2023年5月15日月曜日

ウクライナ復興100兆円超必要―【私の論評】海外支援は気前よく、国内で何かするとなると、「財源=増税」というのは変という感覚は正しい(゚д゚)!

ウクライナ復興100兆円超必要

シュミハリウクライナ首相

 ウクライナのシュミハリ首相は4日、同国がロシアの侵攻で受けた被害の復興計画に必要な資金が「既に7500億ドル(約101兆7千億円)に上ると見積もられている」とし、資金源として各国が凍結したロシア政府や同国の新興財閥オリガルヒの資産を没収し、これを充当するよう訴えた。スイス南部ルガノで開かれた「ウクライナ復興会議」での演説で述べた。

 凍結したロシア資産をウクライナ復興に利用する案は、各国の法制度上の取り扱いなど解決すべき課題が多く、実現に向けたハードルは高い。

【私の論評】海外支援は気前よく、国内で何かするとなると「財源=増税」というのは変という感覚は全く正しい(゚д゚)!

岸田首相

政府は15日、ロシアの侵攻が続くウクライナの経済復興に向けた関係省庁による準備会議(議長・木原誠二官房副長官)の初会合を首相官邸で開いた。19~21日の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に先立ち、ウクライナ復興を重視する姿勢を内外に示す狙いがあります。

交通機関や電気、通信などのインフラ復旧、産業振興の具体策を検討。岸田文雄首相は冒頭あいさつで「復興は日本ならではの貢献の柱だ。ウクライナ復興には、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の未来が懸かっている」と強調しました。

岸田政権は、ウクライナ復興にかなりの額の支援もすることになるでしょう。100兆円を世界中の国々で分割して支援するしても、おそらく日本は数兆円程度の支援が求められることになるでしょう。

実際、岸田文雄首相は、就任以来、多くの国に支援を表明してきました。以下は、その一例です。
  • 2021年10月、岸田首相は、インド洋・太平洋地域における気候変動対策のために、5年間で1兆円を拠出すると発表しました。
  • 2021年11月、岸田首相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国への支援強化を表明し、5年間で1兆円を拠出すると発表しました。
  • 2022年1月、岸田首相は、ウクライナへの人道支援として、1億ドル(約110億円)を拠出すると発表しました。
  • 2022年2月、岸田首相は、フィリピンへの支援強化を表明し、5年間で2,000億円を拠出すると発表しました。
これらの支援は、岸田首相の「自由で開かれたインド太平洋」構想の一環として行われるものであり、日本が地域の安定と繁栄に貢献する姿勢を示すものです。また、岸田首相は、これらの支援を通じて、日本が世界的なリーダーとして発信力を高めていきたいと考えていることも明らかです。

しかし、これらの支援は、国内の課題を解決するために使われるべきだという批判もあります。実際、日本では、物価高騰や少子高齢化など、多くの課題が山積しています。そのため、岸田首相は、これらの支援をどのように説明していくのか、難しいかじ取りを迫られることになるでしょう。

私自身は、こうした支援自体を否定するつもりはありません。ただ、こうした海外への支援への拠出に関しては、気前よく行うのに、なぜか国内では、防衛増税とか子育て支援ということになると、すぐに「安定財源=増税」という言葉がでてくることには疑問を感じます。

「今後の海外支援をスムーズに行うため、増税を行うべきだ」という言葉等聞いたことがありませんし、もしそのようなことを言えば、さすがに国内から大バッシングを受けるのは必定でしょう。とこが国内の施策となると、必ずといっていいほど「財源はどうする」「財源は増税」ということになります。

無論海外支援と、子育て支援や防衛費の増額など国内の施策に用いられる資金を比較すれば、国内の施策のほうが金額は大きいです。しかし、海外に拠出する資金はドル建で行うでしょうし、拠出した資金は、海外にでていくわけですから、日本国内で行う防衛費増や子育て支援などのように、日本国内に還元されそれがまた税金として政府に戻ってくることはありません。

海外支援そのものは、直接的に日本に経済的メリットをもたらすものではありません。そのため、海外支援に関しては、たとえ少額であっても、負担は大きいはずです。

私が言いたいのは、海外支援に関しては、政府も野党なども「財源は」ということにはならないのに、子育て支援とか、防衛費増額となど国内のことになるとすぐにいわゆる「財源論」がでてきて、結局消費税の増税などが論議されることになります。

はなはだしい例は、あの復興税です。復興のための資金を、増税で賄ったなどというのは、古今東西を調べても、日本の復興税だけです。岸田首相は、「復興は日本ならではの貢献の柱だ」だと語っており、これには東日本大震災の復興が念頭にあるのでしょうが、復興を増税で賄ったという点では、これはウクライナ復興の参考にはなりません。

日本の復興税のように「ウクライナ復興」は増税で賄うべきなどと主張したら、世界中から失笑され、不興を買うのは目にみえています。ウクライナも当然反発するでしょう。世界では不興を買うようなことが、日本国内では平然と行われてきたといえます。

海外に対して岸田政権が気前よく拠出金を支出できるのには、それなりの背景があります。これは、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
防衛財源確保法案のカラクリ 本当は「増税なしでも手当可能」だ 透けてみえる財務省の思惑―【私の論評】確実に税収が上ブレする現状で防衛財源確保法案は、財務省の増税の意図を隠す表看板に過ぎない(゚д゚)!
これは、今年4月29日の記事です。2022年度の税収は確実に予定より上ブレしそうです。しかも、6.8兆円の上ブレになりそうです。それに関する内容とグラフを以下に掲載します。
期防衛力整備計画の財源を毎年度予算で対処することは可能であり、しかも、国の一般会計税収が大幅に増加していることからこれは確実にできます。

さらに足元の月次税収の趨勢を踏まえ、2022 年度は 72 兆円程 度への着地を予想されています。22 年度税収は当初予算時点で 65.2 兆円のところ、昨年 11 月の補正予算時点 で 68.4 兆円と上方修正がなされましたが、ここから更なる上振れ着地が予想されます。 
一般会計税収(4~翌 2 月の累計値)
背景にはインフレ・円安、賃金・雇用の回復などがあります。足元で特徴的なのが景気の振幅に影響 されにくい消費税が大きく伸びている点です。およそ 40 年ぶりの物価急上昇は、税収にもこれまでに ない変化をもたらしています。
しかも、これは今年だけのことではなく、このブログの他の記事にも示したように、2018年に一般会計税収がバブル期を超え、2021年に過去最高となり、2022年にはさらにこれを更新するのです。

この潤沢な税収により、岸田政権は気前よく海外支援金を拠出できるわけです。ただ、こうした状況ですから、増税などはしぱらくすべきではないです。

そもそも、高橋洋一氏の試算によれば、日本では、需給ギャップが20兆円はあるとされています。これは、内閣府の試算よりは、若干大きいですが、それにはカラクリがあります。ただ、ここでは、それは説明しません。興味のある方は、高橋洋一氏の記事などに当たって下さい。

需給ギャップ20兆円、今の日本は20兆円の需要不足があるわけですから、このギャップを埋める必要があるわけです。ということは、政府が20兆円の国債を発行し、それを日銀が買い取れば、政府は20兆円の資金を得ることができ、さらにそれを子育て支援や防衛費増税にあてたとしても、インフレになることはないのてす。

普通の感覚の人だと、海外支援は気前よくやって、国内で何かするというとすぐに「財源=増税」となるのはおかしいと思うに違いありません。この感覚は、全く正しいです。

破壊されたウクライナの建物

岸田政権が正しい政策をすれば、ウクライナに対して支援をしても国民から不満が出ることないでしょうが、国内で増税、ウクライナには気前よく支援ということになれば、国民の怒りは頂点に達することになるでしょう。

岸田政権は正しい経済運営を行い、ウクライナにも支援をして、日本が世界的なリーダーとしての発信力を高めていくようにすべきです。

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2023年5月14日日曜日

EU・インド太平洋が対中露で結束 閣僚会合―【私の論評】死してなお世界を動かす安倍晋三元首相に感謝(゚д゚)!

EU・インド太平洋が対中露で結束 閣僚会合

インド太平洋閣僚会合

 欧州連合(EU)は13日、議長国スウェーデンのストックホルムで「インド太平洋閣僚会合」を開いた。EU加盟国と日韓や東南アジア、ウクライナなどのパートナー国を合わせ、約60カ国が参加した。19日に開幕する先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を前に、林芳正外相はロシアと中国の連携に警鐘を鳴らした。

 会合はロシアと中国に対抗し、安全保障や貿易などで幅広い協力関係を探る狙いがある。

 EUのボレル外交安全保障上級代表は会合の冒頭に演説し、ロシアのウクライナ侵略でインド太平洋の自由主義国との連携は重要性を増したと強調した。「侵略の影響は食料、エネルギーなど世界中に広がった。これは欧州だけの戦争ではない」と訴えた。

 林氏は「中国は台湾周辺で、軍事行為を強めている。中国とロシアは軍事協力を強め、日本の周辺で軍事演習を行った」と訴えた。広島サミットは、法に基づく国際秩序への決意を示す場になると述べた。また、インドネシアのルトノ外相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)はインド太平洋の中心に位置すると指摘し、「われわれは、国際法を尊重するすべての国を受け入れる」と主張。地元メディアによると、中国は会合に招かれなかった。

 EUがインド太平洋閣僚会合を開くのは、昨年に続き2度目。12日のEU外相会議では、重要物資の供給で、中国への過剰な依存を脱却することで合意した。

 林氏は「中国は台湾周辺で、軍事行為を強めている。中国とロシアは軍事協力を強め、日本の周辺で軍事演習を行った」と訴えた。広島サミットは、法に基づく国際秩序への決意を示す場になると述べた。また、インドネシアのルトノ外相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)はインド太平洋の中心に位置すると指摘し、「われわれは、国際法を尊重するすべての国を受け入れる」と主張。地元メディアによると、中国は会合に招かれなかった。

 EUがインド太平洋閣僚会合を開くのは、昨年に続き2度目。12日のEU外相会議では、重要物資の供給で、中国への過剰な依存を脱却することで合意した。

【私の論評】死してなお世界を、動かす安倍晋三元首相に感謝(゚д゚)!

EUは上記のように「インド太平洋閣僚会合」を開催し、EUとインド太平洋地域の結束を深めるほか、覇権主義的な行動を強める中国を巡り、欧州連合(EU)が見直しを進めている対中国戦略文書の原案に、台湾有事への危機感が盛り込まれ、緊張が高まらないよう関係国と関与していく方針が初めて明記されたことが13日、分かっています。


この文書の正式名称は「The EU's Revised Strategic Guidelines on China」です。日本語に訳すと「中国との戦略的関係に関するEUの見直しされた行動指針」です。2022年9月に承認されました。

この文書は、EUの中国に関する改訂された戦略的ガイドラインであり、2022年9月にEUの外務・安全保障政策担当高官の集まりである欧州理事会によって採択されました。この文書は、中国の台頭に直面してEUがより積極的な役割を果たすことを目的としています。

文書は、EUは中国と協力する分野と、中国に立ち向かう分野を明らかにしています。

EUは、経済、貿易、気候変動などの分野で中国と協力することを望んでいます。これらの分野では、EUは中国と協力して、より開放的で包括的な国際秩序を構築したいと考えています。

ただし、EUはまた、人権、台湾、南シナ海などの分野で中国に立ち向かうことも望んでいます。これらの分野では、EUは中国の行動が国際法や国際規範に違反していると考えています。

この文書は、EUが中国の台頭に直面してよりバランスの取れたアプローチを取ろうとしていることを示しています。EUは中国と協力することを求めていますが、中国に立ち向かうことも恐れていません。

この文書はまた、EUが中国を単一の脅威とは見なしていないことを示しています。むしろ、EUは中国が複雑な国であり、協力と対立の両方の機会を提供すると考えています。

EUは現在、この文書を見直しています。その原案には、台湾有事に対する懸念が盛り込まれており、EUは関係国と協力して緊張を緩和するよう努める方針を初めて明確に示しています。

文書は、台湾海峡で紛争が発生した場合の影響は「深刻で不安定なもの」になると述べています。また、EUは「台湾の平和と安定を支持し、台湾海峡の緊張を緩和するために関係国と協力する」としています。

上記の一連の動きは、まさにインド・太平洋地域の国々の同盟、「インド太平洋諸国同盟」が出来上がり、これとEU、NATOが協力していく方向に向かう一里塚とも捉えることができます。

昨日の記事で、「インド太平洋戦略」の生みの親である、亡くなられた安倍元総理は、「インド太平洋諸国同盟」の可能性を夢見ておられたに違いないだろうことを掲載しました。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。そうして、まさに中国はこれを恐れていると見られます。

このような動きは、安倍元首相がいなければ、なかったかもしれないです。また、あったにしても極めて進展が遅かったかもしれません。

ボストン・グローバル・フォーラムは、マイケル・デュカキス元マサチューセッツ州知事が主宰するシンクタンクですが、同フォーラムは、2023年4月7日、安倍晋三元首相を追悼する国際会議をオンラインで開催しました。会議には、日米やインドの有識者ら約30人が出席しました。

戦車に搭乗するデュカキス氏 1988年

デュカキス氏は会議で、安倍氏について「世界を平和と安定に導くリーダーシップを発揮した」と悼み、安倍氏の遺志を継いで日米同盟を強化していく必要があると訴えました。

また、林芳正外務大臣もビデオメッセージで出席し、「安倍氏は自由で開かれたインド太平洋地域の実現に尽力した」と述べ、安倍氏の遺志を継いで同地域の平和と安定に貢献していくことを表明しました。

会議では、安倍氏の外交政策や日米同盟の重要性などについて議論が行われました。参加者からは、安倍氏のリーダーシップを称賛するとともに、安倍氏の遺志を継いで日米同盟をさらに強化していく必要があるとの意見が相次ぎました。

安倍元首相の国葬儀

安倍氏は、2022年7月8日、奈良市で演説中に銃撃され、亡くなられました。安倍氏は、1993年から2006年まで、そして2012年から2020年まで、日本の首相を務めました。安倍氏は、日米同盟の強化や自由で開かれたインド太平洋地域の実現など、日本の外交政策に大きな影響を与えました。

世界は、安倍元首相の描いた理想の世界秩序に向けて今も模索を続けています。まさに、死してなお世界を動かす安倍晋三氏といえると思います。私達は安倍晋三氏の遺志を引き継ぐことができます。世界中でも多くの人がそれを引き継いでいるからこそ、世界は新たな秩序づくり向かって日々前進しているのだと思います。

このような人は安倍晋三氏をおいて他に、現代の日本にはいません。過去にはいました。それは安倍元総理と同郷の吉田松陰先生です。吉田松陰先生は、安倍元総理よりさらに短命で、享年29歳(満)で亡くなりましたが、その後の日本の礎となる人たちを育てました。

吉田先生の思想は、先生の育てた弟子たち等により、日本の秩序を変えることになりました。吉田先生が、弟子たちらに大きな影響を及ぼしていなければ、日本は、当時の列強にのみこまれていたかもしれません。

安倍晋三氏の思想は、その遺志を引き継ぐ世界中の人々によって、世界の秩序を変えることになるでしょう。そのような思想が安倍氏から世界に向けて発信されたことを、私達は、感謝すべきです。そうでなければ、世界は行き先を見失い混乱に陥っていたかもしれないです。

有難うございます。吉田先生、安倍先生。そうして安らかにお休み下さい。


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2023年5月13日土曜日

中国、NATO日本事務所に反発 「歴史の教訓くみ取れ」―【私の論評】中国は、将来「インド太平洋諸国同盟」が出来上がることを恐れている(゚д゚)!

中国、NATO日本事務所に反発 「歴史の教訓くみ取れ」

中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官

 中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は12日の記者会見で、北大西洋条約機構(NATO)が日本に連絡事務所開設を検討していることについて「日本が真剣に歴史の教訓をくみ取って、地域の国家間の相互信頼や、平和と安定を損なうことをしないよう求める」と反発した。

 汪氏は、アジア太平洋地域はNATOの地理的範囲には入っておらず、アジア版NATO創設も必要ないとした上で「NATOはアジア太平洋国家との関係を強化し、地域に干渉し続けている」と批判した。

 日本政府に対しては「本当にNATOアジア化の急先鋒になりたいのか」と対応に強い疑問を呈し、日本が平和発展の道を堅持するよう求めると強調した。

【私の論評】中国は、将来「インド太平洋同盟」が出来上がることを恐れている(゚д゚)!

北大西洋条約機構(NATO)は、1949年にソビエト連邦に対抗するために設立された軍事同盟です。本部はベルギーのブリュッセルにあり、現在、30か国が加盟しています。NATOは攻撃された場合、加盟国の防衛を約束する集団安全保障体制です。

4月25日、 ディエラNATO国際軍事幕僚部国際安全保障局長 (イタリア陸軍中将)の表敬を受けた吉田統合統幕長

中国は、NATOが東アジアに進出することで、自国の安全保障上の利益に影響を及ぼすことを懸念しています。中国は、米国との緊張関係が高まっている中で、NATOが東アジアに進出することで、米国との連携を強化し、中国に対する圧力を増大させることを危惧していると考えられます。

さらに、中国は、日本がNATOと協力することで、日本が自国に対してより強硬な姿勢を取る可能性があると見ています。日本がより積極的に自衛隊の装備や兵力を増強することで、中国にとっては軍事的脅威になると考えているようです。

最後に、中国は、NATOが日本に事務所を開設することで、アジア太平洋地域の地政学的バランスが変化することを懸念しているのでしょう。NATOが日本に進出することで、米国や日本を中心とした新たな安全保障体制が形成される可能性があり、中国の影響力が低下することを恐れているためです。

歴史的にも、同盟が離合した例は数多くあります。以下にいくつかの例を挙げます。

1.第一次世界大戦中の中央同盟国

第一次世界大戦中、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、イタリア、オスマン帝国は「中央同盟国」として同盟を結びました。しかし、戦争が長引くにつれ、同盟国の間で緊張が高まり、イタリアは1915年に同盟から離脱し、連合国側に参戦しました。

2.第二次世界大戦中の枢軸国

第二次世界大戦中、ドイツ、イタリア、日本は「枢軸国」として同盟を結び、戦争に参戦しました。しかし、同盟国の間での意見の相違や利害の対立などが生じ、枢軸国内部でも分裂が生じました。イタリアは1943年に連合国に負け、連合国側に与し参戦、ドイツは1945年5月に降伏、三国同盟は崩壊しました。

3.冷戦期の東西陣営

冷戦期には、米国とその同盟国が「西側陣営」、ソ連とその同盟国が「東側陣営」として、それぞれ同盟関係を結びました。しかし、同盟国の間での意見の相違や利害の対立が生じ、同盟内部でも分裂が生じました。例えば、ソ連と中国は意見が合わず、1960年代後半には対立が深まり、両国間での軍事衝突も発生しました。

以上のように、同盟が離散例は歴史的にも多く存在します。同盟は国家の利益や関心事が一致する場合に結ばれますが、同盟内部での意見の相違や利害の対立が生じることもあるため、必ずしも同盟が結束を維持することはできません。

一方、集散の例も多々あります

1.ヨーロッパ連合(EU)

ヨーロッパ連合は、かつてのヨーロッパ共同体を発展させて結成された同盟です。EUは加盟国が増え、経済・政治的な統合が進んでいます。EUは経済面や外交面などで、一定の成果を上げています。

2.アフリカ連合(AU)

アフリカ連合は、アフリカ諸国の統合を目指して結成された同盟です。AUは、アフリカ大陸の平和・安全保障や経済発展の促進を目的としています。AUは、加盟国が増え、地域的な協力や統合が進んでいます。

3.東南アジア諸国連合(ASEAN)

東南アジア諸国連合は、東南アジア地域の統合を目指して結成された同盟です。ASEANは、東南アジア地域の平和・安定・繁栄の促進を目的としています。ASEANは、加盟国が増え、地域的な協力や統合が進んでいます。

インド太平洋地域

AUKUS、QUAD、CPTPPはすべて、インド太平洋地域の安全保障を強化することを目的とした新しいイニシアチブです。これらの同盟はすべて、中国の台頭に対抗することを目的としています。

中国はインド太平洋地域でますます積極的な役割を果たしており、米国とその同盟国にとって脅威と見なされています。これらの同盟は、中国の野心を抑制し、地域の安定を維持するために設計されています。

AUKUS、QUAD、CPTPP、それらはやがて一つにまとまり、作り替えられて、将来、「インド太平洋諸国同盟(仮称)」として花開く可能性を秘めています。それは、NATOのような加盟国の防衛を約束する集団安全保障体制をも内包するものになるかもしれません。それには、NATOは貢献できるかもしれません。

NATOとしては、中国の動きはロシアの動きなどとも無関係ではないので、情報共有という意味合いで、インド太平洋諸国同盟と関係を持つことになるかもしれません。場合によっては、強調することもあるかもしれません。これは、中国にとってのみならず、ロシア、北朝鮮、イランなどに対しても強い牽制になります。


インド太平洋戦略の生みの親である、亡くなられた安倍元総理も、「インド太平洋諸国同盟」の可能性を夢見ておられたと思います。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。そうして、まさに中国はこれを恐れていると見られます。

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2023年5月12日金曜日

なぜ台湾を守る必要があるのか、その三つの理由―【私の論評】台湾有事に備えて、日本は台湾への軍事支援ができる体制を整えるべき(゚д゚)!

なぜ台湾を守る必要があるのか、その三つの理由

岡崎研究所

台湾有事は米国にも大きな損失をもたらす

 4月10日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙外交問題コメンテーターのギデオン・ラックマンが「なぜ台湾が世界にとって重要なのか。北京との緊張の危険な増大は、繁栄するアジアの民主主義を保護するために支払う価値のある代償である」との論説を書いている。

 台湾への軍事圧力の増大に対し、バイデン大統領は4回、米国は中国の攻撃から台湾を守ると約束した。米国の一部の人は、なぜ米国が人口2400万人の台湾を守るために、もう一つの核兵器国中国と戦うのかと疑問に持つ。

 台湾を守ることへの懐疑論は欧州の一部ではもっと強い。訪中から帰ったマクロンは台湾を守るためにフランスは指一本あげないと含意した。

 台湾にこだわる三つの主たる議論がある。第1は世界での政治的自由の未来について、第2は世界的なパワーバランスについて、第3は世界経済についてである。これらは台湾を北京の手から離しておく説得力のある議論になる。

 北京は既に香港での民主主義を粉砕した。習近平が台湾で同じことをすれば、世界は暗い政治的意味を持つ。

 もし中国が台湾の自律を侵攻により、または台湾が欲しない政治連合の強制で粉砕すれば、地域における米国のパワーは大きな打撃を受けるだろう。

 中国によるインド太平洋の支配は世界的意味をもつだろう。この地域は世界の人口と国内総生産(GDP)の約3分の2を占める。もし中国がこの地域を支配すれば、中国は最強国として米国にとって代わるだろう。

 台湾は世界の半導体の60%以上、最も先進的なものの90%を生産する。電話や車から工業機械まで台湾のチップで動いている。もし台湾の半導体工場が中国の支配下に入れば、中国が世界経済を牛耳ることを可能にする。

 これら経済的、戦略的、政治的考慮は、米国とその同盟国が台湾を守る説得力ある議論となる。戦争に備えることが平和を維持するために時には必要である。

*   *   *

 この台湾の重要性に関するラックマン論説は、よく考えられた論説であり、賛成できる。

 台湾は、米ソ冷戦時代のベルリンのような役割を米中冷戦においては果たすと考えられる。自由民主主義体制陣営と専制主義陣営に分断されつつある世界において、台湾は最前線に立つと言って過言ではない。マクロンの台湾に対する認識は相当問題があり、主要7カ国(G7)広島サミットの際には、彼に台湾の重要性を印象付ける必要があるだろう。この論説の議論はそのために使い得ると思われる。

人権問題は国際関心事項

 中国は台湾問題を中国の内政問題としているが、これはそうではない。中国はチベット、ウイグル地区で酷い人権侵害をしている。香港でもそうである。人権問題は、南アフリカのアパルトへイトのように、戦後の国際秩序の中では国際関心事項とされており、台湾を中国が併合した後には2400万人の台湾人の人権が侵害されることが目に見えている。台湾問題はそういう観点から内政問題とされるべき問題ではない。国際的関心事項と言える。

 中国は、世界は発展しようとしている国とそれを封じ込めようとする米国をはじめとする勢力との間で分断されているのであって、自由民主主義と専制主義との間で分断されているのではない、われわれ(中国)も民主主義であるという論理を展開している。しかし人権尊重をしない民主主義はあり得ないのであり、この点を強く主張していくことが中国に対抗する上でも必要なように思われる。

【私の論評】台湾有事に備えて、日本は台湾への軍事支援ができる体制を整えるべき(゚д゚)!

台湾軍

台湾は、その地政学的優位性、民主主義、経済力など、いくつかの理由で世界にとって重要です。

台湾は、東シナ海に位置する島国です。この島は、中国本土の南東約1,000キロメートル、フィリピンの西約1,800キロメートルに位置しています。台湾は、東シナ海の戦略的に重要な位置にあり、この地域の貿易と航行を支配する可能性があります。

台湾は、繁栄した民主主義国家でもあります。台湾は、1988年から自由で公正な選挙を実施しており、民主的な統治の長い歴史があります。台湾は、アジアで最も成功した民主主義国の1つであり、その成功は、他の国々にとっての模範となっています。

台湾は、強力な経済力を持っています。台湾は、半導体や電子機器の主要な生産国であり、世界の貿易と経済において重要な役割を果たしています。台湾は、アジアで最も成功した経済国の1つであり、その成功は、他の国々にとっての模範となっています。

中国は、台湾を自国の領土の一部と主張しており、武力を使って台湾を「統一」することを辞さない姿勢を示しています。中国の台湾に対する脅威は、アジアの平和と安定に対する深刻な脅威です。台湾を守ることは、アジアの平和と安定を守るために不可欠です。

北京との緊張の危険な増大は、繁栄するアジアの民主主義を保護するために支払う価値のある代償です。台湾は、自由で開かれたアジアを支えるために不可欠な民主主義国家です。台湾を守ることは、自由と民主主義の価値観を守るために不可欠です。

中国は強大な軍事力を持つといわれなが、今まで台湾に侵攻しませんでした。これは、なぜなのでしょう。まずは、これを正確に捉える必要があると思います。

中国が過去に台湾に侵攻しなかった理由は多岐にわたりますが、主要な理由は以下の通りと考えられます。

国際社会からの批判:中国が台湾に侵攻する場合、世界中の国々から批判を浴びることになります。中国は国際的な信頼を失うことになり、外交的な影響力を損なうことになるため、侵攻を躊躇する理由の1つとなっていると考えられます。これに関しては、最近の中国は腹をくくったようで、国際社会の批判などものともせず、香港を中国に併合しました。

経済的な損失:台湾はアジア太平洋地域で経済的に重要な役割を担っており、中国にとって台湾を併合することは莫大な経済的損失をもたらすことになると考えられています。


上の記事では、

「中国が台湾の自律を侵攻により、または台湾が欲しない政治連合の強制で粉砕すれば、地域における米国のパワーは大きな打撃を受けるだろう。

 中国によるインド太平洋の支配は世界的意味をもつだろう。この地域は世界の人口と国内総生産(GDP)の約3分の2を占める。もし中国がこの地域を支配すれば、中国は最強国として米国にとって代わるだろう」

としていますが、それほどうまくいくのでしょうか。

中国が台湾を併合することが、その経済的な利益を獲得するための最適な手段であるかどうかは議論が分かれます。例えば、併合によって中国が得るであろう経済的な利益は、長期的には政治的な不安定さや国際的な孤立などのリスクを伴う可能性があるため、実際のところ得られる利益は限られるという指摘もあります。

加えて、中国が台湾を併合することによって、台湾に対する輸出制限や投資制限が生じ、台湾企業が海外展開することが困難になることから、中国と台湾の経済的な結びつきが弱まることも懸念されています。このような理由から、中国が台湾を併合することが、必ずしも経済的な利益を獲得する最適な手段であるとは限りません。

それは、半導体について考えれば、良く理解できます。台湾の半導体製造業は、最終工程においては、世界1ともいわれています。台湾の半導体製造会社(ファウンドリー)であるTSMCは、世界で最も先端の半導体製造技術を持ち、世界の半導体受託生産の60%以上を占めています。TSMCの半導体は、スマートフォン、コンピューター、自動車など、あらゆる電子機器に使用されています。

しかし、その半導体産業も、日本、米国、オランダなどの半導体製造装置がなけば成り立ちません。日本からの、半導体製造原材料の供給がなくなれば、歩留まりがかなり悪くなります。米国等の設計技術がなければ、最先端の半導体は製造できません。

このようなことを考えれば、中国が台湾の半導体産業を手に入れたとたん、半導体産業で世界一になるとはとても思えません。それどころか、中国に併合された台湾は半導体製造ができなくなる可能性のほうが高いです。他の産業も似たところがあります。

よって英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)のギデオン・ラックマンの記事は、飛躍しすぎていると思います。ただし、習近平がこうした考えを持たないという保証はありません。


軍事力のバランス:中国が台湾に侵攻する場合、米国をはじめとする多くの国々が介入することが予想されます。これにより、軍事力のバランスが大きく崩れることになり、中国の国内安定に影響を与えることが懸念されます。

台湾国民の反発:台湾は独自の政治・社会・文化を持ち、自由な価値観を持つ人々が多数居住しています。中国が台湾を併合することは、台湾国民の反発を招き、中国による支配に対する抵抗運動が起こる可能性が高いとされています。

これはかなり厄介な問題になるでしょう。中国はアフガニスタンで米国が長い間、米軍を駐留させたようにかなりの軍隊を駐留させなけばなりません。数十万人の軍隊を50年くらいは駐留させ、体制をつくりかえす必要があります。中途半端をすれば、アフガニスタンの二の舞いになりかねません。台湾は小さな島ながら、山岳地帯が多いので、抵抗勢力の潜伏先は多くあります。

さらに、台湾を守備する方が台湾に侵攻するよりもはるかに有利であると考えられています。

第一に、台湾は島国であり、中国本土から約100マイル離れています。これは、中国軍が台湾に侵攻するためには、大規模な海上輸送作戦を行う必要があることを意味します。海上輸送作戦は非常に複雑で費用がかかり、台湾海峡には多くの機雷があることを考えると、中国軍にとって非常に困難となるでしょう。

第二に、台湾は山岳地帯が多く、防御がしやすい地形です。これは、中国軍が台湾に上陸したとしても、台湾軍に阻止される可能性があることを意味します。台湾軍は、近年、強力な軍事力を構築してきました。台湾は、米国から最新の武器や装備を輸入しており、多くの兵士が訓練を受けています。

台湾最高峰 玉山(3,952m) 富士山より高い

第三に、米国は台湾の防衛にコミットしており、中国が台湾に侵攻した場合は米国が介入する可能性があります。これは、中国軍が台湾に侵攻するリスクを高めます。米国は世界最強の軍隊を有しており、中国軍と戦う準備ができています。

第四に、台湾は世界の半導体サプライチェーンの重要な部分であり、台湾への攻撃は世界経済に大きな影響を及ぼす可能性があります。これは、中国政府が台湾への攻撃を躊躇させる要因となる可能性があります。台湾は、世界最大の半導体製造国の1つであり、半導体はスマートフォン、コンピューター、その他の電子機器に不可欠です。台湾への攻撃は、世界の半導体供給に混乱を引き起こし、経済に壊滅的な影響を及ぼす可能性があります。

これらの要因により、中国の台湾侵攻は非常に困難でリスクの高いものとなります。中国政府は、侵攻の潜在的なコストと利益を慎重に検討する必要があるでしょう。

ただし、だからといって、中国による台湾に対する武力侵攻がないという結論にはなりません。中国による台湾併合は、習近平にとって政治的に大きな意味を持つ可能性があります。習近平は、中国共産党の最高指導者であり、2012年から中国を統治しています。習近平は、中国を復活させ、世界の主要な強国にすることを約束しています。

中国が台湾を併合すれば、習近平の政治的野心を達成する上で大きな前進となるでしょう。台湾は、人口2,300万人を超える、豊かで民主的な島国です。台湾の併合は、中国に大きな領土と経済的利益をもたらすでしょう。また、中国の軍事力と影響力を世界に示すこともできます。

習近平

ウクライナ戦争も、プーチンの政治的野心を満たすという側面も大きかったとみられます。政治的野心のほうが、侵攻の難しさを上回れば、習近平も侵攻を決断するかもしれません。台湾は、中国の侵攻をくいとめることができるかもしれませんが、それにしても現在のウクライナのように、甚大な被害を受けることは免れないでしょう。

それは、できるなら避けるべきです。戦争によって、大きな被害を受ければ、建物やインフラなどは復旧できますが、戦争で亡くなった人々は戻ってきません。

いかなる国も軍事力なしに独立を維持することは困難です。軍事力は、攻撃から身を守り、領土と国民を保護するために必要です。また、他の国との交渉の強みにもなります。

台湾は、中国の脅威に直面しているため、強力な軍隊を維持することが不可欠です。中国は台湾を自国の領土の一部と主張しており、武力を使って台湾を「統一」することを辞さない姿勢を示しています。台湾は武力で自国を守る準備をする必要があります。

台湾はまた、他の国との関係を強化する必要があります。台湾は米国、日本、オーストラリアなどの国と緊密な関係を築いています。これらの関係は、台湾を中国からの侵略から守るのに役立ちます。

軍事力と強力な外交関係は、台湾が独立を維持するために不可欠です。日台は外交面では、連携を強めつつありますが、台湾への防衛装備品の供与や軍事訓練などはあまり進展していません。

日本の防衛装備品の輸出には、制約があります。日本の輸出管理制度である「戦略物資等の輸出 管理」に基づき、日本政府は、輸出品目や輸入国によって厳しい輸出許可の審査を行っています。

さらに、日本の憲法9条によって、自衛隊は自衛のために存在するとされており、他国に対する攻撃を行うことはできません。そのため、軍事訓練なども自衛隊の能力を向上させるためのものであり、他国に対する攻撃のためのものではありません。このような制約があるため、日本の軍事協力は慎重な審査や手続きを経ることになり、進展が遅れがちです。

台湾が軍事危機に直面した場合、日本に直接的な影響が及ぶ可能性があります。その影響には、次のようなものがあります。
  • 地理的に近いため、日本の領土や国民が攻撃を受ける可能性があります。
  • 台湾の海峡は、日本のエネルギーや物資の輸送にとって重要なルートです。海峡が封鎖されると、日本の経済に大きな影響を与える可能性があります。
  • 台湾危機は、東アジアの安全保障環境に大きな影響を与える可能性があり、日本はこれに巻き込まれざるを得なくなる可能性があります。
日本政府は、このような事態に備えて、台湾と防衛協力を強化しています。また、台湾海峡の平和と安定を維持するために、国際社会と協力していく姿勢を表明しています。ただ、まだまだ十分ではありません。

自衛隊は、憲法第9条によって、他国に対する攻撃を禁止されています。しかし、自衛隊は、日本の領土、領海、領空を攻撃された場合にのみ、武力による反撃を行うことができます。これは、個別的自衛権と呼ばれています。また、日本が攻撃されていない場合でも、同盟国が攻撃された場合に、同盟国を守るために武力行使を行うこともできます。これは、集団的自衛権と呼ばれています。

2014年、日本政府は集団的自衛権の行使を容認する解釈を変更しました。これにより、自衛隊は、同盟国が攻撃された場合、より積極的に武力行使を行うことができるようになりました。しかし、自衛隊は、攻撃の必要性、攻撃の手段の相当性、攻撃の目的の正当性という3つの要件を満たす必要があります。

こういう制約はありますが、法律の解釈を変更したり、運用を弾力化するなどして、日本から、台湾への武器や装備を輸出を容易にし、台湾軍兵士を訓練できる体制を整えるべきです。

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2023年5月11日木曜日

中国、外資系コンサル摘発強化 「機微な情報」警戒―【私の論評】機微な情報の中には、実は中国の金融システムの脆弱性が含まれる可能性が高い(゚д゚)!

中国、外資系コンサル摘発強化 「機微な情報」警戒

習近平主席


 中国の国家安全当局が、外資系コンサルティング会社や調査会社の摘発を活発化させている。米欧が対中抑止のために、コンサル会社を使って中国の機密情報を不正に入手しているという見方を強めているためだ。習近平政権は、7月に改正反スパイ法の施行を予定するなど「国家安全」の強化を急いでおり、中国でビジネスを行う外資企業は懸念を強めている。

 中国メディアは11日までに、中国の国家安全機関が、米ニューヨークと中国・上海に拠点を置くコンサルティング会社「凱盛融英(キャップビジョン)」の中国国内の拠点を調査したと報じた。同社の従業員が共産党や政府機関、国防企業の関係者などと接触し、高額な報酬を渡して中国の「デリケートなデータ」を得ていたと伝えた。

 中国国営中央テレビは、「海外の組織」がコンサル会社などを使い、「わが国の重点分野の国家秘密や情報を盗み取っている」という当局の見方を強調した。

 ロイター通信によると、3月には米企業調査会社「ミンツ・グループ」の北京事務所が家宅捜索を受け、4月には米コンサル会社「ベイン」の上海事務所が従業員の聴取を受けている。外資系コンサル会社などへの摘発をキャンペーン的に進めているもようだ。

 中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は9日の記者会見で、キャップビジョンへの調査について「正常な法執行であり、業界の健全な発展を促し、国家の安全と発展の利益を守ることが目的だ」と主張した。

 コンサル会社や調査会社は、企業が事業判断を行うのに必要な現地情報を収集している。その中には軍事関連など政権にとって機微な情報も含まれているとみられ、こうした情報が米国などに流れることを当局は警戒しているもようだ。

 習政権は、米国など西側諸国との対立長期化を視野に入れ、「国家安全」を重視する姿勢を強めている。7月1日に施行される改正反スパイ法は、スパイ行為の定義を広げており、当局の恣意(しい)的な判断で外国人も摘発対象になる可能性が増すと懸念されている。

 3月には、中国の当局者や企業幹部と交友が深かったアステラス製薬の現地法人幹部が、反スパイ法などに違反した疑いで北京で拘束された。

 習政権は「ゼロコロナ」政策で傷んだ中国経済を回復させるため、外資企業の呼び込みも同時に進めているが、北京の日系企業幹部は「安心して新規投資ができる状況ではない」と困惑する。

■中国の反スパイ法 習近平政権が2014年に施行した。今年4月には中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会が反スパイ法の改正案を可決し、7月1日に施行することが決まっている。現行法はスパイ行為の定義を「国家機密」の提供などとしているが、改正法では「国家の安全や利益に関わる文献やデータ、資料、物品」の提供、窃取、買い集めも盛り込んだ。「国家安全」の定義はあいまいなため、当局の恣意的な摘発がさらに増えることが懸念されている。


【私の論評】機微な情報の中には、実は中国の金融システムの脆弱性が含まれる可能性が高い(゚д゚)!

中国の国家安全当局が摘発している外資系コンサルティング会社や調査会社は、主に以下の分野の機微な情報を入手していると考えられています。

  • 軍事関連:軍事技術、兵器システム、軍事戦略など
  • 先端技術関連:人工知能、半導体、量子技術など
  • 経済関連:経済政策、企業情報、貿易情報など
  • 政治関連:政府機関の内部情報、政権の政策方針など

これらの情報は、中国の安全保障や経済に大きな影響を及ぼす可能性があるため、中国政府は機密扱いしています。しかし、米欧のコンサルティング会社は、中国の企業や政府機関と取引する際に、これらの機密情報を不正に入手しているという疑いを持たれています。

具体的な事例としては、2022年に中国の国家安全当局が摘発した米系コンサルティング会社「ベイン・アンド・カンパニー」が挙げられます。ベイン・アンド・カンパニーは、中国の通信大手・華為技術(ファーウェイ)の内部情報を不正に入手したとして、中国政府から罰金を科されました。

中国政府は、外資系コンサルティング会社や調査会社による機密情報の不正入手に対して、厳しい取り締まりを行っています。今後も、このような摘発が活発化していくと考えられます。

ただ、中国の軍事技術や先端技術が欧米由来であるため、進展度合いに凸凹があります。たとえば、中国はステルス戦闘機や弾道ミサイルなどの最先端兵器の開発に成功したようですが、対潜戦争や電子戦などの分野では依然として欧米に遅れをとっています。

対潜戦争は、潜水艦を探知、追跡、撃沈する能力を必要とする複雑な分野です。中国海軍は、この分野で経験が不足しており、必要な能力を獲得するために努力しています。電子戦は、敵の電子機器を妨害または無効にする能力を必要とする分野です。中国海軍もこの分野で経験が不足しており、必要な能力を獲得する必要があります。

ロサンゼルス級原子力潜水艦の上空を飛行するオライオン対潜哨戒機

対潜戦は、海洋の戦いでの勝敗を決める決定的な要素です。電子戦はすべての戦いでの勝敗を決める決定的な要素です。

中国は軍事技術の分野で急速に進歩していますが、欧米に追いつくにはさらに時間がかかります。すでに確立された研究をもとに開発は進んでいるものの、次世代の研究は欧米から比べると遅れている可能性があります。

いわゆる先端技術もこれと似たような状況にあると考えられます。このようなことから、欧米が中国から軍事技術や先端技術を手に入れるというよりは、どの段階にまだ達したかという情報を入手している可能性はあります。

私自身は、軍事・先端技術情報よりも、経済関連に関しての情報に注目しています。

現在中国は国際金融のトリレンマに直面しています。国際金融のトリレンマとは、金融政策の独立性、為替相場の安定性、資本移動の自由化の3つは、同時に達成できないというものです。正式名称は、不可能の三角形(Impossible Trinity)です。米国の経済学者であるロバート・マンデルとアラン・テイラーによって提唱されました。これは、経験則によっても、数学的にも確かめられています。

中国は、金融政策の独立性と為替相場の安定性を重視しているため、資本移動の自由化を制限しています。しかし、資本移動の自由化が制限されていることで、中国の金融システムは脆弱になっています。


中国が独立した金融政策を実施できないことを示す具体的な兆候がいくつかあります。1つの兆候は、中国人民銀行が為替レートを安定させるためにしばしば介入していることです。これは、人民銀行が為替レートを操作する能力に制限があることを示しています。もう1つの兆候は、中国人民銀行が金利を引き上げることに消極的であることです。これは、人民銀行がインフレを抑制する能力に制限があることを示しています。

先程述べたように、国際金融のトリレンマにより、国境を越えて資本が自由に移動できる場合、中央銀行は為替レートの安定、低インフレ、金融政策の独立の3つをすべて達成することはできません。

これは、中国の金融システムの脆弱性を高める可能性があり、中国人民銀行が経済の安定を維持するための十分な柔軟性を持たないことを意味しています。

たとえば、中国人民銀行がインフレを抑制しようとする場合、為替レートの安定化や金融政策の独立を犠牲にすることになります。これは、中央銀行が金利を引き上げると、国内の金利と世界的な金利の差が生じ、資本が国内に流入する可能性があるためです。資本流入は、為替レートの上昇と金融政策の独立の喪失につながる可能性があります。

この脆弱性は、中国の金融システムがショックやストレスにさらされた場合に、金融危機につながる可能性があります。たとえば、米国が中国に制裁を課した場合、中国人民銀行は為替レートを安定させるために大量のドルを購入することを余儀なくされる可能性があります。これは、中国人民銀行の外貨準備を枯渇させ、金融危機につながる可能性があります。

さらに、中国人民銀行が金利を引き上げることに消極的であれば、インフレが制御不能になる可能性があります。これは、中国の経済成長の減速と金融危機につながる可能性があります。

全体として、国際金融のトリレンマにより、中国人民銀行が独立した金融政策を実施できないことは、中国の金融システムの脆弱性を高める可能性があります。この脆弱性は、中国の金融システムがショックやストレスにさらされた場合に、金融危機につながる可能性があります。

米国は、中国の金融システムの脆弱性を把握し、金融制裁をより効果的にするために、米欧のコンサルティング会社等による金融システムに関する機密情報の不正入手を行う可能性があります。これは、諜報活動の一般的な手法であり、米国が過去に使用した手法でもあります。

中国は、米国が過去にサイバー攻撃やスパイ活動を通じて中国の機密情報を盗んだ実績があるため、米国が中国の金融システムに関する機密情報を不正に入手する可能性を懸念していると考えられます。

全体として、中国は米国が中国の金融システムに関する機密情報を不正に入手する可能性を懸念しており、それに対処するための措置を講じています。その一つが、上の記事にも述べられているように、改正反スパイ法です。


改正法では「国家安全」の定義はあいまいなため、当局の恣意的な摘発がさらに増えることが懸念されています。

改正反スパイ法に関しては、当局の恣意的な摘発の問題が指摘されることが多いですが、それだけではなく中国での投資環境に悪影響を及ぼす可能性があります。

「国家安全」の定義があいまいなため、当局は、「国家安全」を理由に、企業や個人を恣意的に摘発することができる可能性があります。これは、投資家や企業にとって大きな不確実性を生み、中国への投資を思いとどまらせる可能性があります。

また、改正反スパイ法は、中国の金融システムや市場の不透明性を高める可能性もあります。これは、投資家にとってリスクが高まり、投資を思いとどまらせる可能性があります。

最後に、改正反スパイ法は、中国の国際的な評判を傷つける可能性もあります。これは、中国への投資や貿易を思いとどまらせる可能性があります。

全体として、改正反スパイ法は、中国での投資環境に悪影響を及ぼす可能性があります。投資家や企業は、これらのリスクを認識し、中国への投資を慎重に判断する必要があります。

これだけ弊害がありながら、中国政府が外資系コンサルタントの摘発を強化するのは、いくつか理由があるのでしょうが、やはり中国の金融システムの脆弱性を隠したいという意図もあるのではないでしょうか。それだけ、中共はこの脆弱性を表には出したくないのではないかと思われます。

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2023年5月10日水曜日

政府、中国大使発言に抗議 台湾巡り「日本民衆火に」―【私の論評】中国外交は習近平の胸先三寸で決まる、外交部長や大使等は他国に比較して地位も低く権限もない(゚д゚)!

政府、中国大使発言に抗議 台湾巡り「日本民衆火に」

中国の呉江浩駐日大使
 
林芳正外相は10日の衆院外務委員会で、中国の呉江浩駐日大使による台湾を巡る発言が「極めて不適切」として外交ルートを通じて抗議したと明らかにした。呉氏は4月に東京都内で開いた記者会見で、日本が台湾問題を安全保障政策と結び付ければ「日本の民衆が火の中に」引きずり込まれるなどと発言しけん制した。立憲民主党の松原仁氏への答弁。

 林氏は台湾海峡の平和と安定は日本の安全保障にとって重要だと強調。「対話により平和的に解決されることを期待するとの日本の立場を中国側に首脳レベルを含めて伝えている」と説明した。

【私の論評】中国外交は習近平の胸先三寸で決まる、外交部長や大使等は他国に比較して地位も低く権限もない(゚д゚)!

上の中国の駐日大使の発言に関しては、確かに不埒なもので、とても許容できるものではないのは確かです。ただ、中国においては外交の地位は他国と比較すれば、かなり低いことも理解しておくべきと思います。それを知った上で、上の記事を読めばまた違った見方ができると思います。

これについては、なせが日本のマスコミは報道せず、誤解を生むこともしばしばあります。

上の記事もそうです。上の記事だと、普通の国の権限のある外国の大使がとてつもない発言をしたかのように受け取る人も多いのではないかと思います。

中国では、外交の位置づけは、低いです。現在の中国の外交部長(外交トップ)である、秦剛は王毅氏の後任ですが、日本でいえば外務省の「部長レベル」とみるべきです。中国の序列からみれば、政治局員である王毅氏の方が完全に上です。

中国外交部

3月7日、中国の秦剛外相は、北京で開かれている全人代=全国人民代表大会に合わせ、就任以来初めてとなる記者会見を行いました。会見では、「米国が方針を変更しなければ衝突、対立は避けられない」と警告する一方で、関係改善も呼びかけました。敵対的とみなした相手を威嚇する「戦狼外交」の姿勢を示しています。

しかし、この発言、秦剛外相は交渉できる立場にないわけですから、結局強気な話を発信することしかできないのです。その立ち位置での発言を日本のマスコミが大きく取り上げているのは、滑稽ですらあります。そうして、それは駐日中国大使も同じことです。

中国の外交部長は、日本外相どころか、王毅氏も国家間の交渉相手とはならず、トップの習近平氏しかその立場にありません。これは独裁国家・共産圏の常であり、トップが外交で道を見誤ると大変なことになります。

習近平氏が何かを思い込んだら大変なことになりかねません。そのため米国様々な牽制球を投げ習近平の意図を探ろうとするのです。

習近平

このような中国ですから、外国大使の地位や権力は、他のいくつかの国に比べてかなり低いと考えるべきです。これは、中国が外交問題において共産党の役割をより重視する独自の政治システムを有しているためです。

大使が国家元首や政府の個人的な代表とみなされる他のいくつかの国とは異なり、中国では、外国の大使は、主に中国政府に対するそれぞれの国の代表とみなされます。駐中国大使は高官と接触でき、外交行事や交渉で自国を代表することができますが、他国の大使に比べ、中国の外交政策の決定に直接影響を与えることはほんどありません。

さらに、中国においては、外国大使の任命は中国政府の承認が必要です。つまり、中国政府は誰を駐中国大使に任命するかについて大きな支配力を持っており、政治的な理由やその他の理由で好ましくないと判断された候補者を拒否することができます。これに対して、他の多くの国では、外国大使の任命は主に派遣国の特権です。

また、中国では、外国大使と中国政府の最高意思決定者との間に、何層もの官僚機構が存在することも注目に値します。このため、大使が中国の外交政策の決定に直接影響を与えることは、ほとんどありません。

全体として、在中国大使は自国を代表し、中国政府と関わる上で重要な役割を担っていますが、その地位や影響力は他の国の大使に比べ、かなり限定的といえます。

日本等先進国の大使は、正式な名称を「特命全権大使」といいます。 互いに直接会って話す機会が限られている国のトップに代わり、自国の全権代表として条約に調印・署名できるなど大きな権限を持っています。

冨田駐米特命全権大使

要するに、中国が他国に派遣する大使も、他国から中国に派遣される大使も、中国においてはかなりランクも低く、できることは限られており、極端に言ってしまうと連絡係くらいに考えたほうが良さそうです。

上の記事も連絡係の権限もほとんどない呉江浩が、愚かな大言壮語をはいたということです。他の先進国の大使等が語ったのとは大違いです。他の先進国等の大使が同じようなことを言えば、場合によっては、断交などのこともあり得ます。そこまでいかなくなても、関係はかなり悪化することになるでしょう。

中共も、いちおう外交部や大使は、中国の顔と受け取られているのですから、ある程度まともな教育や躾などすべきでしょう。そもそも、権限もない大使であっても、「日本の民衆が火の中に」などと発言すれば、印象はかなり悪くなります。

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2023年5月9日火曜日

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カナダ、中国人外交官に国外退去通告 ウイグル弾圧批判の下院議員を脅迫か

カナダのジョリー外相

まとめ

カナダと中国の関係発火は、孟晩舟逮捕が発端(2018年12月)。
・中国が2人のカナダ人をスパイ容疑で拘束。
・カナダの人権懸念、新疆ウイグル問題への対抗措置。
・中国によるカナダ輸出品への貿易制限。
・カナダ人ロバート・シェレンバーグへの死刑宣告。
・関係の複雑性、改善の見込み低い。
・日本の「ペルソナ・ノン・グラータ」外交政策。
・中国人活動家馮正虎の入国拒否と追放事例。

 カナダ政府は8日、カナダに駐在する中国人外交官1人に対し、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として国外退去を通告した。この外交官は、中国当局による少数民族ウイグルの扱いを非難するカナダ下院議員とその香港に住む親族への脅迫を企てたとされる。在カナダ中国大使館の報道官は8日、カナダ政府に「対抗措置を取る」と抗議した。

 カナダのジョリー外相は8日の声明で「我々はいかなる形の外国からの干渉も容認しない」と述べた。カナダ放送協会(CBC)によると、退去を通告された外交官は5日以内にカナダを出国する必要がある。

 カナダ紙グローブ・アンド・メールによると、カナダ情報機関は2021年の報告書で、中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害をジェノサイド(集団殺害)と非難するカナダ下院決議を支持した野党保守党の議員とその親族らが中国当局による脅迫の標的にされていると指摘。今回、退去を通告された外交官の情報取集活動に言及していた。

 中国当局は脅迫を通じ、中国共産党に批判的な保守党議員らの態度を抑え込もうとしたとみられている。

【私の論評】スパイ防止法を制定すれば、日本は自国の利益を守り、責任ある国際社会のリーダとしての役割をさらに主張できる(゚д゚)!

まとめ
・カナダと中国の関係発火は、孟晩舟逮捕が発端(2018年12月)。
・中国が2人のカナダ人をスパイ容疑で拘束。
・カナダの人権懸念、新疆ウイグル問題への対抗措置。
・中国によるカナダ輸出品への貿易制限。
・カナダ人ロバート・シェレンバーグへの死刑宣告。
・関係の複雑性、改善の見込み低い。
・日本の「ペルソナ・ノン・グラータ」外交政策。
・中国人活動家馮正虎の入国拒否と追放事例。

カナダと中国の関係悪化は、2018年12月のファーウェイ幹部・孟晩舟の逮捕に遡ることができる。孟は、銀行詐欺と米国の対イラン制裁違反の容疑で彼女の身柄引き渡しを求める米国の要請により、バンクーバーで逮捕されました。

中国は孟氏の逮捕に即座に反応し、報復的な動きと広く見られているように、2人のカナダ人、マイケル・コヴリグとマイケル・スパボールをスパイ容疑で拘束した。彼らの拘束は、カナダとその同盟国から政治的な動機があるとして広く批判されています。

帰国したファーウェイの孟晩舟が深圳の空港で英雄として出迎えられる。お出迎えしているのは、市民ではなくファーウェイの社員らしいが・・・・・

それ以来、カナダは中国の人権記録、特に新疆ウイグル自治区のウイグル族ムスリムの扱いに懸念を表明し、ウイグル族の迫害に関与しているとされる中国の当局者や団体に制裁を課してきました。

さらに、中国がキャノーラ油や豚肉などカナダの輸出品に貿易制限をかけたり、カナダ人のロバート・シェレンバーグにすでに15年の懲役を宣告した後に麻薬密売容疑で死刑を宣告するなど、他の緊張要因もあります。

全体として、カナダと中国の関係悪化は、政治、経済、人権の複雑な問題に根ざしており、根本的な力学に大きな変化がない限り、すぐに改善されることはないでしょう。

日本でも、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として外国人を追放したことがあります。

ペルソナ・ノン・グラータとは、外交用語で、受け入れ国にとって受け入れがたい、または歓迎されないと考えられる外国人を表す言葉です。日本では、外国人をペルソナ・ノン・グラータとして認定する権限は外務省にあります。

2011年、成田空港に3カ月以上滞在していた中国人活動家、馮正虎(フェン・ジェンフー)を追放したのは、その一例です。馮氏は何度も日本への入国を拒否され、空港のトランジットエリアで生活するようになったことに抗議していた。日中両政府の交渉の末、ようやく入国が許可されたが、数週間後に「ペルソナ・ノン・グラータ」となり、追放されました。

中国人活動家、馮正虎(フェン・ジェンフー)

馮氏は数年前から中国と日本を頻繁に行き来していましたが、2010年に日本の入国管理局から「不適切な活動である」という理由で入国を拒否されました。何度も入国を拒否された馮氏は、成田空港のトランジットエリアに住み、日本に入国せずに滞在することにしました。

馮氏の抗議活動は、日本国内だけでなく、国際的にも広く注目され、支持されるようになりました。馮氏のもとには多くの人権擁護団体やジャーナリストが訪れ、彼の話はメディアで大きく取り上げられた。

数カ月にわたる日中両政府の交渉の末、2011年1月にようやく入国が許可されたのですが、その数週間後に「ペルソナ・ノン・グラータ」と認定され、追放されました。日本政府は、馮氏の行動が訪日の目的にそぐわず、「空港とその利用者に迷惑をかけた」として、追放の理由に挙げています。

馮氏のケースは、政治的環境が制限されている国で活動家や反体制派が直面する課題、そして彼らが海外渡航や避難を試みる際に遭遇する困難を浮き彫りにしています。

また、2005年には、韓国のビジネスマンを装っていた北朝鮮のスパイを追放した例もあります。このスパイはスパイ容疑で逮捕され、懲役6年の判決を受けましたが、北朝鮮との外交交渉の一環として早期釈放されました。しかし、日本政府は彼をペルソナ・ノン・グラータとし、国外追放にしました。

最近では、ロシア軍が侵攻したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で多数の民間人の犠牲が判明したことを受け、日本政府は2022年4月8日、在日ロシア大使館の外交官とロシア通商代表部の職員計8人の国外退去を求めました。日本政府は「外交に影響が出る」としてロシア外交官らの追放に慎重でしたが、欧州各国に足並みをそろえた形です。ロシア産石炭の輸入削減と合わせ、追加制裁の柱となる。


外交官の地位を定めたウィーン条約では、受け入れ国は外交官らを「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物、PNG)」として派遣国に通告し、国外退去を求めることができると定めています。「外交分野での最も厳しい措置の一つが外交官追放」で、ウィーン条約などに基づく今回のロシア外交官ら8人に対する国外退去要請は異例と言えます。

なお、ペルソナ・ノン・グラータを宣言する権限は、一般に国家の安全保障やその他の重大な事柄に関わるケースに限られ、軽々しく使われることはありません。

ペルソナ・ノン・グラータを宣言は外交使節を交換している国家間で相手国に対してできます、使節団の外交官以外の職員および領事についても同様です。

ただ、ペルソナ・ノン・グラータは使節団の外交官、それ以外の職員、及び領事以外には指定できません。それ以外の人も、スパイ活動をしている可能性は高いというより、当然のことなが活動しているべきとみるべきです。

日本には、機密情報の保護に関する法律や外国為替及び外国貿易法などのスパイ行為や国家安全保障に関連する法律や規制があり、機密情報の不正な開示や国家安全保障を脅かす活動に従事した場合には、罰則が定められています。しかし、現在の日本には、外国の情報収集活動を具体的に対象とした包括的なスパイ防止法は存在しません。いずれ他先進国なみの、法整備は避けて通れません。

包括的なスパイ防止法がなければ、日本は国家安全保障上の利益を保護し、国境内における外国のスパイ活動を防止するという点で不利になる可能性があります。

このことは、以下のいくつかの具体的な損失をもたらす可能性があります。

データ漏洩のリスクの増加: 日本には、高度な技術や知的財産を開発・生産する企業が数多く存在します。スパイ行為に対する強力な法的保護がなければ、これらの企業は、外国人によって機密情報が盗まれたり、漏えいしたりする危険性があり、経済的または安全保障上の損害につながる可能性があります。

国際的な信頼を損ねる: 日本は、国際貿易や外交において重要な役割を担っており、これらの関係において信頼は不可欠な要素です。日本がスパイ行為に対する十分な法的保障を欠いているとみなされた場合、他国は機密情報の共有や協力に消極的になり、日本の戦略的目標達成の妨げとなる可能性があります。

軍事上の優位性の喪失の可能性: 日本はアジア太平洋地域の主要な軍事大国であり、その軍事力は地域の安定を維持するために不可欠です。スパイ防止法がなければ、日本は外国の情報収集活動に対して脆弱となり、軍事機密が漏洩し、軍事的優位性が損なわれる可能性があります。

国家安全保障への脅威: 日本の情報機関は、その努力を支援する包括的な法的枠組みがなければ、外国のスパイ活動を検知し防止することがより困難になる可能性がある。これは、テロ攻撃やサイバー戦争のリスクを含む、日本の国家安全保障に対する潜在的な脅威をもたらす可能性がある。

全体として、日本における包括的なスパイ防止法の欠如は、日本の競争力、安全保障、国際社会における地位を損ないかねないです。スパイ防止法を制定することで、日本は自国の利益を守り、責任ある国際社会のリーダとしての役割をさらに主張することができるようになるでしょう。

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2023年5月8日月曜日

「王室を救えるのはケイトだけ」チャールズ国王戴冠式の陰で広がる危機説「英王室は消えて消滅する運命」―【私の論評】英メディアの「英王室危機報道」は、話半分に聴くべき(゚д゚)!

「王室を救えるのはケイトだけ」チャールズ国王戴冠式の陰で広がる危機説「英王室は消えて消滅する運命」



祝賀ムードの陰に危機説

英国王チャールズ3世の戴冠式が5月6日行われ、英国は祝賀ムードに包まれていると伝えられるが、その陰で英王室の危機説が広がっているのも確かだ。

英王室危機説はかねて取り沙汰されていたが、ここへきてその風評に火をつけたのが4月16日の英紙「サンデー・エキスプレス」の記事だった。

「英王室、崩壊寸前」

一面の全面に大きな見出しを掲げたその記事は英国のシンクタンク「キビタス」の調査分析に基づくもので、英王室の公務への従事が著しく減っておりこのままだと「存在感を失ってひっそりと崩壊してしまう」というものだ。

「キビタス」の調査によると、英王族がテープカットや国民との握手などをする公務に従事したのは昨年は2079回に過ぎず、2014年には3338回に上ったのが40%近くも減ってしまった。

その背景にはエリザベス女王やフィリップ殿下の死去、ヘンリー王子の米国への移住さらにヨーク公(アンドルー王子)がスキャンダルで公務を離脱していることなどが挙げられるが、それだけでなく王族の高齢化も公務従事を妨げていると「キビタス」は指摘する。

事実、エリザベス女王の従弟のケント公は87歳、その妹のアレクサンドラ王女は86歳、やはりエリザベス女王の従弟のグロスター公夫妻はそれぞれ78歳と76歳で、このままだと王族の公務への従事は「10年後には1000回に減るかもしれない」と「キビタス」は予想する。

「その存在を目にすることこそが信頼につながる」

エリザベス女王はこう信じて公務に励んだと伝えられるが、王族の公衆との接触がなくなれば「王室の終焉にもつながる」という王室問題の作家マーガレット・ホールダーさんの談話も「サンデー・エキスプレス」紙の記事は紹介している。

エリザベス女王時代にはほとんど見られなかった反王室運動も盛んになり、チャールズ国王が公務で訪れる先々で反対派グループによるデモが起き「ノット・マイ・キング(私の王ではない)」と書かれたプラカードを掲げて抗議するのが常態化した。(米ワシントン・ポスト紙)

さらに2日には、バッキンガム宮殿へ散弾銃の薬莢を投げ込んだ男が取り押さえられるという事件も起き、犯人の男は「国王を殺してやる」と叫んでいたと伝えられた。

世論調査会社Ipsosの最新の調査でチャールズ国王に対する英国民の信頼度は49%で、昨年9月王位を継承した時の61%から大幅に下落している。

祝賀ムードの陰に危機説

英国王チャールズ3世の戴冠式が5月6日行われ、英国は祝賀ムードに包まれていると伝えられるが、その陰で英王室の危機説が広がっているのも確かだ。

英王室危機説はかねて取り沙汰されていたが、ここへきてその風評に火をつけたのが4月16日の英紙「サンデー・エキスプレス」の記事だった。

「英王室、崩壊寸前」

一面の全面に大きな見出しを掲げたその記事は英国のシンクタンク「キビタス」の調査分析に基づくもので、英王室の公務への従事が著しく減っておりこのままだと「存在感を失ってひっそりと崩壊してしまう」というものだ。

「キビタス」の調査によると、英王族がテープカットや国民との握手などをする公務に従事したのは昨年は2079回に過ぎず、2014年には3338回に上ったのが40%近くも減ってしまった。

その背景にはエリザベス女王やフィリップ殿下の死去、ヘンリー王子の米国への移住さらにヨーク公(アンドルー王子)がスキャンダルで公務を離脱していることなどが挙げられるが、それだけでなく王族の高齢化も公務従事を妨げていると「キビタス」は指摘する。

事実、エリザベス女王の従弟のケント公は87歳、その妹のアレクサンドラ王女は86歳、やはりエリザベス女王の従弟のグロスター公夫妻はそれぞれ78歳と76歳で、このままだと王族の公務への従事は「10年後には1000回に減るかもしれない」と「キビタス」は予想する。

「その存在を目にすることこそが信頼につながる」

エリザベス女王はこう信じて公務に励んだと伝えられるが、王族の公衆との接触がなくなれば「王室の終焉にもつながる」という王室問題の作家マーガレット・ホールダーさんの談話も「サンデー・エキスプレス」紙の記事は紹介している。

エリザベス女王時代にはほとんど見られなかった反王室運動も盛んになり、チャールズ国王が公務で訪れる先々で反対派グループによるデモが起き「ノット・マイ・キング(私の王ではない)」と書かれたプラカードを掲げて抗議するのが常態化した。(米ワシントン・ポスト紙)

さらに2日には、バッキンガム宮殿へ散弾銃の薬莢を投げ込んだ男が取り押さえられるという事件も起き、犯人の男は「国王を殺してやる」と叫んでいたと伝えられた。

世論調査会社Ipsosの最新の調査でチャールズ国王に対する英国民の信頼度は49%で、昨年9月王位を継承した時の61%から大幅に下落している。

キャサリン妃の人気が鍵を握る?

こうした英王室に対する反感を鎮める役割に、今期待をかけられているのがウイリアム皇太子夫人のキャサリン(愛称ケイト)妃だ。

「ケイト(キャサリン)・ミドルトン無くして王室は崩壊する」(デイリー・ミラー紙電子版3月15日)

英国の大衆紙ミラー紙の記事は、ダイアナ妃の執事だったポール・ブレル氏の言葉を引用して「王室の将来はケイト(キャサリン)妃の双肩にかかっており、すべては彼女しだいだ」とする。

そのキャサリン妃はウイリアム王子が王位法定推定相続人の「ウェールズ公」となったのに伴って、「ウェールズ公妃」と義母のダイアナ妃と同じ称号で呼ばれることになり、今なお根強いダイアナ妃の人気を継承することになった。

「かつて英王室の将来はダイアナ妃しだいだと言われた。そして今もう一人のウェールズ公妃が王室の将来を決すると期待をかけられている。しかしそれは決して羨むようなことではないのだ」

ブレル氏はこうキャサリン妃の責任が重いことを指摘するが、キャサリン妃もそれは重々承知しているように見える。

6日の戴冠式で、キャサリン妃は冠ティアラの代わりに銀とクリスタルで葉を模した髪飾りをつけたのが注目された。王室の権威をなるべく示さないよう配慮したものと言われたが、これも王室と国民の隔たりを埋める努力の表れだったのだろう。

【私の論評】英メディアの「英王室危機報道」は、話半分に聴くべき(゚д゚)!

英国王室が消滅の危機に瀕しているというのは事実ではありません。王室には長い歴史があり、王位継承制度が確立されているため、常に直系の王位継承者が存在するのです。現在王位継承権は、長男のウィリアム王子、そしてウィリアムの長男であるジョージ王子の順で継承されています。また、一族には、必要に応じて王位を継承する可能性のある他のメンバーも含まれています。

英王室

過去には、後継者不足の可能性が懸念されましたが、近年はその懸念がほぼ解消されています。例えば、2013年に皇位継承法が改正され、女性の王位継承者が男性の弟妹に奪われることがなくなるようになりました。さらに、王室は結婚や出産を通じて拡大し続けており、最近も数人の若い皇族にお子さんが誕生しています。

全体として、王室が直面する不確実性や課題はあるかもしれないですが、王室が消滅の危機に瀕しているという兆候はありません。

メディアは英王室に関して無責任な報道をするのは珍しくはありません。以下はその例です。

1. 捏造記事: 一部のメディアでは、英国王室に関する事実無根の捏造記事を掲載したことがあります。例えば、2020年、多くのタブロイド紙が、ウィリアム王子とケイト・ミドルトンが離婚を計画していると報じました。夫妻はこの噂を激しく否定したが、虚偽の報道は流布され続けました。

2. 誤解を招くようなヘッドライン: 一部のメディアは、誤解を招くような見出しを使って、王室が危機に瀕しているという印象を与えています。例えば、2019年、『Daily Mirror』の見出しには、"Queen Elizabeth II prepares to abdicate throne following death of Prince Philip "(エリザベス女王、フィリップ王子の死去に伴う退位の準備を進める)とありました。記事自体は、その主張を裏付ける証拠がないことを認めていましたが、この見出しは、女王が間もなく退位する予定であるかのような誤った印象を与えました。

3. 家族の将来に関する憶測 :メディアは、王室の個々のメンバーの将来についても憶測を呼び、王室が混乱しているとの印象を与える要因となっています。例えば、ウィリアム王子とハリー王子の関係については、一部のメディアで疎遠になっているとの憶測が広まっています。しかし、2人の兄弟は、意見の相違があることを認めつつも、家族への献身や慈善活動への貢献を強調しています。

全体として、英国王室に関するメディアの無責任な報道は、王室が危機的状況にあり、消滅の危機に瀕しているという誤った物語を助長しています。王室内には課題や意見の相違があるかもしれないですが、王室は依然として強く、公的生活における役割にコミットしていることを示す証拠があります。

英国メディアによる王室報道

英国王室に関するメディアの報道は、クリック数や閲覧数を稼ぎたいという欲求に駆られることが多いようで、その結果、センセーショナルで誤解を招くような報道がなされることがあります。

以下は、メディアがそのような行動をとる可能性のある理由です。

1.注目を集めるための競争: 多くのメディアが人々の注目を集めようと競い合っているため、人目を引く見出しや記事を作らなければならないというプレッシャーが常にあります。そのため、記事をより面白く見せるために、事実を誇張したり歪曲したりすることがあります。

2.利益動機: 多くのメディアは、広告収入と視聴者のエンゲージメントに依存する営利企業です。エンゲージメント率とは、メディアなどが投稿したコンテンツに対してユーザーが反応してくれた割合を表す指標クリック数や閲覧数のことであり。広告収入の増加につながるため、クリック数を稼ぐセンセーショナルな記事に注力することになりかねません。

3.公共性の高さ: 英国王室は国民の関心が高いテーマであり、メディアによる王室報道は国民の認識や態度を形成する可能性があります。メディアによっては、王室の活動を報道する義務があると考える場合もありますが、その際、説得力のある記事を作るために、憶測や誇張に頼ることもあります。

4.アクセス権の欠如: 王室はプライベートな存在であり、関わるメディアを選別することで知られています。そのため、ジャーナリストたちの間で、最初に記事を書く、あるいは独占的な情報を入手するという競争意識が生まれることがあります。場合によっては、競争に勝ち残るために、根拠のない噂やゴシップを発表することもある。


英国人は、新聞・雑誌などの情報をほとんど信用しないようです。今回の新聞などの「英王室危機報道」もほとんど信用していないと思われます。

全体として、英国王室に関するメディアの報道は、競争、利益動機、公共の関心、アクセスの欠如など、さまざまな要因によって影響を受ける可能性があります。事実を正確に、偏りなく報道しようと努力する責任あるジャーナリストもたくさんいますが、誤解を招くような、あるいはセンセーショナルな報道が、英国王室とその活動に対する歪んだ見方を助長する例もあるようです。

英メディアの「英王室危機報道」は、話半分に聴いておいたほうが良さそうです。

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2023年5月7日日曜日

中国と「一帯一路」沿線国、貿易拡大が続く背景ASEAN向けの輸出好調、1~3月期は28%増加―【私の論評】中国の一帯一路地域との貿易は速いペースで成長しているが、欧米との貿易の減少を完全に補うには十分ではない(゚д゚)!

中国と「一帯一路」沿線国、貿易拡大が続く背景ASEAN向けの輸出好調、1~3月期は28%増加

国有海運大手、中国遠洋海運集団の大型コンテナ船

 中国海関総署(税関)は4月13日、1~3月期の通関統計に関する記者会見を開催。そのなかで、「一帯一路」の沿線諸国と中国の貿易総額が3兆4300億元(約66兆5135億円)に達し、前年同期比16.8%増加したと明らかにした。

 (訳注:一帯一路は中国を起点にアジア、欧州、南太平洋などを結ぶ広域経済圏構想。習近平国家主席が2013年に提唱した)

 なかでも好調ぶりが目立つのが、中国からASEAN(東南アジア諸国連合)への輸出だ。1~3月の中国とASEANの貿易総額は1兆5600億元(約30兆6389億円)と前年同期比16.1%増加したが、そのうち中国からの輸出は同28%の伸びを記録した。

 「ASEANでは中国製のアパレル、ベビー用品、(スマートフォンなどの)電子機器、家電製品など幅広い商品への需要が伸びている」。貿易振興団体の中国国際貿易促進委員会で展示会部門の責任者を務める熊粲欣氏は、財新記者の取材に対してそう解説した。

 中東や南アメリカとの貿易も拡大している。「わが社ではサウジアラビア、メキシコ、ブラジル、トルコなどの新興国向けの貨物輸送量が(前年より)3割以上増加した」。中国の物流大手、環世物流集団の創業経営者の林潔氏は、そうコメントした。
トルコ経由でロシアへの迂回輸出も

 例えばサウジアラビアでは、(インフラ開発などの)大型プロジェクトに巨額の資金が投入されつつある。「中国から大量の設備や資材の輸入が必要になっている」と、あるシンガポールの市場関係者は話す。

 海関総署の月次通関統計では、2022年12月に中国からサウジアラビアに輸出されたパワーショベルの総額が6792万ドル(約90億6400万円)に達し、過去最高記録を更新した。

 貿易の動きの変化からは、ロシアのウクライナ侵攻の長期化による影響も読み取れる。前出の林氏は、トルコ向けの輸出が拡大している背景について「ロシアが輸送ルートを変更し、大量の貨物がトルコを経由して黒海沿岸のロシアの港に運ばれている」との見方を示した。

 一帯一路の沿線諸国とは対照的に、アメリカやヨーロッパと中国の貿易は低迷が続いている。欧米の個人消費の回復が遅れているためだ。1~3月期の中国からアメリカへの輸出額は前年同期比17.0%、EU(欧州連合)への輸出額は同7.1%の減少となった。

【私の論評】中国の一帯一路地域との貿易は速いペースで成長しているが、欧米との貿易の減少を完全に補うには十分ではない(゚д゚)!

上に提示されている数字からすると、中国の一帯一路沿線諸国との貿易は、減少している米国やEUとの貿易に比べ、確かに速いペースで伸びているように見えます。


2021年1~3月の中国の対米輸出額は904億2000万米ドルで、2020年の同時期から17%減少しています。一方、同期間の中国の対EU輸出額は853億1000万ユーロ(約1037億6000万米ドル)で、前年同期比7.1%減となりました。

一方、同期間の中国の一帯一路沿線諸国との貿易総額は3兆4300億元(約5288億ドル)に達し、前年比16.8%増となりました。

この成長率は素晴らしいものですが、注目すべきは、中国の米国とEUを合わせた貿易額が、一帯一路地域との貿易額をまだはるかに上回っていることです。2021年第1四半期において、中国の輸出総額のうち、米国とEUへの輸出が約30%を占めるのに対し、一帯一路地域への輸出は約14%でした。

したがって、中国の一帯一路地域との貿易は速いペースで成長していますが、米国とEUとの貿易の減少を完全に補うには十分ではないようです。米国とEUは中国の輸出にとって重要な市場であることに変わりはなく、これらの地域との貿易に大きな変化があれば、中国経済全体に大きな影響を与える可能性があります。

さらに、一般的に、米国とEUはハイテク製品の輸出入に制限を設けていますが、通常の商業製品の輸出入には制限を設けていないというのが実情です。

実際、私は2020年の大統領選に用いられた、トランプ応援用のハットを持っていますが、それには「Made in Chaina」のタグがついています。これは、米国内で製造すると高くなるので、中国から輸入しているのでしょう。

トランプ応援用のMAGAハットを被る女性

米国とEUはともに、特定の機密技術の他国への移転を制限することを目的とした輸出管理制度を有しています。これらの輸出規制は、国家安全保障を守り、大量破壊兵器の拡散を防ぐことを目的としています。

米国の輸出管理制度は、商務省、国務省、国防総省を含む複数の機関によって運営されています。米国の輸出管理制度は、半導体などのハイテク製品、暗号化技術、ある種のソフトウェアなど、広範な商品、ソフトウェア、技術を対象としています。

同様に、EUにも独自の輸出管理制度があり、欧州委員会によって管理されています。EUの輸出管理制度も、デュアルユース品(民生と軍事の両方に応用できる品目)、拷問などの人権侵害に使われる可能性のある品目など、幅広い商品、ソフトウェア、技術を対象としています。

しかし、これらの輸出管理制度は、すべてのハイテク製品の輸出入を制限しているわけではないことに注意が必要です。機密性が高く、軍事的な応用が期待できる特定の種類のハイテク製品だけが、こうした規制の対象となります。家電製品や家庭用電化製品などの一般的な商用製品は、一般的にこれらの輸出規制の対象とはならず、自由に輸出入することができます。

とはいいながら、スマホなどの半導体の最新のものは、デュアルユース品とみなされ、制限の対象になります。最新の半導体製造装置などもそうです。

ただ、これらの制限はハイテク製品に限らず、強制労働を使用して生産されたものを含む他の商品やサービスにも適用される可能性もあります。

例えば、2020年9月、米国は、ウイグル族のイスラム教徒に対する強制労働や人権侵害の懸念を理由に、中国新疆ウイグル自治区からの綿花やその他の製品の輸入を禁止しました。この禁止措置は、特に綿花の主要生産地であり、中国における強制労働の主要な発生源である新疆ウイグル自治区からの製品を対象としました。

綿花の摘み取り作業をするウィグル人の子ども

同様に、EUも中国との貿易関係において、強制労働に対処するための措置を講じています。2021年3月、欧州議会は、特にソーラーパネルやその他の再生可能エネルギー製品の生産に関連して、中国における強制労働に対処するための対策強化を求める決議を採択しました。

同決議は、欧州委員会に対し、強制労働を使用して生産された商品に対する輸入制限を課すことを検討すること、および中国から商品を輸入する企業が人権侵害に加担していないことを確認するためのデューデリジェンス規制を導入することを求めました。

したがって、米国と欧州は中国とのハイテク製品の貿易に制限を設けていますが、これらの制限はハイテク製品に限定されるものではなく、強制労働を使用して生産された商品や人権侵害に関連する他の商品・サービスにも適用される可能性があります。

現状では、一帯一路の沿線国の貿易が伸びても、欧米との貿易を代替できるほどにはならないのは確かです。今でも欧米との貿易が減少することは、中国経済に悪影響を及ぼすことになります。

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