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岡崎研究所
今回、欧州議会が中国との投資に関する条約の批准を凍結したことは、EUと中国との関係に否定的な影響を与えるだろう。
そもそも、今年3月20日、ウイグル人問題について、これを人権侵害として、 EUが中国の高官等にEU諸国への入国禁止や資産凍結の制裁を発動したのに対して、中国共産党が、欧州議会議員、外交官、学者、シンクタンク等に報復制裁したことが、EU・中国関係の大きな悪化を招いた。そして、今度は、欧州議会が昨年末に合意された EU・中国投資条約の批准を凍結することで応えたというのが経緯である。
EUも中国も態度を変えることは見込まれず、EU・中国投資条約は少なくとも当面は批准されないことになろう。その経済に与える影響は正確には測定不可能であるが、EUの対中投資、中国の対EU投資に否定的な影響を与えることは確実である。
経済取り決めは通常、双方にとり利益になるものであるから、それを取りやめることは双方の損失になる。EUがそれを覚悟してこの投資条約の批准を「凍結」したことは、EUの対中姿勢が経済的利益だけで動いているのではないことを示すものであり、そういう姿勢は歓迎される。経済的利益よりも政治的に筋を通すことを優先させた姿勢は評価される。
米国、EU、英国、カナダはともに、ウイグル人問題について中国に制裁を課している。日本は米国のマグニツキー法やEUの同じような法律のごとく、人権侵害に制裁を課す法律を持たない。したがって、ウイグル人問題について制裁を課すことが法律上不可能である。こういう法律があった方が米国とEUと歩調を合わせることが出来、民主主義陣営としての協調ができるが、同時にそういう法律を作り運用することは、このケースでも見られるように中国の報復制裁につながることになる。この問題は諸要素を考慮して考えていくべきであろうが、どちらかといえば、制裁という手段も発動には慎重であるべきだが、手元に用意しておくのが適切ではないかと考える。すなわち、法律は準備しながらも、その運用は慎重にということである。
中国は習近平の下で、香港についての国際条約違反、国際法を無視した南シナ海での行動、国内での人権侵害など、鄧小平の姿勢とは様変わりして、強引な対外政策を遠慮なしに追求している。これは中国の覇権追求政策を示しており、これにはブレーキをかけていくことが重要である。EUの今回の出方はそれに資すると言えるだろう。
【私の論評】日本版マグニツキー法の成立を急げ(゚д゚)!
上の記事にもあるように、日本には米国のマグニツキー法やEUの同じような法律のように、人権侵害に制裁を課す法律がありません。そのため、ウイグル人問題について制裁を課すことが法律上不可能です。
しかし、そのような動きはあります。人権侵害をきっかけに資産凍結などの制裁を科せるようにする法律は、2020年からJPAC(対中政策に関する国会議員連盟)で検討が進んでいました。しかし、JPAC自体が香港問題をきっかけに設立されたことから、中国を念頭に置いているのではという指摘もされ、公明党と共産党からは参加議員がいませんでした。
そのためもあり、各政党の賛同を得るため、特定の国を名指ししない「人権侵害を超党派で考える議員連盟」が2021年4月に発足しました。これまで公明党と共産党を含めた衆・参合わせて82名が参加しています。
人権侵害をきっかけに海外の個人や団体に強力な制裁を科せるようにする「人権侵害制裁法」の成立を目指すこの議員連盟の会合が、5月14日に開かれました。
議員連盟は、人権侵害をきっかけに海外の個人や団体に資産凍結などの強力な制裁を科せるようにする「人権侵害制裁法」の制定を目指しています。
マグニツキー法は米国で2012年に最初に導入されました。ロシアの弁護士セルゲイ・マグニツキー氏が、ロシアの税務官の巨額な不正行為を告発したあと、疑惑の極めて高い状況で2009年に獄死。これを受け、マグニツキーを死に至らせたロシアの高官を罰するためのものです。現在その適用範囲は、腐敗した高官や人権侵害者へと拡張されています。
米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官の初外遊の来日による日米の2+2会合が3月16日に開催されました。その直前の同月12日には、「クアッド」4カ国の首脳会議が開催されました。
議員連盟は、人権侵害をきっかけに海外の個人や団体に資産凍結などの強力な制裁を科せるようにする「人権侵害制裁法」の制定を目指しています。
この日は第2回目の総会が開かれ、「制裁法」の素案をもとに、出席した議員が非公開で意見交換をした。 「人権侵害制裁法」は、ロシアのならず者のごろつき政府高官どもの汚職を告発した直後に拘束され、2009年に獄中死したロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキー氏の名前を冠した「マグニツキー法」がベースです。
あり日しのセルゲイ・マグニツキー氏 |
これをきっかけに、カナダやイギリス、EUなどで類似の法律が作られました。 素案では、外為法や入管法を改正して、人権侵害をきっかけに資産凍結や入国拒否などを発動できるようにするとしています。
議員連盟はさらに、人権侵害の疑いが生じた場合、国会が政府に対して「調査」を要求することができるようにしています。政府は必ず調査を実施し、その結果、必要であれば制裁措置を講じることになります。
これは、人権問題への対応が外交関係に影響することを危惧する政府の「背中を押す」機能とされまする。 しかし、総会後に取材に応じた共同会長の中谷元氏(自民党)と山尾志桜里氏(国民民主党)によると、素案には異論もあがったといいます。
山尾氏によると、出席した議員からは、国会が主導権を握って政府に調査をさせることに対して「国会ルートが強すぎると政府の外交にとって問題だ」とする懸念の声があがったといいます。
また、中谷氏によると、人権侵害の有無を調査する政府の能力に疑問を呈する声もあったといいます。中谷氏は「日本が独自で正しい判断ができることが大事だという意見があった。情報収集や分析をできるような体制を作らないといけない」と話しました。
今後、提示された素案を各政党で検討する。山尾氏は「今は全くの素案」とした。また、今国会の成立を目指すとした従来の目標については「できれば時期を失さずまとめたい」と答えるにとどめました。
米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官の初外遊の来日による日米の2+2会合が3月16日に開催されました。その直前の同月12日には、「クアッド」4カ国の首脳会議が開催されました。
来日したブリンケン国務長官(左)とオースティン国防長官(右) |
日本は同盟国を米国しか持たない国です。その日本が、日米同盟を堅固にしながら、その基盤の上にインド太平洋に広がる恒常的なネットワークを確立していくことは、大変に望ましい方向性です。米国のバイデン政権が日米同盟の堅固を求めている間に、それに素直に対応できたことは、とても良いことでした。
ただし気になることもありました。ブリンケン長官と茂木大臣との外相会談の席上で、ブリンケン長官が冒頭で「民主主義・法の支配・人権がミャンマーと中国で脅かされている、アメリカと日本は価値を共有している」と発言したことが、日本国内では報道されなかったことだ。
日本の報道では、中国、中国、中国、と、アメリカの高官が中国について何を言ったか、だけが大々的に扱われました。「ミャンマーと中国で脅かされている」と米国の国務長官が発言しても、「対中強硬路線」というふうにしか報道されませんでした。
しかし、中国へのスタンスだけで日米同盟の行方を推し量るのは、間違いです。日本が重視して強化すべきなのは、第二次安倍政権時代に頻繁に語られたような「価値観外交」です。
バイデン政権は人権を重んじる外交を標榜しています。選挙期間中から大統領就任後は世界「民主主義サミット」を開催するとしていました。このサミットに台湾を招くことも決めたといいます。確かに中国に気兼ねしない姿勢です。
しかし、バイデン政権が仕掛けているのは、「民主主義vs.権威主義」という世界観にそって、米中対立を理解することです。中国に対する米国の外交政策も、その世界観にそって世界に説明することを心掛けています。
このバイデン政権の姿勢の支柱になっているのが、ブリンケン国務長官です。今やバイデン政権の「価値観外交」の部分を、大統領以上に代表していると言えます。バイデン大統領が上院外交委員長だった時代からの20年来の外交ブレーンです。日米同盟の堅持は、ブリンケン長官との良好な関係を抜きにしては、ありえないです。
そのブリンケン長官の発言を真剣に受け止め、バイデン政権時代においても日米同盟を堅持するのであれば、ミャンマー問題を軽視するべきではないのです。
日本は世界の民主主義の行方には関心がない、日本はただ米国が中国に対抗して尖閣諸島を守ってくれさえすればそれでいい、という姿勢は、日米同盟の安定を損なわせることになります。「価値観外交」の部分がなければ、「FOIP(自由で開かれたインド太平洋)」へ日米同盟の可能性を広げていくことも難しくなるでしょう。
しかし本来の「マグニツキー法」は、中国と敵対するための法案ではありません。実際に、JPACの有力議員たちは、議員立法のために主要会派の合意を求めるため中国だけを対象とした法律ではないことを明確にすべく「人権侵害を超党派で考える議員連盟」を作ったのです。
ただし気になることもありました。ブリンケン長官と茂木大臣との外相会談の席上で、ブリンケン長官が冒頭で「民主主義・法の支配・人権がミャンマーと中国で脅かされている、アメリカと日本は価値を共有している」と発言したことが、日本国内では報道されなかったことだ。
日本の報道では、中国、中国、中国、と、アメリカの高官が中国について何を言ったか、だけが大々的に扱われました。「ミャンマーと中国で脅かされている」と米国の国務長官が発言しても、「対中強硬路線」というふうにしか報道されませんでした。
しかし、中国へのスタンスだけで日米同盟の行方を推し量るのは、間違いです。日本が重視して強化すべきなのは、第二次安倍政権時代に頻繁に語られたような「価値観外交」です。
バイデン政権は人権を重んじる外交を標榜しています。選挙期間中から大統領就任後は世界「民主主義サミット」を開催するとしていました。このサミットに台湾を招くことも決めたといいます。確かに中国に気兼ねしない姿勢です。
しかし、バイデン政権が仕掛けているのは、「民主主義vs.権威主義」という世界観にそって、米中対立を理解することです。中国に対する米国の外交政策も、その世界観にそって世界に説明することを心掛けています。
このバイデン政権の姿勢の支柱になっているのが、ブリンケン国務長官です。今やバイデン政権の「価値観外交」の部分を、大統領以上に代表していると言えます。バイデン大統領が上院外交委員長だった時代からの20年来の外交ブレーンです。日米同盟の堅持は、ブリンケン長官との良好な関係を抜きにしては、ありえないです。
そのブリンケン長官の発言を真剣に受け止め、バイデン政権時代においても日米同盟を堅持するのであれば、ミャンマー問題を軽視するべきではないのです。
日本は世界の民主主義の行方には関心がない、日本はただ米国が中国に対抗して尖閣諸島を守ってくれさえすればそれでいい、という姿勢は、日米同盟の安定を損なわせることになります。「価値観外交」の部分がなければ、「FOIP(自由で開かれたインド太平洋)」へ日米同盟の可能性を広げていくことも難しくなるでしょう。
しかし本来の「マグニツキー法」は、中国と敵対するための法案ではありません。実際に、JPACの有力議員たちは、議員立法のために主要会派の合意を求めるため中国だけを対象とした法律ではないことを明確にすべく「人権侵害を超党派で考える議員連盟」を作ったのです。
日本版「マグニツキー法」が中国だけを標的にしたものではないことを明らかにするのであれば、議員立法を目指す方々には、是非ミャンマーにも関心を払ってほしいです。香港、ウイグル、チベットについて述べたら、次に必ずミャンマーについてふれてほしいです。
ミャンマー軍が行っていることは、人道に対する罪と断罪すべき行為ですし、それを裏付ける証拠も次々と伝わってきています。日本版「マグニツキー法」を現下のミャンマー情勢と重ね合わせることが、法案の趣旨を一層明確にすることにもつながることになります。
さらに言えば、甚大な人権侵害に対して関心を払う国である姿勢を見せることは、ブリンケン国務長官と歩調をあわせ、日米同盟を堅固にする方向性でもあります。そのことを、懐疑派の方々には、よくよく考えてほしいものです。
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