2023年8月6日日曜日

日本企業〝中国撤退〟反スパイ法施行1カ月の惨状 日系企業の高度技術「丸裸」「強奪」要求 意的な摘発・拘束の脅威―【私の論評】中国の改正スパイ防止法は世界経済と法の支配に対する脅威!廃止されて然るべき(゚д゚)!

 日本企業〝中国撤退〟反スパイ法施行1カ月の惨状 日系企業の高度技術「丸裸」「強奪」要求 意的な摘発・拘束の脅威


上海の外国企業のオフィス AI生成画像

 中国で改正「反スパイ法」が施行されてから1カ月が経過しました。改正法ではスパイ行為の定義が拡大され、恣意的な摘発が懸念されています。日系企業は社員の拘束におびえながら経済活動を続けています。中国は軍事的覇権拡大と国内監視を強化しており、独裁強化が進んでいます。日本人の拘束が続いている中、岸田文雄政権は現地邦人の安全を守るための対策をどのように進めるのかが注目されています。

 改正法では「国家の安全や利益に関わる文献やデータ、資料、物品」の提供、窃取、買い集めなども取り締まり対象となっています。しかし、「国家の安全」の定義が具体的に示されていないため、中国当局による恣意的な摘発・拘束が懸念されています。

 中国では日本人17人が不明確なスパイ容疑で拘束されており、日本の企業も同法のリスクに対処するためにマニュアルの作成などを進めています。経済安全保障アナリストの平井宏治氏は、中国の国家安全当局は全国民、全組織に対して監督・指導する権限を持ち、恣意的に拘束の基準を決定できると指摘しています。

 中国当局の締め付けは企業調査にも及んでおり、日本企業は中国リスクを切り離すために製造・開発の拠点を中国から移転させるなどの対策を検討しています。一方で、中国は経済回復の遅れを受けて外資系企業への投資誘致を進めているが、改正反スパイ法はこれを阻害すると見られています。

 日本政府には、中国リスクに対する対策が急務とされており、安倍晋三政権では企業の国内回帰を促すための補助金が計上されていたものの、まだ不十分とされています。岸田政権の取り組みが求められています。

【私の論評】中国の改正スパイ防止法は世界経済と法の支配に対する脅威!廃止されて然るべき(゚д゚)!

2023年7月1日に中国で改正「反スパイ法」が施行されて以来、実際に外国人従業員が中国で逮捕されたり、取り調べを受けたりしたケースはありません。しかし、この法律は外国企業とその従業員の間に恐怖と不安を巻き起こしています。

スパイ活動の定義が拡大されたことで、ごく日常的なビジネス活動でさえ違法とみなされる可能性があります。このためか、一部の外国企業は中国から撤退したり、事業を縮小したりしています。

ごく日常的なビジネス活動が摘発される可能性がでてきた

中国政府がまだ法律を厳格に執行し始めていない可能性もあります。あるいは、この法律が単に脅迫の道具として使われている可能性もあります。中国政府には、曖昧な法律を使って批判者に嫌がらせをし、拘束してきた歴史があります。今回の「反スパイ法」も同じように使われる可能性は否定できません。

中国における改正「スパイ防止法」は、中国にとってメリットとデメリットの両方があります。

 メリット: この法律は中国の国家安全保障上の利益を守るのに役立ちます。 外国企業による中国へのスパイ行為を抑止できます。 外国との交渉において、中国により大きな影響力を与えることができます。

 デメリット: 安全なビジネスの場としての中国の評判を損なう可能性があります。 外国企業の対中投資を抑制する可能性があります。 中国と他国との間に緊張をもたらす可能性があります。

中国に巨額の投資をする外国企業 AI生成画像

 この法律は外国企業の対中投資を抑制する可能性もあります。これは中国経済に悪影響を及ぼす可能性があります。そうして、その兆候はすでに見られます。

非営利調査機関ロジウム・グループの報告書によると、2023年上半期の対中直接投資(FDI)は2022年同期比で17%減少したとされています。同報告書では、対中直接投資の減少は「反スパイ法」や当時進行中のCOVID-19パンデミックなど多くの要因によるものだとしています。

また、在中国米国商工会議所の調査によると、中国で事業を展開する米国企業の40%が中国への投資縮小を検討していることがわかっています。この調査では、米国企業の20%が中国からの完全撤退を検討していることもわかりました。

「反スパイ法」は広範で曖昧すぎるとして、海外の企業や政府から批判を受けています。同法はスパイ行為を非常に広範に定義しており、ごく日常的なビジネス活動まで含まれると解釈される可能性があります。このため、外国企業は不安と恐怖を感じ、中国への投資に消極的になっている。

「反スパイ法」が対中外国投資にどれほどの影響を与えるかについては、まだ判断するのは早いです。しかし、この法律がすでに対中投資に冷や水を浴びせるような影響を及ぼしていることを示す証拠はある。今後数年間、同法は対中外資を抑制し続けるでしょう。

 中国の改正「反スパイ法」は諸刃の剣です。中国にとってメリットもデメリットもあります。この法律の完全な影響はまだわからないですが、中国と外国の企業や国との関係に大きな影響を与える可能性は高いです。

両刃の剣を構える中国人

中国政府が "反スパイ法 "をどのように施行するかは、時間が経ってみなければわからないです。しかし、この法律はすでに中国の外国企業に冷ややかな影響を与えている。今後もこの法律は、外国企業とその従業員にとって不安と恐怖の種であり続けるでしょう。

中国の改正「反スパイ法」は、厳密に適用されれば、中国にとってメリットよりもデメリットの方がはるかに大きいでしょう。

この法律が厳格に適用されれば、外国人の恣意的な拘束や資産の差し押さえにもつながりかねないです。これは、安全なビジネスの場としての中国の評判を損ない、中国と他国との間の緊張を招くことになります。

さらに、この法律は中国が外国の人材を惹きつけることを難しくするでしょう。世界中の多くの有能な人材が、中国の人権問題への懸念から、中国で働くことに消極的です。「反スパイ法」は、この消極的な姿勢をさらに悪化させるだけでしょう。

私は中国における改正「反スパイ法」は逆効果だと考えている。中国を助けるというよりも、中国に害をなす可能性が高いでしょう。

西側諸国が協力して中国に改正スパイ防止法の廃止を迫るべきです。そのプロセスは、段階的かつ外交的であるべきだと思います。西側諸国はまず中国との対話を試み、なぜこの法律が問題なのかを説明すべきです。中国が法律を廃止する意思がないのであれば、欧米諸国は制裁措置や貿易制限など、より抜本的な措置を取ることを検討することができます。以下は想定されるプロセスです。
中国との対話: 中国との対話:西側諸国はまず中国と対話し、なぜこの法律が問題なのかを説明するよう努めるべきである。これは米中戦略・経済対話などの外交ルートを通じて行うことができる。
制裁を課す: 中国がこの法律を廃止する意思がないのであれば、西側諸国は制裁を科すことを検討することができる。これには中国企業や中国政府高官に対する制裁も含まれる。
貿易の制限:西側諸国は中国との貿易を制限することもできる。これには、中国製品への関税や中国からの投資の制限などが考えられる。
他国との協力: 西側諸国は他国と協力し、中国に法を廃止するよう圧力をかけることもできる。これには欧州連合(EU)やアジア太平洋地域の国々との協力も含まれる。
中国に法を廃止するよう圧力をかけるプロセスは容易ではないですが、実施すべきです。改正スパイ防止法は世界経済と法の支配に対する脅威であり、廃止されなければならないです。中国がこれを廃止しないというなら、最終的に中国を世界経済が切り離す以外になくなります。というより、いずれの国の企業も中国と取引をしなくなるでしょう。結果として、切り離されることになってしまいます。

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2023年8月5日土曜日

米中対立はなぜ「文明の衝突」なのか―【私の論評】「文明の衝突」理論は、中国共産党の権力掌握を強める可能性がある(゚д゚)!

米中対立はなぜ「文明の衝突」なのか

 アメリカと中国の対立がますます深刻化している。バイデン政権は6月から7月にかけてブリンケン国務長官を含む複数の高官を北京に派遣し、対話を試みたが、両国の利害対立や主張の衝突は依然として激しい。

文明の衝突 AI生成画像

 アメリカ側では、対立が民主主義と全体主義のぶつかり合いだけでなく、文明の衝突という新たな見解が議会や中国研究界の有力者から提起されるようになった。この見解は、両国の歴史、文化、伝統、社会、民族などの文明の違いが対立の主な原因だと考えるものであり、単にイデオロギーの相違にとどまらないとされる。

 文明の衝突論には、アメリカと中国の間に人種の違いが含まれる点が気がかりである。この違いを受け入れると、両国は永遠に正常な関係を築けない可能性が浮かんでくる。さらに、他の局面での両国の差異が激化し、対立が決定的に険悪になる危険性も感じられる。

 この「文明の衝突」論は、アメリカの議会上院の有力メンバーであるマルコ・ルビオ議員や中国研究の権威であるマイケル・ピルズベリー氏などによって支持されている。彼らは、対立が単にイデオロギーの相違だけでなく、文明の相違に起因するという考えに傾いている。

 アメリカ側の中国への認識が深まり、より詳細に知識を持つことで、自国と中国との違いがより大きく認識されるようになったことが、この「文明の衝突」論が提起される理由として考えられる。この認識の強化は、アメリカ側の対中反発や対決姿勢の強化につながる可能性がある。ただし、この見解の正当性については断定できないが、対立の激化は予測できるとされる。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】「文明の衝突」理論は、中国共産党の権力掌握を強める可能性がある(゚д゚)!

米中対立を "文明の衝突 "と捉える考え方は、両国間の複雑な関係を理解する上で単純化され、一般化されすぎています。米国と中国の文化に根本的な違いがあるのは事実ですが、その違いが必ずしも対立につながるわけではないです。実際、両国の間には重なり合う部分や協力し合う部分も多いです。

「文明の衝突」理論は、サミュエル・ハンティントンが1993年に出版した著書 "The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order "で初めて提唱されました。ハンティントンは、世界はいくつかの異なる文明に分かれており、それぞれが独自の文化や価値観を持っていると主張しました。これらの文明は本質的に相容れないものであり、文明間の衝突は避けられないと彼は主張しました。

サミュエル・ハンティントン

サミュエル・ハンティントンのこの考え方については、このブログでも何度か掲載したことがあります。彼の著作『文明の衝突』に関しては、その後出版された彼の著書の中に、日本に関して、当初は東アジア文明の中に含めようとしたが日本があまりに特異であるために、それはできなかったとしたところに興味をいだきました。確かにそうなのだと思います。

しかし、文明間の衝突が避けられないという彼の視点に立てば、日本は中国はもとより、米国やEUとも衝突する運命にあることになります。確かに、複雑な事象を一見簡単にみせるということで、魅力的ではありますが、魅力的な見方が必ずしも正しいとはいえません。私自身もこの理論について魅力を感じ、支持していた時期もありました。ただ、なにやら消化不良のような感覚は当時から拭えませんでした。

ハンチィントンの理論にはいくつかの問題があります。第一に、非常に単純化された文化観に基づいていると言わざるを得ません。多くの国々で文化は一枚岩ではなく、元々多様性があり、さらには常に進化しています。それは、人種の違いだけではなく、同じ人種間でもかなりの多様性があります。

第二に、ハンティントンの理論は、文化以外にも国家間の対立を引き起こす要因が数多く存在するという事実を無視しています。例えば、経済的競争、政治的対立、領土問題などはすべて、文化の違いと同様に重要な要素となり得ます。

米中対立の場合、確かに対立につながる可能性のある文化的な違いがいくつかあります。例えば、米国は個人の権利を重視する民主主義国家であり、中国は集団主義を重視する権威主義国家です。しかし、こうした違いが必ずしも両国が衝突する運命にあることを意味するわけではないです。

結局のところ、米中関係の将来は不透明です。しかし、この対立を単純化し、過度に一般化した見方を避けることは重要です。「文明の衝突」論は、この複雑な関係を理解する上で危険で誤解を招くものです。上の記事にあるように、ルビオ上院議員やマイケル・ピルズベリー氏のような尊敬すべき思想家を含め、保守派の中に米中対立を文明論的なものとして捉える人がいるのは問題であると思います。

そもそも中国の共産党政権は、豊かな歴史と文化を持つ中国の偉大な文明の代表ではありません。中国では、古代から帝国ができては、崩壊するという繰り返してきました。しかも、崩壊した帝国と、新たな帝国は分断されており、ほとんど関連性がないという有様でした。

現代の中国共産党もその前の清朝やそれ以前の帝国とは関連性がなく、その意味では全く新たな体制といえます。そうして、その歴史は1949年10月1日、中華人民共和国の建国されてから、今年で74年目であり、まだ新しい体制です。

私は、米中対立は文明の衝突というよりも、経済的利益、政治体制、国家安全保障上の懸念など、他の要素の衝突であると考えます。

米国対中国 AI生成画像

米国は現在では世界で唯一の超大国であり、中国は超大国を目指し、世界に新たな秩序をもたらそうと模索しているようであり、世界経済における影響力を争っています。米国は中国の経済力の増大を懸念しており、中国がその経済力を利用して他国に政治的影響力を行使しようとしていることを懸念しています。一方、中国は米国の軍事力を懸念しており、米国が中国の台頭を封じ込めようとしていることを懸念しています。

経済・安全保障上の懸念に加え、米国と中国は政治体制も異なります。米国は民主主義国家であり、中国は全体主義国家です。こうした政治体制の違いが、人権や言論の自由、経済における国家の役割といった問題に対する見解の違いにつながっています。

米中対立は、さまざまな要因が絡み合う複雑な問題です。単純な文明の衝突ではなく、両国の歴史や文化の違いによって悪化した他の要素の衝突とみるべきでしょう。

米国と現代の中国は、日本のような2000年以上の歴史を持つ国と比べると、どちらも比較的若い国です。そのため、米国では現在の政治体制が数世代しか存在しておらず、中国に至っては、基本的に成立してから現在まで大きな体制の変化はありません。

 2000年以上の歴史を持つ国日本 AI生成画像

この新しい体制同士の対立を「文明の衝突」と呼ぶのは難しいです。第2次世界大戦中の欧米対日本という構図なら、文明の衝突と呼べたかもしれませんが、それでもこれを文明の衝突で片付けるにはかなり無理があると思います。

米国も中国も、ある意味ではまだ新興国であり、この対立には、単なる既成文明の衝突ではなく、新興国間の競争や経済的/政治的モデルの競争の要素のほうが強いのではないかと考えられます。

現在の緊張関係が米中間に存在するのは、1949年に中国で共産主義体制が台頭して以来です。それ以前は、米国は中国の民族主義政権を実際に支持していました。つまり、この対立は古代のライバル関係よりも20世紀に根ざしているといえます。

この対立は、政治/経済システム、国益、軍事/技術競争、世界的影響力など、さまざまな現代的要因から生じているとみるほうが無難に思えます。それらの価値観は複雑で、重複する部分もあれば相違する部分もあります。

それぞれの社会の中には、多様な見方があります。すべての米国人や中国人が、文明の価値観の "衝突 "とされるものに全面的に賛同しているわけでりません。社会には多様性があります。だから、この対立を "文明の衝突 "というレンズを通して見るべきでないです。

それは単純化しすぎです。文明の違いが存在し、態度を形成する一方で、米中間の現在の緊張は、現代の地政学的、経済的、イデオロギー的なさまざまな要因から生じています。主に対立する文明の衝突として見ることは、そのような見方をしないことにより明らかにする以上に多くのことを見えにくくしています。

この対立を動かしている要素は数多くあり、文明の衝突に関しては、これを全く否定するものではありませんが、それは数多くある要素のひとつにすぎないとみるべきです。

そうでないと、「文明の衝突」理論は、中国共産党の権力掌握を強める可能性があります。対立を文明論的なものとして描くことで、中国共産党が外国の脅威から中国のアイデンティティを守る存在であるかのように見せることができます。

この理論によれば、 中国共産党自身の政治的選択や人権侵害の結果ではなく、紛争が必然的かつ長期的なものであることを示唆しているとも受け取ることができのます。これによって中国共産党は責任を免れ、"文明の衝突 "の最中に市民を国旗の周りに参集させることができます。

中国共産党を、道徳的に破綻した権威主義者としてではなく、古代中国文明の代表者、擁護者として見せることができます。中国共産党は、本当は自分たちとは直接関係のない中国の豊かな歴史に酔いしれる一方で、中国の自由主義の伝統を踏みにじろうとしています。

西側諸国は、中国共産党政権をを批判するのではなく、中国全体を悪者扱いするようにみせかけることができます。これによって中国共産党は、あたかも自分たちだけが中国の名誉を守れるかのように振る舞い、西側の批判を利用しようとするかもしれません。

これでは、中国共産党の抑圧的な政策と世界の自由への脅威という紛争の根源から目をそらすことになりかねません。西側諸国は、文明の衝突という概念ではなく、中国共産党の行動に焦点を当て続けるべきです。

「文明の衝突」理論を過度に拡大解釈することは、ナショナリズムを煽り、中国共産党の責任を免除することで、中国共産党の手の内に入り、中国共産党の権力支配を強める危険性があります。中国共産党が米国を敵としてうまく描くことができれば、中国共産党の統治への支持が集まり、中国共産党の打倒がより困難になる可能性があります。

西側諸国は、中国文明そのものを悪者にするのではなく、専制的な統治そのものをターゲットにすることで、西側諸国は中国共産党に力を与えないようにすることができます。不用意なレトリックは、たとえ善意であっても最悪の結果をもたらす可能性もあることを認識すべきです。

ただし、「文明の衝突」理論は広く受け入れられているわけではないことに注意することが重要だと思います。 この理論は単純すぎて、米国と中国の複雑な関係を正確に反映していないと考える人は多いです。

多くの批評家が「文明の衝突」理論は複雑な米中関係を捉えるには単純すぎると主張しています。 共和党内でさえ、例えば 故コリン・パウエル元国務長官は、この理論は「事実を誇張」しており、「中国を悪者扱いする」ことは避けるべきだと述べました。 彼は、違いがあっても協力はまだ可能だと信じています。 (出典:ニューズウィーク、ワシントン・ポスト)

故ジョン・マケイン上院議員は中国を競争相手、ライバルとして語りましたが、「我々は敵対者になる運命にあるわけではない」と述べました。 同氏は、中国文明ではなく、中国共産党の行動を標的にすることを強調しました。(情報源:フォーリン・アフェアーズ、CBSニュース)

また、前大統領のトランプ氏も、現大統領のバイデン氏も米中の対立に関連して、直接「文明の衝突」と語った事はありません。

「文明の衝突」理論は、特段目新しいものでもなく、多くの人に支持されているわけではないことに注意する必要があります。


中国の景気減速が米FRBのインフレ対策の追い風に―【私の論評】中国長期経済停滞で、世界の「長期需要不足」は終焉?米FRBのインフレ対策の追い風はその前兆か(゚д゚)!

2023年8月4日金曜日

中国に軍事機密漏えい、在日米軍基地のレーダーシステム情報も…米海軍兵2人を起訴―【私の論評】 日本は国家安全保障を優先し、自国の利益のために スパイ防止法を早急に成立させるべき(゚д゚)!

中国に軍事機密漏えい、在日米軍基地のレーダーシステム情報も…米海軍兵2人を起訴

米司法省の建物

 米司法省は3日、賄賂を受け取って軍事機密を中国の情報機関に漏らしたとして、米海軍兵2人を起訴したと発表した。漏えいした情報には、在日米軍基地のレーダーシステムに関する機密情報も含まれていたという。

 起訴状などによると、海軍兵(26)は、インド太平洋地域での米軍演習に関する非公開情報を中国軍に漏えいした。写真や映像も送信しており、沖縄県の在日米軍のレーダーに関する情報も含まれていた。見返りとして、中国の情報機関員から約1万5000ドル(約210万円)を受け取っていたという。

 もう一人の米海軍兵は、強襲揚陸艦「エセックス」の乗組員で、揚陸艦などに関する機密情報を漏らしていた。艦艇のシステムに関する技術マニュアルを中国側に送信し、賄賂として5000ドル(約70万円)を受け取った。AP通信によると、この兵士は中国生まれで、米国への帰化申請中に中国側から接触を受けたという。

 司法省幹部は「我々の民主主義を弱体化させようとする中国の執拗(しつよう)で攻撃的な取り組みを連想させる」とする声明を発表し、中国によるスパイ活動の一環だとの見方を示した。

【私の論評】 日本は国家安全保障を優先し、自国の利益のために スパイ防止法を早急に成立させるべき(゚д゚)!

3日には、台湾で現役の陸軍中佐や退役軍人らが機密情報を中国側に漏らしたとして、検察当局の捜査を受けていることがわかりました。

台湾陸軍の大部隊 AI生成画像

台湾国防部や現地メディアによりますと、陸軍の「航空特戦指揮部」に所属する中佐は、仲介者を通じて中国側に軍の機密情報を漏らした疑いがあるとして、先月末から検察当局の捜査を受けているということです。

中佐は現在、身柄を拘束され、接見禁止を言い渡されています。

この事件では、ほかにも退役軍人を含む4人が捜査の対象になっているということで、台湾国防部は「台湾の人たちを裏切る行為に心を痛めていて、厳しく非難する」としています。

先月21日には、台湾情報機関・国家安全局はロイターの取材に対し、オンライン上に最近投稿された「政府文書の疑いがあるもの」への調査を進めていると認め、中国の関与の有無も調べていると明らかにしました。

投稿された文書には、CPTPP加盟申請に関する機密の「安全保障評価」と称する、国家安全局による昨年10月の文書が含まれているそうです。

また、中国と台湾によるCPTPP加盟申請に関する、在日本と在ベトナムの事実上の大使館からの外交文書とされるものや、米国と進めている貿易交渉に関した、事実上の在ワシントン大使館による今年の機密報告書も含まれているそうです。

ただ、ロイターは独自にそれらの真偽を確認することはできなかったとしています。

中国が最近スパイ活動を強化していることを示す兆候がいくつかあります。 FBI長官クリストファー・レイ氏によると、中国は米国にとって「最も広範かつ最も深刻な」防諜上の脅威となっており、中国は「必要なあらゆる手段を講じて世界で唯一の超大国になるための国家を挙げた取り組み」に取り組んでいると述べました。 FBIは約10時間ごとに新たな中国関連の防諜関連情報を傍受しているとしています。(出典:CNBC)

 国家情報長官はまた、2019年の世界脅威評価の中で、「中国の諜報機関はさまざまな手段を用いて米国社会、特に学術界や科学界のオープンさを悪用するだろう」と述べた。 (出典: DNI.gov) 

また、最近では中国のスパイ活動や米国からの知的財産窃盗の事件もいくつかあり、2020年7月には中国人ハッカー2名が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン研究を盗もうとした罪で起訴されました。 

2019年、中国人科学者が米国の研究所から生物材料を密輸したとして逮捕されました。 (出典:WSJ、NBCニュース) 中国の主要スパイ機関である国家安全省は近年、海外職員を増員している。 世界中で5万人以上のスパイが活動しているという推計もある。(出典:Foreign Policy)

 これらは、中国が政治的、経済的、軍事的優位性を得るために米国を積極的にターゲットにし、スパイ活動を強化していることを示しているようです。 彼らはAI、バイオテクノロジー、量子コンピューティングなどの未来のテクノロジーを支配したいと考えており、自分たちで開発できないものは剽窃しようとしています。 このような中国の脅威に対しては、厳重に警戒する必要があります。

アジア系のスパイ AI生成画像

以上のような状況を考えると、日本もスパイ防止法制定するべきです。 スパイ行為を取り締まる特別な法律がない現状では、スパイを訴追し機密情報を保護することが困難になっています。

LGBT理解促進法以前にスパイ防止法を制定すべきでした。LGBT理解促進法は制定されなくても、大きな被害が発生することは考えられませんが、スパイ活動は国家安全保障に重大な影響を与える可能性があり、この問題に特に対処する法律を制定することのほうがはるかに重要だと思います。

スパイ防止法を制定すれば、スパイによる被害を免れるだけではなく、日本が国の安全を守ることに真剣であるという明確なメッセージを世界に向けて送ることになります。

対峙する国々対しては、彼らのスパイ活動に対する牽制になりますし、同盟国やそれに準ずる国々に対しては、日本が情報セキュリティーを強化することで、安心感を与えることになります。

日本に厳格な反スパイ法がないことは、同盟国や志を同じくする国々との関係を大きく損なうことになりません。 外国のスパイに対する取締が弱い日本に、他国が日本と機密情報や技術を共有することは難しいです。 

 日本には秘密情報保護法などの法律もありますが、より強力な防諜法であるスパイ防止法がなければ、同盟国は安全保障問題で日本と緊密に協力したり、情報を共有したりすることに消極的になるでしょう。

中国やその他の敵対国は今後も機密を盗み、日本に対して優位にたとうと企て続けるるでしょう。 スパイ防止法の制定は日本にとって緊急の最優先課題です。 そうすることで日本が国家安全保障を真剣に考えていることを米国や台湾などの同盟国に対して示すことになります。これにより、パートナーシップと協力が強化されことになります。 

 厳格なスパイ防止法により日本におけるスパイ活動はより困難とり、スパイはより大きなリスクを横行になります。 

機密性の高い研究や知的財産を中国による窃盗から守ることで日本経済を守ることになります。 これは日本がハイテク分野で競争力を維持するために非常に重要です。 

世界での日本の存在感が高まることになります。 外国のスパイ活動を取り締まることで、日本は自国を守り、自国の利益を守る用意があるというメッセージを送ることになります。 

日本の知的財産を護るために立ち上がる人々 AI生成画像

安全保障が最優先事項であることを国民に示し、日本政府への信頼を築くことができます。国民の財産や生命を護るという観点からの日本の政府の方針転換により多く人々はより安心するでしょう。当初は、これに反対する人たちに煽られて、世界標準のスパイ防止法に反対する人も多いかもしれませんが、これが日本だけが特異なものでなく、世界標準であることが周知されることにより、多くの人が肯定的になるでしょう。

 スパイ防止法の制定を延期し続けることになれば、 日本の安全、関係、世界における地位を損なうことになりかねません。日本政府は、手遅れになる前にこの重要な法案を成立させるべきです。 

日本にはスパイ防止法が早急に成立させるべきであり、これ以上の遅れは日本の利益を損なうだけです。 同盟国やパートナー国は、より強力な防諜体制がなければ、日本に全面的に協力することに消極的になるでしょう。 日本は国家安全保障を優先し、自国の利益のために スパイ防止法を早急に成立させるべきです。

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2023年8月3日木曜日

性犯罪歴なし証明する「日本版DBS」、学校や保育所は全職員対象…学習塾は見送りへ―【私の論評】こどもたちをすべての性犯罪から護るため一日で早く成立させて欲しい(゚д゚)!

性犯罪歴なし証明する「日本版DBS」、学校や保育所は全職員対象…学習塾は見送りへ

日本の幼稚園 AI生成画像

 子どもと接する職場への就労希望者に、性犯罪歴がないことの証明を求める仕組み「日本版DBS」について、政府が学校や保育所、幼稚園で働く全ての人を対象に含める方向で検討していることがわかった。政府は、今秋にも制度の創設を盛り込んだ関連法案を提出する見通し。

 日本版DBSは、英国のDBS(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)制度を参考にしている。政府関係者によると、性犯罪歴を登録したシステムを活用し、教育や保育関係への就労希望者は性犯罪歴がないことを証明し、雇用主もそれを確認することを義務づける。

 対象として、子どもと接する時間の長い学校や保育所、幼稚園のほか、児童養護施設の職員などを想定。性犯罪の種別については刑法犯を中心に検討を進めている。性犯罪歴がある人については、上限を設けたうえで一定期間、就労できないようにする方向だ。

 一方、学習塾やスポーツクラブなどについては、義務化の対象から外れる見通しになっている。

 制度の創設を巡っては、就労の制限や犯罪歴の照会が、憲法が保障する「職業選択の自由」や「プライバシー権」にも関わるため、対象の範囲や規制内容が論点となっている。こども家庭庁は、6月から法律の専門家などによる有識者会議を開いており、その意見を踏まえ、今秋の臨時国会に提出する関連法案の内容を固める方針だ。

【私の論評】こどもたちをすべての性犯罪から護るため一日で早く成立させて欲しい(゚д゚)!

英国の幼稚園 AI生成画像

日本では、現状では他の先進国では普通にある、子どもと関わる仕事をする人が性犯罪で有罪判決を受けたことがあるかどうかを確認する制度がありません。この制度は一日もはやく制定すべきです。

ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス(DBS)は英国の政府機関で、雇用やボランティア活動などの参加する人々に対する犯罪歴調査を行うものです。DBSは2012年に犯罪記録局(CRB)と独立保護局(ISA)を統合して設立されたものです。 

DBSのチェック方式には、ベーシック(基本版)、スタンダード(標準版)、エンハンスト(強化版)の3種類があります。ベーシック・チェックでは、応募する仕事や活動に関連すると考えられる前科のみが表示されます。スタンダード・チェックでは、警告や懲戒処分など、より多くの情報が表示されます。

エンハンスト・チェックでは、執行猶予のついた前科など、最も多くの情報が表示されます。 DBSは、学校、病院、介護施設、雇用主など、幅広い組織で利用されています。雇用主は、子どもや社会的弱者に関わるすべての従業員のDBSをチェックすることが義務付けられています。

DBSは性犯罪以外の犯罪歴もチェックに含めます。暴力、窃盗、詐欺などの前科です。これらの前科は、他者に危害を加えるリスクや金銭的損失のリスクを示す可能性があるため、組織の意思決定プロセスに関連する場合があります。

英国のDBSの性犯罪履歴には、LGBTによる性犯罪も含まれています。DBSは性的指向を理由に差別することはなく、加害者の性的指向にかかわらず、すべての性犯罪がDBSのデータベースに記録されます。

2010年平等法は、性的指向に基づく差別を違法としており、これには職場における差別も含まれます。つまり、雇用主はLGBTであることを理由に雇用を拒否したり解雇したりすることはできません。

DBSは2010年平等法を認識しており、犯罪歴調査に性的志向の履歴を含めることはありません。しかし、性犯罪の前科など、他のタイプの犯罪歴は含まれます。これは、性犯罪が雇用やその他の機会に対する人の適性を評価する際に関連する要素と見なされるためです。

DBSチェックが必要な就職その他の機会に応募する場合は、チェックに含まれる犯罪歴の種類を知っておく必要があります。また、DBSのウェブサイトからオンラインで自分の犯罪歴を確認することができます。

注意すべき点は、DBSはDBS証明書に記載された性犯罪の詳細を公表しないことです。証明書には犯罪の種類と有罪判決を受けた日付のみが記載されます。犯罪の詳細は、雇用主や学校などの関係機関にのみ公開されます。

これは個人のプライバシーを保護し、差別を防ぐためです。ただし、性犯罪の前科がある場合は、DBS証明書に記載される可能性が高いことを認識しておく必要があります。これは、就職やその他の機会を得るチャンスに影響する可能性があります。

米国にはDBSに相当するものはありません。しかし、FBI(連邦捜査局)、National Sex Offender Public Registry、Department of Homeland Security(国土安全保障省)など、犯罪歴調査を行うさまざまな機関があります。

 FBIの犯罪司法情報サービス(CJIS)部門は、法執行機関、雇用主、学校などの許可された利用者に犯罪履歴記録を提供しています。CJISデータベースには、逮捕、有罪判決、その他の犯罪歴データに関する情報が含まれています。

 全国性犯罪者公開登録簿(NSOPR)は、米国内の登録性犯罪者のデータベースです。この登録は司法省が管理しており、一般市民も検索できます。

これには加害者の性的指向にかかわらず、あらゆる種類の性犯罪も含まれています。NSOPRは米国内の登録性犯罪者のデータベースで、司法省が管理しています。この登録簿には、犯罪者の氏名、住所、生年月日、有罪判決を受けた犯罪の種類などの情報が含まれています。

NSOPRでは一般市民が犯罪者を検索できる

NSOPRには、犯罪者の性的指向に関する情報は含まれていません。これは、性的指向は再犯のリスクを評価する際の関連要素ではないと考えられているためです。実際、LGBTが異性愛者よりも性犯罪を犯しやすいことを示す証拠はありません。

しかし、NSOPRには、犯罪者が有罪判決を受けた犯罪の種類に関する情報が含まれていることに注意することが重要である。つまり、ある犯罪者が児童に対する性犯罪で有罪判決を受けた場合、その性的指向は再犯のリスクとは無関係とされます。

NSOPRは公共の安全のための貴重なツールであるが、責任を持って使用することが重要である。登録はLGBTの人々を差別するために使用されるべきではなく、再犯のリスクを評価するためにのみ使用されるべきです。

NSOPRには、以下のような特定の性犯罪で有罪判決を受けた性犯罪者の情報のみが登録されています。

  • 加重性的虐待
  •  児童虐待 
  • 近親相姦
  •  未成年者への淫らな行為 
  • 強姦
  •  法定強姦

NSOPRには、以下のような他の犯罪で有罪判決を受けた犯罪者の情報も含まれています。

  • 売春
  • 未成年者への勧誘
  • 人身売買 
NSOPRの対象は、米国内でこれらの犯罪で有罪判決を受けた者に限定されています。他国で性犯罪の有罪判決を受けた犯罪者は登録の対象には含まれません。

NSOPRは、保護者、学校、地域社会にとって、子どもを性的虐待から守るための貴重な情報源です。NSOPRでは、自分の住んでいる地域に登録された性犯罪者がいるかどうかを確認することもできます。

国土安全保障省(DHS)のバイオメトリクス身元管理局(OBIM)は、米国で特定の雇用形態に応募する個人の身元調査を提供しています。OBIM の身元調査には、犯罪歴、移民状況、その他の要因に関する情報が含まれます。

「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」の導入を議論しているこども家庭庁の有識者会議は8月1日、第3回会合を開き、関係団体や臨床心理学の専門家からヒアリングを行いました。

日本版DBSを巡っては対象に民間の教育サービスなどを含めるかが論点の一つとなっていたのですが、この日の関係団体へのヒアリングでは、学習塾やスポーツクラブなどで構成される日本民間教育協議会にも意見を聴取。こども家庭庁の担当者によると、参加に前向きな姿勢だったといいます。

上の記事では、学習塾やスポーツクラブなどについては、義務化の対象から外れる見通しとされていますが、是非とも含めて欲しいものです。

日本のスポーツクラブ

さらに、LGBTに関しても、これらの人々を差別するという意味あいではなく、性的志向にかかわらず、性犯罪及び他の犯罪の記録に関しても対象にするのは当然のことと思います。

私は、日本版全国性犯罪者公開登録簿(NSOPR)を検討しても良いと思います。こどもたちを護るという観点から、この法律はなるべくはやく成立させて欲しいです。

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2023年8月2日水曜日

ノーベル賞経済学者が中国経済の問題点を指摘…「日本のようにはならない。もっと悪くなるだろう」―【私の論評】中共が政権を握っている限り、今後中国が真の経済的潜在力を発揮することはない(゚д゚)!

ノーベル賞経済学者が中国経済の問題点を指摘…「日本のようにはならない。もっと悪くなるだろう」

ノーベル賞経済学者 ポール・クルーグマン

 ノーベル賞受賞経済学者のポール・クルーグマンは、中国経済が大きな減速に向かっていると警鐘を鳴らしている。彼は、中国の経済パフォーマンスは、日本が1990年代に経験した経済的苦境と似ていると指摘している。

 日本経済が低迷した原因は、少子高齢化による労働人口の減少、アンバランスな経済構造、そしてパンデミックによる需要の低迷などだ。中国経済もこれらの問題を抱えている。

 特に、中国の労働人口は急速に減少している。中国政府のデータによると、前四半期の若年層の失業率は21%と過去最悪を記録した。このため、中国経済への投資は低迷し、債務残高が増加している。

 また、中国経済はアンバランスな経済構造にも苦しんでいる。製造業は5月に縮小し、中国経済の約5分の1を占める不動産も停滞している。

 こうした要因から、中国の将来について警鐘を鳴らしている専門家は少なくない。とりわけ、「中所得国の罠」に陥る可能性があるとクルーグマンは指摘している。これは新興国に見られる現象で、ある時点まで経済が急成長し、その後、停滞するというものだ。

 中国が景気減速に向かうとすれば、興味深いのは、日本の「社会的結束力」を再現できるかどうかだ。これは大衆の苦しみや社会的不安定を伴わずに低成長を管理する能力でだ。中国がこのように不安定な権威主義政権のもとで、これをやり遂げることができるという兆候はあるのだろうか。

 クルーグマンは2023年7月25日に公開されたニューヨーク・タイムズへの寄稿文にこう記している。

 「中国は最近失速しているように見えることから、将来的に日本のような道を歩むのではないかと言う人もいる。それに対する私の答えは『おそらくそうはならない。中国はもっと悪くなるだろう』だ」

 他の専門家たちは、中国経済の回復がいまだ期待外れであることから、中国経済が危機に瀕していると警告している。あるシンクタンクによると、需要が低迷を続ける中、中国の再開に向けての取り組みは「失敗する運命にある」とし、また別の専門家は再開の試みを「見せかけ」と評している。

 中国経済の行方は不透明だが、世界経済に大きな影響を与える可能性は十分にある。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい人は元記事をご覧ください。

【私の論評】中共が政権を握っている限り、今後中国が真の経済的潜在力を発揮することはない(゚д゚)!

昨日このブログでは、独立した金融政策が実施できない中国は、すでにバランスシート不況に陥ったか近日中に陥る可能性を指摘しました。そうして、一度パランスシート不況に陥ると、独立した金融政策ができないがゆえに、かなり長期にわたって不況から立ち直るのは難しいだろうと指摘しました。

中国のパランスシート不況 AI生成画像

こうしたことになれば、クルーグマン氏が指摘するように、「中所得国の罠」に陥り、長期間不況から脱することがでないどころか、過去の日本よりももっと悪くなることになりそうです。

過去の日本では、クルーグマン指摘した状況を克服するために、積極財政、金融緩和策をして不況から抜け出せばよかったものを、官僚の誤謬により、緊縮財政、金融引締を行い、平成年間のほとんどが超インフレ・超円高であったのが、安倍政権が成立してから、金融緩和に転じました。

積極財政に関しては、安倍政権下ですら、二度の消費税増税を行い、受給ギャップを埋めることができなかったのですが、安倍・菅政権合計で100兆円の補正予算を増税なしで組み、コロナ対策を実施したこと、他国が利上げなどの金融引締をするなか、日本は金融緩和を続けたため、円安傾向が続き輸出産業が好調で経済の回復の兆しがみえるようになりました。

しかし、独立した金融政策ができない中国では、日本のようなことはできません。そうなる、今後中国経済は過去の日本よりもさらに悪くなるのは間違いなさそうです。

中所得国の罠 AI生成画像

ちなみに「中所得国の罠」についても、このブログでは何度か言及しています。これは開発経済学で言われていることです。

中所得国の罠とは、開発途上国が一定程度の経済発展を遂げた後、成長が鈍化し、高所得国と呼ばれる水準には届かなくなる状態ないし傾向を指す通称です。

中所得国の罠は、いくつかの原因が考えられます。

労働コストの上昇:中所得国になると、労働コストが上昇します。これにより、低賃金労働力に依存した製造業が競争力を失い、経済成長が鈍化する可能性があります。
技術革新の遅れ:中所得国になると、技術革新が遅れる傾向があります。これは、研究開発への投資が減少したり、優秀な人材が流出したりすることが原因です。
インフラの未整備:中所得国になると、インフラが未整備になっていることがあります。これは、経済成長に必要な条件が整っていないことを意味し、経済成長の妨げとなります。

中所得国の罠一万ドル(≒100万円)の壁ということがいわれています。これは、一人当たりGDPが1万ドルに達した国が、中所得国の罠に陥りやすいという考え方です。これは、1万ドルの壁を超えた国は、低賃金労働力に依存した製造業が競争力を失い、技術革新が遅れ、インフラが未整備になるなどの問題に直面する可能性があるためです。

現在の中国は一人あたりのGDPが一万ドルを若干超えたくらいの状況です。ほとんどの途上国が一人あたりのGDPが1万ドルを若干超えたくらいのところで、成長がとまり、一万ドル前後に踏みとどまっています。

中所得国の罠は、非常に厳しいものであり、数少ない先進国以外ではほとんどの途上国が結局この壁を乗り越えられていません。唯一乗り越えて先進国の仲間入りをしたのは、かつての日本です。その逆に先進国から、発展途上国になったのはアルゼンチンだけです。その他例外も若干ありますが、産油国などのかなりの特殊事情によるものです。その理由は、中所得国の罠を回避するためには、長期的な視点と、多くの資金が必要となるからです。

また、中所得国の罠を回避するためには、政府と民間企業等が協力して取り組む必要がありますが、途上国では、政府と民間企業が協力して取り組むことが難しい事が多いです。それは、中国も例外ではありません。現在の中国は、民間企業の行動を規制しています。

習近平

中国がいわゆる「中所得の罠」を回避するためには、個人の力を解き放ち、政府の規制を減らし、自由で公正な貿易に市場を開放する必要があります。そのためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が必要不可欠です。それができれば、少なくとも台湾と同程度の経済(一人あたりのGDPは約3万ドル)になるかもしれません。そうなれば、中国のGDPは国単位では、確実に米国を超えることになります。しかし、中共が政権を握っている限りそれは不可能であり、今後中国が真の経済的潜在力を発揮することはないでしょう。

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2023年8月1日火曜日

中国の若年失業率、46.5%に達した可能性 研究者が指摘―【私の論評】独立した金融政策が実施できない中国は、すでにバランスシート不況に陥ったか近日中に陥る(゚д゚)!

中国の若年失業率、46.5%に達した可能性 研究者が指摘

中国の若者の失業率の高さ AI生成画像

 中国では、研究者によって若者の失業率が3月に50%近くに達した可能性が指摘され、公式統計をめぐる議論が再び燃え上がり、労働市場の低迷が注目されている。

 国家統計局は、16-24歳の失業率が19.7%であると発表したが、北京大学の張丹丹副教授は、学生でない1600万人の非学生の中には、家で遊んでいる人々も含まれている可能性があるため、失業率は46.5%にまで上がる可能性があると指摘している。

 張氏の研究は、製造業が盛んな地域での新型コロナウイルスの影響に焦点を当てており、若者は製造業の主要労働者であるため、より深刻な打撃を受けたと述べている。

 さらに、家庭教師、不動産、オンラインプラットフォーム分野の規制が、若い従業員や高学歴者に不公平な打撃を与えたと指摘している。

 中国の国営新華社通信は、第1四半期に中国経済が好調なスタートを切り、その勢いが第2四半期でも続いていると主張し、バランスシート不況の見方を否定している。

【私の論評】独立した金融政策が実施できない中国は、すでにバランスシート不況に陥ったか近日中に陥る(゚д゚)!

中国の若者の失業率はかなり深刻なようです。上の記事で、1600万人の非学生の中には、遊んでいる人々も含まれている可能性を指摘していますが、この「遊んでいる人」とは、中国で一時流行語ともなった「寝そべり族」も多く含まれているものと考えられます。

「寝そべり族」とは、大学を卒業しても、就職できず、何もしておらず、一日中寝そべっている人のことをいいます。


上の記事では、中国はバランスシート不況に陥っているかもしれないことを指摘しています。バランスシート不況とは、家計や企業がデレバレッジ、つまり負債を返済しているときに起こる景気後退の一種です。債務残高が急増し、その後に資産価格が下落した場合に起こります。資産価格が下落すると担保の価値が下がり、企業や家計の借入が困難になります。その結果、企業や家計は負債を返済するために支出を削減し、デレバレッジの悪循環に陥る可能性があります。

中国がバランスシート不況に陥っている可能性を示す証拠はいくつかあります。例えば、中国の家計の債務残高対GDP比は近年着実に上昇しています。加えて、中国の不動産価値が下落しており、企業や家計の担保価値が低下しています。その結果、一部のエコノミストは、中国がバランスシート不況の時代に入りつつあると見ています。

以下は、中国のバランスシート不況の可能性について論じた情報源です。

Bloomberg: Inventor of 'Balance-Sheet Recession' Says China Is Now in One: https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-06-29/inventor-of-balance-sheet-recession-says-china-is-now-in-one

Fortune: China is 'entering a balance sheet recession,' economist says: https://fortune.com/2023/06/30/china-balance-sheet-recession-nomura-institute-chief-economist/

WSJ: Is China Mired in a 'Balance Sheet Recession'?: https://www.wsj.com/articles/is-china-mired-in-a-balance-sheet-recession-f00fadda

中国がバランスシート不況に陥っているかどうかについては、エコノミストの間でコンセンサスが得られていないことに注意する必要があります。一部のエコノミストは、決定的な判断を下すにはまだ証拠が十分でないと考えています。しかし、バランスシート不況の可能性は中国経済にとって深刻な懸念であり、政策決定者が注視していく必要があります。

中国のバランスシート不況 AI生成画像

ただ、このブログでは何度か指摘しているように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況になっているとみられています。独立した金融政策ができなければ、失業率が増したからといって、金融緩和によって、雇用を創出することはできません。だかこそ、若者の失業率が深刻化しているのでしょう。

というより、通常雇用が悪化した場合、若者の失業者が増えるのが普通です。中国もまさにその状況にあるとみられます。

国際金融のトリレンマとは、経済学における概念で、ある国が3つの政策目標を同時に達成することはできないというものです。3つとは、以下のものです。
自由な資本移動: 自由な資本移動:資本が制限なく自由に国家間を移動できることです。
固定為替レート: これは、自国の通貨価値が他の通貨または通貨バスケットに固定されていることを意味します。
独立した金融政策: これは、その国の中央銀行が独自の金利を設定したり、量的緩和ができることを意味します。
国がこれら3つの目標をすべて達成しようとすれば、必然的にトレードオフに直面することになります。例えば、固定為替レートと自由な資本移動を望むのであれば、金融政策に対するコントロールをある程度放棄しなければならないです。中国はまさに現在この状況にあります。

為替レートは固定されているのですが、資本移動はある程度自由ではありますが、制限はあります。つまり、中国の中央銀行は独自の金融緩和ができない状況にあります。

この状況は、中国が雇用を改善できないだけではなく、バランスシート不況に陥る可能性を高めています。為替レートが固定されている国は、輸出競争力を高めるために通貨を切り下げることができないです。つまり、経済成長を刺激するためには、財政刺激策など他の手段に頼らざるを得ないです。しかし、政府がすでに多額の財政赤字を抱えている場合、これ以上の財政刺激策を講じる余裕はない可能性が高いです。

その結果、中国経済は経済成長を達成するためにデレバレッジに頼らざるを得なくなるかもしれないです。家計や企業が債務返済のために支出を減らすため、バランスシート不況につながる可能性があります。

この考えを裏付ける事実もあります。例えば、中国の家計の債務残高対GDP比はここ数年右肩上がりです。加えて、中国の不動産価値が下落しており、企業や家計の担保価値が低下していのす。その結果、一部のエコノミストは、中国がバランスシート不況の時代に入りつつあると見ています。

結論として、中国はすでにバランスシート不況に陥っているか、近い将来陥る可能性が高いと私は考えています。国際金融のトリレンマは、中国が独立した金融政策をすることを難しくしており、このことが中国がバランスシート不況に陥る可能性を高めているのです。

そうして、中国がバランスシート不況から抜け出るにはかなりの時間を要すると考えられます。なぜなら、バランスシート不況は、中央銀行が独立した金融政策が実施できたとしても、回復が難しい経済状況だからです。しかし、独立した金融政策ができなければ、さらに難しいです。

独立した金融政策できれば、金利を下げることや量的緩和より経済成長を刺激することができるからです。中央銀行が緩和策をとれば、企業や家計はお金を借りやすくなり、投資や支出の増加につながります。これは経済成長を後押しし、バランスシート不況からの回復につながります。

しかし、為替レートが固定され、資本移動が自由な国では、金利を下げたり量的緩和で経済成長を刺激することはできないです。中央銀行が緩和策をとれば、資本が流入して通貨高になるからです。その結果、輸出は割高になり、輸入は割安になります。

その結果、国は財政刺激策など、経済成長を刺激する他の手段に頼らざるを得なくなります。しかし、政府がすでに多額の財政赤字を抱えている場合、これ以上の財政刺激策を講じる余裕はないかもしれないです。

このため、独立した金融政策なしにバランスシート不況から回復するのはより難しいのです。経済成長を刺激するために他の手段に頼らざるを得なくなりますが、それだけでは回復につながらないかもしれないです。

さらに、バランスシート不況はデレバレッジの悪循環につながる可能性があります。企業や家計が負債返済のために支出を減らすと、経済活動の低下につながるからです。これがさらに支出の減少を招き、経済活動のさらなる低下を招くことです。

その結果、独立した金融政策ができない中国におけるバランスシート不況は、回復が非常に難しい状況となります。ここしばらく中国の経済は停滞し続けるでしょう。少なくとも、10年〜20年はそうなる可能性が高いです。ただ、中国が金融システムの透明性を高めたり、変動相場制に移行するなどの構造改革を行えば、回復ははやまる可能性はありまずか、それはかなり難しいです。

中国のバランスシート不況が長期化すれば、中国経済に多くの悪影響を及ぼす可能性があります。

経済成長の低下: バランスシート不況が長期化すれば、経済成長率が低下する可能性が高いです。企業や家計の投資や消費が減り、需要の減少につながるからです。
失業率の上昇: 経済成長の低下は失業率の上昇にもつながります。企業が将来に自信を持てなければ、新たな労働者を雇用する可能性が低くなるからです。
生活水準の低下: バランスシート不況が長期化すれば、中国国民の生活水準が低下する可能性が高いです。人々が商品やサービスに使うお金が減り、職を失う可能性も高くなるからです。
政治的不安定: バランスシート不況が長引けば、政治的な不安定にもつながりかねないです。政府の経済運営に不満があれば、人々が抗議行動を起こしやすくなるからです
これらの悪影響に加えて、バランスシート不況の長期化は世界経済にも多くの悪影響を及ぼす可能性があります。以下がその例です。

輸出需要の減少: 輸出需要の減少:中国の経済成長が低下すれば、他国の輸出需要が減少する可能性が高いです。これは、中国に商品を輸出している国々の経済に打撃を与えるでしょう。
世界経済成長の低下: 中国からの輸出需要の減少は、世界経済成長の低下につながる可能性があります。なぜなら、中国は多くの国にとって主要な貿易相手国であり、中国経済の減速は世界経済に波及するからです。

ただ、中国の不況は世界にとって必ずしも悪いことばかりではないかもしれません。これについては、以前もこのブログに述べました

1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えました。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきました。

供給過多の世界 AI生成画像

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しません。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

この貯蓄過剰が是正され、よって多くの国々おいて供給過剰の状況が是正される可能性がでてきたのです。要するに、一昔前のように、インフレ政策がかなりやりやすい状況になるかもしれないのです。ただ、これはどうなるかまだわかりません。そちらのほうに向かうように、各国は努力すべきと思うのですが、今のところそのような議論はされていないようです。

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2023年7月31日月曜日

「最低賃金1000円越え」への強烈な違和感…数字に基づいた「正しい水準」があったはずだ―【私の論評】今後岸田政権は民主党政権のように迷走し続ける可能性もでてきた(゚д゚)!

「最低賃金1000円越え」への強烈な違和感…数字に基づいた「正しい水準」があったはずだ





岸田首相

 7月末の先週、日本では以下の4つの大きな出来事があった。
  1. 松野博一官房長官は、サラリーマン増税を否定。
  2. 日銀は、長短金利操作の柔軟化を決定。
  3. 厚労省の中央最低賃金審議会は、今年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申。
  4. 木原誠二官房副長官の妻の当時の夫の2006年の怪死事件について、妻を担当した取調官が実名で記者会見。
 これらの出来事について、以下に詳しく説明する。
  • 松野博一官房長官は、7月26日(木)、「サラリーマン狙い撃ちした増税行わない」とした。これは、夕刊フジが報じた、岸田首相がサラリーマンを狙い撃ちした増税を検討しているという報道に対する反論だ。松野官房長官は、政府税調が提出した答申には、サラリーマンを狙い撃ちした増税は含まれていないとし、政府はサラリーマンを守るために政策を講じていくと述べた。
  • 日銀は、7月28日(金)、金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール。YCC)の柔軟化を決定した。これは、YCCの目標とする長期金利の上限を0.5%から1.0%へと引き上げることを意味する。日銀は、この決定は、インフレ目標2%の達成に向けて必要な措置であると説明している。しかし、市場からは、日銀がインフレを恐れて金融引き締めに転じているとの懸念が広がっている。
日銀植田総裁
  • 厚労省の中央最低賃金審議会は、7月27日(金)、今年度の地域別最低賃金額改定の目安について答申を取りまとめた。これによると、全国平均の最低賃金は、昨年度の961円から1002円に引き上げられる方向となった。これは、2016年以降で最大の引き上げ幅だ。厚労省は、今回の引き上げにより、低所得者層の生活を改善し、消費を拡大させることを目指している。
  • 木原誠二官房副長官の妻の当時の夫の2006年の怪死事件について、妻を担当した取調官が実名で記者会見を行った。取調官は、妻が当時の夫を殺害した疑いがあると述べ、警察が捜査を続けていることを明らかにした。木原官房副長官は、妻の事件についてコメントを控えている
 これらの出来事は、いずれも日本にとって重要な問題です。

 松野官房長官は、サラリーマン増税を否定し、政府はサラリーマンを守るために政策を講じていくと述べた。

 日銀は、インフレ目標2%の達成に向けて必要な措置として、YCCの柔軟化を決定した。

 厚労省は、低所得者層の生活を改善し、消費を拡大させることを目指して、今年度の地域別最低賃金額を大幅に引き上げた。

 木原官房副長官の妻の事件については、警察が捜査を続けています。これらの出来事が今後どのように展開していくか注目だ。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】今後岸田政権は民主党政権のように迷走し続ける可能性もでてきた(゚д゚)!

本当に、先週はかなり大きな動きがありました。この4つはどれも大きなものであり、大勢の人が消化不良気味になっているのではないかと思います。

1.松野博一官房長官は、サラリーマン増税を否定。

本当にサラリーマン増税をするつもりがないのなら、政府税調の答申を受け取らないというパフォーマンスをすべきでした。宮澤喜一首相は、1995年6月21日、政府税調の答申を受け取らなかったことを明らかにしました。これは、答申に消費税の増税が含まれていたためです。喜一首相は、消費税の増税を断固として拒否し、答申を受け取らなかったのです。

これらは、当時の新聞で明らかにされています。
  • 朝日新聞 1995年6月22日朝刊 1面
  • 読売新聞 1995年6月22日朝刊 1面
  • 毎日新聞 1995年6月22日朝刊 1面
  • 日本経済新聞 1995年6月22日朝刊 1面
こういうパフォーマンスをしなかったのですから、岸田政権としては増税の懸念を払拭するのは難しく、岸田首相としては、先日もこのブログで指摘したように、増税疑念を払拭するために、24年度GDP600兆円実現(かつて安倍首相がこれを約束、現状のままなら達成する可能性がかなり高い)を前提に、30年度までにGDPを700兆円にすることを打ち出すべきです。そうして、安倍首相の外交でも経済政策でも、安倍元首相の路線を引き継ぐことを表明し実行すべきです。


松野博一官房長官

2.日銀は、長短金利操作の柔軟化を決定。

日銀が許容する長期金利の上限は0.5%から1.0%へと引き上げられたといつて良いでしょう。実質上の利上げといって良いと思います。

今回のYCC修正前 実質金利=0.5-2%=-1.5% 修正後 実質金利=1~0.5ー1.9=-1.4%~-0.9%となります。実質金利を植田総裁は強調しますが、将来時点の物価見通しが低下ないし同じ(25年度)中で、予想実質金利の上昇幅を拡大する政策は、緩和を抑制するスタンスと理解されても不思議ではありません。

理由はマクロ経済よりも一部金融機関の「副作用」対応が優先したということとかもしれません。あとは自然利子率が上昇していると判断したのかもしれません。そうだと良いのですが。

しかし、すでに影響もで始めています。

大手銀行5行は31日、8月の住宅ローン金利を発表し、全行が代表的な固定期間10年の基準金利を引き上げた。日銀による大規模金融緩和策の修正を受け、金利上昇圧力が高まっており、住宅ローン金利は9月以降さらに上昇する可能性が出てきています。

8月の10年固定の最優遇金利は、三菱UFJ銀行が0.09%上昇の0.78%、三井住友銀行は0.10%高い0.89%、三井住友信託銀行が0.07%上昇の1.15%、みずほ銀行は0.05%高い1.20%、りそな銀行が0.05%上昇の1.39%。

5行がそろって上げたのは、昨年12月に日銀が長期金利の変動容認幅を0.25%から0.5%に拡大した直後の今年1月以来となります。変動金利は全行が据え置きました。

3.厚労省の中央最低賃金審議会は、今年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申。

これは、高橋洋一氏が元記事でも解説されていましたが、当時までの数量分析から、最低賃金引き上げ率は、5.5から前年の失業率を引いた程度がいいと、安倍氏に進言したそうです。

実体経済を無視して、機械的に賃上げをすることは危険です。文在寅時代の韓国では機械的に賃上げをしたことにより、雇用が激減しました。賃上げも、ほどほどにしないと、とんでもないことになります。岸田政権は、これは目安として、実際には先程の穏便な賃上げにすべきでしょう。

4.木原誠二官房副長官の妻の当時の夫の2006年の怪死事件について、妻を担当した取調官が実名で記者会見。

木原誠二官房副長官の妻の当時の夫の2006年の怪死事件について、妻を担当した取調官が実名で記者会見しましたが、私は、この件については再捜査になることはないと考えています。なぜなら、この事件は、2006年にすでに警察によって捜査が終了し、不起訴処分となっているからです。また、取調官が記者会見で述べた内容は、警察の捜査結果とは異なるものであり、新たな証拠も提出されていないことから、再捜査を行う必要はないと考えています。

ただし、この事件は、木原誠二官房副長官の政治生命に大きな影響を与える可能性があります。なぜなら、この事件が再び注目されることで、木原官房副長官の妻に対する疑惑が再燃する可能性があるからです。また、木原官房副長官自身も、この事件について説明責任を果たす必要があるでしょう。

木原官房副長官が、この事件を乗り越え、政治生命を維持するためには、国民からの信頼を回復することが重要です。そのためには、妻の事件について、真摯に説明するとともに、国民に安心感を与えるような行動をとることが必要になるでしょう。それにしても、ここしばらくは政治の表舞台にでてくることはないと思われます。


木原誠二官房副長官

木原誠二官房副長官は、2021年10月4日に就任し、現在も務めています。木原官房長官は、岸田文雄首相の側近であり、首相の信頼が厚い人物です。木原官房長官は、岸田政権における重要な役割を担っています。

木原官房長官の主な役割は、以下のとおりです。
  • 首相の補佐
  • 内閣の運営
  • 国会との調整
  • 行政の統括
  • 外交・安全保障
木原官房副長官は、これらの役割を果たすために、首相や他の閣僚、国会議員、行政官、外交官、安全保障関係者など、多くの関係者と密接に連携しています。木原官房長官は、岸田政権の円滑な運営に貢献しています。

現在この木原官房長官の役割は、機能していないとみられます。無論、怪死事件に対する対応などて、木原氏の時間や能力がこれに割かれているためとみられます。これが機能していれば、本当にサラリーマン増税をするつもりがないのなら、政府税調の答申を受け取らないというパフォーマンスができたと思います。

日銀は、長短金利操作の柔軟化を決定に関しても、これを理解するのは難しく、政権内でも理解するのは木原氏くらいであり、木原氏が機能していないのを見越して、このようなことをしている可能性があると思います。地域別最低賃金額改定の目安も木原氏が機能していれば、もっと穏当になった可能性もあります。

木原氏機能不全で、岸田政権はここしばらく、迷走をつづけそうです。心配なのは、木原氏にかわる人物がいなかった場合、今後岸田政権は民主党政権のように迷走し続ける可能性もでてきたことです。

ビジネスの世界でも、政治の世界でも、一人の才能に頼るということは非常に危険だということがよくわかります。

経営学の大家ピーター・ドラッカーが「優秀なエンジニアが欲しければ、6人のエンジニアを雇うべきだ」と述べています。この名言の出典は、『エッセンシャル・ドラッカー:60年にわたるピーター・ドラッカーのマネジメントに関するエッセンシャルな著作のベストを一冊にまとめたもの』という本です。

その中でドラッカーはこう書いています。

「優秀なエンジニアが欲しければ、6人のエンジニアを雇え。一人は天才、二人は優秀、三人は平均的だろう。しかし、6人目は他の者を生産的にする者になる」。

ドラッカーが言いたいのは、1人か2人のエンジニアを雇えば、運が良ければ天才が手に入るかもしれないが、平均的なエンジニアが手に入る可能性の方が高いということです。しかし、6人のエンジニアを雇えば、ほぼ確実に少なくとも1人の天才を得ることができ、他の5人のエンジニアも意欲的に働き、天才から学ぶことができるようになるということです。

この言葉は、良い仕事をするための最善の方法は、才能ある人々に囲まれることだということを思い出させてくれます。エンジニアリング・チームを成功させたいなら、最高のエンジニアを雇う必要があります。また、最高の人材を雇う余裕がなくても、優秀なエンジニアを数人雇い、一緒に仕事をさせることで、素晴らしいチームを作ることができます。

この言葉は、チームにおける多様性の重要性を強調している。長所も短所も異なる6人のエンジニアからなるチームは、全員が同じエンジニアからなる6人のチームよりも生産性が高いです。

この言葉はまた、メンターシップの重要性も強調しています。ドラッカーの例にある天才エンジニアは、他の5人のエンジニアを指導し、彼らのスキルや知識の向上を助けることができます。

ただし、たとえ6人の優秀なエンジニアを雇ったとしても、その全員が生産的になるという保証はないです。しかし、ドラッカーのアドバイスに従うことで、成功の可能性は高まるでしょう。

木原氏の他にも多くの人材がいれば、岸田政権が迷走することもなかったでしょう。

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2023年7月30日日曜日

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日本の解き方


 岸田文雄首相は「外国人と共生する社会を考えていかなければならない」と述べ、政府が「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」をまとめていることが話題になっている。首相は人口減少への対策として少子化対策とデジタル化を両輪で対応し、外国人受け入れも大きな課題として認識している。

 共生社会については、参院選公約や首相の発言で、多文化共生社会の実現を目指す意向が示されている。ただし、首相が挙げたアラブ諸国の例については、中東の研究者から聞いた話として、熱中症で多数の外国人労働者が亡くなっているという問題が指摘されており、不適切だとの意見もある。

 現在の「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」は、日本語学習など基本的な取り組みに終始しており、具体的な外国人受け入れの数値は示されていない。

 一方、「国立社会保障・人口研究所」の推計では、将来的に外国人の人口比率が増加するとしており、特に都市部ではかなり高い数字になる見込みである。他の先進7カ国(G7)と比べると、日本の外国人受け入れ率はまだ低いが、外国人の受け入れは社会に痛みを伴うため、欧米の国々に追随する必要はないという意見もある。

 最後に、外国人の受け入れには経済界の要望もあるが、一部の専門家は日本人優先の考え方を支持しているという意見が述べられている。

【私の論評】首相が行うべきは「外国人との共生」という蜃気楼ではなく、AI・ロボット化推進により国民の生活水準を最大化すること(゚д゚)!

昨日は、このブログで岸田政権に実施してほしいことを述べました。その筆頭は私の中では、増税疑念を払拭するために、24年度GDP600兆円実現(かつて安倍首相がこれを約束、現状のままなら達成する可能性がかなり高い)を前提に、30年度までにGDPを700兆円にすることを打ち出すべきことです。

岸田政権に実施してほしくないことの筆頭は、LGBT法の成立ですが、これはすでに成立してしまいました。成立してしまった現状では、できることは、この法律を理念法の範囲にとどめていただくことです。

女性を似非トランスジェンダーから護るための法律や、自治体が学校でLGBT教育をすることを禁ずる法律や政令を出していただきたいものです。無論、このようなことをするくらいなら、最初からこの法律を成立させるべきではありませんでした。

次に実施してほしくないことは、移民の大量受け入れです。これは、移民を大量に受け入れた国々がどのような状況になっているのかみれば良く理解できます。

上の記事にもあるように、国際労働機関(ILO)は2017年、アラブ首長国連邦(UAE)における外国人の労働条件が世界最悪レベルであるとの報告書を発表しました。報告書によると、UAEの外国人労働者は強制労働や借金による束縛、その他の形態の搾取を受けることが多いそうです。また、結社の自由や公正な賃金を受ける権利など、基本的な権利も否定されることが多いそうです。

アラブ首長国連邦、ドバイのホテル

報告書は、移民労働者を雇用主と結びつけるスポンサーシップ制度であるカファラ制度が、UAEにおける外国人労働者の搾取の主な要因であることを明らかにしました。カファラ制度の下では、移民労働者は雇用主の許可なく転職したり出国したりすることは許されません。このため、雇用主は労働者に対して大きな権力を持ち、労働者が搾取から逃れることを困難にしているのです。

報告書はまた、UAE政府が外国人労働者の搾取問題にほとんど取り組んでいないことも明らかにしました。政府は労働法を効果的に執行しておらず、外国人労働者に十分な保護を与えていません。

湾岸諸国における外国人労働者の労働環境の現実は、非常に劣悪であることが多いです。労働者はしばしば、長時間労働、低賃金、危険な労働条件にさらされています。また、結社の自由や公正な賃金を受ける権利など、基本的な権利を否定されることもあります。

湾岸諸国における外国人労働者の労働環境がこれほど劣悪な理由はいくつかあります。その一つは、カファラ制度が雇用者に労働者に対する大きな権力を与えていることです。もう一つの理由は、湾岸諸国には多数の移民労働者がいるため、労働者が組織化して労働条件の改善を要求することが難しいことです。

UAE政府は外国人労働者の搾取問題に対処するため、いくつかの措置を講じています。2018年、政府はカファラ制度を廃止すると発表しました。しかし、これがいつ実現するかは明らかではなく、新制度がどのようなものになるかは不明です。

湾岸諸国における外国人労働者の労働環境は深刻な問題です。これらの国の政府がこの問題に取り組み、外国人労働者が公平に扱われるようにするための措置を講じることが重要です。

首相がUAEなどを「外国人との強制」の事例としてあげるということは、これらの現実を知っている人たちからみれば、日本も多数の外国人労働者を強制労働させるつもりであるとも受け取らねかねず、不適切な発言だと思います。

「外国人との共生」ということではEUなどの移民政策はほとんど参考にはならないですが、カナダは、大量の移民を計画的に大量受け入れています。その目的はGDPを押し上げることです。これは参考になりそうです。

これについては、ロイターの『アングル:移民受け入れ拡大のカナダ、経済繁栄は「蜃気楼」か』という記事が参考になりそうです。この記事の要約を以下に掲載します。
2015年の政権発足以来、カナダのトルドー首相は約250万人の新規永住者を受け入れ、人口を4000万人以上に増やしました。人口増加は1957年以来最も速いペースであり、経済成長率も世界のトップ20に入るほどです。この移民の増加により、高齢化による労働人口の減少を一部相殺しています。

一方、急速な移民増加による問題も顕在化しています。カナダ銀行は経済成長を抑制する金融政策を実施していますが、その中で新規移民の影響を評価することが難しいとしています。移民は労働力不足を緩和し、個人消費と住宅需要を増加させる一方で、交通機関、住宅、医療面などのインフラへの負担増大を引き起こしています。

カナダ政府は移民を積極的に受け入れており、トロントの新市長からの要請にも応じ、難民の収容を支援するための資金を拠出しています。しかし、一部の専門家は移民による経済成長はあるものの、1人当たりのGDPは他の国に比べてあまり増えていないと指摘しています。

移民の増加はカナダの経済と社会に影響を与える一方で、インフラや医療の面で課題も抱えているとされています。
カナダ銀行(カナダの中央銀行)のマックレム総裁は、移民は需要と供給の両面を押し上げるが、総じて見れば利上げの必要性を高めたと述べています。移民は労働力不足を緩和する一方で、個人消費と住宅需要を増加させたのです。

ローゼンバーグ・リサーチのチーフエコノミスト兼ストラテジスト、デービッド・ローゼンバーグ氏は「カナダ経済は1人当たりで見ると横ばい状態だ」とし、人口増加によって「経済の繁栄という蜃気楼を作り出すことはできるが、結局は蜃気楼(しんきろう)にすぎない」と語りました。

蜃気楼 AI生成画像

移民の大量受け入れによって「移民と日本人が共生」して、経済を発展させようと言う試みも蜃気楼で終わる可能性が高いです。

外国人の受け入れには経済界の要望もありますが、日本では経営者が賃金が上がることを忌避する傾向があります。そのためこのような要望を政府に伝えるのでしょうが、これは正しいのでしょうか。賃金が低い外国人労働者を大量に受け入れることよって企業は本当儲かるのでしょうか。

安価な移民労働力に依存することは、日本の経済成長にとって長期的に持続可能な戦略でありません。賃金の低下は短期的には企業収益を押し上げるかもしれないですが、経済全体の賃金の停滞は最終的に需要を損ない、デフレ圧力につながることになります。

日本はすでに慢性的なデフレと消費需要の低迷に苦しんできました。それが、安倍・菅両政権の時に増税なしで合計で100兆円(当時のデフレギャプに相当する)の補正予算を組んでコロナ対策にあたったこと、岸田政権になってからは、他国がインフレ傾向になり利上げなどの金融引締策を実施するさなか、日本はデフレ気味だったので金融緩和政策を続けたため、円安になり、輸出産業が繁栄したことなどが要因となり、景気が落ち込まず、どちらかというと良い状況にあります。

政府としては、輸出企業の繁栄によって、景気が上向いているし、法人税や消費税の税収もかつてない程増えているのですから、これを輸入企業とか国内産業の支援に用いるなどのことをすれば、ベストでしょう。

しかし、ここで大量の移民を受け入れて賃金を低く抑えることは、さらに自らデフレを招くことになります。経済が成長するためには、国内消費が拡大する必要があります。そうして消費が成長するためには、日本の労働者は賃金の上昇と生活水準の向上を必要としています。

移民は合法的かつ責任を持って行われれば、一定の経済的利益をもたらすことができます。しかし、主に賃金を抑制する方法として移民の労働力を利用するのは見当違いであり、逆効果となります。それは国内ではデフレを招き国内産業を弱体化し、超円高により、輸出産業を毀損し、さらに国内産業の空洞化を招くことになります。

そのようなことは、原因は日銀官僚や財務官僚の誤謬で平成年間のほとんどがデフレだった時代を経験した日本人なら理解できるはずです。それを理解しない経営者は愚かとか言いようがありません。

大量の低賃金労働者を受けいることは、日本の労働者を傷つけ、彼らの消費力を低下させ、経済全体を弱体化させることになります。そうして、結局のところ、経営者にとっても一つも良いことはありません。

解決策は、日本企業がAIやロボットに投資し、生産性を向上させ、従業員の賃金を進んで引き上げることてす。経済学でいうところの、装置化をより一層推進することです。政府はこれを推進するために積極財政と金融緩和策を行うとともにインフラを整備すべきです。そのインフラの上で企業がAI・ロボット化で競い合う体制を築くべきです。中国のように、政府が中心となって推進するような体制は長続きしませんし、効果的でもありません。

賃金上昇は需要を押し上げ、経済成長を促進し、社会全体に利益をもたらすことになります。短期的な企業利益は犠牲になるかもしれないですが、経済と生活水準に対する長期的な利益は、一時的な損失をはるかに上回るでしょう。

安価な外国人労働者に頼ることは、生産性の向上、技術革新、自国民の賃金上昇に代わる実行可能な手段ではありません。日本が持続可能な経済的成功を収めるためには、企業は利益の最大化に時間を費やすのではなく、賃金上昇と生活水準の向上を通じて日本の平均的労働者の幸福を最大化することに時間を費やさなければならないです。

豊な日本国民 AI生成画像

低コストの労働力ではなく、広範な繁栄が目標であるべきです。

低賃金労働者の大規模な移民受け入れが長期的に日本経済にプラスになるとは思えないです。それは、需要の低迷と経済停滞のより深い根源への対処を避ける、近視眼的な解決策にすぎません。日本経済を活性化する鍵は、金融緩和を積極財政をしつつ生産性を向上させ、賃金を引き上げ、既存の国民の生活水準を最大化することにあります。この順番を間違えるべきではありません。

賃金を機械的にあげるだけで、政府が金融緩和や積極財政をしない生産性向上のためのインフラを整備しなければ、文在寅が韓国で雇用を激減させたのと同じように大失敗します。その後経済が加熱すれば、金融引締、緊縮財政に転ずれば良いのです。順番を間違えるべきではありません。

ただ、低賃金労働者の大規模な移民受け入れだけを実行するのでは、日本の労働者にも経営者にも中長期的には何の利益ももたらさないことは明らかです。


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2023年7月29日土曜日

下げ止まらない内閣支持率の背景 衆院解散も簡単にはいかない…「岸田降ろし」が始まるのか―【私の論評】岸田首相はこれ以上支持率を下げないため起死回生策を打つべき(゚д゚)!

高橋洋一「日本の解き方」

岸田首相

 産経新聞社とFNNが実施した世論調査で、内閣支持率は前回よりも4.8ポイント低下し、41.3%となり、自民党支持率も2.8ポイント低下して31.4%となった。朝日新聞の調査でも内閣支持率は5ポイント低下し、37%となり、自民党支持率も5ポイント低下して28%となった。読売新聞と毎日新聞の調査でも内閣支持率の低下が報じられている。

 内閣支持率の低下要因として、マイナンバーカードの混乱が挙げられるが、筆者はそれに疑問を持っている。実際には問題が少なく、マスコミが不安を煽りすぎていると指摘している。また、マイナンバーカードの導入によって本人確認のコストが低減されているため、騒ぎはこの夏までに収束するとの見方もある。

 内閣支持率の低下の要因は、政府税調答申での「サラリーマン増税」やLGBT法によって岩盤保守層が離れたことも考えられる。さらに、日本維新の会が支持率を上げており、自民党の支持率を減らしていると指摘されている。

 10月にはインボイス制度がスタートする見通しであり、混乱が予想される。これによって内閣支持率がさらに低下する可能性もある。支持率を回復させるためには拉致問題の解決が重要であるが、北朝鮮の反応次第では真の解決にはならない可能性もある。

 衆院解散は容易ではなく、岸田首相に対する批判が高まる可能性もあると述べている。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

これは元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】岸田首相はこれ以上支持率を下げないため起死回生策を打つべき(゚д゚)!

非接触型カード・リーダー・ライターとマイナカード

私も、上の記事で高橋洋一氏が語るように、支持率低下の原因がマイナンバーカードを巡る混乱だとは思っていません。当初はマスコミの煽りに幻惑された人たちも、そもそも紙の保険証の悪用などの問題が明らかにされてからは、幻惑から覚醒したものと思われます。

LGBT法案と、サラリーマン増税に関しては分けて考える必要があるものと思います。サラリーマン増税に関しては、生活に直接大きな影響があるため有権者のほとんどが反発したものと思います。その後岸田首相は「サラリーマン減税をするつもりはない」と否定していますが、未だその疑念は多くの有権者から払拭されていないと思います。

LGBT法案に関しては、自民党を支持してきた私自身も含めた保守岩盤層の多くが離反したと考えられるものの、保守岩盤層でない多くの人、そもそもLGBT法案に関しては周知されおらず、あまり影響はなかったのではないかと思います。

日本のLGBT運動

ただ、LGBT法案に関しては、保守岩盤層ほんどとが反対してきたにもかかわらず、成立してしまったため、増税を否定する岸田総理の表明に対しても、疑心暗鬼になっているのではないかと思います。

保守岩盤層の一部や、増税に反対する従来の自民党支持層が、維新の会に流れている可能性があります。

ちなみに、安倍政権で支持率が30%を切ったことはほとんどなかったことから、この約30%の有権者が保守岩盤層ではないかとみられます。

安倍政権の時に支持率が20%台になったのは2回しかありません。1度目は森友問題と共に学校法人「加計学園」による獣医学部新設問題を野党から追及される中で「共謀罪」創設を柱とする改正組織犯罪処罰法が成立した後の17年7月の26%。そして2度目は閣議決定で定年延長された東京高検の検事長が賭けマージャン問題で辞職した20年5月の27%です。それでも20%台後半で踏みとどまりました。

安倍元総理

しかし、現在この保守岩盤層の中からも、自民党を支持することをためらう人々がでてきたのだと思います。岸田政権の支持率が20%台になれば、自民党内で岸田おろしが始まる可能性は高まるでしょう。

私自身は、積極的に岸田政権を支持しているわけではありませんが、茂木氏、林氏、河野氏、林氏がポスト岸田になる可能性が高く、これでは岸田政権よりも、さらにリベラル的になる可能性が高いです。

それだけは避けたいところです。ただ、今のまま、岸田首相が増税疑念を払拭できなかったり、LGBT法案の成立により、女性への被害が増えたり、複数の自治体で小学校などでLGBT運動団体のメンバーが講師となりLGBT研修が行われるような事態になったり、韓国や中国に対して無用の譲歩したりすれば、やむなしとして、自民党支持の有権者も自民党を支持しないという選択肢も選ぶかもしれません。

岸田首相もしくは、自民党はそうならないために、起死回生策を打つべきです。岸田首相としては、先日もこのブログで指摘したように、増税疑念を払拭するために、24年度GDP600兆円実現(かつて安倍首相がこれを約束、現状のままなら達成する可能性がかなり高い)を前提に、30年度までにGDPを700兆円にすることを打ち出すべきです。そうして、安倍首相の外交でも経済政策でも、安倍元首相の路線を引き継ぐことを表明し実行すべきです。

岸田政権の凋落が止まらない場合は、自民党は岸田おろしをしても良いとは思いますが、次期総裁としては、安倍元総理の路線を確実に引き継くと見られる人を選び、それだけではなく、自民党幹部らは、自分の主義主張はせずに、その人物を挙党一致で支持・支援する体制を築くべきです。

自民党は、1955年(昭和30年)に日本社会党の台頭を危惧したかつての、自由党と日本民主党が合同(いわゆる保守合同)して結成された保守政党です。自民党は保守政党であり続けるべきです。ここで私がいう保守とは、立場や政策や考え方をいうのではありません、エドマンド・バークににまで遡る、真の保守主義のことです。

そうして、安倍政権は憲政史上最長の政権になったのですから、現代日本では安倍政権の継承こそ、もっとも自民党政権を長期安定化させる道であるということを理解すべきです。これが現実なのですから、自民党内のリベラル左派もこれに従うべきです。どうしても嫌なら、自民党に在籍し続けるべきではありません。それは、公明党も同じです。

公明党が自民党と連立を組み続けたいなら、リベラル左派的な考えを貫くのはやめるべきです。それがどうしても嫌なら自ら、連立を解消すべきです。

自民党岩盤支持層もこれで納得するでしょうし、他の自民党支持者もこれで納得するでしょう。

これ以外の道を選択すれば、岸田政権は凋落し続けるでしょうし、岸田首相以外の人が総裁になっても、自民党の凋落は止まらなくなるでしょう。その先は、自民党は再び下野するしかなくなるでしょう。そのくらいの瀬戸際にあることを自民党は理解すべきです。

多くの自民党員はそれを理解しているのでしょうが、まだ派閥の力学だけで動こうとする政治家が存在しており自民党としての起死回生策に踏み切れないでしょう。

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