扇風機に革命を起こしたバルミューダが、今度は空気清浄機の常識を書き換える!?:
二重構造の羽根をもつ、まったく新しい発想の扇風機「GreenFan」を2010年4月に発表し、ダイソンとともに“高機能ハイエンド扇風機”という市場を創出したバルミューダ。そんな彼らの次なる挑戦は、空気清浄機であった。その名も「JetClean」。果たしてその性能は? そしてその開発意図は?
ダイソンのハイエンド戦斧機を説明する図 |
【私の論評】この空気清浄機は、売れるか? イノベーションの観点から検証してみよう!!
扇風機など改良の余地などないようにも見えたが? |
空気清浄機にも改良の余地などないように見えたが? |
そんな分野で、ハイエンド・扇風機の市場を確立したダイソンや、バルミューダは、イノベーションをおこしたわけです。
さて、購読者の方々は、よくご存知でしょうがこのブログには、過去にイノベーションに関する記事など、比較的多数掲載してきました。その中には、イノベーションの心得、イノベーションのタブーを掲載したものもあります。以下にその記事のURLを掲載します。
ちょっとイイ話! 愛から生まれた世界的ヒット商品の開発秘話−【私の論評】愛は社会を変革する!!
詳細は、上記のURLをご覧いただくものとして、ドラッカーが提唱するイノベーションの心得は以下ようなものです。
第一に、集中しなければならない。複数の異なる分野でイノベーションに成功することはほとんどない。あのトーマス・エジソンさえ、発明を発明したといわれるほど発明の方法論に通暁しながら、電気の分野でしかイノベーションを行なわなかった。
イノベーションには、勤勉、持続、献身を必要とする。集中することなくして、これらのものを手にすることはできない。知識は多分野のものを必要とするであろう。だが、目指すものについては、集中がなければならない。
第二に、強みを基盤としなければならない。あらゆる人、あらゆる組織に、得意と不得意がある。イノベーションに利用できるのは、得意とする能力である。あらゆる機会を検討し、自らの能力を最も生かしてくれる機会を探す。
相性も必要である。狙いとするものの価値を心底信じていなければならない。さもなければ、忍耐を必要とするイノベーションの仕事はできない。
ありがたいことに、多くの場合、強みと価値観は一致する。
さて、イノベーションの心得に関して、バルミューダの新型空気清浄機は、この心得に合致したものでしょうか?以下に検証してみます。
第三に、世の中を大きく変えるものでなければならない。イノベーションとは、あくまでも市場志向たるべきものである。誰かが買って、使ってくれなければ、イノベーションとはならない。イノベーションとは、市場に発し、市場で花開き、市場で実を結ぶべきものである。
第一の心得に関して、完璧に集中していたと思います。バルミューダや、ダイソンは、もともと、多数の工場を所有していて、様々な家電製品を製造する従来型の企業とは全く異なります。工場はありません。製造は、すべて外注です。バルミューダや、ダイソンは、新製品を開発する企業です。だから、普通のメーカーから比較すれば、開発自体に集中しています。これは、あのアップルも同じことです。
第二の強みを基盤ということでも、合致しています。まずは、扇風機で大成功しています。扇風機は、風を起こす、機械です。それに、両方とも、電気を用いる機器です。まさしく、強みを基盤にしています。
第三の、世の中を大きく変えるものとい心得にも十分合致しています。Jet Cleanは、日本国内でも、最高性能の空気清浄能力を持つ、最も設置面積の少ない空気清浄機です。総風量は、毎分1万ℓ。0.3μmというウィルスレベルの微粒子に対しては、他社空気清浄機を20%上回る除去性能を実現。6畳程度の部屋であれば、15分で90%以上の除去が可能です。
とにかく、従来型の空気清浄機と比較すると、設置面積が小さく、しかも、性能が抜群に良いです。これは、大きく社会を変えるものです。
これに対して、イノベーションのタブーは以下のようなものです。
第一に、凝り過ぎてはならない。凝り過ぎは失敗の元であり、生産者側の自己満足にすぎない。懲り過ぎた財・サービスに大事な時間とおカネを使う者はいない。博物館で見せてもらえばよい。
大きな事業にしたいのであれば、時間もおカネもさほど余裕のない人たちが、気軽に買って気軽に使えるものでなければならない。ドラッカーは、組み立て方や使い方の凝ったイノベーションは、ほとんど例外なく失敗してきたという。
第二に、多角化してはならない。これは、イノベーションに成功するには集中しなければならないとの心得と同義である。核のないイノベーションは、雲散してアイディアにとどまり、イノベーションには至らない。
イノベーションの成功には大勢の人たちの参画が必要である。共通の核がなければ、参画に必要な理解も不可能となる。
第三に、明日のためにイノベーションを行なってはならない。イノベーションはすべて、今日のために行なわなければならない。
イノベーションが完成するには日にちを要するかもしれない。しかし、「20年後には大勢の高齢者がこれを必要とする」といえるだけでは十分ではない。「これを必要とする高齢者はすでに大勢いる。20年後にはもっと大勢いる」といえなければならない。
医薬品の開発では、10年を要することが珍しくない。しかし今日、医療上のニーズがない開発に取りかかる製薬会社はない。
「成功したイノベーションのほとんどが平凡である。単に変化を利用したものにすぎない。したがって、イノベーションの体系とは、具体的、処方的な体系である。すなわちそれは、変化に関わる方法論、企業家的な機会を提供してくれる典型的な変化を体系的に調べるための方法論である」(『イノベーションと企業家精神』)
さて、次にイノベーションのタブーをおかしていないかどうか、検証してみます。
第一のタブー、凝りすぎてはならない、という点に関しては、確かに、内部のつくりに関しては凝りすぎとまではいかなくても、かなりこだわりがあります。しかし、使っている機器、素材等は、特に珍しいものでもなく、誰にでも入手可能であり、デザインもかなりシンプルだし。ユーザーにとっても、特に従来型の空気清浄機と異なるところは、なく、非常にシンプルです。
第二のタブー、多角化してはならない。これにも、合致しています。扇風機をつくっていた技術で、空気清浄機を作成したということで、同じく家電製品であり、しかも、両方ともファンを用いるということで、多角化とはいえません。
第三のタブー、明日のためのイノベーションを起こなってはいけないというものも破ってはいません。この空気清浄機、今日も需要は十分あるでしようし、さらに、従来型の空気清浄機ならそんなことは、自信を持っていえることではないですが、このJetCleanなら、間違いなく20年後にも十分需要が見込めるでしょう。
以上、このJetCleanは、イノベーションの三つの心得に合致しており、また、イノベーションの三つのタブーも破ったものではありません。これは、間違いなく売れるでしょうし、社会に大きな変化をもたらすことでしょう。
それにしても、本来日本の家電メーカーなど、このようなイノベーションを行ってきたはずなのに、最近はそうではありません。本来日本の家電メーカーは、従来のソニー、パナソニック、シャープなどのように、イノベーティブであったはずです。私は、以下の記事で、イノベーションの象徴でもある、ジョブズが日本文化を取り入れていたことを紹介しました。
グーグルがApp Storeに忍び込ませたスティーブ・ジョブズの名言―【私の論評】ジョブズ氏は、ドラッカーのイノベーションの原則を守り、さらに日本的な考え方でそれを補強していた!!
今日多くの日本のメーカーが、ダイソンや、バルミューダのようなイノベーションを起こすことなく、停滞していることか残念でなりません。バルミューダは、扇風機や、空気清浄機のように長い間使われてきた家電製品だって、それを全く異なる発想で定義しなおし、その定義で製品を作ればイノベーションを起こせることを示したと思います。
それから、ご存知だとは思いますが、ダイソンはイギリスのメーカーです。そうして、バルミューダは、日本の企業です。日本でも、このようなイノベーティブな企業がでてきたことは、誠に喜ばしいことだと思います。
他の日本のメーカーも、イノベーションの心得を実践し、イノベーションのタブーを忌避して、再び、イノベーションをおこしてもらいたいと思います。そう思うのは私だけでしょうか?皆さんは、どう思われますか?
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