2022年3月31日木曜日

ウクライナ戦争で迎えるポスト・アメリカ時代―【私の論評】ウクライナ戦争はいずれ終わり、第二次世界の戦後も終わり、本格的な新冷戦が勃発する(゚д゚)!

ウクライナ戦争で迎えるポスト・アメリカ時代

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのファリード・ザカリアが、3月10日付の同紙で、プーチンのウクライナ侵略は新たなポスト・アメリカ時代の始まりを告げるものであり、それがどのような時代となるかを論じている。


 ザカリアは、ロシアのウクライナ侵略により時代が変わり、新たな時代がどのような時代となるかを論じている。重要なことは、冷戦終了後の時代を特徴付けていた経済合理性に基づく経済成長や市場経済の原則に代わり、安全保障を始めとする政治的考慮が優先する時代となると指摘している。具体的には、当面の間、ロシアと西側諸国の間での第二次冷戦構造が復活するのであろう。

 その結果、国際社会が相互依存関係に頼らず不効率な国内生産を重視するため、世界的に慢性的なインフレ状態となる可能性があり、特に、エネルギー価格が高止まりすることから、炭化水素生産国に富が集中することとなると論じている。

 次に、ザカリアは、新時代の決定的な特徴の1つとして、パックス・アメリカーナの終焉を指摘している。オバマ元大統領が既に米国は世界の警察官ではないと述べたが、中東では、イスラエルとの同盟や湾岸産油国の保護者としての米国の存在感は継続していた。ところが、ウクライナ危機で米露が対立する中で、アラブ首長国連邦は安保理決議案に棄権し、サウジアラビア、イスラエル、ブラジルといった従来の親米諸国が対ロシア制裁に参加せず、経済関係を継続するとしている。

 国連緊急総会でのロシア非難決議には、141カ国が賛成し、ロシアの孤立が顕著であったとメディアは報じたが、3月8日に、ロシアが非友好国と指定した国、即ち、対ロシア制裁に参加したのは48の国に過ぎない。その内訳は、米国、欧州連合(EU)諸国、英国、カナダ、豪州、日本、韓国、台湾など先進国を除けば、あとは欧州の小国、シンガポール、ミクロネシアだけである。中南米、アフリカおよび大半のアジア諸国、アラブ諸国は参加していない。

 ザカリアの論説の最後には、もう1つのあり得る大きな変化として、欧州が結集して戦略的な役割を担うようになり、米国との同盟関係が強化される可能性を挙げ、その為にはウクライナでの成功、即ちプーチンの野望を挫くことが必須の条件だと結んでいる。しかし、逆に、ウクライナ問題でプーチンの主張が実現すれば、ロシアの脅威が前線諸国におよび、EUや北大西洋条約機構(NATO)が分裂しかねない恐れもある。

 いずれにしてもウクライナ戦争後の地政学的国際秩序がどうなるかには不確定要素が多い。プーチンが勝利し、或いは、膠着状態となれば、その過程で欧州の安定が脅かされ、アジアでの中国の力による現状変更への道を開く恐れがある。逆に、対露経済制裁とウクライナ間接支援によりプーチンが妥協しウクライナが生き延びれば、西側諸国の経済制裁の抑止力が評価され、アジアにおける力による現状変更の試みに対しても歯止めとなろう。

司法権など国際秩序の礎も重要

 バイデンは、ロシアとの直接軍事衝突が第三次世界大戦になりかねないことを恐れ、条約上の防衛義務がない限り、ロシアに侵略された国に対し集団的自衛権は行使しないとの原則を明確にした。この原則は、今後万が一ロシアがモルドバやジョージア、或いは、フィンランドなどに侵攻したとしても当てはまるのであろうか。そうであれば、是が非でもウクライナについて経済制裁や間接軍事支援だけでプーチンを挫折させなければならず、中国に対する牽制も重要であり、日本企業も有事に備える必要があろう。

 第三次世界大戦を避けたいとの考慮が、米国とロシアの指導者に非対称的に作用するとプーチンが思い込めば、今後もロシア、中国、更には北朝鮮が、その要求を実現するために武力や核を威嚇手段として用いる可能性も排除できない。また、これまでの相互確証破壊理論や核の傘による拡大抑止の考え方がどう影響を受けるのかもポスト・アメリカ時代において極めて深刻な問題になると考えられる。

 ポスト・アメリカ時代を前に、領土や独立の不可侵、武力や核による威嚇禁止、国際人道法の遵守、核不拡散、更に表現・報道の自由等の人権の尊重、公正で独立した司法権などの国際法や国際人権法の原則を国連総会の場で再確認する決議を採択するといったことも意味があるのではないか。ロシアや中国はともかく、国連緊急総会の対ロシア非難決議に賛成した国々の間で、これらの原則を改めて共有することは、新たな国際的秩序の枠組みを模索する基礎となるのではないか。

【私の論評】ウクライナ戦争はいずれ終わり、第二次世界の戦後も終わり、本格的な新冷戦が勃発する(゚д゚)!

上の記事にあるように、今後もロシア、中国、更には北朝鮮が、その要求を実現するために武力や核を威嚇手段として用いる可能性も排除できないです。

日本は、この3カ国と、近い距離にあることを忘れてはならないです。ロシアが、ウクライナで核や化学兵器を使いかねないと懸念されているわけですから、日本でも将来中露北がそれを使う可能性は、これを全く否定することはできません。

米国は、核攻撃できる国へ軍事介入しないといわれています。逆にいえば、核を持たなければ米国に潰されるのです。北朝鮮は、この米国事情をよく承知していたので、経済を犠牲にしてでも必死になって核とミサイルの開発をしてきました。

その結果、北朝鮮はある程度この地位を獲得したともいえ、米国はへたに手出しができないかもしれないです。北朝鮮がこれを利用するとかなり厄介なことになります。

仮に北朝鮮が日本に核攻撃しても、米国が北朝鮮からの反撃を恐れて北朝鮮への核の使用を控える可能性があります。

 北朝鮮は24日、巨大な新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を行った。
 写真は、新型とされるICBMの前を歩く金正恩朝鮮労働党総書記。KCNAが24日に公開


また、日本が北朝鮮に独自制裁をした場合、北朝鮮が反発して核をちらつかせるとどうなるてでしょうか。

このような恫喝は実際にはあり得ないという人もいるでしょうが、今年1月、ロシア、米国、中国、英国とフランスの核保有5カ国は、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」とする共同声明を出したにもかかわらず、今回ロシアはウクライナを侵攻し、プーチン大統領が核兵器の使用も示唆しているのは、その趣旨に反しており、ロシアの核の恫喝は現実に行われています。

そのため、米国は核の恫喝を恐れ、やはりロシアのウクライナへの侵攻に手をこまねいています。

米国のバイデン大統領は20年の大統領選の際に、新たな核戦略のガイドラインで核の役割を限定すると宣言していました。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、北大西洋条約機構(NATO)同盟国から抑止力低下への懸念が起きている。そこで、バイデン氏は方針転換し、核兵器の根本的な役割は抑止力とするようです。


NATO同盟国が米国に意向を伝えられるのは、NATOでは核シェアリングしており核は共同運用だからです。翻って、日本では核シェアリングの議論すらできにくいですが、北朝鮮の核が米国本土も射程にしている中、それでいいのでしょうか。

やはり、日本は米国との核シェアリングも視野にいれるべきです。この論議をもともにしただけでも、北などには抑止力になります。核シェアリングを実現すれば、これは中露に対しての強力な抑止力になります。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相は30日、同国がウクライナに侵攻して以降、初めて中国を訪問しました。多極化する新たな世界秩序への移行に向け、中国などの友好国と共に取り組む意向を表明しました。

ラブロフ氏は王毅(Wang Yi)外相と会談。事前に公表された動画でラブロフ外相は「われわれはあなた方や支持者と共に、多極的で公正、民主的な世界秩序に向けて歩んでいく」と語りました。

中国外務省が出した公式声明によると、王外相は、中ロ関係は国際情勢の変化という試練に耐えたなどと述べました。
 
ラブロフ外相は、アフガニスタンの将来に関する一連の会合に出席するため、中国東部の黄山(Huangshan)を訪れました。

中国は、ロシアのウクライナ侵攻を非難しておらず、国際社会で孤立を深めるロシアに対し、外交面では一定の支持を示しています。

中露はすでに、新冷戦に入ることを覚悟しているようです。全体主義と民主主義は元々相容れないのです。

それを第二次世界大戦の勝利に大きく貢献したり、多くの犠牲者を出したことを根拠に、中華民国、ソビエト連邦を国連の常任理事国としてしてしまったことが、そもそもの間違いです。

中華民国は現在の台湾ですが、現在の台湾と、当時の中華民国は別物であり、この中華民国の統治のもと、戦後まもなくから80年代まで、台湾では戒厳令が続くという異常な状態でした。李登輝が体制転換を行い、台湾は民主化の道を歩むことになりました。それ以前の台湾は、全体主義国家といっても良い状況でした。

その後中華民国は、台湾に退き大陸中国には中共が統治する中華人民共和国が成立しました。1971年中華民国(台湾)は国連安保理常任理事国の座を失い、中華人民共和国が国連安保理常任理事国と見なされるようになりました。ただ、国連憲章では、未だに中華民国が常任理事国として記載されいています。

本来、中共やロシアが常任理事国の座を継承するとされたときに、世界秩序は大きく変わっていたのですから、国連のシステムも大きく変えるべきだったのを、世界はそのまま放置しました。

これが、その後の様々な紛争や今回のウクライナ問題の遠因ともなっていると考えられます。

第二次世界大戦中の"United Nations"のポスター

今回のロシアによるウクライナ侵攻により、第2次世界大戦で、旧ソ連が2000万人を超す犠牲者を出すことによって得られた国連安全保障理事会常任理事国のステータスは消滅するでしょう。今回の侵攻で、ロシアは権利を自ら放棄したとも言えます。これはロシア・ウクライナ戦争はいずれ決着を迎えることになるでしょうがその枠を超えて『第二次世界大戦の戦後の終わり』を迎えるということになるでしょう。

そもそも、国連の常任理事国の拒否権は戦争を止めることができない珍奇な制度です。ウクライナもロシアも多くの死者を出しています。平和のための新たな仕組み作りに向けた機運が高まることになるでしょう。

ただ、いずれにせよ、国連緊急総会の対ロシア非難決議に賛成した国々とそうではない国々との対立がはじまることになるでしょう。両陣営とも本格的な戦争には発展しないようにはするでしょうが、第2次世界大戦中の連合国と枢軸国との関係のようになるでしょう。ただ、今回のウクライナ戦争よりもさらに深刻な事態になる可能性については、覚悟すべきかもしれません。

第二次世界大戦の連合国(United Nations)が作ったのが、国債連合です。日本では国際連合などといわれていますが、その実、国連連合は、連合国(United Nations)なのです。

国連憲章における敵国条項においては、未だに日本とドイツは敵国のままです。これも、戦後の国際社会の大きな変貌を全く無視しています。要するに国連は、全く形骸化した、機能しない組織であり、今後新たな冷戦に入る世界は、中露北、イラン等の枢軸側と、米国を中止とした連合国側に別れて戦うことになり、現在の国連の枠組みは崩れることになるでしょう。

これは、おそらく連合国側が勝つことになるとは思います。なぜなら、民主主義と全体主義を比較した場合、民主主義体制のほうが、より自由であり、しかも経済的に恵まれる可能性が高く、多くの人は全体主義よりは、民主主義体制のほうが受け入れやすいからです。全体主義を指向する人は、自らの権力欲や富の最大化を希求し、他人を思いやる気持ちに欠けた少数派であることがほとんどだからです。

こういう人も必要なこともありますが、それは危機に瀕したわずかの期間だけであり、この種の人が長い間権力座にとどまると、変化に柔軟に対応できなくなり、いかなる組織も長い間に機能不全に陥ることになります。

新しい秩序ができるあがるまでにはある程度の時間がかかり、様々な紆余曲折があることが予想されます。そうして、新冷戦終了後に新たな秩序が形成されることになります。新冷戦がどの程度続くのか今はまだ見えません。

日本も将来を見越しながら行動するべきであり、安全保障をはじめ食糧、エネルギーなどあらゆる問題を率直に議論していかなければならないです。今までの枠組で考えていては、冷戦後の新秩序においても、第二次世界大戦後のように敗戦国になるということすらあり得ます。

ただし、将来を見越して、連合国に貢献し、新たな世界の新秩序づくりに参画して、リーダーシップを発揮すれば、日本は世界でその存在価値を飛躍的に増大することができます。

そうして、敗戦国になるのか、戦勝国になるのかは、日本の決意次第だと思います。政府も頑張り国民の理解と支持があれば、日本は冷戦に続く新冷戦においても戦勝国になるでしょう。そうして、新たな国際組織は、世界の変化に応じて靭やかに、変化できるものとすべきです。

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2022年3月30日水曜日

米国の情報収集に穴か、ロシア軍の能力を過大評価 米欧州軍司令官―【私の論評】ロシア軍の弱さは、兵站を著しく軽視し、戦闘能力が著しく低下したことが原因(゚д゚)!

米国の情報収集に穴か、ロシア軍の能力を過大評価 米欧州軍司令官

米欧州郡ウォルターズ司令官

米欧州軍のウォルターズ司令官は29日、米国の情報収集に穴があり、それが侵攻開始前にロシアの能力を過大評価する一方、ウクライナの防衛能力を過小評価することにつながった可能性があるとの見解を示した。

ロシアが先月ウクライナ侵攻を開始したとき、米情報機関はキエフが数日で陥落する可能性があると分析していた。だが、戦争が2カ月目に入るなか、ロシア軍はキエフ周辺で停滞。維持可能性や兵たんの問題に悩まされ、ウクライナ人戦闘員の予想外に強固な抵抗にも遭っている。

上院軍事委員会で証言したウォルターズ氏は共和党のウィッカー議員から、米国がロシアの強さを過大評価し、ウクライナの防衛力を過小評価した原因として、情報収集の穴があったのではないかと質問された。

ウォルターズ氏は「その可能性はある」と返答。これまでと同様、危機が終わった段階で全領域・部門の包括的な事後検証を行い、自分たちの弱点を突き止め、改善方法を発見できるようにすると表明した。

米情報機関はロシアがウクライナ侵攻を計画していることを的確に予想していたが、ロシア軍のつたない戦いぶりに関しては分析できていなかった。

開戦当初、ロシア軍がキエフに迫るなか、米当局者はウクライナのゼレンスキー大統領に国外退避の支援を打診。ゼレンスキー氏はこれを拒否し、防衛の助けとなる兵器を要求した。

米国や北大西洋条約機構(NATO)はこれまで、ウクライナ軍に対するジャベリン対戦車ミサイルやスティンガー対空ミサイルなどの供与を支援してきた。ロシア軍の死者数に関する推計には大きなばらつきがあるものの、事情に詳しい情報筋は数千人が死亡したと指摘している。

【私の論評】ロシア軍の弱さは、兵站を著しく軽視し、戦闘能力が著しく低下したことが原因(゚д゚)!

今回のロシア軍のウクライナ侵攻には最初から無理がありました。こうした大規模な侵攻作戦は、初期段階で数日間に渡る航空攻撃や砲撃などを行い、相手の対空警戒網や通信網を破壊し、さらには軍事拠点などを攻撃して相手の反撃を最低限に抑え込む行動を取ります。しかし、プーチン大統領は十分な航空攻撃を行わず、侵攻当日に早々と地上軍を繰り出しました。

この愚策ともいえる行動。これはこのブログでも何回か述べてきたように、ロシアはウクライナをすぐに掌握することができると考え、勢いでなんとかしようとしたのでしょう。

東部だけではなく、キエフ、ハリコフにも進撃し、南のほうでも攻勢を加えるという大胆な作戦で、ウクライナは浮足立ち、ほとんど戦うこともなく、ゼレンスキー政権は崩壊し、首脳陣は海外に脱出し、ロシア軍は各地で、ほとんど戦うこともなく、要衝をすぐにおさえることができると踏んでいたに違いありません。

そのため、長期の戦闘を考慮しない“短期決戦”計画を立てたと思われるのですが、案の定、そこには大きな落とし穴がありました。

ロシア軍の正規軍人はウクライナ軍の約8倍となる約90万人います。そのうち、約15万人がウクライナに侵攻したと考えられていますが、この15万人という数字、実は陸上自衛隊の定員数と同じです。その後19万〜20万という数字もありますが、これは後から増派したものと考えられます。

これだけの大規模な部隊を一度に投入できることはロシア軍の強みとも見られるようですが、ただ、ウクライナを制圧するつもりなら、最初から少なすぎる兵力でした。ウクライナを制圧するつもりなら、最低50万は必要だろうということは以前にもこのブログで述べました。

ただ、軍事費やロシアの経済力からいってそれは全く無理なので、電撃作戦で脅して、ゼレンスキー政権をすぐに崩壊させることが、この作戦の目標だったのでしょう。

その一方で、ロシア軍が「兵站」を軽視したことは致命的ともいえます。15万の兵力なら、いかに経済力が衰えたロシアといえどもなんとかなりそうですが、やはり電撃戦を意識したためか、「兵站」をあまり重要と考えていなかったようです。

ウクライナ領内に乗り捨てられていたロシア軍の燃料タンク車(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

ロシア軍が想定していた以上にウクライナ軍の反撃が激しかったことも誤算のひとつではありますが、兵站に関してはそれを上回る大誤算といっても良いでしょう。

「兵站」とは、英語では「logistics(ロジスティクス)」といい、食料、燃料、弾薬、通信、整備、医療などの各機能を集約した言葉です。ゆえに、陸上自衛隊では後方支援と呼ばれるもので、活動するうえで欠かすことのできない分野としてそれぞれを担当する専任の部隊を用意しているほどです。

自衛隊に限らず世界中の軍隊で、この兵站能力は部隊の行動を維持するために必要不可欠なものとみなしており、特に作戦行動が長期化すればするほど、この兵站能力の差がモノをいうようになってきます。

逆に、兵站能力をある程度無視できる場合もあります。ただ、それは長くても1週間程度の短期決戦に限られます。つまり、それ以上の長期に渡る行動には兵站の充実が部隊を円滑に動かす秘訣になるといえます。

なお、この兵站は前線に進出する部隊との距離感も大切になります。世界の軍隊でひとつの目安として語られているのは、兵站拠点から300km程度離れると十分なサービスを供給しにくくなるといわれています。

理由は単純、補給線が伸びれば伸びるほど、輸送部隊や衛生部隊が前線へたどり着くまで時間がかかるからです。たとえ高速道路などがあったとしても、高速道路は遠くからでも視認しやすいことから常に狙われているといっても過言ではありません。そのため、輸送部隊は高い緊張を強いられながら移動しなければならないのです。

さらに、移動速度も平素の高速道路のように素早く走れるわけではありません。道路には瓦礫などの障害物があったり、場合によっては寸断されていたり、狙撃や地雷など含めた敵の攻撃による脅威もあったりするでしょう。こうした危険から部隊を守るため、補給線の安全を確保しなければならないのですが、補給線が延伸すればするだけ安全確保は難しくなります。

こうした点を考えると、十分なサービスを行きわたらせるためには、前線から兵站拠点までの距離は、概ね100km以内が理想だといえるでしょう。

弾薬を積載したまま遺棄されていたロシア軍のトラック(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

実際には、大規模な兵站拠点を300km先に設けたとしたら、中継地点となる中規模な拠点を100kmごとに設置して、さらに末端の部隊にサービスするための小規模な兵站拠点を前線から50km以内に設けることが理想です。こうすれば、部隊は効率的に動き続けることができると考えられます。

ただ、このブログにも掲載したように、ロシア軍は兵站を鉄道に頼るところが大きいです。トラック輸送は十分ではありません。鉄道から近いところでは、このようなことはロシア軍にとってもやりやすいのでしょうが、鉄道から離れた地域が前線であれば、これは難しいです。

ロシア軍は自らの領域外への作戦行動が不得意であるといわれています。その理由のひとつは、ロシアの鉄道の線路幅がいわゆる標準軌(1435mm)よりも幅の広い独自の広軌(1520mmまたは1524mm)であり、旧ソ連圏とフィンランドでしか使われていないからです。例えば、ポーランドには、ロシアからウクライナのキエフを経由して南部のクラクフまで、1本だけ広軌の鉄道が通っているが、ほかは標準軌であり兵站線を接続できないのです。

線路幅規格の共通性が旧ソ連圏に限られているのは、帝政ロシア時代の鉄道規格を引き継いだためです。敷設が始まった1830年代当時は広軌優位論が盛んであり、他国との連結はあまり考慮されておらず、広大なロシアでは標準軌より広軌の方が、輸送力が大きく有利と当時、考えられたのが理由のようです。

今回のロシア軍のウクライナ侵攻に関しては、短期決戦による全土制圧を前提とした多方面からの侵攻を行ったのに、ウクライナ側からの予想外に強い反攻を受け、十分な制空権も得られず戦況が膠着。そんななかで、食料や燃料、弾薬の補給といった兵站に問題が生じていると言われています。

これは推測ですが、当初予定していた鉄路でつながれているウクライナ国内への鉄道輸送による兵站が困難となったためなのではないでしょうか。道路輸送が不得意なロシア軍の体質が弱点となっている可能性があります。

ただ、鉄道を巡っては、一つ不思議なことがあります。ウクライナ側も、ロシア側も大規模な鉄道の破壊をしているという報道がないことです。日本でも、大東亜戦争のときに米軍は日本中の鉄道網を破壊しました。これは、軍事的には当然といえば当然です。ドイツでもかなり鉄道の被害がありました。

ベラルーシの反乱軍が、同国とウクライナを結ぶ鉄道の一部を破壊したことは報道されていますが、ウクライナ国内の鉄道網や、列車が破壊されたことは未だ報道されていません。

これは、私の推測ですが、ロシア軍もウクライナ軍も兵站は鉄道に頼るところが多く、ウクライナは民生用の物資も鉄道輸送の割合が高いので、これを破壊したり、破壊されてしまうと、双方とも物資輸送や、兵站に支障をきたすので、両方とも攻撃することを控えているのかもしれません。ただ、橋が破壊されたなどのことは一部報道されていますが、ウクライナ、ロシアの双方とも大規模な鉄道攻撃をしたというニユースはありません。

このあたりのところ、ご存知の方はぜひ教えて下さい。私の考えが正しかったとすると、現在ウクライナの鉄道は、全部とはいいませんが、一部は、ある時はウクライナの物資を運び、あるときはロシアの物資を運ぶというようなことをしているのかもしれません。

しかし、今回のロシア軍は鉄道以外の輸送なども考慮した十分な兵站機能を設けずに部隊をウクライナへと送り込んだようです。そのためでしょうか、前線の兵士らはまともな食事を摂ることもできず、戦車などは燃料切れで立ち往生しています。

以前も述べたように、プーチンはウクライナに侵攻することにより世界秩序に挑戦したといえますが、同時にいかに精強な軍隊であろうと、兵站にみあった戦闘しかできないという、軍事上の常識も捨て去ったとみられます。標準的な兵士は、多数の弾丸と、一日3000Kカロリーの食事を必要とするのです。残念ながら、人間は食いだめができません。日々、相当数のカロリーと栄養素を必要とするのです。

ウクライナ軍の戦闘糧食(一日分)

ウクライナとロシアは、依然として一進一退の攻防を繰り広げていますが、このままロシア軍の部隊再編がうまくいかなければ、軍事弱小国家ともいえるウクライナにも勝機が見えてきます。広大な領土を持つロシアは、ウクライナ正面だけに部隊を集中させることができません。そのため、ロシア軍が現状以上の部隊をウクライナに投入することは非常に難しいと考えられます。

また、ロシアが受けている世界規模の経済制裁に、ロシア国民がいつまでも我慢できるとも考えられません。両国ともにこれ以上の犠牲や損害を増やす前に、プーチン大統領は自身の独断で始めたであろう“短期(短気)決戦”を終結させるべきです。

そうして、米軍はロシア軍の兵站を研究すべきです。私自身は、米軍がロシア軍の兵站の脆弱さを認識していなかったからこそ、ロシア軍を過大評価してしまったのだと思います。

米軍の軍事常識からすれば、戦略などの前に、兵站を考えるのが当たり前で、それなしに戦争はできないというのが軍事上常識中の常識ですから、少なくともロシア軍はウクライナ侵攻前に、半年から1年もかけて、兵站の準備を行ってから、戦争を開始するだろうと見ていたと思います。

ただ、経済が低迷するロシア側とすれば、そのような贅沢な作戦はできないのかもしれません。これ以上戦争が長引き、餓死するロシア兵がてできたり、武器不足、弾薬不足で、自分の身も守れないロシア兵が犠牲になるようなことだけは避けてもらいたいものです。プーチンはすぐに戦争を終了させるべきです。

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2022年3月29日火曜日

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米、ロシアより中国対応優先 新国家防衛戦略の概要発表

米国防総省(通称ペンタゴン)

 米国防総省は28日、バイデン政権で初となる国家防衛戦略(NDS)の概要を発表した。戦域としてまずインド太平洋における中国への対応を優先し、続いてウクライナに侵攻したロシアの挑戦に対処する姿勢を明確にした。必要に迫られた紛争で勝利する備えをしつつも、米国や同盟国への戦略的攻撃や侵略行為の抑止を最重視するとした。

 国防総省は同日、機密扱いの国家防衛戦略を議会に送達した。今回初めて「核態勢見直し」(NPR)と「ミサイル防衛見直し」(MDR)を組み込む形で戦略見直しを総合的に実施。機密扱いではない国家防衛戦略は近く公表する。

 戦略は、中国が軍事・経済・科学技術など複数の領域で突きつける脅威に対処し、国土を防衛することを最優先事項とした。

 一方、ロシアも「重大な脅威」とし、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国と協力して頑強な抑止を敷く。北朝鮮、イラン、他の過激派組織を含む脅威に対処する能力も維持するとしている。

  トランプ前政権の2018年国家防衛戦略では、中露2大国との紛争に同時に対処する従来の「二正面作戦」から、各地における脅威を抑止しつつ一大国の侵略に打ち勝つ構想へと修正したが、ヒックス国防副長官は同日の記者会見で、この路線を「本質的に継続する」と語った。

【私の論評】米国がロシアよりも中国への対峙を優先するのは、正しい(゚д゚)!

ロシアより中国対応優先というバイデン政権の姿勢については、すでに予兆がありました。それは、このブログでも何度か述べたように、バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」においてはっきりしていました。それについては、このブログにも述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
ロシア艦艇24隻を確認 日本海・オホーツク海―【私の論評】バイデン政権に完璧に無視されたロシア太平洋艦隊(゚д゚)!

極東に新しく配属されたボレイ型原子力潜水艦「ウラジーミル・モノマフ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを引用します。

最新の「インド太平洋戦略」にロシアという文言が一言もないというのが、現在のバイデン政権の考えを雄弁に語っていると思います。いくらプーチンが去勢をはってみたところで、いまや一人あたりのGDPが韓国に大幅に下回るロシアにできることは限られています。インド太平洋地域におけるバイデン政権の最優先課題はやはり、中国なのです。

そうして、この戦略には「日本」という言葉は2度でてきます。以下にその部分だけを引用します。
  • オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、およびタイとの 5 つの地域条約同盟をさらに深める。
  • 拡大抑止と韓国・日本の同盟国との連携の強化、朝鮮半島の完全な非核化の追求 
バイデン政権としては、日本をはじめとする同盟国等も米国が中国と対峙するための支援を惜しまないでほしいと願っているのでしょう。

こうした中で、ロシアを囲い込みに協力している日本は、米国に対してかなり貢献しているといえるでしょう。その安心感もあって、戦略のなかに「ロシア」という文言は一言も出さなかったのでしょう。冷戦時と比べれば、隔世の感があります。 

ロシア囲い込みとは、日本の対潜哨戒等によるロシア原潜の実質上の囲い込みです。潜水艦の行動は昔から、各国とも公表しないのが通例であり、海自もこれをあまり公表しないので、日本国内でもあまり知られていないようです。

日本は、冷戦中に米国の要請を受け、対潜哨戒機を大量に購入して、オホーツク海におけるロシア原潜の行動の監視を強化しました。これで、実質的にロシア原潜の囲い込みに成功し、米国の冷戦勝利に大きく貢献したとともに、日本の対潜哨戒能力は米国と並び世界のトップクラスへと飛躍的に向上しました。

この哨戒活動は今でも続いています。これは、さらに強化され、日本は現在潜水艦22隻体制をを構築し、オホーツク海方面での、ロシア原潜の動きに目を光らせいることでしょう。

バイデン政権初の「アジア太平洋戦略」は2月11日に公表されています。2月22日、バイデン大統領は、プーチンがウクライナ東部への派兵の意向を表明したことを受け、「これはロシアのウクライナ侵攻の始まりだ」と述べ、ロシアに対する制裁を発表しています。

2月11日にはすでにロシアがウクライナに侵攻する兆候を掴んでいたと思います。にもかかわらず、「アジア太平洋戦略」には、「ロシア」という文言が一つもないのです。

これは、バイデン政権の中国への対峙を優先するという意思の現れであり、それは妥当であると考えられます。

名目GDPを見ると、10年時点で中国は6兆338億ドル、ロシアは1兆6331億ドル。その後、中国は右肩上がりで成長線を歩んでいますが、ロシアは停滞し、成長さえ果たしていません。

 20年には中国が14兆8867億ドル、ロシアは1兆4785億ドルと、その差は4倍から10倍にまで膨らんでいます。コロナ禍の20年には1人当たりGDPでもロシアは中国にとうとう抜かれてしまい、どちらがシニアパートナーで、どちらがジュニアパートナーかは火を見るより明らかだからです。

ちなみに、現在一人あたりのGDPは中国がロシアを追い越したとはいえ、さほど変わりはありません。そうして、人口はロシアは1億4千万人、中国は14億人であり、丁度ロシアの10倍です。人口比で10倍であり、GDPも10倍ということなのです。それを考えると、中国も人口が多いだけで、経済的に恵まれているとは言い難いです。


ロシアの経済規模は約150兆円で世界10位前後に位置しますが、中国の10分の1、日本の3分の1。国民1人当たりGDPは約120万円で、中国やマレーシアと同水準です。また、経済制裁により、今後のロシア経済は2桁以上のマイナス成長は避けられないとみられます。

ただ、中国共産党はそれでも軍事や他国に介入するなどの資金は、ロシア政府に比較すれは潤沢に得ることができます。

両国ともランドパワー国であり、中露の海軍力は一般に考えられているよりも、はるかに能力が低いです。特に、ASW(対潜戦)においては、日米をかなり下回り、海戦においては勝つことはできません。

しかし、だからといって安心できるわけではありません。特に、中国は豊富な資金力をもって、貧しい国や市民社会が不安定な社会に対して介入することができます。これと軍事力やその他をあわせたハイブリッド戦を展開することができます。これは、現在のロシアにはあまりできないことです。

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアとウクライナの関係だけの問題ではありません。これは、ロシアによる戦後秩序の破壊行為の一環とみるべきなのです。

世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきました。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきました。

ところが、この世界秩序は、ソ連崩壊から30年経った今、中国とロシアの挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたったのです。

中国は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしています。ロシアはクリミア併合に続くウクライナ侵攻に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっています。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れています。

中国とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止でした。

ところが、近年は米国の抑止力が弱くなってきました。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまいました。それが、米国の降参ともいえるような、アフガン撤退や、今回のロシア軍によるウクライナ侵攻に結びついた面は否めません。

犬を抱くウクライナ女性兵士

その結果、いまの世界は中国やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきたといえます。そうして現実にロシアのウクライナ侵攻が起こってしまったのです。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかないのです。

そうして、ロシアより中国のほうがはるかに強大であり、ロシアを制裁して、経済を弱らせて何もできないようにしたとしても、中国が今のままであれば、何も問題は解決しません。中国との対峙こそが、最優先課題なのです。

これは、米国にとってもそうですが、日本にとってもそうです。その意味では、米国がロシアより中国対応優先するのは正しいです。優先順位を間違えるべきではありません。日本も優先順位を間違えるべきではありません。

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2022年3月28日月曜日

プーチン・ショックでさらなる価格高騰の懸念 「5〜8%の消費減税を」専門家提言 「見せかけのインフレ」に注意! 田中秀臣氏「経済実勢はデフレだ」―【私の論評】「みせかけのインフレ」に煽られるな!今必要なのは、財政・金融政策のフル稼働(゚д゚)!

プーチン・ショックでさらなる価格高騰の懸念 「5〜8%の消費減税を」専門家提言 「見せかけのインフレ」に注意! 田中秀臣氏「経済実勢はデフレだ」

蔓延防止等重点措置は解除されたが、消費回復に向けた取り組みが求められる

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)防止等重点措置解除から1週間が経過したが、「プーチン・ショック」で原油や食品価格のさらなる高騰が懸念される。政府は追加経済対策を策定する方針だが、年金受給者らへの5000円給付といった小手先の策ではなく、抜本的な景気刺激策が必要だ。専門家は「5~8%の消費減税」を提言する。

 岸田文雄首相は29日にも新型コロナ対応を含む追加経済対策を関係閣僚に指示する方向で調整。自民党も30日から党内議論を始める。

 新たな景気悪化要因となったのがロシアのウクライナ侵攻だ。経済協力開発機構(OECD)は、ウクライナ侵攻以降の1年間で、世界の実質経済成長率を1ポイント超押し下げ、物価上昇率は2・5ポイント超押し上げるとの見通しを発表した。

 すでに国民生活に直結するエネルギーや食料品の値上がりは顕著だ。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は4月以降に2%の物価目標に上昇する可能性があるとするが、「見せかけのインフレだ」と指摘する上武大の田中秀臣教授(日本経済論、経済思想史)。

 「菅義偉政権が一昨年実施した携帯電話料金値下げの影響が物価統計の処理上消えてしまうことで、エネルギーや生鮮食品を含めた全ての価格が反映される『総合指標』がインフレにみえるだけだ。エネルギーや食品の価格は経済の実勢と離れやすく、日本経済の実勢はいまだにデフレだ」

 米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを実施したことから、為替が一時、1ドル=122円に乗せるなど円安ドル高が進み、一部では日銀が進めてきた金融緩和を縮小すべきだとの主張も出ている。だが、田中氏は「もし縮小すると賃金が下がり雇用が悪化することになる」と警告する。

 夏の参院選をにらみ、ガソリン税の一部を減税するトリガー条項の凍結解除や、年金受給者らへの5000円給付などの対策も浮上するが、需要を喚起するには不十分だという。

 「ガソリン税と消費税の二重課税になっている中で、トリガー条項はガソリン税の減税に過ぎない。給付金も少額で、そもそも年金生活者を支える現役世代の負担軽減を考えていない」と田中氏は批判する。

 蔓延防止等重点措置が解除されたなかで、消費を拡大させるために求められる対策は何か。

【私の論評】「みせかけのインフレ」に煽られるな!今必要なのは、財政・金融政策のフル稼働(゚д゚)!

新型コロナウイルス不況からの景気回復にウクライナ侵略の産油国ロシアへの経済制裁が重なって、エネルギー価格が高騰しています。世界的にはインフレ局面ですが、上記事にもあるように、日本だけは違います。逆に物価が下がり、所得が減り続けるデフレ不況が深刻化しています。

にもかかわらず、あろうことが岸田文雄政権は財務官僚の均衡財政主義に引きずられ、日銀審議委員人事では反金融緩和派を指名する有様です。

デフレとは物価の継続的な下落を指します。世界共通のインフレ指標はコア消費者物価と呼ばれます。天候に左右される生鮮食料品や国際情勢の変動に左右されるエネルギーを除き、需要と供給の関係が決める経済法則を反映します。

日本のコア物価上昇率は2020年8月以降、ゼロ%以下で推移しています。1990年代後半以来の慢性デフレに日本がどっぷりつかったまま抜け出せずにいます。

デフレは国民経済全体の収縮を引き起こします。経済力が衰退する国の通貨は、外国為替市場で絶好の投機売り対象になります。現局面の円安がそうです。

この円安を巡って、一部のマスコミが牽引している「悪い円安」や「悪いインフレ」報道があります。円安とは、金融緩和スタンスの言いかえすぎません。国内的にはインフレに作用します。これから4月になると菅政権で行った携帯料金引き下げの効果が、統計処理上、無視されることになります。そのため公表される物価が一気に上昇するでしょう。


予想されるのは、ワイドショーなどで盛んに「物価が高い」ことを過剰に喧伝されることです。それは日銀の金融緩和姿勢への批判になるでしょう。4月以降の物価をみると、携帯料金引き下げ効果の剥落によって、生鮮食品やエネルギーを含んだ総合指数は対前年度比2%(現状は0.9%)を上回る可能性があります。

「日銀は2%のインフレ目標を立てているのでこれで目標達成だ」とかいう皮相な意見も出てくるでしょう。しかし、これは日本経済の実勢を表していません。

価格の変動の激しい生鮮食品やエネルギー関連を除いたものの方が、経済の実勢をよく反映しています。携帯料金効果の剥落は、1%程度の物価高を統計上もたらすことになるでしょう。

生鮮食品を除く物価指数(コアCPI)は対前年比1.6%(現状は0.6%)、生鮮食品とエネルギーを除く物価指数(コアコアCPI)は対前年比0.9%(現状はマイナス0.1%)です。ウクライナ戦争の影響などで多少まだ上がる可能性はあります。しかし日本実体経はいまだデフレ体質のままです。米国は7.9%、英国は5.5%、ユーロ圏は5.9%です。まったく日本と欧米ではインフレをめぐる事情が異なるのです。

「悪い円安」や「インフレ急増!」というマスコミに報道には、煽られるべきではないのです。

財務省の政権に対する影響力は絶大です。2012年12月に発足した第2次安倍晋三政権は脱デフレを目指したアベノミクスを打ち出し、異次元の金融緩和と機動的な財政出動を組み合わせたのですが、消費税増税と緊縮財政に追い込まれました。


もとより財務省の影響が強い宏池会代表の岸田首相は昨年12月の国会所信表明、今年1月の国会施政方針演説で「デフレ」の一言も発しませんでした。

現在まで続いているのは金融緩和ですが、日銀の伝統的な金融政策の考え方は、金融政策では物価を押し上げられない、中央銀行の主要な役割は民間金融機関の経営の安定だというものです。

日銀は2014年1月当時、安倍政権の強い要請を受けて、消費者物価上昇率2%の物価安定目標の下、金融緩和を推進すると約束しましたが、2%目標は達成されないままで、日銀とその周辺では日銀理論派が再び勢いづいています。

安倍元政権時に就任した金融緩和積極論者の片岡剛士氏ら2人の日銀審議委員が7月に任期満了になります。岸田政権が片岡氏の後任に指名したのがみずほ銀行出身の岡三証券エコノミストの高田創氏です。

高田氏は金融緩和が銀行収益を圧迫するなどの副作用を重視し、2%の物価目標を見直すべきだと主張してきました。高田氏の考えはデフレをもたらす緊縮財政によって国債相場の安定をめざす財務省の意向にも沿うものです。


来春には黒田東彦日銀総裁が任期を終えます。岸田首相は次期総裁に誰を選ぶのでしょうか。日銀理論と財政均衡主義の双方に目配りする人物を指名するようなら、日本再生の見込みは完全に失せ、国家と国民はデフレの泥沼に沈んで行くでしょう。国会はぼやぼやすべき時ではないです。

最近は「円安がガソリン高をまねいてる!」とか「円安なので日本は不利だ!」とマスコミは大騒ぎですが、これは明らかに消費減税などの減税政策から国民の関心をそらす目的があるようにしか思えません。国民を愚弄もいいかげんにすべきです。いまこそ財政政策と金融政策をフル稼働すべきです。そうして、財政政策では消費税減税をすぐに実施すべきです。

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2022年3月27日日曜日

「ウクライナ占領」でもロシアを待ち受ける泥沼―【私の論評】「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」という軍事常識を今更ながら思い知らされたロシア軍(゚д゚)!

「ウクライナ占領」でもロシアを待ち受ける泥沼



2月末にウクライナに侵攻したロシア軍の進軍ペースは、観測筋が想定していたよりも遅くなっている。ロシア軍は病院のような民間施設も標的にしているとみられ、その残虐さによって国際社会から広範な非難も浴びている。

ウクライナ軍は欧米諸国からの武器などを供与されているが、仮にロシアがこの侵攻に「成功」してウクライナを事実上の占領下に置いたとしても、ソ連やロシアの占領者としての過去の実績からみて、そうした占領状態を維持できるかは疑問視されている。

ロシアがこの戦争に勝っても、ウクライナ軍は「抵抗軍」として戦闘を続けると専門家は予想している。占領者ロシアはウクライナ国内に、反抗する武装勢力を抱え込むことになるということだ。こうした武装勢力は正規軍に比べ縛られるルールが少なく、機敏で、ゲリラ戦法をとることが多い。そのため、伝統的な軍部隊が見つけ出して抑え込むのも難しくなる。

こうした反抗勢力の鎮圧を目的とする「対反乱作戦(COIN)」で、ソ連やロシアの軍隊が過去に散々な結果だったことは、よく引用されるランド研究所の論文でも示されている。たとえば1992年のアフガニスタン占領失敗は、対反乱作戦の専門家であるアンソニー・ジェームズ・ジョーズによって「大国がどうしてゲリラとの戦争に勝てないかを示す教科書的な研究事例」に挙げられているほどだ。

ロシアが対反乱作戦に繰り返し失敗している要因のひとつとして、ランド研究所は「鉄拳(iron fist)」アプローチとも言われる軍事力頼みのやり方を挙げている。1994年にチェチェン共和国の独立派武装勢力をつぶそうとした際も、ロシアの軍隊は戦略や装備、士気の問題に直面しただけでなく、地元住民の支持もまったく得られず、鎮圧に失敗した。ロシア側はそもそも、武装勢力から民心が離れるように住民の不満点を改善することなどに関心を払っていなかった。

ランド研究所の研究によれば、軍事力だけに頼った対反乱作戦が成功した事例は過去にほとんどなく、通常は非軍事手段も用いたほうがはるかに効果的だった。脅迫や集団的懲罰、汚職、略奪なども対反乱作戦の成功を妨げる要因として挙げられており、もちろん外国からの反抗勢力への支援が戦いを複雑にすることもある。

1960年代から70年代にかけて南ベトナム、カンボジア、ラオスの政権とともに現地の共産勢力と戦った米軍は、対反乱作戦の手際はロシア以上にまずかったと評価されている。世界でもっとも高い能力をもつ米軍ですら、東南アジアのゲリラに対応して制圧することはできず、1975年に敗退した。

歴史的に、対反乱作戦のやり方が巧みだったとされるのは英国だ。大英帝国の植民地だった国に関係したものだけでなく、北アイルランドでの紛争でもその手並みは比較的すぐれていたとみられている。

英国も大半のケースで武力に訴えているが、少なくとも1948年に当時のマラヤ連邦(現マレーシア)で起きた共産主義者の蜂起や、1969年から99年まで北アイルランドでアイルランド共和軍(IRA)が繰り広げた反政府活動では、戦闘手段と非軍事手段を組み合わせ、最終的により望ましい結果をもたらしている。

ランド研究所は武力行使のほか民衆の支持や政府改革なども考慮して過去59件の対反乱作戦の巧拙を評価し、点数化したランキングを発表している。一部を紹介しておこう(最高は15点、最低はマイナス11点)。

米国
・南ベトナム(1960〜75年):マイナス11点
・カンボジア(1967〜75年):マイナス7点
・ラオス(1959〜75年):マイナス5点

ロシア/ソ連
・チェチェン(1994〜96年):マイナス6点
・アフガニスタン(1978〜92年):マイナス3点

英国
・オマーン(1957〜59年):3点
・北アイルランド(1969〜99年):8点
・ギリシャ(1945〜49年):10点
・マラヤ連邦(1948〜55年):11点

【私の論評】「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」という軍事常識を今更ながら思い知らされたロシア軍(゚д゚)!

このブログでは、ロシアがウクライナに侵攻する前から、ロシアがウクライナに侵攻するなど分不相応であることを指摘してきました。その根拠は、まずはロシアのGDPは韓国若干下回る程度であり、東京都のGDPと同じくらいであるということです。

その程度の経済力で、一国としては最大版図を守備しなければならず、ウクライナに回せる戦力も少なくならざるを得なくなるからです。

さらには、ロシアの兵站は伝統的に鉄道に頼るところが大きく、これでは鉄道輸送に頼れる国境付近では、ロシア地上軍は高いパフォーマンスを発揮できるものの、ウクライナ奥地に入り込むにつれてパフォーマンスが落ちることになるからです。

だから、このブログでは、ロシア軍はウクライナ侵攻は無理であり、できるのは、ルガンスク州、ドネツク州の2州の一部もしくは全部くらいだろうと予想していました。

そのため、ロシア軍がキエフ、ハリコフ両市に進軍を開始したと聴いたときには、正直驚愕しました。そうして、当初の予想は外れたと思いました。

3月27になった今日でも、この地図の状況はほとんど変わっていない

しかし、時がたつにつれて、最初の予測は的中しつつあると考えるようになりました。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ軍事侵攻の開始から1カ月たった25日、ロシア軍のセルゲイ・ルドスコイ第1参謀次長はモスクワで記者会見し、作戦の「第一段階」はほぼ完了したと発表しました。

ルドスコイ将軍は、ロシア軍は今後「ドンバスの完全解放」に注力していくと述べた。ドンバスとは、ウクライナ東部でロシアが後押しする分離派が実効支配する地域のことです。

ロシア軍は、一方的な独立宣言をロシア政府が承認した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」と、ドンバス地域内でもウクライナが支配する地域との境界線を、さらに西へ移動させようとするものとみられます。

ウクライナの他地域でロシア軍は、遅々として進んでいません。これは、先にも述べたようにロシア軍の兵站が脆弱であることに起因していると考えられます。

首都キーウ(ロシア語でキエフ)周辺では、ウクライナ軍の抵抗に遭い後退させられており、これ以上の被害を防ぐために、あるいは何らかの小休止のため、塹壕(ざんごう)を掘るなどして防衛の足場を固めているという情報もあります。

ロシアが首都制圧を諦めたと結論するのは、まだあまりに早すぎるかもしれません。しかし、ロシア軍は失点に次ぐ失点を重ねていると、西側当局は語っています。キーウ付近で、ロシア軍が塹壕を掘って守備を固めているという情報か本当であれば、ロシア軍はドンパス地域での戦闘を有利に運ぶために、ウクライナ軍を分断するために、キーウ近くに軍を配置したままにするつもりなのかもしれません。

西側当局筋は25日、ロシア軍が7人目の将軍を失ったと明らかにしました。一部の部隊では、士気はこれ以上下がりようのないところまで下がっているとも話しました。

ルドスコイ将軍の今回の発表は、開戦前にロシアが計画していた野心的な戦略は失敗したと、ロシアが承知していることの表れのように見えます。

複数の軸で同時に作戦展開するのは無理だと、ロシアは認識し始めているようです。

現在最大10の大隊戦術群が新たに編成され、ドンバスへ向かっているといいます。

ロシア軍の新たな展開では、ドネツクとルハンスク両地方の未制圧地域まで入り込もうとするかもしれないです。ハルキウやイジウムから南下する部隊との合流を目指す可能性もあります。

そしてついにロシアがアゾフ海に面した南東部の港湾都市マリウポリを完全制圧したあかつきには、他の部隊は北上してJFOの包囲を完了する可能性もあります。

ただ、マリウポリの防衛部隊はすさまじい徹底抗戦を繰り広げている、そのため、ドンバスからクリミア半島までの陸路を確保するという開戦前のロシアの目標は実現していません。

しかし、仮にロシア政府が、少なくとも当面は、個々の目的をひとつずつ実現することに集中した方が賢明だと結論したなら、おそらく攻撃力を集約してくるでしょう。特に空からの爆撃はそうでしょう。

もし今後数日の間に、ロシア軍がドンバスに注力し始めたとしても、だからといってロシア政府が大きな野望を諦めたことにはならないです。

実際ロシアは、侵略作戦全体の再評価をしている様子は見られません。

ただ、ロシア軍が個々の目的を人ずつ実現するようにしたとしても、ロシアのGDPが突如増えるわけではないどころか、制裁によってさらに低迷することになりますし、兵站が脆弱であることには変わりはなく、結局最後にはやはり当初の予想通りになるのではないかと私は、思います。

以前にも述べたように、戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。

第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったというのです。端的に言えば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきたというのです。


アマゾンでも販売されているロシア軍用 レーション(1日分パック) 戦闘糧食 MRE IRP

エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎないのです。

現実の戦いは常に不確実であり、作戦計画通りになど行かないです。計画の実行を阻む予測不可能な障害や過失、偶発的出来事に充ち満ちています。

史上最高の戦略家とされるカール・フォン・クラウゼビッツはそれを「摩擦」と呼び、その対応いかんによって最終的な勝敗まで逆転することもあると指摘しています。

そのことを身を持って知る軍人や戦史家たちの多くは、「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」と口にします。文字通り、「腹が減っては戦はできぬ」なのです。

キーフやハリコフを目指して進軍した部隊の司令官たちは、これを今更ながら思い知らされたことでしょう。いや、知っていながら、上の命令には従わざるを得なかったのかもしれません。

プーチンは戦後の世界秩序に挑戦し、これを打ち砕こうとしたのでしょうが、同時に軍事常識も忘れ去ったようです。

いかに精強な軍隊といえども、兵站能力にみあった戦争しかできないのです。ただロシア軍が部分的にでも、兵站を強化し、今後の戦闘に備える可能性もあり、結論を出すにはまだ早すぎると思います。ただ、厳しい経済制裁を受けているロシアは、兵站を見直す余力もなくなるものと思います。結論を出すにはまだ早すぎます。推移を見極めたいと思います。

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2022年3月26日土曜日

中村逸郎教授「北方領土返還は今がチャンス」 驚きのシナリオを解説「十分に可能性がある」―【私の論評】日本は、侵略戦争の戦後の新たな秩序づくりに貢献し、北方領土を取り戻せ(゚д゚)!

中村逸郎教授「北方領土返還は今がチャンス」 驚きのシナリオを解説「十分に可能性がある」

筑波大教授の中村逸郎氏

 ロシア政治が専門の国際政治学者で、筑波大教授の中村逸郎氏が26日、ABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」(土曜前9・30)に生出演。ロシアのウクライナ侵攻について語った。

 中村教授は北方領土問題に言及し、「ロシアは崩壊寸前。北方領土返還が今がチャンス。十分に可能性がある」と主張。中村教授の北方領土返還に向けたシナリオは、(1)経済制裁の影響でロシアがデフォルトに陥って経済が壊滅、(2)食料などが届かなくなるなど北方領土に住むロシアの人の生活が崩壊、(3)日本は「島民への人道支援」を名目に北方領土に介入。島民は日本の支援なしでは生活できない状況に。(4)ロシア離れを起こした北方領土島民が独立を宣言して日本が受け入れる、というものだ。

 中村教授は「経済が落ち込んで、最初に切られるのは北方領土の人たち」と断言。その理由について、「北方領土の人たちの日常品はウラジオストクから海で運ばれるんですが、船舶の会社が経済制裁を受けて破綻寸前なんですね。ですから、ウラジオストクから日常品が北方領土入っていかないという現実が迫ってるんです」と説明。「そうなると北方領土の人たちは生活できないわけで、すぐそこにある北海道に支援を求めてくる可能性が高いわけです」と続けて、北方領土返還は現実味があるとした。

【私の論評】日本は、侵略戦争の戦後の新たな秩序づくりに貢献し、北方領土を取り戻せ(゚д゚)!

「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」での中村教授の発言の動画を以下に掲載します。
上の記事では北方領土返還のチャンスが近づきつつあるという中村逸郎教授の発言に対して「驚きのシナリオ」と形容していますが、わたし自身はこれは驚きでも何でもなく、このように考えるのが普通ではないかと思います。

それについては、以前このブログでも述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。
北方領土の主権主張「永久に忘れた方がいい」…ロシア外務省幹部が強硬姿勢示す 交渉"さらに難航"の恐れ―【私の論評】ウクライナ人も多数居住する北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつある(゚д゚)! 

外務省のザハロワ報道官は2016年5月19日、「ロシア・東南アジア諸国連合(ASEAN)
首脳会議」の公式レセプションで、ロシアの民族舞踊「カリンカ」を披露した

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を掲載します。

ロシア連邦が経済的に苦しくなれば、軍事的にも守備できる範囲は狭まり、ロシアはモスクワを中心とした部分のみを自らのテリトリーとして他は手放す可能性が高まることが考えられます。

とはいいながら、ロシアはなるべく多くのテリトリーを維持したいと考えるでしょうが、それにしても極東はかなり無理になり、その中でも北方領土は放棄する可能性が高いです。

その頃には、極東にも別の国ができているかもしれません。そうなると北方領土はロシアとの交渉ではなく、その国との交渉となります。その頃には、極東の新しい国も経済的に低迷し、日本支援に期待するようになっている可能性もあります。

そのときが、日本が北方領土を取り戻す最大の機会だと思います。現在のロシアもそうした可能性も意識の上に顕在化はしていないものの、潜在的にはありうると感じているのではないでしょうか。

だからこそ、そのようなことは断じてあってはならないという思いから、あまり有名でもない人物の発言をわざわざ取り上げ異例ともいえる報道官の発言となったのではないでしょうか。

私自身は、北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつあると思います。

この記事では、北方領土においてはウクライナ人が多いことも掲載しました。この記事も掲載したように、1989年の調査では12%、1991年の調査によると全人口の4割がウクライナ人とする調査もあります。2016年時点で、国後島に7914人、択捉島に5934人、色丹島に2820人の計16,668人のロシア国籍の住民が在住していますが、そのうち1割~4割ほどが民族的にはウクライナ人とされます。

徳島文理大学大学院教授八幡和郎氏は、この北方領土のウクライナ人について興味深いことを述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
北方領土不法占拠者の四割はウクライナ人である

どうして(北方領土に)ウクライナ人が多いかと言えば、海外との交流が多かったウクライナの人は、故郷を離れて移住することを嫌がらず、欧米にも多いし、在日のロシア人と思われている人のかなりはウクライナがルーツである。また、黒海に面しているので、海に囲まれた島での生活への順応度が高かったのではないか。

彼らの国籍がどうなっているのかは、正確には分からない。というのは、旧ソ連人でずっと同じ所に住んでいる人はいいのだが、引っ越していたとか、混血だとか、夫婦が別のルーツだとかいう人の扱いはややこしく大量の無国籍者も出ているようだし、二重国籍もいる。ただ、もし島民の多くにとって、日本に返還されたときに帰るべき故郷がウクライナである人の割合がロシアの他地域以上に高いのは間違いない。

その意味でも、ウクライナ支援をするなら、北方領土問題について、旧ソ連の一員としての歴史的責任を明らかにし、また、島民の帰還に協力することくらいは、約束してもらっていいのではないかと思うのだ。

岸田総理は参議院予算委員会で、北方領土について「ロシアにより不法占拠されている」と明言したそうだが、もう少し正確に、北方領土は「ロシア・ウクライナ・ジョージアなどによって構成されたソ連軍によって不法占拠された。そのときの指導者はジョージアのスターリンだった。その後、日ソ交渉の際にウクライナ人フルシチョフは返還を拒否した。ソ連解体ののちはロシアが占拠を継続しているが、島民のなかでウクライナ人の比率が非常に多く一説には四割にも上る。ロシアのみならず不法占拠に荷担しているウクライナにも強く抗議したい」というべきであった。

国会で演説させるなら、北方領土のウクライナ人たちに島を離れて日本に返すように呼びかけることを条件にして欲しいくらいだった。
ウクライナは旧ソ連の中核であって被支配者でないという、八幡氏の主張は、筋が通っており、正しいとは思います。ただ、単純比較はできないかもしれませんが、日本も戦中に満蒙開拓団を中国の東北地方や内モンゴルなどに、国策として開拓民を送っているということもありますし、終戦間近に旧ソ連が日ソ不可侵条約を破り、開拓民たちの居住していた地域にも侵攻して酷い目にあったという記憶もあります。

そうして、満蒙開拓団は戦後すべて引き上げて、日本に戻り、現地に残って開拓を継続した人はいません。稀に残った人もいますが、その人達は残留孤児として中国人に育てられ、戦後の日中の交渉で、日本に戻ってきた人もいます。

私が言いたいのは、満蒙開拓団によって満州等に行った人たちは、国策に従っただけであり、何の罪もないということです。

昭和13年10月号(満州移住協会発行)

上の写真は、「開け満蒙」という雑誌の表示を飾った、満蒙開拓青少年義勇軍の写真です。これは、満州国の治安回復と維持、それに対ソ国防の一環を目的とした開拓移民政策の一環としてつくられたものです。

農家の二、三男を中心として志願者を募集、昭和13(1938)年5月に、北海道の第一陣として当時15歳の少年たちが札幌駅を出発しました。8万6000人の青少年義勇軍は、関東軍の予備隊的な存在でしたが、昭和20(1945)年8月9日のソ連参戦時には、関東軍に編入、ソ連軍と激しい戦闘をしました。

北方領土に居住するウクライナ人たちも、旧ソ連の国策によって移住したのであり、金儲けをしようとか、一旗揚げようとかという人たちもいたかもしれませんが、自ら意図して意識して違法な不法占拠してやろうと考えて来たわけではないでしょう。

ただ、厳密にいえば、不法占拠をしていたことには変わりありません。しかし、不法占拠に対する措置はあとからでも十分にできます。まずは日本は北方領土をいかに取り返すに専念して、不法占拠に対する処置や、北方領土の主権回復に関係する様々な問題の解決などは、あとからじっくり実施しても良いと思います。まずは、北方領土が戻ってくる道筋をつけることが最優先だと思います。

ロシアのウクライナ武力侵攻自体は到底許されることではありません。これを許してしまえば、その後の世界はカオスに突入することになります。まずは、一日もはやく戦争を終わらせるようにして、その後にある程度様々な情報を集めた上で、ロシアの言い分も認められる部分は認めるべきと思います。

それを前提とした上で、公平な裁判をすべきと思います。ただ、裁判をするためには、ロシアが政変などで体制が変わり、旧体制が裁かれるということになると思うので、それまでには、多少年月を要するかもしれません。逆にいえば、ロシアがウクライナに侵攻してしまった現状においては、そこまでしなければ、世界は混沌するするだけになるといえるでしょう。いずれ、そこまでしないとならないと思います。しかし、単純にロシアやプーチンを悪魔化すべきではないとも思います。

日本は、極東軍事裁判で一方的に悪者にされて、連合国側の価値判断だけで裁かれたことを忘れるべきではありません。そうして、この裁きは第二次世界大戦の戦後を終わらせる重要な裁判になることを認識すべきです。

そうして、第二次世界大戦後に一度も他国に攻め入ったり、介入したり、戦争もしたことのない日本こそ、今後の世界の新秩序を樹立するためにリーダーシップを発揮すべきです。米英や中露など第二次世界大戦戦勝国が、表立って動けば反発する国も多く、まとまるものもまとまらないと思います。日本がリーダーシップを発揮すれば、正面切って嫌がるのは、中露と北朝鮮と、韓国だけでしょう。それも露骨に嫌がり、大反対するでしょう。しかし、日本はこれに怯むべきではありません。

現在のロシアは、旧ソ連邦が崩壊したときとも状況は似ていると思います。私は、旧ソ連邦が崩壊したときも、北方領土を取り返す好機だと思いましたが、日本政府の動きは鈍く結局返ってきませんでした。

西欧諸国も、冷戦終了後にも、ソ連崩壊後にも、新たな秩序づくりには、積極的には取り組みませんでした。とにかく、現実離れした、第二次世界大戦直後の秩序にしがみつこうとしました。

それは、ソ連崩壊後ですら、国連憲章の記載は未だに、中華民国、ソビエト連邦のままであり、中華人民共和国、ロシア連邦が常任理事国の地位を引き継いでいることでも理解できます。このような中途半端なことをしたことが、ロシアのウクライナ侵攻の遠因にもなっていると思われます。

国連憲章を書き換えるか、中共やロシア連邦は常任理事国にしないなど、どちらか一方にするか、そもそも世界が第二次世界大戦終了直後とは変わってしまったのですから、国連のシステムを変えるか、あるいは新たな枠組みを作り出すのか、はっきりすべきでした。

このような優柔不断な有様だったからこそ、日本政府の努力が足りなかったせいもありますが、日本は北方領土を取り戻すことができなかったのだと思います。

今回のロシアのウクライナ侵攻後の戦争終了時には、そのようなことがないように、日本は世界の新たな秩序をつくるための提言やシステムの概要など今から準備をしておくべきものと思います。そうせずに曖昧なままにしておけば、世界は今後もウクライナ戦争のような事態に巻き込まれることになります。そうして、それは第三次世界大戦へとも繋がりかねません。

岸田政権には全く無理かもしれませんが、そのような提言やシステムの概要が必要になったときには、岸田政権ではない可能性も高いです。まずは、志の高い超党派の議員団などで実施してはいかがでしょうか。今後の世界には、中露や北朝鮮が、それを受け付けるか受け付けないかは別にして、新たな秩序づくりは避けて通れません。それを避ければ、世界はいずれ崩壊します。

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2022年3月25日金曜日

台湾で浮上しつつある「抑止力」の議論―【私の論評】結局我が国は自ら守るしかない!危機に備えよ(゚д゚)!

台湾で浮上しつつある「抑止力」の議論

岡崎研究所

 3月2日付のTaipei Times紙の社説が、ロシアによるウクライナ侵略を受け、台湾の抑止力向上の必要性を説き、台湾による核兵器計画の再開にまで踏み込んだ提言をしている。


 ウクライナへのロシア侵略の状況を見ていれば、もしウクライナがかつて保有していた核兵器の一部でも今日保有していれば、現在のようなウクライナへのロシア軍による軍事侵攻を防ぐことが出来たかもしれない、と Taipei Times紙の社説が述べている。

 本社説は、「今日のウクライナが明日の台湾」にならないために、国防上核兵器を含む高度の抑止力を保持すれば、中国が将来、「台湾統一」を目指して台湾に軍事侵攻することを躊躇することとなるかもしれないと述べ、台湾にとっての今後の課題に言及している。実行は容易ではないであろうが、検討に値する興味深い内容である。

 本社説によれば、台湾は秘密裏に核兵器開発計画(新竹計画:Hsinchu Project)をもち、1964年に最初のテストを実施した。しかし、88年、米国からの圧力でこれを中止した。その結果、台湾は今日、核兵器を保有していないだけではなく、米国の核の傘にも入っていない。

 これに反し、中国は急速に核兵器の近代化を進め、昨年後半には、衛星写真が新しい核ミサイル格納庫を映しだしたりしている。北京はプーチンに倣い、将来、中国が台湾に侵攻する場合に、もし第三者(米国)の介入があれば、彼らは核の報復を受ける、と威嚇するだろう。このようなシナリオであれば、米太平洋艦隊に台湾海峡に入るよう命令を下すことは、「米国大統領にとって相当の勇気を要することとなるだろう」という。

 本社説の述べる今後の台湾にとっての抑止力向上の選択肢は次の3点である。

(1)台湾にとって、1つ目の選択肢は、現在、台湾の保有する中距離ミサイル(「雲峰」)の射程距離(2000キロメートル)を延長し、重要な通常戦力による抑止力として使用することだ。こうすれば、北京、上海なども射程距離内に入る。

(2)第2の選択肢は核兵器の「持ち込み」である。米国の核ミサイルを台湾に配備することは、もう一つの選択肢となる。米台間に外交関係のあった時期ではあるが、62年まで米空軍は TM-61マタドール・核搭載ミサイルを台南空軍基地に配備していた。

(3)台湾自身が、米国の支援のもと、あらためて核兵器開発計画を再開することは、第3の選択肢である。

 ロシアのウクライナ侵略が中国の「台湾統一」に今後如何なる影響を及ぼすかは、現段階では想像の域を出ない。しかし、あらゆる可能性に対峙できるように準備を行うことは台湾の防衛にとって、喫緊の課題だろう。

 最近の台湾の世論調査を見る限り――世論調査は変わりやすいものではあるが――ウクライナ危機のあと、台湾の多数の人々の、第一の関心事項は「いざとなった時、米国は来てくれるだろうか?」という問いかけであるように思われる。

日本にも訪れつつある危機

 ロシアがウクライナへの侵攻を続けるなか、蔡英文政権は軍事訓練体制を強化するなど戦力向上に力を入れはじめた。台湾の陸、海、空軍は3月から金門、東沙諸島などで軍事訓練を行い、また有事の際に動員する予備役の訓練期間を例年より倍にした、と報じられている。

 台湾ばかりではない。日本の周辺でも、危機は高まっている。北朝鮮は、今年に入り既にミサイル発射実験を9回行っているが(3月13日現在)、そのうち、最近の2回は、射程の長い大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)級と言われている。

 ロシアは、3月10日から11日、軍艦10隻を津軽海峡を通過させるなど、不穏な動きを続けている。一方、中国は、武装もした海警局の船が、尖閣諸島を取り巻く日本の領海を侵犯するなど、緊張状態を引き起こしている。日本も台湾以上に抑止力を向上させる必要に迫られている。

【私の論評】結局我が国は自ら守るしかない!危機に備えよ(゚д゚)!

中国の台湾侵攻は現状では、無理であることは、このブログに何度か掲載してきました。その最大の根拠は、中国の海上輸送能力が脆弱であり、一度に台湾を制圧できるくらいの軍隊を台湾に送り込むことができず、結果として軍隊をいくつかにわけて逐次投入しなければならなくなります。

中国最大の075型強襲揚陸艦 兵員の収容能力は約1,600名

そうなると逐次投入した中国軍は、台湾軍によって個別撃破されるため、中国には勝ち目がなく、よって中国が台湾に侵攻することは当面ないだろうというものでした。これに、米軍などの攻撃力が大きい攻撃型原潜が加勢することなども考えると、中国には全く勝ち目はなく、ほとんどありえないというものでした。

それに、中国海軍は米海軍と比較して、海戦能力には徹底的に劣ります。これは、このブログにも何度か掲載してきましたが、米国の戦略化ルトワック氏の記事をみてもわかることです中国が台湾を侵攻する素振りをみせれば、米国はまずは攻撃型原潜を台湾付近に配置するでしょう。そうなると、中国は米軍には太刀打ちできません。

だから、この読みは今でも正しいと思います。実際、年初に毎年恒例の、ユーラシア・グループによる、今年の地政学的リスクの予測にも、中国の「ゼロコロナ政策の失敗」によるリスクや、ロシアによるウクライナ侵攻については、予測さていましたが、中国による台湾侵攻については、予測はされていませんでした。

ただ、現状ではロシアのウクライナ侵攻は現実のものになった今は見方をかえなければならないと思います。未来永劫にわたって、中国が台湾に侵攻しないとは言い切れないからです。

特にロシアがウクライナに侵攻、それもドネツク方面だけではなく、南部や首都キエフなどにも侵攻しはじめたことは衝撃でした。

何しろ、このブログには何度か掲載してきたように、現在のロシアのGDPは韓国を若干下回るほどであり、一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回る程度であり、さらにロシア軍の兵站は、鉄道に頼るところが大きいく、脆弱であることが知られていました。

そうなる、元々軍隊の力には限りがありますが、旧ソ連の軍事技術や核兵器を受け継いだロシアを侮ることはできないものの、国境付近では高いパフォーマンスを発揮できるにしても、奥地に進撃するにつれて、パフォーマンスが低下することが予想され本格的な侵攻には相当無理があることが予想されました。

そのため、私は東のドネツク方面だけの侵攻はあり得るだろうとは思っていましたが、キエフや南の方の侵攻はないだろうと思っていました。

ウクライナ・キーウ中心部で攻撃に備えるウクライナ兵(2月25日)

しかし、それ以上のことをプーチンが実行したのは、様々な思い違いが重なったのだと思います。

その思い違いとは、まずは、ドンバスだけではなく、キエフや南の方からも侵攻することにより、ウクライナ政府は怖気づき、ゼレンスキー政権は海外逃亡するなどで、すぐに崩壊するだろうと思ったのでしょう。

次にウクライナ軍や市民も、ロシアの本格的侵攻ということで、これも怖気づきすぐにロシアの軍門に下ると考えていたのでしょう。

よって、3日から長くても1週間から、10日もあれば、ロシア軍はキエフではウクライナ軍は戦うこともなく、軍門に下り、キエフにロシア軍は無血で進軍して、キエフ市民もそうなるであろうと考えていたのでしょう。

NATOはロシア軍の素早い動きについていくことができず、手をこまねいているうちに、あっと言う間にロシアはキエフを掌握し、南や東でも勝利をおさめ、軍隊を進駐させたうえで、みせかけの選挙などを実施し、ウクライナに傀儡政権を樹立して、武装解除などもして、安全保障は当面ロシアが実施するとして、いずれはロシア・ウクライナ連合軍が行う形を模索したことでしょう。

しかし、これらはことごとく裏切られ、ロシア軍はウクライナで大苦戦しています。米国防総省高官は22日午前、ウクライナに展開するロシア兵の一部は適切な防寒具がないために凍傷になっている兆候があると明らかにしました。

ロシアによるウクライナ侵攻は開始から1カ月を超えました。同高官によると、ロシア軍は兵たんや維持の問題に悩まされる状況が続いており、適切な装備の欠如に加え、食料や燃料の不足も追い打ちをかけているという。

同高官は記者団に「一部の兵士については個人装備の面ですら問題がある」と指摘し、凍傷になって戦闘から外された兵士もいるとの兆候をつかんだことを明らかにしました。

ロシア軍は指揮統制の問題から連絡が難しい状況にあり、それが兵たんや維持の問題をさらに悪化させているといいます。ウクライナは今月、寒波に見舞われていました。

このような状況になることは最初からわかっていました。にもかかわらず、ロシアはウクライナに侵攻したのです。

この状況を打開するため、プーチンは戦術核を用いたり、化学兵器を用いることは十分にありえます。

  2020年6月24日(水)、ロシア・モスクワの勝利の日パレードで、戦略核ミサイル
  「RS-24ヤース」を通り沿いに運搬する車両

そうして、もし用いたとすれば、これが悪しき前例になる可能性は十分にあります。それを台湾は危惧しているのです。

中国が、最初から戦術核を台湾軍に狙いをつけて、民間人の犠牲が出ることも厭わず、台湾に打ち込み、台湾軍の力を十分に削いでから、中国軍を送り込んだ場合には、台湾はこれを防ぐ手立てはありません。台湾には潜水艦はありますが新型潜水艦は建造中であり、現在稼働しているのは、旧式のものであり、これでは中国軍に対峙できません。

プーチンが勘違いしたように、中国主席も勘違いして、台湾の新型潜水艦が完成すれば、これは中国軍の潜在的脅威となり、台湾に二度と侵攻できないかもしれないと考え、今がチャンスとばかり、侵攻するかもしれません。

米国大統領は同盟国でもない台湾を救うにしても、最初から戦術核を用いた中国に対して、直接対峙することをためらうかもしれません。中国に対して厳しい経済制裁をしたり、台湾に対して経済支援や武器供与をするかもしれません。

それで、戦況が台湾に有利になるかもしれません。中国は苦戦するかもしれません。しかし、苦戦しても、さらに台湾軍に対して戦術核を打ち込み、台湾軍の力を削ぎ、目的を達するかもしれません。シナリオとしては、まったくあり得ないことではありません。

このようなことが予想されるため、台湾は核兵器を持つことも検討しているのです。もし、ウクライナが核兵器を今でも持っていれば、プーチンも核を使うことをためらうかもしれません。何しろ、自らウクライナで核を用いれば、ウクライナはこれに報復して、モスクワは焼け野が原になるかもしれません。

核武装国同士は戦争が出来ないです。互いにエスカレートして核戦争になることを恐れているからです。だから米英仏などが核武装国露との直接戦闘を避けるため軍を派遣してウクライナを直接支援はできないです。

中国が台湾や日本を侵略した場合も同じです。確かに、日本には米軍が駐留しているので、日本を攻撃すれば、米国も攻撃することになり、そうなると最終的には米国と核戦争にエスカレートするのを恐れるため、攻撃しにくいところがあります。

しかし、それに怯まず日本を攻撃した場合、しかも最初から戦術核を用いたりした場合、米軍はどの程度戦うのか、あるいは自国への攻撃のリスクをかえりみずに、核で反撃するのか、それは判然としません。

結局我が国は自ら守るしかないのです。しかし総理などの軍拡の決意が見えないです。我が国も危機に備えるべきです。


トランプ氏 プーチン大統領には原子力潜水艦で圧力を―【私の論評】ロシアにとって米原潜は天敵!トランプの主張を荒唐無稽とか無謀として排除すべきではない(゚д゚)!

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2022年3月24日木曜日

ロシア軍の揚陸艦を破壊とウクライナ国防省 南東部ベルジャンシクの港で―【私の論評】またしても恥ずかしい敗北を喫した、プーチンの苦悩する軍隊(゚д゚)!

ロシア軍の揚陸艦を破壊とウクライナ国防省 南東部ベルジャンシクの港で

 ウクライナの国防省は、南東部のベルジャンシクの港で、ウクライナ海軍がロシア軍の揚陸艦を破壊したと明らかにした。CNNは映像を見る限り、二次的な爆発が起き、大きな火災が発生しているように見えると報じている。

 ベルジャンシクはマリウポリの西側に位置し、ロシア軍が侵攻し、制圧したとされている。(ANNニュース)

【私の論評】またしても恥ずかしい敗北を喫した、プーチンの苦悩する軍隊(゚д゚)!

ザポリージャ州の港湾都市ベルジャーンシクはロシア軍の占領下にあり、ここ何らかの手段で攻撃したウクライナ軍はロシア海軍の大型揚陸艦(プロジェクト1171/西側でいうところの戦車揚陸艦)オルスクを破壊したと24日に発表して注目を集めています。

オルクス攻撃による爆発炎上の画面 twitterより

この攻撃で同港に停泊していた他の艦艇2隻も損傷、さらに3,000トンの燃料タンクや弾薬庫にも引火したと報じられているが、ウクライナ軍参謀本部の発表は今のところ「オルスク」の破壊のみで攻撃方法やロシア軍に与えた損害の詳細を明かしていません。

ツイッターの情報では、アリゲーター級戦車揚陸艦オルスクの他にサラトフが大破。ロプーチャ級戦車揚陸艦ツェサール・クニコフ、ノヴォチェルカスクは損傷したとされといます。

アリゲーター級は艦暦は古いですが戦車20両、兵員450名を運べる大型揚陸艦です。 ロプーチャ級は最大10両の戦車、340人の兵員を運べます。 黒海に展開しているロシア揚陸艦隊は13隻なので一度に4隻の損傷はかなり痛いはずです。

これが事実とし、この攻撃が揚陸中だったとすれば、黒海艦隊第197揚陸艦旅団はかなりのダメージを受けたことになります。

ただ、これで思い出すのは、16日にロシアの大型揚陸艦が津軽海峡を抜けたことです。

防衛省は16日、ロシア海軍の戦車揚陸艦が津軽海峡を日本海に向けて通過したと発表していす。

防衛省によると、15日午後8時頃、青森県の下北半島・尻屋崎の東北東約70キロで、戦車揚陸艦2隻を確認。そのうちの1隻は、アリゲーター型でした(写真上)。

さらに16日午前7時頃、尻屋崎の東北東220キロの海域でも、別の戦車揚陸艦2隻を確認した。その後、これらの艦艇が津軽海峡を日本海に向けて航行したことを確認しました。

まさか、この揚陸艦がそのまま、ベルジャーンシクに行ったということはないとは思います。津軽海峡を抜けていくと最短距離でまさにウラジオストクに着きます。ここから鉄道でウクライナまで戦車や燃料・弾薬となどを運んだと思われます。

極東ロシア地上軍(東部軍管区)はソ連邦崩壊前では、40数個師団あったものが、現在では、半数以下の12個旅団(師団の半分から2/3の規模)と2個師団であり合計8万人です。これは、4分の1以下になったということになります。軍の地位も下がり、予算も多く削減され、兵員の士気は下がっています。

この極東からも、戦車揚陸艦で戦車や弾薬、もしかすると人員等を運ぶというのですから、以下にウクライナに侵攻したロシア軍が物資不足や人員不足に悩まされているのかがうかがえます。

その揚陸艦を破壊されたのですから、ロシアにとってはまさに泣き面に蜂というところです。ロシア国営メディアは3日前、港で装甲車を下すオルスク号の様子を映していました(写真下)。これが、今回の攻撃を招いたとすれば、随分間抜けな話です。


英ミラー紙は24に(現地時間)、アリゲーター級船舶は、ウクライナ軍がこれまでに攻撃した最大のロシア船であり、「ウラジーミル・プーチンの苦悩する軍隊にとって、またしても恥ずかしい敗北を意味するものである」と伝えています。

ただ、現地時間の正午に発表された最新の戦況報告でもオルスクの破壊のみにしか言及しておらず、米CNNも攻撃手段は不明と報じていますが、ウクライナ軍参謀本部、陸軍、海軍の公式Facebookには短距離弾道ミサイル「トーチカU」に関連した動画(オルスク攻撃を行う内容ではない)が一斉に投稿されているためオルスクの破壊=トーチカUを匂わせるものと受け取ることも可能ですが、オルスクから煙が上がり火柱が上がるまで時間がかかっているため「弾薬取り扱いの不手際での事故」を主張する専門家もいます。

ウクライナ軍のトーチカU

これが、本当だとすれば、おそらく弾道ミサイルによる世界初の対艦攻撃の戦果かもしれません。

ロシア海軍が損失を被ったことに違いはないので攻撃手段に余りこだわる必要がないかもしれないですが、ウクライナ軍はヘルソン地域に配備されたトーチカUを使用して敵水陸両用艦艇が配備される地点への攻撃演習を2021年4月に実施しており、何らかの方法でトーチカUの平均誤差半径(CEP)を向上させる準備をしていたのかもしれないです。

昨日は、このブログで、以下のようなことを述べました。
数十年前から言われてきたことですが、艦船には二種類しかありません。水上艦艇と水中の潜水艦の2つです。現在では、空母やイージス艦などの水上艦艇は、魚雷やミサイルの標的に過ぎません。これらは、海戦においては、いずれ撃沈されてしまいます。

もう一つの艦艇である潜水艦は、水中に深く潜み、簡単には撃沈されません。こうしたことから、現在の海戦における本当の戦力は潜水艦なのです。
トーチカUを用いたかどうかは、未だわかりませんが、それにしても何らかの誘導弾を使用したのは明らかだと思います。まさに、現在の水上艦船は、魚雷やミサイルの標的にしか過ぎないのです。潜水艦こそが、現代海戦の真の戦力であり、主役なのです。今回の出来事は、これを雄弁に語っていると思います。

ウクライナ軍は残念ながら、現在は潜水艦を所有していません。同国海軍が保有する唯一の潜水艦「ザポリージャ」2014年にロシア軍に接収されています。

ウクライナ軍が潜水艦を持っていれば、今回もかなり活躍したと思います。ただ、大型揚陸艦を破壊するなど、様々な相違工夫をしながら戦っている姿には感服させられます。ただ、こうして勝利を収めるウクライナ軍に手を焼くプーチンは、化学兵器や核兵器を使用するかもしれません。本当に、恐ろしいです。そんなことをまかり間違ってすれば、ロシアは世界から完全に遮断され、経済や生活水準が帝政ロシアの頃に戻ってしまうと思います。

一方日本は、ウクライナ軍から比較すれば、自衛隊は22隻の高性能潜水艦隊などをはじめ、かなりの軍事力を持っていますが、それを有効に使える術を自ら放棄しています。さらには、軍事費もロシア、中国、北朝鮮などの脅威にさらされているにも関わらず、GDP1%なる根拠のない枠に縛られて増やそうとしません。

ロシアのウクライナ侵攻という、現代では考えられないようの蛮行が行われるということが実施されてしまった現在、日本も安全保証を見直すべきです。

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トランプ氏 プーチン大統領には原子力潜水艦で圧力を


21日、FOXビジネスの番組に電話で出演したトランプ前大統領は、在任中だったらウクライナにMIG戦闘機の提供などの支援をしたかと聞かれると、「それ以上のことをしただろう」と話した

この中でトランプ氏は、「プーチンが何度も”Nワード”を使うのを耳にしている。彼はこれを使い続けている」と、核(Nuclear)に言及。続けて「でもわれわれの方が、より強力な核兵器を保有している。世界でも最も素晴らしい原子力潜水艦だ。私の下で作られたのだが、かつて建造された中で最も強力なマシーンだ」と主張した。

さらに「またその言葉を口にしたら、われわれは原子力潜水艦核を送って、沿岸を上下左右に航行させるぞと言うべきだ」と強気の姿勢を見せ、「この悲劇を見過ごす訳にはいかない。何千もの人間をただ死なせる訳にはいかない」と語った。

なお海軍の発表によると、米艦隊は、ブーマーと呼ばれる弾道ミサイル潜水艦を14隻保有している。一方のロシアについて、英紙ミラーは、核ミサイルが発射可能な潜水艦が11隻あるとみられていると伝えている。

ただし、バイデン大統領はウクライナの支援をする一方で、ロシア軍とNATOの直接衝突を避け、第三次世界大戦に発展する危険を阻止することを最需要事項とし、ウクライナ側の求める飛行禁止区域の設定にも応じない姿勢を明確にしている。

トランプ氏の物騒な発言に、保守派の政治コメンテーター、チャーリー・サイクス氏は「無謀にエスカレートさせるもので、本当に不必要だ。脅威を与えるためにロシアの”沿岸”に潜水艦は必要ない」と非難。「この男は、大統領候補だった頃、核の3本柱を知らず、核をハリケーンに使おうと示唆して、核兵器使用の可能性を側近に相談したとまで報じられた人物で、そのことを覚えておいて、損はない」と加えた。

【私の論評】ロシアにとって米原潜は天敵、トランプの主張を荒唐無稽とか無謀として排除すべきではない(゚д゚)!

上の記事で、チャーリー・サイクス氏は、トランプを批判していますが、私自身は、原子力潜水艦を使うというトランプ氏の考えには一理あると思っています。

トランプ氏の考えでは、弾道ミサイル搭載原潜を、脅しに使うというものですが、これは確かにロシアに対してはかなりの脅威になると思います。私自身は、それだけではなく攻撃型原潜も効果的に使うべきと思います。

米国の原潜はなんといっても、弾道ミサイル原潜も攻撃型原潜も、かなりの攻撃力があります。かつてトランプは北朝鮮が弾道ミサイルを連発したときに、北朝鮮の海域に攻撃型原潜を派遣して、米国の攻撃型原潜は、海中に潜む空母だ、空母と同等の攻撃力があると、豪語してみせました。

これは、決して誇張ではありません。弾道ミサイル搭載原潜の核による攻撃力もさることながら、攻撃型原潜の攻撃力も凄まじいものがあります。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できる。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

トマホークミサイルが2018年の試験で米海軍の潜水艦から発射される様子

現在、世界規模で潜水艦を展開するアメリカやロシアは、核戦争に備えて中・長距離の垂直発射型弾道ミサイルを核戦力の軸にしています。

一方、潜水艦搭載の巡航ミサイルは核弾頭だけでなく通常弾頭も使えるため、地上基地や水上艦の攻撃用として核兵器を使わない通常戦闘にも投入することができます。また巡航ミサイルに準ずるものとして対艦ミサイルがありますが、これも現代の潜水艦では魚雷発射管などから撃つことができるようになっています。

現在潜水艦の武装はかなりバラエティに富んでいます。かつては魚雷と大砲を使い、また短時間しか潜ることができなかったため、海軍戦力のなかでは脇役的存在でしたが、今日の潜水艦は、万能兵器になり、海戦の主役になりました。

数十年前から言われてきたことですが、艦船には二種類しかありません。水上艦艇と水中の潜水艦の2つです。現在では、空母やイージス艦などの水上艦艇は、魚雷やミサイルの標的に過ぎません。これらは、海戦においては、いずれ撃沈されてしまいます。

もう一つの艦艇である潜水艦は、水中に深く潜み、簡単には撃沈されません。こうしたことから、現在の海戦における本当の戦力は潜水艦なのです。

そうして、中露と日米を比較すると、ASW(対潜水艦戦闘)の能力では、日米が中露を大幅に上回っているのです。

中露はASWでかなり劣っているため、海戦では日米と互角に戦うことはできません。ASWで、劣る中露は、特に中国は、多数の艦艇を有していたとしても、海戦では日米には勝てません。
日本の通常型潜水艦は、米国のような強大な攻撃力はありませんが、ステルス性(静寂性)に優れているるため、中露はこれを発見することはできません。

米国の攻撃型原潜は、日本の通常型潜水艦と比較すれば、ステル性には劣りますが、それにしても日米は対潜哨戒能力においては、中露をはるかに凌駕するので、米軍の攻撃型原潜は強大な攻撃力を生かして、圧倒的な強みを発揮することができます。

仮に米国がロシアの近海やウクライナの近海等に攻撃型潜水艦をいくつか配置すれば、ロシアにとってはかなりの脅威となります。ましてや、弾道ミサイル搭載原潜はかなりの脅威になります。こういうことを考えると、トランプの考えはあながち荒唐無稽であるともいえないと思います。

トランプがもし大統領であれば、バイデンのようにウクライナに米軍派遣はないとはっきりと何度も公言することもなかったでしょう。私はこれは、明らかにバイデンの失策だったと思います。

確かに、米軍を派遣すれば、戦争がエスカレートして、核戦争にもなりかねないです。ただ、現状みられるように戦争においては、深刻な人道に反した戦争犯罪など生じがちです。バイデンとしては人道に配慮した米軍を派遣する可能性についてまで完全否定すべきではなかったと思います。それは、ロシアに対して一定の抑止力になったと思います。

さて日本にとってもウクライナ戦争は対岸の火事といえない状況になって来たと思います。とくに島嶼国家(海洋国家)である日本は海が主戦場になることは間違いありません。だからこそ、潜水艦は国防上、重要な役割を担う装備となっているのです。

3月9日には、日本の最新型の「たいげい」が就役しました。これで、潜水艦事故により日本の潜水艦隊は21隻体制だったのですが、22隻体制に戻りました。島嶼国の日本にとっては、この22隻の潜水艦隊か国防の要です。

日本が22隻の高性能潜水艦隊を有しており、対潜哨戒能力も世界トップレベルであるということが、中露が日本に対する領土的野心を抱くことをためらわさせているのは間違いないです。中国が、尖閣で示威行動を繰り返し続けても、結局領有にまで至らないのは、日本に強力な潜水艦隊があるからです。

ウクライナは核を放棄したため、現在ロシアの核の脅威にさらされています。日本は非核三原則などを未だに堅持し、ある意味ウクライナのようでもありますが、大きな違いは、日本には米軍が駐留していること、そうして強力な潜水艦隊が存在しています。

残念ながら、ウクライナには日本の潜水艦隊に相当するものもなく、米軍も駐留はしていません。だからこそ、ロシアの侵攻を招いてしまったという面は否めません。

このブログには、何度か掲載してきたように、潜水艦の行動は世界のいずれの国でも秘匿するのが普通で、日本もその例外ではありません。そのため、日本を含めてほんどの国が潜水艦の行動など公表せず、米国では米軍のトップですら、核ミサイル原潜が世界のどこにいるのか知らされていないといいます。

日本でも、それは滅多には知らされません。だから、日本の潜水艦隊がどこで何をしているかなど、多くの国民はしりません。しかし、多くの潜水艦乗りたちが、様々な海域の最前線で、任務についています。そうして、これは日本の安全保障に直接貢献しているのは間違いありません。

にもかかわらず、中国やロシアが攻め込んできたら、すぐに日本が手も足も出ずに、すぐ負けてしまうというような論調も目立ちます。最近では以下のような記事が目立ちました。
「侵略してくる部隊を自衛隊単独で撃退することはほぼ不可能」元陸上自衛隊・中部方面総監が語る日本の“防衛戦略” 徴兵ではなく予想される“緊急募集”とは?
   山下裕貴氏。1956年、宮崎県生まれ。1979年、陸上自衛隊入隊。現在、
   千葉科学大学客員教授。著書に「オペレーション雷撃」(文藝春秋)

 この方は、どのような前提で、このようなことを語っているのか非常に疑問です。日本には陸自だけではなく、海自もあり、空自もあります。

敵が海路侵入してくるというのに、空自もまして海自は何もしないというのでしょうか。中露は海上輸送能力に劣るところがあって、大量の兵員や武器弾薬を一度に送るのは不可能です。冷戦時代にはソ連の北海道侵攻をマスコミが煽りましたが、当時ですらソ連軍は海上輸送力が十分ではなく、北海道侵攻はできないだろうとされていました。

中国も海上輸送力は十分ではありません。だから、台湾侵攻もおびただしい損失がでることが予想され、現実にはかなり難しいです。これは、以前もこのブログに掲載しました。とはいいながら、ロシアも無謀と思われるウクライナ侵攻をを現実に実行したのですから、いくつか条件が重なれば、台湾侵攻もあり得ると考えるべきでしょう。

ただ、この方が主張しているのは、仮に中露が大部隊を日本に送り込んできた場合は、「侵略してくる部隊を自衛隊単独で撃退することはほぼ不可能」と主張しているのだと思います。

スリム化が進んだ自衛隊の現状を憂いているし、日本政府に迅速な判断が可能かどうかについて心配しているのでしょう。これについては、多いにうなずけるところがあります。

ただ、この記事には、仮に中国などが部隊を送り込んできたとして、それが日本の潜水艦などに撃沈されて、かなり減衰することについては全く触れていませんでした。これでは誤解を招きやすいです。

私自身は、ロシアのウクライナ全面侵攻はかなり難しく、ロシアがウクライナの侵攻する確率は低いとみていましたが、ウクライナ侵攻は現実のものとなりました。GDPが韓国を若干下回り、兵站が脆弱なロシア軍にとっては、ウクライナ侵攻は困難を極めることが予想され、その通りにロシア軍は苦戦しています。これは最初から予想されたことであり、かなり苦戦することになるだろうから全面侵攻する確率は低いだろうと踏んだのです。

多くの軍事専門家等もそのように考えていたようです。軍事的な考察はこのように、予想をくつがえされることもあるのです。どのような可能性も除去しないで考えるべきなのでしょう。

そういう意味では、トランプの主張を荒唐無稽とか無謀として排除すべきものではないと思います。一つの選択肢として、どういう場合にそうするべきかなども考えておくのも悪いことではないと思います。それも現実的に考えるべきと思います。

そうして、無論山下裕貴氏の主張にも耳を傾け、参考になるところは取り入れるべきとも思います。

安全保障については、あらゆる可能性を排除せず、議論すべきと思います。岸田政権も、防衛費倍増や憲法改正なども、ただ議論をするだけでなく、現実の脅威に対処できるように、できるところから実施すべきです。特に、何の根拠もない防衛費GDP1%の枠は、すぐに撤廃すべきです。

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