2024年9月1日日曜日

中国海軍の測量艦、鹿児島沖で領海侵入 防衛省発表―【私の論評】日本南西海域の地形と潮流、中国の侵犯と不適切発言が意味するもの

中国海軍の測量艦、鹿児島沖で領海侵入 防衛省発表

まとめ
  • 中国海軍の測量艦が鹿児島県口永良部島南西の日本領海に侵入し、約2時間滞在した。
  • この領海侵入は2023年9月以来10回目で、直近では中国軍機が長崎県男女群島沖の領空も侵犯している。
  • 外務省が中国側に強く抗議し、防衛省は測量艦の動きを分析中。
  • 中国による領海侵入や領空侵犯が尖閣諸島以外の地域でも増加している。
  • 中国はロシアとの軍事協力も深めており、日本周辺での共同活動が観察されている。
中国海軍のシュパン級測量艦

 防衛省は2024年8月31日、中国海軍のシュパン級測量艦1隻が同日朝、鹿児島県口永良部島の南西の日本領海に侵入したと発表した。これは2023年9月以来10回目の中国海軍測量艦による領海侵入であり、中国軍は8月26日にも長崎県男女群島沖の領空を侵犯したばかりだった。

 測量艦は午前6時に日本の領海に入り、1時間53分ほど滞在した。海上自衛隊の掃海艇と哨戒機が警戒監視・情報収集にあたり、航行目的などを問いかけた。自衛隊法に基づく「海上警備行動」の発令はなかった。外務省の鯰博行アジア大洋州局長は、直近の領空侵犯も踏まえ中国側に強い懸念を伝え、抗議した。

 測量艦は一般的に海水の温度や海底の地形、水深などを計測し、艦艇や潜水艦の航行に必要な情報を収集する。領海内では「無害通航権」が認められているが、防衛省は今回の航行がこれに該当するか分析する。

 中国による領海侵入や領空侵犯は主に尖閣諸島周辺で起きていたが、最近では他の地域でも増加している。8月26日の領空侵犯は、初めて中国軍に所属する機体で尖閣諸島以外で起きたと公表された。尖閣諸島以外での領海侵入も2021年11月以降増加傾向にある。

 さらに、中国はロシアとの軍事協力も深めている。2023年12月には中露の爆撃機4機が日本周辺を長距離にわたり共同飛行し、2024年7月には両国の艦艇が大隅海峡を通過、南シナ海では共同訓練を実施した。

 これらの度重なる中国の動きを踏まえ、日本政府はその意図や目的の分析を進めている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本南西海域の地形と潮流、中国の侵犯と不適切発言が意味するもの

まとめ
  • 日本南西海域(口永良部島・五島海底谷)は海洋安全保障上、地政学的に重要な戦略的拠点である。急激な水深変化と激しい潮流があり、潜水艦の隠密行動や対潜水艦戦に適した環境を提供している。
  • 中国の測量船や情報収集機が日本の領海・領空を相次いで侵犯し、情報収集やASW能力の検証などを行っている。これは日本の安全保障上の脅威となっている。
  • 潜水艦技術の進歩に対応するため、日本はASW能力の向上(センサー技術や対潜水艦兵器の開発)と自衛隊の警戒監視活動の強化が必要である。
  • EEZ境界付近での緊張を避けるため、国際法の遵守や近隣国との協力、中国の行動に対する警戒と国際社会との連携が重要である。
  • 最近の一連の事件(メキシコ人男性の漂流、NHKの不適切発言、中国軍機の領空侵犯、中国海軍測量艦の領海侵入)は、中国の戦略的な動きを示唆しており、五島海底谷を含む日本南西海域の重要性が高まっている。
今回中国の測量船が侵入した、口永良部島の南西の日本領海付近の水域は、海洋安全保障の観点から極めて重要な意味を持っています。この海域は日本の南西端に位置し、東シナ海と太平洋の接点に近いため、地政学的に重要な場所となっています。中国や台湾、韓国などの近隣国との海上交通路に近接しているこの海域は、国際海上交通路の監視や不審船、違法活動の監視が重要となります。

海底地形の特徴として、大陸棚から深海域への急激な水深変化があり、これは海軍作戦、特に潜水艦活動に適した環境を提供しています。深い海域は潜水艦の隠密行動を容易にし、浅海域との境界は音響的に複雑な環境を作り出すため、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warfare)の観点からも重要な海域となっています。

口永良部島(太線内)付近の水深

ASWは潜水艦を探知、追跡、抑止、損傷、または破壊するために、水上艦艇、航空機、潜水艦、その他のプラットフォームを使用する水中戦の一分野です。この海域の複雑な海底地形は、ソナー技術を用いた潜水艦の探知や追跡を困難にする一方で、潜水艦にとっては隠れやすい環境を提供しています。

日本の領海を守るため、この海域での自衛隊の活動が重要になります。海上自衛隊の艦艇や航空機による定期的なパトロールが行われており、潜水艦「なるしお」などの艦艇が警戒監視任務や訓練を実施しています。ASWの観点からは、これらの活動には高度なソナー技術や対潜水艦兵器の運用が含まれ、潜在的な脅威に対する即応能力の維持が図られています。

この海域の管理や利用に関しては、近隣国との協力や緊張関係が生じる可能性があり、特に排他的経済水域(EEZ)の境界線付近では慎重な外交対応が求められます。国連海洋法条約に基づく航行の自由や資源開発の権利など、国際法の遵守と適用も重要な課題となっています。

最近では、女性自衛官も潜水艦に乗艦するようになり、多様な人材が海洋安全保障に貢献しています。この海域の安全保障上の重要性は、日本の防衛政策や外交戦略に大きな影響を与えており、ASW能力の強化を含む継続的な注目と対応が必要とされています。特に、潜水艦技術の進歩に伴い、より静粛で探知困難な潜水艦に対するASW能力の向上が求められており、センサー技術や対潜水艦兵器の開発、運用戦略の改善が進められています。

一方、中国の観測機によって領空侵犯された長崎県男女群島沖には五島海底谷が存在し、これも戦略的に非常に重要な海域です。東シナ海の一部を成すこの海底谷は、五島列島福江島南方から北北東に延びており、周囲の浅い大陸棚と対照的な地形を形成しています。この独特な地形は、海洋生態系の多様性を支える一方で、軍事戦略的にも重要な意味を持っています。

男女群島付近の五島海底谷はマッコウクジラの存在が確認された場所でもある

五島海底谷は、五島列島西側から対馬にかけて北北東に走る細長い海底谷で、五島列島福江島南方の海底をきざむ五島海谷の北延長とみなされています。この海底谷は構造谷である可能性が高く、その形成には地質構造が大きく関与していると考えられています。この地理的特性により、国際海上交通の監視や不審船の監視が重要となっています。海底谷の存在は潜水艦の隠密行動を容易にし、ASWの観点から非常に重要な海域となっています。

この海域では、黒潮の支流である対馬海流が表層流速0.5~1.3ノットで日本海に向かって恒流しており、これに潮流が加わって北東流(下げ潮)の最強時の表層流速は1.4~3.0ノットに達しています。さらに、五島列島・西彼杵半島間では2.5~3.0ノット、五島列島の諸島間あるいは平戸瀬戸では潮流速度が最高6ノット以上(表層流速)にも達しています。このような激しい水流の存在は、浅海底における堆積物の挙動分布に大きな影響を与えているものと思われます。

この激しい潮流は、潜水艦にとっても戦略的に重要な意味を持ちます。潜水艦は、これらの潮流を巧みに利用することで、自身の駆動装置を最小限に抑えながら移動することが可能となります。特に、潮流に乗って移動する際には、潜水艦のプロペラ音や機関音を大幅に抑制できるため、音響探知装置による発見のリスクを低減させることができます。

これらの海域の管理や利用に関しては、近隣国との協力や緊張関係が生じる可能性があり、特にEEZの境界線付近では慎重な外交対応が求められます。国際関係の観点からも、この海域の重要性は高く評価されています。

技術革新の面では、潜水艦技術の進歩に伴い、より静粛で探知困難な潜水艦に対するASW能力の向上が求められています。そのため、センサー技術や対潜水艦兵器の開発、運用戦略の改善が継続的に進められています。

特筆すべきは、日本の掃海能力が世界一であるという事実です。海上自衛隊は27隻の掃海艦艇を保有しており、これは米国や英国など主要国の20隻以下という数を大きく上回っています。この世界有数の陣容に加え、高度な技術と豊富な経験を持つ人材が、日本の掃海能力を支えています。湾岸戦争後のペルシャ湾での掃海活動では、最も危険で難しい海域を担当し、高い評価を受けました。この実績は、日本の掃海能力が世界トップレベルであることを証明しています。

このように、これらの海域は日本の海洋安全保障において極めて重要であり、その地政学的位置、特徴的な海底地形、ASWの重要性、国際関係への影響、技術革新の必要性など、多面的な観点から継続的な注目と対応が必要とされています。これらの海域での活動は、日本の防衛政策や外交戦略に大きな影響を与えており、今後も重要性を増していくことが予想されます。

中国がこれらのASWに関する重要な拠点である海域を相次いで侵犯した意図については、複数の可能性が考えられます。情報収集活動、抑止力の誇示、グレーゾーン戦略の一環、ASW能力の検証、国際法の解釈の押し付け、戦略的要衝の把握、日本の対応能力の試験などが挙げられます。

しかしながら、中国のASW能力は現状では日米に比べてかなり遅れているという現実があります。中国は、日米はおろか日本単独との海戦でも勝利する見込みが低いことを認識しており、この能力格差を埋めるために、実際の海域での情報収集や能力検証を行っている可能性があります。

特に、対機雷戦能力に関しては、中国は量的には日米を上回っているものの、質的能力やソフト面での能力(経験、練度)では依然として日本に劣っています。そのため、中国はこれらの海域侵入を通じて、実践的な経験を積み、ASW能力全般の向上を図ろうとしているかもしれません。

日本としては、こうした中国の動きに対して、警戒監視を強化するとともに、国際社会と連携しながら、法の支配に基づく海洋秩序の維持に努める必要があります。同時に、日本は世界一の掃海能力を含む自国のASW能力の優位性を維持・強化し、中国の能力向上に対応していく必要があります。

なお、南西の日本領海付近の水域においては、最近短期間に様々な出来事が起こっています。これを時系列でまとめます。
2024年8月16日、沖縄県の尖閣諸島・魚釣島の東岸で、メキシコ国籍の40代男性がカヌーで漂流しているのを哨戒中の巡視船が発見し、救助しました。

2024年8月19日午後1時過ぎ、NHKのラジオ国際放送などの中国語ニュースで、中国籍の外部スタッフ男性(49歳)が、原稿にはない不適切な発言を約20秒間にわたって行いました。

2024年8月21日、NHKは当該スタッフとの契約を解除しました。

2024年8月22日、NHKの稲葉延雄会長が自民党の情報戦略調査会の会合で謝罪し、詳細を説明しました。

2024年8月26日午前11時29分から約2分間、中国軍のY-9情報収集機1機が長崎県五島市の男女群島沖の日本の領空を侵犯しました。これは中国軍機による日本の領空侵犯が確認された初めてのケースです。具体的な経緯は以下の通りです:

1. 午前11時29分頃:Y-9情報収集機が男女群島の領空に侵入
2. 午前11時31分頃:男女群島の南東側から領空の外に出る
3. その後も周辺で旋回を続ける
4. 午後1時15分頃:中国大陸に向けて飛行

航空自衛隊西部航空方面隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)し、通告及び警告を実施するなどの対応を行いました。

同日、防衛省は17時45分に「中国機による領空侵犯について」と題するリリースを公表し、外務省も「中国情報収集機による領空侵犯に対する抗議」と題するリリースを公表しました。外務省は同日午後5時20分頃から、岡野正敬外務事務次官が施泳在京中国大使館臨時代理大使を外務省へ召致し、極めて厳重に抗議するとともに、再発防止を強く求めました。

2024年8月26日、問題を起こした中国籍スタッフがSNSで日本を出国したことを示唆する投稿をしました。

2024年8月29日、当該スタッフは再びSNSで投稿を行い、自身の行動を正当化する内容を発信しました。

2024年8月31日、中国海軍のシュパン級測量艦「銭偉長」が鹿児島県口永良部島南西の日本領海に侵入し、約1時間53分滞在しました。
これらの一連の出来事は、中国の意図的な行動の可能性や事件の重大性をより明確に示しています。特に、メキシコ人男性の漂流事件後に、NHKの不適切発言事件、中国軍機による領空侵犯、中国海軍測量艦による領海侵入が続いたことは、中国の戦略的な動きを示唆しているかもしれません。

この状況下で、五島海底谷を含む日本の南西海域の戦略的重要性がさらに高まっています。これらの海域の特徴的な地形や潮流は、潜水艦活動にとって重要な意味を持ち、日本の安全保障と外交政策において継続的な注目と適切な対応が必要不可欠であることは明らかです。特に、中国がこの海域で侵犯を繰り返すのはなぜなのか、その意図を注意深く解明し、対処すべきです。

NHK国際放送で不適切発言をした中国人スタッフ胡越

これと同時に、中国籍スタッフの行為の法的側面と、NHKの国際放送の特殊性を考慮すると、この事件の重大性がさらに浮き彫りになります。偽計業務妨害罪に該当する可能性があることや、NHKの国際放送が国からの交付金を受けて特定の放送内容を要請されていることを踏まえると、単なる個人の不適切行為を超えた問題として捉える必要があります。

これらの事実を踏まえると、NHK の事件と中国軍の行動との間に何らかの関連性がある可能性を排除できません。したがって、以下の対応が必要だと考えられます。
徹底的な調査:警察や国会、さらには国家安全保障会議(NSC)などの場で、これらの事象の関連性について徹底的な調査を行うべきです。
情報共有と分析:関係機関間で情報を共有し、総合的な分析を行う必要があります。
法的措置の検討:NHK の中国籍スタッフの行為が偽計業務妨害罪に該当する可能性があるため、中国籍スタッフも含めた、関係者の法的措置を検討すべきです。
再発防止策の策定:NHK の国際放送における外国籍スタッフの起用に関するガイドラインの見直しや、チェック体制の強化が必要です。
外交的対応:中国政府に対して、これらの事象に関する説明を求め、再発防止を強く要請すべきです

 これらの対応を通じて、先に述べたようにASWの強化を含め、日本の安全保障と国益を守るとともに、類似の事態の再発を防ぐことが重要です。特に、領海・領空侵犯に対しては、国際法の手続き踏んだ上で、厳しい対応するなど、毅然とした態度で臨むべきです。

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2024年8月31日土曜日

【続くコメ品薄】国「在庫は十分」とするも『店頭はスカスカ』…流通に何が起きてる?複数の要因で足りない状態&"不安感"も背景か 北海道―【私の論評】日本の米供給不足と価格高騰の真因:政府の減反政策がもたらす影響とは

【続くコメ品薄】国「在庫は十分」とするも『店頭はスカスカ』…流通に何が起きてる?複数の要因で足りない状態&"不安感"も背景か 北海道

まとめ
  • 新米の収穫が始まったが、スーパーではコメの品薄状態が続いている。
  • 政府は在庫が十分にあると主張しているが、消費者はコメ不足を実感している。
  • コメ不足の要因には、減反生産調整、昨年の猛暑による品質低下、インバウンド需要の増加があるようだ
  • 卸業者は在庫不足への不安や値崩れの懸念から流通が滞っている。
  • 新米が流通しても、肥料や人件費の高騰によりコメの価格は上昇する見込み。

夕日に照らされて黄金色に輝く北海道上川郡東川町の水田

 新米の収穫時期を迎えましたが、現在もスーパーの店頭ではコメの品薄状態が続いています。この状況に対して、政府は在庫が十分にあると主張しており、消費者が感じている実感との間に大きなギャップが生じています。

 コメ不足の背景にはいくつかの要因があります。まず、過去2年間にわたり生産調整が行われており、これにより毎年約10万トンの減産が続いています。さらに、昨年の猛暑が影響し、米粒の品質が低下したため、流通から排除されるケースも多く見られました。加えて、インバウンド需要の増加が重なり、全体的な供給が不足する事態となっています。

 こうした状況の中で、卸業者は在庫がなくなることへの不安感や、価格が急落することへの懸念を抱えているため、流通が滞る原因となっています。新米が市場に出回り始めても、肥料や人件費の高騰が影響し、コメの価格は元の水準には戻らず、むしろ上昇することが予想されています。

 政府の農林水産省は、通常の価格での取引を求めていますが、政府の認識と実際の市場状況とのギャップは、今後も続く可能性が高いと言えるでしょう。このように、コメの流通に関する問題は複雑で、消費者にとっては厳しい状況が続いているのが現実です。

北海道ニュースUHB

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【私の論評】日本の米供給不足と価格高騰の真因:政府の減反政策がもたらす影響とは

以下に、校正した文章の要点を5つ以内の箇条書きでまとめました。

まとめ
  • 日本の米の供給不足と価格高騰は、政府の長年にわたる減反政策が根本原因であり、供給の柔軟性を欠く状況を生んでいる。
  • 減反政策により、米の生産量はピーク時の半分以下に抑えられ、需要の変動に対して脆弱な供給体制が形成されている。
  • インバウンド需要の増加や昨年の猛暑による品質低下は、供給不足の主要な要因ではなく、2023年産米の作況指数は平年並みであった。
  • 減反政策は日本の農業の国際競争力を低下させ、農家の収入減少や営農意欲の低下を招いている。
  • 国際市場を見据えた戦略的な農業政策の実施が求められており、輸出促進や生産性向上、食料安全保障の強化が重要である。
現在の日本における米の供給不足と価格高騰の根本原因は、政府の長年にわたる農業政策、特に減反政策にあります。

減反政策は1970年から実施され、2018年に形式上は廃止されましたが、実質的には生産調整の仕組みが残されています。この政策は、米の生産を意図的に抑制することで市場価格を維持することを目的としていましたが、結果として供給の柔軟性を著しく欠く状況を生み出しました。

米の作付け面積の推移

元農水官僚の山下一仁氏によると、日本のコメ生産量はピーク時の1445万トンの半分以下に抑えられています。これは、水田の約4割を減反し、6割しか使用していないことを意味します。このような極端な生産抑制により、需要のわずかな変動でも即座に品薄状態となり、価格高騰につながる脆弱な供給体制が形成されています。

政府は、インバウンド需要の増加や昨年の猛暑による品質低下を供給不足の原因として挙げていますが、これらは主要な要因ではありません。

山下氏によれば、インバウンド消費の増加は全体の消費量のわずか0.5%程度に過ぎず、また2023年産米の作況指数は101で平年並みでした。ただし、2023年産米の品質低下については、特に新潟県のコシヒカリの1等米比率が4.9%、うるち全体で15.7%と過去最低を記録したことが確認されており、この点は供給不足に一定の影響を与えた可能性があります。

一方減反政策は日本の農業の国際競争力を低下させる要因ともなっています。世界的に見れば、日本のコメは高品質で競争力を持つ可能性がありますが、現行の政策は国内市場での高価格維持に注力するあまり、輸出拡大の機会を逃しています。

この政策の継続は、農家の経営にも悪影響を及ぼしています。補助金に依存する体質を生み出し、市場原理に基づいた生産調整や効率化を阻害しています。また、農家の収入を直接的に減少させ、長期的には営農意欲の減退にもつながっています。さらに、地域の自然環境にも影響を与える可能性が指摘されています。


政府の農業政策のまずさは、米の単位面積当たりの収穫量(単収)の停滞にも表れています。山下氏によると、日本の単収は、かつて日本の半分だった中国にも追い抜かれ、カリフォルニアの1.6倍にまで差をつけられています。これは、減反政策によって品種改良や生産性向上への取り組みが抑制されてきた結果です。

加えて、減反政策は日本の農業構造に深刻な影響を与えています。補助金依存の体質は、農業の自立性を損ない、市場原理に基づいた効率的な生産を妨げています。これにより、日本の農業は国際競争力を失い、輸出機会を逃しています。

また、環境面でも問題を引き起こしています。水田の減少は、日本の伝統的な景観を変え、生態系にも影響を与えています。さらに、食用以外の飼料用米の生産減少は、畜産業にも波及効果をもたらす可能性があります。

結論として、現在の米の供給不足と価格高騰は、政府の長年にわたる減反政策がもたらした構造的な問題の結果です。インバウンド需要の増加や気候変動の影響は二次的な要因に過ぎず、根本的な解決には減反政策の抜本的な見直しと、生産性向上、国際競争力強化に向けた新たな農業政策の策定が不可欠です。

訪日外国人は米を食べるがそれは日本全体からいえば微々たる量に過ぎない

この問題の解決には、市場原理に基づいた生産調整の導入、農業技術の革新、そして国際市場を見据えた戦略的な農業政策の立案が必要です。「国際市場を見据えた戦略的な農業政策」とは、日本の米の高品質を活かし、世界市場での競争力を強化することを目指すものです。

具体的には、以下の点が重要です:
  1. 輸出促進:日本米を「コメのロールスロイス」として高級品市場に位置づけ、積極的に海外展開を図ります。
  2. 生産性向上:減反政策を廃止し、生産量を増やすとともに、品種改良や先進的な農業技術の導入により単収を向上させます。
  3. 食料安全保障の強化:山下氏の試算によれば、減反を止めて単収の高い米に変えれば、年間1700万トンの生産が可能となり、1000万トンを輸出に回せる可能性があります。
  4. 多様な需要への対応:食用米だけでなく、飼料用米や加工用米など、多様な需要に対応できる生産体制を整えます。
  5. ブランド戦略の強化:日本米の品質や安全性、文化的価値を積極的にアピールし、国際市場でのブランド価値を高めます。
このような戦略的な農業政策を実施することで、日本の米農業は国際競争力を獲得し、国内の供給不足問題を解決するとともに、新たな成長産業として発展する可能性があります。同時に、これは日本の食料安全保障を強化し、農業の持続可能性を高めることにもつながります。

減反政策の廃止後、農業のビジネス化がより加速する可能性が指摘されています。これは、上記の戦略的な農業政策の実施と合わせて、日本の農業の競争力強化と持続可能な発展につながる可能性があります。

以上のように、日本の米農業の問題は複雑で多岐にわたりますが、減反政策の見直しと国際市場を見据えた戦略的な農業政策の実施により、現在の供給不足と価格高騰の問題を解決し、さらには日本の農業を新たな成長産業へと転換させる大きな可能性があります。

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2024年8月30日金曜日

世界に君臨する「ガス帝国」日本、エネルギーシフトの現実路線に軸足―【私の論評】日本のLNG戦略:エネルギー安全保障と国際影響力の拡大

世界に君臨する「ガス帝国」日本、エネルギーシフトの現実路線に軸足

まとめ
  • 欧米の銀行、LNG関連への融資止める傾向-邦銀勢は「現実的」
  • 環境主義者は石炭のようにガスがエネルギーとして定着すると懸念

LGN貯蔵施設

 日本の液化天然ガス(LNG)産業は、国内外でのエネルギー供給において重要な役割を果たしており、その成長は政府の支援によって促進されている。現在、日本企業は老朽化した石炭発電所をガスに置き換えようとする国々に対して、エンジニアリング技術、燃料供給、融資などの包括的なサービスを提供している。このような取り組みは、LNG市場が過去50年で約36兆円規模に成長する中で、日本がサプライチェーンの重要なプレーヤーとなることを可能にした。

 日本の大手企業は、2023年3月までの1年間にガス関連事業から少なくとも140億ドルの利益を上げており、これは国内のトップエレクトロニクスメーカーの利益に匹敵する。政府は、天然ガスが気候変動対策において重要な役割を果たすと主張しており、再生可能エネルギーの普及とともに、石炭からの移行を進めている。しかし、環境主義者は、天然ガスが一時的な解決策に過ぎず、石炭と同様に長期的に定着する可能性があると警告している。

 福島第一原発事故以降、日本はLNGの重要性を再認識し、米国やオーストラリアとの長期契約を結ぶなど、エネルギー供給の安定化を図っている。さらに、日本の金融機関は、LNGプロジェクトへの融資を増やし、国際的なエネルギー市場における影響力を強化している。特に、国際協力銀行(JBIC)は、LNG輸出施設に対して大規模な融資を行い、ガス事業の支援を続けている。

 日本企業は、LNGの需要が高まる新興国市場への進出を進めており、ガスタービンやパイプラインの供給を通じて、さらなる成長を目指している。これにより、日本はLNGの輸入の約3分の2を国内で使用し、残りを海外に転売する戦略を取っている。政府は、2030年までにLNGの輸入を約15%削減する目標を掲げているが、これは新たな需要の増加や不確定要因によって影響を受ける可能性がある。

 日本のLNG戦略は、エネルギー安全保障の観点からも重要であり、特にロシアのウクライナ侵攻以降、世界のガス価格が高騰する中で、その必要性が一層強調されている。日本政府は、エネルギー供給の安定性を確保しつつ、他国へのLNGの輸出を促進することで、国際的な競争力を維持しようとしている。

 しかし、LNGの使用が気候変動に与える影響についても議論が続いており、特に新興国におけるガス需要がCO2排出量にどのように影響するかが焦点となっている。国際エネルギー機関(IEA)は、LNGが移行燃料として機能する余地はほとんどないと指摘しており、日本のエネルギー戦略が持続可能な発展にどのように寄与するかが問われている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本のLNG戦略:エネルギー安全保障と国際影響力の拡大

まとめ
  • 日本は、LNGを経済的国策(economic statecraft)の一環として活用し、エネルギー安全保障と国際的影響力の拡大を図っている。
  • 日本は政府機関を通じて、海外のLNGプロジェクトに大規模な融資や投資を行い、日本企業の国際競争力を強化している。これは、エネルギー安全保障の確保と同時に、国際的な影響力の維持・拡大を目指すeconomic statecraftの一例である。
  • 日本企業は、LNGタービンの販売やパイプライン網の構築を通じて、東南アジアなどの新興市場に進出。これにより、日本のエネルギー安全保障を強化すると同時に、地域のエネルギー市場での影響力を拡大している。
  • LNGの余剰分を海外に転売することで、日本は単なる消費国から国際エネルギー市場の重要なプレーヤーへと変貌。これにより、エネルギー安全保障を強化しつつ、国際市場での影響力を高めている。
  • 日本のLNG戦略は、エネルギー安全保障、経済成長、環境保護のバランスを取りつつ、国際的な影響力を維持・拡大することを目指している。これは、時々の政権の政策にとどまらず包括的なeconomic statecraftの一環として位置づけられる。
上の記事では、総輸入量などが示されていないので、以下に作成しました。

順位国名総輸入量 (10億m³)人口 (百万人)1人当たり輸入量 (m³/人)
1オランダ41.517.42,385.10
2ドイツ119.283.21,432.70
3韓国6151.71,179.90
4イタリア68.3591,157.60
5スペイン44.247.4932.5
6日本99.5125.4793.5
7フランス45.867.8675.5
8トルコ53.585.3627.2
9中国121.51,412.0086
10インド341,417.2024

注意点:
  • 人口データは2022年の推定値を使用しています。
  • 1人当たりの輸入量は、総輸入量を人口で割って算出しています。
  • オランダの数値が高いのは、他のヨーロッパ諸国へのガス再輸出のハブとしての役割を果たしているためです。
  • 中国とインドの1人当たりの輸入量が低いのは、大きな人口と国内生産があるためです。
この表から、人口当たりで見ると、韓国、日本、ドイツなどが天然ガスの主要輸入国であることがわかります。ドイツは原発の廃炉を決めたので、輸入量が大きいのは納得できます。一方、中国やインドは総輸入量は多いものの、人口が多いため1人当たりの輸入量は比較的少なくなっています。

輸入量だけをみていると、上の記事のように、日本が世界に君臨する「ガス帝国」とは必ずしもいえないようです。それよりも、上の記事は、欧米の銀行がLNG関連への融資止める傾向にもかかわらず、邦銀勢はそうではなく「現実的」路線を歩んでいること、政府も積極的であことを強調しているのだと見られます。

日本は、昔から天然ガスを用いて、たとえばロシアに対する制裁を行ってきました。最近では、経済安全保障という言葉が普及してきましたが、一昔まえはステートクラフト(statecraft)などと言われきました。

ステートクラフト (statecraft) とは、国家が外交政策や国際関係において用いる戦略や手法を指します。経済的手段を用いて他国に影響を与えることも含まれます。これについては特にeconomic state craftとも呼ばれてきました。これについて過去にこのブログにも述べたことがあります。その記事のリンクに掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!

 

天然ガスのパイプ


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
日本も最近では実質的なeconomic statecraftを実行しています。2019年の初めから日本はロシア産石油の買入量を一気に40.5%削減しました。また液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%減少しました。一方で米国の炭化水素の輸入は急増。石油は328%、LNGは36.1%増加しています。

これは、一方ではアジアのエネルギー市場でのシェア拡大を望む米国と、もう一方にはロシアの領土問題への不変の姿勢に否定的に反応し、交渉姿勢を強めようとする日本の試みがあると考えられます。
日本は昨年も1月から9月にかけての時期にロシア産石油の輸入量を減らしていました。ところが両国間での平和条約の議論が始まるやいなや状況は変化しはじめ、11月には日本はロシアの石油の購入を急増させました。そして現在は、交渉の行方が不透明になりはじめたことから、ロシア産エネルギーの日本の輸入量は再び減少し始めているのです。
これは、一方では米国との同盟関係を強化し、他方では北方領土問題に消極的なロシアに対して制裁を課すという、economic statecraftです。
これは、economic statecraftのネガティブな面の事例といえます。一方、国際協力銀行(JBIC)等が、海外にLNG輸出施設に対して大規模な融資を行い、ガス事業の支援を続けているという事例は、ポジティブな事例といえます。

日本政府は自国の有権者に対して、エネルギー安全保障という観点からガス支援をアピールしています。これは単なる政治的レトリックではなく、日本の地理的・地政学的状況に根ざした重要な政策です。

経済産業省資源エネルギー庁資源開発課の中真大課長補佐は、十分な供給量を確保するため日本企業は一定の長期契約を結んでおり、「必要なければ、他国に売る必要がある」と説明しています。この戦略には二つの重要な側面があります。

まず、長期契約によって安定的な供給を確保することで、日本は急激な価格変動や供給途絶のリスクを軽減しています。これは、エネルギー資源に乏しい島国である日本にとって極めて重要です。特に2011年の福島第一原発事故以降、エネルギー源の多様化と安定供給の確保は国家的な優先事項となっています。

次に、余剰分を他国に売却することで、日本は単なる消費国から、エネルギー市場における重要なプレーヤーへと変貌を遂げています。これにより、日本は国際エネルギー市場での影響力を維持し、自国のエネルギー安全保障をさらに強化することができます。

さらに、他のアジア諸国などに向けたLNG導入の促進は、熱心な買い手の確保を意味します。これは日本にとって二重の利点があります。一つは、需要の安定化によって供給の安定性が高まること。もう一つは、地域のエネルギー安全保障を強化することで、地政学的な安定にも寄与することです。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、世界のガス価格が高騰した際、日本の戦略は正当化されたように見えました。しかし、全ての国に十分なガスが供給されるわけではなく、特に新興国はガス不足に悩まされました。この状況は、日本のガス戦略の重要性を再確認させると同時に、その責任の重さも示しています。

ロシアによるウクライナ侵攻

日本企業は対外投資を増やしており、これもエネルギー安全保障戦略の一環と見ることができます。例えば、JERAはオーストラリアの最新LNGプロジェクトに14億ドルを出資し、欧州向けとなる見込みの出荷について、米国のプラントとの供給契約に調印しました。三井物産も、ベトナム供給向けガス田や米国のシェールガスプロジェクトに投資し、UAEの新しいLNG輸出プラントの株を取得しています。

これらの投資は、日本のエネルギー安全保障を直接的に強化するだけでなく、国際的なエネルギー市場での日本の影響力を高め、間接的にも安全保障に寄与しています。

現在、上の記事にもあるように、日本は購入したLNGの約3分の2を使い、残りの3分の1を海外に転売しています。資源エネルギー庁の中氏によれば、日本は2030年までに輸入を昨年比で約15%削減することを目指していますが、これはデータセンター向けの新たな需要やその他の不確定要因に左右されるとのことです。

政府当局者や産業界は、LNGの供給維持で日本が柔軟性を保つことができると主張しています。さらに、日本のLNG事業が後退すれば、最近LNGの買い手世界一となった中国を利する可能性もあるという懸念もあります。

このように、日本の天然ガス支援政策は、単なるエネルギー政策ではなく、国家安全保障戦略の重要な一部となっています。環境への配慮と経済成長のバランスを取りつつ、国際的な影響力を維持・拡大する手段としても機能しているのです。

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2024年8月29日木曜日

日中関係の再考その9 反日は中国の国是か―【私の論評】中国共産党の統治の正当性の脆弱性と日本の戦略上の強み

日中関係の再考その9 反日は中国の国是か

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」
【まとめ】
  • 中国では、継続的に抗日宣伝が行われている。
  • これは日本軍への抗戦を主導したことが、中国共産党の統治の正当性であるため。
  • 日本側がいくら友好の言動をとり、中国側に同様の対応を願っても無理だという悲しい真実を認識すべき。
中国の反日デモは放置しておくといつの間にか反日デモになるため2013年頃には姿を消した

 私が産経新聞中国総局長として北京に赴任し、生活を始めた頃中国で日本に対する否定的な見方が深く定着していることに驚きを隠せなかった。中国のメディアや教育システムを通じて、日中戦争時の日本軍の残虐行為が継続的に強調され、「反日」キャンペーンが絶え間なく展開されていることを目の当たりにした。特に、テレビや映画、新聞などのメディアでは、「南京大虐殺」や「731部隊」などの話題が頻繁に取り上げられ、まるで現在進行形の事件のように報道されていた。

 さらに、教育面でも同様の傾向が見られた。中学・高校の歴史教科書や小学校の副読本にも、日本軍の残虐行為に関する生々しい描写や写真が多数掲載されていた。これらの教材を通じて、若い世代にも反日感情が植え付けられていく様子が窺える。

 著者は当初、このような反日的な言論は日本側の特定の発言に対する反応だと考えていたが、実際には日本側の動きに関係なく、継続的に展開されているキャンペーンであることを認識した。

 この状況の背景には、中国共産党の統治正当性を支える戦略があるようだ。共産党は抗日戦争での勝利を自らの統治の根拠としており、日本を永遠の「悪役」として位置づけることで、党の存在意義を強調し続けている。つまり、反日感情を煽ることが、共産党の一党支配を正当化する手段となっている。

 さらに、この反日政策は経済的にも成功している。日本からの投資や観光、援助は続いており、中国にとって不利益がないため、この戦略を変更する動機がないのだ。中国は日本を「決して贖罪を果たしえない罪人」として扱い続けることで、経済的利益を得続けている。

 また、中国国民の多くが日本の戦後の謝罪や平和主義的な姿勢について正確な情報を得ていないことも問題だ。中国側のメディアや教育システムが、意図的に日本の戦後の変化や謝罪の事実を無視し、過去の負の側面のみを強調し続けている。

 結論として、日本側がいくら友好的な姿勢を示しても、中国側の対応は変わらない可能性が高いという厳しい現実を認識すべきだ。この「反日」政策が中国共産党の統治戦略の一部である以上、簡単には変更されないであろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたいかたは、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国共産党の統治の正当性の脆弱性と日本の戦略上の強み

まとめ
  • 経営学の大家ドラッカーの統治の正当性に関する思想は、企業と政府の両方に適用可能な普遍的原則を提示しており、多元主義の尊重や権力の制限、社会への貢献を重視している。
  • 中国共産党の統治の正当性は脆弱であり、その要因として経済成長の鈍化、社会問題の顕在化、政治参加の制限、多元主義の欠如、特に歴史の歪曲と反日教育による外部の敵の創出が挙げられる。
  • 中国共産党による反日教育を通じた正当性の補強は、逆に統治基盤の脆弱性を示しており、これは日本にとって戦略的な強みとなり得る。
  • 日本は中国の反日政策に対して毅然とした態度を取り、国際社会に問題点を周知させることで、中国の統治の正当性の脆弱性を露呈させることができる。
  • 日本は台湾や東南アジア諸国との関係強化、日米同盟を基軸とした安全保障協力を通じて中国に対する抑止力を高めつつ、技術力や文化的影響力を活かして国際社会における地位向上と影響力の拡大を図るべきである。
「中国共産党の統治の正当性」という言葉は、過去においてはこのブログで何度か掲載してきました。最近は、これに言及することがしばらくなかったので、本日は久しぶりに取り上げさせていただきます。

晩年のドラッカー

統治の正当性というと、私が真っ先に思い浮かぶのは、経営学の泰斗ピーター・ドラッカーのことです。彼の統治の正当性に関する見解は、企業や組織のみならず、政府にも適用可能な広範な思想を展開しています。ドラッカーは、いかなる権力も正当性なくしては永続しないという基本原則を掲げ、この考えを企業経営から政府の統治まで幅広く適用しました。

企業の文脈では、ドラッカーは単なる経済的管理者としての経営者だけでは正当な統治者とはなりえないと主張しました。この考えは、1940年代にドラッカーがゼネラル・モーターズ(GM)の内部調査を行った際に具体化されました。GMの分権化された組織構造が効果的な統治をもたらしていると評価し、各事業部門に自治権を与えることで企業全体の正当性が高まることを示しました。

ドラッカーは「正当的統治者」の必要性を強調し、これが企業の社会的構造における自治の確立と、その自治機関と経営者の連合によって成立すると考えました。この思想は、日本企業の経営手法にも見出されます。例えば、松下幸之助の「水道哲学」、つまり製品を水道水のように安価で豊富に提供するという考え方は、社会貢献を通じて企業の正当性を確立する好例でした。

政府の統治に関しては、ドラッカーは社会全体の包摂の重要性を強調しています。彼は、いかなる社会も全ての成員を組み入れなければ機能しないと述べ、これは政府の正当性が社会の全成員を包摂する能力に依存することを示唆しています。この観点から、ドラッカーはアメリカの非営利組織の役割を高く評価しました。ガールスカウトやボーイスカウトのような組織が、市民社会の形成に大きく貢献し、政府の正当性を補完する役割を果たしていると考えました。

ドラッカーの思想の根底には、「人間として何が正しいか」という正当性の概念があります。彼は、リーダー(企業の経営者や政府の指導者を含む)は正しいことを行うべきだと考え、人の強みを活かし、高い目標に向かって人々を導くことが重要だと主張しました。この考えは、1960年代のIBMの事例に見ることができます。

トーマス・ワトソン・ジュニアが従業員の多様性を重視する方針を打ち出したことは、単なる道徳的判断ではなく、多様な人材を活用することで企業の競争力を高めるという戦略的判断でした。ドラッカーはこの取り組みを、企業の社会的責任と経済的成功を両立させる模範的な例として評価しました。

さらに、ドラッカーはリーダーシップにおける人格の重要性を強調し、「真摯さ(integrity)」という根本的な資質が必要だと考えました。この真摯さは、人間として誠実で信頼できるという意味を持ち、リーダーの正当性の基盤となります。ドラッカー自身の教育者としての活動も、この思想を実践した例といえます。クレアモント大学院大学で教鞭を取る中で、ドラッカーは学生たちに「自己管理」の重要性を説きました。これは個人レベルでの「正当な統治」の実践であり、組織や社会の正当性の基礎となるものでした。

ドラッカーの思想を政府の文脈に適用すると、政府の統治の正当性は社会全体の包摂、正しい行動と倫理的な統治、社会への貢献と有益な結果の創出、長期的・未来志向的な政策、そして効果的な統治能力と市民の権利・福祉の保護に基づくと考えられます。これらの要素を満たすことで、政府は持続可能な正当性を獲得し維持できるのです。

結論として、ドラッカーの統治の正当性に関する思想は、企業と政府の両方に適用可能な普遍的な原則を提示しています。それは、社会全体の利益を考慮し、倫理的で効果的な統治を行い、長期的な視点を持って社会に貢献することの重要性を強調するものです。GM、松下電器、IBM、そして非営利組織の事例は、これらの原則が実際の企業経営や社会の中で実践され、検証されてきたことを示しています。ドラッカーの思想は、現代の複雑な社会における統治の課題に対して、重要な洞察を提供し続けているのです。

中国共産党は2016年「社会主義核心価値観」なるスローガンを打ち出したが・・・

一方、現代中国の政治体制に目を向けると、中国共産党は「科学発展観」や「和諧社会」といった概念を打ち出し、経済発展と社会の安定を両立させることで、その統治の正当性を強化しようとしています。これは、ドラッカーが主張した「社会への貢献と有益な結果の創出」という正当性の要素に部分的に合致します。

しかし、中国共産党の正当性維持戦略には、日本の過去の戦争行為、特に日中戦争時の残虐行為を継続的に強調するという要素も含まれています。この戦略は、ドラッカーの理論にはないものですが、中国の文脈では非常に重要な役割を果たしています。

この戦略は、実はその統治の正当性が脆弱であることの証左であると考えられます。歴史の利用、経済成長の鈍化、社会問題の顕在化、政治参加の制限、制度化の後退といった要因が、中国共産党の統治基盤の脆弱性を示唆しています。これらの要因は、ドラッカーが提唱した正当性の要素、特に「多元主義の尊重」や「権力の制限」といった点と相反するものです。

中国共産党が主張する「旧日本軍から中国を解放し新中国を建国した」という歴史認識は、実際の歴史とは異なります。日中戦争期(1937-1945)に日本軍が主に戦ったのは、当時の中国の正統政府であった中国国民党軍でした。

この歴史的事実を踏まえると、中国共産党が現在主張している「抗日戦争の主力」としての自己イメージは、実際の歴史とは乖離があることが分かります。これは、ドラッカーが重視した統治の正当性における「真実性」や「誠実さ」の要素と相反するものであり、中国共産党の統治の正当性の脆弱性を示す一つの例と考えられます。

さらに、中国の組織的・体系的な反日教育は、1990年代に江沢民によって開始されたものであり、それが今なお継続していることは、中国共産党の統治の正当性が依然として脆弱であることを示しています。

1989年の天安門事件後、マルクス主義や社会主義イデオロギーの求心力が低下したことを受け、江沢民は国内の政治的不満を逸らし、新たな統合イデオロギーとして反日教育を利用し始めました。1994年に「愛国主義教育実施綱要」が制定され、教科書における日本の侵略に関する記述が大幅に増加しました。

この教育方針は、単なる歴史教育の枠を超え、テレビ、新聞、映画などあらゆるメディアを通じて展開されるようになりました。この反日教育の継続は、中国共産党が自らの統治の正当性を、外部の敵(この場合は日本)を作り出すことで補強しようとしている証左と言えます。

1998年日本記者クラブでの江沢民

ドラッカーの理論に照らせば、真に強固な統治の正当性は、多元主義の尊重や権力の制限、社会への貢献と有益な結果の創出などに基づくべきです。外部の敵を利用して国内の団結を図る手法は、これらの要素とは相反するものであり、これらはむしろ統治基盤の脆弱性を示唆しています。

中国共産党の反日教育の継続は、その統治の正当性が現状でも脆弱であることを示しています。これを示す事実もあります。かつて中国は「愛国無罪」というキャッチフレーズのもと、反日サイトの存在を放置してきました。しかし、放置しておくと、いつの間にか「反政府サイト」になってしまうため、これを閉鎖するようになりました。また、SNSでも反日発言を許容しているといつの間にか反政府発言にすり替わっているということも頻発しているので、これも厳しく取り締まるようになりました。

また、「反日デモ」も「愛国無罪」と言う理屈で放置され、放置するどころか「官制デモ」といわれるように、政府が主導したと思われる反日デモも増えていたのですが、これも放置を続けるといつの間にか「反政府デモ」になってしまうので、これも取り締まるようになり、2013年頃には姿を消し現在でも反日デモはありません。

中国では、建国以来毎年2万件の暴動が起こったとされていますが、その後も増え続け、2010年あたりには、政府は暴動の数を公表しなくなりました。

この状況は日本にとって戦略的に重要な要素であり、この脆弱性を適切に認識し活用すべきです。この脆弱性は裏返せば、中国共産党は、日本にかなり影響を受けやすいということです。

現在日本が初めて中国軍機に領空を侵犯されたというタイミングで、二階氏をはじめとする日中友好議連が中国を訪問しています。このような行動は、日本の国益を損なう可能性があるため、避けるべきです。

日本は、中国の反日政策に対して毅然とした態度で臨み、国際社会に中国の行動の問題点を周知させるべきです。同時に、日本の歴史認識や立場を明確に示し、領土・主権に関わる事案では一切の妥協を許さない姿勢を貫くことが重要です。

また、台湾や東南アジア諸国との関係強化、日米同盟を基軸とした安全保障協力の深化を通じて、中国に対する外交的・経済的レバレッジと抑止力を高めるべきです。日本は技術力、ソフトパワー、国際的信頼性などの面で強みを持っており、これらを活かして中国に対する優位性を発揮すべきです。

先端技術分野での優位性維持、自由で開かれたインド太平洋構想の推進、文化的影響力の活用、国際機関での積極的な発言などを通じて、日本の地位向上と影響力の拡大を図ることが重要です。

結論として、中国共産党の反日政策に対しては、対話と協力を模索するのではなく、日本の国益を守るための明確な戦略を持ち、毅然とした態度で臨むべきです。同時に、日本の強みを最大限に活かし、国際社会における日本の地位向上と影響力の拡大を図ることが重要です。このアプローチにより、日本は中国に対して実質的な優位性を確立し、より安定した国際環境の構築に貢献することができるでしょう。

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2024年8月28日水曜日

領空侵犯機は撃墜…できません! 初めて入ってきた中国軍機への“対処ステップ”とは―【私の論評】中国のY-9JB情報収集機による領空侵犯の背景と日本の対応策

領空侵犯機は撃墜…できません! 初めて入ってきた中国軍機への“対処ステップ”とは

まとめ
  • 2024年8月26日、中国軍のY-9情報収集機が初めて日本の領空を侵犯した。
  • 領空侵犯への対応は自衛隊法第84条に基づき、段階的な措置が取られる。
  • 武器使用は最終手段であり、厳格な基準が設けられている。
  • 武器使用の判断は原則として個々のパイロットではなく、上級指揮官が行う。
  • 近年の安全保障環境の変化に伴い、武器使用の基準が見直されており、特定の要件を満たした場合パイロット個人の判断で武器を使用することもできるというのが政府の見解
統合幕僚監部報道発表資料より(24/8/26)

 2024年8月26日、中国軍の情報収集機Y-9が初めて日本の領空を侵犯する事件が発生しました。防衛省の発表によると、Y-9情報収集機は26日11時29分から31分頃にかけて、長崎県五島市の男女群島沖で領空侵犯を行いました。これを受けて、航空自衛隊は戦闘機をスクランブル発進させ、通告および警告を実施するなどして対応し、侵犯機は領空の外に出ました。

 領空侵犯機への対応は自衛隊法第84条に基づいています。この法律では、防衛大臣が自衛隊に対し、侵犯機を着陸させるか領空から退去させるための必要な措置を講じさせることができると規定しています。過去の国会答弁に基づけば、対応は(1)領空侵犯機の確認、(2)領空を侵犯している旨の警告、(3)領空外への退去または自衛隊基地等への誘導、(4)武器使用という、段階的な措置がとられることが自衛隊内の規則で定められています。

 武器使用は慎重に扱われ、過去の国会答弁によると、領空侵犯機が自衛隊機の警告や誘導に従わずに退去せず、さらに自衛隊機に対して実力をもって抵抗してきた場合、または国民の生命および財産に対して大きな危険が間近に迫っている場合に許可されます。

 武器使用は原則としてパイロット個人の判断ではなく、防空指令所にいる管制官を通じて、方面航空隊司令官などからの命令を受ける形で実施されます。ただし、領空侵犯機が自衛隊機へ急に襲いかかってきた場合など、その許可を求める余裕がない場合には、パイロット個人の判断で武器を使用することもできるというのが政府の見解です。

 近年の安全保障環境の変化に伴い、武器使用の基準の見直しが図られており、2023年初めには、無人気球などが民間航空機の航路を阻害したり、墜落の危険性があったりする場合には、武器を使用することが認められるようになりました。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国のY-9JB情報収集機による領空侵犯の背景と日本の対応策

まとめ
  • 領空侵犯機への対応は、民間機と軍用機で異なり、段階的な措置が国際的慣行となっている。
  • 中国のY-9JB情報収集機は武装を持たず、主に電子戦および情報収集任務を担っている。
  • 今回の領空侵犯は、これまでの中国機の活動パターンとは異なり、重要な目標の探知や接近の可能性がある。
  • 中国の行動には日本の離島領空を軽視する傾向があり、「力による一方的な現状変更の試み」と類似している。
  • 日本政府は直近では毅然とした抗議と警戒態勢の強化を、中長期的には防衛力の抜本的強化と憲法改正を視野にいれた法整備を進めるべきである。

上の記事のタイトルは紛らわしいです。正しくは、「領空侵犯機をすぐには撃墜できません、ステップを踏んで初めて撃墜できます。また特定の要件を満たした場合パイロットの裁量で撃墜できる可能性がある」などと改めるべきでしょう。

上の記事の内容は、そのように解釈できる内容になっています。「領空侵犯機は撃墜…できません!」とタイトルの含めると、どんな場合も撃墜不可能であると誤解されかねません。

国際民間航空機関(ICAO)のシカゴ条約改正議定書により、民間航空機に対する武器の使用は原則として禁止されています。領域国は、遭難や過失による侵入の場合は強制着陸や航路変更の命令を発するにとどめ、故意の場合でも機長の処罰が限度とされています

明らかに軍用機と識別できる外国航空機の領空侵入に対しては、対応が異なります。領域国が自衛権を行使して対抗できるのは当然とされ、偵察や空中撮影などをスパイ行為と認定して撃墜し、乗員を処罰する場合もあります

ただし、即座に撃墜するのではなく、段階的な対応が国際的な慣行となっています。通常は警告や退去要求などの措置を先に取り、それでも従わない場合に武力の行使を検討します。

Y-9JB

今回領空侵犯したY-9は中国製の多用途中型輸送機をベースとした航空機で、様々な派生型が存在します。今回の領空侵犯に関与したのは、防衛省が「Y-9情報収集機」と呼称する機体です。これはY-9JBと呼ばれるタイプで、主に対潜哨戒や通信・電子信号の傍受といった諜報活動を任務としています

Y-9には他にも以下のような派生型があります。
  • Y-9T: 通信中継機
  • Y-9Q: 対潜哨戒機型
  • KJ-200: 早期警戒機型
Y-9JBは中国の電子戦および情報収集機であり、Y-9輸送機をベースに開発されています。この機体は主に通信傍受や電子信号の収集、レーダー電波の探知などの任務を担っており、中国軍内では「高新8号」(GX-8)と呼ばれています。

Y-9JBは電子情報収集(ELINT)機能を持つ特殊任務機であり、機体上部や側面、尾部には様々な付属物や整流板が取り付けられており、これらは電子機器や各種アンテナを収納するためのものです。また、翼端と尾部にはESM(電子支援措置)アンテナが装備されており、後部胴体にはELINT(電子情報)アレイ、尾部からはHFアンテナが張られています。これらの特徴はKJ-500早期警戒機と共通しています。

さらに、Y-9JBの胴体下部にはEO/IRターレット(電気光学/赤外線センサー)も装備されています。この機体は中国人民解放軍空軍と海軍航空部隊の両方で運用されており、海軍機の場合は機体に「中国海軍」の文字と海軍旗が描かれています。Y-9JBは以前のY-8JB ELINT機の後継機として位置付けられており、主に東シナ海や日本海などの周辺海域で活動が確認されており、電子情報収集や偵察任務に従事していると考えられています。

Y-9JB情報収集機には、ミサイルや機関銃などの武装はありません。この機体は主に電子戦および情報収集任務を担っています。

Y-9JBの主な任務は以下の通りです。
  • 対潜哨戒:海中の潜水艦を探知・追跡する任務を行います。
  • 通信傍受:敵対国や他国の通信を傍受し、情報を収集します。
  • 電子信号の収集:レーダーや通信システムなどから発せられる電子信号を収集・分析します。
  • 諜報活動:上記の活動を通じて得られた情報を分析し、軍事情報として活用します。
今回の領空侵犯が起こる前まで、Y-9は主に沖縄や台湾周辺で活動しており、このように男女群島の東側にまで接近して飛行することはありませんでした。この長崎沖の東シナ海では、 中国空軍の偵察型無人機(WZ-7)が本年は6月と7月に2回、情報収集と思われる飛行を実施していますが、これらはいずれも本邦から離れて男女群島西側の沖合上空で活動していました。

今回の領空侵犯の主な目的は情報収集であり、意図的な挑発行為ではないとするむきもありますが、それはなんともいえません。領空侵犯後も同機は飛行を継続し、ミッションに固執している様子が窺えたことから、何らかの重要な目標を探知して接近した可能性があります。

統合幕僚監部報道発表資料(24/8/26)には、ブログ冒頭に掲載した資料等が掲載されいましたが、現時点(8月28日10:00)の時点では、これは見当たりません。

自衛隊としては、ここに注目されたくないという意図があるのかもしれません。ただ、上の地図など、すでに新聞などで公表され、多くのメディアで引用されています。この海域で、それだけ重要な何かがあるか、何かがなされていた可能性があります。


上の表における、②の行動が、意図的なのか、そうでないかは中国側しか知るよしもないので、ここで当て推量をしても意味がありません。自衛隊側は、中国側に警告を発しているはずですが、それかどの時点だったかもわかりません。

意図的であろうが、なかろうが、中国軍の行動には日本の離島領空を軽視する傾向が見られ、この行動は、南シナ海でのフィリピンに対する中国軍や海警局による行動、尖閣諸島における中国海警局の常続的な領海侵犯など、「力による一方的な現状変更の試み」と類似した点があります。

このような行動が続く場合、偶発的な軍事衝突のリスクが高まる可能性があり、その結果として予期せぬ事態が発生する恐れがあります。中国側はこうした事態を望んでいる可能性もありますが、国際社会としてはそのような事態を回避する必要があります。


領空侵犯に対する日本の対応として、政府は以下の行動を取るべきです。

直近の対応として、政府は毅然とした態度で中国に抗議し、再発防止を強く求めるべきです。同時に、航空自衛隊の警戒態勢を強化し、24時間体制で領空監視を徹底すべきです。また、米国をはじめとする同盟国と緊密に連携し、情報共有と共同対処能力の向上を図る必要があります。

中長期的な対応として、日本の防衛力を抜本的に強化することが不可欠です。具体的には、最新鋭の戦闘機や早期警戒機の導入を加速させ、対領空侵犯能力を飛躍的に向上させるべきです。さらに、憲法改正を視野に入れ、自衛隊の位置づけを明確化し、より積極的な防衛政策を可能にする法整備を進めるべきです。

同時に、経済安全保障の観点から、中国への過度の依存を減らし、戦略的に重要な産業の国内回帰や同盟国との協力強化を推進すべきです。これらの施策により、日本の国家主権と国民の安全を守り抜く強固な体制を構築し、国際社会における日本の地位を高めることができるでしょう。

我々日本人は、先人たちが築き上げてきた平和と繁栄を守るため、今こそ一致団結して立ち上がるべき時です。

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<ウクライナ軍の越境攻撃というギャンブル>不意を突くロシア国内侵攻の目的と効果―【私の論評】ゼレンスキー大統領のクルスク侵攻の真の意図

<ウクライナ軍の越境攻撃というギャンブル>不意を突くロシア国内侵攻の目的と効果

まとめ
  • ウクライナ軍は8月6日にロシア領クルスク州への越境攻撃を開始し、約1250平方キロメートルの地域を制圧したと主張している。
  • この作戦の目的は、ロシア軍の一部をドンバス地域から引き離し、ロシアの国境の脆弱性を利用することと考えられている。
  • 攻撃はウクライナ軍の能力を示し、国民の士気を高めると同時に、西側諸国に対して軍事支援の有効性を証明する機会となる。
  • しかし、リスクも伴い、東部前線の防衛力低下やロシアの反撃に対する持久力の懸念がある。
  • 今後の成功には、バイデン政権の支援姿勢が重要であり、ATACMミサイルやF-16戦闘機の供与が鍵となる可能性がある。
緑の✕がウクライナ軍が今回侵攻した地域、青の✕はロシア軍が侵攻した地域

 ウクライナ軍は8月6日、突如としてロシア領クルスク州への越境攻撃を開始した。この作戦は、装甲車両(ドイツおよび米国製を含む)、歩兵、砲兵、電子戦機器を動員する高度に機動的な作戦によるもので、英軍筋はウクライナがcombined arms warfare(諸兵科連合の用兵)を立派に習得していたことを評価して「印象的である」と述べている。

 ウクライナ軍は進撃を続け、総司令官シルスキーによれば1000平方キロメートルを支配するに至っている。これは東京都の約半分に相当する広さだ。この大胆な作戦は、ウクライナの戦略が防御から攻勢へと転換したことを示す重要な出来事として注目されている。

 作戦の目的については、ゼレンスキー大統領はロシア軍がウクライナのスーミ州を越境攻撃するために使っている国境地帯を制圧して安全を確保することに言及しているが、それだけではないだろう。考えられる戦略目的としては、ドンバス地域からロシア軍の一部を引き剥がすこと、ロシアの長大な国境の脆弱性を暴き利用すること、ウクライナ軍には依然として積極的なショックを与える能力があることを証明すること、などが挙げられている。

 また、この作戦は西側が供与した装甲車両と防空兵器を利用して高度に機動的な攻撃を遂行することで、西側にそのような支援は無駄でないとのメッセージを送る効果もある。さらに、ロシア領土を幾分なりとも手中にしていることは、将来のモスクワとの交渉に当たって、ウクライナの立場を強化し得る。

 しかし、この作戦にはリスクも伴う。東部の前線からウクライナの精鋭部隊の一部を割いて振り向けることは、ドンバス地域の防衛を危うくする可能性がある。また、ロシアの反撃に持ち堪えられるか、補給線の長期化に対応できるかなどの課題も指摘されている。

 この作戦の成否は、バイデン政権の態度にかかっているとの見方もある。ATACMミサイル・システムでロシア領内奥深くの軍事目標を攻撃することを認め、さらに新たに供与されたF-16戦闘機でこれを支援できれば、ロシアの反撃を妨害出来る可能性がある。

 ゼレンスキー大統領はこの作戦の報酬はリスクに値すると信じてサイコロを振ったようだが、その結果がどうなるかは予想できない。この越境攻撃が転換点となるか、戦略的失態に終わるか、あるいはそのどちらでもない結果になるかは、今後の展開を注視する必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ゼレンスキー大統領のクルスク侵攻の真の意図

まとめ
  • ウクライナ軍のクルスク州への越境攻撃は、地理的・歴史的に重要な兵站拠点を狙ったものであり、ロシアの補給路を遮断する狙いがある。
  • 独ソ戦におけるクルスクの戦いは1943年に行われ、ソ連軍の勝利がその後の戦況に決定的な影響を与えた。バグラチオン作戦はその後の反攻作戦として重要な役割を果たした。
  • 現代においてもクルスク州はロシアにとって重要な補給拠点であり、ウクライナの攻撃はロシアの軍事行動に大きな影響を与える可能性がある。
  • ゼレンスキー大統領は、ロシアの核の脅しが実際には空虚であることを示すため、越境攻撃を行い、米国に対してより多くの兵器供与を求める狙いがあるようだ。
  • 新型長距離兵器「パリャヌィツィア」の導入により、ウクライナは独自の攻撃能力を強化し、ロシア本土への攻撃を行う意図を示している。今後の支援国の動向が注目される。
今回ウクライナ軍が越境攻撃したクルスク州は、その地理的位置と歴史的背景から、軍事的に極めて重要な兵站拠点として知られています。第二次世界大戦中の1943年、この地域で独ソ戦における当時最大規模の戦車戦が繰り広げられました。この「クルスクの戦い」では、ドイツ軍が約2,700両(一部の資料では2,900両)、ソ連軍が約3,500両の戦車を投入し、総計約6,000両もの戦車が参加する史上最大規模の戦車戦となりました。

クルスクの戦い

この戦いはソ連軍の勝利に終わり、その結果はその後の戦況に決定的な影響を与えました。クルスクの戦いは、独ソ戦でドイツ軍が攻勢に出た最後の大規模な戦闘であり、また赤軍が夏期においても勝利した最初の大規模な戦闘でした。

クルスクの戦いの翌年、1944年6月22日から8月19日にかけて、ソ連軍は「バグラチオン作戦」と呼ばれる大規模な反攻作戦を実施しました。この作戦は、ベラルーシを舞台に展開され、ドイツ軍中央軍集団に対する壊滅的な打撃を与えました。この戦いは、それまで夏季の戦いでは勝ったことがなかったソ連軍の初の夏季における勝利となりました。

バグラチオン作戦の結果、ドイツ軍は28個師団を喪失し、戦線は大きく西に押し戻されました。ソ連軍は5週間で700キロ近くも前進し、ドイツ側の発表でも25万人の戦死者と11万を超す捕虜を出すという大打撃を与えました。

この作戦は、独ソ戦に事実上の決着をつけた戦いとされ、ドイツの敗戦を決定的なものとしました。また、政治的にもナチスドイツのソ連との講和の可能性が絶望的になり、ヒトラー暗殺計画が具体化する状況となりました。

現代においても、クルスク州はロシアにとって重要な兵站拠点であり続けています。モスクワとクリミア半島を結ぶ幹線道路上に位置し、鉄鋼などの工業地帯でもあるため、ロシア軍の補給物資の調達と輸送に大きな役割を果たしています。特に、クルスク州はロシアの軍事作戦における後方支援の要となっており、ウクライナ東部での作戦を支える重要な補給路の一部を形成しています。

このような背景を踏まえると、ウクライナ軍の現在のクルスク侵攻は単なる領土の奪取以上の意味を持ちます。クルスクを制圧することで、ロシアの補給路を遮断し、軍事作戦の遂行能力を大きく低下させる可能性があります。特に、セイム川の橋の破壊や、クルスク原発の占領などは、ロシアの軍事行動に大きな影響を与える可能性があります。

しかし、この作戦には大きなリスクも伴います。ロシアにとってクルスクの重要性を考えれば、この地域を簡単に手放すとは考えにくく、激しい反撃が予想されます。これは、軍事作戦の常ですが、侵攻する側には必ず包囲されるという危険が伴います。現在クルスクに侵攻しているウクライナ軍が、ロシア軍に包囲殲滅される危険もあります。

また、ウクライナ軍がクルスクに注力することで、東部戦線が手薄になる可能性もあります。実際に、ドネツク州西部のポクロウシクでは、ロシア軍の前進が止まらず、避難を余儀なくされた住民もいます。

古来、軍事の専門家は二正面作戦の愚を指摘してきました。「二兎を追う者は一兎をも得ず」のことわざ通り、二正面作戦は自軍の戦略が分散し、両方の作戦が失敗する可能性があります。ウクライナ軍が越境攻撃に力を入れるほど、クルスク州とドネツク州の二正面作戦となってしまい、極めて不利な状況になりかねません。

結論として、クルスクへの攻撃は、その現代における兵站上の重要性と歴史的背景ゆえに大きな戦略的意義を持つ一方で、軍事的・政治的に高いリスクを伴う作戦であると言えます。この攻撃の結果が、今後のウクライナ戦争の展開と国際関係に大きな影響を与えることは間違いありません。

一方ウクライナ軍のクルスク制圧は、ロシアだけでなく欧米諸国にも衝撃を与えました。これまで欧米諸国は、ロシアへの直接攻撃を避けるため、ウクライナへの軍事支援に制限を設けていましたが、ウクライナはクルスク制圧の際にアメリカ製の多連装ロケット砲HIMARSを使用したと認め、支援国の"レッドライン"を越えました。

ゼレンスキー大統領は、より踏み込んだ協力を求める強気の姿勢を示しており、この行動のタイミングは米大統領選挙を意識したものと考えられています。ウクライナは、トランプ候補の当選によって支援が削減されることを懸念していますが、ハリス候補が当選した場合でも、レッドラインの緩和を望んでいます。

カマラ・ハリスとドナルド・トランプ

この攻撃は、ウクライナだけでなく支援国にとっても大きな影響を持つ可能性があり、ウクライナが支援国に対してより積極的な協力を求めるための戦略的な動きであると同時に、国際関係に大きな影響を与えるリスクの高い賭けでもあります。

今回のクルスク州への越境攻撃は、ウクライナ側が独自の判断で実施したようです。この攻撃に対して、プーチン大統領は核兵器による報復を行っていません。この事実は、ゼレンスキー大統領にとって重要な意味を持ちます。

ゼレンスキー大統領の意図は、この攻撃とその結果を通じて、「ロシアの核の脅しは単なる恫喝であり、実際には使用されない」ということを示すことにあったと考えられます。この論理に基づいて、ゼレンスキー大統領は「もっとウクライナに兵器を供与し、ロシアへの攻撃を許可せよ」と米国に強く迫る狙いがあったと推測されます。

またゼレンスキーは、8月25日に巡航ミサイルの一種とみられる新型長距離兵器「パリャヌィツィア」の初の実戦使用について報告しています。ゼレンスキーは、ロシアによる大規模なミサイル攻撃に対抗するため、ロシア軍の飛行場を標的にする必要性を強調しました。

欧米諸国から供与された兵器にはロシア本土攻撃の制限があるため、ウクライナは独自の長距離兵器開発を進めたようです。「パリャヌィツィア」は巡航ミサイルに似た外観を持ち、詳細な性能は明らかにされていませんが、今後生産を加速する方針が示されています。この新兵器は、現在ドローンで行っているロシア本土の飛行場攻撃において、重要な役割を果たすことが期待されています。

ウクライナ製巡航ミサイル「パリャヌィツィア」

この兵器がどの程度実効性があるものか、現時点では未知数ですが、ゼレンスキーとしては、長距離兵器を制限なく使用したいという考えがあるのは間違いないようです。

そのように考えると、ゼレンスキーの戦略には一定の合理性があります。まず、ロシアの核の脅しが実際には空虚であることを示すことで、NATO諸国の懸念を和らげることができます。次に、より強力な兵器の供与と攻撃の許可を得ることで、ウクライナの軍事的立場を強化し、ロシアに対してより効果的な反撃を行うことができます。

しかし、この戦略にはリスクも伴います。ロシアが実際に核兵器を使用する可能性は低いかもしれませんが、ゼロではありません。また、NATO諸国、特にアメリカは、ロシアとの直接対決を避けたいと考えており、ウクライナの行動がエスカレーションにつながることを懸念しています。

結論として、ゼレンスキー大統領の越境攻撃は、米国に対して強い圧力をかけ、支援拡大を迫るための戦略的な動きだったと解釈できます。この行動は、ウクライナの軍事的立場を強化し、より多くの支援を引き出すことを目的としていますが、同時に国際関係の緊張を高めるリスクも伴っています。今後、この行動がどのような結果をもたらすか、国際社会の注目が集まっています。

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