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岡崎研究所
ザカリアの論説は的を射たよい論説である。習近平になってからの中国外交が、鄧小平時代とその後とは様変わりしているというのはその通りであろう。「平和的台頭」を標榜していた中国はもはやないということである。
習近平のスローガンは「中国の夢」、「中華民族の復興」など、中国のナショナリズムを鼓舞するものである。こういうスローガンは中国人の心には響くであろうが、他民族には全く響かない。そういうなかで、国際協調の考え方は背後に追いやられてしまった。中国外交が、いまや自国利益を追求するあまり、攻撃的なもの(「戦狼」)になっており、国際社会がそういう中国への懸念を強めているのは自然であるように思える。
既にザカリアが記事の中で紹介しているが、米国人で中国に対する否定的な見方をしているのは2017年の47%から2020年には73%になった。カナダでは40%から73%に、英国では37%から74%に、豪州では32%から81%に、韓国では61%から 75%に、スウェーデンでは49%から85%に、いずれも急激に増えた。コロナの影響もあるだろうが、おそらくそれだけではないだろう。香港やウイグル問題を含む人権問題、貿易や投資での嫌がらせ、海洋進出等、様々な事柄が絡み合ってのことだろう。
習近平は相当内向きの政治家のようで、国内政治における自分の立場を盤石にすることに最も大きい関心があり、国際世論や他国の反応への関心がそれほどでもないからではないかと思われる。中国は大国であり、国外のことはほどほどの注意を払っておけばよいとの考えもありうるが、中国に対する評価が世界的に悪化していることには中国も気を付けた方がよいのだろう。「戦狼外交」とかでいい気になっていると、しっぺ返しを被る可能性がある。その予兆は、既に、ザカリアも論説で指摘しているように、世界各地(EU、豪州、インド等)で起きている。このザカリアの記事を読んでかどうかは分からないが、5月末の共産党の会議で、習近平は、世界に「愛される中国」となるよう世論戦を重視するよう指示したとの報道があった。
ザカリアは、論説の冒頭で、米国は様々な問題で左右の分断が起きているが、それが起きていないのが、中国への脅威だと指摘している。その証拠として、最近、米国の超党派の代表団が、相次いで台湾を訪問している。4月15日、ドッド元上院議員(民主党)とアーミテイジ元国務副長官らが、バイデン大統領の要請を受けて台湾を訪問した。また、6月6日、現役の上院軍事委員会のタミー・ダックワース議員(民主党)及びダン・サリバン議員(共和党)や上院外交委員会のクリス・クーンズ議員(民主党)の超党派議員団が台湾を訪問した。3月28日には、台湾と国交のあるパラオ共和国の大統領が台湾を訪問した際、駐パラオ米国大使が同行している。日本も、この米台関係に呼応するかのように、中国が禁輸した台湾産のパイナップルを輸入したり、中国が妨害した台湾へのワクチン供給に対して日本からワクチンを提供したりした。
世界の主要民主主義国家は今週、相次いで異例の中国批判を展開しました。「対中国」での結束へと軸足を移し、世界トップの座をもくろむ習近平国家主席の戦略に明確なノーを突きつける姿勢を鮮明にしました。
主要7カ国(G7)、および北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、習氏の中核政策は軍事的な安定、人権、国際貿易、世界の公衆衛生に打撃を与えるとして、2日連続で中国批判の共同声明を発表。NATOは14日、中国が突きつける「規則に基づく国際秩序への体制上の挑戦」に対抗すると表明しました。
中国外務省の趙立堅報道官は15日の定例会見で、G7声明は米国を中心とする「小規模グループ」による見当違いの見解だと一蹴。その上で「米国は非常に病んでいる。G7は米国の脈拍を検査し、薬を処方すべきだ」と断じました。
対中批判の「ワン・ツー・パンチ」は、他国には説教させないと言い放つ習氏に対する直接的な一撃であり、これは中国に対する不安から主要国が対中関係を独自で管理しようとするのではなく、他国と足並みをそろえて対抗する方向へとシフトしつつあることを示唆しています。
「中国の言動はリスク計算を変えた」。ジョージタウン大学のエバン・メディロス教授はこう指摘する。「極めて重大な地政学上の境界線が破られた」としています。
エバン・メディロス氏は、オバマ米政権下で2009~15年にかけて国家安全保障会議(NSC)の中国部長、アジア上級部長を歴任しました。中国語が堪能で、米中関係、米国の対アジア政策の第一人者として知られます。米中関係の重要性が増すなかで、対中政策を指揮しましが、後に退任しました。
ジョージタウン大学のエバン・メディロス教授 |
国際社会による対中批判は、中国が習氏を表舞台に押し上げる共産党創設100周年の祝賀行事を2週間後に控えたタイミングで起こりました。中国にとっては、外国勢力から受けた屈辱と苦難の1世紀を乗り越え、国際貿易でトップ、経済規模で世界第2位の大国へと発展を遂げたことを国内外に印象づける、またとない機会となります。
ブルッキングス研究所のライアン・ハス上級研究員は、G7やNATOによる対中批判だけで、中国における習氏の強力な地位が低下することはないと指摘します。主要国で習氏への批判が強まる中で、中国指導部にとっての問題は、国際社会における中国の位置づけにどの程度の価値を置くかだといいます。その上で、ハス氏は「(中国当局内で)われわれは正しい道筋にあるかといった問題が浮上する可能性はある」と語っています。
ライアン・ハス氏 |
中国は自国に向けられた批判について、米国主導による冷戦時代の思考だと主張。同国の外交官らは、東洋が台頭する一方で、西洋は衰退しているとの持論を展開しています。G7首脳会議が閉幕した数時間後、開催国である英国の中国大使館は、共同声明はゆがめられており、かつ中傷的だとして、項目ごとに逐一糾弾しました。
民主主義国家の間では、ここにきて中国に対する不満が高まっていました。イスラム系少数民族ウイグル人の拘束、香港市民の自由弾圧、強制的な貿易慣行、台湾に対する軍事的な挑発など、G7声明ではこうした懸念事項を列挙しました。また新型コロナウイルスに関する透明性の欠如に対しても懸念を示したほか、囚人の扱いやネット検閲など習氏の強権支配に対しても矛先を向けました。
中国はいずれも内政問題との立場で、中国大使館は、G7は「恣意(しい)的に中国の内政に干渉している」と反論しました。
習氏にとっては、中国に投資を提供し、雇用を創出するとともに、輸出品を購入してくれる国際社会との間で、問題は抱えたくないのが本音です。中国南部でコロナ感染が再流行したことで、国産ワクチンを含め、中国のコロナ対応に対する信頼は損なわれました。中国はまた、来年2月に開催する北京冬季五輪のボイコットを呼びかける人権保護団体の訴えを退けるためにも、国際社会との協力を望んでいます。
一方、共産党創設100年の祝賀行事は、習氏が目指す来年終盤の3期目入りへの序章ともなります。
ジョー・バイデン米大統領は自身の対中政策について、同盟国と連携して中国に責任を問わせると表明しており、G7とNATO会合は自らの構想を国際舞台の場で推進する最初の機会となりました。
共同声明の文言は、参加国の同意が必要で、これには中国と大規模な貿易を行う欧州諸国も含まれます。欧州諸国は通常、名指しでの中国批判は避ける傾向にあったのですが、中国が欧州の政治家や企業、シンクタンクに制裁を科したことで、ここ数カ月は中国への反発を強めています。
前出のハス氏は、中国がG7について「世界の一握りの国にすぎず、国際社会を代表した意見ではない」と反論する可能性があるとみています。
30カ国が加盟するNATOの文書よりも、G7声明の方が中国への強硬姿勢が目立ちました。例えば、NATOは台湾についての言及はなかったのですが、G7声明では一段落を割いて、台湾海峡と周辺海域の安定を求める文言が並びました。トロント大学のG7リサーチ・グループによると、このような共同声明で火種である台湾問題に触れたのは今回が初めてです。
中国政府系メディアは、新約聖書の有名なシーンを描いたレオナルド・ダビンチの作品「最後の晩餐(ばんさん)」をもじって、G7への痛烈な皮肉を展開。「最後のG7」と題したその画像(下写真)では、原画のキリストの場所に、白頭ワシ(米国の国鳥)に扮(ふん)したバイデン氏が位置しており(各首脳とみられる他の登場人物も動物として登場)、テーブルの上には中国の形をした赤いケーキが置かれている。この画像はネット上で広く出回りました。
最後のG7 |
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