2021年1月31日日曜日

トヨタや日産、VWなど半導体不足で自動車メーカーが減産に―【私の論評】日本の産業界のイノベーションが、中国の世界覇権、GAFAの世界市場制覇を抑制し、平和な世界を築く礎になり得る〈その2〉(゚д゚)!

トヨタや日産、VWなど半導体不足で自動車メーカーが減産に


日産の自動車工場


150万台に及ぶとの観測も


 1月中旬から半導体の不足で世界中の自動車メーカーが減産に追い込まれている。「米国と中国の復調を足掛かりに、巻き返しに向けて『さあ、これから』というときだったのに……」と関係者は嘆声をあげる。

 トヨタ自動車は米テキサス州の工場でピックアップトラック「タンドラ」を減産。日産自動車は追浜工場で主力小型車「ノート」の減産を余儀なくされている。ホンダも北米や鈴鹿製作所での減産を明らかにした。

 日系メーカーのみならず、フォルクスワーゲンやフォード・モーター、フィアット・クライスラー・オートモービルズも減産に陥るなど影響は広がる。

「昨年コロナで自動車メーカーが減産して半導体の受注が減少したところに、思わぬ形でゲームやパソコンの巣籠もり需要が発生。車用の生産に回らなくなってしまった。いま急に作れと言われても対応できない。今後、自動運転やEV(電気自動車)が増えればもっと半導体の奪い合いが進むことが予想されるだけに、各社の確保策が問われるだろう」(電機業界関係者)

 一般的にガソリン車1台当たり半導体は約30個搭載される。だが、EVや高級車になると搭載数は一気に3倍弱に増える。奇しくもクルマの高度化に伴う歪が現れた格好だ。半導体不足で、世界の自動車メーカーで150万台前後の減産につながる可能性があるとも言われる。

 自動車メーカーは自然災害などで一部の部品の供給が停止し、生産が止まった事例を何度も経験してきたが、「半導体は業界を跨ぐ製品であるだけに異質だ」(自動車会社関係者)

 コロナによる直接の影響が収まっていない中での新たな不安要素の出現で、自動車業界の先行きに更に不透明感が増している。

【私の論評】日本の産業界のイノベーションが、中国の世界覇権、GAFAの世界市場制覇を抑制し、平和な世界を築く礎になり得る〈その2〉(゚д゚)!

現状では、自動車業界に限らず、世界中の多くの産業で半導体の供給不足が懸念されています。コロナでどちらかというと、人々の外出も減り、世界中で景気が低迷してるのに、なぜこのようなことになるのでしょうか。


その答えは、意外なものでした。味の素の子会社である、味の素ファインテクノが供給する、層間絶縁材料「ABF」が、世界的な半導体供給不足のボトルネックとなっている可能性があることを複数のメディアが報じているのです。

「ABF」は、微細な複数の層を積み上げていく、現代のCPUにおいて取り扱いや加工性能に優れることから、1999年に採用されて以降、現在ではほとんど全てのCPUにこの「ABF」が使用されていると言われています。

特に世界的な大手であるTSMC(台湾セミコンダクタ・マニュファクチャリング)では、現在好調である次世代ゲーム機、「PS5」や「Xbox series X」の7nmプロセスCPU製造をAMDから請負い、更にPC向けでは、5nmプロセスで製造するAppleの「M1」チップが同様に好調であり、どちらも市場では品薄となってしまっています。

2020年11月に発売された家庭用ゲーム機のPlayStation 5Xbox Series Xは、どちらもAMDのZen 2アーキテクチャベースのCPUとGPUを搭載していることで話題となりました。しかし、発売から2カ月経った記事作成時点でも市場には十分な数が供給されておらず、品不足が続いています。

PlayStation 5Xbox Series Xに搭載されているCUP

ExtremeTechによれば、ソニーやMicrosoftがAMDから購入した7nmプロセスチップの最大80%が、家庭用ゲーム機用に確保されているとのこと。そのAMDのチップはAMD自身が生産しているのではなく、世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCが生産ラインを抱えています。

ExtremeTechによると、PlayStation 5やXbox Series Xの登場によってAMDのCPUやGPUの需要が急増したことで、2020年秋頃からTSMCがチップの絶縁体に用いられる「Ajinomoto Build-up Film(ABF)」の不足にあえいでいることが供給のボトルネックになってしまっているそうです。

ABFは味の素グループが開発した高性能半導体の絶縁材です。ナノメートルレベルで回路が構築される現代のCPUでは、複数の回路が何層にも重なった多重構造が当たり前になっており、その層の間を絶縁するためにABFは使われています。味の素によれば世界の主要なPCのほぼ100%に使われているとのことです。

このABFの不足はAMDだけではなくIntelやNVIDIA、Qualcomm、Apple、Samsungなど、数々のチップメーカーに大きな影響を与えています。経済ニュースメディアのDigitimesは「2021年にはABFの供給不足が悪化する可能性がある」と2020年6月に報じていますが、この予測は的中したようだとExtremeTechは述べています。

また、PlayStation 5やXbox Series Xに採用されているGDDR6の歩留まりが悪いことがGPU不足の一因とす可能性もExtremeTechは認めています。ただし、ExtremeTechは「どのコンポーネントの不足がゲーム機の供給不足を引き起こしているのかははっきりしていない」とも述べ、今回のPlayStation 5やXbox Series Xの供給不足は単なる歩留まりの問題では説明できないとしています。

海外メディアでは、主要なABFサプライヤーはいずれもABFの供給不足に陥っており、2021年に入ってもしばらくはABF、AMDやAppleが供給するCPUの供給不足は続いて行くと推測しています。

ABFに限らず、フッ化水素なども含め高性能な半導体を製造する材料のほとんどを供給しているのが日本企業です。GAFAMといった巨大IT企業と言えども、半導体の供給がストップすると、彼らのサービスを提供することができません。

いまや半導体、テレビ、パソコンの製造は台湾、チャイナが担っているのですが、そのための材料や部品や製造装置、基礎的な資源や技術は日本にあるのです。

本当に日本の底力は、末恐ろしいです。これらのいずれかの輸出をストップしてしまえば、日本しか優れたCPUや半導体を製造できないことになってしまいます。

 東京エレクトロンが開発・販売する、「マイクロ波励起高密度プラズマ技術を
 用いた半導体製造(エッチング)装置」


それに、日本の産業界はこれからも、さらに優れた素材、製造装置などを開発し続けていくことでしょう。

冒頭の記事にもあるように、世界的半導体不足で、自動車の生産が一部で止まっています。スマートフォンの生産にも問題が出てきており、仮想通貨もマイニングマシンの生産に問題が出始めています。 TSMCやサムスンなど生産拡大を急いでいますが、味の素グループがアミノ酸技術で作った絶縁体の供給量以上の生産は不可能です。まさに、 世界の工業生産は味の素等の日本産業界が握っていると言っても過言ではありません。

以上の事実を知れば、先日私がこのブログで主張した、「日本の産業界のイノベーションが、中国の世界覇権、GAFAの世界市場制覇を抑制し、平和な世界を築く礎になり得る」とした私の主張はあながち誇張ではないことがお分かりいただけると思います。

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2021年1月30日土曜日

バイデン政権、対中強硬派のキャンベル氏を起用―【私の論評】対中国強硬派といわれるカート・キャンベル氏の降伏文書で、透けて見えたバイデンの腰砕け中国政策(゚д゚)!

 バイデン政権、対中強硬派のキャンベル氏を起用


カート・キャンベル氏

【世界を読み解く】「米国は中国の野心を過少評価してきた」など過去の対中政策は誤りと論述

 1月13日、米国新政権はホワイト・ハウス国家安全保障会議(NSC)にアジア政策統轄のポスト「インド・太平洋調整官」を新設し、カート・キャンベル氏を起用することが明らかになった。

  キャンベルはオバマ政権で東アジア・太平洋担当国務次官補(局長級)を務め、アジアへの「リバランス」(軸足を移す)政策を進めた。2018年春に米国外交問題雑誌『フォーリン・アフェアーズ』に、過去の米国の中国政策は失敗だったとの論文を発表し、大きな反響をよんだ。キャンベルは多くの省庁にまたがる対中政策全体を統轄することになるらしい。彼の起用により、バイデン新政権の対中政策が見えてきた

▼キャンベルは、過去の米国の対中政策は誤りだったと指摘 

 『フォーリン・アフェアーズ』にキャンベルは2018年からの3年間で6本の論文を投稿した。その全てが中国について論じた。彼の主張は次の通りだ(6本の論文をまとめ再構成した)。

 1)米国の思いどおりにならない最も手強い競争相手
 ―過去、米国は中国の進路を決められると考えてきたが、それは間違いだった。ニクソン、キッシンジャーもこの間違いを犯した。現実に立脚して、米国の対中政策を再考すべきだ。
―過去、米国は中国を敵として扱わないようにすることで、中国が実際に米国に敵対することにならないのだと考えてきた。中国も「平和的台頭」(2005年)、「平和的発展」(2011年)という言葉を使っていた。
 ―米国にとり中国は、近代史上、最もダイナミックで手強い競争相手だ。中国はかつてのソ連よりも洗練され手強い。中国のGDPは購買力平価換算で既に米国を上回る。米国は、これまでの中国に対する希望的発想を捨てる必要がある。 ―トランプ政権は、二国間貿易赤字、多国間貿易協定の破棄、同盟の軽視、人権問題の軽視、外交の軽視などにより、米国自身の競争力を高めることなく、いたずらに対立的であった。他方、中国は対立的になることなく、中国の競争力を着実に高めている。

 2)依然閉鎖的・差別的な経済、国際経済面で無責任な動き ―中国との経済交流の拡大は、中国経済の自由化をもたらすと期待されたが、実際には国有企業、産業政策、補助金が強化され、外国企業の中国市場へのアクセスは制限されている。
 ―ブッシュ(息子)政権の国務副長官だったゼーリックは、中国を「責任あるステークホルダー」にすべく、国際秩序に組み込もうとした。しかしうまくいかなかった。たとえば中国は多くの非民主的政府への制裁を妨害している。また米国抜きの国際経済協力としてアジア・インフラ投資銀行、新開発銀行(BRICS銀行)、一帯一路を構築した。

 3)内政での統制強化 ―2013年、中国共産党の内部文書は、「西側の立憲民主主義」とその他の「普遍的価値」に対してあからさまに警告を発した。2015年だけで、300人以上の法律家、法務助手、活動家を拘束した。通信技術の進歩は、国家の統制の強化を助けている。
 ーウイグルでの弾圧は民族浄化のキャンペーンと言える。香港の国家安全保障法は、香港の外にも取締対象を広げるという従来にはない攻撃的アプローチを示している。 
―経済発展や中国人留学生の米国への留学は、政治的自由化につながると期待されたが、中国政府は壁を作り、統制強化でグローバライゼーションに対応した。

 4)全面攻撃を仕掛ける外交・軍事政策に米国はいかに対処すべきか 
―米国は中国指導部がいかに不安定でかつ野心的かについて、過小評価していた。中国は米国が主導するアジアでの安全保障秩序に挑戦し、米国と同盟国の間にくさびを打ち込もうとし始めた。 
―中国は、巨額の軍事費を投入し、ソ連以来の軍事国となった。とう小平の「能力を隠し時間を待つ」という言いつけは最早守られていない。 ―中国の冒険主義を抑止するため、米国は意識的に努力すべきだ。
 ―冷戦では闘争の場が世界全体であったが、中国との間の危険は、アジア太平洋に限られるであろう。それでもそこには少なくとも南シナ海、東シナ海、台湾海峡、朝鮮半島の4か所の潜在的なホット・スポットがある。中国は南シナ海で現状を変更し、尖閣付近のパトロールを強化し、台湾近郊で空中偵察を行った。ブータンと新たな国境紛争を起こし、インドと国境で衝突し、中国人民解放軍が30年ぶりに国外で武力を行使した。一つ一つは驚くべきではないかもしれないが、全体では尋常ではないフル・コート・プレス(コート全面を使った攻撃)を仕掛けている。 
―豪州に対する攻撃は、豪州の対中警戒心を高めさせ、国防費増額につながった。 ―インドとの国境衝突は、インドをしてこの地域での中国の決定的な対抗勢力にするかもしれない。
 ―インド太平洋で米中双方の軍が共存することは不可能ではない。米国は軍事的優越の回復が困難なことを受け入れるべきだ。むしろ米国とそのパートナーの行動の自由に中国が干渉し脅威を与えることを抑止することに焦点を当てるべきだ。 
―米国は高価で脆弱な空母ではなく、安価で非対称的な軍事力で中国を抑止すべきだ。長距離無人キャリアからの攻撃機、無人潜水艇、誘導ミサイル潜水艦、高速攻撃兵器などである。また米軍は、東南アジア、インド洋における軍事プレゼンスを多様化すべきだ。

 5)科学技術の競争にいかに勝つか 
―米国は科学技術で中国と競争するために、投資も増やす必要がある。技術窃取、保護主義、産業政策などにより中国は米国企業を不当に扱っており、この問題はWTOでも扱われるべきだ。

 6)世界における民主主義への支援 ―世界において、我々は反中ではなく、民主主義を支持するという立場であるべきだ。一帯一路でも、成長、持続可能性、自由、良いガバナンスを支持する立場で途上国を支援していく。

 7)同盟国・パートナーとの関係強化 
―米国はもっと自らと同盟国・パートナーの力を強めることに努めるべきだ。米国は中国に向かい合う際、アジアそして世界の諸国との緊密なネットワークを構築しないといけない。同盟は、削減されるべきコストではなく、投資すべき資産としてみなすべきだ。 

8)新大統領の課題 ―新大統領は、香港から南シナ海、インド、ヨーロッパまで、中国からの圧力と脅迫は続くことを覚悟すべきだ。 
―新大統領は、懲罰的一方主義を止め、欧州とアジアの同盟国との関係を再調整し、国連、G7、国際機関などの国際機関を改めて重視すべきだ。
 ―今日のインド太平洋では、ヨーロッパの歴史から得られる3つの教訓があてはまる。第1に力の均衡の必要性、第2に地域の諸国が正当と認める秩序の必要性、第3にこれらの2つに挑戦する中国に対処するための同盟国・パートナーとの連合の必要性。 
―パートナーシップ構築は、柔軟に考えるべき。英国が提案したD-10(G7とオーストラリア、インド、韓国)など、随時、臨時の枠組みも検討すべき。

 ▼キャンベルの起用には期待がもてるが、前途は多難 

 キャンベルは、バイデン次期大統領、ブリンケン次期国務長官、サリバン次期国家安全保障補佐官とも近く、彼らからインド・太平洋政策で相当大きな権限を与えられると見られている。なお一時、次期財務長官候補に挙げられていたブレイナードFRB理事はキャンベルの夫人である。

  キャンベルはトランプ政権時代に政権から離れていたが、その間、中国との関係について集中して考察を進め、民主党の対アジア政策を検討していたようだ。

  キャンベルは、共和党ブッシュ(息子)政権下の国家安全保障会議でアジア担当を務めたマイケル・グリーンからも評価されており、キャンベルの活動は超党派で理解と支持が得られるだろう。

  オバマ政権は中国にソフト過ぎだった、トランプ政権は二国間貿易問題などに関心を特化し過ぎだったと言われている。

      2017年1月17日大統領自由勲章をバイデン氏に授けるオバマ氏。
      バイデン氏は、まったく知らされていなかったと話した

  この点キャンベルの思考には総合的な視点がある点、高く評価できる。(ただ、北朝鮮や、ロシアの扱いなどについては突っ込んだ言及・考察は述べられていない。)

  米国と同盟国・パートナーとのネットワーク関係の強化、国際機関重視を主張し、また尖閣への中国の攻撃的姿勢を中国の対外政策全体の中で位置づけていることも高く評価できる。

  キャンベルは、今日の中国の内政、外政での問題を指摘するが、ではなぜそのようになっているのだろうか。

  とう小平が望んだように、中国は経済発展はした。しかし貧富の格差の拡大、地域間・民族間の格差など、社会矛盾を解決できていない。とう小平はその解決法までは言い残さなかった。民主化により、貧者の声を吸い上げ、国政に反映させ、富の再配分メカニズムを作る必要がある。しかし富の再配分に反対する既得権益もできているため、それもできない。

  胡錦濤・温家宝時代には少しはあった民主化の議論もなくなってしまった。成長の鈍化、早すぎる人口高齢化の問題もあり、社会の緊張(不満のガス)が高まっている。そのため、国内的な抑圧、がむしゃらな対外経済活動、国威発揚のための攻撃的政策につながる。悪いパターンにはまってしまっているが、抜け出す良い智恵がない。

  トランプ政権時代の4年間で、米中関係を始め世界はもっと難しい状況になり。「リセット」はできないと『ファイナンシャル・タイムズ』紙のコラムニストのラックマンは指摘している。

  キャンベルは民主主義擁護と言うが、中国以外にもロシア、ブラジル、インド、トルコ、サウジ・アラビアにいる反動的ナショナリストにどう対処するのか、結局は「現実政治」になるのではないか、しかし米国の国力も落ちているとの指摘だ(FT紙2020年3月9日付け)。バイデン新政権とキャンベルはオバマ大統領が残した4年前よりも厳しい状況からスタートせざるを得ず、その前途は多難である。 (Foreign Affairs 掲載(含むネット版)のキャンベルの6本の論文は次の通り。それぞれ共著者がおり、その中には政権入りする可能性が取りざたされている者もいる。)

 “The China Reckoning”、 March/April 2018
 “Competition Without Catastrophe”、 September/October 2019 
“The Coronavirus Could Reshape Global Order”、March 18、 2020 
“China Is Done Biding Its Time”、 July 15、 2020 
“The China Challenge Can Help America Avert Decline”、 December 3、 2020
 “How America Can Shore Up Asian Order”、 January 12、 2021 

(敬称略)

 ■井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト) 1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハ ーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政 治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスク ワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・ 組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代 表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現 役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシ ー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史 ~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品社)、”Emerging Legal Orders in the Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『 極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞 』(2021年出版予定)。

【私の論評】対中国強硬派といわれるカート・キャンベル氏の降伏文書で、透けて見えたバイデンの腰砕け中国政策(゚д゚)!

バイデン次期政権は、国家安全保障会議(NSC)の中に「インド太平洋調整官」というポストを新設、カート・キャンベル元米国務次官補(東アジア・太平洋担当)を任命しました。

このブログでは、かねてからバイデン次期政権は内政重視、消極外交に徹するのではないかと指摘してきましたが、これまでの発言そして閣僚の専門知見から外交上の優先地域は、欧州(NATO)、中東(イラン)、そしてアフリカが想定される一方、中国を筆頭にアジアとは一定の距離が置かれるものと予想します。

「インド太平洋調整官」という新設ポストはバイデン政権のアジア消極外交の証左であると考えられます。またかつての「Pivot to Asia」や「戦略的忍耐」などアジア外交の「失策」を推奨、且つ親韓でもあるカート・キャンベル氏の起用は日本にとって難しい舵取りが強いられると危惧します。

そもそも「インド太平洋調整官」の意味合いとは何なのでしょうか。同ポストの新設は、アジア地域を重視するバイデン政権の姿勢との解釈があるかもしれないですが、米国的感覚だと真逆に見えます。

無論日本では、大企業等で「調整役」は大きな役割を果たしている場合も多いです。しかし、それは、すでに重要なことは意思決定されている場合であり、その意思決定に向けて、力を発揮するのです。しかし、「調整役」は意思決定には直接関わることはできません。重要な意思決定に関わることができるなら、そもそも「調整役」ではありません。

政権の最重要課題・責務は、大統領と頻繁且つ緊密な連携を要するため、閣僚(長官級)あるいは官僚のトップ(副長官級)が直接担い、特使やより階級の低い官僚には任せないものです。

ブリンケン国務長官は欧州(特にNATO)の関係修復に躍起、サリバン安全保障担当補佐官はイラン核開発問題と中東情勢を重視、オースティン国防長官はアジア経験・知見が皆無、そしてグリーンフィールド国連大使はアフリカとの関係強化が至上命題です。これでは、アジアに関係する意思決定が十分になされる環境にないといえます。


新設ポストが重要であるならば、何故「欧州調整官」あるいは「中東調整官」が設けられていないのでしょうか。アジアは、バイデン政権の最重要外交課題ではないのです。要は、主要閣僚にアジアの専門知見が薄いことと共に他の優先地域に尽力しなければいけないので、「調整官」というベビーシッター・監視役的なポストを設けたのです。

最も不可解なのが「調整官」という肩書で、権限のある役職は「(大統領)補佐官」、「政府代表・特使」あるいは「上級部長・顧問」などが付けられるものですが、「調整官」には重みが感じられません。

調整官とは、単に窓口と解釈できます。更に、官僚との指揮系統・役割に重複あるいは混乱が生じないか懸念されます。これから任命される「NSCアジア上級部長」、「国務次官補(東アジア・太平洋担当官)」そして各アジア諸国の駐在大使などの役割とかぶり、調整どころか外交のチームワークを乱しかねないです。

更にキャンベル氏の上司であるサリバン安全保障担当は20歳も年下、しかし外交経験ではキャンベル氏が先輩です。国務省と安全保障会議は若返りを図っており、キャンベル氏との相性が合うのかも気がかりです。

そうして、そもそもキャンベル氏の主張そのものにも疑問符がつきます。キャンベル氏は、「How Can America Shore Up Asian Order ~ A Strategy for Balance and Legitimacy」と題した外交論文を1月12日にForeign Affairs(オンライン)誌に掲載しましたた。そうしてこの論文は、率直に言って中国への降伏宣言ともいえる内容だと思います。

同論文は、19世紀の勢力均衡と欧州の協調を論じたヘンリー・キッシンジャーの博士論文を引用して、アジアの秩序を形成するためには、以下が必要であると主張しています。

①バランス(勢力均衡)の修復
中国の拡大する物質的パワー(経済力)は地域のデリケートな勢力バランスを不安定化させ、政府の領土拡大主義を強めた。こうした脅威にアメリカは意識的に対抗する必要がある。

米政府は先ず、空母や大型基地のような高額且つ攻撃を受け易い軍事兵器・施設から脱却すべき。つまり、長距離弾道ミサイル、無人戦闘機や潜水艇そして高速攻撃兵器などへ投資することを意味する。

米政府は、これまでの積極姿勢(存在感)を維持すべきではあるものの、各国と連携して兵力を東南アジアやインド洋に分散する必要がある。
これは、特に最後の文を読むと、日本を含めたアジア諸国により軍事勢力を強化させ、米国の負担を減らすのが本音のようです。軍事力の削減、米民主党がかねてから指摘する軍事経費のコストダウンの意図が示唆されています。

序文では、キャンベル氏は、あたかもトランプ氏のように日本や韓国に防衛費負担を求めないと言及しているのですが、防衛負担は求めない代わり、より自国の防衛体制を強化しろと言っています。

バイデン政権が掲げる同盟国連携の本質は、米国の負担軽減、各国による自立要請のようです。アプローチは違ってもトランプ政権と本質は変わりないようにもみえますが、ただ、オバマ政権においては大幅に縮小させた防衛費の大幅増を実施していました。今後バイデン政権はどうするのか非常に気がかりです。

②レジティマシー(正統性)の回復
地域の秩序を構築する"二つのアジア"がある: 一つは政治・安全保障で、もう一つは経済。前者での秩序を保つには、アメリカの再関与政策 ~ 同盟国を恐喝しない、地域サミットを無視しない、経済協力を惜しまない、そして国家間の協力を阻まない。経済での秩序を強化するには、中国がアメとムチを巧みに使いこなす中で、現体制・システムが同盟国に利益をもたらす仕組みを確保すること。
米国が安全保障に重要な産業の再生、中国との"管理されたデカップリング"を進める中、他国にもサプライ・チェーンを中国から自国に移転することは新たな成長を見出すことが促せる。更に、中国による一帯一路構想に関連したインフラ融資に対抗して米国も新たな融資・支援策を構築すべきである。
米国と同盟国らが中国に競争的ながらも平和な枠組み・秩序を悟らし、それにはいくつかの利益が得られることを認識; 中国政府の存在が地域で認められる、ルールを遵守することで予期できる商業環境、そして環境、インフラとコロナ・ウイルスにおいての協力から得られる利益。

米政府は同盟国と共にシステムの強化に取り組み、中国に生産的に協力・従事するインセンティブを与え、そして中国が地域の秩序を犯すようであれば集団的にペナルティを課す必要がある。 

これらの文章からは、中国に対し寛容的であったオバマ政権のなごりというか、そのままの姿勢を感じます。地域の「政治・安全保障」と「経済」の秩序の強化と主張するものの具体性に乏しいですし、現実性に欠けた理想論に過ぎません。

一つだけ具体的だったのがサプライ・チェーンの回帰、それを「管理されたデカップリング」と言及です。ところが、問題なのはは最後二つの文章です。三つ目は未だに中国は国際社会のルールに従う、説得の余地があるような考えを抱いているようです。

中国をWTOに加盟させ、オバマ政権での「Pivot to Asia」や「戦略的忍耐」のような失策の反省が見受けられません。最後の文では上記で指摘した軍事面での姿勢にも似ていますが、中国に対する制裁・アクションは単独ではなく共同で行う弱腰姿勢です。

日本には「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というギャグがありますが、国際秩序の保護に通じない甘い考えです。みんなで渡るのは良いですが、先ず誰か(米国)が第一歩を取らなければ集団は動きません。

③連携(コアリション)の促進が重要
同盟国との連携」は決まり文句になっているが、実際に達成するとなるとその壁(チャレンジ)はとてつもなく大きい。現在のインド太平洋の枠組み・秩序を保っていくには幅広い連合組織が必要で、参加するメンバーらは現状のシステムが崩壊するまでその価値を理解しないかもしれない。同盟国による連携の必要性は、現状のステータスが覆されるまで明らかにならないもの。
これはどうしたことでしょうか。第二次世界大戦後の世界秩序の中でのトップリーダーである米国の言うこととはとても考えられません。同盟国の連携を主張しておきながら、どん底に落ちるまで連携は構築できないかもしれないとは何事でしょうか。これは、中国への敗北、降伏宣言以外の何ものでもありません。
遠い欧州のリーダーらは、インド太平洋諸国より中国の強い姿勢をあまり脅威と感じていない。欧州諸国から共感を得ることを難しくしているのが中国の経済力; 先月に、バイデン政権下で統一した大西洋アプローチが難しくなる懸念を示したにも関わらず、中国は土壇場でEUとの貿易協定にこぎ着けたのである。

 この弱音、泣き言は一体何事なのでしょうか。サリバン次期安全保障担当補佐官がEU首脳らに中国との貿易協定を保留するよう求めたにも関わらず聞き容れてもらえなかったのでスネているようにしか聞こえないです。もう、端から対中包囲網など諦めているようにしかみえません。確信も怒りも感じられません。

(連携には)限界があるため、米国はパートナーシップの構築には柔軟且つ革新的になる必要がある。一つずつの議題・問題を大きな連合組織で議論するのではなく、個別問題に乗じてビスポーク・特定のグループを模索すべき、例えばイギリスが提案するD10 ~ G7にオーストラリア、インドと韓国を加える。
「限界」という言葉使った瞬間にやる諦め感がひしひしと伝わってくるではありませんか。中国としてはこれほど勇気づけられる論文は無いのではないでしょうか。更に、キャンベル氏はかねてからオーストラリアと韓国をひいきにしています。その意味で、D10構想を積極的に容認、QUADにおいても韓国の参加を推奨しています。オバマ政権と同じ、日本よりも韓国に沿った姿勢を示すことが推察される。

そうして、多くの人々がすでに指摘していることですが、同論文で「インド太平洋」という言葉は度々使われるものの、「自由で開かれたインド太平洋」は一度も引用されていないのです。


バイデン政権の外交閣僚からも今のところ「自由で開かれたインド太平洋」と言及した形跡がありません。ご存じ、「自由で開かれたインド太平洋」構想は、日本安倍総理のリーダーシップによって形成、アメリカ(トランプ政権)を筆頭にインドやオーストラリア等が賛同し、中国の抑制手段として期待されています。

もしバイデン政権に同構想を否定・修正する意図があるとすれば連携どころかアジアの足並みが乱れる可能性も考えられます。同時に日本は微妙な立ち位置に立たされるかもしれないです。

キャンベル氏の任命により、バイデン政権は、オバマ政権下での消極外交路線に回帰するのは目に見えています。米国が、対中国戦略において、他国と足並みを揃えるだけでは誰も前に出なないというか、出られません。

トランプ氏の外交政策は強引過ぎた面はあったものの、単独でも中国と対立する姿勢は、一定のリーダーシップと存在感を見せていました。キャンベル氏が論文で見せる弱腰あるいは護送船団姿勢では中国とはまともに戦えません。

アジアの新秩序は米国が他国と協調するような姿勢では樹立できません。米国がまず先頭にたたなければ、難しいです。

ここは、日本として、今後の2年後の米議会選挙で、共和党が多数派になること、さらには、4年後の大統領選挙ではトランプ氏が復帰するか、トランプ氏と同じような対中国政策を推進する人物が大統領になってもらうことを期待するしかないかもしれません。

ただ、その前に、まずは日本がアジアでリーダーシップをとるくらいの気構えをみせるべきと思います。そうして意味では、安倍復帰待望論が巻き起こるかもしれません。

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2021年1月29日金曜日

蓮舫氏「『自助』と口にするのやめて」発言 なくしたら社会保障が成り立たない―【私の論評】これが野党第一党の、代表代行が話す内容?立憲がまともな経済対策もコロナ対策も提言できないのは当然(゚д゚)!

 高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 

蓮舫氏「『自助』と口にするのやめて」発言 なくしたら社会保障が成り立たない

立憲民主党の蓮舫代表代行は2021年1月27日の参院予算委員会で、菅義偉首相に「もう『自助』を口にするのはやめてもらいたい」と質した。

菅首相は「やはり、まずは自分でできることは自分でやってみる。そして、家族や地域で支えてみる。それでもだめだったら、必ず国や地方団体がしっかり支えてくれる。そうした社会にしたいというなかで、最後は国のセーフティーネットもある」とした。
 「自助、共助、公助」は社会保障における普遍的な概念

菅首相が、自民党総裁選で「自助、共助、公助」をいったが、これは従来から言われていることだ。立憲民主党の野田佳彦元首相も、首相当時国会で「自助」の大切さを答弁した。

枝野幸男立憲民主党は、昨年10月の菅首相の所信表明演説に対する、枝野氏の代表質問で、「自助、共助、公助」に対して時代遅れと批判した。

しかし、枝野氏は、2005年7月の国会で、「生活保護という仕組みは、本来は、なければない方が望ましい制度なんだ。まさに自助、共助、公助」と発言している。さらに、民主党政権時代の税と社会保障一体改革は、「自助、共助、公助」が前提で作られている。こうした過去の発言との整合性を考えて、時代遅れとしたのだろうが、これは時代に関係のない話であることを理解していない。はっきりいえば、「自助、共助、公助」は社会保障における普遍的な概念だ。

まず、助ける人と助けられる人がいる。助けられる人は、直接的と間接的に分けられる。つまり、社会保障の各分野において、国民は、助ける人、助けられる人(直接的)、助けられる人(間接的)のどれかになる。さらに、助けられる人(間接的)は、民間組織によるものと公的組織によるものに分けられる。

助ける人のところを「自助」、助けられる人(直接的)と助けられる人(民間組織による間接的)のところを「共助」、助けられる人(公的組織による間接的)を「公助」という。

これでわかるように、社会保障では「自助、共助、公助」は当然の話であり、「自助」をなくしたら、助ける人がいなくなるので、社会保障が成り立たなくなる。

 国会では自助・共助・公助の「バランス」を取り上げるべき

民主党政権の時の「税と社会保障一体改革」には、「自助・共助・公助の最適バランス」と書かれているくらいだから、民主党政権時に閣僚だった蓮舫氏も知らないはずないだろう。

もちろん「自助・共助・公助の最適バランス」は重要な論点なので、国会ではバランスを取り上げるべきだ。そこには、野党は自公政権と違う価値観があり、それを堂々と国民に示すべきだ。

しかし、自助をなくせなどというのは、論外の愚論なので、国会で話すべきことではない。そうした議論を繰り返す限り、普遍的な考え方もわからない立憲民主党となって、とても政権運営を任せられるはずない。

いくら内閣支持率が下がったといっても、肝心の自民党支持率はさほど下がっていない。というのは、野党の政党支持率が高まっていないからだ。

政権が持つかどうかは、内閣支持率ではなく、「内閣支持率+政党支持率」だ。それによれば、マスコミが煽るほど、菅政権は追い込まれていない。それは野党のせいでもある。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

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2021年1月27日の参院予算委員会での菅総理に対する質問は、常識超えた酷さというにつきます。これについては、政治学者の岩田温氏が動画でかなりの批判をしています。その動画を以下に掲載します。


27日の参院予算委員会で菅首相と立憲民主党の蓮舫代表代行が新型コロナウイルスの医療提供体制をめぐって応酬を繰り広げました。蓮舫氏は首相のコロナ対策に関する発信力不足なども含め繰り返し責め立てるが首相も反論しました。

蓮舫氏のバカさ加減については、何も今始まったことではないので、やはり馬鹿だったということで、このこと自体にはさらに説明するなどしません。政治学者岩田氏が語っているように、蓮舫氏は菅総理の外野応援団なのかもしれません。このようなことを後数回繰り返せは、菅政権の支持率はかなりあがることになるでしょう。

田母神氏が「電車の中で、高校生二人が、蓮舫てほんとに馬鹿だなと、話していたと」昨年の11月くらいにツイートしていましたが、まさにそのとおりです。本当に愚かです。

ただ、上の高橋洋一氏の記事にもあるように問題はそれだけではありません。野党第一党の代表代行の地位にあるものが「自助、共助、公助」の区別もつかないのは本当に問題です。

「自助・共助・公助」、実はこの言葉はずいぶん以前から使われており、特に菅総理が新しく言いだしたわけではありません。特に社会保障分野においては「自助・互助・共助・公助」として4つに分けるのが一般的です。

これについては年金、介護、医療等々、様々な分野でこうした区分けによる考え方が存在するのですが、特にに年金分野では主に「老後の生活を支える手段及び考え方」として、この4つの“助”が使われています。

そもそも公的年金制度が出来たのは歴史的にみれば、そんなに大昔のことではありません。現在の厚生年金法の前身は戦時中の1942年6月に施行された「労働者年金保険法」ですが、最初は民間企業で現業に従事する男性が対象でしたた。

その後、女性や事務系の労働者にも適用が拡大されたのは1944年であるからほぼ終戦の頃といっても良いです。さらに国民年金法によって1961年に国民年金がスタートし、現在の国民皆年金制度となりました。

ではそれまではサラリーマンが定年退職した後はどうやって生活していたのかと言うと、基本は自分で老後に備えた資産作りをすることでまかなっていたわけです。さらに、戦前は長子相続によって長男が親の遺産を相続する代わりに年老いた親の老後の生活を見るというのが一般的でした。

言わば基本は「自助」ですが、子供が親の面倒を見る、あるいは親戚や地域で助け合うという「互助」の仕組みが普通だったのです。

こうしたことを考えると、戦中・戦前の日本は、まさに新自由主義的だったともいえると思います。



ところが戦後、高度成長時代となり、地方から大都市へ働きに行く若者が増えたことで核家族化し、大家族制を維持し、子供が親の面倒を見るというのは実質的にできなくなりました。

そこで老後の面倒は社会全体で見るべきであるということで誕生したのが「共助」である公的年金制度なのです。

公的年金が「公助」だと勘違いしている人もいますが、それは少し違います。「公助」とは、そういった助け合いの仕組みからも漏れてしまった人たちを最後に救うための手段であり、言わばセーフティーネットの役割です。

1つの例を挙げれば「生活保護制度」などがこれにあたります。「共助」である公的年金制度は、そのメリットを享受する人たちが互いにその費用を負担し合うのが基本です。すなわち公的年金の本質は「保険」ですから、保険料を払った人だけが年金を受給する権利があるのが当然なのです。

よく言われるのは「公的年金」の役割は“防貧”、すなわち年をとって働けなくなった時に収入がなくなって貧困に陥ることを防ぐのが最大の目的であるとされます。

これに対して生活保護などの「公助」は言わば最後の砦であり、その重要な役割は“救貧”すなわち貧困に陥ってしまった人たちを救うことにあります。生活保護の原資は保険料ではなく税金です。

最初から生活保護を受けることを目的にしている人などいないわけでですから、保険料などというものが存在しないのは当然です。何らかの理由で保険料も払えず、公的年金が支給されなくなってしまった人を救うには当然、国民全体で負担している税でまかなうのが自然な姿です。

したがって、「老後の生活を支える」という目的を考えると、現在の社会において、一番の基本は「共助」ということになります。昔、「共助」が無かった時代は「互助」(子供や家族、親族が支える)が中心でしたが、社会構造の変化と共に「共助」がその役割の中心を担うことになったと言えるます。

これは年金だけではありません。介護も昔は家族の経済的負担が大きい「互助」が中心だったのですが、次第にそれが困難となってきたので、2000年に「介護保険」が誕生したのです。

現在はもはや「互助」という機能はごく限定的となっているため「自助・共助・公助」と言い換えても差し支えないでしょう。あくまでも土台となるのは制度的には「共助」ですが、それ以上に自分で豊かな老後をおくりたいと考えるのであれば「自助」によって資産形成をすれば良いし、仮に共助の枠組みから外れてしまう人に対してはセーフティーネットである「公助」が起動し始めるというのが社会保障全体の仕組みなのです。

したがって「自助・共助・公助」を社会保障の面に限って言えば、ど真ん中に「共助」が来て、その両脇を残りの2つが支えるという構図となるでしょう。

ここまで話してきたのはあくまでも社会保障、とりわけ「老後の生活保障」という観点での話です。菅総理が言う「自助・共助・公助」にはもちろん社会保障の面が含まれてはいるでしょうが、もう少し広い意味で社会のあり方、社会のデザインを意図してのことでしょう。そう考えるのであれば、まず真っ先に「自助」が来るのは当然のことです。


なぜなら、そもそも人が生きて生活を営む上においては、まず自らが働くことが第一であるのは言うまでもないからです。したがって最も大事なことは誰もが働ける内は、そして働く意思があれば長く働くことができ、しかも満足できる報酬を得ることができるようにすることです。

そのために大切なことは経済が成長し、企業が収益を上げられるようにすることが重要です。「自助」という言葉の裏に隠された重要なキーワードは「経済の成長」なのです。日銀の金融緩和政策、政府の財政政策やその他の政策の推進も、規制改革もそのための手段であるに過ぎません。

もちろん、すべての人が生きていく上で全てを「自助」でまかなうことは不可能です。高齢で働けなくなったり、病気になったり、あるいは介護を受ける必要が出てきた時には「共助」という仕組みを使うことになります。

但し、この共助=社会保険という仕組みは、社会全体で負担をまかない、必要な人にサービスを届ける“保険”の役割であるから、その便益を受ける人が一定の費用負担をすることは当然です。

ところが、不幸にしてそうした費用負担すらできなかったという人たちもいます。そうした人たちに対して最後に機能するのが「公助」なのです。これは前述したようにまさにセーフティーネットであり、具体的には高齢者福祉や虐待の防止といった人権擁護の対策、そして生活保護といった、生きていく上での最低限の生活保障が「公助」の役割なのです。

したがって、社会全体の構造や自分の生き方を考えた場合、まず「公助」が最初に来るというのはあり得ないことです。前述のように「公助」の財源は保険料ではなく税金です。

税収を増やすためには経済が成長し、個人のベースにおいては給料が上がることは不可欠です。そのために、(1)労働市場に参加する人を増やす(女性の活躍推進や高齢者の就労拡大)、そして(2)生産性の向上(DX、規制改革)、を基本的な施策として据えているのが菅内閣の目指す方向です。

前内閣時の政策や今後やろうとしている施策を見ても、間違いなくこの方向が見て取れる。「自助・共助・公助」というのはそういう流れの中で考えておくべきです。

高橋洋一が主張するように、「自助・共助・公助の最適バランス」は重要な論点なので、国会ではバランスを取り上げるべきです。そこには、野党は自公政権と違う価値観があり、それを堂々と国民に示すべきです。そもそも、「自助」という言葉で一国の首相を攻撃できると思う人間は、この世に滅多に存在しないと思います。ましてや、それが倒閣につながると考えているとしたら、これはもう、酔っ払って正気をなくしているか、気が触れているとしか思えません。

しかし、自助をなくせなどというのは、論外の愚論なので、国会で話すべきことではありません。しかも、このような発言を野党第一党の、代表代行がするというのですから、見識も常識も何もあったものではありません。そもそも、国政に関する基本認識が狂っているのですから、これでは経済やコロナ対策、安保などをまともに考えられないのも当たり前です。

現在は、コロナやバイデン政権の誕生、中国の台頭、憲法問題など、国会で論議すべきことはたくさんあります。その中で「自助」をなくせという質問で首相を攻撃している暇などないはずです。

ただ、こうした政治家は、蓮舫などの野党だけではなく、自民党にも多いというのが実情です。蓮舫のように、表だって、首相を糾弾するなどということはないのですが、基本的な「自助・共助・公助」の意味を良く理解していないので、簡単に財務省等に煽られて、増税などに賛成してしまうのだと思います。

これらが、ただの言葉としてではなく、体系的に頭に入っていれば、別に難しい経済理論など知らなくても、積極財政や緊縮財政や、金融緩和や金融引締の実施すべき時など、常識的に認識できるはずです。本当残念なことです。


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2021年1月28日木曜日

牙を剥く中国、「海警法」のとんでもない中身―【私の論評】未だに尖閣、台湾を含む第一列島線を確保できない中国の焦り(゚д゚)!

牙を剥く中国、「海警法」のとんでもない中身

いよいよ東シナ海、尖閣で実力行使か


(福島 香織:ジャーナリスト)

 日本の大手メディアでも大きく報道され注目を集めている中国の「海警法」が全人代(全国人民代表大会)常務委員会で可決され、2月1日から施行される。

 この法律は、昨年(2020年)6月に可決した武警法改正と、これから審議される海上交通安全法改正案とセットとなって、おそらく日本の尖閣諸島を含む東シナ海情勢や、南シナ海情勢に絡む米国との関係に大きな影響を与えていくことになろう。この一連の法改正は、中国と海上の島嶼の領有権を巡り対立している諸外国にとって大きな脅威となることは間違いない。

 「海警法」成立の最大の意義は、中国海上警察が戦時に「中国第2海軍」としての行動に法的根拠を与えられるということだろう。つまり、戦時には法律に基づいて武装警察部隊系統の中に明確に位置付けられ、中央軍事委員会総指揮部、つまり習近平を頂点とする命令系統の中に組み入られることになる。

 そしてその背景にあるのは、習近平政権として、東シナ海、南シナ海における島嶼の主権をめぐる紛争に対してより積極的なアクションを考えている、ということではないだろうか。

 2018年からすでに中国人民武装警察部隊海警総隊司令員(中国海警局長)が、人民解放軍海軍出身で、かつて東海艦隊副参謀長を務めた軍人であることは、海警が準軍隊扱いであり、その目標が東シナ海、台湾海峡にあるということを示していた。

 尖閣の建造物を強制撤去?

 海警法の全文はすでに司法部ホームページなどで公表されている。昨年12月3日まで公表されていた草案は11章88条だったが、可決された法律は11章84条となった。ニュアンスが若干マイルドになった印象もあるが、国際社会が懸念していた内容は大きく変わっていない。

 まず最大のポイントは第20条の、「中国当局の承認なしに、外国組織、個人が中国管轄の海域、島嶼に建造建や構築物、固定、浮遊の装置を設置した場合、海警がその停止命令や強制撤去権限をもつ」ことだろう。日本にとっては、例えば尖閣諸島の魚釣島に日本青年社が建てた燈台は、この法律に照らしあわせれば、中国当局に撤去権限がある、という主張になる。万一、中国の第2海軍の装備を備えた海警船が、本気でこの燈台の撤去に動き出したとき、日本は海上保安庁が対応にあたるのだろうか。それとも自衛隊が出動するのだろうか。

 米国や東南アジアの国々にとって気になるのは、第12条2項。重点保護対象として、排他的経済水域、大陸棚の島嶼、人工島嶼が挙げられている。これは南シナ海で中国がフィリピンやベトナムと争って領有を主張する南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島、そして台湾が実効支配する太平島や東沙諸島を想定しての条文だろう。

 第21条には、「外国軍用船舶、非商業目的の外国船舶が中国管轄海域で中国の法律に違反する行為を行った場合、海警は必要な警戒と管制措置をとり、これを制止させ、海域からの即時離脱を命じる権利を有する。離脱を拒否し、深刻な損害あるいは脅威を与えるものに対しては、強制駆逐、強制連行などの措置をとることができる」とある。となれば、中国が領有を主張する海域、例えば尖閣諸島周辺で、海上保安庁や海上自衛隊の船が海警船と鉢合わせすれば、どのような衝突が起きても不思議ではない。

 第22条では「国家主権、海上における主権と管轄が外国の組織、個人による不法侵入、不法侵害などの緊迫した危機に直面した時、海警は本法およびその他の関連法に基づき、武器使用を含む一切の必要な措置をとって侵害を制止し、危険を排除することができる」とある。つまり、日本側が大人しく海域から離脱しなければ、十分に戦闘は起こりうる、ということになる。

 第27条では、「国際組織、外国組織、個人の船舶が中国当局の承認を得て中国管轄海域で漁業および自然資源勘査、開発、海洋科学研究、海底ケーブルの敷設などの活動を行うとき、海警は法にのっとり人員と船を派遣して監督管理を行う」とある。

 そして第29条は、「違法事実が決定的で、以下の状況のいずれかに当たる場合、海警当局の執行員は現場で罰則を科すことを決定できる。(1)個人に対する500元以下の罰金あるいは警告を課す場合、組織に対する5000元以下の罰金あるいは警告を課す場合。(2)海上で罰則を科すことができず、なお事後処罰が困難な場合。その場で決定した罰則は所属の海警機構に速やかに報告を行う」とある。

 第30条では、「現場の罰則は適用されないが、事実がはっきりしており、当人が自ら過ちを認め罰を認めた場合、かつ違反の事実と法律適用に異議のない海上行政案件の場合、海警機構は当人の書面の同意書を得て、簡易の証拠とし、審査・承認して迅速な手続きを行う」としている。

 以上の条文を続けて読むと、例えば尖閣諸島周辺で日本人が漁業を行ったり海洋調査を行うには、中国当局の承認と監視が必要で、承認を得ずに漁業や海洋調査を行って海警船に捕まった場合、罰金を支払う、あるいは書面で罪を認めれば、連行されて中国の司法機関で逮捕、起訴されることはないが、日本人が「尖閣諸島は中国の領土である」と認めた証拠は積み上がる、ことになる。

 外国船に対して武器を使用する状況とは

 武器の使用規定については第6章にまとめられている。それによると、海警警察官は次のような状況において携行武器を使用できるとしている。

(1)法に従い船に上がり検査する際に妨害されたとき。緊急追尾する船舶の航行を停止させるため
(2)法に基づく強制駆逐、強制連行のとき
(3)法に基づく執行職務の際に妨害、阻害されたとき
(4)現場の違法行為を制止させる必要があるとき

 また、次の状況においては警告後に武器を使用できるとしている。

(1)船舶が犯罪被疑者、違法に輸送されている武器、弾薬、国家秘密資料、毒物などを搭載しているという明確な証拠があり、海警の停船命令に従わずに逃亡した場合
(2)中国の管轄海域に進入した外国船舶が違法活動を行い、海警の停船命令に従わず、あるいは臨検を拒否し、その他の措置では違法行為を制止できない場合

 さらに次の場合は、個人の武器使用だけでなく艦載武器も使用できるとしている。

(1)海上における対テロ任務
(2)海上における重大な暴力事件への対処
(3)法執行中の海警の船舶、航空機が、武器その他の危険な手段による攻撃を受けた場合

 国際法との整合性はグレーだが

 そもそも中国はなぜ今、海警法を制定したのか。米国の政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ」に、上海政法学院元教授の独立系国際政治学者、陳道銀氏の次のような気になるコメントが掲載されていた。

「中国海警は将来、さらに重要な影響力を持つようになる」
「目下、中国海軍の主要任務は近海防衛だ。もし戦時状態になれば、海警の法執行パワーはさらに強化される。きっと海軍と同調協力する。南シナ海、台湾海峡、東シナ海などの近海作戦において海上武装衝突が起きる場合、対応するのは海警であろう」
「海警局の法執行の根拠となる法律は今までなかった。中国の目下の建前は法治国家の建設だ。法的根拠を明確にしたことで、少なくとも今後は外部勢力に海警がどのようなことをできるかをわからせようとするだろう」

 つまり習近平政権として、海警設立の本来の目的を周辺諸国に見せつける準備がようやく整ったことになる。今後、“近海防衛”における衝突発生の可能性がますます高まるが、中国としては、海洋覇権国家に至るための、たどるべき道をたどったというわけだ。

 ただし、この海警法が国際法と整合性があるかというと、きわめてグレーゾーンが大きい。例えば法律にある“管轄海域”と表現されている海域はどう定義されているのか。国際海洋法に基づけば、中国が勝手に人工施設をつくった南シナ海の岩礁は、中国の管轄海域でもないし、尖閣諸島周辺海域も“まだ”中国の管轄海域ではない。

 だが、67ミリ砲の艦砲と副砲、2基の対空砲を含む海軍艦船なみの艦載兵器を備えた海警船が目の前に現れ、その照準が自分たちに向けられたとき、漁船や海洋研究船の船員たちは「この海域は中国の管轄海域ではない」と強く言えるだろうか。

【私の論評】未だに尖閣、台湾を含む第一列島線を確保できない中国の焦り(゚д゚)!

上の記事をご覧になれて、皆さんはどう思われるでしょうか。私自身は、以上のような記事は、当然中国を警戒し、中国の横暴に備えるべきであることを主張しているのだとは思いますが、大事な部分が抜けていると思います。

それは、日本が中国に尖閣を奪取されたときに、何も打つ手を考えていないようにも見えることです。このブログでも度々掲載しているように、日本はこのような事態に備えています。そうして、中国はこの日本の備えを打ち破ることは、後少なくとも数十年は不可能です。

では、その備えとは何かといえば、日本の米国に次ぐ世界第二の対潜哨戒能力と、静寂性に優れた高性能の潜水艦です。

世界各国海軍が使用している潜水艦は現在、主要な推進装置に原子力機関を使用するかどうかで、原子力潜水艦と通常動力潜水艦に分類されています。

通常動力は基本的に、水中潜航中は電池で推進モーターを回します。電池がなくなると、ディーゼルエンジンで推進しつつ、電池を充電するため水上に浮上するか、水上に空気吸入用シュノーケルを突き出して水面近くの水中を航行します。

例えるならば、ハイブリッド自動車のような仕組みです。原子力潜水艦が登場するまで、潜水艦とは通常動力潜水艦であり、このような潜水艦はディーゼル・エレクトリック潜水艦とも呼ばれます。

米海軍はかつては通常動力潜水艦を建造し、運用していました。しかし、原子力潜水艦を採用してからは通常動力潜水艦を捨て去り、現在は原子力潜水艦しか運用していません。それに伴い、原子力潜水艦を製造しているアメリカの潜水艦メーカーは、通常動力潜水艦を造る能力を失ってしまっています。

通常動力潜水艦を持たない米海軍は潜水艦戦訓練のためスウェーデン海軍から通常動力AIP潜水艦「ゴトランド」を乗組員ごと借り受けました。(提供:米海軍 撮影:2005年米海軍、サンディエゴ米海軍潜水艦基地)

この潜水艦は、米軍の演習において「空母を撃沈」しています。もちろん空母が単独で移動していたわけではなく、空母を護衛する潜水艦を含む艦隊と空母打撃群として行動していたときに察知されずに接近し、雷撃命中判定を得たと言う事です。米軍海軍が通常型潜水艦を甘く見ていた事が明らかになった一件でもあり、米軍では通常型潜水艦対策のモデル艦として運用されている優秀な艦です。

米軍がスウェーデンから借り受けた通常動力AIP潜水艦「ゴトランド」

一方、原子力の使用に抵抗感が強い日本では、原子力潜水艦は採用されず、海上自衛隊の潜水艦は全て、通常動力潜水艦です。三菱重工業(神戸)と川崎重工業(神戸)が建造しています。日本技術陣が生み出す海自潜水艦は、世界でも屈指の性能を有していると国際的に評価が高いです。

とりわけ2018年10月4日に進水した「おうりゅう」(三菱重工業が製造中)は画期的な新鋭潜水艦で、アメリカ海軍はじめ、世界各国の海軍関係者の間で注目されている。なお、「おうりゅう」はすでに2020年3月に、就役した。第1潜水隊群第3潜水隊に編入され呉基地に配備されました。

「おうりゅう」が世界中から注目される理由は、世界に先駆けてリチウムイオン電池を採用したことありました。

「おうりゅう」は「そうりゅう」型潜水艦と呼ばれる通常動力潜水艦の11番艦です。それまでの10隻の「そうりゅう」型潜水艦は、スターリングAIP(非大気依存推進)システムとディーゼル・エレクトリックシステムを併用する推進方式でした。

この方式の通常動力潜水艦はAIP潜水艦と呼ばれ、原子力潜水艦でないにもかかわらず、極めて長期間にわたって海中に潜航した状態を維持できるため、各国海軍では先進的潜水艦として評価が高いです。とは言え、実際にAIP潜水艦を建造している国は、スウェーデン、日本、ドイツ、中国など極めて少数です。

ただし、いずれの潜水艦も静寂性(ステルス性)は、日本の潜水艦よりも劣ります。特に、中国の潜水艦は工作技術が格段に劣っているため、静寂性(ステルス性)に劣り、日米を含む先進国のソナーにすぐに発見されてしまいます。

これとは、反対には日本の潜水艦は、静寂性に優れ、中国の対潜哨戒能力ではこれを発見することはできません。これは、中国に発見されることなく、日本の潜水艦は世界中にいかなる海域でも巡航することができるということです。

しかしながら、この「おうりゅう」からはAIPシステムが姿を消し、ディーゼル・エレクトリックシステムに回帰しました。ただし、AIP潜水艦を含むこれまでの通常動力潜水艦で使われてきた鉛電池(エレクトリック推進の動力源)に代えて、リチウムイオン電池が搭載されたのです。

スマートフォンやラップトップコンピューターなどに採用されているリチウムイオン電池は、これまでの潜水艦で用いられてきた鉛電池に比べて充電時間が大幅に短縮できるという、潜水艦にとっては何より望ましい特徴を持ちます。

そうして何よりも、優れているのは静寂性です。日本の高度の工作技術とリチュウム電池を使用することにより日本の「おうりゅう」以降の通常型潜水艦は、静寂性(ステルス性)においては、ほぼ「無音」といっても良い性能を持つに至りました。この意味するところは、日本の潜水艦はいかなる国の対潜哨戒もくぐり抜け、自由に世界中のどこの海域でも潜航できるということです。

リチュウム電池化は、他にも多くのメリットをもたらしました。第1次大戦や第2次大戦中の潜水艦は、必要に際して潜航可能な軍艦という位置づけだったが、現代の潜水艦は、水中を潜航して作戦行動をとることが前提となっています。そのため、電池の持続時間を極大化するとともに、電池の充電時間を極小化することは、以前の潜水艦以上に現代の通常動力潜水艦にとっては最大の関心事でした。

さらに、コンパクトで強力なリチウムイオン電池は、鉛電池と同じ容量の場合、発生するエネルギー量は2倍以上といわれていて、潜水艦の水中機動性能を飛躍的に向上させることができます。つまりは潜水艦の作戦能力を強化することを意味します。

また鉛電池は、戦闘中などに潜水艦が激しい動きを余儀なくされた際、内部から酸素が放出されて電池が壊れたり、水素が放出されて電池が爆発したり、電池内に充塡されている硫酸に海水が浸入して有毒ガスを発生したりするといった危険性がありました。しかし、リチウムイオン電池にそのような危険性はありません。

このようにリチウムイオン電池は潜水艦にとって明らかに多くのメリットをもたらします。しかし、かねてよりリチウムイオン電池は何らかの状況下で加熱された場合、温度の急上昇が起こり、発火・爆発する恐れがあると指摘されていました。

実際、スマートフォンや「テスラ・モーターズ」の電気自動車などで発火・炎上事故が発生しています。しかしながら、日本の技術陣(三菱重工業、GSユアサ)は強靱で安定した隔壁や、自動消火システムなど極めて安全性の高い潜水艦用リチウムイオン電池を生み出しました。

2016年発火したサムスンのスマホ。リチュウム電池は中国製だった

20年に「おうりゅう」が就役し、海上自衛隊によりリチウムイオン電池潜水艦の作戦運用が良好であったため、AIP潜水艦に代わって、リチウムイオン電池潜水艦が通常動力潜水艦の花形的存在となりました。

そうして、日本の潜水艦は昨年の「たいげい」(リチュ厶イオン式)の進水をもって、
2010年版『防衛計画の大綱』で述べた、国益の保護と「来たり得る脅威への対処」を理由に、潜水艦の保有数を16隻から22隻に増やす方針を実現しました。

日本は、旧型を保持しつつ新型で補う戦略を取りました。つまり、おやしお型潜水艦の就役期間を18年から24年に延長する一方で、そうりゅう型やたいげい型に代表される新型潜水艦の建造を加速したのです。「たいげい」は就役後、先に就役したおやしお型潜水艦10隻及びそうりゅう型潜水艦11隻と共に海上自衛隊の今後の潜水艦戦力の中核となります。

公式データによと、新たに進水した「たいげい」は長さ84メートル、幅9.1メートルで、基準排水量は3000トンに達し、乗員70名体制。動力源としてリチウムイオン電池を採用し、水中航行時間は現在そうりゅう型が保持する約2週間という記録を遥かに上回っています。

昨年進水した「たいげい」

「たいげい」型の進水は、リチウムイオン電池技術がすでに比較的成熟し、大規模装備の潜水艦部隊の条件を満たすことを示しています。

また、従来のディーゼル・エレクトリック方式潜水艦のシステムにあった様々な部品を取り払ったことで、「たいげい」は水中音響学的特徴がさらに減弱し、敵による監視や追跡の難度が高まりました。平たくいえば、いかなる国も「たいげい」を探知することはできないということです。

火力面では、そうりゅう型と同等の武器システムを搭載しています。艦首に533mm魚雷発射管6門を装備し、米国のMk-37魚雷、日本の89式魚雷、AGM-84対艦ミサイル「ハープーン」の発射に用います。搭載弾数は30発です。

近年、日本は自国の潜水艦のアジア太平洋周辺海域における活動状況を控えめにしか公表してないため、日本国内ではその実力がほとんど知られていません。例えば昨年は海上自衛隊の潜水艦とヘリコプター母艦「かが」、護衛艦「いかづち」などによる特別派遣部隊がアジア太平洋の重要海域で合同演習を実施した後、ベトナム・カムラン湾に寄港しました。

日本の主な戦略的企図は、第1に、対潜演習を利用して、アジア太平洋の重要海域における自らのプレゼンスを強化し、空中、水上、水中の「全方位、立体式」介入を可能にする。第2に、米国のインド太平洋戦略と連携して、海洋安全保障が牽引する形で、地域の重要国との防衛協力関係を格上げすることです。

日本は潜水艦の建造と活動の動向を公表すると同時に、アジア太平洋地域の関係国に対する関係強化と、支援を徐々に強めています。日本の地域戦略の意図に対して中国が懸念するのは、必至であり、アジア太平洋の海洋安全保障情勢の安定に寄与することになります。

これについては、このブログで過去にも述べきたように、日本の対潜哨戒能力が中国よりはるか優れていて、潜水艦の静寂性(ステルス性)も優れているため、今後少なくとも数十年は、日本は中国の尖閣への侵攻を含む日本侵攻を防ぐことができます。

何しろ、日本の潜水艦は中国に発見されることなく、何れの海域でも自由に潜航できるのに対して、中国の潜水艦は日本にすぐに発見され、すぐに撃沈されることになるでしょうから、勝負は最初から決まっています。中国は「おやしお型潜水艦」ですら、探知するのが困難です。

それでも、中国が尖閣を奪取した場合、日本はすぐに動くことができず、国会で論議が行われるかもしれませんが、1年以上も放置したというのであれば、中国の意図は成就するかもしれませんが、3ヶ月以内にでも政府が決心して重い腰をあげて、尖閣を守る決心をすれば、必ず奪還できます。

それに、中国が尖閣を奪取をすれば、日本世論は中国に激昂し、尖閣の奪還はもとより、中国の横暴に対抗するため、改憲がなされるどころか、中国成敗の声がまきおこることになるでしょう。なにしろ、昨年の米ピュー・リサーチ・センターの世論調査では、日本人の86%もが、中学に対して否定的な考えを持っていることが明らかになっています。

日本は数隻の潜水艦隊が、交代で常時尖閣を包囲すれば良いのです。そうして、上陸した人民解放軍か民兵の補給を絶てば良いのです。近づく補給船には、警告し、それでも従わない場合は撃沈すれば良いです。輸送機も警告して、それに従わなければ、撃墜してしまえば良いのです。

こういうと、中には、中国が強大な軍事力で攻めてきたらどうなるとか、核攻撃したらどうなると言う方もいらっしゃるかもしれませんが、中国が、強大な陸上部隊を送ってきても、超音速ミサイルで攻撃しようとしても、ドローンを何千機、何万機派遣しても、宇宙兵器で攻撃しようとしても、発見できない敵に対しては攻撃できません。攻撃しても無駄になるだけです。

それに、核兵器など使えば、米国や他国も巻き込む懸念もありおいそれと使うことはできません。尖閣諸島を奪うために核兵器を使えば、馬鹿丸出しで、世界から嘲笑の的になります。それに、世界の中国に対する脅威は頂点に達し、多くの国々が中国と戦う用意をすることになるでしょう。日本もそうなります。

さすがの日本も、中国に対しては軍事攻撃も辞さない構えをするでしょう。今まで、攻撃をしてこなかった領海・領空を侵犯した艦船や航空機などにも、躊躇なく攻撃を加えることになるでしょう。

日本は、尖閣を奪還するにしても、潜水艦で包囲すれば良いだけなので、大きな犠牲も出さず、補給を絶ち、最終的には尖閣に上陸した部隊を全員捕虜にすることになると思います。

こうしたことは、当然のことながら、人民解放軍の幹部は理解しているでしょう。このブログでも何度か述べているように、中国海軍のロードマップでは、昨年2020年には中国海軍は第2列島線を確保することになっていますが、未だに台湾や尖閣諸島を含む第一列島線すら確保できていません。

その苛立ちが、「海警法」の改定や、頻繁な尖閣諸島付近での示威行動につながっているのだと思います。中国としては、軍事的に到底かなわないので、様々な脅しを何度もしかけることで、日本が折れてくるのを狙っているのでしょう。

しかし、このような脅しに屈するべきではありません。日本としては、そろそろ、かなりウザくなっきましたから、潜水艦を用いて脅すくらいのことをしても良いでのではないかと思います。日本はすでに潜水艦を尖閣諸島付近に潜ませているでしょうが、なかなかそれを表に出さないので、中国は挑発して試しているというとこがあるのかもしれません。

これには、どこかで対処しないと、中国側は「日本はいくら挑発しても日本にとって無敵であるはずの潜水艦は出してこない」との誤ったメッセージを与えてしまいます。そうなる前に、突然艦船にソナーを照射するとか、中国軍からすれば全く予想していなかったところで、魚雷を発射したり、ミサイルを飛ばして爆発させるなどの演習を尖閣付近行っても良いかもしれません。


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2021年1月27日水曜日

バイデン政権の対中政策で「戦略的忍耐」復活か オバマ政権時代の外交失策を象徴 識者「政権の本音が出た可能性」 ―【私の論評】当面外交が定まらないバイデン政権だが、日本政府は最悪の事態に備えよ(゚д゚)!

 バイデン政権の対中政策で「戦略的忍耐」復活か オバマ政権時代の外交失策を象徴 識者「政権の本音が出た可能性」 

激突!米大統領選

アントニー・ブリンケン新国務長官

 ジョー・バイデン米政権の外交・安全保障チームが、やっと本格始動する。米上院本会議は26日、国務長官にアントニー・ブリンケン氏(58)を充てる人事を賛成多数で承認したのだ。バイデン政権は「対中強硬姿勢の維持」を表明したばかりだが、報道官から突然、「戦略的忍耐(Strategic patience)」というキーワードが飛び出し、物議を醸している。バラク・オバマ政権時代の外交失策を象徴する言葉であり、日本をはじめ、同盟国の懸念となりそうだ。


 「(中国は)米国にとり最も重大な外交的懸案」「(ドナルド・トランプ前政権に続き中国に)強い立場で臨んでいく」

 国務長官に指名されたブリンケン氏は19日、上院外交委の公聴会でこう語った。ハーバード大学卒、コロンビア大学法科大学院修了のエリートで、オバマ元政権で国務副長官を務めた。バイデン大統領の次男に中国疑惑が指摘されるなか、ブリンケン氏の存在が安心感を与えていた。

 ところが、中国の習近平国家主席による「ダボス・アジェンダ」での講演を受けて、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は25日、次のように語った。

 「米国は、21世紀のありようを決める苛烈な戦略的競争を中国と展開している」「多少の『戦略的忍耐』を持って対応したい」

 「戦略的忍耐」とは、オバマ政権時代に対北朝鮮政策に用いられた言葉で、北朝鮮に圧力をかけながら態度変更を待つ戦略だ。だが、北朝鮮はこの間に、核・ミサイル開発を高度化させた。外交界では「大失敗」「大失策」というのが定説となっている。

 トランプ前政権でも、マイク・ペンス副大統領が2017年の訪韓時に、「戦略的忍耐の時代は終わった」と皮肉を込めて語っている。

 サキ報道官は、オバマ元政権で国務省報道官を務めた。バイデン政権が、中国に対して「戦略的忍耐」という用語を出してきた意味は何なのか。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「サキ報道官が『戦略的忍耐』が『無為』『失敗』の代名詞とされてきたことを熟知していないわけがない。バイデン政権の本音が出た可能性もある。報道官は、首脳会談で大統領と同席が許され、ときに助言する立場でもある。『戦略的忍耐』という言葉を用いながら、政権側から釈明や訂正もまだ出ていないのは危ういのではないか」と語った。

【私の論評】当面外交が定まらないバイデン政権だが、日本政府は最悪の事態に備えよ(゚д゚)!

米・ホワイトハウスのサキ報道官は1月25日、アメリカの対中政策について、「米中は厳しい競争関係にある」と対抗姿勢を示す一方、「戦略的忍耐を持ってこの問題に取り組みたい」と話し、今後、同盟国などと協議しながら中国に対応して行く考えを示しました。


ただ「戦略的忍耐」という言葉は、オバマ政権のときに北朝鮮に使っていた言葉です。あまり良いイメージはありません。オバマ政権が戦略的忍耐をしていたら、北朝鮮はどんどん核開発してしまいました。

多くの人は、結局この時と同じような姿勢で臨みつつ、放置ということなのかと思ってしまうかもしれません。しかしこれは報道官見解です。トランプ氏であれぱば、トップダウンでツイッターで発信していたでしょう。

バイデンさんはそういうことはしません。全部ボトムアップでやって行くでしょう。「厳しい姿勢」と言いつつ、「戦略的忍耐」と言うということは、どちらを言っているのかわかりません。「途中でどちらかを消せばいい」と考えている可能性が高いです。

結局報道官報道官レベルに発言させ、反応を探っている状況であると考えられます。両方言っておいて、大統領がどちらかを言うという形にするのでしょう。大統領にフリーハンドで残しておき、様子をみて最終的に大統領が意思决定してそれを、正式に公表するのでしょう。

あとで「大統領はこう決めた」というやり方です。ボトムアップでやって行くと、こういうことが多いです。大統領ではないのに食い違ったら困るので、両方言っておく方が無難です。報道官レベルではまだなんとも言えない状況にありながら、それでも質問等があれば応えないわけにもいかず、無難にこなしているところでしょう。

バイデン政権は、始まったばかりで外交方針がわからないので、「戦略的忍耐」「米中は厳しい競争関係にある」などの表現がされると、1つ1つ反応して「どうなのか」と考えてしまいがちです。

こういうときも全体で判断すべきです。AもBもという言うということは、まだわからないし決まっていないということと解釈すべきです。トランプ大統領からの引き継ぎ期間等がほとんどなかったので、これから決めるのでしょう。

特に中国について、「対抗姿勢は前と同じだ」と言っているということは、あとから変わるということです。トランプ政権を引き継いでいるのだから、スタート時点は当然、同じなのです。でもそのあとはわからないです。3ヵ月から半年くらい経たなければ、本音はわからないのではないでしょうか。

特に政権交代したときには、そのくらいしないと定まって行かないです。トランプ氏も、大統領選のときは北朝鮮のことは何も話していませんでした。外交はその時々で変わって行くので今の時点では、わかりません。

一方、国内政治では、イエレン財務長官が正式に指名されました。国内は外交に比較するとかなりわかりやすいと思います。当然のことながら、当面はコロナ対策一色です。イエレン氏は元FRB議長でしたし、雇用重視の人です。失業率を下げるために猛烈な財政出動をするでしょう。

現在は、外交より国内優先になるので、そういう意味で、中国についてバイデン政権がどのような政策をとるかはまだわからないのです。

米国の国内財政出動は1.9兆ドルで、日本円にして200兆円規模だと言われています。これは、余程のことがない限り、通るでしょう。下院では、民主党が優勢ですし、上院は民主と共和党の割合は、50対50です。。

最終的にはは副大統領が投票できるので上院も民主党が多数だと思って良いです。1.9兆ドルには、共和党も反対しづらいでしょうあるとすれば、財政懸念があるというくらいです。いまは長期的な低金利水準ですから、長期的にはメリットがあるとイエレンさんは言っています。長期債を財源にすることは全く正しいです。

ただし、「戦略的忍耐」という言葉は時には、何もせずにして相手の暴走を傍観する口実にも使われるものです。バイデン政権は対中姿勢は心配ではあります。サキ報道官も、明らかに大失敗した「戦略的忍耐」という言葉を使うべきではなかったと思います。

トランプ政権のポンぺオ国務長官は離任直前の19日、中国共産党政権によるウイグル自治区のウイグル族ら少数民族への迫害を「ジェノサイド」(集団虐殺)と認定するなど、任期が終わる直前まで中国共産党政権の脅威をアピールしてきました。

ポンペオ前国務長官

その後継者、アントニー・ブリンケン新国務長官(オバマ政権下では国務副長官)は上院承認公聴会でトランプ政権の中国政策に同意すると発言していました。

バイデン新大統領もブリンケン新国務長官も外交問題の専門家であり、中国共産党政権の実態をよく知っているはずです。それにもかかわらず、バイデン政権発足後の21日、米国務省のウェブサイトから「中国の脅威」、次世代移動通信網(5G)セキュリティらの問題が主要政策項目(Policy Issues)から取り下げられていることは何を意味するのでしようか。

さらに、同サイトには、反腐敗、気候と環境保護、新型コロナウイルスなど17項目が掲載されているにもかかわらず、先に述べた「中国の脅威」や5G項目が削除されています。その理由は説明されていません。そうして、今回の「戦略的忍耐」発言です。しかも、中国に対する施策に関連した発言です。

中国共産党政権がバイデン新政権発足を受け、覇権政策を修正して対話路線に変えたということはありません。にもかかわらず、米国務省の主要政策項目から「中国の脅威」を削除することは北京に誤解を与える危険性があります。

中国共産党は相手が弱く出れば、必ず強く出てきます。バイデン新政権が中国に対して懐柔政策に出れば、北京は待ってましたといわんばかりにさまざまな工作を展開することになるでしょう。

「中国の脅威」だけではありません。新政権の対イラン政策も懸念材料です。バイデン新大統領は就任する前から、トランプ大統領が離脱したイラン核合意に再復帰する意向を表明してきました。

バイデン氏は昨年9月の選挙戦でトランプ大統領のイラン核合意からの離脱を「失敗」と断言し、「トランプ大統領がイラン・イスラム革命防衛隊ゴッツ部隊のソレイマニ司令官を暗殺したためにイランが米軍基地を攻撃する原因となった」と述べ、対イラン政策の修正を示唆してきました。

トランプ前米大統領は2018年5月8日、「イランの核合意は不十分」として離脱しましたが、イラン当局は米国の関心を引くために同国中部のフォルドゥのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げたばかりです。バイデン氏はイランの核の脅威を軽視してはならないでしょう。

バイデン新大統領はトランプ政権の新型コロナ対策が不十分だったと頻繁に批判してきましたが、40万人以上の米国人の命を奪った新型コロナが中国武漢発であり、中国政府が感染発生直後、その事実を隠蔽した事実に対しては批判を控えてきました。

マスク嫌いのトランプ前大統領は新型コロナの発生源については感染拡大当初からはっきりと中国側を批判してきました。


バイデン民主政権下には既に相当親中派・媚中派が入り込んでいるとみるべきでしょう。同時に、リベラルなメディアには中国資本が入り、情報工作をしています。それだけにバイデン新大統領が明確な対中政策を確立しなければ、中国共産党の懐柔作戦に嵌ってしまう危険性が大きいです。

バイデン新政権下の国務省ウェブサイトの主要政策項目から「中国の脅威」が削除されたというニュースと「戦略的忍耐」はその懸念を裏付けるものとみて良いと思います。

ただし、先にも述べたように、バイデン政権の対中国政策は、3ヶ月、半年後をみないとわからいな部分があるのも事実です。

そのため、少なくと3ヶ月から、半年はトランプ政権の対中国政策が踏襲されることになるでしょう。まだ、若干の時間はあります。日本政府としては、この時間を有効に活用して、他国とも協同したうえで、バイデン政権が中国に対する宥和策が取らないように、働きかけていくべきでしょう。

そのためには、ファイブアイズとの関係強化も、クワッドの強化も役立つでしょう。ファイブアイズは米国内の情報もかなり取得しているでしょう。特に英国や豪州は、バイデン政権の弱みなどもかなりつかんでいるはでず。利用しない手はありません。

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2021年1月26日火曜日

【日本の選択】バイデン大統領就任演説の白々しさ 国を分断させたのは「リベラル」、トランプ氏を「悪魔化」して「結束」はあり得ない―【私の論評】米国の分断は、ドラッカー流の見方が忘れ去られたことにも原因が(゚д゚)!

 【日本の選択】バイデン大統領就任演説の白々しさ 国を分断させたのは「リベラル」、トランプ氏を「悪魔化」して「結束」はあり得ない

トランプ前大統領はアメリカを分断した「悪魔」だったのか

 ジョー・バイデン氏が20日(日本時間21日未明)、第46代米国大統領に就任した。多くの「リベラル」メディアは、バイデン大統領誕生を歓迎しているような様子である。だが、私は素直にこの大統領の就任を祝う気になれない。「リベラル」という病が米国、そして日本を蝕(むしば)んでいるように思えてならないからだ。

 就任演説を読むと「民主主義」を11回、「結束」を8回も呼びかけている。私が注目したいのは「結束」の部分だ。例えば、次のような表現がある。

 「大統領に就任した今日、私は米国を1つにすること、国民、国を結束させることに全霊を注ぐ。国民の皆さんに、この大義に加わってくれるようにお願いする。怒り、恨み、憎しみ、過激主義、無法、暴力、病、そして、職と希望の喪失という共通の敵と戦うために結束すれば、素晴らしく大切なことを成し遂げられる」

 あまりに白々しいセリフだと思うのは、私だけだろうか。

 ドナルド・トランプ前大統領が米国を「分断」させた。だからこそ、バイデン氏は「結束」を強調すると言いたいのだろうが、それほど単純な話ではないだろう。

 真剣に考えてみて、実際に米国を分断させたのは誰なのか?

 米国国民というアイデンティティーを否定し、さまざまなマイノリティーのアイデンティティーを過度に強調してきたのは「リベラル」ではないのか。

 民族的、性的マイノリティーの人権を擁護するのは当然だ。しかし、彼らの人権のみを過度に強調し、米国の庶民を敵視するような風潮がなかっただろうか。こうした米国を分断させる「リベラル」への憤りの念が、トランプ氏への支持につながっていたのだろう。

 ツイッター、フェイスブックといったSNSは、トランプ氏が米連邦議会議事堂襲撃を煽ったとしてアカウントを停止した。「言論を封殺した」という指摘もある。

 常識に立ち戻って考えてみるべきだ。こうした言論の統制が「結束」をもたらすはずがない。自らの意見を表明することすらできないとの大衆の憤りの念は、米国内の分断を深めるだけだ。

 私はトランプ氏を熱烈に支持した一人ではない。日本の国益を第一に考える愛国者として、その外交感覚には危うさを覚えていた者である。だが、彼を「悪魔化」してしまうことを憂慮している。トランプ氏、そしてトランプ支持者を悪魔のように扱うことによって、米国の「結束」が甦(よみがえ)ることはあり得ないからだ。

 「リベラル」は、国民としてのアイデンティティーを否定することが、知的に洗練されたことであるかのようにみなす。

 だが、これは間違いだ。国家なくして人権の擁護はあり得ない。国民としてのアイデンティティーを取り戻すことこそが肝要なのだ。

 ■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。拓殖大学客員研究員などを経て、現在、大和大学政治経済学部准教授。専攻は政治哲学。著書・共著に『「リベラル」という病』(彩図社)、『偽善者の見破り方 リベラル・メディアの「おかしな議論」を斬る』(イースト・プレス)、『なぜ彼らは北朝鮮の「チュチェ思想」に従うのか』(扶桑社)など。ユーチューブで「岩田温チャンネル」を配信中。

【私の論評】米国の分断は、ドラッカー流の見方が忘れ去られたことにも原因が(゚д゚)!

冒頭の岩田氏の記事にもあるように、バイデンは就任演説で、「大統領に就任した今日、私は米国を1つにすること、国民、国を結束させることに全霊を注ぐ。国民の皆さんに、この大義に加わってくれるようにお願いする。怒り、恨み、憎しみ、過激主義、無法、暴力、病、そして、職と希望の喪失という共通の敵と戦うために結束すれば、素晴らしく大切なことを成し遂げられる」と述べました。



では、具体的にはどうすれば、その結束や団結が達成できるとバイデンは考えているのでしょうか。バイデンは就任演説で「対峙しなければならず、打ち負かすべき政治的過激主義の台頭や白人至上主義、国内テロがある」と明確にし、「私たちが直面する敵、怒り、恨みと憎しみ、過激主義、無法、暴力」という言葉を用いながら、「事実そのものが操作されたり、捏造されたりする文化を拒否しなければいけない」と言明しました。

これは、すべての聴衆にとり、バイデン氏の「打ち負かすべき敵」が誰を指していたのかは明々白々でした。それは、非リベラルであり、トランプ陣営であり、陰謀論者であり、ツイッターやフェイスブックにアカウント停止されるような人々です。つまり、民主党やリベラルエリートの政敵です。

バイデン氏のメッセージに「結束」「団結」と、「打ち負かすべき敵との対峙」が矛盾する形で混在しています。バイデン氏は、自らの政敵であるトランプ陣営に対する戦いに国民を「参戦」させ、同じ敵を叩くことにより、彼が意図する「結束」と「団結」がもたらされることを説いているのです。

事実、バイデンは、「私の魂のすべては、米国をまとめること、国民を一つにまとめること、この国を結束させることにある。すべての国民に、この大義に参加してもらいたい」と支持を訴え、同時に、非リベラルやトランプ支持派を意味する「打ち負かすべき政治的過激主義の台頭や白人至上主義、国内テロ」「敵、怒り、恨みと憎しみ、過激主義、無法、暴力」の打倒を誓っています。

これでは、岩田氏も語っているように、トランプ氏やその支持者を「悪魔化」して「結束」を解いているのであって、米国民の結束を説いているのではないのは、あまりにはっきりしすぎています。だから、白けるのです。

今回の選挙で、トランプ支持者が、極少数派であったとすれば、あるいはこれでも良かったかもしれません。しかし、今回の大統領選挙では実にトランプ大統領7100万票も獲得しているのです。これは、決して少数派とはいえません。半分近くが、トランプ大統領を支持したのです。

この分断を招いたのはトランプだと言う人も多いですが、元々米国社会は分断していましたし、特に90年代以降においては分断の原因は、“リベラル”といわれる側にありました。

経済的な格差が拡大する中、リベラル派が多文化主義やマイノリティなどの問題に入れ込みすぎて、ラストベルトと呼ばれる地域に住む白人労働者層を包摂しなくなっていってしまいました。

民主党オバマ政権は明らかに失敗し、ラストベルトや南部の白人を置いてきぼりにしてしまいました。


"Yes We Can"の兵庫に代表されるように、圧倒的な陶酔感の中で現れた「国民統合」の象徴がオバマでしたが、就任してからは、皮肉なことに国民が徹底的に分断してしまいました。2008年の大統領選挙で国民統合を訴えたオバマが「国民を分裂させた大統領」になってしまったのはたまらない皮肉です。

そこにトランプが出てきて、“俺が支えるぞ”と力強く言ったので、多くの人がこれを支持したのです。いわば民主党やリベラル派に対する失望、絶望がトランプ大統領を生んだのです。

今は米国でも日本でも、“リベラル”と呼ばれるものがリベラルではなくなっているようです。例えばメリトクラシーの問題です。要するに、アメリカンドリームというものがあるのだからこどもたちに勉強させましょう、そうして頑張ればチャンスを与えよう、というもので、共和党も民主党も同じようなことを言っています。

確かにチャンスを与えることは大切です。しかし、そもそも勉強できるような家庭環境ではなかったり、本を読むような環境がなかったりと、意欲さえも持てずに貧困から抜け出ることができない子ども大勢います。

大人でさえ、“頑張ればできる”と言われても、“今さら俺は頑張れないよ”という人たちがいるはずです。そういう人たちにも目を配り、包摂するのが真のリベラルのはずです。しかし、民主党を支持する高学歴エリートそのようなことには無頓着のようです。

 これが、90年代以降の欧米が抱えている問題です。これを解決しない限り、米国の分断は収まりません。

そうして、バイデンはこの問題を解決できないでしょうし、トランプ大統領もこれに対処しようとはしていたのですが、根本的な解決方法はみいだせないままのようでした。

私は、意外とこの問題はAIが解消する可能性があるのではないかと思っいます。多くの人はAIに既存の仕事が奪われることを心配しています。しかし、そうとばかりはいえないと思います。

AIに関しては、夢物語とも脅威とも受け取る人が相半していると思います。しかし、これについては正しい認識をすべきでしょう。

AIに関しては、私自身は簡単なブログラムなら学生のときに作成したことがあります。それで、わかったのですが、結局のところAIも人がブログラミングしないと何もできないということです。

高度に発達したAIでは、それこそ、医師や弁護士などが頭の中で実施しているような、様々なことができますが、いくら高度であっても、手順が決まったものでないとできません。そのかわり、手順の決まったものなら、かなり高度なものでもできます。

先日このブログでGoogleのコロナ感染者の予測の例をあげましたが、この予測ではAIが活躍しています。ただし、このAIが実施しているのは、古典的な微分方程式を解くことです。初期条件を与えれば、AIが微分方程式を解いてくれるのです。

初期条件として与えるのは、その時々でコロナ感染者数のみです。実行再生産数などは考慮していません。その時々のコロナ感染者数の増減の速度には、病院の状況や、ワクチンの有無とか、薬の有無や有効性など諸々すべてが含まれていることとを前提として方程式が組まれています。

そのため、大雑把な傾向を知るには十分に役立ちますが、正確無比ということはあり得ません。しかし、それでも役に立っています。そうして過去の予測の状況をみると確かに大雑把な傾向はつかめます。

過去には、この微分方程式は人が解いていたのですが、AIにそれを実行させると、人間よりはるかに短い時間でできますので。日々頻繁に更新できます。これは、人間にはできないことです。

このようなAIはたとえば、保険数理士などの仕事はすぐに任せられるでしょう。ただし、人間が最終的に確認するので、人が全くいらなくなるということはないでしょうが、それにしても、一人の保険数理士が多数の計算をこなすことになるでしょうから、現在のような人数の保険数理士が必要ではなくなるのは確実です。

このようなことは、今までいわゆる知識労働といわれた職業にすべてあてはまるでしょう。企業のマネジメントや弁護士や医師も例外ではなくなるでしょう。とにかく、手順が決まっていることについては、ほとんどがAIが実施することになるでしょう。

ただ、全く新しいく、手順化されていないものは、AIは無理です。ただし、既存の手続きまではAIが実施し、その後手順化されていない部分のみ人間が実行することになるでしょう。

そうなると、何が起こるでしょうか。かつてのラストベルトや南部の白人がおいてきぼりを食らったように、民主党支持派を含むすべてのいわゆる高学歴エリートがおいてきぼりを食らうことになるのです。

その時になってはじめて、高学歴エリートは、ラストベルトや南部の白人の気持ちが理解できるようになるかもしれません。

ただし、ラストベルトや南部の白人をおいてきぼりにしない方法もあります。それは、トランプ大統領が実施したように、中国からの輸入品に関税をかけることでは、根本的には解決できません。無論、トランプ大統領が中国と対峙したのは間違いではありませんが、それでは米国内の問題を根本的に解決することはできません。

AIにできることとして、手順の決まったことであれば、教育の機会均等ということがあげられます。人間であればできないことがAIにはできます。それこそ、一人の子供朝から晩までつききっきりで無理なく、教育をするということさえ可能になります。そうして、こうした道具を主体的に利用できる人を育てることができれば、教育の格差は解消されることになるでしょう。

そうなると、誰もが自分の強みと弱みをかなり早い時期から認識して、強みを伸ばすことができます。多くの人が強みに特化すれば、それだけで世の中は変わるでしょう。

ドラッカーは人の強みについて以下のように述べています。

誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思う。だが、たいていは間違っている。わかっているのは、せいぜい弱みである。それさえ間違っていることが多い。しかし、何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。(『プロフェッショナルの条件』)

ドラッカーは、この強みを知る方法を教えています。“フィードバック分析”です。なにかまとまったことを手がけるときは、必ず9ヵ月後の目標を定め、メモしておきます。9ヵ月後に、その目標とそれまでの成果を比較します。目標以上であれば得意なことであるし、目標以下であれば不得意なことです。

ドラッカーは、こうして2~3年のうちに、自らの強みを知ることができるといいます。自らについて知りうることのうちで、この強みこそが最も重要です。

このフィードバック分析から、いくつかの行なうべきことが明らかになります。行なうべきではないことも明らかになるといいます。

AIを用いれば、子どもの頃から、そうして大人になっても、詳細なフィードバック分析ができるでしょう。さらにその時代に適応して、自らが最も強みが発揮できるのは何であるかも知る手立てができるようになります。そための知識も、無理なく得られるようになります。

地理的にも自国内はもとより、世界中で、自分の強みを発揮できる地域を特定できるようになるでしょう。そのように考えると、AIは使い方によっては、人にかつては考えられなかったような多様で奥行きの深い様々な機会を提供するようになるでしょう。

しかし、使い方を誤れば、米国のラストベルトや南部の白人のように打ち捨てられる人を増やすことになります。

基本的な考え方としては、テクノロジーでも政治でも、経済でもすべてが社会を良くするため存在しているということを忘れないことだと思います。ただし、これは無論社会主義をすすめることではありません。

わたしたちが異質な新しい社会に入ったことがはじめて明らかになったのは、イデオロギーとしてのマルクス主義と社会システムとしての共産主義の双方の崩壊によってでした。ところが、社会システムとしての共産主義を破壊したのと同じ力が、資本主義も老化させつつあると認識すべきです。

その力は何かといえば〝知識〟です。「基本的な経済資源、すなわち経済用語でいうところの『生産手段』は、 もはや、資本でも、天然資源(経済学の『土地』)でも、『労働』でもありません。それは知識となったのです。そうして、AIはその知識を生産的に効率的に使うためのツールなのです。

ドラッカー氏

「知識」が反資本主義でも、非資本主義でもないドラッカーがいうところの、「ポスト資本主義社会」という新しい〝知識社会〟を誕生させたのです。現在では、知識の仕事への適用である『生産性』 と『イノベーション』によって価値は創造されるのです。そうして、これからの最も重要な社会勢力が、〝知識労働者〟〝テクノロジスト〟になったのです。
きわめて多くの知識労働者が知識労働と肉体労働の両方を行う。そのような人たちをテクノロジストと呼ぶ。テクノロジストこそ、先進国にとって唯一の競争力要因である」(『明日を支配するもの』)
現代社会はすでに、知識に裏付けられた技能を使いこなす者が無数に必要とされるようになったのです。それは技能者というよりも、「テクノロジスト」です。ドラッカーは、若者のなかでも最も有能な者、知的な資質に最も恵まれた者、最も聡明な者にこそ、テクノロジストとしての能力を持ってほしいと語っていました。

先進国の一員であり続けたいのならば、米国がものづくりから離れるなど、もってのほかでした。純粋の知識労働者を持つだけでは、最先端を進むことは不可能だからです。ものづくりこそ、重要なのです。それに気づいたトランプ氏はその点では、優れていたと思います。

物理学、生化学、高等数学の知識について国境はありません。たとえばインドは、その貧しさにもかかわらず、質量ともに、世界最高水準の医師とコンピュータープログラマーを擁します。他方で知識の裏付けはないですが、低賃金でも働く肉体労働者は途上国に豊富に存在します。

じつは、従来は、テクノロジストによる競争力優位を実現していたのはかつて米国だけでした。
テクノロジストについて体系的で組織だった教育が行われているのはごくわずかの国でしかない。したがって今後数十年にわたり、あらゆる先進国と新興国においてこのテクノロジストのための教育機関が急速に増えていく。(『明日を支配するもの』)
本来米国では、テクノロジストを育てていくべきだったのに、それを怠ってしまったのが、失敗の本質だったと思います。

テクノロジストが大勢育っていれば、そうしてサンベルトや南部の白人たちが、テクノロジストに転換していれば、大きくて深刻な分断は起こらなかったはずです。というより、ある程度の分断は、互いに競い合うということで、決して悪いことではないと思うのですが、米国の分断は度が過ぎます。

トランプの取り巻きの中にも、ドラッカーの教えを熟知して指南する人もいなかった違いありません。もしそのような人がいれば、トランプ氏のやり方も随分変わったかもしれません。トランプ氏は実業家であるので、ドラッカー流の考え方はかなり受け入れやすかったに違いありません。

そうして、ドラッカー流のマネジメントは、あらゆる組織にあたはまります。政府も例外ではありませんし、ドラッカーはいずれ、政府の本来の仕事は統治であり、それ以外に関する機能は外に出すべきであるなどの革新的な提言も行っていました。

なぜ顧みられなくなってしまったのでしょう。一昔前だと、米国でもドラッカー流の経営学は、第一線の経営者に熟知され、敬愛されていましたが、現在は残念ながら、ドラッカー流の経営学は、米国の主流の経営学者からは忘れさられ、因果関係や数理的な分析ばかりが主流となり、経営者でも昔のように信奉する人は少なくなってしまったからでしょう。

日本の経営学者でも、ドラッカーは時代遅れなどと言う経営学者もいますが、はっきりいいますが、そのような人はそもそもドラッカーの書籍などの読み込みが少なすぎるのではないでしょうか。因果関係一辺倒で、ドラッカー流の見方をできない経営学者を私は信用していません。そういう学者には私はこういいたいです。「実際に会社の経営をしてみろ!そこまでいかなくとも、少なくとも業績が良く、かつまともな企業の経営者のことを仔細に観察せよ!」と・・・・・。

そのためもあって、私はかつてはドラッカーの論文が掲載されていてよく読んでいたハーバード・ビジネス・レビューなども読まなくなってしまいました。しかし、今でもドラッカーの著書は折に触れて読んでいます。そうして、その時々で新たな発見があります。

これは、やはりドラッカーがあまりに偉大すぎて、ビジョナリー・カンパニーの著者ジム・コリンズは例外として、目立った継承者がいなかったということにも原因があると思いますこれに対して、日本では元々ドラッカー流の経営学が受け入れられる素地があったのだと思います。

このような風潮が米国の競争力を従来よりは、低下させてしまったのだと思います。同じころ、日本では平成年間のほとんどを財務省が緊縮財政に走り、日銀が金融引締一辺倒に走り、日本も競争力を低下させてしまいました。

トランプ氏もバイデン氏も今一度、ドラッカーの主張に耳を傾けてほしいものです。日本では、ドラッカー流の見方は今でもある程度根付いているようですが、マクロ経済についてもっとまともな議論ができるよう素地をつくるべきと思います。

米国でも多くの人が、ドラッカー流の見方も考慮に入れて、政治を見ていれば、今日のような深刻な分断はなかったのではないかと思い、残念な気持ちになります。

日米ともに、ドラッカー流の経営学という先達の考え方を大切にし、さらに発展させていくべきと思います。

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2021年1月25日月曜日

【産経・FNN合同世論調査】若者や学生からの支持高く 施策奏功か―【私の論評】GOTOトラベル、緊急事態宣言の次はワクチンとオリンピックで中高年層の心を蝕むマスコミの手口(゚д゚)!

【産経・FNN合同世論調査】若者や学生からの支持高く 施策奏功か

菅総理

 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が23、24両日に実施した合同世論調査では、若者世代で菅義偉(すが・よしひで)内閣の支持率が高かった。新型コロナウイルスのワクチンへの期待に加え、携帯電話料金の引き下げなど若者をターゲットにした施策を積極的に打ち出していることも、支持率向上に影響したとみられる。

 年代別の内閣支持率を見ると、「支持する」と回答した20代は62.7%に上り、「支持しない」の31.7%を大きく上回った。「支持しない」の回答で最も多かったのは60代の51.7%で、次いで70代の51.6%となった。

 職業別では、「支持する」と回答した学生は68.1%となり、正規、非正規雇用、自営・フリーランスからの回答は、いずれも過半数を占めた。「支持しない」との回答が最も多かったのは主婦・主夫だった。

 ただ、内閣支持率の高い若者世代も政府の新型コロナ対策に関する評価は厳しい。「評価する」は男性20代で36.9%、女性20代で33.9%と低調。「評価しない」は男性20代が61.4%、女性20代が66.1%となった。

山田太郎参議院議員

 これまで、首相は若者世代の将来の負担上昇を防ぐために、75歳以上の医療費窓口負担について所得基準を単身世帯の年収「200万円以上」と改めるなど、若年層を狙った施策が相次いでいる。24日にはインターネットに詳しい自民党の山田太郎参院議員から発信力強化に向けた助言を受けるなど、若者への支持拡大に余念がない。

【私の論評】GOTOトラベル、緊急事態宣言の次はワクチンとオリンピックで中高年層の心を蝕むマスコミの手口(゚д゚)!

菅内閣の支持率等のグラフ等、詳しい内容については以下の記事を御覧ください。


さて、上の記事では、「年代別の内閣支持率を見ると、「支持する」と回答した20代は62.7%に上り、「支持しない」の31.7%を大きく上回った。「支持しない」の回答で最も多かったのは60代の51.7%で、次いで70代の51.6%となった」とあります。

どうしてこうなるかといえば、やはり若者は、ネットを情報源にしているからでしょう。若者というと、SNSなどを思い浮かべがちですが、多くの若者は、SNSだけではなく、厚生労働省等が出す資料なども見ています。私の身の回りでも、若者はそのような傾向がありますが、40歳代以上は、テレビなどが情報源になっている人が相変わらず多いです。

千人あたりの、感染者数と重傷者数をグラフにすると、以下のようになります。やはり、日本が世界で最も少ないです。


そもそも、テレビなどではいたずらに恐怖を煽っていて、なにやら最近は感染者数が増えて、破滅的な状況にでもあるような報道ぶりです。

しかし、冷静に元データにあたるようなことをすれば、日本だけが感染者や死者が増えているのではなく、他国も増えており、むしろ日本は少ない状況にあることがわかります。

そうして、以前もこのブログに掲載したのですが、南半球では昨年の夏(北半球の冬にあたる)には感染者が北半球に比較して増えましたが、最近は減少傾向です。

このようなことをみれば、日本の最近の感染者数が増える傾向は、元々感染学者が警告していたように、冬になって気温が下がり、乾燥したからというのが妥当な見方です。GoToトラベルが感染者を増やしたとか、政府の自粛勧告が手遅れだったと考えるのが妥当といえるようなデータは見当たりません。

昨年「GoToトラベル」について、マスコミは止めろとの大合唱でした。ちょうど同じころ、韓国では、GoToトラベルのような事業は展開していないにもかかわらず、日本のように感染者が増えていました。それは、当然とといえば当然で、GoToトラベルによる人の移動は全体の1%程度しかなく、コロナ感染拡大の「元凶」になっているとは言いがたいものでした。

しかし、理不尽なことにマスコミは止めろと大合唱していました。政府は、それを受けて「とりあえず」止めたようです。感染が止まればそれでよし、止まらなければGO TOは無関係とわかるのでよし、だったのでしよう。

そうして、GoTOを政府がやめると、一方でマスコミは「観光が大変だ」と、まるでマッチポンプのような報道を続けました。GoToを止めても感染者増加したため、ハッキリ言ってマスコミの主張はデタラメだったということははっきりしましたが、マスコミは全く反省していません。

昨年12月はじめの新型コロナ対策についても、マスコミは「大きすぎる」と批判しました。その後の新型コロナ対策を見据えたものだったのですが、マスコミは全く先も見えず、無意味なから騒ぎばかりして、テレビや新聞の視聴者や購読者を脅しつづけています。

それどころか、今年1月に政府が出した緊急事態宣言について、マスコミは「遅すぎるし、支援が少ない」とまで批判しました。これは、流石に異様です。

これについては、高橋洋一氏が「医療崩壊を防ぐために…3月までに使える「9.3兆円」活用が日本を救う 重要なのは「アメとムチ」のバランス」で、マスコミの小鳥脳(少し前のことも覚えていないこと)と批判していました。

日本のコロナ対策のための、財政出動はGDP比でみても世界最高レベルです。海外から見れば、日本は感染が少なく経済も痛んでいません。それは、下のグラフ(20201018FinacialTimesのグラフ)をみれば一目瞭然です。


このグラフの横軸は、100万人あたりの死者数です。縦軸はGDPの落ち込みです。日本は先進国の中ではかなり健闘していることが良くわかります。

そうして、わずか1ヶ月前の12月初めに、緊急事態宣言が再発令に備えた予算額を用意したのに、「遅すぎるし、支援が少ない」とはあきれてしまいます。しかも、1ヶ月前には「大きすぎる」と批判したことをすっかり忘れています。

現在、日本医師会から「医療崩壊」の危険性が叫ばれていますが、昨年5月の2次補正予備費10兆円に対して、大きすぎると批判したのはマスコミと一部野党でした。それで関係者が萎縮してしまったことは否めないです。

昨年夏頃に新型コロナがひと段落したと判断されたため、現場の医師会、知事からの具体的な要請もなく、積極的な予算消化もないまま、無為な時間を過ごしてしまったというのが実体です。

現在できることは、病床余力のある民間病院での新型コロナ専用病床への転用について補助金を出すことですが、これは既に行われている。さらに、医師・看護師、その他看護助手、消毒業者等の直接コロナ患者へのケアに携わる人達の手当アップもすべきです。そうして、資金的には有り余るほどあるので、菅政権は着実に実行していくことでしょう。

以上のような馬鹿げた、小鳥の小脳的な奉読を繰り返してきた、マスコミですが、次の標的はワクチンです。

接種は2月中〜下旬からと予定されていますが、その予算手当は、昨年5月の2次補正で1300億円計上されています。このワクチン接種は、予防接種法に基づくものなので、実務についてこれまで厚労省中心で都道府県、市町村で検討されてきまし。昨年12月には実務マニュアルも作られ、自治体向けに説明会も行われています。

1948年予防接種法制定当初は義務接種であり、違反した場合の罰則まで規程されていました。しかし、1960年代あたりから集団接種などで、複数の人に対して注射針を変えずに接種するなどの不適切事例があり、1976年改正で、罰則なし義務接種となりました。

1980年代から、予防接種の副作用に関するマスコミ報道が多くなり、そうした世論に押され、予防接種法改正で定期接種は努力義務とされました。その結果、各種接種率は低下し、感染症流行の一因ともされています。

最近では、子宮頸がんワクチンの事例があります。一部の大手新聞が、ワクチンの副作用を強調する報道を行ったことをきっかけに、ワクチンが危険という風潮が広がり、結果として、厚労省はワクチン接種の方針転換を余儀なくされました。こうした方針転換の理由は他国では見られないことから、ただちに世界保健機関(WHO)からも非難されました。

日本では、おそらく、こうした一部マスコミの煽り記事により、ワクチンを打っておけば助かったであろう人が結果として大勢亡くなっていると考えられます。

ただし、煽ったマスコミでは成功体験のように受け止められているのかもしれません。そもそも、マスコミは自分たちの存在意義を政府を批判するものだと決めつけているようで、特に過去のマスコミによる民主党旋風で、民主党政権が成立したという成功体験を忘れられないのでしょう。マスコミはそもそもが「大変だ、大変だ」といい、視聴率や購読率をあげたい人たちです。そのため、ワクチンではメリットよりデメリットを強調することになります。

ワクチン接種は、新型コロナ対策の要です。情報戦になりうる可能性もあるため、政府にはバランスのとれた情報発信を望みたいです。河野太郎氏がワクチン大臣に任命されたのは、マスコミの報道にうんざりした政府が情報戦を制するための人事と読むべきです。河野氏であれば、情報発信力もありますし、明らかに間違った報道などには、ためらわず鉄槌をくだすでしょう。

さらに、東京オリンピックに関しても、とにかくその危険性を一方的に煽るなどして、政府批判を煽るのに利用するでしょう。

このあたりのワクチン、オリンピック等についても、若い人達は、様々な情報源にあたり、正しい認識を持つのでしょう。そうして、東京オリンピックについても開催の可能性もあると信じることでしょう。

そうして、コロナ収束後の世界に思いを馳せていることでしょう。

一方、新聞・テレビが情報源の中高年層は、コロナで相当精神が痛めつけられ、悲惨な老後、悲惨な死しかイメージできなくなっているに違いありません。

しかし、情報源を新聞・テレビ以外にも求めたり、見方を少し変えれば、将来への見通しが変わってくると思います。そもそも、運動能力では及ばないかもしれませんが、考え方や行動が若者のようにしなやかになるでしょう。マスコミ等に操られ惨めな余生を送るのか、充実した余生を送るかは、考え方と行動により随分変わるのだと思います。

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