2023年4月11日火曜日

台湾巡る仏大統領の発言、中国に配慮し過ぎ 欧米議員批判―【私の論評】岸田首相のG7広島サミットでの大きな役割の一つは、仏を日米豪のアジア太平洋戦略に巻き込むこと(゚д゚)!

 台湾巡る仏大統領の発言、中国に配慮し過ぎ 欧米議員批判

中国を訪問したマクロン仏大統領

 マクロン仏大統領は仏紙とのインタビューで、欧州は台湾を巡る対立を激化させることに関心がなく、米中両政府から独立した「第3の極」になるべきだと述べた。これを受けて、中国に配慮し過ぎた発言だとして欧米各国の議員から批判が出た。

 マクロン氏は先週訪中した際に仏紙レゼコーとポリティコとのインタビューに応じ「最悪の事態は、この(台湾を巡る)話題でわれわれ欧州が追随者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだ」と述べた。

 ドイツ連邦議会外務委員会のレトゲン議員はツイッターに、マクロン氏は「中国訪問を習近平氏のPRクーデターと欧州の外交政策の惨状に変えることに成功した」と指摘。仏大統領は「欧州で一段と孤立している」と批判した。

 米上院のルビオ議員(共和党)もツイッター投稿動画で、もし欧州が「台湾を巡り米国と中国のどちら側にもつかないのであれば、われわれも(ウクライナに関して)どちらの味方もすべきでない」と指摘した。

【私の論評】岸田首相のG7広島サミットでの大きな役割の一つは、仏を日米豪のアジア太平洋戦略に巻き込むこと(゚д゚)!

昨年11月4日には、ドイツのショルツ首相が中国を訪れ、共産党のトップとして異例の3期目に入った習近平国家主席と会談しました。フランスのマクロン大統領と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長が今月5日、中国を訪問しました。


米国が中国に経済の「デカップリング(分断)」を仕掛けているのとは対照的に、欧州は首脳が相次ぎ「中国詣で」をし、「デリスキング(リスク低減)」の姿勢で臨んでいるようです。その背後には、EUは中国からレアアースを98%輸入しているという事情が絡んでいるようです。

米国としては欧州とともに中国の体制に対抗していこうという思いがあるのですが、米国識者のなかには、もともと「ヨーロッパは無責任だ」という態度を取る人もいます。

たとえば、トランプ政権で官僚を務めたエルブリッジ・コルビー氏は、「欧州は台湾有事があっても支えないということがわかった。欧州は頼りにならない。台湾有事においては日本とオーストラリアだけが頼りだ」とツイートしていました。

日米豪としては、「台湾有事に関して国際的な協力が得られないかもしれない」ことがわかったという意味では、ショックな出来事です。ただ、フランスの伝統からすれば米国とは別の対立軸をつくって我々がリードしたい、という思惑があるのだろうと思います。

もともとフランスはNATOからやや距離を取っており、1966年にNATOを脱退して、2009年NATOに復帰した経緯があります。

最近では、オーストラリアがフランスから購入することになっていた原子力潜水艦の契約を反故にし、イギリスに鞍替えして、米国が主導する米英豪AUKUS(オーカス)結成により、未だに「アングロサクソン系ファイブアイズの塊」で動こうとすることに対するフランスの怒りがあります。

さらに、昨年12月米国訪問時にマクロンは、米国のインフレ抑制法や国内半導体業界支援法は<米国経済に非常に有利だが、欧州諸国との適切な協調はなかった>として「米国の公平な競争の欠如」を批判しています。

しかし、フランスはこの南太平洋に海外県、海外地域圏、海外共同体を擁し 、その総人口は165万人です。フランスの排他的経済水域の93%がインド洋と太平洋に位置します。加えて、インド太平洋地域諸国の在留フランス人は約15万人を数え、進出しているフランス企業の子会社は7,000社を超えるほか、8,300人のフランス軍が駐留しています。

マクロン大統領は2018年5月2日、ガーデン・アイランド海軍基地(オーストラリア、シドニー)で行った演説でフランスのインド太平洋戦略を概説し、法の支配およびあらゆる形態の覇権の拒否に基づく、包摂的な安定化アプローチの促進に意欲を示しました。さらに2019年10月23日にサン=ドニで行った「チューズ・ラ・レユニオン」サミットの閉会演説の中で、フランスのインド太平洋戦略では海外県・地域圏および海外自治体(DROM-COM)と、その地域統合に重点が置かれていることも強調しました。

フランス軍事省は2019年、インド太平洋におけるフランス防衛戦略を採択しました。この戦略は海外駐留部隊(海外領土・外国)の行動強化、大量破壊兵器等の拡散防止への積極的な貢献、地域機関とパートナーの強化への尽力、東南アジアのパートナーの戦略的自律性の強化、環境安全保障予測政策への貢献を目的とします。

フランスにとって、インド太平洋の概念は重みを増し、フランスは自由で開かれた包摂的なインド太平洋地域を維持するという目標のもと、とりわけインド、オーストラリア、日本、さらにASEANをはじめとする主要なパートナーと共通のビジョンを共有しています。EUもこの概念を採用し、独自の戦略を備えるべく作業を進めています。

日米豪などのインド太平洋戦略に関して、必ずフランスは関与すると考えられます。これについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化―【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、フランスもこれに参戦(゚д゚)!
1月20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)

これは1月22日の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事から引用します。
 フランスのマクロン大統領は20日、仏南西部モン・ド・マルサンの空軍基地で演説し、2024~30年の7年間で計4000億ユーロ(約55兆5000億円)を国防費に充てる方針を示した。19~25年の2950億ユーロ(約41兆円)と比べて、3割以上の増額となる。

 マクロン氏は演説で国防費増額の背景について、ロシアによるウクライナ侵略などを挙げ、「危機に見合ったものとなる。軍を変革する」と述べた。

 情報収集活動予算を6割増額するほか、核抑止力の強化や無人機(ドローン)の開発促進などに充てる。中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する。
この軍事費増大の背景には何があるのか、この記事【私の論評】から引用します。
中国の台湾侵攻は、現実にはかなり難しいです。実際、最近米国でシミレーションシした結果では、中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。中国の報復によって、日本と日本にある米軍基地などは甚大な被害を受けますが、それでも中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。そうして、無論中国海軍も壊滅的な打撃を受けることになります。

であれば、中国としては、台湾侵攻はいずれ実施するということで、まずは南太平洋の島嶼国をなるべく味方に引き入れるという現実的な路線を歩もうとするでしょう。これによって台湾と断交する国をなるべく増やし、台湾を世界で孤立させるとともに、これら島嶼国のいずれかに、中国海軍基地を建設するなどして、この地域での覇権を拡大しようとするでしょう。

南太平洋の島嶼国といっても、ニューカレドニアは仏領であり続けることを選びましたし、そもそも一人あたりのGDPは34,942ドルであり仏本国を若干下回る程度です。ただ、南太平洋の島嶼国のほとんどは一万ドルを下回る貧困国です。

現代的な軍隊を持った、台湾や日本、韓国、NATO加盟国などの領海近くを中国の空母が通ったにしても、それに対する対艦ミサイル、魚雷など対抗手段は十分にあるので、これを警戒はするものの、大きな脅威とはなりませんが、南太平洋の島嶼国は、貧乏で小さな国が多く、これは大きな脅威になります。

そのときに、日米豪などだけでもこれに対処はできるでしょうが、これに南太平洋に海軍基地を持つフランスもこれに対処できれば、それこそ百人力になります。

これを日米豪はもとより、世界の多くの国々が歓迎しました。ところが、 今回のマクロン大統領の中国は訪問はそれと矛盾する行為と言わざるを得ません。

マクロンは、対中国政策を一体どうするつもりなのか、この矛盾をどう解消するつもりなのか、国際会議の場でフランスは詰められていくのではないでしょうか。 

岸田首相は今年に入ってから矢継ぎ早に外交で成果をあげています。特に、G7で岸田さんがマクロンの煮えきらない姿勢に対して何を言うか気になります。 ぜひ徹底的に詰めていただきたいものです。

今年5月に広島で開催されるG7サミットには、ゼレンスキー大統領を招待しましたが、オンラインで参加することになったことが話題になっています。これは、春から戦闘が激化すると予見して、訪日を断ったと考えられます。

フランスは先にも述べたように、NATOからやや距離を取っていたこともあり、米国とは異なる独自路線を取りたがる傾向があります。しかし、対中国ということでは、フランスも南太平洋に領土を持っており、中国への脅威ということでは、日米豪と利害が一致しています。フランスは日米豪と協同したほうが単独で中国に対峙するより遥かに有利です。

広島G7で米国のバイデン大統領が、フランスのマクロン大統領に直接これに関したことを言えば、話がかえって拗れる可能性が高いです。ここは、議長国の岸田総理の出番だと思います。

かつてのインド太平洋戦略においては、安倍元総理はこれを構想するととも提言し、米国と多くの国々を仲介しました。当時安倍総理がいなければ、米国が「インド太平洋戦略」を採用したり、同地域の多くの国々を巻き込んだりすることはできなかったかもしれません。

閣議を前に言葉を交わす安倍晋三首相(左)と岸田文雄外相(肩書はいずれも当時)=首相官邸で2017年5月12日午前8時32分

岸田首相は、こうした安倍氏のような役割を担って、G7広島サミットでフランスが、インド太平洋戦略で貢献するように促していただきたいものです。それが、ドイツや他のEU諸国に対しても、これを巻き込むことにつながります。

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2023年4月10日月曜日

中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか―【私の論評】西側諸国は、中露はかつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭におくべき(゚д゚)!

中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか

岡崎研究所

 アレクサンドル・ガブエフ(米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンター所長)が、3月18日付の英エコノミスト誌に、「ロシアの中国依存はプーチン後も続く」と題する寄稿をし、ロシアの中国の属国化時代を予想している。
 習近平が3月20日に国賓としてロシアを訪問する。ロシアは両国間の対等性を示そうとするだろうが、広がる両国間の力の差は隠せないだろう。

 プーチンは、ウクライナ攻撃を米国支配への反乱、ロシアの完全な主権への跳躍にしようとしている。しかし現実は異なる。開戦後13カ月、ロシアは、経済的にも外交的にも中国にますます依存している。2022年、ロシアの輸出の30%、輸入の40%を中国が占めた。ロシアのドル・ユーロへのアクセスが西側制裁下にあるので、この貿易の大きな割合が中国元で決済されている。西側がロシアの天然資源への依存を低める中、この依存は今後も増大する。

 今のところ、中国はロシアへの経済梃子を強めることで満足しているが、今後中国は政治的譲歩をより多く求めるだろう。中国はロシアに機微な軍事技術を共有することを求めうるし、北極海や中央アジアでの中国の存在感は高まるだろう。

 ウクライナ戦争によって、中国は3つの理由で、ロシアの最も影響力のあるパートナーになっている。第1に、中国のロシア商品の購入増大はプーチンの戦時財政を満たしている。第2に、中国はロシアの兵器の部品や工業機械への半導体の代替不可能な源泉である。

 最後に、ロシアは、米国の世界的敵対者である中国を助けることがバイデン政権のウクライナ支援に復讐する最も良い方法であると考えている。これが機微な軍事技術の共有やその他中国の軍事力を助けることがもはやタブーではないように見える理由である。

 ロシアにとっての悲劇は、プーチンが政治から引退した後でさえ、中国の「大君主」に従属する巨大なユーラシア独裁制が生き残るという事である。数年後、西側はロシアに経済的に依存することをやめ、代わりに、中国はロシアの輸出の大半を受け入れ、ロシアの金融は中国の通貨である元に釘付けられよう。

 西側との結びつきを再建し、この中国の支配から這い出るためには、ロシアは戦争犯罪人についての責任追及、賠償、併合した領土の返還についてのウクライナの要求を満たさなければならない。これはプーチン後でも、ほぼあり得ないシナリオである。ロシアの中国への属国化が予見可能で、利益も多いように見える。

*    *    *

 このエコノミスト誌の論説は、カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのガブエフ所長が書いたものであるが、ガブエフはロシアの事情に精通し、かつ中国のユーラシア政策にも詳しい人である。

 ガブエフは、ロシアが今後中国の属国になるだろうと予見している。ウクライナ戦争を受けての情勢の発展の中で、ロシアの中国属国化は、大いにありうる事態である。ガブエフは、プーチンが退場した後も、たとえロシアが民主化した場合にも、ロシアの中国属国化は続くと見ている。

 ガブエフが言うような情勢が出てくる蓋然性は大きいと考えられるが、そのような情勢は極めて望ましくないとも考えられる。特に、プーチン退場後に民主化した場合にも、ロシアは中国の属国であり続けるとのガブエフの判断には大きな疑問がある。

 情勢判断においては、希望的観測は排除すべきであるが、ウクライナ戦争後の情勢の進展によっては、ロシアの民主化や欧米諸国との関係改善の可能性もあると考えられる。その理由は、ウクライナ戦争は平和協定ではなく休戦協定でいつか終わるが、ウクライナが国家として生き残ることは休戦ラインがどこになるかにかかわらず、今の時点で明らかであると思われるからである。
繁栄する「兄弟」を見た時、ロシア人は何を思うか

 おそらく、生き残ったウクライナは、欧州連合(EU)に加盟することになるだろう。ウクライナは人権が尊重され、法の支配がある民主国家になり、その経済は奇跡的に回復する可能性さえある。EUで1人当たりの国民所得が最も低い国はブルガリアであるが、ウクライナの一人当たり国民所得は戦争前でブルガリアの半分であった。EU 諸国への出稼ぎだけでも経済の高度成長はできるだろう。

 ロシア人とウクライナ人はプーチンが言うような一つの民族ではないが、よく似た兄弟民族である。民主化し繫栄するウクライナを目の当たりにすれば、ロシア人が何故われわれは自由でもなく、貧しいままなのかと疑問を持っても不思議ではない。ここにロシアが民主化するきっかけがある。

 それに中国のジュニア・パートナーでいることに誇り高いロシア人が甘んじるとは考え難い。ロシアの歴史を巨視的にみると、欧化論者とスラブ主義者が政権交代してきたように見える。

 ガブエフの論は、そうなる蓋然性が高いとは思うが、ロシアの今後には別の発展もありうると考えて、政策展開を考えていく必要があるだろう。

【私の論評】西側諸国は、中露はかつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭におくべき(゚д゚)!

これと似たようなことは、前から言われていました。このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!
この記事は2019年8月22日のものです。まだコロナ禍が始まるまえであり、ロシアの脅威はいわれていたものの、ウクライナに本格的に侵攻するとは考えらていない時期のものです。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

同年(2018年)10月24日付の露経済紙「コメルサント」によると、ここ最近、中国系銀行がロシア側との取引を中止したり、口座開設を認めなかったりする事例が相次いでいるといいます。

国際的な対露制裁の対象外の企業や個人も例外ではないといい、同紙は「中国側はどの企業が制裁対象なのか精査していない。その結果、全てをブロックしている」と指摘しました。「この問題は今年6月の首脳会談以降、両国間で議論されてきたにもかかわらず、中国側は『是正する』というだけで、実際は何もしていない」と不満をあらわにしました。

同年同月26日付の露リベラル紙ノーバヤ・ガゼータも「中国はロシアの友人のように振る舞っているが、実際は自分の利益しか眼中にない」と批判。「中国の経済成長の鈍化が進めば、中国政府は国民の不満をそらし、自らの正当性を確保するため、攻撃的な外交政策に乗り出す可能性がある。例えばシベリアや極東地域の“占領”などだ」と警戒感を示しました。

実際、露極東地域には、隣接する中国東北部からの中国企業の進出や労働者の出稼ぎが相次いでいます。極東に住むロシア人の人口は今後、減少していくと予想されており、同紙の懸念は「いずれ極東地域は中国の支配下に置かれるのではないか」というロシア側の根強い不安があらわれたものといえます。

同年同月29日付の露有力紙「独立新聞」もこうした中国脅威論を取り上げました。同紙は「ユーラシア経済連合と一帯一路との連携に基づく計画は、実際には何一つ実現していない」と指摘し、「中国によるロシアへの直接投資は、カザフスタンへの投資よりさえも少ない」と指摘しました。

経済発展が著しいウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国について、ロシアは旧ソ連の元構成国として「裏庭」だとみなしています。しかし、一帯一路も中央アジアを不可欠な要素と位置付けています。

地政学的に重要な中央アジアでの影響力を確保するため、ロシアと中国は、この地域への投資や技術供与、軍事協力の表明合戦を繰り広げており、表向きの双方の友好姿勢とは裏腹に、現実は協調とはほど遠いのが実情です。

このように、中露の友好関係は一時的なみせかけに過ぎないものであり、米国による対中国冷戦が長く続き、中国の力が削がれた場合、中露対立が激化することは必至です。そうして、その状況はしばらくは変わらないでしょう。

現状は、国力特に経済の開きがあまりにも大きすぎるため、さらにロシアは人口密度の低い極東において直接中国と国境を直接接しているという特殊事情もあるため、ロシアが中国に従属しているように見えるだけです。

しかし、プーチンは強いロシアを目指しており、文在寅のように自ら中国に従属しようなどという考えは毛頭ありません。

その実、ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方です。これはいずれ、中国に向かって大きく噴出します。

その時こそが、日本の北方領土交渉を有利に進められる絶好のタイミングなのです。また、米国が最終的に中国を追い詰めるタイミングでもあるのです。

このように、中露がパートナーの域を超えて、本格的に同盟関係になることは考えにくいです。それは、コロナ禍を経て、ロシアがウクライナに侵攻した現在でも変わりは、ありません。

なぜ、そのようなことを言えるのとかといえば、最近習近平がロシアを訪問しましたが、その後のロシアの態度をみていればわかります。

ロシアを訪問した中国の習近平国家主席とプーチン大統領は先月21日、モスクワで首脳会談終了後、共同声明を発表しました。その中の第7項に、すべての核保有国は「核兵器を自国領土の外に配備すべきではないし、外国に配備された核兵器は撤収しなければならない」とありました。

2022年2月4日、北京冬季五輪の開会式に出席したロシアのプーチン大統領。居眠りしたとされる。

1年前、プーチン大統領は、北京冬季五輪の開会式に出席しましたが、五輪直後にウクライナ侵攻をしました。これで中国の習近平の面子は大きく傷つけられたはずですか、またしても中露共同声明後、わずか1週間でそれをほごにするようなベラルーシ核配備をプーチン大統領はは宣言しました。これで、習近平はまたしても面子を潰されました。

ベラルーシは、ロシアの隣国であり、これでロシアから核を発射しようがベラルーシから発射しようがあまり変わりありません。

これは、ロシアはウクライナに手を焼いているので、ベラルーシを使ってウクライナや、これを支援する西側諸国などを恫喝しているように見えます。

ただ、これだけ面子を傷つけられても、習近平としては、プーチンを責めたり、ロシアを制裁するようなことは、なかなかできません。


なぜでしょうか。ロシアは国際法を破って独立国を侵略した無法者です。中国が普通の法治国家であればロシアを非難していたでしょう。しかしプーチン氏が負ければロシアは民主化する可能性があります。中国にとってそうなっては困るので、プーチン氏にしっかりネジを締めに行ったといいうのが本当のところでしょう。

そうして、それに対するプーチンの答えは、習近平の思惑を見透かした上で、先程示したように、「ベラルーシへの核配備」宣言でした。

プーチンとしては、習近平などにネジを巻かれるつもりもないし、自らが失脚などした場合、ロシアが民主化され、窮地に追い込まれるのは、習近平の方だと、釘を刺したのでしょう。

こうした、両国の関係をみていると、とても同盟関係に入ることなど考えられません。同盟関係に入るということは、ロシア側からすれば、自ら中国の属国になるようなものです。プーチンや習近平のような独裁者は、自国が他国を属国にしてきたという歴史から、属国になることが何を意味するのか十分理解していると考えられます。

プーチンは、それは断じて避けるつもりなのでしょう。しかしながら、ロシアが民主化されれば、窮地にいたるのは中国であり、それを避けるためには、過去のロシアに対する支援を継続するようにと釘を刺したのです。

ただ、この試みが成功するかどうかは、わかりません。何しろ、プーチンは、ウクライナに対して、侵攻するとみせかけ、ゼレンスキー政権をウクライナから追い出し、ウクライナにロシアの傀儡政権もしくは、新ロシア政権をつくり、ウクライナを西側諸国に対するロシアの盾もしくは、緩衝地帯にしようと目論んだつもりなのですが、その目論見は現状では大失敗をし、全く意味をなしていません。

プーチンは、対中国政策でも、失敗する可能性があります。ただ、我々西側諸国としては、中露を同盟国のように考えるのではなく、場合によっては、かつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭においておくべきです。

特に、中国が経済的に相対的に衰え、ロシアと拮抗するようなことにでもなれば、その可能性は高くなるとみるべきでしょう。

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2023年4月9日日曜日

「中国の軍事力を強大だとするのは神話に過ぎない」 著名な軍事研究家が断言するワケ―【私の論評】人口比で比較してみると、中国人民解放軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえない(゚д゚)!

「中国の軍事力を強大だとするのは神話に過ぎない」 著名な軍事研究家が断言するワケ


 軍事史、軍事戦略研究、安全保障論を専門とし、『ルトワックの日本改造論』や『中国4.0 暴発する中華帝国』などの著書で知られる戦略家のエドワード・ルトワックは、増加し続ける中国の国防費を真に受けるべきではないと語る。「その金額が示すほどには、実質的な軍事力を強化できていない」と彼が言い切る理由とは──。

米中の国防費を読み解く

 中国最後の穏健派、前国務院総理の李克強が2023年の経済成長率の目標として5%を掲げ、さらなる市場の自由化を求めた翌日、習近平はこれに反応し、国防費を7.2%に引き上げると発表した。

 これは習の一貫した攻撃的姿勢を示すものであり(ナンシー・ペロシの台湾訪問に対する反応として、一連の弾道ミサイルを発射したことは記憶に新しい)、中国が2049年までに世界の覇権を握るという党の公約にも通ずる。

 とはいえ、この数字は現実には何を示しているのだろうか?

 発表されているところでは、今回引き上げられた国防費は総額1兆5600億元であり、現在のレートで約30兆円に相当する。もしこれが事実なら、中国は米国に大きく遅れをとっていることになる。というのも、米国の2023年度の国防費は7970億ドル(約105兆円)に達しているからだ(この数字には軍事施設の建設費用やウクライナへの救援費は含まれていないため、実際はもっと多い)。

 専門家たちは、中国の国防費もまた、実際より大幅に低く示されていると考えている。細かく改ざんされているというよりは、国防費から丸ごと除外されている項目があるのだ。たとえば、軍の研究開発費は非軍事予算に計上されている。

 中国の実際の国防費を明らかにするため、また米国の国防費から何が抜け落ちているのかを見極めるために、両国にエリート調査員の軍団を送り込んだとしても、彼らが実際にどの程度軍事力を強化しようとしているのかは、おぼろげにしか見えてこないないはずだ。

 ただ、確実に言えることがひとつある。両国とも、公表された国防費の上げ幅が示すほどには、実質的な軍事力を強化できていないということだ。

中国軍の深刻な人手不足

 中国の人民解放軍の場合、陸軍および海軍で人員不足により軍事費が削減されている。近い将来、空軍にも影響が及ぶだろう。陸軍の人員は現在97万5000人だが、この数字は14ヵ国と2万2000キロに及ぶ国境を接している国としては非常に少ない。

 これらの国のなかには、エンジンが機能しなくなる超高山地帯や、遠隔地の監視が困難なジャングル地帯、密輸のはびこるロシアとの国境地帯が含まれている。また、インドとの国境にある係争地ラダックでは、両国が陸軍を大規模動員する事態となっており、中国側の国境には少なくとも8万人が送り込まれている。

 いまや戦地になりつつあるラダックは別として、国境は軍隊ではなく、国境警備隊によって防衛されることになっている。かつて中国は国境付近にも軍を配備し、多額の予算を投じていたのだが、いまでは廃止されている。それは、人民解放軍の陸軍がきわめて小規模であるのと同じ理由からだ。すなわち、この地域での兵役を志願する健康な中国人男性が、壊滅的に少ないのだ。

 対照的に、都市部ではこうした深刻な人手不足の心配はないようだ。知人いわく、その結果、中国・チベットとネパールの国境地帯で奇妙な現象が起きているらしい。広東から来たよそよそしい都会の警官の一団が、チベットに入ろうとする旅行者をチェックして「国境を守っている」というのだ(彼らは2ヵ月間この仕事を「押し付けられた」と言っていた)。

 中国共産党の強力な中国人民武装警察部隊(フランスの国家憲兵隊、イタリアの国家憲兵隊と財務警察、スペインの治安警備隊に相当する)ですら、若い中国人男性たちに志願してもらえず、その影響を受けている。

 150万人という隊員数は多いように思われるが、人口が中国の5%、わずか6000万人に留まるイタリアの国家憲兵隊および財務警察には、人民武装警察部隊の10%に相当する15万人が属している。さらにイタリアの場合、新疆のウイグル人やカザフ人、チベットの牧夫たち、激しく不満を募らせるモンゴル人らを囲い込んで統制するために、大規模な武装人員を配置する必要もない。

Edward Luttwak

【私の論評】人口比で比較してみると、中国人民解放軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえない(゚д゚)!

上の事例では、残念ながら日本の例はでてきませんが、これは割り算をすれば、ある程度簡単に比較できます。

上の記事にある通り、陸軍の人員は現在97万5000人です。中国の人口は現在14億人、日本は1億2千万人です。人口では、中国は人口11.7倍です。計算を簡単にするため、11倍とします。

陸自の令和2年度末の人員は、常備自衛官15万0695名、即応予備自衛官は7,981名で、年間平均人員は約14万0347名です。これも計算を簡単にするために、14万人とします。

中国の陸軍に換算すると、日本の陸自は14万人✕11=154万人ということになり、これは中国の陸軍より圧倒的に多いです。

中国陸軍

こんなのは数字のマジックであり、軍人数は実数で扱うべきという人もいるかもしれませんが、自衛隊や普通の国の軍隊は、国民を守るが責務であり、この比較自体は数字のマジックとはいえないでしょう。ルトワック氏の上の記事で、イタリアの事例を出していますが、これも人口をを切り口として比較しています。

国土だけを比較の対象とすれば、中国のように、人が住める地域が少なく、住んでいる地域は点と線に限られているといわれるような国では国土を目安にするのでは客観的な比較はできないでしょう。人口を切り口としても、正確とはいえないですが、国土よりははるかに正確といえるでしょう。正確な比較はできないものの、ある程度の目安にはなるでしょう。

では、海自と空自ではどうなのでしょうか。

海自の人員は、定員45,329人(現員43,419人 充足率95.8%)である。 令和4年度(2022度)の予算額は約1兆2922億円 基地の数は約31です。

これに対して、中国海軍はどうなのでしょうか。

2017年版ミリタリーバランスによると、海軍人員数は、現役総員約235,000名の内、海軍航空部隊約26,000名、陸戦隊(海兵隊)約10,000名が含まれるとしています。
海軍司令員: 董 軍海軍大将
海軍政治委員: 袁華智海軍大将
現総人員: 約29万人
本部: 北京市
これも海自の定員数4万4千人として11倍にしてみると、約44万人であり、これも中国海軍より圧倒的に多いです。

中国海軍

空自はどうなのでしょうか。空自の現員数は、2022年では、43,720人とされており、これも計算をやりやすくするため、4万3千人とします。

では、中国空軍はどうなのでしょうか。ウィキペデイアによれば、総兵力39.5万人(空挺部隊を含む)とされています。

空自の現員数43,000人✕11=473,000人の換算となります。これも、空自のほうが多いです。

これらの比較は、無論正確ではないので、これで単純比較はできないものの、それでもさすがに人口比で比較してみると、中国軍は日本の自衛隊よりも桁違いに多いとはいえないという結論にはなるでしょう。

中国空軍

さらに、中国の軍隊は他国の軍隊と異なり、中国共産党の下に直結しており、国民を守る軍隊ではありません。いわば共産党の私兵のような存在です。そのため、もし戦争になっても、共産党を守る義務はありますが、国民を守る義務はありません。実際に戦争になれば、人民解放軍は中国共産党は守るかもしれませんが、国民は放置するかもしれません。

そのため、14億人も存在する国民を守る義務がないので、身軽といえば身軽ですが、暴動が起こったときには武装警察がこれを弾圧する任にあたりますが、大規模になれば、人民解放軍がその任にあたります。そのため、その身軽さも帳消しになっているといえます。

これは、中国のGDPについても同じようなことがいえます。実は、中露は一人あたりのGDPはいずれも1万ドル(日本円では100万円)を少し超えた程度です。ただ、ロシアの人口は1億4千万人であり、中国のそれは14億人であり、丁度10倍であり、GDPでも中国は国家単位では、ロシアの10倍です。

日本を含むG7諸国も一人あたりのGDPでは中露を下回る国は一つもありません。中国は世界第2の経済大国といわれていますが、一人あたりでは全く西側諸国には及ばないのです。軍事力もこれと同じであり、人口比で比較すれば、中国の軍事力はとても強大とはいえないのです。

しかも、現在の日本は米とは同盟関係、英豪と実質的な同盟関係にありますが、中露は同盟関係とみなす人もいますが、実際には同盟関係とはいえず、パートナーシップ程度のものです。同盟関係のない中国は不利であるのは間違いないです。

以上の計算は、コロナ感染者数や死亡者数の報道を彷彿とさせます。私は、民放のコロナ感染者数、死者数の報道には現在もイライラします。なぜなら、民放では未だに、都道府県単位で実数だけを報道するからです。

東京都は人口1396万人、島根県は人口66.52万人です、にもかかわらず実数だけで報道されると、東京都と島根県ではどちらが深刻なのかすぐには判断できないのでイライラします。

このようなことをなくすため、感染症学では県や都市などは、10万人あたりに換算して統計を出します。国単位では、100万人あたりに換算して出します。こうすることによってある程度客観的に比較できます。確かに、各都道府県で状況は違い、正確無比な比較などできないですが、それても、深刻さの度合い等が伝わります。

NHKでは今では感染者、死者数の発表するときは、各都道府県の10万人あたりに換算した数値を公表しています。しかし、民放では今だに実数だけを公表するので本当にイライラしてしまうのです。

これに関して、私の知っている人の中にも、10万人あたりと言われても良くわからないという人もいますが、そういう人は、実数で出されたものもよく理解できているはずもないので、報道するときには、やはり都道府県別では、10万人あたりなどで公表すべきでしよう。これを理解できない人のことは考慮する必要はないと思います。

しかし、過去には高橋洋一氏が100万人あたりの数値で、日本や海外を比較して、海外と比較すれば、日本は「さざ波」程度と事実を発言して物議を醸しました。

このような日本ですから、中国の軍事力は強大という説のほうが日本国内では幅をきかせ続けるでしょう。

そうして、それは中国共産党を利することになりかねません。しかし、心ある人は中国を等身大に見て、判断すべきです。

ただし、だからといって、中国を軽視しろといっているわけではありません。先日もこのブログで述べたように、米国下院「中国委員会」のマイク・ギャラガー氏が指摘しているように、長期では中国よりも圧倒的に米国のほうが有利であり、長期的には中国は米国に対して手も足もだせず、弱体化する一方です。そのため、10年以内に中国は無謀な冒険に打ってでる可能性は捨てきれません。

特に、習近平は中国の力を過信して、そのような挙にでる可能性は捨てきれません。だからこそ、少なくてもここ10年くらいは日本も中国に対峙する姿勢を崩すことはできないのです。

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2023年4月8日土曜日

習政権に致命傷、中国各地で頻発するデモ 引き金の「白紙革命」で失った市民の信頼 「共産党は下野しろ」さらなる不満爆発の可能性―【私の論評】白紙革命は、中共が体制を変えるまで続く可能性が(゚д゚)!

ニュース裏表


ツイッターに投稿された、中国湖北省武漢市で2月8日に起きた抗議デモの一場面とされる画像

 中国各地で市民によるデモが今年に入って頻発している。こうした動きについて、当局に統制されている中国メディアはほぼ報じない。だが、中国内にいる知人らから、デモを撮影した映像や画像が送られてくる。

 正確な件数は分からない。ただ、筆者が把握しているだけで、この3カ月間で内陸部の湖北、河南、四川などを中心に数十カ所で起きている。抗議の対象は、地元政府による医療保険制度の変更から、マンションの管理方法に至るまでさまざまだ。

 厳しい監視体制を敷いている中国でこれほどデモが起きるとは、筆者は想像できなかった。全土に約2億台の顔認証機能付きを含めて約20億台の監視カメラをいたるところに配備して、「天網システム」と呼ばれる監視システムを築いている。14億人の国民の居場所を1秒あまりで特定でき、デモを集うことは不可能だと思っていたからだ。

 なぜ、鉄壁の監視体制にもかかわらず、デモが頻発しているのであろうか。

 今月3日に発売した共著『習近平・独裁者の決断』(ビジネス社)で、中国出身の評論家、石平氏と対談した。

 直接の引き金となったのは、昨年11月の「白紙運動」だったという見方で2人は一致した。新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に押さえ込む「ゼロコロナ」政策に反対する人々が、白紙を掲げて抗議したのだ。

 新疆ウイグル自治区ウルムチ市で火災が起きた際、ロックダウンの影響で消防車の到着が遅れて10人が死亡した事件がきっかけだった。上海市を皮切りに各地で「ゼロコロナ政策」への抗議運動が広がった。

 中には、「共産党は下野しろ」「習近平主席は退陣しろ」というプラカードを掲げる参加者もいた。これを受け、中国政府は「ゼロコロナ政策」を撤回に踏み切った。

 1989年の天安門事件に参加した石氏は、当時と比較した。

 「(天安門事件では)民主化を求めてはいても、共産党の統治そのものを否定する要求はなかった。共産党や習近平氏への批判が叫ばれた今回のデモは、まさに驚天動地だ。さらに、その後の『ゼロコロナ政策』の突然の撤回で感染拡大するなど、混乱をもたらしたことで『最後は政府が守ってくれる』という中国政府と国民との間で長い間かけて築き上げてきた信頼関係が崩れてしまった」

 筆者は「白紙革命」によって、政府が政策転換に追い込まれたことが重要だと考える。つまり、市民が今回のデモを通じて、「団結して声を上げれば、鉄のように固いと思っていた共産党を動かした」という成功体験を得たのだ。だからこそ、「中国内では今後、同様のデモが起きる」と予測していた。

 「ゼロコロナ政策」を長年続けたことで、ロックダウンやPCR検査費用の負担が増え、地方政府の財政は急速に悪化している。市民生活にもしわ寄せがきている。今後、政府への信頼を失った市民による不満がさらに爆発する可能性がある。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)

【私の論評】白紙革命は、中共が体制を変えるまで続く可能性が(゚д゚)!

「白紙デモ」については、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国「白紙革命」の行方―【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から長いですが、一部を引用します。
中国共産党が人間を家畜並に扱うとすれば、いずれ行き着く先は、鳥インフルエンザが発生した時に、これが蔓延しないように、鶏を殺処分するように、豚コロナが発生したときに、豚を殺処分するように共産党の都合で、人間も殺処分しかないという、恐怖を多くの国民が感じたことでしょう。

そのような懸念は、過去の毛沢東の大躍進政策や、ウイグル人を閉じ込め虐待して、挙句の果てに殺したり、臓器売買のために人を殺したりなどで、薄々多くの中国人も気づいていたのでしょうが、ただこれまでは、そのように殺戮される人たちは、少数民族であるとか、運の悪い人、異教徒などであり、自分とはあまり関係ないと、自らに言い聞かせ、そう信じ込もうとしてきたのでしょう。

ただ、その恐怖は潜在意識の中には埋め込まれていて、何かのきっかけで、顕在化する状態にあったものと思われます。

それが、今回のゼロコロナ政策によって、顕在化してきたのだと考えられます。今回の全国的なデモを単純なゼロコロナ政策への反対であるとみるべきではありません。

今回の「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えができあがりつつあります。

ただ、これを理念と呼ぶには、まだ次元の低いものです。恐怖・憎悪の念は一時的には、多くの人の共感を呼びますが、それだけでは、一時的にも恐怖や憎悪が収まれば、消えてしまいかねません。プーチンは、NATOに対する恐怖や憎悪の念で、国民をまとめ、高支持率を獲得しましたが、その目論見はウクライナ侵攻では、裏目にでています。

「理念」は「物事に対して“理想“とする”概念“」のことで、「こうあるべき」というベースの考え方を指すものです。 企業では、会社の方針や社員に求める行動指針などを表現する時によく使われます。

中国においても、この恐怖・憎悪の念がいずれ誰かによって昇華され、中国国民であれば、誰もが共感できる「理念」に変わっていくかもしれません。国民国家には、「こうあるべき」という規範が必要なのです。

その誰かは、まだ見えてきません。ただ、この共通の理念となるかもしれない中国共産党に対する多くの中国国民の恐怖・憎悪の念は、容易なことでは覆されることはないでしょう。なせせなら、これは従来とは異なり、立場や社会的地位を乗り越えてかなり多くの中国人に共有されることになったからです。

今回も中国共産党は、必要があれば、天安門事件のように弾圧して、情報統制をして、何もなかったかのように取り繕うでしょう。

しかし、今回の中国共産党に対する恐怖・憎悪の念は、これからも長くくすぶり続けるでしょう。そうして、いずれは、誰かが、新たな理念を生み出し、それによって新たな中国が生まれるかもしれません。

中国人とか中国という概念は、あくまで中国共産党中央政府が作り出した概念であって、 中国という国を、日本のように明確な1つの国と考えるのは間違いです。広大な国土に、14億人の人口を抱えており、90%以上を占める漢民族のほか、政府が公認しているだけで55の少数民族を持つ多民族国家だ。

しかも経済発展に関しては、高成長を享受した沿岸部と、成長から取り残された農村部などが混在し、「1つの国の中に、いくつかの国が存在する」と捉えたほうが事実を的確に言い当てているといえます。

さらに、にわかりにくいのは政治体制です。基本的には、1949年の中華人民共和国の成立後、共産党が一党独裁体制をとっています。中国は、現在でも共産主義の国でありながら、資本主義経済の象徴とも言うべき株式市場を持っています。

そのため、政治の教義は共産主義である一方、経済活動の多くは市場のメカニズムに依存する複雑な仕組みになっており、これは共産主義というより、国家資本主義とでも呼んだほうが良いです。中国共産党が運営する資本主義国家とでもいうのが相応しいかもしれません。

ただし、現在でも国有企業やかつての国有企業、さらには地方政府が、経済の多くの分野で重要な役割を果たしています。

さらに、中国は未だに日本を含む西側諸国では、当たり前の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていません。政治家は存在せず、よって国会なと存在せず、西側諸国でいうところの官僚ばかりの国ともいえます。

そうした事情がわからないと、中国のことを理解するのは難しいです。

中国は、1978年以降、当時の鄧小平が進めた改革開放路線によって、共産主義的な計画経済から次第に市場型経済へと移行しました。1989年の天安門事件の発生などによって、一時的に市場経済への歩みが止まることはあったものの、経済の効率化などもあり、中国経済は本格的な経済成長への道を歩み始めました。

日本の新幹線の乗った鄧小平

1990年代中盤以降は、“世界の工場”の地位を勝ち取り、今や世界第2位の経済大国へと上り詰めました。ところが、一人あたりのGDPということになると、1万ドルを多少超えた程度てあり、日本はもとより、韓国や台湾よりもはるかに低いです。中国を世界第二位の経済大国にしているのは、一重に14億人という人口の多さだけです。そのため、ほんの一人握りの国民が富裕層ですが、今で数億人の貧困層が存在します。

このような中国では、自らを中国人と考え、中国の一つの国と考えるのは、政府がそう仕向けてきたからですが、それでも、利害関係や立場は一様ではありません。無論、それは日本を含めていずれの国でも同じで多少の違いはありますが、中国ほどの違いはありません。

まずは、経済的には富裕層と貧困層で雲泥の差があり、とても互いに理解し合えるようなことはありません。先にあげたように民族の違いもあります。さらに、言語の違いもあります。宗族の違いもあります。

漢民族というと、古代から連綿と続いてきた概念であると思われがちですが、漢民族が自他ともに民族として認識されたのは日清戦争以後であり、中国国内の少数民族との相対において自覚されたのです。

したがって近代に形成された漢民族は、それ以前のおよそ3000年にわたる諸集団との融合によって形成されてきたといえます。言語の漢語は漢民族という概念の成立以後、北京(ペキン)官話を共通語として採用したものです。漢語はシナ・チベット語族に属し、多くの方言に分岐しています。

このように統一感がもともと希薄な漢人と、少数民族で構成される中国は政府により規定された、中国や中国人という概念を強制されてきたのですが、その本質は現在米国社会が分断されているなどといわれる以上に分断していたというのが実体です。

しかし、その中国人が「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致したのです。そうして、中国共産党の「ゼロコロナ政策」変更させたのです。

上の記事では、"全土に約2億台の顔認証機能付きを含めて約20億台の監視カメラをいたるところに配備して、「天網システム」と呼ばれる監視システムを築いている。14億人の国民の居場所を1秒あまりで特定でき、デモを集うことは不可能だと思っていたからだ"とありますが、その本質は何かといえば、やはり中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致したことが大きいでしょう。

確かに、監視カメラやAIを用いた監視カメラが稼働していれば、仔細に国民の動きを把握することはできます。しかし、ある中国共産党への恐怖・憎悪で一致した国民が、全国的に同時多数でデモを起こせば、それを仔細に把握できたとして、それを弾圧する数に限りがある、武装警察や人民以下方軍を全部のデモに鎮圧に派遣できるかといえば、それは不可能です。

中国では、建国依頼毎年数万全国で暴動が起こっていたといわます。2010年あたりからは、毎年10万を超える暴動が起こっているとされています。この頃から政府は、暴動の件数などの統計を発表するのをやめています。

それだけ、暴動があったものの、個々の暴動は、互いに関連性は希薄で、互いに無関係に行われてきたのでしょう。そのため、弾圧は比較的簡単にできたものと考えられます。

しかし、「白紙革命」からはそうではなく、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致した人たちが、互いに関連性を持って、全国一斉にデモを起こしたのでしょう。これでは、一部を鎮圧したとしても、全部は鎮圧できません。

香港中文大学で行われたウルムチの死者への追悼式で、白紙の紙を掲げる学生たち(2022/11/28)

この動きは最早止められません。今後「ゼロコロナ政策」以外の分野でも、全国民が一致してデモを起こすことでしょう。それに対して、政府はこれを鎮圧できずに、方針を変えるということもあり得ると思います。

これから何度もなされるようになれば、中共も体制を変えざるをえないようになるかもしれません。そうなれば、もはや中国の人々、中国共産党への恐怖・憎悪の念だけでは一致できなくなるでしょう。それでも、壊れた中共のかわりに新たな体制を築く必要があり、改革はすすめなければならなくなるでしょう。

そうなると、中国は共通の理念や利害で結集できる、いくつかの国に分裂して、新たな国を築くことになるかもしれません。すぐにそうなることはないでしょうが、数十年にわたって「白紙革命」は、この次元まで継続されることも十分ありえます。

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2023年4月7日金曜日

南西有事想定、地形把握図る必要 陸自ヘリ事故―【私の論評】ヘリ墜落は、中国の偵察気球やドローンに衝突したという可能性を未だ否定しきれない(゚д゚)!

南西有事想定、地形把握図る必要 陸自ヘリ事故


 沖縄県の宮古島付近で起きた陸上自衛隊のヘリコプター事故では、九州南部を管轄する第8師団の坂本雄一師団長が事故機に搭乗し、行方不明になった。約5千人の部隊を擁する第8師団は、南西諸島有事の際に沖縄方面へ機動展開する主要部隊と想定されており、今回の飛行は、いつ有事が起きても対応できるよう備える目的もあったとみられる。

 「機体に搭乗していた坂本陸将ほか9名について、現在も発見に至っておりません」。浜田靖一防衛相は7日朝の記者会見で、夜を徹した捜索活動でも乗員の発見に至らない状況を声を詰まらせながら説明した。

 陸自は戦闘部隊や後方支援部隊などで構成され、基本的な作戦部隊となる数千人規模の師団と、より小規模な旅団を15地域に置く。沖縄県を管轄する第15旅団以外は全て機動展開部隊で、とりわけ中国の軍事的圧力が強まる先島諸島での有事には、近接する第8師団から一定規模の部隊展開が見込まれる。

 宮古島を含む南西諸島に展開する部隊は艦艇や航空機で島に上陸するため、島内の平らな場所や海岸部分の地形をあらかじめ把握しておくことが求められる。陸自元幹部は「師団長であっても部隊とともに現場へ向かうことはある」と話す。

 今回の飛行計画は、偵察飛行の「訓練」として行われた。自衛隊では、上層部の作戦指示による「任務」でない行動を現場指揮官の判断で行う場合は「訓練」の形をとる。坂本氏は3月30日付で師団長に着任したばかりで南西地域での勤務歴が乏しかったといい、ただちに偵察訓練の実施を判断した可能性がある。

 政府は昨年改定した「安保3文書」で、南西諸島防衛の強化をさらに図る方針を打ち出した。ある自民防衛族議員は「事故が防衛力強化に水を差すことはない。むしろ安全装置を拡充するなど予算を増やすべきだ」と語った。

【私の論評】ヘリ墜落は、中国の偵察気球やドローンに衝突したという可能性を未だ否定しきれない(゚д゚)!

まずは、今回墜落したヘリに搭乗していた方々が、全員無事発見されることを願いたいです。

本日はPM9時に高橋洋一が、陸自ヘリ墜落に関して、「緊急生配信」をしていました。その動画を以下に掲載します。


詳細は、この動画をご覧いただものとして、この動画でも高橋洋一が語っていたように、自民党党国防部会(部会長・國場幸之助衆院議員)と安全保障調査会(会長・小野寺五典衆院議員)は4月7日、合同会議を開き、陸上自衛隊第8師団第8飛行隊のUH-60JAヘリコプターの航空事故について防衛省から報告を受けました。

同機は6日15時46分、沖縄県宮古島市にある宮古分屯基地を離陸。その10分後、宮古島の北北西海域にて航空自衛隊のレーダーから同機の航跡が消失しました。10人の隊員が搭乗していました。現在、自衛隊の艦艇や航空機、海上保安庁による周辺海域の捜索・救難活動が続けられています。現場海域を航行する船舶等への被害は確認されていません。

捜索において、当該機種のものとみられる油が海面に浮遊していることや、当該機種と製造番号が一致する部品が発見されました。10人の隊員はいまだ見つかっていません。

そうして、高橋洋一氏も動画で指摘していたとおり、注目すべきはこの合同会議の席においての報告では、「航空機事故」とは未だ断定していないとされていることです。

「航空機事故」でないとすると、撃墜されたのかということにもなりかねませんが、こちらの可能性は低いと思います。ミサイルなどでの撃墜ということになれば、それ以前にレーダーなどで、ミサイルの存在が発見されるでしょうし、墜落したとされるヘリコプター側でも、直前にそれを発見できるはずであり、「チャフ」や「フレア」を発射して回避行動をとるとか、少なくともミサイルで迎撃されそうな状態にあることを報告できたはずと考えられます。


航空機事故以外でもっともありそうなのは、高橋洋一も指摘していたように、ドローン等との衝突も考えられます。

実際中国の偵察気球問題を機に、防衛省が今年2月には、対領空侵犯措置に関する武器使用の基準緩和に踏み切っています。背景には気球だけでなく、南西諸島周辺に飛来する中国の無人機が領空侵犯した場合でも、排除しやすくする狙いがあります。対処基準を公表することで、挑発的な行動を抑止する意味合いも持ちます。

要件緩和により、無人機の領空侵犯に対しては、従来の正当防衛や緊急避難だけでなく、航空路の安全確保を目的とした武器使用が認められることになりました。

浜田靖一防衛相は記者会見で今回の緩和措置により「民間航空機の危険を排除することができる」と強調。気球以外の日本周辺に飛来する無人機への対応も「領空侵犯し、自衛隊が対処する場合には(緩和措置は)当てはまる」と明言しました。

防衛省によると、領空に接近する無人機に対し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)したケースは2013年以降で15件。今年1月にも中国軍の偵察型無人機が沖縄本島と宮古島間を相次いで飛行しました。

偵察目的とみられる中国の無人航空機が、沖縄県の尖閣諸島や宮古島付近に飛来する事例が相次いでいる。過去1年半で、領空侵犯の恐れがあるとして航空自衛隊の戦闘機が緊急発進したケースだけで12件に上りました。

政府筋は「台湾海峡の緊張が高まれば、日本の対応を試すために無人機による領空侵犯が起きてもおかしくない」と指摘する。「ウクライナ侵攻でも無人機が多用されており、気球問題が武器使用基準の緩和を後押しした」と指摘しました。

旅客機の巡航高度は1万メートル付近。無人機や気球はさらに高い高度を飛行しますが、情報収集のために高度を下げたり、制御不能になったりして民間航空路に進入する可能性もあります。

ジャーナリストの有森香氏は、偵察気球についての記事を書いています。その記事より一部を以下に抜粋します。
米国での「気球」事件の後、2月中旬から3月にかけ、わが国の日本海側に中国のものとみられる気球が多数飛来していた。当初、空自戦闘機が緊急発進(スクランブル)で監視したが、その後、数があまりにも多いことや、政治的影響に鑑み、日本当局は「対処しない」と決定した。
この多数の偵察気球は当然のことながら、宮古島を含む南西諸島にも到来していたとみられます。
 
なぜ、中国がこの海域にドローンを頻繁に飛ばして、偵察するかといえば、この地域は日本の対中国の防衛拠点だからです。中国としては、この地域を経由して南太平洋や西太平洋に行けば、最短距離でいけます。そのため、この地域の防衛拠点は、中国にとっては、かなりやっかいで、邪魔な存在なのです。

22年度内に石垣島に陸上自衛隊の駐屯地が設置されました。19年の奄美大島や20年の宮古島に続いて地対艦ミサイル部隊が設置されました。地対空ミサイル部隊も設けて対空戦闘に備えます。

電磁波で敵の通信やレーダーを妨害する電子戦部隊を22年に南西諸島の3つの駐屯地・分屯地に設置しました。23年度には台湾に最も近い最西端の与那国島にも配置します。こうした南西諸島の防衛の強化については、以下の地図をご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。


今回の陸自ヘリの墜落は、こうした中国の偵察気球やドローンに衝突したという事実は未だ発見はされていませんが、否定することもできない状況だといえます。今後の調査を待ちたいです。

いずれにしても、我々は今回のようなことが起こりかねないほど、南西諸島は緊迫していることを認識しなければなりません。

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2023年4月6日木曜日

少子化財源、社保料引き上げ軸 衆院選見据え「増税」慎重―政府・与党―【私の論評】子どもや若者の未来を明るく希望の持てる輝けるものにするため、岸田首相は正しい選択をし長期政権を築け(゚д゚)!

少子化財源、社保料引き上げ軸 衆院選見据え「増税」慎重―政府・与党

首相官邸に入る岸田首相

 政府・与党は「異次元の少子化対策」の財源について、公的医療保険など社会保険料の引き上げを軸に検討する方針だ。3月末に策定した対策の「たたき台」を全て実施すれば、数兆円規模の予算が必要となる。早期の衆院解散・総選挙が取り沙汰される中、国民の反発を懸念して増税は避けたい考えとみられる。

岸田首相、教育国債に慎重 性の多様性尊重「世界に示す」―参院決算委

 財源に関し、岸田文雄首相は3日の参院決算委員会で「各種の社会保険との関係、国と地方の役割など、社会全体でどのように安定的に支えていくか考える」と説明。自民党の茂木敏充幹事長は4日のBS日テレ番組で、現時点での増税や国債発行を否定しつつ、社会保険からの拠出に言及した。

 会社員の場合、公的年金、医療、介護保険の保険料は社員と企業で折半している。首相が議長を務め、7日にも初会合を開く「こども未来戦略会議」で各種保険料の上乗せ徴収についても議論。政府はこれを踏まえ、子ども・子育て予算の「倍増」に向けた大枠を6月に示す方針だ。
 ただ、経済界には企業の負担増を懸念する声があり、理解の取り付けは不可欠。子育てを終えた世代や独身者の負担も増えることになるため、「社会全体で支える」とのコンセプトの浸透が課題となりそうだ。

 政府は昨年末、防衛力強化の財源として法人税などの増税方針を決定。物価高騰が国民生活を直撃していることもあり、内閣支持率が低迷する一因となった。少子化対策で増税を回避する背景には、政権の「中間評価」が問われる衆参5補欠選挙の投開票が今月23日に控えていることもあるとみられる。

 少子化対策のたたき台は、児童手当の所得制限撤廃を打ち出し、出産費用の保険適用に向けた検討を明記。「社会全体で子育てを支える意識を醸成する必要がある」として、幅広い層に負担を求めることを念頭に置いている。

【私の論評】子どもや若者の未来を明るく希望の持てる輝けるものにするため、岸田首相は正しい選択をし長期政権を築け(゚д゚)!

少子化対策の財源に関して、高橋洋一氏は、背後に財務省の存在があり、財務省は最終的には消費増税にもっていきたいと以下の動画で主張しています。詳細については、以下の動画をご覧になってください。



この動画で、今回の少子化対策は数年前に小泉進次郎氏が主張していた「子ども保険」に似ていることを思い出すべきと主張しています。それに関しては、このブログでも解説したことがあります。そのブログのリンクを以下に掲載します。
自民・小泉進次郎衆院議員ら「こども保険」創設で幼児教育無償化の財源確保提言 「教育国債」は「未来へのつけ回し」と批判―【私の論評】麻生財務大臣と小泉進次郎氏は財務省の使い捨て人材(゚д゚)!

この記事は、2017年3月31日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして。元記事を引用します。
 小泉進次郎衆院議員ら自民党若手議員でつくる「2020年以降の経済財政構想小委員会」は29日、新たに社会保険料を上乗せして徴収し、幼児教育無償化の財源を生み出す「こども保険」の創設を柱とする提言を発表した。30日に党「財政再建に関する特命委員会」に報告し、次期衆院選の公約への反映を目指す。

 こども保険は厚生年金の場合、平成29年度で15・275%の社会保険料について個人、事業者とも当面0・1%分を上乗せして徴収し、約3400億円の財源を捻出。将来的に0・5%分まで引き上げて約1・7兆円を確保し、幼児教育と保育を実質無償化する。

 小泉氏は記者会見で「世代間公平の観点からも、こども保険の導入は画期的なことだ」と語った。党内には教育無償化の財源として「教育国債」を発行する案もあるが、小泉氏は「未来への付け回しになるのではないか」と批判した。

この元記事に対する【私の論評】から一部を以下に引用します。

本当に、ものは言いようです。増税というと、多くの国民はかなり抵抗がありますが、こども保険というと、「子供のためならしかたないか」、という人も多いはずです。

そこに付け込んで、幼児教育から大学までの教育無償化の財源として、現在の年金に0.1%上乗せし、近い将来0.5%まで高めようというのが「こども保険」の本質です。これは、実質増税と同じことです。

自民党案である教育国債発行は、国の借金にすぎないということで、またもや財務省が難癖をつけ、小泉氏が財務省にうまく丸込まれたといった格好ではなかろうかと思います。

当時もそもそも保険というのが、理解できないという論議がありました。保険は被保険者(たとえば健康保険に加入し、病気やけがなどをしたときなどに必要な給付を受けることができる人のこと)というか、保険対象になる人がいますが、子ども自身か、そのもしくは子どもの親が被保険者ということになると考えられます。

子どもが成人した世代、もしくはそれ以上の世代が被保険者となるというのは明らかにおかしいです。このおかしいという感覚を利用し、財務省は保険料ではなく、消費税増税したかったとみえますが、これも含めて結局「子ども保険」に関しては、反対も多く実現することはありませんでした。

高橋洋一氏は、今回の「異次元の少子化対策」の財源に関しても、同じような経路を辿っているとみるべきと指摘しています。経団連は、社会保障に話を移し、それは「おかしい」という批判がまきおこるのを待って、今度は消費税増税に軸足を移すというパターンを踏襲しているとしています。

現状では、経団連は、戦略的に消費税の話題を落とすタイミングを計りつつ、各界からの批判を誘発しているとしています。そうして、頃合いを見計らって、日本商工会議所等による保険面での増税要求が予想されるとしています。

そうして、財務省はこうした動きを見計らい、さらなる消費税の増税を行うことを目指しているとしています。

少子化対策とは、企業でいえば、設備投資に近い投資といえます。多くの企業で、設備投資を営業利益で賄うということはありません。

一般的に、企業の設備投資には銀行融資を利用するのが普通です。営業利益だけで賄うとすれば、大規模で長期的な投資はできず、大きな機会を見逃すことになりかねないからです。

そうして、政府が国債を発行するということは、機関投資家等からおカネを借りることであり、企業が設備投資のために銀行からおカネを借りるのと同じようなものです。

そのことを創業者社長やベンチャーの経営者なら、十分理解しているでしょうが、経団連あたりの経営者は俗にいう「サラリーマン社長」であり、日本を含めた多くの国々で、保険料は結局のところ賃金から差し引いているものであるにもかかわらず、目先の保険料が高くなるのが嫌で、保険料に反対するわけです。それを利用して、世論を盛り上げて、あわよくば消費増税に結びつけたいとしているのが財務省です。

そうして国による教育投資などは企業による設備投資よりもさらに、かなりパフォーマンが良いことは、昔から知られていることです。これは、以前このブロクにも掲載したことがあります。

現在、日本でいわれている「奨学金」のほとんどは「教育ローン」です。これが、かなり混乱をきわめ、結局のところ外国人留学生には本来の奨学金が交付され、日本人学生のほとんどは「教育ローン」が課されているというおかしげな状況になっています。

これは、いわゆる「奨学金」という名の「教育ローン」で大学や大学院に進学した人なら良くわかっているでしょう。私自身も国立の大学・大学院を「奨学ローン」で卒業した人が、卒業して社会人になった途端に数百万円もローンを返さなければならない状況になっているのを聞いて驚いたことがあます。

とにかく、子ども支援や、中高等教育でも変えなくてはならないことが、日本ではかなりあります。そうして、これらは見返りが大きいので、増税ではなく国債で賄うべきなのです。

これや、少子化対策等を国債で実施するのは当然のことなのですが、これを実行できるのは、高橋洋一氏の動画でも語っているように、やはりトップである岸田首相の決断以外にありません。

高橋洋一氏も、岸田政権を潰しても、財務省は消費増税を実現するだろうと語っています。現状の日本で、消費増税をすれば、また経済は落ち込みデフレが進行し、失業率もあがり国民の不満は爆発し、支持率は低下し岸田政権は崩壊します。そのようなことは、おかまいなしで、財務省は消費税増税を虎視眈々と狙っているのです。

安全保障や、外交では覚醒したといわれる岸田首相、国内の特に財務省の問題を解消すれば、支持率もあがり、長期政権になり、その後は所得倍増計画などの岸田カラーも打ち出しやすくなります。

岸田首相には正しい選択をして、長期政権を築いていただきたものです。そうして、子どもや若者の未来を明るくて、希望の持てる輝けるものにしていただきたいです。

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2023年4月5日水曜日

トランプ氏、法廷で無罪主張 34の罪状も「違法なことは何もしていない」「犯罪者は大陪審の情報をリークした検事の方だ」―【私の論評】起訴でかなり有利になりつつあるトランプの大統領選戦(゚д゚)!

トランプ氏、法廷で無罪主張 34の罪状も「違法なことは何もしていない」「犯罪者は大陪審の情報をリークした検事の方だ」

4日、罪状認否のため、米ニューヨークの裁判所に出廷したトランプ前大統領

 米ニューヨーク州の大陪審に起訴されたトランプ前大統領(76)は4日午後(日本時間5日未明)、ニューヨーク市内の裁判所で罪状認否に臨んだ。ビジネス記録を改竄(かいざん)したなどとして34の罪状に問われたが全て無罪を主張した。トランプ氏はSNSで「違法なことは何もしていない」と主張した。

 トランプ氏は2016年大統領選の投票日の直前、一族企業の弁護士を通じて、不倫相手のポルノ女優に13万ドル(約1700万円)を支払ったとされる。起訴内容によると、自らの当選に不利になる情報を有権者に隠す目的で、一族企業の事業記録を繰り返し改竄したという。

 捜査責任者のブラッグ地方検事は記者会見で「16年大統領選の公正さを損なう行為だ」と述べた。ただ、ブラッグ氏は民主党候補として地方検事選に当選しており、トランプ氏は、検察の捜査は「政治的迫害だ」と訴えてきた。

 ロイターによると、罪状を合わせると100年を超える懲役刑となるが、有罪になっても実際の懲役刑ははるかに短くなる公算が大きい。また、有罪の場合も大統領選に出馬可能との見方も強い。

 政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、4日時点の共和党候補の各社世論調査の平均支持率は、トランプ氏が50・8%で2位のデサンティス氏(24・6%)を引き離している。

 罪状認否を終えたトランプ氏は、プライベートジェット機でフロリダ州の私邸マールアラーゴに戻って支持者らを前に演説した。トランプ氏は「犯罪者は大陪審の情報をリークした検事の方だ」「これは捜査ではなく迫害だ」と強調した。

【私の論評】起訴でかなり有利になりつつあるトランプの大統領選挙戦(゚д゚)!

以下に検察に出頭したトランプ前大統領の演説を同時通訳付きノーカットで掲載します。同時通訳つきです。


トランプ前大統領の起訴は、前代未聞の出来事です。ニューヨーク州の大陪審がトランプ前大統領を起訴したのです。アメリカの歴史上、大統領経験者が起訴されるのは初めてです。

マンハッタンにある司法当局の前には多くのメディアが駆け付けました。米メディアだけでなく、世界各国のメディアが詰め掛けました。

マンハッタン地区検察は2016年の大統領選に絡み、トランプ前大統領の捜査を続けてきました。不倫関係にあったと主張する元ポルノ女優に対する口止め料の支払いと、そのもみ消しを図った疑惑の捜査です。

トランプ前大統領は大統領選の直前、不倫関係が明らかになることを懸念し、ダニエルズさんに13万ドル、日本円にしておよそ1700万円を支払った疑いが掛けられています。大陪審の決定を受け、トランプ前大統領は声明を出しました。

 トランプ前大統領の声明:「これは歴史上、最大レベルの政治的迫害と選挙妨害だ」

一方、米・メディアによると、ニューヨーク市警はすべての警察官に対し「制服着用のうえ、31日の午前7時に出勤するよう」命じました。

ニューヨーク市警が警戒するのは、トランプ支持者による連邦議会襲撃の再来です。トランプ前大統領の別荘近くには支持者らが集まっていました。

 トランプ支持者:「こんな告発が本当にまかり通ると思うの?本当に年を取った馬面の嘘で、トランプ氏を大統領選から排除できると思うの?ほんの一瞬でも信じられません」

支持者が発した馬面という言葉。トランプ前大統領が不倫相手とされる女性を揶揄(やゆ)した表現です。

 トランプ前大統領:「馬面を好きになったことなどない。ひどいってほどじゃないが、そんなことはありえない。我々には素晴らしいファーストレディーがいる」

起訴を歓迎する声も聞かれました。

人類史上、経験がないので今後どう展開するかは、まるでシナリオのないドラマです。劇場型の政治の幕がトランプ氏ではなく、民主党側から切って落とされたという状況といえると思います。ドナルド・トランプ前米大統領は4日、ニューヨーク・マンハッタン地区の刑事裁判所で罪状認否に臨み、無罪を主張しました。

その直後に公開された起訴状によると、トランプは3人の女性との不倫関係を隠すために行った一連の口止め料支払いをめぐり、重罪となる第一級ビジネス記録改ざん34件の罪に問われています。

捜査を指揮したNY州のマンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事は2021年初めの選挙でマンハッタン地区の主任検事に選ばれましたが、選挙戦では一貫して「自分が検察官になれば必ずドナルド・トランプを有罪にする」と宣言していました。

NY州のマンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事

犯罪の裏付けの前に、まず特定人物への法的懲罰を公約にしていたのです。またブラッグ氏が選挙戦に際して、トランプ攻撃で知られる大富豪のジョージ・ソロス氏が100万ドルを寄付したリベラル派政治団体から42万ドルの献金を受けていたことも、共和党側からの非難の対象となっていました。

 実はスキャンダルの口止め料を払っただけでは違法にはならいため、この案件はブラッグ氏の前任の検事が捜査をしたものの途中で放棄しています。また7年前の口止め料の支払いは、たとえ違法部分を含んでいても時効となる可能性も高いです。 

ブラッグ検事は、おそらくトランプ氏側が口止め料支払いに伴い、選挙活動やビジネスの資金の流れの記録を改ざんしたことや、真実を述べないことなどを「重罪」扱いする見通しが強いですが、共和党側からすればこれは列記とした政治的捜査となります。

トランプ前大統領は来年の大統領選への出馬を表明していますが。こうした問題を逆手に取って自分の支持者、共和党の支持者たちをも巻き込んで熱狂を巻き起こして、さらに寄付金も豊富に集めて、今後の大統領選挙の勢いにこれを変えていこうとしています。

実際、イーロン・マスク氏は以下のようにツイートしていました。


マスク氏は、トランプ前大統領が逮捕された場合、彼は「地滑り的に再選されるだろう」と予測しているのです。

トランプ前大統領が起訴されることで、選挙戦が有利になると考える人は、以下のようなことを論拠としているとみられます。

彼の支持層を結集させることができる: トランプ氏の支持者の中には、起訴を政治的動機に基づく攻撃とみなし、選挙戦でトランプ氏を支持する気運が高まる可能性があります。また、支持者の中には、起訴を政治的な意図による攻撃とみなし、選挙戦での支持を強める可能性があります。

他の問題から目をそらす可能性: トランプ氏が起訴されれば、メディアや世間は法的手続きに集中し、他の候補者が掲げている問題には目を向けなくなるかもしれません。これにより、他の候補者から注目を集めることで、トランプ氏が有利になる可能性があります。

彼を被害者として見せることができる: トランプ氏はこれまで、自らを魔女狩りの被害者として描いてきましたが、起訴されれば、このイメージをさらに強めることができます。トランプ氏は、自らを魔女狩りの被害者として描いており、起訴されれば、このイメージをさらに強めることができるでしょう。

このような傾向は、すでにみられています。

たとえば、上の記事にもある通り、政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、4日時点の共和党候補の各社世論調査の平均支持率は、トランプ氏が50.8%で2位のデサンティス氏(24.6%)を引き離しています。

起訴が決まる前の米クイニピアック大学の世論調査によれば、共和党の指名争いではトランプがデサンティスを46%対32%でリードしていました。トランプ起訴によって、その差がさらに広まりました。

デサンテスの支持率が低いのは、ウクライナ戦争の見方によるものとみられています。デサンティス・フロリダ州知事のウクライナ戦争についての発言が物議を醸していました。米ワシントンポスト紙コラムニストのヘンリー・オルセンは、3月16日付の論説‘Ron DeSantis’s stance on Ukraine is a serious political blunder’で、「ウクライナ戦争でウクライナを支援してロシアに対抗することは米国の国家利益ではない」とするデサンティスの立場は政治的失策である、と論じています。

実際、このような考え方が、共和党の大勢を占めていた時期もあります。しかし、ウクライナ戦争が長引いた最近ではそれも変わっています。

トランプ氏は、このような問題に関しては、柔軟に対応できますし、過去にもそうしてきました。たとえば、選挙戦においては「アメリカ・ファースト」などといい、米国が世界から孤立する道を選ぶのではないかと危惧されながら、実際に蓋をあけてみると、かなりまともな外交を実践していました。

共和党内で、有利に選挙戦をすすめてきた、トランプ氏は今回の起訴で、さらに民主党に対しても有利になるとみられます。

日本のマスメディアはなぜか反トランプ報道一色ですが、それが一方に偏した魔女狩り的なものになっているかもしれないとの視点を、持つべきです。

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2023年4月4日火曜日

「執行猶予付き死刑判決」を受けた劉亜洲将軍―【私の論評】「台湾有事」への指摘でそれを改善・改革する米国と、それとあまりに対照的な中国(゚д゚)!

「執行猶予付き死刑判決」を受けた劉亜洲将軍

台湾南部・嘉義基地で行われた台湾軍の演習=1月6日

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・李先念元国家主席の娘婿である劉亜洲上将が「執行猶予付き死刑判決」を受けるだろうと報じられた。

・劉は、重大な金融腐敗に関与した疑いがあるという。

・「台湾侵攻」について書いた論文が習主席の逆鱗に触れた可能性がある。

 

 最近、李先念・元国家主席の娘婿、劉亜洲上将(70歳)が「執行猶予付き死刑判決」を受けるだろうと香港メディアが報じた(a)。

 2021年12月下旬以降、劉は姿を消していたが、重大な金融腐敗財団や協会の名義で巨額の富を蓄財―に関与した疑いがあるという。

 劉亜洲は1968年に人民解放軍に入隊し、1997年から北京軍区空軍政治部主任、成都軍区空軍政治委員、空軍副政治委員兼規律委員会書記等を歴任した。 2009年12月に国防大学政治委員となり、2017年に軍を退役している。

 劉は、江沢民・胡錦濤時代に、時事問題をテーマにした記事を書き、「国と人民を憂う」人物として、知識人界では好感を持たれていた

 まもなく劉亜洲が「執行猶予付き死刑判決」を受けた事が確認(b)された。劉亜洲は経済汚職に手を染めたとされるが、これは“政治問題”を“経済問題”として扱う共産党の“定石”である。

 習近平主席が劉亜洲に対し激怒したというが、その理由は劉の論文「金門戦役の検討」の中身である。中国共産党が台湾との平和的統一の希望を失い、台湾への武力攻撃のタイムテーブルが提出された昨今、この軍事研究論文の重要性は言い尽くせないだろう。

ただ、その研究結果は「台湾解放」を目指す習主席に冷水を浴びせるモノだった。そのため、主席の逆鱗に触れた

「金門戦役の検討」(c)は以下の通りである。

 ―今日、台湾軍はかつての蔣介石軍と同じではないし、台湾島は金門と同じでもない。しかも、天険(自然の地勢が険しい)が横たわっている。台湾海峡での戦いは、金門戦役の1万倍も困難なものになるだろう。また、目下、台湾を守るのは台湾自らだけではなく、西側諸国全体である。

 ―ある者はこう言った。「(台湾と)戦え!できるだけ早く!」と。また、ある者は、「台湾軍は我々(人民解放軍)の一撃に耐えられない。我が軍は朝攻めて夕方には勝つ」と主張した。

 ―昨年、私(劉亜洲)は台湾との戦闘が議論された会議に出席して質問した。「頭上には衛星があり、下にはレーダーのある今、丸見えの状態でどのように軍を福建省に部隊へ輸送できるのか?」

 ある男性は「簡単だよ!長期休暇があるだろう。その長期休暇に兵士を私服へ着替えさせ、列車で福建省に向かえばいいんだ。」私が最後に呟いたのは、「最大の敵は自分自身だ」だった。

 実際、劉亜洲将軍は、「台湾侵攻」の難しさを軍事的、国際政治的観点から分析し、「台湾侵攻」に対する自身の認識を幾つもの角度から検証(d)している。

(一)台湾の地形分析:台湾は海峡の片側(西側)に近く、上陸に適した海岸が少ない。 海岸線から10kmも離れていない山林には、長年にわたって築かれた要塞がある。仮に、中国軍が上陸できたとしても、遠くの高台からの火力兵器で簡単に制圧でき、上陸地点は屠殺場と化すだろう。

(二)台湾東部軍事空港は洞窟の中に構築され、海に面した外部滑走路はわずか100m~200m、加速滑走路の約1000mは洞窟の中にある。そこから出撃した航空機に、ミサイル攻撃しても無駄である。台湾空軍は強力で、パイロットは皆、米国で高度な訓練を受け、陸上・海上での飛行と空母離着陸の経験は中国空軍に劣らない。

(三)台湾はほぼ「国民皆兵制」を採用し、200万人以上の予備役兵士は、毎年集中訓練を行っている。戦争になれば、24時間以内に募集・編成され、特に訓練しなくても、そのまま戦闘に入ることが可能である。

 しかも、台湾はすでに先進的防衛兵器を大量に購入し、米国から訓練を受けており、最近ではMQ9ドローンやハープーン対艦ミサイルを購入し、中国軍の上陸作戦にも十分に対応できる。

 したがって、米軍や周辺国が戦闘に参加せず、台湾が自国軍隊だけで戦っても、中国軍は、1、2の上陸地点確保のために多大な犠牲を払うだろう。たとえ、陸海空軍にロケット部隊を加えたとしても、台湾全土の「解放」はおろか、戦闘にも勝利できないかもしれない

(四)国際情勢の分析:米韓は共同防衛条約を、日米は安全保障条約を結んでいる。ひとたび有事が起これば、米国が介入し、日米、米韓の条約は自動的に発効し、共同戦線に参加することになるだろう。

 日韓はアジアの経済大国、かつ、空海軍の強国である。韓国の海軍・空軍力は、中国と互角に戦える。また、日本の自衛隊は中国軍より数では劣るが、その実力や戦闘力は間違いなく中国に劣らない。

((d)『毎日文摘』(解放台湾,谈何容易!刘亚洲泼冷水)の引用ここまで)

〔注〕

(a)『聯合早報』

「中国軍作家・劉亜洲が重大な汚職に関与し、『執行猶予付きの死刑判決』が下される可能性」

(2023年3月25日付)

https://www.kzaobao.com/shiju/20230325/135817.html)。

(b)『中国瞭望』

「『金門戦役の検討』が習近平の逆鱗に触れて、怒りの劉亜洲切り」

(2023年3月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/03/28/2592122.html)。

(c)『禁聞網』

「劉亜洲:金門戦役の検討(2004年4月14日)」

(2023年1月23日付)

(https://www.bannedbook.org/bnews/wp-content/plugins/down-as-pdf/generate.php?id=1609505)。

(d)『毎日文摘』

「台湾解放は言うは易く行うは難し! 劉亜洲が冷水を浴びせる」

(2023年3月30日付)。

解放台湾,谈何容易!刘亚洲泼冷水)。

【私の論評】「台湾有事」への指摘でそれを改善・改革する米国と、それとあまりに対照的な中国(゚д゚)!


劉亜州は、人民解放軍(PLA)国防大学の政治委員を務めた中国の退役上級将校です。1951年、中国陝西省に生まれました。劉亜州は、中国で著名な軍人であり、中国共産党(CCP)内の「改革派」とも評されています。

劉亜州は1969年に中国共産党に入隊し、軍人としてのキャリアをスタートさせました。2007年に上級大将に昇進しました。軍歴の中で、彼はPLA空軍の副政治委員や成都軍区の政治委員など、いくつかの重要な役職を歴任しています。

劉亜州は多作な作家でもあり、軍事戦略や政治理論に関する論文や書籍を数多く出版しています。中国共産党に対する批判的な見解で知られ、中国における政治改革を提唱しています。著作では、三権分立、司法の独立、表現の自由の拡大などを訴えています。

中国共産党に批判的な意見を持ちながらも、劉亜州は胡錦濤前国家主席の信頼できるアドバイザーとして中国共産党中央委員会の委員を務めました。中国共産党では習近平総書記を筆頭にした太子党の主要人物とみなされています。父である劉保恒は、軍の上級司令官であり、中華人民共和国の創設者の一人です。

退役後、劉亜州は中国政界で著名な人物であり続け、政治改革を提唱してきました。また、汚職や環境汚染などの問題に対する中国政府の対応に批判的です。また、近年は、世界舞台で自己主張を強める中国に懸念を示し、他国との協力関係を強化するよう求めています。

このような経歴を持つ人物ですから、劉亜州が「執行猶予付き死刑判決」を受けるのもむりからぬところもあります。

2004年5月20の台湾・陳水扁総統の二期目の就任演説をはさみ、中国は前回2000年よりさらに激烈な文攻(文章・言論による攻撃)を繰り出していました。なかでも、当の中国の幹部らをも驚かせたのが当時の最高幹部の一人、劉亜州・副政治委員(中将、五十一歳)が明かした江沢民の「中台戦争不可避論」でした。江発言の真意はなにか、なぜ劉はあの時期に発表したのかをめぐり、さまざまな憶測が飛び交っていました。

結局のところ、当時から20年近くたっても、中国による台湾侵攻はありません。劉亜洲氏が指摘するように、確かに中国による台湾侵攻は難しいのは事実だと思います。このブログでも同様の分析をしています。ただ、中国が台湾に侵攻するのは、難しいですが、中国が台湾を破壊するのは簡単です。そうして、破壊することも戦争の一形態ですから、台中が戦争になる可能性はあります。

侵攻するのと、破壊するだけというのは、雲泥の差があります。破壊するだけなら物理的にはさほど難しいことでありません。中国から台湾にミサイルを発射したり、航空機で爆撃したり、艦砲射撃をするなどでかなり破壊できます。そうして台湾に深刻な被害をもたらすことになります。

ただ、侵攻するとなると、これは別問題です。中国は台湾に大部隊を送り込み、台湾軍を制圧しなければなりません。制圧した後は、統治しなければなりません。このことの難しさは、ウクライナでも実証されています。ロシアはウクライナの都市を多数破壊し尽くしましたが、それでも未だに制圧できているのは、東部の数州の一部です。それもこれからどうなるかは、わかりません。

ロシア軍に破壊されたバフムト

陸続きのウクライナですら、ロシアは攻めあぐねているわけですから、中国が海を隔てた台湾に侵攻するのはかなり難しいと考えるのは当然だと思います。両方とも特にネックになるのは、兵站です。

ロシア軍の兵站は鉄道輸送に頼るところが大きく、そのため国境付近ではロシア軍本来のパフォーマンスを発揮できるのですが、奥に進むにつれて、兵站がネックになり本来のパフォーマンスを発揮しにくくなります。

中国が台湾を侵攻するには、大部隊を運ばなければなりませんが、現在運べるのは一回に十数万程度と見積もられ、今後一般商船を用いることも含めて改善を試みているようですが、根本的な解決には至っていません。

それに、台湾軍は開戦当初のウクライナ軍よりは現代的で精強であり、対艦ミサイルの多数配備しており、多くの艦艇は撃沈されることになります。地対空、空対空、長距離ミサイルまで多数備えています。そのため、兵員輸送や兵站が途切れることが予想されます。

以上のようなことを考えれば、劉亜洲将軍の「台湾侵攻」の難しさは、習近平は全く否定することはできないはずです。

一方、米国では軍は、様々な場合を想定して、ある特定の場合には米軍は中国軍に負けることが予想されるという報告書を頻繁に出しています。これをもって、メディアなどは、米中が戦えば、米国が負けるなどと報道していますが、そうではありません。局所的には負けることも多いにありますが、全体的にいえば中国は未だ米国の敵ではありません。

米軍は、世界最強といえる軍備を持っていても、十分に至らないところを中国に突かれれば、大損害を被ることを想定し、それを防ぐ方法とともに、政府に報告し予算を得てそれを改善しているのです。

私が一番不思議に思ったのは、過去の台湾有事のシミレーションなどでは攻撃型原潜、特に大型のものは当然出動させるべきなのですが、なぜか一回も出てこなかったことです。さすがに、昨年末のシミレーションでは登場していました。その結果、台湾有事では、日米は大損害を受けるがそれでも中国は台湾に侵攻できないというものでした。

攻撃型原潜が出動すれば、戦況は米軍にかなり有利になるはすですが、登場させなければ、米軍にかなり不利になります。ただし、そうしたことも想定されるわけで、それでも十分に対応できるように、米軍は軍備を整えたか、あるい整えつつあるのだと思います。

確かに、米軍が必ず勝てる条件のみで、シミレーションをしていれば、安心かもしれませんが、それでは想定外のことが起こったときに対処できなくなります。だから、米国のやり方は正しいのかもしれません。米国の原潜も数に限りがあります。特定の海域では、攻撃型原潜なしで戦わなければならない場合も想定しうると思います。

そういう場合も想定したのか、たとえば哨戒機P-8Aとコンビを組む無人航空機として、ノースロップ・グラマンのMQ-4C「トライトン」を採用しています。米軍は、有人哨戒機に比べて連続作戦時間が長い「トライトン」で洋上を監視し、「トライトン」が不審な目標を発見したらP-8Aが急行して対処するという運用方法を構想しています。こうした着想がでてきたのも、米軍の様々なシミレーションの結果だと思います。

哨戒活動をしているMQ-4C「トライトン」

劉亜洲の「台湾侵攻の難しさ」の指摘も、米軍による「台湾有事」のシミレーションに相通じるところがあります。

同じような指摘について、米国は改善・改革をし、中国はその指摘をした人物に対して「執行猶予付き死刑判決」をしたのです。どちらが、軍隊を強くするかといえば、無論米国だと思います。

ただ、米国にはこのようなことをする余裕がありますが、中国にはそのような余裕はないのかもしれません。弱い部分を指摘されても、それを克服する方法はすぐには見つからないのかもしれません。だからこそ、習近平は激怒したのでしょう。

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2023年4月3日月曜日

プーチン大統領が国内に缶詰状態…ICCの逮捕状で同盟国まで「入国すれば逮捕」と警告する事態に―【私の論評】過去には、スペイン、台湾も中国高官に逮捕状を出し、台湾では実際に拘束された事例も(゚д゚)!


ロシアの同盟国のアルメニアが、プーチン大統領に「逮捕せざるを得なくなるから来ないよう」警告していたことが分かり、同大統領はロシア国外には出られない缶詰状態になっているようだ。

「プーチン逮捕を警告」記事を掲載した「モスクワ・タイムズ」

ロシアの日刊紙「モスクワ・タイムズ」電子版は29日「アルメニア与党、ハーグからの令状でプーチン逮捕を警告」という見出しの記事をアルメニア国民議会のカギク・メルコニアン副議長の大きな写真とともに掲載した。

それによると、同副議長は地元メディアとのインタビューで「もしプーチンがアルメニアへ来れば彼は逮捕されなければならない」と語ったという。

アルメニアは昨年12月に国際刑事裁判所(ICC)への加入のための批准法案をまとめICC入りを目指しており、加入すればICCから逮捕状が出ているプーチン大統領がアルメニアが拘束する義務を負うことになる。

「もし我々がICCに加盟すれば、その義務を果たさなければならないことになる。ロシアの問題はウクライナと解決すればよい」

メルコニアン副議長はこうとも語っている。

同盟国もロシアの侵攻に疑問?

アルメニアは旧ソ連の構成国の一つ。現在もロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国で国内にロシア軍の基地もある。ロシアの軍事同盟国であるわけだが、隣国アゼルバイジャンとの抗争をめぐって戦争犯罪を追及する目的でICCへの加盟に踏み切ったとされる。

一方プーチン大統領は、ウクライナ侵攻でウクライナの子供たちを不法に拉致した戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)から3月17日逮捕状が出されたが、米国や中国はICCに加盟しておらず主に西欧の123の加盟国を避けて通れば逮捕は免れるので実質的な拘束力はないだろうという見方が有力だった。

しかし、アルメニアはロシアが再三警告したにも関わらずICC加盟を強行したわけで、プーチン大統領自身の威信を損ねることになっただけでなく、大統領の行動範囲を著しく制限することにもなった。

さらにアルメニアの決断はロシアの同盟国の間で、今回のウクライナ侵攻をめぐって疑問が生じていることを物語っていると注目されている。

気になる南アフリカの対応

今のところ、アイルランド、クロアチア、オーストリア、ドイツなどがプーチン大統領が入国すれば直ちにICCの逮捕状を執行することを公言しているが、今注目されるのが南アフリカだ。

南アフリカでは8月後半にBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興経済5大国)首脳会談がダーウィンで開催が予定されている。プーチン大統領は2013年の第6回会議以来参加しており、今回は特にウクライナ侵攻問題が主要議題になると考えられるので出席を希望しているはずだ。

しかし南アフリカはICCの加盟国であり、ICCの逮捕状対象者が入国すれば身柄の拘束に協力する義務が生じる。このため、南アフリカ政府は専門家に対応策を検討させているが今のところプーチン大統領に出席を断念させる以外に手立てはないようだ。

プーチン大統領がロシアに心情的に近い指導者とのこの会議さえも出席できないとなると、その打撃は計り知れない。

形式だけと思われていたICCの逮捕状は、プーチン大統領を国内に缶詰状態にしてその権威を失墜させるという意味では大きな役割を果たしているようだ。 

【私の論評】過去には、スペイン、台湾も中国高官に逮捕状を出し、台湾では実際に拘束された事例も(゚д゚)!

プーチンの逮捕は、ICC加盟国に行けば現実にあり得ることですが、実はこれと似たようなことは以前もありました。それについてはこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国、チベット問題に異常な怯え 江沢民氏への逮捕状に過剰反応―【私の論評】中国高官が実際に台湾で逮捕されたこともあるし、中国5人の要人はずっと前から告発されていた!日本でも告訴せよ!これが馬鹿につける最高の良薬かもしれない(゚д゚)!
この記事は、2013年11月22日のものです。詳細は、粉の記事をご覧いただくものとして。この記事の元記事より一部を引用します。
スペインの裁判所がチベット族の虐殺に関与した疑いで、中国の江沢民元国家主席(87)ら元幹部5人に出した逮捕状が波紋を呼んでいる。中国政府はかつての国家元首に下された異例のジャッジに「強烈な不満と断固たる反対を表明する」と猛反発。ヒステリックな反応をみせる背景には「世界的な支持を得ているチベット独立運動への強い警戒感がある」(専門家)という。今後、世界中で中国共産党の横暴を告発する動きが広がる可能性もあり、不穏な空気が漂っている。

中国の最高権力者が「お尋ね者」になった。
スペインの国家裁判所に、ジェノサイドと拷問の罪で刑事告訴された江沢民・元国家主席を含む5人の中共高官
スペインの全国管区裁判所から逮捕状が出されたのは、江氏のほかに胡錦濤前主席(70)や李鵬元首相(85)ら5人。2006年、スペイン国籍を持つ亡命チベット人とともに同国の人権団体が、1980~90年代にチベット族に対して「ジェノサイド(大虐殺)や拷問などが行われた」として、当時の党指導部の責任を追及する訴えを起こしていた。

告発は、なぜ遠く離れた欧州の地で行われたのか。「スペインでは、人道に対する罪に関しては国外の事件であっても同国の裁判所に管轄権がある。98年にはチリで独裁体制を築いたピノチェト元大統領に、今回と同様に逮捕状が出され、スペイン側の要請で英国で身柄が勾留されたこともある」(外交筋)

ただ、法的拘束力は、スペインと犯罪人引き渡し条約を結ぶ国に限定されるため、実際に江氏らが逮捕される事態は考えにくい。

それでも、習近平国家主席体制下の中国はこの決定に敏感に反応し、裁判を起こしたチベット独立勢力を激しく非難。スペイン側の対応を「関係を損ねるようなことをしないよう」と強く牽制した。

2021年9月現在、スペインは世界約100カ国と犯罪人引き渡し条約を結んでいます。つまり、これらの国のいずれかで犯罪に問われた人がスペインに逃亡した場合、スペイン当局は一定の条件のもと、その国に引き渡しをして裁判を受けさせることができます。

その逆に、スペインがこれらの国に犯罪人引渡しを求め、スペイン国内で裁判を受けさせることもできます。100カ国にものぼるわけですから、これは結構厳しいともいえます。

さらに、習近平等の中国の幹部が訪米すると逮捕されるのではないかという懸念を抱いていたことが、あのwikileaksに掲載されていたことも明らかになっています。これもこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

<Wikileaks公電流出>習近平次期主席、「訪米で恐れるのは、法輪功に刑事告訴されること」―【私の論評】Wilileaksなどによる暴露などたいしたことではないが、日本でも、中国要人は全員告訴せよ!!

 この記事より一部を引用します。

習近平氏による「自分を含めて中国の高官らが訪米で最も恐れているのは、法輪功学習者に刑事告訴されることだ」という発言に関しても、さほど驚くようなことでもないし、Wikileaksで外電として出さなくても、中国に関する日本の報道のみでなくて、海外に目を通している人ならば、何を今更という程度のものです。

 2013年2月13日から17日まで中国の習近平国家副主席(当時)は、米国での正式訪問を無事終え、「私は自信を持って自らの訪米が大成功だったと言える」 との言葉を残して満足げに米国を去ったとされています。

同年秋に次期国家主席として中国の新リーダーとなった習副主席の訪米は、胡錦濤国家主席の副主席時代の訪米とは、全く異なる印象を米国民に与え、さらに、昨年の胡錦濤国家主席の訪米とも異なる様相を見せ、中国の対米外交が対等を前提とした新たな段階に入ったと言っていいだろとされていたのですが、この時習近平は逮捕されるかもしれないという疑念を拭いきれずに、訪問したようです。しかし、逮捕はされませんでした。

このときに本当に逮捕して、裁判などしていれば、良かったかもしれません。

なぜ、習近平がこのような懸念を抱くようになったかといえば、台湾では実際に中国高官が逮捕、拘束されたという事件があったからです。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

【日本で報道されない激レアニュース】台湾訪問中の中共高官2人、相次ぎ刑事告訴される―【私の論評】及び腰日本はなぜこのようなことをしないのか?
これは、2010年9月20日の記事です。この記事より、一部を引用します。
中国宗教事務局の王作安・局長は、先週15日に台湾を訪問した際、台湾法輪大法学会に、法輪功への集団弾圧を陣頭指揮した罪で告訴された。前日の14日、台湾を訪問中の陝西省趙正永・代理省長が同団体に刑事告訴されたばかり。
王作安
台湾法輪大法学会は、台湾の高等裁判所の検察署にジェノサイドと民権公約違反の罪状で二人をそれぞれ刑事告訴し、身柄拘束を要求した。同検察署は訴状を受理した。

原告側弁護団の朱婉琪・弁護士は検察署に対し、被告人の法輪功弾圧を陣頭指揮した事実をそれぞれ陳述した。それによると、王作安・局長は国内では宗教界、教育界、メディアを通して、法輪功に犯罪の濡れ衣を着せて、悪魔に仕立てる詐欺宣伝を繰り広げ、国民に法輪功への怨恨感情を煽ぎたてたこと、国外では米国や他国との宗教交流活動を通して、同様な宣伝を行ってきたという。
実際に、これら中共高官2人は、拘束され取り調べを受けましたが、結局は解放されています。それでも、これは中国高官の権威を失墜させ、台湾に二度と来れないようできたという点では、一定効果があったものとみられます。

台湾の例も、スペインの例も国内法に基づくものですから、当該国や当該国と罪人引き渡し条約を結んでに赴かない限り、逮捕や拘束されることはないですが、それにしても、心理的負担はかなり大きなものだったでしょう。

習近平も初渡米では、かなり肝を冷やしていたのではないでしょうか。

今回のプーチンへの逮捕状は、ICCによるものですから、その効力は複数の国々に及びます。ローマ規定の締約国がそれにあたります。

国際刑事裁判所ローマ規程の締約国は、国際刑事裁判所ローマ規程(ローマ規程)を批准し、またはその他の方法により同規程に加盟した国家のことです。

  締約国   未批准の署名国   後に脱退した締約国   後に署名を撤回した署名国   非加盟国

ローマ規程は、締約国の国民によって、あるいは締約国の領域内で犯された、集団殺害犯罪や人道に対する犯罪、戦争犯罪を含む一定の国際犯罪について管轄権を有する国際裁判所である国際刑事裁判所(ICC)を設立するための条約です。

締約国は、同裁判所から要請された際には、訴追された者の逮捕および引渡しや、証拠や証人を利用できるようにするといった協力を行うことが、法的に義務づけられています。

締約国は、同裁判所の運営主体である締約国会議に参加し、議事において投票する権利を有しています。

かかる議事には、裁判官や検察官といった構成員の選挙、同裁判所の予算の承認およびローマ規程の改正条項の採択が含まれます。

日本をプーチンが訪問した場合、日本もプーチンを逮捕して、ICCに引き渡す義務を負うことになります。

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