2024年12月15日日曜日

英国のTPP加盟が発効 12カ国体制で2300兆円規模の経済圏が始動―【私の論評】TPP加盟国の経済発展と米国への影響:競争激化と関税政策のリスク

英国のTPP加盟が発効 12カ国体制で2300兆円規模の経済圏が始動

まとめ
  • 英国の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への新規加盟が正式に発効し、TPPは12カ国体制となった。
  • 英国の加盟により、世界のGDPの約15%にあたる経済圏が拡大し、物品の99%以上の関税が撤廃される見込み。
  • TPPへの加盟国には中国や台湾、ウクライナなどがあり、今後の動向が注目されている。

英国の象徴ビッグベンと国旗 AI生成画像

英国の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への新規加盟を認める議定書が15日、正式に発効した。英国の加盟によりTPPは12カ国体制となり、英政府によれば世界のGDP(国内総生産)の約15%にあたる12兆ポンド(約2331兆円)の経済圏に拡大した。

日本やオーストラリアなどが参加するTPPは、米国の離脱を経て、2018年に11カ国で正式に発足した。

英国は20年1月に欧州連合(EU)を離脱した後、TPPへの参加を通商政策の柱に据え、21年に加盟を申請した。23年に加盟交渉を終え、同年7月に加盟議定書に署名した。英国に加えて6カ国以上が今年10月までに議定書を批准したことから、年内の加盟が決まった。

英国は、欧州からの唯一の加盟国となる。

英政府によると、TPPへの加盟により、英国からTPP参加国に輸出されている物品の99%以上の関税が撤廃される。また、40年までに英経済を年間約20億ポンド(約3885億円)押し上げる効果が見込まれるとしている。

TPPには中国や台湾、ウクライナなども加盟を申請している。

【私の論評】TPP加盟国の経済発展と米国への影響:競争激化と関税政策のリスク

まとめ
  • 競争の激化: TPP加盟国の先進国(日本、オーストラリア、カナダ、英国など)の経済成長により、米国企業は新たな競争相手に直面し、特に製造業や農業での競争が激化する。
  • 関税政策の影響: トランプ政権の高関税政策は、米国の消費者に高い価格を転嫁し、特に低所得層に悪影響を及ぼす可能性が高い。
  • 経済成長の鈍化リスク: 高関税が持続することで、輸入品の価格が上昇し、消費者の購買力が低下し、米国経済全体の成長が鈍化するリスクがある。
  • 貿易関係の悪化: 長期的な関税の維持は、貿易相手国との関係を悪化させ、報復関税の導入を招く恐れがある。
  • TPPのルールの重要性: TPPの通商ルールは国際関係を考慮した新しいものであり、日本がリーダーシップを発揮して加盟国を拡大し、さらにTPPの通商ルールをWTOのルールに反映させるべきである。

大統領令にサインするトランプ大統領 AI生成画像

TPP加盟国の経済が成長すれば、米国に与える影響は多岐にわたる。競争の激化、輸出市場の変化、経済的な結びつきの再構築、そしてトランプ政権下での関税政策が重要な要素である。これらの要因は、米国にとって有利な影響だけでなく、不利な影響ももたらす可能性が高い。

まず、加盟国の経済成長は米国企業との競争を激化させる。TPP加盟国には日本、オーストラリア、カナダ、さらには英国も含まれている。これらの国々が経済成長を遂げることで、特に製造業や農業分野で米国企業は新たな競争相手に直面することになる。

OECDのデータによれば、日本やオーストラリア、英国の製造業は技術革新と効率性の向上に成功しており、これにより米国製品に対する競争力が高まっている。特に英国は、Brexit後にTPPへの参加を選択することで、アジア太平洋地域との経済的結びつきを強化しようとしているのだ。

次に、TPP加盟国の成長は米国の輸出市場にも影響を与える。加盟国が経済的に強化されると、これらの国々は新たな貿易パートナーとしての重要性を増し、米国の輸出市場に対する依存度が変わるかもしれない。2021年の世界銀行の報告によれば、アジア太平洋地域は今後数年間で世界の経済成長の主なエンジンとなると予測されている。この変化により、米国企業は新たな市場機会を見出す一方で、競争の激化に直面し、特に製造業や農業において利益が圧迫される可能性が高い。

発展するアジア太平洋地域

トランプ政権下での関税政策も、これらの変化において重要な要素である。トランプ氏は特に中国に対して高い関税を課すことで知られているが、他の国々にも同様の関税を導入する意向を示している。彼の関税政策の主な目的は、米国製品の競争力を高め、国内産業を保護することだ。具体的には、2018年に中国からの輸入品に対して最大25%の関税を課し、知的財産権侵害や不公正な貿易慣行に対抗するための措置を講じている。

しかし、関税の引き上げは米国の消費者に対して高い価格を転嫁する結果となり、国内経済に悪影響を及ぼす可能性が高い。通商政策の専門家によれば、関税は最終的には米国の消費者に負担を強いることになり、特に低所得層に対して深刻な影響を及ぼすことが指摘されている。米国商工会議所の調査によれば、関税の引き上げが米国経済に与える影響は、年間で数百億ドルに達する可能性があるのだ。

さらに、米国が中国以外の国々にも高関税を持続する場合、米国経済が毀損されるリスクが高まる。高関税が続くことで、輸入品の価格が上昇し、消費者の購買力が低下することが懸念される。多くの米国企業は海外からの部品や原材料に依存しているため、関税が課されることで製造コストが増加し、最終的には消費者に対する製品価格の引き上げにつながる。これにより、米国経済全体の成長が鈍化する可能性が高い。

また、長期的な関税の持続は、貿易相手国との関係を悪化させ、報復関税が導入されるリスクもある。これにより、米国の輸出産業が打撃を受け、雇用の減少や経済成長の停滞を招くことになる。農産物や工業製品の輸出が減少すれば、これらのセクターに依存している地域経済にも深刻な影響が及ぶのだ。

このように、TPP加盟国の経済成長は米国にとって、競争環境や貿易関係に大きな変化をもたらす可能性が高い。特にトランプ政権下での関税政策は、米国企業の競争力に直接的な影響を与えるだけでなく、消費者や国内経済全体にも不利な影響を及ぼす可能性がある。これに対処するためには、米国は柔軟かつ戦略的なアプローチを採る必要がある。関税の引き下げという選択肢も含めて、新たな機会を探ることが極めて重要である。

TPP協定発効記念式典で各国の関係者と談笑する安倍晋三首相(中央右)と
茂木敏充経済再生担当相(同左)=2019年1月19日午後、首相官邸

さらに、TPPの通商ルールは、最近の国際関係を考慮した新しいものであり、これをWTOの通商ルールに反映させるべきだ。TPP加盟国はこの目標に向けて協力し、TPPの通商ルールを守れる国々を加盟国として拡大していくべきである。特に、日本はその旗振り役となり、アジア太平洋地域における経済的安定と成長を促進するためのリーダーシップを発揮すべきだ。

英国の加入も重要な意味を持ち、ブレクジット後の新たな貿易戦略を模索する中で、TPPが英国にとってもアジア太平洋地域との関係を強化するための重要なプラットフォームとなるのだ。これにより、国際貿易のルールがより公平で透明性のあるものとなり、全体的な経済成長に寄与することが期待されるのである。

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2024年12月14日土曜日

“トランプ氏 安倍元首相の妻 昭恵さんと夕食会を予定”米報道―【私の論評】日米関係強化の鍵:トランプ氏が昭恵夫人に会う理由と石破政権のリスク

“トランプ氏 安倍元首相の妻 昭恵さんと夕食会を予定”米報道


まとめ
  • トランプ次期大統領が15日にフロリダ州で安倍元総理の妻・昭恵さんとプライベートな夕食会を開く予定で、出席にはメラニア夫人も含まれる。
  • 昭恵夫人との夕食会は政府ルートではなく、二人の直接のやりとりで設定された。
  • トランプ氏は安倍元総理の死後も昭恵夫人と親密な関係を維持しており、電話での連絡を続けている。
アメリカのトランプ次期大統領が、亡くなった安倍元総理大臣の妻の昭恵さんと、今月15日に南部フロリダ州でプライベートな夕食会を開く予定だと、CNNテレビなどが伝えました。

アメリカのCNNテレビとロイター通信が関係者の話として伝えたところによりますと、トランプ次期大統領は、15日、南部フロリダ州にある自宅で、安倍元総理大臣の妻の昭恵さんとプライベートな夕食会を開く予定だということです。

夕食会にはメラニア夫人も出席する予定だとしています。

また、今回の夕食会は、政府ルートではなく、2人の直接のやりとりによって設定されたものだということです。

日本の石破総理大臣は先月中旬、国際会議で南米を訪問したあとに、トランプ氏との会談を調整しましたが、トランプ氏側から、就任前に各国首脳との正式な会談は行わない方針を伝えられたことなどから、会談は見送られました。

安倍元総理大臣は、トランプ氏が2016年の大統領選挙に勝利したあと、最初に会った外国の首脳で、その後、トランプ氏との間で良好な関係を築いたことで知られます。

CNNテレビによりますと、トランプ氏は、安倍元総理大臣が2年前に銃撃によって亡くなったあとも、昭恵夫人とは電話で連絡を取るなど、親密な関係を維持してきたということです。

【私の論評】日米関係強化の鍵:トランプ氏が昭恵夫人に会う理由と石破政権のリスク

まとめ
  • トランプ氏が昭恵夫人に会うことは、故安倍晋三氏との強固な関係を象徴し、日米関係の継続的な強化を示している。
  • 石破茂氏は安倍政権の路線を批判する立場にあり、トランプ氏が彼に会わないことは、安倍氏の影響力を重視する意図を反映している。
  • トランプ氏は安定したリーダーとの関係を重視しており、石破政権の不確実性が日米関係に悪影響を及ぼす可能性がある。
  • 保守的なリーダーシップが必要であり、石破氏が政権を担うことは国際的な信頼を損なうリスクが高い。
  • 日米関係やEUとの関係を強化するためには、リベラル政権を終わらせ、安倍氏のような保守政権を樹立する必要がある。
トランプ氏は、いずれ石破茂首相に会うことになるだろうが、それより先に昭恵夫人に会うことには、いくつかの重要な意味がある。まず、トランプ氏が昭恵夫人と会うことは、故安倍晋三氏との強固な関係を象徴している。


安倍氏はトランプ政権下での日米関係を強化するために多大な努力を重ね、特に安全保障や経済面での協力を深めた。具体的には、安倍氏はトランプ氏に対して、日本の防衛費の増加や米国製品の購入拡大を約束した。このような背景から、トランプ氏は昭恵夫人との会談を通じて、安倍氏の外交路線を引き続き支持する姿勢を示している。

一方で、石破氏は安倍政権の路線を批判する立場にあり、彼の政策は安倍氏のものとは異なる方向性を持っている。特に、石破氏は地方創生や社会保障の充実を重視し、安倍政権の経済政策「アベノミクス」に対して批判的である。このため、トランプ氏が石破氏に会わないことは、安倍氏の影響力を重視する姿勢を反映していると言える。トランプ氏にとって、安定したリーダーとの関係構築は重要であり、安倍氏のような長期的な支持基盤を持つ人物との関係を維持することが優先されるのだ。

さらに、トランプ氏は政治的に安定したリーダーとの関係を重視する傾向がある。安倍氏は日本の首相として長期間政権を担ってきたため、トランプ氏との間に築かれた信頼関係は非常に強固である。石破政権が安倍氏の路線から逸脱する可能性があるため、トランプ氏が彼に会わないことは、安定した関係を維持しようとする意図を示している。

また、トランプ氏の行動は外交的なシグナルとしても解釈できる。昭恵夫人との会談は、日米関係の継続的な強化を示す一方で、石破氏との接触を避けることで、トランプ氏が安倍政権の継承を望んでいることを強調する意味がある。これにより、石破政権の不確実性を回避し、安倍氏の政策を引き続き支持する姿勢を明確にすることができるのだ。

トランプ氏は自らの支持基盤を重視しており、特に日本の保守派との関係を大切にしている。安倍氏の政策はトランプ氏の保護主義的なアプローチと合致していたため、昭恵夫人との会談はその延長線上に位置づけられる。石破政権が外交政策でトランプ政権の意向と合致しない可能性があるため、トランプ氏が石破氏に会わないことは、そのリスクを回避する意図があると考えられる。

第216回国会で所信表明演説をする石破首相

総じて、トランプ氏が昭恵夫人には会うのに石破氏に会わないことは、安倍政権の路線を重視し、政治的安定性を求める姿勢を示している。これは、日米関係の継続性を確保し、安倍氏の影響力を尊重する意図があると言える。トランプ氏は、安倍氏との関係を基盤にすることで、日米間の協力をさらに深化させる狙いを持っているのだ。

さらに、トランプ氏が石破政権を短期政権になることを見越している可能性は高い。彼の政治スタンスや支持基盤の不安定さが、国際的な信頼を損なう要因となるため、トランプ氏は石破氏に対して懐疑的な姿勢を持つことが予想される。これにより、日米関係が不安定化するリスクが高まり、石破政権の短命を見越す要因となるのだ。

日米関係やEUとの関係を強化するためには、石破茂氏が首相の座に留まることは難しい。現在の日本の政治状況を考慮すると、リベラル政権の継続は国際的な信頼を損なう可能性が高い。したがって、より保守的な政権の樹立が求められる。

日米関係の強化において、安倍晋三氏のような保守派リーダーの存在が不可欠である。安倍氏はトランプ政権との強固な関係を築き、その結果として日本は米国との安全保障や貿易面での信頼を得ることに成功した。具体的には、安倍氏がトランプ氏と結んだ貿易協定や防衛協力は、日米同盟を強化する上で重要な要素となっている。石破氏が政権を担う場合、安倍氏の路線を踏襲しない可能性が高く、これが日米関係にマイナスの影響を与える恐れがある。


また、EUとの関係維持においても、保守的なアプローチが重要である。日本はEUとの経済連携協定(EPA)を締結しており、これにより貿易の拡大が期待されている。しかし、リベラル政権が続くことで、国内の保護主義的な動きが強まり、EUとの関係が緊張する可能性がある。特に、EUは移民・難民問題やエネルギー問題に強い関心を持っており、リベラル的な政策が忌避されつつある。日本でリベラルな政策を持つ政権が継続することは、これらの問題に関する対話が難しくなるリスクがある。

国際的な信頼を確保するためには、政治の安定性も欠かせない。石破氏が首相として不安定な政権を運営する場合、外国からの投資が減少するリスクが高まる。トランプ政権やEUは、日本の政治状況を注視しているため、安定した保守政権の存在は国際的な信頼を得る上で鍵となるのだ。

過去のデータを見ても、保守政権の下での経済成長率はリベラル政権よりも高い傾向がある。たとえば、安倍政権下での経済成長は、リベラル派の政権下での成長率を上回っており、これは保守的な政策が企業の投資意欲を刺激する要因となっている。

結局のところ、日米関係を強化し、EUとの関係も維持したいのであれば、石破氏がすぐに退陣し、リベラル政権を終わらせる必要がある。そして、安倍政権のようなまともな保守政権を樹立することが求められる。これにより、国際的な信頼を確保し、経済成長を促進する環境が整うことが期待される。日本の未来を見据えた際、保守的なリーダーシップが不可欠であることは明白である。 

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2024年12月13日金曜日

北朝鮮の「IT戦士」、米企業で134億円稼ぐ 核開発の資金源に―【私の論評】国家戦略としての北朝鮮のサイバー脅威に有効なのは、日本でも報奨金制度

北朝鮮の「IT戦士」、米企業で134億円稼ぐ 核開発の資金源に

まとめ
  • 北朝鮮が「IT戦士」と呼ぶ約130人の技術者を動員し、米国から2017〜2023年に8800万ドルを稼いでいたことが判明。売上金は核・ミサイル開発の資金源とされている。
  • 北朝鮮は中国とロシアにIT関連のフロント企業を設立し、米国民の個人情報を使って米国のIT企業にリモート勤務で応募し、報酬を得ていた。
  • 米政府は、今回の事件に関与した北朝鮮人に関する情報提供を求め、最高500万ドルの報奨金を設定。北朝鮮のIT技術者は数千人が海外で活動しており、摘発された事件はその一部に過ぎないとされる。
北朝鮮のIT戦士 AI生成画像

 北朝鮮が「IT戦士」と呼ぶ技術者約130人を動員し、米国でリモート勤務が可能な業務を担わせ、2017〜23年に8800万ドル(約134億3000万円)を稼いでいたことが、米司法当局の捜査で判明した。米当局は、売上金が核・ミサイル開発計画の資金源になったとみている。米国務省は12日、事件に関与した北朝鮮人らに関する情報提供を求め、最高500万ドル(約7億6300万円)の報奨金を設定した。

 米司法当局によると、北朝鮮は中国とロシアにIT関連のフロント企業を設立し、北朝鮮人の技術者を働かせていた。事前に窃取・購入した米国民の個人情報を使って、米国のIT企業などの求人に応募。リモート勤務で業務をこなして報酬を得ていた。米国で働いているように装うため、米国内の協力者にパソコンを用意させ、中国やロシアからこのパソコンを経由して仕事の情報をやりとりしていた。

 フロント企業のリーダーらは、「社会主義競技会」と称してIT技術者の稼ぎを競わせ、成績がよかった場合にはボーナスを支払っていた。米企業から受け取った報酬は、偽の身分証を使って中国などで開設した口座を経由して受け取っていた。

 米政府によると、北朝鮮は数千人のIT技術者を海外で出稼ぎさせており、今回摘発された事件は氷山の一角だとみられる。北朝鮮のIT技術者は1人で年間30万ドル(約4578万円)稼ぐ例もあるという。

【私の論評】国家戦略としての北朝鮮のサイバー脅威に有効なのは、日本でも報奨金制度

まとめ
  • 北朝鮮のIT戦士は国家のサイバー能力を強化するために育成された技術者やハッカーであり、国家安全保障、経済活動、プロパガンダに関連して活動している。
  • 国家安全保障の観点から、北朝鮮は米国や韓国の重要なインフラに対するサイバー攻撃を実施し、自国の安全を確保しようとしている。
  • 経済活動においては、サイバー犯罪が重要な資金源となり、特にランサムウェア攻撃やフィッシング詐欺を通じて不正に資金を得ている。
  • 日本への工作として、北朝鮮のハッカー集団「ラザルスグループ」がサイバー攻撃を行い、医療機関や企業のデータを狙った事例が確認されている。
  • 日本のサイバーセキュリティの強化に向けて報奨金制度の導入が有効であり、民間企業や個人からの情報提供を促進することで、サイバー攻撃に対する防御力を向上させる必要がある。

北朝鮮のIT戦士は、国家のサイバー能力を強化するために育成された技術者やハッカーである。彼らの活動は国家安全保障、経済活動、プロパガンダに密接に関連している。

まず、国家安全保障の観点から、北朝鮮のIT戦士は敵国の情報システムに対するサイバー攻撃を実施し、情報収集や妨害を行っている。特に、米国や韓国の重要なインフラに対する攻撃が報告されており、これにより北朝鮮は自国の安全を確保しようとしている。

次に、経済活動においては、サイバー犯罪が重要な資金源となっている。特にランサムウェア攻撃やフィッシング詐欺を通じて不正に資金を得ており、これが国の経済を支える基盤となっている。国連の報告書やセキュリティ企業の分析によれば、北朝鮮のハッカー集団は「ラザルスグループ」と呼ばれ、これらの攻撃を行っている。

ランサムウェアによる攻撃を受けた病院の混乱 AI生成画像

具体的には、2020年には北朝鮮のハッカーが米国の医療機関に対してサイバー攻撃を仕掛け、数百万ドルの身代金を要求した。また、北朝鮮は仮想通貨取引所への攻撃を通じて数億ドル相当の仮想通貨を盗み出しており、特に2016年のバングラデシュ中央銀行からの盗難事件では約8100万ドルが不正に送金された。

国連の制裁により正式な経済活動が制限される中、サイバー犯罪は北朝鮮にとってますます重要な資金源となっている。この資金は北朝鮮の核開発やミサイルプログラムに充てられているとの見方が強い。

プロパガンダの面では、北朝鮮はインターネットを利用して自国のイメージを向上させるための情報発信を行い、敵国に対するネガティブなキャンペーンも展開している。これにより、国際社会における印象操作を図っている。

これらの活動は国際的に問題視されており、特にサイバー攻撃がもたらす影響は深刻な懸念を引き起こしている。北朝鮮のIT戦士たちは国家の指導のもとで高度な訓練を受けており、その技術力は非常に高い。

北朝鮮のIT戦士による日本への工作も具体的な事例が確認されている。2014年、北朝鮮のハッカー集団「ラザルスグループ」が日本の企業や政府機関に対してサイバー攻撃を実施し、企業のデータが盗まれたり、システムが妨害されたりした。製造業やエネルギー関連企業が狙われ、情報漏洩の危険が指摘されている。

さらに、2020年には日本の医療機関も攻撃の標的となった。COVID-19ワクチンの開発に関する情報を狙った攻撃が報告され、他国の医療機関からの情報収集を試みていた。

北朝鮮は日本国内で情報収集活動も行っており、防衛や外交に関する情報がターゲットとなっている。日本の警察や情報機関は、北朝鮮の工作員によるスパイ活動に警戒を強めている。また、北朝鮮のサイバー攻撃は経済活動とも関連しており、特に日本の仮想通貨取引所への攻撃が問題視されている。

2018年には「コインチェック」に対して攻撃が行われ、約580億円相当の仮想通貨が盗まれる事件が発生した。この事件は、北朝鮮が資金を調達する手段としてサイバー犯罪を利用していることを示している。国際的な経済制裁により公式な経済活動が制限される中、北朝鮮はサイバー攻撃を通じて不正に資金を得る手法を増やしている。

暗号資産(仮想通貨)交換業を手がけるコインチェック

このように、北朝鮮のIT戦士による日本への工作はサイバー攻撃や情報収集活動を通じて具体的に存在しており、経済活動にも影響を及ぼしている。これらの脅威に対処するための対策が国際社会で求められている。

現時点での北朝鮮のIT戦士による日本への工作への対応は十分とは言えない。サイバー攻撃の増加と高度化が問題であり、北朝鮮はサイバー攻撃の手法を進化させ、特にランサムウェアやフィッシング攻撃が増加している。2020年には、北朝鮮のハッカーが世界中の医療機関や製薬会社を狙った攻撃を行い、日本の医療機関もその標的になった。

情報共有の課題も存在する。政府と民間企業の間での情報共有が不足しているため、サイバー攻撃に対する迅速な対応が難しい。サイバーインシデント発生時に企業が自らの被害を報告しないケースが多く、全体的な脅威の分析が遅れることがある。これにより、同様の攻撃が他の企業にも広がる危険性がある。

加えて、北朝鮮のサイバー犯罪に対する国際的な協力も課題である。日本はアメリカや韓国と連携を強化しているものの、北朝鮮は国際的な制裁を受ける中でもサイバー犯罪を継続しており、その根絶は難しい。2021年の国連の報告書によれば、北朝鮮はサイバー攻撃を通じて年間数億ドルを不正に得ているとされており、これが国家の資金源となっている。

さらに、サイバーセキュリティに関する人材不足も大きな問題である。専門的な知識を持つ人材が不足しており、特に中小企業ではサイバー対策が後手に回ることが多い。これにより、北朝鮮のサイバー攻撃に対して脆弱な状態が続いている。

日本のサイバーセキュリティの強化に向けた取り組みは進んでいるものの、まだ不十分であるとの指摘がある。特に、民間の協力を得るために報奨金を設定することが有効である。

近年、サイバー攻撃は巧妙化しており、その被害は深刻化している。2020年には日本の医療機関がCOVID-19ワクチンの情報を狙った攻撃を受けた。アメリカでは報奨金制度を導入して民間からの情報を積極的に収集しており、成功事例として注目されている。

民間企業がサイバーインシデントを報告しやすくするために、報奨金制度が効果的である。アメリカの「Hack the Pentagon」プログラムでは、ホワイトハッカーが脆弱性を見つける活動を行い、多くのセキュリティ上の問題が発見された。

ホワイトハッカー AI生成画像

さらに、日本では専門知識を持つ人材が不足しているため、報奨金制度を通じて民間の専門家を活用することが重要である。報奨金を設定することで、国際的な協力も進み、より広範な情報収集が可能になる。

これらの理由から、日本も米国のように民間の協力を得るために報奨金制度を導入することが望ましい。これにより、民間企業や個人からの情報提供が促進され、サイバー攻撃に対する防御力が飛躍的に向上するだろう。サイバーセキュリティの強化と迅速な対応が実現できれば、北朝鮮をはじめとするサイバー脅威に対抗するための強固な基盤を築くことができる。

北朝鮮のIT戦士による活動は、単なる犯罪行為ではなく、国家戦略の一環である。そのため、国際社会はこれに対抗するために一丸となって取り組む必要がある。報奨金制度の導入は、その第一歩として極めて重要である。日本がこの課題に真剣に向き合うことで、将来的にはより安全なサイバー環境を実現できると信じている。

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2024年12月12日木曜日

アサド氏失脚、イランに「歴史的規模」の打撃―【私の論評】イランの影響力低下とトルコの台頭:シリアの復興とトルコのエネルギー戦略

アサド氏失脚、イランに「歴史的規模」の打撃

まとめ
  • イランは数十年かけて中東で影響力を築いたが、シリアのアサド大統領の退陣によりその戦略が大きな打撃を受けた。
  • アサド政権の崩壊はイランの「前方防衛」戦略を損なわせ、ハマスやヒズボラとの連携に悪影響を及ぼしている。
  • イランは国内支持が低下し、イスラエルが力を増す中で、核開発を加速する可能性が高まっている。
  • イランはイラクに注目する必要があり、シリアでの影響力を維持しつつ新たな戦略を模索している。
  • イランは依然として地域に多くの民兵組織を抱えており、その潜在力を活かそうとしている。


 イランは数十年にわたり、数十億ドルの資金を投じて中東全域で民兵組織や各国政府とのネットワークを構築し、政治的・軍事的な影響力を強めてきた。この戦略により、イランは自国領土への外国の攻撃を抑止する力を持つようになった。しかし、その同盟の基盤となっていたシリアのバッシャール・アサド大統領の退陣は、イランにとって深刻な打撃となった。

 アサド政権の崩壊は、昨年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を契機に進行し、イランの安全保障環境に根本的な変化をもたらした。これにより、イランは数十年にわたって築いてきた安全保障政策の見直しを余儀なくされるだろう。特に、アサド氏が排除されたことで、イランの「前方防衛」と呼ばれる戦略的防衛線が崩壊し、これまでの防衛体制が危機に瀕している。

 イスラエルは過去1年にわたる攻撃を通じて、イランの主要な同盟者であるハマスに大打撃を与え、さらにレバノンのヒズボラに対しても多くの指導者を排除した。国際危機グループのアリ・バエズ氏は、アサド氏の打倒によってイランの前線が崩れたと指摘しており、イランは望んでいた方向とは逆の歴史的転換点を迎えている。

 シリアはイランにとって唯一の同盟国であり、陸路でヒズボラへのアクセスを提供していた。ヒズボラはイランが「抵抗の枢軸」と呼ぶネットワークの中心であり、その存在はイランの影響力の重要な要素である。アサド政権の崩壊により、イランはヒズボラへのアクセスを失い、戦略的な立場が大きく揺らいでいる。

 加えて、イランは最高指導者のアリ・ハメネイ師が高齢化している中で、新たな安全保障状況に直面している。国内のイスラム主義政権に対する支持が低下する一方、イスラエルは力を増している。このような状況下で、イランは外国からの攻撃に対する抑止力を取り戻すために、核開発を加速する可能性が高まっている。最近の米情報機関の報告書では、イランが核爆弾の製造を決定するリスクが増大していると指摘されており、国際原子力機関(IAEA)もイランの高濃縮ウランの生産が拡大していることを明らかにしている。

 トランプ氏の大統領復帰が見込まれる中、イランはウラン濃縮に関する協議を準備していると述べているが、地域における軍事活動については交渉する意向を示していない。イスラエルがハマスやヒズボラの脅威を軽減したことで、イランの抑止力は大きく低下し、イスラエルによる空爆がイランの軍事施設に対する攻撃をもたらした。

 今後、イランはイラクに注目する必要がある。イラクは制裁の影響を回避するための重要な経済ルートであり、イランにとっての安全保障上の懸念でもある。イランはシーア派民兵ネットワークを築き、シリアでの反体制派の攻勢に直面した民兵がイラクに逃れてきている。これにより、イランは自国の安全を守るためにイラクへの関心を高めるだろう。

 シリアとの関係は深く根付いており、イランは今後もシリアで一定の影響力を維持できる可能性がある。イランは地域全体で忠誠を誓う勢力を増やしてきたため、シリアの将来の政治状況が不安定でも、イランはその影響力を活かすことができるかもしれない。

 このように、イランは現在、複雑な状況に直面しており、地域内での影響力を再構築するための戦略を模索している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。 

【私の論評】イランの影響力低下とトルコの台頭:シリアの復興とトルコのエネルギー戦略

まとめ
  • イランはアサド政権崩壊前から困難な状況にあり、代理勢力を通じてイスラエルに対抗する戦略が期待通りに機能していない。
  • ハマスの独自行動がイランの期待を裏切り、イランの影響力が減少し、民兵組織を利用する戦略の脆弱性が露呈した。
  • シリアの新政府は難民帰還と住民サービス再開を目指すが、経済は厳しく、国庫にはほとんど価値のないシリア・ポンドしか残っていない。
  • アサド政権の崩壊によってトルコが地域のリーダーとして浮上する可能性が高まり、シリアとのエネルギー関係がその鍵となる。
  • シリアが安定し、エネルギー資源を活用できるようになれば、中東全体のバランスが変わる可能性があり、トルコの支援が重要視される。

ガザ地区からイスラエルへ向けて発射されたロケット弾 2023年10月7日

イランはアサド政権崩壊前から窮地にあった。このことは、以前のブログでも触れたことである。イランはハマスやヒズボラなどの地域の代理勢力を利用し、イスラエルに対抗する戦略を採用していた。これらの組織は「抵抗の枢軸」として知られ、イランは彼らを通じて影響力を強化しようとしていた。しかし、ハマスが独自に行動した結果、イランの期待通りの連携は実現せず、イランの立場は弱まることとなった。

ハマスのイスラエル攻撃は短期的には成功を収めたが、イスラエルの報復を招き、ハマスは重大な損害を被った。この状況は、イランが期待していた戦略的効果を逆転させ、イランが支援する他の民兵組織にも不安をもたらした。これにより、イランの影響力は減少し、民兵組織を利用する戦略の脆弱性が露呈した。

国際的な反応もイランに影響を及ぼしている。イラン支援の民兵組織に対する監視が強化され、これによりイランの地域での影響力を維持する手段が制約される可能性が高まっている。このような状況は、イランの軍事戦略全体を見直す必要を迫るものであり、ハマスの独自行動がイランの戦略に与えた影響は決して小さくない。

特に、ハマスの行動がイランの期待を裏切ったことで、イランは民兵組織を利用する戦略の脆弱性を意識せざるを得ない状況に直面している。現在、イランは「抵抗の枢軸」を明確に位置づけできず、イスラエルによる長距離防空システムの破壊は、イランの軍事的選択肢を大幅に制限している。

さらに、イランの核開発は長年にわたり、イスラエルや国際社会にとっての懸念材料であった。イランが核兵器を保有することで地域のパワーバランスが崩れ、イスラエルにとって脅威が増大することが予想されていた。しかし、最近のイスラエルの攻撃により、イランの核施設に対する攻撃能力が示され、イランの核兵器に対する抑止力は大きく減少したと考えられる。

要するに、現在のイランは対イスラエル戦略において八方塞がりの状況にある。長距離防空システムの破壊によって自国の防衛能力が低下し、核の使用やそれによる脅しが効果を持たない可能性が高まっている。このような状況下で、トランプ政権が再び誕生することは、イランをさらに窮地に追い込む要因となるだろう。今後、イランはこの経験を踏まえて戦略を再考せざるを得ない状況に直面している。

ハマスの攻撃はイスラエルとの軍事的緊張を高め、シリアやイランを含む地域全体に波及した。この状況はアサド政権への圧力を増大させ、政権維持を困難にする要因となった。

さらに、ロシアはウクライナ戦争によってリソースが制約され、シリアへの支援に十分な余裕を持てなくなっている。これにより、アサド政権への支持が揺らぎ、政権の安定性が脅かされ、最終的に崩壊する結果となった。

アサド政権崩壊によるイランの影響力低下と、トルコの台頭は中東地域で重要な変化をもたらす。ただし、この変化には不確定要素も多く含まれており、新たな過激派勢力の台頭や地域全体の不安定化といったリスクも存在する。しかし、トルコは地理的・戦略的条件や国際関係上の有利な立場を活かし、新たな地域リーダーとして浮上する可能性が高いと言える。


シリアのアサド政権を打倒した反政府勢力によって暫定首相に任命されたムハンマド・バシル氏は、数百万人のシリア難民の帰還と基本的な住民サービスの再開を目指している。しかし、国庫にはほとんど無価値のシリア・ポンドしか残っておらず、経済の厳しい現実を強調している。

ダマスカスでは、パン屋に長い行列ができており、これはシリアが抱える深刻な経済問題の一端を示している。バシル暫定首相は、外貨がなければ難民の帰還や住民サービスの提供が困難になると警告している。彼は、反政府勢力がアサド政権を倒す前に北西部で政権を運営していた経験を持っている。

ダマスカスでは銀行や商店が再開しているものの、内戦によって何十万人もの命が奪われた復興は険しい道のりである。地元の事業者は、通貨問題がビジネスの妨げになっていると語り、イドリブ地域やアレッポから来た人々がトルコリラやドルしか持っていないため、両替の方法がわからず困っている状況を述べている。

アサド政権に対する国際的な制裁も経済崩壊の要因の一つである。アサド政権の崩壊を受けて、米国の上院議員2人がシリア制裁の一部停止を求める書簡を送っている。最も厳しい制裁の一つは今月更新される予定で、暫定政府は制裁緩和について米政府に連絡を取っているとロイターが報じている。

ダマスカス商工会議所のトップは、新政府が経済関係者に対し、従来の統制経済をやめ、今後は自由市場モデルを採用し、国際金融システムとの統合を目指す意向を示したと語っている。シリアの新政府は経済の再建に向けた試行錯誤を続けているが、その道のりは依然として厳しいものとなりそうだ。

この状況は、米国が制裁を解除しただけでは改善されないだろう。シリアは産油国ではあるが、その生産量は中東の主要な産油国と比べると少ない。シリアには石油資源が存在し、特に北東部のデリゾールやハセケなどの地域で油田が見つかっている。内戦前は、シリアは一定の石油生産を行っており、その収入は経済にとって重要な要素であった。

シリアの油田

しかし、内戦が始まって以降、石油生産は大きく減少し、インフラが破壊されたため、現在の生産能力は著しく低下している。国際的な制裁や反政府勢力による油田の掌握も影響を与えている。したがって、シリアは産油国であるものの、現在の状況ではその資源を十分に活用できていないのが実情である。

まずはシリアが原油を生産できるようになり、さらにそれを輸出できるようにすることが復興の条件となるだろう。

シリアとトルコの間に天然ガスや原油のパイプラインが建設されれば、トルコにとっても利点がある。エネルギー供給の多様 化が進み、エネルギー安全保障が強化される。また、輸送手数料や関連ビジネスからの収益を得ることができ、経済的利益も期待できる。さらに、シリアのエネルギー資源を利用することで、地域における影響力を高めることが可能である。トルコは「エネルギー地政学」での地位をさらに強化できることになる。

この機会をトルコが逃すことなく、シリアの復興を支援し、中東に確固たる地位を築いてほしいものである。シリアとトルコの関係が深化すれば、両国にとってウィンウィンの状況が生まれる可能性が高い。トルコはその地理的・戦略的条件を活かし、シリアの安定に貢献することで、地域のリーダーシップを確立する道を歩むことができる。

要するに、シリアの復興とトルコのエネルギー戦略は密接に関連している。シリアが安定し、エネルギー資源を活用できるようになれば、地域全体のバランスが変わるだろう。中東の未来は、シリア新政権とトルコの関係次第で大きく変わる可能性を秘めている。そのため、両国が協力し合うことが求められている。

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シリア、アサド政権崩壊で流動化 戦況混迷、収拾めど立たず―存在感高めるトルコ

まとめ
  • シリアのアサド政権崩壊後、反体制派が攻勢を強め、「シャーム解放機構」(HTS)が国土の中枢を掌握し、権力移譲の主導権を握る可能性があるが、統治方法の不透明感から警戒が強まっている。
  • トルコは反体制派を支援し、シリア国境に「安全地帯」を設ける意向を示しているが、クルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)との対立が続いている。
  • 米国はIS討伐を重視しつつ、反体制派への関与を慎重に見極めている。ロシアやイランはアサド政権の影響力低下を懸念し、反体制派との関係構築を模索している。

 シリアのアサド政権崩壊を受け、反体制派の攻勢が始まり、戦況が再び動き出している。特に「シャーム解放機構」(HTS)が北西部イドリブ県から急速に進軍し、わずか12日間で国土の中枢部を掌握した。これにより、反体制派が今後の権力移譲プロセスを主導する可能性が高まっている。しかし、彼らの統治方法は不透明であり、過激なイスラム主義から穏健路線への転換を強調しているものの、警戒感が強まることが予想される。

 トルコは反体制派と深い関係を持つ隣国であり、エルドアン大統領はHTSをテロ組織に指定しながらも、彼らの進攻を容認している。トルコはシリア国境に約30キロの「安全地帯」を設け、シリア難民を帰還させる意向を示しているが、これによりクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)との対立が続いている。SDFは、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討の一環として米国の支援を受けており、アサド政権に対抗するため政権支配地への進攻を試みている。しかし、トルコとの関係から劣勢に立たされる可能性がある。

 米国はシリア国内でのIS討伐を重視し、バイデン大統領は約900人の米軍駐留を継続する意向を示した。しかし、反体制派に対しては「今は正しいことを言っているが、言葉だけでなく行動で判断する」と述べ、関与の是非を見極める構えを示している。

一方、アサド大統領を支えてきたロシアやイランは、今後影響力の低下が避けられない状況にある。ロシアはアサド氏の亡命を受け入れ、地中海沿岸のシリア北西部にあるロシア軍基地の維持が死活問題となっている。イランも「国の将来を決めるのはシリア国民」との立場を示し、アサド氏との距離を置き始めている。両国は反体制派との関係構築や影響力の確保を模索しているようである。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧ください。

【私の論評】シリア内戦とトルコの戦略:秋篠宮両殿下のトルコ訪問が示す新たな展望

まとめ
  • シャーム解放機構(HTS)はアサド政権を崩壊させたが、イラクの大部分を占拠していない。
  • イスラエルはシリア南部に防衛地帯を設け、空爆を通じてシリアの戦略兵器を破壊した。
  • トルコのエルドアン大統領は、シリアの政変を利用して影響力を強化し、HTSを支援している。
  • トルコはクルド人勢力の排除も目指し、米国との関係に影響を及ぼすリスクがあるともみられるがトランプ政権はトルコの覇権を許容するだろう。
  • このような時期に秋篠宮両殿下のトルコ訪問は、まことに時宜をえたものであった。日本政府も今後トルコとの関係を強めていくべきである。
「シャーム解放機構」(HTS)は、アサド政権を崩壊させたが、イラクの大部分を占拠したわけではない。アサド政権の崩壊後、残存勢力が互いに争い、空白地域を埋めようとするのは必然の流れであり、今後しばらくシリアの内戦状態は継続するだろう。

イスラエルのカッツ国防相は、イスラエルに対するテロの脅威を防ぐため、シリア南部に「イスラエル軍が常駐しない防衛地帯」を設けることを目指していると発表した。イスラエル軍は最近の空爆でシリアの戦略兵器の大半を破壊し、アサド政権崩壊後の48時間で350回以上の攻撃を実施した。


さらに、イスラエルのミサイル艦艇がシリア海軍の施設を攻撃し、シリア全土への攻撃は反政府勢力による戦略兵器の使用を防ぐためであると説明している。ネタニヤフ首相はシリア内政に干渉する意図はないとしながらも、安全確保のために必要な行動をとると強調した。

アサド政権崩壊後、イスラエル軍は緩衝地帯に進軍し、ダマスカスを見下ろす戦略的拠点を管理下に置いたとされている。また、イスラエルの部隊はさらに進出し、カタナの町に到達したとの情報もある。しかし、イスラエル軍はダマスカスに向けて進軍しているとの報道を否定している。

一方、トルコのエルドアン大統領は、シリアでの政変を受けて影響力を高め、国内外での政治的地位を強化した。HTSはエルドアン氏を英雄視し、トルコ紙はシリアにおけるトルコの役割を称賛している。コンサルティング会社の専門家は、アサド政権崩壊後、トルコが最も影響力のある外国勢力として浮上したと述べている。

トルコに支援されるHTSは、クルド人勢力の排除に積極的であり、これはトルコの長年の目標である国境沿いの緩衝地帯設置に沿った動きである。しかし、これは米国からの反発を招くリスクを伴う。米国が支援するクルド人勢力はIS掃討に重要な役割を果たしており、トルコが軍事行動を起こせば米国の利益を損なう可能性がある。

エルドアン氏の戦略に関するトルコの当局者は、トランプ政権がクルド人勢力に対してどう対応するかが米国・トルコ関係に大きな影響を与えると指摘している。また、トルコの外相は、国際社会がシリア国民に支援を行い、包括的な政府の樹立を促進するよう期待していると述べている。シリアの復興はトルコのインフラ企業に機会をもたらし、通商関係の強化も見込まれる。

ただし、第一次トランプ政権の際、米軍はシリアから撤退している。この際、トランプ氏とエルドアン氏の間に裏取引があったとされる。詳細は以前のブログで解説しているが、ここではざっくりと概要をまとめる。

エルドアン首相は、トランプ氏に対しISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明した。トランプ大統領は、この状況で米国としてはNATOの同盟国であるトルコに任せるべきと判断したと考えられる。これにより、米国はシリアに拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると見込んだのだ。さらに、トランプ氏はIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約を果たすことにもなった。

当時、米国内ではシェールオイル・ガスが発掘され、シリアの原油はトランプにとって魅力を失っていた。米国がシリアに拘る理由が薄れ、莫大なリソースを中国との対峙に振り向ける方が得策だと考えたのだろう。

エルドアン トルコ大統領とトランプ米大統領

こうなると、トランプ政権が今後クルド人勢力に支援してまでシリアで覇権を行使する理由は見当たらない。あくまでトルコに任せる姿勢を維持するだろう。イスラエルも混乱が続くよりは、こちらの方を望むだろう。

当面は混乱が続くかもしれないが、HTSがトルコの支援を受けつつ勢力を拡張し、いずれイラクの大部分を統治する可能性が高い。トルコもその方向で動くことが予想される。以前このブログでも述べたように、シリアに新たな親トルコ政権ができれば、トルコは「エネルギー地政学」での地位をさらに強化できる。現在、シリアとトルコ間には石油・ガスのパイプラインは存在しないが、これが実現すれば、トルコはEUに対するエネルギー源の中継地を押さえることになる。トルコがその機会を逃すはずはない。

米国とは異なり、未だに中東の石油に大きく依存する日本は、今後トルコとの関係をさらに強めていくべきだ。秋篠宮皇嗣同妃両殿下は、令和6年12月3日から8日までの6日間、日本とトルコの外交関係樹立100周年を記念してトルコ共和国を公式にご訪問遊ばされた。このご訪問は、まさに時宜を得たものである。

トルコ・アンカラの大統領府で、エルドアン大統領夫妻と面会される秋篠宮皇嗣同妃両殿下

トルコはSDFがクルド労働者党(PKK)と関連していると主張し、PKKをテロ組織と見なしている。これに対する国際的な支援や認識に対して批判的な立場を取ることが多い。埼玉県川口市のクルド人の中にはPKK関係者も存在するとされている。この問題は、トルコと日本の関係を毀損する可能性もあり、早急に解消すべきだ。日本政府も、今後トルコとの関係を強化していく必要がある。 

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2018年12月23日


2024年12月10日火曜日

第三次世界大戦は「すでに」始まっている、企業は今すぐ備えよ―【私の論評】第三次世界大戦の兆候と国際情勢の緊迫化:エマニュエル・トッド、エドワード・ルトワックの警鐘

 第三次世界大戦は「すでに」始まっている、企業は今すぐ備えよ

まとめ

  • シリアのアサド政権の崩壊は、世界の紛争が相互に関連し、第三次世界大戦が始まっていることを示している。
  • JPモルガンのダイモンCEOも、複数国での同時多発的な戦闘を指摘し、リスクの高さを警告している。
  • ロシアのウクライナ戦争がシリアの政権防衛能力を低下させ、紛争の相互関連性が高まっている。
  • ビジネスリーダーは、世界的な紛争が経済やサプライチェーンに与える影響を考慮し、リスク管理が必要である。
  • 紛争の中で倫理的な機会を見出し、企業の社会的責任を果たすことが重要である。
8日、ダマスカスで、アサド政権の崩壊を喜ぶ人たち

 シリアのバッシャール・アサド大統領の独裁政権の崩壊は、世界の紛争が相互に絡み合っている現実を浮き彫りにし、第三次世界大戦がすでに始まっているといっても良い状況にある。JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOもこの見解を支持し、国際金融協会(IIF)の年次総会で、「第三次世界大戦はもう始まっている」と警告した。彼は、複数の国で同時多発的に戦闘が行われている現状を強調し、リスクの高さを訴えている。

 ロシアのウクライナ戦争が、シリアのアサド政権の防衛能力を低下させ、結果的に政権が崩壊に至ったことが、ダイモンの主張を裏付けている。ロシアがシリア内戦に介入していなければ、アサドは早期に追放されていた可能性が高い。現在、ロシアの国力がウクライナ戦争によって消耗し、イランもイスラエルからの攻撃を受けてシリアでの戦闘を維持することが難しくなっている。

 これらの紛争が単なる局地的な問題ではなく、相互に関連した世界規模の紛争の一部である。具体的には、大国が直接または代理を通じて関与し、政治的・経済的・イデオロギー的な目的が絡み合っていることがその特徴だ。このような状況は、第一次・第二次世界大戦の初期に類似しており、局地的な紛争が世界規模の対立に発展する可能性が高い。

 ビジネスリーダーにとって、このような情勢は重大な影響を及ぼします。世界的な紛争が拡大することで、経営する事業やサプライチェーン、顧客にも影響が及ぶため、リスクを認識し、適切な対応策を講じる必要がある。ダイモンCEOが述べたように、「この問題が自然に解決するのを待つわけにはいかない」との認識が必要だ。

 また、紛争の中で新たな機会を見出すことも重要だ。これは単に利益を得ることではなく、企業が人道支援活動やサプライチェーンの強化、被災地域の復興に貢献する方法を特定することを意味する。こうした行動は企業の社会的責任に合致し、地域社会の信頼を築くことにもつながる。

 第三次世界大戦は過去の二つの世界大戦とは異なる形で進行する可能性が高い。戦争は断続的に続く可能性があり、一時的な休戦に惑わされず、長期的な視野で新たな紛争の時代に備える必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】第三次世界大戦の兆候と国際情勢の緊迫化:エマニュエル・トッド、エドワード・ルトワックの警鐘

まとめ

  • ワシントン・ポスト紙に掲載されたコラムで、コラムニストのウィルは、ロシア、北朝鮮、イラン、中国との間で実質的に第三次世界大戦が始まっていると警告し、国際関係における緊張の高まりを指摘している。
  • ロシアのウクライナ侵攻が西側諸国との対立を激化させ、北朝鮮やイランの動きにも影響を与えている。
  • 中国の軍事的拡張や台湾への威圧が、欧米との関係をさらに緊張させる要因となっている。
  • 米国の指導者たちが危機的状況を軽視し、適切な対策を講じないことで国際的な緊張が悪化する可能性があるとウィルは警鐘を鳴らしている。
  • エマニュエル・トッドやエドワード・ルトワックも、国際情勢の複雑さと戦争のリスクについて警告しており、日本も真剣に備える必要がある。

2024年10月16日付のワシントン・ポスト紙に掲載されたコラムで、コラムニストのウィルは、ロシア、北朝鮮、イラン、中国との間で実質的に第三次世界大戦が始まっていると警告している。この主張は、国際関係における緊張の高まりを背景にしている。

ロシアのウクライナ侵攻開始を伝えたテレビの画面 2022年2月25日

ウィルはまず、ロシアのウクライナ侵攻を挙げ、これが西側諸国との対立を激化させていると指摘している。ロシアはウクライナの主権を侵害し、国際秩序への挑戦を行っている。この行動は、北朝鮮やイランの動きにも影響を与えている。北朝鮮は核兵器の開発を続け、ミサイル発射を繰り返しており、国際的な懸念が高まっている。イランは中東での影響力を拡大し、地域の安定を脅かす存在となっている。

さらに、中国の軍事的な拡張や台湾に対する威圧も、欧米との関係を緊張させる要因となっている。南シナ海での領有権主張や台湾への圧力を通じて、中国の行動は顕著に表れている。ウィルは、複数の地域での対立が相互に影響し合い、国際的な安全保障に対する脅威が増大していると強調している。

ウィルはまた、アメリカの政治指導者、特にハリス副大統領とトランプ前大統領がこの危機的状況に対する認識が不足していると批判している。彼らが現実の脅威を軽視することで、適切な対策を講じることができず、国際的な緊張がさらに悪化する可能性があると警鐘を鳴らしている。指導者たちがこの状況に対して強固な立場を取らず、外交的な解決策を模索する姿勢が欠けていることが、さらなる危機を招く要因となっているとしている。

このように、ウィルのコラムは、国際関係における複雑な脅威を強調し、現代の指導者たちがそれに対処するための意識と戦略を持つべきだと訴えている。彼の視点は、現在の国際情勢が非常に不安定であり、早急な対策が求められていることを示唆している。

ロシアのウクライナ侵攻が第三次世界大戦の始まりであるとの指摘は、驚くべき警告であるが、ソ連崩壊を正確に予測した、フランスの著名な社会学者エマニュエル・トッドは、すでに2022年5月に同様の見解を示している。トッドはロシアの行動が国際秩序に与える影響を深く掘り下げ、特に2014年のクリミア併合を重要な転換点として位置づけている。

エマニュエル・トッド氏

トッドは、クリミア併合をロシアの西側諸国に対する挑戦の始まりと見なし、この出来事が国際的な緊張を高め、最終的には大規模な軍事対立を引き起こす可能性があると警告している。彼は、ロシアの行動が単なる地域的な問題ではなく、グローバルなパワーバランスに影響を与えるものであると主張している。この観点から、ロシアの侵攻は単一の国の問題ではなく、より広範な国際的な紛争の一環と捉えられるべきだと言う。

さらに、トッドはロシアの行動が他の国々、特に西側諸国にどのような反応を引き起こすかを考察し、これがさらなる対立を生む可能性があることを強調している。国際的な安全保障の枠組みが揺らぎ、各国がそれぞれの立場を強化する結果、冷戦時代のような二極化した世界が再現される危険性についても言及している。

つまり、トッドの見解は、ロシアの行動を単なる地域的な紛争として片付けるのではなく、国際社会全体に波及する大きな歴史的な流れの一部として理解する必要があるとするものである。後から振り返れば、クリミア併合が新たな世界的な緊張の始まりであったと認識されるかもしれないというトッドの予測は、国際関係の複雑さと不確実性を強調している。これは、現在の状況を考える上で重要な視点を提供しており、今後の国際情勢を見極める上での警鐘となる。

米国の戦略家エドワード・ルトワックは、さらに古くから第三次世界大戦について警告している。彼は1990年代から2000年代にかけてさまざまな著作や講演で言及しており、特に著書『戦争の後』や『戦略の技術』で国際関係の変化や戦争のメカニズムについて詳しく論じている。

ルトワックは1993年に発表した『戦争の後』の中で、冷戦後の新たな国際秩序におけるリスクについて警告している。アメリカが単独超大国としての地位を確立した後、他の大国がその影響を受ける中で新たな緊張が生まれる可能性があると述べている。特に中国やロシアの動向が重要であり、これらの国々がアメリカに対抗するために軍事的手段を取る可能性を指摘している。

エドワード・ルトワック氏 米戦略国際問題研究所 (CSIS) 上級顧問

また、ルトワックは「平和は戦争の糧である」という考え方を強調し、長期間の平和が逆に戦争のリスクを高めることがあると述べている。長い平和が続くと、国家間の対立が潜在的に蓄積され、偶発的な事件が戦争を引き起こす引き金となる可能性があると警告している。このような見解は、近年の国際情勢における緊張の高まりを考える上で重要である。

さらに、ルトワックは権威主義的な政権が国内の問題を外部の敵に転嫁することで、戦争のリスクを増大させることについても触れている。具体的な例としてロシアのウクライナ侵攻を挙げ、プーチン政権が国内の経済問題や政治的圧力を外部の対立に利用していると指摘している。国内の不安定さが外部との対立を引き起こし、戦争のリスクを高める可能性があると述べている。

これらの発言は、国際関係の複雑さを理解する上で非常に重要であり、第三次世界大戦の可能性についての警戒を促すものである。ルトワックの理論は、現代の国際情勢における戦争のリスクを探るための貴重な視点を提供している。

ただし、第一次、二次世界大戦のように、大国や主要国が実際に戦争するかどうかは別にして、これらの国々の利害が複雑に絡み合い、今後世界各地で武力衝突が頻発するのは間違いないだろう。これを第三次世界大戦の呼ぶか、呼ばないかは別にして、大規模な武力衝突が起こる可能性は否定できない。

こうした状況を踏まえると、日本も紛争や不測の事態に対して真剣に備える必要がある。特に周辺国の軍事的動向や地域の緊張の高まりを考えると、日本が単に平和を期待するだけでは不十分であることは明らかである。

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「アサド家」の統治、あっけない終焉 要因はロシアとイラン勢力の弱体化 シリア政権崩壊

まとめ
  • アサド政権の崩壊は、ロシアとイラン勢力の弱体化によるもので、特にロシアのウクライナ戦争が影響を与えた。
  • 反体制派の攻勢により、アサド家の統治が半世紀以上で終焉を迎えた。


 シリアのアサド政権の崩壊を招いたのは、後ろ盾だったロシアとイラン勢力の弱体化が要因だ。ロシアは2022年からのウクライナとの戦闘で疲弊。イランと親イラン民兵組織ヒズボラは昨年10月以降、パレスチナ自治区ガザなどでのイスラエルとの交戦で力をそがれていた。

 シリアでは11年に中東民主化運動「アラブの春」が波及し反政府デモが本格化、内戦に突入した。アサド政権は劣勢に立たされたが、ロシアの支援で一気に盛り返した。20年にロシアと、反体制派を支援していたトルコが停戦合意し、戦闘は下火になっていた。

 ところが、ロシアのウクライナ侵攻は長期化し、アサド政権を支える余裕は失われた。ガザでの戦闘では、ハマスと共闘するヒズボラは中東最強のイスラエル軍の攻撃にさらされ、大きく力を失った。

【私の論評】地中海への足場が失われ露の中東・アフリカ戦略に大打撃

まとめ
  • ロシアにとってシリアは地中海に面した戦略的要衝であり、タルトゥース海軍基地とフメイミム空軍基地を通じて中東やアフリカへの影響力を行使していた。
  • アサド政権の崩壊は、ロシアにっとって重要な軍事拠点を失うことを意味しており、反体制派への空爆を行っていた。
  • タルトゥースはロシアの唯一の地中海軍基地であり、地域の軍事活動を支える重要な拠点である。
  • トルコによるボスフォラス海峡通過の制限により、タルトゥースの重要性が増していた。
  • 反体制派はロシア軍の駐留を拒否する可能性が高く、これによりロシアのシリアにおける影響力が大きく揺らぐ。
  • シリアの未来は不透明であり、そこには新たな混乱の種が潜んでいる。 

トルコとシリア周辺図 クリックすると拡大します

ロシアにとって、地中海に面するシリアは戦略的な要衝である。2つの主要な軍事施設を通じて、中東やアフリカへの影響力を行使してきた。

タルトゥース海軍基地は、ロシア海軍にとって地中海での唯一の補給・修理拠点である。気候が温暖で、一年中利用できる貴重な軍港だ。また、フメイミム空軍基地は近年、アフリカでの活動を広げるロシアにとって中継拠点としての価値が高まっていた。

反体制派が攻勢に出た11月27日から、わずかな期間でアサド政権は崩壊した。父の代から半世紀以上続く「アサド家」の統治はあっけない終焉を迎えたのである。

ロシアは2015年、アサド政権側でシリア内戦に軍事介入し、戦況を政権軍に有利に覆した。ロシアは介入を通じ、旧ソ連時代から租借してきたタルトゥースの軍港に加え、北西部のフメイミム空軍基地の使用権も獲得した。これらは中東やアフリカにおける軍事的影響力を行使するための拠点である。

しかし、今回の反体制派の攻勢でアサド政権が打倒された場合、ロシアはこれらの拠点を失う危険性があると見て、反体制派への空爆に着手していた。

シリア国内のロシア軍拠点

タルトゥース海軍基地やフメイミム空軍基地の他、ロシア軍はシリアに複数の拠点を持っている。ハマ周辺にはロシア軍の基地があり、シリア内戦において重要な役割を果たしている。また、ホムスにもロシア軍の拠点があり、シリア政府軍と共に活動している。

一方、イドリブは反体制派の支配地域であり、ロシア軍の公式な拠点は少ないが、空爆や支援活動が行われていた。最後に、ラタキアにはロシアの重要な軍港があり、ここもロシア軍の拠点として機能し、シリア政府軍への支援が続けられていた。

ただし、ロシア軍が特に力を入れていたのはタルトゥース海軍基地とフメイム空軍基地である。ロシアは主に海軍力と空軍力をシリアに配置しており、陸軍はほとんど駐留していなかった。これはアサド政権に任せるという姿勢を示していた。

もしロシアがウクライナ戦争をしていなければ、シリアに陸軍を派遣し、アサド政権を本格的に支援していた可能性がある。

特にタルトゥース海軍基地はロシアにとって非常に重要な拠点である。その理由は明白だ。まず、タルトゥースはロシアの地中海における唯一の海軍基地であり、地中海での軍事活動を支える戦略的な拠点である。ここからロシア海軍は地中海地域での作戦や支援活動を行うことができる。

次に、タルトゥースはシリア政府との強固な関係を象徴している。シリア内戦を通じてロシアの影響力を維持する手段となっている。この基地を通じて、ロシアはシリア政府軍への支援を行い、地域の安定を図ることができているのだ。

さらに、トルコはボスフォラス海峡を通過する外国の軍艦に対して制限を設けており、これがロシアにとってタルトゥースの重要性を高めている。ボスフォラス海峡を通過できない場合、タルトゥースがロシアの地中海へのアクセスを確保するための重要な拠点となる。

2020年5月ロシア海軍とシリア海軍タルトゥース港で合同演習を実施していた

ロシア海軍が地中海方面に南下するにはタルトゥース基地に頼らざるを得ない状況であるが、反政府勢力が迫る現在、同基地の存在は危ぶまれている。ウクライナ侵攻前であれば、ロシアは追加部隊を派遣して基地の防衛を強化し、反政府勢力を押し返すことも可能であったが、現在のロシア軍にはその余裕がない。ロシアのラブロフ外相は否定しているものの、おそらく艦隊を退避させたことがそれを示している。退避した艦艇は一旦、北アフリカの友好国であるアルジェリアやリビアの港に退避したと推測される。

アサド政権が崩壊したシリアのジャラリ首相は8日、アサド政権との合意に基づいて駐留してきたロシア軍の今後について「私の権限外であり、新しい政府が決めるだろう」と述べた。これは、アサド政権を打倒した反体制派とロシアの協議次第だとする考えを示している。中東の衛星テレビ、アルアラビーヤでの発言として露タス通信が伝えた。

しかし、反体制派はロシア軍の駐留を拒否するだろう。これにより、シリアにおけるロシアの影響力は大きく揺らぐことになる。ロシアの地中海への足場が失われることは、国際的な戦略においても大きな打撃となるだろう。シリアの未来は不透明であり、そこには新たな混乱の種が潜んでいる。 

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2024年12月8日日曜日

アメリカ軍の司令部 「今、中東にいます」潜水艦の位置情報をSNSで投稿!? 異例の行為の狙いとは―【私の論評】日本も見習うべき米軍のオハイオ級攻撃型原潜中東派遣公表の真の意図

アメリカ軍の司令部 「今、中東にいます」潜水艦の位置情報をSNSで投稿!? 異例の行為の狙いとは

まとめ
  • アメリカ中央軍司令部は、オハイオ級原子力潜水艦を中東に配備したと発表し、これは中東での戦闘拡大を防ぐ意図があると報じられている。
  • 潜水艦の動向を公表することは異例であり、詳細な艦名は明らかにされていないが、巡航ミサイルを搭載したタイプの可能性が高いとされている。
中東に派遣されるオハイオ型原潜が出港するようす。twitteで公開された。

 アメリカ中央軍司令部は2023年11月5日、巡航ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射機能を有するオハイオ級原子力潜水艦を中東方面へ配備したと発表しました。

 国防総省が潜水艦の動向を公表することは、かなり異例のことで、しかも報告は中東地域を担当する中央軍の公式X(旧:Twitter)を利用して行われました。

 CNNや星条旗新聞などアメリカの各メディアは、今回の異例の発表は、中東での戦闘の拡大を防ぐための行動である報じています。

 中東では、イスラエルと、ガザ地区を実効支配しているイスラム武装組織「ハマス」との間で戦闘が続いていますが、この戦闘にイランや同国が支援するイエメンのフーシー派などが積極的に介入することを、戦力を誇示し防ぐ狙いがあるようです。

 オハイオ級には、巡航ミサイルである「トマホーク」のみを154基搭載したタイプと、SLBMを24基と「トマホーク」22基を搭載した二種類が現在就役していますが、中央軍は「オハイオ級」と発表したのみで、艦名までは公表していないので、どちらのタイプかは明らかになっていません。なおCNNでは、恐らく巡航ミサイル発射タイプの方であろうと予想しています。

【私の論評】日本も見習うべき米軍のオハイオ級攻撃型原潜中東派遣公表の真の意図

まとめ
  • 米軍は潜水艦の運用を秘密裏に行っており、攻撃型原潜の派遣を公表したのは新しい動きである。
  • オハイオ級攻撃型原潜は、最大154基の「トマホーク」を搭載し、敵に対する抑止力を高める役割を果たす。トランプ氏はこれをかつて「水中の空母」と形容した。
  • 日本では潜水艦を用いた軍事シミュレーションがほとんど行われておらず、潜水艦の行動が秘匿されつづけている。
  • 米国のように、日本も潜水艦の派遣やその結果を公表することで抑止力を強化すべきである。
  • 海上自衛隊は一例として潜水艦を訓練に参加させたことを公表したが、このようなことを今後も意図的に行い、抑止力の一環とすべきである。
米軍が潜水艦の動きや作戦を発表することはほとんどない。戦略型原子力潜水艦は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略爆撃機とともに、米国の核抑止力の「三本柱」として、ほぼ完全に秘密裡に運用されている。しかし、今回派遣したのは攻撃型原潜であり、核は搭載していないとみられる。米軍は攻撃型原潜に関しても、従来は潜水艦の行動を極秘扱いしていたが、攻撃型に関してはその扱いを変えつつあるのかもしれない。

ドック入りするオハイオ級原潜 その巨大さがわかる

米国が中東での潜水艦の運用を発表したことは、イランやその代理勢力に対する抑止力の明確なメッセージだ。潜水艦の名前は発表されていないものの、中東地域に展開されている米海軍の兵力の一部に加わる見通しである。米軍は、すでに二つの空母打撃群、USS Gerald R. Ford(CVN-78)とUSS Dwight D. Eisenhower(CVN-69)を中東に派遣している。

かつてトランプ氏はオハイオ級攻撃型原潜を「水中の空母」と表現した。これは2018年に行われた演説の中でのことだ。この発言は、アメリカの軍事力を強調する文脈で行われたものであり、オハイオ級の能力と役割を際立たせるものである。オハイオ級攻撃型原潜は、最大154基の巡航ミサイル「トマホーク」を搭載でき、広範囲な地上目標に対して精密攻撃を行うことが可能だ。SLBMを24基と「トマホーク」22基を搭載するタイプもあり、核抑止力としての役割も果たしている。

さらに、オハイオ級は敵の防空網を回避しながら深海から攻撃を行うことができるため、非常に効果的な運用が可能である。水中でのステルス性能により敵に発見されにくく、サプライズ攻撃が実行できる。加えて、空母と同様にオハイオ級は迅速に展開でき、緊急事態や危機に対して即応可能な力を提供する。これにより、海上での影響力が高まり、空母が航空機を運用して広範囲にわたる空中支援を提供するのに対し、オハイオ級は水中から直接的なミサイル攻撃を行うことができる。

敵国に対する圧力を高め、地政学的な優位性を確保するのである。トランプ氏の「水中の空母」という表現は、これらの能力を踏まえたものであり、オハイオ級が持つ戦略的な価値を強調している。これは、現代の海戦において潜水艦が果たす役割がますます重要になっていることを示すものである。

オハイオ型原潜のミサイル発射ハッチを全開した写真

今回、米軍がオハイオ級原潜を中東に派遣したことを公表したというニュースは驚くべきものである。今後、攻撃型原潜を空母打撃群と同じように抑止の一貫として用いることを企図していることがうかがえる。

従来は、いずれの国でも潜水艦の行動は隠す傾向が強く、軍事シミュレーションでさえこれを表に出すことなく、まるで潜水艦など存在しないかのように扱われていた。しかし米国では一昨年あたりから、公表された軍事シミュレーションで潜水艦を用いたものが出始めた。今回は軍事シミュレーションどころか、実際に中東に配置したことをツイッターを用いて公表したのである。

日本においては、未だ潜水艦を用いた軍事のシミュレーションの公表は表立ってほとんど行われていない。これは、いわゆる軍事アナリストも同様であり、ほとんどのシミュレーションで潜水艦は登場しない。まるで、日本には潜水艦が存在しないかのような論評が多い。ただ、インターネットの番組で、潜水艦を前提に台湾有事を語る元自衛隊幹部もいたが、これは本当に例外的と言っても良い。

米国が攻撃型原潜の中東派遣を公表するようになった現在、日本も軍事シミュレーションなどで積極的に潜水艦を取り入れ、その結果を場合によっては公表すべきである。さらに、実際に潜水艦を派遣する地域などについても、場合によっては公表すべきだと考える。

海自の「そうりゅう型」潜水艦

ただし、例外もある。この点については、このブログにも掲載したことがある。海上自衛隊は2020年12月7日から1か月余りの日程で、最大の護衛艦「かが」などを南シナ海からインド洋にかけての海域に派遣し、各国の海軍と共同訓練を行った。しかし、海上自衛隊は同年同月15日、この訓練に潜水艦1隻を追加で参加させると発表した。これは異例中の異例であり、ある専門家は海自として中国側の出方を見極める目的があったのではと推測している。

日本の潜水艦は、米軍の攻撃型原潜と比較すると攻撃力では劣るものの、ステルス性においては、特に最新型では無音と言っても良いほどの性能を誇る。日本はこの特性を活かしたうえで、場合によっては情報を隠すだけではなく、米軍と同じように潜水艦の派遣を公表するという戦術をとるべきである。これが、抑止力につながる可能性は大きい。 

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2024年12月7日土曜日

ウクライナで変わった戦争の性格 日本の専守防衛では対処困難 米戦争研究所ケーガン所長―【私の論評】日本の安全保障強化に向けたISWの指摘と憲法改正の必要性

ウクライナで変わった戦争の性格 日本の専守防衛では対処困難 米戦争研究所ケーガン所長

まとめ
  • ウクライナ戦争が従来の戦争の性格を変え、新型兵器の登場が日本の防衛姿勢を脅かしている。
  • ロシアの野望はNATOや米国主導の国際秩序の破壊に及び、これが日本やアジア太平洋地域に脅威をもたらす。
  • 新技術(AI、無人機、電子戦など)の導入により、従来の防御型国防態勢が脆弱化している。
  • 停戦交渉は困難で、ロシア軍は毎月3万~3万5千人の死傷者を出しており、その損害を増やすことが停戦を引き出す鍵となる。
  • 中国の軍事的野望が日本に対する脅威を現実化させており、「今日のウクライナは明日の台湾」との見解が示された。


 米国の「戦争研究所」(ISW)所長キンバリー・ケーガン氏が、ウクライナ侵略戦争に関する詳細な分析を行い、その影響について語ったインタビューが注目されている。ケーガン氏は、ウクライナでの戦闘が従来の戦争の性格を根本的に変え、致死性や攻撃性の高い新型兵器の出現が日本の専守防衛の姿勢を脅かしていると警告した。

 ISWは2007年に設立され、イラクやアフガニスタンの戦闘に関する独自の分析手法を用いて国際的な信頼を築いてきた。ウクライナ戦争については「世界で最も頻繁に引用される研究機関」として評価されている。ケーガン氏は、ロシアがウクライナを完全に制圧するだけでなく、NATOの価値観や米国主導の国際秩序を破壊しようとしており、これが日本の安全保障に直接的な影響を与えると述べた。特に、中国、イラン、北朝鮮がロシアの野望に同調している点を挙げ、これが日本やアジア太平洋地域の米同盟国にとって大きな脅威となることを強調した。
日本も専守防衛策では新たな軍事情勢への対処が難しいとして「日本も米国とともに臨戦態勢、戦時の精神構造を持つことが戦争への抑止になると思う」と語った。

 ウクライナ戦争では、AI、無人機、電子戦、サイバー攻撃といった新たな技術を駆使した兵器が広範に使用されており、これにより従来の戦車や大砲といった旧式兵器が劣位に置かれている。ケーガン氏は、戦争における攻撃性や殺傷力が劇的に高まっているため、従来の防御主体の国防態勢は弱体化していると指摘した。日本も米国との連携を強め、臨戦態勢を整える必要があり、戦時の精神構造を持つことが抑止力につながると述べた。

 また、習近平・中国国家主席の狙いについても言及し、ロシアとの連携を通じて米側の安保態勢を崩し、アジアにおける覇権を確立することを目指していると警告した。台湾の武力統一を国家目標としている点からも、日本への軍事的脅威が現実的であると強調し、「今日のウクライナは明日の台湾」という表現に賛同した。

 ウクライナ戦争の今後については、プーチン大統領が当初の目的を達成していないため、停戦交渉に応じる可能性は極めて低いとの見解を示した。ロシア軍は一部地域の占拠に成功しているものの、毎月3万人以上の死傷者を出しており、ウクライナは年間150万機もの無人機を製造して戦場に投入しているが、依然としてその数は不足していると述べた。ロシアを停戦交渉に応じさせるためには、戦場でのロシア側の損害をさらに増加させることが効果的であると結論づけ、戦争の行方に注目が集まる中、国際社会の対応が重要であると強調した。

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【私の論評】日本の安全保障強化に向けたISWの指摘と憲法改正の必要性

まとめ
  • ISWの分析が現実の国際情勢に即しており、その信憑性が高いと評価されていることは、日本の安全保障政策において重要な意味を持つ。
  • 自民党内の保守派が政権を担うことで、ISWの指摘に基づいた憲法改正や防衛政策の強化が迅速に進む可能性が高まる。
  • 保守派は国際的な安全保障環境に対する認識が一致しており、集団的自衛権の行使や自衛隊の役割強化に対する重要性を認識している。
  • 2024年の自民党内調査では、憲法改正を支持する意見が過半数を超え、より積極的な防衛政策を求める声が高まっている。
  • 憲法改正や防衛政策の強化を実現するためには、石破政権を早急に終わらせる必要がある。自民党内の保守派による政権樹立により、日本は強固な安全保障体制を構築し、国際社会における信頼性を高めることができる。



米国の「戦争研究所」(ISW)の指摘が正しかったことが確認された具体的な事例は、ISWの定評を裏付けるものだ。まず、ISWはウクライナ侵略の初期段階からロシアが無人機やサイバー戦術を積極的に使用することを予測していた。特に、ロシアがイラン製のドローンを利用してウクライナのインフラや軍事施設を攻撃する事例が多発した。2022年10月以降、ロシアのドローン攻撃は急増し、ウクライナのエネルギーインフラが大きな被害を受けた。この動きは、ISWの分析と一致し、戦争の戦術が新たな段階に入ったことを示している。

次に、ISWはロシア軍の損失数についても高く見積もっていた。彼らは、ロシア軍が毎月3万人以上の死傷者を出す可能性があると指摘し、2023年初頭にはロシアが累計で30万人以上の死傷者を出したとされる。この情報は、ウクライナ政府やさまざまな国際的な報告書によって裏付けられ、ISWの予測が実際の損失と一致していることが確認された。

また、ISWはウクライナが西側の支援を受けながら効果的に抵抗する能力を持つと予測していた。実際、ウクライナは米国やNATO諸国からの軍事支援を受けて反攻作戦を展開し、特に2022年後半から2023年にかけての反攻では、ハリコフ州やヘルソン州での領土回復に成功した。この成功は、ISWが指摘していたウクライナの戦闘能力の高さを証明し、国際社会の支援がその背景にあることも明らかになった。

さらに、ISWはウクライナ戦争がNATOや国際秩序に対する脅威を増大させると警告していた。ロシアの行動がNATOの団結を強化し、スウェーデンやフィンランドがNATO加盟に向けて動き出したことは、ISWの分析と一致している。この動きは、ロシアの侵略行為が逆に西側の結束を強める結果をもたらしたことを示している。


最後に、ISWは中国がロシアと連携してアジア太平洋地域での覇権を狙っていることを指摘していた。2023年における中国の軍事演習や台湾に対する圧力の増加は、ISWの分析と一致している。米国防総省の報告書でも、中国がロシアとの関係を強化し、地域の安定を脅かす可能性があると指摘されている。これらのエピソードは、ISWの分析が現実の国際情勢に即したものであることを裏付ける強力な証拠である。

このように信憑性のあるISWのトップが、「日本も専守防衛策では新たな軍事情勢への対処が難しいとして、米国とともに臨戦態勢、戦時の精神構造を持つことが戦争への抑止になると思う」と語ったことは、無視したり軽視したりできない重要な発言である。

「米国とともに臨戦態勢、戦時の精神構造を持つこと」という表現は、具体的には日本が米国と連携し、迅速に対応できる軍事的準備を整えることを指す。これには部隊の訓練や装備の近代化、共同訓練や情報共有を通じた同盟の強化が含まれる。また、国民の危機意識を高め、非常時に備えた意識改革を行うことも重要だ。さらに、突発的な事態に柔軟に対応できる政策の整備や、日本の国際社会における役割の再評価、国際平和維持活動への参加も求められている。これらはすべて、地域の安定を確保し、潜在的な脅威に効果的に対処するために不可欠な要素だ。

日本が米国とともに臨戦態勢を整え、憲法改正と法律の整備を実現するためには、石破政権を一刻も早く終わらせ、自民党内の保守派による政権を樹立する必要がある。石破茂氏は、従来の防衛政策を重視する一方で、憲法改正に対して慎重な姿勢を示しており、このため必要な改革が進みにくい状況が続いている。

石破総理

2023年の国際情勢の変化を受けて、特に中国の軍事的挑発や北朝鮮の核開発に対する危機感が高まっている。例えば、2023年の中国による台湾周辺での軍事演習や、北朝鮮のミサイル発射が続く中、日本政府も防衛費の増加や新型兵器の導入を進める方針を打ち出している。しかし、石破政権の下では、これらの重要な防衛政策が後手に回る可能性がある。

2024年の米国の国家安全保障戦略でも、日本に対してより積極的な防衛政策を期待する声が強まっており、特に日米同盟の強化が求められている。これに対して、石破氏の慎重な姿勢は、米国の期待に応えることが難しい状況を生む恐れがある。

自民党内の保守派が政権を担うことで、憲法改正や防衛政策の強化が迅速に進む可能性が高まる。保守派は、国際的な安全保障環境に対する認識が一致しており、集団的自衛権の行使や自衛隊の役割強化に対する重要性を認識している。2024年の自民党内の調査では、憲法改正を支持する意見が過半数を超え、より積極的な防衛政策を求める声が高まっている。

憲法改正や防衛政策の強化を実現するためには、石破政権を早急に終わらせ、自民党内の保守派による政権を樹立することが必要だ。これにより、日本はより強固な安全保障体制を構築し、国際社会における信頼性を高めることができるだろう。

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2024年12月6日金曜日

韓国は外交ストップなのに…「軍事支援を明言」さらに緊密化する北朝鮮とロシア―【私の論評】韓国の戒厳令発令と解除に見る北朝鮮の影響と情報戦略の可能性

韓国は外交ストップなのに…「軍事支援を明言」さらに緊密化する北朝鮮とロシア


まとめ
  • 北朝鮮とロシアが「包括的な戦略的パートナーシップに関する条約」を締結し、軍事同盟を復元した。
  • 条約第4条では、両国のどちらかが戦争状態に陥った場合、もう一方が独自に軍事支援を提供すると明記されている。
  • 一方、韓国の外交・安全保障ラインは非常戒厳事態以降、正常な機能を停止しており、朝鮮半島情勢の緊張が高まっている。

 北朝鮮とロシアの緊密な関係が進展しており、両国は「包括的な戦略的パートナーシップに関する条約」をモスクワで正式に批准した。この条約は、北朝鮮とロシアが軍事的に結びつくことを意味し、一方が戦争状態になった際にはもう一方が独自に軍事支援を提供することが明記されている。このことから、両国の関係は実質的に軍事同盟として復元されたと評価されている。さらに、北朝鮮側はロシアへの派兵を公式化する可能性も示唆しており、すでに国連安全保障理事会でそのような意向を示したことがある。

 韓国政府の外交・安全保障ラインは非常戒厳事態により、機能が麻痺している状況だ。トップ外交官たちが重要な外遊や国際会議を延期・キャンセルしていることから、韓国の外交姿勢は厳しい状況にあることが伺える。特にチョ・テヨル外交部長官は2024世界新安保フォーラムへの参加をキャンセルし、他の高官たちも同様に対外日程を抑えている。これにより、韓国は外交的な立場を弱めるリスクに直面している。

 このような背景の中、米国のドナルド・トランプ次期大統領が北朝鮮との直接対話を模索する可能性が浮上している。専門家は、キム・ジョンウン委員長がロシアとの関係を強化することで米朝対話の再開に備えているのではないかと指摘している。さらには、ロシアが米朝対話の仲介者として活躍する可能性があり、それにあたって韓国が排除される危険性も懸念されている。これらの状況は、朝鮮半島の緊張感を高め、周辺国の外交政策にも影響を与える可能性がある。

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【私の論評】韓国の戒厳令発令と解除に見る北朝鮮の影響と情報戦略の可能性

まとめ
  • 尹錫悦大統領が戒厳令を発令し、その後すぐに解除したことは異常であり、北朝鮮の影響の可能性は否定できない。
  • 北朝鮮とロシアの関係強化が国際情勢の変化をもたらし、両国の軍事同盟が復活している。
  • 北朝鮮の情報戦略が韓国の社会不安を助長し、政府への信頼を損なわせる影響を与えている。
  • 尹大統領の政治的動揺を利用し、北朝鮮は親北政権の樹立を狙った工作活動を強化している可能性がある。
  • 韓国政府はこの状況を重く受け止め、北朝鮮の情報戦略に対する効果的な対策を講じる必要がある。
米国のドナルド・トランプ次期大統領が北朝鮮との直接対話を模索する可能性について、専門家は金正恩委員長がロシアとの関係を強化することで米朝対話の再開に備えていると指摘している。しかし、これは金正恩の希望的観測に過ぎない。だか、本心から望んでいるのは間違いないだろう。

にもかかわらず、これが韓国内でマスコミや識者が強調するのには、当然のことながら、北朝鮮の工作が大きく影響しているとみるべきである。

そうして、北の工作は紛れもなく韓国に影響を及ぼし続けており、今回の戒厳令とその後の社会不安などにも関与している可能性は高い。


深夜、ソウルの街を覆う異様な静寂。突如として鳴り響いたサイレンが、韓国全土に戒厳令の発令を告げた。しかし、その音が消えぬうちに、再び別のサイレンが鳴り響く。戒厳令解除の知らせだ。この一連の出来事は、韓半島を取り巻く緊張の縮図であり、北朝鮮の影が色濃く落ちている可能性を示唆している。

戒厳令発令の背景には、北朝鮮とロシアの関係強化という国際情勢の変化がある。2024年6月、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記は包括的戦略パートナーシップ条約に署名した。この条約には、第三国からの攻撃があった場合の相互支援が盛り込まれており、両国の軍事同盟の復活とも言える内容となっている。

さらに、2024年11月には北朝鮮の崔善姫外相がモスクワを訪問し、ロシアのラブロフ外相と会談した。崔氏は「ロシアがウクライナ戦争で勝利するまで北朝鮮がロシアを支援する」と表明し、両国の関係が「無敵の軍事的同志関係」にまで高まっていると強調した。

この状況下で、尹大統領は国民の安全を守るため、強硬措置を取る必要があると判断したようだ。しかし、その判断は脆くも崩れ去った。韓国の尹錫悦大統領は2024年12月3日夜、突然戒厳令を宣布した。戒厳軍司令官名が政治活動を禁じ、令状なしに逮捕することができると宣言し、「政権によるクーデター」を図ったが、制圧に失敗した。国会で戒厳令を無効化する決議を通され、“大統領の反乱”はわずか6時間で失敗した。

この出来事は、尹大統領が自分の権力を維持するために野党勢力を抑え込もうとした強権的な試みということだけが強調されているが、そういう側面がなかったとは言い切ることはできないが、無論それだけではないだろう。尹大統領は国会が犯罪者集団の巣窟となり、立法独裁を通じて国家の司法・行政システムを麻痺させ、自由民主主義体制の転覆を企てていると主張した。しかし、野党はこれを「内乱罪」にあたると規定し、国会で弾劾を推進する意向を明らかにした。


混乱する韓国社会

一方北朝鮮の情報戦略は、この混乱した状況を生み出しさらに巧みに利用している可能性が高い。韓国内の工作員直接の工作や、SNSやインターネットを通じたデマや誤情報の拡散は、韓国社会に深刻な混乱をもたらしている。2017年、核実験や弾道ミサイル発射で韓国国内の不安を煽った北朝鮮は、「朝鮮中央通信」を通じて韓国政府を批判し、国民の不信感を助長した。「南朝鮮人民は政府の圧政に苦しんでいる」との報道は、韓国国内の不満を煽り、国民の間に不安感や不信感を生じさせる効果があった。

イ・ソクヒョン教授は「北朝鮮は情報操作を通じて、韓国の内部に混乱をもたらし、政府への信頼を損なわせる狙いがある」と指摘する。この言葉は、北朝鮮の工作が戒厳令への支持を減少させた可能性を示唆している。

さらに、北朝鮮はこの混乱を利用して、韓国に親北政権を樹立させようとする工作活動を強化している可能性もある。尹錫悦大統領の支持率が低下し、弾劾の可能性も浮上しているこの状況下で、北朝鮮は韓国の政治動揺を利用し、親北的な政治勢力を後押しするための情報操作や工作活動を展開しているかもしれない。

韓国に再び文在寅政権よりさらに強力な親北政権が登場する可能性もある。文在寅政権時代には、北朝鮮との和解路線が強調されていたが、次の政権がさらに親北的な政策を推進する場合、韓国の安全保障と日米韓の連携に大きな影響を及ぼす可能性がある。石破茂首相は、韓国の政治動揺と北朝鮮の敵対関係強化について「安全保障の状況が根底から変わるかもしれない危惧の念を抱いている」と語っている。

韓国に親北政権が登場した場合、北朝鮮との関係がさらに緊密化し、米国や日本との関係が悪化する危険性がある。特に、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が再び見直される可能性もある。これにより、東アジアの安全保障環境がさらに不安定化する可能性が高まる。

「GSOMIA」は、弾道ミサイルの発射の兆候など、秘匿性の高い軍事情報を2国間で交換するため、情報を適切に保護する仕組みなどを定めている。

このような状況は、韓国政府の権威を揺るがすだけでなく、国民の不安を増大させ、北朝鮮の思惑に合わせた形での情報戦が展開されている可能性がある。戒厳令の発令と解除の異常性は、単なる韓国国内の問題ではなく、北朝鮮との国際関係における深刻な影響をもたらす要因となることを警戒する必要がある。

韓国政府は、この事態を重く受け止め、北朝鮮の情報戦略に対する効果的な対策を講じる必要がある。この異常な事態は、韓半島を取り巻く緊張関係の縮図であり、今後の東アジアの安全保障にも大きな影響を与える可能性がある。

我々は、この出来事を単なる一過性の混乱として片付けるのではなく、より大きな文脈の中で捉え、その意味を深く考察する必要がある。戒厳令の発令と解除という一連の出来事は、韓国社会の脆弱性を露呈させると同時に、北朝鮮の情報戦略の巧妙さを示すものかもしれない。この教訓を活かし、韓国はより強固な社会システムと国際協力体制を構築することにより、今後の韓半島の平和と安定につなげていくべきだろう。また、これを他山の石とし、日本も北朝鮮の情報戦にそなえていくべきである。

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