより自由貿易を推進する枠組み。今後は、英国と同様に加盟申請している中国や台湾の扱いが焦点となる。

 中国がアジア太平洋地域で影響力を拡大し、ルールの順守にも懸念があることから、日本は中国の加盟に慎重な立場を取っている。中国は台湾の加盟に反対している。一方、日本は英参加を足掛かりに、トランプ政権時代に離脱した米国の復帰に向けて機運を高めたい考えだ。

 英国は2021年2月にTPPへの加盟を正式に申請し、中国と台湾のほかウルグアイなどが続いた。英国の審査はこうした国々に対しての試金石となるため、加盟国が慎重に協議していた。

【私の論評】岸田首相は、TPPの拡大とそのルールをWTOのルールにすることで世界でリーダーシップを発揮すべき(゚д゚)!

TPPは、域内の関税撤廃・削減や投資の共通ルール策定などを行う協定。最終的な関税撤廃率は95~100%と高いうえ、知的財産の保護など広い範囲をカバー。例えばデジタル分野でソフトウエアの「ソースコード(設計図)」の開示を求めることを禁止し、巨大ITなど多国籍企業の活動への進出先の政府の介入を防ぐ内容を含みます。

日中韓豪や東南アジア諸国連合(ASEAN)などが参加する自由貿易圏「地域的な包括的経済連携(RCEP)」の関税撤廃率が平均91%にとどまるのに比べ、「TPPは通商・投資ルールとしての水準が高い」(経産省筋)です。

TPPはもともと、シンガポールやニュージーランドなど4か国の協定をベースに交渉国を拡大し、日米豪、カナダ、マレーシアなどアジア太平洋地域の12か国で15年10月に合意した。しかし、米トランプ政権が「米国第一」を掲げて17年1月に離脱したため、18年末に11か国の「TPP11」として発効しました。

現在のTPP加盟国

英国が加われば、TPP加盟国の国内総生産(GDP)が世界のGDPに占める比率は現状の13%から16%超に高まります。

規模拡大効果は限定的ですが、欧州からの参加は高いレベルの国際貿易・投資ルールを、アジア太平洋を越えて広げる第一歩であり、日本としては、トランプ政権時代に世界的に後退した自由貿易の機運を再び盛り上げるきっかけとなります。さらに、米国の復帰に向けた呼び水にもなる可能性があります。

英国にとっては、欧州連合(EU)から2020年末に完全に離脱し、EU外と自由に通商交渉できるようになったばかりで、21年1月に発効した日英包括的経済連携協定(EPA)とともに、EU離脱のメリットを国民に分かりやすく示す目玉政策となります。

同時に、中国をにらんだ思惑も指摘されます。

そもそも、TPPは米オバマ政権時代、日米を中心に、高い自由化を掲げ、計画経済、統制経済が色濃く残る中国を牽制することも狙って合意した経緯がある。

関税引き下げや、外国企業の活動への介入の規制など高い目標を中国に突き付けることで、中国が受け入れれば中国の経済改革を進められるし、受け入れなければASEANなど他のアジア諸国との関係で中国に対して日米が優位に立てる――という狙いだった。

ところが、その後、状況は一変しました。2国間協議による「取引」を重視したトランプ政権がTPPを離脱し、後を継いだバイデン政権も、「自由貿易で国内の雇用が奪われた」という声が国内で根強いことから、TPP復帰には当面、消極的です。

他方、米国の混乱のスキを突くように、中国が動きました。20年11月、習近平主席がTPPへの参加を「積極的に考える」と表明しました。中国がにわかにTPPの厳しい条件を受け入れるのはこんなんですが、米国の方針が定まる前に手を挙げ、加入交渉で有利な条件を引き出したいとの思惑との見方が一般的です。

そのほか、韓国、台湾、タイも参加に関心を示すなど、英国の加入申請を含め、動きがあわただしくなっていました。

中国など1か国のためにTPPのルールを変えることは、ありえず、資本の自由な移動が制限されている中国は現在のままだと加入できる見込みは全くありません。

一方台湾については、TPPに加入することについて反対する国はありません。呉釗燮(ごしょうしょう)外交部長(外相)は昨年11月21日、台湾の環太平洋経済連携協定(TPP)加入を推進する過程で、公開または非公開の場で台湾を支持しないと表明した国は「今のところない」と明らかにしました。立法院(国会)外交・国防委員会での答弁。

呉釗燮(ごしょうしょう)外交部長(外相)

台湾のTPP加入申請を巡り、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席したオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相が同年同月18日、台湾のTPP加入を支持するか取材陣に聞かれ、「承認された国家しかTPPに加入できない」と発言。これを受け、野党や無所属の立法委員(国会議員)から関心が寄せられました。

最大野党・国民党の温玉霞立法委員から、台湾のTPP加入に対して支持を表明した国の数について聞かれた呉氏は、具体的な数字は挙げられないとしつつ、今のところ、ほぼ全ての参加国が台湾との非正式協議に応じていると説明。当初は台湾のことを理解していなかった国や台湾の加入に比較的冷ややかな態度を示していた国も、台湾側の努力によって支持する姿勢を見せるようになったとしました。

呉氏は、台湾の加入審査が進められるのは、英国の加入審査が完了した後になるとの見方を示しました。

外交部(外務省)は同年同月18日、アルバニージー氏の発言の直後にオーストラリア政府から「台湾のTPP加入に対する立場に変更はなく、台湾を含め、TPPの高いレベルを満たす全てのエコノミーの加入を歓迎する」との弁明を受けたことを明らかにしていました。

台湾がTPPに加盟することで日本と世界には、以下のようなメリットがあります。

まずは台湾市場の拡大です。台湾のTPP加盟によって、TPP加盟国との間で関税が撤廃され、自由貿易が促進されることで、日本企業や世界の企業が台湾市場にアクセスしやすくなります。

また、台湾のTPP加盟によって、日本と台湾の企業間で技術的な相乗効果が期待できます。両国の企業が協力し、製品開発や生産技術の向上に取り組むことで、世界の製造業にとってもプラスの影響を与えることができます。特に、半導体の分野では、それが期待できます。

以前このブログでも指摘したように、米国が中国に対して懸念していることの全てはTPP協定がカバーしています。これは、当然米国も理解しているでしょう。だから、TPPから脱退したトランプも、良い条件が得られるならという留保を付けたにせよ、TPPに復帰してもよいという発言をしたのでしょう。

英国、台湾に続き、タイ、インドネシア、コロンビア等を加入させてTPPが拡大し、また、米国がTPPに復帰して来るなら、TPPは巨大な自由貿易圏を形成することになります。

最悪、米国がTPPに参加しない場合でも、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けることができます。これには、EUも賛成するでしょう。

TPPのルールを世界のルールにするのです。単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定をWTOに持ち込むことには中国もあからさまに反対できないでしょう。

この段階まで来ると、中国は中共を解体してもTPP協定を含むWTOに入るか、中共を解体せず新WTOにも入らず、内にこもることになります。内にこもった場合は、中国が待つ将来は、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。その時には他国に対する影響力はほとんどなくなっているでしょう。

いずれにせよ、TPP「拡大」は、米国と中国を牽制するだけではなく、混沌とする世界に新たな秩序をもたらし、世界を救うことにつながることになります。

このTPPを日本という軍事的・経済的覇権によらない国が旗振り役を務めたということが大きいです。

最早世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに随分前から倦んでいるのだと思います。ここに、日本が世界でリーダーシップを発揮できる好機が訪れたともいえます。

TPP協定発効記念式典で各国の関係者と談笑する安倍晋三首相(中央右 当時)と茂木敏充経済再生担当相(同左)

安倍元総理は、米国が加入しなくてもTPPを発効させることに成功しました。しかし、安倍元首相には、この方面で積み残したことがたくさんあります。

TPPの参加国を増やして、拡大すること。TPPの規定をWTO、すなわち世界の貿易ルールにすることなどです。私は、故安倍元総理は、この両方が成就することを望んていたと思います。

岸田政権は、こうした安倍政権の積み残しを実現して、世界でリーダーシップを発揮していただきたいです。


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2023年3月29日水曜日

〝G7明け解散説〟浮上、岸田首相は決断するのか 「ウクライナ電撃訪問」など内閣支持率回復の兆し 与野党に思惑、駆け引き―【私の論評】岸田首相解散総選挙で支持率拡大の可能性は高まったが、長期安定政権にするにはまだ実行すべきことが(゚д゚)!

〝G7明け解散説〟浮上、岸田首相は決断するのか 「ウクライナ電撃訪問」など内閣支持率回復の兆し 与野党に思惑、駆け引き


 自民党内で「早期解散論」が浮上している。統一地方選を含めた4月決戦に勝利すれば、今国会会期末(6月21日)までに衆院を解散し、総選挙に踏み切るのが得策という見方だ。岸田文雄首相のウクライナ電撃訪問などで内閣支持率が回復している一方、立憲民主党などの支持率が低迷している背景もある。岸田首相は決断するのか。


 「間違いなく取り組んでいかなければいけない課題は統一地方選と衆参の補欠選挙だ。先送りできない課題に取り組む。今はそれしか考えていない」「支持率に一喜一憂することなく、やるべきことをやっていく」

 2023年度予算が成立した28日、岸田首相は記者団に解散総選挙の可能性を問われ、こう明言を避けた。

 岸田内閣の支持率が好調だ。

 日経新聞とテレビ東京の共同世論調査(24~26日)では、内閣支持率は2月の前回調査から5ポイント増の48%となり、7カ月ぶりに支持率が不支持率(44%)を上回った。岸田首相が直前に断行したウクライナ電撃訪問(21日)や、日韓首脳会談(16日)が支持率を押し上げたとみられる。

 一方、この1カ月、放送法文書問題を追及し続けてきた立憲民主党の支持率は8%と、前回比1ポイント減だった。候補選定も道半ばという。

 これらを受け、自民党内で「早期解散論」が高まっている。

 4月の衆参補選や統一地方選に勝利し、5月に岸田首相の地元・広島で開催されるG7(先進7カ国)首脳会議の成功を追い風に、国会会期末までに解散するとの算段だ。

 ただ、連立を組む公明党は慎重だ。

 山口那津男代表は28日、予算成立後のあいさつ回りで、国会の公明党控室に訪れた岸田首相に対し、「いよいよ統一選ですね。解散じゃありませんね?」と、あえて記者団の面前で〝ジャブ〟を放った。

 岸田首相は「統一選です。補選もあります」と答えた。

 衆院の任期満了は25年10月で、岸田首相は来年(24年)秋の自民総裁選も念頭に解散時期を検討するとみられる。

 高まる早期解散論をどう見るか。

 政治評論家の有馬晴海氏は「内閣支持率が回復し、統一地方選、広島サミットの成功を踏まえれば、岸田首相が6月以降に解散に踏み切る可能性がある。予算が着実に成立するなか、野党への支持は拡大せず、次期首相候補も見当たらないことは、岸田首相の自信になる。年末に向けて、国防強化や少子化対策の財源問題が焦点になれば厳しい局面を迎える。時間が経てば、新たな不祥事などのリスクもある」と語った。

【私の論評】岸田首相解散総選挙で支持率拡大の可能性は高まったが、長期安定政権にするにはまだ実行すべきことが(゚д゚)!

最近、労働参加率の落ち込みについて、日経新聞が意味不明の記事を書いています。下の動画は、高橋洋一氏がその記事について説明したものです。

この動画をご覧いただくと、日本は他国に比較すると、コロナ禍においても、労働参加率が他国のように大幅に落ちることなく、コロナ後も力強く回復しており、日本は他の先進国においては、雇用に関しては大成功といえることを説明しています。


日本の、雇用調整助成金制度は、日本独自のものであり、欧米にはありません。この仕組は、失業率があらかじめめ上がりそうなことが予想された場合、労働者にではなく、雇用主に補助金を支給し、労働者を解雇させないようにします。

欧米では、解雇された労働者に補助金を提供するという形式が多いですが、このやり方だと、景気が回復したときに、企業はまた人を雇用し始めるのですが、解雇してしまった労働者と同水準の労働者を雇うことは難しく、一定期間の教育や訓練が必要となり、労働力が回復するには時間がかかります。労働参加率はすくに高まりません。

日本のような方式だと、景気が悪くなった場合、雇用主に補助金を提供するため、景気が悪くても、雇用が維持されたままの状態なので、労働参加率は不況時にも下がることもなく、景気が回復した場合、企業はそれにすぐに対応して、増産などがすぐにできます。

安倍・菅両政権においては、増税することなく、100兆円の国債を発行し、日銀がそれを買い取る形で、補正予算を組みコロナ対策を実行しました。さらに、雇用調整助成金制度をフル活用したため、世界の先進国の中でも日本だけが、労働参加率を落とすことなく、コロナ禍収束後の景気の回復にもスムーズに対応できました。

両政権において、失敗とみられるのは、医療村などの執拗な抵抗にあって、コロナ病床の確保がなかなか進まなかったことですが、それでも、結果的には大規模な医療崩壊を起こすこともなく、失業率が他国のように急激に高まることもなく、推移しました。

これは、このブログでは何度か力説したように、安倍・菅両政権のコロナ対策が大成功したことを意味します。しかし、上の動画にも高橋洋一氏も触れているように、日本ではこの大偉業を日経新聞をはじめとするマスコミは報道しません。

さらに、失業率は典型的な遅行資料であり、現在の政府の雇用対策は、半年後以降にその成果が現れます。

安倍・菅政権による雇用対策は、功を奏し、さらに岸田政権においても、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例措置は継続されました。令和4年11月30日まで特例措置 及び 令和4年12月1日~令和5年3月31日まで経過措置が措置が取られています。雇用調整助成金の特例措置は3月31日をもって終了します。

菅義偉前首相(右)が新総裁に選ばれた自民党総裁選で手を取り合う安倍晋三元首相(中)と岸田文雄首相(2020年9月)

今後の雇用がどうなるかは、半年後にはっきりします。経済指標の中で、失業率は一番重要な指標です。マクロ経済的には、何をさておいても雇用が良ければ、政府の経済対策は合格といえます。雇用が悪ければ、他の指標がいくら良くても、政府の経済対策は失敗です。

雇用が遅行指標であることから、今後岸田政権がどのような経済政策をとろうとも、4月1日から半年後あたりまでは、雇用は良い状況が継続されるのは確実です。

私自身は、岸田政権が様々に批判されてきたにも関わらず、結局党内政局などになかなか結びつかないのは、結局のところ雇用状況の良さが続いているからであると考えています。雇用が悪ければ、政権の基盤も弱まります。

岸田政権が防衛費の倍増や、異次元の少子化対策などを打ち出しています。問題は、その財源を増税によって賄うか否かです。消費税などの増税で賄うとすれば、また、経済も落ち込み、さらにデフレが進行することになりかねません。そうなれば、雇用はいずれ再び悪化することになります。

このようなことをすれば、岸田政権は長期政権にはなり得ません。上の記事にもあるように、岸田首相はウクライナ電撃訪問(今月21日)や、日韓首脳会談(今月17日)、中国大使の離任の挨拶を断る(2月)、新日英同盟の締結(1月)などの目覚ましい外交により、特に日中関係を構造的に変えてしまったことにより、支持率をあげています。G7開催後にはさらに支持率を上げる可能性も大です。そうして、今後半年くらいは雇用が悪くなる可能性もありません。

そうなると、「G7明け解散説」が浮上するのは、当然の流れですし、これについては、以前にもあり得ることをこのブログで示しています。

そうなると、岸田首相は長期政権の切符を手にすることになるでしょう。ただ、それを確実なものにするには、やはり失業率をあげないようにするため、デフレを回避するため、当面増税・緊縮財政などはせず、日銀にも金融緩和政策を継続させるべきです。

ここを間違えれば、たとえ今年早期衆院解散を断行して、一時的に支持率が上がったにしても、それは一時的であり、岸田政権は長期にはなり得ません。

一番良いのは、先日も示したように、増税延期の時期を何年何月までとか、今後何年間などと時間で区切ることなく、たとえば物価上昇率が継続的に半年くらい4%くらいまで上がっても失業率が下がらなくなたときに検討するなどとして、増税延期を公約として、解散総選挙に臨むべきです。

上記の日経新聞のように安倍・菅政権の経済政策を認めないマスコミなどは、全くの問題外であり、ただのマクロ経済音痴としか言いようがありません。なぜアベノミクスを否定する人たちは、この雇用改善をみないのか不思議でなりません。いったいマクロ経済政策になにを求めているのでしょうか。岸田首相は、これを認めた上で、その積み残しを実行すべきです。


現在でも、失業率は高くはありませんが、GDPギャップは厳然と存在しているのですから、それを是正して、デフレからの完全脱却と、ゆるやかな賃金の上昇からしっかりとした上昇を目指し、アベノミクスのさらなる改善・改革を目指すべきです。金融緩和の継続と、積極財政は必要不可欠です。間違っても、増税などすべきではありません。これを実行できれば、岸田政権は長期政権となるでしょう。

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2023年3月28日火曜日

日本人向けアニメの最大級海賊版サイト・B9GOODの運営者ら4人を刑事摘発―【私の論評】中国内での合法的な日本アニメのさらなる規制も強まる予感(゚д゚)!

日本人向けアニメの最大級海賊版サイト・B9GOODの運営者ら4人を刑事摘発

かつてのB9GOODのサイト画面 現在はサムネイル等もみれません

日本人向けアニメの海賊版サイトとして最大の規模を誇るB9GOODの運営者ら4人が、中国江蘇省の公安局により刑事摘発された。

アニメを中心にドラマや映画が配信され、日本からのアクセスが約95%を占めていたというB9GOOD。2月14日に重慶市在住の33歳無職男性Aの身柄が拘束されるともに取り調べが行われ、2月18日から3月21日にかけて成都市在住の30歳会社員女性B、上海市在住の38歳無職男性C、福建省福州市在住の34歳自営業女性Dに対して家宅捜索と在宅での取り調べが実施された。

刑事事件化を一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)に要請したのは、アニプレックス、テレビ東京、東映アニメーション、東宝、日本放送協会、バンダイナムコフィルムワークスの計6社。そのほか複数のCODA会員社も、同サイトに掲載されていた作品の被害確認で調査協力を行った。CODAからの刑事告発で中国の海賊版サイトの運営者やアップローダーが刑事摘発されたのは今回が初となる。

主要関係者の刑事摘発とサーバーの解析捜査が行われたのち、同サイトは3月27日に完全に閉鎖。男性Aは保釈保証金を納付し、3月19日に保釈された。公安の調べによると、男性Aはサイトの運営およびアップロードを認めているという。男性Aが同サイトの広告から得た収入の一部で購入していた400万元相当(約8000万円)の住宅はすでに差し押さえられているが、公安は男性Aがこれまでに600万から700万元(約1億2000万円から1億4000万円)を得ていたと見て裏付け捜査を進めている。

また男性Aは女性B、Dと面識があり、報酬を支払ってアップロードさせていたと供述。女性Bは3万元(約60万円)、女性Dは8万元(160万円)の報酬を得ていた。男性Cはほかのストレージサイトに違法コンテンツをアップロードし、B9GOODからのリンクで誘導、独自の広告を表示する方法で広告費を稼ぎ、これまでに30万元(約600万円)の収入を獲得していたとされる。今後被疑者らは起訴され、刑事裁判手続きに入る予定だ。

CODA代表理事・後藤健郎氏コメント                

この度、B9GOODの運営者やアップローダーが中国で刑事摘発されました。

日本人向けアニメの海賊版サイトとして最大規模のB9GOODがついに刑事摘発されたことの意義は大きく、今後の国際的な海賊版対策や国際連携・国際執行の強化に資する大きな成果であると考えます。著作権侵害行為は中国で行われていましたが、サイトへのアクセスは約95%が日本からのものでした。運営者は日本から集まる膨大なアクセスで広告費を稼いでいたのです。日本から海賊版サイトを大量視聴することで、海外の犯罪者に多額のお金が流れています。そして日本の権利者には1円も還元されることはありません。著作権を保護することの大切さを再認識していただくとともに、どうか海賊版サイトではなく、正規のコンテンツを視聴してください。

【私の論評】中国内での合法的な日本アニメのさらなる規制も強まる予感(゚д゚)!

B9GOODは2008年に「B9DM」というサイト名で開設。その後サイト名とドメインを「b9good.com」に変更し、Web解析ツールの「SimilarWeb」によると21年3月から23年2月までの2年間で3億回以上のアクセスを集めていました。

閲覧者を違法コンテンツへ誘導する、いわゆるリーチサイトの“リンク元”としても機能していました。22年9月に北海道警が摘発した「全話一気に視聴するならココ!!(アニメ)」もB9GOODにアップロードされた動画へ誘導していたことが分かっています。

B9GOODの刑事摘発は、間違いなく日本にとっては良いことなのですが、私には素直には喜べないところがあります。

中国ではテレビの普及とともに1980年代以降、日本からさまざまなアニメ番組が輸入されました。「一休さん」、「ドラえもん」、「ドラゴンボール」、「聖闘士聖矢」など日本国内でもおなじみの作品を中国の子供たちは観て育ち、その作品は今はすっかり大人となった中国人の脳裏に刻み込まれています。

2000年以降はインターネットで作品の配信も行われるようになり、日本のアニメやゲームは中国社会に大きな影響を与えています。

中国社会の中に日本のアニメやゲームの文化がすっかり根付いてしまっているのは確かですが、こうしたなか習近平政権は日本のアニメやゲームなどを狙い撃ちし始めていました。

2015年6月に上海で開かれ国際映画祭に合わせて日本の作品が紹介されましたが、日本国内でも人気が高い「進撃の巨人」は上映できませんでした。この時は、その理由が明らかにされませんでしたが、中国文化省は映画祭に先立って、「進撃の巨人」や「寄生獣」など38作品のリストを公表。インターネットでの配信を禁止する措置を取っており、この影響を受けたとみられています。

38作品をリスト化した表向きの理由は「未成年者の犯罪や暴力、ポルノ、テロ活動をあおる内容が含まれる」というものですが、中国政府や共産党の見解を額面通りに受け取るような人はよほどのお人好しでしょう。

人間を捕食する「巨人」が支配する世界で、築いた壁の内側で戦きながら暮らす人類がやがて「巨人」との戦いを決意する「進撃の巨人」は、中国共産党の支配力が着実に浸透している香港に重ね合わせることもできます。巨人=中国共産党であり、人類=香港の人々という具合に。「進撃の巨人」は世界中でファンを獲得したが、香港でも大きな反響を呼びました。

2015年春には北京テレビが「名探偵コナン」を取り上げ、「アニメ作品の旗を掲げた、あからさまな犯罪の教科書だ」と批判。また、2014年9月には成都市共産党委員会機関紙の成都日報が「ドラえもん」にかみつきました。成都日報は「ドラえもん」が2020年東京五輪招致の際に招致スペシャルアンバサダー(特別大使)に就任したことなどに触れ、「ドラえもんは国家としての価値観を輸出し、日本の文化戦略で重要な役割を果たす」と主張。むやみに親しみを持たないように呼びかけました。

これだけ中国政府や共産党が日本のアニメやゲームの文化に対して警戒感と敵愾心を示すのは「たかがアニメやゲーム」と侮れない発信力があると認識している明らかな証拠でしょう。

このあたりのことは、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

この記事は、2016年5月1日のものです。この記事より、以下に一部を引用します。
幼少の頃に文化大革命に遭遇し、後に日本に帰化した石平氏は、「この結果、中国では論語の心や儒教の精神は無残に破壊され、世界で屈指の拝金主義が跋扈するようになった」と批判しています。

中国では、文化財などの保存もいい加減であり、とても、過去の先達の知恵を継承しようなどという考えがあるとは思えません。

古代中国の知恵を自分たちの血とし、肉として、それを現代に至るまで継承してきたということでは、日本のほうが現代中国よりも、古代中国の知恵の継承者として、数段上にあると言っても良いくらいです。誰でも、一度は漢文に接したことがあることでしょうし、習字をしたこともあると思います。さらに、私達の生活習慣の中にも、古代中国の知恵や文化が息づいています。

これに関しては、上の写真を見ても理解できます。上は、日本の安倍総理による習字と、習近平のものを対比したものです。

これを見ても、どちらが古代中国の文化や知恵、徳の継承者であるか良く理解できます。そうは、言っても、日本でもとても古代中国の文化を継承しているとは思えない人もいます。それは、以下の写真をご覧いただければ、おわかりいただけるものと思います。

このような例外は、除いて、普通の日本人なら、古代中国の徳や、知恵が体に染み付いています。日本のアニメや、ゲームも作者は意識していなくてもそうなので、それが意識しなくても、作品に現れてしまうのです。それを中国共産党は、自分たちの統治の正当性を脅かすものとして、警戒感と敵愾心を示すのです。 

その後もアニメなどに対する中国の締め付けは継続されています。中国の放送規制当局、国家広播電視総局(広電総局)は2021年9月24日遅くに公表した通知文で、オンラインで配信するアニメーション動画の制作者に対し、「健全な」作品をつくるよう求め、暴力的だったり、低俗で性的だったりするコンテンツを排斥するよう促すと表明しました。

広電総局は、アニメ動画は子どもや若者が主な視聴者だと指摘。各適格機関は「真善美を発揚する」コンテンツを放送する必要があるとしました。

中国共産党は当時から、エンタテインメント業界に対する締め付けを強化していました。

それまで、中国ではテレビやネットでのアイドル育成番組が人気で、歌やダンスを披露するアイドルの卵に若者らが投票したり、審査員がアドバイスする番組が複数ありました。

しかし政府は、2021年から芸能人の「人気ランキング」や「投票行為」や未成年の「投げ銭」を禁じた上、これらの放送をすべて禁止としました。

芸能人の「人気ランキング」や「投票行為」は民主的な選挙を連想させ、政府の統制が行き届かないところで大きな集団が形成され、中国共産党に対する批判が行われることを警戒してのことのようです。

さらに中国共産党は、テレビ局に対しても強い規制をかけ、主要BS放送4社に「娯楽性を求めるな」と是正命令を出し、過度のエンターテイメント性を追い求めず、ファン文化を助長せず、「高い政治的意識をもって」(中国語:政治家辦報)番組の制作にあたるように命じ、中国共産党に対して従順でない芸能人の起用も禁じました。

「政治家辦報」とは、毛沢東が1956年にメディアのあり方について述べたときに使用した言葉です。

これらの規制に対して、ファンや有識者からは「まるで文化大革命だ。国は一つの声しか許さない」「中国社会はとっくに終わっている。だれも庶民の声を聞かない」「毛沢東の独裁時代に戻り、洗脳を強めていく」との批判が相次いでいました。

これらの規制の煽りを受け、有名タレントの脱税の摘発も強化され、自主廃業に追い込まれている芸能プロダクションは、2021年8月末時点で700社以上に及びました。

また、中国当局は2021年8月30日、ネットゲーム運営企業に、未成年のプレイ時間を「金、土、日の各20~21時の1時間」、つまり週に3時間までに限定するよう命じ、他にもネットゲームアカウントの実名登録制の徹底も要求しました。

中国共産党は、6年前からネットゲームを「毒物」扱いし、敵視してきました。

理由については「若者のゲーム依存を防ぐため」などと説明していますが、ここにも政府の統制の及ばないところで、不特定多数の人が集まることへの警戒があると見られています。

このように中国共産党は、政府に反発する集団が形成されることを極端に恐れており、様々な産業に対する取り締まりを強化していますが、これでは中国経済はますます衰退の一途を辿っていくばかりです。

こうした、背景のもとに、「B9GOOD」のサイトも閉鎖されたと考えられます。無論このサイトは、違法サイトであり、いずれの国においても閉鎖されて当然です。

ただ、このサイトが開始された時期を考えると、15年近くも放置したことになり、中国共産党は、日本から海賊版サイトを大量視聴することで、中国の犯罪者に多額のお金が流れていたことを長期にわたって許容していたともいえます。

これは、2010年あたりまでは、中国当局が、反日デモや反日サイトを放置していたのと似ています。これらは、2012年あたりには、完全消滅しています。なぜそのようなことになったかといえば、中国政府は当初は「愛国無罪」などとして、反日デモ・サイトを放任していたのですが、これらの大半は放置しておくと後に、反政府デモ・サイトになってしまったので、これを規制するようなったです。

現在では、中国には反日デモ・サイトはみられません。それが発生しそうになれば、中国当局がそれをすぐに排除するからです。

これと同じように中国共産党は、このサイトを放置し続ければ古代中国の徳や、知恵」を含む日本のアニメの流布を無制限に広めることになりかねず、そうなれば中国共産党の統治の正当性を脅かしかねないと判断してこれを閉鎖したのでしょう。

今後、中国共産党の日本のアニメなどに対する規制は、合法のものまでさらに厳しくなると予想されます。だからこそ、先に示したように、私はB9GOODの閉鎖を素直に手放しでは、喜べないのです。

ただし、日本では言論の自由があり、政府等に反対する言論等を特に封じることなどしなくても、さほど大きな混乱を招くことはありませんが、それに比べて中国共産党の基盤はそれだけ弱いということです。

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